関連審決 | 取消2002-30078 |
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関連ワード | 指定商品 / 指定役務 / 3条2項 / 不使用 / 通常使用権 / 称呼(称呼類似) / 観念(観念類似) / 国内 / 使用許諾 / 不使用取消審判 / 継続 / 商号 / |
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事件 |
平成
15年
(行ケ)
124号
審決取消請求事件
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原告 株式会社ネットマーク 訴訟代理人弁護士 日野修男 被告 株式会社ネットマークス 訴訟代理人弁護士 吉田和彦 同 加藤 ちあき 同 相良 由里子 |
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裁判所 | 東京高等裁判所 |
判決言渡日 | 2003/10/30 |
権利種別 | 商標権 |
訴訟類型 | 行政訴訟 |
主文 |
原告の請求を棄却する。 訴訟費用は,原告の負担とする。 |
事実及び理由 | |
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当事者の求めた裁判
1 原告 (1) 特許庁が取消2002-30078号事件について平成15年2月24日にした審決を取り消す。 (2) 訴訟費用は被告の負担とする。 2 被告 主文と同旨 |
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当事者間に争いのない事実
1 特許庁における手続の経緯 住友電気工業株式会社(以下「住友電工」という。)は,「NETMARKS」の標準文字の欧文字を横書きして成り,商標法施行令1条別表の商品及び役務の区分第9類の「測定機械器具,配電用又は制御用の機械器具,電線及びケーブル,電気通信機械器具,電子応用機械器具及びその部品」を指定商品とする登録第4233536号商標(平成9年5月22日登録出願。平成11年1月22日設定登録。以下「本件商標」という。)の商標権者であった者である。 原告は,平成14年1月23日,住友電工を被請求人として,特許庁に対し,本件商標について,その指定商品中「電子応用機械器具及びその部品」の登録について,商標法50条に基づく取消しの審判(不使用取消しの審判)の請求をした(審判の請求の登録日・平成14年2月20日。甲第2号証)。住友電工は,平成14年2月21日,本件商標権を被告に譲渡し,同年3月6日権利移転の登録がなされた(甲第2号証。以下,この登録によって効力の生じた上記譲渡を「本件譲渡」という。)。 特許庁は,上記審判請求を取消2002-30078号事件として審理し,その結果,平成15年2月24日に「本件審判の請求は,成り立たない。」との審決をし,その謄本を同年3月10日原告に送達した。 2 審決の理由 別紙審決書の写しのとおりである。要するに,本件商標の通常使用権者であった被請求人(被告)は,本件商標を,本件審判の請求の登録前3年以内に日本国内において,請求に係る指定商品中「電子計算機用プログラムを記憶させた磁気ディスクその他の周辺機器」について,使用していたものというべきであるから,本件商標の登録は,商標法50条により,請求に係る商品について,取り消すことはできない,としたものである。 |
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原告主張の審決取消事由の要点
審決は,本件譲渡前において,本件商標の前商標権者であった住友電工から被告に対し,本件商標の使用許諾がなされていた,と誤って認定し(取消事由1),審判請求人が使用を主張していない商標を誤って使用商標2として採り上げ,これについて認定判断し(取消事由2),使用商標2が商標法50条1項括弧書きに規定する本件商標と社会通念上同一と認められる商標に該当すると誤って判断した(取消事由3)ものであり,これらの誤りがそれぞれ審決の結論に影響を及ぼすことは明らかであるから,違法として取り消されるべきである。 1 取消事由1(本件譲渡前における本件商標の使用許諾の有無) 審決は,本件商標の使用者についての判断において,「被請求人(判決注・被告。以下同じ。)は,前商標権者が親会社の住友電工であったこと,本件商標権は請求人による不使用取消審判請求後であるが住友電工から被請求人に譲渡されたことよりすれば,被請求人より本件商標の使用許諾を立証する証左は提出されていないとしても,住友電工と被請求人株式会社ネットマークスとの間において,本件商標の使用許諾はなされていたものというのが社会通念に照らし相当である。」(審決書9頁20行〜25行)と認定した。しかし,この認定は誤りである。 被告が親会社の住友電工から本件商標権について通常使用権の設定を受け使用を許諾されていたのであれば,使用許諾契約書が作成されていたはずであり,本件訴訟において証拠として提出することができたはずである。本件訴訟において使用許諾契約書が証拠として提出されていないのは,被告が本件商標権について通常使用権の許諾を受けていないことを示すものである。 住友電工は,本件商標権を子会社である被告に譲渡することができたにもかかわらず譲渡しておらず,本件の不使用取消審判を請求された直後に被告に譲渡した。住友電工は,子会社である被告の株式総数の過半数を有するにすぎない。住友電工は,本件譲渡前において,商標権を被告に移転しない,使用許諾をしない,という状況を創設することによって,本件商標権を通じて,被告の本件商標の使用に対し潜在的な支配力を保有し続けていたものである。すなわち,住友電工は,将来において被告の株主構成比率が変動し,住友電工の会社支配の割合が低下したとしても,本件商標権の保有の継続と,被告による無権限の本件登録商標の使用という状況下において,被告に対する商標権の行使あるいはその可能性を通じて,被告に対し経営上の影響を及ぼすことができたものである。 2 取消事由2(被告の主張していない商標についての検討) 審決は,別紙審決書の写し末尾記載の商標を使用商標2として検討の対象とした。同商標の図形部分の色は,黒の一色である。 しかし,被告が審判において使用を主張した商標は,別紙の1記載のとおりの商標であり,図形部分などは存在しない。 原告は,本件審判において,被告が使用してきたのは別紙の2記載の商標である,と主張した。しかし,被告は,上記商標については,審判においていかなる主張もしていない。上記商標の図形部分は黒の一色ではなく,左右に薄墨色の三角形を各一個配し,中央部の三角形はひときわ目立つ赤色が使用されている点で,審決が検討の対象とした使用商標2とも異なる。 審決は,審判被請求人(判決注・被告)が使用の主張をしていない使用商標2を検討の対象として判断をしたものであり,弁論主義に違反している。 3 取消事由3(商標法50条1項括弧書き該当性) 仮に,審決が使用商標2として検討した商標は,正確に表示すれば別紙の2記載の商標(以下「使用商標3」ということがある。)である,と解することができるとしても,同商標を商標法50条1項括弧書きに規定する本件商標と社会通念上同一と認められる商標に該当するものとした,審決の判断は誤りである。 本件商標は,「NETMARKS」との構成から成り,「ネットマークス」と一連の称呼のみが生じるものであり,「ネット」や「マークス」などと称呼が分断されて生じる余地はない。 これに対し,使用商標3は,図形部分こそが看者に強い印象を与えるものである。図形部分は,文字部分に比して3倍も面積が広いというだけでなく,これを構成する三角形のうち中心にある二等辺三角形は,この商標において唯一色彩が使われている部分である。しかも,それは,鮮明な赤色である。このため,同商標に接した者は,自然に,文字部分の「E」に突き刺さるように配置された赤地の二等辺三角形に注意を払うことになる。同商標においては,図形と文字との組合せ,特に「E」の文字に突き刺さるように配置された赤地の二等辺三角形と左右の正三角形とから構成される図形部分が自他識別の重要な要素となっている。 使用商標3の文字部分は,2段に分けて記載された「NET」と「M」とを変形させた文字と「ARKS」とから成るものである。このような文字部分から「ネットマークス」という一連の称呼が生じる余地はない。 そうである以上,使用商標3は,商標法50条1項括弧書きが規定する本件商標と社会通念上同一と認められる商標に該当するものではないというべきである。 |
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被告の反論の要点
1 取消事由1(本件譲渡前における本件商標の使用許諾の有無)について 住友電工が,被告に対し,本件譲渡前において,本件商標権の使用許諾をしていたことは,次の事実から明らかである。 @ 本件商標は,住友電工が,平成9年5月22日に商標登録出願をし,平成11年1月22日に商標登録を受けた。その指定商品は,「測定機械器具,配電用又は制御用の機械器具,電線及びケーブル,電気通信機械器具,電子応用機械器具及びその部品」(商品及び役務の区分第9類)である。 A 被告は,平成9年4月1日,住友電工がその株式の60%を有する子会社として資本金10億円で設立された株式会社である。被告の商号は,本件商標及び下記B記載の商標を片仮名で表記した「ネットマークス」の前に「株式会社」を付したものであり,その事業目的は,上記@記載の指定商品を販売すること,下記B記載の指定役務を提供することを含むものであった。 B 住友電工は,平成9年2月3日,ブロック体の欧文字「NETMARKS」を横書きして成る商標について,商標登録出願をし,平成11年1月8日に商標登録を受けた。その指定役務は,「コンピュータシステムに関するコンサルティング,通信ネットワークシステム・機器に関するコンサルティング,コンピュータシステムの分析・評価・開発・設計・作成・運用・管理又は保守,通信ネットワークシステム・機器の分析・評価・開発・設計・作成・運用・管理又は保守,電子応用機械器具の貸与,電子計算機による情報処理」(商品及び役務の区分第42類)である。 C 住友電工は,本件取消審判請求がなされた直後に,被告に対し,本件商標権を譲渡し,平成14年3月6日にその登録がされた。 上に述べた事実に照らすと,住友電工が被告に対し本件商標の使用を許諾していたことは,明らかというべきである。そうでなければ,住友電工が,自らの子会社の商号の要部を欧文字表記した商標について,当該子会社が提供する役務ないし販売する商品を指定商品又は指定役務として,当該子会社設立の前後に,商標登録出願をするはずがないのである。 2 取消事由2(被告が主張していない商標についての検討)について 原告は,審決が,被告の主張していない商標について商標法50条1項括弧書き該当性を判断した,と主張する。 しかし,原告は,審決にいう使用商標2(正確には,別紙の2記載の商標(使用商標3)である。)について,審判手続において,使用に係る商標であることを主張している。 仮に,被告が使用商標3の主張をしたとすることができないとしても,審判手続は,職権主義によって貫かれているから,当事者の意思いかんにかかわらず進行し(商標法56条で準用する特許法152条),審判においては当事者が主張しない事実についても審理することができる(同準用に係る特許法153条)。審判では,職権で証拠調べが行われ,事実を調査することもできる(同準用に係る特許法150条,153条)。原告の上記主張は,そもそも失当である。 3 取消事由3(商標法50条1項括弧書き該当性)について 使用商標3の図形部分と文字部分とを,常に一体のものとしてみなければならない特段の理由は認められないから,文字部分は独立して自他役務の識別標識としての機能を果たしているとみるべきである。 使用商標3の文字部分の「NET」と「MARKS」の文字を上下二段に横書きした構成は,一体不可分のものとして,看取,理解されるものであり,この文字部分からは,全体として「ネットマークス」の称呼を生ずる。 本件商標と使用商標3とは,共に「ネットマークス」の称呼を同じくし,使用商標3の「NET」と「MARKS」のうち,「M」の文字は,やや変形して成るとしても,両文字を上下二段に横書きした構成は,本件商標を構成する「NETMARKS」の文字と同一視し得るものである。 使用商標3が本件商標と社会通念上同一と認められる商標に該当する,とした審決の判断は正当である。 |
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当裁判所の判断
1 取消事由1(本件譲渡前における本件商標の使用許諾の有無)について 原告は,住友電工は被告に対し本件商標につき通常使用権の設定をしていなかった,と主張する。 しかしながら,証拠(甲第2ないし第4号証,乙第1号証)及び弁論の全趣旨によれば,住友電工は,昭和50年ころから情報通信ネットワーク関連の事業を営んでいたこと,平成9年4月1日に,事業の効率化を図ることを目的として,同社の事業のうち,本件商標の指定商品である「測定機械器具,配電用又は制御用の機械器具,電線及びケーブル,電気通信機械器具,電子応用機械器具及びその部品」の販売等を業として提供することを目的とする子会社(住友電工の出資比率60%)として,被告を設立したこと,被告の商号は,本件商標を片仮名で表記した「ネットマークス」の前に「株式会社」を付したものであること,住友電工は,平成9年5月22日に上記の商品を指定商品とする本件商標の登録出願をし,平成11年1月22日に同商標につき商標登録を受けたこと,が認められる。 上記認定事実によれば,他にそれを妨げる特段の事情が認められない限り,住友電工は,被告に対し,本件商標の通常使用権の許諾をしていたと認定するのが相当である。住友電工が被告に対し本件商標の通常使用権を許諾しないということは,本件商標に指定商品の販売等を行うために被告を設立した行為と矛盾することになる。このようなことは,通常考え難いことである。 原告は,住友電工が,被告に対する経営上の影響力を及ぼすために,本件商標権の使用を許諾しない状況を作り出していたと主張する。しかし,この主張を裏付けるに足りる証拠は,本件全資料を検討しても,全く見いだすことができない。 弁論の全趣旨によれば,本件商標の使用許諾についての使用許諾契約書は存在しないことが認められる。しかしながら,契約書が存在しないことをもって,上記使用許諾がなされたとの認定を覆すに足りるものとすることはできない。 他にも,前記特段の事情に該当するものは,本件全証拠によっても認めることができない。 取消事由1は理由がない。 2 取消事由2(被告の主張していない商標についての検討)について (1) 審決は,別紙審決書の写し末尾記載の図形部分と文字部分とから成る使用商標2を被告が使用した商標であると認定し,これについて商標法50条1項括弧書き該当性を検討した。 原告は,被告が使用した商標は,使用商標2とは異なり,別紙の2記載のとおり,図形部分が単色ではなく色の付いた商標(使用商標3)であり,この商標については,審決は検討の対象としていない,と主張する。 使用商標2が表示されていると認定する根拠として審決が用いた証拠(審判乙第2ないし第4号証,第9ないし第13号証(本訴甲第5ないし第7号証,第12ないし第16号証))に表示された商標は,図形部分に色の付いた別紙の2記載のとおりの商標(使用商標3)であることが認められる。審決が検討の対象としたのが別紙の2記載の商標(使用商標3)であることは,明らかである。 原告は,被告が,審判手続において,自らが使用した商標として主張したのは,別紙の1記載の文字部分のみの商標であり,被告は,審判手続において,自らが使用した商標として使用商標3を主張していないから,審決は,当事者の主張しない商標を使用商標として採り上げ,これにつき判断したものであって,弁論主義に違反する,と主張する。 しかしながら,甲第5ないし第33号証,第36号証によれば,被告は,本件審判手続において,本件商標を使用したことを立証するための証拠として審判乙第2ないし第30号証(本訴甲第5ないし第33号証)を提出したこと,これらの資料のうち,審判乙第2ないし第4号証,第9ないし第13号証,乙第24ないし第29号証(本訴甲第5ないし第7号証,第12ないし第16号証,第27ないし第32号証)中には,いずれも図形部分に色の付いた別紙の2記載のとおりの商標(使用商標3)が記載されていること,これらの資料中には別紙の1記載の文字部分のみの商標は一切記載されていないことが認められるから,被告が本件審判手続においてその使用した商標として挙げていたのは,使用商標3であるということができる。 本件の審判事件答弁書(甲第36号証)中には,別紙1記載の文字部分のみを挙げて,これを「使用商標2」と称して,これにつき,本件商標の書体のみに変更を加えた同一の文字から成る商標である,とする記載がある(3頁下から2行〜4頁下から17行)。しかし,ここでも,同商標は,「乙第2号証その他の乙号証に見られる」ものであるとされているのであり,この記載と,上記提出に係る証拠の記載内容に照らすと,上記審判事件答弁書中の記載は,図形部分と文字部分とから成る別紙2記載の商標(使用商標3)のうち,文字部分のみが独立した存在として評価され得ることを前提として主張したものにすぎないと理解すべきであり,文字部分のみがあって図形部分のないものをその使用した商標であると主張する趣旨を述べたものではない,と解するのが相当である。 審決が被告の主張しない商標を使用商標して認定,判断したとの原告の主張は,採用することができない。 (2) 仮に,被告が自ら使用した商標として使用商標3を主張していないとしても,審決が使用商標3を被告の使用した商標として認定,判断したことは,結論に影響を及ぼさないものというべきである。 すなわち,審判においては当事者が主張しない事実についても審理することができるとされている(商標法56条,特許法153条1項)から,弁論主義違反を問題とする余地はない。もっとも,審判長は,当事者が申し立てない理由について審理したときは,その審理の結果を当事者に通知し,相当の期間を指定して,意見を申し立てる機会を与えなければならないとされている(商標法56条,特許法153条2項)。本件審判手続において,このような手続がとられたことは,本件全資料によっても認めることができない。上記前提の下では,この点において,審決には手続上の瑕疵があることになる。しかしながら,本件審判手続において,被告が使用の事実を立証するために提出した証拠中には,すべて使用商標3が記載されている。原告は,審判手続において提出した弁駁書(甲第37号証)中において,被告が使用した商標が使用商標3であること,同商標が商標法50条1項括弧書きに該当しないことを主張している。これらの事実によれば,原告は,使用商標3につき十分に意見を述べているということができるから,上記手続上の瑕疵は,重大であるとはいえず,審決を取り消すべき瑕疵には当たらない,と解するのが相当である。 (3) いずれにせよ,原告の主張を採用することはできない。取消事由2は理由がない。 3 取消事由3(商標法50条1項括弧書き該当性)について 原告は,使用商標3(別紙の2記載の商標)においては,図形部分が,その大きさや色彩から看者に強い印象を与えるものとして,自他識別の重要な要素となっていること,同商標の文字部分は,2段に分けて記載された「NET」と「M」とを変形させた文字と「ARKS」とからなることから「ネットマークス」という一連の称呼が生じる余地はないこと,を理由として,同商標は,商標法50条1項括弧書きが規定する本件商標と社会通念上同一と認められる商標に該当するものではない,と主張する。 しかしながら,原告の主張は採用することができない。 使用商標3中の図形部分は中央の赤色の逆二等辺三角形とその底辺に接した左右の灰色の正三角形という幾何学模様から成り,使用商標のほぼ上半分を占める大きさを有するものである。同図形部分は,その大きさや,中央の逆二等辺三角形の赤色によって,使用商標3に接した者の目を引くものであるということができる。しかしながら,同図形部分は,3個の三角形を組み合わせたもので,特徴のあるデザインとまでは言い難く,そこから生ずると考えられる観念,称呼は,せいぜい,「3つの三角」といった,ごくありふれた一般的な観念,称呼にすぎないと考えられる。これに対し,同商標中の文字部分は,図形部分と明確に区別されて,活字体の欧文字がはっきりと記載されており,後記のとおり「ネットマークス」の称呼を生じるものである。これらの点に照らすと,使用商標3において,その図形部分が自他識別標識として果たす役割は極めて小さいものといわざるを得ず,自他識別標識としての機能のほとんどを果たすのは,その文字部分であって,図形部分は,このような文字部分を装飾するものとしての役割を果たしているにすぎず,自他識別標識としての観点において,これをさほど重視することはできないというべきである。 使用商標3の文字部分は,「NET」の語と「MARKS」の語とを分けて上下二段に横書きして成るものではあるものの,二つの語は,同じ幅で,しかも近接して記載されていることから,一体不可分のものとして,看取,理解されることが多いものと認められる。同文字部分からは,全体として「ネットマークス」の称呼を生じ得る。本件商標からは「ネットマークス」の称呼が生じるから,本件商標と使用商標3とは,称呼を同じくする。 使用商標3においては,「NET」の語と「MARKS」の語とが分けて上下二段に表示されている点,「MARKS」中,「M」の文字がやや変形されている点において,本件商標の配置及び態様が変更されている。しかし,商取引の実際において,登録商標の配列又は配置などの態様に変更を加えて使用されることがよくあることは当裁判所に顕著な事実であり,このような事情をも考慮するならば,上記変更は,本件商標と使用商標との同一性を損なうものとまでいうことはできないというべきである。 使用商標3と本件商標とは商標法50条1項括弧書きにいう,社会通念上同一と認められる商標に当たる,と解するのが相当である。 取消事由3も理由がない。 |
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結論
以上のとおりであるから,原告主張の審決取消事由は理由がなく,その他審決には,これを取り消すべき誤りは見当たらない。そこで,本訴請求を棄却することとし,訴訟費用の負担について行政事件訴訟法7条,民事訴訟法61条を適用して,主文のとおり判決する。 |
裁判長裁判官 | 山下和明 |
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裁判官 | 阿部正幸 |
裁判官 | 高瀬順久 |