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関連審決 無効2021-890058
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事件 令和 4年 (行ケ) 10121号 審決取消請求事件
5
原告 タートオプティカル エンタープライゼズ エルエルシー 10 同訴訟代理人弁護士 深井俊至
被告 株式会社TheLIGHT
同訴訟代理人弁護士 三浦修 15 同訴訟代理人弁理士 小菅一弘
同 林栄二
同 篠田貴子
裁判所 知的財産高等裁判所
判決言渡日 2023/04/25
権利種別 商標権
訴訟類型 行政訴訟
主文 1 原告の請求を棄却する。
20 2 訴訟費用は原告の負担とする。
3 この判決に対する上告及び上告受理申立てのための付加期間を30日と定める。
事実及び理由
請求
25 特許庁が無効2021-890058号事件について令和4年7月25日に した審決を取り消す。
1
事案の概要
1 特許庁における手続の経緯等(当事者間に争いがない) 被告は、以下の商標(登録第5918891号。 「本件商標」 以下 という。) の商標権者である。
5 商 標 Julius Tart(標準文字) 登録出願日 平成28年7月6日 登録査定日 平成29年1月5日 設定登録日 平成29年2月3日 指定商品 第9類「眼鏡用つる、眼鏡用レンズ、眼鏡の部品及び附属10 品、サングラス、眼鏡」 原告は、以下の商標(登録第5427549号。 「引用商標」 以下 という。) の商標権者である。
商 標 TART(標準文字) 登録出願日 平成23年1月18日15 設定登録日 平成23年7月22日 指定商品 第9類「眼鏡、眼鏡の部品及び附属品」 原告は、令和3年11月4日、本件商標について、商標登録無効審判(以 下「本件審判」という。)を請求した。
特許庁は、上記請求を無効2021-890058号事件として審理を行20 い、令和4年7月25日、
「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決(以 下「本件審決」という。)をし(出訴期間90日附加)、その謄本は、同年8 月4日、原告に送達された。
原告は、令和4年12月1日、本件審決の取消しを求める本件訴訟を提起 した。
25 2 本件審決の要旨 本件審決の要旨は、本件商標は、以下のとおり、商標法4条1項11号、1 2 5号に該当するものではなく、同項の規定に違反して登録されたものではない から、同法46条1項により無効とすることができないというものである。
商標法4条1項11号該当性について ア 本件商標 5 本件商標は、
「Julius Tart」の欧文字を標準文字で表してな るところ、これらの構成文字全体としては辞書等に載録されている語では なく、また、特定の意味合いを有するものとして認識されているような事 情も見いだせないものであるから、一種の造語として認識されるものであ る。そうすると、本件商標は、その構成文字に相応し、
「ジュリアスタート」10 の称呼を生じ、特定の観念を生じないものと判断するのが相当である。
請求人(原告)は、本件商標は「Tart」の部分が要部である旨主張 するが、本件商標は、その構成中にスペースがあることから、
「Juliu s」及び「Tart」の文字(語)を結合してなるものといい得るとして も、引用商標が請求人又は請求人等の業務に係る商品を表示するものとし15 て我が国の需要者の間に広く認識されているものと認められないこと、
「Julius」の文字が識別力が弱いというべき事情を見いだせないこ と、本件商標の構成文字は同書同大でまとまりよく一体的に表されている こと、
「ジュリアスタート」の称呼は無理なく一連に称呼し得るものである ことからすると、本件商標は、取引者及び需要者をして、その構成文字全20 体をもって一体不可分のものとして認識し、把握されるものとみるのが相 当であり、他に、本件商標の構成中「Tart」の文字部分を分離抽出し、
他の商標と比較検討すべき事情は見いだせない。したがって、請求人の主 張は採用することができない。
イ 引用商標25 引用商標は、
「TART」の欧文字を標準文字で表してなり、当該文字に 相応し「タート」の称呼を生じ、観念において、当該文字(語)は、
「すっ 3 ぱい、タルト(果物、ジャム等の甘いものが入った丸いパイ)」等の意味を 有する英単語であるが、我が国で親しまれた語とはいえないから、特定の 観念を生じないものと判断するのが相当である。
ウ 本件商標と引用商標の類否 5 本件商標と引用商標は、外観において構成文字、構成文字数が明らかに 異なり、相紛れるおそれがないものである。また、本件商標と引用商標は、
称呼において構成音、構成音数が明らかに異なり、相紛れるおそれのない ものである。そして、観念において、両商標は共に特定の観念を生じない ものであるから、比較することができない。
10 そうすると、本件商標と引用商標は、外観称呼において相紛れるおそ れがなく、観念において比較することができないものであるから、両者の 外観称呼観念等によって取引者及び需要者に与える印象、記憶、連想 等を総合して全体的に考察すれば、両者は相紛れることのない非類似の商 標であって、別異の商標であるというべきものである。
15 エ 小括 以上によれば、本件商標と引用商標は非類似の商標であるから、両商標 の指定商品が同一又は類似するとしても、本件商標は、商標法4条1項1 1号に該当するものではない。
商標法4条1項15号該当性について20 引用商標は、請求人(原告)又は請求人等の業務に係る商品を表示するも のとして我が国の需要者の間に広く認識されているものと認められないもの であり、また、前記のとおり、本件商標と引用商標は非類似の商標であって 別異の商標であるから、類似性の程度は低いものである。
そうすると、本件商標は、商標権者がこれをその指定商品に使用したとし25 ても、取引者及び需要者をして引用商標を連想又は想起させることはなく、
その商品が他人(請求人又は請求人等)又は同人と経済的若しくは組織的に 4 何らかの関係を有する者の業務に係るものであるかのように、その商品の出 所について混同を生ずるおそれがあるものとはいえない。
したがって、本件商標は、商標法4条1項15号に該当するものとはいえ ない。
5 3 取消事由 本件審決の取消事由は、@商標法4条1項11号該当性の判断の誤り、A商 標法4条1項15号該当性の判断の誤りである。
当事者の主張
1 取消事由1(商標法4条1項11号該当性の判断の誤り)について10 原告の主張 ア 引用商標の周知性について 【A】【A】 ( 。以下「【A】氏」という。)は、眼鏡フレームの伝説的職 人であり、1948年にアメリカ合衆国ニューヨーク州にTart O ptical Enterprises,Inc.(以下「原タート社」15 という。)を設立した。原タート社及び【A】氏の「TART」ブランド の眼鏡フレーム及びその眼鏡フレームを利用した眼鏡は、眼鏡関係の商 品の分野において優れたデザインを有し、高品質で価値が高いビンテー ジ商品として、日本を含めて世界的に需要者間で知られており、憧れの 商品である。
20 原告は、原タート社の眼鏡フレーム事業 「TART」 ( ブランドを含む。) を承継した。原告は、米国において、眼鏡類、眼鏡フレーム等を指定商 品とする「TART」に係る米国商標、眼鏡類、眼鏡フレーム等を指定 商品とする「TART OPTICAL ENTERPRISES」に 係る米国商標を、それぞれ保有しており、使用主義の米国において1925 48年12月31日を最初の商業使用日として登録されていることから、
原タート社に係る商標の権利について原告が承継したことは、原タート 5 社の母国である米国でも認められている。
なお、被告は、原タート社又は【A】氏のブランド(「TART」を含 む。)に係る権利や眼鏡フレーム事業を承継していないにもかかわらず、
製造及び販売する眼鏡商品(以下「被告商品」という。)に「TART」 5 の名称を使用し、自らを「JULIUS TART OPTICAL」 と称してウェブページ上で【A】氏及び原タート社を承継したかのよう な説明をし、原タート社が存したニューヨーク州で被告商品が製造され たかのような虚偽の表示をして需要者を誤認させている。
原告は、日本を含む世界において、
「TART」ブランドの眼鏡フレー10 ムを製造し、販売してきた(以下、原告が製造及び販売する眼鏡フレー ムを「原告商品」という。 。なお、原告は、2017年に権利保有会社 ) となり、原タート社と同じ名称のTart Optical Ente rprises,Inc.を事業会社(以下「原告事業会社」といい、
原告及び原告事業会社を「原告ら」という。)として、「TART」ブラ15 ンドの眼鏡関係商品の製造及び販売をしている。
原告らの「TART」ブランドの眼鏡フレーム及び眼鏡は、優れたデ ザイン性、高品質で価値が高いビンテージ商品としての原タート社の商 品性を継承するため、米国及びイタリアで手作りされており、こうした ビンテージ商品の知名度は、単に販売数量や眼鏡分野におけるシェアと20 いう基準で評価されるべきものではない。
原タート社及び原告らの「TART」の眼鏡フレームを使用した眼鏡 は、
【B】【C】【D】【E】【F】等の、日本を含め世界的に知られた 、 、 、 、
映画スターやエンターテイナーに使用された。また、原告らの「TAR T」ブランドの眼鏡フレーム及びその眼鏡は、日本の雑誌にも度々紹介25 されているほか、
「歴史にこだわる」眼鏡フレームとして、メガネ3選の うちの一つに選ばれている。需要者のツイートをみると、映画スター等 6 の著名人に愛用された原告らの「TART」ブランドの眼鏡フレーム及 びその眼鏡は、需要者の羨望の的になっていたことがうかがわれるとこ ろである。
このように、原告らの「TART」ブランドは、日本を含めて世界的 5 に知られたブランドである。
イ 本件商標の要部について 本件商標は、
「Julius Tart」の欧文字を標準文字で表してな るものであり、
「Julius」と「Tart」の間には1文字分の空白が 置かれており、
「Julius」と「Tart」の部分は、分離して観察す10 ることができる。
また、本件商標の「Julius Tart」 【A】 は、 氏の氏名であり、
前記アのとおり、本願商標の指定商品の分野では、
【A】氏を想起させるも のである。そして、「Julius」が【A】氏のファーストネーム、「T art」が【A】氏のラストネームであるところ、人を呼ぶときそのラス15 トネームで呼ぶことが多いことに加え、
「Julius」は、欧米系の人の ファーストネームとして特別なものではなく、一般の男性のファーストネ ームであり、ファーストネームの部分はさほど注意が惹かれるものではな いから、本件商標の「Julius Tart」の表記は、
「Tart」の 部分が要部であるといえる。
20 なお、被告は、
「JULIUS TART OPTICAL」の中の「T ART」の部分を強調して被告商品の広告及び宣伝をしており、このこと は本件商標中「Tart」が主要部分であることを示すものである。
ウ 本件商標と引用商標の類否について 前記イのとおり、本件商標は「Tart」が要部であるから、引用商標25 の「TART」と外観及び称呼が共通する。
また、本件商標の指定商品と引用商標の指定商品は同一又は類似する。
7 エ 小括 以上によれば、本件商標は、引用商標と類似する商標であって、引用商 標と同一又は類似する指定商品に使用するものであるから、商標法4条1 項11号に該当するものである。
5 被告の主張 ア 引用商標の周知性について 原告が引用商標の周知性立証のために提出する証拠(甲38ないし4 6)によれば、2009年頃から2017年頃までの間、日本在住の個 人や眼鏡販売店等が原告から商品を輸入していたことは認められるも10 のの、その数量はわずか数百本程度である。
原告は、ウェブサイトの写し(甲10、13ないし19)、フェイスブ ックの写し(甲12)を証拠として提出するが、全て英語で表示され、
又は投稿されているものであり、また、原告が提出するオンラインショ ッピングサイトの写し(甲11) 眼鏡販売店等のウェブサイトやブログ 、
15 (甲32ないし37、75ないし88) ツイッターにおける不特定の者 、
によるツイート(甲89、90)については、これらに表示されている 眼鏡の写真や「TARTの眼鏡」なるものが原告の製造及び販売に係る 商品であることを確認することができる証左はない。加えて、原告が提 出する雑誌等(甲26ないし31)は、眼鏡の紹介、眼鏡に関する記事20 (漫画)が掲載されているが、これらで紹介されている眼鏡等について も、原告の製造及び販売に係る商品であることを確認することができる 証左はない。
なお、原告は、商品箱の写真(甲20) 商品箱・保護ケースの写真 、 (甲 21、22)、米国特許商標庁のデータベースの写し(甲23)、プロパ25 ティ画面(甲24、25)を証拠として提出するが、これらは、商標「T ART」の米国での使用を示すものであるとしても、我が国における引 8 用商標に関するものではないことはもとより、本件商標の出願時及び登 録査定時に引用商標が原告の業務に係る商品を表すものとして、取引者 及び需要者の間で広く認識されていたことを立証するものではない。
このように、原告が我が国における原告商品の販売数、売上高、宣伝 5 広告物(販促物)、宣伝広告費等を一切明らかにしていない以上、引用商 標が本件商標の出願時及び登録査定時において原告の業務に係る商品を 表すものとして、取引者及び需要者の間に広く認識されていたものとは いえない。
なお、原告は、【A】氏及び原タート社の眼鏡フレーム事業(「TAR10 T」ブランドを含む。)を承継した旨主張するが、原告は、【A】氏の正 当な承継者ではなく、米国において原タート社の保有する登録商標「T ART」が更新されなかったことを奇貨として米国で「TART」を登 録し、あたかも原タート社の承継者であるかのごとく「TART」の名 の下に眼鏡関連商品を販売しているにすぎない。被告は、
【A】氏の唯一15 の生存する遺族である甥の【G】氏との間で、同氏が、その保有する眼 鏡のデザイン等を被告に提供すること、被告の商品に係るデザイン、製 造、マーケティング等への協力、ブランドアンバサダーを務めることを 約し、被告が同氏に相応の対価を支払うことを約して、本件商標を登録 し、我が国において「JULIUS TART OPTICAL」のブ20 ランドに係る眼鏡フレーム等の販売事業を行っている。
イ 本件商標の要部について 複数の構成部分を組みわせた結合商標と解されるものについて、商標の 構成部分の一部を抽出し、この部分だけを他人の商標と比較して商標その ものを類否判断することは、その部分が取引者及び需要者に対し、商品又25 は役務の出所識別標識として強く支配的な印象を与えるものと認められ る場合や、それ以外の部分から出所識別標識としての称呼観念を生じな 9 いと認められる場合等を除き、許されないものというべきところ、本件商 標は、外観上、
「Julius Tart」の欧文字を横書きしてなるとこ ろ、構成文字は、全て同じ書体、同じ大きさで外観上まとまりよく一体的 に表示されており、しかも、称呼においても、本件商標の全体より自然に 5 生じる「ジュリアスタート」の称呼は7音で簡潔であり、語呂が良く、一 気一連に淀みなく発音されるものであり、観念においても、その構成中の 「Julius Tart」の部分が【A】氏の氏名であることからする と、本件商標は、全体が一体的な商標としてのみ認識されるのが普通であ り、まとまりよく一体的に表された構成全体のうち「Tart」の文字部10 分だけに出所識別標識として強く支配的な印象を受けるものとはいえな い。
また、
「Tart」は、
「タルト(果物入りの小型で薄いパイの一種)」を 意味する語として知られており、本件商標が【A】氏の氏名であることを 踏まえると、取引者及び需要者が「Tart」の文字部分だけに着目して15 商品又は役務の出所を識別するとは考え難いし、前記アのとおり、引用商 標は、本件商標の出願時及び登録査定時において原告の業務に係る商品を 表すものとして需要者の間に広く認識されていたものではないから、「T art」の文字部分のみを抽出し、引用商標と比較して商標の類否判断を することは許されない。
20 のみならず、
「Julius」の文字が自他商品を識別する機能を果たし 得るものであることは、本件商標の登録査定時の前後において「JULI US」の文字からなる商標が登録されていることから明らかである。
したがって、本件商標は、全体をもって一体不可分の商標として認識さ れるものであり、少なくとも「Tart」の文字部分に出所識別標識とし25 て強く支配的な印象を受けるとはいえない。
ウ 本件商標と引用商標の類否について 10 前記イのとおり、本件商標は、全体が一体的な商標であるから、
「TAR T」の文字からなる引用商標とは、外観において、構成文字及び構成文字 数の差異により、両者は一見して判然と区別することができ、相紛れるお それはない。また、称呼においても、本件商標より生じる「ジュリアスタ 5 ート」の称呼と、引用商標の「タート」の称呼とは、構成音数が明らかに 異なることから明瞭に聴別でき、両者は相紛れるものではない。さらに、
観念においても、引用商標の「TART」は、
「タルト(果物入りの小型で 薄いパイの一種) 等の意味を有する英単語であるのに対し、
」 本件商標は、
【A】氏の氏名であるから、観念において類似しない。
10 エ 小括 以上によれば、本件商標と引用商標は、外観称呼及び観念を総合的に 考察しても、互いに相紛れることのない非類似の商標であり、これと同旨 の本件審決の判断に誤りはない。
2 取消事由2(商標法4条1項15号該当性の判断の誤り)について15 原告の主張 引用商標である「TART」は、本件商標の出願時及び登録査定時におい て、眼鏡関係商品において日本を含め世界的に周知なブランドであることは 前記1 アのとおりである。
前記1 ア のとおり、被告は、【A】氏又は原タート社から「TART」20 ブランドに係る権利や眼鏡フレーム事業を承継していないにもかかわらず、
製造及び販売する眼鏡商品に「TART」の部分を大きく目立つように表示 して使用し、「JULIUS TART OPTICAL」と称して、あた かも【A】氏又は原タート社を承継し、又はライセンスを受けているかのよ うに需要者を誤認させている。
25 創業者のラストネーム「TART」をその眼鏡関係商品について商標登録 し、原告及び原告事業会社(Tart Optical Enterpri 11 ses,Inc.)が「TART」を使用して眼鏡関係商品を製造及び販売 している中で、創業者のラストネームの前にファーストネームを付けた商標 を、同じく眼鏡関係商品に使用するならば、需要者が商品の出所について誤 認混同を生じさせるおそれがある。
5 そうすると、本件商標が指定商品である眼鏡関係商品に使用されると、需 要者は、原タート社の承継者である原告の商品と誤認混同するおそれがあり、
又は原告からライセンスを受けた商品であると誤認するおそれがあるといえ る。
以上によれば、本件商標は、商標法4条1項15号に該当するものである。
10 被告の主張 前記1 アのとおり、引用商標は、本件商標の出願時及び登録査定時にお いて、原告の業務に係る商品を表すものとして、取引者及び需要者の間に広 く認識されていたものとはいえず、また、前記1 ウのとおり、本件商標と 引用商標は、相紛れることのない非類似の商標であるから、本件商標が指定15 商品である眼鏡関係商品に使用されたとしても、原告商品と誤認混同するお それはない。
なお、被告は、2016年以降、直営店、オンラインショップ、眼鏡小売 店等で「JULIUS TART OPTICAL」を冠した眼鏡フレーム 等の製造及び販売を開始し、2022年度の合計売上額は3億3600万円20 に上っており、相当の発行部数を誇る複数のファッション雑誌等に宣伝広告 を積極的に行うなどしており、本件商標は、被告の業務に係る商品であるこ とを表示するものとして、一定の知名度を獲得している。
したがって、本件商標は、商標法4条1項15号に該当するものではなく、
これと同旨の本件審決の判断に誤りはない。
25 第4 当裁判所の判断 1 認定事実 12 当事者間に争いがない事実に加え、証拠(甲10、12の5ないし10、1 3、15ないし19、23、33、35、36、38ないし48、59、61、
63、75ないし90、乙3ないし6、24、25、28、29)及び弁論の 全趣旨によれば、以下の事実が認められる(なお、原告は、周知性を立証する 5 ための書証として、上記掲記したもの以外に、本件商標の商標出願時及び登録 査定時以後に関するもの又は時期が特定されていないもの、米国における周知 性に関するもの等を多数提出するが、本件では本件商標の商標登録出願時及び 登録査定時において我が国における引用商標の周知性が問題となるべきところ、
これらの書証はこの点の立証に結びつくものとはいえないので、これらの書証10 に基づく個別の事実認定は行わない。)。
ア 【A】(【A】氏)は、1948年にアメリカ合衆国ニューヨーク州で、
Tart Optical Enterprises,Inc.(原ター ト社)を設立した。同社が製造する眼鏡フレーム及びその眼鏡フレームを 利用した眼鏡は、「TART」のブランド名で販売されたが、同社は、115 990年代に入り事業を停止した。【A】氏は、2008年3月31日、
米国で死亡した。
原タート社が製造及び販売する眼鏡フレーム等は、同社が事業を停止す る以前から米国の著名な俳優等に愛用されていた。
イ 原タート社及び【A】氏が保有していた眼鏡関連事業(「TART」の20 商標を含む。 に関する権利について、
) 原告は、2000年10月25日、
【H】(以下「【H】氏」という。)が取得し、同人が2009年8月1 1日に設立された原告にこれらの権利を移転した旨主張している。
これに対して、被告は、【A】氏ないし原タート社はその保有に係る眼 鏡関連事業に関する権利を【H】氏に譲渡しておらず、【A】氏の甥であ25 る【G】氏が遺言により同権利を承継し、2016年7月1日、【G】氏 との間で、被告が「JULIUS TART」商標ブランドに係る眼鏡等 13 のデザイン、製造及び販売等に関する全世界的な独占権についてライセン ス許諾を得た旨主張している。
ア 原告は、2009年8月11日、アメリカ合衆国カリフォルニア州で 設立され、同年頃から、その眼鏡フレームを、アメリカ合衆国カリフォ 5 ルニア州でデザインし、同国及びイタリアで製造した上、アメリカにお いて、「TART」(引用商標)を使用して販売した。
なお、原告は、2016年1月21日にアメリカ合衆国デラウェア州 で設立された「TART LLC」との間で、「TART」関連商標に 関してライセンス契約を締結し、「TART LLC」は、2017年10 4月27日に同州で設立された原告事業会社との間で、「TART」関 連商標のサブライセンス契約を締結し、以後、原告事業会社が「TAR T」ブランドの眼鏡関係商品の製造及び販売をしている。
原告らが製造する眼鏡フレームは、2009年(平成21年)頃から 我が国に輸出されて眼鏡販売店やセレクトショップ等で発売されており、
15 これらのショップのウェブページ上では、米国の著名な俳優が愛用して いるブランドであり、「伝説の眼鏡ブランド『TART』」又は「Ta rt Optical(タート)」、「TART OPTICAL」な どと紹介されているほか、著名人を話題にしたウェブページ上で 【B】 「 愛用メガネのブランドその@TART OPTICAL(タート・オプ20 ティカル)のメガネ」などと紹介され、ツイッター上でも著名人が愛用 している原告商品のことが取り上げられている。
原告らが製造及び販売する眼鏡フレーム部分には「TART OPT ICAL」の文字と、会社名「Tart Optical Enter prises」の3語の最初の文字(TとOとE)を組み合わせたロゴ25 ( )が刻印されており、また、自社のホームページ上でも、会社名 とロゴが使用されている。
14 原告らが製造及び販売する眼鏡フレーム及びその関連商品が我が国に 輸出され販売された個数は、2009年(平成21年)から2016年 (平成28年)にかけて合計約750個程度であり、そのうち2014 年(平成26年)は450個を超えるもの(その大半は一社の眼鏡販売 5 店が大量に注文したもの)であったが、2015年(平成27年)は9 個、2016年(平成28年)は14個とごくわずかな個数しか輸出及 び販売されていない。
イ 原告は、我が国において、2011年(平成23年)1月18日、引用 商標について、指定商品を第9類「眼鏡、眼鏡の部品及び附属品」として10 登録出願し、同年7月22日、設定登録を受けた。
また、原告は、米国において、2016年1月28日、米国特許商標庁 に対し、「TART」の商標について、指定商品を第9類「眼鏡」等とし て登録出願し、2017年10月31日、設定登録を受けた。
ウ 原告らが開設しているフェイスブック(ただし、米国におけるものであ15 り、日本語翻訳機能があるもの)には、原告が製造及び販売する眼鏡フレ ームは、米国の俳優、ミュージシャン等の著名人が着用している姿が多数 掲載されているほか、日本の雑誌に「伝説のブランド Tart 華麗な る復活」と大々的に取り上げられたことを掲載している(時期は特定され ていないが、6200人がフォロー中となっている。)。
20 ア 被告は、2016年(平成28年)7月6日、本件商標について、指定 商品を第9類「眼鏡用つる、眼鏡用レンズ、眼鏡の部品及び附属品、サン グラス、眼鏡」として商標登録出願し、平成29年1月5日、登録査定を 受け、同年2月3日、設定登録を受けた。
イ 被告は、2016年(平成28年)以降、「JULIUS TART O25 PTICAL」のブランド名で、眼鏡フレーム等を国内及び海外で発売し ている。被告が発売する眼鏡フレームは、福井県鯖江市内で製造され、オ 15 ンラインショップのほか、日本国内の直営店、眼鏡小売店、セレクトショ ップ等で販売されて年々売上げを伸ばしており、2022年(令和4年) 度は、国内に限っても、約2億2600万円の売上高となっている。
2 取消事由1(商標法4条1項11号該当性の判断の誤り)について 5 引用商標の周知性について 前記1の認定事実によれば、【A】氏及び原タート社が販売する眼鏡フレ ーム等は、米国の著名な俳優等に愛用されてきたが、同社は1990年代に は事業を停止していたところ、原告及び原告事業会社は、米国において「T ART」の商標を付した眼鏡フレームの販売を開始し、その製造及び販売す10 る眼鏡フレームは、2009年頃から我が国に輸出され、一部の雑誌には、
米国の著名人に愛用されてきた【A】氏の事業を承継したブランドに係る眼 鏡フレームであると紹介する記事等が掲載されていることが認められる。し かし、我が国に輸出された数量は、証拠上裏付けられる期間(2009年か ら2016年までの間)で合計約750個程度であって、我が国の眼鏡フレ15 ームの市場において主要な割合を占めているとは到底いえず、また、一部の 雑誌媒体や眼鏡販売店等のウェブページ等において、原告らが製造販売する 眼鏡フレームがかつて著名な俳優が愛用したブランドであり復活したなどと 取り上げられたり、原告らが開設するフェイスブック(ただし、英語版)に おいて米国の著名な俳優や歌手等が愛用していることが取り上げられたりし20 ているものの、頻繁に我が国のファッション関係の雑誌等で原告商品が取り 上げられているといった事実や、「TART」ブランドに係る眼鏡フレーム が原告らによる商品であるとの効果的な広告宣伝を行っており、これにより 我が国の需要者等の認知度が高まっているといった事実を認めるに足りる証 拠もない。
25 したがって、少なくとも我が国においては、本件商標の登録出願時及び登 録査定時において、「TART」の商標を付した眼鏡フレーム(原告商品) 16 が原告らの業務に係る商品を表示するものとして取引者及び需要者の間にお いて広く認識されているものと認めることはできない。
本件商標の要部について ア 複数の構成部分を組み合わせた結合商標については、その構成部分全体 5 によって他人の商標と識別されるから、その構成部分の一部を抽出し、こ の部分だけを他人の商標と比較して商標の類否を判断することは原則と して許されないが、取引の実際においては、商標の各構成部分がそれを分 離して観察することが取引上不自然と思われるほど不可分的に結合して いるものと認められない商標は、必ずしも常に構成部分全体によって称呼
10 観念されるとは限らず、その構成部分の一部だけによって称呼観念され ることがあることに鑑みると、商標の構成部分の一部が取引者、需要者に 対し商品又は役務の出所識別標識として強く支配的な印象を与えるもの と認められる場合や、それ以外の部分から出所識別標識としての称呼、観 念が生じないと認められる場合などには、商標の構成部分の一部を要部と15 して取り出し、これと他人の商標とを比較して商標そのものの類否を判断 することも、許されると解するのが相当である(最高裁昭和37年 第9 53号同38年12月5日第一小法廷判決・民集17巻12号1621頁、
最高裁平成3年(行ツ)第103号同5年9月10日第二小法廷判決・民 集47巻7号5009頁、最高裁平成19年(行ヒ)第223号同20年20 9月8日第二小法廷判決・裁判集民事228号561頁参照)。
これを前提として本件商標についてみると、本件商標の構成中「Jul ius」と「Tart」の単語の間には空白部分があるが、それぞれの文 字は同書同大で、
「Tart」の文字部分は強調されていないのみならず、
前記 のとおり、本件商標の登録出願時及び登録査定時において、「TA25 RT」(引用商標)は、本件商標の指定商品である「眼鏡フレーム」等と の関係で周知な商標であるとはいえないから、本件商標の構成のうち「T 17 art」が取引者及び需要者に商品等の出所識別標識として強く支配的な 印象を与えるものではない。むしろ、本件商標は、「Julius Ta rt」の欧文字(標準文字)を同書同大でまとまりよく一体的に構成され ているものであり、「ジュリアス タート」とよどみなく称呼することが 5 可能であるから、「Tart」を要部として抽出することはできず、本件 商標は一体不可分の構成の商標としてみるのが相当である。
イ 原告は、前記第3の1 イのとおり、本件商標の「Julius Ta rt」が欧米人の名前であることを前提とし、欧米では氏名はラストネー ムで呼ばれることが通例であり、「Julius」は欧米系の一般的なフ10 ァーストネームであって同部分にはさほど注意が惹かれるものではない から、「Tart」がその要部であるとも主張するが、我が国の取引者や 需要者を対象にして考えると、「Julius Tart」が欧米人の名 前であると想起するとは必ずしも認め難い上、ファーストネームである 「Julius」には注意が惹かれないとも認め難いから、原告の上記主15 張は採用できない。
また、原告は、前記第3の1 イのとおり、被告が本件商標中の「Ta rt」の部分を強調して被告商品の広告及び宣伝をしている事実(甲4、
51ないし55)を挙げて、「Tart」が要部であることを示している 旨主張するが、そもそも被告のウェブページ(乙3ないし5)では「TA20 RT」の文字部分を強調した構成で表記されていないし、この点を措くと しても、商標の構成を離れて実際の商品の宣伝広告の方法から要部を認定 すべきとする原告の主張は当を得たものではなく、本件において、仮に被 告が「TART」(ないし「Tart」)の文字部分を強調した宣伝等を 行っていたとしても、前記認定を左右するものではない。
25 本件商標と引用商標の類否について 本件商標と引用商標は、外観において構成する文字数が明らかに異なり、
18 称呼においても構成音、構成音数が明らかに異なるものであるから、外観及 び称呼において相紛れるおそれはなく、また、両商標は、特定の観念を生じ させるものではないから、観念において比較することができない。
そうすると、本件商標と引用商標は、明確に区別することができる商標で 5 あり、類似性は低いといえる。
小括 以上によれば、本件商標と引用商標は、外観及び称呼において明瞭に区別 することができ、非類似の商標であるといえるから、両商標の指定商品が同 一又は類似するものであるとしても、本件商標は、商標法4条1項11号に10 該当するものとはいえない。
3 取消事由2(商標法4条1項15号該当性の判断の誤り)について 前記2のとおり、本件商標と引用商標は、明確に区別することができる商 標であり、類似性は低く、また、引用商標である「TART」を付した眼鏡 フレームは、本件商標の登録出願時及び登録査定時において、取引者及び需15 要者の間で原告らの業務に係る商品を表示するものとして広く認識されてい たものとはいえない。
そうすると、原告商品は眼鏡フレームであり、本件商標の指定商品はこれ を含むものであって、需要者及び取引者が共通しているものの、本件商標が 指定商品に使用された場合、需要者及び取引者において、本件商標から引用20 商標を連想し、原告の業務に係る商品、又は原告と経済的若しくは組織的に 何らかの関係を有する者の業務に係る商品であると認識するものとは認め難 いから、その商品の出所の混同を生じるおそれがあるものと認めることはで きない。
したがって、本件商標は、商標法4条1項15号に該当するものではない25 というべきである。
なお、原告は、前記第3の2 において、原告が【A】氏又は原タート社 19 から「TART」ブランドに係る権利や眼鏡フレーム事業を承継した旨主張 し、被告がその製造及び販売する眼鏡商品に「TART」の部分を強調して 使用し、あたかも【A】氏又は原タート社の事業を承継し、又はライセンス 契約を受けているかのように需要者を誤認させている旨主張するが、本件訴 5 訟において問題となるのは本件商標が商標法4条1項15号に該当するか否 かであって、前示したところに照らせば、【A】氏又は原タート社の事業承 継者が誰であるか等については、本件結論に影響を与え得るものとはいえな いから、原告の上記主張は当を得ない。
4 結論10 以上によれば、原告主張の取消事由はいずれも理由がないから、原告の請求 は棄却されるべきである。
よって、主文のとおり判決する。