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関連審決 不服2021-13234
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事件 令和 5年 (行ケ) 10119号 審決取消請求事件
5
原告 オーデマピゲ ホールディング ソシエテ アノニム
同訴訟代理人弁護士 松永章吾 10 同丸山悠
同訴訟代理人弁理士 山ア和香子
被告特許庁長官
同 指定代理人馬場秀敏 15 同豊田純一
同 冨澤武志
同 清川恵子
裁判所 知的財産高等裁判所
判決言渡日 2024/03/28
権利種別 商標権
訴訟類型 行政訴訟
主文 1 原告の請求を棄却する。
20 2 訴訟費用は、原告の負担とする。
3 この判決に対する上告及び上告受理申立てのための付加期間を30日と定める。
事実及び理由
請求
25 1 特許庁が不服2021-13234号事件について令和5年6月8日にした 審決を取り消す。
1 2 訴訟費用は、被告の負担とする。
事案の概要
1 特許庁における手続の経緯等 ? 原告は、令和2年2月26日、以下の構成からなり、指定商品を第14類5 「時計」とする商標(以下「本願商標」という。)について、商標登録出願を した(商願2020-020319号、甲261)。
(本願商標) ? 原告は、令和2年8月27日付け拒絶理由通知書(甲262)を受け、令10 和3年3月2日付けで意見書(甲263)を提出したが、同年6月30日付 け拒絶査定(甲264。以下「本件拒絶査定」という。)を受けたので、同年 10月1日、拒絶査定不服審判を請求した(不服2021-13234号、
甲265)。
? 特許庁は、令和5年6月8日、「本件審判の請求は、成り立たない。」とす15 る審決(以下「本件審決」という。)をし、その謄本は、同年6月22日に原 告に送達された。
? 原告は、令和5年10月20日、本件審決の取消しを求めて、本件訴えを 提起した。
2 2 本件審決の理由の要旨 本件審決の理由は、別紙審決書(写し)のとおりであり、要するに、本願商 標は、ラグ、ケース、風防、インデックスの記載がある文字盤、リューズ及び ベゼル等より構成される腕時計バンド及び針を除く部分の図形を表したもの5 と認定したうえで、これをその指定商品中、
「腕時計」に使用しても、これに接 する取引者、需要者は、腕時計のバンド及び針(時針等)を除く部分の図形を 表したものと認識するにとどまり、単に商品の形状を普通に用いられる方法で 表示する標章のみからなるものであり、需要者が何人かの業務に係る商品であ ることを認識するに至っていると認めることはできないから、商標法3条1項10 3号に該当し、かつ、同条2項の要件を具備するものではない、というもので ある。
3 取消事由 ? 取消事由1 商標法3条1項3号に該当するとした判断の誤り15 ? 取消事由2 商標法3条2項に該当しないとした判断の誤り
当事者の主張
1 取消事由1(商標法3条1項3号に該当するとした判断の誤り)について 〔原告の主張〕20 ? 本件審決は、本願商標は単に商品の形状を普通に用いられる方法で表示す る標章のみからなるものであり、商標法3条1項3号に該当するとしたが、
本件審決において掲げられた33個の事例のうち、本件審決の別掲2(以下 「別掲2」という。内容は、別紙審決書(写し)参照。)の1(1)、2(1)、
(2)(3)(6)及び(12)に掲げられた6個の製品は、原告が昭和4 、 、
25 7年(1972年)に発売した「Royal Oak(ロイヤルオーク)(以 」 下「本件製品」という。)の模倣品であることが明らかであるし、その余の2 3 7個の製品については、原告が本願商標の特徴として主張する、@八角形の ベゼルを有していること、A八角形のベゼルのそれぞれの角に六角形のネジ を配置していること、B文字盤の表面に立体的な格子模様を施していること (以下「形状の3特徴」という場合がある。)を全て備えているものはないの5 であるから、その判断には重大な過誤がある。
原告は、令和5年(2023年)12月7日、これら模倣品のうちAma zonのプラットフォーム上で販売されているもの全てについてAmazo nに権利侵害を申告し、その結果、これらの模倣品の販売ページは全てAm azonによって削除されている(甲273の1?4、甲274の1?4)。
10 また、その余の27個の製品については、形状の3特徴を全て備える商品 はない。そればかりか、形状の3特徴を全く備えないものまで含まれており、
この点でも特許庁による引用は、結論ありきの判断を支える極めて杜撰なも のといわざるを得ない。本件審決が是認されることになれば、昭和47年(1 972年)に世界に先駆けてステンレススチールのラグジュアリー・スポー15 ツ・ウオッチという新たな価値を創造した(甲275、276)顕著な識別 力を有する本願商標の強い顧客吸引力フリーライドしようとする模倣品業 者を保護し、その活動を奨励するに等しい不合理な結果になりかねない。
以上のとおり、本件審決には模倣品を掲げて形状の3特徴を備える事例が あると認定する点、形状の3特徴の全部又は一部を備えない製品を掲げて形20 状の3特徴を備える事例があると認定する点において明白な過誤がある。
そして、形状の3特徴を全て備える本願商標の形状そのものに生来的に自 他商品識別力が認められることは明らかであるから、本願商標は、商品の形 状を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなるものではない。
したがって、本願商標は商標法3条1項3号に該当しない。
25 ? 被告は、本件審決に引用しなかった乙4を文字盤に立体的な格子模様を備 える腕時計の例として挙げるが、乙4の事例は形状の3特徴のうちの二つを 4 備えておらず、不適当である。
〔被告の反論〕 ? 本願商標の構成について 本願商標は、前記第2の1?のとおりの構成よりなるところ、これは、一5 見して、腕時計のバンド及び針(時針等)を除く部分の図形を表したといえ るものである。
このことは、下記?の事例のとおり、腕時計を取り扱う業界において、腕 時計からバンド及び針(時針等)を除いた部分は、ラグ、ケース、風防、イ ンデックスの記載がある文字盤、リューズ及びベゼル等(乙1、2)より構10 成されていることからも確認できる。
? 「腕時計」を取り扱う業界における取引の実情 原告は、本願商標につき形状の3特徴を主張するが、これらはいずれも、
原告以外の者が取り扱う腕時計にも使用されている実情が見受けられる。
ア 「メンズ腕時計の通販はau PAY マーケット - shocora」15 に係るウェブサイトにおいて、
「メンズ 腕時計 八角形ベゼルグランド タ ペストリー 文字盤 メンズ腕時計」の記載とともに、八角形のベゼルとベ ゼルに固定するための六角形のネジ8本及び文字盤に立体的な格子模様 を備えた腕時計の写真の掲載がある(甲267〔証拠調べ通知書〕の1 (1)。
)20 イ 「amazon」のウェブサイトにおいて、[テクノス]TECHNO 「 Sグランドポート ゴールド/ブルー T9539GN」の見出しの左に、
八角形のベゼルとベゼルに固定するための六角形のネジ8本及び文字盤 に立体的な格子模様を備えた腕時計の写真の掲載がある(甲267の2 (1)、甲268〔意見書〕(13葉)、甲273の3)。
25 ウ 「amazon」のウェブサイトにおいて、
「メンズ ファッション シル バー スポーツウォッチ クロノグラフ カレンダー 八角形 ステンレスス 5 チール リストウォッチ メンズ 3Dグリッドとサブダイアル Silv er Case and Black Dial」の見出しの左に、八角形の ベゼルとベゼルに固定するための六角形のネジ8本及び文字盤に立体的 な格子模様を備えた腕時計の写真の掲載がある(甲267の2(2)。
)5 エ 「amazon」のウェブサイトにおいて、
「ラグジュアリー スイス R EP AP Homage ロイヤルオーク 八角形ベゼル タピスリーダイ ヤルサファイアガラス スチール ブレスレット Noob Factor y 自動巻き腕時計 15400 ブルースティール」の見出しの左に、八角 形のベゼルとベゼルに固定するための六角形のネジ8本及び文字盤に立10 体的な格子模様を備えた腕時計の写真の掲載がある(甲267の2(3)、
甲268(22葉)。
) オ 「PRTIMES」のウェブサイトにおいて、
「SONNE×HAORI PRODUCED(ゾンネ×ハオリプロデュースド)から、30シリーズ 目の集大成として、日本製機械式ムーブメントを搭載した、八角形(=オ15 クタゴン)の最新作を10月20日に発売」の見出しの下、【 「『N030』 のラインナップ】 との記載の下に、
」 八角形のベゼルとベゼルに固定するた めの六角形のネジ8本及び文字盤に立体的な格子模様を備えた腕時計の 写真の掲載がある(甲267の2(5)、乙3)。
カ 「amazon」のウェブサイトにおいて、「Cadisen 八角形自20 動巻き腕時計 メンズ フルステンレススチール 防水腕時計 日本製ムー ブメントスポーツウォッチ シルバーブルー」の記載の左に、八角形のベゼ ルとベゼルに固定するためのネジ8本及び文字盤に立体的な格子模様を 備えた腕時計の写真の掲載がある(甲267の2(6)。
) キ 「amazon」のウェブサイトにおいて、
「FEICE 腕時計 メンズ25 自動巻き うで時計 男性 機械式 手巻付き アナログ ウォッチ 防水 夜 光日付表示 ラグジュアリービジネス カジュアル時計 クリスマスーFM 6 019」の見出しの左に、八角形のベゼルとベゼルに固定するための六角 形のネジ8本及び文字盤に立体的な格子模様を備えた腕時計の写真の掲 載がある(甲267の2(12)、甲273の2)。
ク 「WIRED」のウェブサイトにおいて、
「AGAT448」の見出しの5 左に、八角形のベゼルとベゼルに固定するためのネジ4本及び文字盤に立 体的な格子模様を備えた腕時計の写真の掲載がある(甲267の2(8)。
) ケ 「CITIZEN」のウェブサイトにおいて、「Eco-Drive O ne」の見出しの下に、ベゼルを固定するためのネジ4本と文字盤に立体 的な格子模様を備えた腕時計の写真の掲載がある(乙4)。
10 コ 「World Watch Shop」のウェブサイトにおいて、
「アクア マスター 腕時計 W325BIPR ホワイトダイヤモンド ブラックレ ザー」の見出しの下、
「人気のクロノグラフモデル!」との記載の下に、八 角形のベゼルとベゼルに固定するための六角形のネジ8本を備えた腕時 計の写真の掲載がある(甲267の2(4)、乙5)。
15 サ 「GUESS」のウェブサイトにおいて、「GUESS WATCHES (GW0256L1) の見出しの左に、
」 八角形のベゼルとベゼルに固定す るためのネジ8本を備えた腕時計の写真の掲載がある(甲267の2 (9)。
) シ 「江口洋品店・江口時計店」のウェブサイトにおいて、
「カルティエ/サ20 ントスオクタゴンLMデイト/ホワイトローマンダイヤル/Carti er/Santos Octagon Date/White Roman Dial」の見出しの下に、八角形のベゼルとベゼルに固定するためのネ ジ8本を備えた腕時計の写真の掲載がある(甲267の2(10) 乙6) 、 。
ス 「Rakuten Rakuma」のウェブサイトにおいて、
「【新品即納】25 ヴェルサス ヴェルサーチ 高級 メンズ腕時計 45mm 八角形 防水」の 見出しの左に、八角形のベゼルとベゼルに固定するためのネジ8本を備え 7 た腕時計の写真の掲載がある(甲267の2(11)。
) セ 「BUYMA」のウェブサイトにおいて、「★即納★VERSUS VE RSACE オクタベゼル メンズ 3Dクロノグラフ」の見出しの下に、八 角形のベゼルとベゼルに固定するためのネジ8本を備えた腕時計の写真5 の掲載がある(甲267の2(13)。
) ソ 「tense」のウェブサイトにおいて、
「オクタゴンシェイプに八個の シルバースタッドを打ち込んだ精悍で迫力あるビッグケース。文字盤の秒 針はスモールサークルで駆動する外観。趣きあるウォールナットと深みあ るブルーカラーが気品を漂わせています。 の記載の左に、
」 八角形のベゼル10 とベゼルに固定するためのネジ8本を備えた腕時計の写真の掲載がある (甲267の2(14)、乙7)。
タ 「ヨドバシ.com」に係るウェブサイトにおいて、「カシオ CASI O EDIFICE エディフィス ECB-10YPB-1AJF [八角 形ベゼルモデル]」の見出しの下、
「先進の高機能メタルクロノグラフとし15 て進化を続けるEDIFICEから、八角形のベゼルが特徴的な常時接続 のスマートフォンリンクモデルが登場します。 の記載とともに、
」 八角形の ベゼルとベゼルに固定するためのネジ4本を備えた腕時計の写真の掲載 がある(甲267の1(2)、乙8)。
チ 「YOSHIDA」のウェブサイトにおいて、
「GIRARD-PERR20 EGAUX」の見出しの左に、八角形のベゼル及び文字盤に立体的な格子 模様を備えた腕時計の写真の掲載がある(甲267の2(7)、乙9)。
ツ 「TiCTAC」のウェブサイトにおいて、【RIKI】AKQK45 「 5八角クラシック レディース」の見出しの左に、八角形のベゼルを備えた 腕時計の写真の掲載がある(甲267の2(15)。
)25 テ 「PIERRE LANNIER」のウェブサイトにおいて、「ピエール ラニエ 八角形ウォッチ」の見出しの左に、八角形のベゼルを備えた腕時計 8 の写真の掲載がある(甲267の2(16)。
) ト 「LE FLANEUR」のウェブサイトにおいて、
「フラヌール 八角形 レディース 腕時計 白蝶貝 シェル メタルベルト シルバー ピンクゴー ルドミニ 小さめ 小ぶり スモール」の見出しの左に、八角形のベゼルを備5 えた腕時計の写真の掲載がある(甲267の2(17)、乙10)。
ナ 「YAHOO!ショッピング」における、「HYBRID:STYLE」 のウェブサイトにおいて、
「ヴィヴィアン ウエストウッド 腕時計 Viv ienne Westwood 時計 ビビアン 女性 向け レディース V V244DBLSL オクタゴン 八角形 ブルー シルバー」の見出しの左10 に、八角形のベゼルを備えた腕時計の写真の掲載がある(甲267の2(1 8)、乙11)。
ニ 「Jewelry Connection」のウェブサイトにおいて、
「デ ィーワンミラノ オーシャン - OCEAN」の見出しの左に、八角形のベ ゼルを備えた腕時計の写真の掲載がある(甲267の2(19) 乙12) 、 。
15 ヌ 「WEAR」のウェブサイトにおいて、
「オクタゴンフェイスジュエリー ウォッチ 【AGETEF1YG時計】」の見出しの左に、八角形のベゼル を備えた腕時計の写真の掲載がある(甲267の2(20)、乙13)。
ネ 「YOSHIDA」のウェブサイトにおいて、
「BVLGARI」の見出 しの左に、八角形のベゼルを備えた腕時計の写真の掲載がある(甲26720 の2(21) 、乙14)。
ノ 「CREDOR」のウェブサイトにおいて、
「GTAW040」の見出し の左に、八角形のベゼルを備えた腕時計の写真の掲載がある(甲267の 2(22)、乙15)。
ハ 「CASIO」のウェブサイトにおいて、
「EFS-S570YD-1A25 JF」の見出しの左に、八角形のベゼルを備えた腕時計の写真の掲載があ る(甲267の2(23)、乙16)。
9 ヒ 「RECLO」のウェブサイトにおいて、「Christian Dio rスウィング オクタゴン レディース 腕時計 クオーツ GP ゴールド ホワイト文字盤」の見出しの左に、八角形のベゼルを備えた腕時計の写真 の掲載がある(甲267の2(24)、乙17)。
5 フ 「時計Search」のウェブサイトにおいて、「トゥールビヨン ジュ エリーウォッチ」の見出しの下に、文字盤に立体的な格子模様を備えた腕 時計の写真の掲載がある(甲267の2(25)、乙18)。
へ 「ANTIWATCHMAN」のウェブサイトにおいて、「ティソ TI SSOT ヴィンテージ パワーマチック80 デイト 18KPG メンズ10 ウォッチ BOX・ギャランティ付き・HA-5862」の見出しの下に、
文字盤に立体的な格子模様を備えた腕時計の写真の掲載がある(甲267 の2(26)、乙19)。
ホ 「VICTORINOX」のウェブサイトにおいて、「I.N.O.X. Carbon Mechanical」の見出しの下に、文字盤に立体的な15 格子模様を備えた腕時計の写真の掲載がある(甲267の2(27)、乙2 0)。
マ 「Grand Seiko」のウェブサイトにおいて、「深く鮮やかなブ ルーに見惚れる。 の見出しの左に、
」 文字盤に立体的な格子模様を備えた腕 時計の写真の掲載がある(甲267の2(28)。
)20 ミ 「TBSショッピング」に係るウェブサイトにおいて、
「日曜劇場『半沢 直樹』オリジナル限定メカニカルウオッチ」の見出しの下、
「東京中央銀行 の【T】マークやNaoki Hanzawaの名前をさりげなくデザイン。
東京中央銀行からインスピレーションを受け描き起こした格子柄が、シル バーの文字盤に浮かび上がり、シンプルな中にも上品さを演出します。 の 」25 記載とともに、文字盤に格子模様が施された腕時計の写真の掲載がある (甲267の1(4)、乙21)。
10 ム 「Yahoo!ショッピング」に係るウェブサイトにおいて、
「セイコー SEIKO ドルチェ 8J41-0AF0 クオーツ 格子 オフホワイト 文字盤 3針式 メンズ 腕時計」の記載とともに、文字盤に格子模様が施さ れた腕時計の写真の掲載がある(甲267の1(3)、乙22)。
5 ? 小括 上記?のとおり、原告以外の者による製品においても、原告の主張する形 状の3特徴である、
「八角形のベゼル」、
「八角形のベゼルのそれぞれの角に六 角形のネジ」 「文字盤の立体的な格子模様」 及び 又はこれらと同様の特徴を、
全てあるいは一部に有する商品が多数取引されている実情がある。
10 かかる取引の実情からすると、本願商標における形状の3特徴を表した図 形部分は、腕時計において商品の機能をより効果的に発揮させたり美感をよ り向上させる目的で同種商品が一般的に採用し得るもの、又はそのような理 由による形状の選択と予測し得る範囲のものにすぎないといえる。
そうすると、取引者、需要者において、腕時計のバンド及び針(時針等)15 を除く部分を図形で表した本願商標の構成上の特徴をもって、商品の出所を 識別する標識として認識させるとはいえず、本願商標は、自他商品識別力を 欠くものといえる。
よって、本願商標は、これをその指定商品中、
「腕時計」に使用しても、こ れに接する取引者、需要者は、腕時計のバンド及び針(時針等)を除く部分20 の形状を表したものと認識するにとどまり、単に商品の形状を普通に用いら れる方法で表示する標章のみからなるものというべきである。
したがって、本願商標は、商標法3条1項3号に該当するとした本件審決 の認定、判断に誤りはない。
? 原告の主張に対する反論25 ア 原告は、本件審決において提示した六つの製品が模倣品であると主張す るのみで、それを客観的に判断し得る証拠は提出していない。また、原告 11 が模倣品であると申告して削除された商品は四つの製品(甲274)にす ぎない。さらに、原告が模倣品と主張して掲載中止又は販売停止された商 品が存在するとしても、本件審決時において、本願商標における、原告が 主張する形状の3特徴の全て又はいずれか若しくはこれらと同様の特徴5 を有する腕時計は、本件審決後においても乙4ないし乙22の商品が実際 に取引されているから、原告以外の者において原告が主張する形状の3特 徴が使用されている証拠があるといえる。
イ 商品の形状は、多くの場合、商品等に期待される機能をより効果的に発 揮させたり、商品等の美感をより優れたものとするなどの目的で選択され10 るものであるところ、
「腕時計」を取り扱う業界において、原告以外の者に よる原告主張の形状の3特徴等の使用の事実があることは上記のとおり であるから、形状の3特徴の一部を有するものであっても、
「腕時計」の機 能をより効果的に発揮させたり美感をより向上させる目的で一般的に採 択されるものとしての証拠となり得るといえる。
15 そうすると、原告が主張する形状の3特徴は、いずれもが一般の需要者 の目につきやすく、強い印象を与えるものになるとはいえず、三つの特徴 を全て備えたとしても、商品の出所を識別する標識として認識されるもの になるものということはできない。
また、原告が主張する形状の3特徴を備えることによって、直ちに本願20 商標に生来的な自他商品識別力が認められるといい得る根拠も見つけら れない。
さらに、原告が、 形状の3特徴を全く備えないもの」 「 と主張する事例は、
それぞれ、文字盤の格子模様の特徴を有するもの、八角形のベゼルの特徴 を有するものやベゼルを固定するネジの特徴を有するものであることか25 ら、これらの事例も「形状の3特徴を全く備えないもの」とはいえない。
2 取消事由2(商標法3条2項に該当しないとした判断の誤り)について 12 〔原告の主張〕 ? 原告の販売店舗について 本件審決は「我が国における請求人の直営店は3店舗、正規代理店も7店 舗にすぎず、決して多数の店舗数とはいえない。 (7頁15行目〜同頁16 」5 行目)「本件製品が販売される請求人の店舗の数は、国内で11店舗にすぎ 、
ず、その店舗数は決して多数とはいえない」(9頁15行目〜同頁16行目) とした。
しかし、本件製品を含む原告の製品は、1本100万円を超える高級腕時 計に属する価格帯の商品であるところ、高級腕時計に属する商品を販売する10 店舗は、富裕層を主なターゲットとしているため、一般の消費者を主なター ゲットとする商品を販売する店舗よりも、一般的にその店舗数は少ないこと は自明である。かかる事情の下にありながら、原告の直営店及び正規代理店 は、令和5年(2023年)11月現在、我が国に計10店舗あるほか、本 件製品を含む原告の製品を再販売する事業者は日本全国に多数存在しており、
15 少なくとも50店舗以上見受けられる(甲277、278の1?110)。さ らに、本件製品の定価はエントリーモデルでも約300万円する極めて高価 な高級時計であるにもかかわらず、正規販売価格の倍額以上の価格で買取も 行われている(甲279)。このような本件製品の国内市場における高い人気 ぶりに鑑みれば、単に直営店及び正規代理店の数が多いとはいえないという20 事情から本願商標の自他商品識別力を否定することは、重要な前提事実を見 誤っており、考慮不尽であると言わざるを得ない。
本件製品は高級腕時計に属する価格帯の商品ではあるが、実際に本件製品 を購入する者のみが本願商標に係る形状の特徴を看取できるわけではない。
本願商標の形状の3特徴を備えた本件製品は種々の雑誌・ウェブメディア等25 に写真付きで掲載されており(甲1〜245、269〜272)、昭和47年 (1972年)から現在に至るまで、時計雑誌、ファッション誌のみならず 13 週刊誌・全国紙を含む多種の新聞・雑誌に少なくとも160回以上その広告 又は紹介記事が掲載されており、一般の消費者であっても本件製品を目にし た者は、形状の3特徴の組み合わせからなる独創的な形状に強く印象づけら れ、本願商標に係る形状の特徴から原告の商品と認識することができる。ま5 た、本件製品は極めて高価な高級時計であるにもかかわらず、その形状(本 願商標)を模倣した製品が税関において数多く差止めされているが、その輸 入者には本件製品を購入できる富裕層のみならず、学生や生活保護を受けて いる者までが幅広く含まれる(甲280の1?3)。このように、本願商標の 自他商品識別力が極めて高いことは明白であり、店舗数の多寡に依拠して自10 他商品識別力を判断した特許庁の認定は明らかに失当である。
? 本件製品について 本件審決は「本件商標は、腕時計のバンド及び針(時針等)を除く部分の 形状であるところ、請求人が本件製品と主張する商品は、バンド及び針(時 針等)を含む腕時計であり、バンド及び針(時針等)を除く部分のみで取引15 されていることは請求人提出の全証拠からは確認することができない。(7 」 頁21行目〜同頁24行目)、
「本願商標は、腕時計のバンド及び針(時針等) を含まないものであるが、本件商標のようなバンド及び針(時針等)を含ま ない商品が実際に販売された事実を証明する資料は何ら提出されていない。」 (8頁8行目〜同頁10行目)と判断した。
20 しかし、登録された商標の形状のみで製品が取引されていない事例などは 無数にあり、そのことだけをもって本願商標の自他商品識別力を否定するの は極めて不合理である。
商標法3条2項により商標登録を受けることができると判断された裁判 例においては、実際販売されている製品には自社製品であることを示す装飾25 やラベルが付されており、商標登録された商標の形状のみで取引されている わけではないが、自他商品・役務識別力があるとして、商標登録を受けてい 14 る。まして、商標登録された商標の形状のみで取引されていない事実が自他 商品・役務識別力を否定する事情とは一切評価されていない。したがって、
本件審決は、立体的形状に係る商標法3条2項に関する裁判例と明らかに相 反しており、取消しを免れない。
5 そして、本願商標の形状が昭和47年(1972年)の発売開始以来永年 にわたって一貫して使用されてきた事実、現在までの大量の販売実績、多大 な宣伝広告等の態様及びその事実並びに多額の宣伝広告費の支出等の事実か らすれば、本願商標の形状について蓄積された自他商品識別力は極めて強い ことは明白である。また、原告は、本願商標に係る形状の重要性に鑑み、本10 願商標に係る形状を構成する要素である八角形のベゼルのそれぞれの角に六 角形のネジを配置してなる図形商標(国際登録第594072号)を日本及 び米国を始めとした複数の国々において商標登録しており、この事実からも 本願商標に係る形状、とりわけ八角形のベゼルとそれぞれの角に配置された 六角形のネジという組み合わせが自他商品等識別標識として十分な識別力を15 備えていることは明らかである。したがって、本願商標は商標法3条2項に より商標登録を受けることができるというべきである。
? 販売数量及び販売高について 本件審決は「甲247号証は、請求人自身が作成し、売上げの数字のみが 記載されているにすぎず、これを裏付ける証拠は何ら提出されていない。」20 (8頁2行目〜同頁4行目)「請求人が主張する本件製品の売上げ規模が、

『腕時計』を取り扱う業界においてどの程度の市場占有率であるのかが明ら かではなく、他社の同種製品との比較もできない。(8頁5行目〜同頁7行 」 目)と判断した。
しかし、まず売上げについては、当該売上げを管理する者、すなわち原告25 でなければ知る由がない。まして、原告は本件製品以外にも複数の製品を販 売しているのであるから、各製品の売上高の内訳を抽出することができるの 15 は原告において他にない。しかるに、当該売上げを裏づける証拠が提出され ていないことを理由に、自他商品識別力があることを立証するために有力な 売上げに係る証拠を排除することは許されず、特許庁の判断は不意打ち以外 の何物でもない。そもそも、甲247のような売上げに係る資料を原告自身5 が作成し、それを証拠として提出することは、裁判所においても認められる 一般的な立証方法である。この立証方法が認められないならば、原告以外に 本件製品の売上げを正確に把握している者はいないであるから、売上げの立 証は不可能であるというほかない。また、売上げの証憑の提出まで求められ るとすれば、過去の売上げについて、各販売実績をひとつひとつ追わなけれ10 ばならず、原告の立証責任が不当に過剰であるばかりか、立証は事実上不可 能といわざるを得ない。以上の点からして特許庁が甲247の証拠方法を排 除したことは不合理極まりない。
また、市場占有率については、業界における統計情報が利用できるのであ れば証拠方法として採用しうるが、そのような情報が存在することは稀であ15 り、当然に立証を要する事項ではない。また、他社の同種製品の売上げにつ いても、通常は開示されていないのであるから、それとの対比ができないこ とは自他商品識別力を否定する根拠にはならない。
? 宣伝広告費について 本件審決は「他社の宣伝・広告費との比較ができないため、請求人の宣伝・20 広告費の多寡を確認することができない。(8頁25行目〜27行目)と判 」 断した。
しかし、他社の売上げと同様に、他社の宣伝・広告費は通常開示されてい ないのであるから、当然に立証を要する事項ではない。また、それとの対比 ができないことをもって甲248の証拠方法を排除することが不合理である25 ことは、上記?と同様である。なお、特許庁は甲247の売上げについては その証憑が提出されていないと指摘する一方で、甲248の宣伝・広告費に 16 ついてはその証憑を要求しておらず、その判断には一貫性がない。
? 宣伝広告の態様について 本件審決は、
「これらの紹介記事には、
『Royal Oak』や『ロイヤ ルオーク』の文字、ややデザイン化された『AP』の文字や請求人の名称の5 一部である『AUDEMARS PIGUET(Audemars Pig uet)』の文字が記載されていることが確認でき、本願商標のみが、実際に 宣伝広告されていることは確認することができない。(8頁16行目〜同頁 」 20行目)「1972年ないし2020年に発行された出版物やインターネ 、
ット記事等による本件製品の紹介記事は、
『Royal Oak』や『ロイヤ10 ルオーク』の文字、ややデザイン化された『AP』の文字や請求人の名称の 一部である『AUDEMARS PIGUET(Audemars Pig uet) の文字等とともに紹介されていることからすると、
』 本願商標の形状 のみが独立した識別標識として認識され、その機能を果たしているものとは 認められない。(8頁32行目〜同頁38行目)と判断した。
」15 しかし、これまでの裁判例の商標法3条2項により商標登録を受けること ができると判断された事例においても、実際の製品には装飾やラベルが付さ れており、出願商標に係る立体的形状のみで取引されているわけではない。
さらにいえば、立体的形状のみで取引されている事例は、極めて稀である。
つまり、ブランド名や製品名等が一切表示されていない出願商標に係る立体20 的形状のみで取引されている事例があるとすれば、それは当該形状がブラン ド名や製品名等から独立して自他商品・役務識別力を有していることの証と なりうるが、たとえ出願商標に係る立体的形状に装飾やラベルを付して販売 されているとしても、それは当該形状の自他商品・役務識別力を否定するも のではない。
25 本件製品である「ロイヤルオーク」の文字盤に表示されている「AP」、
「A UDEMARS PIGUET(Audemars Piguet) の文字 」 17 は極めて小さく、相当の注意を払わなければ看取することは困難である一方 で、本願商標は、本件製品に接した需要者であれば必ず目にする形状の3特 徴を有するものであるから、形状の3特徴は、文字盤に小さく表された文字 よりもはるかに看者の目をひき、形状のみで十分に出所識別標識として機能5 する。したがって、本件製品に「AP」「AUDEMARS 、 PIGUET (Audemars Piguet)」の文字が付されているとしてもなお、
本願商標は需要者の目につき易く、強い印象を与えるものであるといえ、そ の立体的形状が独立して自他商品識別力を獲得するに至っていることは明ら かである。
10 ? 需要者の認識について 本件審決は「本件製品に関する需要者の認識度を示したアンケート調査等 に関する証拠は提出されておらず、本件製品に関する需要者の認識度を客観 的に評価することができない。 8頁29行目〜同頁31行目) ( 」 と判断した。
アンケート調査については調査対象者の選定、質問方法、質問内容などに15 ついて公平性や中立性を損なうものとなっていないかを十分に考慮しなけれ ばその証拠価値が否定されることになり、実際に証拠価値が認められず、証 拠採用されなかった裁判例も数多く存在する(東京高裁平成12年4月13 日判決、同平成15年8月29日判決など) そもそも特許庁の審決において 。
は、アンケート調査の信用性を担保する実施方法についての規範を定立した20 事案もなく、特許庁自身が明確な判断規範をもっていないにもかかわらず審 査段階からアンケート調査結果を重用する傾向にあるが、そのような状況で 証拠としてのアンケート調査結果の提出を求めること事態が不合理で、事実 認定の客観性に欠けると言わざるを得ない。したがって、本件製品に関する 需要者の認識度を示したアンケート調査等に関する証拠が提出されていない25 ことは、本願商標の自他商品識別力を否定する根拠にはならない。
? 類似する同種製品について 18 本件審決は「請求人が主張する形状の3特徴は、請求人以外の者において も、腕時計の機能や美感を向上させる目的で採用されているといえ、形状の 3特徴を有する腕時計は、本件製品以外にも存在する。(9頁1行目〜同頁 」 3行目)と判断した。
5 しかし、本件審決が別掲2として掲げる計33個の事例のうち、別掲2の 1(1)、2(1)(2)(3)(6)及び(12)に掲げられた6個の製品 、 、 、
は、識別力を有する本願商標の強い顧客吸引力フリーライドする明らかな 模倣品であり、その余の27個の製品については形状の3特徴を全て備えて いるものですらなく、そもそも引例として不適切である。
10 形状の3特徴を全て備える本願商標に触れた場合、取引者、需要者は腕時 計に付されているロゴを確認するまでもなく、その形状のみから著名な原告 の代表的な製品である「ロイヤルオーク」 (本件製品)を識別することが合理 的な疑いを挟む余地がないほどに明らかであるから、本件審決の判断には全 く理由がない。
15 ? 使用実績について 本件審決は「請求人が提出した証拠は、本願商標を商品『腕時計』につい て使用している事実のみを証明するものであって、本願商標が、腕時計以外 の時計に使用されたことは確認することができない。(9頁5行目〜同頁7 」 行目)と判断する。
20 しかし、
「腕時計」と「腕時計以外の時計」は単に時計の種別が異なるに過 ぎず、
「腕時計以外の時計」は「腕時計」と極めて密接な関係にある商品とい える。そして、本願商標について「腕時計」における自他商品識別力が認め られることは、すでに詳述したとおりである。したがって、
「腕時計以外の時 計」についても、自他商品識別力を獲得したといえ、商標法3条2項により25 商標登録を受けることができるというべきである。
以上によれば、本件審決の判断は違法なものであり、直ちに取り消される 19 べきである。
〔被告の反論〕 ? 商標法3条2項について ア 商標法3条2項が、同条1項3号等所定の商標であっても、使用をされ5 た結果、需要者が何人かの業務に係る商品(役務)であることを認識する ことができるものについては、商標登録を受けることができるとする趣旨 は、特定人が、当該商標を、その者の業務に係る商品(役務)の自他識別 標識として、永年の間、他人に使用されることなく、独占排他的に継続使 用した実績を有する場合には、当該商品(役務)に係る取引界においては、
10 事実上、当該商標の当該特定人による独占的使用が事実上容認されている といえるので、他の事業者にその使用の機会を開放しておく公益上の要請 が乏しくなるとともに、当該商標が、自他商品(役務)識別力を獲得した ことにより、商標としての機能を備えるに至ったことによるものと解され る。
15 イ また、商標法は全国一律に適用されるものであって、商標権が全国に効 力の及ぶ更新登録可能な排他的な権利であることからすると、出願商標に ついて、商標法3条2項により商標登録が認められるためには、同条1項 3号に該当する商標が、現実に使用された結果、指定商品又は指定役務の 需要者の間で、特定の者の出所表示として我が国において全国的に認識さ20 れるに至ったことが必要であるといえる。
ウ さらに、商標法3条2項の適用に当たっては、当該形状が需要者の目に つきやすく、強い印象を与えるものであったかなどを総合勘案した上で、
当該形状が独立して自他商品識別力を獲得するに至っているか否かを判 断すべきである。
25 ? 本願商標の出所識別標識としての使用について ア 本願商標は、需要者の目につきやすく、強い印象を与えるものとはいえ 20 ないこと 本願商標は、腕時計のバンド及び針(時針等)を除く部分の形状と認め られ、また、本願商標は、八角形のベゼルやベゼルに固定するための六角 形のネジ及び文字盤の立体的形状の格子模様を有するところ、原告以外の5 者が取り扱う「腕時計」においても、原告が主張する形状の3特徴の全て 又はいずれか若しくはこれらと同様の特徴を有する商品が実際に多数取 引されている。
そうすると、本願商標を構成する形状や模様は、腕時計において、採用 し得る機能又は美感の範囲を超えて、商品の出所を識別する標識として認10 識させるものとはいえないから、特段、需要者の目につきやすく、強い印 象を与えるようなものとはいえない。
イ 本願の指定商品「時計」の需要者等について 時計は、
「時刻を知り、また時間を計るのに使う器機」 (乙23)である ところ、本願の指定商品「時計」は、普通一般に取引される腕時計や、一15 般の家庭を含むあらゆる場所で、日常的に多用される置き時計、掛け時計 等を含むものであるから、その需要者は、高級腕時計の需要者に限定され るものではなく、一般の需要者であるといえる。そして、一般の需要者の 取引の際に払われる注意力はさほど高いとはいえないものであるから、原 告が主張する形状の3特徴を、一般の需要者が一見して視覚的に看取し、
20 その特徴のみから、本願商標を出所識別標識として捉えることは困難であ るというべきである。
ウ 原告が取り扱う腕時計について (ア) 原告に関する事実 原告は、明治8年(1875年)にジュール=ルイ・オーデマ、エド25 ワード・ピゲによって創業されたスイス連邦の腕時計メーカーであり、
我が国及び米国を含む世界の高級腕時計市場において自社製品を販売 21 し、我が国では、東京、名古屋及び大阪に直営店である「オーデマ ピゲ ブティック」を構える他、東京に2か所、札幌、神戸、岡山、高松及び 福岡に各1か所ある正規代理店を通じてロイヤルオークというブラン ドの製品をはじめとする自社製品を販売している(甲263)とするが、
5 我が国における原告の直営店は3店舗、正規代理店も7店舗にすぎず、
決して多数の店舗数とはいえない。
(イ) ロイヤルオークというブランドの製品 原告が昭和47年(1972年)に発売した腕時計「Royal Oa k」は、ステンレススチールを採用したスポーツウォッチであり、高級10 腕時計の価格帯の商品であることが確認できる(甲4)。なお、原告提 出の証拠によれば、原告のロイヤルオークというブランドの製品(本件 製品)にも原告が主張する形状の3特徴の全てを備えていない腕時計、
例えば、文字盤に立体的な格子模様がないもの、
「ロイヤルオーク オフ ショア アリンギ アメリカズカップ2003優勝記念モデル」 (甲72)、
15 「レディ ロイヤルオーク」(甲84、97)「ロイヤルオーク スケル 、
トン オートマティック」 (甲128)「ROYAL OAK OFFSH 、
ORE GINZA 7 FORGED CARBON」(甲133) 「コ 、
レクション ロイヤルオーク トゥールビヨン・クロノグラフ」(甲18 1(7葉目)「コレクション ロイヤルオーク クロノグラフ」 ) (甲1820 1(9葉目))等が多数見受けられ、形状の3特徴の全てが、原告の本件 製品に統一的に採択されているとはいえない。
(ウ) 使用開始時期・使用期間及び使用地域、販売数量並びに売上高 本件製品は、「Royal Oak(ロイヤルオーク)」の名称で昭和 47年(1972年)に最初のモデルが発売され(甲219〜221)、
25 令和元年(2019年)頃には、
「ロイヤルオーク パーペチュアルカレ ンダー ウルトラシン」(甲222)「ロイヤルオーク クロノグラフ」 、
22 (甲224)「ロイヤルオーク オートマチック」 、 (甲225)等がある ところ、原告は、本件製品の平成27年(2015年)ないし令和2年 (2020年)の売上げが、平成27年(2015年)が4536万0 186スイスフラン(約52億8718万3280円) 平成28年 、 (25 016年)が6129万4671スイスフラン(約71億4450万6 851円)、平成29年(2017年)が7294万4995スイスフ ラン(約85億0246万8617円)、平成30年(2018年)が9 412万3405スイスフラン(約109億7102万4086円)、
令和元年(2019年)が1億0964万6028スイスフラン(約110 27億8034万1023円)及び令和2年(2020年)が4964 万9051スイスフラン(約57億8709万3384円)の売上げが ある(甲247)旨主張する。
しかしながら、原告が主張するとおりの売上げがあるとしても、本件 製品の定価はエントリーモデルで約300万円ということであるから、
15 例えば、平成27年(2015年)の約52億8718万3280円の 売上げから、エントリーモデルの価格でその販売個数を計算すると約1 760個、令和2年(2020年)の約57億8709万3384円の 売上げであれば、約1920個である。日本経済新聞社の「NIKKE I COMPASS」の「時計の市場動向」には、
「日本時計協会による20 と、令和5年(2023年)の日本企業のウオッチ出荷の内訳は、
(略) 国内向けは数量が1%増の600万個」(乙24)との記載から考慮す れば、本件製品の年間の販売個数は多いとはいえない。
(エ) 宣伝広告 原告が提出した証拠によると、
「Royal Oak(ロイヤルオーク)」25 の名称の製品が、昭和47年(1972年)ないし令和2年(2020 年)に発行された出版物やインターネット記事等で紹介されていること 23 は確認できる(甲1〜245)。
しかしながら、これらの紹介記事には、その記事内に「Royal O ak」 「ロイヤルオーク」の文字の記載 や (甲2〜7、9〜20、22、
24〜32、34〜37)があり、ややデザイン化された「AP」の文5 字や原告の名称の一部である「AUDEMARS PIGUET(Au demars Piguet)」の文字は、誌面等において大きく表され ているばかりでなく(甲1、2、4、5、7〜38、40〜49)、誌面 等に掲載された写真の腕時計にも目を引きやすい位置である、中央上部 の12時の位置程にも配されていることが確認でき(甲73〜76、710 8、80〜82、84〜86)これらの文字部分が、需要者の目につき やすく、強い印象を与えるものといえる。そして、これらの証拠は、
「A UDEMARS PIGUET(Audemars Piguet)」の 商品又は「Royal Oak(ロイヤルオーク)」という商品の宣伝広 告となっているにすぎず、紙面等に腕時計の写真が掲載されているとし15 ても、腕時計のバンド及び針(時針等)を除く部分の形状である本願商 標を示された時に、原告の商品であることを理解させる宣伝広告となっ ているとはいえない。
また、原告は、本件製品についての我が国における宣伝・広告費は、
平成27年(2015年)に4億6628万9341円、平成28年(220 016年)に6億0782万4104円、平成29年(2017年)に 6億0950万0679円、平成30年(2018年)に5億4181 万2520円、令和元年(2019年)に4億0675万4000円、
令和2年(2020年)に3億5733万6750円である(甲248) と主張するが、甲248は、その表題として「Audemars Pi25 guet宣伝広告費(2015年〜2020年)」と記載されており、
原告の全ての商品の宣伝・広告費と解され、原告のホームページ(乙2 24 5)によれば、本件製品以外の商品(「CODE 11.59バイ オーデ マ ピゲ」)も販売されているから、本件製品の宣伝・広告費について立 証したものとはいえない。
(オ) 原告以外の者の同種商品の存否5 原告が主張する形状の3特徴は、上記のとおり、原告以外の者におい ても、腕時計の機能や美感を向上させる目的で採用されているといえ、
形状の3特徴の全て又はいずれか若しくはこれらと同様の特徴を有す る「腕時計」は、本件製品以外にも多数存在するから、当該形状が「腕 時計」において採用し得る機能又は美感の範囲を超えて、商品の出所を10 識別する標識として認識させるとはいえず、本願商標は、自他商品識別 力を欠くものである。
(カ) 腕時計以外の時計に関する使用事実 原告が提出した証拠は、本願商標を商品「腕時計」について使用して いる事実のみを証明するものであって、本願商標が、腕時計以外の時計15 に使用されたことは確認することができない。
(キ) 小括 以上のとおり、原告は、明治8年(1875年)に創業されたスイス 連邦の腕時計メーカーで、昭和47年(1972年)に発売した本件製 品は、ステンレススチールを採用したスポーツウォッチであり、国内120 0店舗で、本件製品をはじめとする自社製品を販売していること、本件 製品は、昭和47年(1972年)ないし令和2年(2020年)に発 行された出版物やインターネット記事等で紹介されていることは確認 できる。
しかしながら、本件製品が販売される原告の店舗の数は、原告の直営25 店は3店舗及び正規代理店は7店舗と国内で10店舗にすぎず、その店 舗数は決して多数とはいえないこと、本件製品の売上げは、原告の主張 25 どおりであったとしてもその販売個数は決して多いとはいえないこと、
本件製品には、形状の3特徴を備えていないものが多数見受けられ、統 一的に採択されている特徴といえないこと、出版物やインターネット記 事における本件製品の紹介記事には、
「Royal Oak」や「ロイヤ5 ルオーク」の文字が記載されており、ややデザイン化された「AP」の 文字や原告の名称の一部である「AUDEMARS PIGUET(A udemars Piguet) の文字は紙面等において大きく記載さ 」 れているばかりでなく、本件製品の腕時計の文字盤にも目立つ位置に配 されていることから、需要者の目につきやすく、強い印象を与えるもの10 であること、甲248の宣伝・広告費は、本件製品の宣伝・広告費を立 証しているとはいえないこと、本願商標が腕時計以外の時計に使用され ていることが確認できないこと、本願の指定商品である「時計」の需要 者は、一般の需要者であるから、本願商標から、原告が主張する形状の 3特徴を、一般の需要者が一見して視覚的に看取し、その特徴のみから、
15 本願商標を出所識別標識として捉えることは困難であること等からす ると、本願商標が、原告により本願の指定商品「時計」に使用をされた 結果、需要者が何人かの業務に係る商品であることを認識することがで きるに至っているとはいえない。
したがって、本願商標は、商標法3条2項の要件を具備しないとした20 本件審決の認定、判断に誤りはない。
? 原告の主張に対する個別の反論 ア 店舗数の多寡、宣伝広告の内容、需要者等については、いずれも、本願 商標に商標法3条2項を適用できるか否かについての一つの指標であり、
その判断にあたっては、本件審決は、その他の事情も含めて総合考慮して25 判断しているのであるから、本件審決の判断手法に誤りはなく、原告の主 張は、その前提において失当である。
26 そして、本願の指定商品「時計」の需要者は、本件製品のような高級腕 時計のみでなく、普通一般の腕時計を含む「時計」の需要者であって、本 件製品のような富裕層を主なターゲットとする店舗展開や宣伝広告の方 法は、広く一般の需要者層に浸透させる方法とはいい難いといえる。
5 また、原告が主張する形状の3特徴は、腕時計において、採用し得る機 能又は美感の範囲を超えて、商品の出所を識別する標識として認識させる とはいえないから、本願商標に接する需要者は、腕時計のバンドや針(時 針等)を除く部分と認識するにとどまり、原告が主張する形状の3特徴を 一見して視覚的に看取し、その特徴のみから、本願商標の形状を出所識別10 標識として捉え、商品の出所が原告であると認識し得るというのは困難で あるというべきである。
加えて、原告が主張する形状の3特徴のうち一部の特徴を有する他社製 品の存在は、原告による当該特徴を備える製品の独占的使用の事実を否定 する根拠となり得るものであるから、本件審決が引用した使用例は妥当で15 ある。
イ 本件製品が販売される原告の店舗の数は、決して多数とはいえないこと、
売り上げについては、原告の主張のとおりであるとしてもその販売個数は 決して多いとはいえないこと、本件製品には、形状の3特徴を備えていな いものが多数見受けられ、原告により統一的に採択されている特徴といえ20 ないこと、本件製品の紹介記事には、
「Royal Oak」や「ロイヤル オーク」の文字の記載や「AP」の文字や原告の名称の一部である「AU DEMARS PIGUET(Audemars Piguet) の文字が 」 顕著に記載されていること、宣伝・広告費(甲248)は、本件製品の宣 伝・広告費を立証しているとはいえないこと等からすると、本願商標が、
25 原告により指定商品「時計」に使用された結果、需要者が何人かの業務に 係る商品であることを認識することができるに至っているとはいえない。
27 そして、本件審決は、甲247の証拠方法を排除したのではく、裏付け がないことを述べたにすぎない。
さらに、宣伝広告費については、原告が提出した甲248には、
「Aud emars Piguet宣伝広告費(2015年〜2020年)」と記載5 されており、原告の全ての商品の宣伝広告費と解されるから、本件製品の 宣伝広告費について立証したものとはいえない。
加えて、本願商標に商標法3条2項を適用できるか否かについて、総合 判断を行うに当たっての証拠の種類については、売上高の多寡や市場占有 率の高さ、宣伝広告費等の事情も含めて総合的に考慮して商標法3条2項10 を適用できるか否かについて判断を行うものであるから、審決の判断手法 に誤りはないといえる。
ウ 本願商標は、本願の指定商品「時計」の需要者が、それに接する場合、
腕時計のバンド及び針(時針等)を除く部分の図形を表したものと認識す るにとどまり、出所表示識別標識と認識するものではなく、単に商品の形15 状を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標と認識する にすぎないものというべきであるから、商標法3条1項3号に該当するも のであり、また、原告による使用実績を踏まえたとしても、本願商標は、
商標法3条2項の要件を具備するものということはできないというべき であるから、本件審決の判断に違法はない。
20 第4 当裁判所の判断 1 取消事由1(商標法3条1項3号に該当するとした判断の誤り)について ? 商標法3条1項3号の解釈 商標法3条1項3号は、
「その商品の産地、販売地、品質、原材料、効能、
用途、形状(包装の形状を含む。、生産若しくは使用の方法若しくは時期そ )25 の他の特徴、数量若しくは価格又はその役務の提供の場所、質、提供の用に 供する物、効能、用途、態様、提供の方法若しくは時期その他の特徴、数量 28 若しくは価格を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標」は、
商標登録を受けることができない旨を規定する。その趣旨は、同号に該当す る商標は、特定人によるその独占使用を認めるのを公益上適当としないもの であるとともに、一般的に使用される標章であって自他商品識別力を欠き、
5 商標としての機能を果たし得ないものであることによるものと解される(最 高裁昭和53年(行ツ)第129号同54年4月10日第三小法廷判決・裁 判集民事126号507頁参照)。
そして、商品等の形状は、多くの場合、商品等に期待される機能をより効 果的に発揮させることや、商品等の美感をより優れたものとすること等の目10 的で選択されるものであって、直ちに商品の出所を表示し、自他商品を識別 する標識として用いられるものではない。このように、商品等の製造者、供 給者の観点からすれば、商品等の形状は、多くの場合、それ自体において出 所表示機能又は自他商品識別機能を有するもの、すなわち、商標としての機 能を果たすものとして採用するものとはいえない。また、商品等の形状を見15 る需要者の観点からしても、商品等の形状は、それが平面上に表されたもの であっても、文字、図形、記号等、それ自体平面的に表示される標章とは異 なり、商品の機能や美感を際立たせるために選択されたものと認識するので あって、商品等の出所を表示し、自他商品を識別するために選択されたもの と認識する場合は多くない。
20 また、商品等の機能又は美感に資することを目的とする形状は、同種の商 品等に関与する者が当該形状を使用することを欲するものであるから、先に 商標出願したことのみを理由として当該形状を特定人に独占使用を認めるこ とは、公益上適当でない。
そうすると、客観的に見て、商品等の機能又は美感に資することを目的と25 して採用されると認められる商品等の形状(形状を表した図形を含む。)は、
特段の事情のない限り、商品等の形状を普通に用いられる方法で使用する標 29 章のみからなる商標として、商標法3条1項3号に該当すると解される。
? 本願商標の商標法3条1項3号該当性 ア 本願商標は、前記第2の1?のとおりの構成からなる商標である。
腕時計においては、文字盤に刻まれた目盛りや数字をインデックスなど5 というところ(乙1)、本願商標は、腕時計からベルト及び針(時針等)を 除いた、ラグ(時計本体とベルトを固定する部分、乙1)、ケース、風防、
インデックスの記載がある文字盤、リューズ及びベゼル等より構成され、
これらの形状を文字盤の上部方向から平面視して表した図形である。しか も、上記図形は、ベゼル、ラグ、リューズ、文字盤の格子状模様等の全て10 において陰影が施され、立体的な形状として表現されている。したがって、
本願商標は、上記時計の構成部分を平面視した図形として表されてはいる ものの、時計の一部の形状を出所識別標識とすべく登録出願されたものと 認められる。
これを前提に、本願商標の構成を検討すると、以下のとおりである。
15 本願商標のラグには、腕時計において金属ベルトを繋ぐ位置に上下二つ の凹部がある。ラグの中央には、外側が八角形で内側が円形のベゼルがあ り、そのベゼルのそれぞれの角に六角形のマイナスネジが配置されており、
全体の色は銀色である。文字盤内のインデックスは、数字ではなく、格子 模様から隆起して見える目盛りからなり、各定時においては1本線であり、
20 上部中央においては2本線である。文字盤にはリューズ近くの位置に腕時 計において通常日付けが表示されている位置に空白があり、中央上部にブ ランド名を示す部分があるほかは、文字盤の全面にわたり立体的に見える ように陰影を施した格子模様が示されている。
イ 本願商標の指定商品は「時計」であるから、腕時計のほか、置時計や掛25 け時計等も含まれるものであり、その需要者は一般の消費者であると認め られる。本願商標は、腕時計からベルト、針を除いたものであるとの形状 30 に係る上記アの各事情は、需要者がこれを容易に認識することができると いえる。
ウ 腕時計においては、別掲2の1(1)ないし(4)、2(1)ないし(2 9)及び乙4のとおり、腕時計のバンド及び針(時針等)を除いた部分の5 形状として、ラグ、ケース、風防、インデックスのある文字盤、リューズ 及びベゼル等から構成され、八角形のベゼルやビス、文字盤の格子模様な どを、それぞれ備えるものが相当数存することが認められる。
エ 上記アないしウの事情を総合すれば、本願商標の形状は、客観的に見て、
商品の機能又は美感に資することを目的として採用されたものであり、か10 つ、本願商標の需要者である一般の消費者において、同種の商品等につい て、機能又は美感に資することを目的とする形状の選択であると予測し得 る範囲のものであると認められる。
そうすると、本願商標に係る形状は、商品等の形状を普通に用いられる 方法で使用する標章のみから成る商標として、商標法3条1項3号に該当15 するというべきである。
? 原告の主張に対する判断 ア 原告は、前記第3の1〔原告の主張〕?のとおり、本願商標は形状の3 特徴を備えるなど自他商品識別力を備えることができる程度の形状的特徴 を有しているところ、本件審決は本件製品の模倣品をもって本願商標の識20 別力を否定しており、その判断は誤りである旨を主張する。
なるほど、これら商品の中には「八角ベゼル・・・オーデマピゲ風」 (甲 255)「オーデマ・ピゲのロイヤルオークそっくりの外見です」 、 (甲25 7)「スイス 、 REP AP Homage ロイヤルオーク 八角形ベ ゼル」(甲259)、などの記載があるものもあり、これらの一部である別25 掲2の2(1)(6)(12)につき、Amazonにより販売ページが 、 、
削除された事実が認められる(甲273の1?3、甲274の1?3)が、
31 削除の理由は明らかではないほか、原告においてもこれらに該当すると主 張しない別掲2の2(7)、同(10)及び同(22)等からも明らかなと おり、本願商標に表された形状は、他の腕時計の文字盤等の形状と比較し て特に斬新な形状といえるような特段の事情もなく、商品の特性上普通に5 求められる形状の範囲内のものであり、仮に斬新な形状であるといえると しても、これらの形状は、腕時計として用いることに適合する形状で作ら れるものであり、商品の機能上の観点から選択されたものにすぎないと認 められ、機能上の理由による形状の選択と予測し得る範囲のものであると いうべきである。
10 したがって、原告の上記主張は採用することができない。
イ 原告は、前記第3の1〔原告の主張〕?のとおり、審決で示されていな い乙4については、本願商標の形状の3特徴を備えておらず、これを勘案 して本願商標の識別力を否定しており、その判断は誤りである旨を主張す る。
15 しかし、そもそも、本願商標の構成から当然に原告が主張する形状の3 特徴が認識されるとは限らず、また、商標法3条1項3号該当性の判断に おいて、上記形状の3特徴を備えていれば、なにゆえ時計の形状として出 所識別標識となるのか、その理由は明らかでないから、上記形状の3特徴 を全て備えた他社製品が存在しなければならないとする原告の主張は理20 由がない。上記三つの特徴それぞれを検討して、それぞれの特徴が時計の 形状の一部として特徴のある形状であるか否か、それらの特徴を組み合わ せた時計が市場において存在するのか否かを検討すれば足りるというべ きである。そして、
「CITIZEN」のウェブサイトである乙4には、
「E co-Drive One」の見出しの下に、「セラミックベゼルモデル」25 として、ビス4本によりベゼルが固定され、文字盤の全面にわたり立体的 な格子模様が示された腕時計の写真の掲載があり、原告の主張する本願商 32 標と類似する構成を備えるものであるから、前記?ウのとおり考慮の対象 とすることができるというべきである。
したがって、原告の上記主張は採用することができない。
2 取消事由2(商標法3条2項該当性に関する判断の誤り)について5 ? 商標法3条2項の解釈 商標法3条2項は、同条1項3号から5号までに該当する商標であっても、
「使用をされた結果需要者が何人かの業務に係る商品又は役務であることを 認識することができるもの」については、商標登録を受けることができる旨 を規定している。同条2項の趣旨は、同条1項3号から5号までに該当する10 商標であっても、特定の者が長年その業務に係る商品又は役務について使用 した結果、その商標がその商品又は役務と密接に結びついて自他商品識別力 又は自他役務識別力をもつに至ることが経験的に認められるので、このよう な場合には商標登録を受けることができるとしたものと解される。
そして、商品の形状を表してなる商標が使用により自他商品識別力を獲得15 したかどうかは、当該商標の形状の斬新性、当該形状に類似した他の商品の 存否、当該商標の使用開始時期及び使用期間、使用地域、商品の販売数量、
宣伝広告のされた期間・地域及び規模等の諸事情を総合考慮し、その形状が 需要者の目につき易く、強い印象を与えるものであったかなどを総合勘案し た上で、その形状が独立して自他商品識別力を獲得するに至っているか否か20 を判断するのが相当である。
? 認定事実 前記1?アにおいて認定した事実、後掲の証拠及び弁論の全趣旨によれば、
原告、本願商標及び本件製品に関し、以下の事実が認められる。
ア 原告は、明治8年(1875年)にジュール=ルイ・オーデマ、エドワ25 ード・ピゲによって創業された、スイス連邦の腕時計メーカーであり、我 が国及び米国を含む世界の腕時計市場において自社製品を販売している。
33 原告は、腕時計の専門誌において、世界3大時計ブランドの一つに並び称 されるなどとして紹介されている(甲1〜3)。
イ 原告は、昭和47年(1972年)に本件製品を販売したところ、当時 高価であったステンレススチールを採用した、初めてのスポーツウォッチ5 であり、今日に至るまで販売が継続されている。
本願商標に係る形状は、イタリア人時計デザイナー、ジェラルド・ジェ ンタによってデザインされ、前記のとおり昭和47年に最初のモデルが発 売された(甲220、222)。
本願商標の使用に係るものとして原告の主張する本件製品(Royal10 Oak(ロイヤルオーク))は、原告において、そのブランドを代表するモ デルであるとされている。
本件製品の形状である八角形のベゼルは、英国海軍の戦艦Royal Oak号の八角形の舷窓にちなんで採用されたとも、その他のモチーフに よる(潜水服のヘルメット、甲231)ともいわれているものの、いずれ15 にしろ、本件製品の外観上の特徴の一つを成している。
前記のとおり、本件製品は、昭和47年に発売されたところ、当時の薄 型腕時計では不可能とされた50メートル防水を実現するため、ベゼルと ケースの間にパッキンを挟み込み、パッキンをベゼルと共にビスで固定し たものである(甲237)。
20 ウ 本件製品を紹介した雑誌記事には、本件製品の写真が併せて掲載され、
読者が本件製品の特徴を認識できるような態様で紹介されている。本件製 品を紹介した雑誌記事には、
「8角形のケースのベゼルに、特別に設計され た8本のボールトが埋めこまれていて、同じく8角形のガラスを防水にし て密閉して組み立てられている。(甲5)「特徴的な8角形のベゼル」 」 、 (甲25 71)「八角形のベゼル」及び「八本のスクリューでケースにシッカリと 、
固定された…」(甲77)「元祖八角形ウォッチにして不朽の名作」 、 (甲2 34 30)「ゴールドに映えるブラック文字盤の『グランドタペストリー』も 、
特徴のひとつ。(甲225)などのように、本件製品の形状の特徴に言及 」 したものが見られる。
エ このように原告は、本件製品について積極的に宣伝広告を行い、時計雑5 誌の他に、全国紙、週刊誌、女性向け雑誌やウェブサイト等、多数のメデ ィアに広告を出稿している(甲1〜245)とする。
しかし、本件製品(ロイヤルオーク)自体、
「数多くのバリエーションを 持つ」とされ、
「ロイヤルオーク オフショアシリーズ」として文字盤の格 子模様のないものが雑誌に紹介されているほか(甲3) 原告の宣伝におい 、
10 ても、
「ロイヤルオーク」として文字盤の格子模様のないものを大きく写真 で宣伝しているものもあり(甲51、52、57、165)、本件製品(ロ イヤルオーク)において、格子模様とは異なる文字盤の模様となっている 製品の紹介もされている(甲84、85、95、97)。
原告の正規代理店(下記ク)の宣伝広告においても、「ロイヤルオーク」15 のほか、
「ロイヤル オーク オフショア」「CODE 11.59バイ オ 、
ーデマ ピゲ」、
「ロイヤルオーク コンセプト」等多種の製品が同じように 紹介され、取り扱いがされているところ、特に「2019年に発売され瞬 く間に代表的コレクションとなった」とされる「CODE 11.59バイ オーデマ ピゲ」においては、原告の主張する形状の3特徴を全く備えない20 モデルとなっているほか、ロイヤルオークとして紹介されている五つの商 品の中においてすら、形状の3特徴の全てを備えるのは一つのみとなって いるのみならず、これについても、色は全体に黒色であって、文字盤下中 央に秒表示があり、日付けを示す穴もないなど、本願商標とは異なるもの となっている(甲278の83)。
25 原告が本件製品(ロイヤルオーク)と共に宣伝広告した「ロイヤルオー ク オフショア」は、本願商標と比して明らかに八角形ベゼルが太く、こ 35 の点で本願商標とは異なる印象を与える上に、同シリーズでは文字盤の格 子模様もなく、時刻を示す場所(インデックス)に「1」「2」等のアラ 、
ビア数字が配されているもの(甲87) 本願商標において時刻を示す場所 、
として隆起している部分それ自体が存しないもの(甲104)などが存す5 る。
「ロイヤルオーク コンセプト」も、文字盤に格子模様が存せず、全面 にわたりネジ等の機械機構が見える仕様となっており、インデックスも存 しないか極めて短いものとなっている(甲278の83)。
原告は、2002年(平成14年)頃にロイヤルオークの30周年記念10 モデルとして、「ニックファルド限定モデル」(甲68)「アメリカズカッ 、
プモデル」 (甲69〜71)を販売したが、いずれもインデックスが数字で あり、文字盤の格子模様は文字盤の一部に施されるにすぎず、文字盤も概 ね黒色であり(甲68〜71)、文字盤に複数の計測針が配されている(甲 69〜71)。
15 その他にも、原告が本件製品の広告の成果として提出する証拠について、
その詳細を見ると、本件製品(ロイヤルオーク)ではあるものの、本願商 標とは異なり、@文字盤に立体的な格子模様自体が施されておらず、平面 的なもの(甲52、57、97)、A文字盤の立体的な格子模様が一部にし か施されていないもの(甲66〜69) B文字盤に格子模様とは異なる別 、
20 の模様等が施されているもの(甲18、39、56、84、95、97、
104、117、128、144、165、222、223、226、2 35)、Cインデックスが数字等であるもの(甲66〜69、81、83、
99、100〜103、105、107、108、110〜115、11 8〜120、127、131、133、134、136、141、163、
25 168、174、175、236)、Dインデックスが丸いなど宝飾品様の もの(甲16、18、19、21、23、25、26、28、33、38、
36 47、56、57、72〜77、83〜85、89、91、97、127)、
Eベゼルが金色であるもの(甲9、12〜15、34、36、37、38、
40、47〜49) F文字盤以外が金色であるもの 、 (甲9(中央の製品)、
甲10、11、82、84〜86、88〜90、92〜94、96、98、
5 103、106、108、110〜113、164、177〜180、1 83〜185、187、188、190、191、193、195〜20 0、203、204、206、209、224、225、227、230)、
G全体の色が金色等で銀色でないもの(甲16、18、19、21、23、
25、26、28、33、36、38〜40、42、45、47〜49、
10 56、57、168、174、175)、H文字盤及びベゼルが黒色で台座 部分が金色であるもの(甲79、159、160)、Iインデックス等を除 き全体が黒色のもの(甲223、226)、J八角形ベゼルのそれぞれの角 にくぼみがあり、六角形の穴を有するビスで止められているもの(甲12 4、125)など、原告が形状の3特徴とするものや本願商標の構成の一15 部を備えないものがある。
オ また、本件製品の広告には、八角形のベゼルも六角形のビズも備えず、
文字盤もほぼ四角形の原告の製品(クォーツ。甲12〜15、24)が、
本件製品と、一緒に並んで宣伝されているものもある。
カ 原告は、昭和47年(1972年)から現在に至るまで、時計雑誌、フ20 ァッション誌のみならず週刊誌・全国紙を含む多種の新聞・雑誌に少なく とも160回以上その広告又は紹介記事が掲載されているとするところ、
原告による広告の実情について前記エのとおりであるほか、雑誌等の紹介 記事においても、本件製品について、ベゼルが黄色で、インデックスが数 字であるものなども併せて紹介され(甲3) 原告が形状の3特徴として主 、
25 張する文字盤の格子模様についても、これが全くない製品がロイヤルオー クとして紹介されるなどしている(甲222)。
37 キ 原告は本願商標に係る形状を構成する要素である八角形のベゼル及びそ のそれぞれの角に六角形のネジを配置してなる図形商標(国際登録第59 4072号)について、日本及び米国等において商標登録を受けていると する(甲263(5頁)、甲266(8頁)。
)5 ク 原告は、東京、名古屋及び大阪に直営店である「オーデマ ピゲ ブテ ィック」を構えるほか、東京に2か所、札幌、神戸、岡山、高松及び福岡 に各1か所ある正規代理店を通じて、本件製品をはじめとする自社製品を 販売している(甲278の83,84)。本件製品(ロイヤルオーク)につ いて、原告は、我が国において継続的に販売されており、平成27年(210 015年)が4536万0186スイスフラン(約52億8718万32 80円) 平成28年 、 (2016年)が6129万4671スイスフラン(約 71億4450万6851円)、平成29年(2017年)が7294万4 995スイスフラン(約85億0246万8617円)、平成30年(20 18年)が9412万3405スイスフラン(約109億7102万4015 86円)、令和元年(2019年)が1億0964万6028スイスフラン (約127億8034万1023円)及び令和2年(2020年)が49 64万9051スイスフラン(約57億8709万3384円)の売上げ がある(甲247)とするが、これらには、本件製品(ロイヤルオーク) のほか、
「ロイヤルオーク コンセプト」及び「ロイヤルオーク オフショ20 ア」も含まれているところ、上記額の概ね半分強が本件製品(ロイヤルオ ーク)であり、その余が「ロイヤルオーク コンセプト」及び「ロイヤル オーク オフショア」である(甲247)。
ケ また、本件製品をはじめとする原告の製品を宣伝するための展示会への 出展、新製品の発表会、顧客を集めてのイベントやゴルフトーナメントの25 スポンサーシップといったイベントも数多く行っている(甲167、16 9、170、172、173、176、182、192、201、210、
38 212、213)ほか、著名人にも原告の製品の愛用者が多数存在する(甲 189)とする。
原告は、本件製品についての我が国における宣伝・広告費が、平成27 年(2015年)に4億6628万9341円、平成28年(2016年)5 に6億0782万4104円、平成29年(2017年)に6億0950 万0679円、平成30年(2018年)に5億4181万2520円、
令和元年(2019年)に4億0675万4000円、令和2年(202 0年)に3億5733万6750円であるとして甲248を提出するとこ ろ、その表題は「Audema Piguet 宣伝広告費(2015年〜2020年)」10 とされており、本件製品に係るもののみとは認め難い(甲248)。
コ 本件製品及び本願商標について、消費者調査、アンケート調査等はされ ておらず、本件製品ないし本願商標に係る需要者の認識に関する証拠は何 ら提出されていない。
サ 原告の正規代理店も取り扱う高級ブランドである「GIRARD-PE15 RREGAUX」の腕時計も、外側八角形ベゼルとビス状のもの(ベゼル におけるビス等の配列も甲84、85に示された本件製品(レディロイヤ ルオーク)と類似する)及び文字盤の格子模様を備えている(別掲2の2 (7)、甲70、乙9)「GIRARD-PERREGAUX」は、原告と 。
並んで紹介される高級腕時計メーカーである(甲70)。
20 原告の正規代理店である「YOSHIDA」のウェブサイトにおいて販 売されている「BVLGARI」の腕時計には、八角形のベゼルを備えた ものがある(別掲2の2(21)、乙14)。
また、「カルティエ」からは、「サントスオクタゴン」として、外側八角 形ベゼルと八角形の各頂点にビス状のものを備えた腕時計が販売されて25 おり、現在は生産は終了しているものの、ウェブサイトで中古品の販売が されている(別掲2の2(10)、乙6)。
39 「CREDOR」のウェブサイトにおいて、
「GTAW040」の見出し の左に、八角形のベゼルを備えた腕時計の写真の掲載があり、税込み24 7万5000円の販売価格であることが示されている(別掲2の2(22)、
乙15)。
5 「ANTIWATCHMAN」のウェブサイトにおいては、「ティソ T ISSOT ヴィンテージ パワーマチック80 デイト 18KPG メン ズウォッチ BOX・ギャランティ付き・HA-5862」の見出しの下に、
文字盤に立体的な格子模様を備えた腕時計の写真の掲載があり、同時計は 21万8000円で販売されている旨の記載がある(甲267の2(26)、
10 乙19)。
シ 上記サのほかにも、別掲2の1(1)ないし(4) 2 、 (1)ないし(6)、
(8)(9)(11)ないし(20)(23)ないし(29)のとおり、
、 、 、
八角形のベゼルやビス、文字盤の格子模様などをそれぞれ備えた腕時計が 販売されている。
15 ? 本願商標の商標法3条2項該当性 ア 本願商標の構成は前記第2の1?及び前記1?アのとおりであり、その 形状は、文字盤の一部であり、商品の機能又は美感に資することを目的と して採用されたものであると認められる。
しかも、原告以外の者が取り扱う腕時計においても、本願商標と似た形20 状を有する製品が複数存在し(前記?サ,シ)、本願商標の形状と、原告以 外の者が取り扱う腕時計の形状とは、一定の差異はあるが、主要な構成要 素が共通しており、前記?サの腕時計と比較しても、本願商標の形状の斬 新性は乏しく、本願商標の形状に類似した他の製品が相当数存在するもの と認められる。
25 イ 本件製品は高級腕時計として有名であり、昭和47年の発売当初から、
本件製品には本願商標に示された形状が用いられていたことが認められる 40 (前記?ア、イ)。
しかし、前記?エのとおり、本件製品の形状については相当のバリエー ションがあり、それらも含めて宣伝広告がされており、その中には、本願 商標の形状的特徴として原告が主張する形状の3特徴のうち、一つないし5 複数を備えないものが多数存在しているほか、全てを備えないものも存す る。また、本件製品の宣伝広告には、本件製品と並んで、原告が形状の3 特徴として主張する構成を全く備えない腕時計の宣伝がされているもの もある(前記?オ)。
雑誌等の記事においても、本件製品の形状の特徴に言及するものがある10 ものの(前記?ウ) その特徴を備えないものについても本件製品として紹 、
介するなど(前記?カ) 本件製品の形状の特徴の紹介については必ずしも 、
一定しない。
本願商標は、腕時計の形状の一部を平面視したものであるところ、そこ に示された状態では当然のことながら販売されておらず、本件製品には、
15 いずれも原告の社名を示す「AP」の文字等が記載されている。本件製品 を紹介する広告等には、いずれも原告の社名等が記載されている(前記? ウ)。
したがって、需要者である一般の消費者は、本願商標の形状からではな く、文字盤に記載された文字、あるいは広告に記載された説明の記載から、
20 本件製品を他の製品と識別すると考えられる。
ウ 原告は、直営店及び正規代理店を通じて本件製品を販売しているが、店 舗数は極めて限られた数となっている(前記?ク)。
エ 本願商標ないし本件製品について、アンケート調査等はされていないか ら、原告による宣伝広告等の結果、本件製品ないし本願商標が需要者であ25 る一般消費者にどのように受け取られているか等、その効果を明らかにす る証拠は存せず(前記?ケ、コ)、本願商標ないし本件製品についての需要 41 者の認識は明らかではない。
加えて、本件製品の売上額とするものにも原告が形状の3特徴として主 張する構成を備えない製品が含まれているほか(前記?エ、ク)、同種他社 製品と比較すべき証拠も提出されていないから、原告が形状の3特徴とし5 て主張する構成ないし本願商標の構成を備える製品が、市場においてどの 程度販売されているのか、本件製品がどの程度の市場占有率を有するのか 等についても認めるに足りる証拠はない。
オ 上記アからエまでの事情を総合すれば、本件製品が販売開始から約40 年が経過していること及び原告自身が有名な高級腕時計製造販売業者であ10 ることを考慮しても、本願商標が需要者の目につき易く、強い印象を与え るものであったということはできないから、本願商標が使用により自他商 品識別力を有するに至ったと認めることはできず、この判断を覆すに足り る事情は認められない。
? 原告の主張に対する判断15 ア 原告は、前記第3の2〔原告の主張〕?ないし?のとおり、原告の販売 店舗について(?)、本件製品について(?)、販売数量及び販売高につい て(?)、宣伝広告費について(?)、宣伝広告の態様について(?)、需要 者の認識について(?)、類似する同種商品について(?)及び使用実績に ついて(?)の本件審決の認定及び判断はそれぞれ誤りであるから、本件20 審決は取り消されるべきであると主張する。
しかし、前記第3の2〔原告の主張〕?ないし?は、いずれも、商標法 3条2項に係る使用の結果自他識別力を備えるに至ったか否かの判断に 当たって、考慮要素の一つとされたものであり、それら要素の総合判断に より上記識別力の有無は判断されるべきものであるから、仮に本件審決の25 それぞれの認定ないし判断に誤りがあったとしても、直ちに本件審決を取 り消すべき理由となるものではない。本願商標が商標法3条2項に定める 42 使用による自他識別力を備えるに至っていないことについては前記?の とおりであり、原告の主張は前提を欠くというべきである。
イ なお、これらを個別にみても、以下のとおり、原告の主張には理由がな い。
5 (ア) 原告は、前記第3の2〔原告の主張〕?のとおり、原告の販売店舗に ついての本件審決の判断は誤りである旨を主張する。
この点については、前記?クのとおり認められるところ、前記? ウのとおり、店舗数は極めて限られたものといえ、前記?エのとおり、
原告による宣伝広告等の効果や、本件製品ないし本願商標についての需10 要者の認識を示す証拠も提出されていないところであり、前記?オのと おり、本願商標が自他識別力を獲得しているものとはいえない。
したがって、原告の上記主張は採用することができない。
(イ) 原告は、前記第3の2〔原告の主張〕?のとおり、本件製品について の本件審決の判断は誤りである旨を主張する。
15 この点については、前記?エのとおり、本件製品には多種多様なもの があり、その中には、原告が形状の3特徴として主張する構成を備えな いものも多種存在し、本願商標とは相当に異なるものも存在するところ であって、原告が本件製品の売上高として示す額のうちには、それら原 告が形状の3特徴として主張する構成を備えない製品の売上げもその20 半分弱程度を占めているとみられること(前記?ク)などからすれば、
前記?オのとおり、本願商標が自他識別力を獲得しているものとはいえ ない。
したがって、原告の上記主張は採用することができない。
(ウ) 原告は、前記第3の2〔原告の主張〕?ないし?のとおり、販売数量25 及び販売高について、宣伝広告費について及び宣伝広告の態様について の本件審決の判断はいずれも誤りである旨を主張する。
43 この点については、前記?ク及びケのとおり認められるところ、前記 ?エのとおり、本件製品の販売数量や販売高、宣伝広告の効果について、
証拠からは明らかではないから、前記?オのとおり、本願商標が自他識 別力を獲得しているものとはいえない。
5 したがって、原告の上記主張は採用することができない。
(エ) 原告は、前記第3の2〔原告の主張〕?ないし?のとおり、需要者の 認識について、類似する同種製品について及び使用実績についての本件 審決の判断はいずれも誤りである旨を主張する。
しかし、前記?コのとおり、本件製品ないし本願商標についての需要10 者の認識を示す証拠は提出されておらず、本願商標の形状は、前記?サ の製品の文字盤等の形状と比較して、特に斬新な形状といえるようなも のではなく(前記?ア)、製品の特性上普通に求められる形状の範囲内 のものである。また、前記?シの製品につき、一部製品の販売サイトが Amazonにより削除されたものがあるとしても、これら原告が形状15 の3特徴として主張する構成を備える商品が販売されていた事実につ いては、需要者である一般消費者において、本願商標が自他識別力を有 するか否かの判断において考慮することは妨げられないというべきで ある。
また、本願商標は時計を指定商品とするところ、原告からは腕時計以20 外についての証拠の提出は何らされていないのであるから、この観点に おいても、指定商品について本願商標が自他識別力を獲得しているもの とはいえないというべきである。
したがって、原告の上記主張はいずれも採用することができない。
3 結論25 以上のとおり、取消事由1及び2は、いずれも理由がない。
よって、原告の請求は理由がないからこれを棄却することとして、主文のと 44 おり判決する。