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事件 令和 5年 (行ケ) 10030号 審決取消請求事件
5
原告粧美堂株式会社
同訴訟代理人弁護士 田中克郎 中村勝彦 10 佐藤力哉 笹川大智
同訴訟代理人弁理士 廣中健 小林奈央 15 被告ノーブル株式会社
同訴訟代理人弁護士 篠田憲明 星野光帆
同訴訟代理人弁理士 森友宏 20 主文 1 特許庁が無効2022−890041号事件について令和5年2月1 4日にした審決を取り消す。 2 訴訟費用は被告の負担とする。 事実及び理由 25 第1 請求 主文1項と同旨 第2 事案の概要 本件は、商標登録無効審判請求に係る不成立審決の取消訴訟である。争点は、@ 後記1の登録商標(以下「本件商標」という。)が商標法3条1項3号に掲げる商 標に該当するか否か、A本件商標が同項6号に掲げる商標に該当するか否か、B本 5 件商標が同法4条1項16号に掲げる商標に該当するか否かである。 1 登録商標
被告は、次の登録商標(本件商標)の商標権者である(甲1の1及び2。以下、 本件商標に係る商標登録を「本件商標登録」という。)。 (1) 登録番号 商標登録第6399042号 10 (2) 登録査定日 令和3年5月24日(以下「本件査定日」という。) (3) 登録日 令和3年6月7日 (4) 商標の構成 「くるんっと前髪カーラー」(標準文字) (5) 商品及び役務の区分並びに指定商品 第26類「頭飾品、ヘアカーラー(電気式のものを除く。)」(以下、このうち 15 の第26類「ヘアカーラー(電気式のものを除く。)」を「本件商品」という。) 2 特許庁における手続の経緯等
原告は、令和4年6月2日、本件商品についての本件商標登録を無効にすること について審判を請求し、特許庁は、これを無効2022−890041号事件とし て審理した(争いがない。)。 20 特許庁は、令和5年2月14日、「本件審判の請求は、成り立たない。」との審 決(以下「本件審決」という。)をし、その謄本は、同月27日、原告に送達され た(弁論の全趣旨)。
原告は、令和5年3月27日、本件審決の取消しを求めて本件訴えを提起した。 3 本件審決の理由の要旨 25 (1) 商標法3条1項3号該当性 ア 本件商標は、「くるんっと前髪カーラー」の文字を標準文字で表してなると ころ、その構成文字は、同じ大きさ及び書体で、間隔なく、横一列にまとまりのよ い構成からなるから、構成文字全体で一連一体の語を表してなるものである。 本件商標の構成文字は、「はずみをつけて回るさま。軽やかに巻かれているさ ま。」を示す擬態語である「くるん」の文字(甲8)、「男子または婦人の額上の 5 毛を束ねたもの」の意味を有する「前髪」の文字(甲11)、「頭髪を巻きつけて カールさせるための円筒形の用具」の意味を有する「カーラー」の文字(甲12) を、促音や格助詞「と」などを介して結合してなるところ、構成文字全体としては 成語や文章としての意味合いを特定するためには言葉が不十分であるから、各文字 の語義に相応する漠然とした意味合いを連想させるとしても、具体的な意味合いま 10 では直ちに認識、理解することができず、商品の品質表示としては具体性を欠くも のである。 イ 美容情報と関連する雑誌記事やインターネット情報などにおいて、「前髪に もくるんっとカールを加えれば愛され度アップ!」(甲13の1)、「はさんでく るんっと理想の前髪」(甲13の3)、「中途半端な前髪をくるんっと綺麗に巻く 15 方法」(甲13の5)などのように、髪が巻かれた様子を表すために「くるんっ」 という擬態語が使用される場合があることは把握することができるとしても、本件 商標のような文字構成からなる文章が、商品の具体的な品質等を表示する慣用的な 表現として取引上一般に採択、使用されている事実関係は見いだせない。 ウ 以上のとおり、本件商標は、本件商品との関係において、商品の品質を具体 20 的に表示するものではないから、商標法3条1項3号に該当しない。 (2) 商標法3条1項6号該当性 本件商標は、前記(1)アのとおり、構成文字全体で一連一体の語を表しており、 各文字の語義に相応する漠然とした意味合いを連想させるとしても、具体的な意味 合いまでは直ちに認識、理解することができない。 25 また、前記(1)イのとおり、本件商標のような文字構成からなる文章が、商品の 具体的な品質等を表示する慣用的な表現として取引上一般に採択、使用されている 事実関係は見いだせない。 したがって、本件商標は、需要者が何人かの業務に係る商品であることを認識す ることができないものとはいえないから、商標法3条1項6号に該当しない。 (3) 商標法4条1項16号該当性 5 本件商標は、前記(1)アのとおり、構成文字全体で一連一体の語を表しており、 各文字の語義に相応する漠然とした意味合いを連想させるとしても、具体的な意味 合いまでは直ちに認識、理解できない。 また、本件商標の構成中、語尾の「カーラー」の文字部分は、「頭髪を巻きつけ てカールさせるための円筒形の用具」の意味を有する語(甲12)であって、本件 10 商品に相当するものである。 したがって、本件商標は、本件商品との関係において、商品の品質の誤認を生ず るおそれのある商標ではなく、商標法4条1項16号に該当しない。 (4) まとめ 以上によれば、本件商標登録は、本件商品について、商標法3条1項3号、同項 15 6号又は同法4条1項16号に違反してされたものではないから、同法46条1項 1号の規定により無効にすることはできない。 第3 原告主張の審決取消事由 1 取消事由1(商標法3条1項3号該当性についての判断の誤り)について (1) 判断枠組み 20 ある商標が商標法3条1項3号に掲げる商標に該当するといえるためには、当該 商標が成語等の意味合いを特定するための十分な言葉を備えた商標(完成した文章 から構成される商標)である必要はない。それが慣用的な表現として取引上一般に 採択、使用されているという事実関係が存在する必要もない。それが使用された場 合に、取引者又は需要者によって、当該商標が、産地、品質、効能、用途を示すも 25 のと一般に認識されるものであれば足りる(最高裁判所昭和61年1月23日第一 小法廷判決(昭和60年(行ツ)第68号)裁判集民事147号7頁(以下「昭和 61年最判」という。)参照)。 (2) 本件商標が商品の品質等に係る具体的な意味合いを認識させ、又は理解さ せるものであることについて 以下のとおり、本件商標に接した取引者又は需要者は、本件商標から、商品が有 5 する品質、効能又は用途についての具体的な意味合い(「くるんとした前髪になる ように前髪にクセを付けることができるカーラー」などの意味合い)を容易に認識 し、又は感得するのであるから、本件審決の判断は誤りである。 ア 「前髪」及び「カーラー」の各語から生じる具体的な観念 本件商標が本件商品において使用される場合において、本件商標の構成中の「前 10 髪」及び「カーラー」の各語から直接的かつ具体的な観念が一義的に生じることは 明白である。 イ 「くるんっと」の語から生じる具体的な観念 本件商標の構成中の「くるんっと」の文字部分だけを他の文字部分から切り離し、 「くるんっと」の文字部分を独立した構成として見たときは、「くるんっと」の語 15 から具体的な意味合いを把握するのは困難であるが、「くるんっと」の文字部分が 「前髪」及び「カーラー」の各文字部分と結合し、そのように結合した本件商標が 本件商品について使用されたときは、「くるんっと」の語は、前髪が「くるんと」 巻かれた様子を記述的に示すものとして具体的な意味合いを認識させ、又は理解さ せ、当該語からは、それ以外の意味が生じ得ない。このことは、後記ウのとおりの 20 「くるんっと」の語の用法の実情に照らすと、更に明白である。 ウ 「くるんっと」の語の用法の実情 証拠(甲13の1から22まで、甲21から28まで)によると、本件査定日当 時において、本件商品の取引者又は需要者(ヘアスタイルに興味を有する女性)は、 「くるんっと」の語が「前髪」及び「カーラー」の各語に関連して使用されている 25 のに接した場合、「くるんっと」の語が「カーラーによってクセ付けられる前髪が くるんと巻かれた様子」などを表すものと理解していたと優に認められ、当該取引 者又は需要者がそれ以外の意味合いを認識する可能性は極めて低い。 エ 小括 以上によると、本件商標は、本件査定日当時において、本件商品について使用さ れたときは、「くるんとした前髪になるように前髪にクセを付けることができるカ 5 ーラー」などの商品の品質等に係る具体的な意味合いを認識させ、又は理解させる ものであったといえる。 オ 被告の主張について (ア) 被告は、ある商標が商品の品質等の特徴を直接的に表示していないときは、 当該商標は商標法3条1項3号に掲げる商標に該当しないと解するのが相当である 10 と主張するが、そのような解釈を示した裁判例は存在しない。 (イ) 被告は、本件商標の構成中には「くるんっと」の語を明確に受ける動詞が 存在しないから、本件商標が意味するところを一義的に特定することができないと 主張する。 しかしながら、本件商標の構成中の「カーラー」の語は、「頭髪を巻きつけてカ 15 ールさせるための円筒形の用具」の意味合い(甲12)を認識させるものであるか ら、「前髪」の語は、そのようなカーラーを使用する頭髪の部分を意味するものと 認識される。そして、本件商標が本件商品について使用されるものであることに照 らすと、「くるんっと」の語については、「カーラーを使用してカールさせた前髪 の様子」などを表すものと理解するのが最も自然かつ合理的である。したがって、 20 本件商標の構成中に「くるんっと」の語が修飾する動詞が存在しないとしても、そ のことは、本件商標に接した取引者又は需要者において、「くるんっと」の語が 「カーラーを使用してカールさせた前髪の様子」などを表していると自然に理解し、 又は認識することを妨げる事情ではない。
被告は、「くるんっと前髪カーラー」の語句から様々な意味合いが想起されると 25 も主張するが、当該語句から被告が主張するような「振り向く」、「寝返りを打つ」 などの動作が認識され、又は連想されるとみるべき理由はない(実際、被告が引用 する新聞記事を見ても、「くるんと」の語が修飾する語として「振り向く」、「寝 返りを打つ」などの動詞(「カールする」、「巻く」などでない動詞)が連想され ることはないというべきである。)。また、通常は円筒形のもの(丸いもの)であ るカーラー(甲12)について、「くるんっと」の語がわざわざ被告が主張するよ 5 うな「丸まる」などの動詞を修飾することも考え難い(被告商品も、断面が楕円形 の円筒状の部品2つをクリップ状の部品で結合したものであり、丸いものである (甲42)。)。さらに、被告が主張する「前髪を挟んでくるんっと回す」は、原 告が主張する「くるんっとした前髪になるように前髪にクセを付ける」などの意味 合いにおける動作のことをいうものにすぎない。 10 なお、ある商標が商標法3条1項3号に掲げる商標に該当するというためには、 当該商標の構成が報道記事における記述のような厳格な正確性を有するものである 必要はない。 (ウ) 被告の前記(イ)の主張は、要するに、本件商標から2つ以上の意味合いが生 じないとはいえない以上、本件商標は商品の品質等の特徴を少なくとも直接的には 15 表示しておらず、商標法3条1項3号に掲げる商標に該当しないとの趣旨であると 解されるが、ある商標が同号に掲げる商標に該当するといえるか否かの判断に当た っては、当該商標の文法上又は辞書上の意義から2つ以上の観念が生じ得るか否か ではなく、取引の実情を考慮したときに、当該商標に接した取引者又は需要者が当 該商標からどのような意味合いを認識し、又は理解するかについて検討すべきであ 20 る。そして、前記エのとおり、本件商標からは、「くるんとした前髪になるように 前髪にクセを付けることができるカーラー」などの具体的な意味合いが認識される というべきである。 (3) 商標の文字構成からなる語句が慣用的な表現として取引上一般に採択され、 又は使用されているとの事実関係が不要であることについて 25 ある商標が商標法3条1項3号に掲げる商標に該当するといえるためには、当該 商標に含まれる標章が現実に商品の産地、品質、効能、用途等を示すものであるこ とを必要とせず、当該標章が将来を含め、商品の産地、品質、効能、用途等を示す ものと一般に認識されるものであれば足りると解するのが相当である。したがって、 仮に、本件商標の文字構成からなる語句(「くるんっと前髪カーラー」)が商品の 具体的な品質等を表示する慣用的な表現として取引上一般に採択され、又は使用さ 5 れているとの事実関係が見いだされないとしても、そのことをもって、本件商標が
同号に掲げる商標に該当しないと判断することは許されない。 なお、前記(2)アのとおり、本件商標の構成中の「前髪」の語及び「カーラー」 の語から直接的かつ具体的な観念が生じることは明白であり、また、前記(2)ウの とおり、「くるんっと」の語は、本件商品について「前髪」及び「カーラー」の各 10 語と共に使用された場合、「カーラーによってクセ付けられる前髪がくるんと巻か れた様子」などを表すものと一般に理解されるものであり、「くるんっと」の語か らそれ以外の意味合いが認識される可能性は極めて低いから、仮に、「くるんっと 前髪カーラー」の語句が現実に本件商品について使用されていなかったとしても、 本件商標は、将来を含め、商品の品質等を表示するものとして一般に認識されるも 15 のである。 (4) 本件商標の独占適応性について ア 本件審決が独占適応性に係る判断をしていないことについて 本件審決は、本件商標が独占適応性を有しないものであることを看過して、これ が商標法3条1項3号に掲げる商標に該当しないと判断したものであるから、違法 20 である。 イ 本件商標が独占適応性を欠くことについて 商標権の効力は、登録商標と同一又は類似の商標の使用に及ぶところ、本件商標 における「前髪」及び「カーラー」の各語は、本件商品との関係においては、普通 名称にすぎないから、これらの語について特定の者による独占使用を認めるのは、 25 公益上許されない。 また、前記(2)ウのとおり、本件商標における「くるんっと」の語並びにこれに 類似する「くるんと」及び「くるん」の各語は、前髪が巻かれた様子を表すものと して、極めて一般的に使用されるものであるし、前髪が「くるんと」巻かれた状態 のヘアスタイルは、魅力的なヘアスタイルを求める女性の需要者によって好ましい と思われている前髪の様子を表すものとして、一般的に使用されているものである 5 から(甲13の1から5まで、甲22、25)、「くるんっと前髪カーラー」の語 句は、このような需要者に向けて前髪用の本件商品を製造し、販売するなどする事 業者の誰もが、商品の効能、用途等を適切に表示するものとして使用を欲するもの である。 このような事情があるにもかかわらず、本件商標登録が有効なものとして維持さ 10 れることになると、被告以外の事業者は、その製造又は販売に係るカーラーが「く るんとした前髪になるように前髪にクセを付けることができる」などの品質、効能 等を有することを表現したい場合であっても、「くるんっと前髪カーラー」の語句 を用いることができないのみならず、これに近い表現の語句の使用についてもちゅ うちょするようになる。また、一般の取引者において、商標の類否に係る法的評価 15 を正確に行うことは容易でないから、本件登録商標が存在することによる萎縮効果 が生じるのは明らかであり、これにより、被告が不当に広い範囲にわたる商標権を 享受することにもなりかねない。 以上のとおり、「くるんっと前髪カーラー」の語句につき、特定の者による独占 使用を認めるのは公益上適当でないから、本件商標は、独占適応性を欠くものであ 20 る。 (5) 小括 以上によると、本件商標は、商品の品質、効能、用途等を普通に用いられる方法 で表示する標章のみからなる商標であり、また、独占適応性も欠くものであるから、 商標法3条1項3号に掲げる商標に該当する。 25 2 取消事由2(商標法3条1項6号該当性についての判断の誤り)について (1) 本件商標が自他商品識別力を欠くことについて ア 前記1(4)イのとおり、本件商標における「くるんっと」の語並びにこれに 類似する「くるんと」及び「くるん」の各語は、前髪が巻かれた様子を表すものと して、極めて一般的に使用されるものであること等に照らせば、本件商標は、その 構成自体から自他商品識別力を欠き、商標としての機能を果たし得ない商標である 5 と推定される。仮にそのような推定がされないとしても、取引の実情を考慮すると、 自他商品識別力を欠き、商標としての機能を果たし得ない商標に当たる。したがっ て、本件商標は、商標法3条1項6号に掲げる商標に該当する。 イ 前記1(2)ウのとおり、本件査定日当時において、本件商品の取引者又は需 要者は、「くるんっと」の語が「前髪」及び「カーラー」の各語に関連して使用さ 10 れているのに接した場合、「くるんっと」の語が「カーラーによってクセ付けられ る前髪がくるんと巻かれた様子」などを表すものと理解していたと優に認められ、 当該取引者又は需要者がそれ以外の意味合いを認識する可能性は極めて低いから、 本件商標は、その設定登録時において、本件商品について使用されたときは、「く るんとした前髪になるように前髪にクセを付けることができるカーラー」などの具 15 体的な意味合いを認識させ、又は理解させるものであったといえる。そうすると、 仮に、本件審決が指摘するような事実関係が存在しなかったとしても、本件商標は、 その構成自体から自他商品識別力を欠き、商標としての機能を果たし得ない商標で あると推定されるもの又はそのような推定はされないが、取引の実情を考慮すると、 自他商品識別力を欠き、商標としての機能を果たし得ないものに当たる。 20 (2) 本件商標が商品の宣伝文句を表示する標章のみからなる商標に当たること について 本件商標は、「くるんっと前髪カーラー」の文字を標準文字で表してなるもので あるところ、「カーラー」の語は、ヘアカーラーを意味し、「くるんっと前髪」の 語句は、前髪がくるんと巻かれた様子を表すものであるから、これらを簡潔に組み 25 合わせた「くるんっと前髪カーラー」の語句が本件商品について使用された場合に は、これに接した取引者又は需要者は、当該語句につき、これが「くるんとした前 髪になるように前髪にクセを付けることができるカーラー」などという本件商品の 品質、特徴等を簡潔に表した一種の宣伝文句ないしキャッチフレーズであるとごく 自然に認識し、又は理解するといえ、そのような認識又は理解が生じることを妨げ る特別の事情は見いだし難い。そうすると、本件商標は、本件商品の品質、特徴等 5 を簡潔に表したものにすぎず、本件商品についての宣伝文句を表示する標章のみか らなる商標に当たるから、本件商標は、その実際の使用例の有無にかかわらず、需 要者が何人かの業務に係る商品又は役務であることを認識することができない商標 (商標法3条1項6号に掲げる商標)に該当するというべきである。 (3) 被告の主張について 10 ア 「くるんっと前髪カーラー」の語句の中に「くるんっと」の語が修飾する動 詞が存在しないとしても、前記1(2)オ(イ)のとおり、そのことは、本件商標に接し た取引者又は需要者において、「くるんっと」の語が「カーラーを使用してカール させた前髪の様子」などを表していると自然に理解し、又は認識することを妨げる 事情とはならない。 15 イ 取引の実情として、被告が主張する事実及びこれに関する証拠は、以下のと おり、本件商標が商標法3条1項6号に掲げる商標に該当することを覆すに足りる ものではない。 (ア) 乙7(被告商品が紹介されたとする19点の刊行物を被告において表にま とめたもの)については、「画像なし」とされる6点の刊行物の内容が不明である 20 し、その余のものについても、具体的な内容を確認することは困難である。各刊行 物の発行部数も示されておらず、これらがどの程度の数の取引者又は需要者に到達 したのかも不明である。仮に、乙7に記載されたとおり、被告商品が平成28年9 月から令和5年1月までの6年4か月の間に19点の刊行物において紹介されたと しても、平均して約4か月に1回掲載された程度にとどまる。 25 (イ) 被告が主張するインスタグラム及びツイッターにおける投稿記事(乙8の 1から5まで)は、全部で5点にすぎないし、例えば、10万名を超えるフォロワ ーを有するアカウントの保有者が被告商品について投稿したとしても、タイムライ ンに流れてくる無数の記事の中から何名のフォロワーが被告商品に係る記事を読ん で内容を理解したのかは不明である。乙8の3の投稿記事については、9364件 の「いいね」が付されたとされるが、この投稿記事に係るアカウントの保有者は、 5 タレントであって、9364件の「いいね」は、当該タレントの人気を示すものと 評価することはできても、被告商品が広く知られていることを直ちに示すものでは ない。かえって、インスタグラムにおける被告の公式アカウントのフォロワーが1 648名にすぎないことに照らすと、前記「いいね」を付した9364名の大半は、 当該タレントにのみ関心があるのであり、被告や被告商品を全く認識していないこ 10 とがうかがわれる。 (ウ) 被告商品が平成11年1月の発売当初から200万個以上売れているとの
被告の主張を裏付ける客観的な証拠はない。なお、化粧品口コミサイト(甲44) によると、被告商品の発売時期は、平成27年3月3日であるとされ、平成11年 1月から本件商標を使用して被告商品を販売していたとの被告の主張には、大きな 15 疑問が残る。 3 取消事由3(商標法4条1項16号該当性についての判断の誤り)について (1) 本件商標が商品の品質等に係る具体的な意味合いを認識させ、又は理解さ せるものであることについて 前記1(2)のとおり、本件商標は、本件商品について使用されたときは、「くる 20 んとした前髪になるように前髪にクセを付けることができるカーラー(頭髪を巻き 付けてカールさせるための円筒形の用具)」などの具体的な意味合いを認識させ、 又は理解させるものであるから、本件商標が同号に掲げる商標に該当しないとの本 件審決の判断は、その前提を誤るものとして失当である。 (2) ある商標につき商標法3条1項3号に掲げる商標や同項6号に掲げる商標 25 に該当しないことが当該商標につき同法4条1項16号に掲げる商標に該当しない ことを意味しないことについて 商標法3条1項3号、同項6号及び同法4条1項16号は、それぞれその要件を 異にする別個の規定であるから、ある商標が同法3条1項3号に掲げる商標や同項 6項に掲げる商標に該当しないが、同法4条1項16号に掲げる商標には該当する という場合は存在する。したがって、仮に、本件商標に何らかの自他商品識別力が 5 あり、本件商標が同法3条1項3号に掲げる商標や同項6号に掲げる商標に該当し ないとしても、そのことは、本件商標が同法4条1項16号に掲げる商標に該当し ないことを意味するものではない。 (3) 商品の品質の誤認の可能性について ア 本件商品(電気式のものを除くヘアカーラー)には、前髪用のヘアカーラー 10 以外のヘアカーラーや「くるんとした前髪になるように前髪にクセを付けることが できる」ようなものではないヘアカーラーが含まれる。 イ 本件商標の構成中の「前髪」及び「カーラー」の各語からは、その語義に相 応する極めて明確な意味合いしか認識されない。 また、女性を中心とする需要者向けの前髪用のヘアカーラーの分野及び美容の分 15 野において、「くるんっと」、「くるんと」及び「くるん」の各語が使用されてい る状況(甲13の1から22まで、甲21から28まで)に照らすと、「くるんっ と」の語が「前髪カーラー」の語と結合され、本件商品(ヘアカーラー)について 使用されるときは、「くるんっと」の語から「くるんと前髪が巻かれた様子」の意 味合いが認識され、又は理解される場合があることは否定されない。 20 ウ そうすると、本件商標から「くるんとした前髪になるように前髪にクセを付 けることができるカーラー」などの意味合いを認識し、又は把握する取引者又は需 要者において、前髪用のヘアカーラー以外のヘアカーラーや「くるんとした前髪に なるように前髪にクセを付けることができる」ようなものではないヘアカーラーに ついて使用される本件商標に接した場合には、当然に、商品の品質について誤認を 25 生ずることになる。商標法4条1項16号は、商標が表す観念とこれが使用される 商品等とが符合しないことにより、需要者等が誤った商品を購入するなどする錯誤 を防止し、需要者等の保護を図ることを目的とするところ、前記のように商品の品 質について誤認する取引者又は需要者の存在を否定することができない以上、本件 商標は、同号に掲げる商標に該当するというべきである。このことは、本件審決の ように、本件商標が商品の品質表示として具体性を欠くと考えた場合でも同様であ 5 る。 (4) 商標登録の全体が無効にされるべきであることについて 商標法4条1項16号の文言に照らすと、ある商標が指定商品の一部について商 品の品質の誤認を生ずるおそれがある商標に該当する以上、当該商標に係る商標登 録には同号に違反してされたとの無効理由が存在することになるのであるから、そ 10 のような商標登録は、全体として無効にされるべきである。 本件商標は、本件商品のうち前髪用のヘアカーラー以外のヘアカーラーや「くる んとした前髪になるように前髪にクセを付けることができる」ようなものではない ヘアカーラーについて使用されるときは、商品の品質の誤認を生ずるおそれがある 商標に該当するものであるから、本件商品についての本件商標登録は、全体として 15 無効にされなければならない。 (5) 被告の主張について ア 本件商標の構成中に「くるんっと」の語が修飾する動詞が存在しないとして も、前記1(2)オ(イ)のとおり、そのことは、本件商標に接した取引者又は需要者に おいて、「くるんっと」の語が「カーラーを使用してカールさせた前髪の様子」な 20 どを表していると自然に理解し、又は認識することを妨げる事情ではない。また、 仮に、本件商標から「くるんとした前髪になるように前髪にクセを付けることがで きるカーラー」などの意味合い以外の意味合いが認識されることがあるとしても、 本件商標から「くるんとした前髪になるように前髪にクセを付けることができるカ ーラー」などの意味合いを認識し、又は理解する取引者又は需要者が存在すること 25 を否定することができない以上、商品の品質の誤認を生ずるおそれがあることには 変わりはない。 イ また、本件商標から「くるんとした前髪になるように前髪にクセを付けるこ とができるカーラー」などの商品の品質、効能、用途等に関する具体的な意味合い が認識される以上、本件商標がそれ以外のヘアカーラー等に使用されるときは、当 然に商品の品質について誤認を生ずるおそれがある。仮に、被告商品を被告が主張 5 するような用途(前髪以外の毛先にカールを付ける用途)に使用する需要者が存在 したとしても、そのことは、商品の品質について誤認を生ずるおそれがあるとの結 論を左右するものではない。 第4 被告の主張 1 取消事由1(商標法3条1項3号該当性についての判断の誤り)について 10 (1) 本件商標が商品の品質等を少なくとも直接的には表示していないことにつ いて ある商標が商品の品質、効能、用途その他の特徴を表示していない場合、当該商 標が商標法3条1項3号に掲げる商標に該当しないことはいうまでもないが、当該 商標が商品の品質等の特徴を間接的に表示する場合であっても、これを直接的に表 15 示していないときは、当該商標は、同号に掲げる商標に該当しないと解するのが相 当である。 これを本件商標についてみるに、本件商標の構成中の「くるんっと」の語は、副 詞であるところ、本件商標の構成中には、これを明確に受ける動詞が存在しないか ら(なお、正確性が要求される新聞記事においては、「くるんと」の語は、必ず動 20 詞と共に使用されている(甲13の9から12まで)。)、本件商標の全体を一体 的に見た場合、「くるんっと」、「前髪」及び「カーラー」の各語が互いにどのよ うな関係にあるのかを明確に把握することができず、本件商標が意味するところは、 一義的に特定することができるものではない。例えば、「くるんっと前髪カーラー」 の語句に動詞を適切に補うなどした場合、「くるんっと前髪カーラー」の語句から 25 は、「くるんっと丸まった弾力のある表面を有する前髪用のカーラー」、「くるん っと振り向いてもキープされるカールを作る前髪用のカーラー」、「くるんっと寝 返りを打っても前髪のカールを作ることができるカーラー」、「前髪を挟んでくる んっと回すカーラー」などの様々な意味合いが想起される(乙4の1及び2、乙5 の1)。 したがって、本件商標が本件商品について使用された場合、本件商標が「くるん 5 とした前髪(軽やかに巻かれた前髪)になるように前髪にクセを付けることができ るカーラー」といった程度の意味合いを暗示する場合があるとしても、そのような 意味合いは、いまだ漠然としたものにとどまるから、本件商標は、商品の品質等を 少なくとも直接的かつ具体的に表示するものとはいえず、商標法3条1項3号に掲 げる商標に該当しない。 10 (2) 「くるんっと前髪カーラー」の語句が商品の具体的な品質等を表示するも のとして取引上普通に使用されているとの事実がないことについて ある商標が商品の具体的な品質等を表示するものとして取引上普通に使用されて いるとの事実がないことは、当該商標が商標法3条1項3号に掲げる商標に該当す ることを否定する事情であると解される。 15 これを本件商標についてみるに、被告商品について使用されている場合を除き、 「くるんっと前髪カーラー」の語句は、本件査定日当時、本件商品の分野において、 商品の具体的な品質等を表示するものとして一般的に使用されていたものではない し、商品の具体的な品質等を表示するものであると一般的に認識されていたもので もない(乙1)。 20 したがって、本件商標は、この点からも、商標法3条1項3号に掲げる商標に該 当しない。 (3) 本件商標が独占適応性を有することについて 前記(1)のとおり、「くるんっと前髪カーラー」の語句は、いまだ漠然とした意 味合いを想起させるにとどまるものであるから、当該語句が普通名称であるという 25 ことはできない。また、「くるんっと」などの語は、他の語と組み合わせることに より、本件商標に係る商標権を侵害しない形で使用することができる。仮に、第三 者が「くるんとした前髪になるように前髪にクセを付けることができるカーラー」 であることなどを表現したいのであれば、当該第三者は、例えば、「前髪をくるん っと作るカーラー」などの表現を用いることにより、本件商標に係る商標権の侵害 を回避することができる。さらに、前記(2)のとおり、被告商品について使用され 5 ている場合を除き、「くるんっと前髪カーラー」の語句は、本件査定日当時、本件 商品の分野において、商品の具体的な品質等を表示するものとして一般的に使用さ れていたものではないし、商品の具体的な品質等を表示するものであると一般的に 認識されていたものでもない。加えて、後記2のとおり、本件商標が自他商品識別 力を有していることも併せ考慮すると、「くるんっと前髪カーラー」の標章につき 10 特定の者による独占使用を認めても、何ら弊害はない。 したがって、本件商標を特定の者に独占使用させることが公益上適当でないとい うことはできない。 2 取消事由2(商標法3条1項6号該当性についての判断の誤り)について (1) 本件商標がその構成自体から自他商品識別力を有することについて 15 前記1(1)のとおり、「くるんっと前髪カーラー」の語句は、いまだ漠然とした 意味合いを想起させるにとどまるものであるし、また、本件商標は、全体として不 可分に結合しているといえるところ、このように全体として不可分に結合している 「くるんっと前髪カーラー」の語句は、商品の具体的な品質等を表示するものとし て取引上普通に使用されているものではなく、前記1(2)のとおり、被告以外の者 20 が「くるんっと前髪カーラー」の語句又はこれに類似する語句を宣伝文句として使 用している事実はないから、本件商標は、その構成自体から自他商品識別力を有す るものである。 なお、原告は、「前髪くるんとカーラー」の語句を自己の商品の名称(自他商品 識別標識)として使用し、当該商品を令和3年3月25日から販売していた(乙 25 2)。これは、本件商標が自他商品識別機能を発揮し得ることを示している。 (2) 取引の実情を考慮すると、本件商標が自他商品識別力を有することについ て 以下のとおりの取引の実情を考慮すると、本件商標は、被告の業務に係る商品を 表示するものとして、需要者に広く認識されるに至っていたものであり、自他商品 識別力を有するものである。 5ア 前記1(2)のとおり、「くるんっと前髪カーラー」の語句は、本件査定日当 時、本件商品の分野において、商品の品質等を表示する一般用語として使用されて いたものではないし、商品の品質等を表示する一般用語であると認識されていたも のでもない。 イ 被告商品の使い方を紹介した動画は、本件査定日当時、20万回以上も再生 10 されていた(乙6)。 ウ 被告商品は、本件査定日前から、多数の雑誌において紹介されていた(乙 7)。 エ 被告商品は、本件査定日前から、インスタグラム及びツイッターにおいて、 カーラーを需要者に紹介するに当たって影響力のある者(美容師、著名人等)によ 15 り紹介されていた(乙8の1から5まで)。 オ 被告商品は、平成11年1月の発売当初から現在に至るまで、合計200万 個以上売れている大ヒット商品であり、本件査定日前から、広く日本全国において 販売されていた(乙9の1から6まで)。 (3) 小括 20 以上のとおりであるから、本件商標は、商標法3条1項6号に掲げる商標に該当 しない。 3 取消事由3(商標法4条1項16号該当性についての判断の誤り)について (1) 本件商標から認識される意味合いによって商品の品質の誤認が生じないこ とについて 25 本件商標は、いまだ漠然とした意味合いを想起させるにとどまるものであり、本 件商標に接した取引者又は需要者が認識する省略された動詞のいかんによって、本 件商標から想起される意味合いが変化するところ、本件商標からどのような意味合 いが想起されるにせよ、商品の品質の誤認は生じない。 (2) 取引の実情等を考慮すると、商品の品質の誤認が生じないことについて
被告商品は、前髪以外の毛先にカールを付ける用途にも使用されており(乙10 5 の1及び2)、このような取引の実情等を考慮すると、需要者において、原告が主 張するヘアカーラー(前髪用のヘアカーラー以外のヘアカーラーや「くるんとした 前髪になるように前髪にクセを付けることができる」ようなものではないヘアカー ラー)について使用される本件商標に接したとしても、当然に商品の品質の誤認を 生ずることにはならない。 10 (3) 小括 以上のとおりであるから、本件商標は、商標法4条1項16号に掲げる商標に該 当しない。 第5 当裁判所の判断 1 取消事由1(商標法3条1項3号該当性についての判断の誤り)について 15 (1) 本件商標の構成について 本件商標は、「くるんっと前髪カーラー」の文字を標準文字で表してなるもので あるから、本件商標を構成する文字は、当然に、同じ大きさ及び同じ書体のもので あり、また、これらの文字は、当然に、等間隔かつ横一列に、まとまりのある態様 で並べられている。したがって、本件商標は、これを構成する文字の全体をもって、 20 一連一体の語句を表すものであると理解されるものである。本件商標の商標法3条 1項3号該当性を判断するに当たっては、このような一連一体の語句を構成する各 語の意味に加え、取引の実情に照らし、取引者又は需要者によって、当該一連一体 の語句が、商品の品質、効能、用途等の特徴を示すものと一般に認識されるもので あるかどうかを検討する必要がある(昭和61年最判参照)。 25 (2) 本件商標に接した取引者又は需要者の認識について ア 辞典の記載 (ア) 甲8(小野正弘編「擬音語・擬態語4500 日本語オノマトペ辞典」 (平成19年))には、「くるん」の語の意味として「はずみをつけて回るさま。 軽やかに巻かれているさま。」との記載があり、その用例として「理想は、年齢を 問わず、バービー人形のような『くるんとカールしたまつげ』とする人が多く」が 5 挙げられている。また、甲10(山口仲美編著「暮らしのことば擬音・擬態語辞 典」(平成15年))には、「くるん」の語の意味として「初めに加わった力の勢 いではずみがついて、物が軽やかに一回転または半回転する様子。」との記載があ り、その用例として「わたし、車ごとくるんと引っ繰り返った」が挙げられている。 (イ) 甲11(新村出編「広辞苑第七版」(平成30年))には、「前髪」の語 10 の意味として「額に垂れ下がる髪。」などの記載がある。 (ウ) 甲12(新村出編「広辞苑第七版」(平成30年))には、「カーラー」 の語の意味として、「頭髪を巻きつけてカールさせるための円筒形の用具。」との 記載がある。 イ ウェブサイトにおける使用例(後掲証拠上、本件査定日(令和3年5月24 15 日)より前に掲載されていたことが認められるものについてのみ列挙したが、使用 例自体はこれに限られない。) (ア) 甲13の2(令和元年掲載)には、「【前髪 巻き方】簡単くるん前髪」 との標題の下、「今回は、前髪の巻き方動画です。今は前髪がすこし長めで、毛先 をくるんっと巻いた、すこし女性らしさが増すバージョン。」との記載がある。 20 (イ) 甲13の5(平成29年掲載)には、「中途半端な前髪をくるんっと綺麗 に巻く方法…綺麗に巻きたいけれど、カールがつきすぎるとバランスを取るのが難 しいのでなかなか上手く扱えないというお悩みを持っている方も多いようです。」 との記載がある。 (ウ) 甲13の6(平成30年掲載)には、「くるんっとした前髪やほっぺがチ 25 ャームポイントのミス・カフェオーレ隊。」との記載があり、その下に、丸まった 前髪を有する人物の写真が掲載されている。 (エ) 甲13の7(平成28年掲載)には、「くるんっと可愛い《ハート前髪》 で愛され女子に大変身…前髪をくるんっと内側に巻いて逆さまの形のハートを作り ます…くるんっとした前髪がポイント…前髪がくるんっとするだけで愛らしさがU Pしますよね」との記載がある。 5 (オ)甲13の16(平成27年掲載)には、「僕はくせ毛で前髪がくるんとな っています。…前髪の痛みを直しながら前髪をくるんとならないようにすることは 出来るのでしょうか?…前髪をくるんとならないようにする方法を教えてください」 との記載がある。 (カ) 甲13の18(平成23年掲載)には、「前髪がくるんってウェーブがか 10 かっているのが嫌で、前髪だけストレートパーマをかけてもらいたいと思っている のですが、出来れば何もしないで前髪をストレートに近いようにならないかと思っ ています。」との記載がある。 (キ) 甲13の19(平成24年掲載)には、「自分は髪の毛の前髪がいつもく せ毛でくるんってなるんですけどどうすれば直りますか?」との記載がある。 15 (ク) 甲13の20(平成25年掲載)には、「前髪くるんって巻いて流すのや りたいけど絶望的に似合わなかったから、それ以来前髪は年甲斐もなくAKB風で す」との記載がある。 (ケ) 甲13の21(平成29年掲載)には、「前髪くるんっ!のやり方」との 標題の下、「今回は、前髪くるんっの仕方を動画にしてみました…コテでするのも 20 全然ありだけど火傷しやすかったりしたのでりかりこは、ストレートアイロンでし ています…他にも、ヘアアレンジや、髪の巻き方などリクエストがあれば twitter へお願いします」との記載がある。 (コ) 甲13の25(令和2年掲載)には、「くるんっとしたお人形みたいなま つげに!…これでカール長続きのお人形さんまつげの完成です!!」との記載があ 25 る。 (サ) 甲24(平成30年掲載)には、「前髪のカーラーを1.5回転程巻ける くらい細いものにすると、仕上がりがクルンとしたカールになります。」との記載 がある。 (シ) 甲25(平成29年掲載)には、「くるんっ…女子が大好き憧れのくるん 前髪です」との記載があり、その上に、丸まった前髪を有するウィッグの写真が掲 5 載されている。 (ス) 甲26(平成30年掲載)には、「USB型前髪カーラーとは、100均 などにも売られているカーラーに、USBポートがついたもの!スマホの充電器や パソコン、モバイルバッテリーさえあればだいたい2〜3分であたたまって、あと は数秒前髪をはさめばきれいにくるんっとカールすることができるんです」との記 10 載がある。 (セ) 乙4の1(令和2年掲載)には、被告商品の使用方法の紹介として、「く るんと巻きます。」との記載がある。 (ソ) 乙4の2(平成30年掲載)には、被告商品のレビューとして、「はさん でクルンとするだけで、しっかりホールドされて落ちて来ないし持ち運びにも軽く 15 て便利だし大変重宝しています」との記載がある。 (タ) 乙8の3(令和2年掲載)には、被告商品の説明として、「ナチュラルに くるんとしてくれる」との記載がある。 (チ) 乙8の5(令和2年掲載)には、被告商品の説明として、「前髪ふんわり …くるんがキマると気分も軽やかになりますよね…はさんでくるっの超簡単ステッ 20 プで理想の前髪」との記載及び「これ手間いらず技術いらずで前髪がいい感じにク ルンってなるので私も大好きです!」との記載がある。 (ツ) 乙9の6(令和2年掲載)には、被告商品の説明として、「挟んでくるっ っとするだけ。…この安さでこんなカンタンでちゃんとキレ〜なくるん前髪になっ てくれるとは」との記載がある。 25 (テ) 乙10の2(令和2年掲載)には、被告商品の説明として、「前髪カーラ ーを使えば、4ステップでくるんっと可愛らしい前髪ができますよ」との記載があ る。 ウ 新聞記事における使用例 (ア) 甲13の8(平成25年の記事)には、「僕の髪は長くて前髪があって、 くるんとはねているイメージがすごくあると思うので、ガラッとビジュアルを変え 5 た方が作品の世界に引き込むことができるので」との記載がある。 (イ) 甲13の9(平成22年の記事)には、「私が小学生時代にハマったのは アニメ「キャンディ・キャンディ」。原作マンガでもおなじみの、長い巻き毛を両 耳上で結んだ髪形が特徴です。私は母のカーラーで直毛を巻き、涙ぐましい努力で キャンディに。でも自分で切った前髪はくるんと真ん中でカールせず、あらぬ方向 10 にはねました。」との記載がある。 (ウ) 甲13の10(平成20年の記事)には、「トカラヤギは、…オスは前髪 が、くるんとカールしているのが特徴だ。」との記載がある。 (エ) 甲13の11(平成10年の記事)には、「くるんとカールした前髪とウ エーブしたロングヘアーをメドゥーサのように風に舞わせながら、グリーンのスー 15 ツにパンプスをはいたバスガイドさんが、お客さんたちを先導して一応がけの眺望 を見せにやってきます。」との記載がある。 (オ) 甲13の12(平成3年の記事)には、「立ち見のコンサートに行った友 達が「前にいたオンナのとさかで全然見えなかったよ!」と怒りをぶちまけた。と さかとは、前髪の前半分を額に下ろし、残り半分をくるんと巻いて立てた若い女の 20 子たちの髪形だ。…カーラーで巻いてムースで整えればいいんだって。」との記載 がある。 エ 検討 前記ア(イ)及び(ウ)のとおり、「前髪」及び「カーラー」の各語は、本件査定日当 時、それぞれ前記ア(イ)及び(ウ)の意味を有するものとして、我が国において高い信 25 頼性を有すると認められる国語辞典に掲載されていたものであるところ、弁論の全 趣旨によると、当該各語がそのような意味を有する語であることは、本件査定日当 時、本件商品に係る取引者又は需要者(以下、本件商品に係る本件査定日当時の取 引者又は需要者を「本件需要者等」という。)にとって極めて明確であったものと 認められる(以下、本件商標に接した本件需要者等の認識を検討するに当たり、 「前髪」及び「カーラー」の各語については、「額に垂れ下がる髪」、「頭髪を巻 5 き付けてカールさせるための円筒形の用具」などと敷えんすることはせず、これら の語をそのまま用いることとする。)。 他方、辞典に記載された「くるん」の語の意味及び用例(前記ア(ア))、本件査 定日前のウェブサイト及び新聞記事における「くるんと」等の語の使用例(前記イ 及びウ)並びに日本語の文法に照らすと、「くるんと」の語は、前髪を含む毛髪に 10 ついて用いられるときは、通常、「(毛髪が)丸く曲がった様子」を示す語として 用いられている。また、ウェブサイトにおける「くるんと」等の語の使用例(前記 イ)に照らすと、「くるんと」の語と「くるんっと」の語は、促音の有無により互 いに意味を異にするものとは認められない。そうすると、「前髪」の語の直前に置 かれた本件商標の構成中の「くるんっと」の語は、それが副詞として修飾すること 15 になる用言(動詞、形容詞等)が明示されていなくても、その内容は自明であって、 通常、「(前髪が)丸く曲がった様子」を示すものとして、本件需要者等に認識さ れるものと認めるのが相当である。 なお、ウェブサイトにおける「くるんと」等の語の使用例の中には、「くるんと」 等の語が、毛髪が丸く曲がった様子を示すというよりも、商品であるカーラーを回 20 転させる動作の様子を示す副詞として用いられていると認められるもの(@「くる んと巻きます」(前記イ(セ))、A「はさんでクルンとする」(前記イ(ソ))、B 「はさんでくるっの超簡単ステップ」(前記イ(チ))、C「挟んでくるっとするだ け」(前記イ(ツ)))がある。しかし、仮に、本件商標の構成中の「くるんっと」 の語がカーラーを回転させる動作の様子を示す語として用いられていたとしても、 25 当該語は、カーラーを使用する者の当たり前の動作を表現するものにすぎないから、 商標法3条1項3号該当性との関係では、商品の用途や使用の方法を普通に用いら れる方法で表示したことになるだけであり、かつ、当該動作によりカーラーを使用 した結果は、前髪が丸く曲がった状態のはずであるから、本件商標に接した本件需 要者等の認識が前記したもの(「くるんっと」という語は、前髪が丸く曲がった様 子を示すものであるとの認識)と異なるものになるとは思われない。 5 以上によると、本件査定日当時、被告商品(甲14、15の1及び2、甲42、 44)及び商品名を「前髪くるんとカーラー」とする原告の商品(乙2)を除くほ か、「くるんっと前髪カーラー」の語句又はこれに準ずる語句を本件商品について 用いる例があったと認めるに足りる証拠がないことを考慮しても、「くるんっと前 髪カーラー」の語句に接した本件需要者等は、通常、当該語句が「丸く曲がった前 10 髪を作るカーラー」を意味するものと認識することになると認めるのが相当である。 なお、証拠(甲14、15の1及び2、甲42、44)及び弁論の全趣旨によると、
被告は、本件査定日当時、被告商品の品質、効能等をうたう宣伝文句として、「く るんっとカールした前髪ができちゃう!」及び「くるんっと内側にカールした前髪 をセットするためのカーラーを考えました」との文言を用いていたとの事実が認め 15 られるが、これは、「くるんっと前髪カーラー」の語句に接した本件需要者等にお いて、当該語句が「丸く曲がった前髪を作るカーラー」などを意味するものと認識 したとの上記認定に符合するものである。 オ 被告の主張について
被告は、本件商標の構成中の「くるんっと」の語は副詞であるのに、本件商標の 20 構成中にはこれを明確に受ける動詞が存在せず、本件商標が意味するところは一義 的に特定することができるものではないと主張する。 確かに、「くるんっと」という擬態語は、文法上、用言(動詞、形容詞等)を修 飾する副詞であると考えられるにもかかわらず、本件商標の構成中の「前髪」及び 「カーラー」の各語は、いずれも名詞であるから、「くるんっと」の語が修飾すべ 25 き語が本件商標の構成中には見られないことになる。しかしながら、本件需要者等 において、「くるんっと」、「前髪」及び「カーラー」の各語の相互の修飾関係が 文法的に正確なものでなければ、これらの語を順番に並べた語句の意味を一義的に 把握することができないということはできない。実際、ウェブサイトにおける「く るんと」等の語の使用例の中にも、「前髪くるんっの仕方」との語句を用いた例 (前記イ(ケ))、「くるん前髪」との語句を用いた例(前記イ(シ))、「くるんがキ 5 マる」との語句を用いた例(前記イ(チ))、「くるん前髪」との語句を用いた例 (前記イ(ツ))等がみられるところ、これらは、いずれも文法的に正しい表現では ないが、そのことをもって、その意味するところが不明確になるということはでき ない。
被告は、「くるんっと前髪カーラー」の語句からは、@「「くるんっと丸まった 10 弾力のある表面」を有する前髪用のカーラー」、A「「くるんっと振り向いても」 キープされるカールを作る前髪用のカーラー」、B「「くるんっと寝返りを打って も」前髪のカールを作ることができるカーラー」、C「前髪を挟んで「くるんっと 回す」カーラー」などの様々な意味合いが想起されるとも主張する。 しかしながら、このうち、前記@からBまでのような意味合いは、理論的にはあ 15 り得るとしても、前記ウェブサイトの使用例その他本件に提出された全証拠によっ ても、「前髪」や「カーラー」と一緒に使用される場合の「くるんっと」という語 は、もっぱら「(前髪が)丸く曲がった様子」を示すために用いられていることが 認められ、被告が主張するような意味合いで用いられている例は見当たらない。ま た、前記Cの意味合いについては、そのような意味合いが生じる使用例(前記イ 20 (セ)、(ソ)、(チ)及び(ツ))は存在するものの、前記エにおいて説示したところに照ら すと、商標法3条1項3号該当性に関する判断を左右するに足りるものではない。 以上のとおりであるから、被告の前記各主張を採用することはできない。 (3) 本件商標の商標法3条1項3号該当性について 前記(2)のとおり、「くるんっと前髪カーラー」の語句に接した本件需要者等は、 25 当該語句が「丸く曲がった前髪を作るカーラー」を意味すると認識することになる ところ、「カーラー」は、「頭髪を巻き付けてカールさせるための円筒形の用具」 であるから(前記(2)ア(ウ))、「くるんっと前髪カーラー」の語句は、単に本件商 品(電気式のものを除くヘアカーラー)の効能等を述べたものにすぎない。また、 本件商標は、「くるんっと前髪カーラー」の語句のみからなり、当該語句を標準文 字で表すものであって、本件商品の効能等を普通に用いられる方法で表示するもの 5 である(「くるんと」の語に促音を付加した「くるんっと」の語を用いた表現が特 殊なものであるということはできない。)。したがって、本件商標は、本件商品の 品質、効能等を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標であるとい うことができるから、商標法3条1項3号に掲げる商標に該当する。
被告は、本件商標は本件商品の品質等を直接的かつ具体的に表示するものとはい 10 えないから、同号に掲げる商標に該当しないと主張する。しかしながら、前記(2) において説示したところに照らすと、本件商標は、本件商品の品質、効能等を間接 的に暗示するにとどまるものではなく、これを直接的かつ具体的に表示するもので あると認められるから、同主張は採用することができない。 また、被告は、「くるんっと前髪カーラー」の標章につき特定の者による独占使 15 用を認めても何ら弊害はないと主張する。しかしながら、「くるんっと前髪カーラ ー」が「丸く曲がった前髪を作るカーラー」などを意味するものとして、本件商品 の品質、効能等を普通に用いられる方法で表示する標章である以上、他の事業者に おいて、本件商品に該当する商品の製造、販売等をするに当たり、「くるんっと前 髪カーラー」と同一又は類似の標章を用いようとすることは当然に想定されるとこ 20 ろであるから、「くるんっと前髪カーラー」の標章につき独占使用を認めても何ら 弊害はないとの被告の主張を採用することはできない。 (4) 小括 以上のとおり、本件商標は、商標法3条1項3号に掲げる商標に該当するから、 これと異なる本件審決の判断は誤りであり、取消事由1は理由がある。 25 2 結論 以上の次第であるから、その余の取消事由について検討するまでもなく、原告の 請求は理由がある。 知的財産高等裁判所第2部 5 裁判長裁判官 清水響 10 裁判官 浅井憲 15 裁判官 勝又来未子
裁判所 知的財産高等裁判所
判決言渡日 2023/09/07
権利種別 商標権
訴訟類型 行政訴訟
事実及び理由
全容