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関連審決 無効2002-35435
関連ワード 識別力 /  識別機能 /  指定商品 /  普通名称(3条1項1号) /  4条1項11号 /  外観(外観類似) /  称呼(称呼類似) /  観念(観念類似) /  取引の実情 /  出所の混同 /  非類似 / 
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事件 平成 15年 (行ケ) 487号 審決取消請求事件
原告 平和堂貿易株式会社
訴訟代理人弁理士 三嶋景治
被告 株式会社アイボリー
裁判所 東京高等裁判所
判決言渡日 2004/01/15
権利種別 商標権
訴訟類型 行政訴訟
主文 1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
当事者の求めた裁判
1 原告 (1) 特許庁が,無効2002-35435号事件について平成15年9月29日にした審決を取り消す。
(2) 訴訟費用は被告の負担とする。
2 被告 主文と同旨
当事者間に争いのない事実
1 特許庁における手続の経緯等 被告は,登録第4069907号の商標(別紙1のとおり,欧文字で「QUEEN」を大きく,「PEARL」を小さく,それぞれ横書きに2段に併記して成り,第14類「本真珠,人工真珠,真珠を使用してなる身飾品」を指定商品として,平成5年4月21日に登録出願され,平成9年10月17日に登録された。以下,「本件商標」といい,その登録を「本件登録」という。)の商標権者である。
2 原告は,平成14年10月16日,本件登録を商標法46条1項の規定により無効とすることについて審判を請求した。特許庁は,これを無効2002-35435号事件として審理し,その結果,平成15年9月29日,「本件審判の請求は,成り立たない。」との審決をし,その謄本を,同年10月9日原告に送達した。
3 審決の理由 審決の理由は,別紙審決書の写しのとおりである。要するに,本件商標は,登録第463958号の2の商標(その態様は別紙2の(1)のとおりであり,指定商品は第36類「帯止,ズボン釣,ガーター及び腕止,手巾類,釦鈕,装身用ピン」である。以下,審決と同様に「引用商標1」という。),登録第463959号の2の商標(その態様は別紙2の(2)のとおりであり,指定商品は第36類「帯止,ズボン釣,ガーター及び腕止,手巾類,釦鈕,装身用ピン」である。以下,審決と同様に「引用商標2」という。),登録第2207971号商標(その態様は別紙2の(3)のとおりであり,指定商品は第21類「装身具,ボタン類,かばん類,袋物,宝玉およびその模造品,造花,化粧用具」である。以下,審決と同様に「引用商標3」という。),登録第2477047号商標(その態様は別紙2の(4)のとおりであり,指定商品は第21類「装身具,ボタン類,かばん類,袋物,宝玉およびその模造品,造花,化粧用具」である。以下,審決と同様に「引用商標4」という。)のいずれとも,その称呼,観念及び外観の各点のいずれにおいても紛れるおそれのない非類似のものであるから,本件登録は,商標法4条1項11号に違反しない,として,請求人(本訴原告)主張の無効事由をすべて排斥するものである。
原告の主張の要点
審決は,各引用商標の称呼及び観念の認定を誤り,その結果,それらが本件商標と誤認混同されるおそれがないと誤って判断したものであるから,違法として取り消されるべきである。
1 引用商標1及び2の理解について (1) 審決は, 「2 各引用商標の称呼及び観念について」の見出しの下に, 「(1)引用商標1及び同2は,上記のとおり,それぞれ筆記体風の書体で一連にまとまりよく横書きしてなるものであるから,これよりは「クイーンズダイヤモンド」又は「クイーンズダイヤ」の称呼,「女王のダイヤモンド」又は「女王のダイヤ」の観念を生ずるものと認められるものであり,これを「Queen's」と「Diamond」の文字に分断して称呼観念すべき特段の事情を見出せない。
しかして,請求人(判決注・原告を指す。)は,引用商標1及び同2の構成中の「Diamond」及び「Dia」の文字部分は,「身飾品や貴金属製品」との関係においては,当該商品の原材料・品質表示であると主張しているが,例え「Diamond」及び「Dia」の文字部分が原材料,品質等を表示するものとして使用される場合があるとしても,かかる構成においては商品の原材料,品質等を具体的に表示するものとして直ちに理解し得るものともいい難いところであり,かつ,引用商標1及び同2の指定商品との関係において,「Diamond」又は「Dia」 の文字部分が直ちに商品の原材料,品質等を表示するものとして認識されるともいえない。」(5頁25行目〜6頁1行目)。
としている。
(2) 引用商標1は,「Queen's Diamond」の欧文字を筆記体風で横書きして成る商標であり,引用商標2は,「Queen's Dia」の欧文字を筆記体風で横書きして成る商標である。指定商品は,いずれも第36類「帯止,ズボン釣,ガーター及び腕止,手巾類,釦鈕,装身用ピン」である。
(3) 引用商標1が,「Queen's」と「Diamond」の2語が結合して成るものであること,引用商標2が,「Queen's」と「Dia」の2語が結合して成るものであることは,「Q」と「D」が大文字であり,これらの語の間に空白があるという,その構成自体からして明らかである。
このような2語は,必ずしも一連一体として認識されるものではない。
(4) 引用商標1は,構成音数が10音であり,引用商標2は構成音数が7音である。このような引用商標1及び2の全体を一連一体のものとして発音した場合,冗長感が生じることは避けられない。
このような冗長な商標が実際の取引において用いられる場合,全体がまとまったものとして称呼されることなく,その中の,日本語として頻繁に用いられている前半部のみが,「クイーンズ」あるいは「クイーン」として,分離され呼称されることは十分あり得る。
(5) 宝石,身飾品,装身具等を取り扱う業界においては,「ダイヤモンド(Diamond)」,「ダイヤ(Dia)」は,当該商品の普通名称ないしその略称,ないしは加工製品の原材料,品質等の表示として多用されており,そのことは証明を要さない顕著な事実である。
引用商標1及び2の「Diamond」ないし「Dia」も,このような原材料,品質を表示したものと認識されるにすぎない。
「ダイヤモンド」を含む商標で,指定商品がダイヤモンドを用いたものに限定されているものは,多くある(甲第4号証の1ないし15)。現に,「PEARL」を含む本件商標も,その指定商品は,真珠を使用した商品に限定されている。
引用商標1及び2の指定商品も,ダイヤモンドを使用したものを含むから,審決の「引用商標1及び同2の指定商品との関係において,「Diamond」又は「Dia」 の文字部分が直ちに商品の原材料,品質等を表示するものとして認識されるともいえない」との判断もまた,誤りである。
(6) 以上のとおりであるから,審決の,「QUEEN」・「Queen's」と,「Diamond」・「Dia」とを分断して称呼観念すべき特段の事情を見出せない,との判断は誤りである。
上記のとおり,「Diamond」・「Dia」の部分は,原材料・品質等を表す部分にすぎないと認識され,顕著性のない語であるから,引用商標1及び2は,結局,その前半部の,「Queen's」,「女王の」,「QUEEN」,「女王」の部分が,自他商品の識別機能を有するものとして,分離略称され,取引において用いられるものというべきである。
2 引用商標3及び4の理解について (1) 引用商標3は,「QUEEN GALLERY」の欧文字を横書きして成る商標であり,引用商標4は,「The Queen GALLERY」の欧文字を横書きして成る商標である(厳密には,「The Queen」の部分を特徴ある活字体で,「n」の文字の右の縦線を下方にやや長く延ばし,これに直交する長い横線を引き,上記縦線のすぐ右側及び上記横線の直下に,やや小さい文字で「GALLERY」の活字体を記載する。)。指定商品は,いずれも,第21類「装身具,ボタン類,かばん類,袋物,宝玉およびその模造品,造花,化粧用具」である。
(2) 審決は, 「(2)引用商標3は,上記のとおり,同書,同大の文字をまとまりよく一体的に表してなり,殊更これを「QUEEN」と「GALLERY」とに分離して観察しなければならない格別の理由を見出し難いばかりでなく,これより生ずると認められる「クイーンギャラリー」の称呼も,それ程冗長なものでなく,よどみなく一連に称呼し得るものであるから,「クイーンギャラリー」の一連の称呼,「女王の美術館」程の観念を生ずるものと認められる。
(3)引用商標4は,別掲のとおり,「The Queen」の文字の最後の「n」の文字の右の縦線をやや長く延ばし,その縦線の中間部に左から右に十字状に横線を配し,その十字状の横線の右下に「GALLERY」の文字を「The Queen」の文字に比してかなり小さく横書きした構成よりなるものであって,一種図案化された商標として一体的に看取されるとみるのが自然であるから,これを「The Queen」と「GALLERY」の文字に分離して称呼観念することは,むしろ不自然であるというべきであり,これよりは「ザクイーンギャラリー」の一連の称呼,「女王の美術館」の一連の観念を生ずると判断するのが相当である。」(審決書6頁3行目〜17行目) としている。
(3) しかし,引用商標3は,その構成から,「QUEEN」と「GALLERY」との結合語であることが明らかである。また,引用商標4も,「GALLERY」の文字は小さく下段に配され,「The Queen」の部分がより注視を受けやすく構成されているから,これらを一体と見るのは不自然である。
これらの構成音数も,6音ないし7音と冗長である。
「The Queen」及び「QUEEN」と,「GALLERY」との間に,特段熟語的な意味合いを認識することもできない。これらは,分離して称呼観念されるものである。
(4) 「GALLERY」の語は,「回廊,画廊,美術品を展示する部屋,ゴルフ試合などの観客」の意味を持つ。引用商標3及び4の指定商品の,宝石,身飾品,装身具等を取り扱う業界においては,商品の展示場,展示会等の意味を持つ語として認識されており,現に,そのような意味を持つ接尾語的な語として多用されている(甲第5号証の1及び2)。
したがって,「GALLERY」の部分は,顕著性がなく,自他商品の識別力を持つものではない。
(5) 以上のとおりであるから,引用商標3及び4においても,「クイーン」,「女王」との称呼観念が生じ,これが取引において用いられるというべきである。
3 本件商標と各引用商標の類否について (1) 商標の類似とは,取引において,比較される二つの商標が出所の混同を生じるほど相紛らわしいことである。類似しているか否かは,それら商標に係る商品の取引者・需要者を基準として,外観,称呼観念の3要素により,取引状況をも考慮して全体的に判断されるべき事柄である。
簡易迅速を旨とする現実の取引においては,商標がそのままの形で称呼観念されるとは限らない。出所識別機能が弱い部分は省略されてしまい,それ以外の部分が称呼観念されることはよくあることである。
(2) 「Queen」の語は,本件商標及び引用商標の指定商品を取り扱う業界に限らず,一般によく用いられているものであるから,注意を引きやすい。加えて,本件商標の構成からも,「PEARL」の文字より大きい「QUEEN」の文字部分は,看者の注意をよく引くことになる。
(3) 取引者・需要者は,本件商標と各引用商標とのいずれの商標についても「QUEEN」の文字部分に着目する。
結局,本件商標と各引用商標とは,同一の称呼及び観念を生じ,これらが同一又は類似の種類の商品に用いられた場合,出所の誤認混同を起こすことは明らかである。
(4) 以上のとおりであるから,本件商標と各引用商標は,称呼観念外観のいずれについても相紛れることがないとしたのは,審決の誤りである。審決は取り消されるべきである。
被告の主張の要点
1 審決の認定判断に何ら誤りはない, なお,原告は,引用商標1及び2に関し,「Diamond」や「Dia」の部分は,指定商品がダイヤモンドを原材料としていることを表すものである,と主張する。
しかし,引用商標1及び2の指定商品は,ダイヤモンドやダイヤモンドを原材料とするものに限定されていない。原告の主張はこの点でも失当である。
原告は,引用商標3及び4について,「GALLERY」を,展示場,販売展示場の意味である,と主張する。しかし,そうすると,女王自ら商品を展示,販売する場所という意味になり,はなはだ不自然である。「GALLERY」は,「The Queen」,「QUEEN」と一体となって,「女王の美術館」,「女王の美術品を展示する画廊」の観念を生じるとするのが相当である。
2 被告は,「QUEEN」の欧文字を横書きして成り,指定商品を第14類「銀,人工ダイヤモンド,人工真珠,その他の人工宝石,本真珠,身飾品」とする商標(登録第3332881号,以下「別件商標」という。)の商標権者である。
原告は,別件商標に対しても,その登録を無効にする審判を請求し,この審判手続においても,本件の各引用商標を挙げた。
しかし,特許庁は,各引用商標からは,「Queen」,「クイーン」の称呼観念のみをもって商品の取引がなされるとは認められず,別件商標とは称呼観念のいずれにおいても類似しない,として請求不成立の審決をした。原告はこの審決の取消しを求める訴訟を提起したものの,原告の請求を棄却するとの判決がなされ,これが確定している(乙第1号証ないし第3号証)。
全く同じ引用商標を挙げる本件においても,同様の理由により,原告の請求は棄却されるべきである。まして,本件商標は,別件商標と異なり,「QUEEN」単体ではなく,「PEARL」の語をも含んでいるのである。原告の請求に理由がないことは,別件商標の場合よりも明らかである。
当裁判所の判断
1 原告の主張の根幹は,要するに,各引用商標において,「Queen's」,「QUEEN」だけが独立して称呼観念され,取引において用いられる,ということにある。
2 各引用商標において,「Queen's」,「QUEEN」と,それ以外の部分,すなわち「Diamond」,「Dia」,「GALLERY」とが,一体となって称呼観念されるとみるべきことについては,審決が説示したとおりであり,それに誤りがあるとは認められない。更に補足すると,次のようにいうことができる。
3 原告は,「今日の欧文字の氾濫した取引界及びこの種商品取引界における欧文字,英文字の普及度を勘案するなら「QUEEN」(クイーン)の文字は,日本語同様例えば「クイーンコンテスト」(所謂美人コンテスト)或いは「○○クイーン」例えば,フォミラー1自動車レースにおける「レースクイーン」(レースの花形女性)や写真の「フォットクイーン」等の用例にても明らかな通り,既に,日常会話にても多用され良く好んで使用されている語である。」(訴状12頁21行目〜13頁4行目)と主張する。
原告の上記主張は,その限りでは正しい。原告主張のとおり,「QUEEN」という単語そのものは,日本においても,装飾品等の取引業界に限らず,日常の種々の場面において,様々な用法で頻繁に用いられており,極めてありふれた語となっている。しかし,まず,この事実自体が,本件商標や各引用商標がそれぞれの指定商品に用いられた場合に,「QUEEN」のみが単独で称呼観念され,自他商品の識別力を有するという機能を持つことを阻害するものである,という点に着目すべきである。
「QUEEN」の語ないしその観念である「女王」は,本件商標及び各引用商標の指定商品である装飾品等にもともと結び付きやすいものであって,この種商品において,例えば高貴なイメージを付与し,商品の品質の高さを表すものとして全く違和感なく使われる語である,ということができる。すなわち,「Queen's」,「QUEEN」の語を商標として用いることが,装飾品等の取引業界において,必ずしも意外な感じを与え,注目を集めるものとは認められない。
さらに,取引の実情として,各引用商標を付された商品について,「Queen's」,「QUEEN」,「女王」等の称呼観念だけが自他商品の識別力を発揮し,これにより取引されていると認めるに足りる証拠もない。
以上の点からも,各引用商標は,「Queen's」,「QUEEN」とそれ以外の部分とが一体となって称呼観念され,取引において用いられて,初めて自他商品の識別力を獲得するものである,と優に認めることができる。
4 原告は,甲第4号証の1ないし15を提出し,「Diamond」や「ダイヤモンド」の語を商標中に含み,かつ,指定商品がダイヤモンドを使用した装飾品等である商標を多数挙げ,引用商標1の「Diamond」,同2の「Dia」は,原材料,品質等を表示したものと理解・看取されるにすぎない,と主張する。
引用商標1及び2の指定商品は,ダイヤモンドを使ったものに限定されていない。まずこの点において,引用商標1及び2を,甲第4号証の1ないし15の商標と同様に解すべき理由はない。
上記の点をおき,「Diamond」,「Dia」が,原材料,品質等を表示するものと理解されるとしても,そのことから当然に,これらを除いた部分だけが自他商品の識別力を獲得する,ということになるわけのものではない。この点についての判断は,「Diamond」,「Dia」を除いた部分の特異性・顕著性や,取引者・需要者に対する訴求力,商標の構成の一体性等を総合考慮してなされるべきである。引用商標1及び2の「Queen's」の部分だけが独立して称呼観念され,自他商品の識別力を有しないことについては,本判決が既に述べ,また審決が説示しているとおりである。
甲第4号証の1ないし15のうち,例えば,「スイートテン・ダイヤモンド」,「ハーモニックダイヤモンド」,「カメリアダイヤモンド」,「ザイクス ピンキーダイヤモンド」等は,「ダイヤモンド」を除いた部分だけが称呼されるなどして,自他商品の識別力を獲得するとみる余地があるとしても,それは,「ダイヤモンド」を除いた部分が,それ自体として特異・顕著であるか,装飾品の商標に用いられる語としては意外性があるか(「ハーモニック」),冗長であるか(「ザイクス ピンキー」)などのためと理解することができる。これらと,「ダイヤモンド」を除いた部分が「Queen's」である引用商標1及び2を同列に論じることはできない。
5 結論 以上によれば,審決の取消しを求める原告の本訴請求は,理由がないことが明らかである。そこで,これを棄却することとし,訴訟費用の負担について行政事件訴訟法7条,民事訴訟法61条を適用して,主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 山下和明
裁判官 阿部正幸
裁判官 高瀬順久