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関連審決 無効2000-35554
この判例には、下記の判例・審決が関連していると思われます。
審判番号(事件番号) データベース 権利
平成6行ケ109 判例 商標
関連ワード 識別力 /  量産 /  出所表示機能 /  識別機能 /  指定商品 /  普通名称(3条1項1号) /  周知商標 /  周知性 /  混同を生ずるおそれ(混同を生じるおそれ) /  4条1項11号 /  4条1項15号 /  4条1項19号 /  著名商標 /  不正目的(不正の目的) /  顧客吸引力(グッドウィル) /  希釈化(ダイリュージョン) /  類似性(類否判断) /  結合商標 /  外観(外観類似) /  称呼(称呼類似) /  観念(観念類似) /  取引の実情 /  出所の混同 /  国内 /  警告 /  無効審判 /  継続 /  非類似 /  同業者 / 
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事件 平成 14年 (行ケ) 169号 審決取消請求事件
原告 株式会社本田味噌本店
同訴訟代理人弁護士 山下信子
同 弁理士 鹿谷俊夫
被告 ナカモ株式会社
同訴訟代理人弁護士 小川宏嗣
同 堀田崇
同 弁理士 佐竹弘
同 中島知子
裁判所 東京高等裁判所
判決言渡日 2003/10/06
権利種別 商標権
訴訟類型 行政訴訟
主文 1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
原告の請求
特許庁が無効2000-35554号事件について平成14年3月6日にした審決を取り消す。
前提となる事実
1 特許庁における手続の経緯 被告は、「ナカモ西京」の文字を縦書きしてなり、指定商品を商標法施行規則別表(平成3年通産令70号による改正前のもの)第31類の「西京みそ」とする登録第2716783号商標(昭和58年3月22日商標登録出願、平成8年10月31日設定登録、以下「本件商標」という。)の商標権者である。
原告は、平成12年10月13日、本件商標について無効審判を請求し、特許庁は、この請求を無効2000-35554号事件として審理した結果、平成14年3月6日、「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決(以下「本件審決」という。)をし、その謄本は、同月16日、原告に送達された(甲1、枝番号の書証を含む。以下、明示しない限り同じ。弁論の全趣旨)。
2 本件審決の理由 別紙審決書の写し(以下「審決書」という。)のとおり、請求人(原告)が無効理由として、審決書の後掲「引用1商標」記載のとおりの構成(円輪郭内に「丹」の文字を書してなる標章部分(以下「マルタン標章」という。)と、その下に「西京白味噌」の文字を右から左へと横書きした標章部分とを組み合せたもの)よりなり、指定商品を旧商標法(大正10年4月30日法99号)の施行規則(大正10年農商令36号)第45類の「白味噌」とする登録第375707号商標(昭和22年2月26日商標登録出願、昭和24年5月21日設定登録、以下「引用1商標」という。)、及び審決書の後掲「引用2商標」記載のとおりの構成(外側が太線、内側が細線からなる縦長の2重枠の長方形内の上部にマルタン標章を書し、下部に「西京」の文字を縦書きし、「西」と「京」の各文字の間に「さいきょう」の文字を小さく横書きしたもの)よりなり、指定商品を前記第31類の「みそ」とする登録第1662528号商標(昭和56年3月10日商標登録出願、昭和59年2月23日設定登録、以下「引用2商標」といい、引用1商標と併せて「引用商標」という。)を引用したのに対して、要旨、以下のとおり判断し、本件商標は、
商標法4条1項11号、15号及び19号に違反して登録されたものではないから、同法46条1項の規定により登録を無効とすることはできないとした。
(1) 商標法4条1項11号の無効理由について 本件商標及び引用商標を構成する「西京」ないし「さいきょう」の文字部分(以下「西京標章」という。)は、本件商標の登録出願時において、商品「西京みそ」又は「京都地方」を容易に認識、理解されるものであり、商品「みそ」の品質、産地を表示したものと看取されるから、自他商品の識別標識としての機能を果たし得ないものであり、本件商標と引用商標は、いずれも、西京標章より生ずる「サイキョウ」の称呼のみをもって、商取引に資するものとはいえないから、称呼において類似するものとはいえず、また、外観観念においても類似のものとする理由は見い出し得ないから、非類似の商標といわざるを得ない。
(2) 同法4条1項15号の無効理由について 引用商標がその構成全体をもって、商品「みそ」に使用された結果、本件商標の登録出願時には広く知られ周知著名であり、その著名性が登録時においても継続していたとしても、本件商標と引用商標とは、称呼外観及び観念のいずれの点においても非類似の商標であり、また、請求人が引用商標について「西京」又は「西京みそ」の文字のみを使用して、該文字が周知著名である事実は見当たらないから、
本件商標を指定商品に使用しても、引用商標との間で出所について混同するおそれはない。
(3) 同法4条1項19号の無効理由について 本件商標と引用商標とは、称呼外観及び観念のいずれの点においても非類似の商標であり、また、西京標章は、自他商品の識別標識としての機能を果たし得ないから、本件商標が、「西京」の文字部分を有するとしても、不正の目的をもって使用するものということはできない。
原告主張の審決取消事由の要点
本件審決は、西京標章の機能の認定を誤るとともに、引用商標における同標章の周知著名性の認定を誤った(取消事由1)結果、本件商標と引用商標との対比判断を誤り(取消事由2)、被告に不正の目的がなかったと誤って判断した(取消事由3)ものであるから、違法として取り消されるべきである。
1 西京標章の機能及び周知著名性(取消事由1)について 本件審決は、本件商標及び引用商標の一部を構成する西京標章について、本件商標の登録出願時において、商品「西京みそ」又は「京都地方」を容易に認識、理解されるものであり、商品「みそ」の品質、産地を表示したものと看取される旨認定しているが、この認定は誤りである。
すなわち、以下のとおり、「西京」の文字は、もともと出所識別機能を有する語であるところ、原告は、「西京」の語を原告が製造販売する商品「白味噌」について、商品の出所を表示する商標として採択して、「西京白味噌」、「西京白みそ」及び「西京」の商標として使用を継続して使用おり、これによって周知著名性を獲得している。
(1) 「西京」の語の意義について 「西京」の語の意義についてみると、平安京から江戸時代までは、京都が日本の都であり、京都を「西京」と呼ぶことはなく、明治維新による東京遷都後の明治5、6年から20年代までの一時期に、東京からみて京都を「西京」と呼んだ時期があったが、京都が本来の都であると自負する京都人の間に不評で地名としては定着しなかった。このように、地名としての「西京」が用いられたのは、せいぜい20年間にすぎず、「西京」の語は、地域名でもなければ行政区画名でもなく、したがって、京都産の白味噌の商品の普通名称は、「京(京都)の白味噌」、「山城白味噌」、あるいは「関西味噌」である。つまり、「西京」の文字は、自他商品の識別標識としての機能を有するものである。
なお、仮に、「西京」の語が産地表示であったとしても、特定の者が使用した結果、需要者が当該者の業務に係る商品であると認識することがあり得る。また、仮に、一部の消費者が、「西京」の語を一般名称であると認識したとしても、それのみによって普通名称ということはできない。なぜなら、登録商標が著名となり、しかも、日常それに接している者がその商標によって商品を購入することが多くなると、商品の普通名称であるかのような誤解を生じることがあるからである。このような誤解は、新聞、雑誌、辞典などの刊行物の記事として表れるから、このような事実と普通名称の判断とは明確に区別されるべきである。
(2) 原告による「西京」商標の採択の経緯、その後の使用状況等について ア 原告の前身として、初代Aは、天保元年(1830年)に京都において禁裏御用味噌商として創業し、御所や公家を主たる顧客としていたが、東京遷都後は、東京方面を含む市販に転じた。そして、従前の顧客であった旧公家らの多くは、東京に移住したが、東京で白味噌が生産されていなかったことから、引き続き京都に白味噌を注文した。その際に、上記のとおり、明治5、6年から20年代まで京都を「西京」と呼んだことから、原告の前身にも「西京の味噌」、「西京白味噌」と呼んで、白味噌の商品の注文があった。そこから、原告の前身は、自己の製造販売する白味噌を「西京白味噌」と称するようになり、遅くとも明治10年ころに「西京」の商標を採用したのである。
しかし、京都の味噌業者の中で「西京」の文字を自己の商品に用いる業者はなく、「西京」が地名として定着しなかった後も、原告だけが商標として「西京白味噌」、「西京白みそ」及び「西京」の文字を、原告の屋号であるマルタン標章と組み合わせて、あるいはマルタン標章を付さずに単独で使用し続けていたのである。
そして、原告が引用商標について商標登録を得て以降、原告は、「西京」の表示を使用する第三者に対して、その都度、使用の中止を申し入れた結果、現在、原告と被告以外に「西京」の表示を使用する者はいなくなった。
イ 原告の前身は、明治16年、分家が「本田商店」として独立し、以後本家の「本田味噌本店」と、分家の「本田商店」とが、「西京白味噌」を製造販売し、その営業努力や全国への販路拡大の結果、本田味噌本店と本田商店の製造販売する白味噌に使用された「西京白味噌」、「西京白みそ」及び「西京」の商標は、
第2次大戦前の時点で、製造業者、卸業者等関係業者及び一般消費者の間に広く知られ、周知性を獲得した。そして、「本田味噌本店」と「本田商店」は、戦後の昭和25年、それぞれ「株式会社本田味噌本店」、「株式会社本田商店」に組織変更し、再び東京方面に積極的に進出しており、さらに、原告は、昭和59年に原告商品の販売を担当する子会社として「株式会社西京味噌」を設立し、それ以降は、3社が提携して「西京」の統一ブランドを使用して、多量の宣伝活動と販売活動を行ったことにより、「西京」は、原告らの製造販売にかかる商品の固有の商標として、全国の取引者、需要者に著名なものとなった(なお、株式会社本田商店は、平成4年に原告に吸収合併されている。)。
平成11年度の原告の白味噌の製造販売量は、年間2393トンに及んでいる。
同年度の全国の年間白味噌の出荷量は、約2万トンであり、そのうち京都府が年間約4000トン台を出荷しており、京都府の味噌製造12業者のうち年間1000トン以上生産しているのは、原告と株式会社石野味噌(以下「石野味噌」という。)の2社であり、原告が最大のシェアを占めている。
ウ この間、原告は、引用1商標(昭和22年2月26日商標登録出願、
昭和24年5月21日設定登録)、引用2商標(昭和56年3月10日商標登録出願、昭和59年2月23日設定登録)をそれぞれ商標登録し、今日に至るまで使用した結果、取引者・需要者間に広く知られるに至っている。
エ このようにして、本件商標の登録時である平成8年10月はもちろん、その登録出願時である昭和58年3月においても、原告が製造販売する白味噌について使用している「西京白味噌」、「西京白みそ」あるいは「西京」の商標は、全国的に味噌を取り扱う業界だけでなく、味噌等に関連する商品の取引者、需要者の間において周知著名性を獲得していた。
(3) 原告の「西京」商標の周知著名性について 原告の「西京」商標が原告固有の商標として周知著名であることは、以下の各事情からも明らかである。
ア 婦人雑誌、旅行案内書において、原告及び原告の商品の白味噌を、
「西京白味噌」、「西京白みそ」として広く紹介しており、京都や食材についてよく知っている研究家等は、その著書において、「西京」、「西京白味噌」、「西京白みそ」が原告固有の商標ないし銘柄であるとして紹介している。また、業界の新聞記事は、原告や株式会社西京味噌のブランド名を「西京白味噌」として、マルタン標章を付さずに記載するなどしている。
なお、本件審決は、辞典や百科事典等において「西京味噌」の語が、「主に関西地方でつくられる白みそ」などと掲載されていることを、西京標章が味噌の品質ないし産地を表し、自他商品識別標識としての機能を果たし得ない根拠として挙げている。しかし、これらの辞典等は、本件審決当時、既に絶版となっていたり、その発行元(例えば、株式会社小学館(以下「小学館」という。))の編集部において、今後の改訂の際に「西京味噌」の項を削除することを決定していたものであり、このほか国語辞典を発行する株式会社岩波書店(以下「岩波書店」という。)、株式会社講談社(以下「講談社」という。)、株式会社三省堂(以下「三省堂」という。)、株式会社平凡社(以下「平凡社」という。)も、「西京味噌」の用語について今後削除することを決定している。これは、原告が、「西京白味噌」、「西京白みそ」及び「西京」の語が原告らの固有の商品を表す名称であることを指摘し、辞典等の誤りを訂正するよう求めたのに対して、各出版社が検討した結果、その誤りを認めたものである。
また、周知著名性を有する商標が、辞典や著書などにおいて商品名であるかのように記載されることがあるが、商標が消費者に普通名称として認識されようと、あるいは、辞書や書物において商品名として定義されたり説明されようと、その商標が営業者により独占的に競業者を排除して使用されている場合には、なお出所表示機能を有しており、また、普通名称が営業者に独占的に競業者を排除して使用されている場合には、普通名称になっていないのである。
イ 京都府内には、12社の味噌製造業者があるが、自己の商品に「西京」の文字を使用する業者は、原告以外には、1社も存在していない。これは、原告と軒を並べる蔵元において、「西京」の語が京都産の白味噌を意味するものでないことを認めているためであり、石野味噌も白味噌について「西京」の語を使用していない。また、白味噌の産地とされる関西地方の味噌業者も、自己の商品に「西京」の語を付して製造販売する業者は、原告以外にはない。
ウ 全国的にみても、味噌・醤油の製造業者、卸売業者、量販店等の全分野の名簿を収録するとともに、会社概要等を掲載した、わが国唯一の専門年鑑として、昭和28年より毎年、発刊を続けている「味噌醤油年鑑」の「主要味噌・醤油銘柄便覧」には、原告の取扱い銘柄として、「西京白味噌」「西京赤だし」「西京ブランド各種味噌」と掲載されており、他社の銘柄には「西京」の文字を使用しているものは見出せない(被告は、「ナカモ」として登録されている。)。
また、昭和38年12月25日現在で食品メーカーをはじめ、資材、機械、その他卸・販売業者に至るまでの全国主要食品関係業者約1万1千社を収録した「食品工業総合名鑑」には、原告の取扱い銘柄として「(みそ)西京白味噌」、商品名索引には「西京白味噌」と掲載され、他社の銘柄には「西京」の文字を使用しているものは見出せない。
エ 原告は、農林水産省後援、全国味噌工業協同組合連合会等主催の「全国味噌鑑評会」に例年出品し、多数回入賞しているが、原告の商品は、全て「西京白味噌」と表示され、原告固有の銘柄として審査されている。これは、全国の味噌業者の団体である上記連合会においても、「西京白味噌」が原告固有の商標として認めてきたことを示すものである。
2 本件商標と引用商標の対比判断の誤り(取消事由2)について (1) 本件商標について ア 本件商標は、「ナカモ」の片仮名文字と「西京」の漢字とからなり、
両文字はその態様において差異があり、また、この両文字が全体として特定の観念を有するものでもなく、必ずしもこれを一体不可分のものとしてのみ把握しなければならない特段の理由は見出し難いから、「ナカモ」の文字と「西京」の文字とは、それぞれ独立して自他商品の識別力を果たし得る文字とみるのが自然である。
また、本件商標は、原告が使用する周知著名商標であり、「サイキョウ」の称呼によって取り引きされることが少なくない西京標章を一部に有するものである。
イ この種商標においては、企業が自己の商標を採択するに際して、企業の代表的な出所標識と、その取扱いに係る数多い商品のそれぞれを区別するための商品毎の識別標識とを組み合わせて使用する傾向が強くみられるのが実情である。
そうすると、本件商標を構成する文字中、「ナカモ」の文字部分は、被告の代表的な出所表示又は銘柄名として知られるのに対し、「西京」の文字部分は、各商品毎の識別標識として理解されるところであって、かつ、原告が西京標章を商品「白味噌」及び「みそ」に使用してきた結果、一般消費者を含めた需要者において、同標章が原告の業務に係わる商品であることが広く知られていたことからすれば、片仮名文字の「ナカモ」及び漢字の「西京」が、それぞれ自他商品識別標識としての機能を果たし得るものである。
ウ 以上のとおり、本件商標からは、構成全体としての「ナカモサイキョウ」の称呼のほかに、「ナカモ」の文字部分に相応する「ナカモ」の称呼及び「西京」の文字部分に相応する「サイキョウ」の称呼をも生ずるものである。
(2) 引用1商標について 引用1商標は、円輪郭内に「丹」の漢字を書してなる図形部分(マルタン標章)と、その下に右から左へ漢字の「味噌白京西」を横書きにした文字部分との組合せよりなるものであるが、この両部分は、常に一体のものとして把握しなければならない格別の理由も見出し難いから、該文字部分も独立して、自他商品の識別標識としての機能を果たし得るものである。
そうすると、該文字部分の構成中の「白味噌(噌味白)」は、指定商品との関係において、商品名(普通名称)を表したものと理解されるのである。そして、引用1商標に接する取引者、需要者は、暖簾記号に当たるマルタン標章を考慮しても、
その構成中の周知著名な「西京」の文字部分に着目し、これから生ずる「サイキョウ」の称呼をもって取引に当たる場合も少なくないとみるのが自然である。
したがって、引用1商標は、単に「サイキョウ」の称呼をも生ずるものということができる。
(3) 引用2商標について 引用2商標は、太線及び細線からなる縦長の長方形内の、上部の円輪郭内に「丹」の漢字を書してなる図形部分(マルタン標章)と、その下に縦書きに「西京」の文字を表し、その読みを特定させた「さいきょう」の平仮名文字を小さく「西」と「京」の間に配した構成態様よりなるものであるところ、図形部分と文字部分の表現方法を異にする組合せからなるものであるが、その図形部分と文字部分とは、いずれも観念的な結び付きを有するものとして、常に一体的に把握し理解されるものとはいえず、各々が分離して看者の注意を引くものである。
そうすると、西京標章は、この種同業者はもちろんのこと、一般消費者にもよく知られた「西京」の文字を表したものとして把握され、平仮名の「さいきょう」の文字は、漢字の「西京」の読みを特定したものとして理解されるものである。そして、引用2商標に接する取引者、需要者は、暖簾記号に当たるマルタン標章を考慮しても、構成中の周知著名な「西京」の文字部分に着目し、これから生ずる「サイキョウ」の称呼をもって取引に当たる場合も少なくないとみるのが自然である。
したがって、引用2商標は、単に「サイキョウ」の称呼をも生ずるものということができる。
(4) 本件商標と引用商標との類似について ア 以上のとおり、引用商標と本件商標とは、「サイキョウ」の称呼を共通にする類似の商標であり、かつ、引用商標の指定商品と本件商標の指定商品とは、ともに「味噌」に属する商品であって、商品の品質、使用目的、販売店、生産者を同じくする類似の商品である。
なお、本件商標が商標法4条1項11号に該当するとした、本件商標の登録異議の申立てについての決定(甲121、以下「一次決定」という。)においても、同様の判断が示されている。
イ 本件商標が、その商標登録出願日前の商標登録出願に係る引用商標に類似するか否かの判断は、本件商標の登録時である平成8年10月31日を基準時にすべきである。そして、この時点において、引用商標は、前述したように、「サイキョウ」の称呼により具体的取引に供されていたのが実情である。
他方、被告においては、本件商標と実際の商取引において商品に使用している使用標章との相違が顕著であり、実際に被告が商取引に使用しているのは、「ナカモ西京白みそ」、「西京あわせ」、「西京赤だし」、「カップ西京白みそ」、「うす塩西京みそ」、「西京白みそ」などであるから、具体的取引状況のもとにおいて、
本件商標からは「サイキョウ」の称呼を生ずるというべきである。
したがって、この点においても引用商標と本件商標は類似する。
3 被告の不正目的に関する判断誤り(取消事由3)について (1) 被告による引用商標の無断使用 原告は、所有する引用商標を、永年に亘る営業努力により、国内の取引者、一般の消費者の間で広く知られ、高級イメージを有する強力な顧客吸引力を取得した著名商標としてきた。
ところが、昭和58年8月5日付けの全国醸界新聞(甲30)に掲載されているように、被告が製造・販売した商品に付された標章は、原告が販売している商品に付された商標と酷似しているため、被告製造の白味噌を購入した一般消費者のなかには、商品が原告の商品であると混同して購入した者もおり、原告の商品に対して消費者が抱いていた高級イメージが著しく損なわれ、商品を買い控えるに至った消費者もいたであろうことは容易に推測し得るところである。
このように、被告は、原告の商品と混同されるおそれのあることを十分に承知の上で、故意に「西京白みそ」を付した商品を製造・販売したことが窺えるものである。
(2) 本件無効審判までの経過 原告は、上記のような被告による引用商標の侵害の事実を発見し、速やかに被告に対し、昭和56年3月7日付け通告書(甲111)を送付し、昭和56年3月16日付け回答書(甲112)があり、昭和56年3月24日付け再通告書(甲113)を送付したが、その後、被告からは何らの回答書もないまま、2年過ぎた昭和58年3月22日に本件商標が登録出願されたものである。
原告は、昭和60年1月26日付けの商標公報により上記の出願を発見し、登録異議の申立てをし、「理由あり」の一次決定を受けたが、審判を経て、本件商標の登録となった。
被告は、原告が警告を発し、その回答書により侵害商標のラベル等の廃棄を約束しながら、侵害行為を中止せずに居直り、商標登録出願を行ったのである。
(3) 本件商標と被告が実際に使用する標章の相違と取引実態 被告が商品に使用している標章は、前述したとおり、本件商標とは、全く別異の構成よりなる商標として看取されるものであって、社会通念上も同一のものとはいい難く、その現実の使用からすれば、本件商標の構成態様からなるものが、外観
称呼観念において一体不可分であるとは到底いえないものである。
また、ガゼットタイプ商品やカップタイプ商品に表示された原告の商標と被告の商標とは、いずれも商標表示としての使用位置や使用形態が酷似していることが明らかである。
(4) 被告による不正の目的 被告は、原告と味噌を製造販売する同業者であり、業界が発行する新聞、刊行物などに、原告が販売する商品に付された「西京白味噌」「西京白みそ」の記事、広告掲載、そして、全国味噌鑑評会において、銘柄「西京白味噌」が「農林水産大臣賞」受賞のほか、他の賞も受賞していることは知り得ているはずであるから、原告の業務に係る商品を表示するものとして、全国的に取引者、需要者の間に広く知られている商標と類似の商標であることを承知の上、商品「白味噌」に「西京」の文字を付して販売し、更には警告書に何ら返答することなく、本件商標を登録出願したものである。
また、被告は、本件の無効審判事件の第2答弁書(甲1021、乙38)において、原告の引用商標について、要旨、「マルタン標章を含む商標を使用したことにより、それが周知となっている点については認める。」「その結果、取引上自他商品の識別機能を果たし得る商標の役割を果たしている商標は、マルタン標章及びマルタン標章を含む商標が顕著な頻度で用いられている。」と記述し、引用商標の使用により、これが周知となって取引上自他商品の識別機能を果たしていることを認めている。しかも、被告は、本件訴訟においても、引用商標が、商品「味噌」の分野において周知著名であることを認めている。
したがって、被告は、引用商標の顧客吸引力希釈化し又はこれに便乗し、不当な利益を得る等の目的の下に本件商標を登録出願したものであり、本件商標は、不正の目的をもって使用する商標に該当するものといえる。
4 無効理由 (1) 商標法4条1項11号違反 原告は、昭和24年に引用1商標の使用を開始して以来、「白味噌」に引用1商標を付して、また、昭和56年に引用2商標の使用を開始して以来、「みそ」及び「白みそ」に引用2商標を付して、日本国内において販売し、新聞・雑誌等に広告してきたものであって、引用商標は周知、著名であり、この結果、引用商標は本件商標の登録時において、日本国内において、多くの取引者や一般の消費者の間で「サイキョウ」と称呼されるに至っていたのである。具体的取引状況のもとにおいても、引用商標からは、「サイキョウ」の称呼が生ずるというべきである。
他方、本件商標から「サイキョウ」の称呼が生ずることは、前記のとおりである。しかも、被告が、具体的商品に実際に使用する標章態様を考慮すると、本件商標に接した取引者、需要者は、「ナカモ」という部分を捨象して、「西京」という部分によって商品を識別することが多いものと把握されるから、外観において類似するもので、観念をも同じくするものである。
したがって、本件商標と引用商標とは類似するものであり、両商標が同一商品に使用されると、商品の出所の混同を生ずるといえる。
(2) 商標法4条1項15号違反 被告は、本件無効審判事件及び本件訴訟において、原告が使用している引用商標が周知となっている点を認めると述べており、かつ、引用商標が周知著名になっていることは、前述したとおりである。
そうすると、本件商標を指定商品に使用した場合、これに接する取引者・需要者は、その構成中の「西京」の文字部分に着目して、「西京」ブランドを連想し、本件商標が付された商品について、「西京(サイキョウ)」と呼ばれる周知著名なブランドの一種か、あるいは、原告と組織的又は経済的に何らかの関係がある者の業務に関わる商品であるかのように、その出所について混同を生ずるおそれがあるものというべきである。
(3) 商標法4条1項19号違反 被告は、前記のとおり、本件無効審判事件において引用商標の周知性を認めているのであるから、本件商標登録出願時には、原告の登録商標の存在は知っておりながら、登録出願を行ったのである。このように周知著名な引用商標に「ナカモ」を付して使用した被告の行為は、許されるものではなく、不正の目的のおそれがあるといわなければならない。
被告の反論の要点
1 取消事由1について (1) 「西京」の語の意義について 一般に、商品「みそ」に関して、主たる消費者である主婦、調理人、取引業者等の需要者の多くは、味噌を利用するに当たっての知識を、料理学校においても、家庭においても、「料理に係わる刊行物」を媒体として取り込む場合が多い。また、
テレビ等のメディアを通じて知識を得る場合もある。さらには、「レシピ」に係わる刊行物において記載されている意味が理解し難い場合は、百科事典、国語辞典等に語彙を求める場合が多い。
そこで、本件審決に記載された辞典等(甲1第8頁34行ないし9頁9行)のほか、各種の百科事典及び国語辞典、雑誌、新聞、NHKのテレビ番組用テキスト等の実情を検討してみるに、「西京」の文字は、「西京」が東京に対して京都を指し、あるいは、「西京味噌」が京都地方で造られる白味噌をいい、甘みが強いものと説明されており、商品「みそ」の品質、産地を表示したものと広く認識されているのであるから、需要者が、西京標章に接する場合、その表示が商品「みそ」の品質、産地を表示したものと認識するのである。
他方、商品「西京みそ」についての主たる消費者である主婦、調理人、取引業者等の需要者が、商品「西京みそ」について、「西京」の文字が用いられた場合、それが商品「みそ」の品質、産地を表示するという事実を否定する証拠は見当たらない。
したがって、西京標章が、「自他商品の識別標識としての機能を果たし得ないもの」とした本件審決の判断は正当である。
(2) 原告による「西京」商標の採択の経緯、その後の使用状況等について 原告の上記に関する主張は、原告の内部事情ないしは原告の主観的判断を述べるものであり、客観性に欠け妥当でない。
(3) 原告の「西京」商標の周知著名性について ア 原告の引用商標が周知著名であることは、本件審決においても認めるところである。
しかしながら、原告の提出した証拠に基づいて、具体的な取引の場における表示の態様を観察すると、商品表示としての「西京みそ」の文字の傍らには、引用1商標又は引用2商標が用いられており、「みそ」の業界においては周知著名で自他商品の識別力が大きい円輪郭内に「丹」の図形標章(マルタン標章)が、顕著な態様でもって表示される状態になっている。また、ときには、商品「西京みそ」に自他商品の識別力を二重に付するため、原告の社名が並列的に付記されており、あるいは、マルタン標章と交換的に、商品としての「西京みそ」の文字の傍に原告の社名が記載される等して、商品「西京みそ」の文字の傍には、上記の周知著名な自他商品識別標識が常に付された状態でもって取引に供されている。しかも、「西京みそ」等の商品名は、自他商品の識別標章としてではなく、通常の商品名の表示方法と同様の方法でもって表示されているにすぎない。
一方、原告提出の証拠を精査してみても、商品「西京みそ」について、引用1商標の一部を構成する「西京白味噌」の文字部分、あるいは、引用2商標の一部を構成する「西京」、「さいきょう」の文字部分のみをもつて、商取引に供された結果、自他商品の識別標識としての機能を果たしていると認められるような証拠は見当らない。
そうとすれば、本件商標を構成する「西京」及び引用1商標を構成する「西京白味噌」、引用2商標を構成する「西京」、「さいきょう」の文字部分より生ずる称呼のみをもって、商取引に資するものとはいえない、と認定した本件審決の判断は、正当なものといえる。
なお、原告が提出する証拠のうちには、本件商標の出願日ないし登録審決日(平成8年3月28日)以降に発生した事実についての証拠が多数含まれているが、本件訴訟における、商標法4条1項11号、15号及び19号についての審理に当たっては、少なくとも本件商標の登録審決日以降に発生した事実についての証拠は、
除外すべきである。
イ 原告は、辞典等の出版元が誤りを認めている事項について、本件審決を非難している。しかし、この非難は根拠がなく失当である。
すなわち、前記(1)で示した「西京味噌」の語意に関する各々の出版物については、それぞれの出版日において、膨大な数量の書籍が個人及び会社の読者に販売されると同時に、日本全国の各図書館を含めて多くの公共機関にも頒布されているものと推定でき、この結果、出版日から上記登録審決日までの間において、膨大な読者が 、前述した「西京味噌」の文字の語意に関する知識を得ているものと認められる。
したがって、本件審決が、味噌の分野において、その需要者が「西京」、「さいきょう」の文字部分に接する場合、当該表示が商品「みそ」の品質、産地を表示したものと認識されると判断したことは正当なものといえ、このことは、原告の極めて強硬な申入れと、それに応えた「出版社の1人の私人」との話合いによっては全く影響を受けない周知事項であり、取り消すことのできない事実なのである。しかも、その申入れの時期は、本件商標の前記登録審決日(平成8年3月28日)以降であり、この申入れに対する出版社側からの回答も、それぞれ上記登録審決日以降であるから、審理の対象とはならないのである。
ウ 原告は 、京都府内において「西京白みそ」を販売しているのは原告とそのグループ会社だけである旨主張する。
しかし、原告が販売する商品「西京白みそ」などには、前記のとおり、商品表示としての「西京白みそ」などの文字の傍らに、引用商標が用いられており、さらに、自他商品の識別力があるマルタン標章又は原告の社名が顕著な態様で表示されて販売に供されており、「西京白みそ」などが商標として用いられているわけではない。
2 取消事由2について 一般に結合商標の類比の判断に際しては、商品の品質、産地等を表示する文字を含む場合、これらの文字は識別力が弱いので、特段の事情がない限りそれが付加結合されていない部分に要部が認められる(商標審査基準参照)。このことは、従前の審決及び判決例においても同様である。
したがって、本件審決が、「本件商標及び引用各商標とは、自他商品の識別標識としての機能を果たし得ない「西京」、「さいきょう」の文字部分のみより生ずる「サイキョウ」称呼をもって類似の商標ということはできない」と、比較判断を示したことは、妥当である。
原告は、一次決定に記載された審査官の判断に基づき、本件審決の判断を非難するが、上記一次決定の判断は、これに関する審判事件(審判昭63ー11707号査定取消事件)の審決(乙1)において取り消されている。
3 取消事由3について (1) 被告と原告における取引の実情等 被告は、1830年(天保元年)から「みそ」の製造を開始しており、今日まで引き続き「白みそを含む多種類の味噌」の製造を行っている。また「味噌」の製造、販売量は、原告の年間2500トンに対して、被告は年間5700トンであってほぼ倍量である。この事実から推察できるように、味噌業界において、被告の味噌に付されて用いられた商標「ナカモ」の周知度は、絶大なものなのである。
そして、被告は、終戦後、世の中が落着き、被告の社業も上向きになった昭和38年ころ、商標「ナカモ」に関して「みそ」を含む商品を指定商品として出願し、
その後も、商標「ナカモ」の配置位置と商品との組合せを異ならせた各種の商標を、それぞれ出願して登録された。一方、原告側も、時代の変遷に対応して、重要なマルタン標章を含む各種の商標を次々と出願して登録された。
このように、被告の周知商標「ナカモ」と、原告の周知商標であるマルタン標章とは、それぞれ商標登録され、需要者に対しては明確に区別された状態で利用されていたのである(なお、原告は、上記商標のほかに、昭和61年に商品「味噌」に関係して、「西京」、「西京白味噌」、「西京白みそ」についての出願を行ったが、これらは全て出願拒絶された。)。
このような事情から、原告は、本件商標の出願前から、「西京」、「西京白味噌」等の文字に自他識別機能がなく、何人でも利用可能な公共のものであって、一人の私人が独占的に利用し得る性質のものでないことは十分に認識していたのである。
そして、各家庭の食生活は豊かになり、割高であった被告製造の「米を主材料とする白みそ」も需要が伸びていたことから、被告は、商品「西京白味噌」を量産することに決定し、昭和55年には、商品「西京白味噌」を売り出すための袋を作成した。この袋は、その表に被告のオリジナル商標である「ナカモ」の文字を頭にし、「西京」の文字と「白味噌」の文字とを全縦三列に併記し、これに色付け図案等を加えデザイン化したものであり(甲114)、昭和56年の初めには、上記の袋に商品「西京白味噌」を詰めて大量販売に入った。
その後間もなく、原告から上記「西京白味噌」の名称のうち「西京」の文字を削除するようにとの通告書の送付を受け、東海地区を商圏とする被告としては、関西を商圏とする原告との間で不当に競争する意識はなく、また、不当な競争をする必要もなかったため、いささか慌てて回答した。ただし、その回答書を作る過程において、原告側の主張に疑問を抱き、その真偽を確かめるために、西京白味噌自体が原告の周知の商標であるとの根拠を証明する資料があれば示すよう問合せを行った。しかし、その後、原告側から回答はなかった。
被告としては、原告側から回答がないという事実に基づき、原告の主張に根拠が存在しないものと受けとめて、その後も上記商品「西京白味噌」の袋詰めに、従前と同様に「ナカモ西京白味噌」の文字を表示して、その後約20年間、平穏に何事もなく、東海地区を商圏として引き続いて大量販売を続けている。
一方、原告側との将来に向けての争いを避けるためと、被告の考えが間違っていないことを確認する意味を含めて、原告側のマルタン標章を含む著名な標章とは、
外観称呼及び観念のいずれの点から判断しても類似することのない商標として、
原告の重要な商標である「ナカモ」と、商品「西京味噌」を表す「西京」の文字を合体させた商標を作成し、本件商標として昭和56年3月に出願をしたのである。
(2) 不正の意図の不存在 以上のとおり、被告は、本件商標が表示されている袋を使用した商品「西京白味噌」を、昭和56年当時から現在に至るまで約20年の間、不正目的ではなく、平穏に毎年大量販売を続けている。本件商標は、東海地区における業界においては周知となっており、この点は原告も十分に承知しているはずである。
一方、原告もまた、周知著名な引用商標を用いており、両者間において特段の混乱をもたらすことなく、それぞれ需要者に対して良質の商品を提供しているのである。
4 無効理由 以上のとおりであるから、本件審決が、本件商標について、商標法4条1項11号、15号、19号のいずれにも該当しないと認定判断したことは正当であり、違法な点は見当らない。
当裁判所の判断
1 取消事由1(西京標章の機能及び周知著名性)について (1) 本件商標及び引用商標の構成及び指定商品等 本件商標は、「ナカモ」の片仮名文字と「西京」の漢字とを一列に縦書きしたものであり、指定商品を「西京みそ」とする。
これに対し、引用1商標は、円輪郭内に「丹」の文字を書してなるマルタン標章と、その下に「西京白味噌」の文字を右から左へと横書きした標章部分とを組み合せたものであり、指定商品を「白味噌」とする。また、引用2商標は、外側が太線、内側が細線からなる縦長の2重枠の長方形内の上部にマルタン標章を書し、下部に「西京」の文字を縦書きし、「西」と「京」の各文字の間に「さいきょう」の文字を小さく横書きしたものであり、指定商品を「みそ」とする。
したがって、本件商標と引用商標とは、その指定商品が同一又は類似するものといえる。
(2) 西京標章について 原告は、本件商標及び引用商標を構成する「西京」ないし「さいきょう」の文字部分である「西京標章」が、本件商標の登録出願時において、原告が使用する周知著名商標であり、独立して自他商品の識別力を果たし得るものであると主張するので、以下検討する。
ア 西京標章の意義一般の辞書・事典類の記載 @ 「西京」あるいは「西京味噌」等について、一般の辞書・事典類の記載内容を検討すると、被告の提出する、国民百科事典13「1978年9月平凡社発行」(乙2、乙314と同旨)には、「産地名をとって仙台みそ、江戸みそ、
信州みそ、西京みそなどと呼ばれ」と、魚菜料理大辞典「昭和52年9月学校法人魚菜学園出版局発行」(乙3)には、「西京みそ 関西地方で多く使われているみそで、塩味が弱くて甘みが強いのが特徴。色は白い近い淡黄色をしている。」と、
大日本百科事典ジャポニカ7「昭和44年2月小学館発行」(乙4、乙315と同旨)には、「西京味噌 別名「白みそ」「早みそ」ともよばれ、おもに関西地方でつくられる。」、「西京漬け 西京みそにウシ、ニワトリ、ブタなどの肉や魚肉を漬けたものだが、多くは白身魚が用いられる。」と、日本国語大辞典(縮刷版)第4巻「昭和56年9月小学館発行」(乙5)には、「西京味噌 都風の甘みの強い白みそで、京都に産する。」、「西京焼 西京みそに漬けた魚を焼いた料理」と、
大日本百科事典ジャポニカ17「昭和46年6月小学館発行」(乙15、乙317と同旨)には、「産地の別からは江戸みそ、仙台みそ、信州みそ、名古屋みそ、西京みそなどである。」と、世界科学大事典8「昭和54年10月講談社発行」(乙19、乙318と同旨)には、「西京みそは白みそで、甘味が強く食塩が少ない・・・京都が主産地で上品な風味と香りを有する。」と、化学大辞典3縮刷版「昭和38年9月共立出版株式会社発行」(乙20)には、「大豆と白米の配合比で種種のミソができる。大豆1に対して白米が1〜2倍のものは白ミソ、西京ミソ」と、日本国語大辞典(縮刷版)第9巻「昭和57年4月小学館発行」(乙21)には、「産地によって仙台味噌、江戸味噌、信州味噌、府中味噌、西京味噌などと呼ばれている。」と、万有百科大事典13生活「昭和56年1月小学館発行」(乙22、乙320と同旨)には、「産地の別からは江戸みそ、仙台みそ、信州みそ、名古屋みそ、西京みそなどである。」と、国語大辞典言泉「昭和62年2月小学館発行」(乙30、甲89と同一、乙321と同旨)には、「西京 西のみやこ。西都。特に、東京に対して京都をいう。」、「西京漬け 西京味噌(甘味の強い白味噌)に漬けた魚などの味噌漬けをいう。」と、大辞林「1990年4月三省堂発行」(乙31、乙322と同旨)には、「西京 西の方にある都。東京に対して京都をいうことが多い。」、「西京味噌 京都地方でつくられる白味噌。」、
「西京焼(き) 西京味噌に漬け込んだ魚の切り身を焼いた料理」と、日本語大辞典「1990年9月講談社発行」(乙32、甲92と同一、乙323と同旨)には、「西京 西の都。京都」、「西京漬(け) マナガツオ・サワラなどを西京みそで漬けたもの。」、「西京味噌 米のこうじを原料にして作る白みそ。塩が薄く、熟成期間が短く、甘みがある。京阪地方で作られる。」、「西京焼(き) 西京漬けにして白身魚を焼いた料理」と、大辞林第2版「1995年11月三省堂発行」(乙33、甲95と同一)には、「西京 西の方にある都。東京に対して、京都をいうことが多い。」、「西京味噌 京都地方でつくられる白味噌。」、「西京焼(き) 西京味噌に漬け込んだ魚の切り身を焼いた料理」と、日本語大辞典第2版「1995年7月講談社発行」(乙34、甲96と同一)には、「西京 西の都。とくに、東京に対して京都をいう。」、「西京漬(け) マナガツオ・サワラなどを西京みそで漬けたもの。」、「西京味噌 米のこうじを原料にして作る白みそ。塩が薄く、熟成期間が短く、甘みがある。京阪地方で作られる。」、「西京焼(き) 西京漬けにした白身魚を焼いた料理」と、大辞泉「1995年12月小学館発行(乙35、甲97と同一、乙324と同旨)には、「西京 西の都。特に、
東京に対して京都。」、「西京漬(け) 西京味噌に魚の切り身を漬けたもの。」、「西京味噌 主に京都で作られる、米こうじを多く使った甘みのある白味噌。」、「西京焼(き) 西京漬けの白身魚を焼いたもの。」と、日本大百科全書9「1988年12月小学館発行(乙42)には、「西京みそ 京都を中心としたおもに関西地方でつくられるみそ。白みそで、早みそともよばれ、甘味のあるみそである。・・・精進料理に多く使われ、京阪地方の雑煮は西京みそ仕立てが中心である。白身魚のみそ漬けにも用いられる。」と、学研国語大辞典「昭和63年2月株式会社学習研究社発行」(乙146)には、「西京 西の都。とくに、(東京に対して)京都。」、「西京焼(き) 西京みそ(=京都産ノ甘イ白ミソ)に漬けた魚の切り身を焼いた料理。」と、それぞれ記載されている(なお、本件商標の登録後の、広辞苑第5版「1998年11月岩波書店発行」(乙36、甲99及び乙325)にも、「西京 西の都。京都の異称」、「西京漬味醂や酒でのばした西京味噌に魚の切り身を漬けたもの。」、「西京味噌 京都産の白味噌。」と記載されている。)。
同様に、原告の提出する、増補大日本地名辞書「昭和44年12月合資会社冨山房発行」(甲80)には、「西京 明治元年・・・江戸を改号して東京と為したまへるより、世人いつとなく京都を指して西京と呼ぶ、固より公称にはあらず。」と、日本国語大辞典「昭和49年3月小学館発行」(甲81)には、「西京 西のみやこ。西都。特に、東京に対して京都をいう。」と、新訂大言海「昭和49年8月合資会社冨山房発行」(甲82)には、「西京 京都市の異称」と、国語辞典「昭和51年5月株式会社角川書店発行」(甲83)には、「西京 西の都。京都。」と、日本大辞書「昭和55年7月株式会社名著普及会発行」(甲84)には、「西京 山城ノ京都ノ一名(東京ノ対)」と、日本大辞典言泉「昭和56年5月株式会社日本図書センター発行」(甲85)には、「西京 西のみやこ。山城國京都の別称。(東京に対して)」と、京都大事典「昭和59年11月株式会社淡交社発行」(甲88)には、「西京 近代の東京に対する京都の別称。・・・明治維新後、東京遷都が実現すると、明治五、六年頃より、東京に対し、西京という呼称が京都をさす固有名詞となり、ほぼ明治二〇年代まで多用された。」と、広辞苑第3版「1988年10月岩波書店発行」(甲90)には、「西京 西の都。京都。」、「西京焼 魚の切り身を白味噌に一昼夜ほど漬けて焼いた料理」と、大辞林「1990年4月三省堂発行」(甲91)には、「西京 西の方にある都。東京に対して、京都をいうことが多い。」、「西京味噌 京都地方でつくられる白味噌。」、「西京焼(き) 西京味噌に漬け込んだ魚の切り身を焼いた料理」と、広辞林第6版「1991年3月三省堂発行」(甲93)には、「西京 (東京に対して)西にある都。とくに、京都をいう。」と、大漢語林「平成4年6月株式会社大修館書店発行」(甲94)には、「西京 わが国で、東京に対して、京都をいう。」と、日本地名大辞典第4巻「1996年1月株式会社日本図書センター発行」(甲98)には、「西京 東京に対する京都の称。」と、それぞれ記載されている。
その他の多くの食品ないし味噌等、あるいは料理に関する雑誌、論文、辞典、書物、一般新聞等(乙6ないし14、16ないし18、43ないし145、147ないし163、181の2、192、199、202、206、227ないし230、239、271、274ないし279、316、319)でも、本件商標の登録前に、「西京味噌」又は「西京白味噌」若しくは「白味噌(西京味噌)」の名称が頻繁に採り上げられ、その内容が説明される場合には、大豆に対して米麹が多く甘い京都(関西地方)の白味噌などとして紹介されており、これが原告固有の商標ないし銘柄であるとするものはない。
A 以上の一般的辞書・事典類の記載、その他の味噌や料理に関する雑誌、論文等の記載によれば、本件商標の出願時及び商標登録時において、「西京」の語は、特定の行政区画や地域の名称とはいえないが、西の方にある都を意味する語であり(平城京や平安京などの都の西側という意味(乙30、35)もあるが、
上記認定ほど一般的とはいえない。)、東京に対して、京都を指すことが多いものと認識されていると認められる。なお、原告の製造販売する白味噌を指すものとの解説は見当たらない。また、「西京味噌」は、主に京都地方でつくられる大豆に対して米麹が多く甘味の強い白味噌を指し、「西京味噌」に魚の切り身などを漬けたものが「西京漬け」として、さらに、「西京味噌」に漬け込んだ魚の切り身などを焼いた料理が「西京焼き」として、いずれも世上広く認識されていたものと認められるが、「西京味噌」が、原告の製造販売する白味噌を指すとの解説は見当たらない。
そして、以上のような著名な一般的辞書・事典類における多数の記載により形成された社会的認識は、指定商品「味噌」に関する全国の消費者・需要者のみならず取引者における認識でもあるものといわなければならない。
B 原告は、上記の辞書・事典類の記載に関して、本件審決当時、既に絶版となっていたり、原告の指摘に応じて、発行元の編集部において、今後の改訂の際に、原告のみが製造販売している「西京味噌」の項を削除することを決定していたのであるから、誤りを認めたものである旨主張する。
この点に関して、原告は、平成11年12月28日付けの講談社に対する通知書により、「貴社は、その発行の「日本語大辞典第2版」において、「さいきょうみそ【西京味噌】」の項目を設け、「米のこうじを原料にして作る白みそ。塩が薄く、熟成期間が短く、甘みがある。京阪地方で作られる。」と記載しています。しかし、京阪地方において白みそを「西京味噌」と総称する事実はありません。同記載は、当社固有の商品である「西京白みそ」を京阪地方産の白味噌の総称とする点で、明白な誤りであります。よって、同項目をすみやかに削除することを求めます。」と申し入れ、同様の申入れを「西京みそ」を掲載している上記出版物の発行者に行ったところ、これに対して、講談社や小学館、岩波書店、三省堂、平凡社は、今後の改訂や印刷の際に、当該項目を削除ないし訂正したり、その掲載の継続を検討する旨を回答しているものと認められる(甲103ないし106、962、
963、1059、1258)。
しかし、これらの回答は、いずれも平成12年以降のことであり、原告からの申入れも含めて全て本件商標の登録日(平成8年10月31日)後の事情と認められるから、これらの事情によって、本件商標の出願時及び商標登録時における「西京味噌」、「西京漬け」、「西京焼き」に関する上記の認識が左右されるものではない。しかも、原告からの強硬な申入れによって、上記の出版社が今後当該項目を削除する等しても、これらの削除等がなされるまでの間は、上記の出版物に接する広範な一般の読者は、「西京味噌」、「西京漬け」、「西京焼き」について上記の解説のとおり理解するものと認められる。また、既に絶版となった出版物についても、同様に、これらが書店や図書館等において入手ないし閲読することが困難となるまでは、一般の読者に対して上記の理解を及ぼすものと認められる。
なお、原告は、上記出版物の発行元の編集部において、「西京味噌」が一般的名称でなく原告の製造販売する味噌の名称であることを認めた旨を強調する。
しかしながら、講談社等の上記対応が、原告主張の事実を真実と認めたことによるものか、原告主張の事実の真偽は別として、原告との間の紛争を予め回避した方が得策であるとの考えの下に講じた措置であるのかを確定し得る証拠はない。また、「西京味噌」(及び「西京」)のみの表示が原告の商標といえないことは、後記説示のとおりであるが、仮に、原告が「西京味噌」を商標として使用して白味噌を販売してきたような沿革的な事実があるとしても、他の多くの同業者が「西京味噌」を原告と関連なく使用したことや、原告自身が仙台味噌、信州味噌、八丁味噌、名古屋味噌などの一般的な味噌の名称(当時)などと同様に「西京白味噌」を使用したこと(甲20)などにより、「西京味噌」が普通名称となったものと推認される(原告自身が発行した書籍(甲1081)においても、「西京白味噌」ないし「西京味噌」が、昭和19年以降、原告と関わりのない一般的名称として使用される場合があることを記述している。同号証51頁以降)。そして、一般の多数の辞書事典類において、前記認定のように、「西京味噌」が京都地方で製造される甘味の強い白味噌を指し、「西京味噌」に魚の切り身などを漬けたものが「西京漬け」であるという記載がなされ、その結果、原告主張の事実とは異なる認識が社会一般に形成されて、当該指定商品の需要者・取引者がそのような認識を有している以上、「西京味噌」を原告が商標として使用していたという沿革的な事実の真偽とは関わりなく、需要者・取引者の現実の認識を前提として「西京味噌」の語の意味を理解し、これに基づいて商標の類否判断等を行うべきものといわなければならない。
したがって、原告の前記主張を採用することはできない。
C また、原告は、京都産の白味噌の商品の普通名称が、「京(京都)の白味噌」、「山城白味噌」、「関西味噌」であり、「西京(白)味噌」ではないと主張し、京都産の白味噌に関して「西京味噌」が表示されていない証拠を多数提出するが、「西京味噌」が主に京都地方でつくられる白味噌を指すことは、前記認定のとおりであり、京都産の白味噌の説明に際し、常に「西京(白)味噌」の名称が表示されなければならないものではないから、原告の主張を採用する余地はない。
さらに、一部の消費者が、「西京」の語を一般名称であると認識したとしても、
それのみによって普通名称ということはできないとする原告の主張も、上記説示に照らして、採用することができない。
イ 「西京標章」と原告との関連 @ 証拠(甲4、6、7、12ないし20、35、41ないし43、45ないし48、117、122、137ないし144、148、150、965、
1066、1074ないし1076、1081、1089、1091、1119、
乙164ないし169、268、289)及び弁論の全趣旨によれば、以下の事実が認められる。
原告の前身における味噌造りは、もと丹波杜氏の初代Aが、天保元年(1830年)に京都において宮中の料理用に味噌を献上し、禁裏御用味噌商として創業したのを起源とし、その後も、江戸時代は、御所や公家を主たる顧客として白味噌を納品していた。明治維新による東京遷都後、従前の顧客であった旧公家らの多くは、
東京に移住したが、関東地方で白味噌が生産されていなかったことから、従前同様、京都の味噌商人に対して白味噌を注文していた。その際、明治初期には、東京に対し京都が「西京」と呼ばれていたことから、「西京の味噌」、「西京白味噌」との名称で、白味噌の商品の注文ないし販売が行われ、遅くとも明治10年ころ以降、原告の前身も、同業者と同様に自己の製造する白味噌を「西京白味噌」と称して販売するようになった。
その後、原告の前身は、明治16年、分家が「本田商店」として独立し、本家である「B」(室町1条)の「本田味噌本店」と、分家である「C」(3条堀川)の「本田商店」とが、それぞれ白味噌を中心に製造販売を行い、京都地方だけでなく、東京を含む全国へ販路を拡大した。大正12年当時の、原告の前身の「商標」は、前記丹波屋に由来する円輪郭内に「丹」のマルタン標章であった。その後、第2次世界大戦中の原料不足により、「本田味噌本店」らは、味噌の製造中止を余儀なくされた。
戦後の昭和25年、「本田味噌本店」と「本田商店」は、それぞれ「株式会社本田味噌本店」、「株式会社本田商店」として組織変更し、再び東京方面にも活発に進出した。その後、本件商標の登録出願までの間、味噌業界における原告の「商標」は、「マルタン」であり、このマルタン標章を付して上記「西京白味噌」を販売していた。さらに、原告は、昭和59年、原告商品の販売を担当する子会社として「株式会社西京味噌」を設立し、3社が提携して宣伝・販売活動を行ってきたが、
平成4年に株式会社本田商店が自己破産し、同社に係る営業は、原告及び株式会社西京味噌が事実上承継した。この間、原告は、引用商標を商標登録し、原告製造の白味噌の販売に使用した結果、本件商標の出願時において、京都地方においては、
「西京」及び「西京白味噌」の名称を自己の商品に付して製造販売する味噌業者はなく、また、引用商標は、原告の所在する京都地方のみならず、味噌の業界において原告の商標として周知著名なものとなっていた。
なお、原告は、上記商標のほかに、昭和61年2月26日に指定商品「味噌」について、@「西京」(商願昭61-19221号の出願)、A「西京」(商願昭61-19220号の出願)、B「西京白味噌」(商願昭61-19218号の出願)、C「西京白みそ」(商願昭61-19219号の出願)の4件の商標出願を行ったが、昭和62年10月9日付けで拒絶理由通知を受け、平成9年6月11日、全て拒絶査定を受けた。このうち、「西京白味噌」についての拒絶理由は、
「この商標登録出願に係る商標は、京都を中心に関西地方で造られている米麹を原料とした白味噌の一種である『西京味噌』を直感させる『西京』と『白味噌』の文字を結合して『西京白味噌』と表してなるものであるから、これを本願指定商品中『西京味噌』に使用するときは、単に商品の品質を表示したにすぎないものと認める」というものである。
A 原告は、京都の味噌業者の中で「西京」の文字を自己の商品に用いる業者はなく、「西京」が地名として定着しなかった後も、本願商標の登録出願前、原告だけが商標として「西京白味噌」、「西京白みそ」及び「西京」の文字を、原告の屋号であるマルタン標章と組み合わせて、あるいはマルタン標章を付さずに単独で使用し続けていた旨主張する。
確かに、前記認定のとおり、現在の京都の味噌業者の中で「西京」の文字を商品に用いる業者が原告のみであること、原告が、明治10年ころ以降、白味噌を「西京味噌」ないし「西京白味噌」として販売し、その際、原告の屋号であるマルタン標章を付していたことは認められるが、原告内部の商品の区分として「西京白みそ」などの表記を行うのとは異なり、原告が、白味噌の販売に当たって、外部に対する商標として、マルタン標章を付さない「西京白味噌」、「西京白みそ」及び「西京」を使用していたことを認めるに足りる的確な証拠はない。かえって、大正12年当時の、原告の前身の「商標」がマルタン標章であったことは、前記認定のとおりである。しかも、明治以降、本件商標の登録出願までの間、原告により、
「西京白味噌」、「西京白みそ」又は「西京」の文字のみによる商標登録出願が行われたことを認めるに足る証拠はなく、昭和61年に至って、「西京」及び「西京白味噌」等の出願が行われ、これらが特許庁により拒絶されたものである。
これに対し、昭和22年2月26日商標登録出願、昭和24年5月21日設定登録の引用1商標が、原告の屋号であるマルタン標章を中央に大きく表示し、「西京白味噌」がその下にやや小さく付記的に記載されていることからみても、その当時、マルタン標章が原告の表示機能として重要な役割を果たしてきたと解するのが相当であり、原告による戦後の操業再開までの間、「西京白味噌」又は「西京」等のみの表示が、原告の業務に係る商品を標章するものとして使用されていたとは、
到底推認することができない。また、昭和56年3月10日商標登録出願、昭和59年2月23日設定登録の引用2商標についても、「西京」の上部冒頭に原告の屋号であるマルタン標章が付されており、このことからみても、原告自身が、「西京」の部分のみを自他商品識別の機能を有する標章として扱っていなかったことは明らかである。実際に原告の作成した商品ラベル、パッケージ等においても、マルタン標章が付されたものが大部分であり(甲41ないし43、45ないし48、55ないし67、72ないし79、1063、1064、1077ないし1079、
1094、1097)、この標章を表示しないものはわずかである(甲68ないし71(一部))。さらに、後記認定のとおり、味噌業界の業者名簿といえる「味噌醤油年鑑」においても、昭和32年から本件商標の登録出願時である昭和58年までの間、原告の「商標」は、「マルタン」と記載されてきたものである。
したがって、本件商標の登録出願前、原告だけが商標として、「西京白味噌」、
「西京白みそ」及び「西京」の文字を、原告の屋号であるマルタン標章を付さずに単独で使用し続けていた旨の原告の主張は誤りであり、この主張を採用する余地はない。
B また、原告は、婦人雑誌、旅行案内書、業界の新聞記事、京都や食材についての研究家等の書物において、原告及び原告の商品の白味噌を、「西京」、「西京白味噌」、「西京白みそ」として記載し、これらが原告固有の商標ないし銘柄であると紹介していると主張する。
しかし、これらの記載等のうち、「西京」のみの表示が、原告又は原告の業務に係る商品を表示するものであると紹介ないし説明するものはない。また、本件商標の登録出願前において、「西京白味噌」が原告の固有の商標ないし銘柄であるかのように紹介している記事等は、ごくわずかであり(甲5、8、9、117、118、)、これらの少数の記事等により、前記認定が左右されるものではなく、原告の主張は採用できない。
さらに、原告は、わが国唯一の専門年鑑として、昭和28年より毎年、発刊を続けている「味噌醤油年鑑」や、昭和38年12月25日現在で全国主要食品関係業者約1万1千社を収録した「食品工業総合名鑑」には、原告の取扱い銘柄などとして、「西京白味噌」「西京赤だし」「西京ブランド各種味噌」と掲載されており、
他社の銘柄には「西京」の文字を使用しているものは見出せないと主張する。
しかし、上記「味噌醤油年鑑」(甲148)においては、昭和32年より本件商標の登録出願時である昭和58年までの間、味噌業者である原告の「商標」が一貫して「マルタン」として明示されており、「西京」又は「西京白味噌」が原告の商標ではなかったことが明らかである(甲148の1ないし17、乙268)。また、「食品工業総合名鑑」(甲110)においても、原告の取扱い銘柄として「(みそ)西京白味噌」、商品名索引に「西京白味噌」と掲載されているにすぎず、これのみをもって「西京白味噌」が原告の商標として使用されていることを推認させるものとはいえないから、いずれにしても原告の上記主張は採用できない。
原告は、全国味噌工業協同組合連合会等主催の「全国味噌鑑評会」に例年出品して多数回入賞している原告の商品が、「西京白味噌」と表示され、原告固有の銘柄として審査されているから、「西京白味噌」を原告固有の商標として認められたことを示すものであると主張するが、これらの入賞等の事実は、いずれも本件商標の登録出願後の事情にすぎない(甲1006ないし1016、1092)から、本件商標の登録出願前に「西京白味噌」が原告固有の商標であると認める根拠とはならず、この主張も採用できない。
なお、原告は、関西地方を中心にした取引者・需要者等が作成したとする「証明書」を多数提出する(甲151ないし960)が、これらは原告作成の定型文面に各自が署名あるいは記名(押印)したものである上、その内容も、原告が古くからの味噌販売業者であり、現在、全国的に有数のシェアを占めているとの点はともかくとして、原告の前身である初代茂助が「西京」の商標を使用していた(明治10年ころと思われる。)ことや、昭和25年7月の原告会社設立時には「西京」の商標が全国的に有名になったことなども記載されているところ、上記取引者等の中で昭和25年以前から原告との間で取引をしていた者は極めて少数である上、これらの者でさえ到底知り得ないと思われる上記商標に関する事実を証明することについては、信用性を欠くものといわざるを得ない。
2 取消事由2(本件商標と引用商標の対比判断の誤り)について (1) 本件商標について 本件商標は、「ナカモ」の片仮名文字と「西京」の漢字とからなり、全体が5文字であって比較的短い構成であるから、その全体の構成に即して、「ナカモサイキョウ」の称呼が生じるほか、「ナカモ」の文字部分が、語頭に位置して識別力を有する造語である(被告の前身である「中茂味噌合資会社」に由来すると思われる。
乙40)から、簡易迅速な呼び方が重視される商取引の場においては、「ナカモ」の称呼も生じるものと認められる。
原告は、本件商標中の西京標章が原告を表示する周知著名商標であることを前提として、本件商標から「サイキョウ」の称呼が生じると主張するが、西京標章が原告を表示する周知著名商標と認められないことは、前記認定のとおりであるから、
原告の主張は、その前提において誤りがあり、しかも、西京は、東京に対して京都を指すことが多い一般的名称であって、自他商品の識別機能は微弱であると認められるから、この部分のみを称呼する理由がなく、いずれにしても原告の主張は採用できない。
(2) 引用1商標について 引用1商標は、円輪郭内に「丹」の漢字を書してなる図形部分(マルタン標章)と、その下に右から左へ漢字の「味噌白京西」を横書きにした文字部分との組合せよりなるものであるから、この両部分を一体的に把握して、「マルタンサイキョウシロミソ」の称呼が生じるほか、マルタン標章が、中央に大きく表示されており、
識別力を有する暖簾的表示の造語と解されることから、「マルタン」の称呼も生じるものと認められる。
原告は、引用1商標中の西京標章が原告を表示する周知著名商標であることを前提として、引用1商標から「サイキョウ」の称呼が生じると主張するが、西京標章が原告を表示する周知著名商標と認められないことは、前記(1)と同様である。
しかも、西京標章は、「味噌白京西」の一連の文字部分の一部にすぎず、一般的名称として自他商品の識別機能が微弱であることも前記同様であるから、引用1商標から「サイキョウ」の称呼が生じるものではなく、原告の主張は採用できない。
(3) 引用2商標について 引用2商標は、外側が太線、内側が細線からなる縦長の2重枠の長方形内の上部の円輪郭内に「丹」の漢字を書してなる図形部分(マルタン標章)と、下部に「西京」の文字を縦書きし、「さいきょう」の文字を小さく「西」と「京」の各文字の間に横書きしたものであるが、これらを一体的に把握して、「マルタンサイキョウ」の称呼が生じるほか、識別力を有する暖簾的表示と解されるマルタン標章から、「マルタン」の称呼も生じるものと認められる。
原告は、引用2商標中の西京標章が原告を表示する周知著名商標であることを前提として、引用2商標から「サイキョウ」の称呼が生じると主張するが、西京標章が、原告を表示する周知著名商標と認められないこと、一般的名称として自他商品の識別機能が微弱であることも、前記(1)同様であるから、引用2商標から「サイキョウ」の称呼が生じるものではなく、原告の主張は採用できない。
(4) 本件商標と引用商標との類似について 以上のとおり、本件商標からは、「ナカモサイキョウ」及び「ナカモ」の称呼が生じるのに対し、引用商標からは、「マルタンサイキョウシロミソ」、「マルタンサイキョウ」及び「マルタン」の称呼が生じ、両商標は、称呼において相違することが明らかである。引用商標と本件商標とが、「サイキョウ」の称呼を共通にするという原告の主張が誤りであることは、上記説示のとおりである。
また、原告は、本件商標の登録時において、引用商標が「サイキョウ」の称呼をもって具体的取引に資されており、本件商標も、実際に被告が商取引に使用しているのは、「ナカモ西京白みそ」、「西京あわせ」、「西京赤だし」、「カップ西京白みそ」、「うす塩西京みそ」、「西京白みそ」などであるから、「サイキョウ」の称呼を生ずると主張する。
しかし、被告において、「ナカモ西京白みそ」、「西京あわせ」、「西京赤だし」、「カップ西京白みそ」、「うす塩西京白みそ」、「西京白みそ」などを表示して白味噌などを販売している(甲114、116、970、1065)としても、前記認定のように、「西京」が東京に対して京都を指し、「西京味噌」が京都地方でつくられる大豆に対して米麹の多い甘味の強い白味噌のことを意味することを考慮すると、上記のような表示は、商品の品質あるいは産地を示したものと解するのが相当であり、このことにより、本件商標自体の称呼が左右されるものとはいえないから、原告の上記主張を採用する余地はない。
3 取消事由3(被告の不正目的に関する判断誤り)について 原告の表示として周知著名な引用商標と本件商標が類似しないことは、後記判断のとおりであるから、本件商標は、商標法4条1項19号に違反するものではない。
したがって、被告に同号の「不正の目的」があるとする取消事由3の主張は、その当否を判断するまでもない。
4 無効理由 (1) 商標法4条1項11号違反 本件商標からは、「ナカモサイキョウ」及び「ナカモ」の称呼が生じるのに対し、引用商標からは、「マルタンサイキョウシロミソ」、「マルタンサイキョウ」及び「マルタン」の称呼が生じ、両商標が称呼において相違することは、前示のとおりである。
原告は、被告商品の具体的取引態様も考慮すると、本件商標に接した取引者、需要者が、「ナカモ」という部分を捨象して、「西京白みそ」又は「西京」という部分によって商品を識別することが多いものと把握されるから、外観において類似するもので、観念及び称呼をも同じくすると主張する。しかし、「西京白味噌」又は「西京」部分が、普通名称として認識され、自他商品の識別力が高くないことは、
前示のとおりであるから、原告の主張は、その前提を欠き、理由がない。
その他原告は、本件商標と引用商標とが、外観及び観念において類似のものとする理由が見い出し得ない旨の本件審決の判断(甲1第9頁34行)について、取消事由を主張せず、具体的に両商標を対比してみても、外観及び観念が類似するものとは認められない。
したがって、本件商標と引用商標とは非類似の商標であり、本件商標は、商標法4条1項11号に違反するものではない。
(2) 商標法4条1項15号違反 本件商標の出願時及び登録時において、原告の業務に係る商品を表示するものとして周知著名な引用商標と、本件商標が類似しないことは、上記判断のとおりである。また、「西京標章」のみ、あるいは、「西京味噌」のみでは、原告の商品を表示する周知な標章といえないことは、前記認定のとおりである。
そうすると、本件商標を指定商品に使用した場合であっても、これに接する取引者・需要者は、引用商標を想起するものではなく、また、その構成中の「西京」の文字部分が存するとしても、原告と経済的又は組織的に関連のある者の業務に係る商品であると誤認するものではないと認められるから、商品の出所について混同を生ずるおそれはないものといわなければならない。
したがって、本件商標は、商標法4条1項15号に違反するものではない。
(3) 商標法4条1項19号違反 原告の業務に係る商品を表示するものである引用商標と本件商標とが類似しないことは、前記判断のとおりである。
したがって、被告における「不正の目的」の有無を判断するまでもなく、本件商標は、商標法4条1項19号に違反するものではない。
4 結論 以上の次第で、原告主張の本件審決の取消事由はすべて理由がなく、その他本件審決にはこれを取り消すべき瑕疵は見当たらない。
よって、原告の請求は理由がないから、これを棄却することとし、主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 北山元章
裁判官 清水節
裁判官 沖中康人