• この表をプリントする
  • ポートフォリオ機能


追加

関連審決 審判1999-31716
関連ワード 識別機能 /  指定商品 /  指定役務 /  慣用商標(3条1項2号) /  混同を生ずるおそれ(混同を生じるおそれ) /  著名商標 /  類似性(類否判断) /  外観(外観類似) /  称呼(称呼類似) /  観念(観念類似) /  出所の混同 /  専用権 /  使用義務 /  差止 /  類似範囲 /  防護標章 /  正当使用義務 /  継続 /  同業者 / 
元本PDF 裁判所収録の全文PDFを見る pdf
元本PDF 裁判所収録の別紙1PDFを見る pdf
事件 平成 15年 (行ケ) 76号 審決取消請求事件
原告 金盃酒造株式会社
同訴訟代理人弁護士 吉武賢次
同 宮嶋学
同訴訟代理人弁理士 矢崎和彦
同 新井悟
被告 菊正宗酒造株式会社
同訴訟代理人弁護士 上谷佳宏
同訴訟代理人弁理士 江藤聡明
同 佐竹和子
裁判所 東京高等裁判所
判決言渡日 2003/08/27
権利種別 商標権
訴訟類型 行政訴訟
主文 1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
当事者の求めた裁判
1 原告 (1) 特許庁が平成11年審判第31716号事件について平成15年1月24日にした審決を取り消す。
(2) 訴訟費用は被告の負担とする。
2 被告 主文と同旨
争いがない事実等(証拠を掲げたもの以外は当事者間に争いがない。)
1 特許庁における手続の経緯 (1) 原告は,「金盃菊」の文字を横書きしてなり,商標法施行令(以下「法施行令」という。)1条別表第33類の「日本酒,洋酒,果実酒,中国酒,薬味酒」を指定商品とする登録第4259445号商標(平成9年9月27日登録出願。平成11年4月9日設定登録。以下「本件商標」という。)の商標権者である。
(2) 被告は,清酒その他の酒類の製造,販売等を目的とする株式会社であり,別紙(2)記載の登録第1964970号商標(平成3年政令第299号による改正前の商標法施行令(以下「旧法施行令」という。)1条別表第28類の清酒を指定商品として昭和59年2月24日に登録出願され,昭和62年6月16日設定登録されたもの。以下「引用商標」という。)を付した商品「清酒」を製造,販売しているものである(甲9,弁論の全趣旨)が,平成11年12月24日,原告を被請求人として,本件商標の登録を商標法51条1項の規定により取り消すことについて特許庁に審判を請求した。
(3) 特許庁は,被告の請求を平成11年審判第31716号事件として審理を行った上,平成15年1月24日,「登録第4259445号商標の商標登録を取り消す。」との審決(以下「本件審決」という。)をし,その謄本は同年2月5日に原告に送達された。
2 本件審決の理由の要旨(甲1) (1) 原告(被請求人)は,別紙(1)記載の使用商標(以下「本件使用商標」という。)を使用した商品「清酒」を平成9年10月23日頃より販売を開始し,本件商標が登録された平成11年4月9日以降においても商品「清酒」に本件使用商標を使用して販売していることが認められる。 (2) 本件商標と本件使用商標との類否について 本件商標と本件使用商標とを比較すると,本件商標は「金杯菊」の文字よりなるものであるから,当該構成文字に相応して,「キンパイキク」の称呼及び「金盃菊」の観念を生ずるものであるのに対し,本件使用商標の場合,その構成中の「正宗」の文字部分は清酒に用いる慣用商標であるから出所識別機能を有せず,他の構成部分より独立して商品の出所識別機能を有する部分は「金杯菊」の文字部分にあるから,本件使用商標については「キンパイキク」の称呼及び「金盃菊」の観念をも生ずるものである。
そうとすれば,両商標は「金杯菊」の綴り字を共通にし,「キンパイキク」の称呼及び「金盃菊」の観念を共通にするものであるから,全体として出所の混同を生ずるおそれのある類似の商標といわなければならない。
(3) 引用商標に係る商品との出所の混同のおそれの有無について ア 被告が商標権者である引用商標(登録第1964970号商標)は,被告が商品「清酒」に使用した結果,遅くとも引用商標の防護標章登録第1号が登録された平成2年11月ころには,取引者及び需要者間に広く認識され周知著名な商標となっていたことが認められ,本件商標の出願時(平成9年9月27日),登録時(平成11年4月9日)はもとより,現在においても,被告の製造,販売に係る商品「清酒」を表示するものとして取引者及び需要者間に広く知られている周知著名な商標である。
イ 本件使用商標中の「金盃」の文字部分は,「金製の盃」を意味し普通に用いられる語であり,「金盃」の文字と「菊正宗」の文字は常に一体不可分のものとして把握しなければならない特別の事情もなく,かつ,「金盃菊正宗」の文字が引用商標とは別の原告の製造,販売する商品の標章であると一般に広く認識されるに至っているとは認められない。そうとすれば,「金盃菊正宗」の文字部分は,「金盃」と「菊正宗」に分離して観察されるべきである。
ウ 本件使用商標は,その構成の中に,被告が商品「清酒」に使用して著名 な引用商標の「菊正宗」と同一の文字「菊正宗」を含み,それが他の構成部分から独立して商品の出所識別機能を果たすから,原告が本件使用商標を本件商標の指定商品である「清酒」に使用したことは,取引者及び需要者に,同商品が被告の業務に係る商品「清酒」又は被告と経済的若しくは組織的に何等かの関連を有する者の業務に係る商品「清酒」ではないかと商品の出所について混同を生じさせるおそれがある使用をしたといわざるを得ない。
(4) 故意について 引用商標は本件使用商標の使用開始以前に周知著名となっていたこと及び原告と被告とはともに神戸市内に住所地を有し,清酒の製造,販売に関して同業者であることよりすれば,原告は,本件使用商標の使用開始当初より,著名な引用商標を知悉しており,本件使用商標の使用にあたり被告の業務に係る商品「清酒」と混同を生ずるとの認識があったと推認されるから,原告には故意があったというのが相当である。 (5) 原告は,本件商標の商標権を正当に行使しているなどとし,これを理由に本件商標については商標法51条を適用すべきでない旨主張しているが,いずれも理由がない。
(6) 以上のとおり,原告は,故意に,本件商標の指定商品である「清酒」についての本件商標に類似する本件使用商標を使用したものであって,他人の業務に係る商品と混同を生ずるものをしたと認められるから,本件商標の登録は,商標法51条1項の規定により取り消すべきものである。
当事者の主張
1 原告の主張 原告の本件使用商標の使用行為は,「故意に指定商品「清酒」についての本件商標に類似する商標の使用であって他人の業務に係る商品と混同を生ずるものをしたとき」に該当せず,商標法51条1項の要件を具備しない。また,本件商標の使用は正当なものであり,仮に本件使用商標の使用行為が上記要件に該当するとしても,本件商標の登録を取り消すことは,同条の規定の趣旨を逸脱するものであって,許されない。
(1) 本件商標と本件使用商標との類否及び引用商標に係る商品との出所の混同のおそれの有無について 本件審決は,本件商標と本件使用商標とは,「金盃菊」の綴り字を共通にし,「キンパイキク」の称呼及び「金盃菊」の観念を共通にするものであるから,全体として出所の混同を生ずるおそれのある類似の商標といわなければならないとの判断を示しながら,他方,本件使用商標の使用が引用商標を使用した被告の業務に係る商品と混同を生じるおそれがあるか否かの判断にあたっては,本件使用商標の「金盃菊正宗」の文字部分は,「金盃」と「菊正宗」に分離して観察されるというべきであるとした上,本件使用商標の構成中の「菊正宗」の部分は他の構成部分から独立して商品の出所識別機能を果たすものと判断した。
本件審決のとおり,本件使用商標の「金盃菊正宗」の文字部分について,引用商標が著名商標であること等を理由に「金盃」と「菊正宗」に分離されると判断するのであれば,本件商標と本件使用商標の類否判断においても,本件使用商標は,「キンパイ」又は「キクマサムネ」と略称されると判断すべきであり,そうすると,本件商標と本件使用商標とが「キンパイキク」の称呼及び「金盃菊」の観念を共通にする類似の商標であるということにはならないはずである。他方,本件使用商標の「金盃菊正宗」の文字部分が,その構成中の「正宗」が清酒に用いられる慣用商標であるから,「キンパイキク」と略称されるとした場合,その構成中の「菊正宗」は一体的なものとは認識されなかったことにほかならないから,本件使用商標を商品「清酒」に使用しても,引用商標の「菊正宗」の文字を想起させることはなく,引用商標に係る商品と出所の混同を生ずるおそれはないといわなければならない。
上記のとおり,本件審決は,本件商標と本件使用商標との類否の判断と引用商標に係る商品との出所の混同のおそれの有無の判断において,相互に矛盾する判断手法を用いて判断したことにより,商標法51条1項の要件の具備の有無について結論を誤ったものというべきである。
(2) 原告の「故意」の有無について 本件審決は,原告は,本件使用商標の使用開始当初より,著名な引用商標を知悉しており,本件使用商標の使用にあたり被告の業務に係る商品「清酒」と混同を生ずるとの認識があったと推認されるから,原告には故意があったというのが相当であると判断している。
しかしながら,原告が,被告の引用商標を知っているとしても,「菊」や「正宗」といった文字は,清酒業界において極めて一般的に用いられている文言であること,本件使用商標の構成文字中「金盃菊正宗」は,同じ書体,同じ大きさ,同じ間隔で表され,一連一体に表示してなる商標であり,殊更「菊正宗」の文字部分のみを目立たせるなどしていないこと,本件使用商標には「金製の盃」と「菊」の図柄が表されており,「金盃菊正宗」は,その図形と「正宗」の文字を組み合わせたところを翻案した商標であること,「正宗」は慣用商標であることなどから,原告は,本件使用商標が略称されるとしても,「キンパイキク」と略称されるものと認識しており,引用商標に係る商品と出所の混同が生ずるおそれがあるとは到底認識していなかったものである。
また,原告は,本件使用商標の使用を開始するにあたり,平成9年9月27日,法施行令1条別表第33類の「日本酒」等を指定商品とする本件商標の登録出願をするとともに,平成9年10月17日,「金盃菊正宗」の文字を横書きしてなり,同第33類の「清酒」を指定商品とする商標の登録出願をしているものである。「金盃菊」という文字からなる本件商標についてのみ登録出願を行い,実際に使用する商標は,これに「正宗」を付けて「金盃菊正宗」にしたというのであれば,被告の引用商標に近づけようとする意図があったといえるとしても,原告は上記のとおり「金盃菊」の文字からなる本件商標と「金盃菊正宗」の文字からなる商標の両方について登録出願を行っているものであり,このことからしても,原告が,上記「金盃菊正宗」の商標の使用等について,引用商標の商品と出所の混同が生ずるおそれがあるとは認識していなかったことは明らかである。
(3) 本件商標の使用の正当性と商標法51条1項の規定の適用の有無について 原告は,本件商標を使用した商品「清酒」を平成11年12月14日より製造販売しているものである。
一方,原告は,本件使用商標に関して,「金盃菊正宗」の文字よりなる商標(商願平9-168759)及び「金盃菊正宗」の文字と「金製の盃」と「菊」の図形を組み合わせた商標(商願平11-43849)との2つの商標につき登録出願をしたものである(なお,後者については登録第4382255号商標として設定登録がされた。)。
商標法51条の規定する取消審判制度は,不正使用に対する制裁として設けられたものであるところ,仮に本件使用商標の使用が引用商標に係る商品と出所の混同を生ずるおそれがあるものとしても,本件使用商標に関する上記各商標の登録出願を拒絶し,又はその登録を取り消せば制裁として十分と考えられる。原告が本件商標のみを登録出願して設定登録を受け,それに「正宗」の文字を結合させて使用したといった事情であればともかく,そのような事情のない本件において,「金盃菊正宗」の文字等からなる本件使用商標とは全く別のもので,正当に使用している本件商標についてまで,本件使用商標に係る不正使用を理由にしてその登録を取り消すというのは,商標法51条の規定の趣旨を逸脱した行き過ぎたものであり,違法である。
2 被告の主張 本件商標と本件使用商標との類似関係は明確(慣用商標「正宗」の有無の差のみ)であり,かつ,本件使用商標の使用は引用商標に係る商品との出所の混同のおそれがあるものであり,さらに,原告は本件商標を拠り所として「金盃菊正宗」の使用を行っていることも窺うことができる状況にあるから,原告による本件使用商標の使用行為は,商標法51条1項の要件を具備するものである。本件審決の認定判断に原告主張の誤りはない。
(1) 本件商標と本件使用商標との類否及び引用商標に係る商品との出所の混同のおそれの有無について 本件審決は,本件使用商標の「金盃菊正宗」の「正宗」の部分が慣用商標であるとし,その点を考慮すると,その部分を除いた「金盃菊」の部分から「キンパイキク」の称呼及び「金盃菊」の観念をも生ずると認定しているものである。本件使用商標の「金盃菊正宗」の文字部分を検討する場合,「正宗」が慣用商標であることを認識している需要者の中には,慣用商標部分を除いた「金盃菊」の部分からの称呼観念を認識する者も存在し得ると考えることは自然なことである。したがって,商標法51条1項の適用要件の判断にあたり,「金盃菊正宗」の使用が本件商標と類似すると認定することに何ら誤りはない。
しかし,その一方で「金盃菊」の後ろに「正宗」を結合させた「金盃菊正宗」の文字を含む商標が,商品「清酒」に付されて取引過程に置かれた場合,「菊正宗」の部分が著名商標であるが故に,「金盃」と「菊正宗」の部分に分離されて認識される可能性が生じることも至極当然のことである。
すなわち,本件使用商標の「金盃菊正宗」の文字部分は,本件商標とは慣用商標「正宗」の有無の差のみであることから類似の関係にあり,かつ,それが取引過程に置かれたときには引用商標の「菊正宗」の著名性から引用商標に係る商品との出所の混同を生じるものであり,本件審決の判断手法に何ら矛盾はない。
商標の類否や出所の混同のおそれの有無についての判断は,1つの類似関係あるいは1つの出所の混同のおそれの関係が成り立てば,他の関係が全く成り立たなくなるというものではなく,原告の主張する論理は誤っている。
(2) 原告の「故意」の有無について 原告は,本件使用商標を商品「清酒」に使用することにより,引用商標を付した被告の商品「清酒」と出所の混同が生じるであろうことを認識しつつ,本件使用商標の使用を継続しているものであり,原告が「故意」により本件使用商標の使用を行っていることは明らかである。この点に関する本件審決の認定に誤りはない。
(3) 本件商標の使用の正当性と商標法51条1項の規定の適用の有無について 原告は,本件使用商標に関して,「金盃菊正宗」の文字のみの商標及び「金盃菊正宗」の文字と図形の組み合わせの商標の登録出願が拒絶され,又はその登録が取り消されれば制裁として十分である旨を主張している。
しかしながら,この主張は商標法51条の規定する取消審判制度の趣旨に反する主張であり,妥当性を欠くものである。商標法51条の規定する取消審判制度は,登録商標についてその類似範囲での不正な使用を故意に行ったことに対する制裁の制度である。制裁の対象は使用商標ではなく,登録商標である。使用商標の登録が取り消されたり,あるいは使用商標の登録出願が拒絶されることは制裁ではなく,登録要件を充たさないことによる当然の結果である。そもそも登録できないような商標を類似範囲であるからということで使用することが問題なのであり,制裁の対象は登録商標でなければ制裁としての意味がない。
原告のこの点についての主張は妥当性を欠くものである。
当裁判所の判断
1 商標法51条1項によれば,商標権者が故意に指定商品若しくは指定役務についての登録商標に類似する商標の使用であって他人の業務に係る商品若しくは役務と混同を生ずるものをしたときは,何人も,その商標登録を取り消すことについて審判を請求することができる旨定めている。
証拠(甲2,3の(1),(2),4,5,10,11,13,16,17,乙5ないし9)及び弁論の全趣旨によれば,原告は,平成9年10月ころより,本件使用商標を使用した商品「清酒」の販売を開始し,本件商標が登録された平成11年4月9日以降にも,商品「清酒」に本件使用商標を使用してその販売を行い,現在に至っているものと認められるところ,本件の争点は,原告が本件使用商標を商品「清酒」に使用した上記行為が,「故意に指定商品「清酒」についての本件商標に類似する商標の使用であって他人の業務に係る商品と混同を生ずるものをしたとき」に該当するか否か,仮に原告による本件使用商標の使用行為が上記の要件に該当するとした場合,本件商標の登録を取り消すことが商標法51条の規定の趣旨を逸脱し,許されないといえるか否かである。そこで,以下この点に関して判断する。
2 商標法51条1項の規定する要件の具備の有無について (1) 本件商標と本件使用商標との類否及び引用商標に係る商品と混同を生ずるおそれの有無について ア 本件商標は「金杯菊」の文字を横書きにしてなるものであり,「キンパイキク」の称呼及び「金盃菊」の観念を生ずるものであること,本件使用商標は,別紙(1)のとおり,上方に横書きしてなる「金盃菊正宗」の文字,中央に縦書きしてなる「正宗」の文字,右横に縦書きしてなる「清酒の正統復興」の文字並びに菊及び杯の図形等により構成されるものであるところ,本件使用商標を全体として観察するときは,「金盃菊正宗」の文字部分が取引者及び需要者の注意を強く引く部分であり,同部分が出所識別機能を果たしているものというべきことは,本件審決の認定判断するとおりである。
しかして,本件商標と対比してみるに,本件使用商標中,出所識別機能を果たしているというべき「金盃菊正宗」の文字部分のうち「正宗」の文字部分は,清酒に用いられる慣用商標であってそれ自体は商品識別機能を有せず,「金盃菊正宗」の文字部分のうち商品の出所識別機能を有するのは「金盃菊」の文字部分であると認められるから,「金盃菊正宗」の文字部分からは,「キンパイキク」の称呼及び「金盃菊」の観念を生じ得るものと考えられる。したがって,本件商標と本件使用商標とは,「金盃菊」の文字部分において外観が共通し,称呼及び観念を共通にするということができるから,全体として商品の出所の混同を生ずるおそれのある類似の商標であるというべきである。
イ 前記第2の1(2)の事実に証拠(甲8,9,11,13)及び弁論の全趣旨を併せれば,被告は,清酒その他の酒類の製造,販売等を目的とする株式会社で,創業300年以上に渡る伝統を誇る清酒業界の老舗のメーカーであり,その製造,販売する清酒は全国の清酒市場において高いシェアーを占めていること,ちなみに,日刊経済通信社による全国の上位清酒メーカーの銘柄酒の出荷状況の調査結果によると,被告の引用商標を付した清酒の出荷量は,平成7年度は3万9704キロリットルで全国で第7位であり,平成8年度は4万227キロリットルで全国で第6位であったこと,被告は,その登録商標である引用商標「菊正宗」が被告の業務に係る指定商品を表示するものとして需要者間に広く認識されており,上記登録商標に係る指定商品及びこれに類似する商品以外の商品又は指定商品に類似する役務以外の役務について他人が上記登録商標を使用することによりその商品又は役務と自己の業務に係る指定商品とが混同するおそれがあるとして,そのおそれがあると考えられる商品又は役務について防護標章の登録を特許庁に申請し,これが認められて,引用商標(登録第1964970号商標)の防護標章登録第1号(旧法施行令1条別表の第30類「菓子,パン」を指定商品として,昭和63年6月29日に登録出願され,平成2年11月29日に設定登録されたもの)を始めとして,平成9年までに同防護標章登録第24号(法施行令1条別表第41類の「技芸・スポーツ又は知識の教授,動物の調教」等を指定役務として,平成4年10月5日に登録出願され,平成9年9月12日に設定登録されたもの)まで合計24個の防護標章登録を取得していることが認められる。加えて,引用商標を付した被告の商品「清酒」が,相当古くから,一般の消費者に「キクマサムネ」と称呼されて愛飲されていることは公知の事実である。しかして,これらの事実を総合すれば,引用商標は,遅くとも,上記防護標章登録第1号が設定登録された平成2年11月ころには,被告の製造,販売に係る商品「清酒」を表示するものとして取引者及び需要者に広く認識され,全国的に周知著名な商標になっていたものであり,本件商標の登録出願時はもとより,現在に至るまでその状況に変わりはないと認められる。
ところで,本件使用商標中,出所識別機能を果たしているというべき「金盃菊正宗」の文字部分のうち「金盃」の文字は,「金製の盃」を意味する語であり,「金盃菊正宗」の標章が原告が製造,販売する商品を表示するものとして取引者及び需要者に広く認識されるに至っていると認めるに足りる証拠はないから,「金盃菊正宗」の文字部分は,取引者及び需要者に「金盃」と「菊正宗」とに分離して称呼,観念され得るものである。
上記のとおり,引用商標は被告の製造,販売する商品「清酒」を表示するものとして周知著名性の程度が高いところ,本件使用商標は,引用商標の「菊正宗」の文字をその主要な構成部分に含む商標であり,その構成部分がその余の部分から分離して認識され得るものであり,引用商標と外観,称呼,観念上類似していると認められる。また,本件使用商標が使用されている商品と引用商標が使用されている商品とは重複し,両者の取引者及び需要者も共通しており,その需要者は通常は特別の専門知識を有するものでない一般消費者である。これらの事情を総合的に勘案すれば,本件使用商標を商品「清酒」に使用したときには,これに接した取引者及び需要者に対し,引用商標を想起させて,その商品が被告の業務に係る商品「清酒」又は被告と経済的若しくは組織的に何らかの関連を有する者の業務に係る商品「清酒」であるかのように,その出所につき誤認を生じさせるおそれがあるというべきである。
ウ 原告は,本件審決は,前記第3の1(1)記載のとおり,本件商標と本件使用商標との類否の判断及び引用商標に係る商品との出所の混同のおそれの有無の判断において,相互に矛盾する判断手法を用いて判断したことにより,商標法51条1項の要件の具備の有無について結論を誤ったものというべきである旨主張する。
しかしながら,各構成部分がそれを分離して観察することが取引上不自然であると思われるほど不可分に結合していると認められない商標は,必ずしもその構成部分全体の名称によって称呼,観念されず,しばしば,その一部の構成部分だけによって簡略に称呼,観念され,1個の商標から2個以上の称呼,観念を生ずることは経験則の示すところである。本件の場合,上記イに認定のとおり,引用商標の「菊正宗」の文字が被告の商品「清酒」を表示するものとして周知著名性の程度が高く,また,「金盃」は「金製の盃」の意味を有する語として理解できるものであることから,引用商標との比較においては,本件使用商標の中核的な構成部分である「金盃菊正宗」の文字部分のうち,「菊正宗」の文字が特に取引者及び需要者の注意を引くものと予想され,したがって,上記部分は「金盃」と「菊正宗」の各文字に分離して称呼,観念され得るものと考えられるし,他方,本件商標との比較においては,本件使用商標の上記「金盃菊正宗」の文字部分のうち,「正宗」の文字は清酒に用いられる慣用商標にすぎず,「金盃菊正宗」の文字部分のうち商品の出所識別機能を有するのは「金盃菊」の文字部分であると認められるから,本件使用商標については「キンパイキク」の称呼及び「金盃菊」の観念を生ずるものと考えられる。
すなわち,1個の商標から2個以上の称呼,観念を生ずる上記のような商標にあっては,類否判断ないし出所の混同のおそれの有無の判断において対比されるべき別の各商標との関係で,それぞれ異なる称呼,観念を生ずることがあり得るものであり,したがって,1つの類似関係あるいは1つの出所の混同のおそれの関係が成り立てば,他の関係が全く成り立たなくなるというものではない。この点に関する原告の主張は採用できない。
(2) 原告の故意の有無について ア 原告と被告とがともに神戸市に事務所を置き,清酒の製造,販売を行っている同業者であることは当裁判所に顕著な事実であるところ,前記(1)イに認定の事実によれば,引用商標は原告が商品「清酒」について本件使用商標の使用を開始するより相当以前に周知著名性を獲得していたものであるから,原告が,本件使用商標の使用を開始した当時,引用商標及びそれが周知著名であることを知っていたことは明らかである。そして,原告は,清酒の製造,販売を業とする専門業者であり,その業務を展開するにあたって,各銘柄の清酒の製造,販売の状況については十分な情報を得ていたはずであり,したがって,原告は,当初から,本件使用商標を商品「清酒」に使用すれば,被告の業務に係る商品「清酒」と混同を生ずるおそれがあることを認識して,その使用を行っていたものと推認するほかない。
前記1認定の事実に証拠(甲11ないし13)及び弁論の全趣旨を併せれば,被告は,平成9年12月,神戸地方裁判所に本件使用商標中の「金盃菊正宗」の文字標章の使用等の差止めを求める仮処分の申立てをし,同裁判所は,平成10年3月26日,上記標章の使用等は,引用商標に係る商品との出所の混同のおそれがあり,その使用は被告の引用商標に係る商標権を侵害するという判断の下に,被告の申立てを認容する決定をし,原告からの保全異議申立についても,同裁判所は,平成10年11月16日,上記仮処分決定を認可する決定をしたこと,被告は,平成10年2月,上記標章の使用等の差止めを求める訴訟を同裁判所に提起し(平成10年(ワ)第375号),同裁判所は,平成11年7月23日,上記と同様の判 断の下に,被告の請求のうち,上記標章の使用等の差止請求を認容する判決をした(この判決に対しては原告から上訴がなされたが,控訴審の大阪高等裁判所は控訴棄却の判決をし,上告審の最高裁判所も上告棄却の決定をし,上記神戸地方裁判所の判決は確定した。)こと,しかるに,原告は,上記仮処分決定及び判決後も,商品「清酒」に本件使用商標を使用してその販売を行っていたことが認められるのであって,このことは,原告に上記の故意があったことを裏付けるものというべきである。
イ 原告は,原告には被告の業務に係る清酒等と混同を生ずるおそれがあることの認識はなかったとして,前記第3の1(2)記載のとおり主張する。 原告は,まず,本件使用商標が略称されるとしても,「キンパイキク」と略称されると認識しており,引用商標に係る商品と出所の混同を生ずるおそれがあるとは到底認識していなかったと主張するが,前記(1)イ,ウに説示のとおり,引用商標との比較においては,本件使用商標の中核的な構成部分である「金盃菊正宗」の文字部分のうち,「菊正宗」の文字が特に取引者及び需要者の注意を引くものと予想され,したがって,上記部分は「金盃」と「菊正宗」の各文字に分離して称呼,観念され得るものと考えられるのであって,原告の上記主張はにわかに信用できない。
また,原告は,「金盃菊」の文字からなる本件商標と「金盃菊正宗」の文字からなる商標の両方について登録出願を行っていたとし,このことを理由に,原告が,本件使用商標の使用について,引用商標の商品と出所の混同を生ずるおそれがあるとは認識していなかったことは明らかである旨主張するが,両商標について登録出願を行っていたことは,原告に上記アで認定した「故意」がなかったことの徴憑となるものではない。原告のこの点に関する主張は理由がない。
(3) 以上によれば,原告が本件使用商標を商品「清酒」に使用した行為は,「故意に指定商品「清酒」についての本件商標に類似する商標の使用であって他人の業務に係る商品と混同を生ずるものをしたとき」に該当し,商標法51条1項の要件を具備するというべきである。
3 本件商標の使用の正当性と商標法51条1項の規定の適用の有無について 原告は,原告が本件商標のみを登録出願して設定登録を受け,それに「正宗」の文字を結合させて使用したといった事情であればともかく,そのような事情のない本件において,「金盃菊正宗」の文字等からなる本件使用商標とは全く別のもので,正当に使用している本件商標についてまで,本件使用商標に係る不正使用を理由にしてその登録を取り消すというのは,商標法51条の規定の趣旨を逸脱した行き過ぎたものである旨主張する。
しかしながら,商標法51条は,商標権者は,指定商品等について登録商標を使用する専用権を有するが,その専用権の範囲を超えて,当該商標権者が,登録商標と類似の商標を使用し,これにより故意に商品の品質若しくは役務の質の誤認又は他人の業務に係る商品若しくは役務と混同を生ずるおそれがあるものをするのは,商標権者としての商標の正当使用義務に違反するばかりでなく,他人の権利利益を侵害し,一般公衆の利益を害するものであるから,何人も審判によりその登録商標の取消しを求めることができるものとし,商標権の行使を逸脱した商標の不正使用をする者に対して制裁を加えるとともに,第三者の権利利益及び一般公衆の利益を保護しようとする趣旨に出たものと解される。
そして,原告による本件使用商標の使用行為が商標法51条1項に規定する要件に該当することは既に説示したところから明らかであるから,本件商標は取消しを免れないというべきであり,その取消しが商標法51条の規定の趣旨を逸脱するということは到底できない。
原告の主張は,同条の規定の趣旨について解釈を誤ったものであって,採用することができない。
4 原告が本件審決の取消事由として主張するところはいずれも理由がなく,他にこれを取り消すべき瑕疵はない。
よって,原告の請求は理由がないからこれを棄却することとし,主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 北山元章
裁判官 青柳馨
裁判官 清水節
  • この表をプリントする