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関連審決 無効2022-890068
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事件 令和 5年 (行ケ) 10122号 審決取消請求事件
5
原告 AFURI株式会社
同訴訟代理人弁護士 山下清兵衛 山下功一郎 10 同訴訟代理人弁理士 橘哲男 佐藤大輔
被告 吉川醸造株式会社 15 同訴訟代理人弁護士 浅野響 高瀬亜富 市橋景子
裁判所 知的財産高等裁判所
判決言渡日 2024/05/16
権利種別 商標権
訴訟類型 行政訴訟
主文 1 原告の請求を棄却する。
20 2 訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
請求
特許庁が無効2022-890068号事件について令和5年9月21日にし た審決を取り消す。
25 第2 事案の概要 1 特許庁における手続の経緯等 1 被告は、別紙1商標目録記載の商標登録第6409633号商標(以下「本件商 標」という。)の商標権者である(甲1、2)。
原告は、令和4年8月22日、本件商標につき、商標登録無効審判を請求し、商 標法4条1項7号、10号、11号、15号及び19号に該当し、同法46条1項 5 1号により商標登録を無効にすべきものであると主張した。特許庁は、同請求を無 効2022-890068号事件として審理を行い、令和5年9月21日、
「本件審 判の請求は、成り立たない。」との審決(以下「本件審決」という。)をし、その謄 本は、同月29日、原告に送達された。
原告は、同年10月25日、本件審決の取消しを求める本件訴訟を提起した。
10 2 本件審決の理由の要旨 (1) 商標法4条1項11号該当性について 本件商標は、
「雨降」の文字を筆文字風で、右上方から左斜め下へ書してなるとこ ろ、当該文字は「[あめふり]雨の降ること。雨が降っている間。 、[うこう]雨降 」「 り。」の意味を有する語であるから、その構成文字に相応して、
「アメフリ」又は「ウ15 コー」の称呼を生じ、「雨の降ること。雨が降っている間。雨降り。」の観念を生ず るものである。
別紙2引用商標目録記載の商標登録第6245408号商標(以下「引用商標」 という。)は、「AFURI」の欧文字を書してなるところ、当該文字は、辞書類に 載録された成語ではなく、特定の意味合いを想起させる語として知られているとも20 いい難いことから、特定の観念を生じない造語として看取、把握されるものである。
したがって、引用商標は、その構成文字に相応して、
「アフリ」の称呼を生じ、特定 の観念は生じない。
本件商標と引用商標との類否について、両者は、漢字と欧文字と文字種が異なる ものであるから、外観において明確に区別できる。また、称呼については、本件商25 標から生ずる「アメフリ」の称呼と、引用商標から生ずる「アフリ」の称呼とは、
2音目において「メ」の音の有無に差異を有するものであるが、4音と3音という 2 比較的短いこれらの称呼を一連に称呼するときは、互いの語調語感が異なり聞き誤 るおそれはない。そして、本件商標から生ずる「ウコー」の称呼と、引用商標から 生ずる「アフリ」の称呼とは、音構成が相違することから、両者は、称呼上、明瞭 に聴別し得るものである。さらに、観念については、本件商標は「雨の降ること。
5 雨が降っている間。雨降り。」の観念を生ずるものであるのに対し、引用商標は観念 が生じないものであるから、両者は、観念上、相紛れるおそれはない。
そうすると、本件商標と引用商標とは、外観称呼及び観念のいずれにおいても 相紛れるおそれのない非類似の商標というべきである。したがって、本件商標は、
商標法4条1項11号に該当しない。
10 (2) 商標法4条1項10号及び15号該当性について 原告が、本件商標の登録の無効理由において、商標法4条1項7号、10号、1 5号及び19号に該当するとして引用する商標は、原告の業務に係る「ラーメンの 提供」に使用する「AFURI」の欧文字からなる商標(以下「使用商標」という。) である。
15 使用商標は、本件商標の登録出願時において既に、原告の役務を表示するものと して需要者の間に広く認識されていたとは認められず、また、使用商標は引用商標 と同じつづりからなるものであるから、本件商標と使用商標とは、前記(1)と同様の 理由により、非類似の商標である。
そうすると、被告が、原告の業務に係る商品若しくは役務を表示するものとして20 需要者の間に広く認識されている商標又はこれに類似する商標を、その商品若しく は役務又はこれらに類似する商品若しくは役務について使用をするものではなく、
また、被告が本件商標をその指定商品に使用しても、これに接する取引者、需要者 は、当該商品が原告又は同人と経済的若しくは組織的に何らかの関係を有する者の 業務に係る商品であるかのように連想、想起することはなく、その出所について混25 同を生ずるおそれはないというべきである。
したがって、本件商標は、商標法4条1項10号又は同項15号のいずれにも該 3 当しない。
(3) 商標法4条1項19号及び7号該当性について 使用商標は、本件商標の登録出願時及び登録査定時において、原告役務を表示す るものとして我が国及び外国の需要者の間に広く認識されていたとは認められない。
5 また、本件商標と使用商標とは、前記(2)のとおり、非類似の商標であり、本件商標 が、引用商標を連想又は想起させるものではない。
そして、原告は、
「被告は、原告が既に引用商標の商標権を取得し、
「AFURI」 との名称を使用していたことを認識していた。 と主張するが、
」 このことのみをもっ て、不正の目的があったとはいえない。そうすると、本件商標は、使用商標の名声10 にフリーライドするなど不正の目的をもって使用をするものと認めることはできな い。
さらに、本件商標が、その出願及び登録の経緯に社会的相当性を欠くなど、公序 良俗に反するものというべき事情も見いだせない。
したがって、本件商標は、商標法4条1項19号又は同項7号のいずれにも該当15 しない。
原告の主張する取消事由
1 商標法4条1項11号の該当性判断の誤り (1) 本件商標より「アフリ」の称呼が生ずること(原告が主張する取消事由1) 「雨降」の文字は「アメフリ」や「ウコー」のほかにも以下の点から「アフリ」20 の称呼が生ずるものである。
@ 商標公報(甲2)や商標出願・登録情報表示J-PlatPat(甲6)の いずれにも「称呼(参考情報)」欄に「アフリ」との記載があること A 原告が名義人となる商標登録出願(甲32〜34)の商標登録出願につき、
本件商標が引用されて商標法4条1項11号の拒絶理由が通知されていること(甲25 35) B 本件商標は、被告が製造販売する日本酒(以下「被告商品」という。甲7の 4 1〜3)のラベル前面に大書し表示されるものであるが、ラベル前面部分において は、
「AFURI」の欧文字が「雨降」の文字に近接して配置されているなど、被告 商品の取引の実情を考慮すると、本件商標より「アフリ」の称呼が生じること C 三省堂版コンサイス地名辞典日本編によると「あふり-やま」 「雨降山」 欄に 5 と記載されていること(甲49)からも、「雨降」は「あふり(アフリ)」と称呼す るものであること (2) 本件商標から生じる観念及び引用商標から生じる観念の認定の誤り(原告が 主張する取消事由2及び3) ア 本件商標については、被告商品が、神奈川県伊勢原市、厚木市及び秦野市に10 またがって位置する丹沢山系大山の水を原料とするものであるところ、この丹沢山 系大山が古来より「雨降山」と呼ばれたことに由来する(甲50)。
そのため、本件商標からは「丹沢山系大山の通称「阿夫利山(雨降山) 」の観念 」 が生ずる。
イ 引用商標である「AFURI」の由来については、神奈川県丹沢山系の東端15 に位置する大山が、その別称あるいは通称として「阿夫利山」と呼ばれているとこ ろ、原告が運営、管理する店舗(以下「原告店舗」という。)において、この阿夫利 山の麓から湧き出る清らかな水をラーメンスープの仕込み水に用いたことに由来す る。これにより、原告は、原告店舗の屋号として「AFURI」と名付けたもので ある(甲51)。
20 そのため、引用商標からは「丹沢山系大山の通称「阿夫利山(雨降山) 」の観念 」 が生ずる。
(3) 本件商標と引用商標との類否判断の誤り(原告が主張する取消事由4) 本件商標と引用商標は、上記(1)のとおり、「アフリ」の称呼において共通するも のであり、称呼上相紛らわしいものである。また、本件商標と引用商標は、上記(2)25 のとおり、
「丹沢山系大山の通称「阿夫利山(雨降山) 」の意味合いにおいて観念が 」 共通し、これに接する取引者、需要者は、観念上相紛れるものといえる。そして、
5 本件商標と引用商標は、称呼、特に本件商標が付されている被告商品が、被告自身、
取引者及び需要者によって「アフリ」と称呼され、現に取引されているといった具 体的な取引の実情の存在、観念の両観点を総合的に考慮すると、両商標は互いに類 似する関係にある。
5 (4) 以上のことから、本件商標と引用商標が類似しないと判断した本件審決は誤 りである。
2 商標法4条1項10号及び15号該当性について (1) 引用商標の周知著名性についての認定の誤り(原告が主張する取消事由5) 原告の使用商標は、以下のような原告の長年の営業努力等によって、多くの取引10 者、需要者から高い評価、絶大な支持を得るに至ったものである。そのため、使用 商標は、我が国のみならず世界各国の取引者、需要者の間に広く認識されているか ら、周知著名性を優に獲得している。
@ 原告店舗は、平成13年に店舗を出店して以降、国内外で合計28店舗もの 店舗数(国内において首都圏の繁華街を中心に16店舗、海外において欧米やアジ15 アに12店舗)を数え、我が国におけるラーメン愛好家や老若男女を問わずあらゆ る世代で原告が提供するラーメンが受け入れられている。特に近時は、原告が積極 的な海外出店を展開したことも相まって、原告に対する外国人観光客の認知度が飛 躍的に高まったことで外国人観光客からの絶大な支持を得るに至っている。
A 国内外の原告店舗における直近5年の売上高及び広告宣伝費は、平成29年20 の売上高16億円、広告宣伝費888万円、平成30年の売上高18億円、広告宣 伝費1167万円、令和元年の売上高11億円、広告宣伝費1111万円、令和2 年の売上高11億円、広告宣伝費1017万円、令和3年の売上高13億円、広告 宣伝費3678万円、令和4年の売上高19億円、広告宣伝費2397万円であり (売上高につき甲52〜57、広告宣伝費につき甲58〜63)、直近4年は新型コ25 ロナウィルス感染拡大の影響を受けているにもかかわらず依然として常時10億円 以上の売上を計上するものであるし、広告宣伝費についても、常時数百万円から令 6 和4年度は2000万円を優に超える広告宣伝費を計上しており、国内外における 原告店舗の飛躍的な認知度拡大に多大な貢献をしている。
B 原告店舗は、近時のテレビ番組内における特集として紹介されている(甲8 の1〜5)ほか、ウェブメディアやSNSにおいても注目を集め、各方面のメディ 5 ア露出を飛躍的に高めている。
C 平成27年3月から日清食品株式会社との間でカップラーメンの共同開発 を行い、現在に至るまで定期的に販売されている(甲9)。また、原告自身が運営す るECサイト上や他の事業者が運営するECサイト内に出店し、原告の商品の販売 を行っており、これによって遠方であることなどから普段原告店舗に来ることがで10 きない需要者が店舗に行かずとも原告の商品を楽しむことが可能となっているなど、
他業種とのコラボレーション等の事業の多角化を図っている。
(2) したがって、使用商標につき、「本件商標の登録出願時及び登録査定時にお いて、我が国及び外国の取引者、需要者の間に広く認識されていたと認めることは できない。 との本件審決の判断は誤りであり、
」 これを前提とした商標法4条1項115 0号及び15号該当性についての本件審決の判断は誤りである。
3 商標法4条1項19号及び7号該当性について (1) 被告には不正の目的があること(原告が主張する取消事由6) ア 被告は、原告側に対して、令和3年2月頃に本件商標に関する形ばかりの連 絡を試みているが、被告は、それに先んじて同年1月27日に本件商標の権利化を20 図るべく登録出願の手続に及んでいる。
この点、本来であれば、原告と被告との間で本件商標について何らかの合意や契 約を締結した上で、その後、被告側で権利化に向けた登録出願の手続を進めること が、近年声高に叫ばれているコンプライアンスや商道徳の観点からも合理的かつ妥 当なものである。
25 しかしながら、被告は、そのようなプロセスの一切を無視し、引用商標の存在を 認識しつつも、出し抜けに本件商標に係る登録出願を行っており、その後に形ばか 7 りの連絡を試みている。このような一連の被告の行為には、社会的、営利的活動を 営む上で当然尊重すべき遵法精神の欠片も見いだすことはできない。
イ さらに、被告は、被告側が原告に対し「雨降」 (あふり)との名称の日本酒を 販売したい旨を伝えたところ、原告の常務取締役はこれを快諾したなどと述べてい 5 る(甲64)が、原告はこのような一方的な申入れを「快諾」した事実はなく、本 件商標に係る登録出願を許諾した事実もない。
ウ このように、被告は、本件出願時に引用商標の存在を認識しつつも、原告側 に対して、一方的な連絡を試みたことでこれを良しとし、被告代表取締役の独 善 的 認識や希望的観測のみをよりどころとしつつ、一般的、社会的な取引上の10 ル ー ル の 一 切 を 無 視 し た 安易な考えの下、本件出願の手続を進めたものであり、
我が国において、既に周知著名性を獲得している引用商標と互いに類似する関係に ある本件商標の存在が、引用商標の出所識別機能希釈化し、さらに、その高い名 声、評判を毀損させることに直結するものといわなければならない。そのため、本 件商標は、「不正の目的」をもって出願されたものに該当する。
15 エ また、本件商標は、既に周知著名性を獲得している引用商標と互いに類似す る関係にあるため、引用商標の出所識別機能希釈化し、さらに、その高い名声、
評判を毀損させることに直結するため、その出願及び登録の経緯に社会的相当性を 欠くことは明らかである。そのため、本件商標の登録を認めることは商標法の予定 する秩序に反するものであるから、公序良俗を害するものといわなければならない。
20 (2) 以上のことから、商標法4条1項19号及び7号該当性についての本件審決 の判断は誤りである。
4 結論 以上のとおり、本件審決は、商標法4条1項11号該当性、10号該当性、15 号該当性、19号該当性及び7号該当性についての判断を誤った違法なものである25 から、取り消されるべきものである。
被告の主張
8 1 商標法4条1項11号該当性について (1) 前記第3の1(1)の本件商標より「アフリ」の称呼が生ずるとの原告の主張 は、以下のとおり、いずれも争う。
@につき、公報等における「アフリ」の記載は「参考情報」にとどまるものであっ 5 て、特許庁が称呼を認定したものではい。Aにつき、拒絶理由通知には特許庁の最 終的な認定は記載されていない。Bにつき、商標法4条1項11号での商標の類否 判断に当たり考慮することができる「取引の実情」とは、その指定商品全般につい ての一般的・恒常的な取引の実情を指すものであって、単に当該商標が現在使用さ れている商品についてのみの特殊的・限定的な取引の実情を指すものではないとこ10 ろ、原告が主張する事情は商標法4条1項11号類否判断において考慮し得ない 特殊的・限定的な取引の実情である。Cにつき、三省堂版コンサイス日本地名事典 に掲載されているのは、「雨降山」の文字であり、「雨降」の文字ではない。同地名 事典には、
「雨降」の文字で「アフリ」の称呼が生じる項目は掲載されていない(乙 1)。むしろ、日本全国には、「雨降山」と記載して「アメフリヤマ」と称呼する山15 が少なからず存在する(乙2〜5)。
(2) 前記第3の1(2)の本件商標及び引用商標からはいずれも「丹沢山系大山の 通称「阿夫利山(雨降山) 」の観念が生ずるとの原告の主張はいずれも争う。被告 」 が本件商標を、原告が引用商標を、それぞれどのように使用しているかという事情 は、本件商標及び引用商標に関する特殊的・限定的な取引の実情であるため、商標20 法4条1項11号類否判断において考慮することはできない。
したがって、原告の上記主張は誤りであり、本件商標から生ずる観念について本 件審決の認定に誤りはない。
(3) 前記第3の1(3)の本件商標と引用商標が類似するとの原告の主張は争う。
原告の主張は、本件商標から「アフリ」の称呼が生じ、本件商標及び引用商標から25 「阿夫利山」の観念が生じることを前提とするものであって、理由がない。
仮に、本件商標から「アフリ」の称呼が生じるとしても、本件商標と引用商標は 9 外観及び観念において著しく相違するから、両者は類似しない。
2 商標法4条1項10号及び15号該当性について (1) 原告が主張する事情は、使用商標が周知著名性を獲得したことの根拠となり 得ず、使用商標はいまだ周知著名性を獲得していない。
5 本件商標の登録査定時(令和3年6月24日)に、原告が日本国内で16店舗を 有していたとしても、日本全国におけるラーメン店中の割合(シェア)はわずか0. 08%であり、多数の競合企業が日本全国に存在するラーメン業界において、0. 08%のシェアの店舗しか有さない原告及び原告店舗が使用する使用商標が周知著 名であるとはいえない。また、外国の店舗数に関する主張については、そもそも、
10 なぜそれが日本国内における使用商標の周知著名性の根拠となるのか不明である。
さらに、日本全国におけるラーメン店の年間売上高と比べた原告の売上高のシェア も極めて少ないこと、広告宣伝費についてはその詳細が不明であること、原告の主 張に係るテレビ番組における紹介のうち本件商標の登録査定日(令和3年6月24 日)前の番組として本件で考慮し得るのは僅か1件であること、他社と共同開発さ15 れたカップラーメンの販売数量、売上高、カップラーメンマーケットでのシェア等 は全く不明であること等を考慮すれば、原告の使用商標が周知著名であるとはいえ ない。
(2) 以上のとおり、原告が主張する事情は、いずれも使用商標が周知著名性を獲 得したことの根拠にはなり得ないから、使用商標が周知著名性を有することを前提20 とする商標法4条1項10号及び15号該当性についての原告の主張も理由がない。
3 商標法4条1項19号及び7号該当性について (1) そもそも本件商標と引用商標は類似していないため、被告が引用商標の存在 を認識していたとしても、本件商標の商標登録出願を通常どおり進めるだけであり、
原告に連絡をしていないことをもって、被告が不正の目的を有していることの根拠25 とならない。
また、本件商標と引用商標は類似していないため、被告が原告に対し、本件商標 10 の商標登録出願の事実を伝える必要はなく、原告の常務取締役に本件商標の商標登 録出願の事実を伝えなかったことをもって、被告が不正の目的を有していることの 根拠とならない。
そして、被告は、本来は本件商標の商標登録出願だけでなくその使用についても、
5 原告から許諾を得る必要はない。しかし、被告は、、大山(阿夫利山)の地域に由来 する「雨降(あふり)」という名称の被告商品を販売するに先立ち、同じ由来をもつ 「AFURI」の名称を使用している原告との関係を良好に保つため、原告の常務 取締役へ電話を行い、被告商品を販売する旨を伝えたものである。
(2) 以上のとおり、被告は不正の目的を有しているとは認められないから、商標10 法4条1項19号及び7号の該当性についての原告の主張は理由がない。
当裁判所の判断
1 商標法4条1項11号該当性について (1) 商標の類否について 商標の類否は、対比される両商標が同一又は類似の商品又は役務に使用された場15 合に、商品又は役務の出所につき誤認混同を生ずるおそれがあるか否かによって決 すべきであるが、それには、そのような商品に使用された商標がその外観観念
称呼等によって取引者に与える印象、記憶、連想等を総合して全体的に考察すべき であり、かつ、その商品の取引の実情を明らかにし得る限り、その具体的な取引状 況に基づいて判断するのが相当である(最高裁昭和39年(行ツ)第110号同420 3年2月27日第三小法廷判決・民集22巻2号399頁参照)。
(2) 本件商標及び引用商標 ア 本件商標について 本件商標の構成は、別紙1商標目録記載のとおりであり、本件商標は、
「雨降」の 漢字を筆文字風で、右上方から左斜め下へ書してなるところ、当該文字は「[あめふ25 り]雨の降ること。雨が降っている間。 、[うこう]雨降り。
」「 」の意味を有する語で あるから、その構成文字に相応して、
「アメフリ」又は「ウコー」の称呼を生じ、
「雨 11 の降ること。雨が降っている間。雨降り。」の観念を生ずるものであるといえる。
イ 引用商標について 引用商標の構成は、別紙2引用商標目録記載のとおり、
「AFURI」の欧文字を 書してなるところ、当該文字は、辞書類に載録された成語ではなく、特定の意味合 5 いを想起させる語として知られているともいい難いことから、特定の観念を生じな い造語として看取、把握されるものであるといえる。したがって、引用商標は、そ の構成文字に相応して、「アフリ」の称呼を生じ、特定の観念は生じない。
(3) 本件商標と引用商標との類否等 本件商標と引用商標とを比較すると、外観においては、両者は、文字の種類が漢10 字と欧文字とで異なり、本件商標が筆文字風であることや右上方から左斜め下へ書 してなるのに対し、引用商標は左から右に横書きしたものであって、外観は明らか に異なっている。また、称呼においては、本件商標が「アメフリ」 「ウコー」の称 、
呼を生じるのに対し、引用商標はそれらの称呼は生じず、
「アフリ」の称呼が生じる ものである。
15 この点、原告は本件商標において「アフリ」の称呼が生じるものと主張するとこ ろ、「雨降」の文字から「アフリ」の称呼が生じるとは直ちに言えないものの、「雨 降山」を「アメフリヤマ」と称呼する場合が多いものが、
「アフリヤマ」と称呼する 場合があること(甲49、乙1〜5)も踏まえると、
「雨降」から「アフリ」の称呼 が生じないとはいえず、その場合本件商標と引用商標の称呼が同じとみる余地もあ20 る。
もっとも、観念においては、本件商標は「雨の降ること。雨が降っている間。雨 降り」といった観念が生じるのに対し、引用商標は同様の観念は生じず、特定の観 念を生じるものではない。
そうすると、本件商標と引用商標は、外観において相違し、観念においても相違25 するものであって、称呼において共通となる余地があるとしても、外観及び観念の 相違は称呼の共通性による印象を凌駕するものといえる。
12 (4) 原告の主張について 原告は、本件商標については、本件商標を使用した被告の商品が、丹沢山系大山 の水を原料とするものであるところ、この丹沢山系大山が古来より「雨降山」と呼 ばれたことに由来するものであって、本件商標からは「丹沢山系大山の通称「阿夫 5 利山(雨降山) 」の観念が生ずること、引用商標である「AFURI」の由来につ 」 いては、この阿夫利山の麓から湧き出る清らかな水を原告の商品であるラーメンの スープの仕込み水に用いたことに由来するものであって、引用商標からは「丹沢山 系大山の通称「阿夫利山(雨降山) 」 」 の観念が生ずること、本件商標と引用商標は、
称呼、特に本件商標が付されている被告の商品が、取引者及び需要者によって「ア10 フリ」と称呼され、現に取引されているといった具体的な取引の実情の存在及び上 記観念の両観点を総合的に考慮すると、両商標は互いに類似する関係にあると主張 する。
しかしながら、商標の類否判断に当たり考慮すべき取引の実情は、その指定商品 全般についての一般的、恒常的なそれを指すものであって、単に当該商標が現在使15 用されている商品についてのみの特殊的、限定的なそれを指すものではなく(最高 裁昭和47年(行ツ)第33号同49年4月25日第一小法廷判決参照)、当該指定 商品についてのより一般的、恒常的な実情としては、例えば、取引方法、流通経路、
需要者層、商標の使用状況等を総合した取引の実情をいうものと理解されるべきで ある。しかるところ、当該商標が現に指定商品に使用されて「アフリ」と呼称され20 ているとの原告主張に係る被告の取引の実情は、現時点において被告が商標を実際 に使用している具体的な商品についての取引の実情にすぎないから、本件商標と引 用商標の類否の判断に当たり考慮すべき一般的、恒常的な取引の実情とはいえない。
そして、取引の実情を上記のとおり理解すると、
「雨降」や「AFURI」の名称 が「阿夫利山」に由来する(甲50、51)としても、それが当該指定商品につい25 ての一般的な事実であることをうかがわせる証拠はなく、取引者及び需要者が本件 商標から「丹沢山系大山の通称「阿夫利山(雨降山) 」の観念が生じるものと認め 」 13 難く、取引者及び需要者が引用商標から同観念が生じるものと認めるに足りる証拠 もない。
したがって、原告の上記主張はいずれも理由がない。
(5) 以上によると、本件商標と引用商標は、外観観念称呼等によって取引者、
5 需要者に与える印象等を総合し、かつ、その商品又は役務に係る取引の実情を考慮 しても、役務の出所について誤認混同を生ずるおそれがあるとまではいえず、互い に類似するものとは認められない。
(6) したがって、本件商標は、その商標登録出願の日前の商標登録出願に係る他 人の登録商標である引用商標と類似するものとはいえず、商標法4条1項11号に10 該当しない。
よって、原告が主張する取消事由1〜4には理由がない。
2 商標法4条1項10号及び15号該当性について (1) 商標法4条1項10号について 使用商標は引用商標と同一のつづりからなるものであるところ、前記1によると、
15 本件商標と使用商標は類似するものとはいえないことからすると、使用商標が「他 人の業務に係る商品若しくは役務を表示するものとして需要者の間に広く認識され ている商標」であるかを検討するまでもなく、本件商標が「これに類似する商標」 に当たらない以上、商標法4条1項10号には該当しない。
(2) 商標法4条1項15号について20 商標法4条1項15号は「他人の業務に係る商品又は役務と混同を生ずるおそれ がある商標」について商標登録を受けることができないと規定するところ、同号の 「混同を生ずるおそれ」の有無は、当該商標と他人の表示との類似性の程度、他人 の表示の周知著名性及び独創性の程度や、当該商標の指定商品等と他人の業務に係 る商品等との間の性質、用途又は目的における関連性の程度並びに商品等の取引者25 及び需要者の共通性その他取引の実情などに照らし、当該商標の指定商品等の取引 者及び需要者において普通に払われる注意力を基準として、総合的に判断される(最 14 高裁平成10年(行ヒ)第85号同12年7月11日第三小法廷判決・民集54巻 6号1848頁参照)。
本件商標は、前記(1)のとおり、使用商標とは同一の称呼が生じる余地があるもの の、外観及び観念において相違するため、類似の商標とはいえない。また、証拠(枝 5 番を含む甲8、9)によると、
「ラーメンの提供」について「AFURI」の使用商 標が東京都及びその周辺のラーメンの取引者及び需要者に知られたものと言い得る としても、我が国に多数存在するラーメン店舗(乙7)との比較では、原告店舗は 国内では首都圏を中心に16店舗にとどまっていること、宣伝広告やメディアへの 露出等によって周知著名と言い得る程度に使用商標が知られていることを示す証拠10 があるとは言えないことからすると、使用商標が周知著名であるとまで認めるに足 りない。また、本件商標の指定商品である「日本酒等の酒類」において「AFUR I」が周知であると認めるに足りる証拠はなく、
「日本酒等の酒類」と「ラーメンの 提供」の需要者が一定程度重なる部分があるとしても、両者に密接な関連性があり 需要者の相当部分が共通するとも認め難い。
15 以上の事情に照らせば、本件商標を「日本酒等の酒類」に使用するときは、その 取引者及び需要者において、原告と緊密な関係のある営業主の業務に係る商品と混 同を生ずるおそれがあるとはいえない。
この点につき、原告は、使用商標が我が国のみならず世界各国の取引者、需要者 の間に広く認識されているから、周知著名性を優に獲得していると主張するが、上20 記判断に反するものであって採用できない。
したがって、商標法4条1項10号に該当せず、原告が主張する取消事由5は理 由がない。
3 商標法4条1項19号及び7号該当性について 原告は、本来であれば、被告が、本件商標の出願手続をする前に、原告との間で25 本件商標に関して何らかの合意や契約を締結した上で、権利化に向けた登録出願の 手続を進めることが、コンプライアンスや商道徳の観点からも合理的かつ妥当であ 15 るにもかかわらず、そのようなプロセスの一切を無視し、引用商標の存在を認識し つつも、本件商標に係る登録出願を行い、その後に形ばかりの連絡を試みたもので あり、このような一連の被告の行為には、社会的、営利的活動を営む上で当然尊重 すべき遵法精神の欠片も見出すことはできないから、被告は商標法4条1項19号 5 の「不正の目的」を有しており、また、本件商標は同項7号の「公の秩序又は善良 の風俗を害するおそれがある商標」に当たる等と主張する。
しかしながら、原告の上記主張は、本件商標と引用商標とが類似する場合を前提 とするところ、前記1のとおり、本件商標と引用商標は類似するとはいえないこと からすると、原告の上記主張は前提を欠き採用できない。この点に関するその余の10 原告の主張についても、本件商標と引用商標とが類似することを前提とするもので あって、いずれも理由がない。
したがって、商標法4条1項19号及び7号に該当せず、原告が主張する取消事 由6は理由がない。
結論
15 以上の次第であり、原告の請求は理由がないから棄却することとして、主文のと おり判決する。
追加
20裁判長裁判官本多知成2516 裁判官遠山敦士5裁判官10天野研司17 別紙1商標目録登録商標登録出願日:令和3年1月27日登録査定日:令和3年6月24日設定登録日:令和3年6月30日商品及び役務の区分並びに指定商品:第33類「清酒、日本酒、焼酎、合成清酒、白酒、直し、みりん、洋酒、果実酒、
酎ハイ、中国酒、薬味酒」18 別紙2引用商標目録登録商標登録出願日:平成31年4月24日設定登録日:令和2年4月14日商品及び役務の区分並びに指定商品:第21類「マグカップ、食器類、デンタルフロス、ガラス基礎製品(建築用のものを除く。、かいばおけ、家きん用リング、電気式歯ブラシ、化粧用具()「電気式歯ブラシ」を除く。、おけ用ブラシ、金ブラシ、管用ブラシ、工業用刷毛、船舶ブラシ、
)家事用手袋、ガラス製包装用容器(「ガラス製栓・ガラス製ふた」を除く。、陶磁製)包装用容器、ガラス製栓、ガラス製ふた、プラスチック製の包装用瓶、鍋類、コーヒー沸かし(電気式のものを除く。、鉄瓶、やかん」)第25類「洋服、コート、セーター類、ワイシャツ類、寝巻き類、下着、水泳着、
水泳帽、キャミソール、タンクトップ、ティーシャツ、和服、アイマスク、エプロン、えり巻き、靴下、ゲートル、毛皮製ストール、ショール、スカーフ、足袋、足袋カバー、手袋、ネクタイ、ネッカチーフ、バンダナ、保温用サポーター、マフラー、
耳覆い、ナイトキャップ、帽子、ガーター、靴下留め、ズボンつり、バンド、ベルト、靴類、げた、草履類、仮装用衣服、運動用特殊靴(「乗馬靴」及び「ウインドサー19 フィン用シューズ」を除く。、乗馬靴、ウインドサーフィン用シューズ、運動用特)殊衣服(「水上スポーツ用特殊衣服」を除く。、水上スポーツ用特殊衣服」)第33類「清酒、焼酎、合成清酒、白酒、直し、みりん、洋酒、果実酒、酎ハイ、
中国酒、薬味酒」20