関連審決 |
無効2023-890053 |
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事件 |
令和
6年
(行ケ)
10028号
審決取消請求事件
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5 原告 株式会社ジーウェーブ 同訴訟代理人弁護士 成川弘樹 同 飛世貴裕 10 同島袋真野夏 同補佐人弁理士 大崎絵美 被告ハウル株式会社 15 同訴訟代理人弁護士 佐藤力哉 同 野口真未 同訴訟代理人弁理士 廣中健 |
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裁判所 | 知的財産高等裁判所 |
判決言渡日 | 2024/11/11 |
権利種別 | 商標権 |
訴訟類型 | 行政訴訟 |
主文 |
1 特許庁が無効2023−890053号事件について令和6年2月8日に20 した審決のうち登録第6320554号商標の指定役務中「医療用機械器具の貸与」に係る部分を取り消す。 2 訴訟費用は被告の負担とする。 |
事実及び理由 | |
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請求
主文と同旨15 第2 事案の概要 1 特許庁における手続の経過等(当事者間に争いがない。) (1) 株式会社アジアスは、指定役務を下記のとおりとする本件商標につき、 令和元年10月21日登録出願し、令和2年11月17日の登録査定を経て、 同月25日設定登録を受けた。 20 ・ 第41類「技芸・スポーツ又は知識の教授、セミナーの企画・運営又は 開催、電子出版物の提供、資格検定試験の企画・運営又は実施、図書及 び記録の供覧、図書の貸与 、書籍の制作 、放送番組の制作 、 教育・文 化・娯楽・スポーツ用ビデオの制作(映画・放送番組・広告用のものを 除く。 、運動施設の提供、レコード又は録音済み磁気テープの貸与、録 )25 画済み磁気テープの貸与、書籍の貸与、写真の撮影、ネガフィルムの貸 与、ポジフィルムの貸与」 2 ・ 第44類「美容、理容、入浴施設の提供、あん摩・マッサージ及び指圧、 カイロプラクティック、きゅう、柔道整復、整体、はり治療、医療情報 の提供、健康診断、調剤に関する情報の提供、栄養の指導、介護、医療 用機械器具の貸与、美容院用又は理髪店用の機械器具の貸与」 5 (2) 被告は、令和4年8月29日、株式会社アジアスから、本件商標に係る 商標権の移転を受けた。 (3) 原告は、令和5年6月30日付けで、本件商標の指定役務中、第44類 「あん摩・マッサージ及び指圧、カイロプラクティック、きゅう、柔道整復、 整体、はり治療、医療用機械器具の貸与」について、商標法4条1項11号10 該当を理由に、商標登録無効審判を請求した。 特許庁は、上記の申立てを無効2023-890053号事件として審理 を行い、令和6年2月8日、「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決 (本件審決)をし、その謄本は同月19日原告に送達された。 (4) 原告は、令和6年3月19日、本件審決の取消しを求める本件訴えを提15 起し、その後、請求の趣旨を主文同旨に変更(減縮)する旨の訴えの変更を 行った。 2 本件審決の理由の要旨 本件審決の理由のうち、本訴請求に係る部分(本件商標の指定役務中の 「医療用機械器具の貸与」関係)の要旨は以下のとおりであり、本件商標と20 引用商標は同一又は類似のものであるが、両商標の指定商品及び指定役務は 非類似の商品及び役務であるから、本件商標は、商標法第4条第1項第11 号に該当しないとした。 (1) 本件商標と引用商標の類否について 本件商標と引用商標とは外観上同一のものであり、また、「エイダブ25 リュウジイチリョー」の称呼を共通にすることから、観念(特定の観念を生 じない。)において比較することができないとしても、両者は、相紛れるお 3 それのある類似の商標である。 (2) 本件指定役務・医療用機械器具の貸与と本件指定商品・医療用機械器具 との類否について ア 商品又は役務の類否は、商品又は役務が通常同一営業主により製造・販 5 売又は提供されている等の事情により、その類否を判断する両商標に係 る指定商品又は指定役務に同一又は類似の商標を使用するときは、同一 営業主の製造・販売又は提供に係る商品又は役務と誤認されるおそれが あると認められる関係にあるかにより判断し、その際には、例えば、商 品の製造・販売と役務の提供が同一事業者によって行われているのが一10 般的であるかどうか、商品と役務の用途が一致するかどうか、商品の販 売場所と役務の提供場所が一致するかどうか、需要者の範囲が一致する かどうかを総合的に考慮し判断するのが相当である。 イ 事業者について 請求人が提出した証拠資料(審判における甲5〜7。当審での甲7〜15 9。枝番のあるものは枝番を含む。以下同じ。)は、医療用機械器具を 取り扱う業界の一団体である商工組合日本医療機器協会の状況を説明し たにすぎないから、それをもって医療機器を取り扱う事業者の一般的な 傾向とはいえない。そうすると、本件指定役務・医療用機械器具の貸与 に係る事業者と、本件指定商品・医療用機械器具に係る事業者が同一の20 事業者により行われているとはいえず、本件指定役務・医療用機械器具 の貸与を行う事業者と、本件指定商品・医療用機械器具の製造・販売を 行う事業者は、必ずしも一致するとはいえない。 ウ 用途について 「医療用機械器具の貸与」は、他人の求めに応じて物品(医療用機械器25 具)を貸与することが当該役務の本質といえ、その用途は、「医療機器 の貸与のため(用)」であるのに対し、「医療用機械器具」の用途は、 4 正に「医療用」の商品そのものであるから、必ずしも用途が一致すると はいえない。 エ 提供場所・販売場所について 一般に医療機器の販売が、その製造販売業の許可を受けたメーカーであ 5 る企業等において行われ、また、医療用機械器具の貸与は、医療機器の 貸与の許可を受けた企業によりリース・レンタルが行われていることか らすると、必ずしも商品の販売場所と役務の提供場所が一致するとはい えない。 オ 需要者の範囲について10 本件指定商品・医療用機械器具の需要者には、病院・診療所等の医療 機関のみならず、一般の需要者等も含まれており、本件指定役務・医療 用機械器具の貸与に係る需要者は、リース・レンタルを受ける病院・診 療所等の医療機関等であると理解されることからすると、互いの商品及 び役務の需要者の範囲の一部において一致する場合があるといえる。 15 カ 上記からすると、本件指定役務・医療用機械器具の貸与と、本件指定商 品・医療用機械器具については、製造・販売者及び提供者、用途、販売 場所及び提供場所が異なり、需要者の範囲の一部において一致する場合 があるとしても、一般的、恒常的な取引の実情を勘案して総合的に考慮 すると、当該役務と商品とは相違するものである。よって、両商標の指20 定商品及び指定役務は、同一又は類似の商標を使用しても、それらの商 品及び役務が誤認混同するおそれのない非類似の商品及び役務といわざ るを得ない。 3 取消事由 商標法4条1項11号該当性(商品・役務の類似性)の判断の誤り25 第3 取消事由に関する当事者の主張 1 原告の主張 5 本件審決の判断のうち、本件指定役務・医療用機械器具の貸与と、本件指定 商品・医療用機械器具を非類似とした判断は誤りである。両者に同一又は類似 の商標を使用した場合、商品及び役務が誤認混同するおそれがあり、両者は類 似する商品・役務といえる。 5 (1) 取引の実情について ア 事業者 (ア) 同一事業者が、医療用機械器具の貸与と製造・販売のいずれも行っ ている例は多数存在する(甲15〜22)。そして、本件指定商品・ 医療用機械器具についての多数の製造販売業者が、@病院・診療所等10 の医療機関向けに(甲50〜54)、又は、A一般消費者向けに(甲 55〜57)、医療用機械器具の貸与を業として行っている。 この点に関し、被告は、商標法4条1項11号における商品・役務間 の類似、出所の誤認混同について、「同一事業者」とは狭義の混同を生 じさせる同一の事業者、すなわち同一の法人格を有する事業者のことで15 あると主張する。しかし、同号における商品・役務間の類似における混 同は「営業主体」間の混同をいうのであって、法人格間の混同に限定さ れるべきではない。そして、対比する各商標(標章)が「同一」の場合 には、需要者に混同を生じさせる影響が類型的に高いことが明らかであ るから、その類否判断に当たっては、誤認混同の弊害を防止するために、 20 取引の実情を前提として慎重な判断を行うべきである。 (イ) また、医療用機械器具の製造販売業と、医療用機械器具の販売・貸 与業の許可等を受けている企業は多数に上り、製造販売業を行う事業 者は貸与業を行うことができる状況にある。医療用機械器具の製造、 販売、貸与等を行う企業を会員とする団体である商工組合日本医療機25 器協会(甲7、8)の会員企業検索において、医療機器の製造販売業 又は販売・貸与業の許可等を受けている企業を検索したところ、77 6 社の該当があり、そのうち、製造販売業と販売・貸与業の両方の許可 等を受けている企業は53社であり、全体の68.8%に 上 る ( 甲 9)。この点に関し、本件審決は、令和2年度末における医療機器の 製造販売業許可数が2799件となっていることからすると、上記数 5 値は業界の一団体の状況を説明したにすぎず、事業者の一般的な傾向 とはいえないとするが、上記協会の会員企業について、製造販売業と 販売・貸与業の両方の許可を受けている企業が特に集中しているとす る根拠は一切ないから、本件審決の認定判断は誤っている。 イ 用途10 本件指定役務・医療用機械器具の貸与の用途は、これを需要者に対し て貸与することにより、当該医療用機械器具を需要者に一定期間使用さ せることにある。他方、本件指定商品・医療用機械器具の用途は、これ を需要者に使用させることであり、両者の用途は、需要者に対して医療 用機械器具を使用させるという点で一致している。 15 これに対し、本件審決は、医療用機械器具の貸与の用途は「医療器具 の貸与のため(用)」であると述べるが、医療用機械器具の貸与という 役務が需要者に機械器具を使用させること(医療を受けさせること)を 目的として提供される役務であること、需要者は当該機械器具を使用す ることを前提とした上で購入するか貸与を受けるかという取引形態を検20 討するのであり、取引形態については副次的な検討事項にすぎないこと を看過したものである。 ウ 提供場所・販売場所 上記のとおり、本件指定役務・医療用機械器具の貸与を行う事業者と、 本件指定商品・医療用機械器具の製造・販売を行う事業者は同一である25 といえる。したがって、前者の役務の提供場所と、後者の商品の販売場 所は、いずれも当該事業者の所在地であるという点で一致する。 7 また、インターネットが高度に発展した現代社会においては、本件指 定役務・医療用機械器具の貸与と、本件指定商品・医療用機械器具の販 売は、いずれもインターネット上のウェブページで行われることが一般 的である。 5 以上から、本件指定役務・医療用機械器具の貸与の提供場所と、本件 指定商品・医療用機械器具の販売場所は一致する。 エ 需要者の範囲 医療用機械器具とは、診療・手術のために病院で用いる機械器具(例 えば、胃鏡、核磁器共鳴CT装置、脳波記録器等の診断用機械器具や切10 断器、穿孔器等の手術用機械器具)のみならず、一般家庭内で健康状況 に応じて使用する機械器具(体温計、体脂肪測定器、補聴器、高周波治 療器等)を含む広範な概念である。医療用機械器具の貸与は、かかる多 様な医療用機械器具を需要者の求めに応じて、病院・診療所等の医療機 関向けのみならず、広く一般消費者向けにも提供されている。そして、 15 本件指定商品・医療用機械器具の需要者も、病院・診療所等の医療機関 のみならず、一般の需要者等が含まれている。したがって、本件指定役 務・医療用機械器具の貸与の需要者と、本件指定商品・医療用機械器具 の需要者は、いずれも病院・診療所等の医療機関及び一般需要者である から、需要者の範囲は一致する。 20 (2) 商標権の効力の観点からの弊害 商標法上、 「役務の提供に当たりその提供を受ける者の利用に供する 物・・・に標章を付する行為」が商標の使用に当たるとされており(商標法2 条3項3号)、他方、「商品又は商品の包装に標章を付する行為」も商標の 使用に該当するとされている(同項1号)。このような商標権の効力範囲を25 前提にすると、同一又は類似の商標に関し、本件指定役務・医療用機械器具 の貸与について商標権を有する者と、本件指定商品・医療用機械器具につい 8 て商標権を有する者が別個に存在する場合、医療用機械器具に付された商標 は、商品への「使用」か、商品の貸与という役務における「使用」か、ひい て、貸与において提供された医療用機械器具に付された商標がいずれの商標 権者が保有するものであるかは明らかでなく、需要者に誤認混同の弊害が生 5 じる。 2 被告の主張 (1) 取引の実情について 出所について誤認混同を生ずるおそれがあるといえるためには、個別の 具体的な事情を踏まえて、不当に禁止権が広くならないように詳細な説明が10 必要であるところ、以下のとおり、原告の主張は何ら内実を伴うものではな い。原告の主張からすれば、多角経営化が進行し、また、インターネット取 引が常態化しつつある現代社会において、商品の製造販売業を行う会社のグ ループ会社がインターネットで貸与業を行い、需要者を一部共通にすれば、 それら事業はすべて類似となりかねない。本件に関する取引の実情を踏まえ15 ると、本件指定役務・医療用機械器具の貸与と、本件指定商品・医療用機械 器具は、類似とはいえない。 ア 事業者 (ア) ここでいう「同一事業者」とは、狭義の混同を生じさせる同一の事 業者のことであり、親子会社や系列会社等が含まれないことは論を俟20 たない。 しかし、 原告が 証拠をもって 示す事例のうち、キヤノン メ ディカルシステムズ株式会社の事例(甲50)やパラマウントベッド 株式会社の事例(甲53)は、貸与業を行っているのは製造・販売を 行っている会社とは別会社である子会社である。なお、原告が挙げる フクダ電子株式会社の事業におけるAEDの貸出し事例では、実際に25 一般需要者と貸与に係る取引を直接行っているのは他社であり(甲5 1の4)、フクダ電子株式会社ではない。 9 (イ) 国内の主要な医療用機械器具メーカー(甲33)と、主要な医療用 機械器具のリースサービスを提供する事業者(甲36)又はレンタル サービスを提供する事業者(甲37)は、一致しておらず、同一事業 者が医療用機械器具の製造・販売と機械器具の貸与を行うことが一般 5 的であるとは到底いえない。 原告は、商工組合日本医療機器協会の例を挙げて、同一事業者が医 療用機械器具の製造販売業と貸与業を行っていることが一般的である かのように主張するが、業界の一団体の状況を説明したにすぎず、同 団体の傾向が業界の事業者全体の一般的な傾向であるとはいえない。 10 (ウ) 以上のとおり、本件指定役務・医療用機械器具の貸与と本件指定商 品・医療用機械器具の製造・販売が同一事業者によって行われること は一般的ではない。 イ 用途 原告は、本件指定役務・医療用機械器具の貸与の用途と、本件指定商15 品・医療用機械器具の用途は、いずれも需要者に対して医療用機械器具 を使用させるという点で一致すると主張するが、例えば、ハサミの用途 は紙などを切ることであって、ハサミを使用させることではない。医療 用機械器具の用途は、医療を補助等することであり、医療用機械器具の 貸与という役務の用途は、その言葉のとおり、医療用機械器具を貸与す20 るためにほかならない。 ウ 提供場所・販売場所 原告は、本件指定役務・医療用機械器具の貸与の提供場所と、本件指 定商品・医療用機械器具の販売場所が一致すると主張するが、そもそも 貸与を行う事業者と製造・販売を行う事業者は一致しないから、原告の25 主張はその前提を欠く。加えて、インターネットが高度に発展した現代 社会においては、医療用機械器具以外にもあらゆる物品がインターネッ 10 ト上のウェブページで貸与、販売されているから、本件においても商品 の販売や役務の提供がインターネット上のウェブページで行われている ことを理由として、商品の販売場所と役務の提供場所が一致するという 原告の主張は、暴論といわざるを得ない。 5 エ 需要者の範囲 原告は、医療用機械器具の需要者には病院・診療所等の医療機関のみな らず、一般の需要者等も含まれていると主張するが、この点については 被告も認める。 他方で、本件指定役務・医療用機械器具の貸与の対象は、あらゆる医10 療用機械器具の中でも専ら高額なものが対象となる。医療用機械器具の 貸与の需要者は、レンタル又はリースによって得られる財政上のメリッ トがそのデメリットを上回ると判断する需要者であって、それは専ら事 業者すなわち医療機関である (乙2〜4)。これに対し、 本件指 定 商 品・医療用機械器具のうち、体温計、血圧計、母乳絞り器及び耳かきな15 ど、一般家庭で使用するものであって相対的に低額な商品は、需要者は 貸与ではなく購入するのが一般的である。これらが貸与の対象となるこ とは、皆無とまではいえないにしても、稀であり、少なくとも一般的で はない。事実、国内の主要な医療用機械器具のリースサービスを提供す る事業者の紹介サイト(甲36)に掲載されているリース会社は、一般20 の需要者等ではなく、医療機関又は医療関係者をリースサービスの対象 としている(乙2)。同様に、国内の主要な医療用機械器具のレンタル サービスを提供する事業者の紹介サイト(甲37)に紹介されたレンタ ル会社についても、医療機関又は医療関係者を医療用機械器具のレンタ ルサービスの対象にしている(乙3、4)。 25 したがって、本件指定役務・医療用機械器具の貸与の需要者と、本件 指定商品・医療用機械器具の需要者は、共通する部分があるとしても、 11 これが一致しているとはいえない。 (2) 商標権の効力の観点からの弊害について ア 原告は、医療用機械器具について、何ら関係のない製造販売業者と貸与 業者が同一又は類似する標章を用いて取引を行うと、需要者において標 5 章の出所表示に関して誤認混同の弊害が生じると主張する。しかし、上 記のとおり、「同一事業者」とは、狭義の混同を生じさせる同一事業者 を指すのであり、本件ではそのような同一の事業者による取引の実情は 認められない。原告の主張はその基礎を欠き、むしろ禁止権の範囲を商 標法が予定する以上に不当に広げるものである。 10 イ 原告は、医療用機械器具に付された商標は、商品への「使用」か、商品 の貸与という役務における「使用」か明らかではなく、誤認混同を生じ させると主張する。しかし、商標の「使用」におけるこのような問題は、 商標法が、役務においてその提供を受ける者の利用に供する物に標章を 付する行為を「使用」と定めていること自体から生じる問題であり、そ15 の論法からすると、正に全ての商品と当該商品の貸与が類似することに なりかねない。そもそも商標の専用権・禁止権に抵触する「使用」とは、 指定商品・役務と使用商品・役務が類似し、かつ、両標章が類似する場 合(商標法37条1号)に生じ得るのであって、「使用」商品・役務間 の類否の判断基準自体は、究極的には出所についての混同のおそれの有20 無に尽きる。この点は、商品・役務間の類否についても同様である(同 法2条6項)。 そして、商標の「使用」の規定は、必ずしも他の商標登録の「侵害」 と常に連動するものとして体系的に定められているものではない。商標 登録の専用権・禁止権に抵触があり、商標権侵害が成立するか否かとい25 う問題は、出所の混同のおそれがあるかという観点から個別具体的に判 断されるべきものである。 12 本件では、医療用機械器具(又はその包装)に「AWG治療」という 標章を付することは、引用商標の「使用 」になるが(同法2条3項1 号)、医療用機械器具の貸与という役務について標章「AWG治療」を 使用する場合には、ウェブサイトやパンフレット等に表示することなど 5 が考えられる。もちろん、多様な使用方法の一例として、貸与する医療 用機械器具自体に「AWG治療」という標章を付すこと(同項3号)も 考えられなくはないが、かかる商品又は役務において、その商標の使用 態様として、医療用機械器具自体に標章を付すということがあるという ことは、誤認混同の判断における事情の一つとなり得るにすぎない。実10 際には、商品をレンタルする場合、仮にそのレンタル業者を示すための 標章をその商品自体に付すとしても、その商品自体の出所が分かる標章 とは別に、当該商品自体の出所(商品の製造販売業者等)は分かるよう にしつつ、テープ等を用いて別途レンタル業者の標章を後付けするのが 一般的である(レンタカー等の例からしても公知の事実)。このように、 15 商品・役務のそれぞれの標章が、商品又は役務の提供において貸渡し等 される物自体に付されることがあるという事情があるとしても、そのこ とから直ちに出所の混同が生じるというようなことにならない。 |
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当裁判所の判断
1 商標の類否の判断方法20 商標法4条1項11号所定の商品と役務の類否は、それらの商品・役務に同 一又は類似の商標を使用する場合には、同一の営業主体の製造・販売又は提供 する商品・役務と取引者・需要者に誤認されるおそれがあると認められる関係 にあるか否かにより判断すべきである(最高裁昭和36年6月27日第三小法 廷判決・民集15巻6号1730頁参照)。具体的には、商品の製造・販売と25 役務の提供が同一事業者によって行われている実情の有無・程度、商品と役務 の用途の共通性、商品の販売場所と役務の提供場所の同一性、商品と役務の需 13 要者の重なり具合等を総合的に考慮し判断するのが相当である。 2 上記の各考慮要素について (1) 事業者について ア 証拠(甲12〜21、44、52、54〜57)によれば、株式会社ア 5 ジアス、株式会社日本メディックス、フクダ電子株式会社、 アイ・エ ム・アイ株式会社、株式会社三笑堂、さくらメディカル株式会社、株式 会社セントラルメディカル、ジーエムメディカル株式会社、株式会社ナ ンブ、中嶋メディカルサプライ株式会社、コニカミノルタ株式会社、株 式会社アールエフ、オムロンヘルスケアサービス株式会社、三井温熱株10 式会社、伊藤超短波株式会社といった多数の医療機器メーカー等につい て、製造・販売と貸与(レンタル・リース)の両方の事業を行っている ことが認められる。 また、キヤノンメディカルシステムズ株式会社(製造・販売)とキヤ ノンメディカルファイナンス株式会社(リース)(甲50)、パラマウ15 ントベッド株式会社(製造・販売)とパラマウントケアサービス株式会 社(レンタル)(甲53)についても、同一のハウスマークを用いて営 業を行う系列会社であること、これらの需要者は、そうした系列会社間 の法人格の異同にさほど関心を持たないと考えられる一般の需要者が含 まれていること(後記(4)参照)等の事情を考慮すると、「商品の製造・20 販売と役務の提供が同一事業者によって行われている場合」に準ずるも のということができる。 この点、被告は、「同一事業者」とは、狭義の混同を生じさせる同一 の事業者のことであって、親子会社や系列会社等は含まれない旨主張す る。しかし、企業の経営戦略として、同じブランド(特にハウスマーク)25 を使用しつつ多様な事業展開を円滑に行う等の目的で、特定の事業部門 を分社化したり、持株会社(ホールディングス)が傘下の複数の事業会 14 社を統括するような法人格の運用は、ごく一般的なものであり、そのよ うな場合、形式的に見れば別法人が展開する事業であっても、外部の第 三者(特に一般需要者)からみて、同一の営業主体による事業と認識さ れることも珍しくないと解される。上記1で述べた商品・役務に係る営 5 業主体の誤認のおそれは、取引者・需要者の認識を基準に判断すべきも のであるから、上記のような理由により「別法人が展開する事業であっ ても同一の営業主体による事業と認識されても不思議でない場合」には、 「商品の製造・販売と役務の提供が同一事業者によって行われている場 合」に準ずるものとして扱うのが相当である。 10 この点に関する被告の上記主張は、商品・役務に係る営業主体の誤認 のおそれは取引者・需要者の認識を基準に判断すべきことを看過したも のであり、採用できない。 イ 次に、証拠(甲7〜9)によれば、医療用機械器具の製造、販売、貸与 等を行う企業を会員とする団体である商工組合日本医療機器協会におい15 ては、医療機器の製造販売業又は販売・貸与業の許可等を受けている企 業が77社あり、そのうち、製造販売業と販売・貸与業の両方の許可等 を受けている企業は53社(68.8%)あることも認められ、約3分 の2の割合という多数の製造・販売業を行う事業者が、貸与業も行うこ とができる状況にあるといえる。 20 この点、甲43によれば、令和2年度末における医療機器の製造販売業 許可数が2799件となっていることが認められるが、上記協会に加入 している企業のうちの対象企業数77社が、サンプルサイズとして小さ すぎるとまではいえない。そして、商工組合日本医療機器協会の会員か 非会員かの違いが、販売・貸与業の許可等取得割合に実質的な違いを生25 じさせているといった事情もうかがわれない。そうすると、比較対象た る企業集団の母数の違いのみから、上記の傾向、すなわち、医療機器の 15 製造・販売業を行う事業者の多数が貸与業についても許可等を受けてい るとの事実を否定することはできない。 加えて、証拠(甲10、42)によれば、東京都が用いている「高度 管理医療機器等販売業/貸与業許可申請」(様式第87)、「管理医療 5 機器販売業/貸与業届出」(様式第88)の書式では、「販売業」と 「貸与業」の許可申請・届出を1通の書類で行う様式がデフォルトと なっており、販売業と貸与業の「どちらか一方の時は、不要の文字を消 してください」という記載例の注意書きが示されていることが認められ る。これは、医療機器の販売業と貸与業の双方の許可申請・届出を行う10 例が現実に多い実情を示すものと理解できる。 ウ また、被告は、国内の主要な医療用機械器具メーカー(甲33)と、主 要な医療用機械器具のリースサービスを提供する事業者(甲35、36) 又はレンタルサービスを提供する事業者(甲37)が一致していない点 を指摘し、同一事業者が機械器具の製造・販売と機械器具の貸与を行う15 ことは一般的でないと主張する。 しかし、業界における主要な事業者とは、企業の経済活動の規模(売 上等)や商品・サービスの内容から様々な基準によって選出されるにす ぎず、仮にある事業者が製造販売業と貸与業の両者の業務を行っている としても、企業の経営戦略等によってどちらに重きを置くのかは当然異20 なり得るのであるから、製造販売業における主要企業と貸与業における 主要企業が一致していないからといって、このことから直ちに両者を同 時に行う事業者が少ないとまで断言できない。 (2) 用途について 医療用機械器具の貸与は、他人の求めに応じて当該機械器具を貸与する25 ことであるところ(甲34)、貸与という行為は、単に貸渡し行為をするこ とのみならず、需要者に当該機械器具を使用させることを当然に予定するも 16 のである(民法601条参照)。よって、その貸与の用途は、医療用機械器 具の医療目的での使用ということができ、本件指定商品・医療用機械器具の 用途と共通するといえる。 (3) 提供場所・販売場所について 5 上記のとおり、多数の医療用機械器具の製造・販売を行う事業者が同時 に貸与も行っている取引の実情があることや、各事業者は、ホームページを 設けて申込みや問合せを受け付けており、その際には販売と貸与を共に説明 していること(甲68〜71)に鑑みると、医療用機械器具の販売場所と貸 与の提供場所は、いずれも当該企業の営業所所在地やインターネット上の10 ホームページ(同一のサイト)等であると認められる。そうすると、本件指 定役務・医療用機械器具の貸与と、本件指定商品・医療用機械器具について は、提供場所・販売場所が同じである場合が多いということができる。 これに対し、被告は、現代社会ではあらゆる物品がインターネット上の ウェブページで貸与、販売されているから、本件においても商品の販売や役15 務の提供がインターネット上のウェブページで行われていることを理由とし て提供場所が一致するというのは暴論であると主張する。しかし、商品・役 務の類似性判断の考慮要素として、商品の製造・販売と役務の提供が同一事 業者によって行われている実情の有無・程度等とは別に、その提供場所・販 売場所の同一性を独立の考慮要素としているのは、同一事業者が扱う商品・20 役務であっても、商品と役務とで全く異なる営業形態を取るような場合も考 えられるからである。そのような場合と異なり、同一事業者が、そのホーム ページ等の同一のサイトで商品の販売と役務の提供の両方の営業を行ってい るとすれば、その商品・役務の類似性を肯定する方向で考慮すべきことは当 然である。被告の上記主張は失当である。 25 (4) 需要者の範囲について 本件指定商品・医療用機械器具は、医療機関で用いられるものに限らず、 17 一般家庭内で健康状況に応じて使用されるものも含まれること、その需要者 には、医療機関のみならず、一般の需要者等が含まれることについては、い ずれも当事者間に争いがない。そして、証拠(甲48、53、56、57) によれば、本件指定役務・医療用機械器具の貸与においても、広く一般の需 5 要者(消費者)が想定されている場合があることが認められるから、両者の 需要者は実質的に重なるといえる。 これに対し、被告は、医療用機械器具の貸与の対象となるものは、専ら 高額な機械器具であり、その需要者は事業者、すなわち医療機関に限られる と主張する。確かに、貸与の対象となる医療用機械器具は、販売の対象とな10 る医療用機械器具よりも相対的に高額なものが多いであろうことは想像に難 くなく、それに伴う需要者の範囲の相対的な違いはあり得るとしても、医療 用ベッドや家庭用治療器、リハビリテーション機器等のレンタルサービスを 一般需要者向けの広告で扱っている事例が実際にあることは紛れもない事実 である(甲53、56、57)。本件指定役務・医療用機械器具の貸与の需15 要者が「医療機関に限られる」という被告の主張は、証拠に基づかない極論 といわざるを得ない。 結局、本件指定役務・医療用機械器具の貸与と本件指定商品・医療用機 械器具の需要者の範囲は、相対的な違いはあれ、医療機関と一般の需要者等 を含む点で実質的には重なっているというべきである。 20 (5) 小括 以上によれば、 本件指定役務・ 医療用 機械器具の貸与と、 本件指定商 品・医療用機械器具の製造・販売とは、同一事業者によって行われている例 が多数みられ、これらの用途は共通し、販売場所と提供場所は同一である場 合が多く、需要者の範囲は実質的に重なっているということができる。この25 ような取引の実情を踏まえると、本件指定役務・医療用機械器具の貸与と本 件指定商品・医療用機械器具に同一の構成の商標(「AWG治療」)を使用 18 する場合には、同一の営業主体の製造・販売又は提供する商品・役務と取引 者・需要者に誤認されるおそれがあるというべきである。 なお、本件指定商品・医療用機械器具は、「歩行補助器・松葉づえ」を 除くものとされており、このような除外のない本件指定役務・医療用機械器 5 具の貸与と異なっているが、この違いが商品・役務の類否に影響を及ぼすと はいえない。 3 商標権の効力の観点からの弊害について 原告は、先願に係る引用商標の商標権者であり、「AWG治療」の商標を医 療用機械器具に付した上でこれを引き渡す行為を第三者が行った場合、当該商10 標権の侵害を理由に禁止権を行使することができるはずである(商標法36条、 37条1号、2条3項2号)。しかし、本件商標の登録が有効なものだとする と、「AWG治療」の商標を医療用機械器具に付した上でこれを貸与する行為 (当然に「引渡し」を包含する。)は、通常、本件商標に係る商標の使用と認 めるのが自然であり(同法2条3項3号)、商標権の及ぶ範囲の重複・抵触が15 生じかねない。このような状況を招来させるのは、権利範囲の問題と登録要件 の問題が理論上は別個の問題であるにせよ、商標法全体の整合的解釈という観 点からは好ましいことでない。以上の理由からも、本件指定役務・医療用機械 器具の貸与と、本件指定商品・医療用機械器具とは、類似するものと判断する のが適切である。 20 4 結論 以上によれば、本件指定役務・医療用機械器具の貸与と、本件指定商品・医 療用機械器具は、類似する商品・役務であると認められる。これと異なり、上 記商品・役務が非類似であるとの前提で本件商標が商標法4条1項11号に該 当しないとした本件審決の判断には誤りがあり、原告の請求には理由がある。 25 よって、本件審決を取り消すこととし、主文のとおり判決する。 |