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関連審決 無効2022-890061
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事件 令和 6年 (行ケ) 10079号 審決取消請求事件
5
原告 株式会社BROTURES
同訴訟代理人弁護士 堀籠佳典 林いづみ 10 渡邉穣
被告 フェダルエンタープライズ カンパニー リミテッド 15 同訴訟代理人弁護士 古庄俊哉 手代木啓
同訴訟代理人弁理士 竹原懋 前田周
裁判所 知的財産高等裁判所
判決言渡日 2025/02/05
権利種別 商標権
訴訟類型 行政訴訟
主文 20 1 特許庁が無効2022−890061号事件について令和6年7月1日にした審決を取り消す。
2 訴訟費用は被告の負担とする。
3 被告のために、この判決に対する上告及び上告受理申立てのための付加期間を30日と定める。
25 事実及び理由第1 請求1主文同旨第2 事案の概要本件は、原告が、原告が商標権者である商標について商標法4条1項7号に該当するとしてその登録を無効とするとした審決の取消しを求める事案である。
5 1 特許庁における手続の経緯等原告は、別紙1商標目録記載の商標登録第4129208号の2商標(以下「本件商標」という。)の商標権者である(甲1)。
被告は、令和4年7月25日、本件商標につき、商標登録無効審判を請求し、
商標法4条1項7号に該当し、同法46条1項6号により商標登録を無効にすべき10 ものであると主張した。特許庁は、同請求を無効2022−890061号事件として審理を行い、令和6年7月1日、「登録第4129208号の2の登録を無効とする。」との審決(以下「本件審決」という。)をし、その謄本は、同月11日、
原告に送達された。
原告は、同年8月9日、本件審決の取消しを求める本件訴訟を提起した。
15 2 本件審決の理由の要旨原告は、平成23年に米国法人である Leader Bike, LLC(以下「米国リーダーバイク社」という。)と販売代理店契約を締結し、米国リーダーバイク社から自転車等を購入して、日本国内で「LEADER」ブランドの自転車(以下、その仕入先を問わず、原告が販売する「LEADER」ブランドを付した自転車を「本件商20 品」という。)を販売していたから、その後の原告による我が国における本件商品に係る事業活動は、米国リーダーバイク社の販売代理店としての立場で行われた。
他方、米国リーダーバイク社が平成28年(2016年)に破産した後、原告は、米国リーダーバイク社の事業及び資産を引き継いだ被告から自転車等の購入についての打診があったが、これを拒絶した。
25 そうであるにもかかわらず、原告は、その後、被告ではない他の業者から仕入れた自転車部品等を用いて「LEADER」の商標を付した本件商品を販売するだ2けでなく、引き続き、本件商品を「カリフォルニア発の自転車」などと称し、自らを「LEADER BIKE総代理店」と称している。
加えて、原告は、平成30年12月にB社(本田技研工業株式会社(以下「本田技研工業」という。))から本件商標「LEADER/リーダー」の分割移転を5 受け、移転登録を行い、その後間もなく、被告の我が国における販売代理店であるD社(株式会社リーダーバイクジャパン(以下「リーダーバイクジャパン」という。))の取引先に対し、自らを「LEADER BIKES製品の日本国内の輸入総代理店」などと過去の立場を誇示した上で、上記取引先の取扱いに係る自転車が本件商標の商標権を侵害するものである旨の通知書を送付したことから、D社、
10 ひいては米国リーダーバイク社の事業や資産を承継した被告の我が国における事業活動が阻害されている。
上記の経緯からすると、原告は、米国リーダーバイク社の販売代理店の地位にありながら、米国リーダーバイク社の破産を契機に、また、米国リーダーバイク社及び被告が、我が国において「LEADER」の文字についての商標登録を有して15 いなかったことを奇貨として、本件商標に係る商標権(以下「本件商標権」という。)の分割移転登録を行い、その後間もなく被告の我が国における事業活動を阻害し、現に、他の業者から部品を仕入れて本件商品の販売を継続しているのであるから、当該分割移転登録手続は、本件商品に係る我が国における事業を乗っ取ることで不正の利益を得る目的、又は当該事業を承継した被告の我が国における事業に20 損害を与える目的などの不正の目的でされたものといえる。
そうすると、原告による本件商標権の分割移転登録は、適正な商道徳に反し、
著しく社会的妥当性を欠く行為であり、公正な取引秩序を乱すものというべきである。
したがって、本件商標は、上記分割移転登録により、公の秩序又は善良の風俗25 を害するおそれがある商標として、商標法4条1項7号に該当する。
第3 原告の主張する取消事由31 商標法4条1項7号の該当性判断の誤り(1) 原告が米国リーダーバイク社から購入した自転車(ピストバイクと称される競技用タイプの自転車)には、別紙2商標目録記載の「L」一文字の商標(商標登録第5568215。(以下「エンブレム商標」という。))と「LEADER」5 の標章が付されていたが、原告と米国リーダーバイク社との間の販売店契約(Distribution Agreement)(以下「本件販売店契約」という。)は、製品供給契約の一種であり、原告の注文に基づいて、米国リーダーバイク社がその製造する自転車及びそのパーツ、アクセサリー(並びに被服・バッグ)を原告に供給するというものであり、「LEADER」の標章については何らの取決めもなかった。実際、
10 米国リーダーバイク社は、本件販売店契約締結当時、米国においても「LEADER」の登録商標を有しておらず、我が国においては、本田技研工業が先行して「LEADER/リーダー」の商標登録を有しており、米国リーダーバイク社はこれに類似する「LEADER」の商標登録を有していなかったため、「LEADER」の標章についてライセンスを含めて何らの取決めをできる立場にはなかった。
15 その後、平成28年(2016年)に米国リーダーバイク社が破産し、製品の供給が止まったため、本件販売店契約は終了した。この時点において、我が国において「LEADER」の標章が米国リーダーバイク社を示すものとして周知になっていたとはいえない。
そして、被告は、米国リーダーバイク社やその代表者からエンブレム商標の登20 録等を譲り受けているが、我が国における文字のブランドとしては、「LEADERBIKES」を採用し、平成30年5月30日、その商標登録出願を行い、以後「LEADERBIKES」のブランドで自転車(ピストバイク)の販売を展開している。
他方、原告は、他の供給元を探して我が国における自転車の販売を続けていた25 が、日本国内における自己の営業活動の成果が適正に保護されるようにするために、
本田技研工業と本件商標権の分割移転について交渉を行い、平成31年1月16日、
4分割移転を受け、移転登録が行われた(平成30年12月27日申請。以下「本件分割移転登録」という。)。
以上の経緯により、原告は、本件分割移転登録を受けたものであるが、本件商標分割前の商標登録又は本件商標登録の存在により、分割移転登録の前後を通じて、
5 被告が「LEADER」の商標を出願してその登録を受けられる立場になく、被告が我が国において「LEADER」の標章を適法に使用できないという被告の法的地位に何らの変化はない。加えて、被告は、米国における「LEADER」の登録商標を承継していないし、仮にこれを承継していたとしても、それは、あくまでも国外における私権にすぎないこと、我が国において、被告は「LEADERBIK10 ES」をそのブランドとして採用して商品展開をしており、被告が同ブランドで日本市場に参入することは何ら阻害されないことに照らせば、原告が、我が国において本件商標権の分割譲渡を受けることが「公の秩序又は善良な風俗を害する」という公益に反するとはいえないことは明らかであって、本件審決の認定・判断は誤りである。
15 (2) 商標法4条1項7号該当性の判断基準ア 同項7号に該当するためには、一般国民に影響を与える公益に影響を与える事情が存在しなければならず、単なる私人間の紛争や私権に関するにすぎない事項は原則として同項7号に該当せず、「当該商標の出願の経緯に社会的相当性を欠くものがある等、登録を認めることが商標法の予定する秩序に反するものとして到20 底容認し得ない場合」に同項7号を適用する余地があるとしても、それはまさに「商標法の予定する秩序」に反するといえるほどに、極めて例外的な場合に限られると解すべきである。
イ 本件においては、以下の(ア)〜(ウ)の事情が認められる。
(ア) 主体(商標権取得者の性質、当事者の関係・経緯)25 原告は、平成22年頃、我が国において「LEADER BIKE」の販売を開始しており、本件商標権の分割移転登録を受けるずっと以前の段階から、「LE5ADER」の標章を付した自転車の販売事業に従事してきたのはもちろん、日本向けの商品開発を自ら行い、その内容と企画・設計意図を米国リーダーバイク社に伝えた上で、米国リーダーバイク社にその製造を委託して、出来上がった日本向け商品を米国リーダーバイク社から輸入し、国内において販売してきたのであるから、
5 原告は、当該商標権を取得する正当な利益を有する。
また、原告は、米国リーダーバイク社との間で一定の契約関係にあったと認められるものの、米国リーダーバイク社が本件商標権を有していたわけではないため、
原告は、米国リーダーバイク社から本件商標に関する使用許諾を受けて事業を行っていたわけではない。したがって、原告は、米国リーダーバイク社による商標権の10 保有・管理を妨げてはならない信義則上の義務を負っていたわけでもないことから、
当該商標権を取得する正当な利益を有するといえる。
とりわけ、平成28年(2016年)に米国リーダーバイク社が破産し、製品の供給が止まったことにより、本件販売店契約は終了したところ、本件販売店契約には、契約終了後の原告と米国リーダーバイク社間の義務について定めた条項はな15 かった。契約終了により、原告と米国リーダーバイク社とは相互に債権債務関係がない状態となり、原告が、米国リーダーバイク社との関係で、商標権取得活動を差し控えなければならない立場にもなかった。
(イ) 主観的意思(商標権取得の意図・目的)原告は、平成22年頃、我が国において「LEADER BIKE」の販売を20 開始した当初より、本件商標権(本件商標分割前の商標権)を本田技研工業が有していることを認識しており、本田技研工業に電話にて本件商標権の取得を申し入れた。平成28年から平成29年に入る頃、米国リーダーバイク社が破産手続に入ることとなり、原告は、米国リーダーバイク社に代えて別メーカーに「LEADERBIKE」の製造を委託する必要が生じたため、本田技研工業に改めて連絡し、過25 去の経緯を伝えた上で本件商標の譲受けを申し入れた。
また、原告は、平成22年頃、我が国において「LEADER BIKE」の6販売を開始して以降、日本向けの商品開発を自ら行い、米国リーダーバイク社にその製造を委託して、出来上がった日本向け商品を米国リーダーバイク社から輸入し、
日本国内において販売してきた。
以上のことを踏まえると、原告が本件商標権を取得した目的は、日本国内にお5 ける自己の営業活動の成果が適正に保護されるようにすることにあったと認められ、
そうである以上、原告は、本件商標権を被告に高額で買い取らせる等の不当な目的は認められず、結果として、原告は、本件商標権を取得する正当な利益を有すると評価すべきである。
そして、平成28年(2016年)に米国リーダーバイク社が破産し、本件販10 売店契約が終了した後、原告は、他の供給元を探して我が国における自転車の販売を何ら契約に違反することなく適法に行っていたのであるから、自らの営業活動の成果が適正に保護されるようにする目的は正当なものである。
(ウ) 対象(取得される商標権の性質)本件商標権を分割する前の商標権は、その登録時(平成10年3月27日)か15 ら本田技研工業が有しており、原告が、平成30年12月27日に本件分割移転登録により取得するまでは、原告も被告も、本件商標権を通常の商標登録出願によって取得することができない状態にあった。そのような中、原告は、本田技研工業と本件商標権の分割移転について交渉を行い、本田技研工業から本件分割移転登録により本件商標権を取得した。本件において、被告は、今日に至るまで、商標登録出20 願によって本件商標権を取得できる立場になかったのであるから、原告による本件商標権の取得によって、被告の商標権取得の自由が害されたという事態は生じていない。
他方、米国リーダーバイク社は、米国における「LEADER」の登録商標(米国商標登録第85292841号)を被告に譲渡しておらず、同登録商標は、
25 令和4年(2022年)12月20日に丙という個人(米国人)に移転されている。
つまり、世界的に見ても、「LEADER」の商標は、国により、異なる者に帰属7しており、被告のみに本来帰属すべき商標ではない。この点からも、原告による本件商標権の取得によって、被告の法的な利益が害されたという事態は生じていない。
ウ 以上の(ア)〜(ウ)の事情によると、原告は、本件商標に関する事業を継続的に行ってきた者であること、原告は、日本国内における自己の営業活動の成果が適5 正に保護されるようにする目的で本件商標権を取得したと認められ、原告は、その点でも本件商標権を取得する正当な利益を有するといえること、本件商標権は、その登録時(平成10年3月27日)から本田技研工業に帰属している中、原告が本件分割移転登録によって本件商標権を取得したものであるから、被告の商標権取得の自由が害されたとはいえないことといった事情が認められる。
10 エ 以上によると、原告による本件商標権の取得は、わが国の商標法の特質を踏まえてもなお、「商標法の予定する秩序に反する」と評価すべきものとはいえず、
これを商標法4条1項7号に該当すると判断することはできない。
2 本件審決の認定した事実及び事実の評価の誤りについて(1)ア 本件審決は、「被請求人(原告)は、2011年に米国リーダーバイク15 社と販売代理店契約を締結し、同社から自転車等を購入して、日本国内で本件商品を販売していたから、その後の被請求人による本件商品に係る事業活動は、米国リーダーバイク社の販売代理店としての立場でなされていたものである。他方、米国リーダーバイク社が2016年に破産した後、被請求人は、同社の事業及び資産を引き継いだ請求人(被告)から自転車等の購入についての打診があったが、これを20 拒絶している。にもかかわらず、被請求人は、その後、請求人ではない他の業者から仕入れた自転車部品等を用いて「LEADER」の商標を付した本件商品を販売するだけでなく、引き続き、本件商品を「カリフォルニア発の自転車」などと称し、
自らを「LEADER BIKE総代理店」と称している。」と判断する。本件審決は、あたかも、米国リーダーバイク社が平成28年(2016年)7月に破産し25 た後の平成29年5月に、原告が、被告からの自転車等の購入についての打診に応じずに、他の業者から仕入れた自転車部品等を用いて「LEADER」の商標を付8した本件商品を販売したことが不当であるかのように認定している。
しかしながら、「被告が米国リーダーバイク社の事業及び資産を引き継いだ」との認定における「米国リーダーバイク社の事業及び資産」の中には、我が国における「LEADER」の商標の権利は含まれていないから、「被告が米国リーダー5 バイク社の事業及び資産を引き継いだ」ことを理由として原告による本件商品の販売を不当とする本件審決の認定は誤りである。
米国リーダーバイク社は、我が国において、第12類「自転車並びにそれらの部品及び附属品」について「LEADER」の商標登録を受けておらず、受けることを想定し得る状況にもなかったこと、本件販売店契約は、「LEADER」の商10 標をライセンスするものではなく、契約終了後の関係について何ら規定するものではないこと、平成28年(2016年)7月から8月にかけて、米国リーダーバイク社及びその代表者が破産し、製品の供給が止まることにより、原告と米国リーダーバイク社との販売契約が終了したことなどに照らせば、平成29年5月に被告からの自転車等の購入についての打診を受けるまで、原告が自社で製造販売する体制15 に移行することを差し控えなければならない義務は認められないし、被告からの打診に応じなければならない義務があるわけでもない。
むしろ、被告が我が国において本件商品を販売する原告に対し「米国リーダーバイク社の事業及び資産を引き継いだ被告から自転車等の購入についての打診」をしたという事実からすると、原告が我が国で販売する本件商品を誰から購入するか20 については、交渉により決定される取引上の事項であることが裏付けられているといえる。
イ また、本件審決は、「本件商品を「カリフォルニア発の自転車」などと称し、自らを「LEADER BIKE総代理店」と称している。」と判断しているが、原告のウェブサイト上の記載を全体としてみると、米国カリフォルニア州をピ25 ストカルチャーの発祥・発信の地としつつ、原告がその文化を我が国に伝承しようとしていることを訴求しているものと説明しているにすぎないし、令和2年の時点9において、原告ウェブサイトのタイトルタグに、「LEDER BIKE総代理店」の記載が残っていたことは事実であるが、これは修正漏れによって残っていたにすぎず、このことによって、原告の何らかの不当な意図を認定できるものではない。
ウ さらに、本件審決は、「加えて、被請求人(原告)は、2018年12月5 にB社(本田技研工業)から本件商標の分割移転登録を行い、その後間もなく、請求人(被告)の日本の販売代理店であるD社(リーダーバイクジャパン)の取引先に対し、自らを「LEADERBIKES製品の日本国内の輸入総代理店」などと過去の立場を誇示した上で、上記取引先の取扱いに係る自転車が本件商標の商標権を侵害するものである旨の通知書を送付したことから、D社、ひいては米国リーダ10 ーバイク社の事業や資産を承継した請求人の我が国における事業活動が阻害されている。」と判断する。
しかしながら、被告が承継したという「米国リーダーバイク社の事業や資産」には、我が国における「LEADER」の商標の権利は含まれていないから、リーダーバイクジャパンや被告は「LEADER」の商標を用いた事業を行う権利を有15 しておらず、したがって、リーダーバイクジャパンや被告の「我が国における事業活動が阻害されている」ということはできない。被告が我が国において「LEADER」の標章を使用したいというのは、法律に基づかない主観的な願望にすぎず、
そのような願望は商標法上保護に値しないし、被告が自ら選択した「LEADERBIKES」の商標を使用して自転車等を販売することは可能であり、リーダーバ20 イクジャパンや被告の「我が国における事業活動」は何ら阻害されていない。
(2) 本件審決は、「上記の経緯からすると、被請求人(原告)は、米国リーダーバイク社の販売代理店の地位にありながら、同社の破産を契機に、また、米国リーダーバイク社及び請求人(被告)が、我が国において「LEADER」の文字についての商標登録を有していなかったことを奇貨として、本件商標権の分割移転登25 録を行い、その後間もなく請求人の我が国における事業活動を阻害し、現に、他の業者から部品を仕入れて本件商品の販売を継続しているのだから、当該分割移転登10録手続は、本件商品(「LEADER」ブランドの自転車)に係る我が国における事業を乗っ取ることで不正の利益を得る目的、又は当該事業を承継した請求人の我が国における事業に損害を与える目的などの不正の目的でなされたものといえる。」と判断する。
5 この点、本件審決の認定は、我が国において「LEADER」を取得すべき者は被告であることを前提にしたものであるが、そのような前提は誤りである。
ア 商標法は、出願人からされた登録出願について、当該商標について特定の権利利益を有する者との関係ごとに、類型を分けて、商標登録を受けることができない商標を同法4条1項各号で個別具体的に定めているのであるから、登録出願が10 商標登録を受けるべきでない者からされたか否かについては、特段の事情のない限り、商標法4条1項15号、16号又は19号の該当性によって判断されるべきであり、15号、16号及び19号に該当しない場合に7号を適用して出願人等の商標登録を受ける利益を奪うことは許されるべきではない。
しかるところ、原告は平成23年から平成28年まで米国リーダーバイク社か15 ら仕入れた自転車を我が国において販売してきたが、米国リーダーバイク社の原告に対する売上げ(日本向け)は、甲28、29(枝番を含む。以下、特記しない限り、各書証につき同じ。)によっても、平成27年で約7999万円であり、いずれも我が国における自転車の市場(年間2000億円程度)(甲31)に比べると僅かであり、日本国内において、本件商標の指定商品である第12類「自転車並び20 にそれらの部品及び附属品」の需要者である自転車を購入しようとする一般消費者において、「LEADER」のブランドが周知になっていたとはいえない。したがって、米国リーダーバイク社が倒産した平成28年(2016年)の時点において、
「LEADER」の標章が米国リーダーバイク社の自転車を意味するものとして周知ではなかったから、原告が本件商標をその自転車等に使用したとしても、被告の25 業務に係る商品と混同を生じるおそれや商品の品質の誤認を生じるおそれはなかった。したがって、被告は本件商標の登録を受けるべき者ではない。
11イ もともと、本田技研工業は、第12類「自転車並びにそれらの部品及び附属品」を含む指定商品について、平成8年6月20日に本件商標の分割前の商標の登録出願をし、平成10年3月27日にその登録を受けており、そもそも、米国リーダーバイク社も被告も、我が国において、第12類「自転車並びにそれらの部品5 及び附属品」について本件商標及びこれに類似する商標(「LEADER」等)の出願登録を受けることができる法的な立場にはなかった。のみならず、被告が、第12類「自転車並びにそれらの部品及び附属品」について本件商標に類似する「LEADER」の標章を使用することは、本件商標の分割前の商標に係る商標権の禁止権が及ぶ行為であり、当該商標権の侵害行為を構成するものであるから、被告が10 「LEADER」の標章を使用することは許されていなかった。
以上のとおり、米国リーダーバイク社も被告も、我が国において、第12類「自転車並びにそれらの部品及び附属品」について「LEADER」の商標登録を受けることができる法的な立場にはなかったばかりか、被告が「LEADER」の標章を使用することは許されていなかったのであって、この状況は、本件商標登録15 の分割移転登録の前後で何ら変化していない。
ウ また、被告は、米国リーダーバイク社から我が国におけるエンブレム商標の登録(第5568215号商標)を譲り受け、平成29年10月26日に移転登録申請を行うとともに、平成30年5月30日、被告が「自転車、自転車の部品及び附属品」を含む商品を指定商品とし、本件商標と非類似であると主張する「LE20 ADERBIKES」の商標について商標登録出願を行い、同年8月10日にその登録を受けた。
原告が本件商標権の分割移転登録の申請を行ったのは、被告が「LEADERBIKES」の商標を出願しその登録を受けた後の平成30年12月26日である。
このことから、被告は、原告が本件商標権の分割移転を申請した平成30年125 2月26日よりも前に、「LEADER」とは異なる(これと非類似である)「LEADERBIKES」の商標を、我が国において「自転車、自転車の部品及び附12属品」について使用する商標として選択していた。現に、被告の販売店は、「LEADERBIKES」の標章を使用して自転車の輸入・販売を行っている。換言すると、被告は、我が国において、当面、「LEADER」のブランドでのビジネスをあきらめ、「LEADERBIKES」のブランドでビジネスをする選択をして5 いた。
そして、原告が本件商標権の分割移転登録を受けたことは、「LEADERBIKES」のブランドによる被告の事業に影響を与えるものではない。
以上のとおり、被告は、我が国において、「LEADERBIKES」のブランドでビジネスをする選択をしたのであり、本件商標登録の分割移転登録は、我が10 国における被告の事業(「LEADERBIKES」のブランドでのビジネス)を何ら妨害するものではない。
エ そもそも、米国リーダーバイク社も被告も、我が国における自転車の販売に係る「LEADER」の商標の商標登録について、十分な関心を持っていなかった。すなわち、米国リーダーバイク社は、平成28年(2016年)に破産するま15 で、本件商標権の譲受けにつき関心を持ったことはなく、本田技研工業と交渉をしたことはなかったし、被告も、米国リーダーバイク社からエンブレム商標の登録移転を受け、「LEADERBIKES」の商標の出願をする一方で、本件商標権の譲受けにつき関心を示したことはなく、本田技研工業と交渉をしたこともなかった。
この点、原告は、その代表者が平成22年頃本田技研工業に電話をかけ本件商標を20 譲り受けることができないかを打診し、また、平成29年頃から米国リーダーバイク社の倒産に伴い自社で製造販売する体制に移行するに際し、今後も継続販売していくために本件商標を譲渡してほしいと申し入れ、交渉を開始するなど、本件商標権の譲受けに関心を持っていた。
さらに、原告が本件商標登録の分割移転を受けたのは、米国リーダーバイク社25 の破産から2年以上経ってからである。被告は、本件商標権の譲受けに関心があれば、その間、本田技研工業と交渉することもできたはずであるが、実際にはそのよ13うな交渉をしておらず、本田技研工業に接触すらしていない。
以上のとおり、被告は、本件商標権の譲受けに関心はなく、本田技研工業と交渉したこともないのであって、原告が本田技研工業と本件商標権の譲受けについて交渉を行うことは、被告の商標取得活動を何ら妨害するものではない。
5 オ 加えて、原告と米国リーダーバイク社との関係は、米国リーダーバイク社の破産により終了しているところ、終了後の関係について本件販売店契約に何ら規定するところはない。
したがって、原告と米国リーダーバイク社は、本田技研工業が本件商標分割前の商標権を有する我が国において、対等な関係でそれぞれが独自にビジネスを展開10 すべき関係になったのであって、原告において、本田技研工業との本件商標権の譲受けに関する交渉を差し控えるべき事情は存在しなかった。
したがって、原告が本田技研工業と本件商標権の譲受けについて交渉を行うことは、終了した本件販売店契約との関係でも、何ら米国リーダーバイク社及び被告の事業を妨害するものではない。
15 カ 原告は、米国リーダーバイク社と本件販売店契約を締結していたが、これは製品供給契約の一種であり、「LEADER」の商標についてのライセンスは存在しない。本件販売店契約の内容は、原告の注文に基づいて、米国リーダーバイク社がその製造する自転車及びそのパーツ、アクセサリー(並びに被服・バッグ)を原告に供給するというものであり、「LEADER」の商標については何の取決め20 もない。米国リーダーバイク社及びその代表者の破産管財人と被告との間の売買証書(Bill of Sale 甲8、33)にも、譲渡された商標権には、エンブレム商標(登録第5568215号)は含まれているが、「LEADER」の商標は存在しない。すなわち、「LEADER」の商標について、米国リーダーバイク社と原告の間には、ライセンサー・ライセンシーの関係は存在しなかった。
25 そうであるから、被告は「LEADER」の商標を用いた事業を行う権利を有しておらず、したがって、原告が被告の「本件商品(「LEADER」ブランドの14自転車)に係る我が国における事業」を乗っ取るということはあり得ない。原告は、
本件商標権の分割移転を本田技研工業から受けた後、これを自己の販売する自転車等に付して使用しているのであって、自己の業務に正当に使用している。原告が米国リーダーバイク社や被告に対して分割移転の登録を受けた本件商標権の高額での5 買取りを要求したことはない。
また、本件商標の指定商品である第12類「自転車並びにそれらの部品及び附属品」において、「LEADER」の商標の顧客吸引力があったわけではなく、原告が本件商標権の分割移転の登録を受けたとしても、原告が我が国において営業活動を展開してきた実績に比して不相当な利益(顧客吸引力)を得ることができるわ10 けではない。
キ 以上のとおり、本件商標権の分割移転の登録は、被告の業務を妨害する目的のものではなく、不正な利益を得る目的のものでもない。
(3) 本件審決は、「被請求人(原告)は、2011年(平成23年)に米国リーダーバイク社と販売代理店契約を締結し、同社から自転車等を購入して、日本国15 内で本件商品を販売していたから、その後の被請求人による本件商品(「LEADER」ブランドの自転車)に係る事業活動は、米国リーダーバイク社の販売代理店としての立場でなされていたものといえ、当該事業活動によりもたらされた「LEADER」ブランドと関連する利益は、米国リーダーバイク社に帰属すると考えられるため、被請求人主張のような事実関係は、本件商標の分割移転手続の目的を正20 当化するものではない。」と判断する。
しかしながら、米国リーダーバイク社が倒産した平成28年(2016年)の時点において、「LEADER」の標章が米国リーダーバイク社の自転車を意味するものとして周知ではなかったこと、本件販売店契約は、「LEADER」の商標をライセンスするものではなかったこと、本件販売店契約は、契約終了後の関係に25 ついて何ら規定するものではないこと、平成28年(2016年)7月から8月にかけて、米国リーダーバイク社(及びその代表者)が破産し、製品の供給が止まる15ことによって本件販売店契約は終了したこと、被請求人(被告)が承継したという「米国リーダーバイク社の事業や資産」には、我が国における「LEADER」の商標の権利は含まれていないことなどに照らせば、仮に平成28年までの間に我が国における米国リーダーバイク社の自転車の販売に関連する何らかの利益が米国リ5 ーダーバイク社に帰属していたとしても、そのような利益は僅かであり、我が国において法的に保護されるものではなく、本件審決の判断は失当である。
(4) 以上の(1)〜(3)のとおり、本件審決の認定・判断には重大な誤りがあり、
これが結論に影響することは明らかであるから、本件審決を取り消すべきである。
3 結論10 以上のとおり、本件審決は、商標法4条1項7号該当性についての判断を誤った違法なものであるから、取り消されるべきものである。
第4 被告の主張1 商標法4条1項7号該当性について(1) 原告は、@「LEADER」標章が従前から米国リーダーバイク社により15 使用されており、かつ、米国リーダーバイク社の地位が被告に承継されたことを認識しながら、A販売店としての地位を失った後も、あたかも「LEADER」ブランドの販売店であるかのように装って、その信用力と顧客吸引力を独占しようとし、
被告の我が国における事業を乗っ取る道具として本件商標権を取得した上で、本件商標権を行使して、現に競業者である被告の我が国における事業を妨害した。
20 したがって、原告は、被告の我が国における「LEADER」ブランド事業を乗っ取り、米国リーダーバイク社の確立した「LEADER」ブランドの信用力及び顧客吸引力を独占利用することで、不正の利益を得る目的や、正当な事業承継者である被告の我が国における事業を妨害することを主たる目的として、本件商標権を譲り受け、本件分割移転登録を得たものである。
25 このような原告による商標権取得により、法的利益である「LEADER」ブランドのブランド力の正当な権利者である被告への帰属が侵害され、同ブランド力16の本来帰属し得ない原告に不当な利益が生ずることになる点で原告による本件商標権取得は適正な商道徳又は公正な取引秩序という「公の秩序」を害するものであって、かつ、米国裁判所の承認した破産手続を無に帰するという点で国際信義にももとるものであるので、本件は、まさに商標法4条1項7号が適用されるべき商標登5 録制度の濫用事例であり、同号の適用を肯定した本件審決の認定・判断に誤りはない。
(2) 商標法4条1項7号該当性の判断基準ア 同項7号は、同項19号等とともに商標登録制度を濫用する出願を規制する役割を果たすものであり、登録主義・先願主義に内在する弊害を是正するもので10 ある。これらの原則に基づく正当な商標出願の目的は、未使用の商標について商標権を付与し、商標権者が保護を受けた状態で商標に対する信用蓄積を行う点にあることから、同項7号で規制すべき濫用的な出願は、このような商標の信用蓄積を目的とせず、競業者の業務を妨害し、又は競業者に登録商標を高額で買い取らせる等の不正な利益を得ることを主たる目的とする出願と解すべきである。
15 @商標権者による対象商標の第三者使用の認識と、A不正の目的を推認させる商標権行使が認められる場合には、@により既に他者により使用されている商標についてあえて出願を行っているという点で、商標への信用蓄積という正当な目的でされた出願ではないことが推認され、かつ、Aによりそのような正当でない、すなわち不正な目的の存在が実際の権利行使という外形的事実により裏付けられること20 になるので、同項7号を適用してその取得自体を規制することが正当化される。
以上によると、同項7号が適用されるべき濫用的な出願の場合とは、商標に対する信用蓄積という正当な目的を有さず、競業者の業務を妨害し、又は不正な利益を得ることを主たる目的として商標出願がされた場合であり、当該目的の認定において具体的に重視すべき要素は、@商標権者による対象商標の他者使用の認識と、A25 商標権者による不正の目的を推認させる商標権行使の事実と解すべきである。
イ この点、原告は、同項7号の適用があるのは「「商標法の予定する秩序」17に反するといえるほどに、極めて例外的な場合に限られる」と主張する。しかしながら、原告自身、「単なる私人間の紛争や私権に関するにすぎない事項は原則として商標法4条1項7号に該当せず」としながら、「私人間や私権に関する事項であっても、業務を妨害する目的・不正な利益を図る目的が認められる場合には、同号5 に該当することもあり得るとするのが現在の裁判実務である」ことを認めており、
結局、いかなる場合が「「商標法の予定する秩序」に反する」かについては、考慮要素(主体、主観的意思、対象)を述べるのみで、具体的な規範を定立していない。
ウ 仮に商標法4条1項7号について原告の主張する解釈を前提としても、以下の(ア)〜(ウ)の事情により、本件には同号の適用がある。
10 (ア) 主体(商標権取得者の性質、当事者の関係・経緯)原告は、米国リーダーバイク社との関係では単なる販売店であり、本件販売店契約の締結から明らかであるとおり、「LEADER」ブランドに係るブランド力が米国リーダーバイク社に帰属することを認識していた。また、米国リーダーバイク社の破産後は、被告から「LEADER」ブランド商品の購入を打診されており、
15 「LEADER」ブランド事業を被告が承継し、同ブランドのブランド力が被告に帰属するに至ったことも認識していた。このことを前提にすると、原告は、「LEADER」ブランド商品を他社の商品として販売するセレクトショップであるにすぎなかった。
したがって、「LEADER」ブランドのブランド力は被告に帰属するもので20 あって、原告には帰属せず、かつ、そのことを原告自身認識していた以上、原告は、
自身の販売店であった立場を濫用して被告に帰属すべきブランド力を毀損しないという信義則上の義務を適正な商道徳又は公正な取引秩序の観点から負っていた。
(イ) 主観的意思(商標権取得の意図・目的)原告が「LEADER」ブランドのブランド力が米国リーダーバイク社及びそ25 の破産後は被告に帰属することを認識していたこと、被告から「LEADER」ブランド商品の購入の打診を受け、引き続き正規の販売代理店として同ブランドの商18品を取り扱う機会を得たにもかかわらず、あえてこれを拒絶し、第三者から商品を仕入れて「LEADER」標章の付された商品の販売を継続したこと、本件商標登録が、被告によるエンブレム商標の商標権に基づく原告商品の輸入差止めを契機に当時の権利者である本田技研工業が事情を知らないことを奇貨として実施されたこ5 と、その後、原告が本件商標を盾に被告の取引先に対して被告から仕入れた商品が本件商標権を侵害する等の通知を行い、現に被告の我が国における業務を妨害するために本件商標権を行使したことといった事実に鑑みれば、原告による本件商標権の取得は、被告の我が国における「LEADER」ブランド事業を乗っ取り、米国リーダーバイク社の確立した「LEADER」ブランドの信用力及び顧客吸引力を10 独占利用することで不正の利益を得る目的、及び、正当な事業承継者である被告の我が国における事業を妨害するといった不正の目的で実施されたことが明らかである。
(ウ) 対象(取得される商標権の性質)本件において、本件商標権はもともと本田技研工業が有していたという事情が15 あるものの、これを悪意の競業者である原告が分割移転登録を受けたことで、正当な目的で本件商標権の取得を求める被告は、適正なコストで本件商標権を取得すること(事情を知らない本田技研工業との間で独立当事者として公正な交渉のもと本件商標権を取得すること)ができなくなっており、商標権取得の自由が不当に侵害されている。
20 この点、原告は、米国リーダーバイク社が米国における「LEADER」の登録商標を被告に譲渡しておらず、同登録商標は丙という個人に譲渡したと主張するが、丙氏は、Leader Bikes LLC の代表者であり、かつ、被告代表者の息子であって被告の従業員でもある(乙3〜6)ため、上記米国における商標は、米国リーダーバイク社の破産後、一貫して被告の管理・支配下にあった。
25 エ 小括以上によると、原告による商標法4条1項7号の解釈を前提としても、原告へ19の本件分割移転登録は、「「不正の目的」による取得を理由として同項7号に該当する例外的な場合」に該当し、本件商標が同項7号に該当することは免れない。
2 本件審決の認定した事実及び事実の評価に関する原告の主張に対する反論(1) 原告は、「被告が米国リーダーバイク社の事業及び資産を引き継いだ」と5 の認定における「米国リーダーバイク社の事業及び資産」の中には、我が国における「LEADER」の商標権は含まれていないと主張するが、売買証書(甲8、33)のとおり、被告は、米国リーダーバイク社から、登録商標のみでなく、これらの商標に関するクレーム及びこれらから派生したもの、若しくはこれらの商標に象徴され、これらの商標と関連、関係し、又はこれらの商標が使用された事業ののれ10 ん(good will)を含む一切の資産の譲渡を受けた。米国リーダーバイク社は、エンブレム商標及び「LEADER」標章の双方が付された商品を「LEADER」ブランドの商品として販売し、我が国においては、原告が、本件販売店契約に基づく許諾を受けて、米国リーダーバイク社の商品として販売していたのであるから、
被告が米国リーダーバイク社から承継した「のれん」には、我が国における「LE15 ADER」標章の使用を含む「LEADER」ブランド商品に係る営業権が含まれている。
(2)ア 原告は、平成28年(2016年)に米国リーダーバイク社が破産した時点において、我が国において「LEADER」の標章が米国リーダーバイク社を示すものとして周知になっていたとはいえないと主張するが、同「周知」が何を意20 味するのか不明確である上、少なくとも「LEADER」の標章は、日本において米国リーダーバイク社の「LEADER」ブランドを表示するものとして信用力及び顧客吸引力を有する標章として確立していた。
イ 原告は、米国リーダーバイク社も被告も、本田技研工業との関係において、
本件商標の出願登録を受けることができる法的な立場になかったことを主張する。
25 しかし、被告のブランドに関する商標権が、本件とは無関係の事情も認識していない第三者により取得されている状況と、被告の競業者に当たり被告の業務妨害の意20図を有している原告に取得されている状況とでは、被告による本件商標権の取得に係る状況が全く異なる。すなわち、米国リーダーバイク社と契約関係になく、かつ、
同社による「LEADER」標章の使用も認識していない本田技研工業との間で本件商標権の譲渡の交渉を行う場合、権利者による権利行使の可能性があるため慎重5 な対応を要するものの、交渉が開始した場合には独立の当事者間としての交渉が可能であるのに対して、悪意の競業者である原告が本件商標権を取得した場合には、
本件訴訟に至っていることからも分かるように、被告が通常の交渉・手続によって本件商標権を取得することが不可能となり、正当な目的で本件商標権の取得を求める被告が、適正なコストで本件商標権を取得することができなくなるため、このよ10 うな事態は商標法4条1項7号が是正すべき「公の秩序」を害する場合に当たる。
ウ 原告は、被告が我が国においては「LEADER」ではなく「LEADERBIKES」を自己のブランドを表示するための標章として採用したと主張する。
しかし、被告は、我が国において「LEADER」の標章の使用を断念したことは一切ない。被告が「LEADERBIKES」商標を取得したのは、我が国におい15 て、当時、本件商標の分割前の商標が本田技研工業により登録されており、直ちに「LEADER」の標章について商標登録をすることが困難であったことに鑑み、
従来から米国リーダーバイク社を指し示す言葉や「LEADER」の標章と並行して使用される標章として「LEADERBIKES」、「LEADER BIKES」、「LEADER BIKE」という表示が使われてきたことを考慮し、「L20 EADER」ブランドの我が国における価値を少しでも防護するためであった。
被告は、我が国において「LEADER」ブランドの商品の販売事業を継続するためのやむを得ない措置として、現時点の日本向け商品において、緊急避難的に「LEADER」標章の使用を中止し、「LEADERBIKES」の標章を用いているものである。
25 エ そもそも、被告からの本田技研工業に対する本件商標権の分割移転登録の交渉が原告より先に開始できなかったのは、被告から権利者である本田技研工業に21対して不用意に交渉を持ち掛けた場合、本田技研工業が商標権侵害事実を認識して権利行使をする可能性があったことから、交渉を開始するに当たって慎重にならざるを得なかったためであって、拙速に交渉を開始できなかったことに正当な理由がある。
5 オ 原告は、原告と米国リーダーバイク社との関係は、米国リーダーバイク社の破産により終了しているところ、終了後の関係について本件販売店契約に何ら規定するところはないと主張する。しかし、被告は、売買証書(甲8、33)により、
米国以外の地域における登録商標のみならず、これらの商標に象徴され、これらの商標と関連、関係し、又はこれらの商標が使用された事業ののれん(good will)10 を含む一切の資産の譲渡を受けている以上、「LEADER」ブランドに係るブランド力は被告に帰属しており、かつ、原告はそのことを認識していた。
したがって、本件販売店契約に契約終了後の関係についての残存条項がなかったとしても、原告は、適正な商道徳又は公正な取引秩序の観点から、被告に帰属すべきブランド力を毀損しない信義則上の義務を負うものである。
15 カ 原告は、本件販売店契約の「「LEADER」の商標について、米国リーダーバイク社及び原告の間には、…何の取決めもなかった」との主張をする。しかし、「LEADER」のブランド力は全て米国リーダーバイク社に帰属する(甲23・第8.2条)ものであって、原告は、そのようなブランド力を前提に、「LEADER」ブランドの商品を米国リーダーバイク社の商品として、米国リーダーバ20 イク社からの許諾を受けて販売店という立場で販売していたにすぎない。原告に「LEADER」のブランド力は帰属せず、そのことを認識もしていた原告は、適正な商道徳又は公正な取引秩序の観点から、「LEADER」のブランド力を毀損する行為を行ってはならないとの信義則上の義務を負っていたのであるから、原告の上記主張は失当である。
25 第5 当裁判所の判断1 認定事実22前提事実に加え、証拠(文中末尾掲記の各証拠)及び弁論の全趣旨によると、
以下の事実が認められる。
(1) 被告は、自転車及び自転車用部品等の製造、輸出、販売等を目的とし、昭和53年(1978年)に台湾法の下で設立された会社である。(甲3)5 原告は、自転車販売店の経営、外国製自転車、自転車用品及び自転車用部品・附属品の輸入販売代理店業等を目的とし、平成23年に設立された株式会社であり、
東京都、横浜市、大阪市において、原告の直営店を運営し、店舗やウェブサイト等において、自転車及び自転車用部品等の販売を行っている。(甲4、5、119)平成11年(1999年)頃、米国において、米国リーダーバイク社及びその10 創始者である丁(以下「丁」という。)が、ピストバイク(トラック競技用で、変速機やブレーキがない自転車)のブランドとして「LEADER」を立ち上げた。
原告代表者は、原告が設立された平成23年の数年前から、横浜市内の店舗において、米国リーダーバイク社から、「LEADER」ブランドのピストバイクを輸入して販売するようになり、原告設立後は、原告がその輸入・販売を継続して行15 った。
被告は、「LEADER」ブランドの立ち上げ当初から、米国リーダーバイク社に対し、同ブランドの自転車や自転車部品等の供給を行っていた。
(甲16〜22、28、90、119、120)(2) 米国リーダーバイク社の販売する「LEADER」ブランドの自転車には、
20 フレーム等に大きく目立つ態様で、同社の商号の一部である「LEADER」の文字が付されているものが多く存在した。(甲17〜22)米国リーダーバイク社の代表者である丁は、我が国において、エンブレム商標の商標権を取得していたが、「LEADER」の文字についての商標登録は有していない。(甲9)25 (3) 平成23年1月、原告代表者は、設立準備中の原告を代表して、米国リーダーバイク社との間で、原告を米国リーダーバイク社が製造する自転車や部品など23の製品の我が国における独占的な販売者及び販売店とする本件販売店契約を締結した。本件販売店契約の契約書には、「商標」に関し、大要、以下の記載があったが、
契約関係終了後の原告の義務を規律する規定は存在しなかった。(甲23、90)「(第8条 商標)5 8.1 本件販売店契約の期間中、米国リーダーバイク社は、販売地域内での販売及び販売促進の目的で、米国リーダーバイク社が販売地域において登録した商標を使用するための独占的ライセンスを原告に許諾する。
原告が第9.1条の本件販売店契約の有効期間の存続規定に基づき同商標を使用しようとする場合、原告は、同商標が記載されたサンプル資料(カタログ、リー10 フレット、ポスター、新聞を含みこれらに限定されない。)の提供を受けることができる。
8.2 第三者が上記商標又はそれに関する米国リーダーバイク社ののれんを侵害していることを原告が発見した場合、又は原告が本件商標を使用することにより第三者の権利が侵害される可能性があるとの理由により第三者が米国リーダーバ15 イク社又は原告に対し請求又は訴訟をした場合、原告は直ちに米国リーダーバイク社に通知し、かつ、問題を解決するために米国リーダーバイク社に協力するものとする。」(4) 平成23年から同29年頃まで、原告は、米国リーダーバイク社から、自転車(本件商品)を輸入販売していた。ほとんどの本件商品には、フレーム等に大20 きく目立つ態様で「LEADER」の文字が付されていた。(甲24、28、29、
40)(5) 平成28年(2016年)7月から8月にかけて、米国において、丁及び米国リーダーバイク社の破産手続が開始され、原告と米国リーダーバイク社との本件販売店契約は終了した。(甲90)25 原告は、米国リーダーバイク社が破産したことにより、米国リーダーバイク社から自転車等の輸入が途絶えることとなったことから、平成29年頃以降、他の業24者から部品等を仕入れ、本件商品(「LEADER」ブランドの自転車」)の販売を継続している。(甲119)(6) 被告は、丁及び米国リーダーバイク社両者の破産管財人と協議した上で、
平成29年(2017年)に、当該破産管財人との間で資産譲渡契約を締結し、米5 国以外の国・地域における米国リーダーバイク社及び丁に係る事業ののれんを含む一切の資産の譲渡を受け、米国連邦倒産裁判所の許可を受けた。同契約書には、大要、以下の条項の記載があった。(甲8、33、90)「売主(上記破産管財人)は、平成29年(2017年)10月5日に、以下の資産と財産に関する売主及び破産財団の全ての権限、権利及び利益を買主(被告)10 に売却、譲渡、付与、移転及び公布する。
1.それぞれが商標登録及び出願の対象となる別紙に列挙された商標(我が国で登録されたエンブレム商標のほか、中国、EU、香港、韓国及び台湾で登録された商標(以下「本件別紙商標」といい、これらの登録及び出願を「本件登録」という。))。米国以外の法域で商標登録又は出願(登録、出願又はその他)されてい15 る商標で、現在判明しているもの又は今後判明したもの。これらに関するクレーム及びこれらから派生したもの。本件別紙商標及び/又は本件登録及び/又はここで言及されているその他の商標に象徴され、若しくはこれらと関連、関係する事業又は本件別紙商標、本件登録及び/又はここで言及されているその他の商標が使用されている事実を象徴し、これらに関連する事業ののれん(good will)。
20 2.(省略)」(7) 平成29年頃、被告は、被告の日本におけるビジネスパートナーを介して、
原告に対し、「LEADER」ブランドの自転車等を被告から購入することを打診したが、原告はこれを断った。
その後、被告は、リーダーバイクジャパンを日本における「LEADER」ブ25 ランドの総販売代理店として指名した。リーダーバイクジャパンは、平成30年5月頃から被告が製造する自転車を輸入し、同年8月頃から日本国内で「LEADE25RBIKES」の標章を付した自転車を販売している。
(甲90、96、101〜119、156)(8) 原告は、平成30年3月、輸入しようとした自転車等につき、エンブレム商標と類似する標章が付されているとして、税関において輸入できない貨物に該当す5 るとされたことから、同年4月23日頃までに、当該自転車等から当該標章を削除する作業を行った上で、輸入をした。(甲10)(9) 被告は、平成30年5月30日、別紙3登録商標目録記載の商標の出願をし、同年8月10日、同商標の登録を受けた。(甲11、12)(10) 本件商標の分割前の商標は、本田技研工業が平成8年6月20日に出願し、
10 平成10年3月27日に登録を受けて適正に保有され続けてきたものである。(甲1、2)原告代表者は、米国リーダーバイク社が破産して本件商品の輸入が停止し、他の業者から部品等を仕入れて本件商品の販売を行うこととなったことを契機として、
本件商標の分割前の商標を保有している本田技研工業に対し、本件商標の譲受けを15 申し込んだ。本田技研工業は、自転車を製造しておらず、今後もその製造予定はなかったことから、本件商標の譲渡を承諾し、原告は本件商標を譲り受け、平成30年12月27日、本田技研工業から原告に対する本件分割移転登録がされた。(甲1、2、34、119)(11) 原告は、米国リーダーバイク社の破産後、他の業者から部品等を仕入れて20 本件商品の販売を行うこととなった後も、自身のウェブサイトにおいて、自らを「LEADER BIKE総代理店」と記載し、また、本件商品についても、カリフォルニア発のピストバイクブランドの自転車として紹介した。(甲4〜7、91)(12) 原告は、平成31年4月、リーダーバイクジャパンの取引先会社に対し、
通知書を送付し、原告が「LEADER BIKES製品の日本国内の輸入総代理25 店」であるとした上で、同販売会社が販売する「LEADER」ブランドの自転車が、原告の保有する本件商標権を侵害するものであるとして、その販売及び仕入れ26を中止するよう告知した。(甲13)(13) 他方、リーダーバイクジャパンは、令和元年5月、原告に対し、被告が米国リーダーバイク社の商標権ほか全ての資産を正式に譲渡され、「LEADERBIKE」ブランドを引き継ぎ、また、リーダーバイクジャパンは被告との契約に5 より我が国における正規輸入販売会社として設立されたとの事実を原告は把握しているにもかかわらず、原告が被告保有のエンブレム商標を付した自転車をウェブサイトに掲載して販売・宣伝し、また、原告の取り扱う商品がカリフォルニア発の「LEADERBIKE」の輸入品であるかの様に表示していることがリーダーバイクジャパンらの商標権を侵害し、ウェブサイト等に原告が総代理店であると表示10 することは被告及びリーダーバイクジャパン社の営業上の信用を害する虚偽の事実の流布の不正競争行為に該当するとして、商標を付した自転車等の販売等の中止と廃棄、ウェブサイト等における総代理店との表示の削除、原告の取扱商品がカリフォルニア発の「LEADERBIKE」の輸入品であるかのような記載の削除等を求めた。(甲14)15 被告は、令和2年1月、原告に対し、被告が米国リーダーバイク社及び丁から「LEADERブランド」の自転車等の製造販売事業並びにこれに関連する資産の譲渡を受け、エンブレム商標を保有しているが、原告が平成30年頃から運営する店舗及びウェブサイトにおいてエンブレム商標及び「LEADER」が付された自転車や自転車部品を販売していることにつき、商標権侵害及び不正競争行為に当た20 るとして、その販売やウェブサイト等への掲載の削除等を求めた。(甲15)(14) @被告は、令和2年5月、大阪地裁に対し、原告がエンブレム商標を原告の販売・展示する自転車等に付して被告の商標権を侵害しているとして原告に対する訴えを提起し、当該自転車等の販売の差止め等と損害賠償を求め、A原告は、令和3年2月、同訴訟において、被告に対する反訴として、原告が「LEADER」25 との標章及び「Lロゴ」と呼ばれる標章を付したピストバイクや自転車部品等を日本国内で10年以上独占的に販売してきた実績を有し、需要者の間に広く認識され27ているなどとして、不正競争防止法に基づき、被告によるこれらと同一又は類似の標章を付した自転車等の製造、販売の差止め等と損害賠償を求め、B原告は、令和3年6月、大阪地裁に対し、リーダーバイクジャパンに対する訴えを提起し、不正競争防止法に基づき、リーダーバイクジャパンによる「LEADER」との標章及5 び「Lロゴ」と呼ばれる標章と同一又は類似の標章を付した自転車等の製造、販売の差止め等と損害賠償を求めた。(甲35〜37)これらの事件は、併合審理され、大阪地裁は、令和4年12月5日、被告の請求につき、原告が被告請求に係る平成30年12月31日までエンブレム商標が付された自転車等を販売し、被告保有のエンブレム商標に係る商標権を侵害していた10 として、原告に被告に対する損害賠償と当該自転車等の販売の差止め等を命じ、他方、原告の請求につき、米国リーダーバイク社からエンブレム商標の移転登録を受けた被告や被告と代理店契約を締結しているリーダーバイクジャパンが米国リーダーバイク社の商品であることを示す標章や表示を使用していることをもって不正競争防止法違反となるものではないとして棄却する旨の判決をした。原告は、同判決15 に対して控訴し、同事件は大阪高裁に係属したが、その後、原告による控訴取下げにより同判決は確定した。(甲90)2 商標法4条1項7号該当性について(1) 本来、商標法4条1項7号は、商標の構成自体に公序良俗違反がある場合に商標登録を認めない規定であって、商標の構成自体に公序良俗違反がないとして20 登録された商標について、例えば、社会通念の変化によって、その構成が善良の風俗を害するおそれがある商標となるなど反公益的性格を帯びるようになっている場合、後発的に同号に該当し、同法46条1項6号の規定により無効とすべき場合がないとはいえない。これに加え、商標の構成自体が公序良俗に違反するものでなくとも当該商標が同法4条1項7号に該当する場合があり得るが、商標法は、同項各25 号において、商標登録を受けることができない商標として各類型を規定しており、
一般条項といえる同項7号の「公の秩序又は善良の風俗を害するおそれがある商標」28もその一類型として規定されていることからすると、同号は、他の号に該当せずともなお商標登録を受けることができないとすべき商標が存在し得ることを前提として、一般条項をもって、そのような商標の商標登録を認めないこととしたものと解され、また、商標法においては、商標選択の自由を前提として最先の出願人に登録5 を認める先願主義の原則が採用されていることを考慮すると、同号に該当するのは、
その登録の経緯に著しく社会的妥当性を欠くものがあり、登録を認めることが商標法の予定する秩序に反するものとして到底容認できない場合に限られるべきである。
これを本件商標についてみると、前記1のとおり、@本件商標の分割前の商標は、本田技研工業が平成8年6月20日に出願し、平成10年3月27日に登録を10 受けて適正に保有され続けてきたものであり、原告は、同商標についての正当な権利者である本田技研工業に本件商標の譲受けを申し込み、本田技研工業の承諾を得て本件商標を譲り受け、本件分割移転登録を得たものであること、A本件商標の分割前の商標につき、米国リーダーバイク社や丁は商標法上何らの権利を有していなかったこと、B原告は、本件販売店契約に基づき、平成23年から同28年頃まで、
15 米国リーダーバイク社の我が国における独占的な販売代理店であり、米国リーダーバイク社から本件商品を輸入して販売するとともに、米国リーダーバイク社が販売地域において登録した商標やそれに関連する米国リーダーバイク社ののれんを維持するために協力する義務を負っていたが、平成28年における米国リーダーバイク社の破産を原因として、本件販売店契約は終了するとともに、米国リーダーバイク20 社から原告への自転車等の輸入も途絶えることとなり、また、本件販売店契約では、
契約関係終了後の原告の義務を規律する規定は存在せず、原告と米国リーダーバイク社との関係は全て終了した状態となっていたこと、Cこのような状態において、
原告は、本件商品の販売を継続する目的をもって、本田技研工業の承諾を得て本田技研工業から本件商標を譲り受け、本件分割移転登録を得たものであることが認め25 られる。
以上によると、米国リーダーバイク社の破産という原告に何ら責任のない原因29によって米国リーダーバイク社との取引関係等が全て終了した原告が、当初から米国リーダーバイク社や丁には何らの権利がなかった正当な商標権者である本田技研工業の保有する本件商標分割前の商標のうちの本件商標部分を譲り受け、その分割移転登録を得たことが、著しく社会的妥当性を欠くものであるということはできず、
5 その登録を認めることが商標法の予定する秩序に反するものとして到底容認できないものということもできない。
前記1のとおり、本件において、原告は、別の業者から部品等を仕入れた「LEADER」の標章を付した自転車を販売するに際し、自らを「LEADER BIKE総代理店」とし、本件商品についてもカリフォルニア発のピストバイクブラ10 ンドの自転車とウェブサイト上に表示するなど、あたかも米国リーダーバイク社の製造販売していたリーダーバイクと誤認混同させかねない行動をとっていた事実が認められるものの、それらは、米国リーダーバイク社の事業を引き継いだ被告との関係において、不正競争行為に当たるかどうかが問題になり、別途権利の濫用や不正競争防止法等の規律により、民事訴訟等で解決されるべきことがあり得るとして15 も、商標の分割移転登録自体が、社会通念に照らして著しく社会的妥当性を欠くものとはいえず、商標法の予定する秩序に反するものといえるものでもない。
そうすると、本件商標の分割移転登録が、商標法4条1項7号に該当するに至ったということはできない。
(2) 被告の主張について20 ア 被告は、原告が本件販売店契約に伴う信義則上の義務に違反して、被告の我が国における事業を妨害しているとか、原告は、被告の信用等にフリーライドする目的を有していると主張する。
しかしながら、前記(1)のとおり、米国リーダーバイク社の破産を原因として、
本件販売店契約は終了するとともに、米国リーダーバイク社から原告への自転車等25 の輸入も途絶えることとなり、また、本件販売店契約においては、契約終了後の原告の義務を規律する規定は存在せず、原告と米国リーダーバイク社との関係は全て30終了した状態となったものであり、原告が米国リーダーバイク社の事業等を引き継いだ被告に対し、何らかの義務を負っているものと解することはできない。
前記1(12)のとおり、原告は、リーダーバイクジャパンの取引先会社に対し、
原告が「LEADER BIKES製品の日本国内の輸入総代理店」であり、同販5 売会社が販売する「LEADER」ブランドの自転車が原告の保有する本件商標権を侵害するものであると通告し、被告の関係者が「LEADER」ブランドの自転車の販売等をすることを阻止しようとした事実が認められる。しかし、上記(1)のとおり、不当な権利行使については、別途権利の濫用や不正競争防止法等の規律により、民事訴訟等で解決されるべきものであって、本件商標登録を無効とすべき事10 由があるということはできない。
イ 被告は、「LEADER」ブランドのブランド力は被告に帰属するものであって原告には帰属せず、かつ、そのことを原告自身が認識していた以上、原告は、
販売代理店であった立場を濫用して被告に帰属すべきブランド力を毀損しないという信義則上の義務を、適正な商道徳又は公正な取引秩序の観点から負っていたと主15 張する。
しかしながら、上記アのとおり、原告が被告に対し、何らかの義務を負っているものと解することはできない。
そもそも本件は、米国リーダーバイク社及び丁から米国外の事業や資産を引き継いだ被告と、正当な商標権者から本件商標権を引き継いだ原告との利害が衝突し20 ている事案であるところ、被告が米国リーダーバイク社から「LEADER」ブランドの自転車に係る営業権を譲り受け、我が国で取引を行っていることをもって、
他方、原告が、自身の取引を続ける目的で、従前から正当に存続している本件商標権を譲り受けて保有することが、社会通念に照らして著しく社会的妥当性を欠くものとはいえず、商標法の予定する秩序に反するものといえるものでもなく、本件商25 標登録を無効とすべきものとはいえない。
ウ 被告は、本田技研工業が有していた商標権を競業者である原告が分割移転31登録を受けたことで、被告が適正なコストで本件商標権を取得することができなくなったとして、商標権取得の自由が不当に侵害されていると主張する。
しかしながら、前記1(10)のとおり、原告は、本田技研工業に対して本件商標の譲受けを申し込み、その承諾を得て本件商標の分割譲渡を受けたものであって、
5 他方、本件全証拠によっても、被告が本田技研工業から本件商標権の分割移転を受けるための交渉をしていたにもかかわらず、原告がこれを不当に妨害したというような事実も認められず、被告の商標権取得の自由が不当に侵害されたものとはいえず、被告の上記主張は理由がない。
3 小括10 したがって、本件商標は、商標法4条1項7号に該当するものと認められないから、これと異なる本件審決の判断は誤りであり、原告の取消事由の主張には理由がある。
第6 結論以上のとおり、原告主張の取消事由は理由があるから、本件審決は取り消され15 るべきであり、主文のとおり判決する。
知的財産高等裁判所第1部20 裁判長裁判官本 多 知 成2532裁判官遠 山 敦 士5裁判官天 野 研 司33別紙1商標目録登録商標登録出願日:平成8年6月20日設定登録日:平成10年3月27日商品及び役務の区分並びに指定商品:第12類 「自動車並びにその部品及び附属品、二輪自動車・自転車並びにそれらの部品及び附属品」34別紙2商標目録登録商標登録出願日:平成24年11月6日設定登録日:平成25年3月22日商品及び役務の区分並びに指定商品:第12類 「自転車、自転車用フレーム、自転車用フォーク、自転車用タイヤ、自転車用ハンドルステム、自転車用シートポスト、その他の自転車の部品及び附属品」35別紙3登録商標登録番号:第6070405号登録出願日:平成30年5月30日設定登録日:平成30年8月10日商品及び役務の区分並びに指定商品:第12類 「陸上の乗物用の動力機械器具(その部品を除く。)、陸上の乗物用の機械要素、乗物用盗難警報器、陸上の乗物用の交流電動機又は直流電動機(その部品を除く。)、自転車、自転車の部品及び附属品、タイヤ又はチューブの修繕用ゴムはり付け片」第25類 「被服、ガーター、靴下止め、ズボンつり、バンド、ベルト、履物、仮装用衣服、運動用特殊靴、運動用特殊衣服」36
事実及び理由
全容