関連審決 |
無効2022-890005 |
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事件 |
令和
6年
(行ケ)
10068号
審決取消請求事件
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5 原告X 同訴訟代理人弁護士 鈴木正勇 同訴訟代理人弁理士 山田清治 10 被告 マイオフォーカスオーストラリア ピーティーワイ リミティッド 同訴訟代理人弁護士 河野雄介 15 同訴訟代理人弁理士 北野修平 同 青木覚史 同訴訟復代理人弁護士 中村孝宏 |
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裁判所 | 知的財産高等裁判所 |
判決言渡日 | 2025/01/16 |
権利種別 | 商標権 |
訴訟類型 | 行政訴訟 |
主文 |
1 原告の請求を棄却する。 20 2 訴訟費用は原告の負担とする。 |
事実及び理由 | |
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請求
特許庁が無効2022-890005号事件について令和6年6月10日にし た審決を取り消す。 20 第2 事案の概要 本件は、商標登録無効審判請求に係る登録無効審決の取消訴訟である。争点 2 は、原告を商標権者とする本件商標が、商標法4条1項7号(公の秩序又は善良 の風俗を害するおそれがある商標)に該当するかである。 1 前提事実(争いのない事実、証拠及び弁論の全趣旨により容易に認められる 事実) 5 ? 原告は、株式会社オーティカ・インターナショナル(以下「オーティカ社」 という。)の支配株主(発行済み株式総数60株のうち、40株を保有。甲 37)である。オーティカ社は、オーストラリア法人である Myofunctional Research Corporation Pty.Limited(以下「MRC社」という。)との間 で、平成27(2015)年4月9日、矯正歯科機材の輸入販売及び矯正歯10 科に関するセミナーの企画・運営に関する、日本における総代理店契約を締 結し、令和2(2020)年4月20日、これらの事業を行うために、MR C社が有する教材等に関する著作権、「MYOBRACE」の文字からなる 登録商標に係る商標権等につき、オーティカ社が日本における独占的使用権 及び実施権を有することを確認する覚書を取り交わした(甲37、38、515 4〜59)。 ? 被告は、平成29(2017)年にオーストラリアにおいて設立された会 社であり、歯科医療、歯科矯正に関する知識の教授、歯科矯正に関する情報 の提供等の事業につき、遅くとも同年9月30日以降、自社のウェブサイト 及び同国所在のクリニックにおいて、被告各商標を使用していた(乙3〜5、 20 資格証明書)。なお、被告は、オーストラリアにおいて、同年10月28日、 「Myofocus」の商標登録出願をし、平成30年(2018)年5月30日に 商標登録(指定役務は第44類「Dental surgery services」)を得ている (甲15)。 ? 被告は、令和元年9月22日から同月26日までの間、愛知県常滑市の25 「J.ホテルりんくう」において、歯科医療関係者に対し、歯科矯正に関す るセミナー(以下「第 1 回セミナー」という。)を開催した(甲22の1・ 3 2)。 ? 原告は、本件商標につき、同月27日、商標登録出願をした(甲63、6 4)。 ? 被告は、令和2年1月31日から同年2月4日までの間、東京都の「フク 5 ラシア丸の内オアゾ」において、歯科医療関係者に対し、歯科矯正に関する セミナー(以下「第2回セミナー」という。)を開催した(甲23の1)。 ? オーティカ社は、被告に対し、令和2年7月16日付け通知書により、被 告がセミナーで配布した冊子に掲載されていた症例写真や「MYOBRAC E」の標章は、MRC社が著作権又は商標権を有しており、オーティカ社が10 日本国内での独占的使用権を有するところ、被告による無断使用は、オーテ ィカ社の独占使用権を侵害するとして、これらの写真や標章を記載した一切 の文書の配布の中止等を求めた(甲34)。その後、オーティカ社と被告は、 同年9月10日付け合意書(甲36)を締結し、被告はオーティカ社に対し、 今後、セミナーにおいて同様の冊子を配布しないこと等を約束した。 15 ? 原告は、本件商標につき、令和3年6月24日、登録査定を受け、同年7 月7日、商標登録を受けた(甲63、64)。 ? 原告は、令和3年10月27日付け書面により、被告に対し、被告各商標 を日本向けのウェブサイトで使用する行為が、本件商標に係る商標権侵害に 該当するなどとして、被告各商標の使用中止を求める警告をした(弁論の全20 趣旨)。 ? 被告は、令和4年1月21日ころ、本件商標の商標登録を無効にすること について審判を請求し、無効理由として、本件商標は、商標法4条1項7号 に該当すると主張した。 ? 特許庁は、同審判を無効2022-890005号事件として審理し、令25 和6年6月10日、「登録第6412642号の登録を無効とする。」との 本件審決をし、その謄本は、同月20日、原告に送達された。 4 原告は、同年7月10日、本件審決の取消しを求める本件訴訟を提起した。 2 本件審決の理由の要旨(詳細は別紙「本件審決(抜粋)」のとおり) 本件商標は、公の秩序又は善良の風俗を害するおそれがある商標(商標法4 条1項7号)に該当するから、無効である。すなわち、原告は、被告がオース 5 トラリアで使用していた被告各商標が我が国において商標登録されていないこ とを奇貨として、我が国における被告各商標の使用を阻止することを目的とし て、被告各商標を剽窃し、本件商標の登録を得たものであるから、本件商標の 登録出願の経緯には社会的相当性を欠くものがある。したがって、本件商標は、 その登録を認めることが商標法の予定する秩序に反するものとして到底容認し10 得ないような場合に当たるというべきであるから、公の秩序又は善良の風俗を 害するおそれがある商標というべきである。 3 原告主張の審決取消事由 商標法4条1項7号該当性の認定判断の誤り |
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当事者の主張
15 (原告の主張) 1 本件商標と被告各商標について 以下の事情からすると、本件商標と被告各商標が偶然に一致することはあり 得るから、原告と被告のいずれかが相手方の商標を剽窃したという関係にある ことを前提に、本件商標が被告各商標を剽窃したものであるとした本件審決の20 判断は、誤っている。 ? 本件商標の左側の図形は、歯科矯正において重要な要素である舌を模した ものであり、類似した図形を用いたロゴもあることから(甲66〜68)、 特徴的なものではない。アルファベットの文字列の中間の文字を大文字とす るデザインも、商標では普通に採用されている(甲69、70)。 25 ? オーティカ社及びその関連会社は、MRC社から、語頭に「MYO」を用 いた「MYOBRACE」等の文字からなる一連の商標(甲38〜41、5 5 5〜60)の独占的使用権の設定を得て、事業に使用していたことから(甲 61)、オーティカ社においても語頭に「MYO」を用いる文字からなる商 標を登録し、防御する必要が生じ、検討の上で「MYOSOUCE」と「M YOFOCUS」の文字からなる商標を登録出願したものである。本件商標 5 は、剽窃しなければ創案することができないものではない。 ? 原告は、MRC社でストックされていた「MYO」を用いる商標の開示を 受け、インスピレーションを得て、本件商標のデザインを行った。被告代表 者は、MRC社に勤務していたから、同様にしてインスピレーションを得て、 被告各商標を創案した可能性は否定することができない。 10 2 本件商標の作成及び使用について 本件商標は、原告がデザイナー(以下「A氏」という。)に依頼し、平成2 7年10月に作成したものである。また、原告は、甲47から甲49までのチ ラシ(以下「原告提出チラシ」という。)のとおり、平成28年3月及び平成 29年3月に原告使用商標1を、平成30年3月に原告使用商標2を使用し、 15 もって原告各使用商標を使用している。これらの事実を認めず、本件商標が被 告各商標を剽窃したものであるとした本件審決の判断は、以下の点において、 誤っている。 ? A氏がロゴデザイン代として50万円を領収した旨の平成27(2015) 年11月24日付け領収書(甲46、以下「本件領収書」という。)につい20 て 金銭の受領を証するという領収書の意義は再発行の有無にかかわりないこ と、原告は法律、会計の専門家ではなく、作成日は領収書記載の年月日であ ると考えていたこと、再発行された本件領収書の原本は紛失したこと、現金 での支払はA氏の要望であったこと、A氏は、本件領収書が再発行されたも25 のであり、本件領収書記載の年月日、金額の受領、名目が真実であることを 宣誓供述していること(甲62)からすれば、本件領収書の信用性を否定し 6 た本件審決の判断は誤りである。 ? 原告提出チラシについて ア 原告提出チラシにおける原告各使用商標のレイアウトは、いずれも不自 然とはいえないし、原告各使用商標はオーティカ社のブランドを示すため 5 に表示したものであり、個々の商品名(商標)の記載と併存することは不 自然ではない。 イ 審判において原告の主張が変遷したのは、セミナー等において広く頒布 するセミナー用チラシと、重要な顧客にセールが行われていることを注意 喚起するために小部数作成した原告提出チラシとを混同してしまったため10 である。原告提出チラシは、注文用に配布するものではないため、制作会 社に依頼して作成したセミナー用チラシを用いて簡易に作成し、注文用の 裏面を設けていないのである。したがって、審判で提出した写しは、実質 は原本といえるものである。 ウ 以上のとおり、原告提出チラシに、本件審決が指摘するような不自然な15 点はなく、本件審決の判断は誤りである。 3 商標法4条1項7号該当性について 仮に本件商標が被告各商標を剽窃したものであるとしても、商標法4条1 項7号該当性は認められない。 ? 被告は、本件商標の出願当時、オーストラリアで歯科矯正のセミナーを20 数回行っていたにすぎず、原告において、被告が日本でセミナーを行うこ とは想定することができなかった。原告は、オーティカ社が「MYO」を 冠する商標を使用してセミナーを開催する等していたことから(甲71〜 73)、同社において本件商標を使用するために本件商標を登録出願した ものであって、被告各商標の使用を阻止することを目的としたのではない。 25 ? 商標法4条1項7号該当性の解釈指針となるべき知財高裁平成20年6 月26日判決(判例時報2038号97頁)は、「先願主義を採用してい 7 る日本の商標法の制度趣旨や、国際調和や不正目的に基づく商標出願を排 除する目的で設けられた法4条1項19号の趣旨に照らすならば、それら の趣旨から離れて、法4条1項7号の『公の秩序又は善良の風俗を害する おそれ』を私的領域にまで拡大解釈することによって商標登録出願を排除 5 することは、商標登録の適格性に関する予測可能性及び法的安定性を著し く損なうことになるので、特段の事情のある例外的な場合を除くほか、許 されないというべきである。そして、特段の事情があるか否かの判断に当 たっても、出願人と、本来商標登録を受けるべきと主張する者(例えば、 出願された商標と同一の商標を既に外国で使用している外国法人など)と10 の関係を検討して、例えば、本来商標登録を受けるべきであると主張する 者が、自らすみやかに出願することが可能であったにもかかわらず、出願 を怠っていたような場合(中略)は、出願人と本来商標登録を受けるべき と主張する者との間の商標権の帰属等をめぐる問題は、あくまでも、当事 者同士の私的な問題として解決すべきであるから、そのような場合にまで、 15 『公の秩序や善良な風俗を害する』特段の事情がある例外的な場合と解す るのは妥当でない。」と判示している。 被告は、日本におけるセミナー開催の準備をする期間において、被告各 商標の登録出願をすることができたのであるから、本件は、公序良俗違反 の問題となるものではない。 20 ? なお、原告が虚偽の主張及び証拠に基づいて審査官等を欺いたとの被告 の主張(後記(被告の主張)3?)は、無効審判請求の理由の要旨変更と なり、許されない。 4 信義則違反について 本件商標が商標法4条1項7号に該当するとの被告の主張は、以下のとおり25 信義則に反しており、本件審決の判断は、誤りである。 ? 被告は、歯科矯正のセミナーにおいて、MRC社の保有する商標、著作物 8 等を無断使用しており、オーティカ社の事業を妨害するものであることは明 らかである。 ? 被告がオーティカ社の歯科矯正の事業を妨害しておきながら、被告が行う 事業の保護を受けるために本件商標の登録出願が公序良俗に反すると主張し 5 て無効審判を請求することは、商標法に違反する行為を行いながら商標法に よる保護を求めるものであり、当事者間の公正を欠き、信義則に反する。 (被告の主張) 1 本件商標と被告各商標について 本件商標と被告各商標は、どちらかが相手方の商標を剽窃したものであると10 した本件審決の判断に、誤りはない。 原告は、本件審判で提出した答弁書において、被告各商標について「被請求 人(原告)がデザイナーに委託して製作した商標と全く同一であり、約2年後 にこのような極めて独創的な図形及びロゴが偶然の一致で請求人(被告)及び そのデザイナーによって採択されるはずがない。」と主張していたのであり、 15 その主張に一貫性がない。 2 本件商標の作成及び使用について ? 本件領収書について 本件審判時の原告の主張の変遷等は、本件審決が詳細に認定するとおりで あって、原告の主張は、わざわざ再発行させたという領収書の原本まで紛失20 したという点も含め、明らかに不自然なものである。 原告は、本件商標が平成27年10月に創作されたことを示す証拠として 本件領収書を提出したのであり、その作成日や、再発行であるか否かが重要 なことは明らかである。原告は、法律、会計の専門家でないとしても、法律 専門家である原告代理人と協議して資料を準備しているはずである。 25 ? 原告提出チラシについて ア 原告提出チラシにおける原告各使用商標のレイアウト等が不自然である 9 ことは、本件審決が詳細に認定するとおりである。 イ 原告は、本件審判において、原告提出チラシの製作を裏付ける証拠とし て見積書(乙15)及び請求書(乙16)を提出したのであり、数千部印 刷している「セミナー用チラシ」の見積書等を、ごく少数配布した原告提 5 出チラシの見積書等として提出するなど、通常考えられない。 3 商標法4条1項7号該当性について ? 原告は、被告各商標を剽窃したのであるから、本件商標の出願前、被告が オーストラリアで被告各商標を使用していたことを知っていたはずであり、 現在もなお本件商標を指定役務に使用していないにもかかわらず、被告によ10 る第1回セミナーの翌日に本件商標を出願し、登録後は被告に対し被告各商 標の使用中止の警告をしているのであるから、本件商標の出願は、被告によ る被告各商標の使用を阻止することを目的としたものである。 ? 本件商標が被告各商標を剽窃したものであれば、本件商標の作成、使用に 関する原告の主張及び証拠はすべて虚偽に基づくものということになり、原15 告は、審査段階では虚偽の主張及び証拠に基づいて審査官を欺いて商標登録 を得たことになり、本件審決でも審判合議体を欺いて商標登録の無効を免れ ようとしたことになる。かかる行為は、商標法79条の詐欺の行為の罪に該 当するほどの重大な行為であり、私的問題にとどまるものではなく、公序良 俗に反することは明らかである。 20 4 信義則違反について 被告は、第2回セミナーで配布した冊子において、MRC社の商標を自他役 務の識別標識として使用しておらず、MRC社の商品であることを明らかにし た上で、オーティカ社からMRC社の商品を購入できることを案内しているか ら、オーティカ社の事業を何ら妨害しておらず、MRC社の商標権、著作権も25 侵害していない。 |
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当裁判所の判断
10 1 本件商標と被告各商標について 原告は、本件商標と被告各商標が偶然に一致することはあり得るから、原告 と被告のいずれかが相手方の商標を剽窃したことを前提とする本件審決の判断 は誤っていると主張する。 5 しかし、本件商標と被告各商標、特に被告商標1と対比すると、左側の図形 部分、「mYofocUs」という大文字と小文字からなる文字の構成、フォ ント、図形部分と文字部分の配置、大きさのバランスがいずれも同一で、図形 及び各文字の色彩も酷似する、ほとんど同一の商標というべきであるから、そ れぞれが他方を参照することなく独自に創案されたことを相当程度強く窺わせ10 る証拠がない限り、偶然に一致したなどと認めることはできない。 原告は、上記の図形部分は人の舌を模したもので特徴的ではないなどと主張 するが、原告が指摘する甲66から68までの各商標の図形は、人の舌を模し たとみられる図形部分に限っても、本件商標の図形部分と明らかに異なるもの である。 15 また、原告、被告それぞれに「MYO」の文字を用いた商標を創案する動機 や可能性があった旨の原告の主張は、上記のような細部に至るまで一致した理 由を説明することができるものではない。 2 本件商標の作成及び使用について ? 検討の前提20 被告による被告各商標の開始が認められるのは、平成29年9月30日で ある(前提事実?)。したがって、原告が主張するとおり、平成27年10 月、A氏に本件商標の作成を依頼した事実や、平成28年3月、及び同29 年3月に原告使用商標1が使用された事実が認められるとすれば、本件商標 が被告各商標を剽窃したものであるとはいえないことになる。逆に、原告が25 主張する本件商標の作成及び原告使用商標1の使用がいずれも認められない 場合には、被告各商標が平成29年9月30日に使用開始された後に本件商 11 標が出願されているのであるから、被告各商標と本件商標との酷似性に照ら し、本件商標は、被告各商標を剽窃したものであることが推認されるという べきである。 ? 原告各使用商標の使用について 5 まず、原告各使用商標の使用の点から判断する。 ア 原告は、原告提出チラシ(甲47〜49)によれば、原告各使用商標 が平成28年3月、同29年3月(及び同30年3月)に使用された事 実が認められる旨主張するので、原告提出チラシの信用性について検討 する。 10 イ 原告提出チラシは、次の3種類であり、いずれも、オーティカ社の取扱 いに係る歯科矯正器具の商品名、写真、価格等の商品情報が記載され、 最下部には、オーティカ社のロゴ、社名、所在地、「マイオファンクシ ョナル リサーチ社 日本総代理店」等の記載がある。 なお、原告は、対応する審判時の書証(審判時の乙33〜35)と同15 様、原告提出チラシを表面のみの写しとして提出しており、本件訴訟に おいても、原本の提出はない。 (ア) 最上部に「Spring Sale 2016」のタイトル、そのす ぐ下に原告使用商標1、右上隅に「3/1〜3/31」と記載された もの(甲47、以下「原告提出チラシ2016」という。また、タイ20 トルを含むこれらの記載部分を「タイトル部分」という。) (イ) 最上部に「Spring Sale 2017」のタイトル、その すぐ下に原告使用商標1、右上隅に「3/1〜3/31」と記載され たもの(甲48、以下「原告提出チラシ2017」という。) (ウ) 最上部に「Spring Sale」のタイトル、右上隅に原告使25 用商標2、その下に「2018 3/1〜31」と記載されたもの (甲49、以下「原告提出チラシ2018」という。) 12 ウ 被告は、次の5種類のチラシ(乙9〜14、併せて「被告提出チラシ」 という。なお、乙10と乙12は同じものである。)を、証拠として提 出した。 なお、被告は、被告提出チラシをいずれも写しとして提出しているが、 5 対応する審判時の書証(審判時の甲45〜50)は、本件審判において 原本が提出されている(本件審決、弁論の全趣旨)。 また、被告提出チラシの裏面は、いずれも、具体的な商品毎に注文個 数等の記入欄がある注文書となっており、この点も原告提出チラシと異 なる。 10 (ア) 最上部に「日本矯正歯科学会特別価格」のタイトル、そのすぐ右下 に「2016年9月21日→11月30日」と記載されたもの(乙9、 以下「被告提出チラシ乙9」という。) タイトル部分以外、商品やオーティカ社に関する記載内容は、背景 の色合いを除き、原告提出チラシ2016(甲47)と全く同じであ15 る。 (イ) 最上部に「Spring Sale 2018」のタイトル、その 右に「2/21〜3/31」と記載されたもの(乙10、12、以下 両者を併せて「被告提出チラシ乙10」という。) タイトル部分以外、商品やオーティカ社に関する記載内容は、原告20 提出チラシ2017(甲48)と全く同じである。 (ウ) 最上部に「日本矯正歯科学会特別価格」のタイトル、そのすぐ右下 に「2018 9/18(火)〜11/9(金)」と記載されたもの (乙11、以下「被告提出チラシ乙11」という。) タイトル部分以外、商品やオーティカ社に関する記載内容は、タイ25 トルのすぐ下の「全品10%OFF」等の文字フォントが異なること を除き、原告提出チラシ2018(甲49)と全く同じである。 13 (エ) 最上部に「Convention Special 2017」のタイトル、その右に「6 (赤い丸の中に白文字)1(白い四角の中に赤文字)〜7(赤い丸の 中に白文字)17(白い四角の中に赤文字)」と記載されたもの(乙 13、以下「被告提出チラシ乙13」という。) 5 原告提出チラシ2017(甲48)と比較すると、オーティカ社に 関する記載内容は同じであるが、商品の記載が、「Myobrace for ClassV」が中段、「Myobrace for Ki ds」が下段に配置されており、原告提出チラシ2017と比較する と、中段と下段が入れ替わっている。また、「Myobrace f10 or ClassV」の「P-3」の「お試し価格 ¥7,100→ ¥6,000」との記載が、原告提出チラシ2017では「¥7,1 00→¥6,390」となっている点も異なっている。 (オ) 最上部に「Spring Sale 2017」のタイトル、その 右に「2(赤い丸の中に白文字)21(白い四角の中に赤文字)〜315 (赤い丸の中に白文字)31(白い四角の中に赤文字)」と記載され たもの(乙14、以下「被告提出チラシ乙14」という。) 被告提出チラシ乙13と比較すると、商品やオーティカ社に関する 記載内容は同じである。 また、原告提出チラシ2017(甲48)と比較すると、被告提出20 チラシ乙10と同じく、「Myobrace for ClassV」 と「Myobrace for Kids」の配置、「P-3」の価 格表示が異なっている。 エ 本件審決、証拠及び弁論の全趣旨によれば、@本件審判において、原告 は、本件商標の使用を裏付ける証拠として、歯科医師向けに配布したとす25 る原告提出チラシを提出するとともに、その制作の事実を裏付ける証拠と して、制作会社作成の平成28年2月12日付け見積書(乙15)、同月 14 18日付け請求書控(乙16)を提出したこと、Aこの見積書及び請求書 控には、「件名:DM「Spring Sale 2016」ほかチラシ6点、原稿制作、 印刷費の件」と記載され、各チラシの部数について 「Trainer Spring Sale」が3500、「矯正 Spring Sale 三つ折り」が1200、「B先 5 生セミナー」が9000などと記載されていること、Bこれに対し、被告 が、オーティカ社が配布した実際のチラシを入手したとして被告提出チラ シを提出し、原告提出チラシの不自然さを主張したこと、C原告は、被告 提出チラシがオーティカ社において制作、配布したものであることは争わ ず、原告提出チラシは、チラシを配布した顧客等のうち、懇意の限られた10 大口顧客にスプリングセールが実施されていることを再度認知してもらう ために小部数配布したものであって、見積書及び請求書控は原告提出チラ シに係るものではないと、主張を変遷させたことが認められる。 そして、原告は、本件訴訟においても、上記Cの変遷後の主張を繰り 返すとともに、原告提出チラシは、制作会社に依頼して作成したセミナ15 ー用チラシを用いて簡易に作成したもので、審判で提出した写しは、実 質は原本といえるなどと主張している。 オ 以上を踏まえ、原告提出チラシについて検討する。 まず、実際に顧客等に配布されたものと認められる被告提出チラシが、 提出された写しをみても印刷が鮮明であることに比べ、原告提出チラシ20 は、商品等の写真、文字、背景の色合い等が全体的にぼやけて不鮮明で あって、原告が認めるとおり、専門の印刷業者によって制作されたチラ シではなく、専門の印刷業者が制作したチラシを用いて(例えば、自前 のカラーコピー機やスキャナーを用いるなどして)制作されたものと認 められる。 25 そうであれば、原告提出チラシは、被告提出チラシその他の専門の印 刷業者によって制作されたチラシを利用すればいつでも制作可能という 15 ことになるから、セール期間として記載された期間のころに制作、頒布 されたかどうかは、疑わしい。 さらに、そのような不鮮明で、裏面の注文書もないチラシを、注意喚 起のために少数の重要顧客に送ったという原告の主張自体、不自然とい 5 うべきである。 そして、原告提出チラシ2017(甲48)については、セール期間 が3月 1 日から同月31日までと記載されており、期間が重なる被告提出 チラシ乙14、すなわち「Spring Sale 2017」(セー ル期間2月21日〜3月31日)のチラシとは、商品の説明である「M10 yobrace for ClassV」と「Myobrace fo r Kids」の配置、「P-3」の価格表示が異なっている(被告提 出チラシ乙14だと6000円の商品が原告提出チラシ2017では6 390円。前記ウ(エ)(オ))。これらの商品の配置と価格表示は、被告提 出チラシ乙13、すなわち同じ年の「Convention Special 2017」(セー15 ル期間6月1日〜7月17日)では被告提出チラシ乙14と同様となっ ているから(前記ウ(エ))、原告提出チラシに係る原告の主張が正しいと すると、原告は、重要な顧客に対しセールが行われていることを注意喚 起するために、「Spring Sale」の期間中に、商品の配置を 変えただけでなく、わざわざ「お試し価格」として強調した商品「P-20 3」の販売価格を390円値上げしたチラシを制作して送付し、しかも、 2か月後のセールでは、商品の配置と販売価格を元に戻したということ になる。このような原告の主張は、およそ不自然というほかない。 むしろ、商品の配置と価格表示を含め、原告提出チラシ2017の内 容が被告提出チラシ乙10、すなわち翌年の「Spring Sale25 2018」(セール期間2月21日〜3月31日)のチラシと一致して いることからすると、 商品「P-3 」のお試し価格 は 、「 Convention 16 Special 2017」終了後の平成29(2017)年7月18日以降に639 0円に値上げされ、原告提出チラシ2017は、被告提出チラシ乙10 など値上げ後のチラシを利用して作成されたことが強く疑われる。 これらの点からみても、原告提出チラシがその記載されたセール期間 5 のころに制作、作成されたことは、極めて疑わしいといわざるを得ない。 以上によれば、原告提出チラシは、それぞれにセール期間として記載さ れた平成28年3月、同29年3月及び同30年3月ころに制作、頒布 されたものとは、にわかに認めることはできず、他にこれを認めるに足 りる証拠はない。 10 カ 原告は、原告提出チラシのレイアウトの不自然さや、原告各使用商標と 個々の商品名(商標)を併記する不自然さをいう本件審決の判断は誤り であると主張する。 しかし、原告提出チラシと被告提出チラシを対比すると、本件審決のこ れらの判断には誤りはなく、これらの判断に係る事実も、原告提出チラ15 シの不自然さを示す事情といえるが、いずれにせよ、前記イからオまで において検討したところによれば、原告提出チラシが不自然なものであ ることは明らかである。 また、原告は、審判における主張の変遷の理由をるる主張するが、重要 な顧客に送付するために原告提出チラシを小部数作成したなどという主20 張自体が不自然であり信用することができないことは、前記オのとおり である。 キ 以上のとおり、原告提出チラシの信用性を否定した本件審決の判断に誤 りはなく、原告各使用商標が平成28年3月、同29年3月(及び同3 0年3月)に使用された事実は認められない。 25 ? 本件商標の作成時期について ア 本件審決、証拠及び弁論の全趣旨によれば、@本件審判において、原告 17 は、本件商標の作成時期を裏付ける証拠として、原告とA氏との間で締結 されたとする平成27年8月1日付け「ロゴデザインに関する業務委託契 約書」(甲65)、A氏から提案されたとする本件商標とほぼ同一のシン ボルロゴを含む提案書2通(甲42、43)、同年10月30日付け請求 5 書(甲44)、同年11月24日に支払機により50万円が出金された記 載のある原告の預金通帳(甲45)、A氏がロゴデザイン代として現金5 0万円を領収した旨記載された同日付けの本件領収書(甲46)を提出し たこと、A本件領収書は写しとして提出され、再発行である旨の記載はな く、原告は、提出した当初、証拠説明書にその作成年月日を同年11月210 4日と記載し、再発行されたものである旨を主張していなかったこと、B 本件領収書に貼付された収入印紙は、平成30年7月1日から適用が開始 されたデザインのものであったこと(甲46、乙6〜8)、Cその旨を被 告から証拠とともに指摘されると、原告は、元の領収書は平成29年8月 9日の事務所移転時に紛失したため、本件領収書を平成30年10月にA15 氏に再発行してもらい、税務調査のために保管していたと主張したことが 認められる。 そして、原告は、本件訴訟において、上記Cの主張を繰り返すとともに、 再発行を受けた本件領収書の原本も紛失したと主張している。 イ 本件領収書に係る上記アの原告の対応は、明らかに不自然なものであっ20 て、平成27年11月24日に本件領収書と同内容の領収書が作成された ことは疑わしく、ひいては、同日に本件商標のデザイン料が支払われたこ と、その他同年10月に本件商標が作成されたとの原告の主張自体に疑い を抱かせるものである。 ウ これに対し、原告は、原告の主張に沿う内容のA氏の令和5年8月9日25 付け陳述書(甲53)及び公証人が認証したA氏の同年12月1日付け宣 誓供述書(甲62。以下、両者を併せて「A氏陳述書等」という。)を提 18 出している。 この点、確かに、平成27年11月24日に原告名義の預金口座から現 金で50万円が引き出されていること(甲45)や、原告を代表者とする 会社が平成29年8月9日に本店を移転した事実(甲51、52)は認め 5 られるものの、当該50万円の現金が平成27年11月24日にA氏に支 払われたことについては、これを直接裏付ける証拠は本件領収書及びA氏 陳述書等のみである。しかし、本件領収書やA氏陳述書等は、A氏の協力 があれば後日作成することができるものであり、前記の通り、本件領収書 に係る原告の対応が不自然であることに加え、A氏陳述書等がいずれも本10 件無効審判手続が開始された令和4年1月21日ころより後に作成された ものであることに照らすと、にわかに信用することができない。 また、原告が主張するような特異な経緯で、支払から約3年後に領収書 を再発行してもらいながら、本件審判において再発行の事実に触れること なく(少なくとも、当時既に選任されていた代理人弁護士や代理人弁理士15 に秘して)、記載された日付に作成された領収書として本件領収書を証拠 提出し、しかもその原本を紛失しているということも、不自然というほか ない。 エ 加えて、前記?のとおり、原告各使用商標が使用された事実は認められ ず、50万円のデザイン料を支払って平成27年10月に作成されたはず20 の本件商標は、その図形部分、文字部分のみに限っても、令和元年9月2 7日の登録出願までの約4年間、使用された形跡が認められない。 また、そのような本件商標について、平成29年9月の被告各商標の使 用開始前に被告が認識し得る可能性は何ら認められない(本件商標と被告 各商標が偶然に一致する可能性が極めて低いことは、前記1のとおりであ25 る。)。 これらの点からみて、平成27年10月に本件商標が作成されたとする 19 原告の主張は、本件領収書以外の点においても、不自然である。 オ 以上によれば、本件領収書の提出を含む原告の主張立証の信用性が低い として、本件商標が平成27年10月に作成された事実は認められないと した本件審決の判断は相当であり、誤りはない。 5 ? 小括 以上のとおり、原告の提出したすべての証拠によっても、本件商標が平成 27年10月に作成された事実及び原告各使用商標が平成28年3月、同2 9年3月(及び同30年3月)に使用された事実を認めるに足りず、他にこ れを認めるに足りる証拠がない。被告各商標の使用が開始された平成29年10 9月30日以降、本件商標が被告各商標と偶然に一致した可能性も認められ ず、本件商標は、被告各商標を剽窃したものと推認され、これを覆すに足り る証拠はない。 3 商標法4条1項7号該当性について ? 前記2のとおり、原告は、被告各商標を剽窃した本件商標を登録出願し、 15 商標登録を受けているところ、@これらの登録出願が被告の日本における第 1回セミナー終了の翌日に行われていること(前提事実?、?)、A被告と MRC社は、オーストラリアにおいて、歯科矯正に関する事業について競業 関係にあり、被告が日本に事業進出した場合、MRC社の国内代理店である オーティカ社とも同様の競業関係となること(前提事実?、?)、B前記原20 告の登録出願後その登録が認められるまでの間に開催された第2回セミナー の後、オーティカ社は、被告に対し、MRC社の著作権等のオーティカ社の 独占的使用権が侵害されたことを理由にセミナーの冊子の使用中止を求めて おり、原告はそのオーティカ社の支配株主であること(前提事実?、?)、 C原告は、本件商標に基づき、被告各商標の使用中止を要求していること25 (前提事実?)が、それぞれ認められる。 そして、被告は、その事業につき被告各商標を使用し(前提事実?)、日 20 本における第 1 回セミナー及び第2回セミナーでも被告各商標を使用してお り(甲22の2、甲50の1)、会社名自体も「マイオフォーカス(MYO FOCUS)」であるから、被告各商標の使用を阻止されることは、日本に おける事業において大きな障害となると認められる。 5 ? 原告は、本件商標をオーティカ社の事業において使用するために登録出願 したのであるから、被告各商標の使用の阻止を目的としていないと主張する。 しかし、前記2のとおり、本件商標を使用したとする原告の主張はおよそ 認められず、また、登録出願から現在に至るまでの間においては、原告が本 件商標を使用したとの主張立証はなく、そのような形跡すら窺われないこと10 からすると、原告の前記主張は採用することができない。 なお、原告は、被告の第1回セミナーについて認識していなかったかのよ うな主張もするが、前記?@、Aに加えて、本件商標の使用に関する原告の 主張がおよそ不自然で信用し難いことからすると、同主張も採用の限りでな い。 15 以上より、原告は、被告がオーストラリアで使用していた被告各商標が我 が国において商標登録されていないことを奇貨として、我が国における被告 各商標の使用を阻止すること、さらには、被告の日本におけるビジネスを妨 害することのみを目的として、被告各商標を剽窃した上、本件商標の作成時 期を偽り、本件商標の登録を得たものと認めるのが相当であって、このよう20 な商標は、登録出願の経緯に社会相当性を欠くものがあるというべきである から、商標法4条1項7号該当性に関する本件審決の判断に誤りはない。 ? 原告は、前記?の目的が認められるとしても、先願主義を採用している日 本の商標法の制度趣旨や、国際調和や不正目的に基づく商標出願を排除する 目的で設けられた法4条1項19号の趣旨に照らすならば、被告が第1回セ25 ミナーを開催するまでに被告各商標の登録出願をすることができた本件は、 当事者同士の私的な問題として解決すべきであり、公序良俗違反に当たると 21 すべき特段の事情はない旨主張する。 しかし、商標法4条1項19号は、その文言上、「前各号に掲げるものを 除く」と規定されているから、同項7号に該当する場合には、同項19号の 適用はない。本件においては、原告の登録出願の経緯に社会相当性を欠くも 5 のがあり、登録を認めることが商標法の予定する秩序に反するという理由で 同項7号該当性が認められる以上、同項19号の趣旨にかかわらず、本件商 標の登録は認められないことになるのであって、これと異なる前提に立つ原 告の前記主張は採用することができない。 ? 原告は、本件商標が商標法4条1項7号に該当するとの被告の主張は、信10 義則に反し許されない旨主張する。 確かに、前提事実?のとおり、被告が、MRC社の著作権又は商標権に係 るオーティカ社の独占的使用権を侵害したとしてオーティカ社から抗議を受 けた事実があることは認められるが、MRC社やオーティカ社の被侵害利益 は、本件商標とは全く別の法的利益であり、侵害された利益の当事者も原告15 とは別の法主体である。しかも、当該利益侵害に係る紛争は、既に当事者間 の令和2年9月10日付け合意により解決済みであることが認められる(甲 36)。したがって、本件商標について、商標法上、登録を受けることがで きない理由のある場合において、被告が、原告を相手方として、同法に従っ て、無効審判等を請求することが、信義則に反し許されないなどということ20 はできない。原告の前記主張は採用することができない。 ? 以上のとおり、本件商標が商標法4条1項7号に該当するとした本件審決 の判断に、誤りはない。 4 結論 よって、原告主張の取消事由は認められず、原告の請求は理由がないから、 25 主文のとおり判決する。 |
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22裁判長裁判官清水響5裁判官菊池絵理10裁判官頼晋一23(別紙)商標目録【登録番号】商標登録第6412642号5【商標の構成】【商品及び役務の区分並びに指定商品又は指定役務】第41類技芸・スポーツ又は知識の教授、セミナーの企画・運営又は開催、 電子出版物の提供、映画・演芸・演劇・音楽又は教育研修のため10の施設の提供、歯科及び歯列矯正の分野における訓練、歯科用の機器の使用における訓練、矯正歯科専門医の資格の検定及び認定第42類電子計算機のプログラムの設計・作成又は保守、電子計算機・自動車その他その用途に応じて的確な操作をするためには高度の専門的な知識・技術又は経験を必要とする機械の性能・操作方法等15に関する紹介及び説明、歯科医療に関する研究、歯列矯正に関する研究、歯列矯正機械器具に関する試験又は研究、通信回線を利用した歯科医師用・歯科医院用のコンピュータプログラムの提供第44類歯列矯正治療、歯科医療情報の提供、歯列矯正治療に関する情報の提供20【登録日】令和3年7月7日【出願日】令和元年9月27日【登録査定日】令和3年6月24日以上24(別紙)本件審決(抜粋)注:引用された審判提出証拠のうち、本件訴訟に提出されている証拠については、〔〕5内に本件訴訟における証拠番号を付記した(枝番は省略することがある。)。 第5当審の判断1商標法第4条第1項第7号該当性について(1)本件商標と引用商標との比較本件商標は、別掲1のとおりの構成からなるものであり、他方、引用商標は、別掲2及10び3のとおりの構成からなるものである。 そして、本件商標及び引用商標は、いずれも左に図形、その右に欧文字を配した構成からなるものであるが、両者の図形は特徴的な図形であるにもかかわらずほぼ同一であり、 また、欧文字部分についても、2文字目及び後ろから2文字目のみが大文字で、他の文字が小文字という特徴を含め、その構成文字が同一である。 15このように特徴的な部分を同一にする本件商標と引用商標とが偶然に一致したものとは到底いえない。 そうすると、請求人の引用商標と被請求人の本件商標とは、どちらかが他方を剽窃したものといわなければならない。 (2)引用商標の作成及び使用について20ア請求人は、平成29年(2017年)5月22日から同年9月18日までに引用商標を作成した旨主張するとともに、遅くとも同年9月30日までにオーストラリアにおいて引用商標の使用を開始していたと主張している。 イ請求人の提出に係る証拠によれば、請求人は、遅くとも平成29年(2017年)9月30日には、オーストラリアにおいて、自社のウェブサイト及びクリニックに引用商25標を使用していたことが認められ(甲12〜甲14〔乙3〜乙5の2〕)、このことは、 前記第4の2(3)のとおり、被請求人も争っていない。 25(3)本件商標の作成及び使用についての被請求人の主張被請求人は、請求人よりも2年前の平成27年(2015年)10月には本件商標を作成した旨主張するとともに、同28年(2016年)3月、同29年(2017年)3月及び同30年(2018年)3月に本件商標を使用していた旨主張している。 5(4)前記(1)のとおり、本件商標と引用商標とは、どちらかが他方を剽窃したものといわなければならないところ、前記(2)及び(3)によれば、請求人による引用商標の使用が認められる平成29年(2017年)9月30日以前、加えて、請求人が主張する引用商標の作成開始時である同年5月22日以前において、被請求人による本件商標の作成又は使用を認めることができれば、本件商標は、引用商標を剽窃したものではないとい10うことができ、反対に、当該作成又は使用を認めることができなければ、本件商標は、平成29年(2017年)9月30日までにオーストラリアにおいて使用されていた引用商標を剽窃したものということができる。 (5)本件商標が平成27年(2015年)10月に作成されたかについてア両当事者の提出に係る証拠及び同人の主張(以下「証拠等」という。)によれば、 15次の事実を認めることができる。 (ア)被請求人とA氏との間で、平成27年(2015年)8月1日付けで締結されている「ロゴデザインに関する業務委託契約書」には、被請求人がA氏に「MYOFOCUS」等のロゴデザイン制作に関する業務を委託すること、業務委託費は50万円(消費税及び地方消費税を含む。)とすることが記載されている(乙17〔甲65〕)。 20(イ)平成27年(2015年)9月20日付けの「シンボルロゴのご提案」と題する書類には、多数の標章が記載されており、その中には、本件商標とほぼ同一の標章が含まれている(乙18〔甲42〕)。 (ウ)平成27年(2015年)10月付けの「シンボルロゴの最終案」と題する書類には、本件商標とほぼ同一の標章が記載されている(乙19〔甲43〕)。 25(エ)A氏が被請求人に宛てた平成27年(2015年)10月30日付けの「請求書」には、「件名」として「ロゴデザイン費(計4種)」の記載があり、また、「御請求金額」26として「¥500,000(税込)」の記載がある(乙20〔甲44〕)。 (オ)被請求人の銀行口座通帳には、平成27年(2015年)11月2日から同月25日までの間に、多数の振込記録があり、また、同月24日に50万円の出金記録がある(乙21〔甲45〕)。 5(カ)A氏が被請求人に宛てた「領収書」(以下「本件領収書」という。)には、「現金」、「¥500,000-」、「ロゴデザイン代として」及び「2015年11月24日上記正に領収いたしました」の記載があり、また、200円の収入印紙が貼付されている(乙22〔甲46〕)。なお、本件領収書には、「再発行」である旨の記載はない。 (キ)本件領収書に貼付されている収入印紙は、平成30年(2018年)7月1日から10適用開始となったデザインのものである(甲41〜甲43〔乙6〜8〕)。 (ク)被請求人が代表取締役を務める会社が平成29年(2017年)8月9日に移転した(乙38、乙42〔甲51〕、乙43〔甲52〕)。 (ケ)被請求人は、前記(ク)の移転の際に、本件領収書の元の領収書(元領収書)を紛失し、その後、平成30年(2018年)10月にA氏に再発行してもらい、税務調査の15ために保管していたと主張している。 (コ)A氏が被請求人に宛てた令和5年(2023年)8月9日付けの書面には、被請求人が元領収書を紛失したため、被請求人の依頼により、2018年(平成30年)10月に当初の日付を付した本件領収書を再発行したことを証明する旨が記載されており(乙44〔甲53〕)、また、A氏による同年12月1日付けの宣誓供述書(公証人による認証20がされている。)にも同様の内容が記載されている(乙57〔甲62〕)。 (サ)被請求人は、令和4年4月11日付け提出の審判事件答弁書においては、本件領収書が再発行のものである旨は特段述べておらず、同日付け提出の証拠説明書においても、 本件領収書である乙第22号証の作成年月日について、「平成27年(2015)11月24日」と記載されていた。 25(シ)請求人が、令和4年9月27日付け提出の審判事件弁駁書において、本件領収書に貼付されている収入印紙は平成30年(2018年)7月1日から適用開始となったデザ27インのものである旨主張したところ、被請求人は、令和5年8月21日付け提出の審判事件答弁書(第二回)において、本件領収書は再発行されたものである旨を主張し、また、 同年12月19日期日の第1回口頭審理において、同4年4月11日付け証拠説明書における本件領収書である乙第22号証〔甲46〕の作成年月日を「平成30年10月中旬」5に訂正した。 (ス)本件領収書である乙第22号証〔甲46〕は、写しを原本として提出されている。 イ判断前記アによれば、本件商標の作成までの経過としては、平成27年8月1日にロゴデザインの業務委託契約、同年9月20日のシンボルロゴの提案、同年10月のシンボルロゴ10の最終案、同月30日の代金請求、同年11月24日の銀行口座からの出金及び代金領収といった一連の時系列に一応矛盾はないといえる。 しかしながら、本件領収書には200円の収入印紙が貼付されているところ、貼付されている収入印紙のデザインは、平成30年7月1日から適用開始となったデザインであり、 同27年11月24日付けの本件領収書に当該収入印紙が貼付されていることは、極めて15不自然といわなければならない。 この点について、被請求人は、事務所移転の際に元領収書を紛失したため、A氏に再発行してもらった旨主張している。 ところで、領収書の再発行は、経費の水増しといった悪用をされる可能性があるため、 多くの事業者は、再発行しないのが一般的と考えられる。また、そのような悪用を防ぐた20めに、領収書を再発行する場合には、その書面に「再発行」である旨を明記する場合が多いと考えられる。 しかしながら、本件領収書には、「再発行」である旨の記載はない。 また、被請求人は、領収書を再発行しない場合があることや、再発行する場合にはその旨明記する場合があることは、原則論に基づくものである旨主張している。 25確かに、領収書が再発行される場合があり、その際に再発行である旨が記載されない場合もあり得るといえる。 28しかしながら、被請求人は、当初、本件領収書が再発行のものである旨は特段述べていなかったが、請求人から収入印紙のデザインについて主張されると、本件領収書は再発行されたものであるとその主張を変え、本件領収書である乙第22号証〔甲46〕の作成年月日を訂正したものであり、また、被請求人は、本件領収書の原本を提出していない。 5そうすると、たとえ、本件領収書が再発行のものである旨のA氏からの書面(乙44〔甲53〕)及び宣誓供述書(乙57〔甲62〕)を踏まえても、本件領収書の信用性は低いものといわなければならない。 そして、被請求人は、振込による取引が多い中、本件商標の作成に関してのみ現金で支払を行っていることについても不自然さがある。 10以上のとおり、本件商標の作成について、被請求人の主張には信用性の低い点や不自然な点があることからすると、本件商標が平成27年(2015年)10月に作成されたという点については、にわかには認めることができない。 (6)本件商標が平成28年(2016年)3月及び同29年(2017年)3月に使用されたかについて15ア証拠等によれば、次の事実を認めることができる。 (ア)被請求人は、オーティカ社の顧問であり(乙2)、また、株式会社J&Jマーケティング(以下「J&J社」という。)の代表取締役である(乙38、乙42〔甲51〕)。 (イ)「SpringSale2016」と題するチラシ(乙33〔甲47〕。以下「チラシ乙33」という。)、「SpringSale2017」と題するチラシ20(乙34〔甲48〕。以下「チラシ乙34」という。)、「SpringSale」と題するチラシ(乙35〔甲49〕。以下「チラシ乙35」といい、チラシ乙33ないし乙35をまとめて「チラシ乙」という。)は、オーティカ社の取扱いに係る歯科矯正器具のチラシであり、「口腔筋機能Trainer」、「T4KTrainer」、「マイオブレース」及び「Myobrace」の商品名(商標)とともに商品の図又は写真が掲載25されている。また、「口腔筋機能Trainer」の商品名(商標)の上には、「歯列矯正用咬合誘導装置」の記載がある。 29チラシ乙33及び34には、その右上に「3/1〜3/31」の記載があり、また、上部のタイトル部分に、「SpringSale2016(2017)」の表題における「p」の文字とほとんど間隔を空けずに円形の図形が配置されるように別掲4のとおりの構成からなる商標(以下「本件使用商標1」という。)が表示されている。 5チラシ乙35は、その右上に「20183/1〜31」の記載があり、当該記載の上の端に別掲5のとおりの構成からなる商標(以下「本件使用商標2」といい、本件使用商標1及び2をまとめて「本件使用商標」という。)が表示されている。 (ウ)ナガタプランニング株式会社(以下「ナガタ社」という。)がJ&J社に宛てた平成28年2月12日付けの「御見積書」には、件名として「DM「SpringSal10e2016」ほかチラシ6点、原稿制作、印刷費の件。」の記載があり、また、部数の欄には千単位の数字が記載されている(乙36〔乙15〕)。 また、ナガタ社がJ&J社に宛てた平成28年2月18日付けの「請求書控」には、品名として「DM「SpringSale2016」ほかチラシ6点、原稿制作、印刷費の件」の記載があり、また、数量の欄には千単位の数字が記載されている(乙37〔乙1516〕)。 (エ)「SpringSale2016」と題するチラシ(甲44。以下「チラシ甲44」という。)、「日本矯正歯科学会特別価格」と題するチラシ(甲45〔乙9〕。以下「チラシ甲45」という。)、「SpringSale2018」と題するチラシ(甲46〔乙10〕。以下「チラシ甲46」という。)、「日本矯正歯科学会特別価格」20と題するチラシ(甲47〔乙11〕。以下「チラシ甲47」という。)、「SpringSale2018」と題するチラシ(甲48〔乙12〕。以下「チラシ甲48」という。)、「ConventionSpecial2017」と題するチラシ(甲49〔乙13〕。以下「チラシ甲49」という。)及び「SpringSale2017」と題するチラシ(甲50〔乙14〕。以下「チラシ甲50」といい、チラシ甲44ないし25甲50をまとめて「チラシ甲」という。)は、オーティカ社の取扱いに係る歯科矯正器具のチラシであり、「口腔筋機能Trainer」、「T4KTrainer」、「マイ30オブレース」及び「Myobrace」の商品名(商標)とともに商品の図又は写真が掲載されている。また、「口腔筋機能Trainer」の商品名(商標)の上には、「歯列矯正用咬合誘導装置」の記載がある。 チラシ甲の裏面は、注文書のような構成となっており、「Trainer」及び「My5obrace」の表題の下、各商品の価格表が掲載されている。 なお、チラシ甲には、本件使用商標は表示されていない。 (オ)チラシ乙33はチラシ甲44、甲45、甲49及び甲50と、チラシ乙34はチラシ甲46及び甲48と、チラシ乙35はチラシ甲47と、それぞれ上部のタイトル部分以外は、表面のデザインがほぼ一致している。 10(カ)被請求人は、チラシ乙について、「口腔筋機能Trainer」の記載があるとおり、様々な歯科矯正訓練の適応症例や習癖を紹介し、歯科矯正治療・訓練の方法や歯科矯正情報の提供に資するために本件使用商標を使用していると主張している。 (キ)被請求人は、令和4年4月11日付け提出の審判事件答弁書においては、チラシ乙の制作が正当に行われたことを「御見積書」(乙36〔乙15〕)及び「請求書控」(乙1537〔乙16〕)により立証すると主張していたが、同5年12月19日期日の第1回口頭審理においては、「御見積書」(乙36〔乙15〕)及び「請求書控」(乙37〔乙16〕)はチラシ乙のものではないと主張している。 (ク)請求人は、オーティカ社が平成28年(2016年)から平成30年(2018年)に実際に歯科医等に配布したチラシを入手したとして、チラシ甲の原本を提出しているが、 20被請求人は、チラシ乙について、本件商標の登録出願前にごく少数配布したにとどまるとして、表面のみ、写しを原本として提出している。 イ判断前記アによれば、チラシ乙及び甲は、いずれも、被請求人が顧問を務めるオーティカ社の取扱いに係る歯科矯正器具のチラシであるところ、両者は、上部のタイトル部分以外は、 25表面のデザインがほぼ一致しているものである。 また、チラシ乙には、その上部のタイトル部分又は右上の端に、本件使用商標が表示さ31れているのに対し、チラシ甲には、そのような表示はない。 そして、チラシ乙における本件使用商標は、上部のタイトル部分において、「Spring」の「p」の文字とほとんど間隔を開けずに本件使用商標1の円形の図形が表示されていること(チラシ乙33、チラシ乙34)、また、上部のタイトル部分の右上の端に本5件使用商標2が表示されていることから(チラシ乙35)、チラシ乙のレイアウトが不自然といえる。 また、チラシ乙及び甲は、歯科矯正器具のチラシであるところ、掲載されている歯科矯正器具は、「口腔筋機能Trainer」、「T4KTrainer」、「マイオブレース」又は「Myobrace」の商品名(商標)によって広告されているとみるのが自10然であり、そのため、上部のタイトル部分又は右上の端に、前記商品名(商標)とは異なる本件使用商標が表示されていることも不自然といえる。 この点について、被請求人は、「口腔筋機能Trainer」の記載があるとおり、 様々な歯科矯正訓練の適応症例や習癖を紹介し、歯科矯正治療・訓練の方法や歯科矯正情報の提供に資するために本件使用商標を使用していると主張している。 15しかしながら、「口腔筋機能Trainer」の記載は、その上に「歯列矯正用咬合誘導装置」の記載があることからすると、当該装置、すなわち歯科矯正器具の商品名(商標)とみるのが自然である。 また、チラシ乙の裏面は提出されていないが、チラシ甲の裏面には、「Trainer」の表題の下、商品の価格表が掲載されている。 20仮に、チラシ乙の裏面がチラシ甲の裏面と同様であれば、やはり、「口腔筋機能Trainer」の記載は、歯科矯正器具の商品名(商標)とみるのが自然である。 そうすると、様々な歯科矯正訓練の適応症例や習癖を紹介し、歯科矯正治療・訓練の方法や歯科矯正情報の提供に資するために本件使用商標を使用しているとの被請求人の主張は、不自然といわなければならない。 25さらに、被請求人は、当初、チラシ乙の制作が正当に行われたことを、部数又は数量の欄に千単位の数字が記載されている「御見積書」及び「請求書控」により立証すると主張32していたが、被請求人は、チラシ乙について、本件商標の登録出願前にごく少数配布したにとどまるとして、当該「御見積書」及び「請求書控」はチラシ乙のものではないと主張を変えている。 加えて、チラシ甲は、請求人から原本が提出されているが、チラシ乙は、表面のみの写5ししか提出されていない。 以上よりすると、チラシ乙は不自然なものといわなければならず、また、被請求人の主張に不自然な点があること、被請求人は当初の主張を途中で変えていること、チラシ乙が表面のみ写しで提出され、他方、チラシ甲は原本で提出されていることをも踏まえれば、 チラシ乙は、チラシ甲を基にして後から加工して本件使用商標を表示したものという疑い10を拭えない。 そうすると、チラシ乙が平成28年3月、同29年3月及び同30年3月の時点において存在していたかは疑わしいものであり、そのため、チラシ乙に基づく平成28年3月、 同29年3月及び同30年3月に本件商標を使用していたという被請求人の主張は信用できないものといわなければならない。 15したがって、本件商標が平成28年(2016年)3月及び同29年(2017年)3月に使用されたと認めることはできない。 (7)本件商標は引用商標を剽窃したものかについて前記(5)及び(6)のとおり、本件商標は、平成27年(2015年)10月に作成されたとは、にわかには認めることができず、また、同28年(2016年)3月及び同2029年(2017年)3月に使用されたと認めることもできない。 そして、前記(1)のとおり、本件商標と引用商標とは、どちらかが他方を剽窃したものといわなければならない。 そうすると、前記(4)のとおり、本件商標は、引用商標を剽窃したものといわなければならない。 25(8)本件商標は公の秩序又は善良の風俗を害するおそれがある商標かについてアこれまでに認定した事実のほか、甲第40号証及び請求人の主張によれば、被請求33人は、令和3年(2021年)10月27日付けで、請求人に対し、本件商標に基づき、 引用商標の使用中止を求める警告を行ったことが認められる。 イ以上を踏まえれば、被請求人は、請求人がオーストラリアで使用していた引用商標が我が国において商標登録されていないことを奇貨として、我が国における引用商標の使5用を阻止することを目的として、引用商標を剽窃し、本件商標の登録を得たものと判断するのが相当である。 そうすると、本件商標の登録出願の経緯には社会的相当性を欠くものがあり、登録を認めることが商標法の予定する秩序に反するものとして到底容認し得ないような場合に当たるというべきである。 10そして、商標法第4条第1項第7号にいう「公の秩序又は善良の風俗を害するおそれがある商標」には、「当該商標の登録出願の経緯に社会的相当性を欠くものがあり、登録を認めることが商標法の予定する秩序に反するものとして到底容認し得ないような場合」が含まれるというべきである(知財高裁平成17年(行ケ)第10349号同18年9月20日判決)。 15したがって、本件商標は、公の秩序又は善良の風俗を害するおそれがある商標というべきである。 (9)小括以上のとおり、本件商標は、公の秩序又は善良の風俗を害するおそれがある商標というべきであるから、商標法第4条第1項第7号に該当する。 202被請求人の主張について(1)ア被請求人は、前記第4の4(1)のとおり、先願登録主義が妥当し、公序良俗を害するものではない旨主張している。 イ甲第22号証〔甲22〕及び請求人の主張によれば、請求人は、本件商標の登録出願の日前である令和元年9月22日から同月26日までの間に、我が国において、引用商25標を使用したセミナーを開催したことが認められる。 そうすると、請求人が当該セミナーの開催前に、我が国において、引用商標の登録出願34を行うことを怠っていたことは否めない。 しかしながら、前記1(8)イのとおり、被請求人は、請求人がオーストラリアで使用していた引用商標が我が国において商標登録されていないことを奇貨として、我が国における引用商標の使用を阻止することを目的として、引用商標を剽窃し、本件商標の登録を5得たものと判断するのが相当であることからすれば、たとえ、請求人が引用商標の登録出願を行うことを怠っていたとしても、本件商標の登録出願の経緯には社会的相当性を欠くものがあり、登録を認めることが商標法の予定する秩序に反するものとして到底容認し得ないような場合に当たるというべきである。 (2)ア被請求人は、前記第4の4(2)のとおり、請求人による商標法第4条第1項10第7号に該当するとの主張は信義則に反し許されないと主張している。 イ証拠等によれば、MRC社がMYOBRACE商標を有していること(乙12〔甲38〕、乙49〜乙53〔甲55〜59〕)、同社及びその関連会社が語頭に「MYO」の3文字を有する商標を有していること(乙13〔甲39〕、乙14〔甲40〕、乙54〔甲60〕)、MRC社はオーティカ社に対してMRC社が保有する知的財産権の使用を15許諾していること(乙45〔甲54〕)、請求人が令和2年(2020年)1月31日から同年2月4日までの間に開催したセミナー(第2回セミナー)において配布した冊子(請求人冊子)には、引用商標とともにMYOBRACE商標が掲載されていること(甲23〔甲23の1〕、乙41〔甲50の1〕、乙41の2〔甲50の2〕)が認められる。 しかしながら、請求人冊子によって、請求人とMRC社のとの間で出所の混同を生じた20ことを示す証拠はないばかりか、MRC社の商標が需要者の間に広く認識されていることを示す証拠もなく、請求人とMRC社との間で出所の混同を生ずるおそれがあったというべき事情も見いだせない。 また、請求人が令和元年(2019年)9月22日から同月26日までの間に開催したセミナーでも請求人冊子が使用されたとの被請求人の主張は、被請求人の憶測にすぎず、 25これを認めるに足る証拠はない。 さらに、本件商標及び引用商標は、いずれも「mYofocUs」の文字からなるもの35であり、これとは異なるMYOBRACE商標の使用の有無が本件商標に対する登録無効の審判の請求について信義則に反するというべき特段の事情は何ら見いだせない。 したがって、請求人による商標法第4条第1項第7号に該当するとの主張は信義則に反し許されないという被請求人の主張は理由がない。 5(3)ア被請求人は、前記第4の4(3)のとおり、本件商標の商標登録は社会的妥当性を欠く行為とはいえない旨主張している。 イ確かに、被請求人が主張するように、商標権を有する者が当該商標権に基づいて権利行使することは当然のことといえる。 また、前記1(8)アのとおり、被請求人が請求人に対して引用商標の使用中止を求め10たことは認められるものの、高額な買取りを要求したり、ライセンス契約を強制したりするようなことをした事実は認められない。 しかしながら、前記1(7)のとおり、本件商標は引用商標を剽窃したものといわなければならないことからすると、たとえ、被請求人が請求人に対して引用商標の使用中止を求めたことにとどまるとしても、前記1(8)イのとおり、本件商標の登録出願の経緯に15は社会的相当性を欠くものがあり、登録を認めることが商標法の予定する秩序に反するものとして到底容認し得ないような場合に当たるというべきである。 (4)ア被請求人は、前記第4の4(4)のとおり、裁判例による商標法第4条第1項第7号の事由が認められない旨主張している。 イしかしながら、本件商標が商標法第4条第1項第7号に該当することは前記1のと20おりである。 (5)ア被請求人は、前記第4の5のとおり、請求人による商標法第79条の詐欺の行為の罪に該当する旨の主張は、当初の請求の理由とは実質的に異なる無効事由の事実を主張するものであり、請求の理由の要旨変更となり、許されないと主張している。 イしかしながら、当該事実について判断するまでもなく、かつ、当該要旨変更につい25て判断するまでもなく、本件商標は、前記1のとおり、商標法第4条第1項第7号に該当するものである。 36(6)その他、被請求人は、るる主張するところがあるが、いずれも前記1の判断を左右するものではない。 (7)したがって、被請求人の主張は、いずれも採用することができない。 3まとめ5以上のとおり、本件商標は、商標法第4条第1項第7号に該当するものである。 したがって、本件商標の登録は、商標法第4条第1項の規定に違反してされたものであるから、同法第46条第1項第1号により、無効とすべきものである。 よって、結論のとおり審決する。 以上37 |