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関連審決 無効2019-890041
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事件 令和 4年 (ネ) 10091号 商標権侵害差止等請求控訴事件
令和5年3月6日判決言渡 令和4年(ネ)第10091号 商標権侵害差止等請求控訴事件(原審・東京地方 裁判所令和3年(ワ)第2722号) 口頭弁論終結日 令和4年12月20日 5判決
控訴人株式会社丸忠山田
同訴訟代理人弁護士 笠原基広 10 同野村信之
被控訴人 有限会社つぎ館丸忠山田石材店
同訴訟代理人弁護士 小林幸夫 15 同河部康弘
同 藤沼光太
同補佐人弁理士 瀧野文雄
同 今井貴子
裁判所 知的財産高等裁判所
判決言渡日 2023/03/06
権利種別 商標権
訴訟類型 民事訴訟
主文 20 1 本件控訴を棄却する。
2 控訴費用は控訴人の負担とする。
事実及び理由
控訴の趣旨
1 原判決を取り消す。
25 2 被控訴人は、店舗看板、立て看板及び店舗庇に、原判決別紙被告標章目録記 載の各標章(以下、同目録記載の番号に従って「被告標章1」等といい、併せ 1 て「各被告標章」と総称する。)を付して、展示してはならない。
3 被控訴人は、https://以下省略のウェブページ(以下「本件ウェブページ」 という。)に、各被告標章を付して、電磁的方法により提供してはならない。
4 被控訴人は、名刺に、各被告標章を付して、頒布してはならない。
5 5 被控訴人は、本件ウェブページから、各被告標章を付した画像を抹消せよ。
6 被控訴人は、「有限会社つ ぎ館丸忠山田石材店」との商号を使用してはな らない。
7 被控訴人は、東京法務局府中支局において平成17年7月12日に登記され た「有限会社山田石材店」から「有限会社つ ぎ館丸忠山田石材店」への商号10 変更登記の抹消登記手続をせよ。
8 被控訴人は、控訴人に対し、852万5000円及びこれに対する令和3年 2月18日から支払済みまで年3分の割合による金員を支払え。
事案の概要等
1 事案の概要15 ? 本件は、控訴人が、被控訴人に対し、
ア 被控訴人による被告標章1ないし4、5-4及び5-6の使用は控訴人 の有する商標登録第4093956号の商標権(以下「本件商標権1」と いう。 を侵害し、
) 被告標章5-1及び5-2の使用は控訴人の有する商標 登録第5041731号の商標権(以下「本件商標権2」という。)を侵害20 し、被告標章5-2及び5-5の使用は控訴人の有する商標登録第504 1732号の商標権(以下「本件商標権3」といい、本件商標権1ないし 3を併せて「本件各商標権」と総称する。)を侵害するものであるとして、
商標法36条1項差止請求権に基づき、各被告標章を店舗看板等に付し て展示するなどの行為の差止めを求めるとともに、同条2項の廃棄等請求25 権に基づき、本件ウェブページからの各被告標章を付した画像の抹消を求 め、また、
2 イ 上記アの本件各商標権の侵害により損害を被ったことを理由として、各 不法行為による損害賠償請求権に基づき、852万5000円及びこれに 対する各不法行為より後の日である令和3年2月18日(本件訴状が送達 された日の翌日)から支払済みまで年3分の割合による遅延損害金の支払 5 を求め、さらに、
ウ 被控訴人が不正の目的をもって控訴人と誤認されるおそれのある商号を 使用していることなどを理由として、会社法8条2項差止等請求権に基 づき、被控訴人の商号の使用差止めを求めるとともに、商号変更登記の抹 消登記手続を求める事案である。
10 ? 原審は、本件各商標権に基づく控訴人の請求は権利の濫用に当たるとして、
上記?ア及びイの各請求をいずれも棄却し、また、被控訴人が不正の目的を もって控訴人と誤認されるおそれのある商号を使用しているとは認めるに足 りないとして、上記?ウの各請求をいずれも棄却した。
控訴人は、これを不服として、本件控訴を提起した。
15 2 前提事実、争点及び争点に関する当事者の主張 前提事実、争点及び争点に関する当事者の主張は、以下のとおり原判決を補 正し、後記3のとおり当審における補充主張を付加するほかは、原判決「事実 及び理由」の第2の1及び2(原判決3頁8行目ないし21頁7行目)に記載 のとおりであるから、これを引用する。
20 ? 原判決3頁14行目の「墓石」を「墓所」に改める。
? 原判決3頁22行目の「三男」を「二男」に改める。
? 原判決5頁26行目の「という。」を「といい、本件商標1ないし3を併せ て「本件各商標」と総称する。」に改める。
? 原判決18頁12行目の「本件各標章」を「各被告標章」に改める。
25 ? 原判決18頁18行目ないし19行目の「本件各商標」 「本件各商標権」 を に改める。
3 ? 原判決18頁24行目ないし25行目の「被告が」を「控訴人が」に改め る。
? 原判決19頁17行目の「後継者である。」の後に次のとおり加える。
「それにもかかわらず、控訴人は、被控訴人に対し、本件各商標権に基づ 5 く権利行使をしている。
また、」 ? 原判決19頁25行目末尾に改行して次のとおり加える。
「以上によれば、控訴人による本件各商標権に基づく権利行使は、権利の 濫用(民法1条3項)に当たり許されない。」10 ? 原判決20頁25行目の「利益の」を「利益を」に改める。
3 当審における補充主張 ? 争点G(控訴人の本件各商標権に係る各請求が権利濫用か。)について 〔控訴人の主張〕 ア C及びAは、D家の長男としてEの個人事業を受け継いだものであると15 ころ、この事業を承継するために設立された控訴人は、現在も創業の地で 事業を行っており、現在、多磨霊園周辺においては、
「丸忠」という標章が 控訴人を示すことが広く知れ渡っている(甲13、21、24)。このよう に、本件各商標権には、被控訴人ではなくE、C、A及び控訴人の信用が 化体されているところ、被控訴人は、各被告標章を使用することによって、
20 上記の信用を不当に利用している。
イ 控訴人及び被控訴人は、代表者同士が親族であるという意味においては つながりがあるものの、Cから多磨霊園正門前の土地及びEの事業を受け 継いだのは控訴人のみであるから、両社は全く別の事業主体であり、上記 の親族関係以上に密接な関係があるわけではない。
25 ウ 控訴人は、被控訴人の事業を承継したのではなく、E及びCの個人事業 及び信用等を承継したものである。そして、甲25の写真撮影報告書のと 4 おり、控訴人は、設立当初から、店舗看板、作業着、社用車及び店舗建物 等に本件各商標を使用していた。このように、控訴人は、Cから受け継い だ「丸忠」の商標を権利化して守ろうという意図で、本件各商標について 登録出願をしたものであり、被控訴人への害意等があったわけではない。
5 エ AがBに対して乙7の書面を送付したのは、控訴人が本件各商標の登録 出願をしてから10年以上が経過した後であり、同書面と同出願との間に 関連性はない。また、Aは、乙7の書面を送付する前に、Bに対して甲2 0の書面を送付したものであるところ、同書面の内容からすれば、控訴人 に商標権を濫用する意図がないことは明らかである。
10 オ 以上のとおり、控訴人の被控訴人に対する本件各商標権に基づく権利行 使は、当然の権利行使にすぎず、権利濫用等といわれるべきものではない。
〔被控訴人の主張〕 ア 〔控訴人の主張〕アに対し 被控訴人はEの子ら全員の出資により設立された会社であることに加15 え、CがEから被控訴人の事業とは別に受け継いだ事業が存在したことを 示す立証はないこと、控訴人の設立当初の事業目的には墓地や墓石に関す る事業は含まれていなかったことなどからも明らかなように、Eの事業を 引き継いだのは控訴人ではなく、被控訴人である。そして、被控訴人は、
設立当初から現在に至るまで、各被告標章を継続的に使用し続けているも20 のであり、各被告標章にはEから続く事業に係る信用が化体されていると いえる。他方で、控訴人が提出した証拠によっても、多磨霊園周辺におい て、
「丸忠」という標章が控訴人を示す表示として周知であるとはいえない。
以上のとおり、被控訴人による各被告標章の使用は、何ら不当なもので はない。
25 イ 〔控訴人の主張〕イに対し 控訴人は、これまでは「同じ祖父の出自」であるという理由で、被控訴 5 人の事業について特に気に留めていなかったにもかかわらず、後になって、
Eの時代から使用されてきた標章について商標登録出願をした上で、被控 訴人に対して商標権侵害を主張するに至ったという経過からすれば、控訴 人及び被控訴人は、控訴人による権利行使を権利濫用と評価する際に考慮 5 すべき関係にあるものといえる。
ウ 〔控訴人の主張〕ウに対し 甲25の写真撮影報告書の写真は、いずれも撮影時期等が不明であるか ら、これらの写真をもって、控訴人がその設立時から本件各商標を使用し ていたと認めることはできない。
10 ? 争点H(被控訴人が、不正の目的をもって、控訴人と誤認されるおそれの ある商号を使用しており、控訴人はこれによって営業上の利益を侵害され、
又は侵害されるおそれがあるか。)について 〔控訴人の主張〕 ア Eの個人事業を受け継いだのはCであり、被控訴人が使用していた「丸15 忠」や「つなぎ舘」の表記は、Cが有する標章の信用を借りていたにすぎ ないから、被控訴人が、EやCの個人事業の時代から、これらの標章を使 用していたということはできない。
イ 被控訴人は、控訴人が、Eの代からの伝統がある多磨霊園正門前の土地 (現在の控訴人の肩書地)に所在する店舗(以下「原告店舗」という。)にお20 いて、被控訴人と競合する石材店の事業を始めたことから、顧客に原告店 舗及び被告店舗を誤認混同させ、控訴人に誘引されるべき顧客を被控訴人 にも誘引しようという動機で、本件商号変更をしたものである。また、原 告店舗及び被告店舗は、約37メートルしか離れていない上、いずれも石 材業を営んでおり、控訴人及び被控訴人が類似した商号を使用した場合に25 は、顧客は両社が同じ会社又は系列の会社であると誤認混同しやすくなる といえることからすれば、本件商号変更には不当な目的があったものと推 6 認される。
ウ 被控訴人が「丸忠」の商号を名乗り始めたのは、控訴人が「丸忠」の商 号を名乗り始めて約23年が経過した平成17年からであることからす れば、被控訴人は、控訴人の信用にただ乗りをするか、控訴人との誤認混 5 同を生じさせようとして、本件商号変更をしたものと考えるのが自然であ る。また、本件商号変更がされた時期が、控訴人が新たに店舗を立て替え て事業を再開し、事業を拡大しようとしていた時期と合致していることか らも、被控訴人は、控訴人の商号との誤認混同を意図して、本件商号変更 をしたものと推認される。
10 〔被控訴人の主張〕 ア 争点Gで主張した各事情から明らかなように、被控訴人が現在の商号を 使用することについて、不正の目的はない。
イ 控訴人が、被控訴人の商号に含まれている「丸忠山田」及び「つなぎ館」 の商標登録出願をし、更に控訴人の商号を変更したのは、いずれも本件商15 号変更より後であったことに加え、被控訴人がEの個人事業において使用 されていた標章を継続的に使用してきたことなどからすれば、本件商号変 更に不正な目的はない。
ウ 被控訴人の商号は、控訴人の商号とは明らかに異なるものであるから、
原告店舗及び被告店舗が近隣に所在することは、被控訴人の不当な目的を20 基礎付ける事実にはならない。
当裁判所の判断
1 認定事実 認定事実は、以下のとおり原判決を補正するほかは、原判決「事実及び理由」 の第3の1(原判決21頁9行目ないし26頁11行目)に記載のとおりであ25 るから、これを引用する。
? 原判決22頁13行目の「昭和38年に」を「昭和38年の」に改める。
7 ? 原判決25頁3行目の「原告の店舗(以下「原告店舗」という。 」を「原 ) 告店舗」に改める。
? 原判決25頁10行目の「求めたが、」を「求める書面(甲20)を送付し たが、」に改める。
5 ? 原判決25頁19行目の「書面を送付した。」を次のとおりに改める。
「書面(乙7)を送付したが、Bは、上記分割協議に応じなかった。
なお、控訴人が、被控訴人に対し、被控訴人による各被告標章の使用が本 件各商標権を侵害する行為に当たる旨を指摘したのは、上記乙7の書面を送 付したときが初めてであった。」10 ? 原判決25頁22行目冒頭ないし26頁3行目末尾を、以下のとおりに改 める。
「控訴人は、令和元年7月30日、被告商標1につき、商標法4条1項1 5号に該当することを無効理由として商標登録無効審判を請求したが、被控 訴人が不正の目的をもって使用するために被告商標1の商標登録を受けたと15 認めることはできないから、同請求は同法47条1項が定める期間を経過し た後にされた不適法なものであり、その補正をすることもできないとして、
同請求を却下する旨の審決がされた(無効2019-890041号) (乙 。
12)」 2 争点G(控訴人の本件各商標権に係る各請求が権利濫用か。)について20 当裁判所も、控訴人の被控訴人に対する本件各商標権に基づく権利行使は、
権利の濫用に当たるものと判断する。その理由は、次のとおりである(原判決 26頁14行目ないし29頁6行目を次のとおりに改める。 。
) ? 検討 ア 控訴人の本件各商標権に基づく各請求が権利の濫用に当たるか否かにつ25 いて、前記1の認定事実に基づいて検討する。
イ 被控訴人は、E及び同人の子らによって運営されていた山田石材店に係 8 る個人事業を法人化するために、Eの子ら全員が出資して設立された法人 であり、その後50年以上にわたって継続的に、多磨霊園正門の近隣に所 在する店舗において、墓石の販売等の事業を行ってきた。また、この間、
被控訴人は、法人化する以前と同様に、
「丸忠」とも表記され得る漢字の「忠」 5 を丸で囲んだ標章や「山田石材店」及び「つなぎ館」の標章等、各被告標 章と同様の標章を、被控訴人及びその事業を表示するものとして使用して きた。
これらの事情によれば、各被告標章には、多磨霊園正門の近隣における 墓石の販売等の事業に関する被控訴人の信用が化体しているものといえ10 る。
ウ 被控訴人は、控訴人代表者(A)の父であるC、被控訴人代表者(B) の父であるF及びGの3名が設立時の代表取締役となるなど、いわゆる親 族経営の法人であるといえる。また、控訴人及び被控訴人の各店舗は近隣 に所在する上、控訴人は、平成17年7月頃から被控訴人と同様に墓石等15 の販売の事業を行うようになった。
これらの事情によれば、控訴人及び被控訴人は、山田石材店の事業に関 して密接な関係にあるというべきである。
エ 上記ウで挙げた事情を考慮すると、控訴人は、上記イのとおりの被控訴 人の事業内容及び標章の使用状況等を当然に知っていたものといえる。他20 方で、控訴人は、平成18年に本件商標2及び3の登録出願をするなどし た後も、被控訴人による各被告標章と同様の標章の使用について、被控訴 人に対して本件各商標権を侵害する行為である旨の指摘をしたことはな く、AがBに対して平成31年1月に乙7の書面を送付した際に初めてそ のような指摘をしたものである上、BがE名義の土地に係る遺産分割協議25 への協力を拒んだ後間もなく、被告商標1に係る商標登録無効審判を請求 し、また、本件訴えを提起したものである。
9 これらの事情を考慮すると、控訴人は、被控訴人が各被告標章と同様の 標章を長年にわたって使用してきたことを知りながら、これを殊更に問題 視することなく互いの事業を行ってきたにもかかわらず、本件各商標権の 登録出願がされてから10年以上が経過した後になって、E名義の土地に 5 係る遺産分割協議という本件各商標権とは何ら関係のない事柄をきっか けとして、被控訴人に対し、本件各商標権に基づく権利行使に及んだもの とみるのが相当である。
オ 以上のとおりの被控訴人による各被告標章の使用状況、控訴人及び被控 訴人の関係、控訴人が権利行使をするに至った経緯等を総合して考慮する10 と、控訴人の被控訴人に対する本件各商標権に基づく権利行使は、権利の 濫用として許されないというべきである。
? 控訴人の主張に対する判断 ア 前記第2の3?〔控訴人の主張〕アについて (ア) 控訴人は、Eの個人事業を受け継いだのは長男であるC及びAであり、
15 本件各商標権には被控訴人ではなくE、C、A及び控訴人の信用が化体 されているところ、被控訴人は各被告標章を使用することによってこの 信用を不当に利用している旨主張する。
しかしながら、前記?で検討したとおり、被控訴人は、E及び同人の 子らによって運営されていた山田石材店に係る個人事業を法人化するた20 めに設立された法人であり、その後50年以上にわたって継続的に墓石 の販売等の事業を行ってきたこと、他方、控訴人の設立時の商号は「丸 忠造建株式会社」であって、その事業目的は「造園外構工事の設計施工 請負」等であり、控訴人の設立当初の目的には墓地や墓石に関する事業 は含まれておらず、控訴人が被控訴人と同様に墓石等の販売の事業を行25 うようになったのは平成17年7月頃からであったことからすれば、被 控訴人が山田石材店に係るEの個人事業を引き継いだことは明らかであ 10 る。そして、その後の経過において、被控訴人からC、A又は控訴人に 対して、山田石材店に係る被控訴人の事業が譲渡されたことをうかがわ せる事情又は証拠は見当たらない。そうすると、CがEの長男であり、
AがCの長男であるからといって、また、控訴人が山田石材店と同様に 5 墓石の販売等の事業を行っているからといって、控訴人がEの個人事業 を受け継いだものと認めることはできないから、控訴人の上記主張は、
その前提を欠くというべきである。
(イ) 上記に関して、控訴人は、多磨霊園周辺においては「丸忠」という標 章が控訴人を示すことが広く知れ渡っていると主張し、このことは、甲10 13及び甲24の各書類並びに甲21の陳述書によって裏付けられる旨 主張する。
しかしながら、甲13及び甲24の各書類には、控訴人を表す屋号と して「丸忠山田」と記載されているものの、これらの書類は、いずれも 多磨霊園周辺の石材店が組織する「多磨石材親交会」において使用され15 る書類にすぎない。また、甲21は、多磨霊園近隣の石材店を生家とし、
多磨霊園周辺に長年居住している者が作成した陳述書であるところ、同 人はAが山田石材店の跡継ぎであると認識しており、周囲の関係者も同 様の認識である旨が記載されているにすぎない。そうすると、これらの 証拠をもって、多磨霊園周辺においては「丸忠」という標章が控訴人を20 示すことが広く知れ渡っていると認めることはできず、上記(ア)の判断が 左右されるものではないというべきである。
(ウ) したがって、控訴人の上記各主張はいずれも採用することができない。
イ 同〔控訴人の主張〕イについて (ア) 控訴人は、控訴人及び被控訴人は全く別の事業主体であり、代表者同25 士が親族であるという以上に密接な関係があるわけではない旨主張す る。
11 しかしながら、前記?ウで検討したとおり、控訴人及び被控訴人は、
山田石材店の事業に関して密接な関係にあるというべきであり、かかる 事情は、控訴人の被控訴人に対する本件各商標権に基づく権利行使が権 利の濫用に当たるか否かを判断するに当たって考慮すべき事情である 5 というべきである。
(イ) したがって、控訴人の上記主張は採用することができない。
ウ 同〔控訴人の主張〕ウについて (ア) 控訴人は、甲25の写真撮影報告書のとおり、設立当初から、店舗看 板、作業着、社用車及び店舗建物等に本件各商標を使用していたもので10 あり、控訴人が本件各商標の登録出願をしたことについて、被控訴人へ の害意等があったわけではない旨主張する。
しかしながら、前記?イないしエのとおりの被控訴人による各被告標 章の使用状況、控訴人及び被控訴人の関係、控訴人が権利行使をするに 至った経緯等を総合して考慮すると、控訴人の被控訴人に対する本件各15 商標権に基づく権利行使は権利の濫用として許されないというべきであ ることは、前記?で検討したとおりであるところ、そうであれば、控訴 人による本件各商標権の登録出願に不当な目的等がなかったからといっ て、前記の判断が左右されるものではないというべきである。
(イ) したがって、控訴人の上記主張は採用することができない。
20 エ 同〔控訴人の主張〕エについて (ア) 控訴人は、本件各商標の登録出願と乙7の書面の送付との間に関連性 はなく、また、乙7の書面よりも前に送付された甲20の書面の内容か らすれば、控訴人には商標権を濫用する意図がないことは明らかである 旨主張する。
25 しかしながら、上記ウで検討したとおり、本件各商標の登録出願に係 る経過は、控訴人の被控訴人に対する本件各商標権に基づく権利行使が 12 権利の濫用に当たるか否かに係る前記の判断を左右する事情ではないと いうべきである。また、甲20の書面は、AがBに対してE名義の土地 に係る遺産分割協議への協力を要請するものにすぎないところ、乙7の 書面の内容及びその後の経過も併せ考慮すると、前記?で検討したとお 5 り、控訴人は、E名義の土地に係る遺産分割協議という本件各商標権と は何ら関係のない事柄をきっかけとして、被控訴人に対し、本件各商標 権に基づく権利行使に及んだものとみるのが相当である。
(イ) したがって、控訴人の上記主張は採用することができない。
オ その他の主張について10 控訴人は、原審において上記アないしエと同旨の主張をし、このほかに も争点Gに関して縷々主張するが、これまで検討したところに照らせば、
いずれも採用することができない。
? 小括 以上によれば、控訴人の本件各商標権に基づく各請求は、争点@ないしF15 について判断するまでもなく、いずれも理由がない。
3 争点H(被控訴人が、不正の目的をもって、控訴人と誤認されるおそれのあ る商号を使用しており、控訴人はこれによって営業上の利益を侵害され、又は 侵害されるおそれがあるか。)について 当裁判所も、原審と同様に、被控訴人が、不正の目的をもって、控訴人と誤20 認されるおそれのある商号を使用しているものとは認められないと判断する。
その理由は、次のとおりである(原判決29頁10行目ないし20行目を次の とおりに改める。 。
) ? 検討 ア 会社法8条1項不正の目的は、他の会社の営業と誤認させる目的、他25 の会社と不正に競争する目的、他の会社を害する目的など、特定の目的の みに限定されるものではないが、不正な活動を行う積極的な意思を有する 13 ことを要するものと解するのが相当である。
イ そこで検討するに、争点Gにおいても検討したとおり、被控訴人は、E 及び同人の子らによって運営されていた山田石材店に係る個人事業を法 人化するために設立された法人であり、その後50年以上にわたって継続 5 的に墓石の販売等の事業を行ってきたものである。また、この間、被控訴 人は、法人化する以前と同様に、
「丸忠」とも表記され得る漢字の「忠」を 丸で囲んだ標章や「山田石材店」及び「つなぎ館」の標章等、各被告標章 と同様の標章を、被控訴人及びその事業を表示するものとして使用してき たものであり、これらの標章には、多磨霊園正門の近隣における墓石の販10 売等の事業に関する被控訴人の信用が化体されているものといえる。
このように、被控訴人は、その事業の遂行に当たり、長年にわたって上 記の各標章を継続的に使用してきたものといえるところ、被控訴人は、平 成17年7月に、被控訴人の信用が化体されているといえる上記の各標章 を組み合わせた現在の商号に変更したものであること、他方、控訴人の設15 立時の商号は「丸忠造建株式会社」であって、その事業目的は「造園外構 工事の設計施工請負」等であり、控訴人の設立当初の目的には墓地や墓石 に関する事業は含まれておらず、控訴人が被控訴人と同様に墓石等の販売 の事業を行うようになったのは平成17年7月頃からであり、さらに、控 訴人の商号が現在の「株式会社丸忠山田」に変更されたのは平成22年に20 なってからであること、以上の事実からすれば、被控訴人が、不正な活動 を行う積極的な意思を有して、現在の商号を使用しているものとみるのは 困難である。
ウ したがって、被控訴人が、不正の目的をもって、控訴人と誤認されるお それのある商号を使用しているものとは認められない。
25 ? 控訴人の主張に対する判断 控訴人は、争点Hについて縷々主張するが、これまで検討したところに照 14 らせば、控訴人の各主張は、いずれも前記の判断を左右するものではないと いうべきである。
? 小括 以上のとおり、控訴人の会社法8条2項に基づく各請求は、いずれも理由 5 がない。
4 結論 以上によれば、控訴人の請求はいずれも棄却すべきであるとした原審の判断 は相当である。
よって、本件控訴は理由がないからこれを棄却することとして、主文のとお10 り判決する。