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関連審決 不服2022-7645
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事件 令和 5年 (行ケ) 10005号 審決取消請求事件
5
原告 合同会社WAKAYAMA WOODYS
同訴訟代理人弁理士 向口浩二 10
被告特許庁長官
同 指定代理人岩谷禎枝 豊田純一 綾郁奈子 15 森山啓
裁判所 知的財産高等裁判所
判決言渡日 2023/07/12
権利種別 商標権
訴訟類型 行政訴訟
主文 1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
全容
20 第1 請求 特許庁が不服2022-7645事件について令和4年12月13日にした 審決を取り消す。
第2 事案の概要 1 特許庁における手続の経緯等25 ? 原告は、令和3年5月1日、別紙1記載の構成からなる商標(以下「本願 商標」という。)について、指定商品を第25類「被服」として商標登録出願 1 (商願2021-60396号。以下「本願」という。)をした(甲1の1)。
? 原告は、令和4年3月4日付けで拒絶査定を受けたため、同年5月23日、
拒絶査定不服審判を請求した。
特許庁は、上記請求を不服2022-7645号事件として審理を行い、
5 令和4年12月13日、「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決(以 下「本件審決」という。 をし、
) その謄本は、同月23日、原告に送達された。
? 原告は、令和5年1月19日、本件審決の取消しを求める本件訴訟を提起 した。
2 本件審決の理由の要旨10 (1) 本件審決の理由は、別紙審決書(写し)記載のとおり、本願商標は、別紙 2記載のとおりの「KAZE」の欧文字を黒色のゴシック体で横書きに表し てなる登録第6468175号商標(登録出願日令和2年11月20日、設 定登録日令和3年11月9日、指定商品及び指定役務は別紙2記載の商品及 び役務。以下「引用商標」という。甲2)と類似する商標であり、かつ、本15 願の指定商品は、引用商標に係る指定商品及び指定役務と同一又は類似のも のであるから、商標法4条1項11号に該当するというものである。
(2) 本件審決が、本願商標が引用商標と類似の商標であると判断した理由の 要旨は、@本願商標は、別紙1に示すとおり、平行線(上の線は、一部欠損 している。 の間に ) 「K」の欧文字、その横に、デザイン化された緑色の文字、
20 その横に「Z」の欧文字及びその横に「E」の欧文字を書し、一部欠損した 上の線の上部に、前後に「-」を配した「PRINTABLE HEMP W EAR」の欧文字(「-PRINTABLE HEMP WEAR-」)を横 書きし、下の線の下部に「Made in Wakayama JAPAN」 の欧文字を横書きしてなるものである、A本願商標の構成中のデザイン化さ25 れた緑色の文字は、近時の商標におけるレタリングの手法として、その構成 中の一部の文字を、同一称呼の生じる範囲内で文字種の変換をすること、又 2 は、一部の文字をデザイン化することは、一般的に行われており、当該文字 は、格別特異な態様ともいえず、さらに、
「K」の欧文字と「ZE」の欧文字 の間に配されていることからすると、これは、欧文字「A」をデザイン化し たものと容易に看取し得るものといえるから、本願商標の構成中の「K」の 5 欧文字、デザイン化された緑色の文字、
「Z」の欧文字及び「E」の欧文字は、
構成全体として「KAZE」の欧文字を横書きしたものと認識し得るもので あり、「KAZE」は、「空気の流れ」を意味する「風」の漢字又は「感冒」 を意味する「風邪」(いずれも「広辞苑 第七版」)の漢字を欧文字で表した ものと判断し得るものであり、本願の指定商品との関係において、自他商品10 の識別標識としての機能を有さないと判断するべき特段の事情はない、B本 願商標は、引用商標との類否を判断するに当たって、本願商標の構成中の自 他商品の識別標識としての機能を有しない、又は、有するとしても非常に弱 いものと認められる「-PRINTABLE HEMP WEAR-」 「M 、
ade in Wakayama JAPAN」の欧文字及び平行線を捨象15 し、他の構成文字に比して大きく顕著に表され、かつ、平行線により強調さ れた「KAZE」を要部として抽出し、これのみを他人の商標と比較して商 標の類否を判断することも許されるというべきである、C本願商標の要部で ある「KAZE」と引用商標とを比較すると、本願商標の構成中の「A」が 緑色で、かつ、図案化されている点について相違するものの、両者は、いず20 れも、
「K」「A」「Z」及び「E」のつづりを共通にすることから、時と場 、 、
所を異にした離隔的観察のもとでは外観上相紛らわしいものであること、称 呼においては、本願商標の要部である「KAZE」より生じる「カゼ」の称 呼と引用商標より生じる「カゼ」の称呼は同一であること、観念においては、
本願商標の要部である「KAZE」及び引用商標から生じる「空気の流れ」25 及び「感冒」の観念は同一であることからすると、本願商標と引用商標とは、
外観において類似し、称呼及び観念を同一にするから、両商標は、相紛れる 3 おそれのある類似の商標と判断するのが相当であって、これらを総合的に考 慮すると、本願商標及び引用商標が同一又は類似の商品及び役務に使用され た場合には、当該商品又は役務の出所を誤認混同するおそれがあるというべ きであるというものである。
5 3 取消事由 本願商標の商標法4条1項11号該当性の判断の誤り 第3 当事者の主張 1 原告の主張 ? 本願商標の要部抽出の判断の誤り10 本件審決が、本願商標について、他の構成文字に比して大きく顕著に表さ れ、かつ、平行線により強調された「KAZE」 「KAZE」の欧文字を横 ( 書きしたもの)を要部として抽出し、これのみを他人の商標と比較して商標 の類否を判断することも許されると判断したのは誤りである。
ア 本願商標の中段部分は、別紙1記載のとおり、左から、「K」の欧文字、
15 その横にデザイン化されかつ緑色の彩色が施された麻葉文様の図形(以下 「緑色の麻葉文様図形」という場合がある。 、その横に「Z」の欧文字及 ) びその横に「E」の欧文字を書してなる。
しかるところ、緑色の麻葉文様図形は、格別特異な態様で書されており、
当該図形が欧文字「A」をデザイン化したものと容易に看取されることが20 ないから、本願商標の中段部分の表示から「KAZE」なる欧文字をそも そも認識することはできない。
すなわち、まず、@緑色の麻葉文様図形は、大・中・小の個々の三角形 状を左右対称的に配してなり、かつその集積全体も三角形状を構成し、麻 葉文様の中心円部分から全方位に向けて、あたかも太陽光が放射するが如25 き様子を描くものでもあり、かつ図形の頂点(三角形状の頂点)が上段部 罫線を突き抜けているため、本願商標の構成要素の中でも正しく突出した 4 印象を看者に与えること、A本願商標の上段に配された「PRINTAB LE HEMP WEAR」の構成中の「HEMP(麻) の語と相まって、
」 緑色の麻葉文様図形が麻葉文様であることを看者に強く印象付けるもの であり、上段と中段のデザインモチーフを巧みに統一合体させるという秀 5 逸な工夫がされていること、B緑色の麻葉文様図形は、本願商標を構成す る他の要素が通常の欧文字であるのとは対照的に唯一「図形」からなり、
また、本願商標を構成する他の要素が凡庸な黒塗りで書されているのとは 対照的に唯一鮮やかな彩色(緑色)が施されていることに鑑みると、緑色 の麻葉文様図形は、格別特異な態様からなるものであり、本願商標の構成10 中、最も強く支配的な印象を与える部分であるというべきである。
次に、緑色の麻葉文様図形が「K」の欧文字と「ZE」の欧文字の間に 配されているからといって、その図形は欧文字をデザイン化したものであ るとする論理は、取り得ない。確かに、ある図形と欧文字との結合全体が 看者に馴染みのある成語(英語)を想起させる場合には、上記論理は成立15 する。例えば、
「J〇PAN PATENT OFFICE」において、
「〇」 の部分に「緑色の麻葉文様図形」が挿入された場合には、当該図形は「A」 であると容易に看取される場合もあり得る。しかしながら、本願商標の構 成中の「K〇ZE」にあっては、
「KAZE」なる英語又はその他の馴染み のある外国語は存在しないのであるから、
「〇」の部分が「A」であると容20 易に看取されるということはできない。
以上のとおり、緑色の麻葉文様図形は、格別特異な態様で書されており、
当該図形が欧文字「A」をデザイン化したものと容易に看取されることが できず、本願商標の中段部分の表示から「KAZE」なる欧文字をそもそ も認識することはないから、この点において、本願商標から「KAZE」25 を要部として抽出することはできない。
イ 仮に本願商標から「KAZE」なる欧文字を認識することはできるとし 5 ても、
「KAZE」なる欧文字部分が、取引者、需要者に対し商品の出所識 別標識として強く支配的な印象を与えるものとはいえない。前記アのとお り、本願商標の構成中、最も強く支配的な印象を与える部分は、中段部分 のうちの緑色の麻葉文様図形である。
5 次に、
「KAZE」なる欧文字部分以外の部分から出所識別標識としての 称呼観念が生じないということはできない。
すなわち、本願商標の上段部分の「-PRINTABLE HEMP WEAR-」なる表示は、本願指定商品「被服」の需要者が商品を選択す るに当たって、当該商品が原告のブランドである「PRINTABLE10 HEMP WEAR」シリーズの商品であることを認識せしめる重要かつ 不可欠な情報であるから、当該部分を本願商標から捨象することは許され ない。そして、原告が行ったインターネット調査によれば、
「PRINTA BLE HEMP WEAR」なる一連の表示又は「Printable HempWear」なる一連の表示を本願の指定商品との関係で使用する15 者は原告以外に存在せず、原告のみが使用する極めてユニークな言葉であ るから、
「-PRINTABLE HEMP WEAR-」なる表示は、本 願の指定商品「被服」との関係において、強い識別機能を有する。
そうすると、本願商標の構成中には「KAZE」なる欧文字部分以外に、
強い出所識別機能を発揮する部分として「緑色の麻葉文様図形」と「PR20 INTABLE HEMP WEAR」なる表示が存在し、これらの部分 から出所識別標識としての称呼観念が生じないということはできない。
したがって、本願商標の構成中の「KAZE」なる欧文字部分が取引者、
需要者に対し商品又は役務の出所識別標識として強く支配的な印象を与 えるものと認められる場合や、それ以外の部分から出所識別標識としての25 称呼観念が生じないと認められる場合に該当しないから、本願商標から 「KAZE」なる欧文字部分を要部として抽出することは許されない。
6 ウ 以上によれば、本願商標から「KAZE」を要部として抽出し、これの みを引用商標と比較して商標の類否を判断することも許されるとした本 件審決の判断は誤りである。
? 本願商標と引用商標の類否判断の誤り 5 仮に本願商標から「KAZE」を要部として抽出することができるとして も、看者は、これを単独で認識するのではなく、上段部分は英語風の造語「P RINTABLE HEMP WEAR」 中段部分は英語風の造語 、 「KAZ E」、下段部分は英語「Made in Wakayama JAPAN」と 認識し、
「KAZE」なる英語風の造語は、本願商標全体にわたって英文字種10 が使用されているという視界環境と、個々の構成語が英語の成語又は英語風 の造語であるという言語環境の脈絡において認識されるという特殊事情があ る。
このような特殊事情に鑑みれば、
「KAZE」はこれを英語風に「ケイズ」 (ケーズ)と称呼するのが極めて自然である。また、本願商標の観念認定の15 対象が欧文字「KAZE」であるのであれば、そのような欧文字に相当する 成語はそもそも存在せず、一般的な国語辞典又は英和辞典における載録も存 在しないから、特定の観念は生じない。
一方、引用商標「KAZE」については、本願商標と異なり、これを英語 読みしなければならない特殊事情は存しないから、引用商標からはローマ字20 風の称呼「カゼ」が生ずるとするのが相当であり、また、特定の観念は生じ ない。
以上によれば、本願商標と引用商標とは、その外観及び称呼が異なり、観 念においても同一とはいえない非類似の商標であるというべきである。
したがって、これと異なる本件審決の判断は誤りである。
25 ? 小括 以上によれば、本願商標及び引用商標は、いずれも外観及び称呼を異にす 7 るから、混同を生じるおそれがない非類似の商標である。
したがって、本願商標が引用商標と類似の商標であるとして商標法4条1 項11号に該当するとした本件審決の判断は誤りである。
2 被告の主張 5 ? 本願商標の要部抽出の判断の誤りの主張に対し ア 本願商標は、別紙1記載のとおり、太い平行線(上の線は、一部欠損し ている。 の間に ) 「K」の欧文字、その横に、デザイン化された緑色の文字、
その横に「Z」の欧文字及びその横に「E」の欧文字を書し、一部欠損し た上の線の上部に、前後に「-」を配した「PRINTABLE HEM10 P WEAR」の欧文字(-PRINTABLE HEMP WEAR-) を横書きし、下の線の下部に「Made in Wakayama JA PAN」の欧文字を横書きしてなる3段の構成からなり、本願商標の各段 の構成部分は、文字の大きさの相違及び平行線により、それぞれが視覚上 分離、独立した印象を与えるものといえるから、本願商標は、3段の各構15 成部分を分離して観察することが取引上不自然であると思われるほど不 可分的に結合しているものではなく、それぞれが分離、独立した構成であ ると認識させるといえる。
イ 次に、近時の商標におけるレタリングの手法として、商標を構成する欧 文字のうち、一部の欧文字にデザインを施すことは、取引上、ごく一般的20 に行われているところ、中段の「デザイン化された緑色の文字」の外形は、
頂点から左右斜め下方向に同じ長さの二本の直線が二等辺三角形状に伸 びるという欧文字「A」の形状の特徴を備えており、両隣の「K」及び「Z E」の欧文字と、同じような大きさ、同じような間隔で一連に表されてい ることからも、
「A」の欧文字をデザイン化したものと認識されるから、本25 願商標に接した取引者、需要者は、中段の構成部分は、全体として「KA ZE」の欧文字を表したものと認識するといえる。
8 しかるところ、我が国においては、欧文字表記をローマ字読み又は英語 風の読みで称呼するのが一般的であり、
「KAZE」の欧文字は、既成の親 しまれた英単語でもなく、ローマ字読みで容易に称呼できるものであり、
「カゼ」と読むのが最も自然というべきであるから、当該文字部分からは、
5 「カゼ」の称呼が生じる。そして、日本語において「カゼ」と称呼する成 語は「空気の流れ」を意味する「風」又は「感冒」を意味する「風邪」 (広 辞苑 第七版)しかなく、
「KAZE」の欧文字からは「風(空気の流れ)」 及び「風邪(感冒)」の観念が生じるものというべきである。
そうすると、中段の「KAZE」は、本願の指定商品「被服」との関係10 において、商品の具体的な品質などを表示する語でなく、また、本願商標 の構成態様においては、他の構成文字に比して大きく顕著に表され、平行 線の間に配されることにより、視覚的に際立った印象を与えることも相ま って、看者の目をひく部分であり、取引者、需要者に対して商品の出所識 別標識として強く支配的な印象を与えるものといえる。
15 一方、上段の「-PRINTABLE HEMP WEAR-」は、
「K AZE」に比べて小さく書されており、また、
「PRINTABLE」の英 語は「印刷できる」を意味する語(乙36) 「HEMP」の英語は「麻」 、
を意味する語(乙37) 「WEAR」の英語は「衣服」を意味する語(乙 、
38)であって、「-」の記号は、特定の意味合いを生じず、「-PRIN20 TABLE HEMP WEAR-」は、構成全体として、
「印刷できる麻 の衣服」の意味合いを生じるといえるものであり、本願の指定商品「被服」 との関係においては、
「KAZE」の文字に比べ識別力が強いものとはいえ ない。
また、下段の「Made in Wakayama JAPAN」の欧25 文字は、
「KAZE」に比べて小さく書されており、本願の指定商品「被服」 との関係においては、(日本の)和歌山製の製品」 「 (乙39ないし42)を 9 意味するものであり、商品の産地、販売地を表示するにすぎないから、独 立した自他商品の識別標識としての機能を有するような称呼観念は生じ ないというべきである。
以上によれば、本願商標において、他の構成文字に比して大きく顕著に 5 表され、かつ、平行線により強調された「KAZE」を要部として抽出し、
これのみを他人の商標と比較して商標の類否を判断することも許される というべきである。
したがって、本件審決が、本願商標の構成中の中段の「KAZE」を要 部として抽出したことに誤りはない。
10 ? 本願商標と引用商標の類否判断の誤りの主張に対し ア 前記?イのとおり、本願商標の要部である「KAZE」は、
「カゼ」の称 呼を生じ、
「風(空気の流れ)」及び「風邪(感冒)」の観念を生じるものと いうべきである。
引用商標は、別紙2記載のとおり、
「KAZE」の欧文字を黒色のゴシッ15 ク体で横書きに表してなるところ、前記?イと同様の理由から、
「カゼ」の 称呼を生じ、
「風(空気の流れ)」及び「風邪(感冒)」の観念を生じるもの である。
次に、本願商標と引用商標とを対比すると、両商標は、構成全体を見た 場合、「-PRINTABLE HEMP WEAR-」及び「Made20 in Wakayama JAPAN」の欧文字の有無等の差異があるこ とから、外観において相違するものの、本願商標の要部である「KAZE」 と引用商標とを比較すると、本願商標の要部である「KAZE」の「A」 の部分が緑色で、かつ、図案化されている点において相違するが、両者は、
いずれも、
「K」「A」「Z」及び「E」のつづりを共通にすることから、
、 、
25 時と場所を異にした離隔的観察のもとでは外観上近似した印象を与える 相紛らわしいものといえる。
10 また、称呼においては、本願商標の要部である「KAZE」より生じる 「カゼ」の称呼と引用商標より生じる「カゼ」の称呼は同一である。そし て、観念においては、本願商標の要部である「KAZE」及び引用商標か ら生じる「風(空気の流れ)」及び「風邪(感冒)」の観念は同一である。
5 そうすると、本願商標の要部と引用商標とは、外観において相紛らわし いものであり、称呼及び観念を同一にするものであるから、その外観、称 呼、観念等によって取引者に与える印象、記憶、連想等を総合して全体的 に考察すると、本願商標及び引用商標が同一又は類似の商品及び役務に使 用された場合には、当該商品又は役務の出所を誤認混同するおそれがある10 というべきである。
したがって、本願商標は、引用商標に類似する商標である。これと同旨 の本件審決の判断に誤りはない。
イ この点に関し、原告は、@仮に本願商標の中段部分を「KAZE」の欧 文字と認識し得るとしても、看者は、これを単独で認識するのではなく、
15 上段部分は英語風の造語「PRINTABLE HEMP WEAR」 中 、
段部分は英語風の造語「KAZE」、下段部分は英語「Made in W akayama JAPAN」と認識し、
「KAZE」なる英語風の造語は、
本願商標全体にわたって英文字種が使用されているという視界環境と、
個々の構成語が英語の成語又は英語風の造語であるという言語環境の脈20 絡において認識されるという特殊事情があることに鑑みれば、「KAZE」 はこれを英語風に「ケイズ」 (ケーズ)と称呼するのが極めて自然であり、
また、本願商標の観念認定の対象が欧文字「KAZE」であるのであれば、
そのような欧文字に相当する成語はそもそも存在せず、また一般的な国語 辞典若しくは英和辞典における載録も存在しないから、特定の観念は生じ25 ない、A一方、引用商標については、本願商標と異なり、これを英語読み しなければならない特殊事情は存しないから、引用商標「KAZE」から 11 はローマ字風の称呼「カゼ」が生ずるとするのが相当であり、また、特定 の観念は生じない、Bしたがって、本願商標と引用商標とは、その外観及 び称呼が異なり、観念においても同一とはいえない非類似の商標であるか ら、これと異なる本件審決の判断は誤りである旨主張する。
5 しかしながら、前記(1)イで述べたとおり、本願商標の要部である「KA ZE」の欧文字から「カゼ」の称呼が生じ、また、
「KAZE」の欧文字か らは「風(空気の流れ)」及び「風邪(感冒)」の観念が生じるというべき であるから、@の主張は失当である。同様に、引用商標の「KAZE」の 欧文字から特定の観念が生じないとのAの主張も失当である。
10 次に、Bについては、本願商標の要部である「KAZE」と引用商標と を比較すると、本願商標の要部である「KAZE」の「A」の部分が緑色 で、かつ、図案化されている点について相違するものの、両者は、いずれ も、
「K」「A」「Z」及び「E」のつづりを共通にすることから、時と場 、 、
所を異にした離隔的観察のもとでは外観上近似した印象を与える相紛ら15 わしいものであること、いずれも、
「カゼ」の称呼
「風(空気の流れ)」及 び「風邪(感冒)」の観念を生じることからすると、外観において類似し、
称呼及び観念において同一であるから、本願商標と引用商標は、相紛れる おそれのある類似の商標というべきである。
したがって、原告の上記主張は理由がない。
20 ? 小括 本願の指定商品「被服」と引用商標に係る指定商品及び指定役務中の「被 服、作業服のズボン、作業服、帽子」及び「被服の小売又は卸売の業務にお いて行われる顧客に対する便益の提供」は、需要者の範囲が一致するから、
同一又は類似する商品及び役務である。
25 そうすると、本願商標は、引用商標と類似する商標であり、かつ、引用商 標の指定商品及び指定役務と同一又は類似の商品について使用をするもので 12 あるから、商標法4条1項11号に該当する。
したがって、原告主張の取消理由は理由がない。
第4 当裁判所の判断 1 本願商標の要部抽出の判断の誤りについて 5 ? 複数の構成部分を組み合わせた結合商標については、その構成部分全体に よって他人の商標と識別されるから、その構成部分の一部を抽出し、この部 分だけを他人の商標と比較して商標そのものの類否を判断することは原則と して許されないが、取引の実際においては、商標の各構成部分がそれを分離 して観察することが取引上不自然であると思われるほど不可分的に結合して10 いるものと認められない商標は、必ずしも常に構成部分全体によって称呼
観念されるとは限らず、その構成部分の一部だけによって称呼観念される ことがあることに鑑みると、商標の構成部分の一部が取引者、需要者に対し 商品又は役務の出所識別標識として強く支配的な印象を与えるものと認めら れる場合や、それ以外の部分から出所識別標識としての称呼観念が生じな15 いと認められる場合などには、商標の構成部分の一部を要部として取り出し、
これと他人の商標とを比較して商標そのものの類否を判断することも、許さ れると解するのが相当である(最高裁昭和37年(オ)第953号同38年 12月5日第一小法廷判決・民集17巻12号1621頁、最高裁平成3年 (行ツ)第103号同5年9月10日第二小法廷判決・民集47巻7号5020 09頁、最高裁平成19年(行ヒ)第223号同20年9月8日第二小法廷 判決・裁判集民事228号561頁参照)。
そこで、以下においては、上記の観点を踏まえて、本願商標が引用商標に 類似する商標(商標法4条1項11号)に該当するかどうかについて判断す る。
25 ? 本願商標は、別紙1記載のとおり、黒色の太い平行線(上の線は、一部欠 損している。)の間に「K」の欧文字、その横に、緑色の図形、その横に「Z」 13 の欧文字及びその横に「E」の欧文字を書し、一部欠損した上の線の上部に、
前後に「-」を配した「PRINTABLE HEMP WEAR」の欧文 字(-PRINTABLE HEMP WEAR-)を横書きし、下の線の 下部に「Made in Wakayama JAPAN」の欧文字を横書 5 きしてなる3段の構成からなる結合商標である。
本願商標の中段部分を構成する「K」及び「ZE」の各欧文字は、本願商 標の構成中、顕著に大きく、太字で書されており、これらの間に配された緑 色の図形は、底部の高さは両隣の欧文字の各底部と揃えられ、頂点部は上の 平行線の欠損部分に重なるように位置しているため、全体として両隣の欧文10 字よりもやや大きい。
そして、本願商標が上下2本の平行線により3つの部分に画されているこ と、中段部分を構成する欧文字及び緑色の図形が上段部分及び下段部分より も顕著に大きく表されていることに照らすと、本願商標の3段の各構成部分 は、外観上それぞれが独立したものであるとの印象を与え、視覚上分離して15 認識されるものと認められるから、上記各構成部分を分離して観察すること が取引上不自然であると思われるほど不可分的に結合しているものと認めら れない。
(3) 本願商標の中段の緑色の図形部分は、別紙1記載のとおり、頂点から左右 斜め下方向に同じ長さの二本の直線が二等辺三角形状に伸びるという欧文字20 「A」の形状の特徴を備えており、両隣の「K」及び「ZE」の欧文字と、
同じような大きさ、同じような間隔で一連に表されていることからも、「A」 の文字をデザイン化したものと認識されるから、本願商標に接した取引者、
需要者は、中段の構成部分は、全体として「KAZE」の欧文字を表したも のと認識するといえる。
25 しかるところ、我が国においては、欧文字表記をローマ字読み又は英語風 の読みで称呼するのが一般的であり、
「KAZE」の欧文字は、既成の親しま 14 れた英単語でもなく、ローマ字読みで容易に称呼できるものであり、「カゼ」 と読むのが最も自然というべきであるから、当該文字部分からは、
「カゼ」の 称呼が生じる。そして、日本語において「カゼ」と称呼する成語から「空気 の流れ」を意味する「風」又は「感冒」を意味する「風邪」 (広辞苑 第七版) 5 が一般に想起されるから、「KAZE」の欧文字からは「風(空気の流れ)」 及び「風邪(感冒)」の観念が生じるものというべきである。
加えて、本願商標の構成態様においては、
「KAZE」の欧文字部分は、他 の構成文字に比して大きく顕著に表され、平行線の間に配されることにより、
視覚的に際立った印象を与えるものであるから、看者の目をひく部分であり、
10 取引者、需要者に対して商品の出所識別標識として強く支配的な印象を与え るものと認められる。
そうすると、本願商標から「KAZE」の欧文字部分を要部として抽出し、
これと引用商標とを比較して商標そのものの類否を判断することは許される というべきである。これと同旨の本件審決の判断に誤りはない。
15 (4) これに対し、原告は、@本願商標の中段部分の「緑色の麻葉文様図形」は、
格別特異な態様で書されており、また、当該図形が欧文字「A」をデザイン 化したものと容易に看取されることはなく、本願商標の中段部分の表示から 「KAZE」なる欧文字をそもそも認識することはできない、A仮に本願商 標の中段部分の表示から「KAZE」なる欧文字を認識することはできると20 しても、本願商標の上段部分の「-PRINTABLE HEMP WEA R-」なる表示は、本願の指定商品「被服」との関係において、原告のブラ ンドである「PRINTABLE HEMP WEAR」シリーズの商品で あることを認識させるものであって、強い識別機能を有し、また、本願商標 の構成中、最も強く支配的な印象を与える部分は、中段部分のうちの「緑色25 の麻葉文様図形」であることからすると、
「KAZE」なる欧文字(中段部分) が、取引者、需要者に対し商品の出所識別標識として強く支配的な印象を与 15 えるものとはいえないとして、本願商標から「KAZE」を要部として抽出 することはできない旨主張する。
しかしながら、@については、前記?で説示したとおり、本願商標の中段 の緑色の図形部分は「A」の文字をデザイン化したものと認識されるから、
5 取引者、需要者は、中段の構成部分を全体として「KAZE」の欧文字を表 したものと認識するといえる。
Aについては、
「-PRINTABLE HEMP WEAR-」の構成部 分は、別紙1記載のとおり、外観上、上下2本の平行線の間に配された「K AZE」の欧文字部分よりも小さく表示されており、取引者、需要者に与え10 る印象は、「KAZE」の欧文字部分よりも強いとはいえない。
また、本願の指定商品「被服」の需要者である一般消費者において、上記 構成部分が原告のブランドである「PRINTABLE HEMP WEA R」を示すものとして広く認識されていることを認めるに足りる証拠はない し、仮にこれが認められるとしても、本願商標の構成態様に照らすと、
「KA15 ZE」の欧文字部分が取引者、需要者に対して商品の出所識別機能として強 く支配的な印象を与えるとの上記認定を左右するものではない。
さらに、
「KAZE」の欧文字中の「A」の文字をデザイン化した部分のみ が出所識別標識として強く支配的な印象を与えるということもできない。
したがって、原告の上記主張は採用することができない。
20 その他、原告は、縷々主張するが、いずれも本件審決の結論に影響を及ぼ すものとは認められず、上記認定を左右するものではない。
2 本願商標と引用商標の類否判断の誤りについて (1) 引用商標は、別紙2記載のとおり、「KAZE」の欧文字を黒色のゴシッ ク体で横書きに表してなる商標である。
25 そして、前記1(3)と同様の理由から、引用商標から「カゼ」の称呼を生じ、
「風(空気の流れ)」及び「風邪(感冒)」の観念を生じるものと認められる。
16 これに反する原告の主張は採用することができない。
(2) 本願商標の要部である「KAZE」と引用商標を対比すると、本願商標の 要部である「KAZE」の「A」の部分が緑色で、かつ、図案化されている のに対し、引用商標は、黒色のゴシック体である点で、両者の外観は同一と 5 はいえないが、
「K」「A」「Z」及び「E」の構成文字からなる点で共通す 、 、
ること、本願商標の要部である「KAZE」と引用商標は、
「カゼ」の称呼を 生じ、「風(空気の流れ)」及び「風邪(感冒)」の観念を生じる点において、
称呼及び観念が同一であることに鑑みると、本願商標の構成全体の外観と引 用商標の外観が同一とはいえないことを考慮しても、両商標が本願の指定商10 品「被服」に使用された場合には、その商品の出所において誤認混同が生じ るおそれがあるものと認められるから、本願商標と引用商標は、全体として 類似していると認められる。
したがって、本願商標は引用商標に類似する商標であるものと認められる。
(3) これに対し、原告は、@仮に本願商標の中段部分を「KAZE」の欧文字15 を要部として抽出することができるとしても、看者は、これを単独で認識す るのではなく、上段部分は英語風の造語「PRINTABLE HEMP W EAR」、中段部分は英語風の造語「KAZE」、下段部分は英語「Made in Wakayama JAPAN」と認識し、
「KAZE」なる英語風の 造語は、本願商標全体にわたって英文字種が使用されているという視界環境20 と、個々の構成語が英語の成語又は英語風の造語であるという言語環境の脈 絡において認識されるという特殊事情があることに鑑みると、
「KAZE」は これを英語風に「ケイズ」 (ケーズ)と称呼するのが極めて自然であり、特定 の観念は生じないこと、A一方、引用商標については、本願商標と異なり、
これを英語読みしなければならない特殊事情は存しないから、引用商標「K25 AZE」からはローマ字風の称呼「カゼ」が生ずるとするのが相当であり、
また、特定の観念が生じないことからすると、本願商標と引用商標とは、そ 17 の外観及び称呼が異なり、観念においても同一とはいえない非類似の商標で ある旨主張する。
しかしながら、前記(2)で説示したとおり、本願商標の要部である「KAZ E」の欧文字から「カゼ」の称呼が生じ、また、
「KAZE」の欧文字からは 5 「風(空気の流れ)」及び「風邪(感冒)」の観念が生じるというべきであり、
引用商標の「KAZE」の欧文字から同様の称呼及び観念が生じるものと認 められるから、原告の上記主張は、理由がない。
3 小括 以上のとおり、本願商標は引用商標に類似する商標である。
10 そして、本願の指定商品「被服」は、引用商標に係る指定商品中の「被服」 と同一のものである。
そうすると、本願商標は、引用商標に類似する商標であり、かつ、本願の指 定商品は引用商標に係る指定商品に含まれる商品(第25類「被服」)と同一の ものであるから、商標法4条1項11号に該当するものと認められる。
15 したがって、これと同旨の本件審決の判断に誤りはないから、原告主張の取 消事由は理由がない。
第5 結論 以上のとおり、原告主張の取消事由は理由がなく、本件審決にこれを取り消 すべき違法は認められないから、原告の請求は棄却されるべきものである。
20
追加
2518 裁判官天野研司裁判長裁判官大鷹一郎は、退官のため署名押印することができない。
5裁判官遠山敦士19 (別紙1)本願商標20 (別紙2)引用商標5(指定商品及び指定役務)第12類「船舶並びにその部品及び附属品、自動車並びにその部品及び附属品、二輪自動車・自転車並びにそれらの部品及び附属品、電動式乗物、水上滑走艇」第25類「被服、バンド、ベルト、履物、作業服のズボン、作業服、帽子」第35類「印刷物の小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供、
10身の回り品の小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供、二輪自動車の小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供、被服の小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供、船舶並びにその部品及び附属品の小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供、商品の販売促進又は役務の提供促進のためのポイントの発行・管理・清算」15第37類「二輪自動車の修理又は整備、水上用乗物の修理又は保守、船舶の修理又は整備、自転車の修理、自動車の修理又は整備」第41類「スポーツの興行の企画・運営又は開催、興行の企画・運営・開催(映画・演芸・演劇・音楽の演奏の興行及びスポーツ・競馬・競輪・競艇・小型自動車競走の興行に関するものを除く。、二輪自動車によるツーリングの企画・運営又は開催)20並びにこれらに関する情報の提供、技芸・スポーツ又は知識の教授、二輪自動車運転の教授、二輪自動車競走の企画・運営又は開催、競艇の企画・運営又は開催及びそれに関する情報の提供、水上スキーの興行の企画・運営又は開催、電子出版物の提供、インターネットを利用して行う映像の提供」21
裁判官 遠山敦士