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関連審決 異議2001-90326
関連ワード 指定商品 /  権利能力 /  公序良俗(4条1項7号) /  補正 /  共有 /  登録異議申立 /  継続 / 
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事件 平成 14年 (行ケ) 614号 商標登録取消決定取消請求事件
原告 特定非営利活動法人日本刀剣保存会代表者理事 A
訴訟代理人弁護士 山下進
訴訟代理人弁理士 三好秀和
同 川又澄雄
同 須永浩子
被告 特許庁長官今井康夫
指定代理人 涌井幸一
同 田邊秀三
同 小池隆
被告補助参加人 日本刀剣保存会 代表者代表幹事 B
訴訟代理人弁護士 安富真人
裁判所 東京高等裁判所
判決言渡日 2003/10/28
権利種別 商標権
訴訟類型 行政訴訟
主文 1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
当事者の求めた裁判
1 原告 (1) 特許庁が異議2001-90326号事件について平成14年10月25日にした審決を取り消す。
(2) 訴訟費用は被告の負担とする。
2 被告 主文と同旨
特許庁における手続の経緯等及び審決の理由
以下は,当事者間に争いがなく,かつ,証拠(弁論の全趣旨を含む。)によって認定できる事実である。
1 特許庁における手続の経緯等 原告は,登録第4449204号の商標(別紙審決書の写し末尾(a)に示されるとおり,「刀剣と歴史」の文字を特徴あるくずし字の毛筆体で書して成り,第16類「新聞,雑誌」を指定商品として,平成12年6月2日に登録出願され,平成13年1月26日に登録された。以下,「本件商標」といい,その出願を「本件出願」,その登録を「本件登録」という。)の商標権者である。
2 補助参加人は,本件登録に対し異議を申し立て(以下「本件異議申立て」という。),特許庁は,これを異議2001-90326号事件として審理し,その結果,平成14年10月25日,「登録第4449204号商標の商標登録を取り消す。」との決定をし,その謄本を,同年11月13日原告に送達した。
(甲第1号証) 3 本件決定の理由 本件決定の理由は,別紙決定書の写しのとおりである。要するに,本件商標に係る標章(以下「本件標章」という。)は,補助参加人が長年機関誌ないし雑誌の題号として使用し,刀剣分野の取引者・需要者の間で周知著名であったものであるにもかかわらず,CD(本件出願の出願人であり,本件商標の当初の商標権者であった者である。「D」は号であり,本名は「CE」である。以下「C」という。)は,補助参加人を事実上脱退した後,本件標章が商標登録されていないことを奇貨として,これに化体された補助参加人の業務上の信用等を奪うことを意図して,補助参加人に無断で本件登録を行ったものであるから,本件登録は商標法4条1項7号に該当する,とするものである。
原告の主張の要点
補助参加人は,本件異議申立て時においても,それ以降のいずれの時点においても,いわゆる権利能力なき社団の実質(社団性)を備えておらず,したがって当事者能力がないから,本件異議申立てはそもそも却下されるべきであった。
本件決定は,補助参加人が,すなわち,明治43年以来存続し,本件標章を使用してきた「日本刀剣保存会」(本件では,この明治43年以来続いてきた「日本刀剣保存会」が,原告として存続しているのか,被告として存続しているのか争いがある。以下,平成12年6月ころ以前の「日本刀剣保存会」を,「旧日本刀剣保存会」という。)である,としている。しかし,原告こそ,旧日本刀剣保存会が法人成りしてできた団体であり(法人となったのは平成14年9月10日),Cは,旧日本刀剣保存会,すなわち,現在の原告のために,本件出願をし,本件登録を得たものであるから,本件登録は,何ら商標法4条1項7号に違反しない。本件決定は,誤った事実認定の下に,本件登録を取り消したものであるから,違法として取り消されるべきである。
1 取消事由1(補助参加人の当事者能力の欠如) (1) 商標法77条2項は,特許法6条を準用している。特許法6条は,その1項柱書で,「法人でない社団又は財団であつて,代表者又は管理人の定めがあるものは,その名において次に掲げる手続をすることができる。」とし,同項2号で,「特許異議の申立てをすること。」を掲げている。
商標法43条の14第1項は,「・・・特許法・・・第135条〔不適法な手続の却下〕・・・の規定は,登録異議の申立てについての審理及び決定に準用する。」と定め,特許法135条は「不適法な審判の請求であつて,その補正をすることができないものについては,被請求人に答弁書を提出する機会を与えないで,審決をもつてこれを却下することができる。」と定めている。
以上の商標法及び特許法の規定によれば,いわゆる権利能力なき社団としての実質を具備している団体は,商標登録に対する異議の申立てをすることができる反面,上記実質を具備していない団体は,上記申立てをすることができず,このような団体による申立ては却下されることになる。
(2) 判例・学説上,ある団体がいわゆる権利能力なき社団として保護されるには,団体としての組織を備え,多数決の原理が行われ,構成員の変更にもかかわらず団体が存続し,その組織において,代表の方法,総会の運営,財産の管理等団体としての主要な点が確定しているものでなければならない,とされている(最判昭和39年10月15日)。
(3) 補助参加人は,今日に至るまで,権利能力なき社団としての実質を備えていない。
旧日本刀剣保存会は,明治43年以来続いてきた団体であり,役員,幹事会,評議員会といった組織についての定めを持っていた。しかし,その役員等の選出方法が不明確であった上,実際には,規約どおりの運営は行われていなかった。
特に,昭和40年ころにFが代表幹事となってからは,多数決の原則も行われず,団体としての主要な点も確定していない状態であった。
東京地裁平成12年(ワ)第24688号事件の判決でも,判決理由中の判断ではあるものの,平成11年11月13日以前の旧日本刀剣保存会は権利能力なき社団ではなかった,と判示されている。
補助参加人が提出するその会則(丙第1号証,以下「補助参加人会則」という。)は,旧日本刀剣保存会の会則(平成11年11月13日に改正が論議される前のものを,以下では「旧会則」という。)とほとんど異ならない。平成11年11月13日に開催された,旧日本刀剣保存会の評議員会においても,旧会則の会則としての不十分さのためにその改正が論議されており,前記東京地裁判決も,旧会則の存在をもって旧日本刀剣保存会を権利能力なき社団と認める根拠とすることはできない,としている。
旧会則とほぼ同じ内容の補助参加人会則の存在をもって,補助参加人を権利能力なき社団と認める根拠とすることはできない。
仮に,補助参加人会則(丙第1号証)の作成により,補助参加人が,権利能力なき社団として発足したとしても,同会則が作成されたのは,補助参加人のいうところによっても平成15年1月ころなのであるから,本件異議申立時には,補助参加人は権利能力なき社団の実質を具備するに至っていない。
(4) 以上のとおり,本件異議申立ては,当事者能力のない補助参加人が申立てたものであるから,そもそも却下されるべきであった。これをしなかった本件決定は違法である。
2 取消事由2(事実認定の誤り) (1) 本件決定は,補助参加人は,すなわち,旧日本刀剣保存会であり,かつ,明治43年以来権利能力なき社団であった,と認定している。
しかし,この認定は誤っている。
(2) 1で述べたとおり,旧日本刀剣保存会は,少なくともFが代表幹事となった昭和40年以降,権利能力なき社団としての実質を具備するものではなかった。
(3) 平成11年6月24日,旧日本刀剣保存会の代表幹事であったFが死亡した。同人死亡後の旧日本刀剣保存会をどうするかについては,Fの独断的な会運営と会計管理のずさんさから,同会は団体の名に値しないものとなっているから,会を解散すべきである,という意見が支配的であった。
しかし,当時の幹事数名(Cがその代表的存在であった。)が奔走し,平成11年11月13日,C及びB(以下「B」という。)ら新常任幹事3名の連名で新評議員会を招集し,新体制発足が決議された(甲第3号証,第11号証)。
(4) この評議員会では,旧会則の改正案について議論され,これが承認された。しかし,平成12年新年号の「刀剣と歴史」に掲載されたのは,承認された改正案ではなく,改ざんされたものであったため,会の運営が紛糾した。そして,Bら,Fの子であるGを擁護するグループが,Cらを中心とする新体制を批判するなどしたことから,平成12年6月4日,Bらは,旧日本刀剣保存会から除名された(甲第4号証,第5号証,第11号証,第12号証ないし第14号証)。
(5) Cを中心とする新体制は,独自に会則を改正し,さらに,前記東京地裁判決後,組織改革に努め,平成14年6月6日に,特定非営利活動法人の設立認証申請をし,同年9月2日に認証を受けた。これにより,同月10日,原告が設立された。
このようにして,旧日本刀剣保存会が法人成りしたものが,原告にほかならない。
(6) Cは,このような原告のために,当時まだ原告が法人格を取得していなかったことから,個人名で本件登録を得たものである。
したがって,本件登録が公序良俗に反する,ということはあり得ない。
被告の主張の要点
1 原告は,本件決定がなされた平成14年10月25日までの段階では,補助参加人が権利能力なき社団ではないとの主張立証はしていなかった。
2 補助参加人会則の内容や,これが行ってきた機関誌の発行等の事業活動に照らせば,補助参加人は,権利能力なき社団であるといって差し支えない。
3 本件決定は,要するに,Cが,正当な権限に基づかず,補助参加人による本件標章の商標登録がないことを奇貨として,本来補助参加人に帰属すべき商標権を意図的に自らの権利としたこと,同人が,補助参加人に対し,その雑誌の発行停止・本件標章の使用禁止を求めた一連の行為が,補助参加人に対する背信行為であるばかりでなく,その業務上の信用を奪うものであること,Cの行為には,補助参加人の信用に便乗するという不正使用の目的もうかがえること,上記一連の行為により,結果的に,補助参加人の信用が失墜し,事業が混乱し,その運営に支障を来す,として,本件登録が公序良俗に反する,としたものである。
本件決定に違法はない。
補助参加人の主張の要点
1 補助参加人の社団性について(取消事由1に対して) (1) 補助参加人は,日本刀愛好家,並びに,日本刀刀工,研師,刀剣商等の日本刀関連業界関係者により,日本刀の保存及びその研究を目的として,明治43年に設立された団体である(丙第1号証の1及び2)。
補助参加人は,代表幹事であるBを始め8名の幹事(海外幹事3名を含む。),37名の評議員(海外評議員4名を含む。),及び400名以上の会員(海外会員を含む。)から構成されており,その構成員は現在約450名に及ぶ(丙第2号証の1及び2)。
補助参加人の主たる活動は,月に1回本部で刀剣審査会を開催し,同時に日本刀に関する勉強会を行うこと,2か月毎に定期刊行誌「刀剣と歴史」を発行すること,年に1回程度大規模な刀剣審査会や勉強会等を開催すること,等である(丙第3号証の1,3及び4)。
(2) 補助参加人の組織 補助参加人の主たる機関は,幹事会と評議員会である。
幹事会は,会長,副会長,代表幹事及び幹事から構成され,会の運営に関する一切の事項を決議する組織である。決議要件は,幹事3分の2以上の出席と,出席幹事の過半数の賛成である。これは,月に1回の刀剣審査会と併せて開催されている。幹事は,幹事会により選任されることとされている。
(丙第1号証の1,丙第4号証の1ないし24) 評議員会は,評議員から構成され,会計監査報告の承認等を決議する。決議要件は,評議員過半数の出席と,出席評議員の過半数の賛成である。これは,年に1回ないし2回開催されている。
(丙第1号証の1,丙第5号証の1ないし4) (3) 多数決原則 前記のとおり,補助参加人の会の運営に関する一切の事項を決議するのは,幹事会である。幹事は,幹事会において選任される。実際には,評議員会の信任を得て選任されている。
補助参加人の,400名以上に及ぶ会員は,会の運営に関して意見がある場合,幹事会や評議員会に出席して意見を述べることが可能である。なお,評議員会で,評議員又は会員から,幹事就任について異議が出たことは一度もない。
幹事が,評議員及び会員等の補助参加人の構成員全体の意思に基づいて選任されていることは明らかである(丙第1号証,丙第5号証)。
幹事会及び評議員会では,補助参加人会則に則り,多数決原理が励行されている(丙第4号証,第5号証)。
(4) 団体の存続 補助参加人は,構成員の変更にも関わらず,明治43年以来90年以上もの間存続している(丙第6号証)。
(5) 団体としての主要な点の確定 ア 代表の方法 補助参加人の代表者は,会則上は会長(事故あるときは副会長が代行)である。近時は,幹事の中から選挙で選ばれる代表幹事が代表者を務めているのが現状である。
(丙第1号証,第7号証) イ 会の運営 幹事会,評議会とも補助参加人会則によって,構成員・決議事項・招集権者・議長の選任方法・決議要件等が明確に定められている(丙第1号証)。
ウ 財産の管理 補助参加人会則に定める収入は,補助参加人名義の預金口座で管理されている。
刀剣審査に使用する刀剣押形集・審査員の印鑑等の道具一式・各種資料の資産は,本部で管理している。
会計報告は,補助参加人会則に従い,評議員会で報告し,その了承を得ている(丙第5号証の2,3)。
(6) 以上のとおりであるから,補助参加人は,本件異議申立て時以降,現在に至るまで,権利能力なき社団の実質を備えている。
原告は,補助参加人は権利能力なき社団ではない,との主張の根拠の一つとして,東京地裁平成12年(ワ)第24688号事件の判決を挙げている。
そもそも,補助参加人はこの訴訟の当事者ではない。しかも,補助参加人の社団性についての同判決の判示は,判決の理由中のものにすぎない。同判決は,補助参加人に対しては,既判力はもちろん,他のいかなる効力も及ぼすものではない。
同判決は,Fが代表幹事として活動するようになった昭和40年以降,同人が死亡するまでの間のことのみにつき判示していると解すべきである。本件異議申立てを行った平成13年ころの補助参加人の社団性については,何ら判示していない。
2 旧日本刀剣保存会と補助参加人との関係(取消事由2に対して) (1) 補助参加人は,Fが死亡する平成11年6月以前から,旧日本刀剣保存会の財産(鑑定器具,資料等)等の財産類を保管管理し,現在に至るまで,平成11年6月以前と同様の定期活動(刀剣審査会,勉強会等)を行っている。
本部の場所も,変更がなく,構成員も,一部変動はあるものの,おおむね旧日本刀剣保存会の構成員である。
定期刊行誌「刀剣と歴史」も,平成11年6月以前のものの流れを汲む,由緒ある内容となっている。
(2) 以上によれば,補助参加人が旧日本刀剣保存会そのものであることは,明らかである。
当裁判所の判断
1 前提事実 原告主張の取消事由に理由があるか否かにつき判断する上で,前提となる事実として,旧日本刀剣保存会の成立から原告及び被告の各成立に至るまでの経緯を認定する。
本件で,原告は,丙号証の成立につき,丙第5号証及び第6号証の成立を認め,丙第1号証ないし第4号証,第7号証についての成立は不知とし,丙第8号証の成立については意見を述べていない。
丙第1号証の1及び2については甲第8号証の1及び2並びに弁論の全趣旨により,丙第2号証ないし第4号証,第7号証,第8号証については弁論の全趣旨により,いずれも真正に成立したものと認める。
(1) 「日本刀剣保存会」と称する団体(旧日本刀剣保存会)が,明治43年ころに成立した。その目的は,日本刀の保存及びその研究であり,そのため,愛刀家の育成,日本刀及び小道具の審査,日本刀の鍛造方法等の研究保存等を行うこととされている。
旧日本刀剣保存会は,その創立と同時期に,「刀剣と歴史」と題する雑誌を創刊した(当初の「刀剣と歴史」の書体は,本件商標のものとは異なっている。)。この「刀剣と歴史」は,2か月に1回程度発行されてきており,その内容は,毎月開催される刀剣・刀装具の研究会の報告,審査した刀剣類の押し形(特別な紙を用いた刀身の拓本)の掲載とその解説,名刀の押し形の紹介及び解説,刀剣類に関する研究,随筆等である。
(甲第8号証の1及び2,第10号証,丙第6号証の1ないし74,第8号証) (2) 旧日本刀剣保存会は,昭和40年以降,Fが,代表幹事となり三代目の代表を務め,本部も,Fの自宅に置かれた。
Fが,平成11年6月24日に死亡した後,役員らの間には,大黒柱であった同人を失い,今後の刀剣等の審査に不安があるとして,同人の行った運営を高く評価するの意見がある一方,同人が代表を務めている間に,旧日本刀剣保存会が同人の個人的な会になり,役員の選任は恣意的で,会計報告もなく,会の運営が不明朗なものになってしまった,などとして,同人の行った運営を強く批判する意見もあった。そのため,解散も含めて,今後の会の運営をどうするかが,役員らの間で議論された。この議論において,会を解散した方がよいとの意見もあったものの,Cは,会の存続,会の活動の続行を主張した。
同年(平成11年)秋ころ,Cは,B及びH(以下「H」という。)との連名で,新常任幹事の肩書きの下,旧日本刀剣保存会の評議員に対し,その活動の継続を呼び掛け,改めて評議員に就任することを要請し,さらに同年11月13日に開催を予定する評議員会への参加を依頼する文書を送付した。
この評議員会において,C,Bのほか,I(以下「I」という。),Hが常任幹事に就任すること,集団指導体制により旧日本刀剣保存会を運営していくことが決定された。この評議員会で,Cは,旧会則の改正案を提出し,また,J(以下「J」という。)が,会計と「刀剣と歴史」の編集を引き継ぐこととなった。
Cは,旧日本刀剣保存会の会則につき,上記11月の評議会に提出した改正案に基づき議論がされた結果,改正がなされた,との認識を有していた。しかし,平成12年1月号の「刀剣と歴史」に掲載された会則は,Cが認識する改正された会則とは,条文構成及び文言に異なる箇所があるものであった。また,Cは,Jによる会計内容の開示が不十分であると考え,会計資料の開示を要求した。これらにつき,Bは,平成11年11月13日の評議員会では,Cの改正案に基づき議論はされたものの,決議には至っておらず,また,Jによる会計処理とその内容の開示に,とりたてて不備はない,と認識していた。
このようなことから,Cを中心とするグループと,Bを中心とするグループとで,旧日本刀剣保存会の運営を巡って意見の対立が生じるようになった。その後も両者の溝は埋まらず,平成12年5月14日の幹事会の席上で,Iは幹事の役職について辞意を表明し,Cは,B,Jらとの歩み寄りは不可能と感じて,「もうここへは来ない」旨の発言をして,幹事会から退席した。
Cは,常任幹事名で,「日本刀剣保存会役員緊急会議」を招集し,同会議は,平成12年6月4日に開催された。この会議においては,B及びJの除名が決議された。この間,同年5月23日ころ,Bは,他の幹事との連名で,Cが既に退会ないし休会していること,上記緊急役員会議は「日本刀剣保存会」とは関係がないことを,役員に通知している。
本件出願は,このような動きのさ中,同年6月2日になされたものである。
(甲第4号証,第10号証,第11号証,第14号証,第15号証,第18号証,第19号証,第21号証,第24号証,丙第8号証) (3) その後間もなくから,Cを中心とするグループとBを中心とするグループは,それぞれ,いずれもが,「日本刀剣保存会」を名乗り,本件標章を用いた「刀剣と歴史」を発行するなどして,活動を続けて今日に至っている。
それぞれの構成員をみると,少なくとも旧日本刀剣保存会の幹事,評議員等の役員(ただし,退会ないし除名の存否につき争いがあるC,B及びJを除く。)については,一部が原告の構成員となり,別の一部が被告の構成員となっている。本件全証拠によっても,旧日本刀剣保存会の構成員が,すべて原告の構成員となったとも,逆に,すべて補助参加人の構成員になったも,認めることはできず,結局,同会は,平成12年6月4日以降,平成13年1月(本件登録時)ころまでの間に,原告及び補助参加人の二つの団体に分裂した,と認める以外にない状況にある。
(甲第4号証ないし第7号証,第12号証,第14号証,第21号証,丙第1号証,第3号証ないし第5号証,第5号証,第6号証の71ないし74,第7号証,第8号証) (4) 決定は,Cが補助参加人から事実上脱退した,と認定している(決定書5頁19行目参照)。上記のとおり,補助参加人は,旧日本刀剣保存会から派生した団体であり,同会と無関係ではないものの,同会そのものではなく,Cが補助参加人に属していたと認めることはできない。決定の上記認定は誤りである。
決定の認定を,Cが旧日本刀剣保存会から事実上脱退した,との趣旨であると解したとしても,やはり正しくない。前記認定のとおり,Cは,Bらと会の運営を巡って激しく対立しており,平成12年5月14日の幹事会の席上で,「もうここへは来ない」との発言をした後も,同年6月4日開催の「日本刀剣保存会役員緊急会議」を招集して,B及びJの除名を決議していることなどに照らせば,旧日本刀剣保存会から脱退する意思があったものと認めることはできないのであり,上記発言も,旧日本刀剣保存会からの脱退の意思の表明とみなすことはできない。
他に,Cが旧日本刀剣保存会から脱退したと認めるに足りる証拠はない。
(5) 決定の認定は,旧日本刀剣保存会はすなわち補助参加人であり,Cが旧日本刀剣保存会と関係がない人格であるのはもちろん,原告も,旧日本刀剣保存会とは関係のない団体である,ということを前提としていると思われる。しかし,その前提事実は誤っている。
他方,法人成りした旧日本刀剣保存会がすなわち原告であり,補助参加人は旧日本刀剣保存会とは何ら関係のない団体である,とする原告の主張もまた,採用することができない。
2 取消事由1に対する判断(補助参加人の社団性) (1) 前記認定のとおり,平成11年11月13日の旧日本刀剣保存会の評議員会において,幹事による集団指導体制が成立し,また,その会則(旧会則)の改正についても,その決議が成立した否かには争いがあるものの,少なくともその議論はなされている。
平成12年1月号の「刀剣と歴史」に掲載されている旧日本刀剣保存会の会則は,その目的,事業内容,会員の種別,入会・除名,役員,総会等の機関,資産及び会計について定めている。補助参加人は,平成15年1月に現行の会則(丙第1号証の1)を作成しており,そこにおける,目的,役員,幹事会,評議員会,資産及び会計の定めは,上記会則と細部において異なる点はあるものの,事業目的や機関・役員の種類・名称・役割など,主要な点が同一ないし類似の関係にある(ただし,この会則が,明確な手段により,会員の総意により承認されたと認めるに足りる証拠はない。)。
1で認定したとおり,旧日本刀剣保存会の重鎮であったFの死亡後,会の運営をどうするかが,幹事及び評議員らを中心とする構成員の最重要の課題であったものであり,このことを併せ考慮すると,補助参加人は,遅くとも本件登録のなされた平成13年1月までには,内容について若干の変遷はあったにせよ,会長,幹事及び評議員等の役員及びその職務,その選任方法,幹事会,評議員会の意思決定機関,総務部等の業務執行機関,資産の構成及びその管理運用について定める会則に加えて,日本刀剣保存会本部内規及び日本刀剣保存会評議員会規則(甲第8号証の1及び2,第9号証の1及び2,丙第1号証の2)の定めを持つに至ったと認めることができる。そして,これらに基づき,平成13年1月以降,現に,定期的に幹事会を開催し,刀剣の審査会等の開催,評議員会の開催,会費の徴収,会計報告,入会方法の改正,代表幹事の選任等,会の運営全般について協議し決定してきている。
また,評議員会も定期的に開催され,役員人事,会則の変更の検討,会計報告,事業計画の検討,新会員の獲得の検討等をしている。評議員会の報告として,役員の退会が承認される反面,新役員の選任もなされており,この評議員会の決議・報告事項は,会員全体に報告されている,と認めることができる。
(甲第8号証の1,2,第9号証の1,2丙第1号証の1,2,丙第4号証の1ないし24,第5号証の1ないし4,第7号証の1ないし4,第8号証,弁論の全趣旨) (2) 補助参加人会則には,総会の定めはない。他にも,本件異議申立ての前にせよ,後にせよ,総会を開いていたと認めるに足りる証拠はない。しかし,補助参加人は,「刀剣と歴史」の会報の「評議員会報告」において,評議員会の決定事項として,役員人事や会計報告を掲載している。また,新評議員の人事や会則の改正の予定について告知するとともに,候補者の推薦や,会則の修正点の指摘を,各支部に求めている。このように,補助参加人は,評議員会で決定した事項を広く会員全体に知らしめてきたばかりでなく,一定の重要事項について,例えば各支部を通じて,幹事・評議員以外の会員の意見を取り上げてきた,と認められる。
このことに,上記のような補助参加人の会の運営それ自体や,個々の決定事項に対して,とりたてて異議が出されたと認められないことをも併せ考慮すると,幹事会・評議員会の運営は会員全体の総意に基づくものであり,幹事会・評議員会で多数決原理が行われているから,結局補助参加人において,多数決原理が行われていた,と認めることができる。
(丙第5号証の1ないし4,第8号証) (3) 本件異議申立てがいつなされたかは,記録上明らかでない。しかし,少なくとも,本件登録時である平成13年1月26日より後であることは明らかであるから,本件異議申立て時において,補助参加人は,団体としての組織性を有しており,多数決原理も行われていると認められ,構成員に変更が生じても団体が存続し得る体制にあり,代表の方法や財産の管理方法も確定していたものと認めることができる。
補助参加人の当事者能力の欠如を理由に,本件異議申立ては却下されるべきであったとする原告の主張は理由がない。
(4) 仮に,補助参加人が,本件異議申立て時にいわゆる権利能力なき社団としての実質(社団性)を備えていなかったとしても,特許庁が本件異議申立てを却下しないで決定を下した以上,社団性の欠如をもって,本件決定の取消事由にすることはできない,と解するのが相当である。
商標法43条の2は,「何人も,商標掲載公報の発行の日から2月以内に限り,特許庁長官に,商標登録が次の各号の一に該当することを理由として登録異議の申立てをすることができる。・・・」と,同法43条の9第1項は,「登録異議の申立てについての審理においては,商標権者,登録異議申立人又は参加人が申し立てない理由についても,審理することができる。」と,同法43条の10第1項は,「同一の商標権に係る2以上の登録異議の申立てについては,その審理は,特別の事情がある場合を除き,併合するものとする。」と,同法43条の12は「審判長は,取消決定をしようとするときは,商標権者及び参加人に対し,商標登録の取消しの理由を通知し,相当の期間を指定して,意見書を提出する機会を与えなければならない。」と,それぞれ定めている。
これらの規定に,商標の不登録事由となる事由(商標法3条1項,4条1項各号)の中には,本件で問題となっている7号のように,公益性の高い事由,その他,何らかの意味で公益性に関するものが多いことを併せ考慮すると,商標の登録取消しは,登録の取消しを求める者の私的な利益を守ることよりも,むしろ公益の実現に主眼を置く制度であり,登録異議申立ても,結局のところ,公益を擁護する特許庁の職権の発動を促す端緒となるにすぎない,と解すべきである。したがって,本件で,異議申立時に,補助参加人が社団性を欠く(いわゆる当事者能力を欠く)ものであったとしても,少なくとも,特許庁が,職権の発動を促す端緒として十分なものと認めて(補助参加人が社団性を欠くとしても,その場合にはその代表者とされている者の行為としてみることとする,などの立場も考えられよう。),これを理由に却下せず,公序良俗に反するか否かという公益的判断から決定を下した以上,却下しなかったこと自体が取消事由となる,と解すべきではない。
この点からも,原告の取消事由1の主張は,失当である。
3 取消事由2に対する判断 (1) 遅くとも昭和53年以降,旧日本刀剣保存会においても,会則等があり,それには,事業目的,役員・機関,資産及び会計に関する規定は存在した。
しかし,前記のとおり,F死亡後,同人の行ってきた旧日本刀剣保存会の運営については,会計報告がないなど,会の運営が不明朗であり,同人が旧日本刀剣保存会を私物化してきた,との強い批判があったこと,また,幹事会や評議員会の議事録が証拠として当裁判所に提出されておらず,その活動の内容も不明であることからは,平成11年11月以前の旧日本刀剣保存会において,その会則が励行され,これにより多数決の原理が行われ,財産の管理等がその名に値する形でなされていた,と認めることはできず,この段階の同会を権利能力なき社団であったとすることはできない。
そうすると,平成11年11月以前は,本件標章に係る権利,すなわち旧日本刀剣保存会による永年の使用により醸成された信用等が化体された本件標章を使用・収益・処分する権利は,旧日本刀剣保存会の構成員全部ないし少なくともその一部に,共有的ないし総有的に帰属していた、と解するのが相当である。
(甲第8号証の1及び2,第12号証,第24号証,丙第1号証の1及び2) (2) 前記認定のとおり,旧日本刀剣保存会は,Cらのグループと,Bらのグループとの間の対立から,二つに分裂している。本件全証拠によっても,本件標章に係る権利を総有的ないし共有的に有していた構成員が,すべて原告に属しているとも,原告に属さない者がすべて本件標章に係る権利を放棄したとも,認めることはできない。むしろ,旧日本刀剣保存会の幹事及び評議員の一部が補助参加人のそれらになっているという事実からは,本件標章に係る権利を有している構成員の一部は,補助参加人の構成員ともなっている,と認められるのである。
そうすると,本件標章に係る権利は,原告が,補助参加人に対し,その使用の禁止を請求できるようなものとは認められない。
ところが,原告は,平成12年7月以降,補助参加人に対し,「刀剣と歴史」の定期刊行物の発行停止を求める文書を送付するなどし,本件登録後は,本件商標権を侵害することをその根拠にして,さらに上記刊行物の発行をやめることを求める文書を送付している。
(甲第1号証,弁論の全趣旨) この事実に,旧日本刀剣保存会の分裂に至る経緯を併せ考慮すると,Cは,本来補助参加人も定期刊行物の題号として使用できる筋合いの本件標章につき,これを妨害することにより,補助参加人の業務を妨害し,ひいては原告と補助参加人との対立関係を自己に有利に解決する意図を有していること,このような行為を許容すれば,現実に補助参加人の業務に支障が生じ,その信用が毀損されるおそれがあること,の各事実を認めることかできる。この事実関係の下では,本件登録は公序良俗に反すると認めるのが相当である。
前記のとおり,補助参加人がすなわち旧日本刀剣保存会であり,Cはこれを脱退した,という審決の認定は正しくない。しかし,Cが,補助参加人による本件標章の使用を妨害する意図で,本件登録を行ったことが,公序良俗に反するとした審決の判断は,結論として相当である。
4 結論 以上のとおりであるから,原告主張の取消事由はいずれも理由がないことが明らかであり,その他,審決には取消しの事由となるべき誤りは認められない。そこで,原告の本訴請求を棄却することとし,訴訟費用の負担について,行政事件訴訟法7条,民事訴訟法61条を適用して,主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 山下和明
裁判官 阿部正幸
裁判官 高瀬順久
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