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関連審決 無効2001-35315
関連ワード 識別力 /  識別機能 /  指定商品 /  普通名称(3条1項1号) /  記述的商標(3条1項3号) /  普通に用いられる方法 /  品質誤認(4条1項16号) /  顧客吸引力(グッドウィル) /  ただ乗り(フリーライド) /  類似性(類否判断) /  使用許諾 /  無効審判 /  継続 /  商号 /  同業者 / 
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事件 平成 14年 (行ケ) 501号 審決取消請求事件
原告 モリンダインコーポレーテッド
訴訟代理人弁護士 小泉淑子,鳥海哲郎,菅尋史,鈴木学,復代理人弁護士 藤原道子
訴訟代理人弁理士 小林ゆか
被告 エンライブン・ジャパン株式会社(旧商号 ロイヤル・ファームズ・ジャパン株式会社)
訴訟代理人弁理士 伊東忠彦,大貫進介,関口博
裁判所 東京高等裁判所
判決言渡日 2003/09/30
権利種別 商標権
訴訟類型 行政訴訟
主文 原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
この判決に対する上告及び上告受理申立てのための付加期間を30日と定める。
事実及び理由
原告の求めた裁判
「特許庁が無効2001-35315号事件について平成14年5月27日にした審決を取り消す。」との判決。
事案の概要
本件は,後記本件登録商標の商標権者である原告が,被告請求に係る無効審判において,本件商標登録を無効とするとの審決がされたため,同審決の取消しを求めた事案である。
1 前提となる事実等 (1) 特許庁における手続の経緯 (1-1) 本件登録商標 商標権者:原告 本件商標:「NONI」の欧文字を書してなるもの。
指定商品:第5類「食餌療法用飲料,食餌療法用食品」 登録出願日:平成8年10月15日(商願平8-116471) 登録査定日:平成10年8月3日 設定登録日:平成10年9月25日 登録番号:第4191320号 (1-2) 本件手続 無効審判請求日:平成13年7月13日(無効2001-35315号) 審決日:平成14年5月27日 審決の結論:「登録第4191320号の登録を無効とする。」(出訴期間90日を附加) 審決謄本送達日:平成14年6月5日(原告に対し) (2) 審決の理由の要旨 別紙「審決の理由の要旨」(審決の「理由」欄「第4 当審の判断」の部分の抜粋)に記載のとおりである。要するに,本件商標は,これをその指定商品中「NONI(ノニ)を原材料とした食餌療法用飲料・食餌療法用食品」について使用しても,単に商品の原材料を表したと認識されるにとどまり,それ以外の指定商品について使用するときには,商品の品質について誤認を生じさせるおそれがあるものというべきであるから,商標法3条1項3号及び4条1項16号に違反して登録されたものであって,登録を無効とすべきである,というものである。
2 原告の主張(審決取消事由)の要点 本件商標は,原材料の表示ではなく,かつ,これを指定商品中「NONI(ノニ)を原材料とした食餌療法用飲料・食餌療法用食品」以外の指定商品について使用しても品質の誤認を生じるおそれがないのに,審決は,本件商標が商標法3条1項3号及び4条1項16号に該当するとの誤った認定判断をしたものであるから,違法として取り消されるべきである。
(1) 審決の「当審の判断」の3項における認定の誤り 審決は,「当審の判断」の2項で認定した事実に基づき,3項において,「本件商標は,これをその指定商品中『NONI(ノニ)を原材料とした食餌療法用飲料・食餌療法用食品』について使用した場合は,単に商品の原材料を表したと認識されるにとどまり,それ以外の指定商品について使用するときには,商品の品質について誤認を生じさせるおそれがあるものというべきである。」とした。
しかし,2項の部分は,不適切,不正確な証拠からの引用等の杜撰な事実認定からなっており,事実認定及びその手法が違法であるから,本件商標の登録査定時(平成10年8月3日)において,日本の輸入販売業者等が,「NONI(ノニ)」の語及び「NONI(ノニ)」の身体の健康にもたらす好影響について,ある程度知り得ていたという事実を認定することはできない。しかも,「モリンダ・シトリフォリア」がはじめて日本に紹介されたのが平成11年2月であるという事実を捨象しているといわざるを得ない。このように,2項の認定が誤りである以上,それを前提とする3項の結論を導くこともできない。
審決の上記2項における誤りを具体的に指摘すると次のとおりである。
(a) 審決は,「当審の判断」の2項において,@「『NONI(ノニ)』は,ポリネシア諸島で産する学術名を『モリンダ シトリフォリア』とする常緑性低木の通称であり,その…抽出液は,抗菌性…などの特性を有し,薬用植物として,…また,…健康な体を維持するものとして,ポリネシアの人々は,古くからノニの実などから抽出した液を治療等に使用してきたこと」,A「ノニの木の各部から抽出される液の薬効作用については,様々な国で1990年代の初めころより研究され続けてきたこと」,B「ノニを原材料とした商品は,1996年ころにはアメリカ市場に出回っていたこと,また,タヒチで産出されるノニを原材料とした製品に先駆け,ハワイで産出されるノニを原材料とした製品が市場に出回っていたこと」,さらには,C「1998年(平成10年)には,わが国においてノニに関する書籍が出版されていること」,という間接事実を認定した。そして,これに加えて,「いわゆる健康食品といわれる商品への関心が極めて強い今日のわが国の風潮」や,「インターネット等情報通信分野の発展に伴って情報の伝達が高速化されたわが国における今日の社会的状況下」という事情を付加することにより,「本件商標の登録査定時(平成10年8月3日)には,わが国の食物研究者,食品を専門に取り扱う業者,輸入販売業者等,あるいは一部の消費者の間においては,『NONI(ノニ)』の語及び該『NONI(ノニ)』の身体の健康にもたらす好影響について,ある程度知り得ていたとみるのが相当である。」としたものである。
(b) しかし,そもそも,食物研究者が本件商標が付された商品の取引者,需要者に該当するとは考えられない。また,上記の日本の業者等,あるいは一部の消費者が「NONI(ノニ)」の語及び該「NONI(ノニ)」の身体の健康にもたらす好影響についてある程度知り得ていたと認定するためには,これらの者が学術名「モリンダ・シトリフォリア」という植物を「NONI(ノニ)」という名称で認識し,その「NONI(ノニ)」という植物の効用を認識していた事実の認定が必要である。
しかしながら,上記@ないしCの間接事実のみから上記のような認識を推認することはできない。審決は,これらの間接事実に加え,上記のような「我が国の風潮」や「我が国の社会的状況」という具体的根拠の示されていない恣意的な事情を介在させて上記認識を認定したものであり,事実認定の手法自体に違法がある。
(c) 上記@ないしCの事実認定に関しても,認定の誤り,不適切な認定等がある。
すなわち,上記@の認定は,あたかも,「モリンダ・シトリフォリア」に関して,ポリネシア諸島において「NONI(ノニ)」が唯一の通称であるかのような認定となっている。しかし,審判における証拠には別称が記載され,審決もその点を認定しているのであって(「当審の判断」の1項),「NONI(ノニ)」がポリネシア諸島においても「モリンダ・シトリフォリア」の確立した唯一の通称とはいえない。
上記Aの研究についての審決の認定の根拠は,「当審の判断」1項(2)に記載されている。そこでは,甲2(審判甲16)及び甲3(審判甲17)により認定されている。しかし,上記両書証は,いずれも「モリンダ・シトリフォリア」を「ノニ」と表現することを前提として,他の学術文献等からの引用をすべて「ノニ」という文言に改変して表記している。引用された学術論文は,表記が学術名を用いることが当然であると推測されるから,上記両書証が「ノニ」という名称に改変して引用していることは不適切,不正確である。正確には,上記両書証に引用された学術論文等から明らかにされているのは,「NONI(ノニ)」と称される植物(果実)ではなく,「モリンダ・シトリフォリア」という植物から抽出される液の薬効である。したがって,Aのように,「ノニ」の木の各部から抽出される液の薬効作用については,様々な国で1990年代の初めころより研究され続けてきたといえるものではない。さらに,甲2は,日本で日本語版がいつ,何部出版されたか不明であり,ごく少数の頒布にすぎないとも推測される。甲3も同様に不明であり,しかも,引用文献の記載すらなく杜撰である。これらに基づくAの認定は杜撰である。
Bの事実は,審決が根拠としたとみられる審判の証拠からは,認定することができない。
Cの事実は,甲4(審判甲21)を根拠とする認定とみられるが,甲4からは,英語版の原著作物が1998年(平成10年)に著作権を取得したことがわかるが,日本において同年に日本語に翻訳された同書籍が出版された事実を認めることはできない。しかも,不特定多数の需要者等が入手し得る形で出版された事実があったことすら疑問である。
(2) 審決の「当審の判断」の4項の誤り 審決は,「当審の判断」4項において,2項における認定事実を根拠として,原告(被請求人)の主張を排斥している。しかし,前記のとおり,2項における事実認定が違法である以上,4項における排斥も違法である。
(3) 本件商標は,商標法3条1項3号に該当しない。
(3-1) 本件商標には,自他商品識別力がある。
(3-1-1) 本件商標である「NONI」並びに「ノニ」及び「TAHITIAN NONI」の商標を指定商品についてはじめて使用したのは,原告である。原告は,1996年にモリンダ・シトリフォリアという果物のタヒチ産のものを原料として果実飲料「TAHITIAN NONI」を製造,販売する米国の会社として設立された。本件商標登録査定時である設立3年目の平成10年(1998年)には年間売上げ125.79百万米ドルと急成長を遂げた。世界中に原告の拠点が設置され,日本支社も本件登録査定後である平成11年(1999年)に設立された。本件商標の登録査定時においては,モリンダ・シトリフォリアを原料として含む果実飲料のほか,これを原料として含む商品は,日本の市場には全く存在せず,知られていなかったため,普通名称化することはあり得ず,また,モリンダ・シトリフォリアとの関連で,本件商標「NONI」や「ノニ」の自他商品識別力が問題となることはあり得ない。後記のとおり,本件商標「NONI」又は「ノニ」が広く知られることとなったのは,本件商標登録査定時以降における原告及び原告の日本支社による多大な宣伝広告活動及び販売活動によるものであるから,本件商標「NONI」や「ノニ」は,普通名称としてではなく,原告の商品を示すものとして需要者及び取引者の間に広く知られることとなったといえる。
原告は,モリンダ・シトリフォリアを原料として含む果実飲料「TAHITIAN NONI」を主力商品と固定し,販売促進に全力を傾けている。原告商品の独自性及び有用性を一般消費者に理解させ,かつ,浸透させるため,本件商標の登録査定後である平成11年以降,原告及び原告日本支社は,本件商標「NONI」,「ノニ」,「TAHITIAN NONI」の商標を付した原告の商品の大々的な宣伝広告活動を行っている。その費用は,平成11年が約2億3400万円,平成12年が約2億3000万円,平成13年が約3億3800万円である。
原告の宣伝広告は,新幹線,私鉄,地下鉄,JR等の路線の主要駅で,本件商標「NONI」,「ノニ」,「TAHITIAN NONI」の商標を付した原告商品を紹介する看板,ポスターを展示した。また,「週刊新潮」,「an・an」等多数の雑誌においても,継続的に宣伝広告を行った。
以上の宣伝広告では,原告商品の原料がモリンダ・シトリフォリアという果物であることを説明し,商品に関する説明的な語句を伴って上記各商標を使用する場合には,「TM」又は「」の表示を併記して,これらが普通名称ではなく原告の登録商標であることを明示し,宣伝主体すなわち原告商品の製造販売の主体として原告の名称を明記しているので,本件商標「NONI」が原告の業務に係る商品を表示するものであることは,一般需要者に容易に理解できるものであった。
したがって,本件商標「NONI」,「ノニ」,「TAHITIAN NONI」の商標が,一般需要者によって,原告商品の原材料であると認識される可能性,原材料の普通名称であると認識される可能性,又は他の多くの同業者が提供する同種製品をも表示するものであると認識される可能性は,いずれも全く存在しないのであって,原告商品の宣伝広告によって,各商標とも,自他商品識別機能を一層強めた。
以上の宣伝広告を行ったこと,原告の商品が従来市場に存在しなかった斬新なものであり,潜在的需要を掘り起こすに足る非常に高い品質をもっていたことなどから,市場において非常に高い評価が与えられ,上記各商標を付した商品の売上高は,平成11年度が約88億円,平成12年度が約156億円,平成13年度が約164億円と,急激に増加した。なお,売上高の約85%は,タヒチ産のモリンダ・シトリフォリアを原料として含む飲料である。ちなみに,世界におけるモリンダ・シトリフォリアを原料として含む果実飲料の原告のマーケットシェアは95%以上であり,モリンダ・シトリフォリア商品の製造会社は,原告以外に多数存在するものの,少なからぬ業者は,単に本件商標のイメージにフリーライドしようとする零細業者にすぎない。
審決では,上記の原告及び原告日本支社が多額の宣伝広告費を費やし,新商品の普及に努力したという事情が全く考慮されておらず,結果的に誤った判断がされた。
本件商標「NONI」,「ノニ」,「TAHITIAN NONI」の商標が原告の「食餌療法用飲料,食餌療法用食品」を示す周知な商標となった結果,「NONI(ノニ)」という言葉により取引者,需要者が想起する概念は,モリンダ・シトリフォリアと称される植物ではなく,まさに原告商品そのものとなっている。取引者,需要者にとっての「NONI(ノニ)」と「モリンダ・シトリフォリアという植物」との概念の結びつきは,原告商品がモリンダ・シトリフォリアを原料とする飲料等のほぼ唯一の商品であるという事実に起因する間接的なものにすぎない。
(3-1-2) 日本において,モリンダ・シトリフォリアが「ヤエヤマアオキ(八重山青木)」や「モリンダ・シトリフォリア」と呼ばれていたことは自明であり,本件商標の出願時(平成8年10月15日)から登録査定を経て,原告日本支社の設立,日本における商品の販売開始(平成11年),さらには,平成13年時点においても,日本において,「モリンダ・シトリフォリア」が通称として「ノニ」と呼ばれてはいなかった。
モリンダ・シトリフォリアは,インド,マレーなど熱帯アジアや,オーストラリア,太平洋諸島に広く分布するアカネ科の植物であり,日本においても沖縄地方に生育する。日本においては,古来は,染料作物にすぎなかったが,原告がその薬効成分に注目し,米国においてジュースに加工して販売したことにより,健康に有用な植物であるという認識が持たれるようになったものである。
モリンダ・シトリフォリアを原材料とした商品がアメリカ市場で出回っていたとしても,「NONI」はハワイ等極めて狭い地域で使用されている単語にすぎず,英語圏においてすら「NONI」は,モリンダ・シトリフォリアと称する植物を表す普通名称ではない。
モリンダ・シトリフォリアが自生する熱帯アジア,オーストラリア,太平洋諸島の地域においては,その果実は,古くから民間薬として使用されてきた。モリンダ・シトリフォリアは,世界各地の国や地域において様々な呼び名が存在する。世界各地で約90もの呼び名がある中でモリンダ・シトリフォリアを「NONI(ノニ)」の呼び名で使用するのは,わずかにポリネシア,ハワイ及びプエルトリコ地域だけである。しかも,ポリネシアでは「オウル・トゥリー」という別名称,ハワイでは「インディアン・マルベリー」という別名称,プエルトリコでは「モリンダ」という別名称も存在するので,これらの3地域ですら,「NONI(ノニ)」は確立した名称ではない。日本では,古来からの「ヤエヤマアオキ(八重山青木)」の呼び名が存在する。したがって,約90もの呼び名の中から「NONI(ノニ)」のみが選び出されて,日本におけるモリンダ・シトリフォリアを示す普通名称となる理由は全く存在しない。
審決は,上記のような「NONI(ノニ)」が日本においてモリンダ・シトリフォリアの呼び名と認識されることとなる理由と根拠となる証拠を全く明らかにせず,また,前記原告の宣伝広告活動について全く考慮せず,本件商標が単に商品の原材料を表したと認識されるにとどまると,一方的に決めつけたものである。
「NONI」,「TAHITIAN NONI」などの商標は,「NONI」が自他商品の識別機能を果たすものとして世界各国で登録されている。
原告は,原告の商標を無断で使用する者を発見した場合には,その事態を一掃する努力をしており,その結果,原告の商標について使用許諾を求める者も存在する。この事実も,審決時においては,「NONI(ノニ)」が自他商品の識別標識としての機能を果たし得ないとの判断が誤りであることを示している。
以上のとおり,本件商標の出願時,登録査定時のみならず審決時においても,需要者及び取引者において,モリンダ・シトリフォリアが「NONI」又は「ノニ」と認識されていた事実がないことは明らかであり,本件商標「NONI」は,指定商品に使用された場合でも自他商品の識別機能を果たしている。
(3-2) 本件商標には,独占適応性がある。
商標法3条1項3号が一定の表示を登録阻却事由とした公益的理由は,同業他社が使用を欲するものを独占させないというところにあるが,使用を欲する理由は正当な利益に基づいている必要がある。また,同号における公益的理由は,商品や役務に関する情報を伝達するために必要な表示は広く一般に使用させるべきであるという政策的判断である。
既に述べたように,「NONI(ノニ)」は,モリンダ・シトリフォリアの呼び名が少なくとも約90も存在するうちのごく限られた地域で用いられているだけの呼称であり,また,日本では「ヤエヤマアオキ」との呼び名が古くから存在するのであり,原告が「NONI」の語を日本において独占しても公益的な損害はない。すなわち,たとえ本件商標を指定商品に使用することができなくなったとしても,日本では,モリンダ・シトリフォリアは一般に「ヤエヤマアオキ」と呼ばれるのであるから何ら困ることはなく,また,タヒチ島産のモリンダ・シトリフォリアを用いた場合には,その原材料をタヒチ島の現地語で説明するとしても,「NONO(ノノ)」,「MONA(モナ)」,「MONII(モニイ)」と呼んでおり,この語が一般名称を指すのである。モリンダ・シトリフォリアの語そのもの,又は「ヤエヤマアオキ」の語について,原告のみが独占排他的に使用できることになった場合には,混乱が生じ,公益上問題となるであろうが,本件商標を原告のみが独占排他的に使用できることになった場合には,混乱が生じることはない。したがって,原告が本件商標の指定商品について,本件商標を使用する独占排他権を獲得したとしても何ら公益上不都合な事態に至ることはない。むしろ,商標法の目的にかなう。
また,前記のとおり,「NONI」の語は,原告及び原告日本支社の多大な宣伝,販促活動によって一般消費者の間に認知されたものであり,たとえ現時点において使用する者がいたとしても,それは,原告が世界中で築き上げた商品イメージにただ乗りしようとするものにすぎない。このような者の使用までを公益上の理由によって保護することは,商標法の目的に反することとなる。
(4) 本件商標は,商標法4条1項16号に該当しない。
既に述べたとおり,本件商標は,指定商品の取引者,需要者に商品の原材料を認識させるものではないから,それ以外の指定商品について使用したとしても商品の品質について誤認を生じさせるおそれはない。
3 被告の主張の要点 審決の認定判断は正当であり,原告主張の違法はない。
(1) 熱帯性植物「NONI(ノニ)」は,学術名を「モリンダ・シトリフォリア」とし,アカネ科モリンダ属に属する常緑性低木であり,本件商標「NONI(ノニ)」は,この熱帯性植物の通称又は普通名称である。「NONI(ノニ)」がモリンダ・シトリフォリアの通称又は普通名称であることは,原告自身がホームページ上などで自認している。
「NONI」の語は,植物「NONI(ノニ)」を指すものとして,多数の国で使用されている。
「NONI(ノニ)」は,薬用植物として広く認識されている。そして,植物「NONI(ノニ)」の実,葉,根などに有する医学的な適用性と薬用性の効能を利用した各種の製品が開発され,実際に販売され,「NONI(ノニ)」の語が熱帯性植物NONIを原材料としたことを示すための一般名称として使用されている。
本件商標「NONI」は,指定商品の品質,原材料を表示したものである。
(2) 本件商標が商標法3条1項3号,4条1項16号に該当するというためには,取引者,需要者が「NONI(ノニ)」の語から学術名の「モリンダ・シトリフォリア」を認識することまでは必要なく,また,「NONI」がモリンダ・シトリフォリアの唯一の通称である必要はない。「NONI(ノニ)」の語が飲料,食品に使用され,これに接した取引者,需要者が商品の原材料を表していると認識すれば足りるのである。よって,原告の主張は誤りである。
(3) 本件商標の登録査定日以前に日本で出版された書籍において,モリンダ・シトリフォリア,ヤエヤマアオキとする植物を「Noni」,「ノニ」と呼ぶことが記載されており,登録査定当時,既に「NONI(ノニ)」の語は,植物ノニを表す名称として,日本においてよく知られていた。そして,登録査定日前後においてノニに関する書物が多数出版されており,登録査定日において,取引者,需要者の間で「NONI(ノニ)」が原材料表示であると認識されており,少なくとも認識されている可能性が高いので,本件商標登録を無効とした審決に誤りはない。
当裁判所の判断
1 本件証拠である〔A〕「Webster's Third New International Dictionary」(1972年版,乙3,審判甲12),〔B〕「樹木大図説」(上原敬二著,有明書房,昭和36年4月10日初版発行・昭和51年1月15日第6刷発行,乙33,審判乙4),〔C〕「ハワイの花」(柳宗民著,日本交通公社出版事業局,平成8年1月1日初版発行,乙34),〔D〕「熱帯植物要覧」(熱帯植物研究会編,養賢堂,昭和59年8月25日初版発行・平成8年7月31日第4版発行,乙35),〔E〕「園芸通信」(平成8年6月号,サカタのタネ通信販売部,乙37)中の「ハワイ花だより38」(武田和男著),〔F〕「ハワイの花300種ガイド」(武田和男著,朝日新聞社,平成10年12月25日第1刷発行,乙36),〔G〕「ノニ あなたの体をめぐる旅」(スティーブン・M・ホール著,ディレクトソース・ジャパン,平成11年4月20日初版第1刷・平成14年1月18日初版改訂第4刷発行,乙9,審判甲20),〔H〕「ノニジュース(モリンダ・シトリフォリア)」(ニール・ソロモン著,ディレクトソース・ジャパン,平成11年4月20日初版第1刷・平成14年11月1日初版改訂第12刷発行,乙13,審判甲24),〔I〕「奇跡の鎮痛即効フルーツ」(久郷晴彦著,コスモトゥーワン,平成11年8月7日第1刷・平成14年2月26日第14刷発行,乙8,審判甲19),〔J〕「ノニジュース53の使い方」(イザベル・ナヴァール・ブラウン著,Direct Source,Sound Concept Liaison Office ,平成11年9月25日初版第1刷発行,甲4,乙10,審判甲21),〔K〕「奇跡の特効果実『モリンダ・シトリフォリア』神様からのフルーツ 驚異の体験集」(久郷晴彦著,コスモトゥーワン,平成12年3月31日第1刷・平成13年7月16日第3刷発行,乙11,審判甲22),〔L〕「POLYNESIAN NONI ポリネシア産ノニ」(リタ・エルキンス著,Woodland Publishing,Inc.発行,92000,甲2,乙5-1,2,審判甲16),〔M〕「101の医療的用途をもつトロピカルフルーツ タヒチアンノニジュース(モリンダ・シトリフォリア)」(http=//kbic.ardour.co.jp/~g-mimaki/noni.htmlホームページから,ニール・ソロモン著,平成13年6月12日,甲3,乙6,審判甲17)及び〔N〕「驚異の自然薬ノニ」(ニール・ソロモン著,ディレクトソース・ジャパン,平成13年8月31日初版第9刷発行,乙12,審判甲23)によれば,次の事実が認められる(以下,上記各書証を上記〔A〕〔B〕などの符号を冠して示すほか,これらの符号のみによって示すことがある。)。
「NONI(ノニ)」は,アカネ科,モリンダ属に属する学術名を「モリンダ・シトリフォリア(Morinda citrifolia)」という常緑性低木の名称の一つであり,「NONI」とは,この植物のマルケサス諸島及びハワイでの呼び名である。この植物は,熱帯アジア,オーストラリア,太平洋諸島に野生がみられ,日本でも沖縄地方に自生し,「ヤエヤマアオキ」といわれる。高さ1.5〜3mの常緑無毛の低木で,若枝には4稜角があり,光沢のある濃淡の大きな葉は長さ15〜25pの長円,広卵形で,花は葉腋に白い頭花をつけ,花後,長さ5〜8pの白緑色で熟すと黄緑の肉質の集合核果を付ける。この植物は,古代ポリネシアの人々の薬草治療体系の中心的存在の一つで,少なくとも2000年間にわたってポリネシアの人々に自然薬として用いられてきたもので,インドネシアやインドの様々な文化圏にも広まり,広く用いられている。その果実などには,抗菌,抗がんの作用があり,糖尿病,心臓病,高血圧などにも効能があるといわれ,現代の治療の一部にも取り入れられている。
以上の認定事実に照らせば,少なくとも客観的には,本件商標である「NONI」は,その指定商品である「食餌療法用飲料,食餌療法用食品」の原材料となり得るものであることが認められる。そして,その取引者,需要者としては,食餌療法に関係する医療専門家及び患者のみならず,健康の維持増進のために購入する一般消費者も含むものと認められる。
2 ところで,商標法3条1項3号に掲げる商標が商標登録の要件を欠くとされているのは,このような商標は,取引に際し必要適切な表示として何人もその使用を欲するものであるから,特定人によるその独占使用を認めるのは公益上適当でないとともに,一般的に使用される標章であって,多くの場合自他商品識別力を欠くものであることによるものと解される(最高裁第三小法廷判決昭和54年4月10日・裁判集民事126号507頁,判例時報927号233頁参照。)。この趣旨に照らせば,登録査定時において,当該商標が,取引者,需要者に指定商品に係る原材料名であると広く認識されている場合はもとよりであるが,仮に,その商標が指定商品の原材料名として取引者,需要者に知られていない場合であっても,将来,取引者,需要者にその商品の原材料名であると認識される可能性があり,これを特定人に独占使用させることが公益上適当でないと判断されるときには,その商標は,同号に該当すると解するのが相当である(このように解すべきであることは,当裁判所が繰り返し判示しているところである。例えば,平成12年6月13日判決〔平成11年(行ケ)第410号事件,最高裁ホームページ〕,平成12年10月25日判決〔平成12年(行ケ)第164号事件,判例時報1743号126頁,最高裁ホームページ〕,平成15年4月21日判決〔平成14年(行ケ)第222号事件,最高裁ホームページ〕参照。)。
3 そこで,本件商標の登録査定日(平成10年8月3日)当時における取引者,需要者の認識状況等を検討する。
(1) 「NONI(ノニ)」という語について,本件書証に次のような記載がある。
〔A〕「Webster's Third New International Dictionary」には,「no・ni」の項目があり,ポリネシアやハワイで使用される語で,英語の「INDIAN MULBERRY」のことである旨の記載がある。
〔B〕「樹木大図説」では,あかね科,Morinda属の中に「やへやまあをき」の項目があり,「Morinda citrifolia」といい,「Indian Mulberry」,「Noni」などともいうと記載されている。
〔C〕「ハワイの花」では,モリンダの1種として,アカネ科,「Morinda citrifolia Variegata モリンダ・キトリフォリア・ウァリエガタ」,「Indian mulberry」,「Noni」(○で囲んだHのマークが付いている。)と呼ばれる植物が,「東南アジア,オーストラリア原産の常緑性小低木」として紹介されている。
〔D〕「熱帯植物要覧」では,「ヤエヤマアオキ」の項目に「Morinda citrifolia」,「Indian mulberry」,「Noni〔ハワイ〕」との記載があり,「葉,樹皮は薬用」と記載されている。
〔E〕「園芸通信」には,ハワイ名「noni」,日本名「ノニ」,学名「Morinda citrifolia」,原産地「熱帯アジア,オーストラリア,ポリネシア」,用途「医薬,染料」,利用部分「果実」との記載がある。
〔F〕「ハワイの花300種ガイド」においては,〔E〕「園芸通信」と同旨の記載があるほか,「ノニ」の項目があり,「アカネ科」,「Morinda citrifolia」,「英名=Indian Mulberry」,「和名=ヤエヤマアオキ」と記載された上,「ノニ,Noniはハワイ名。モルッカ島原産で,熱帯アジア,オーストラリア,太平洋諸島に野生がみられます。…高さ1.5〜3mの常緑無毛の低木です。若枝には4稜角があり,光沢のある濃淡の大きな葉は長さ15〜25pの長円,広卵形です。花は葉腋に白い頭花をつけ,花後,長さ5〜8pの白緑色で,熟すと黄緑の肉質の集合核果をつけます。」,「有名なのは薬用です。激しい頭痛時の湿布に,熟果の果肉を用います。葉と樹皮は煎じて強壮剤とします。未熟果はハワイアンソルト(天然塩)とともにすりつぶして深い切り傷に当て,骨折,とくに骨が露出するようなひどい骨折に用います。ときにはこの混合液をしぼり,沸かして使います。熟果のジュースは,糖尿病,心臓病,高血圧に用います。果汁を水で薄め,食前か就寝前に飲みます。また,化膿した傷から膿と芯を出し湿布します。タパ(ハワイアンの手織り)の環をつくり,腫れものの周囲に当て,その環の中に熟果の果肉を当て包帯で巻きます。」との記載がある(なお,この書籍の出版は,本件商標の登録査定日後であるが,書籍の「はじめに」において,(登録査定前である)1993年5月から1998年5月まで上記「園芸通信」に連載した「ハワイ花だより」61回分(129種)に新たに180種を加えてできたものであるとされている。)。
〔G〕「ノニ あなたの体をめぐる旅」では,「ノニ・ジュースは,ノニの木の実から作られたジュースである。ノニは様々な文化圏において様々な名で呼ばれているが,その学名はモリンダ・シトリフォリアである。ノニは南太平洋の人々とともに,長く豊かな歴史を歩んできた。古代ポリネシアの人々…彼らにとってノニは神聖であり,彼らの薬草治療体系の中心的存在の一つであった。ノニは少なくとも2000年間にわたってポリネシアの人々に用いられてきたことが分かっており,さらにインドネシアやインドの様々な文化圏にも広まり,広く用いられている。」と記載されている。
〔H〕「ノニジュース(モリンダ・シトリフォリア)」では,ノニの効能についての研究成果が記載されているが,そのうち,「がん」に関する記載の中に,「『キャンサーレター』によると,日本の慶応大学と生物医科学会は,ノニからダムナカンソールと呼ばれる新たな合成物の分離の成功を発表した。横浜で行われたこの分離は,…」,「1994年,アニー・ヒラズミ女子他3名は,『薬理学会ジャーナル』にて『ノニの肺がんハツカネズミにおける抗がん作用』について報告している。その1年前にヒラマツトモノリ氏と他の日本人研究者3名は『キャンサーレター』の中で,500種以上の植物からの抽出物を調べた結果,ノニに含まれる植物栄養素のダムナカンソールは前がん細胞の新しい反応抑制剤で…」と記載されている。
〔I〕「奇跡の鎮痛即効フルーツ」には,「ゴーギャンがこの地上の最高の楽園とたたえたタヒチ島は,フレンチ・ポリネシア最大の島ですが,今,この島は驚異的な治療効果で学会からも注目される奇跡の自然薬「モリンダ・シトリフォリア(Morinda Citrifolia)」の生育地として脚光を浴びはじめています。モリンダ・シトリフォリアというのは植物学上の名前ですが,現地では昔から「ノニ」(ポリネシア語)と呼ばれて親しまれてきました。このモリンダ・シトリフォリアという薬草が,さまざまな病気に対して驚くほど幅広く,しかも非常に高い治療効果を示すことが数多くの大学や病院で確認され,権威ある医学者たちによって紹介されるようになったのです。モリンダ・シトリフォリアという植物はアカネ科に分類されますが,タヒチ島をはじめとするポリネシアの島々だけでなく,広く中国やインド,ハワイや沖縄にいたる地域にも自生していて,その果実や樹皮や根は,二千年以上も前から現地の人々に自然薬として使用されてきたと言われています。」,「モリンダ・シトリフォリアはポリネシア語では「ノニ」と呼ばれますが,…タヒチ産のモリンダ・シトリフォリアは初期処理として,その果実をピューレ状にして出荷されますが,現在ではタヒチの最大産業になっています。」との記載がある。
〔J〕「ノニジュース53の使い方」の中で,スティーブン・M・ホールは,「まえがき」(平成10年1月5日付け)において,「この十年間,わたしは在来医療,栄養療法,代替医療の三つの分野で仕事してきましたが,ノニジュースほど興味深く,広く効能を発揮する天然物質は見たことがありません。…わたしは1996年10月以来,ノニジュースを治療に使っていますが,数百人の人たちに劇的な効果を及ぼすのをこの目で見てきました。」と記載している。
〔K〕「奇跡の特効果実『モリンダ・シトリフォリア』神様からのフルーツ 驚異の体験集」では,「モリンダ・シトリフォリア」,「ノニ」につき,上記〔I〕と同旨の紹介がされている。
〔L〕「POLYNESIAN NONI ポリネシア産ノニ」においては,「ノニの実(モリンダ・シトリフォリア)の抽出液は天然の健康合成剤として注目を集めていますが,その効能は実際に証明されています。…植物としてのノニは,多様で効能が高い薬として歴史的に利用されてきた植物性薬品の中の一つです。」,「学術名:モリンダ・シトリフォリア…ノニは学術的には常緑性低木…。」,「サモアおよびトンガ諸島群ではノヌになり,タヒチの人々はノノと呼びます。ノニというよく知られた名前はマルケサス諸島およびハワイで使用されます。」,「ノニの近代的な商品化が開始されたのは,ミッチ・テイトという名の人物がポリネシア諸島で偶然ノニに遭遇した1994年のことでした。…テイト氏と何人かのパートナーたちによって,ノニの健康上の利点を大規模に市場に紹介する最初の会社としてモリンダ社が設立されました。それ以前にノニの効用を紹介していた会社はありましたが,大規模に紹介したのはモリンダ社が初めてでした。…薬効をもつノニジュースは急速に普及し、アメリカや世界のその他の地域で広く発売されています。」,「癌とノニジュース,1994年に実施された研究では,ノニの実の成分が持つ肺癌に対する抗癌作用が指摘されました。」,「ノニに含まれるダナカンサルは,1993年に『RAS細胞に対する新型の抑制剤』として医学的に定義されました。」,「フランスの研究者たちは,ノニの木の根に含まれる成分は天然の鎮痛剤や鎮静剤として作用することを発見し,プランタメディカ誌の1990年の記事の中で詳細を発表しました。」との記載がある。
〔M〕「101の医療的用途をもつトロピカルフルーツ タヒチアンノニジュース(モリンダ・シトリフォリア)」には,「1992年,植物科学の…アボット博士は,ノニの一般的用途には糖尿病,高血圧,がんの抑制が含まれると述べている。」,「1950年に出版された『パシフィック・サイエンス・ジャーナル』に掲載された科学報告書には,ノニには消化器系や心臓を守る抗菌作用があることが立証されている。」との記載がある。
〔N〕「驚異の自然薬ノニ」では,〔H〕と同旨の紹介をしている。
〔O〕以上のほか,平成13年7月時点において,ノニを原材料としたジュース,カプセル,石けんがインターネットで販売されているが,そのホームページの中には,上記の文献を引用するなどして,ノニにつき,学術名がモリンダ・シトリフォリアであることのほか,効能などを説明しているものもある(乙14=審判甲25,乙15=甲5=審判甲26,乙16=甲6=審判甲27,乙17=審判甲28,乙18=審判甲29,乙19=審判甲30,乙20=審判甲31,乙21=審判甲32,乙22=審判甲33)。
(2) 本件商標の登録査定日(平成10年8月3日)までに出版ないし発行された書籍又は雑誌は,上記のうち,〔A〕ないし〔E〕である。これらによれば,アカネ科,モリンダ属に属する「モリンダ・シトリフォリア(Morinda citrifolia)」は,熱帯アジア,オーストラリア,ポリネシア原産の常緑性小低木で,和名「ヤエヤマアオキ」,英語では「Indian Mulberry」といわれ,ハワイ,ポリネシアで「Noni」と呼ばれていること,果実,葉,樹皮が薬用として用いられることなどが紹介されていることが認められる。
そして,上記〔F〕ないし〔N〕によれば,登録査定日後ではあるが,多数の書籍等によって,「NONI(ノニ)」について,その効能を含めた前記のような詳細な内容の紹介がされるようになったことが認められる。
さらに,証拠(甲7〜105)及び弁論の全趣旨によれば,原告は,平成8年(1996年)に果実飲料「TAHITIAN NONI」を製造,販売する米国の会社として設立されたこと,平成10年(1998年)には年間売上げ125.79百万米ドルとなり,世界中に原告の拠点が設置され,日本支社は,本件登録査定後である平成11年(1999年)に設立されたこと,原告の日本における本件商標「NONI」,「ノニ」,「TAHITIAN NONI」の商標を付した商品の売上高は,平成11年度が約88億円,平成12年度が約156億円,平成13年度が約164億円であること,原告及び原告日本支社は,本件商標の登録査定後である平成11年以降,上記各商標を付した原告の商品の宣伝広告活動を行っているが,その費用は,平成11年が約2億3400万円,平成12年が約2億3000万円,平成13年が約3億3800万円であること,上記宣伝広告は,新幹線,私鉄,地下鉄,JR等の路線の主要駅で,本件商標「NONI」,「ノニ」,「TAHITIAN NONI」の商標を付した原告商品を紹介する看板,ポスターを展示したり,「週刊新潮」,「an・an」等多数の雑誌においても,継続的に宣伝広告を行うものであったことが認められる。そして,前記〔O〕によれば,原告以外の者によっても,NONI(ノニ)を原材料としたジュース,カプセル,石けんがインターネットなどで販売されるようになっており,遅くとも平成13年ころからは,いわばブームとなっていることが認められる。
(3) 以上によれば,本件商標の登録査定日(平成10年8月3日)当時においては,必ずしも「NONI」に関する情報が日本において豊富に存在したとまではいえないものの,取引者,需要者において,本件商標である「NONI」が,アカネ科,モリンダ属の「モリンダ・シトリフォリア(Morinda citrifolia)」という植物のハワイやポリネシアにおける名称で,日本で「ヤエヤマアオキ」とも呼ばれるものであり,この植物は,熱帯アジア,オーストラリア,ポリネシア原産の常緑性小低木で,その果実,葉,樹皮が薬用として用いられるものであることの情報を得て,本件商標「NONI」が指定商品である「食餌療法用飲料,食餌療法用食品」の原材料であるとの認識がある程度はされていたであろうこと,そして,登録査定日後の上記諸事情をも併せ考えるならば,少なくとも,将来,取引者,需要者にその商品の原材料名であると認識される可能性があったものと認められる。また,前記諸事情に照らせば,「NONI」は,取引に際し必要適切な原材料名表示であって,特定人による独占使用を認めるのは公益上適当でないというべきである。
そうすると,本件商標をその指定商品に使用した場合は,単に商品の原材料を表したと認識されるにとどまり,それ以外の商品について使用するときには,商品の品質について誤認を生じさせるおそれがあるとした上,本件商標の登録は,商標法3条1項3号及び4条1項16号に違反してされたものであるとした審決の認定判断は,是認し得るものである。
4 原告は,前記「原告の主張の要点」の(1),(2)において,審決の「当審の判断」の2項の事実認定が誤りであることを理由として,同3項及び4項の判断が誤りであると主張する。以下,この点につき検討する。
(1) 原告は,食物研究者が取引者,需要者に該当しないこと,日本の業者等や一部の消費者が「NONI(ノニ)」の語及び「NONI(ノニ)」の身体の健康にもたらす好影響についてある程度知り得ていたと認定するためには,これらの者が学術名「モリンダ・シトリフォリア」という植物を「NONI(ノニ)」という名称で認識し,その「NONI(ノニ)」という植物の効用を認識していた事実の認定が必要であるが,審決が認定した間接事実のみから上記のような認識を推認することはできない上,審決は,「我が国の風潮」や「我が国の社会的状況」という具体的根拠の示されていない恣意的な事情を介在させて上記認識を認定したものであるとして,審決を非難する。
確かに,審決は,「本件商標の登録査定時(平成10年8月3日)には,わが国の食物研究者,食品を専門に取り扱う業者,輸入販売業者等,あるいは一部の消費者の間においては,「NONI(ノニ)」の語及び該「NONI(ノニ)」の身体の健康にもたらす好影響について,ある程度知り得ていたとみるのが相当である。」と述べているが,「NONI(ノニ)」の身体の健康にもたらす好影響を知り得ていた状況について言及したにすぎず,食物研究者のみを取り上げて殊更に本件商標の付された商品の取引者,需要者であると判断しているものではないことは,前後の説示からすれば自ずと明らかである。この点について,審決に誤りはない。
また,原材料名の認識の点については,本件では,あくまで「NONI」が原材料となり得るものと認識され,又は認識される可能性があるか否かが検討されるものであり,学術名を介することなく,「NONI」の名から直接にその効用がある程度認識され得るのであれば,学術名までも認識されていることは必ずしも必要ではない。そして,健康食品への関心が強いという我が国の風潮や,インターネットなどの情報通信分野の発展による情報伝達の高速化という我が国の社会的状況は,審決では具体的に摘示されてはいないものの,各書籍やインターネットのホームページを印刷したものという本件書証によって,上記の事実を認めることができるのであって(民事訴訟法における公知の事実に相当する証拠による裏付けを必要としない事実であるともいい得る。),原告の非難は当たらない。
(2) 原告は,ノニの抽出液の薬効作用につき様々な国で研究されてきたことを審決が認定した点につき,不適切,不正確な証拠(前記〔L〕及び〔M〕)からの認定であると非難する。
検討するに,〔L〕は,確かに,論文のタイトルで「Morinda Citrifolia」の語が使用されているものについても,その内容を紹介するに際し,「ノニ」と記載していることが認められ(例えば,1990年のプランタメディカ誌の記事),引用又は日本語への翻訳の過程で〔L〕の著者又は翻訳者の解釈が介在し,厳密には正確でないとの非難が当たるかのようにも思われる。また,〔M〕には,引用文献の記載が見当たらないことは,原告指摘のとおりである。
しかし,〔L〕では,論文の本文が引用されており,原典の引用部分において「Noni」との語が用いられていたのか否かを明らかにする証拠はない上,引用文献リストの中には,タイトルに「Noni」の語を用いた論文も存在するのであって,これに前掲各証拠の記載をも総合すれば,「Morinda Citrifolia」が「Noni」とも呼ばれるものであることが研究者の間で知られていた可能性が高く,仮に,論文の原典の引用部分において「Morinda Citrifolia」の語が使用されていたとしても,当該論文の執筆者としては,上記認識の下に執筆していることがうかがえるのであって,〔L〕において著者又は翻訳者の解釈によって「ノニ」と表記されたものであるとしても,その解釈を直ちに誤りであるということはできない。また,〔M〕に引用文献の記載がないといって,直ちに〔M〕の証拠価値を否定すべきことにはならない。
(3) 原告は,前記〔J〕の日本における出版年も問題とする。審判では,〔J〕の表紙と背表紙のコピーのみが証拠とされたとみられ(甲4),背表紙に91998の記載があるので,審決はこれを根拠に1998年には日本で出版されたとの認定をしたものとみられる。しかし,当審で提出された奥付部分を含む証拠(乙10)によれば,翻訳された本の日本における出版は,1999年であることが認められる。もっとも,審決の上記認定は,出版が本件商標の登録査定日前であることに意義を見出した趣旨であるとは認められないので,上記の誤りは,直ちに結論に影響を及ぼすものではない。
(4) いずれにしても,本訴においては,原告の主張をも考慮に入れた上で(前記〔L〕の評価等),関係証拠を検討の上,前判示3のとおりに認定し得るのであるから,以上に検討した点のほか,原告が審決の「当審の判断」の2項の事実認定が誤りであるとして種々主張する点は,いずれも採用の限りではない。
5 原告は,前記「原告の主張の要点」の(3),(3-1)において,本件商標には自他商品識別力があると主張する。
(1) 原告の主張の要点のうち,(3-1-1)に記載の点について検討する。
原告主張のとおり,本件商標である「NONI」並びに「ノニ」及び「TAHITIAN NONI」の商標を指定商品についてはじめて使用したのが原告であり,本件商標の登録査定時においては,モリンダ・シトリフォリアを原料として含む果実飲料等の商品が日本の市場には全く存在しなかったとしても,登録査定日以前に,少なくとも前記〔A〕ないし〔E〕の書籍等が存在し,アカネ科,モリンダ属に属する「モリンダ・シトリフォリア(Morinda citrifolia)」は,熱帯アジア,オーストラリア,ポリネシア原産の常緑性小低木で,和名「ヤエヤマアオキ」,英語では「Indian Mulberry」といわれ,ハワイ,ポリネシアで「Noni」と呼ばれていること,果実,葉,樹皮が薬用として用いられることなどが紹介されていることが認められる。そして,前判示のとおり,登録査定日後の諸事情をも併せて推認すれば,取引者,需要者において,登録査定日当時,「NONI」が本件商標の指定商品の原材料であるとの認識がある程度はされていたであろうこと,少なくとも,将来,取引者,需要者にその商品の原材料名であると認識される可能性があったことが認められるのであって,原告主張の上記の点がこの認定を妨げるものではない。
また,前掲証拠によれば,原告及び原告日本支社は,本件商標の登録査定後に前認定の費用をかけて宣伝広告活動及び販売活動を行ったこと,その際,本件商標に「TM」又は「」の表示を併記していたこと,日本における原告の商品の売り上げも伸びてきていることが認められる。しかしながら,他方,本件証拠中,原告の宣伝広告として最も早い時期のものは,平成11年5月号の「ラ・セーヌ」(甲64)であると認められるところ,その発売以前から既に前記〔A〕ないし〔H〕のように,「NONI(ノニ)」を植物名とし,その効能などを詳細に紹介する書籍等が多く出版されていることが認められる。そして,原告の宣伝広告及び販売活動と重なる時期においても,前記〔I〕ないし〔O〕のような多くの「NONI(ノニ)」に関する書籍等が出版されていることが認められる。以上の事情に照らせば,「『NONI(ノニ)』が原材料名としてではなく,原告の商品を示すものとして需要者及び取引者の間に広く知られることとなった結果,『NONI(ノニ)』という言葉により取引者,需要者が想起する概念は,モリンダ・シトリフォリアと称される植物ではなく,原告商品そのものとなっている。」という原告主張の事実は,推認するに足りないというほかない。
そうすると,他の業者が本件商標のイメージにフリーライドしているとの原告の主張もまた採用することができない。
(2) 原告の主張の要点のうち,(3-1-2)に記載の点について検討する。
原告主張のように,「モリンダ・シトリフォリア」は,世界各地の国や地域において約90もの様々な呼び名が存在し,「NONI(ノニ)」の呼び名で使用するのは,わずかにポリネシア,ハワイ及びプエルトリコ地域だけであって,これらの地域においても,「NONI(ノニ)」のほかに別名称が存在するとしても,「NONI(ノニ)」が原告による造語ではなく,「NONI(ノニ)」が元来限られた地域での呼び名の一つであるとはいえ,植物の名称であることに変わりはないのであって,上記原告主張事実のゆえをもって商標法3条1項3号の該当性が否定されるものとは解されない。しかも,「NONI(ノニ)」が,前掲各書籍等によって日本に紹介されることにより,一定の効能を有する植物の名称,ひいては本件指定商品の原材料として認識又は認識される可能性があることは,前認定のとおりである。よって,本件商標がモリンダ・シトリフォリアの普通名称ではなく,自他商品の識別機能を果たしているとの原告の主張は,採用することができない。
なお,「NONI」,「TAHITIAN NONI」などの商標が日本以外の国において商標登録されていることが認められるが(甲145ないし201),日本における自他商品識別力に関する上記認定を否定し得るものではない(ちなみに,本件商標「NONI」は,米国では商標登録されていない。)。
(3) 名称に関連して付言するに,(α)原告のホームページにおいて,「植物学名はモリンダシトリフォリア,通称ノニと呼ばれる果実…モリンダシトリフォリアの果汁を市場に送り出すための…開発に着手しました。」と掲載されたこと(乙1,審判甲10),(β)原告日本支社から商品を購入して販売するディストリビュータのホームページでは,全体にわたって,原告の商品である「タヒチアン・ノニ・ジュース」の原材料が「ノニ」であるとの趣旨の説明をしていること(乙2,審判甲11),(γ)原告は,平成11年商標登録願第12911号の拒絶理由通知に対する平成13年4月9日付け意見書において,「Hawaiian」と「Noni」を二段に表し,「Noni」の左横に図形を配した引用商標について,「学名『モリンダ・シトリフォリア(Morinda citrifolia)』は地域によっては『Noni』と呼ばれているので,…『Noni』の部分は,自他商品識別力がなく類否判断の基礎となる要部とはなり得ないと考えられる」と主張したこと(乙24=審判甲35,乙23=審判甲34)が認められる。なお,上記(α),(β)については,その後,削除などの訂正がされている(甲241〜244)。
原告は,(α)はホームページ作成会社の誤記載であるというが,原告の承認なしに掲載されるなどということは容易に信用し難く,原告の上記内容の認識がインターネットで広く表明された事実は否定し得ない。原告は,(γ)は出願代理人からアドバイスを受け,本意ではなく従ったものであるというが,上記のような見解が公的な場面で表明されたことは否定し得ない。原告は,(β)は一部のディストリビュータが誤解したものであるというが,そのこと自体,原告の商品を理解しているはずのディストリビュータでさえ,上記のような認識であったことを示すものである。
以上の観点からも,本件における原告の前掲主張は,採用し難いものというべきである。
6 原告は,前記「原告の主張の要点」の(3),(3-2)において,本件商標には独占適用性があると主張する。要するに,「NONI(ノニ)」は,モリンダ・シトリフォリアの呼び名が少なくとも約90も存在するうちのごく限られた地域で用いられているだけの呼称であり,日本では「ヤエヤマアオキ」との呼び名が古くから存在するのであるから,原告が「NONI」の語を日本において独占しても公益的な損害はないなどというものである。
しかし,前判示のように,「NONI(ノニ)」がモリンダ・シトリフォリアの呼び名のひとつであり,それが,登録査定日当時,本件商標の指定商品の原材料であるとの認識がある程度はされていたであろうこと,少なくとも,将来,取引者,需要者にその商品の原材料名であると認識される可能性があったことが認められるのであって,原則として広く何人にも自由に使用が認められるべきものである。他に多くの別の呼び名があり,特に日本において古来からの別の呼び名があるからといって,原告に本件商標の独占使用を認めるべき事由があることにはならず,「NONI(ノニ)」という原材料名につき,原告以外の者が使用し得ないとすることは,公益上適当でないというべきである。原告の主張は,採用の限りではない。
なお,原告以外の「NONI」という商標の使用者が,原告が世界中で築き上げた商品イメージにただ乗りしようとするものにすぎず,保護する必要がないとの原告の主張は,既に判示したとおり,採用することができない。
7 原告は,前記「原告の主張の要点」の(4)において,本件商標は,商標法4条1項16号に該当しないと主張する。
原告は,本件商標が指定商品の取引者,需要者に商品の原材料を認識させるものではないことを前提として,上記主張をするが,その前提自体が認められないことは,既に判示したところから明らかである。
本件商標は,商標法4条1項16号にも該当するのであって,これを否定する原告の主張は,採用することができない。
8 結論 以上のとおり,原告主張の審決取消事由は理由がないので,原告の請求は棄却されるべきである。
追加
【別紙】審決の理由の要旨無効2001-35315号事件,平成14年5月27日付け審決(下記は,上記審決の「理由」欄「第4当審の判断」の部分について,文書の書式を変更したが,用字用語の点を含め,その内容をそのまま掲載したものである。)理由第4当審の判断1.甲第6号証ないし甲第11号証及び甲第15号証ないし甲第33号証によれば、以下の事実が認められる。
(1)学術名を「モリンダシトリフォリア」とする常緑性低木は、フランス領ポリネシア諸島では、通称「NONI(ノニ)」と呼ばれ、ポリネシア諸島では、2000年以上にわたって、該ノニの木の実を始め、葉、根、樹皮、花の抽出液を、病気の治療、健康の維持・増進に使用してきたこと。(ただし、甲第6号証には、「ポリネシアの島々ではノニ、ノヌ、またノノ等の別称で知られています。」旨の、また、
甲第16号証には、「サモアおよびトンガ諸島群ではノヌになり、タヒチの人々はノノと呼びます。ノニというよく知られた名前はマルケサス諸島及びハワイで使用されます。」旨の記載が認められる。)(2)ノニの木の実、葉、根、樹皮、花等の薬効については、1990年代の初めより研究されており、例えば、「フランスの研究者たちは、ノニの木の根に含まれる成分は天然の鎮痛剤や鎮静剤として作用することを発見し、プランタメディカ誌の1990年の記事の中で詳細を発表した。」、「ノニに含まれるダナカンサルは、1993年に『RAS細胞に対する新型の抑制剤』として医学的に定義されました。」、「癌とノニジュース;1994年に実施された研究では、ノニの実の成分が持つ肺癌に対する抗癌作用が指摘されました。」、「1992年植物科学の・・アボット博士は、ノニの一般的用途には糖尿病、高血圧、がんの抑制が含まれると述べている。」、「1950年に出版された『パシフィック・サイエンス・ジャーナル』に掲載された科学報告書には、ノニには消化器系や心臓を守る抗菌作用があることが立証されている。」(甲第16、17号証)などの記述が認められること。
(3)ノニの木の実、葉、根、樹皮、花等の抽出液が商品化されたことに関し、「ノニの近代的な商品化が開始されたのは、ミッチ・テイトという名の人物がポリネシア諸島で偶然ノニに遭遇した1994年のこと」であること、「テイト氏と何人かのパートナーたちによって、ノニの健康上の利点を大規模に市場に紹介する最初の会社としてモリンダ社が設立された」こと、「それ以前にノニの効用を紹介していた会社はありましたが、大規模に紹介したのはモリンダ社が初めてで」あったこと、
「薬効をもつノニジュースは急速に普及し、アメリカや世界のその他の地域で広く販売されてい」ること(いずれも甲第16号証)、ミッチ・テイトがそのパートナーと設立したモリンダ社は、1996年にアメリカ市場にノニ製品をもたらしたこと(甲第7号証)などの記述が認められる(ただし、甲第10号証には、「1993年、
2人の著名な食品科学者・・・が、友人の紹介でフレンチポリネシア産のあるシンプルな植物と出会いました。」なる記述がある。また、甲第11号証には、ノニの果汁に関し、「1996年に世界で始めて飲みやすいジュースになりました。」なる記載が認められる。)。
さらに、アメリカ合衆国のハワイで産出されたノニから製造されたと認められるパウダー化したカプセルに関し、「『ハワイアン・ノニ』は、『タヒチアン・ノニ』が製品化する何と4年前の1992年から製造している」旨のが記述が認められること(甲第25号証)。
また、わが国においては、遅くとも2001年(平成13年)7月には、ノニを原材料としたジュース、カプセル、石鹸がインターネットを通じて販売されていたこと(甲第25号証ないし甲第33号証)。
(4)1998年には、わが国において「ノニジュース」に関する「ノニジュース53の使い方」なる書籍が出版されたこと(甲第21号証)。
2.前記1.で認定した事実よりすれば、「NONI(ノニ)」は、ポリネシア諸島で産する学術名を「モリンダシトリフォリア」とする常緑性低木の通称であり、その実、葉、樹皮、根、花、種子の抽出液は、抗菌性、鎮痛性、抗癌性などの特性を有し、薬用植物として、また、ビタミンC、ビタミンE、カルシウム、マグネシウム、亜鉛を含むビタミンやミネラルを豊富に含んでいるため、健康な体を維持するものとして、ポリネシアの人々は、古くからノニの実などから抽出した液を治療等に使用してきたこと、ノニの木の各部から抽出される液の薬効作用については、様々な国で1990年代の初めころより研究され続けてきたこと、ノニを原材料とした商品は、1996年ころにはアメリカ市場に出回っていたこと、また、タヒチで産出されるノニを原材料とした製品に先駆け、ハワイで産出されるノニを原材料とした製品が市場に出回っていたこと、さらには、1998年(平成10年)には、わが国においてノニに関する書籍が出版されていることなどが認められ、いわゆる健康食品といわれる商品への関心が極めて強い今日のわが国の風潮や、インターネット等情報通信分野の発展に伴って情報の伝達が高速化されたわが国における今日の社会的状況下にあって、本件商標の登録査定時(平成10年8月3日)には、わが国の食物研究者、食品を専門に取り扱う業者、輸入販売業者等、あるいは一部の消費者の間においては、「NONI(ノニ)」の語及び該「NONI(ノニ)」の身体の健康にもたらす好影響について、ある程度知り得ていたとみるのが相当である。
3.本件商標は、前記したとおり、「NONI」の文字を普通に用いられる方法で書してなるものであるところ、上記2.で認定した事情よりすると、本件商標は、
これをその指定商品中「NONI(ノニ)を原材料とした食餌療法用飲料・食餌療法用食品」について使用した場合は、単に商品の原材料を表したと認識されるにとどまり、それ以外の指定商品について使用するときには、商品の品質について誤認を生じさせるおそれがあるものというべきである。
4.(1)被請求人は、学術名「モリンダシトリフォリア」の植物を「NONI」の名称が使用されているのは、ハワイ、ポリネシア及びプエルトリコ地域だけであり、しかも、これらの地域における本件植物の生産量及びこれらの地域を産地とする本件植物を原料とするジュース及びその他の製品の流通量は極めて少ないものと考えられ、わが国の需要者、取引者が、「NONI」という語から、上記植物を認識することはない旨主張する。
しかしながら、「NONI(ノニ)」がハワイ、ポリネシア及びプエルトリコ地域だけで使用される学術名「モリンダシトリフォリア」の通称であるとしても、本件商標が商標法第3条第1項第3号及び同法第4条第1項第16号に該当するか否かの判断は、取引者、需要者が「NONI」若しくは「ノニ」の語から正式な学術名称としての「モリンダシトリフォリア」を認識するか否かではなく、「NONI」若しくは「ノニ」の語が食品、飲料、あるいは薬剤等の商品に使用され、これに接した取引者、需要者が商品の原材料を表したと認識するか否かの問題であり、前記2.で認定した事情からすれば、「NONI(ノニ)」の語は、タヒチ島などのポリネシア諸島やハワイで産出される植物と理解し、身体の健康に好影響をもたらすものとして、商品の原材料を表したと認識するするにとどまるものであることは、前記したとおりである。
したがって、被請求人の上記主張は採用できない。
(2)被請求人は、甲第15号証ないし甲第33号証は、その公表日若しくはプリントアウトされた日付けが本件商標の登録日以降であるから、本件商標がその査定時に商標法第3条第1項第3号もしくは同法第4条第1項第16号に該当していたことを立証する証拠にはなり得ない旨主張する。
確かに、甲第15号証ないし甲第33号証の多くは、その公表日若しくはプリントアウトされた日付けが本件商標の登録査定日以降であることは、認め得るところであるが、前記2.で認定したように、これらの記載内容、わが国の一般国民が、
いわゆる健康食品なるものに抱く関心の強さ等の事情を総合勘案すれば、取引業者及び一部の消費者は、「NONI(ノニ)」の語をある程度知っていたものというのが相当である。
そして、「NONI」若しくは「ノニ」の語は、ジュース等の原材料として1996年にはアメリカ合衆国で使用され、「ノニジュース」として市販されていた実情、1992年に「ハワイアン・ノニ」として原材料を表示するものとして使用されていた実情、1998年にわが国で「ノニジュース」に関する書籍が出版されていた実情、遅くとも平成13年には、わが国において少なからぬ販売業者によりジュースの原材料を表示するものとして使用され、販売されていた実情等を考慮すると、本件商標の登録査定時に、取引者、需要者に、いわゆる健康食品の原材料を表示するものとして広く認識されていないものであったとしても、「NONI」の文字よりなる本件商標を特定人に独占させて使用させることは適切ではなく、この点からしても、本件商標は、独占適応性に欠けるものといわざるを得ない。
したがって、この点に関する被請求人の主張も採用できない。
(3)被請求人は、本件商標を採択した経緯等を述べ、本件商標を使用するにつきその取扱いに係る商品に関して営業努力及び品質向上努力を続けた結果、本件商標にいわゆるグッドウィルが化体したところ、競合他社によって本件商標に対するフリーライド若しくはダイリューション行為を受けているのであり、フリーライド若しくはダイリューション行為を行っている競合他社の一社からの請求により本件商標の登録が無効とされるのは不当である旨主張する。
しかしながら、前述したとおり、「NONI」若しくは「ノニ」の語は、いわゆる健康食品の原材料を表示するものとして、商品の取引の過程において、その取引業者等が使用を必要とするものであり、かつ、欲するものであるから、独占適応性に欠けるものである。
したがって、「NONI」の文字よりなる本件商標が、被請求人の取扱いに係る商品「ジュース」等を表示するためのものとして、著名性を獲得したといった特別の事情がない限り、何人もこれを使用することが可能であり、そこには、フリーライド若しくはダイリューション行為が発生する余地はなく、また、本件商標が被請求人の取扱いに係る商品「ジュース」等を表示するためのものとして、著名性を獲得したと認めるに足りる証拠は見出せない。
(4)被請求人は、現時点において、本件商標が自他商品識別力を失うに至っていたとしても、第三者の本件商標若しくはこれに類似する商標の使用と本件商標権の関係は商標法第26条によって調整されるべき問題である旨主張する。
しかしながら、本件商標は、その登録査定日において商標法第3条第1項第3号に該当するにもかかわらず、該条項に違反して登録されたものであって、これを理由としてその登録を無効にすべき旨の審判が請求されたものであり、無効とすべき理由が存在する以上、同法26条により他人に本件商標の権利の効力を及ぼすべきでないとするような調整をする必要性は見出せない。
4.以上のとおり、本件商標は、これをその指定商品中「NONI(ノニ)を原材料とした食餌療法用飲料・食餌療法用食品」について使用しても、単に商品の原材料を表したと認識されるにとどまり、それ以外の指定商品について使用するときには、商品の品質について誤認を生じさせるおそれがあるものというべきであるから、商標法第3条第1項第3号及び同法第4条第1項第16号に違反して登録されたものといわざるを得ない。
したがって、本件商標は、商標法第46条第1項の規定により、無効とすべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
平成14年5月27日
裁判長裁判官 塚原朋一
裁判官 塩月秀平
裁判官 田中昌利
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