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関連審決 無効2022-890048
無効2021-89004
無効2016-890064
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事件 令和 6年 (行ケ) 10057号 審決取消請求事件
5
原告 X1
原告 X2
同訴訟代理人弁理士 柴大介 10
原告 X3
同訴訟代理人弁護士 三木義一
同訴訟代理人弁理士 柴大介 15 被告 コミテ アンテルナショナル オリンピック
同訴訟代理人弁護士 辻居幸一 20 同佐竹勝一
同 渡邊由水
同訴訟代理人弁理士 藤倉大作
同 竹下薫
裁判所 知的財産高等裁判所
判決言渡日 2025/03/12
権利種別 商標権
訴訟類型 行政訴訟
主文 25 1 原告らの請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告らの負担とする。
1事 実 及 び 理 由第1 請求特許庁が無効2022−890048号事件について令和6年5月14日にした審決を取り消す。
5 第2 事案の概要1 特許庁における手続の経緯等? 被告は、次の商標(以下「本件商標」といい、その商標に係る下記内容の商標権を「本件商標権」という。)の商標権者である(甲8の5)。被告は、
平成28年(2016年)4月6日の優先権(スイス連邦(スイス国))を主10 張して本件商標を出願し、その後、出願人の地位を承継した訴外公益法人東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会(以下「組織委員会」という。)において、その設定登録を受けた。
被告は、令和3年12月27日受付で、特定承継による本件商標権の移転を受けた。
15 登録番号 第6008759号登録出願日 平成28年4月25日登録査定日 平成29年12月6日設定登録日 平成30年1月5日登録商標202商品及び役務の区分、指定商品及び指定役務商標登録原簿記載のとおりの、第41類(別紙1のとおり)その他第3類等に属するもの? 原告らは、令和4年6月21日、本件商標について、第41類の全指定役5 務(以下「本件請求役務」という。)の登録を無効とすることを求め、商標登録無効審判を請求した(無効2022−890048号。甲13の1)。
特許庁は、令和6年5月14日、「本件審判の請求は、成り立たない。」とする審決(以下「本件審決」という。)をし、その謄本は、同月23日に原告らに送達された。
10 ? 原告らは、令和6年6月20日、本件審決の取消しを求めて、本件訴えを提起した。
2 原告らが無効審判請求の手続において主張した無効理由の要旨? 無効理由1オリンピック競技大会2020年(令和2年)東京大会(以下「202015 年東京大会」という。)は、被告であるコミテ アンテルナショナル オリンピック(国際オリンピック委員会。以下「IOC」という場合と、
「被告」という場合があり、組織委員会と併せて「IOC等」という場合がある。、東京)都、日本オリンピック委員会(以下「JOC」という。、組織委員会及び日)本国による共同事業であるから、その事業者は、IOC、東京都、JOC、
20 組織委員会及び日本国で構成される共同事業者であるところ、以下のとおり、
本件商標は、商標法4条1項6号により登録を受けることができない。
@共同事業「2020年東京大会」の共同事業者が本件商標を共同出願した場合は、商標法4条2項が適用され同条1項6号は適用されないが、共同事業「2020年東京大会」の共同事業者を構成する一事業者に過ぎないI25 OC等が単独出願しても、同条2項は適用されず、同条第1項6号が適用されるので、本件商標は、商標登録を受けることができない。
3A本件商標は、非営利公益事業である「オリンピック競技大会」を表示する標章であり、文字標章「オリンピック」「OLYMPIC」「Olymp、 、
ic」及び図形標章「OLYMPIC SYMBOL」(5個の輪が一部重なって、上段に左から青、黒及び赤の3個、下段に左から黄色及び緑の2個並5 列する図形。以下、これを「オリンピックシンボルの図形」といい、これら文字標章とまとめて「オリンピック表示標章」という場合がある。)等を想起させるので、本件商標は、著名なオリンピック表示標章と類似する商標であることになり、IOC等が商標登録出願したとしても、商標法4条1項6号に基づき登録を受けることができない。本件商標はIOCではない組織委員10 会が出願しているので、同条2項が適用されず、同条1項6号は適用されるので、商標登録を受けることができない。
B本件商標は、非営利公益事業である「オリンピック競技大会」の著名なオリンピック表示標章に類似する標章であって、非営利公益事業である「オリンピック競技大会」の事業者であるIOCが商標登録出願していないので、
15 商標法4条2項が適用されず、IOC等が商標登録出願したとしても、同条1項6号に基づき登録を受けることができない。
? 無効理由2@IOC等の有する登録商標は、商標法30条1項柱書及び令和元年(2019年)5月17日法律第3号による改正前の商標法(以下「改正前商標20 法」といい、その改正を「法改正」という。)31条第1項ただし書により、
通常使用権を許諾及び専用使用権を設定することができない。IOC等は、
我が国で、本件商標を含む多数の商標登録をしており(甲4の1)、これは商標法4条2項に基づく登録商標と解される(以下、これら登録商標を「4条2項登録商標」という場合がある。。IOC等は、本件商標を含む4条2項)25 登録商標に基づき、我が国で、ライセンシーを商標権侵害状態に置くことを知りながら、少なくとも20年間という長期間にわたり、我が国全域で4条42項登録商標の違法ライセンス活動を展開している。このようなコンプライアンスの著しく欠如したIOC等の出願に係る本件商標の登録は、共同事業「2020年東京大会」の我が国の共同事業者及びスポンサー企業を商標権侵害状態に置き、スポンサー企業以外の者には本件商標の使用を差し止める5 というIOC等の権利濫用を招き(甲6) 公益及び商標秩序が著しく毀損さ、
れ、原告を含む我が国の需要者にとって不測の不利益を生じるおそれがあり、
穏当を著しく欠くもので、公正な商標秩序の下での自由競争を確保し産業の発達を目的とする商標法の目的に反する。
AIOC等及び共同事業「2020年東京大会」のかかる状況は、我が国10 が世界に向けて、権威の尊重と国際信義に基づき共同事業「2020年東京大会」を表示する標章を手厚く保護するという、我が国の世界に向けた誠実な姿勢を深く傷つけるものであり、国際信義に著しく反する。
B本件商標は、IOCが優先権主張をして商標登録出願し、組織委員会に出願人名義変更して、組織委員会が商標登録を受けた後に、本件商標権者と15 なった組織委員会が、本件商標権を被告(IOC)に譲渡してIOCが本件商標に係る商標権者となっている(甲8の5) 非営利公益団体による4条2。
項登録商標に係る商標権の譲渡は禁じられているから、本件商標に係る商標権を、組織委員会からIOCにした特定承継による移転は、商標法24条の2第2項に反する違法譲渡である。
20 したがって、本件商標に係る商標権は、IOCではなく組織委員会に帰属したままであるといえ、IOCが本件商標の商標権者として振る舞うことは違法行為であり、違法譲渡により登録原簿の記載が虚偽となり実体と乖離してしまっている本件商標の存続は、著しく公序良俗を害する。
C本件商標は、本来、共同事業者による共同出願であるべきところ、共同25 出願をせず単独出願をして商標法4条2項が適用されて商標登録されると、
IOCの共同事業者である東京都、JOC、組織委員会及び日本国による登5録商標の使用が商標権侵害状態に置かれる。IOC等は、このことを知りながら、IOC及び組織委員会が名義人変更を介して単独出願のまま商標登録し、実際に、違法ライセンス活動をして、IOCの共同事業者である東京都、
JOC、組織委員会及び日本国だけではなく、スポンサー企業を含めて商標5 権侵害状態に置いた。
D組織委員会は、商標権者でないIOCの了解の下で、他の共同事業者及びスポンサー企業に対して違法ライセンス活動をする一方で、我が国で2020年大会にちなんだ事業を行おうとする他の事業者に対して、アンブッシュ・マーケティング(故意であるか否かを問わず、団体や個人が、権利者で10 あるIOCや組織委員会の許諾なしにオリンピックに関する知的財産を使用したり、オリンピックのイメージを流用すること)対策と称して、本件商標権に基づき使用差止警告等の権利行使をしてきた(甲5の4)。
EIOCによる本件商標の登録出願は、違法ライセンスをしたスポンサー企業の不当利益を守るという不正な目的で、共同事業者及びスポンサー企業15 以外の業者等の使用を禁止するという権利濫用を行うためだけにした悪意の出願であるから、商標法が予定する商標秩序に反する。
これらによれば、本件商標は、商標法4条1項7号に違反して登録を受けたものであり、無効とすべきである。
? 無効理由320 株式会社Olympicグループ(以下「Olympicグループ社」という。)が小売業に使用する「Olympic」及び「オリンピック」の文字からなる商標(以下、これらをまとめて「引用商標」という。)は全国的に著名であるところ、本件商標は、引用商標に類似し、同社の運営するスーパーマーケットを使用して、需要者のための各種イベント等を実施できることは25 需要者が十分に想定でき、そのようなイベントは、本件商標の第41類の指定役務と重複する。本件商標は、他人の業務に係る商品若しくは役務を表示6するものとして需要者の間に広く認識されている引用商標に類似する商標であって、その商品若しくは役務又はこれらに類似する商品若しくは役務について使用をするものであるから、本件商標は、商標法4条1項10号に該当する。
5 ? 無効理由4引用商標は、需要者の間に広く認識され、本件商標はこれと同一又は類似しており、被告は不正目的で本件商標の出願・登録、使用をしたものであるから、本件商標は商標法4条1項19号に違反して登録を受けたものであり、
無効とすべきである。
10 3 本件審決の理由の要旨本件審決の内容は、別紙2審決書(写し)のとおりであるところ、要するに、
本件商標は、商標法4条1項6号に該当するが、同条2項が適用されるから、
同条1項6号の無効理由に該当しない、同項7号、10号及び19号に該当しないというものである。
15 4 原告ら主張の取消事由? 取消事由1手続違背? 取消事由2−1商標法4条1項6号該当性についての認定及び判断の誤り20 ? 取消事由2−2商標法4条1項7号該当性についての認定及び判断の誤り? 取消事由2−3商標法4条1項10号該当性についての認定及び判断の誤り? 取消事由2−425 商標法4条1項19号該当性についての認定及び判断の誤り第3 当事者の主張71 取消事由1(手続違背)について〔原告らの主張〕? 前記第2の2?のとおり、組織委員会から被告への本件商標に係る権利の譲渡は商標法24条の2第2項に反する違法譲渡であるから、本件商標は組5 織委員会に帰属したままであり、結果として被告は本件商標権の権利者ではない。被告は本件無効審判の被請求人適格がないにもかかわらず、本件審決は被請求人の適格性を審理しなかった点に重大な手続違背がある。
? 原告は、本件商標権の違法譲渡について公序良俗違反と関連させて主張しているところ、その内容からすれば、当該違法譲渡は無効であり、本件商標10 権は組織委員会に帰属したままであって、結果として被告が本件商標の商標権者ではなく、被請求人適格は組織委員会が有するのであり、被告が有しないことは必然の結論である。
〔被告の反論〕? 本件商標権の譲渡は商標法24条の2第2項に反するものでなく、被告に15 本件無効審判請求の被請求人適格があることは明らかであるから、本件審決には何ら重大な手続違背は存しない。
? 2020年東京大会はオリンピック競技大会の一つであるところ、オリンピック競技大会の各大会は、「オリンピズムとオリンピズムの価値に則って実践されるスポーツを通じ、若者を教育することにより、平和でより良い世20 界の構築に貢献すること(オリンピック憲章1条1項)」というオリンピック・ムーブメントの目的の達成のために、被告(IOC)、IF(国際競技連盟)、NOC(国内オリンピック委員会)及び開催国の組織委員会等、それに関わる複数の組織が互いに協力し開催されるものである。前記目的を達成するために、2020年東京大会で使用される標章を表す本件商標が出願され25 たのであって、各組織は最終的に本件商標権が被告に帰属することについて事前に合意している。
8また、本件商標は、オリンピック憲章11条に定義される「オリンピック・エンブレム」(オリンピック・リングに他の固有の要素を結びつけた統合的なデザイン)であり、2020年東京大会の開催にともない採択されたものである。本件商標は、2020年東京大会を表象するものであり、2020年5 東京大会は、オリンピック競技大会の一つであるから、本件商標は「オリンピック資産」である。オリンピック憲章7条4項に定められているとおり、
オリンピック資産に関するすべての権利は独占的に被告(IOC)に帰属する。
以上のとおり、本件商標権は被告に帰属すべきものであり、組織委員会を10 含む各組織もそのことを事前に合意していたものである。
ところで、本件商標は、平成28年(2016年)4月6日にスイス連邦(スイス国)においてした優先権主張に基づき、同月25日に、被告(IOC)名義で出願され、審査段階の平成29年(2017年)に組織委員会に譲渡され、出願人名義の変更がなされた後、平成30年(2018年)1月15 5日に組織委員会名義で設定登録され、2020年東京大会終了後の令和3年(2021年)12月に組織委員会から被告に譲渡されたものである。
被告名義で出願された本件商標(商標登録を受ける権利)が平成29年(2017年)に組織委員会にいったん譲渡されたのは、2020年東京大会の運営のために、運営主体である組織委員会に譲渡したからであって、20220 0年東京大会が終了した後、最終的には本件商標を被告に帰属させることを前提としていたものである。すなわち、組織委員会は、2020年東京大会における事業の一環として、本件商標を最終的には被告に譲渡することを前提としていったん本件商標を被告から譲り受けたにすぎない。
以上から、本件商標との関係では、被告と組織委員会とは実質的に同視し25 得るものである。
? 商標法24条の2第2項が、商標法4条2項に該当する商標権の譲渡を禁9止するのは、商標法4条2項に掲げる団体以外の主体に商標法4条1項6号の商標が帰属するのを防止するためであるところ、被告は商標法4条2項に掲げる団体に該当することから、被告への譲渡は商標法24条の2第2項が想定する譲渡には当たらないといえ、また、本件商標との関係では、被告と5 組織委員会とは実質的に同視し得るものであることから、組織委員会から被告への本件商標権の譲渡が商標法24条の2第2項に違反するものでないことは明らかである。
したがって、組織委員会から被告への本件商標権の譲渡は有効であり、被告に本件無効審判請求の被請求人適格があることは明らかであるから、本件10 審決には手続違背は存しない。
2 取消事由2−1(商標法4条1項6号該当性についての認定及び判断の誤り)について〔原告らの主張〕? 本件審決は、
「被告は日本において認許された外国法人(民法35条1項)15 であるとはいえないため、公益認定法を受けるための前提を欠いており、商標権者となるための権利能力を有しないから、無効審判における被請求人適格を有しない」との原告の主張に対し、
「被告には商標法77条3項において準用する特許法25条による権利の享有の禁止の規定は適用されず商標権者となるための権利能力を有するから、被請求人適格を有する」との判断をし20 たが、論理が破綻しており誤りである。
特許法25条及びパリ条約2条1項は、どちらも、日本国において権利能力を有しない外国人・外国法人に、特許に関する権利の享有を認める規定ではない。パリ条約2条1項との関係で特許法25条による権利の享有の禁止が適用されないことをもって、民法35条1項のもとで日本国において権利25 能力を有しない被告であっても、商標権者となるための権利能力を有するとの本件審決の判断は、特許法25条及びパリ条約2条1項との関係から論理10的に導き得ない。本件審決は誤りである。
? オリンピック憲章15条1項には、「IOCは国際的な非政府の非営利団体である」との記載があるが、この「国際的な非政府の非営利団体である」ことを客観的に証明できる根拠となる記載はないから、帰属や法人格が不明5 なIOCなる団体によるオリンピック憲章という私的なルールの中での主張にすぎない。事業の非営利公益事業性を民法に基づき判断すると、被告は、
平成18年改正後の民法における公益認定制度に基礎づけられた公益法人ではなく、事業も非営利公益事業とはいえないことになり、本件商標は商標法4条1項6号に該当しない。
10 ? 被告は、日本国において権利能力を有せず、前記第2の2?のとおり、本件商標は商標法4条1項6号に基づき登録を受けることができない。
〔被告の反論〕? パリ条約2条は同盟国の国民に対する内国民待遇について規定しているところ(乙3) 被告が設立されたスイス国は日本と同じくパリ条約の同盟国、
15 であるから、特許法25条3号の「条約に別段の定があるとき」に該当し、
民法35条は適用されず、商標法77条3項が準用する特許法25条3号の規定により被告には権利能力が認められるものである(パリ条約が特許法25条3号における「条約に別段の定があるとき」に該当することについて、
乙2の224頁)。
20 したがって、被告が商標権者としての権利能力を有することは明らかであり、本件審決の認定判断には何らの誤りも存しない。
原告は、民法や特許法に関する独自の主張を縷々述べて、被告が商標権者としての権利能力を有しない旨主張しているが、商標法77条3項が準用する特許法25条3号に基づき被告に商標権者となるための権利能力が認めら25 れることは、同一の原告被告間における標準文字商標「五輪」に係る無効審判請求についての別件審決取消訴訟事件の判決(知財高裁令和4年(行ケ)11第10065号同5年5月22日判決。以下「別件判決」という。乙1)において知財高裁も認めるところであり(同判決11頁24行目ないし12頁20行目)、原告の主張は同一論点の蒸し返しに過ぎない。
? 原告は、本件商標は商標法4条1項6号に該当するとした本件審決の認定5 判断には誤りがあるとして、縷々主張する。
原告の主張の趣旨は不明確であるが、原告が結論として本件商標は商標法4条1項6号に該当しない旨を主張しているのであれば、同号違反の無効理由がない(商標法4条2項に該当し、同条1項6号は適用されない)との本件審決の結論に影響を及ぼすものではないから、主張自体理由がないことは10 明らかである(別件判決15頁20行目ないし24行目参照)。
? 原告は、
「本件商標は、公益に関する事業であって営利を目的としないものを行っている者である組織委員会が、商標法4条1項6号に該当する商標について商標登録出願するものであるから、同条2項の規定により、同号の規定が適用されない」とした本件審決の認定判断には誤りがあるとして、縷々15 主張する。
しかしながら、被告は「公益に関する団体であって営利を目的としないもの」に該当し、オリンピック競技大会である2020年東京大会は「公益に関する事業であって営利を目的としないもの」に該当し、また、本件商標との関係では、被告と組織委員会とは実質的に同視し得るものであることから、
20 商標法4条2項の規定により、本件商標には、同条1項6号が適用されないことは明らかであり、したがって、本件審決の認定判断には何らの誤りも存しない。
被告が「公益に関する団体であって営利を目的としないもの」に該当し、
オリンピック競技大会が「公益に関する事業であって営利を目的としないも25 の」に該当することについて、被告が当事者となった審決である@無効2016−890064号審決(甲14の1) 及びA無効2021−89004、
127号審決(甲14の2)において、肯定的な判断がされている。
また、別件判決においても、オリンピック競技大会が「公益に関する事業であって営利を目的としないもの」であると認定されている(乙1の15頁25行目ないし26行目)。
5 さらに、不正競争防止法17条の「国際機関を表示する標章であって経済産業省令で定めるもの」として、被告、及び、被告の商標である単色または5色の同じ大きさの結び合う五つの輪(オリンピック・リング)からなるオリンピックシンボル図形が掲載されている(「不正競争防止法第16条第1項及び第3項並びに第17条に規定する外国の国旗又は国の紋章その他の記10 章及び外国の政府若しくは地方公共団体の監督用若しくは証明用の印章又は記号並びに国際機関及び国際機関を表示する標章を定める省令」の別表の第4。甲14の3)。
不正競争防止法17条の趣旨は、国際機関(政府間の国際機関及びこれに準ずるもの)の公益を保護する点にあるから、被告が公益に関する国際機関15 であることは明らかである。
以上のとおり、被告は「公益に関する団体であって営利を目的としないもの」に該当し、オリンピック競技大会である2020年東京大会は「公益に関する事業であって営利を目的としないもの」に該当する。
そして、本件商標との関係では、被告と組織委員会とは実質的に同視し得20 るものであることから、本件商標は、
「公益に関する事業であって営利を目的としないもの」である2020年東京大会を実施し、
「公益に関する団体であって営利を目的としないもの」である被告と実質的に同視し得る組織委員会が商標登録出願(組織委員会は登録査定時の出願人である)するものであるから、商標法4条2項の規定により、本件商標には、同条1項6号が適用さ25 れないことは明らかである。
以上から、本件商標は、商標法4条2項の規定により、同条1項6号の規13定が適用されないとした本件審決の認定判断に誤りはない。
3 取消事由2−2(商標法4条1項7号該当性についての認定及び判断の誤り)について〔原告らの主張〕5 ? 本件審決は、「本件商標権者による違法ライセンス活動等や他の事業者に対して権利行使を行ったことなどを認めるに足りる証拠も見いだせないから、
その登録出願が公序良俗を害するおそれがある行為とは評価しがたい」として商標法4条1項7号該当性を否定したが、原告が無効審判請求の手続において提出した違法ライセンスに関する証拠等について一切審理しておらず、
10 審理不十分であり、取り消されるべきである。
? 違法ライセンスの理由として、商標法30条1項専用使用権)及び改正前商標法31条1項通常使用権)ただし書に規定されていた商標法4条2項該当商標のライセンス(専用使用権の設定及び通常使用権の許諾)禁止条項違反が挙げられるほか、前記第2の2?のとおりである。
15 〔被告の反論〕? 被告において、本件商標につき、原告が主張するところの「違法ライセンス活動」を行ったという事実など存在しない。また、本件審決は、原告が無効審判請求の手続において提出した証拠等を評価した上で、違法ライセンス活動を認めるに足りる証拠も見いだせないと判断しているのであるから、違20 法ライセンス活動といった事実が存在しないことは明らかである。
? 被告は、第三者に対して本件商標について、専用使用権を設定したことはないから、商標法30条1項違反という事実は存在しない。
また、以下に述べるとおり、現行商標法31条1項は、商標法4条2項該当商標についても通常使用権の設定を認めるに至ったものであるところ、そ25 の趣旨は、許諾制限を撤廃しても立法趣旨との関係で齟齬は生じず、むしろ登録商標の活用の幅が広がり有益であるということであり、かかる趣旨は、
14法改正による改正前であっても変わることはない。したがって、4条2項該当商標の通常使用権の設定行為についても実質的な違法性はなかったということができ、商標法4条1項7号公序良俗違反であるということはできない。
5 この点につき、現行の商標法31条1項は、
「商標権者は、その商標権については他人に通常使用権を許諾することができる。」とのみ定めているところ、改正前商標法31条1項ただし書には「ただし、第4条第2項に規定する商標登録出願に係る商標権については、この限りでない。 と規定されてい」たが、改正により、ただし書が削除された。この改正前商標法31条1項た10 だし書の改正(削除)について、下記のとおり解説されている(乙5(「令和元年 特許法等の一部改正 産業財産権法の解説」特許庁総務部総務課制度審議室編)の163〜164頁)。
「? 改正の必要性近年、特に地方公共団体や大学等において、自らの公益著名商標に15 ついてライセンスを行った上で第三者に製品の製造やサービスの提供等を行わせることにより、知名度の向上、地元産品の販売促進、産学連携から生じた研究成果の活用等を行いたいとのニーズがある。
? 改正の方向性以上の現状を踏まえて、通常使用権の許諾制限の撤廃について、産20 業構造審議会知的財産分科会商標制度小委員会において検討した結果、
下記理由から、許諾制限を撤廃しても立法趣旨との関係で齟齬は生じず、むしろ登録商標の活用の幅が広がり有益であるとの結論に至った。
@ 公益著名商標の商標権者自身が第三者への通常使用権の許諾を行うことから、自身の権威を低下させるおそれは僅少であること。
25 A 通常使用権の許諾であれば、商標権者自身の使用も制限されないこと。
15B 通常使用権者により公益著名商標が適切に使用されない場合、不正使用取消審判(商標法第53条第1項)により商標登録が取り消されることから、需要者保護という観点からも支障が生じるおそれが少ないこと。」5 これまで述べたとおり、被告において、本件商標につき、原告が主張するところの「違法ライセンス活動」を行ったという事実など存在せず、また、
仮に改正前商標法31条1項ただし書に該当し得る事実があったとしても、
実質的な違法性はなく、そのことから直ちに、商標法4条1項7号の「公序良俗」違反であるということはできない。
10 以上より、本件商標権者による違法ライセンス活動等や他の事業者に対し「て権利行使を行ったことなどを認めるに足りる証拠も見いだせないから、その登録出願が公序良俗を害するおそれがある行為とは評価しがたい」として商標法4条1項7号該当性を否定した本件審決の認定判断には何らの誤りも存しない。
15 4 取消事由2−3(商標法4条1項10号該当性についての認定及び判断の誤り)について〔原告らの主張〕? 本件審決は、「本件商標は引用商標であるOlympicグループ社が使用する周知な『Olympic』及び『オリンピック』と類似するものであ20 り、商標法4条1項10号に該当する」との原告の主張に対し、
「引用商標が本件請求役務に類似する役務(例えば、セミナーやスポーツの興行の企画など)により使用されている実態は明らかではなく、提出された証拠からは、
引用商標の需要者の間に広く認識されていると認めるに足りる事実は見いだせないから、引用商標が、我国の需要者の間において広く知られるに至って25 いると認めることはできない」として同号該当性を否定したが、周知性の判断を誤っており、失当である。
16? Olympicグループ社は、ウィキペディアに説明があり、ネット検索の対象となっていること、自社のホームページで自社事業を周知していること、インターネットで検索をすると多数の関連情報が表示されることなどからも(甲10の5ないし20) 本件請求役務である第41類との関係におい、
5 て、引用商標は、他人の業務に係る役務を表示するものとして需要者の間に広く認識されている周知商標である。
〔被告の反論〕原告が提出した証拠からは、Olympicグループ社が使用する引用商標(商標「Olympic」及び商標「オリンピック」)が、本件請求役務である10 第41類との関係において、他人の業務に係る役務を表示するものとして需要者の間に広く認識されている周知商標であるという事実は認めることはできない。
よって、本件商標の商標法4条1項10号該当性を否定した本件審決の認定判断には何らの誤りも存しない。
15 5 取消事由2−4(商標法4条1項19号該当性についての認定及び判断の誤り)について〔原告らの主張〕? 「本件商標は、被告の事業『オリンピック競技大会』の著名表示商標であるオリンピック表示標章に類似し、本件商標の出願人である組織委員会は、
20 被告とは資本関係のない独立した法人であるから、被告との関係で他人に当たり、商標法4条1項19号に該当する」などの原告の主張に対し、
「同号に該当しない」とした本件審決の認定判断は、同号の「他人」に係る要件や「不正の目的」に係る要件の認定判断を誤っており、失当である。引用商標は、
他人の業務に係る役務(本件請求役務に類似する役務)を表示するものとし25 て需要者の間に広く認識されるに至っており、本件商標の出願・登録、使用について不正の目的も存するから、本件商標は、商標法4条1項19号に該17当し、これを否定した本件審決の判断は誤りである。
? 被告による違法ライセンス活動については、前記3〔原告らの主張〕?のとおり明らかである。
〔被告の反論〕5 既に述べたとおり、本件商標との関係では、被告と組織委員会とは実質的に同視し得るものであることから、商標法4条1項19号の「他人」の要件に該当しない。
また、既に述べたとおり、原告が主張する違法譲渡や違法ライセンス活動は存在しないから、商標法4条1項19号不正の目的」も存在しない。
10 したがって、本件商標の商標法4条1項19号該当性を否定した本件審決の認定判断には何らの誤りも存しない。
第4 当裁判所の判断1 取消事由1(手続違背)について原告らは、組織委員会から被告への本件商標権の譲渡は、商標法24条の215 第2項に反する違法譲渡であるから、本件商標権は組織委員会に帰属したままであり、被告は本件無効審判の被請求人適格がないにもかかわらず、本件審決が被請求人の適格性を審理しなかった点に重大な手続違背がある旨を主張する。
商標法24条の2第2項は、公益に関する団体であって営利を目的としない20 ものの商標登録出願であって、4条2項に規定するものに係る商標権は譲渡することができない旨を定めるところ、その趣旨は、これらの者の事業に使用するために登録が認められた商標が譲渡されてしまうと4条2項の趣旨が没却されることによるものと解される。商標権の移転がその事業とともにする場合が除かれていること(商標法24条の2第3項)にも鑑みると、事業の主体が25 商標権を有することは、4条2項の趣旨との関係で考慮されるものといえ、本件において、組織委員会と被告(IOC)とは、2020東京大会について互18いに協力しこれを開催する組織であり、その間の譲渡は、後記2のとおり公益に関する事業であって営利を目的としないものである2020東京大会を行う商標法4条2項に該当する組織の間での譲渡であるから、このような譲渡は、
商標法4条2項の趣旨を損なうものではなく、違法譲渡とは認められない。
5 そうすると、本件商標権の譲渡が違法譲渡でありその権利は被告に帰属しないとする原告の主張はその前提を欠く。
また、原告が、本件商標権の違法譲渡に関し、公序良俗違反として主張するところについても、後記のとおり理由がないから、本件商標の商標権者である被告を被請求人として審理判断した本件審決の手続に違法はなく、原告の主張10 する取消事由1は理由がない。
2 取消事由2−1(商標法4条1項6号該当性についての認定及び判断の誤り)について? 原告らは、被告は、外国会社ではなく、法律又は条約の規定により認許されていないから、我が国において認許された外国法人(民法35条1項)と15 はいえない、パリ条約2条は、同盟国に属する外国法人がパリ条約の他の同盟国で認許されることを定めたものでなく、パリ条約には、他にこれを定めた規定は存在せず、パリ条約の規定を根拠として、被告が、
「条約の規定により認許された外国法人」(民法35条1項ただし書)に該当するということもできないなどとして、被告は、日本国において、商標権者となるための権利20 能力を有しない旨を主張する。
この点につき、民法3条2項は、
外国人は、法令又は条約の規定により禁止される場合を除き、私権を享有する。」と規定し、同項の「法令の規定により禁止される場合」として、特許法25条は、
「日本国内に住所又は居所(法人にあっては、営業所)を有しない外国人は、次の各号の一に該当する場合25 を除き、特許権その他特許に関する権利を享有することはできない。」と、同条3号は「条約に別段の定があるとき」と規定し、商標法77条3項は、特19許法25条の規定を準用している。そして、特許法25条柱書きの「外国人」には、外国法人が含まれ、また、同条には、外国法人について、民法35条の認許された外国法人に限定する文言はないから、認許されていない外国法人も、特許法25条柱書きの「外国人」に該当するものと解される。
5 しかるところ、パリ条約2条1項は、
「各同盟国の国民は、工業所有権の保護に関し、この条約で特に定める権利を害されることなく、他のすべての同盟国において、当該他の同盟国の法令が内国民に対し現在与えており又は将来与えることがある利益を享受する。すなわち、同盟国の国民は、内国民に課される条件及び手続に従う限り、内国民と同一の保護を受け、かつ、自己10 の権利の侵害に対し内国民と同一の法律上の救済を与えられる。」と規定しており(乙3)、この規定は、商標法77条3項が準用する特許法25条3号の「条約に別段の定があるとき」に該当するものと解される。
そして、被告は、スイス国の法律に従って組織されて存続する法人であり(スイス国の公証人による法人国籍証明書(訳文)。当裁判所に顕著)、日本15 国及びスイス国は、いずれもパリ条約に加盟しており、
「同盟国の国民」であることからすると、被告については、上記「条約に別段の定があるとき」に該当し、民法3条2項による権利の享有の禁止は適用されないと解すべきである。
以上によれば、被告は、商標権その他商標に関する権利を享有することが20 できるものと認められるから、原告らの上記主張は、その前提において採用することができない。
? また、原告らは、被告は、我が国において認許された外国法人(民法35条1項)であるとはいえないため、公益認定法による公益認定を受けるための前提を欠いているから、
「非営利公益団体」であるということはできず、
「本25 件商標は、非営利公益事業であるオリンピック競技大会の著名なオリンピック表示標章と類似し、本件商標は、商標法4条1項6号に該当するが、同条202項の規定により、同条1項6号の無効理由に該当しない」とした本件審決の判断は誤りである旨主張する。
商標法4条1項6号の趣旨は、同号所定の公的機関、非営利公益団体及び非営利公益事業(以下「公的機関等」という。)を表示する標章であって著名5 なものと同一又は類似の商標が商標登録を受けると、当該商標の使用状況等によっては、公的機関等の権威や信用が損なわれたり、また、当該商標に関する業務が公的機関等に関わるものであるなどの誤解を招き、需要者・取引者に損害を与えるという弊害が生じ得ることから、そのような商標の登録を禁じることによって、上記弊害の発生を阻止し、公的機関等の権威及び信用10 を保持するとともに、出所混同の防止により需要者・取引者の利益を保護するものと解される。
これを本件についてみると、被告について、@被告(IOC)は、国際的な非政府の非営利団体であって、オリンピック競技大会を運営・統括しており、平和でよりよい世界の実現に貢献するというオリンピックの理念である15 オリンピック憲章に従い、オリンピズムを普及させる役割を担っていること(甲2の1、2、5)、Aオリンピック競技大会は、被告によって、開催都市と開催地の国内オリンピック委員会の協力の下で開催されている国際的スポーツ競技大会であって、スポーツを通じた社会一般の利益に資することを目的としていること(甲2の6)、B不正競争防止法17条の「国際機関を表示20 する標章であって経済産業省令で定めるもの」として、被告及びオリンピックシンボル図形が掲載されているところ(不正競争防止法第十6条第1項及び第三項並びに第十7条に規定する外国の国旗又は国の紋章その他の記章及び外国の政府若しくは地方公共団体の監督用若しくは証明用の印章又は記号並びに国際機関及び国際機関を表示する標章を定める省令4条の別表の第4。
25 甲14の3)、不正競争防止法17条の趣旨は、国際機関(政府間の国際機関及びこれに準ずるもの)の公益を保護することにあるとされていること(甲2114の4)などが認められる。これらの事実によれば、オリンピック競技大会は、
「公益に関する事業であって営利を目的としないもの」であること、オリンピック表示商標は、商標法4条1項6号の「公益に関する事業であって営利を目的としないものを表示する標章であって著名なもの」に該当するこ5 と、被告は、同条2項の「公益に関する事業であって営利を目的としないものを行っている者」に該当することが認められるから、原告らの上記主張は、
その前提を欠くものである。
したがって、原告らの上記主張は採用することができず、取消事由2−1は理由がない。
10 3 取消事由2−2(商標法4条1項7号該当性の判断の誤り)について? 原告らは、被告は「非営利公益団体」ではなく、被告の事業は「非営利公益事業」でもないこと、商標法4条2項に規定する商標登録出願に係る商標権について通常使用権を許諾することが禁止されていた(令和元年法律第63号による改正前の商標法31条1項ただし書)にもかかわらず、被告は、
15 本件商標について、その登録査定時までに、違法ライセンス活動を行っていたことなどによれば、本件商標の登録は、社会通念に照らして、著しく妥当性を欠くものであるから、本件商標は、
「公の秩序又は善良の風俗を害するおそれがある商標」(商標法4条1項7号)に該当し、これを否定した本件審決の判断は誤りである旨主張する。
20 そこで検討すると、商標法4条1項7号所定の「公の秩序又は善良な風俗を害するおそれがある商標」には、商標の構成自体が公序良俗を害するおそれがあるもののほか、
「商標を保護することにより、商標の使用をする者の業務上の信用の維持を図り、もって産業の発達に寄与し、あわせて需要者の利益を保護する」という商標法の目的(同法1条)に照らし、当該商標の登録25 出願の経緯において、公正な商標秩序に反し、著しく社会的相当性を欠く出願行為に係る商標も含まれると解される。
22本件商標は、前記第2の1?のとおり、上段に青色で組市松紋の図形、中段に青色で「TOKYO 2020」の文字、下段にオリンピックシンボルの図形を配した構成よりなるものであるところ、本件商標の構成自体が公序良俗を害するおそれがあるとは認められない。
5 被告が商標法4条2項の「公益に関する事業であって営利を目的としないものを行っている者」に、オリンピック競技大会が「公益に関する事業であって営利を目的としないもの」に、それぞれ該当することは、前記2で認定したとおりであり、出願人である組織委員会において、本件商標についてその登録査定時までに違法なライセンス活動を行っていたことを認めるに足り10 る証拠はなく、商標登録出願の経緯において、公正な商標秩序に反し、著しく社会的相当性を欠く出願行為を行った事実も認められない。
? 原告がこれに関連して主張するアンブッシュ・マーケティング(前記第2の2?D)とは、故意であるか否かを問わず、団体や個人が、権利者であるIOCや組織委員会の許諾なしにオリンピックに関する知的財産を使用した15 り、オリンピックのイメージを流用することを指すところ(甲6の1)、こうした行動は、前記オリンピック・ムーブメント(パラリンピックを含む)に公式に関与するように見せかけるものであり、排除する必要性の認められるものである。
この点、原告らは、被告や組織委員会につき、商標法30条1項(専用使20 用権)及び改正前商標法31条1項通常使用権)ただし書に規定されていた商標法4条2項該当商標の通常使用権の設定の禁止に係る条項違反も挙げて、本件商標は、商標法4条1項7号に該当する旨も主張する。
しかし、被告や組織委員会において、第三者に専用使用権を設定した事実は認められない。そして、通常使用権の許諾制限の撤廃に係る法改正は、改25 正前商標法31条1項ただし書の規定を廃止しても、同条の立法趣旨に反することがなく、かえって公益著名商標の適切な活用の必要性が高いことによ23るものであり(乙5)、現に、改正後の同項は、公布の日から起算して10日を経過した日から施行することとされた(同改正法附則1条2号。その余の改正法は概ね公布の日から1年を超えない範囲において政令で定める日が施行日とされた。同条本文)。これらのことからしても、本件商標権に係るアン5 ブッシュ・マーケティング排除のために仮に通常使用権の許諾と同視し得る事実関係があったとしても、前記商標法4条1項7号の趣旨に照らし、それが同号の公序良俗違反を基礎づけるものといえないことは明らかである。原告らの主張は前提を欠き、採用することができない。
したがって、原告らの主張する取消事由2−2は、理由がない。
10 4 取消事由2−3(商標法4条1項10号該当性の判断の誤り)について原告らは、Olympicグループ社は、
「株式会社Olympic」を中核企業とする複数の企業で構成される持株会社であり、その構成企業が、引用商標「Olympic」の下で、本件商標の指定商品・役務に含まれている、複数の事業を展開した結果、引用商標は、他人の業務に係る役務(本件請求役務15 に類似する役務)を表示するものとして需要者の間に広く認識されるに至っているから、本件商標は、商標法4条1項10号に該当し、これを否定した本件審決の判断は誤りである旨主張する。
しかしながら、商標法4条1項10号が適用されるためには、登録(査定)時のみならず、商標登録出願時においても同号に該当する事由がなければなら20 ないところ(商標法4条3項) 原告らが引用商標の周知性を裏付けるための証、
拠として提出する甲10の1ないし20は、いずれも本件商標の出願時以降のものである(例えば、株式会社Olympicグループの「ラヴィスケーティングボード」の紹介は平成30年12月3日のもの(甲10の10)「オリン、
ピックの店頭でライブを行っていた歌手の情報」を記載したツイートは令和325 年1月18日のもの(甲10の12) 株式会社Olympicグループがウェ、
ブサイトに掲載している「ワンポイントレッスン−犬の幼稚園」と題する動画24の一場面は令和4年5月2日のもの(甲10の17)等)から、これらの証拠によって、本件商標の商標登録出願時における周知性が直ちに認められるとはいえない。また、これらの証拠が、そこに示されたOlympicグループ社の売上高や沿革などから、本件商標の出願時及び登録(査定)時における引用5 商標の周知性を裏付けるとの趣旨で提出されていると解しても、これらの証拠は、原告ら主張の引用商標が、上記のいずれの時点においても、本件請求役務との関係において、他人の業務に係る役務を表示するものとして需要者の間に広く認識されている商標であることを認めるに足りるものではなく、他にこれを認めるに足りる証拠はない。
10 したがって、原告らの上記主張は採用することができず、取消事由2−3は理由がない。
5 取消事由2−4(商標法4条1項19号該当性の判断の誤り)について原告らは、引用商標は、他人の業務に係る役務(本件請求役務に類似する役務)を表示するものとして需要者の間に広く認識されるに至っており、本件商15 標の出願・登録、使用について不正の目的も存するから、本件商標は、商標法4条1項19号に該当し、これを否定した本件審決の判断は誤りであるなどと主張する。
しかしながら、前記4のとおり、原告ら主張の引用商標は、本件商標の出願時及び登録(査定)時において、本件請求役務との関係において、他人の業務20 に係る役務を表示するものとして需要者の間に広く認識されている商標であると認めることはできない。
また、本件商標の出願・登録、使用について、組織委員会において不正の目的があったものとも認められない。
したがって、原告らの上記主張は採用することができず、取消事由2−4は25 理由がない。
6 結論25以上のとおり、本件審決の手続に違法はなく、本件商標は、商標法4条1項6号に該当するが、同条2項に該当するものであり、また、同条1項7号、10号及び19号のいずれにも該当するとは認められないから、本件審決の判断に誤りはなく、原告ら主張の取消事由はいずれも理由がない。
5 その他原告らは、縷々主張するが、それらはいずれも理由がなく、本件審決に、その結論に影響する違法があるとは認められない。
よって、原告らの請求は、理由がないからこれを棄却することとして、主文のとおり判決する。
知的財産高等裁判所第3部10裁判長裁判官15 中 平 健20 裁判官今 井 弘 晃25 裁判官水 野 正 則26(別紙2審決書写し省略)27別紙1第41類 セミナーの企画・運営又は開催、電子出版物の提供、放送番組の制作、教育・文化・娯楽・スポーツ用ビデオの制作(映画・放送番組・広告用のものを除く。)、スポーツの興行の企画・運営又は開催、スポーツの興行の企画・5 運営又は開催に関する情報の提供、スポーツ競技結果の情報提供、インターネットを利用した画像・映像・映画の提供、当せん金付証票の発売、技芸・スポーツ又は知識の教授、献体に関する情報の提供、献体の手配、文化又は教育のための展示会の企画・運営又は開催、動物の調教、植物の供覧、動物の供覧、図書及び記録の供覧、図書の貸与、美術品の展示、庭園の供覧、洞窟の供覧、書籍の制作、
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