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審判番号(事件番号) データベース 権利
平成15ワ11661商標権侵害差止等請求事件 判例 商標
関連ワード 指定商品 /  周知商標 /  周知性 /  4条1項19号 /  不正目的(不正の目的) /  ただ乗り(フリーライド) /  権利濫用(権利の濫用) /  債務不履行 /  専用使用権 /  国内 /  差止 /  信義則 /  外国 / 
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事件 平成 15年 (ネ) 4087号 商標権侵害差止等請求控訴事件
控訴人 ダイワ企業株式会社
訴訟代理人弁護士 飯塚孝
同 荒木理江
補佐人弁理士 若林擴
被控訴人 トータス株式会社
訴訟代理人弁護士 鈴木修
同 棚橋美緒
補佐人弁理士 中田和博
同 土生真之
裁判所 東京高等裁判所
判決言渡日 2003/11/27
権利種別 商標権
訴訟類型 民事訴訟
主文 1 本件控訴を棄却する。
2 当審における訴訟費用は控訴人の負担とする。
事実及び理由
当事者の求めた裁判
1 控訴人 (1) 原判決を取り消す。
(2) 被控訴人は,別紙標章目録記載の標章を付した別紙物件目録記載の履物を販売してはならない。
(3) 被控訴人は,別紙標章目録記載の標章を付した別紙物件目録記載の履物を廃棄せよ。
(4) 訴訟費用は,第1,2審とも被控訴人の負担とする。
2 被控訴人 主文と同旨
事案の概要
本件は,控訴人が,別紙標章目録記載の標章(以下「被控訴人標章」という。)を付した履物を輸入販売している被控訴人に対し,控訴人の有する商標権(登録番号2256236号。昭和62年12月28日出願。平成2年8月30日登録。指定商品は平成3年政令第299号による改正前の商標法施行令別表による商品区分第22類の「はき物(運動用特殊ぐつを除く。),かさ,つえ,これらの部品及び附属品」。商標は別紙本件商標目録記載のとおり。以下「本件商標権」といい,その登録商標を「本件商標」という。)を侵害するとして,上記各行為の中止等を命じる判決を求めた。原判決は,控訴人の請求は権利の濫用に当たる,として,請求を全部棄却した。
当事者間に争いのない事実等並びに争点及び争点に対する当事者の主張は,次のとおり付加するほか,原判決の事実及び理由「第2 事案の概要」記載のとおりであるから,これを引用する。なお,当裁判所も,「アバディン社」,「フルーク社」,「ケレメ・エクスポルタシオン社」,「タイセイ」,「KELME商標」,「KELME商品」の語を原判決の用法に従って用いる。
1 当審における控訴人の主張の要点 (1) 商標法4条1項19号,3項,民法1条3項の解釈の誤り 原判決は,KELME商標は遅くとも平成8年までには少なくともスペインにおいて周知商標となっていたものと推認することができる,と認定した上で,控訴人は,KELME商標に類似した商標を付した商品を独占的に販売するという不当な目的のために本件商標権を譲り受けたものであるから,アバディン社グループの正規代理店である被控訴人に対し,本件商標権に基づき差止請求権を行使することは,権利の濫用に当たる,と判断した。しかし,この判断は,商標法4条1項19号,3項の趣旨に反するものであり,一般条項として謙抑的に適用されるべき民法1条3項を安易に適用したものであって,到底許されない。
商標法は,国内又は外国において周知・著名な商標を不正の目的をもって使用する者の商標登録を認めないとしながらも(同法4条1項19号),商標登録出願の時に同号の各要件に該当しない場合には,同条項を適用しない(同条3項),と定めている。
原判決は,本件商標が昭和62年12月28日に商標登録出願されたものであるにもかかわらず,出願時である昭和62年当時にKELME商標がスペインで周知商標になっていたか否かについて何ら判断をしていない。このような判断は,出願人の予測可能性を保証する,との商標法4条3項の立法趣旨を没却するものとして,許されない。
KELME商標が,本件商標の出願時である昭和62年当時にスペインで周知性を取得していたことを認めるに足りる証拠はない。本件商標が商標法4条1項19号に該当しないことは明らかである。
(2) 「不当目的」についての認定判断の誤り 原判決は,14頁記載の@ないしCの事情を挙げて,控訴人が不当な目的をもってタイセイから本件商標権を譲り受けた,と認定判断した。しかしこの認定判断は誤りである。
ア 原判決は,上記不当目的を推認させる事情の一つ(上記@)として,控訴人が,アバディン社グループから平成7年12月以降の取引を拒絶されたため,以後アバディン社グループからKELME商品の輸入ができなくなった,との事実を挙げる。しかし,そもそも,アバディン社グループが控訴人に対しKELME商品の製造・販売・輸入の中止を求めること自体が,控訴人の本件商標権の専用使用権の使用に制約を課するものであり,許されないはずである。控訴人が平成7年12月以降にアバディン社から取引を停止されたのは,控訴人の正当な商標権の行使に由来するものであって,何ら不当性を裏付けるものではない。
イ 原判決は,上記不当目的を推認させる事情の一つ(上記A)として,控訴人が本件商標権について平成5年にタイセイから専用使用権の設定を受けた事実及び平成8年に同社から本件商標権を譲り受けた事実を挙げる。
しかし,控訴人がタイセイから本件商標権について専用使用権の設定を受けたのは,同社が日本国において既に本件商標を登録していたため,商標登録制度の尊重の見地から,その商標権を侵害しながらKELME商品を輸入販売することができない,と判断したことによるものである。
原判決は,控訴人がタイセイから本件商標権について専用使用権の設定を受けた平成5年当時のKELME商標の周知性について何ら判断していない点においても,審理不尽である。
控訴人が本件商標権を譲り受けたのは,資金難に陥っていたタイセイの依頼に基づき,その資金調達に協力するためであり,不当な利益を得るためではない。
ウ 原判決は,上記不当目的を推認させる事情の一つ(上記B)として,控訴人が扱っている商品がアバディン社グループのKELME商品と関連があるかのような説明をしていたことを挙げる。原判決が上記事情を認める根拠としているのは,控訴人がホームページ上で「スペインのブランド。サッカーのユニフォームでも有名。」と記載していた事実である。
しかし,控訴人は,1992年のバルセロナオリンピックより前,タイセイの本件商標権取得以前から,「KELME」ブランドを採用し,スペイン製のシューズを注文し,輸入し,販売していた。控訴人がKELME商品を販売していた当初は,KELME商標は国内及び国外ともに全くの無名ブランドであった。控訴人は,特にシューズについて国内販売での知名度を上げるために,ホームページ上で,スペインで「サッカーのユニフォームでも有名」として,他のスペイン製の商品を利用した,スペイン製のシューズであることを強調するための宣伝をしたものにすぎない。このことは,何ら非難に値することではない。
エ 原判決は,上記不当目的を推認させる事情の一つ(上記C)として,控訴人が,平成6年8月に,「KELME」の文字のみから構成される商標及び「KELME」の文字及び動物の足跡の図形から構成される商標を,いずれも指定商品を「かばん類,袋物」として登録出願し,平成9年1月に商標登録を受けた事実を挙げる。
しかし,控訴人は,被控訴人が日本においてKELME商品を販売開始する以前から,本件商標の宣伝広告に努め,販路を拡大しながら,日本での周知性を自ら獲得してきたものである(甲第15号証)。控訴人が上記商標登録出願をした理由は,新たな商品を開発し,KELME商品の販路を拡大したいとの趣旨にほかならず,何ら不当な目的に基づくものではない。
2 当審における被控訴人の主張の要点 (1) 商標法4条1項19号,3項,民法1条3項の解釈の誤り,の主張について 権利濫用とすべきか否かは,商標法の商標登録の可否の問題とは適用の場面を異にするのであり,個別具体的な事情の下に,ある者が,ある商標に関する権利を取得し,当該商標に関する権利を行使することが,公正な競争秩序の確保の観点から妥当であるか,によって決すべき問題である。原判決は,本件商標の登録自体が無効か否かを問題にしているのではない。原判決が問題としているのは,あくまでも,現在の商標権者である控訴人が,スペインにおいて商標登録がなされており,アバディン社がこれを譲り受けていたKELME商標の付されたKELME商品について,当該商標権者のグループ企業から,自ら輸入,販売しておきながら,同グループ企業から取引停止を受けると,自己がKELME商標について登録を有していることを奇貨として,現在のKELME商品の正規販売代理店である被控訴人に対し,商標権を行使することが,権利濫用に該当するか否かということである。原判決は,この問題についての結論を導くに当たって,当該権利濫用論の名宛人である控訴人が本件商標権を取得した平成8年当時のKELME商標の周知性及びその他の一連の経緯を検討しているのである。
本件において,本件商標の出願人であるタイセイの予測可能性を考慮に入れる必要はない。
(2) 「不当目的」についての認定判断の誤り,の主張について ア 控訴人は,アバディン社グループによる販売中止要請は,控訴人の本件商標権の専用使用権に不当な制約を課すものであり許されない,と主張する。
控訴人は,平成6年(1994年)3月から平成7年(1995年)11月まで,アバディン社グループのケレメ・エクスポルタシオン社及びフルーク社からKELME商品を輸入しており(乙第8,第9号証),アバディン社と控訴人との間では販売代理店契約こそ締結されていなかったものの,控訴人は,実質的には,当該期間中,日本におけるKELME商品の唯一の販売代理店であった(乙第8号証)。このような関係にある当事者は,いずれも,当該商品のブランド価値を認識し,かつこれを尊重し,当該商品の販売の拡大を実現させるという共通の目的の下に,当該商品を売買することが予定されている。このような契約の当事者は,当該商品以外の,第三者の製造,販売に係る商品において当該ブランドネームが使用された場合,相互に協力して当該使用を阻止すべき立場にある。ましてや,当該契約の当事者である販売代理店が,代理店として取り扱っている商品のブランド価値にただ乗りして,当該ブランドネームを付した第三者の製造に係る模造品を販売するということは,不正競争防止法に違反するのみならず,契約上の上記付随義務又は信義則上の義務に違反する行為である。当該ブランドの保有者である製造元から,当該販売の停止を要請されたのに対し,当該販売は,第三者を権利者とする商標の専用使用権の正当な行使であると反論することは,債務不履行及び不正競争行為の問題と形式的な商標権の保有の問題とを履き違えるものである。
控訴人がこのような主張をすること自体が,専用使用権の取得に不正目的があったこと,すなわち,正規品の輸入目的でなく,スペインの周知商標であるKELME商標の付されたKELME商品について,控訴人を販路としない日本への輸入を阻止したり,当該商標に類似した商標を付した商品を独占的に販売したりする目的があったことを強力に推認させるものである。
イ 控訴人は,タイセイから専用使用権の設定を受けたのは,同社が日本国において商標権を登録している以上,その商標権を侵害しながらKELME商品を輸入販売することはできないとの判断,すなわち,商標登録制度の尊重にあった,と主張する。
しかし,控訴人は,このように,専用使用権の取得目的は,KELME商品を輸入販売するためであった,と主張する一方で,ほかならぬ,当該KELME商品の輸入元からの模造品の販売中止の要請に対し,専用使用権の権利行使であることを理由にこれを拒絶したのである。しかも,控訴人は,本件においては,真正なKELME商品を輸入販売している被控訴人に対し,取得した本件商標権をもって,これを阻止しようとしているのである。専用使用権の取得目的についての控訴人の弁明は,矛盾しており,事実に反することが明らかである。
控訴人は,本件商標権を譲り受けた理由は,タイセイの資金調達に協力したためであり,何ら不当な目的を得る目的はない,と主張する。
しかし,控訴人は,平成7年(1995年)末に,アバディン社グループの従業員との日本における会合において,同人から,KELME商品の無許可の製造に対する抗議及びその即刻停止の要請を受けたのに対し,これを約束しないばかりか,同人に対し,本件商標権を控訴人がタイセイから譲り受けることの許可を求め,これを拒絶された際に,本件商標権をタイセイからアバディン社グループに有償で譲渡する用意があるとまで述べている。控訴人の本件商標権の譲受けが,アバディン社グループ及びその正規代理店その他の第三者の日本におけるKELME商品の販売を阻止する等の不当目的にあったことは,明らかである。
ウ 控訴人が,1992年のバルセロナオリンピックより前,タイセイの本件商標権取得以前から,「KELME」ブランドを採用し,スペイン製のシューズを注文し,輸入し,販売していたことは,否認する。
控訴人は,「スペインで「サッカーのユニフォームでも有名な」とホームページ上で他のスペイン製の商品を利用して」宣伝したことは認めている。ここにいう「他のスペイン製の商品」がアバディン社グループ管理に係るKELME商品である以上,当該商品ブランドの価値にただ乗りしていることに変わりはない。
エ 控訴人が,被控訴人が日本においてKELME商品を販売開始する以前から,本件商標の広告宣伝に努め,販路を拡大しながら,日本での周知性を自ら獲得してきた,との事実は否認する。
「本件商標の広告宣伝に努めた」との主張の趣旨が,「アバディン社のKELME商品の販売代理店として広告宣伝した」ことにあるとすれば,その成果である周知性は被控訴人に帰属すべきものである。
上記主張が「KELMEブランドを控訴人自らのオリジナルブランドとして広告宣伝した」との趣旨であれば,当該主張は,控訴人がアバディン社グループであるケレメ・エクスポルタシオン社及びフルーク社からKELME商品を輸入している,との客観的事実(乙第8,第9号証)に合致しない。
当裁判所の判断
当裁判所も,原判決と同じく,控訴人の請求はいずれも理由がない,と判断する。その理由は,次のとおり付加するほか,原判決の事実及び理由「第3 当裁判所の判断」記載のとおりであるから,これを引用する。
1 商標法4条1項19号,3項,民法1条3項の解釈の誤り,の主張について 控訴人は,商標法は,国内又は外国において周知・著名な商標を不正の目的をもって使用する者の商標登録を認めないとしながらも(同法4条1項19号),商標登録出願の時に同号の各要件に該当しない場合には,同条項を適用しない(同条3項),と定めているにもかかわらず,原判決は,本件商標がその登録出願日である昭和62年12月28日当時にKELME商標がスペインで周知商標になっていたか否かについて何ら判断しないまま,一般条項として謙抑的に適用されるべき民法1条3項を安易に適用した結果,権利濫用の結論を導いたものであり,このような判断は,到底許されない,と主張する。
しかしながら,本件商標権の行使が権利の濫用に当たるか否かの問題と,本件商標権の不登録事由の有無の問題とは,適用の場面を異にする別個の問題であり,本件商標権に不登録事由がなければ本件商標権の行使は権利の濫用に当たらなくなる,というわけのものでないことは,明らかである。
原判決が,権利濫用の判断に当たって,本件商標の登録出願時である昭和62年当時のKELME商標の周知性について判断しなかったからといって,そのこと自体が誤りとなることはあり得ない。
控訴人の主張は,採用することができない。
2 「不当目的」についての認定判断の誤り,の主張について (1) 控訴人は,原判決が次の@ないしCの事情を挙げ,これを根拠に控訴人が不当な目的をもってタイセイから本件商標権を譲り受けた,と認定判断したのは誤りである,と主張する。
@ 控訴人は,平成6年3月以降,スペインのアバディン社グループからKELME商品を輸入し,これを日本において販売していたが,アバディン社グループから平成7年12月以降の取引を拒絶されたため,以後アバディン社グループからKELME商品の輸入ができなくなったこと A 控訴人は,KELME商品を輸入するに当たり,タイセイから,同社が既に取得した本件商標権についての専用使用権の設定を受け,その後,平成8年5月8日に,タイセイから本件商標権を譲り受け,同年10月21日,その登録をしたこと B 控訴人は,自らが開設したホームページ上で,KELME商標について,「スペインのブランド。サッカーのユニフォームでも有名。」と記載し,あたかも,控訴人の扱っている商品がアバディン社グループのKELME商品と関連があるかのような説明をしていること C 控訴人は,KELME商品の輸入,販売をしていた平成6年8月11日,「KELME」の文字及び動物の足跡の図形から構成される商標についても登録出願をし,平成9年1月31日にその登録を受けたこと しかしながら,前記引用に係る原判決認定の事実(以下,単に「前記認定事実」という。)によれば,KELME商標が,遅くとも,控訴人が本件商標権をタイセイから譲り受けた平成8年までには,少なくともスペインにおいて周知商標になっていたこと,並びに,上記@ないしCの事実を認定することができ,これらの事実によれば,原判決の説示するとおり,控訴人は,自らが平成6年から7年にかけてアバディン社グループから輸入・販売し,また,世界各国に輸出・販売されているスペインの周知商標であるKELME商標の付されたKELME商品について,控訴人の意に反する我が国への輸入を阻止し,KELME商標に類似した商標を付した商品を独占的に販売するという不当な目的をもって,タイセイから本件商標権を譲り受けたと,優に認めることができる。
(2) 控訴人は,上記@につき,同人がアバディン社グループからKELME商品の取引を拒絶されたのは,本件商標権の専用使用権の行使に由来するものであるから,何ら不当目的を根拠付けるものではない,と主張する。
前記認定事実によれば,控訴人は,平成7年に,アバディン社の許諾なく中国においてKELME商品の製造を発注し,アバディン社から中国におけるKELME商品の製造を中止するよう要請されたのに対し,これを拒絶したため,アバディン社グループからKELME商品の取引を拒絶されたものであることが認められる。控訴人の主張は,中国でのKELME商品の製造は,同人の有する本件商標権の専用使用権の正当な行使であるから,アバディン社グループによる製造中止の要求こそ不当なものであり,これを拒絶したことは,何ら,控訴人が不当目的を有していたことの根拠とはならない,とするものである。
しかしながら,前記のとおりKELME商標が遅くとも平成8年までには少なくともスペインにおいて周知商標になっていたということができることに照らすと,KELME商標は,控訴人がアバディン社グループから中国におけるKELME商品の製造中止を要請され,これを拒絶したため,同グループから取引を拒絶された平成7年の当時においても,それ自体として,少なくとも,相当程度の利用価値を化体する商標であったということができる。前記認定事実によれば,控訴人は,平成6年3月から平成7年11月まで,アバディン社グループであるフルーク社及びケレメ・エクスポルタシオン社から,KELME商品を合計14万ドル以上輸入し,これを我が国で販売していた者であることが認められる。控訴人は,いわば,アバディン社のKELME商品の我が国内における販売店ともいえる立場に立っていた者であるということができるから,信義則上,アバディン社の許諾を得ない不真正商品については,その製造及び流通を阻止すべき義務を負っていたものと解するのが相当である。このような立場にある控訴人が,自らアバディン社の許諾なく,上記のとおり少なくとも相当程度の利用価値のある商標としてスペインで知られていたKELME商標を付したKELME商品の不真正商品の製造を第三者に発注することは,正に上記の信義則上の義務に違反する行為であることが明らかである。控訴人が,アバディン社グループからの不真正商品の製造の中止要請を拒絶したことは,控訴人が前記不当な目的を有していたことを根拠付ける有力な事実である,というべきである。
(3) 控訴人は,上記Aにつき,控訴人が本件商標権につき平成5年に専用使用権の設定を受けたこと,及び平成8年に本件商標権を譲り受けたことは,いずれも上記不当な目的によるものではない,と主張する。
しかしながら,原判決は,控訴人が本件商標権につき,平成5年に専用使用権の設定を受けたこと自体につき不当な目的があったとまでは述べていない。この点についての控訴人の主張は,原判決の誤解に基づくものというべきであり,失当である。
控訴人は,本件商標権につき専用使用権の設定を受けたのは,KELME商品の輸入販売に際し商標権侵害の事態を避けるためであったと主張する。ここにいうKELME商品の輸入販売とは,アバディン社グループからの輸入販売を指すものと解することができる。そうであれば,このような意図で,専用使用権の設定を受けておきながら,前記のとおり,この専用使用権を根拠に不真正商品の製造を第三者に発注することは,控訴人の不当な目的を根拠付ける有力な事実である,というべきである。もし,ここにいうKELME商品の輸入販売が,控訴人が発注した不真正商品の輸入販売を指すのであれば,そのような目的のために専用使用権の設定を受けながら,アバディン社グループからKELME商品の輸入販売を行ったことが,控訴人の不当な目的を根拠付ける有力な事実である,というべきである。
控訴人は,平成8年に本件商標権を譲り受けたのは資金難に陥っていたタイセイの依頼に基づき,その資金調達に協力するためであって,何ら不当な利益を得るためではない,と主張する。しかしながら,本件商標権譲受けについての,タイセイの資金調達への協力という理由の存在は,他の理由の存在を排斥するものではない。仮に,本件商標権を譲り受けた理由の少なくとも一つとしてタイセイの資金調達への協力があるとしても,そのことは,控訴人が不当目的によって譲り受けたことを,他の事情から認定することを妨げるに足るものではないことが,明らかである。
(4) 控訴人は,上記Bにつき,同人のホームページにおいて,KELME商標について「スペインのブランド。サッカーのユニフォームでも有名。」と記載したのは,シューズについて国内での知名度を上げるために,他のスペイン製の商品を利用して,スペインのシューズであることを強調するために宣伝をしたものにすぎない,と主張する。
しかしながら,乙第4号証によれば,控訴人のホームページ(閲覧は,2002年5月1日付け)に,KELME商標について「KELME(ケルメ)スペインのブランド。サッカーのユニフォームでも有名。」との記載があることが認められ,同記載は,これに接した取引者・需要者により,控訴人の扱っている商品がアバディン社の扱っているKELME商品と関連があるかのように受け取られるものであることが明らかである。証拠上提出された同ホームページの閲覧日付は,本件商標権の譲受け時である平成8年より後であるものの,このような記載は,平成8年の時点におけ不当な目的を根拠付ける有力な資料となるものというべきである。
(5) 控訴人は,上記Cにつき,控訴人は,被控訴人が日本においてKELME商品を販売開始する以前から,本件商標の宣伝広告に努め,販路を拡大しながら,日本での周知性を獲得してきたものであり,自らKELME商標について登録出願をし,商標登録を受けたのは,新たな商品を開発し,KELME商品を拡大したいとの趣旨にほかならず,不当な目的に基づくものではない,と主張する。
しかしながら,被控訴人が,アバディン社グループからKELME商品を輸入販売する以前から,日本国内においてKELME商品の宣伝広告に努め,日本において周知性を獲得したことを認めるに足りる証拠はない。
被控訴人が,宣伝広告に努め,日本において周知性を獲得してきたと主張する「KELME商品」が,アバディン社グループのKELME商品を意味するのであれば,輸入販売店として宣伝広告に努めた結果は,アバディン社グループに帰属すべきものであるから,そのことは,被控訴人自らがKELME商標の登録出願をし,商標登録を受けたことに不当な目的があったと認めることを何ら妨げるものではない,というべきである。
仮に,控訴人が主張する「KELME商品」が控訴人自らの商品のことをいうのであれば,それは,控訴人がアバディン社グループからKELME商品を輸入販売していた事実に反するものであり,このことを認めるに足りる証拠はない。
控訴人が自らKELME商標の登録出願をし,商標登録を受けたことは,控訴人に不当な目的があったことを根拠付ける有力な事実である,というべきである。
(6) 結局,控訴人の主張は,いずれも採用することができない。
結論
以上によれば,控訴人の請求をすべて棄却した原判決は正当である。そこで,本件控訴を棄却することとし,当審における訴訟費用の負担につき民事訴訟法67条,61条を適用して,主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 山下和明
裁判官 阿部正幸
裁判官 高瀬順久