関連ワード | 識別力 / 指定役務 / 普通名称(3条1項1号) / 記述的商標(3条1項3号) / 品質誤認(4条1項16号) / 結合商標 / 外観(外観類似) / 称呼(称呼類似) / 観念(観念類似) / 差止 / 継続 / 同業者 / |
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事件 |
平成
17年
(ネ)
10082号
商標権侵害差止等請求控訴事件
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控訴人 有限会社ピーシーワイ 代表者代表取締役 訴訟代理人弁護士 田中保彦 被控訴人 Y 被控訴人 株式会社山海堂 代表者代表取締役 被控訴人 ジャパンライム株式会社 代表者代表取締役 被控訴人 有限会社ソーケン・ネットワーク 代表者代表取締役 4名訴訟代理人弁護士 三堀清 |
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裁判所 | 知的財産高等裁判所 |
判決言渡日 | 2005/11/24 |
権利種別 | 商標権 |
訴訟類型 | 民事訴訟 |
主文 |
1 本件控訴をいずれも棄却する。 2 控訴費用は控訴人の負担とする。 |
事実及び理由 | |
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控訴の趣旨
1 原判決を取り消す。 2 被控訴人Y(以下「被控訴人Y」という。)は,運動法ないし運動トレーニング法の教授に関する広告,運動法ないし運動トレーニング法の講習会の企画・運営又は開催,運動法ないし運動トレーニング法の教授に関する書籍,雑誌の記事,DVD,ビデオ等の出版物の執筆,解説又は監修に際し,原判決別紙標章目録記載の各標章(以下,順に「被控訴人標章1」等といい,これらを「被控訴人標章」と総称する。)及び原判決別紙商標目録記載の登録商標(以下「本件商標」という。)を使用してはならない。 3 被控訴人株式会社山海堂は,原判決別紙商品目録記載1の書籍(以下「被控訴人書籍」という。)を発行し,販売してはならない。 4 被控訴人株式会社山海堂は,発行した被控訴人書籍のうち,販売済みのものを回収し,被控訴人書籍の在庫品及び印刷原版と共に廃棄せよ。 5 被控訴人ジャパンライム株式会社は,原判決別紙商品目録記載2のDVD(以下「被控訴人DVD」という。)を作成し,販売してはならない。 6 被控訴人ジャパンライム株式会社は,作成した被控訴人DVDのうち,販売済みのものを回収し,被控訴人DVDの在庫品及び撮影オリジナルDVD又はビデオテープと共に廃棄せよ。 7 被控訴人有限会社ソーケン・ネットワークは,原判決別紙商品目録記載3のビデオテープ(以下「被控訴人ビデオテープ」という。)を作成し,販売してはならない。 8 被控訴人有限会社ソーケン・ネットワークは,作成した被控訴人ビデオテープのうち,販売済みのものを回収し,被控訴人ビデオテープの在庫品及び撮影オリジナルビデオテープと共に廃棄せよ。 9 訴訟費用は,第1,2審とも,被控訴人らの負担とする。 |
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事案の概要
本件は,本件商標に係る商標権(以下「本件商標権」という。)を有する控訴人が,運動法ないし運動トレーニング法に被控訴人標章を使用し又は被控訴人標章を付した被控訴人書籍等を販売した被控訴人らに対し,商標権侵害であると主張して,標章の使用等の差止め又は書籍等の廃棄等を求めた訴訟である。 原審は,被控訴人標章はいずれも本件商標に類似せず,被控訴人らの行為は本件商標権の侵害に当たらないと判断して,控訴人の請求をいずれも棄却したので,控訴人は,これを不服として,本件控訴をしたものである。 |
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当事者の主張
1 争いのない事実は,原判決の「事実及び理由」中の第2の1記載のとおりであるから,これを引用する。 2 争点及び争点に関する当事者の主張は,次のとおり付加するほか,原判決の「事実及び理由」中の第2の2及び3記載のとおりであるから,これを引用する。 (1) 当審における控訴人の主張 ア 本件商標中の「スタビライゼーション」の部分が普通名称であるとした原判決には,以下のとおり,事実誤認がある。 (ア) 原審は,普通名称であると認定した理由の一つに,控訴人が,原審第1回口頭弁論期日において,「スタビライゼーション」が普通名称であって自他識別力を有するものではないことを認める旨の陳述をしたことを挙げている。 しかし,控訴人(原審の原告訴訟代理人であった控訴人訴訟代理人)は,「スタビライゼーション・トレーニング」の商標登録出願が拒絶された事実を述べただけであり,「スタビライゼーション」が普通名称であることを認めてはいないから,原審の判断は根拠を欠いている。 (イ) 原審は,「スタビライゼーション」の語が運動法の教授という本件商標の指定役務に使用された場合,需要者は,当該表示を「主動筋のみならず,主動筋を補助する補助筋を刺激し,バランス能力や姿勢反射の改善を図り,四肢の安定性を高めることを目的とした特定のトレーニング方法」を表す普通名称であると理解すると判断した。 しかし,主動筋と補助筋ないし補助筋群とを区別したトレーニングを行っているのは控訴人のみである。控訴人は,補助筋のことを英語でスタビライザー(stabilizer)ということから,この運動法を「スタビライゼーション」と名付けたのである。被控訴人Yによるトレーニング法は,上記の区別をしておらず,控訴人のトレーニング法とは似て非なるものである。「スタビライゼーション」というトレーニング法を開発し,我が国に広めたのは控訴人及びNPO法人スタビライゼーション協会(以下「スタビライゼーション協会」という。)であって,被控訴人Yではない。そして,控訴人及びスタビライゼーション協会が「スタビライゼーション」,「スタビライゼーション・トレーニング」,「スタビ・トレーニング」等の語を使用して上記トレーニング法の指導者養成,研究,宣伝等の活動を組織的,継続的に行った結果,「スタビライゼーション」の語は,控訴人及びスタビライゼーション協会が提供する運動法を示すものとして,広く,かつ,強く認識されている。 (ウ) したがって,本件商標中の「スタビライゼーション」の部分が普通名称であるとした原判決には明らかな事実誤認がある。 イ 被控訴人らが被控訴人標章を使用する役務は,各種運動競技の競技者の筋力向上及び改善であって,本件商標の指定役務と同一又は類似のものである。 ウ 被控訴人標章は,以下のとおり,本件商標に類似する。 (ア) 原審は,「スタビライゼーション」は特定のトレーニング法を表す普通名称であるから,本件商標の要部とは認められないと判断した。 しかし,結合商標は簡易迅速を尊ぶ取引の実際においてしばしばその一部だけによって簡略に称呼,観念されるところ,本件商標は,「スタビライゼーション」,「フィジカル・コントロール・テクニック」及び「(PC)」の三つの部分から構成されているが,上記のとおり,「スタビライゼーション」の語は,控訴人及びスタビライゼーション協会による活動の結果,控訴人及びスタビライゼーション協会のトレーニング法を表すものとして,需要者及び同業者の間で明確に認識されるに至っているから,「スタビライゼーション」の部分が要部となる。したがって,本件商標からは,「スタビライゼーション」との外観及び称呼が生ずる。 また,「スタビライゼーション」の原義である「安定(性)」を意味する名詞である「スタビリティ」という称呼も生ずる。 被控訴人標章のうち,被控訴人標章1〜4,6及び8は,本件商標の要部である「スタビライゼーション」の語を含むから,外観及び称呼において本件商標に類似する。また,被控訴人標章5及び7は,「スタビリティ」の語を含むから,称呼において本件商標に類似する。 (イ) さらに,観念についてみると,本件商標は,前記トレーニング法を意味する「スタビライゼーション」の語に,「身体統御技能」を意味する「フィジカル・コントロール・テクニック」の語を付したものであるから,「主動筋を補助する補助筋を刺激するトレーニング法であって,姿勢反射の改善,身体四肢のバランス能力及び安定を高める技能」という観念を有する。 他方,被控訴人標章3からは,本件商標と同一の観念が生ずる。また,その他の被控訴人標章は,「スタビライゼーション」又は「スタビリティ」の語に,「トレーニング研究会」,「専門家」,「アスレティック」,「ボディバランスを獲得する」,「基礎編」等の語を組み合わせたものであるが,これらの語はいずれも身体を統御する技能に関連する意味を有するから,被控訴人標章はすべて本件商標と観念を同一にし,又は観念が極めて類似するというべきである。 エ 以上によれば,被控訴人らの行為は,本件商標権の侵害となる。 (2) 当審における被控訴人らの主張 「スタビライゼーション・トレーニング」とは,「体幹部分の安定を目的とした補助トレーニング」を意味する語であり,ヨーロッパ,特にドイツで長い歴史を持つトレーニング法を指し示す普通名称であり,我が国では,平成6年に被控訴人Yが「スタビライゼーション・トレーニング」と題する記事を雑誌に連載したことなどによって知られるようになった。このように,運動法に関しての「スタビライゼーション」及び「スタビライゼーション・トレーニング」の語は,上記のトレーニング法を意味する語として一般に使用されている普通名称である。 なお,控訴人は,控訴人による運動法に独自性があると主張するが,平成6年に被控訴人Yが紹介した運動法や,欧米で発行された解説書に記載された運動法と同一又は類似のものであって,何ら独自なものではない。 |
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当裁判所の判断
1 当裁判所も,被控訴人標章はいずれも本件商標に類似せず,被控訴人らの行為は本件商標権の侵害に当たらないと判断する。その理由は,次のとおり付加するほか,原判決の「事実及び理由」中の第3の1記載のとおりであるから,これを引用する。 (1) 控訴人は,本件商標中の「スタビライゼーション」の語は,普通名称ではなく,控訴人及びスタビライゼーション協会が実施しているトレーニング法を指し示すものとして認識されているから,この部分が本件商標の要部となると主張し,このことを前提に,本件商標と被控訴人標章とが称呼及び外観において類似すると主張する。 しかし,次に説示するとおり,@ 本件商標の商標登録出願がされた平成12年4月14日(甲1)より前である平成6年(1994年)3月発行の雑誌「フィジーク」に,器具を使わないトレーニングの一つとして,被控訴人Yのアドバイス及び指導により,「スタビライゼーション30ポーズ」と題する記事が掲載されたこと(乙1の1〜3),平成6年6月〜12月発行の雑誌「コーチング・クリニック」に,被控訴人Yが,「特別集中セミナー 体幹を鍛えるレジスタンス・トレーニング スタビライゼーション・トレーニング」と題する記事を連載し,トレーニングの特徴,方法,効果等を紹介したこと(乙2〜8の各1〜3),平成11年9月に発行された被控訴人Yを編著者とする書籍「からだづくりのサイエンス」に,「スタビライゼーション・トレーニング」と題する項目が設けられ,トレーニングの方法等についての記述がされたこと(乙10の1〜4),A 本件商標の商標登録出願の後である平成13年(2001年)2月発行の雑誌「Tarzan」に,控訴人代表者の取材協力により,「使える筋肉を動けるカラダを,スタビライゼーションで作り上げる。」と題する記事が掲載され,「スタビライゼーションというトレーニングがある。ドイツで古くから行われていた医療体操を元に研究開発され」,「身体機能を活性化させカラダのバランスや安定性を向上させることを目的に行われる」等の記述がされたこと(甲14),平成13年(2001年)11月発行の雑誌「コーチング・クリニック」に,「スタビライゼーション・トレーニング」と題する特集記事が掲載され,被控訴人Yが「ハイパフォーマンス・スタビライゼーション・トレーニング」と題する記事を,控訴人代表者が「スタビライゼーション・トレーニングの基礎講座」と題する記事を,それぞれ執筆したこと(乙9の1〜5),B 控訴人は,平成14年12月9日に,「スタビライゼーション・トレーニング」の片仮名文字と「Stabilization Training」の欧文字とを上下二段に横書きしてなる商標につき,指定役務を第41類「運動法の教授」として商標登録出願をしたが,「スタビライゼーション・トレーニング」は「主動筋だけでなく,それらを補助する補助筋群(スタビライザー)も刺激し,バランス能力・リカバリー能力や姿勢反射の改善を図り,体幹と四肢の安定性を高めるトレーニング方法」として認識されており,これをその指定役務に使用しても,単に役務の内容を表示するにすぎないので,商標法3条1項3号,4条1項16号の規定により商標登録を受けることができないことなどを理由として,拒絶査定を受けたこと(甲12,13,乙13)が認められる。 これらの事実によれば,「スタビライゼーション」の語は,本件商標の商標登録出願がされた平成12年4月14日以前から現在に至るまで,我が国において,本件商標の指定役務である「運動法の教授」の需要者の間で,運動トレーニングの一方法を意味する普通名称と認識されていることが認められる。 (2) 控訴人は,控訴人が「スタビライゼーション」が普通名称であることを自認したとする原審の判断に違法があると主張する。 しかし,本件記録中の原審第1回口頭弁論調書によれば,原審の原告訴訟代理人(控訴人訴訟代理人)である田中保彦弁護士が「『スタビライゼーション』は,普通名称なので,この呼称では商標登録はできないと認識している。」と陳述したことが認められるから,控訴人の上記主張は採用することができない。 (3) 控訴人は,控訴人が行うトレーニング法と被控訴人Yによるトレーニング法とは内容が相違しており,「スタビライゼーション」の語は控訴人及びスタビライゼーション協会が行うトレーニング法を指し示すものとして需要者の間に認識されていると主張し,これを立証するための証拠を当審において多数提出している(甲15〜85(枝番のあるものはこれを含む。))。 しかし,両者によるトレーニングの具体的方法等に相違があるとしても,上記(1)の認定事実によれば,両者はいずれも「スタビライゼーション」と呼ばれるトレーニング法であると認められるから,「スタビライゼーション」の語が控訴人のトレーニング法のみを指す名称として需要者に認識されているということはできない。 (4) そうすると,本件商標の構成中の「スタビライゼーション」の部分だけでは,本件商標の指定役務「運動法の教授」について出所を識別することができないから,この部分は本件商標の要部となるものではない。したがって,この部分が要部であることを前提として本件商標と被控訴人標章とが称呼及び外観において類似するとする控訴人の主張は,採用することができない。 (5) 控訴人は,本件商標と被控訴人標章とが観念において同一又は類似であるとも主張する。しかし,両者の観念が共通するとしても,それは専ら「スタビライゼーション」という普通名称の部分から生ずる観念の同一性によるものであるから,これをもって本件商標と被控訴人標章とが類似するということもできない。 (6) したがって,控訴人のその余の主張について判断するまでもなく,被控訴人らの行為が本件商標権を侵害するとは認められない。 2 以上によれば,控訴人の本訴請求はいずれも理由がなく,これを棄却した原判決は正当である。 よって,控訴人の本件控訴は理由がないから棄却することとして,主文のとおり判決する。 |
裁判長裁判官 | 中野哲弘 |
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裁判官 | 大鷹一郎 |
裁判官 | 長谷川浩二 |