運営:アスタミューゼ株式会社
  • ポートフォリオ機能


追加

この判例には、下記の判例・審決が関連していると思われます。
審判番号(事件番号) データベース 権利
平成16ワ12489商標権侵害差止等請求事件 判例 商標
平成14ワ13569商標権侵害差止等請求事件 平成15ワ2226商標権侵害差止請求事件 判例 商標
平成18ワ5272損害賠償請求事件 平成18ワ8460損害賠償請求事件 判例 商標
平成15ネ4925商標権侵害差止請求控訴事件 判例 商標
昭和55行ケ9 判例 商標
関連ワード 識別機能 /  指定役務 /  普通名称(3条1項1号) /  周知性 /  類似性(類否判断) /  外観(外観類似) /  称呼(称呼類似) /  観念(観念類似) /  要部観察 /  差止 / 
元本PDF 裁判所収録の全文PDFを見る pdf
元本PDF 裁判所収録の別紙1PDFを見る pdf
事件 平成 15年 (ワ) 1521号 商標権侵害差止請求事件
原告 エノテカ株式会社
同訴訟代理人弁護士 赤井文彌
同 船崎隆夫
同 宮崎万壽夫
同 岡崎秀也
同 相澤重一
同 奈良恒則
同 山本裕子
同 矢野公士
同 藤川和之
同補佐人弁理士 田中正治
被告 株式会社グラナダ
裁判所 東京地方裁判所
判決言渡日 2003/08/29
権利種別 商標権
訴訟類型 民事訴訟
主文 1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
請求
被告は,その営業するイタリア料理レストランの店舗に別紙標章目録記載の標章を使用し,又は,これを使用したイタリア料理レストランを営業してはならない。
事案の概要等
1 争いのない事実等 (1) 原告は,酒類等の輸出,輸入及び販売並びにレストランの経営等を業とする株式会社であり,被告は,レストランの経営等を業とする株式会社である。
(2) 原告は,以下の商標権(以下「本件商標権」といい,その登録商標を「本件商標」という。)の商標権者である(甲1,2)。
出願年月日 平成4年9月29日 登録年月日 平成7年5月31日 登録番号 第3046953号 役務の区分 商標法施行規則別表第42類 指定役務 イタリア料理の提供,フランス料理の提供 登録商標 別紙商標目録記載のとおり 原告は,その経営するイタリア料理レストランの店舗において,本件商標を使用している。
(3) 被告は,東京都港区(以下略)において,「ENOTECA KIORA」なる名称のイタリア料理レストラン(以下「被告店舗」という。)を営業し,別紙標章目録記載の標章(以下「被告標章」という。)を使用してイタリア料理を提供している。
2 事案の概要 本件は,原告が,イタリア料理レストランを営業して被告標章を使用している被告の行為について,(1) 役務及び商標が同一又は類似するから原告の本件商標権を侵害すると主張するとともに,(2) 本件商標が原告の営業表示として周知であるから不正競争防止法2条1項1号所定の不正競争行為に当たると主張して,商標法36条1項及び不正競争防止法3条に基づき,被告に対し,被告標章の使用差止め及び被告標章を使用した営業の差止めを請求する事案である。
3 本件の争点 (1) 商標権に基づく請求について ア 本件商標と被告標章との類似性 イ 商標として使用されているか (2) 不正競争防止法に基づく請求について ア 本件商標の周知性の有無 イ 本件商標と被告標章との類似性 ウ 誤認混同の有無 4 争点に関する当事者の主張 (1) 争点(1)ア及び争点(2)イ(本件商標と被告標章との類似性)について 〔原告の主張〕 ア 被告標章は,以下のとおり,外観,称呼及び観念において本件商標と同一であり又は類似している。
なお,被告の主張する要部観察の方法は,標章の一部の表す意味が強く,その他の部分が単にその強い部分の付加的な意味しか有せず,かつ,両者の間に密接な関係のない場合に採用する意味がある。被告標章のうち,「ENOTECA」の部分は普通名詞としての使用ではなく,自他役務の識別機能を有する商標として使用しているものというべきであるから,被告標章のうち,「KIORA」の部分が要部であるとはいえない。イタリア語の普及状況によれば,「ENOTECA」の語も「KIORA」の語も,いずれも語義不明,意味不明な言葉と映るから,被告標章には要部は存在しないというべきである。
外観 本件商標は,「ENOTECA」というアルファベット大文字7文字が横に連続するものであるのに対し,被告標章は,「ENOTECA KIORA」というアルファベット文字で,かつ「ENOTECA」と「KIORA」が組み合わされたものである。外観の全部を観察すると,相違がなお存在するが,「ENOTECA」の部分については外観が同一である。被告標章のうち,「KIORA」の部分は,被告の造語として固有名詞であり,これとの対比でいえば,イタリア語の普通名詞である「ENOTECA」よりは標章の表す意味が弱いといえるので,両者の外観は同一又は類似というべきである。
称呼 本件商標の称呼は「エノテカ」である。被告標章の称呼は「エノテカキオラ」であり,被告標章を一連称呼した場合,その前半部分である「エノテカ」ないし「エノテーカ」の部分が本件商標と同一となり,「ENOTECA」の部分については称呼が同一である。
観念 「ENOTECA」なる語は,イタリア語でワインセラーを意味するから,本件商標は,ワインを販売提供する酒屋ないし飲食店を連想観念する。これに対し,被告標章のうち,「KIORA」なる語は語源が不明であり,一種の造語であるが,観念としては,ワインを販売提供する酒屋ないし飲食店であるKIORA,又は,ENOTECAの支店ないし関連店舗であるKIORA等といった営業を連想観念するものであるから,両者の観念は同一又は類似するものというべきである。
〔被告の主張〕 ア 「ENOTECA」とは,イタリア語で,貴重なワインのコレクション,ワイン展示館,試飲のできるワインの販売所,ワイン屋,酒蔵,ワイン販売店,ワインを楽しめる飲食業,ワインバー,ワイン専門店,ワインを貯蔵販売している店,ワインを主体にしたレストランなどという意味の名詞であり,日本においても外来語としてイタリア語そのままのスペル又は発音により上記の意味を表す普通名詞として広く使用されている。また,被告が「ENOTECA KIORA」の営業を許可され,被告標章の使用を開始した平成12年10月23日当時には,「ENOTECA」の語は,日本においても既に需要者において,ワインを主体にしたレストラン(ワインバー)という役務の一般的名称として広く認識され,使用されていたものである。さらに,「ENOTECA」ないし「エノテカ」,「エノテーカ」の語を付した被告以外の他店が多数存在することからも,「ENOTECA」の語は,飲食店の名称に付される普通名称である。
よって,被告標章のうち,「ENOTECA」の部分は,日本においても,ワインを主体にしたレストラン(ワインバー)という役務の一般的名称として,需要者の間において広く認識された普通名称であり,指定役務との関係において自他役務の識別機能を有しないから,被告標章の要部は,「KIORA」の部分である。したがって,被告標章については,「KIORA」又は「ENOTECA KIORA」全体としてのみ外観,称呼,観念が生じるものというべきである。
以下のとおり,被告標章と本件商標は,外観,称呼,観念のいずれにおいても,同一又は類似するとはいえない。
外観 被告標章は,別紙標章目録記載のとおりの体裁で,「KIORA」というアルファベット文字の上部右側に,その文字の2分の1以下の大きさで,「ENOTECA」というアルファベット文字が組み合わされたものである。また,被告標章のうち,「ENOTECA」の部分は,書体がゴシック体であり,色彩が灰白色であるのに対し,「KIORA」の部分は,書体がデフォルメされている上,「K」の文字が「IORA」の文字よりも1.5倍程度大きく表示され,その色彩は黒色である。こうした被告標章の外観からすると,被告標章のうち,「KIORA」の部分は,文字が大きく,書体に工夫があり,濃い色彩で描かれていることからして,文字が小さく,デフォルメされておらず,かつ,極めて薄い色彩で描かれた「ENOTECA」の部分よりも極めて目立ち,逆に,「ENOTECA」の部分は付記的に表示されたものである。したがって,被告標章と本件標章の外観は,同一又は類似するとはいえない。
称呼 被告標章については,「KIORA」の部分又は「ENOTECA KIORA」全体としてのみ称呼が生じるから,被告標章からは「キオラ」又は「エノテカキオラ」という一連一体の称呼が生じるのに対し,本件商標からは「エノテカ」という称呼が生じる。したがって,被告標章と本件商標の称呼は,同一又は類似するとはいえない。
観念 被告標章については,「KIORA」の部分又は「ENOTECA KIORA」全体としてのみ観念が生じるから,被告標章からは「キオラ」又は「キオラという名のエノテカ」すなわち「キオラという名称のワインを主体にしたレストラン(ワインバー)」という観念が生じる。そして,被告標章からは,「ENOTECA」ないし「エノテカ」,「エノテー カ」の語を付した他の多数の店舗と同様に「ENOTECAの支店ないし関連店舗であるKIORA」ということは全く想起されない。これに対し,本件商標からは,エノテカ,すなわち,貴重なワインのコレクション,ワイン展示館,試飲のできるワインの販売所,ワイン屋,酒蔵,ワイン販売店,ワインを楽しめる飲食業,ワインバー,ワイン専門店,ワインを貯蔵販売している店,ワインを主体にしたレストランなどという観念が生じる。
したがって,被告標章と本件商標の観念は,同一又は類似するとはいえない。
(2) 争点(1)イ(商標として使用されているか)について 〔被告の主張〕 ア 「ENOTECA」の語は,被告が被告標章の使用を開始した当時,すでに需要者において,ワインを主体にしたレストラン(ワインバー)という意味の普通名称として広く認識され,使用されていた。
イ 被告標章のうち,「KIORA」の部分は,文字の大きさ,書体,色彩からして,「ENOTECA」の部分は付記的に表示されたものである。
ウ 被告店舗の営業許可申請及びその後の営業許可に際しては,営業所ないし施設名が単に「キオラ」とされている。
エ 被告店舗正面のドア及びウィンドウ部分には,2か所にわたり「KIORA」の文字が印字されており,被告店舗の名刺の裏面(乙4の2)及びホームページの店舗周辺図(乙5の2)において,被告店舗は,単に「KIORA」とのみ表示されていて,被告の経営する各店舗の標章は,被告店舗を含めていずれも固有の名称の部分が大きく表示され,店舗の性格を示す普通名称の部分は付記的に表示されている。
オ アないしエの事実からすると,被告標章のうち「KIORA」の部分のみが自他役務の識別表示として商標的に使用されているものであり,「ENOTECA」の部分は,あくまでも当該店舗の性格を示す普通名称として使用されているにすぎず,商標として使用されているものではない。
〔原告の主張〕 ア 我が国では,一般の需要者にイタリア語が普及しているとは必ずしもいえない状況にあり,「RISTORANTE」ないし「リストランテ」等のごく少数の語を除き,イタリア語にしたがった表音及び意味を理解することは困難である。「ENOTECA」ないし「エノテカ」の語は,イタリア語以外の言語であると理解する余地があるし,その内容は,原義としては,ワインセラーないしこれらを提供する飲食店等を意味するものであるが,これが英語でいうワインバー等の語に相応するものであることまでは認識が困難である。まして,これらの語がイタリア語であることを理解し,さらにイタリア料理等を提供する飲食店を意味するものと理解し,又は連想するものはいまだ少数である。したがって,「ENOTECA」は,需要者において,ワインを主体としたレストラン(ワインバー)という意味の普通名称として広く認識使用されていたものではない。
イ 被告標章の外観のうち,「KIORA」と「ENOTECA」との相違はさほど大きくなく,外観表示の相違のみで直ちに「ENOTECA」の部分は,「KIORA」の部分に付記的に表示されたものとまではいえない。
ウ 被告店舗の営業許可申請等に際し,営業所名ないし施設名が「キオラ」とされているのは,被告が飲食店を営業するに際し,その行政上の許可を取得するための手続としての意味を有するにすぎない。被告が営業して役務提供する施設はどこに所在し,何を役務提供するかという観点が中心であり,そこにおいて,他の役務提供と区別し,これを特定表示するものは何かという観点からすると,それは被告標章にほかならないのであるから,商標としての使用の該当性の判断に当たって,消極に働く要素ではない。
エ 被告がその営業店舗を表示する方法として,被告標章が唯一のものではなく,他にもいくつかの選択肢があり,これに従った複数の表示をしているからといって,それが直ちに被告標章の認定に影響するものではない。また,被告は,店舗の入口という,顧客にとって一番目立つ箇所に被告標章を掲げて営業しているのであるから,被告の提供する役務の出所表示は「ENOTECA KIORA」ではなく「KIORA」であると限定解釈できるものではない。
オ したがって,被告標章のうち,「ENOTECA」の部分は普通名称としての使用ではなく,自他役務の識別機能を有する商標として使用しているものというべきである。 (3) 争点(2)ア(本件商標の周知性の有無)について 〔原告の主張〕 原告は,本件商標権を有し,東京都内において,ワインショップ及びイタリア料理レストランを営業しているほか,全国において同種の店舗を展開している。これらの店舗では,いずれも本件商標を店頭掲示するなどして使用している。
したがって,本件商標は,「ENOTECA」ないし「エノテカ」ブランドとして,既に需要者の間に広く認識されている。
〔被告の主張〕 原告が本件商標を使用してイタリア料理ないしフランス料理の提供を行っているのは,原告の経営する店舗のうち1店舗のみであり,その店舗についても,料理別索引において,「ワインバー&レストラン」の項に分類している書籍が存在する(乙11)。そして,本件商標を使用した店舗以外の原告の店舗は,すべて「WINE SHOP ENOTECA」という名称のワインショップであり,イタリア料理ないしフランス料理の提供を営業内容とするものではない。よって,本件商標は,イタリア料理ないしフランス料理の提供を行う場合に使用する営業表示としては,需要者の間に広く認識されているとはいえない。
(4) 争点(2)ウ(誤認混同の有無)について 〔原告の主張〕 本件商標と被告標章とはその外観,称呼,観念が同一又は類似しており,そのため,需要者からすると,その営業主体が原告と同一又はこれに関連するものと誤認混同を生じている。特に,「イタリア料理等の提供」という役務と「ワイン等の販売」という商品との間には,業態が類似するので混乱は一層大きく,現に,原告のもとには,こうした照会,問い合わせ等がきており,原告はそのたびに対応を余儀なくされている。その結果,原告は,被告の行為により営業上の利益を侵害され,侵害されるおそれがある。
〔被告の主張〕 (1) 被告は,被告店舗正面のドア及びウィンドウ部分には「KIORA」の文字のみを掲げていること,(2) ホームページ上でも,「KIORA」の文字の上部右側に,枕頭語の趣旨で小さく「ENOTECA」と,被告の経営にかかる他の店舗の名称の前に付した「PIZZERIA」等の文字と同じ扱いで表示していること,(3) 被告店舗の名刺は,表面が上記(2)のように表示され,裏面が上記(1)のように店舗の名称である「KIORA」の文字のみが表示され,メニューには被告店舗の店名を表示していないこと,(4) イタリア料理の提供とワインショップとではその業態が全く異なること,以上の事実からすると,被告店舗を利用する者が被告店舗を原告の経営にかかる店舗ないし原告の関連店舗であると誤認混同することはない。
当裁判所の判断
1 争点(1)ア及び争点(2)イ(本件商標と被告標章との類似性の有無)について (1) 本件商標の構成は,別紙商標目録記載のとおりであり,欧文字の「ENOTECA」と横書きにして成り,その各文字が,同一の書体(ゴシック体)で,同一の大きさ及び間隔により一連に表されたものである。
被告標章の構成は,別紙標章目録記載のとおりであり,欧文字の「KIORA」の右側上部に,その文字の3分の1以下の大きさで,「ENOTECA」という欧文字を2段に横書きにしたものである。また,被告標章のうち,「ENOTECA」の部分は,書体がゴシック体であり,色彩が灰白色であるのに対し,「KIORA」の部分は,書体がデザイン化され,その色彩は黒色であって,「K」の文字が「IORA」の文字よりも1.5倍程度さらに大きく表示されている。
(2) 前記争いのない事実並びに証拠(甲4ないし7,9,29,乙1ないし10)及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。
ア 「ENOTECA」は,「エノテカ」又は「エノテーカ」という称呼を生じるイタリア語であり,日本語に訳すとワインの棚や箱,ワインの入った箱,貴重なワインのコレクション,ワイン展示館,ワイン屋,ワイン専門店,ワインを貯蔵販売している店,ワイン販売店,試飲のできるワインの販売所,ワインを楽しめる飲食業,ワインバー,ワインを主体にしたレストラン等を意味する普通名詞である。
イ 我が国では,指定役務を「西洋料理を主とする飲食物の提供」ないし「飲食物の提供」とする登録商標として,「エノテーカピンキオーリ」,「RISTORANTE ENOTECA PINCHIORRI」, 「La Cantinetta DELL ENOTECA PINCHIORRI」,「カンティネッタ エノテーカ ピンキオーリ」,が,原被告以外の第三者のため商標登録されている。
ウ 我が国では,現在,「ENOTECA」,「Enoteca」,「エノテカ」,「エノテーカ」の語を付した飲食店が被告以外に19店舗存在する。これらはいずれもワインを提供ないし販売するイタリア料理店である。また,これらの店舗を紹介するインターネットホームページの記事の中には,「エノテカ」の語を居酒屋,酒屋を意味するとしているものがある。
エ 平成11年発行のワイン雑誌である季刊「ワイナート」夏号(乙1)には,「エノテカ&新エノテーカ」とのタイトルで,「最近エノテーカという言葉を耳にする人も多いだろう。もはやワイン通の間ではごく普通に使用される単語となった。エノテーカ本来はイタリア語なのだが言葉の歴史は古く,古代ギリシャ語が語源とされる。ENO-OINOS=(オイノス)=ワイン TECA(テーカ)=場所ないし所蔵を意味する。つまりエノテーカはまさに酒蔵と解釈される。イタリアではワインを販売する店をエノテーカと呼び,オリジナルの意味である“酒蔵”はカンティーナという名称に変わってしまった。カンティーナは,酒蔵をはじめ,貯蔵庫の意も含有する。時代を経ると数々の新語が生まれ,今日ではエノテーカを単なるワインを売る店舗に限らず,ワインを楽しめる飲食業まで総称するようになった。」との記載がある。
平成13年発行のグルメ雑誌である別冊専門料理「スペシャリテ」(乙6)には,「樽売りからボトル売りへ,グラス売りへ時代を見つめる町のエノテカ」とのタイトルで,「モンフォルテ・ダルバで“村のエノテカ”を営むロッカさんによれば,少し前までワインをボトルで飲むということ自体が少なかった。(中略)それがこの20年で一気にボトル需要が増え,同時にバローロが有名になって多くの人が訪れ始め,エノテカの仕事も変わったそうだ。」との記載がある。
また,平成14年発行の女性向け生活情報誌である「クレア」11月号(乙7)では,イタリアの料理店の紹介記事の中で,ワインを中心に料理を楽しむスタイルを「エノテカ・スタイル」と呼んでいる。
さらに,平成15年発行のレストラン情報誌である「アリガット」17号(乙2)には,「エノテカ」の説明として,「ワイン専門店,ワインを貯蔵販売している店,またはワインを主体にしたレストランをさす。では,リストランテとトラットリアとはどう違うのだろう?」というタイトルで,「エノテカ,トラットリア,リストランテ・・・。ひとことで,イタリアンといっても,いろいろある。
実は,飲食店の業態を表す一般名詞なのだ。であれば,その違いはどんなところにあるのだろう。ワインを楽しむ,ということを主体に,そのあたりをご説明しよう。エノテカとは,ワイナリーが食堂の機能を併せもったもの,と考えるといいかもしれない。ワイン貯蔵庫や醸造所のワインショップがエノテカで,それにレストランが隣接しているケースがイタリアでは少なくない。シャトーの中にある高級レストランから,ワインショップの一角で,つまみとワインが味わえる気軽な店まで,スタイルは様々だ。」との記載がある。 オ 被告は,被告店舗において被告標章を使用してイタリア料理レストランを営業している。被告は,被告店舗のドア及びウィンドウ部分,名刺における所在場所を示す表示及び営業許可に係る施設名には,単に「KIORA」ないし「キオラ」のみの標章を使用しているが,それ以外は,被告標章を使用している。
(3) 上記認定の事実を総合して,判断する。
ア 「ENOTECA」という語は,「エノテカ」又は「エノテーカ」と称呼され,「ワインを販売する店」ないし「ワインを提供する飲食店」という飲食店の店舗の種類ないし性格を意味する用語として,ワイン愛好者や西洋料理に関心のある需要者の間で相当程度認識されている。他方,「KIORA」は,「キオラ」と称呼されるが,それ自体は造語であり,特段の観念は生じない。
被告標章のうち,「ENOTECA」の部分は,それ自体又はその語に続く店名を示す語と併せて,「ワインを販売する店」ないし「ワインを提供する飲食店」という,当該店舗の種類ないし性格を意味するものであって,それがイタリア料理レストランの営業に使用されるときは,需要者に特定的,限定的な印象を与える力を有するものとはいえない。このことに,上記(1)で認定した被告標章の構成,すなわち「ENOTECA」の部分が,「KIORA」の上部右側に,小さく,色彩も書体も区別されて表記されていること,及び上記(2)オで認定した被告標章の使用状況,すなわち被告店舗において被告標章のみならず,単に「KIORA」ないし「キオラ」としても使用されていることを併せ考えると,「ENOTECA」の語がイタリア料理レストランの営業において使用されるときには,「ENOTECA」の部分が需要者の注意を特に強く惹くことはなく,その部分が強力な自他役務の出所識別機能を果たしているものということはできない。
イ 被告標章においては,「ENOTECA」の部分が小さく表記され,前記のとおりこの部分が強力な出所識別機能を果たしているということはできないことからすると,被告標章全体の外観と本件商標とは,同一又は類似するということはできない。
また,被告標章は,本件商標と同一の「ENOTECA」の語をその一部に含んではいるが,前記のとおり,それがイタリア料理レストランにおいて使用されるときには,「ENOTECA」が「ワインを提供する飲食店」という店舗の種類ないし性格を意味する一般的な用語であって,その部分が強力な出所識別機能を果たしているということはできないことからすると,被告標章からは「エノテカキオラ」又は「キオラ」という称呼が生じるものということができる。これに対し,本件商標からは「エノテカ」又は「エノテーカ」という称呼が生じるのであって,両者はその称呼において異なる。
さらに,被告標章からは「ワインを提供するキオラという名称の飲食店」という観念が生じ,被告標章のうちの「ENOTECA」の部分のみが独立して観念されることはない。これに対し,本件商標からは「ワインを販売する店」,「ワインを提供する飲食店」という観念を生じるのであって,両者はその観念においても異なる。
ウ 以上のとおり,被告標章は,本件商標とその外観,称呼,観念のいずれにおいても異なり,本件商標に同一又は類似するものということはできない。
2 結論 以上の次第であるから,その余の争点について判断するまでもなく,原告の 商標権に基づく請求及び不正競争防止法に基づく請求は,いずれも理由がない。
裁判長裁判官 高部眞規子
裁判官 上田洋幸
裁判官 浅香幹子