関連審決 | 無効2001-35054 |
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関連ワード | 指定商品 / 混同を生ずるおそれ(混同を生じるおそれ) / 4条1項11号 / 4条1項15号 / 類似性(類否判断) / 外観(外観類似) / 称呼(称呼類似) / 観念(観念類似) / 存続期間 / 無効審判 / 更新登録 / パリ条約 / 外国 / |
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事件 |
平成
14年
(行ケ)
504号
審決取消請求事件
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原告 シャンパーニュモエ エ シャンドン 訴訟代理人弁護士 田中克郎 同 宮川 美津子 同 中村勝彦 訴訟復代理人弁護士 山本 麻記子 同 弁理士 佐藤俊司 被告レ ザントルポシャランテ 訴訟代理人弁護士 佐藤雅巳 同 古木睦美 |
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裁判所 | 東京高等裁判所 |
判決言渡日 | 2003/10/29 |
権利種別 | 商標権 |
訴訟類型 | 行政訴訟 |
主文 |
原告の請求を棄却する。 訴訟費用は原告の負担とする。 この判決に対する上告及び上告受理申立てのための付加期間を30日と定める。 |
事実及び理由 | |
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請求の趣旨
特許庁が無効2001-35054号事件について平成14年5月22日にした審決を取り消す。 訴訟費用は被告の負担とする。 |
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当事者間に争いのない事実
1 特許庁における手続の経緯 被告は,別添審決謄本別掲(1)本件商標の「Moyet」の欧文字を筆記体により書してなり,指定商品を第33類「洋酒,果実酒」とする商標(登録第4304518号,平成6年9月7日登録出願,平成11年8月13日設定登録,以下「本件商標」という。)の商標権者である。原告は,平成13年2月9日,本件商標登録の無効審判の請求をし,特許庁は,同請求を無効2001-35054号事件として審理した結果,平成14年5月22日,「本件審判の請求は,成り立たない。」との審決をし,その謄本は,同年6月3日,原告に送達された。 2 審決の理由 審決は,別添審決謄本写し記載のとおり,本件商標と原告の引用する,別添審決謄本別掲(2)引用商標の黒く塗りつぶした長方形に白抜きで「MOT」の欧文字を書してなり,指定商品を旧商品類別第39類「シャンペン」とし,商標権存続期間の更新登録により現に有効に存続している登録第193711号商標(大正14年10月1日登録出願,昭和2年10月7日設定登録,以下「引用商標」という。)に類似するから,商標法4条1項11号に掲げる商標に該当し,また,本件商標は,原告の業務に係る商品を表示するものとして著名な引用商標と類似し,原告又は原告と何らかの関係を有する者の業務に係る商品であるかのようにその商品の出所について混同を生ずるおそれ(以下,単に「混同のおそれ」という。)があるから,同項15号に掲げる商標に該当するとの原告の主張に対し,本件商標と引用商標(以下「両商標」という。)は,その外観,称呼及び観念のいずれよりみても,類似しないので,本件商標が同項11号の規定に違反して登録されたものということはできず,他に混同のおそれを生じさせる理由も認められないので,同項15号の規定に違反して登録されたということもできないとした。 |
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原告主張の審決取消事由
審決は,両商標が類似しないとの誤った判断をした(取消事由1)結果,本件商標が商標法4条1項11号に掲げる商標に当たらないとの誤った判断をし,また,混同のおそれがないとの誤った判断をした(取消事由2)結果,本件商標が同項15号に掲げる商標に当たらないとの誤った判断をしたものであるから,違法として取り消されるべきである。 1 取消事由1(類否判断の誤り) (1) 称呼 本件商標の指定商品である「洋酒,果実酒」の需要者は,一般消費者であり,引用商標との差異点である「y」を意識しないから,本件商標は「モエ」の称呼を生ずる。 本件商標から「モィエ」の称呼が生ずるとしても,これは,引用商標から生ずる「モエ」の称呼と類似する。 両商標は,ヘボン式,訓令式等のローマ字表記をされたものではないから,その需要者が両商標をローマ字読みする可能性は低い。あえてローマ字読みをした場合でも,本件商標は「モエット」又は「モィエット」の称呼を生じ,引用商標は「モエット」の称呼を生ずるから,両商標は称呼において類似する。 洋酒の取引においては,フランス語が多用されるため,その取引者,需要者は,欧文字商標をフランス語読みすることは一般的である。フランス語では,語尾の子音を発音しないのが一般的であるから,両商標は,いずれも「モエ」の称呼を生ずる。我が国において,本件商標を「モワイエ」と発音する者はまれである。 本件商標から「モワイエ」の称呼が生ずるとしても,これと「モエ」との差異はわずかである。 (2) 外観 本件商標は,図案化されているが,図案化の程度はさしたるものではなく,単なる筆記体の文字から受ける印象と異ならない。両商標は,語頭の2文字「MO」と語尾の2文字「ET」を共通にしており,唯一の差異は中間部の「y」のみであるから,外観において類似する。 (3) 上記の称呼及び外観の類似に加え,下記2の引用商標の著名性等を考慮すると,両商標は類似し,本件商標は,商標法4条1項11号に掲げる商標に当たるというべきである 2 取消事由2(混同のおそれの認定判断の誤り) (1) 原告は,1743年に創業され,1833年以来引用商標を「シャンペン」に使用しており,原告の業務に係るシャンペンを表示する商標として世界的に著名である。被告の本件商標は,我が国においてほとんど知られていない。そのため,我が国において,実際に原告の商品と被告の商品を混同する実例が生じている。 本件商標が本国であるフランス共和国(以下「フランス」という。)において登録されていることは,我が国における両商標の類否及び混同のおそれに何ら影響しない。 (2) このような事情及び上記1の両商標の類似性を考慮すると,両商標について混同のおそれが肯定され,本件商標は,商標法4条1項15号に掲げる商標に当たるというべきである。 |
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被告の反論
1 取消事由1(類否判断の誤り)について (1) 称呼 欧文字の商標は,ローマ字読みを原則とするから,本件商標は「モイエット」の称呼を生じ,引用商標の称呼である「モエ」と類似しない。 外国語読みの称呼が生ずるとすれば,英語読みのものであるが,英語読みをしても,本件商標は「モイエット」の称呼を生じ,引用商標の称呼である「モエ」と類似しない。 本件商標をフランス語読みしても,「モワイエ」(mwaje)の称呼を生ずるから,「モエ」と類似しない。 原告は,本件商標から「モィエ」の称呼を生ずると主張するが,仮に,「モィエ」の称呼を生ずるとしても,これと「モエ」の称呼は,我が国においては類似しない。 (2) 外観 本件商標は,欧文字を図案化した筆記体で書してなるのに対し,引用商標は,黒く塗りつぶした長方形の中に活字体の欧文字を白抜きしており,両商標は,外観において明らかに相違する。 (3) 観念 両商標は,いずれも造語であり,特定の観念を生じないから,観念において比べるべくもない。 2 取消事由2(混同のおそれの認定判断の誤り)について (1) 著名性 フランスにおいて,1864年以降,本件商標がブランデーについて使用され,19世紀後半から両商標が共に使用され,引用商標が先に登録されていたにもかかわらず,本件商標が1968年に登録された。 (2) 両商標が使用された商品は,我が国の市場においても混同されることがなく,このことは,両商標が類似せず,混同のおそれを生じないことの証左である。 |
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当裁判所の判断
1 取消事由1(類否判断の誤り)について (1) 称呼 ア 原告は,本件商標の指定商品である「洋酒,果実酒」の需要者が本件商標の「y」を意識しないから,本件商標は「モエ」の称呼を生ずると主張するが,欧文字の5文字からなる本件商標において,「y」の文字は,中心にあって,他の文字より小さく表記されているわけではなく,むしろ,左側の「o」及び右側の「e」よりも大きく表記されているから,指定商品の需要者である一般消費者であっても,「y」の文字を無視して発音するとは認められない。 イ 原告は,本件商標から「モィエ」の称呼が生ずるとも主張するが,語尾の「t」を無視するものであり,採用し得ない。語尾の「t」が無視されるとすれば,本件商標がフランス語読みされた場合であるが,その場合であっても,「モィエ」の称呼が生じないことは,下記エのとおりである。 ウ 本件商標は,ヘボン式,訓令式等のローマ字表記ではないから,需要者である一般消費者は,あえてローマ字読みに近い読み方をするか,又は,我が国のほとんどの中学校において履修が義務付けられている英語読みをすると認められる。そうすると,本件商標は「モィエット」の称呼を生ずる。 他方,証拠(甲9〜43,46,64,71〜88)によれば,原告は,1743年に創業され,創業以来,シャンペンの製造販売を行い,全世界のシャンペン市場で世界一の生産量を誇り,18%のシェアを占める会社であって,我が国の酒類に関する雑誌や世界の一流品を掲載する雑誌に数多く紹介されていることが認められる。そうすると,引用商標は,我が国においても,本件商標登録出願当時,既にシャンペンの需要者間において周知であり,その需要者とほぼ重なり合うことが明らかである洋酒,果実酒の需要者間においても周知であったと推認される。そして,証拠(甲9〜17,20〜43,46,64,71〜80,82,85〜88)によれば,「MOT」の欧文字は我が国において「モエ」と称呼されるのが通例であると認められるから,このような引用商標は「モエ」の称呼を生じ,「モエット」の称呼は生じないというべきである。 確かに,証拠(甲18,19,81,83,84)によれば,「MOT」の欧文字が我が国において「モエット」と称呼される場合があることは否定し得ない。しかしながら,原告自身,他の論点について主張する際には,引用商標が「モエ」の称呼を生ずると主張しており,「モエット(Mot) シャンパンの商標」とする甲81にも「正式には,モエ・エ・シャンドン(Mot et Chandon)という」と記載されているように,「モエット」は引用商標が誤読されたものであり,上記認定のとおり,引用商標は我が国において「モエ」と称呼されるのが通例であるから,上記の数にすぎない誤読例が存在するからといって,周知の引用商標に係る上記称呼の認定が左右されるものではない。 そうすると,本件商標を英語読みにした場合に生ずる「モィエット」の称呼と引用商標から生ずる「モエ」の称呼は,類似しないというべきである。 エ 原告は,洋酒の取引においてフランス語が多用されるため,その取引者,需要者が商標をフランス語読みすることは一般的であると主張する。仮に,洋酒の取引者の多く及びその需要者の一部が洋酒の取引においてフランス語を用いるとすると,そのようにフランス語の知識を豊富に有する者は,本件商標に接した場合,そのフランス語の知識に照らし,本件商標をフランス語読みで称呼すると考えられるが,証拠(甲65,66,乙4の1〜4,乙5の1,2,乙6〜8,9の1)及び当裁判所に顕著な事実によれば,本件商標をフランス語読みすると,「モワイエ」(mwaje)の称呼を生ずると認められる。そうすると,本件商標から生ずる「モワイエ」の称呼と引用商標から生ずる「モエ」の称呼とは類似しないことが明らかである。 原告は,フランス語では語尾の子音を発音しないのが一般的であり,両商標はいずれも「モエ」の称呼を生ずると主張するが,フランス語で語尾の子音を発音しないとの知識を有する取引者,需要者であれば,フランス語の「oye」の文字を「waje」と発音せずに「oje」と発音するとは考え難いから,原告の主張に係るフランス語読みの可能性を考慮しても,本件商標から「モエ」又は「モィエ」の称呼を生ずるとは認められない。 (2) 外観 原告は,本件商標の図案化された程度はさしたるものではなく,また,両商標が語頭の2文字「MO」と語尾の2文字「ET」を共通にしていることを主張する。 しかしながら,他方で,本件商標の「M」の文字は,円弧を描いて「oy」の下部を通って「e」の下部にまで達するなど,相当程度図案化されていること,両商標の相違点である本件商標の「y」の文字は,本件商標の中心にあって,左側の「o」及び右側の「e」よりも大きく表記されていること,引用商標の「」にはウムラウトが付されている点で本件商標の「e」と異なることが認められ,これら外観における差異点は,上記一致点をしのぐものであり,結局,両商標は外観において類似しないというべきである。 (3) 観念 両商標が特段の観念を生ずると認めるべき証拠はなく,したがって,両商標は,観念において類似しないというべきである。 (4) 以上のとおり,両商標は,称呼,観念,外観のいずれの点においても類似せず,他に両商標の類似性を基礎付ける事実関係はうかがわれないから,全体的に観察して,両商標は類似しないというべきである。 2 取消事由2(混同のおそれの認定判断の誤り)について (1) 上記1(1)ウのとおり,引用商標は,我が国において,シャンペンの需要者にとって周知であり,洋酒,果実酒の需要者にとっても周知であると認められる。しかしながら,引用商標が周知,著名であるからといって,他に特段の事情のない限り,これと類似しない本件商標との間で混同のおそれがあるとは認められず,上記特段の事情をうかがわせる証拠はない。 (2) 原告は,我が国において,実際に原告の商品と被告の商品を混同する実例があると主張し,これに添う証拠として甲89を提出するが,一般に,単に混同の実例があることは,商標法4条1項15号所定の混同のおそれを推認させるには足りない上,甲89において,「モワイエはありますか。」との問いに対して,4店舗中3店舗では「モワイエとは何ですか。」などと返答し,原告の商品と混同していない。したがって,両商標の類似しない本件において,甲89中に示された混同の1例から直ちに,混同のおそれを肯定することはできない。 (3) なお,被告は,フランスにおいて,引用商標の登録が先にされていたにもかかわらず本件商標が1968年に登録されたことを主張する。確かに,証拠(乙1〜3)によれば,本件商標が本国であるフランスにおいて被告主張のとおり登録がされていることが認められ,このことから,パリ条約6条の5A(1)により,他の同盟国である我が国においても,原則としてそのまま登録が認められるべきであるということはできるが,本件において,本件商標が商標法4条1項11号,15号に掲げる商標に当たらないことは,上記のとおりであるから,本件商標がフランスにおいて登録されていることを理由とするパリ条約6条の5A(1)の適用について考慮するまでもなく,原告主張に係る無効理由の存在を認めることはできない。 3 以上によれば,原告主張の審決取消事由は理由がなく,他に審決を取り消すべき瑕疵は見当たらない。 よって,原告の請求は理由がないからこれを棄却することとし,主文のとおり判決する。 |
裁判長裁判官 | 篠原勝美 |
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裁判官 | 岡本岳 |
裁判官 | 長沢幸男 |