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関連審決 不服2001-10868
関連ワード 使用事実 /  指定商品 /  指定役務 /  4条1項11号 /  不使用 /  観念(観念類似) /  補正 /  手続の補正 /  遡及効 /  不使用取消審判 / 
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事件 平成 15年 (行ケ) 83号 審決取消請求事件
原告 イー・アクセス株式会社
訴訟代理人弁護士 木下洋平
被告 特許庁長官今井康夫
指定代理人 梶原良子,林栄二
裁判所 東京高等裁判所
判決言渡日 2003/10/07
権利種別 商標権
訴訟類型 行政訴訟
主文 特許庁が不服2001−10868号事件について平成15年1月21日にした審決(指定役務は審決後にされた2回の分割出願によって第37類の「建築一式工事」のみとなった。)を取り消す。
訴訟費用は各自の負担とする。
事実及び理由
原告の求めた裁判
主文第1項と同旨の判決。
事案の概要
1 特許庁における手続の経緯等 (1) 本件出願 原告は,平成12年2月9日,下記アの本願商標につき下記イの役務を指定役務として商標登録出願(商願2000-9907号。以下「本件出願」という。)をした。
ア 本願商標 イ 指定役務 第35類 市場調査,商品の販売に関する情報の提供 第37類 建築一式工事,機械器具設置工事,電気工事,電気通信工事,電気通信機械器具の修理又は保守,電子計算機(中央処理装置及び電子計算機用プログラムを記憶させた電子回路・磁気ディスクその他の周辺機器を含む。)の修理又は保守,配電用又は制御用の機械器具の修理又は保守 第38類 移動体電話による通信,テレックスによる通信,計算機端末による通信,電報による通信,電話による通信,ファクシミリによる通信,無線呼出し,テレビジョン放送,有線テレビジョン放送,ラジオ放送,インターネット接続代行,電話機・ファクシミリその他の通信機器の貸与 第42類 建築物の設計,電気通信設備の開発,電気通信事業に関する企画・調査・研究及びコンサルティング,有線テレビジョン放送事業及び有線放送事業に関する企画・調査・研究及びコンサルティング,電気通信に関する機器・ソフトウェアの開発,有線テレビジョン放送に関する機器の開発,計算機等を用いて行なう情報処理 (2) 拒絶理由通知 特許庁は,平成13年3月5日付けで,拒絶理由(1)及び(2)を通知した。
拒絶理由(1)は,本願商標は,引用NO1ないし17の登録商標(商標登録3013629号,第3017262号,第3045500号,第3070586号,第3097228号,第3097229号,第3104017号,第3120881号,第3130003号,第3130030号,第3130031号,第3196416号,第3212267号,第3260805号,第3304291号,第4235761号,第4356720号)に類似するものであり,指定役務も同一又は類似であるから,商標法4条1項11号に該当し登録することができない,また,引用NO18ないし23の商標(商願平9-019951号,商願平11-027639号,商願平11-102650号,商願2000-006778号,商願2000-006780号,商願2000-017322号)との関係ではこれらが登録されたときに商標法4条1項11号に該当し,登録することができない,というものである。
拒絶理由(2)は,本件出願に係る指定役務中「インターネット接続代行,電気通信事業に関する企画・調査・研究及びコンサルティング,有線テレビジョン放送事業及び有線放送事業に関する企画・調査・研究及びコンサルティング,電気通信に関する機器・ソフトウェアの開発」は,その内容及び範囲を明確に指定したものとは認められないので,政令で定める商品及び役務の区分に従って各類の役務を指定したものと認めることはできず,商標法6条1項及び2項の要件を具備しない,というものである。
(3) 拒絶査定 上記拒絶理由(1)に対し,原告は,平成13年4月18日付け手続補正書(甲6)により,引用商標NO21(商願2000-006778号,「E-ACCESS」,第35類)及び引用商標NO22(商願2000-006780号,「イー・アクセス」,第35類)と類似関係にある第35類の役務を本願商標の指定役務から削除する補正をするとともに,同日付けの意見書を提出し,上記引用商標以外の引用商標との関係では,本願商標は,「e」の文字が付いていることにより,単なる「ACCESS」又は「アクセス」のみからなる引用各商標とは類似しないと主張し,拒絶理由通知の理由(2)に対しては,上記意見書の中で指定役務は明確である旨の意見を述べ,「インターネット接続代行」の役務について釈明したが,特許庁は,平成13年6月1日,本件出願につき拒絶査定をした。
(4) 本件審決 原告は,平成13年6月27日に拒絶査定に対する不服審判の請求をした(不服2001-10868号)が,特許庁は,平成15年1月21日,審判請求は成り立たないとの審決をした(平成15年2月13日原告に謄本送達。)。
(5) 本訴提起後の分割出願及び本件出願についての補正 原告は,本訴提起後の平成15年3月11日,本件出願に係る指定役務のうち第42類の役務について,商標法10条1項の規定による分割出願をし(商願2003-19075号。以下「本件分割出願」という。甲9),同日付けで,本件出願に係る指定役務を第37類及び第38類の役務に変更(減縮)することを内容とする手続補正書(以下「本件補正書」という。甲10)を特許庁に提出した。
さらに,原告は,平成15年6月2日,本件出願に係る指定役務中,第37類「機械器具設置工事,電気工事,電気通信工事,電気通信機械器具の修理又は保守,電子計算機(中央処理装置及び電子計算機用プログラムを記憶させた電子回路・磁気ディスクその他の周辺機器を含む。)の修理又は保守,配電用又は制御用の機械器具の修理又は保守」及び第38類「移動体電話による通信,テレックスによる通信,計算機端末による通信,電報による通信,電話による通信,ファクシミリによる通信,無線呼出し,テレビジョン放送,有線テレビジョン放送,ラジオ放送,インターネット接続代行,電話機・ファクシミリその他の通信機器の貸与」について,商標法10条1項の規定による分割出願をし(商願2003-45129号。以下「第2次分割出願」という。),同日付けで,本件出願に係る指定役務を第2次分割出願に係る指定役務を除いた「建築一式工事」に変更(減縮)することを内容とする手続補正書を特許庁に提出した。
2 本件審決の理由の要点 審決の理由は,別紙審決書の理由欄記載のとおりである。要するに,本願商標は,登録第4571851号商標(以下「本件引用商標」という。拒絶理由(1)の引用20商標(商願平11-102650号)が登録されたもの。指定役務の区分第42類)と類似する商標であり,指定役務も本件引用商標の指定役務と同一又は類似の役務を含むものであるから,本願商標は,商標法4条1項11号に該当する,というものである。
原告主張の審決取消事由
1 本件審決の誤り 審決時において本願商標が本件引用商標と商標及び指定役務において類似するとの審決の判断は争わない。しかし,本件出願については,前記第2の1(5)のとおり,本件審決に対する取消訴訟提起後である平成15年3月11日に原告が特許庁に提出した本件補正書により,指定役務補正され,指定役務から本件引用商標の指定役務と商品・役務区分の重複する第42類「建築物の設計,電気通信設備の開発,電気通信事業に関する企画・調査・研究及びコンサルティング,有線テレビジョン放送事業及び有線放送事業に関する企画・調査・研究及びコンサルティング,電気通信に関する機器・ソフトウェアの開発,有線テレビジョン放送に関する機器の開発,計算機等を用いて行なう情報処理」が削除されたものとなっている。
本件補正書による補正は,出願時に遡って効力を生ずるものであるから,審決時には,本願商標の指定役務には第42類の役務は含まれておらず,本願商標は本件引用商標と指定役務において類似しないものであったことになる。
したがって,本件審決が,本願商標は本件引用商標と商標及び指定役務において類似するとしたことは,結果的に誤りであったことに帰する。
2 被告の主張に対する反論(本件補正書の効力について) (1) そもそも,「補正」は,出願時に遡って効力を発生することを基本とするものである。被告が主張するような将来に向ってのみ効力を有する特殊な「補正」なるものは,認められない。
(2) 訴訟係属中にも出願の分割が認められているゆえんは,訴訟係属の段階になっても,出願の分割を認めるべき実際上の必要があるということにほかならない。
出願の分割は,指定商品又は指定役務(以下,指定商品指定役務の双方をいうときも,そのいずれか一方をいうときも,「指定商品等」という。)の一部に先登録又は先出願の指定商品等と類似のものを含んでいる場合には,確実に登録される見込みのある指定商品等のみを残してその手続を進行させながら,問題のある指定商品等については切り離して別の出願にすることによって,確実に登録される見込みのある指定商品等については早めに登録を受け,問題のあるものについては,さらに審査を受けて登録の可能性を試すことができるという便益を出願人にもたらす手続である。
本件においては,審決の趣旨からみて,確実に登録される見込みのある指定役務は第37類と38類で,問題のあるものが第42類なのであるから,第37類と38類を残し,問題のある第42類を分割出願するというのが,通常考えられる分割の手続である。
仮に,本件訴訟が請求棄却ということになると,確実に登録される見込みのある指定役務である第37類と38類は,問題のある第42類と一蓮托生に実質的に拒絶が確定してしまうことになる。これでは,法が訴訟係属の段階になっても出願の分割を認めている趣旨は没却されてしまう。この点からしても,被告の主張に合理性はない。
(3) 被告は,審決取消訴訟は,審決がされた時点において,当該審決に違法な点があるか否かを審理するものであるという。そのことは,原則としては正しいとしても,より合目的的見地から,審決取消訴訟の口頭弁論終結時が判断の基準となることがある。
その一例が,商標登録の不使用取消審判において登録商標の使用についての主張立証が何らされなかったために商標登録を取り消す旨の審決を受けた商標権者が,当該審決の取消訴訟においてはじめて登録商標の使用事実についての立証を行っても,当該審決は取り消されるべきであるとされていることにみられる。すなわち,登録商標の使用事実についての立証は,審決取消訴訟の口頭弁論終結時に至るまで許されているのである。
本件において,出願の分割に伴ってされた補正遡及効があるか否かに疑問があるにせよ,少なくとも,将来に向って効力があることには疑問の余地はない。そこで,本件においても,審決に違法な点があるか否かの判断の基準時を口頭弁論終結時と考えれば,少なくとも現時点において本件出願は第42類を含まないものになっているのであるから,出願を拒絶すべき理由は解消していることが明らかである。
よって,本件審決は取り消されるべきものとなる。そのように解したからといって,何らかの弊害があるとは考えられない。
(4) 被告は,本件では拒絶理由がないと思われる第37類と第38類について分割をすべきであったかのように示唆しているが,仮に第42類のみを本件出願に残したとすれば,本来,(限定)補正によって生きる可能性のある第42類について,訴訟係属になっては,もはや補正はできないから,第42類についての登録の可能性は完全に消えてしまうことになる。そのような無意味なことのために,法が審決取消訴訟を提起することを要求しているとは解されない。本件では,第42類を分割出願することによって,再度,審査に係属させれば,それに対する拒絶理由通知を待って,補正の機会が得られる。そして,問題の第42類が削除された本件出願については,審決が取り消されて審判に戻れば,そのまま登録されることができる。したがって,第42類を分割出願するほうが目的に適っていることは明らかである。
被告の反論の要点
1 原告主張の取消事由に対して 原告は,本件審決を取り消すべき理由として,平成15年3月11日付けで本願を原出願とする分割出願の手続を行ったことを述べ,同時に提出した本件補正書により,本願の指定役務から第42類の役務を削除して,指定役務を第37類及び第38類の役務とする補正をしたので,本件審決を維持する理由はなくなった,と主張する。
確かに,商標法10条1項は,拒絶査定不服審判の審決取消訴訟が係属中も,商標登録出願の分割を認めている。しかし,拒絶査定不服審判の審決取消訴訟は,過去にした審決について,その当時に違法があったか否かを争うものであるところ,本件審決は,平成15年1月21日にしたものであるから,その後の平成15年3月11日に本件分割出願がされたという事実は,審決時における本件審決の違法性の有無を何ら左右するものではない。以下,その理由を詳述する。
2 審決取消訴訟係属中に行う手続補正の効力について (1) 願書が出願当初から完全であって補正が一切必要ないことは最も望ましいことであるが,このような完全を望むことは出願人に対して酷である一方で,いつまでも補正を許すことは手続を不安定にし,出願の処理の上からも望ましくなく,処理を遅延させる原因となる。
そこで,商標法68条の40第1項では,「商標登録出願・・・・に関する手続をした者は,事件が審査,登録異議の申立てについての審理,審判又は再審に係属している場合に限り,その補正をすることができる。」と規定し,手続の補正のできる時期を制限している。
そうすると,たとえ,省令において,商標法施行規則22条4項が特許法施行規則30条を商標登録出願に準用し,もとの商標登録出願の願書の補正は新たな商標登録出願と同時にしなければならない旨を定めていても,審決取消訴訟が係属中に出願の分割をするために原商標登録出願についてする「手続補正」は,本来,手続の補正ができないとされている時期に行うものであって,商標法68条の40第1項にいう手続の補正ということはできない。
出願の分割に当たっては,必ず原商標登録出願の指定商品等を二以上に分けなければならないところ,審決取消訴訟が係属中に出願の分割を行うためにする「手続補正」は,商標法上,手続の補正ができないとされる時期に行うのであるから,指定商品等を分けるという出願の分割に必須の体裁を整えるためだけに最小限に認められているものと解すべきであって,その範囲を超えて,商標法68条の40第1項にいう手続の補正と同等にその効果が出願時に遡及するものと解すべきではない。
また,審決取消訴訟が係属中に出願の分割を行うためにする「手続の補正」について,出願時に効果が遡及しないと解釈しても,出願人は,拒絶理由が存しない指定商品等を新たな商標登録出願として出願の分割をするならば,司法の判断を仰ぎながら,同時に,拒絶すべき旨の審決の原因となっている指定商品等を一部に含むことにより出願全体(すなわち,指定商品等のすべて)が権利化できなくなるような事態を回避し,原商標登録出願と同じ出願日を確保した上で,拒絶理由が存しない指定商品等について権利化を図ることができるのであるから,出願の分割に係わる制度上のメリットを何ら消し去ることはない。
逆に,仮に,審決取消訴訟が係属中に出願の分割を行うためにする「手続の補正」に遡及効を認め,商標法68条の40第1項にいう手続の補正と同等のものと解釈すると,審査,審判,訴訟の対象の内容が変更され,いつになっても特定されないことになりかねない。しかも,いったん,出願の分割がされると,それまでに行われた審判手続や,訴訟手続をすべて無にするおそれがあるから,手続を複雑かつ不安定にし,出願処理の遅延を招くという問題が避けられないことになる。
加えて,最高裁昭和59年10月23日判決(昭和56年(行ツ)第99号・民集38巻10号1134頁)は,審決後に指定商品の一部放棄という形で指定商品を減縮し,その効果を出願時に遡及させようとした事案について,手続の補正には,これによって出願人が受ける利益,第三者が受ける不利益及び手続の円滑な進行などが比較考量されて,商標法上(被告注:判決当時においては,商標法77条2項によって準用する特許法17条1項),事件が審査,審判又は再審に係属している場合に限りすることができる旨の時期的制限が設けられているから,審決がされて事件が審判の係属を離れて手続の補正をすることができない時期に至って指定商品の一部放棄をしても,指定商品の一部を除外して残余の商品に指定商品を減縮し,その効果を出願時に遡及させ,減縮した商品を指定商品とするという目的は達成できない旨判示している。この判決を踏まえてみても,出願時に効果が遡及する指定商品等の減縮は商標法68条の40第1項の規定による手続の補正に限られるというべきであり,審決取消訴訟の係属中に出願の分割を行うためにする「手続の補正」の効果は,出願時に遡及しないと解釈すべきである。
このような解釈は,審決取消訴訟中の「手続の補正」の審査という観点からも妥当といえる。すなわち,審決取消訴訟が係属中は,審査,審判又は再審のいずれにも係属していないから,その「手続の補正」は,仮に,要旨を変更するものであったとしても,商標法68条の40第1項にいう手続の補正の場合と異なり,同法16条の2による補正の却下ができない。このように審査のできない「手続の補正」の効果が十分に審査された商標法68条の40第1項にいう手続の補正の効果と異なるとしても,それはむしろ当然といえる。
してみれば,審決取消訴訟が係属中に出願の分割を行うためにする「手続の補正」の効果は将来に向かって生ずるにとどまるというべきであるから,審決後である本件訴訟の係属中に出願の分割をし,そのために本願の願書について「手続の補正」を行ったとしても,本件訴訟においては,本件審決時の指定役務,すなわち,上記「手続の補正」を行う前の指定役務(第37類,第38類及び第42類の役務)を前提に審決の違法性を争うべきことになるから,本件審決の違法性の有無を何ら左右しない。
以上のとおり,本件訴訟の係属中に出願の分割をするためにした指定役務を減縮する「手続の補正」は,効果が出願時には遡及せず,将来的に及ぶにとどまるものであり,しかも,原告は,本件審決の理由自体に関しては,上記1で述べたとおり,争わないとして審決の正当性を認めているのであるから,本件審決を取り消すべき理由はない。
(2) 特に,原告は,本来,最も司法の判断を仰がなければならないはずの拒絶審決の原因と思しき第42類の役務を新たな商標登録出願(本件分割出願)の指定役務とし,拒絶理由がないという第37類と第38類の役務だけを残す形で分割の手続を行っている。原告の行為は,形式的には出願の分割の手続を行っているとしても,実質的には,手続の補正と同等に本願の指定役務の減縮を目的とすることが明らかであるから,上記(2)で述べた手続の補正の時期を制限する商標法68条の40の趣旨に反するものといわざるを得ない。
(3) 以上のとおりであるから,審決後に本件出願を原出願とする分割出願の手続がされても,本件審決を取り消すべき理由はない。
当裁判所の判断
1 事案の要約と問題の所在 本件事案は,次のように要約される。
原告は,指定役務を甲(第35類),乙(第37類),丙(第38類),丁(第42類)の役務群として,本願商標について登録出願をしたところ,特許庁から拒絶理由通知を受け,願書の指定役務から甲役務群を削除する旨の補正書を提出するなどして対応したものの,拒絶査定を受けたため,審判請求をしたが,丁の役務群において本件引用商標と類似することを理由として請求不成立の審決を受けた。そこで,原告は,審決取消しを求めて本訴を提起した上,特許庁に対し,拒絶理由に関係する丁役務群を指定役務とする分割出願をし,かつ,本件出願に係る指定役務群を乙,丙の役務群に減縮する旨の補正書を提出した。なお,原告は,その後,さらに,拒絶理由に関係しない乙,丙の役務群の大部分を指定役務群とする分割出願をすることによって,本件出願に係る指定役務を乙役務群のうちの「建築一式工事」のみに減縮し,その旨の補正書を提出している。
以上の事実関係の下で,原告は,本訴提起後に特許庁に対し分割出願に伴って提出された補正書は,出願時に遡って効力を有するとする見解(遡及説)に立って,本件出願に係る指定役務補正前の乙,丙,丁の役務群であることを前提として判断した審決は,結果として誤りであるから,違法として取り消されるべきであると主張し,これに対し,被告は,本訴提訴後に提出された補正書は原告主張のような遡及効は有しないとする見解(非遡及説)に立って,審決は違法ではないと主張する。
2 商標法68条の40第1項について 商標法10条1項は,「商標登録出願人は,商標登録出願が審査,審判若しくは再審に係属している場合又は商標登録出願についての拒絶をすべき旨の審決に対する訴えが裁判所に係属している場合に限り,一以上の商品又は役務を指定商品又は指定役務とする商標登録出願の一部を一又は二以上の新たな商標登録出願とすることができる。」と規定し,分割出願が許される時期について「商標登録出願についての拒絶をすべき旨の審決に対する訴えが裁判所に係属している場合」と明記しているから,審決取消訴訟係属中に分割出願ができることに疑問の余地はない。
これに対し,商標法68条の40第1項は,「商標登録出願・・・・に関する手続をした者は,事件が審査,登録異議の申立てについての審理,審判又は再審に係属している場合に限り,その補正をすることができる。」と規定し,手続の補正をすることのできる時期を制限し,特に「商標登録出願についての拒絶をすべき旨の審決に対する訴えが裁判所に係属している場合」を文理上除外している。
そして,平成8年法律第68号による法改正前の商標法10条は,商標登録出願の分割ができない時期として,「査定又は審決が確定した後」と規定していたのであり,これとの対比において考えても,商標法68条の40第1項の上記場合とは,事件が特許庁に現に係属している場合を指し,審決取消訴訟が係属している場合を含まないものと解するのが自然である。そして,事件が現に特許庁に係属していない限り,出願人から補正書が提出されたとしても,これを審査することはできず,仮に審査して補正の許否の結論を出したとしても,これを出願の当否の判断に反映させる法的手続も定められていない。
また,商標法68条の40第1項は,手続の補正に関する一般規定であるから,分割出願に伴う補正のみでなく,補正一般についても審決取消訴訟係属中に認めることになるような解釈は,審決取消訴訟の審理構造に関わる重大な事項であって,弊害も大きく,軽々に認めることは適当ではない。
以上のとおり考えると,商標法68条の40第1項の解釈としては,審決取消訴訟の係属中には,もはや,遡及効を伴うような補正は,許容することはできないものと解さざるを得ない。そこで,すべての補正について,そのように解し分割出願の場合でも例外を認めることはできないのか否か,それとも,そもそも,分割出願に際して提出される補正の書面については,特別な考察を要するのか否かなどについて,以下,項を改めて検討することとする。
3 分割出願の法的性質について 上述のように,商標法10条1項は,「商標登録出願人は,商標登録出願が審査,審判若しくは再審に係属している場合又は商標登録出願についての拒絶をすべき旨の審決に対する訴えが裁判所に係属している場合に限り,一以上の商品又は役務を指定商品又は指定役務とする商標登録出願の一部を一又は二以上の新たな商標登録出願とすることができる。」と規定し,同条2項は,「前項の場合は,新たな商標登録出願は,もとの商標登録出願の時にしたものとみなす。」と定めており,分割出願自体について特別の要件ないし手続(例えば,審決で拒絶理由とされた指定商品等について分割出願を制限するなどの要件ないし手続)を定めていないことなどを考えると,(1)商標法の定める分割出願は,同法10条1項の定める要件を充足している限り,分割出願がされることによって,原出願の指定商品等は,原出願と分割出願のそれぞれの指定商品等に当然に分割され,それゆえ,原出願の指定商品等について,分割出願の指定商品等として移行する商品等が削除されることは,観念上は,分割出願自体に含まれ,別個の手続行為を要しないものと解され,かつ,(2)分割出願は,法律上,新たな出願とみなされるため,不動産登記における分筆・分割や民事訴訟における弁論の分離などの場合(これらの場合には,分割前の正と負の状態を分割後もそれぞれが承継する。)と異なり,原出願が受けた拒絶査定,審判請求不成立の審決という負の状態,そして,審決取消訴訟係属の対象からも解放され,改めて特許庁において新たな出願として審査及び審判を受けることができるようになると解される。
しかも,商標法10条1項は,上述のとおり審決取消訴訟の係属中であってもすることができると明記していることを考えると,審決取消訴訟の係属中にされた分割出願でも,分割出願自体によってその効力を生じ,同法68条の40第1項のいう補正をしなくとも,分割出願としての効力に何ら影響を及ぼすものではないと解するのが相当である。
ところで,商標法施行規則22条4項は,特許法施行規則30条を準用し,商標法10条1項の規定により新たな出願をする場合において,原出願の願書を補正する必要があるときは,その補正は新たな出願と同時にしなければならないと規定している。この商標法施行規則の規定は,分割出願は,上述したように,分割出願自体によって,観念上原出願と分割出願の双方の指定商品等について当然にその効果を生じ,その効力発生要件としては補正書の提出を要しないものではあるが,分割出願がされた場合には,実際上は,分割出願に移行する指定商品等を原出願の指定商品等から削除することが必要になって,その際,原出願と分割出願との間で指定商品等が重複するようなことが考えられるため,そのような事態を避けるという事務手続上の便宜のために設けられたものと解される(この点において,特許法の分割出願は,原出願に係る発明と分割出願に係る発明とをいかに切り分けるかにつき判断的な要素が入り,必ずしも一義的な分割方法があるわけではないため,特許法施行規則30条の定める補正の書面が重要な役割を担うのと事情を異にする。)。
したがって,商標法の分割出願の場合には,上記法条にいう補正の書面は分割出願の効力を云々するような書面ではないというべきであり(施行規則は,その法形式上,法の定めた効力要件を加重することはできない。),特許庁編工業所有権法逐条解説[第16版]1095頁のこの点に関する説明も,以上の趣旨に帰するものと思われる。
4 分割出願と審決取消訴訟の審判対象の変動について 上述したとおり,分割出願は,願書記載の指定商品等を原出願と分割出願との間で分割するというものであるから,商標法10条1項の要件に適合する分割出願がされれば,これによって,原出願についても,指定商品等の変動という分割出願の効力は生じているといわざるを得ない。そして,商標法は,審査・審判等が特許庁に係属する場合に分割出願することを認め,その分割出願の結果を審査・審判等に反映させることにし,これと同列的に,審決取消訴訟が裁判所に係属する場合にも分割出願を認めたのであるから,その分割出願の結果もまた審決取消しの訴訟及び判決に反映させることにしたものと解するのが文理上も自然であり,かつ,合理的である。仮に,商標法が審決取消訴訟係属中に分割出願の制度を認めながら,分割出願の結果が審決取消しの訴訟及び判決に何ら影響を与えないというのであれば,審判対象物の恒定効を付与するといった特別の法的措置を講ずべきであり,そのような措置が何ら講じられていない以上,分割出願の結果を前提に,爾後の審決取消訴訟は進行するものといわざるを得ない。
そこで,分割出願の効力が審決取消訴訟に対しいかなる影響を与えるかについて考えるに,登録出願に係る商標の指定商品等が分割出願によって減少したことは,審理及び裁判の対象がその限りで当然に減少したことに帰するから,審決取消訴訟では,残存する指定商品等について,審決時を基準にして,審理及び裁判をすべきことになる。この場合,審決が残存する指定商品等について判断をしているときは,その判断の当否について審理及び裁判をし,審決が判断を加えないでその結論を導いているときは,その点につき当該訴訟で審理判断が可能かを見極めることとなる。
以上のように解すると,審決の示した判断,審決取消訴訟進行中の被告(特許庁)の示した判断,そして,審決取消訴訟の第一審判決に示された判断に不満を抱いた原告は,その訴訟が終局するまで,分割出願をした上,拒絶理由に関係のある指定商品等について分割出願をすることによって,容易に審決取消しの判決を得ることが可能であるかのようであるが,分割の濫用法理の適用などは別途考えられてよい。
なお,以上のような見解を採用しないで,裁判所が,審決取消訴訟係属中にされた分割出願に係る指定商品等も審理の対象として審理判断し,審決取消しを求める請求を棄却する判決をする場合には,分割出願の効力は否定することができないから,その判決によって確定する審決の内容は,分割出願後に原出願に残存した指定商品等に限定される結果となる。本件についていえば,指定役務を乙,丙,丁の役務群としてされた審決においては,丁役務群において本願商標と本件引用商標が類似しているとして,乙,丙,丁の指定役務群の全体について拒絶すべきものとされたため,審決取消訴訟が提起され,審決取消訴訟の係属中に拒絶理由のある丁指定役務群について分割出願されたが,裁判所は,分割出願によっては審理及び判決の対象は何ら変動しないものとして,分割出願の指定役務に移行した丁役務群において両商標は類似するとして,乙,丙,丁の役務群全部について拒絶すべきものとした審決を是認し,原告の請求を棄却するわけであるが,この判決によって確定する審決は,拒絶理由の関係しない乙、丙の役務群のみにつき効力を有し,拒絶理由に関係のある丁役務群には効力が及ばないということにる。
5 本件について 当裁判所の上記見解に立って本件をみるに,本願商標の指定役務は,本訴提起後に2回にわたって行われた分割出願の結果,第37類の「建築一式工事」となっており,そうであるとすると,本願商標と本件引用商標(指定役務は第41類と第42類の役務)とは,指定役務が同一又は類似であるとはいえない(当事者間に争いがない。)から,審決が本願商標が商標法4条1項11号に該当するとして本件出願を拒絶すべきものとした判断は,結果として誤りであり,審決のうち,第37類の「建築一式工事」を指定役務とする部分は,違法として取り消されるべきであり,審決のその余の部分は,上記2回の分割出願によって,その効力を失っているというべきである(この点は主文で明らかにするまでもないものと思料する。)。
裁判長裁判官 塚原朋一
裁判官 古城春実
裁判官 田中昌利