関連審決 | 審判1999-11838 |
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審判番号(事件番号) | データベース | 権利 |
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平成13行ケ68審決取消請求事件 | 判例 | 商標 |
関連ワード | 識別力 / 包装 / 識別機能 / 指定商品 / 普通名称(3条1項1号) / 記述的商標(3条1項3号) / 普通に用いられる方法 / 3条2項 / 品質誤認(4条1項16号) / 称呼(称呼類似) / 取引の実情 / 補正 / 警告 / 継続 / 同業者 / |
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事件 |
平成
15年
(行ケ)
224号
審決取消請求事件
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原告 株式会社玄米酵素 訴訟代理人弁理士 竹沢荘一 同 中馬典嗣 被告 特許庁長官今井康夫 指定代理人 高橋厚子 同 宮下正之 同 涌井幸一 |
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裁判所 | 東京高等裁判所 |
判決言渡日 | 2003/12/11 |
権利種別 | 商標権 |
訴訟類型 | 行政訴訟 |
主文 |
原告の請求を棄却する。 訴訟費用は原告の負担とする。 |
事実及び理由 | |
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当事者の求めた裁判
1 原告 特許庁が平成11年審判第11838号事件について平成15年4月22日にした審決を取り消す。 訴訟費用は被告の負担とする。 2 被告 主文と同旨 |
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当事者間に争いのない事実
1 特許庁における手続の経緯 原告は,平成9年12月15日,指定商品を第30類「植物醗酵食品,穀物の加工品」(後に「玄米を酵素醗酵させた植物醗酵食品・穀物の加工品」と補正された)として,別紙審決書写しの別掲本願商標欄記載の構成から成る商標(以下「本願商標」という。)について,商標登録出願(以下「本件出願」という。)をしたものの,平成11年6月7日に拒絶査定を受けたので,同年7月19日,これに対する不服の審判を請求した。 特許庁は,これを平成11年審判第11838号事件として審理し,その結果,平成15年4月22日,「本件審判の請求は,成り立たない。」との審決をし,同年5月9日,その謄本を原告に送達した。 2 審決の理由 別紙審決書の写しのとおりである。要するに,「「玄米酵素」の文字よりなる本願商標をその指定商品について使用した場合,これに接する取引者,需要者は,「酵素の作用による玄米」あるいは「玄米に酵素の作用を添加した商品」なる意味合いを表したものと容易に理解し,自他商品を識別する標識たる商標とは認識し得ないものとみるのが相当である。してみると,本願商標は,これをその指定商品中,前記商品について使用しても,単にその商品の品質,効能を表示するにすぎないものであって,それ以外の商品について使用するときは,商品の品質について誤認を生じさせるおそれがあるものといわざるを得ない。」(審決書2頁7段〜3頁2段),「以上のとおり,本願商標は,商標法第3条第1項第3号及び同法第4条第1項第16号に該当するものであるから,本願を拒絶した原査定は,妥当なものであって,取り消すことはできない。」(同3頁末段)とするものである。 |
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原告主張の審決取消事由の要点
審決は,本願商標が,商品の品質,効能を表示するものではないのに,一部の指定商品について,その品質,効能を表示するものにすぎない,と誤って判断し,その余の指定商品についても,品質誤認表示となる,と誤って判断した(取消事由)。これらの誤りが結論に影響を及ぼすことは明らかであるから,審決は,違法として取り消されるべきである。 1 本願商標は,自他商品識別機能を有する。 (1) 本願商標は,造語であり,その構成からみて,指定商品との関係で,商標法(以下単に「法」という。)3条1項3号の商品の品質,効能を表示する標章のみから成る商標には該当しない。 (ア) 本願商標中の「玄米」は,黒米,精白されていない米を意味する。本願商標中の「酵素」は,「生物が体内で造成する触媒作用のある高分子物質」を意味する。「玄米」と「酵素」とは,このように相互に全く関係がない語であるから,「玄米」の語と「酵素」の語とを一連に組み合わせる必然性はない。このように,組み合わせることに必然性のない「玄米」と「酵素」との語を一連に組み合わせた本願商標「玄米酵素」は,特異な組合せからなる造語であり,本来的に特別顕著性を具備するものである。 (イ) 審決は,「「玄米酵素」の文字よりなる本願商標をその指定商品について使用した場合,これに接する取引者・需要者は,「酵素の作用による玄米」あるいは「玄米に酵素の作用を添加した商品」なる意味合いを表したものと容易に理解し」(審決書2頁7段)と認定した。しかし,「酵素の作用による玄米」又は「玄米に酵素の作用を添加した商品」との説明では,通常の日本人には,その意味が不明である。取引者・需要者が,「玄米酵素」の文字に接して,このような日本語として意味不明な「酵素の作用による玄米」又は「玄米に酵素の作用を添加した商品」との意味を端的に理解し,認識することは,極めて困難である。したがって,審決の上記認定は,誤りである。 (ウ) 原告の商品である「玄米酵素」は,昭和46年に,A(その銅像は平成7年10月に作られ,原告の製造工場に展示されている。)が,それまで不可能であった「玄米の麹」を完成したことにより,商品化され,そのときに命名された。 このことは紛れもない歴史的事実である。原告の代表者が,昭和46年8月に1000万円の資金を提供して,株式会社コーケンを設立し,同社が商品玄米酵素の製造工場を建設して,同商品の製造を開始した。原告は,昭和48年6月ころ,商標として「GENMAIKOSO」及び「玄米コーソ」の使用を開始し,昭和50年10月ころ,商標として本願商標(玄米酵素)の使用を開始した。これが,原告の商品「玄米酵素」が世に出た嚆矢である。従来から商品として存在していない商品を創造した場合,その商標は,それ自体商品名でもあることは「味の素」の例を出すまでもないことである。本願商標は,商品名であるとともに,原告の商標でもある。 (エ) 被告が引用する「健康食品辞典’85」(昭和60年刊,乙第3号証)は,原告の商品である「玄米酵素」を健康食品(栄養補助食品)の一つとして記載し,収録している。「健康食品辞典’85」における記載は,原告の商品である玄米酵素について記載した書籍である「驚異の玄米酵素」(安達充著・昭和57年刊,甲第38号証)の受け売りでしかない。これは,「驚異の玄米酵素」の28頁には,「玄米の胚芽を七,表皮層(糠層)を三の比率で混入し,食用カルシウムを加え,さらにハチミツを添加して,これを天然発酵培養して酵素化したもの」と記載され,同62頁に「玄米そのものをそのまま酵素化したのが玄米酵素」と記載されていることから明らかである。健康食品業界における需要者は,「玄米酵素」は原告の商品のことであり,原告の商標であると認識しているものである。 (オ) 審決は,玄米酵素の語の起源について,「「玄米酵素のルーツ」として,「玄米の胚芽と糠を培地に麹菌(アスペルギールスオリーゼ菌)を加えて純水培養したもので,自然のまま以上に,強い酵素生産力をもつ菌種の育成に成功して,昭和29年厚生省の認可を得て『神原菌』G.A.Mの薬品名にて広く販売し(健康保険の採用薬)色々な病気に成果を上げました。・・・このようにして,玄米酵素は『医薬品』としてスタートしたのですが,薬事法の改定で医薬品として販売するには,酵素だけを抽出と他の豊富な栄養素や麹菌を排除しなければならず,それでは玄米酵素の意味がなくなるため,以後『食品』に一本化現在に至っております。」とインターネット情報においてもみられるところである。」(審決書2頁6段)とのインターネット情報を引用している。しかし,このインターネット情報の内容は,事実に反する誤ったものであり,原告の通告により,その内容は既に変更された。 審決は,このようなでたらめな内容のインターネットホームページの情報を,あたかもこれが取引の実情を表すもののように漫然と認識し,これを前提として安易に結論を導き出しているものであり,審理不尽の違法がある。 (カ) 審決は,「請求人以外においても「玄米酵素」の文字を広告宣伝していることが見受けられ」(審決書3頁7段)と認定している。確かに,インターネット上では,「玄米酵素健」,「玄米酵素輪」,「芽宝玄米酵素」,「バイオピカ玄米酵素」,「米ぬか玄米酵素」などの模倣品が販売され,宣伝広告されていた。しかし,これらの商品は,ここに挙げた商標の中から「玄米酵素」との語を抜くと,どのような商品か分らなくなるため,違法を承知で原告の商標を冒用して,あたかも原告と同一の優良商品であるかのように偽装して,宣伝広告していたものである。原告は,このような行為について,原告が有する商標権(登録第2647696号,登録第3174063号。いずれも,登録商標の主要構成として,「玄米酵素」の語を使用しており,「ゲンマイコウソ」との称呼が生じるものである。甲第12,第13号証参照)を侵害するものであるとして,通告書を送付するなどして,その都度排除している。第三者が,称呼として「ゲンマイコウソ」を生じる商標を使用することは,そもそも原告の上記商標権を侵害する違法性を有する行為である。審決がこのような取引の実情を考慮していないのは,理解に苦しむところである。そもそも,インターネットを利用した商品販売には,店舗も在庫資本も人手もいらないため,安易に利用され,広告に自由な記載をすることができ,第三者から商標法違反など指摘されたら,その広告を中止すればよい,というような安易な考えが目立つのである。 (キ) 審決は,「請求人自身も資料(ホームページ)において,「植物性微生物により発酵培養し,消化,吸収しやすく酵素化した保険食品(判決注・「保健食品」の誤りである。)です。」と記載しており,該資料からは前記の意味を有するものと理解され,自他商品の識別機能を持たないものである」(審決書3頁7段)と認定した。しかし,原告が上記のような宣伝をしたとしても,需要者が,標章「玄米酵素」を,「植物性微生物により発酵培養し,消化吸収しやすく酵素化した保健食品」の略語,とのみ認識する根拠とはなり得ないものである。 (2) 仮に,本願商標が,品質・効能表示に該当するものであるとしても,原告が永年にわたりこれを使用した結果,需要者が原告の業務に係る商品であることを認識することができる商標となっている。 (ア) 原告は,上記のとおり,昭和48年6月から,商標として「GENMAIKOSO」及び「玄米コーソ」を使用し,昭和50年10月ころから,商標として本願商標(玄米酵素)を使用し,今日に至っている。 (イ) 1999年「札幌商工年鑑」(甲第22号証添付の第21号証,同第22号証)には,原告の営業が「玄米酵素製造販売」などであること,年商が,平成7年18億円,同8年21億1900万円,同9年16億円,同10年36億円であること,資本金が1億円であることなどが記載されている。 (ウ) 原告は,本願商標を使用した商品を,独自の販売組織網を利用して販売している。その販売組織は,全国を大きく区分けした「代理店」,その下部組織の「特約店」,その下部組織の「ヘルス」から成り,その数は,代理店が194店,特約店が3513店,ヘルスが3万6122店であり,平成13年の売上げは,年22億円にも及び,単品の健康食品としては,第1位の売上げとなっている。なお,原告が販売してきた「玄米酵素」との商標を使用した商品には,粉末・顆粒・錠剤の3種類がある。原告は,このうち,粉末状のものに「玄米酵素」との商標を,顆粒・錠剤のものに「玄米酵素ハイゲンキ」との商標を使用している(甲第22号証添付の第18号証)。 (エ) 原告の特約店(全国で約3513店)は,昭和63年11月から,本願商標と原告の会社名を明示した看板(甲第39号証)を掲示している。 (オ) 原告の商品「玄米酵素」は,「玄米酵素」という商標の下に,昭和63年9月に,厚生省認可財団法人日本健康・栄養食品協会(JHFA)から,植物発酵食品部門で日本初の認可を受けている。この認可は,当時の厚生省指導の下に設定された,品目別規格基準に基づく同協会の審査を経た上で与えられたものである。また,原告の製造工場は,平成12年1月に国際標準化機構(ISO)の国際規格「IS09002」認証を取得している。このように,本願商標「玄米酵素」は,公的に認められた原告の商品の商標となるに至っている。また,原告の商品「玄米酵素」と同じ成分を具有する商品は,ほかに存在していないのである。 (カ) 原告の顧問医師B氏は,「自然食と玄米酵素」との書籍を執筆し,また,STV札幌テレビは,昭和57年2月22日,原告の商品である「玄米酵素」をワイドショーでとりあげた。「週刊現代」も,このころ,原告の玄米酵素に注目し,昭和57年に「がん・心臓病・高血圧を吹き飛ばす五大健康情報」という特集記事を企画し,原告の商品である「玄米酵素」を紹介した。週刊現代の記者であるCは,その著書「驚異の玄米酵素」で,「発売と同時に朝一番で読者からの問い合わせ電話が鳴り響く。ハガキ・手紙による照会が山と積まれた。これが三週間も続いたのである。」と述べている。また,「玄米酵素が地球を歩く」(鶴蒔靖夫著,1990年初版発行。甲第22号証添付の第23号証。)には,原告の商品である玄米酵素の歴史が詳細に記載されており,マスコミに取り上げられてから,デパートや薬局,官公庁の出店などにも納品されるようになり,その愛用者が広がったことなどが紹介されている。その後,原告の商品である玄米酵素については,多数の書籍が出版されている(甲第36号証138〜139頁参照)。 (キ) 以上のように,原告の本願商標「玄米酵素」は,昭和50年以来今日まで長期間にわたり,原告が販売する優れた健康食品の商標として,需要者に広く愛用され,周知となるに至っている。 2 本願商標は,法4条1項16号の品質誤認表示に該当するか。 本願商標は,上記のとおり,商品の品質,効能を表示する商標には当たらないものであるから,商品の品質を誤認する表示にも当たらないことは明らかである。 |
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被告の反論の要点
1 本願商標は,自他商品識別機能を有しない。 (1) 本願商標を構成する「玄米酵素」の文字は,「酵素の作用による玄米」,又は,「玄米に酵素の作用を添加した商品」を端的に表すものとして認識され,使用されているものである。本願商標は,その指定商品との関係においては,商品の品質又は効能を表示したものとみるべきものであり,特異な組み合わせからなる造語である,ということはできない。 (ア)「健康食品事典’85」(昭和60年8月31日発行,乙第3号証)には,「玄米酵素とは,玄米の栄養素である胚芽と糖に,純粋ハチミツを加え,それにコージ菌を使って発酵させ,人体に必要な酵素を積極的に培養したものである。」との記述がある。また,「健康自然食品史」(平成4年9月16日発行,乙第21号証)には,玄米酵素の製法について,「玄米の糠と胚芽に麹菌を四十八時間培養し,その胞子を生きたまま混在させた粉末」と記載されている。そして,審決が,審決書2頁5段で述べているとおり,玄米等の栄養価をバランス良く消化,吸収するために,一定の栄養成分の添加,微生物による酵素作用により栄養価を高めた発酵食品として加工した健康食品が多数販売されており,それらの商品のいずれについても玄米酵素との標章が使用されている実情にある(乙第4号証ないし同第20号証)。 これらのことからすれば,「玄米酵素」の語は,健康食品を取り扱う業界においても需要者間においても,上記のような食品を表す一般名称として認識され,取り扱われている,ということができる。 (イ)「玄米酵素」という名の商品が生まれる経緯及び同商品の効用(効能)等は,次のとおりである。 (a) 富士吉田市のD(以下「D」という。)は,昭和19年に,「オクワキ酵素」(疲労回復強壮)と呼ばれる玄米に係る酵素の研究に成果を上げた。この成果に対し,当時の技術院が報奨している。 (b) 医学博士E(病院長)は,昭和25年に,米ぬかビタミンBの研究を行い,そこで「オクワキ酵素」を取り上げ,これを「神原(しんげん)菌(G.A.M)」と名付けた。「神原(しんげん)菌(G.A.M)」は,昭和29年に,健康保険に採用され医薬品となった。当時,創業した万成食品(当時,東村山町久米川)が,「神原(しんげん)菌(G.A.M)」を用い米ぬか製品(現在の「玄米酵素」)の製造を開始した。 (c) Dは,昭和35年に,健康食品の道を歩むようになり,昭和45年,富士吉田市に統合生産という会社を作り,自ら「ケンコウキン」を販売した。Dが,昭和47年に死亡し,昭和48年に,万成食品(Dの実弟を社長とする有限会社)が「ケンコウキン」を,F(以下「F」という。)が「玄米コーソ」の販売を開始した。 (ウ) 「玄米酵素」の表示が,商品の一般的名称又は品質を表すものとして用いられていることは,次のことから明らかである。 (a) 「月刊 健康の広場」(平成元年12月10日発行,乙第27号証)には,「玄米酵素」の愛用者の記事が掲載され,また,書籍「玄米酵素が効く」(著者は,日本酵素研究会の伊林)が評判をよんでいること,この本は5年前に発行され,平成元年に改訂版が発行され,息の長いロングセラーであったことが記載されている。 (b) 「ヘルスライフビジネス」(平成15年2月15日発行,乙第28号証)では,有限会社穂の商品,を,「玄米酵素 穂」(原料/米ヌカ,米胚芽,緑茶,金ゴマ),「玄米酵素 健」(原料/米ヌカ,米胚芽)と記載して広告している。 (c) 「健康通信 創刊号」(2003年4月15日発行,乙第22号証)では,紙上右上の円輪郭内に「元祖 玄米酵素」「創業50年」と記載され,また,「商品パンフレット」(乙第29号証)(乙第22号証の発行日とを合わせると,創業50年の記載からして,このパンフレットは2003年のものと推測される。)では,大きく「(有)万成食品」,「伝承の健康食品」と二段に記載した下に,前記の「健康通信 創刊号」と同じく,円輪郭内に「元祖 玄米酵素」,「創業50年」との記載があり,また商品「スーパー酵素」の商品包装箱に同様の記載がされている。そして,玄米酵素の製造方法を説明し,栄養成分表を掲載している。 (d) このように,玄米(糠,胚芽)を原料とした商品に,「玄米酵素」,「米ぬか玄米酵素」又は「玄米微生物活性酵素」などの表示がされている。 (エ) 原告から警告を受けた者がインターネットのホームページから「玄米酵素」の文字を削除したとしても,このことは,「玄米酵素」が商品を表す表示でないことの裏付けとなるものではない。原告が警告し,「玄米酵素」の表示を削除させたと主張するインターネットのホームページを見ると,警告して削除を求めたその後も,商品の説明に関する記述中に「玄米酵素のルーツ」と,「玄米酵素」の文字が残存している(乙第32号証)。このことからすれば,当該会社は,本来的に,「玄米酵素」の表示を自他商品の識別標識としての機能を果たすものとしてではなく,商品の品質等を表すものとして理解していたものと推測される。 (オ) 以上からすれば,本願商標を構成する「玄米酵素」の文字は,造語商標ではなく,一般に商品の品質表示又は普通名称的表示として認識され,使用されているものであって,その指定商品との関係においては商品の品質を表示するものというべきであるから,本願商標が自他商品の識別標識としての機能を果たし得ないとした審決の判断に誤りはない。 (2) このように,「玄米酵素」の表示は,審決時において,商品の品質を表すものであって,取引者・需要者にその種の商品の品質を表すものとして認識されており,かつ,同業者が「玄米酵素」を商品の品質を表示するものとして使用しているものである。このようなとき,原告が,本願商標の「玄米酵素」を商標として使用する意図で使用していたとしても,取引者・需要者が何人かの業務に係る商品であるかを認識することができたということはできない。 (3) 本願商標「玄米酵素」が原告の使用により自他識別力を獲得していた,ということもできない。 (ア) 原告の販売ルートは,独自の販売組織網を利用した直接販売方式に限られている。このため,原告の取扱商品は,一般の薬局,健康食品店等ではほとんど販売されていない。本願商標が一般の薬局等で薬剤及び健康食品を購入する一般需要者に広く知られている,ということはあり得ない。 (イ) 原告が本願商標を一般の需要者に広告宣伝したことを示すものは,「北海タイムス」(甲第22号証添付の第6号証)の新聞広告1件と,雑誌の広告2回という程度にすぎない。原告が提出している証拠の大半は,原告発行のパンフレット,社誌,冊子(書籍)と,原告販売組織における店舗数,売上額,数量の規模を示すものにすぎない。これらの事実ないし証拠によっては,本願商標が,取引者・需要者において原告の業務に係る商品であることを認識させ得る,自他識別力が生じる商標である,ということはできない。 (ウ) 原告の商品の中で販売数が最も多い「ハイ・ゲンキ」の包装袋には,原告の社名表示を除き,本願商標は表示されていない。原告は,玄米酵素の販売をし,その売上高が,年間約16億円ないし21億円(平成7年ないし同9年),約36億円(平成10年)であると主張する。しかし,その売上げは,「玄米酵素」のみならず,本願商標を使用していない「ハイ・ゲンキ」,自然食品及び自然化粧品の販売売上げを含むものであり,平成10年の売上金額から本願商標が表示されていない「ハイゲンキ」の売上金額を除くと「玄米酵素」の売上げは約2億3700万円程度である(甲第22号証添付の第22号証)。 (エ) 原告は,「玄米酵素」が,書籍「玄米酵素が地球を歩く」に取り上げられるなど社会から注目を集めている,と主張している。しかし,玄米酵素が社会から注目を集めたことは,「玄米酵素」の表示に識別力があることの裏付けとなるものではない。むしろ,社会から注目されたのは,健康食品である玄米酵素という商品(「ハイ・ゲンキ」等の商品)そのものに対するものと考えるべきである。 2 本願商標は,法4条1項16号の品質誤認表示に該当するか。 本願商標を構成する「玄米酵素」の表示が商品の品質(玄米酵素であること)を示すものである以上,これを玄米酵素以外の指定商品に使用すれば,商品の内容誤認表示になることは明らかである。 |
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当裁判所の判断
1 法3条1項3号について (1) 本願商標の指定商品は,「玄米を酵素醗酵させた植物醗酵食品・穀物の加工品」である。この指定商品は,補正される前の指定商品「植物発酵食品,穀物の加工品」を,上記のように補正したものであることからすると,「玄米を酵素醗酵させた」との修飾語は,「植物醗酵食品」及び「穀物の加工品」の両方にかかるものとみるべきであるから,「玄米を酵素醗酵させた植物醗酵食品,及び,玄米を酵素醗酵させた穀物の加工品」との意味であると解することができる。 (2) 本願商標の指定商品「玄米を酵素醗酵させた植物醗酵食品・穀物の加工品」の需要者は,通常人であることが明らかである。本願商標を構成する「玄米」は,「籾殻を除いただけで,精白してない米。くろごめ。」(乙第2号証広辞苑第5版870頁)を意味し,「酵素」は,「生体内で営まれる化学反応に触媒として作用する高分子物質。・・・蛋白質またはこれと補酵素と呼ばれる低分子物質との複合体。」(同904頁)を意味する。通常人にとって,「玄米」の語はなじみのある語であり,その意味するところはおおよそ理解可能なものである。「酵素」の語についても,その意味が科学的に正確に知られているかどうかは別として,通常人にとってなじみのある語であるということができる。「玄米酵素」という語は,「玄米」と「酵素」とを組み合わせた造語であるものの(上記広辞苑の該当頁にも「玄米酵素」との語は掲載されていない。),通常人にとって,「玄米酵素」の語自体から,「玄米」と「酵素」とが関係する商品であると理解することは容易である。 本願商標をその指定商品「玄米を酵素醗酵させた植物醗酵食品・穀物の加工品」に使用した場合,その指定商品が「玄米を酵素醗酵させた食品,及び,玄米を酵素醗酵させた穀物の加工品」であることから,通常人であれば,本願商標は,玄米を酵素醗酵させて得た食品の品質,効能を表わすものとして,これを,短く直接的に「玄米酵素」と表現したものである,と理解することになるのは当然である。また,本願商標は,単に,「玄米酵素」との語を,毛筆による,ごく普通の行書体で表わしているものにすぎない。したがって,本願商標は,指定商品の「玄米を酵素醗酵させた植物醗酵食品,及び,玄米を酵素醗酵させた穀物の加工品」に使用する場合においては,法3条1項3号の「その商品の・・・品質・・・効能・・・を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標」に該当する,というべきである。 (3) 原告は,本願商標が自他識別機能を有する理由として,本願商標は,「玄米」と「酵素」の語を組み合わせた造語であり,特別顕著性を具備する,本願商標を使用したのは,原告が初めてであり,本願商標の玄米酵素は,商品名であると同時に原告の商標でもある,などと主張する。しかし,本願商標は,上述のとおり,造語ではあるものの,単に,商品の品質,効能を普通に表わしたものにすぎないものであることは明らかである。 仮に,本願商標を使用したのが,原告が初めてであるとしても,この判断に影響を及ぼすものではない(本願商標を使用したのが,原告が初めてであるかどうかについては,原告は,昭和50年10月ころから,商標として,本願商標の使用を開始した,と主張し,これに沿う証拠として,甲第35,第36号証等を提出し,一方,被告が提出した「健康自然食品史」(全日本健康自然食品協会平成4年9月16日発行,乙第21号証)には,「富士吉田市のDも・・・昭和十九年技術院より次のような報奨状を受けている。・・・それは,一口に「オクワキ酵素」と呼ぶ玄米酵素の研究であって,昭和二五年,E病院長・・・Eはこれに「神原(しんげん)菌(G.A.M)」と名づけ,)・・・そして四十七年Dの死去後、いくつかに分かれたようで,翌年大月の万成食品がケンコウキンを,Fが「玄米コーソ」をそれぞれ発売するようになる。」との記載もある。しかし,本願商標の使用を開始したのは誰が最初であるかということが,本願商標が法3条1項3号の商標に該当するかどうかの判断に影響を与えるものと解することはできない。)。 原告は,従来から商品として存在していない商品を創造した場合,その商標は,それ自体商品名でもあることは「味の素」の例を出すまでもないことである,本願商標は,商品名であるとともに,原告の商標でもある,とも主張する。しかし,本願商標がその指定商品の品質,効能と極めて密接な関係を有することは上述のとおりであり,「味の素」の商標とその指定商品との関係と,本願商標とその指定商品との関係とは異なるものであり,両者は,その事例を異にするものであることは明らかである。原告の主張は,採用することができない。 2 法3条2項について (1) 原告は,原告が永年にわたり本願商標を使用した結果,需要者が原告の業務に係る商品であることを認識できる商標となっている(法3条2項),とも主張する。 しかし,原告が昭和50年ころから本願商標を使用してきたことは事実であるとしても,原告は,独自の販売組織(代理店,特約店,ヘルス方式)によりその販売を継続しており(原告が自認するところである。),一般の薬局等では販売していないため,一般に向けた宣伝広告はほとんどしていない。すなわち,昭和57年7月27日付けの北海タイムスに原告の広告が掲載されていること,原告の特約店が「玄米酵素」と表示した看板を掛けていることは認められる(甲第22号証添付の第6号証,甲第39号証)ものの,これ以外に原告が一般向けに本願商標を使用した宣伝広告を積極的にしていることを認めるに足りる証拠はない。 原告が主張する商品の売上げについては,その売上金額の主要な部分が「ハイ・ゲンキ」との商標が付された商品によるものであり,本願商標が使用されている商品の売上はわずかである。例えば,平成10年度の原告の売上げは,売上合計額が36億3081万5800円であるのに対し,本願商標を使用した商品の売上げは2億3753万4000円にすぎず,原告の上記売上額のほとんどは,商標「ハイ・ゲンキ」を使用した商品であり,この商標「ハイ・ゲンキ」を使用した商品については,「玄米醗酵食品」とか「GENMAIKOSO」との表示を使用しているものの,本願商標を商標として使用してはいない(甲第22号証添付の第10〜第17号証,同第22号証,甲第24号証)。)。 (2) 「玄米酵素」との語については,「健康食品事典’85」((株)東洋医学舎昭和60年8月31日発行,企画編集 漢方医薬新聞編集部,監修杉靖三郎。 乙第3号証)に,「玄米酵素」との表題の下に,「玄米酵素とは,玄米の栄養素である胚芽と糖に,純粋ハチミツを加え,それにコージ菌を使って醗酵させ,人体に必要な酵素を積極的に培養したものである。」,「こうして,つくられた玄米酵素には,玄米胚芽の豊富な栄養素とともに,数十種に及ぶ活性酵素群が含まれている。」との記載がある。また,「2000-2001 改訂新版 健康・栄養食品事典」((株)東洋医学舎2000年3月25日発行,企画編集 漢方医薬新聞編集部,監修奥田拓道。乙第34号証)及び「2002-2003 改訂新版 健康・栄養食品事典」((株)東洋医学舎2002年3月20日発行,企画編集 漢方医薬新聞編集部,監修奥田拓道。乙第35号証)にも,同趣旨の記載がある。さらに,インターネット上の多数の記事あるいは宣伝広告においても,「玄米酵素」との語を,特定の内容の健康商品の名称,あるいは,健康食品に含まれる特定の内容の成分の名称として,使用しているものが多い(乙第4〜第20号証,乙第30,第32号証)。 上記の文献及びインターネット上の記事あるいは宣伝広告によれば,「玄米酵素」の語は,原告の商標としてではなく,健康食品中の特定の内容の商品ないし成分の名称として,取引者・需要者に理解されているものであると認められる。 原告は,「健康食品事典’85」の記事は,原告の商品「玄米酵素」を紹介した「驚異の玄米酵素」(ダイナミックセラーズ1991年発行,著者安達充。 甲第38号証。)からの受け売りでしかない,と主張する。しかし,同書における「玄米酵素」についての説明と,上記文献の「玄米酵素」についての説明が内容的に類似しているとすれば,それは,正に,両文献とも,「玄米酵素」という名称によって特定される健康食品について説明をしているためである,と解することができるのであるから,原告の上記主張は,上記文献の記事の信用性を疑わせるものということはできない。なお,「驚異の玄米酵素」自体も,その見出しに,「玄米酵素=玄米+酵素」,「玄米酵素の成分」,「なぜ今玄米酵素か?」,「玄米と玄米酵素」などの記載が見られ,「玄米酵素」との語を,原告の商品の商標というより,特定の内容の健康食品を表わす名称として使用しているとも見得るものであり,同書も,原告の商品である「玄米酵素」を紹介しながら,「玄米酵素」との語を特定の内容の健康食品を表わす名称としても使用していることは否定できないところである。 原告は,インターネットの情報は,でたらめな内容のものが多い,と主張する。確かに,インターネットの情報は,その出所が明確でないものも含まれ,その内容の信用性に乏しいものも含まれることは否定することができない。しかし,上記のように,インターネット上の多数の記事あるいは宣伝広告において,「玄米酵素」との語を,特定の内容の商品の名称,あるいは,特定の内容の成分の名称として使用している,ということは,「玄米酵素」の語についての,大方の取引者・需要者の認識ないし理解がそのようなものであることを示すものである,ということもまた否定することができない事実である。 これらの文献あるいはインターネット上の記事ないしは宣伝広告においては,「玄米酵素」の語を,特定の内容の健康商品の名称,あるいは,健康食品に含まれる特定の内容の成分の名称としてとらえており,この特定の健康商品の出所,あるいは,健康食品中の特定の成分の出所を表示する商標としてとらえてはいない。このように,「玄米酵素」の語は,「玄米を酵素醗酵させた植物醗酵食品・穀物の加工品」との商品の品質,効能を表示する商標にすぎないものであるため,その取引者・需要者にとっても,「玄米酵素」との語が,その商品の出所を表わす原告の商標というよりも,特定の内容の健康商品あるいは健康食品に含まれる特定の内容の成分を表す語として使用されているものである。 上に述べたところによれば,仮に,「玄米酵素」の語が原告と結び付けられて広く知られるに至っているとしても,それは,原告が「玄米酵素」という名称で表される内容の商品を多く取り扱っている,ということが広く知られていることを示す,とみることが十分可能であり,それをもって,「玄米酵素」の語が原告という出所を示すものとして広く知られるに至っていることを認める根拠とすることはできない,ということができる。 (3) 以上によれば,本願商標が,原告の長期間にわたる使用により,原告の業務に係る商品であることを認識することができるものとなった商標である,と認めることは困難である。 本願商標が商品の品質を表示するにすぎないものであり,法3条1項3号に該当し,自他商品識別機能を有しない,とした審決の判断に誤りはない。 3 結論 以上に検討したところによれば,原告の主張する取消事由には理由がなく,その他,審決には,これを取り消すべき瑕疵は見当たらない。そこで,原告の請求を棄却することとし,訴訟費用の負担について,行政事件訴訟法7条,民事訴訟法61条を適用して,主文のとおり判決する。 |
裁判長裁判官 | 山下和明 |
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裁判官 | 設樂隆一 |
裁判官 | 阿部正幸 |