審判番号(事件番号) | データベース | 権利 |
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平成14ワ13569商標権侵害差止等請求事件 平成15ワ2226商標権侵害差止請求事件 | 判例 | 商標 |
平成20ワ34852商標権侵害差止等請求事件 | 判例 | 商標 |
平成18ネ2387不正競争行為差止等請求控訴事件 | 判例 | 商標 |
平成19ネ10057商標権侵害差止等請求控訴事件 平成19ネ10069附帯控訴事件 | 判例 | 商標 |
平成19ワ14984商標権侵害差止等請求事件 | 判例 | 商標 |
関連ワード | 役務の提供 / 識別機能 / 指定商品 / 指定役務 / 3条1項6号 / 周知性 / 品質誤認(4条1項16号) / 顧客吸引力(グッドウィル) / 類似性(類否判断) / 損害額 / 使用料相当額 / 権利濫用(権利の濫用) / 通常使用権 / 先使用(32条) / 外観(外観類似) / 称呼(称呼類似) / 観念(観念類似) / 取引の実情 / 警告 / ドメイン / 無効審判 / 継続 / 商号 / 利益額 / |
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事件 |
平成
16年
(ワ)
12032号
損害賠償請求事件
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原告 P1 訴訟代理人弁護士 南輝雄 訴訟代理人弁理士 内山美奈子 被告 K1 被告 P2 被告ら訴訟代理人弁護士 山上和則 同 藤本一郎 同 雨宮沙耶花 |
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裁判所 | 大阪地方裁判所 |
判決言渡日 | 2005/12/08 |
権利種別 | 商標権 |
訴訟類型 | 民事訴訟 |
主文 |
1 被告K1は、原告に対し、80万0832円及びこれに対する平成16年11月17日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 2 原告の被告P2に対する請求及び被告K1に対するその余の請求をいずれも棄却する。 3 訴訟費用はこれを10分し、その1を被告K1の負担とし、その余を原告の負担とする。 4 この判決は、第1項に限り、仮に執行することができる。 |
事実及び理由 | |
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請求
被告らは、原告に対し、連帯して、995万1000円及びこれに対する平成16年11月17日(訴状送達の日の翌日)から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 |
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事案の概要
本件は、原告が、商標権を有しているところ、被告K1(以下「被告会社」という。)が開設したウェブサイト上の記載が上記登録商標に類似する標章の使用であり、上記商標権の侵害にあたると主張し、被告会社の代表取締役である被告P2は、上記商標権侵害により生じた損害について有限会社法30条の3第1項に基づく責任を負うと主張して、被告らに対し、損害賠償を請求した事案である。 1 前提となる事実(証拠により認定した事実は末尾に証拠を掲げた。その余は争いがない事実である。) (1)ア 被告会社は、車両整備全般、板金塗装全般等を業とする有限会社である。 被告P2は、被告会社の代表取締役である。 イ 原告は、別紙商標目録1記載の登録商標(以下「本件商標1」という。)及び別紙商標目録2記載の登録商標(以下「本件商標2」といい、本件商標1と合わせて以下「本件各商標」という。)の商標権者である(甲2の1・2、3の1・2)。 (2)ア 被告会社は、インターネット上に自社のウェブサイト(以下「被告サイト」という。)を開設し、少なくとも、平成13年11月ころから平成16年5月ころまでの間、そのサイトのトップページを表示するためのhtmlファイルに、 メタタグとして、「」と記載していた(以下「本件行為1」という。なお、「クルマの110番」との文字列を、以下「本件標章1」という。)(甲5、19、23の6、乙13)。 上記記載により、少なくとも上記期間のころ、インターネットの検索サイトの1つであるmsnサーチにおいて、被告サイトのトップページの説明として、「クルマの110番。輸入、排ガス、登録、車検、部品・アクセサリー販売等、クルマに関する何でも弊社にご相談下さい。」との表示がされた(甲5)。 イ 被告会社は、被告サイトのトップページにおいて、少なくとも、平成13年11月9日から平成16年3月末まで、先頭から2行目に、中央に寄せて、ゴシック体で、「自動車の119番」との文字列(以下「本件標章2」といい、本件標章1と合わせて以下「本件各標章」という。)が表示されるようにしていた(以下「本件行為2」といい、本件行為1と合わせて以下「本件各行為」という。)(甲4の1・2)。 2 争点 (1) 本件各行為は、それぞれ、本件各商標の商標権を侵害するものといえるか(後記(2)の点を除く)。 (2) 本件標章2について、被告会社は先使用による法定の通常使用権を有するか。 (3) 本件各商標は、それぞれ登録無効審判によって無効とされるべきものか。 (4) 被告会社による本件各商標の侵害によって損害が発生していないといえるか。 (5) 損害の額 (6) 被告P2に、被告会社による本件各商標の侵害について重過失があったといえるか。 3 争点に関する当事者の主張 (1) 争点(1)(本件各行為による本件各商標の商標権侵害該当性)について 〔原告の主張〕 ア 本件各標章と本件各商標の類似性について (ア) 本件標章1と本件商標1は、称呼において同一であり、観念も同一といってよく、外観も「110番」の部分が共通であって、類似性は顕著である。 したがって、本件標章1と本件商標1は同一又は類似するものである。 (イ) 本件標章2と本件商標2は、称呼及び外観において「119番」の部分が共通し、観念においても「自動車」と「クルマ」は同一であり、全体として、称呼及び外観において著しい同一・類似性があり、全体としての観念においては自動車のトラブルに対する速やかな措置といった点で同一である。 したがって、本件標章2と本件商標2は同一又は類似するものである。 イ 原告が通常使用権を許諾しているK2の他、原告が経営しているK3において、本件各商標をいずれも使用している。 ウ 被告会社は本件行為1の他、msnサーチの検索エンジンにキーワードとして本件標章1を登録した可能性がある。 いずれにしても、msnサーチの検索エンジンで「クルマの110番」を検索した場合に被告サイトが検索されるということは、それ自体被告会社を表示識別する標章としての使用というべきであって、商標としての使用にあたる。 また、検索サイトで表示される画面においても、「クルマの110番。輸入、排ガス、登録、車検、部品・アクセサリー販売等、クルマに関する何でも弊社にご相談下さい。」と表示しているのであって、被告会社を表示するのに本件標章1を使用しているものである。 したがって、本件行為1は、本件標章1の商標としての使用にあたる。 エ 本件行為2は、被告サイトのトップページの上部に、大きな文字で、極めて目立つように、本件標章2を表示するものであり、他方、被告会社の商号は、 同一ページの最後の方にさほど目立たない大きさで表示されており、本件標章2の表示は、被告会社を表示識別するに十分な記載であって、商標としての使用そのものである。 オ したがって、本件各行為は、いずれも、本件各商標の商標権を侵害するものである。 〔被告らの主張〕 ア 本件標章1と本件商標1が同一又は類似するという原告の主張及び本件標章2と本件商標2が同一又は類似するという原告の主張は、いずれも争う。 イ 原告が通常使用権を許諾しているというK2及び原告代表者が経営しているというK3が、本件各商標を商標として使用しているという原告の主張は、いずれも否認ないし争う。 上記両社は、本件各商標を商標として使用したことはない。 ウ 本件行為1について (ア) msnサーチは、サーチエンジンとしてはむしろマイナーであり、 そのようなサーチエンジンに情報を登録する際に、たまたま結果的に「クルマの110番」という検索ワードで引っ掛かることだけをもって、標章の使用ということはできない。 なぜならば、「クルマの110番」という用語で検索結果にヒットするからといって、被告会社が、その用語そのものを登録したとは限らないからである。 仮に、被告会社が、「クルマの110番」という用語をそのまま登録していたとしても、他のより有名な検索エンジンにおいて、被告サイトがヒットしないことに照らせば、被告会社の出所や信用などと結合したとはいえない。 なお、被告会社が、msnサーチに、検索用キーワードを主体的に登録したことはない。 また、「クルマの110番」という記載を、htmlファイルに行ったのは確かに被告会社であるが、msnサーチに表示されたのは、msnサーチが勝手にその記載を拾ったからにすぎない。 したがって、本件行為1は、被告会社が、本件標章1を、自己の営業主体・信用の主体・ブランドという意味で用いたものではなく、商標としての使用にはあたらない。 (イ) また、原告に仕事を注文しようとして、msnサーチの表示において、「クルマの110番」という表示を見て、被告サイトを閲覧した者がいたとしても、被告サイトにはどこにも「クルマの110番」という表示はないのであるから、被告サイトが原告のものとは異なることはすぐに分かるのであり、出所識別機能は害されず、注文時には誤認混同が生じないから、このようなメタタグのみへの記載は商標権の侵害にはあたらないというべきである。 エ 本件行為2について 本件行為2は、被告サイトのトップページにおける表示であるが、同一ページの下部において、「K1」という標章を大きく表示し、その下に住所電話番号を表示しており、また、自社が自動車の修理・整備に関する「K1」という会社であるという趣旨で「アウトK1」という標章を最上部に表示している。 これらの表示の中で、本件標章2が、被告会社の出所を定める標章として認識されることはない。 したがって、本件行為2は、被告会社が、本件標章2を、自己の営業主体・信用の主体・ブランドという意味で用いたものではなく、商標としての使用にはあたらない。 オ 以上の各事情に照らせば、本件各行為は、いずれも、本件各商標の商標権を侵害するものとはならない。 (2) 争点(2)(本件標章2についての先使用による通常使用権の抗弁)について 〔被告らの主張〕 被告会社は、被告サイトにおいて、本件商標2の登録出願日である平成12年4月11日以前である平成11年3月から、遅くとも同年10月から、平成16年4月15日まで、本件標章2を継続して使用していた。 その当時、原告において本件商標2を大々的に使用することを知っていたものではなく、被告会社に不正競争目的はない。 被告サイトは、その性質上、誰でも閲覧可能なのだから、少なくとも本件商標2の登録出願日である平成12年4月11日には、本件標章2は、被告会社の役務を表示するものとして周知となっていた。 被告会社が、本件標章2の使用を中止したのは、原告から警告を受けたためであり、使用を一時中止しているにすぎない。 以上の事実によれば、被告会社は、本件標章2について、先使用による通常使用権を有する。 〔原告の主張〕 本件標章2が、本件商標2の登録出願日までに周知となっていたことは否認し、被告会社が、本件標章2について、先使用による通常使用権を有することは争う。 (3) 争点(3)(本件各商標の登録無効理由の有無)について 〔被告らの主張〕 ア 本件各商標は、いずれも、一般的な表現である「中古車」という表現に、「110番」ないし「119番」という、警察・消防において広く使われている番号を付加したものである。 このような、公共団体等を示す公知表示の商標登録は、商標法4条1項6号及び7号に違反して登録されたものであり、無効である。 イ 「110番」及び「119番」は、それぞれ警察及び消防の緊急通報用電話番号として知られており、このことから、電話での相談・要請に応ずる組織を表す接尾語として広く使用されているものであり、「中古車」という単語も中古の自動車を意味する一般的な単語である。 したがって、「中古車110番」ないし「中古車119番」という単語は、「中古車に関連した電話相談窓口」という意味合いを容易に認識させ、中古自動車の修理等の役務に使用した場合でも、需要者をして上記意味合いを認識させるにとどまり、何人かの業務に係る役務であることを認識することができないものであって、このような標章の商標登録は、商標法3条1項6号に違反する。 また、このような標章を、中古自動車の修理等の役務以外に使用すれば、需要者をして、「中古車に関連した電話相談窓口」という意味合いを認識させてしまい、役務の質の誤認を生じさせるおそれがあるから、商標法4条1項16号に違反する。 したがって、本件各商標の商標登録は、無効である。 ウ なお、仮に、本件各商標が、「中古車」と書いて「くるま」と読ませる点に特徴があるとして商標登録が有効とされるのであれば、本件各商標について商標権を行使できる範囲は、「中古車」を「くるま」と読ませている商標に対してだけであり、本件各標章には及ばない。 〔原告の主張〕 ア 本件各商標は、「中古車の」という文字と、「110番」ないし「119番」とを統合させることにより、原告提供に係る商品又は役務を容易かつ即座に認識理解させるものである。「110番」ないし「119番」の前に「中古車の」という文字がある以上、警察の使用するいわゆる110番や消防の使用するいわゆる119番と異なることは一見して誰の目にも明らかであり、これを商標登録することは商標法4条1項6号又は7号に違反するものではない。 イ 「中古車の110番」ないし「中古車の119番」という商標からは、 電話相談窓口というよりも、中古車に関連した具体的役務の提供を連想認識させるものであるから、被告らの商標法3条1項6号及び4条1項16号違反の主張は、 前提を欠くものである。 (4) 争点(4)(損害不発生の抗弁)について 〔被告らの主張〕 ア 被告会社は、横浜市に本店のみが存在する会社であり、どんなに宣伝をしても、せいぜい関東圏が商圏となるに限られる。 一方、本件各商標について原告が通常使用権を許諾しているというK2の商圏は、関西地区と四国地区が中心であり、その他には、岡山県と鳥取県に電話だけの店舗が存在するにとどまる。 したがって、被告会社と、K2の商圏は、全く重ならない。 また、原告が経営しているというK3が、仮に関東圏で経済活動をしているとしても、関東圏で本件各商標を使用したことはない。 したがって、本件各商標の使用に関しては、被告会社と、K3は、何ら競合しない。 イ K2は、本件各商標をいずれも使用していない。 また、K3による本件商標1の使用も、せいぜいが、店舗入口での表示程度である。 このような本件各商標は、ほとんど知られておらず、顧客吸引力はない。 ウ 被告会社による本件標章1の使用は、せいぜいが、msnサーチの1か所での使用に限られ、本件標章2の使用は、被告サイト上の1か所での使用に限られ、その他には全く使用していない。 そして、本件各標章の使用が、被告会社の売上げに寄与したことは全くない。 エ 以上の事情と、最高裁判所平成9年3月11日判決(民集51巻3号1055号)が判示するところに照らせば、被告会社による本件行為1ないし2によって、原告に損害は発生していないというべきである。 〔原告の主張〕 ア 被告らが援用する最高裁判所判決の判示するところは、請求が権利濫用と認められるほどに妥当性を欠くものであるとき以外に適用するのは相当ではない。 イ 原告代表者が経営するK3は、本件商標1及び2をいずれも使用しているが、同社は関東圏においても営業している。 また、被告会社も、全国を商圏として営業活動している。 したがって、被告会社とK3ないしK2との商圏は重なっている。 ウ 被告会社による本件各標章の使用は、インターネット上での使用であって、これによって顧客の吸引を図っているものであり、これが被告会社の売上げに寄与していないともいえない。 エ したがって、上記アで主張したところを置くとしても、本件は、上記最高裁判所判決と全く事案を異にするものであって、原告に損害が発生していないとはいえない。 (5) 争点(5)(損害の額)について 〔原告の主張〕 ア 商標法38条3項に基づく損害額の算定 (ア) 被告会社は、少なくとも平成11年10月1日から平成16年4月15日までの54.5か月間、本件行為1を継続し、少なくとも平成13年11月9日から平成16年4月15日までの29か月余の間、本件行為2を継続した。 (イ) 原告は、本件商標1について、平成11年4月10日から、K2に対し通常使用権を許諾し、その後、本件商標2についても追加して通常使用権を許諾し、使用料として月額31万5000円を得ている。 したがって、本件各商標の使用に対し受けるべき金銭の額は、それぞれ、1か月当たり少なくとも31万5000円である。 (ウ) 本件各行為による本件各商標の商標権侵害により原告が被った損害の額は、本件各商標について格別に算定することができ、このうち、本件商標1の商標権侵害により原告が被った損害の額だけでも1716万7500円(315,000円×54.5月)に上るが、本件では、本件各商標の商標権侵害により原告が被った損害の合計額のうち、905万1000円の賠償を請求する。 (エ) 後記〔被告らの主張〕イは、いずれも否認ないし争う。 イ 弁護士・弁理士費用 90万円 ウ 合計 995万1000円 〔被告らの主張〕 ア 侵害行為の期間について 本件各行為が、いずれも、平成13年11月9日から平成16年3月31日までの期間に及んだことは認め、その余の期間については否認する。 イ 商標法38条3項に基づく損害額の算定方法について (ア) 原告がK2に本件各商標の通常使用権の許諾をした契約では、これらの他、多くの商標について通常使用権が許諾されている。そして、K2が、本件商標1及び2を使用しておらず、主として使用しているのが「買取110番」であることに照らせば、上記契約による商標使用料31万5000円は、その大半が「買取110番」のためのものであり、本件商標1及び2の使用の対価は極めて限られるものである。 しかも、原告とK2の代表者は親族の関係にあるから、この契約に基づく使用料は参考とされるべきではない。 また、K2が原告に対して約定どおりの商標使用料を支払っているという原告の主張は否認する。 加えて、被告会社による本件各標章の使用態様からしても、原告の主張するライセンス料をそのまま当てはめることは相当でない。 仮に、原告とK2との契約による使用料を参考とするとしても、12社で10種類であることだけを考えても使用料総額の120分の1である月額2625円となるものであり、「買取110番」が使用料のほとんどを占めていることからすれば、これよりも遙かに低い金額とすべきである。 (イ) 被告会社が本件各標章の使用によって上げることのできた売上げはごくわずかである。 すなわち、被告会社が被告サイトによって得た売上額は、平成13年11月9日から平成16年3月31日までの間で、89万1719円にとどまり、 その半分以上が原価及び経費であるから、利益額としては、せいぜい40万円程度である。 したがって、損害額としては、被告会社の利益額である約40万円を基準とするべきである。 また、使用料率としては、本件各商標が著名なものではないことからすれば、最高でも3パーセント程度である。 ウ 弁護士・弁理士費用について 争う。 (6) 争点(6)(被告P2の重過失の有無)について 〔原告の主張〕 ア 被告P2は被告会社の代表取締役であり、被告会社は被告P2と同人の妻の2人で営んでいる会社である。 原告は、カー雑誌に、平成9年には頻繁に「車110番」の広告を掲載しており、少なくとも、平成10年には「くるまの110番」を前面に押し出した広告は、被告P2の認識下に入った。 また、本件各商標登録の事実は、特許電子図書館の商標検索のサイトを利用すると、容易に検索可能である。 被告P2は、被告会社による被告サイトの開設等にあたり、既に登録されている商標のデータを一切検索しなかったのであり、また、その後も、商標の抵触等に意を用いたものとは到底認めがたい。 以上の事情に照らせば、被告P2には、被告会社による本件各商標の侵害につき重過失があったというべきである。 イ さらに、本件行為1については、@被告会社が、本件標章1を被告サイトに用いていたところ、本件商標1が検索されたため、そのままでは不都合と考え、被告サイトにおいては、本件標章2を用いることとしたものの、検索エンジン上は、本件標章1が検索される状態を維持し、「クルマの110番」を検索すると被告サイトにリンクするようにするため、メタタグとしての記載を残していたか、 A被告らが本件商標1を目にし、本来的には本件標章1を使用したかったが、問題になると考え、被告サイトにおいては本件標章2を用いつつ、メタタグには本件標章1を記載して、結局、「クルマの110番」を検索した人を被告サイトに引き込むようにしたかの、いずれかであると考えられる。 そうだとするならば、被告P2には、被告会社による本件商標1の侵害について故意があったともいうべきものであり、少なくとも重過失があったことは明らかである。 〔被告P2の主張〕 原告が主張するカー雑誌での広告は、K2によるものであるが、そこで使用されているのは「車買取110番」ないし「買取110番」であって、本件各商標ではない。しかも、これら広告が掲載された雑誌は、関西版のものであって、 被告会社が所在し、被告P2が居住する関東地方で販売されていたものでもなく、 被告P2はこれを読んでいない。 登録商標について、特許電子図書館のサイトで検索することができることはそのとおりであるとしても、素人である被告P2がその検索を怠ったからといって、重過失があるとはいえない。被告会社のような零細な個人会社において、ウェブサイトを立ち上げるにあたって、そこに記載するキャッチフレーズ的な単語が商標登録されているかどうかを調査するまでの義務を代表者に課すのは酷であって、これを行っても被告P2に重過失があるとはいえない。しかも、本件商標2については、平成11年3月、遅くとも同年10月の本件行為2の開始当時、商標登録出願もされていなかったのであるから、これを調査して使用を回避することは不可能である。 本件各標章は、「自動車」ないし「クルマ」という普通名詞と、「119番」ないし「110番」という公知の緊急電話番号との組合せであり、誰にでも容易に思いつくものであるから、これらの単語を使用したことにつき、被告P2に重過失が推定されないのは当然である。 上記〔原告の主張〕イは否認する。 したがって、被告P2には、被告会社による本件各商標の侵害につき、 重過失はない。 |
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当裁判所の判断
1 争点(1)(本件各行為による本件各商標の商標権侵害該当性)について (1) 本件商標1と本件標章1との類否 本件商標1の全体と、本件標章1の全体を比較して、類否を検討する。 ア 本件商標1は、「中古車の」の部分について、「くるまの」という称呼及び「ちゅうこしゃの」という称呼が生じるものと認められる。これに対し、本件標章1は、「クルマの」の部分について、「くるまの」という称呼が生じるものと認められる。また、本件商標1は、「110番」の部分について、「ひゃくとおばん」などという称呼が生じるものと認められる。これに対し、本件標章1は、「110番」の部分について、「ひゃくとおばん」、「ひゃくじゅうばん」、「いちいちれいばん」などといった称呼が生じるものと認められる。 以上からすれば、本件商標1と本件標章1は、それぞれの前半において、「くるまの」という同一の称呼が生じ、それぞれの後半において、「ひゃくとおばん」などという同一の称呼が生じ、全体として、これらは、「くるまのひゃくとおばん」という同一の称呼を生じさせるものである。 イ 外観については、本件商標1の「110番」の部分は、ゴシック体で記され、上部に片仮名文字が付されているが、本件標章1の「110番」の部分とは類似しているということができる。しかし、本件商標1の「中古車の」の部分と、本件標章1の「クルマの」の部分は相違する。 したがって、これらが、全体として、外観において類似するということはできない。 もっとも、これらの後半部分が類似することに照らせば、この相違が特に顕著なものとまでいうこともできない。 ウ 本件商標1の「中古車の」の部分は、「中古自動車についての」という観念及び「自動車についての」という観念を生じさせるものと認められる。これに対し、本件標章1の「クルマの」の部分は、「自動車についての」という観念を生じさせるものと認められる。そして、本件商標1の「110番」の部分と、本件標章1の「110番」という部分が、「相談窓口」や「緊急の対応」などといった、同一の観念を生じさせることは明らかである。 以上からすれば、本件商標1と本件標章1は、それぞれの前半において、「自動車についての」という同一の観念を生じさせ、それぞれの後半において生じさせる観念は同一であるから、全体として、これらは同一の観念を生じさせるものである。 エ 以上のとおり、本件商標1と本件標章1は、称呼及び観念において同一のものを生じさせるものであって、両者は、全体的に考察して、類似するものというべきである。 (2) 本件商標2と本件標章2との類否 本件商標2の全体と、本件標章2の全体を比較して、類否を検討する。 ア 本件商標2は、「中古車の」の部分について、「くるまの」という称呼及び「ちゅうこしゃの」という称呼が生じるものと認められる。これに対し、本件標章2は、「自動車の」の部分について、「じどうしゃの」という称呼が生じるものと認められる。そして、本件商標2と本件標章2において、「119番」という部分について、「ひゃくじゅうきゅうばん」、「いちいちきゅうばん」などといった、同一の称呼が生じることは明らかである。 以上からすれば、本件商標2と本件標章2は、それぞれの後半において生じる称呼は同一であるが、前半における称呼は異なるから、これらが、全体として、称呼において類似するということはできない。 もっとも、これらの後半部分が同一の称呼を生じさせることに照らせば、この相違が特に顕著なものとまでいうこともできない。 イ 外観については、本件商標2と本件標章2の「119番」の部分は、文字の太さを異にするのみで、類似しているというべきであるが、本件商標2の「中古車の」の部分と、本件標章2の「自動車の」の部分は相違する。 したがって、これらが、全体として、外観において類似するということはできない。 もっとも、これらの後半部分が類似していることに照らせば、この相違も特に顕著なものとまでいうこともできない。 ウ 本件商標2の「中古車の」の部分は、「中古自動車についての」という観念及び「自動車についての」という観念を生じさせるものと認められる。これに対し、本件標章2の「自動車の」の部分は、「自動車についての」という観念を生じさせるものと認められる。そして、本件商標2と本件標章2の「119番」という部分が、「緊急の対応」などといった、同一の観念を生じさせることは明らかである。 以上からすれば、本件商標2と本件標章2は、それぞれの前半において、「自動車についての」という同一の観念を生じさせ、それぞれの後半において生じさせる観念は同一であるから、全体として、これらは同一の観念を生じさせるものである。 エ 以上のとおり、本件商標2と本件標章2は、観念において同一のものを生じさせるものであって、両者は、全体的に考察して、類似するものというべきである。 (3)ア なお、被告らは、前記「争点に関する当事者の主張」(1)〔被告らの主張〕ウ(ア)のとおり主張して、本件行為1は本件標章1の商標としての使用ではなく、商標権の侵害にあたらないと主張する。 イ しかしながら、前記「前提となる事実」(2)アのとおり、インターネットの検索サイトの1つであるmsnサーチにおける、被告サイトのトップページの説明は、「クルマの110番。輸入、排ガス、登録、車検、部品・アクセサリー販売等、 クルマに関する何でも弊社にご相談下さい。」というものとなっており、本件標章1がその冒頭に位置していることに照らせば、本件標章1は、被告会社の役務について、これを表すものとして使用されているものと認めることができる。 ウ また、甲第23号証の6・7によれば、インターネット上に開設するウェブサイトにおいてページを表示するためのhtmlファイルに、「」と記載するのは、インターネットの検索サイトにおいて、当該ページの説明として、上記「〜」の部分を表示させるようにするためであると認められる。 そして、一般に、事業者が、その役務に関してインターネット上にウェブサイトを開設した際のページの表示は、その役務に関する広告であるということができるから、インターネットの検索サイトにおいて表示される当該ページの説明についても、同様に、その役務に関する広告であるというべきであり、これが表示されるようにhtmlファイルにメタタグを記載することは、役務に関する広告を内容とする情報を電磁的方法により提供する行為にあたるというべきである。 本件においても、前記「前提となる事実」(2)アのとおり、被告会社は、 被告サイトを開設し、そのトップページを表示するためのhtmlファイルに、メタタグとして、「」と記載し、その結果、インターネットの検索サイトの1つであるmsnサーチにおいて、被告サイトのトップページの説明として、「クルマの110番。輸入、排ガス、登録、車検、部品・アクセサリー販売等、クルマに関する何でも弊社にご相談下さい。」との表示がされたのであるから、被告会社は、その役務に関する広告を内容とする情報に、本件標章1を付して、電磁的方法により提供したものと認めることができる。 エ さらに、被告会社は、「クルマの110番」という表示を見て、被告サイトを閲覧した者がいたとしても、被告サイトにはどこにも「クルマの110番」という表示はないのであるから、被告サイトが原告のものとは異なることはすぐに分かるのであって、出所識別機能は害されず、注文時には誤認混同が生じないとも主張する。 しかしながら、ある事業者が、複数の標章を並行して用いることはしばしばあることであるから、インターネットの検索サイトにおけるページの説明文の内容と、そこからリンクされたページの内容が全く異なるものであるような場合はともかく、ページの説明文に存在する標章が、リンクされたページに表示されなかったとしても、それだけで、出所識別機能が害されないということはできない。 そして、msnサーチに表示された被告サイトのトップページの説明文は上記イのとおりであり、被告サイトのトップページにおいては、「自動車のことでお悩みの方へ。弊社があなたの悩みを解決します。車に関することで様々な悩みをお持ちの方がいらっしゃると思います。一人で悩んでいても解決できません。お悩みのときは弊社にお気軽にお問い合わせ下さい。」と記載され、被告会社の業務として、「車両整備全般」、「オリジナルアクセサリー販売」、「アクセサリー類取り付け」、「アーシング」、「構造変更登録手続き」、「改造車の公認作業」、 「鈑金塗装全般」、「純正、社外部品の販売」、「輸入車の通関、排ガス、改善、 新規登録作業全般」、「オートバイの排ガス」、「輸出の際の車両運搬、通関、船の手配まで」、「引越しに伴う車両運搬、名義変更手続き」、「不要になった車両の運搬、処分、抹消手続き」と列挙されているのであって、これらの内容が異なっているとはいえない。 オ 以上検討したところに照らせば、本件行為1は、被告会社が、本件商標1に類似する標章である本件標章1を、その役務について、商標として使用したものと認めることができる。 (4) また、被告らは、前記「争点に関する当事者の主張」(1)〔被告らの主張〕エのとおり主張して、本件行為2は本件標章2の商標としての使用ではなく、 商標権の侵害にあたらないと主張する。 そこで検討するに、前記「前提となる事実」(2)イのとおり、本件標章2は、被告サイトのトップページにおいて、先頭から2行目に、中央に寄せて表示されていたことに照らせば、本件標章2が、被告会社の役務について、これを表すものとして使用しているものと認めるべきものである。 そして、ある事業者が、複数の標章を並行して用いることはしばしばあることであるし、上記のとおりの本件標章2の表示態様に照らしても、同じページに被告会社の商号と「アウトK1」と標章が表示されるからといって、本件標章2が、被告会社の標章として認識されることはないという被告らの主張は、採用することができない。 したがって、本件行為2は、被告会社が、本件商標2に類似する標章である本件標章2を、その役務について、商標として使用したものと認めることができる。 (5) ところで、被告らは、原告又は原告が通常使用権を許諾したと主張するK2もしくはK3が、本件各商標を使用していないことも主張する。 しかしながら、商標権は商標の登録によって発生する権利であり、商標の使用によって発生する権利ではないから、商標権者ないし登録商標の使用権者において、登録商標を使用しているか否かが、商標権侵害の成否と関係がないことは当然である。 (6) 以上検討したところに加え、被告会社の業務は、車両整備全般、板金塗装全般等であること、本件各商標の指定役務には、自動車の修理又は整備及び二輪自動車の修理又は整備が含まれ、本件商標2の指定役務には、自動車の板金・塗装も含まれていることによれば、被告会社による本件各行為は、本件各商標の商標権を侵害したものと認められる。 2 争点(2)(本件標章2についての先使用による通常使用権の抗弁)について 被告らは、被告サイトが、その性質上、誰でも閲覧可能なのだから、少なくとも本件商標2の登録出願日である平成12年4月11日には、本件標章2は、被告会社の役務を表示するものとして周知となっていたと主張する。 確かに、インターネット上のウェブサイトは、特に制限が加えられていない限り、誰でも閲覧可能なものである。しかし、反面において、インターネット上のウェブサイトは、その存在が知られず、誰にも閲覧されないことすらあり得るものである。 したがって、ある標章を一定期間インターネット上のウェブサイトに掲示したからといって、それだけで、その標章が周知性を有するに至ったものと認めることはできない。 そして、他に、本件標章2が、本件商標2の登録出願日である平成12年4月11日において、被告会社の役務を表示するものとして周知となっていたことを認めるに足りる証拠はない。 したがって、本件商標の登録出願日である平成12年4月11日当時、本件標章2が、被告会社の役務を表示するものとして周知となっていたことを認めることはできず、被告会社に、本件標章2について、先使用による通常使用権を認めることはできない。 3 争点(3)(本件各商標の登録無効理由の有無)について (1) 商標法4条1項6号及び7号違反の主張について 本件各商標は、いずれも、「中古車の」という文字列の後ろに、「110番」という警察の緊急通報用電話番号として広く知られる文字列ないし「119番」という消防・救急の緊急通報用電話番号として広く知られる文字列を付加したものである。 確かに、「110番」ないし「119番」という文字列だけからなる商標では、地方公共団体の機関を表示する標章であり、著名なものということができるかも知れない。 しかしながら、これらの文字列の前に、一定の文字列を付して、警察ないし消防・救急と関係がない者が用いるといったことがしばしば行われていることは、広く知られている事実である。 したがって、これらの文字列の前に、「中古車の」という文字列が付された本件各商標について、これを見た者において、その使用者が、警察ないし消防・救急と関係があると理解することは想定しがたい。 よって、本件各商標の登録が、商標法4条1項6号ないし7号に違反するものであるということはできない。 (2) 商標法3条1項6号及び4条1項16号違反の主張について 本件各商標は、いずれも、「中古車の」という文字列の後ろに、「110番」という警察の緊急通報用電話番号として広く知られる文字列ないし「119番」という消防・救急の緊急通報用電話番号として広く知られる文字列を付加したものである。 このような本件各商標は、「中古車に関連した電話相談窓口」という意味合いを認識させることがあるとしても、直ちに役務の質を直接的かつ具体的に表示するものとまでは認められないから、「中古車に関連した電話相談窓口」という意味合いのみを認識させるものではなく、構成文字全体をもって一種の造語として認識されると解するのが相当である。 そして、本件において、本件各商標ないし「中古車の110番」もしくは「中古車の119番」又は「中古車110番」もしくは「中古車119番」という文字列を、原告又は原告が本件各商標の通常使用権を許諾したK2もしくはK3以外の者が使用し、これによって、本件各商標ないしこれらの文字列が、業界において取引上普通に用いられるに至っていると認めるに足りる証拠はない。 以上によれば、本件各商標は、いずれも、その指定役務に使用したときに、自他の出所識別機能を有するものというべきであり、需要者が何人かの業務に係る役務であることを認識することができない商標ということはできず、また、役務の質の誤認を生ずるおそれがある商標ということもできない。 よって、本件各商標の登録が、商標法3条1項6号ないし4条1項16号に違反するものであるということはできない。 (3) なお、上記(1)及び(2)のとおり、本件各商標は、「中古車」と書いて「くるま」と読ませる点に特徴があるとして商標登録が有効とされるものではないから、前記「争点に関する当事者の主張」(3)〔被告らの主張〕ウの被告らの主張は、 その前提を欠くものであり、採用することができない。 4 争点(4)(損害不発生の抗弁)について (1) 被告らは、最高裁判所平成9年3月11日判決(民集51巻3号1055号)を援用し、@被告会社と、本件各商標の使用権を許諾していると原告が主張するK2及びK3との商圏が競合しない、A上記両社においては、本件各商標は全く使用していないか、ほとんど使用しておらず、本件各商標は顧客吸引力を持たない、B被告会社における本件各標章の使用はわずかであって、この使用が被告会社の売上げに寄与したことはない、と主張して、本件各行為によって、原告に損害は発生していないと主張する。 しかし、上記判決は、侵害者が権利者の登録商標に類似する標章を、侵害者の多数存在する店舗のうちの2店舗の壁面やウインドウに表示したという事案において、@権利者が登録商標を使用しておらず、登録商標に知名度がなく、業務上の信用及び顧客吸引力もほとんどなく、A侵害者の名称が既に著名なものとなっており、その使用する、権利者の登録標章とは類似しない標章も著名性を獲得し、業務上の信用及び顧客吸引力を有していたという前提事実の下で、B侵害者は、権利者の登録商標に類似する標章を、ごくわずかに、副次的に用いたことがあるものの、主には、権利者の登録標章とは類似しない標章を用いていたという事案であり、このような事実関係においては、権利者の登録商標に類似する標章の使用は、 侵害者の売上げに何ら寄与していないと判断されたものである。 (2) これに対し、本件においては、被告会社の名称が既に著名になっているとか、その使用する、本件各商標と類似しない標章が著名性を獲得していたことを認めるに足りる証拠はない。 また、本件における侵害行為の態様は、前記「前提となる事実」(2)のとおり、被告サイトのトップページを表示するためのhtmlファイルにメタタグとして「」として記載し(本件行為1)、これによって、インターネットの検索サイトにおいて、被告サイトのトップページの説明の冒頭に、本件標章1が表示されるようにし、あるいは、被告サイトにおいて、そのトップページの冒頭から2行目に中央に寄せて、本件標章2を表示したものであって(本件行為2)、これらの使用態様を、わずかであるとか、副次的であると評価することはできない。 したがって、本件は上記判決と事案を異にするというべきである。 そして、商標は、たとえ未使用商標であっても、使用の仕方によっては、 語感の良さや外観・観念の好ましさで顧客を引きつける場合もあり、それにもかかわらず、本件において、本件各標章が被告会社の売上げに全く寄与していないとまで認めるに足りる証拠はない。 よって、本件においては、被告会社による商標権侵害により原告に損害が生じていないということはできない。 5 争点(5)(損害の額)について (1) 商標法38条3項に基づく損害額の算定 ア 本件各行為(侵害行為)の期間について (ア) 原告は、本件行為1は、平成11年10月1日から平成16年4月15日まで、本件行為2は、平成13年11月9日(本件商標2の商標登録の日)以前から平成16年4月15日まで行われたと主張し、これに対し、被告らは、本件各行為について、原告が主張する期間のうち、平成13年11月9日から平成16年3月31日までは認め、その余は否認している。 そこで検討するに、被告会社の代表取締役である被告P2が平成16年5月6日に原告代理人弁理士内山美奈子にファクシミリ送信した文書である甲第7号証には、同人が被告会社に送付した警告書に対する回答として、「1)平成11年10月頃、ホームページ立ち上げ時より使用しています。」、「3)平成11年9月頃株式会社ファーストサーバ経由で独自ドメインを取得しホームページを立ち上げ、トップページでご指摘の『自動車の119番』をキャッチコピーとして使用しだしました。平成14年1月に株式会社インターリンクにレンタルサーバー会社を変更し、現在に至っています。」、「5)この標章に対して、元々こだわりがありませんので争う気もなく、警告書を受け取った4月15日にサイトから削除し、今後も一切使用するつもりはありません。」などと記載されている。なお、上記回答書(甲7)には、本件標章1については明確な記載は全くない。 (イ) 上記回答書(甲7)の上記各記載に照らせば、被告会社は、平成11年10月ころから、被告サイトのトップページにおいて、本件標章2が表示されるようにしていたが(本件行為2)、平成16年4月15日、原告から警告書が送付されたため、同日中に、本件行為2を中止したものと認めることができる。 したがって、本件行為2については、平成11年10月ころから、平成16年4月15日まで継続していたものと認められる。 (ウ) ところで、上記回答書(甲7)には、本件標章1については明確な記載がなく、その上記3)の記載内容からしても、被告会社(被告P2)は、本件標章2の使用を念頭に置いて、上記回答書を作成したものと推認するのが相当である。 そして、ウェブサイトのページを表示するためのhtmlファイルの記載内容の変更は、いつでも容易に行うことができるものであるから、本件行為1の始期が、被告サイトの開設時と同一であると推定することもできない。 上記回答書(甲7)には、本件標章1については明確な記載がなく、 本件行為1の始期を認めるに足りる記載はないし、他に、本件行為1の始期を認めるに足りる証拠はない。 したがって、本件行為1の始期について、被告らが自認する平成13年11月9日より遡ってこれを認めることはできない。 もっとも、原告から警告書が送付されたという経緯に照らせば、本件行為1の終期については、本件行為2と同じく、平成16年4月15日であったと推認することができる。 (エ) 以上のとおり、本件各行為が行われた期間については、いずれも、 平成13年11月9日から平成16年4月15日までの、29か月7日間であると認めるのが相当である。 イ 損害額の算定方法について (ア) 原告は、商標法38条3項に基づく損害額の算定方法について、本件では、本件各商標のそれぞれについて、1か月当たりの一定額をその期間の使用料相当額とし、これに侵害期間を乗じて、使用料相当額を算定すべきと主張するのに対し、被告らは、被告会社が本件各標章の使用によって上げることのできた利益額を基準とし、これに相当使用料率を乗ずることによって使用料相当額を算定すべきであると主張する。 (イ) 一般に、登録商標について商標権者と使用者との間で使用権許諾契約を締結する際の使用料の定め方としては、@使用者の売上げや利益に使用料率を乗じて得られる額として定める方法、A使用者の売上げ等にかかわらず、単位期間当たりの一定額を規定し、使用期間に応じて使用料を定める方法、B使用者の売上げ等や使用期間にかかわらず、一定額を定める方法、などが考えられ、さらに、これらを組み合わせる定め方も考えられるところである。そして、これらの定め方のうち、どのような方法を採用するかは、当事者間の合意によるものである。 これに対し、商標権を侵害された商標権者が、商標法38条3項に基づく損害額の賠償を請求する際には、使用料相当額の計算方法について、商標権者と侵害者の間で合意が成立するとは限らない。 このような場合には、どのような計算方法で使用料相当額を計算すべきかは、それが特段不合理なものであるときは別として、商標権者の主張するところによるのが相当である。 その理由の第1は、事前に使用権許諾契約を締結する場合には、使用料額の計算方法について商標権者がその意思を反映させる機会があり、最終的に合意に至らなければ使用権自体が許諾されず、商標が使用されないという結果に至るのに対し、商標権侵害の場合には、既に商標権が侵害されてしまっており、商標権者と侵害者との間で計算方法についての合意が得られなくとも、商標権侵害の結果が変わるわけではないからである。 また、その理由の第2は、商標権の侵害とは、侵害者が、商標権者の意に反して、商標権者の権利を侵害する不法行為であることに照らせば、計算方法についての商標権者の主張と侵害者の主張とが相対立する場合に、商標権者の主張ところが特段不合理であるという事情がないのに、これを採らずに、侵害者の主張を採用することは、むしろ不合理であるというべきだからである。 (ウ) そこで、本件について見るに、本件において原告が主張する計算方法は、1か月当たりの一定額をその期間の使用料相当額とし、これに侵害期間を乗じて、使用料相当額を算定すべきというものであり、上記(イ)のとおり、商標権者と使用者との間で使用権許諾契約を締結する際の使用料の定め方としてもあり得るものであり、これ自体に特段不合理な点は認められない。 なお、被告らは、本件各標章の使用によって被告会社が得た利益額がごくわずかであると主張する。 しかし、例えば、商標権者と使用者との間で登録商標の使用権許諾契約を締結する際に、使用者の売上げや利益にかかわらず、使用期間に応じた使用料の定め方をした場合には、仮に、その使用期間において使用者が利益を上げることができなくとも、使用者は、契約に基づいて使用料を支払う義務を負うものである。 このような場合との対比を考慮すれば、商標権侵害行為によって侵害者が得た利益額がわずかであったとしても、そのような事情は、本件で原告が主張するような、単位期間当たりの一定額に侵害期間を乗じて使用料相当額を算定する計算方法を、不合理なものとするものとはいえない。 (エ) 以上のとおりであるから、本件においては、本件各商標のそれぞれについて、単位期間当たりの使用料相当額を定め、これに侵害期間を乗じて、使用料相当額(損害額)を算定することとする。 ウ 単位期間当たりの使用料相当額について (ア) 原告は、単位期間当たりの使用料相当額について、原告がK2に商標権の通常使用権を許諾する際の使用料額に照らして、本件各商標につき、それぞれ、1か月当たり31万5000円であると主張する。 これに対し、被告らは、原告の主張は相当ではなく、1か月当たり2625円よりも遙かに低い金額とすべきであると主張する。 (イ) そこで検討するに、単位期間当たりの使用料相当額を定めるにあたっては、商標権を侵害された商標の価値、取引の実情、侵害行為の内容等の各種事情を参酌して定めるべきものである。 a 甲第6号証の1ないし3によれば、原告は、K2に対し、本件各商標を含め、合計10件の登録商標について、主として関西地区と四国地区における通常使用権を許諾し、その使用料として月額31万5000円と定めていることが認められる。 もっとも、甲第8号証の2、第13号証、乙第1号証の1、第2、 第4号証、第8号証の1・2、第9号証の1ないし14、第10号証の1・2、第12号証によれば、原告から使用権を許諾されている登録商標のうち、K2が主として使用している商標は、本件各商標ではなく、「買取110番」及び「修理119番」であることが認められる。 また、甲第9号証、第10号証の1、第11号証、第12号証によれば、原告が経営しているK3は、本件商標1に類似するというべき「中古車の110番」との商標及び本件商標2を使用していると認めることができるが、その使用態様は、事務所のドアへの表示、配布するパンフレットへの表示及び同社代表取締役(原告)の名刺への表示にとどまる。 そして、これらの使用によって、本件各商標が、著名性ないし周知性を有するに至ったとまでは認められず、他に、本件各商標が、著名ないし周知のものであると認めるに足りる証拠はない。 b 本件行為1は、被告サイトのトップページを表示するためのhtmlファイルに、メタタグとして、本件標章1を記載したものであり、これによって、インターネットの検索サイトの1つであるmsnサーチに、被告サイトのトップページの説明として、本件標章1から始まる説明文が表示されたものである。 もっとも、msnサーチは、インターネットの検索サイトの1つではあるが、これが支配的な検索サイトであるという訳ではなく、他にいくつもの検索サイトが存在することは、甲第23号証の1ないし5・7によって認められるところであり、他の検索サイトにおいて、被告サイトのトップページの説明として、 本件標章1から始まる説明文が表示されたことを認めるに足りる証拠はない。 c 本件行為2は、本件標章2を、被告サイトのトップページにおいて、先頭から2行目に、中央に寄せて表示されるようにしたものである。 もっとも、インターネット上のウェブサイトは、特に制限しない限り誰でも閲覧することができるものであるが、反面、その存在が知られず、誰にも閲覧されないことすらあり得るものであって、被告サイトのトップページもその例外ではなく、どの程度の閲覧者があったかは明らかではない。 (ウ) 以上の事情を中心に、本件に表れた諸事情を総合考慮すると、本件各行為による本件各商標の商標権侵害について、1か月当たりの使用料相当額としては、本件行為1については1か月当たり5000円と、本件行為2については1か月当たり2万円と、それぞれ認定するのが相当である。 エ 以上検討したところにしたがって、本件各行為による本件各商標の商標権侵害により原告が被った損害の額を、商標法38条3項に基づいて計算すると、 下記の計算式のとおり、73万0832円となる。 計算式: 5,000×(29+7÷30)+20,000×(29+7÷30) =146,166+584,666=730,832(1円未満切捨) (2) 弁護士・弁理士費用 原告が被った損害額のうち、弁護士・弁理士費用相当分としては、本件事案の難易、請求額、上記認容額、その他諸般の事情を勘案し、7万円をもって相当と認める。 (3) 合計 80万0832円 6 争点(6)(被告P2の故意重過失の有無)について (1) 原告は、平成9年には頻繁に「車110番」の広告を掲載しており、少なくとも、平成10年には「くるまの110番」を前面に押し出した広告は、被告P2の認識下に入ったと主張する。 しかしながら、原告がその証拠として提出する甲第8号証の1ないし3(中古車情報誌及びその広告)は、関西版のものであり、横浜市在住の被告P2において、関西版の情報誌を閲読していたと認めるに足りる証拠はなく、また、原告が関東版の雑誌に広告を掲載していたことについては、主張も証拠もない(なお、 原告が主張する平成10年の時点においては、本件各商標はいずれも商標登録を受けていなかったものである。)。 そして、他に、被告P2が、原告から警告を受ける以前に、原告の主張する「『くるまの110番』を前面に押し出した広告」を認識していたと認めるに足りる証拠はない。 (2) 一般に、商標について、その登録の事実が、特許電子図書館の商標検索のサイトを利用することにより、容易に検索可能であるとしても、その事実自体が一般に広く知られているとも、標章を使用する際にはこれを調査するのが当然とされているとも認められない。 したがって、商標実務を業としているものでもない被告P2において、原告主張の方法により本件各商標が登録されているか否かを確認しなかったからといって、重過失があったとまでいうことはできない。 (3) 前記「争点に関する当事者の主張」(6)〔原告の主張〕イの原告の主張事実は、これを認めるに足りる証拠はなく、推測の域を出るものではないから、被告P2の重過失を認めるに足りるものではない。 (4) そして、他に、本件において、被告P2に重過失があったと認めるに足りる事情も証拠もない。 したがって、被告会社による本件各商標の商標権侵害について、被告P2に重過失があったということはできない。 7 結論 以上のとおりであるから、原告の被告会社に対する請求は、主文掲記の限度で理由があり、被告P2に対する請求は、理由がない。 よって、主文のとおり判決する。 |
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追加 | |
(別紙)商標目録1.出願日平成7年2月22日出願番号商願平7-16978号登録日平成11年2月12日登録番号第4239953号商品及び役務の区分第37類指定役務船舶の修理又は整備、船舶の建造、航空機の修理又は整備、自転車の修理、自動車の修理又は整備、鉄道車両の修理又は整備、二輪自動車の修理又は整備、三輪自動車の修理又は整備、スノーモービルの修理又は整備、 タイヤの修理商標別紙「本件商標1」記載のとおり2.出願日平成12年4月11日出願番号商願2000-38334号登録日平成13年11月9日登録番号第4520534号商品及び役務の区分第12類指定商品自動車並びにその部品及び附属品、二輪自動車・自転車並びにそれらの部品及び附属品、身障者・老人用電動三輪車並びにそれらの部品及び附属品、乳母車、人力車、そり、手押し車、荷車、馬車、リヤカー、荷役用索道、カーダンパー、カープッシャー、カープラー、牽引車、陸上の乗物用の動力機械器具、軸、軸受け、軸継ぎ手、ベアリング、動力伝導装置、緩衝器、ばね、制動装置、陸上の乗物用の交流電動機又は直流電動機、タイヤ又はチューブの修繕用ゴムはり付け片、乗物用盗難警報器、落下傘、パラシュートを利用した陸上の乗物用の制動装置、船舶並びにその部品及び附属品(「エアクッション艇」を除く。)、 エアクッション艇、航空機並びにその部品及び附属品、鉄道車両並びにその部品及び附属品商品及び役務の区分第37類指定役務自動車の修理又は整備、二輪自動車の修理又は整備、 身障者・老人用電動三輪車の修理又は整備、自転車の修理、自動車の改造又は架装、自動車の室内クリーニング、自動車の修理又は整備に関する情報提供、自動車の清掃、自動車の洗車、自動車の洗浄、自動車の板金・塗装、自動車車体のつや出し、ガラス器製造機械の修理又は保守、金属加工機械器具の修理又は保守、ゴム製品製造機械器具の修理又は保守、プラスチック加工機械器具の修理又は保守、照明用器具の修理又は保守、繊維機械器具の修理又は保守、自動車部品製造装置の設置工事、自動車用テレビの修理、自動車用ラジオ受信機又はテレビの修理、自動車用冷暖房装置の修理、航空機のタイヤの修理、自動車タイヤの修理、二輪自動車タイヤの修理、身障者・老人用電動三輪車タイヤの修理、自転車タイヤの修理、船舶の修理又は整備、船舶の建造、航空機の修理又は整備、鉄道車両の修理又は整備商標別紙「本件商標2」記載のとおり以上 |
裁判長裁判官 | 山田知司 |
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裁判官 | 高松宏之 |
裁判官 | 守山修生 |