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関連審決 取消2001-30460
関連ワード 包装 /  指定商品 /  不使用 /  通常使用権 /  専用使用権 /  国内 /  社団法人 / 
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事件 平成 15年 (行ケ) 350号 審決取消請求事件
原告 株式会社エーオーエーアオバ
訴訟代理人弁理士 生沼コ二
同 宮崎昭夫
同 伊藤克博
同 青山仁
被告 石原産業株式会社
訴訟代理人弁理士 大岡啓造
裁判所 東京高等裁判所
判決言渡日 2004/01/27
権利種別 商標権
訴訟類型 行政訴訟
主文 特許庁が取消2001−30460号事件について平成15年6月25日にした審決を取り消す。
訴訟費用は被告の負担とする。
事実及び理由
当事者の求めた裁判
1 原告 主文と同旨 2 被告 原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
当事者間に争いのない事実
1 特許庁における手続の経緯 原告は,「あおばの森」の文字を横書きして成り,商品区分第5類「薬剤」を指定商品とする,登録第3140165号商標(平成5年6月1日商標登録出願,平成8年4月30日商標登録。以下「本件商標」という。)の商標権者である。
被告は,平成13年4月20日,原告を被請求人として,商標法50条の規定に基づき,本件商標の商標登録を,不使用により取り消すことについて審判を請求し,この請求は,平成13年5月23日に登録された。特許庁は,同請求を取消2001-30460号事件として審理し,その結果,平成15年6月25日,「登録第3140165号商標の商標登録は取り消す。」との審決をし,その謄本は同年7月7日に原告に送達された。
2 審決の理由 審決は,別紙審決書写しのとおり,「平成4年3月25日発行の特許庁商標課編「商品及び役務区分解説」(社団法人発明協会発行)によれば,商品区分第5類の「薬剤」に属するものとして区分されている薬剤は,いずれも薬事法に定義する医薬品,医薬部外品に該当する薬品,あるいは農薬であることが認められることから,商品区分第5類の「薬剤」とは,取引者・需要者の間で医薬品,医薬部外品,農薬として取り扱われて取引の対象になっている薬品を意味するものと解するのが相当である。そこで,これを本件についてみるに,本件に係る全証拠によっても被請求人の使用商品が薬事法の許可,厚生大臣からの薬品又は医薬部外品の許可を受けていることを窺わせるものはない。しかも,使用商品は,アミノ酸,天然植物エキス,葉緑素等からなる,無機又は有機の工業製品であり,消臭を目的とするものであるから,「薬剤」というよりはむしろ,商品区分第1類の化学剤に属するものというべきである。・・・してみれば,本件商標は,・・・本件審判の請求登録前3年以内に日本国内において,商標権者,専用使用権者又は通常使用権者のいずれによっても,その指定商品について使用されていたものということはできない。したがって,本件商標の登録は,商標法第50条の規定により,取り消すべきものである。」と認定判断した。
原告主張の審決取消事由の要点
審決は,商品区分第5類「薬剤」についての解釈を誤っただけでなく,原告が本件商標を使用している商品(純植物性消臭液。以下「本件商品」という。)につき,無機又は有機の工業製品であり,第1類の「化学剤」に属する,と誤って認定し,その結果,誤った結論に至ったものであるから,取り消されるべきである。
1 第5類「薬剤」についての解釈の誤り 審決の「商品区分第5類の「薬剤」に属するものとして区分されている薬剤は,いずれも薬事法に定義する医薬品,医薬部外品に該当する薬品,あるいは農薬である」(審決書6頁4段)との判断は,登録審査の実務とも矛盾しており,誤りである。
本件商標の指定商品第5類「薬剤」は,平成3年商標法改正に伴い平成4年4月1日から施行された商品区分に係るものである。特許庁商標課編「商品及び役務区分解説」(社団法人発明協会平成4年3月25日発行。以下「商品区分解説」という)によれば,第5類「薬剤」の注釈として,「この類には,主として薬剤及び他の医療用剤を含む」との記載に加え,「この類には,特に,次の商品を含む。」として,「防臭剤(身体用のものを除く。)」と記載されている(甲第3号証)。
防臭剤は,悪臭を消す薬剤を意味し,消臭剤と同義である。防臭剤としては,第5類「薬剤」に属する「防臭剤(身体用のものを除く。)」のほかに,「身体用防臭剤」が第3類「洗浄剤及び化粧品」に分類されている。また,「工業用防臭剤」,あるいは,「工業用消臭剤」は,その用途が工業用であることから登録審査実務上,第1類「工業用,科学用,又は農業用の化学品」に分類されている。したがって,「防臭剤(身体用のものを除く。)」は,その用途によって明らかに第1類「工業用,科学用,又は農業用の化学品」であるもの以外は,第5類「薬剤」に含まれるものと解釈されるべきである。
本件商品のような,身体用のものではない家庭用防臭剤は,用途,使用の態様,取引形態が,第1類「工業用,科学用,又は農業用の化学品」に分類される化学剤とは明らかに異なる商品であるから,それが「医薬品等以外の商品」であっても,第5類「薬剤」に含まれるのである。現に,家庭用防臭剤(身体用のものを除く。)は,一般に,そのように出願され,登録されている。第5類「薬剤」に属する薬剤は,いずれも「薬事法に定義する医薬品,医薬部外品に該当する薬品,あるいは農薬」に限られるとした審決の判断は誤りである。第5類「薬剤」に属する商品の大部分が「薬事法に定義する医薬品,医薬部外品に該当する薬品,あるいは農薬」であるとしても,そのことが第5類「薬剤」が「薬事法に定義する医薬品,医薬部外品に該当する薬品,あるいは農薬」以外の商品を含まないとする根拠にはならない。
2 本件商品についての認定判断の誤り 審決の「使用商品は,アミノ酸,天然植物エキス,葉緑素等からなる,無機又は有機の工業製品であり,消臭を目的とするものであるから,「薬剤」というよりはむしろ,商品区分第1類の化学剤に属するものというべきである。」(審決書6頁下から2段)との認定判断も誤りである。
本件商品の容器には,「純植物性消臭液」の表示とともに,「118種類の草木から抽出した天然植物エキスで,無公害で安全強力な全く新しいタイプの消臭液」(甲第7号証の2)との表示もあり,そのパンフレット(甲第9号証の1)には,「トイレ,寝室,リビング」等に使用されることが記載されている。すなわち,本件商品は,「純植物性消臭液」であり,天然植物エキスを主成分とするものであって,工業的に製造された化学品ではないから,第1類の「化学剤」には当たらない。
原告は,本件商品のほとんどを,登録された個人会員に通信販売している。
しかし,一部は,登録店を介して一般の消費者にも販売している。原告は,販売に先立って,本件商品のパンフレットを個人会員及び登録店(以下「会員等」という。)に配布して,その販売をしている。パンフレットには,本件商品について,「純植物性消臭液」であり,環境製品であること,「豊かな自然を蘇らせるための優れた製品を提供して」いることが記載されている(甲第8号証)。また,本件商品を説明した詳しいパンフレットには,「あらゆるニオイを消し去る“あおばの森”は118種もの植物から有効成分を抽出して作られた純植物性消臭液です」との商品の成分の記載,「従来の化学薬品,微生物では考えられなかった効果と安全性の高い,まったく新しい無害,無公害の消臭液が誕生しました」との記載,及び「ご家庭の居間,寝室,書斎,台所,トイレはもちろん,オフイス,美容院,病院,ペットショップ,薬局,工場など,さわやかな気分で過ごしたいあらゆる生活空間に“あおばの森”をどうぞ」との商品の用途を説明する記載がある。これらのパンフレットの記載からすれば,会員等は,本件商品の成分が純植物性の家庭用の消臭剤であると認識し,本件商品を購入することが明らかである。
本件商品の包装,成分及び用途,販売形態等から見て,本件商品は,取引者・需要者である会員等に化学剤と認識されるものではなく,家庭用の消臭剤(身体用を除く)と認識されるものというべきである。
本件商品は,商品区分第1類の化学剤と認められるべきではなく,商品区分第5類の薬剤に含まれる家庭用の「消臭剤(身体用のものを除く。)」と認められるべきである。
被告の反論の要点
審決の認定・判断は,正当であり,審決に原告主張のような違法はない。
1 第5類「薬剤」についての解釈の誤り,の主張について 審決の,「商品区分第5類の「薬剤」に属するものとして区分されている薬剤は,いずれも薬事法に定義する医薬品,医薬部外品に該当する薬品,あるいは農薬であることが認められることから,商品区分第5類の「薬剤」とは,取引者・需要者の間で医薬品,医薬部外品,農薬として取り扱われて取引の対象になっている薬品を意味するものと解するのが相当である。」との判断は,正当である。
2 本件商品についての認定判断の誤り,の主張について 本件商品は,薬事法の許可も,厚生大臣からの薬品又は医薬部外品の許可も受けていないものである。
医薬品,医薬部外品,農薬については,通常,その有効成分を特定し,使用目的,使用法,用量などが記載され,特定される必要がある。これに対し,本件商品のパンフレットには,医薬品,医薬部外品,農薬に該当する「薬剤」としての目的,薬効的効能,作用,効果,使用法及びその成分についての説明はない。
本件商品のパンフレット中の「天然植物抽出エキス,葉緑素,アミノ酸,パントテン酸,各種ビタミン」(甲第7号証の2)との表示は,一般的には化学剤として認識されるものである。原告のパンフレット中の「松・モミ・イラクサ・ヒノキ・・・などなど,118種の植物を原料として,空気還元法により,悪臭の元となる有害物質を分解,臭気そのものを無臭物質に変えてしまいます。」との記載も,本件商品が,118種の植物を原料とし,抽出などの化学的処理を行って工業的に製造されるもので,無機又は有機の工業製品に該当することを示しており,このような消臭材は,「化学剤」として認識されるのである。本件商品の「混合植物抽出液」は,天然の植物そのものではなく,118種の植物を原料とし,少なくとも抽出などの化学的処理を行って製造された有機化合物,有機又は無機物質を含む「化学剤」であり,その用途から見ても,第5類「薬剤」でも,第3類の「身体用防臭剤」でもなく,第1類の「化学剤」に属することが明らかである。
当裁判所の判断
1 商品区分第5類「薬剤」の解釈について 審決は,「商品区分第5類の「薬剤」に属するものとして区分されている薬剤は,いずれも薬事法に定義する医薬品,医薬部外品に該当する薬品,あるいは農薬であることが認められることから,商品区分第5類の「薬剤」とは,取引者・需要者の間で医薬品,医薬部外品,農薬として取り扱われて取引の対象になっている薬品を意味するものと解するのが相当である。」と判断した(審決書4頁4段)。
本件商標の指定商品である第5類「薬剤」は,平成3年商標法改正に伴い平成4年4月1日から施行された商品区分に係るものである。特許庁商標課編「商品及び役務区分解説」(社団法人発明協会平成4年3月25日発行)には,第5類「薬剤」の注釈として,「この類には,主として薬剤及び他の医療用剤を含む。」との記載に続き,「この類には,特に,次の商品を含む。・・・防臭剤(身体用のものを除く。)」と記載され,また,「この類には,特に,次の商品を含まない。・・・身体用防臭剤(第3類)」と記載されている(甲第3号証の1ないし5)。
防臭剤としては,第5類「薬剤」に属する「防臭剤(身体用のものを除く。)」のほかに,「身体用防臭剤」と「工業用防臭剤」とがあり,前者は,第3類「洗浄剤及び化粧品」に分類され,後者は,商標法施行規則第3条の別表には掲げられていないものの,その用途が工業用であることから登録審査実務上,第1類「工業用,科学用又は農業用の化学品」に分類されている(甲第4号証の1ないし3,甲第5号証の1・2)。
商品区分第5類「薬剤」に含まれる商品である「防臭剤(身体用のものを除く。)」には,「くつ用防臭剤」,「エアゾール式スプレータイプの室内用芳香防臭剤」,「家庭用防臭剤(身体用のものを除く)」,「自動車用消臭・防臭剤」,「自動車用防臭剤」等のように,薬事法上の医薬品,医薬部外品にも,農薬取締法上の農薬にも,明らかに該当しない商品が含まれるものとされ,現実に「くつ用消臭剤,くつ用防臭剤,くつ用脱臭剤」,「エアゾール式スプレータイプの室内用芳香防臭剤」あるいは「自動車用消臭・防臭剤」が第5類「薬剤」として出願され,登録されている(甲第14号証ないし甲第17号証)。このように,審査に当たっては,医薬品,医薬部外品,農薬以外の商品で,上記のような防臭剤は,第5類「薬剤」に分類され,登録されている。
商標法の商品分類は,商品の混同を防止し商標使用者の業務上の信用と需要者の利益を保護するという商標法の目的に即して,取引市場の実情を考慮した商品分類を採用している。これに対して,薬事法は,医薬品や医薬部外品につき,それぞれの特質に応じ,「品質,有効性及び安全性の確保」(薬事法1条)という見地から適切な規制を加えることを目的として,「医薬品」や「医薬部外品」の概念を定めている。このように,法の目的に応じて分類をする目的ないし観点も異なる以上,商標法上の第5類「薬剤」の分類区分と薬事法上の「医薬品」・「医薬部外品」の区分とが必ず合致しなければならないと解する理由はない。商標法上の「薬剤」が薬事法上は「医薬品」や「医薬部外品」でないとして扱われることがあっても,何ら差し支えないというべきである。
身体用のものを除いた防臭剤は,その商品の用途,商品の性質,商品の販売形態,商品の使用方法等から見て,第1類「工業用,科学用,又は農業用の化学品」に含まれるものでないものは,それが薬事法上の「医薬品」や「医薬部外品」でないものであっても,第5類「薬剤」中の「防臭剤(身体用のものを除く。)」に含まれるものと解すべきである。
2 本件商品の商品区分の認定の誤りについて 本件商品は,びん詰めあるいはスプレー容器入りの,室内用の消臭剤であり,その容器の前面には,本件商標が大きく表示されるとともに,「純植物性消臭液」との表示も付されている(甲第9号証の1)。また,本件商品の容器の前面下部には「118種類の草木から抽出した天然植物エキスが原料です。無公害で安全強力な全く新しいタイプの消臭液です。」(甲第9号証の1)と表示されており,その成分は,100%混合植物抽出液から成るものである(甲第10号証)。
本件商品のパンフレットとしては,@「アオバのご紹介」と題するもの(1997年10月及び1998年10月作成)と,A「あおばの森 純植物性消臭液」と題するもの(平成5年5月作成)とがある。@のパンフレットでは,原告が取り扱っている主要な商品の紹介の一部として,本件商品についても,「環境製品」との表題の下に「豊かな自然を蘇らせるための優れた製品」として紹介している(甲第7号証の1,第8号証)。Aのパンフレットでは,本件商品を詳しく紹介している(甲第9号証の1・2)。そして,後者のパンフレットにおいては,「118種の植物から生まれた,ヒトに,地球に優しい無公害消臭液。」,「あらゆるニオイを消し去る“あおばの森”は118種もの植物から有効成分を抽出して作られた純植物性消臭液です。」,「松・モミ・イラクサ・ヒノキ・・・などなど,118種の植物を原料として,空気還元法により,悪臭の元となる有害物質を分解,臭気そのものを無臭物質に変えてしまいます。さらに,酸性とアルカリ性,無機質と有機質などの複合悪臭物質をも同時に除去。従来の化学薬品,微生物では考えられなかった効果と安全性の高い,まったく新しい無害,無公害の消臭液が誕生しました。」と本件商品の説明がなされ,その上で,「ご家庭の居間,寝室,書斎,台所,トイレはもちろん,オフイス,美容院,病院,ペットショップ,薬局,工場など,さわやかな気分で過ごしたいあらゆる生活空間に“あおばの森”をどうぞ。」とその用途の説明がなされている(甲第9号証の1)。
原告は,登録された会員に上記各パンフレットを送付して,通信販売の方法により本件商品を販売したり,登録店を通し一般の消費者にも本件商品を販売したりしている(甲第7号証の1,第8号証)。これらの取引者・需要者が,上記の各パンフレットの記載から,本件商品が天然植物エキスを原料とした家庭用の消臭剤であると認識することは明らかである(上記パンフレットには,オフイス,美容院,病院,ペットショップ,薬局,工場などでも本件商品を使用し得るとの記載がある。しかし,これは,家庭の生活環境と同様の「さわやかな気分で過ごしたいあらゆる生活空間に」本件商品を使用し得るとの趣旨であり,本件商品が工場等で工業用に使用する化学剤ないし化学的製品であるとの意味ではないことが明らかである。)。
以上のとおり,本件商品は,100%混合植物抽出液から成る,一般家庭の居間,寝室,書斎,台所,トイレ用の消臭液であり,オフィスその他の建物用にも使用し得るものとして,上記のように通信販売又は登録店を通じて一般消費者に販売されるものであるから,取引者・需要者は,これを,身体用のものではない,家庭用の防臭剤として認識するものであり,「工業用,科学用及び農業用の化学品」として認識するものではないことが明らかである。
このように,本件商品は,第5類「薬剤」に分類される「防臭剤(身体用のものを除く。)」に含まれるものである。原告が本件商標を本件商品に使用していることは前記のとおりであるから,審決の前記判断が誤りであることは明らかである。
3 以上に検討したところによれば,原告の主張する取消事由には理由がある。
そこで,原告の本訴請求を認容することとし,訴訟費用の負担について,行政事件訴訟法7条,民事訴訟法61条を適用して,主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 山下和明
裁判官 設樂隆一
裁判官 阿部正幸