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関連審決 無効2021-890054
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事件 令和 5年 (行ケ) 10050号 審決取消請求事件
5
原告X
同訴訟代理人弁護士 長谷川正太郎
被告 株式会社エスエス・キャリア 10
同訴訟代理人弁護士 成川弘樹 飛世貴裕
裁判所 知的財産高等裁判所
判決言渡日 2024/02/05
権利種別 商標権
訴訟類型 行政訴訟
主文 1 原告の請求を棄却する。
15 2 訴訟費用は、原告の負担とする。
事実及び理由
原告の求めた裁判
特許庁が無効2021-890054号事件について令和5年3月30日にした 審決を取り消す。
20 第2 事案の概要 本件は、原告の有する登録第6401321号商標(以下「本件商標」という。) の商標登録を無効とした審決の取消訴訟であり、争点は、本件商標が商標法4条1 項10号及び同項7号に該当するか否かである。
1 本件商標25 本件商標は、別紙登録商標目録記載のとおりのものである。
原告は、本件商標について、令和2年7月31日に登録出願し、令和3年6月2 日に登録査定を受け、同月11日に設定登録がされた。
2 特許庁における手続の経緯等 被告は、本件商標について、商標法4条1項10号及び同項7号に該当するもの であるから、同法46条1項によりその登録を無効とすべきであると主張して、無 5 効審判請求をした。特許庁は、同無効審判請求を無効2021-890054号事 件として審理した上、令和5年3月30日、
「登録第6401321号の登録を無効 とする。」との審決(以下「本件審決」という。)をし、その謄本は、同年4月7日、
原告に送達された。
原告は、同年5月8日、本訴を提起した。
10 3 本件審決の理由の要点 (1) 商標法4条1項10号該当性について ア 引用商標の周知性について (ア) 別紙被告商標目録記載の商標及び「美容医局」の文字からなる商標を併せて 「引用商標」という。
15 (イ) 被告は、遅くても平成24年には、美容外科・美容皮膚科専門の有料職業紹 介事業(以下「本件サービス」という。)の提供を開始し、本件商標の登録出願日前 から登録査定後においても継続して、引用商標を本件サービスについて使用してい ることが認められる。
(ウ) そして、本件サービスの転職希望者による実際の利用状況、本件サービスに20 係る求人数及び求人情報の内容、本件サービスに係るセミナーの開催状況や広告の 配信状況、広告宣伝費及び売上額の状況等からすれば、本件サービスは、美容外科・ 美容皮膚科専門の有料職業紹介事業であって、その需要者は、美容外科・美容皮膚 科専門の医師等に限定されてはいるものの、当該需要者に広く知られていたといえ るものであるから、本件サービスに使用されている引用商標は、本件商標の登録出25 願時及び登録査定時において、本件サービス、すなわち被告の業務に係る役務「職 業のあっせん、職業の紹介」を表示するものとして、需要者の間に広く認識されて いたものと認めることができる。
イ 本件商標と引用商標との類否について 本件商標と引用商標とは、
「美容医局」の文字、
「ビヨウイキョク」の称呼及び「被 告のブランド」の観念を共通にし、外観称呼及び観念において相紛らわしいもの 5 であるから、相紛れるおそれのある類似する商標である。
また、本件商標の指定役務中「職業のあっせん、求人情報の提供、人材派遣によ る職業のあっせん、人材派遣による求人情報の提供」と被告の業務に係る役務「求 人情報の提供、職業のあっせん」とは、同一又は類似の役務である。
ウ 小括10 以上からすれば、本件商標は、被告の業務に係る役務を表示するものとして需要 者の間に広く認識されていた引用商標と同一又は類似の商標であって、その指定役 務中「職業のあっせん、求人情報の提供、人材派遣による職業のあっせん、人材派 遣による求人情報の提供」は、商標法4条1項10号に該当する。
(2) 商標法4条1項7号該当性について15 原告は、平成27年から平成30年までの間、医療法人美彩会(以下「美彩会」 という。)の理事(担当者)として、被告と美彩会との間で平成27年9月30日に 締結した医師・看護師・コメディカルスタッフ人材紹介取引基本契約(以下「本件 契約」という。)に関連し、被告と頻繁に連絡を取り合っていたことが認められる。
「美容医局」の文字が平成24年から継続して被告のウェブサイトに表示されて20 おり、本件商標の登録出願時には、需要者の間に広く認識されていたこと等を総合 して勘案すれば、原告は「美容医局」の文字を被告の業務に係る役務に使用されて いる商標であると認識していたとみるのが自然である。
さらに、原告が「美容医局」という名称を無料の職業紹介に使用していた事実を 裏付ける証拠はない上に、原告が近年(令和2年)になって初めて「美容医局」の25 文字を商標登録出願し、本件商標を使用している合同会社エムアールエム(以下「エ ムアールエム」という。)が職業紹介事業を登録したのも同年であること、原告が、
被告ドメイン(biyou-ikyoku.com)と紛らわしい原告ドメイン(b iyoikyoku.com)をエムアールエムに使用させ、被告の業務に混同を 生じさせていること等も合わせ考慮すれば、原告は、
「美容医局」の文字が被告によ って商標登録されていないことを奇貨として、引用商標に化体した信用、名声及び 5 顧客吸引力に便乗して被告の業務を妨害する目的をもって引用商標と同一の文字よ りなる本件商標の登録を得たものというべきである。このような本件商標の登録出 願や経緯等に鑑みれば、本件商標の出願登録は社会通念に照らして社会的相当性を 欠く事情があるというべきであるから、本件商標は公の秩序に反するものであると 判断するのが相当である。
10 したがって、本件商標は商標法4条1項7号に該当する。
原告の主張する取消事由
本件審決は、本件商標が商標法4条1項10号及び7号に該当すると判断したが、
本件審決の同各号該当性に係る判断には誤りがあるから、本件審決は取り消される べきである。
15 1 商標法4条1項7号該当性に係る判断の誤り (1) 法令解釈の誤り 本件商標の構成自体は公序良俗に反するものではない。本件審決は、登録出願の 経緯が「著しく」社会的相当性を欠き、
「到底容認し得ないような場合」に該当する かどうかについて判断しておらず、商標法4条1項7号の法令解釈を誤っている。
20 (2) 本件商標の出願の経緯 原告は、被告との紛争終了から約2年が経過した令和2年、知人の勧めにより、
美容関係の医師等の紹介業の展開の検討を始めた。また、原告の交際相手がスタイ リストであり、同年2月1日にエムアールエムの有料職業紹介事業の登録をして、
スタイリストの派遣も行うようになっていたことから、エムアールエムにおいて医25 師等の派遣も行うことにした。
「美容」 「検診」のカテゴリーで事業展開を考えていたため、それらの単語と、医 師の集まりを示す単語として「医局」、看護師の集まりを示す単語として「ステーシ ョン」を組み合わせて、令和2年4月から9月にかけて「美容ステーション」 「検診 ステーション」 「美容医局」の3件の商標を出願した(本件商標登録出願は同年7月 31日。甲57(枝番があるものは特記しない限り、枝番を含む。以下同じ。 ) ) 。な 5 お、4通りある上記単語の組み合わせのうち、「検診医局」を出願しなかったのは、
読みが同じ「健診医局」という商標を他社(株式会社グランツ)が既に登録してい たため(甲58)、混同等を防ぐ趣旨からである。
原告は、
「美容医局」という名称においても、インターネット広告を大々的に行う わけではなく、知り合いの紹介でこつこつと業務を行っていたところ、被告から令10 和3年4月ないし5月に文書を受領してからは、トラブル回避のため、バイト医局」 「 という商標を出願して登録を得、使用している(甲57)。
(3) 公序良俗に反する事情がないことについて ア 原告は、被告が「美容医局」という名称を使用していることを知らなかった。
原告は、平成27年から平成30年まで、被告と連絡を取り合っていたが、メール15 等に「美容医局」の表示はされていない。また、被告が「美容医局」との文字を表 示していたウェブサイトは、被告の会社本体のものではなく、美容医局という名称 の広告用のページ(ランディングページ)であって、原告はこれを見る動機もなか った。原告は、被告の運営する「自費研 online」のメールマガジンの配信を週1、
2回受けていたが、これにも「美容医局」との名称は表示されていなかった。
20 そして、「美容医局」は、「美容」という一般的用語と、医師の集合体をイメージ する言葉として一般に医師の執務室や大学での人事組織に用いられる「医局」を組 み合わせた独創性のないものであり、原告は、引用商標を認識するまでもなく容易 に想到し得た。
イ 原告が本件商標を出願したのが、被告との紛争が終了して約2年が経過した25 後であること、「美容医局」以外の被告の使用する名称(例えば「美容整形ジョブ」 「美ジョブ」)についての出願はしていないこと、「美容医局」という名称に顧客吸 引力があるものではないことからすると、原告に、被告の業務を妨害する意図がな いことは明らかである。また、原告が、業務を本格的に開始するに当たって商標の 出願をしたことや、裁判の結果に興味を持つことは、被告を妨害する意図とは無関 係である。
5 ウ 原告は、被告に対し、令和3年4月ないし5月に被告からの文書を受け取る まで、被告に連絡しておらず、それ以降も権利行使の意図で譲渡や使用料の要求を したことはない。
エ 原告は、本件商標の出願当時、被告と契約関係にあったものではなく、被告 に対し、何らかの義務を負っていたものではない。
10 2 商標法4条1項10号該当性に係る判断の誤り (1) 本件審決は、引用商標に周知性があると認定したが、その根拠は、@被告が 遅くとも平成24年には引用商標を使用していること、A令和2年以降にセミナー を多数開催し、広告費及び売上げが伸びたという点に集約されるところ、本件審決 が周知性の根拠として用いたランキングサイト等は客観性を欠くものであり、被告15 が提出した売上や広告費に係る証拠には具体的な裏付けがない上、他社との比較を することができず、その多寡を評価できない。
したがって、本件審決は、周知性の判断における考慮要素や証拠方法をつぶさに 検討しておらず、具体的裏付けや信用性の乏しい証拠をもって、引用商標の周知性 を認めたものであるから、事実の認定や評価、法解釈、適用に誤りがある。
20 (2) 本件サービスの売上高のシェアは、医師全体の転職に対する割合により算出 すべきであり、わずか●パーセント前後となるから、周知性があるとはいえない。
被告の主張
1 商標法4条1項7号該当性について (1) 原告は、被告が「美容医局」との商標(引用商標)を使用し有料職業紹介事25 業(本件サービス)を運営していることを知りながら、本件商標を出願し登録を受 け、本件出願時には既に市場で周知され顧客吸引力を得ていた引用商標に便乗し、
引用商標と同一又は類似した本件商標を使用して本件サービスと競合するサービス を開始し需要者に混同を惹起させ、公正な取引秩序を害している。本件商標は公序 良俗に反するものであるから、商標登録は無効である。よって審決に違法はない。
(2) 原告は、令和元年10月24日、被告の運営する自費診療に関する情報提供 5 ウェブサイト「自費研online」 の会員向けサービス「自費研メンバーズ」に 登録し、現在に至るまで登録している。被告は、自費研メンバーズ会員に対し、1 週間に1、2回程度、被告の本件サービスを含むサービスやセミナーの情報を掲載 したメールマガジンを配信しており、メールマガジンにおいて「美容医局」の表示 をしている。原告が、被告の基幹サービスである「美容医局」について全く知らな10 いなどあり得ない。
(3) 原告は、エムアールエムをして、本件商標を、本件サービスと競合する美容 医療を扱う医師を専門とした有料職業紹介事業に使用し、本件サービスと同様にイ ンターネットを利用して広く集客を図っている。これは被告の元従業員から見ても 混同するほどであり、需要者が両サービスを分別することは困難であって、実際に15 混同が生じていた。
一方、原告は、令和2年の有料職業紹介事業者登録から現在に至るまで、職業安 定法上要求される情報提供を一切行なっておらず(乙15) 真摯に有料職業紹介事 、
業を営む意思がない。
(4) 原告は、本訴においても法外な金額の和解案を提示しており、このことから20 も、被告の業務を妨害し、あわよくば金銭をせしめるために本件商標を取得したこ とが容易に推認できる。
(5) 原告は、従前は20年ほど前から医師向けの職業紹介事業を営んでいたかの ように述べていたのに(本件審決14頁) 本訴においては令和2年頃から検討を開 、
始したなどと場当たり的に主張を変遷させており、一貫性がない。
25 2 商標法4条1項10号該当性について (1) 本件商標は、その登録出願時から現在に至るまで、本件商標と同一又は類似 する引用商標を被告が使用し、需要者の間に広く認識されていることから、本件商 標登録は無効である(商標法4条1項10号)。よって審決に違法はない。
(2) 本件サービスは需要者が美容外科及び美容皮膚科向けの医師及び医療施設等 に限定されている。有料職業紹介事業全体において、医師の求職は0.6%、医師 5 の求人は約4%にすぎない限られたものであるが、本件サービスの対象はさらに限 られており、美容外科医は医師総数のうちの0.4%ほど、皮膚科医を含めても約 4.7%であり、美容外科・美容皮膚科の数は、一般病院及び一般診療所総数の約 2.6%にすぎない。本件サービスは、有料職業紹介事業の中でも「医師」向けで あり、更に美容外科及び美容皮膚科を専門にしており、求職者たる美容外科医又は10 美容皮膚科医及び求人者たる美容外科ないし美容皮膚科を有する医療施設ともに需 要者が相当に限定されている極めて特殊な市場である。
そして、医師向けの有料職業紹介事業の総売上高は、令和元年度において約21 2億円であり(乙19の1) 美容外科及び美容皮膚科に限定すると多く見積もって 、
も約10億円程度である(医師数基準(美容外科医+皮膚科医) 。本件サービスの )15 同年度売上高は●●●●●●万円であるから(乙23の1)、売上高のシェアは、医 師数基準で約●●%である。
また、本件商標の出願日である令和2年7月31日時点で、美容外科又は美容皮 膚科施設のうち約●●%が本件サービスを利用しており、令和3年8月31日時点 では約●●%の施設が本件サービスを利用している(乙24) 平成30年度時点で 。
20 の美容外科医及び皮膚科医の総数(1万5420人。乙20の1)を元に計算する と、令和元年時点で美容外科医及び皮膚科医の約●●%、令和2年時点で約●●% が本件サービスを利用していた(乙25)。
そのほか、被告は、多数のセミナーを開催し、また、多額の広告費を支出してい る。
25 以上のとおり、本件サービスの市場は需要者が限定された特殊な市場であるが、
その中において、本件サービスは、売上高、医療施設登録割合、医師登録割合にお いて高いシェアを占め、かつ、多数のセミナー開催、多額の費用を支出した宣伝戦 略などにより、需要者に広く認識されている。
(3) 本件サービスに使用されている引用商標は、本件商標の登録出願以前から現 在に至るまで、被告の使用する商標であり、被告の役務を表すものとして、需要者 5 において広く認識されている。
当裁判所の判断
1 商標法4条1項10号該当性について (1) 被告は「美容医局」との商標(別紙被告商標目録記載のものを含む引用商標) を美容外科・美容皮膚科専門の医師向けの有料職業紹介事業である本件サービスに10 使用しており、本件サービスに係る役務のうち、少なくとも「求人情報の提供、職 業のあっせん」が、本件商標の指定役務中「職業のあっせん、求人情報の提供、人 材派遣による職業のあっせん、人材派遣による求人情報の提供」と同一であるか又 は類似することについては当事者間に争いがない。
(2) 後掲各証拠によると、本件サービスについて次の事実が認められる。
15 ア 被告は、平成24年8月29日、biyou-ikyoku.com」 「 のドメイン名を取得し、
その頃、
「美容医局」の商標(引用商標)が表示された美容クリニック専門の医師転 職サイトを開設して、本件サービスの事業を開始し、以後、現在に至るまで本件サ ービスの事業を継続している。(甲5、乙8、11) イ 令和元年度における医師向けの有料職業紹介事業の総売上高が約212億円20 (乙19の1中の「職業紹介事業 運営状況(令和元年度)」の16頁)であり、医 師総数に対する美容外科医及び皮膚科医の数の割合が約4.7%(=(平成30年 12月31日現在の皮膚科医数1万4244人+同日現在の美容外科数1176人 の合計1万5420人)÷同日現在の医師総数32万7210人。乙20の1の4 頁及び11頁。以下、各年の美容外科医及び皮膚科医向けの有料職業紹介事業の売25 上高を推計する際の医師数は、同日現在の数字を用いる。)であることからすると、
美容外科医及び皮膚科医向けの有料職業紹介事業の売上高は10億円程度と推計さ れる。(乙19の1、乙20の1) そして、令和元年の本件サービスの売上高は●●●●●●万円(乙23の1)で あるから、美容外科医及び皮膚科医向けの有料職業紹介事業における本件サービス のシェアは●割近いものであると推認される。(乙23の1) 5 ウ 同様に令和2年度の医師向けの有料職業紹介事業の総売上高が約227億円 (乙19の6中の「職業紹介事業 運営状況(令和2年度)」の16頁)であること から、前記美容外科医及び皮膚科医の数の割合を乗ずると、美容外科医及び皮膚科 医向けの有料職業紹介事業の売上高は10億6700万円程度と推計されるところ、
令和2年の本件サービスの売上高は●●●●●●万円(乙23の1)であるから、
10 そのシェアは●割近いものと推認される。(乙19の6、乙23の1) エ 平成27年度から平成30年度までの各年の医師向けの有料職業紹介事業の 総売上高は、約154億円、約174億円、約166億円、約197億円であるの に対し、平成27年から平成30年までの各年の本件サービスの売上高は●●●● 万円、●●●●万円、●●●●●●万円、●●●●●●万円であるから、本件サー15 ビスは、医師向けの有料職業紹介事業全体の総売上高の増加率よりも大きな増加率 をもって、売上げが上昇した。(乙19、23) オ 平成25年から令和2年までの各年において、本件サービスに新規登録した 医師の数は、●●人、●●●人、●●●人、●●●人、●●●人、●●●人、●● ●人、●●●●人であった(令和2年における累計●●●●人)。なお、平成30年20 12月31日現在の美容外科又は皮膚科の診療科に従事する医師の数は前記のとお り合計1万5420人である。(乙20の1、乙25) カ 被告は、本件サービスの一環として、平成24年9月に、第1回の医師転職 支援セミナーを実施した後、たびたび転職セミナーを開催し、令和2年度には「転 科不安解消セミナー」 「研修医向けノウハウセミナー」など合計30回のセミナーを25 実施し、令和3年度には「初期研修医のための就活ガイダンス」など合計32回の セミナーを実施した。被告は、
「美容医局」に登録した美容医療関係者のためのスキ ルアップセミナー、オペ見学・解説セミナーの提供といった役務も行っている。
(甲 5の2、甲15、甲18、甲51、甲62の1、2、18及び19) キ 被告は、Yahoo!ディスプレイアドネットワーク、Facebook、Twitter といっ たインターネットにおいて、引用商標を用いた本件サービスの広告を出稿しており、
5 令和2年5月から7月までの間に、●●●万回を超える表示がされ、●万を超える クリックがされた。(甲51) ク 令和3年8月2日付けのインターネット上の 【転職のプロが教える】 「 美容外 科おすすめ医師転職エージェントランキング」と題する記事において、本件サービ スが、美容外科・美容皮膚科転職エージェントおすすめ求人数ランキングで、全110 2エージェント中1位として掲載されている。同記事によれば、
「美容医局」の求人 数3692件は、全12エージェントの合計求人数1万1682件の約31.6% を占めている。(甲13)。
(3) 前記(2)を総合すると、本件サービスは、遅くとも令和2年頃までには、美容 外科及び美容皮膚科に転職しようとする医師並びに医師を求める美容外科及び美容15 皮膚科の医療施設にとって多く利用されているサービスとなっていたということが でき、本件サービスを表すものとして使用されている引用商標は、本件商標の出願 時である令和2年7月31日及び登録査定時である令和3年6月2日において、本 件サービスを表すものとして、その需要者である美容外科医、美容皮膚科医及びそ の医療施設関係者の間で広く認識されていたと認めるのが相当である。
20 原告は、医師全体の有料職業紹介事業に対するシェアからすると、本件サービス に周知性があるとはいえないと主張するが、そもそも本件サービスの対象とする美 容外科又は美容皮膚科の医師の数の医師全体数に占める割合が前記のとおり約4. 7%にすぎないことからすると、本件サービスの医師全体の有料職業紹介事業に対 するシェアが少ないことをもって、本件商標の知名度が低いということはできない。
25 そして、
「美容医局」との商標が本件商標の指定役務である「職業のあっせん、求人 情報の提供、人材派遣による職業のあっせん、人材派遣による求人情報の提供」に おいて用いられる場合には、美容外科又は美容皮膚科に関係する医療関係者以外を 対象とするものとは考え難いのであるから、美容外科又は美容皮膚科に転職する可 能性のない医師までを需要者とみるのは相当ではなく、上記原告の主張は採用する ことができない。
5 (4) そうすると、本件審決の引用商標の周知性に係る判断に誤りはないから、原 告の主張する取消事由のうち、商標法4条1項10号該当性に係る判断の誤りをい う部分には理由がない。
2 商標法4条1項7号該当性について (1) 本件商標の登録等に関する経緯について、後掲各証拠によると、次の事実が10 認められる。
ア 被告(令和3年4月1日より前の商号は「株式会社エスエス・ファシリティ ーズ」。甲4)は、平成24年8月29日、「biyou-ikyoku.com」のドメイン名を取 得し、同年9月までには、インターネット上で、本件サービスの名称として引用商 標の使用を開始した。(甲5の1・2)15 イ 原告は、平成27年頃、美彩会に勤務しており、被告との間の本件サービス の契約(甲17によれば、同年9月30日付けで美彩会と被告との間で医師等の紹 介に関する基本契約が締結されている。同契約によれば、紹介手数料は雇用契約の 想定年収の20%である。)に係る事務を担当し、本件サービスの利用等に関し、被 告の担当者と面会したり、メール等で頻繁に情報のやりとりをしたりしていた。
(甲20 17、19、21、22、乙1、2) ウ 当時、美彩会は診療所の院長となる医師を探しており、被告が紹介した医師 の紹介手数料の支払を巡って、被告と美彩会とは紛争になった。被告は、平成29 年、美彩会を相手方として、訴訟を提起したが(東京地方裁判所平成29年(ワ) 第5873号)、同訴訟は、平成30年8月21日、訴訟上の和解により終了した。
25 原告は、同訴訟において、美彩会の担当者として陳述書を提出した。
(甲21、24) エ 原告は、令和元年10月24日、被告の提供する会員サービスである「自費 研メンバーズ」に登録し、同会員向けのメールマガジンの配信を受けるようになっ た。メールマガジンの内容は、自由診療クリニックの経営方法や開業方法に関する もののほか、例えば、「美容医局MeetUp!」「美容医療を目指す仲間と出会え る!つながれる!」という標題のもと、美容医療の分野における転職希望者や美容 5 医療に興味のある医師らを対象とした情報交換のための会合への参加広告など、本 件サービスの提供するセミナーや会合等について、引用商標を記載した広告が含ま れていることがあった。(甲62、乙4、5、9) オ エムアールエムは、令和2年2月1日、厚生労働大臣に対し、有料職業紹介 事業を行うための許可申請をした。エムアールエムは平成29年10月6日に設立10 されたヘアメイク事業等を目的とする合同会社であるが、令和元年9月3日に「職 業紹介事業」も目的とする旨の登記がされた。職業安定法32条の16第3項及び 職業安定法施行規則24条の8第3項(いずれも平成30年1月1日施行)によれ ば、有料職業紹介事業者は、インターネットを利用して、当該有料職業紹介事業者 の紹介により就職した者の数や離職した者の数等に関し、情報の提供を行うべきこ15 ととされているが、エムアールエムが、令和2年度から令和4年度までの間、これ らの情報の提供をした形跡はない(甲30、乙15)。
なお、エムアールエムの代表者は原告の交際相手であり、原告は、エムアールエ ムの社員ではないが、被告に対し、自らがオーナーである旨の説明をし、被告との 交渉窓口になっていた。(甲26、30、33、乙10、15)20 カ 原告は、令和2年7月31日、本件商標の登録出願をした。なお、原告は、
平成26年6月から令和4年1月までの間に24件の商標登録出願をしており、令 和2年4月から同年8月までの間には、本件商標のほか、「美容ステーション」「検 診ステーション」ラグラン銀座医院」ファイヤースカルプト」ファイヤーハイフ」 「 「 「 「ファイヤーサーマクール」「MAX∞Beauty∞Medical Inno25 vation」 「ラグラン銀座メディカルエステ」といった合計9件の商標登録出願 をした。このうち「美容ステーション」は、平成31年4月時点において、株式会 社CRAMの提供する美容クリニック人材紹介業務等のサービス名として使用され ていた。(甲55〜57、乙16、18) キ 被告は、令和3年2月16日、35類(求人情報の提供、職業のあっせん等)、
41類(セミナーの企画・運営又は開催及びこれらに関する情報の提供等)及び4 5 4類(医療情報の提供等)を指定役務として「美容医局」を商標登録出願した。
(甲 32の1) ク 被告は、令和3年4月10日、原告に対し、本件商標の譲渡を求める「ご連 絡」と題する文書を送付した。原告は、同月13日、被告の代理人弁護士に電話連 絡し、商標を趣味で取っていること、交際相手が行っている人材紹介業において本10 件商標を使用する予定であること、本件商標を被告に譲渡する意思はないが、使用 許諾であれば考え得るので、弁護士を通じて条件を提示することを伝えた。甲25、
( 26) ケ 原告は、令和3年4月30日、「biyoikyoku.com」のドメイン名を取得した。
(甲27)15 コ 被告は、令和3年5月25日、biyoikyoku.com のドメイン名により「美容医 局」の名称を用いたウェブサイトを運営していたエムアールエムに対し、 美容医局」 「 の名称の使用の中止を求める通知書を送付した。原告は、同日、被告の代理人弁護 士に電話連絡し、
「美容医局」という名称を約20年前から個人で行っていた無料の 職業紹介の名称として使用していたなどと説明し、勝ち負けがどうなるか気になる20 ので裁判をしてみたい、金がないから損害賠償請求をされても怖くないなどと伝え た。(甲32、33、乙11) サ 本件商標は、令和3年6月2日に登録査定を受け、同月11日、登録された。
シ 令和3年8月の時点のエムアールエムの前記ウェブサイトには、「専門技術 提供 医療関係専門 人材紹介 【公式】美容医局」の標題の下、
「美容医療に特化25 した医師紹介コミュニティ美容医局【公式】」等の表示がされている(乙11)。被 告は、同年5月、本件サービスのウェブサイトにおいて、エムアールエムが「美容 医局」の名で行っている人材紹介サービスと本件サービスとは一切関係がない旨の 注意喚起をしているが(甲31)、令和5年8月時点においても、「美容医局」をG oogleで検索すると、検索結果には被告の本件サービスが表示される一方、同 じページの右側にはエムアールエムの「美容医療人材紹介・育成 美容医局」との 5 広告表示もされており、需要者において両者が異なる主体によるサービスであるこ とを一見して識別することは困難である(乙13)。
ス 原告は、本訴係属中の令和5年10月3日、被告に対し、本件商標のライセ ンス料として売上の7%、譲渡代金として3億円とする和解条件を提示した。
(乙2 9)10 (2) 以上を前提に検討する。商標法4条1項7号は、商標登録を受けることがで きない商標の類型の一つとして、「公の秩序又は善良の風俗を害するおそれがある 商標」を掲げているが、これは、当該商標の構成自体が公序良俗に反する場合のほ か、商標登録の出願の経緯に鑑み、当該商標の登録を認めることが著しく社会的妥 当性を欠くような場合も含まれるものと解される。
15 (3) これを本件についてみると、本件商標は、その構成自体が公序良俗に反する ものではない。
そして、原告は、被告が本件サービスの名称として引用商標を使用していること を知らず、
「美容医局」という名称を自ら考えたと主張する。しかし、本件商標の出 願の経緯に係る前記(1)の各事実に照らすと、被告は、遅くとも平成24年9月頃に20 は、本件サービスの名称として引用商標の使用を開始していたこと、原告は、平成 27年9月当時、被告と美彩会との間の本件サービスに関する事務の美彩会側の担 当者であり、被告と美彩会との間の紹介手数料の支払を巡る紛争が和解で終了する 平成30年8月までの約3年間、当該事務及び紛争に関与していたこと、原告は、
令和元年10月24日、被告の提供する会員サービスである「自費研メンバーズ」25 に登録し、同会員向けのメールマガジンの配信を受けており、原告は自由医療や美 容医療の分野について一定の関心を持っていたと考えられること、当該メールマガ ジンの中には、本件サービスの提供するセミナーや会合等の広告において引用商標 が記載されているものがあったことなどが認められるのであって、これらの事実に 照らすと、原告において、本件商標の出願前に、被告が本件サービスに引用商標を 使用していることを知らなかったとは到底考えられない。
5 仮にこの点を措くとしても、エムアールエム(前記(1)オによれば、原告が支配し ている会社であることが推認され、これを覆すに足りる証拠はない。)が、令和2年 2月に有料職業紹介事業を行うための許可申請をし、原告が、同年7月31日、本 件商標の登録出願をしているところ、原告の主張を前提とすると、原告は、遅くと も、「美容ステーション」の商標登録出願をした同年4月1日(甲57)までには、
10 エムアールエムをして有料職業紹介事業を行わせる意図を有していたということに なる。しかるところ、新たに美容外科・美容皮膚外科専門の医師を対象とする有料 職業紹介事業を始めるのであれば、通常、その分野における業界や市場の調査をす るはずであって、前記1のとおり、同年頃には、引用商標は、本件サービスを表示 するものとして周知なものとなっていたと認められるのであるから、原告において15 も、出願前に当然に被告が引用商標を使用して本件サービスを行っていることを知 っていたはずである(なお、原告が本件商標の出願前から、医師向けの美容外科・ 美容皮膚外科専門の職業紹介事業に関与していた事実を認めるに足りる証拠はない が、仮に関与していたのであれば、原告において同じ分野で職業紹介事業を行って いた被告が本件サービスにおいて使用していた引用商標を知らなかったはずはない20 から、いずれにせよ、原告が出願前に被告が引用商標を使用していた事実を知らな かったというのは不自然である。。
) そうすると、原告は、本件サービスが周知であることや、被告が本件サービスに 引用商標を使用しており、引用商標が本件サービスを表すものとして周知であるこ とを知りながら、それが未登録であったことを奇貨として、本件商標の登録出願を25 したことが明らかである。
(4) 加えて、エムアールエムの行っている有料職業紹介事業の実態は証拠上明ら かではなく、エムアールエムが、令和2年度から令和4年度にかけて職業安定法3 2条の16第3項に定める情報の提供を行った形跡がないにもかかわらず(甲30、
乙15)、本件サービスと混同を生じさせるようなインターネットの広告を掲載し 続けていたこと(乙11、13)や、原告において、被告からの抗議に対し条件次 5 第で使用許諾を認めるかのような態度を示していること、本訴においても、引用商 標を知らなかった旨の事実とは異なる主張をし、極めて高額の対価をもって譲渡す る旨の提案をしていることも考慮すると、原告が本件商標の登録出願をした動機は、
自らの支配する会社に本件商標を用いて本件サービスと同種のサービスを提供する 旨の表示をさせ、需要者を混乱させるとともに、被告からの抗議を待って自己に有10 利な取引の妥結を図ろうとする点にあったと認めるのが自然である。これに反する 原告の主張はいずれも採用することができない。
そうすると、原告は、真摯に本件商標を使用した事業を行うためではなく、被告 に対する妨害又は自ら不当な利益を得る目的で本件商標の登録出願をしたものと認 めるほかはない。
15 (5) したがって、本件商標登録は、その出願経過に照らし、著しく社会的妥当性 を欠くものである。前記のとおり、本件サービスと同種の役務についての本件商標 登録が商標法4条1項10号により無効であるとしても、そのことは、本件商標が 同項7号に該当する場合に、同法46条1項1号の規定を適用して、本件商標登録 が全体として無効であると解することは妨げられないというべきである。
20 (6) 以上によると本件商標が商標法4条1項7号に該当するとした審決の判断に 誤りはないから、原告の主張する取消事由のうち、同号該当性に係る判断の誤りを いう部分も理由がない。
結論
以上のとおり、原告の請求は理由がないから、請求を棄却することとして、主文25 のとおり判決する。
追加
裁判長裁判官5清水響裁判官10浅井憲裁判官15勝又来未子 (別紙)登録商標目録(1)商標5美容医局(標準文字)(2)指定役務第35類「広告業、トレーディングスタンプの発行、経営の診断又は経営に関する助言、事業の管理、市場調査又は分析、商品の販売に関する情報の提供、財務書類の作成、職業のあっせん、競売の運営、輸出入に関する事務の代理又は代行、新10聞の予約購読の取次ぎ、速記、筆耕、書類の複製、文書又は磁気テープのファイリング、コンピュータデータベースへの情報編集、電子計算機・タイプライター・テレックス又はこれらに準ずる事務用機器の操作、建築物における来訪者の受付及び案内、広告用具の貸与、タイプライター・複写機及びワードプロセッサの貸与、消費者のための商品及び役務の選択における助言と情報の提供、求人情報の提供、新15聞記事情報の提供、自動販売機の貸与、人材派遣による広告業、人材派遣によるトレーディングスタンプの発行、人材派遣による経営の診断又は経営に関する助言、
人材派遣による事業の管理、人材派遣による市場調査又は分析、人材派遣による商品の販売に関する情報の提供、人材派遣による財務書類の作成、人材派遣による職業のあっせん、人材派遣による競売の運営、人材派遣による輸出入に関する事務の20代理又は代行、人材派遣による新聞の予約購読の取次ぎ、人材派遣による速記、人材派遣による筆耕、人材派遣による書類の複製、人材派遣による文書又は磁気テープのファイリング、人材派遣によるコンピュータデータベースへの情報編集、人材派遣による電子計算機・タイプライター・テレックス又はこれらに準ずる事務用機器の操作、人材派遣による建築物における来訪者の受付及び案内、人材派遣による25広告用具の貸与、人材派遣によるタイプライター・複写機及びワードプロセッサの貸与、人材派遣による消費者のための商品及び役務の選択における助言と情報の提 供、人材派遣による求人情報の提供、人材派遣による新聞記事情報の提供、人材派遣による自動販売機の貸与」 (別紙)被告商標目録5