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関連審決 無効2023-890093
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事件 令和 6年 (行ケ) 10095号 審決取消請求事件
5
原告 特定非営利活動法人日本防災士機構
同訴訟代理人弁理士 涌井謙一
同 山本典弘 10 同鈴木一永
同 工藤貴宏
同 三井直人
被告 一般社団法人日本食育HEDカレッジ 15
同訴訟代理人弁理士 松田次郎
同訴訟代理人弁護士 早川大地
裁判所 知的財産高等裁判所
判決言渡日 2025/04/24
権利種別 商標権
訴訟類型 行政訴訟
主文 1 特許庁が無効2023−890093号事件について令和6年9月1920 日にした審決を取り消す。
2 訴訟費用は被告の負担とする。
事実及び理由
請求
主文同旨 5 第2 事案の概要 本件は、商標登録無効審判請求に係る不成立審決の取消訴訟である。争点は、
本件商標「日本食育防災士」の商標法4条1項6号、7号、10号、11号、1 5号又は19号の各該当性である。
1 前提事実(争いのない事実並びに後掲証拠及び弁論の全趣旨により認められ10 る事実) ? 当事者 ア 原告は、災害に対する減災と社会の防災力向上のための活動が期待され る、相当程度の専門性を持った防災士と呼称する指導的役割を持つ人材の 養成、確保、活用等により、わが国の防災と危機管理に寄与することを目15 的とし(定款3条)、防災士の認証を行い、及び防災士の資格称号を付与 し、並びに防災士登録台帳を備え付ける事業(定款5条1号)、防災士の 資質向上を図る事業(同条2号)、公的機関、自主防災組織、及び企業内 等において防災士の活用を図る事業(同条4号)、防災・危機管理・災害 救援ボランティア・医療等を目的とする団体や個人との連携を図る事業20 (同条5号)、防災と危機管理に関わる情報発信事業、及び講演会・シン ポジウム等の啓蒙事業(同条6号)等を行う、特定非営利活動法人である (甲111)。
イ 被告は、すべての人々に対して、「食育」「健康」「環境」「防災」の 普及に関し持続可能な事業等を行い、福祉の向上と国民の豊かな生活の実25 現に寄与することを目的とし、民間資格の認定事業及びそれに関する教育 事業等を行うことを目的とする、一般社団法人である(資格証明書、甲4 2 1)。
? 本件商標及び引用商標 ア 原告は、平成15年4月22日、「防災士」の文字からなる引用商標を 登録出願し、平成17年1月21日、設定登録を受けた(甲4)。
5 イ 株式会社クレバーエンタープライズは、令和3年11月2日、「日本食 育防災士」の文字(標準文字)からなる本件商標を登録出願し、同年12 月28日、登録査定され、令和4年3月3日、設定登録を受けた(甲70、
71)。
ウ 本件商標に係る商標権は、令和6年3月12日、特定承継により、被告10 に移転した(甲70)。
? 本件審判の手続の経緯等 原告は、令和5年12月26日、本件商標の商標登録を無効にすることに ついて審判を請求した。
特許庁は、これを無効2023-890093号事件として審理し、令和15 6年9月19日、「本件審判の請求は、成り立たない。」との本件審決をし、
その謄本は、同月27日、原告に送達された。
原告は、出訴期間内である同年10月25日、本件審決の取消しを求める 本件訴訟を提起した。
2 本件審決の理由の要旨20 本件審決は、以下の理由から、本件商標は、商標法4条1項6号、7号、1 0号、11号、15号又は19号のいずれにも該当しないと判断した。
? 本件各使用商標の周知性 本件各使用商標「防災士」は、その専門分野や事業分野の特殊性や限定的 な事業規模を鑑みれば、我が国の一般需要者の間において広く親しまれた著25 名な民間資格の一つとまではいえないが、本件商標の登録出願時及び登録査 定時において、少なくとも消防や警察などを中心とする防災関係者の間にお 3 いては、ある程度の周知性を獲得していたものと認められる。
? 商標法4条1項11号該当性 ア 本件商標と引用商標を比較すると、外観上、構成文字全体としては異な る語(資格名)を表してなるから、判別は容易である。
5 称呼においては、全体を一連に称呼するときは、語調、語感は異なる ものとなり、聴別は容易である。
観念においては、本件商標からは特定の観念は生じない、又は造語よ りなる固有の民間資格を連想させるから、相紛れるおそれはない。
したがって、両商標は、外観及び称呼において判別又は聴別は容易で10 あり、観念において相紛れるおそれはないから、それらが与える印象、
記憶、連想等を総合し全体的に考察すれば、役務の出所について誤認混 同を生じるおそれはなく、類似する商標とはいえない。
イ 本件商標は、まとまりのよい構成よりなり、全体で一連一体の造語を表 してなると看取することができるから、分離して観察することは取引上不15 自然である。
また、「防災士」の文字部分は、防災関連資格の名称を連想させるとは いえ、その専門分野や業務の内容を記述する語を組み合わせたにすぎず、
需要者、取引者に対して、自他役務の出所識別標識として強く支配的な印 象を与える要部とはいえない。
20 したがって、本件商標から「防災士」の文字部分だけを抽出して、引 用商標との類否を判断することは適切ではない。
? 商標法4条1項10号該当性 前記?と同様の理由から、本件商標は、引用使用商標「防災士」とは同一 又は類似する商標ではないから、商標法4条1項10号に該当しない。
25 ? 商標法4条1項15号該当性 引用使用商標は、防災関係者の間においてある程度の周知性を獲得してい 4 たとしても、我が国の一般需要者の間において広く親しまれた著名な民間資 格ではない。また、防災関連資格の名称としては独創性の程度は低い。
また、前記のとおり、本件商標と引用使用商標の類似性の程度は低い。
そうすると、本件商標をその指定役務について使用したとしても、これに 5 接する需要者は、引用使用商標とは異なる固有の民間資格を連想するとして も、引用使用商標又は原告を連想、想起し、当該役務が原告又は原告と経済 的若しくは組織的に何らかの関係を有する者の業務に係る商品又は役務であ るかのように、役務の出所について混同を生ずるおそれはない。
? 商標法4条1項6号該当性10 引用使用商標は、防災関係者の間においては、ある程度の周知性を獲得し ていたとしても、我が国の一般需要者の間において広く親しまれた著名な民 間資格ではないから、仮に公益に関する事業であって営利を目的としないも のであるとしても、著名なものとはいえない。
また、前記のとおり、本件商標と引用使用商標は、類似する商標ではない。
15 ? 商標法4条1項7号該当性 前記のとおり、本件商標をその指定役務について使用したとしても、これ に接する需要者は、引用使用商標又は原告を連想、想起し、役務の出所につ いて混同を生ずるおそれはないから、「防災士」の信用を毀損し、公正な競 業秩序を害したり、災害時における国民の安全の確保といった社会公共の利20 益に反したりすることはない。
その他、本件商標は、その構成自体がきょう激、卑わい差別的又は他人 に不快な印象を与えるような文字からなるものではなく、また、その登録出 願の目的及び経緯に何らかの不正があったことを示す証拠はない。
したがって、本件商標は、その登録を維持することが商標法の予定する秩25 序に反し、公の秩序又は善良の風俗を害するおそれのある商標ではない。
? 商標法4条1項19号該当性 5 引用使用商標は、日本国内の需要者の間に広く認識されている商標ではな く、本件商標とは同一又は類似する商標ではなく、また、本件商標は不正の 目的をもって使用をするものではない。
3 原告主張の審決取消事由 5 ? 商標法4条1項11号該当性の認定判断の誤り(取消事由1) ? 商標法4条1項10号該当性の認定判断の誤り(取消事由2) ? 商標法4条1項15号該当性の認定判断の誤り(取消事由3) ? 商標法4条1項6号該当性の認定判断の誤り(取消事由4) ? 商標法4条1項7号該当性の認定判断の誤り(取消事由5)10 ? 商標法4条1項19号該当性の認定判断の誤り(取消事由6)
当事者の主張
1 取消事由1(商標法4条1項11号該当性の認定判断の誤り)について (原告の主張) ? 「防災士」の周知著名性15 以下のとおり、「防災士」は、原告が認証する民間資格、その有資格者を 指し示すとともに、原告による防災士の育成・普及事業等を指し示す語とし て、需要者に広く知られ、著名の程度に至っている。
ア 周知著名性を裏付ける事情 (ア) 原告は、防災士の資格取得試験を実施し、認証する事業を行ってい20 る。その認証者数は、平成15年の試験開始以降年々増加し、令和2 年には20万人を超え、 令和6年8 月末現在では29万6214名 (外国3名を含む)に至っており、認証者の所在地は全都道府県にわ たっている(甲3、93)。
(イ) 原告は、防災士に関する事業や、防災士の実際の活動を紹介する「防25 災士REPORT」を毎年発行している。そして、これらの中でも紹 介されているように、多くの地方自治体、大学等が、防災士の育成、
6 資格取得の支援、資格取得後の研修、防災士養成講座の提供等を行っ ており、多くの防災士が、行政と連携するなどして防災に関するさま ざまな活動を行っている(甲17〜23、72〜92、102)。
また、これまでに32府県、74市区町村が防災士養成事業に参加し、
5 350を超える自治体が資格取得助成を実施しているほか、国土交通 省は、令和3年10月9日、防災士を対象とした研修会を実施してい る(甲12、25、91、92)。
(ウ) 「防災士」は、内閣府の平成22年版防災白書において取り上げられ、
国会審議(平成27年2月23日から令和3年3月10日まで)にお10 いても、たびたび言及されている(甲24、26〜29)。
(エ) 「防災士」は、朝日新聞社提供の現代用語事典「知恵蔵 mini」及び 小学館提供の「デジタル大辞泉」に掲載されている(甲30)。
(オ) 各種新聞やウェブサイトニュースでは、防災士に関する記事が、平 成16年6月から平成22年2月までに53件(甲118)、平成215 5年には57件(甲31)、平成26年には63件(甲117)、令 和2年には40件(甲34)掲載された。
(カ) 「防災士」の語を、本件商標の登録査定の前日である令和3年12 月27日以前のものに限定してインターネットで検索した結果をみる と、いずれも原告が事業として行う民間資格としての「防災士」に関20 する多数の検索結果が表示され、これと無関係な記述は見当たらない (甲36)。また、「防災に関する資格」を検索した結果においても、
「防災士」は必ずといってよい程、紹介されている(甲94〜99)。
イ 需要者について (ア) 本件各使用商標の周知性は、これらが使用されている役務について25 個別に判断されるべきであり、本件審決のいう、具体的内容も不明な 「その専門分野や事業分野の特殊性や限定的な事業規模に鑑みて」判 7 断されるものではない。
(イ) 本件各使用商標の周知性は、その役務に係る、防災に関する仕事をし、
又はしようとしている者、防災に関する知識や資格の取得に興味のあ る者等、「防災に関心を持つ者」を基準として判断されるべきである。
5 ? 商標の類否 ア 本件商標及び引用商標の指定役務、例えば「技芸や知識の教授」といっ た役務は、その提供に係る分野の知識や技芸について興味を持つ者に対 して提供されることが前提となるものであることに加え、両商標がいず れも「防災」という語を含むことからすれば、「防災」に関連した役務10 が提供されることは容易に想起することができるから、その役務の主た る需要者は、「防災に関心を持つ者」等である。
イ このような需要者においては、「防災士」の語は、「災害に関する資格 (民間資格)である防災士」、とりわけ「原告の認定する民間資格」を想 起させる語であり、自他役務の識別標識としての機能を強く発揮する部分15 である。
他方、本件商標を構成する「日本」、「食育」、「防災士」の間には 観念上の繋がりがなく、「日本食育」、「日本食育防災」、「食育防災」 といった語も存在しないから、本件商標について、需要者がこれを常に 一連一体に看取するとすべき理由はない。
20 したがって、本件商標は、「防災士」の文字部分が自他商品役務の識 別標識として機能する商標の要部であり、分離観察をしても取引上不自 然であるとはいえない。
ウ したがって、本件商標は、その需要者において、「ニホンショクイクボ ウサイシ」のほかに「ボウサイシ」の称呼を生じ、「防災士」の部分から、
25 「災害に関する資格(民間資格)である防災士」、「原告の認定する民間 資格」の観念を想起させるから、本件商標と引用商標は、称呼観念にお 8 いて相紛れるおそれのある類似商標である。
? 指定役務の類似性 本件商標の指定役務である「技芸・スポーツ又は知識の教授」は、引用商 標の指定役務と類似する。
5 ? したがって、本件商標は、商標法4条1項11号に該当する。
(被告の主張) ? 「防災士」の周知著名性 「防災士」が需要者において周知著名であることは否認する。
原告が挙げる証拠の多くは客観性、信用性に乏しいものである上、その内10 容も、「防災士」の周知著名性を裏付けるに足りるものではない。
また、引用商標の需要者は、その指定役務が例えば「技芸・スポーツ又は 知識の教授」(カッコ内の記載に「含む。」とあるとおり、防災に関連する 役務に限定されていない。)であるように、「技芸・スポーツ又は知識の教 授」等の一般需要者である。
15 ? 商標の類否 ア 前記?のとおり、「防災士」の語に強い自他識別力はない。
後記イのとおり、「食育」と「防災」は結びつきやすい語であることか らみても、本件商標は、一連一体の商標とみるべきである。
イ 本件商標から生じる観念については、本件商標の構成部分である「食育20 防災」は、「食育」「防災」それぞれの意味内容から、「食育に特化した 防災」といった意味を生じさせるものであり、「防災」に関する業務の中 で「食育」の分野に特化していることを示している。
同種の用語は、本件商標の出願時及び登録査定時において、「ペット防 災」「インスタント防災」「交通防災」「地震防災」等多数存在し、取引25 上一般に使用されているように(乙11〜22)、「防災」の語は他の既 成語の後ろに結合して一体の用語を形成し、「特定の分野に特化した災害 9 の防ぎ方」「特定のツールを使って防災意識を高める活動」などの観念を 生じさせるものである。
本件商標においても、近年、防災と食育を結び付ける意識が高まってお り(乙5〜10)、「食育防災」は、「食育に特化した防災」等の観念を 5 生じさせ、強固に結合しているから、本件商標からは、「日本の食育に関 する防災について一定の資格を持った者」という観念が生じる。
ウ したがって、本件商標と引用商標は、類似する商標ではない。
2 取消事由2(商標法4条1項10号該当性の認定判断の誤り)について (原告の主張)10 ? 原告は、定款に定められた事業(甲111・5条)として、前記1(原告 の主張)?ア(ア)、(イ)のものを含め、防災士の資格取得試験の実施、認証登 録、同試験受験のための研修講座を実施する民間研修機関等の認定のほか、
防災士の資格取得者に対する研修、防災・減災等に関する各種セミナー、シ ンポジウムなどを実施している(甲12、13、102)。
15 原告は、引用使用商標「防災士」に関する事業を長きにわたり継続してお り、本件商標の出願時及び登録査定時において、その需要者に広く知られる に至っている。
その他、前記1(原告の主張)と同様の理由から、本件商標と引用使用商 標は、類似する商標である。
20 ? 原告の前記?の業務は、本件商標の指定役務中の「セミナーの企画・運営 又は開催」と同一・類似の役務である。
? したがって、本件商標は、商標法4条1項10号に該当する。
(被告の主張) 引用使用商標は、引用商標と同様に、需要者の間に広く認識されたものでは25 なく、本件商標と類似する商標でもない。
3 取消事由3(商標法4条1項15号該当性の認定判断の誤り)について 10 (原告の主張) ? 本件商標と本件各使用商標の類似性の程度 前記のとおり、本件商標と本件各使用商標は類似する。
仮に、本件商標は全体が一連一体で不可分であると認識され、商標法4条 5 1項11号等の類似性の要件を満たすとまではいえないとしても、「防災士」 と、「日本食育」又は「日本」及び「食育」の語が結合した商標であると認 識されるものであるから、類似性の程度は高いものといえる。
? 本件各使用商標の周知性・独創性 「防災士」は、原告が資格の認証等の業務をしている民間資格を表すもの10 として使用されるとともに、様々な地方公共団体や学校等の教育機関等が資 格の取得の前提となる研修等を実施し、また、資格の取得を奨励し、一体と なってその事業が行われ、また「防災士」の資格を有する者がこれを用いて 活動を行うこと等によって、信用を蓄積している。それらによって、本件商 標の登録査定時よりも前に、原告の業務に係るものとして広く知られるに至15 っている(前記1(原告の主張)?アのほか、甲119〜149)。
? 本件商標の指定役務と引用使用商標に係る役務の性質、用途又は目的にお ける関連性の程度 原告及び原告がその事業を行うにあたって認証した団体等が提供する役務 は、一般需要者のうち、特に何らかの知識や技能を得ようとする者等に対し20 提供されるものであり、さらに、本件各使用商標に「防災」の語が含まれて いることからすれば、その役務は「防災」に関連するものであろうことは容 易に想像され、実際にそのとおりである。
一方、本件商標も、その提供する役務、特に指定役務中の「技芸・スポー ツ又は知識の教授、教育上の試験の実施、教育の分野における情報の提供、
25 実地教育、個人に対する知識の教授、知識又は技芸の教授、セミナーの企 画・運営又は開催」等は、一般需要者のうちの何らかの知識や技能を得よう 11 とする者に対し提供されるものであると考えられ、本件商標に「防災」とい う語が含まれていることから、本件商標についても提供される役務が「防災」 に関連するものであろうことも、容易に想像されるところである。
? その他の取引の実情等 5 ア 前記?によれば、本件商標及び本件各使用商標の取引者は、例えば「教 育」や「訓練の提供」、とりわけ「防災に関するこれらの事業を提供する 者」であり、その需要者は、一般需要者の中でも「防災に関心を持つ者」、
例えば、「防災に関心を持ち何らかの知識を得ようと企図したり、技能や 資格を取得しようと企図する者」等であるから、両者の取引者・需要者は10 共通しているといえる。
イ 本件商標には「食育」の語が含まれるため、「防災」の他、「食や食の 教育」に関連する何らかの役務が提供されるであろうことは想像がつくが、
被災時の食事の確保、防災備蓄食料等、食に関連することは「防災」の主 要なテーマの一つであり、実際に全国各地の防災士会や防災士等が「食」15 をテーマに含めた活動をしている事例は多々あり、「食育」に関連する活 動をしている例も見られる(甲151〜161)。
このように、本件商標と本件各使用商標に接する取引者・需要者が、
この両者に関連性を見出す場合は多いと考えられる。
ウ 被告は、その代表者が原告から認証を受けた「防災士」であるため、本20 件各使用商標の役務の提供主体と、何らかの関連性を窺わせるものである。
被告が、本件商標と本件各使用商標に共通する「防災に関連する役務」に ついて、「防災士」ではなく「日本食育防災士」を用いて役務の提供を行 うことにより、その差異はますます曖昧となり、需要者において混同を生 ずるおそれは極めて高いといわざるを得ない。
25 エ 本件商標の指定役務の需要者である一般需要者は、防災に関心を持つ者 であるとしても、専門知識等を有しない者も含まれており、高度の注意力 12 をもって役務の提供を受けるとはいえない。
? 以上より、本件商標「日本食育防災士」を、その指定役務中の「防災に関 連する役務」に使用した場合には、需要者において、その役務が原告により 提供されるものであるか、または、原告と経済的又は組織的に何らかの関係 5 がある者の業務に係る役務であるかの如く、役務の提供の主体について混同 を生ずるおそれがある。
したがって、本件商標は、商標法4条1項15号に該当する。
(被告の主張) ? 本件商標と本件各使用商標の類似性の程度10 前記のとおり、本件商標は、本件各使用商標と類似しない。
商標が非類似の場合に商標法4条1項15号が適用された事例は稀であり、
あるとしても、引用商標に高度な著名性が認められるケースである。
? 本件各使用商標の周知性・独創性 ア 前記のとおり、本件各使用商標は、需要者の間に広く認識されたもので15 はない。
なお、原告以外の者が行っている、各団体が行う養成講座、個々の防災 士や日本防災士会等の活動については、原告の業務に係る役務について本 件各使用商標が使用され、自他識別標識として機能しているといえるか否 かが不明である。
20 イ 本件各使用商標は、平易な既成語である「防災」と「士」を組み合わせ たもので、語尾に「士」を付すことにより一定の資格を持った者を表すこ とは一般的であるから、独創性は認められない。
? 役務の関連性その他取引の実情 ア 原告が行っていると主張する事業のうち、防災士の研修、認証等に関す25 るものは、防災士になろうとする者を対象とするものであり、防災士の 資質向上を図る事業等は、防災士を対象としたものであるから、いずれ 13 も、これらの需要者の通常の注意力をもってすれば、その出所を見誤る ことは稀である。
イ 本件商標の指定役務のうち、「技芸・スポーツ又は知識の教授、教育上 の試験の実施、教育の分野における情報の提供、実地教育、個人に対す 5 る知識の教授、知識又は技芸の教授、セミナーの企画・運営又は開催」 は、特に需要者を限定していない。
また、被告が本件商標を使用して行ってきた事業は、防災の中でも、災 害時の食事の重要性、調理方法、栄養管理といった分野に特化したもので ある。
10 ウ したがって、原告と被告が行う業務の間には、一定の関連性が認められ るとしても、需要者の範囲が異なる上、具体的な取引の実情においても、
混同を生じるおそれは少ない。
? 以上によれば、本件商標をその指定役務に使用した場合に、これに接した 取引者及び需要者に対し、原告の業務に係る「防災士」の表示を連想させて、
15 当該役務が原告、原告との間に緊密な営業上の関係等がある者の業務に係る 役務であると誤信されて、出所の誤認を生じさせることはなく、本件各使用 商標の有する顧客吸引力へのただ乗り希釈化を招くこともない。
4 取消事由4(商標法4条1項6号該当性の認定判断の誤り)について (原告の主張)20 ? 原告の行う、防災や災害時に活躍することができる人材である「防災士」 を育成等するという事業が、「公益に関する事業であって営利を目的としな いもの」に当たることは、明らかである。
? 原告は、東京都から「認定特定非営利活動法人」の認定を受けている。こ れは、高い税制優遇が適用される一方、直前の2事業年度において一定の基25 準を満たす者のみが受けることができるものであるから、原告が、比較的形 式的にその認証がなされる「特定非営利活動法人」よりも高い公益性を有す 14 る事業を行っていることを示している。
? 原告が、これら公益に資する事業を行うに当たり、一貫して本件各使用商 標「防災士」をその事業を表示する標章として使用していること、「防災士」 がその需要者において著名の程度に至っていること、本件商標が本件各使用 5 商標と類似することは、前記のとおりである。
? したがって、本件商標は、商標法4条1項6号に該当する。
(被告の主張) ? 原告がその事業において使用している出所識別標識は「特定非営利活動法 人日本防災機構」である。「防災士」の名称で業務を遂行しているのは個々10 の「防災士」であって、原告ではない。
? 本件各使用商標が「著名なもの」でないこと、本件商標と類似しないこと は、前記のとおりである。
5 取消事由5(商標法4条1項7号該当性の認定判断の誤り)について (原告の主張)15 ? 「防災士」は、原告の提供する事業及び役務に係る名称としてその需要者 (防災に関心を持つ者)に広く知られるに至っているところ、民間資格の名 称であっても公的な場面も含めた活動が期待されている側面を持つものであ り、これを名乗ることを許されるのは、原告により認定された、災害に関す る一定の専門的知識及び技能を有する者のみに限られている。
20 本件商標のように、「防災士」に何ら関連を有しない「日本食育防災士」 の語のようなものについて併存登録を認め、その両者の使用を異なる者に許 容することは、その需要者・取引者に、当該商標が原告の事業にかかる「防 災士」と何らかの関連を有するものであるかの如き誤認を生じせしめること になる。
25 ? 「○○防災士」のような商標が、安易に「防災士」とは非類似商標である と判断され、多数登録されて何ら制限なく使用されるとすれば、無用な混乱 15 を生ずるおそれがあることが明らかであって、原告及び防災士の資格取得者 がこれまでの様々な活動により信用を蓄積してきた「防災士」の社会的信用 を毀損し、防災士に関する事業自体にも支障をきたし、公正な競業秩序も保 たれない。
5 ? このような事態は、社会公共の利益にも反し、社会の一般的道徳観念に反 するから、本件商標は、商標法4条1項7号に該当する。
(被告の主張) 前記のとおり、本件商標は「防災士」と類似せず、本件商標をその指定役務 に使用したとしても、本件各使用商標や原告を連想、想起させ、役務の出所に10 混同を生ずるおそれはないから、原告の主張は失当である。
6 取消事由6(商標法4条1項19号該当性の認定判断の誤り)について (原告の主張) ? 前記のとおり、「防災士」は、原告の業務に係る役務を表示するものとし て国内の需要者に広く知られており、本件商標はこれと類似する商標である。
15 ? 「防災に関連する一定の知識や資格をもった者」等を表し得る語としては、
例えば「防災アドバイザー」、「防災プランナー」のような選択肢が存在す るにもかかわらず、原告以外の第三者が、造語である「防災士」に他の語を 結合したにすぎない商標を採択する必然性は皆無であるから、周知の「防災 士」と混同を生じさせる等の不正の目的があることが推認できる。
20 ? したがって、本件商標は、商標法4条1項19号に該当する。
(被告の主張) ? 本件各使用商標が「著名なもの」でないこと、本件商標と類似しないこと は、前記のとおりである。
? 被告代表者は、本件商標の出願前から「防災」と「食育」を関連付けた活25 動を行っており、不正の目的は一切ない。
当裁判所の判断
16 当裁判所は、本件商標は「防災士」部分のみを抽出して分離観察することは 相当ではなく、全体観察した場合には本件各使用商標との類似性は否定される から、本件審決の商標法4条1項11号及び同項10号該当性の認定判断に誤 りはないが、その同項15号該当性の認定判断については誤りがあるから、本 5 件審決は、取り消されるべきものと判断する。その理由は、次のとおりである。
1 取消事由1(商標法4条1項11号該当性の認定判断の誤り)について ? 本件商標について ア 本件商標は、「日本食育防災士」の文字を標準文字で表してなり、その 全体が一行でまとまりよく表示されている。
10 本件商標からは、「ニホンショクイクボウサイシ」の称呼が生じる。
「日本食育防災士」は造語であると認められるが、その構成中、「日本」 は我が国の国名であり、「食育」は「食材・食習慣・栄養など、食に関 する教育」を、「防災」は「災害を防止すること」を意味し、「士」は 「一定の資格・役割を持った者」をも意味し、「弁護士」「栄養士」な15 どの国家資格のほか、多くの民間資格の名称に用いられる語であるから (甲37、38、98、弁論の全趣旨)、本件商標からは、「我が国に おける食育と防災に関する何らかの資格、その資格を有する者」という 観念を生じ得る。
イ なお、被告の主張及び提出証拠(乙5〜22)、さらに、被告及び被告20 代表者の事業や活動の実績等(甲41〜43、45〜64、69)を検 討しても、「防災食育センター」「食育防災センター」といった用語が 使用されていることは認められる(甲69)ものの、本件登録査定日に おいて、「食育防災」という用語が一般的に使用されていたり、本件商 標の指定役務の需要者(後記?エ)において、広く知られるに至ってい25 たりしていたとまでは認められない。
? 引用商標について 17 引用商標は、「防災士」の文字を一行で表示されてなり、「ボウサイシ」 の称呼が生じ、前記の「防災」と「士」の語義から、「防災に関する何らか の資格、その資格を有する者」という観念を生じる。
? 本件商標の分離観察の可否 5 原告は、「防災士」の語について、原告が認証する民間資格及びその有資 格者を指し示すとともに、原告による「防災士」の育成・普及事業等を指し 示す語として、需要者に広く知られた著名な語であるから、本件商標の「防 災士」の文字部分は、自他識別標識として機能する商標の要部であり、分離 観察が許される旨主張するので、この点について検討する。
10 ア 複数の構成部分を組み合わせた結合商標は、その構成部分全体によって 他人の商標と識別すべく考案されているものであるから、その構成部分の 一部を抽出し、この部分だけを他人の商標と比較して商標そのものの類否 を判定することは原則として許されない。しかし、商標の構成部分の一部 が、当該商標の指定商品・役務の取引者、需要者に対し商品又は役務の出15 所識別標識として強く支配的な印象を与えるものと認められる場合や、そ れ以外の部分から出所識別標識としての称呼観念が生じないと認められ る場合等、商標の各構成部分がそれを分離して観察することが取引上不自 然であると思われるほど不可分的に結合しているものと認められない場合 には、商標の構成部分の一部を抽出し、当該構成部分だけを他人の商標と20 比較して商標の類否を判断することも許されるというべきである(最高裁 昭和37年(オ)第953号同38年12月5日第一小法廷判決・民集1 7巻12号1621頁、最高裁平成3年(行ツ)第103号同5年9月1 0日第二小法廷判決・民集47巻7号5009頁、最高裁平成19年(行 ヒ)第223号同20年9月8日第二小法廷判決・集民228号561頁25 参照)。
イ 原告は、民間資格である「防災士」の認証、資格称号の付与、防災士の 18 資質向上を図る事業等を行っているところ(前提事実?ア)、証拠(以下 の各項に掲げる。)及び弁論の全趣旨によれば、この「防災士」について、
以下の事実が認められる。
(ア) 「防災士」については、防災に関する基礎的な専門知識や技能を有す 5 る専門家の資格として、防災関係者有志によって制度化に向けた運動 が進められ、平成14年3月、原告の設立総会が開催され、その会長 にはA・元兵庫県知事が就任し、同年7月、特定非営利活動法人の認 証(甲112)を受けた。現在の代表者理事長は、元総務省消防庁次 長である(甲3、12、14〜16、22、68、112)。
10 (イ) 原告は、平成30年1月5日、東京都知事より、特定非営利活動法人 のうち、その運営組織及び事業活動が適正であって公益の増進に資す るもの(特定非営利活動促進法44条1項)としての認定を受け、令 和5年6月20日、同認定の更新を受けた(甲113、114)。
(ウ) 原告は、平成15年以降、「防災士」の資格取得試験を実施し、資格15 を認証する事業を行っており、その累計認証者数は、令和3年4月時 点で21万人を超えた(甲12、23)。なお、令和5年6月時点の 認証登録者数は25万9063人(甲11)であり、原告作成の一覧 表(甲93)によれば、令和6年8月末現在では29万6214人と なり、認証登録者数は毎年増加していることが窺える。認証登録者の20 所在地は全都道府県にわたっている(甲3、11、12、17〜23、
93)。
被告は、これらの数字の信用性を争うが、原告の活動実績等((ア)、
(イ)、(エ)、(オ))に照らすと、少なくとも公表資料に掲載された数字は 一定の根拠と正確性を有するものと認められ、これを左右するに足り25 る証拠はない。
(エ) 原告から「防災士」の認証を受けるためには、原則として、原告が認 19 証した研修機関が実施する「防災士養成研修講座」を履修した後に、
原告の実施する資格取得試験に合格する必要があるところ、令和5年 3月時点で、32の府県、74の市区町等が、原告との間で防災士研 修実施に関する協定を締結し、44の大学、高等専門学校等が研修機 5 関として認証されており(甲12。原告作成の一覧表(甲91)では、
令和6年度における防災士養成研修実施機関の数は、府県等が28、
市・町等が48、大学、高等専門学校等が50、民間法人が3となっ ている。)、研修費用及び認証費用の助成を行っている自治体も多数 あった(甲12、13、17〜23、72〜92)。
10 なお、この防災士養成研修実施機関の数は、本件登録査定日(令和3 年12月28日)より後のものであるが、前記(ウ)の防災士の認証者数 や上記証拠の内容から、本件登録査定日においても、これに近い状況 にあったことは推認することができる。
(オ) 原告は、平成26年以降、防災士に関する事業や、防災士の実際の活15 動を紹介する冊子である「防災士REPORT」を毎年発行しており、
同冊子は、地方公共団体の防災担当部署、防災士有志により設立され た特定非営利活動法人日本防災士会(以下「日本防災士会」という。) の各都道府県支部のほか、各種防災イベントにおいて配布されている。
令和3年12月までに発行されたこれらの冊子では、地方自治体、大20 学による前記(エ)の「防災士養成研修講座」等の防災士養成に関する事 例のほか、原告、地方自治体、各種機関・団体による防災士の活動の 支援、資格取得後の研修、日本防災士会や地域の防災士による地域、
職場等の防災訓練における指導、災害対応マニュアルの作成支援、防 災に関する啓発活動等の、防災に関するさまざまな活動の事例が紹介25 されている(甲14、17〜23、115)。
(カ) 内閣府発行の平成22年版防災白書(甲24)において、民間におけ 20 る防災リーダーの育成の事例として、原告の認証する「防災士」が取 り上げられた。 また、内閣府等が毎年主催する「防災推進国民大会 (ぼうさいこくたい)」においては、平成29年から令和3年までの 毎年、日本防災士会による企画出展と、防災士による講演等がなされ 5 ている(甲119〜129)。
(キ) 「防災士」の語は、インターネット版の辞典類である朝日新聞社提供 の現代用語事典「知恵蔵 mini」及び小学館提供の「デジタル大辞泉」 に、原告が認定する民間資格であると掲載されているが、これら以外 の一般的な国語辞典、用語辞典、百科事典等に掲載されていることを10 示す証拠はない。なお、少なくとも「知恵蔵 mini」には、一般消費者 に周知とはいい難い 用語も相当数掲載されている(甲30、乙1、
2)。
(ク) 各種新聞やウェブサイトニュースでは、防災士に関する記事が、平 成16年6月から平成22年2月までに53件(甲118)、平成215 5年には57件(甲31)、平成26年には63件(甲117)、令 和2年には40件(甲34)掲載された。もっとも、原告提出の各証 拠からは、見出し以外の記事内容が必ずしも明らかでなく、紙媒体の ものは記事の大きさが不明で、相当割合あるウェブサイトニュースの 閲覧件数も不明である。
20 (ケ) 防災に関する資格を紹介する6つのウェブサイトでは、4つから5つ の主な資格のみを取り上げたものにおいても、原告の認証する「防災 士」が取り上げられている(甲94〜99)。
ウ 以上の認定事実によれば、原告が認証する民間資格である「防災士」は、
本件登録査定日(令和3年12月28日)において、認証者数が21万人25 を超えており、日本全国の多数の地方自治体や大学等による資格試験受験 のための防災士養成研修や資格取得の支援、地方自治体、各種機関・団体 21 による防災士の活動の支援、研修(原告によるものを含む)、日本防災士 会や各地域の防災士によるさまざまな防災に関する活動がなされてきたこ と、これらの実績等は、新聞等を通じて一定程度報道され、原告も毎年発 行する「防災士REPORT」の配布等を通じて紹介していることが認め 5 られる。
これらの実績等は、官公庁、地方自治体といった公的な防災関係機関の 施策や、防災士を含め、防災に関する各種団体等の関係者によるものが中 心であるが、その結果として、防災について原告が認証する民間資格であ る「防災士」、ひいては「防災士」の語は、本件登録査定日(令和3年110 2月28日)において、防災に関する関係機関、団体の関係者と、防災又 は防災に関する資格について関心を有する者の間においては、広く知られ ていたと認められ、これに反する証拠はない。
エ 他方、本件商標の指定役務は、「技芸・スポーツ又は知識の教授」、そ の他別紙商標目録記載1のとおりであるところ、本件商標には「防災士」15 の文字が含まれており、本件商標から「我が国における食育と防災に関す る何らかの資格、その資格を持った者」という観念が生じ得ることを考慮 すると、本件商標の指定役務の需要者にも防災又は防災に関する資格につ いて関心を有する者が当然に含まれるものと考えられる。したがって、少 なくともこのような本件商標の指定役務の需要者の間においては、「防災20 士」の語は、広く知られていたということができる。
オ しかしながら、そのことから直ちに、本件商標の「防災士」の構成部分 が、その指定役務の需要者に対し、役務の出所識別標識として強く支配 的な印象を与えるものとして、当該構成部分だけを抽出して本件各使用 商標と比較し、本件商標そのものの類似を判断することができるという25 ことはできない。すなわち、「防災士」の語は、防災又は防災に関する 資格について関心を有する者にとっては広く知られていたとはいえ、一 22 般の国語辞典や用語辞典等に掲載されるほど周知性があったわけではな い。
他方、本件商標は「日本食育防災士」の標準文字を一行でまとめて表 してなるもので、「防災士」の文字部分だけが独立して見る者の注意を 5 引くように構成されているわけではない。また、本件商標に含まれる 「食育」の文字は、「防災」とは別に「食材・食習慣・栄養など、食に 関する教育」という独自の意味を有するものであり、「食育」と「防災」 との組合せも、証拠上、ありふれた組合せであるとは認められないから、
「食育防災士」は新たに造られた言葉として、独自の識別機能を有する10 というべきである。
したがって、本件商標の「防災士」の部分以外の構成部分又はその組 合せからおよそ出所識別標識としての称呼観念が生じないなどという ことはできず、かつ、前記の「防災士」の語自体の周知性の程度を併せ 考慮すると、本件商標の「防災士」の構成部分を分離観察することは相15 当でなく、本件商標は一連一体の商標とみるべきであるから、原告の主 張は、採用することができない。
? 本件商標と引用商標の対比 本件商標と引用商標は、前記?、?のとおり、外観称呼及び観念を異に するものである。両者は、外観の「防災士」の部分、称呼の「ボウサイシ」20 の部分及び観念の一部内容において共通するといえるとしても、共通する文 字は3文字にすぎず、本件商標を一連一体の商標とみるべきことからすると、
その差は大きく、判別は容易である。「日本食育防災士」が「防災士」と取 り違えられたことにより出所の誤認混同が生じていることを認めるに足りる 証拠もない。本件商標と引用商標が与える印象、記憶、連想等を総合し、本25 件商標と引用商標との類似性を全体的に考察した場合、本件商標それ自体は、
商標法4条1項11号の「これに類似する商標」とはいえない。
23 ? 取消事由1についての結論 したがって、本件商標は商標法4条1項11号に該当するということはで きず、取消事由1には理由がない。
2 取消事由2(商標法4条1項10号該当性の認定判断の誤り)について 5 引用使用商標は、「防災士」の文字からなり、実質的に引用商標と同一の商 標というべきであるから、前記1と同様の理由から、本件商標は、引用使用商 標と類似する商標とはいえない。
したがって、本件商標は、商標法4条1項10号の「これに類似する商標」 に該当するということはできず、取消事由2には理由がない。
10 3 取消事由3(商標法4条1項15号該当性の認定判断の誤り)について ? 「他人の業務に係る商品又は役務と混同を生ずるおそれ」について 商標法4条1項15号は、周知表示へのただ乗り及び希釈化を防止し、商 標の自他識別機能を保護することによって、商標使用者の業務上の信用の維 持及び需要者の利益の保護を目的とするものであるから、同号にいう「他人15 の業務に係る商品又は役務と混同を生ずるおそれがある商標」には、当該商 標をその指定商品又は指定役務(以下「指定商品等」という。)に使用した ときに、当該商品等が他人の商品又は役務(以下「商品等」という。)に係 るものであると誤信されるおそれがある商標のみならず、当該商品等がこの 他人との間に緊密な営業上の関係又は同一の表示による商品化事業を営むグ20 ループに属する関係にある営業主の業務に係る商品等であると誤信されるお それ(広義の混同を生ずるおそれ)がある商標を含むものと解するのが相当 である。
そして、同号の「混同を生ずるおそれ」の有無は、当該商標と他人の表示 との類似性の程度、他人の表示の周知著名性及び独創性の程度や、当該商標25 の指定商品等と他人の業務に係る商品等との間の性質、用途又は目的におけ る関連性の程度並びに商品等の取引者及び需要者の共通性その他取引の実情 24 などに照らし、当該商標の指定商品等の取引者及び需要者において普通に払 われる注意力を基準として、総合的に判断されるべきである(最高裁第三小 法廷平成12年7月11日判決・平成10年(行ヒ)第85号・民集54巻 6号1848頁〔レールデュタン事件〕参照)。
5 ? 本件商標と本件各使用商標との類似性の程度 ア 前記したところによれば、本件商標は、商標法4条1項10号又は同項 11号の適用との関係では、本件各使用商標と類似するものではないが、
本件商標の外観のうち「防災士」の部分、称呼のうち「ボウサイシ」の 部分は、それぞれ本件各使用商標と同一であり、観念においても「防災10 に関する何らかの資格、その資格を有する者」という要素において共通 性が認められる。
イ 本件商標は、本件各使用商標との関係で、このような共通性を有する限 度では類似性を有する一方、本件商標の指定役務の需要者であって、防災 又は防災に関する資格について関心を有する者(前記1?エ)の間におい15 ては、本件各使用商標は周知である。そうすると、本件商標「日本食育防 災士」は、本件各使用商標「防災士」と区別して識別することができるも のではあっても、その需要者からみれば、「防災士」と全く無関係なもの ではなく、何らかの関連性を有する資格ではないかという連想を生じさせ 得るものである。
20 ? 本件各使用商標の周知著名性及び独創性の程度 ア 前記1?エのとおり、本件商標の指定役務の需要者には、防災又は防災 に関する資格について関心を有する者が含まれており、このような需要者 の間においては本件各使用商標は周知であると認められる。
イ 本件各使用商標は、「防災」の語に資格者を示す「士」を加えたにすぎ25 ず、その独創性の程度は高いとはいえない。
? 本件商標の指定役務と原告の業務に係る役務との間の性質、用途又は目的 25 における関連性の程度、役務の取引者及び需要者の共通性、その他取引の実 情 ア 原告は、防災に関する民間資格である「防災士」の資格の認証、防災士 の資質向上を図る事業や防災に関する啓蒙活動等を行うことを目的とし 5 (前提事実?ア)、前記1?イによれば、原告は自ら実際にそれらの活動 を行っているほか、原告の認定を受けた多数の地方自治体や大学等が、防 災士養成研修実施機関として、防災士の資格試験受験のための研修を実施 するなど、原告の「防災士」に係る役務の提供は、原告のみならず、原告 が認めた関係団体を通じても行われていること、原告から認証を受けた防10 災士や防災士の団体である日本防災士会が、地域、職場等の防災訓練にお ける指導、災害対応マニュアルの作成支援、防災に関する講演等の啓発活 動等、防災に関するさまざまな活動を行っていることが認められる。
しかるところ、防災と食に関連するテーマは、本件登録査定日前から、
防災士が講師として参加する防災に関する地方自治体等の行う啓蒙活動等15 において繰り返し取り上げられている(甲152〜161)。このことは、
「防災」と「食」とが密接に関連しており、防災に関係する食の問題が原 告の業務に係る役務(防災士の育成及び活用、防災等を目的とする団体・ 個人との連携、講演会・シンポジウム等の啓蒙活動等)の対象分野の一つ であることを示すものである。
20 他方、本件商標の指定役務(技芸・スポーツ又は知識の教授、教育上の 試験の実施、セミナーの企画・運営または開催、電子出版物の提供、放送 番組の製作等)は、被告の事業の一つである「防災・非常用途の食糧品及 びツールに関する商品情報の収集、危機管理情報の収集、分析、提供サー ビス」(甲41・定款第2条)に係る役務として提供されるときは、いず25 れも、防災と食をテーマとするという意味において、本件各使用商標を使 用して行う原告の啓蒙活動等の業務と対象分野が重なることになる。被告 26 代表者は、現に災害時の食料の確保、備蓄、配給、食の安全等について普 及活動等を行っており(甲46〜62、105)、その活動を紹介する記 事の多くでは「日本食育防災士」に対する言及がされていることが認めら れる(甲51〜53、55〜58、60)。
5 そうすると、本件商標の指定役務と原告の業務に係る役務との間の性質、
用途又は目的における関連性の程度は、高いというべきである。
イ 本件商標の指定役務の需要者と本件各使用商標に係る原告の業務の需要 者は、いずれも防災又は防災に関する資格に関心を有する者が含まれるか ら、需要者の共通性が認められる。
10 ウ その他の取引の実情 静岡県は、原告から防災士養成研修実施機関の認定を受けているほか、
平成17年以降、名称に関する原告の承諾を得て、独自に「静岡県ふじ のくに防災士」(平成21年までは「静岡県防災士」)を養成しており、
原告が認証する「防災士」とは別のものであることの注意喚起とともに、
15 ホームページにおいて告知している(甲12、92、133、137の 6-4、弁論の全趣旨)。このことは、逆にいえば、一般に「防災士」 の名称は、その前に付加される語句如何にかかわらず、原告の認証する 「防災士」と関係するものであるとの誤解が生じやすいという現状認識 を示すものということができる。
20 ? 混同のおそれについての判断 以上の事情は、本件登録査定日のほか、その約2か月前である本件商標の 登録出願日においても(商標法4条3項)認められる。これらの事情を総合 すると、本件商標をその指定役務に使用するときは、その需要者の普通に払 われる注意力を基準としても、その役務が原告の「防災士」と何らかの関係25 を有する防災関係の資格であって、原告又は原告が認めた関係機関が運営・ 管理するものの業務に係る役務であるとの混同(広義の混同)を生ずるおそ 27 れがあるということができる。
? 被告の主張について ア 本件商標と本件各使用商標の類似性の程度及び本件各使用商標の周知 性・独創性については、それぞれ前記の限度で認められ、被告の主張のう 5 ち、これに反する部分は採用することができない。
イ 被告は、原告が行う事業は、防災士になろうとする者又は防災士を対象 とするものであるから、需要者の通常の注意力をもってすれば、その出所 を誤ることはない旨主張する。
しかし、原告が行う事業は、防災に関する啓蒙活動や情報発信を含むも10 のであり、需要者は、防災に関心のある者であれば、防災士又は防災士に なろうとする者に限られない。また、防災士に関する資格を取得しようと する者であっても、必ずしも資格制度に精通しているわけではないから、
本件各引用商標と同じ「防災士」の構成部分を有する本件商標が原告の業 務に類似する役務に使用された場合に、その役務の出所を識別することが15 できるとは限らない。したがって、被告の前記主張は採用することができ ない。
ウ 被告は、本件商標の指定役務のうち「技芸・スポーツ又は知識の教授」 等は、特に需要者を限定しておらず、被告が本件商標を使用して行ってき た事業は、防災の中でも、災害時の食事の重要性、調理方法、栄養管理と20 いった分野に特化したものであるから、原告と被告との業務とでは、需要 者の範囲が異なる上、具体的な取引の実情においても、混同を生ずるおそ れはない旨主張する。
しかし、本件商標の指定役務の「技芸・スポーツ又は知識の教授」等が、
商標登録の文言上その需要者が限定されていないとしても、例えば被告の25 行う事業を前提に考察した場合、防災又は防災に関する資格について関心 を有する者が当該指定役務の需要者に含まれ、本件各使用商標を使用した 28 原告の業務に係る役務と需要者を共通にすることは前記のとおりである。
そして、これらの点を踏まえ、当該指定役務について一般的に考察すると、
本件商標を当該指定役務に使用したときは原告の業務に係る役務と広義の 混同を生ずるおそれがあると認められることも前記のとおりであるから、
5 被告の主張は採用することができない。
? 取消事由3についての結論 したがって、本件商標は商標法4条1項15号に該当するから、これを否 定した本件審決の判断には誤りがあり、取消事由3には理由がある。
4 結論10 よって、その余の点を判断するまでもなく、本件審決は取り消されるべきも のであるから、主文のとおり判決する。
追加
15裁判長裁判官清水響裁判官20菊池絵理裁判官頼晋一2529 (別紙)商標目録1商標登録第6521920号5【商標の構成】日本食育防災士(標準文字)【役務の区分及び指定役務】第41類技芸・スポーツ又は知識の教授、教育上の試験の実施、教育の分野における情報の提供、実地教育、個人に対する知識の教授、知識又は10技芸の教授、セミナーの企画・運営又は開催、電子出版物の提供、オンラインによる電子出版物の提供(ダウンロードできないものに限る。)、図書及び記録の供覧、図書の貸与、書籍の制作、オンラインで提供される電子書籍及び電子定期刊行物の制作、コンピュータを利用して行う書籍の制作、書籍の制作(広告物を除く。)、インターネ15ットを利用して行う映像の提供、放送番組の制作、教育・文化・娯楽・スポーツ用ビデオの制作(映画・放送番組・広告用のものを除く。)、映画・演芸・演劇・音楽又は教育研修のための施設の提供【登録日】令和4年3月3日【出願日】令和3年11月2日20【登録査定日】令和3年12月28日2商標登録第4833713号【商標の構成】2530 【役務の区分及び指定役務】第41類技芸・スポーツ又は知識の教授(防災専門知識及び技能・防災又は災害情報公表の知識及び技能・救急救命知識及び技能・避難誘導知識及び技能の検定試験、防災専門知識及び技能・防災又は災害情報公表5の知識及び技能・救急救命知識及び技能・避難誘導知識及び技能の教授、防災専門知識及び技能・防災又は災害情報公表の知識及び技能・救急救命知識及び技能・避難誘導知識及び技能の質の証明を含む。)、
動物の調教、図書及び記録の供覧、映画・演芸・演劇又は音楽の演奏の興行の企画又は運営、映画の上映・制作又は配給、演芸の上演、演10劇の演出又は上演、音楽の演奏、放送番組の制作、映写フィルムの貸与、テレビジョン受信機の貸与、ラジオ受信機の貸与、図書の貸与、
レコード又は録音済み磁気テープの貸与、録画済み磁気テープの貸与、
録画済みビデオディスクの貸与【登録日】平成17年1月21日15【出願日】平成15年4月22日以上31