関連審決 | 審判1998-31281 |
---|
関連ワード | 指定商品 / 不使用 / 国内 / 外国 / |
---|
元本PDF | 裁判所収録の全文PDFを見る |
---|
事件 |
平成
14年
(行ケ)
346号
審決取消請求事件
|
---|---|
原告a 訴訟代理人弁理士 酒井一 同 蔵合正博 被告 カッセラエセ. ペー. アー. 訴訟代理人弁理士 斎藤侑 同 伊藤文彦 |
|
裁判所 | 東京高等裁判所 |
判決言渡日 | 2003/07/14 |
権利種別 | 商標権 |
訴訟類型 | 行政訴訟 |
主文 |
原告の請求を棄却する。 訴訟費用は原告の負担とする。 |
事実及び理由 | |
---|---|
請求
特許庁が平成10年審判31281号事件について平成14年5月30日にした審決を取り消す。 |
|
当事者間に争いのない事実
1 特許庁における手続の経緯 被告は,「G.PATRICK」の欧文字を太字体により横書きしてなり,指定商品を旧別表第17類「洋服,コート,セータ類,ワイシャツ類,下着,ねまき類,和服」とする商標登録第2346408号商標(昭和63年11月25日登録出願,平成3年10月30日設定登録,以下「本件商標」という。)の商標権者である。 原告は,平成10年12月2日,本件商標につき,その指定商品中「洋服,コート,セータ類,ワイシャツ類,下着,ねまき類,及びこれらに類似する商品」について,不使用による登録取消しの審判の請求をし,その予告登録は,平成11年1月6日にされた。 特許庁は,上記請求を平成10年審判第31281号事件として審理した上,平成14年5月30日,「本件審判の請求は,成り立たない。」との審決をし,その謄本は,平成14年6月11日,原告に送達された。 2 審決の理由 審決は,別添審決謄本写し記載のとおり,被請求人(被告)は,1997年(平成9年)1月27日,大阪市在の有限会社イムズ(以下「イムズ」という。)から,「G.PATRICK」のラベルを付したカジュアルシャツ102着の注文を受け,そのころ,イタリア国から同社宛てに荷送した事実を認めた上,本件審判請求の予告登録日前3年以内に,日本国内において,本件審判請求に係る指定商品に含まれる商品について,本件商標と社会通念上同一の商標を使用したものであり,商標法50条の規定により本件商標の登録を取り消すことはできないとした。 |
|
原告主張の審決取消事由
審決は,証拠の評価を誤った結果,予告登録日前3年以内における本件商標の使用の事実に関する認定を誤り(取消事由1),また,商標法50条の「使用」に該当するとの誤った判断をした(取消事由2)ものであるから,違法として取り消されるべきである。 1 取消事由1(使用の事実の認定の誤り) (1) 審決は,甲2(甲2の1及び2を指す。以下,特に必要がない限り,書証の枝番の記載は省略する。),甲4〜8及び乙8に相当する書証に基づき,「被請求人(注,被告)は,『G.PATRICK』のラベルを付けたカジュアルシャツ102着を大阪市中央区本町8-9プラネットビル901在のわが国法人『有限会社 イムズ』(イムズインコーポレイテッド)から,注文番号『EM-0434NK』として注文を受け,該注文者である『有限会社 イムズ』(イムズインコーポレイテッド)宛に荷送した」(審決謄本13頁下から第3段落)と認定するとともに,甲2及び甲6に相当する書証に基づき,「被請求人は,1997(平成9年)年1月27日付の注文書を上記『有限会社 イムズ』(イムズインコーポレイテッド)から,『G.PATRICK』のラベルを付ける旨の注意事項のある注文番号『EM-0434NK』の注文書を受け,被請求人は1998(平成10年)年1月27日付けでイタリア国から貨物輸送した」(同14頁第3段落)と認定した。 (2) しかしながら,甲5(荷送状)及び甲6(輸出関連書類)は,甲2(注文書)及び甲4(ファクシミリ送信書)と関連するものではなく,甲5〜6には,梱包数1,男性用の木綿製シャツとあるだけで,「G.PATRICK」の商標が付されたものであるかも不明である。また,甲7(貨物輸送関連書類)及び甲8(請求書)については,甲5〜6の記載とも梱包数等において食い違いがある上,甲2と関連するものでもない。 なお,甲8(請求書)には,「ラベル:G.PATRICK」との文字があるが,この書類は,被告自身が作成したものであるから,客観性がなく,証拠価値が低い。そもそも,甲2,甲4〜8は,いずれもコピーであって原本ではないし,これらの書類の中で「G.PATRICK」が記載されているのは,甲8のみであり,しかも,被告自身が所持する商品一覧表の中に記載されているというのは不自然というべきである。加えて,この甲8のうち,「G.PATRICK」との記載があるのは3枚目であるが,この3枚目は英訳であり,ミラノ税関の印の押捺がある一枚目の用紙とともに当初から一体として存在したのかどうかも疑わしい。 さらに,審決は,甲1及び乙1に相当する書証に基づき,「『カジュアルシャツ』に本件商標と社会通念上同一の商標『G.PATRICK』が表示されたタグが襟の裏側中央下部に縫いつけられているのが認められる」(審決謄本14頁第2段落)とするが,上記書証(カジュアルシャツの写真)は,被請求人(被告)の代理人が審判請求書を受け取った後に撮影したものであって,審判請求の予告登録日前3年以内に本件商標を使用していた事実を証明するものとはいえない。 以上によれば,被告が,1997年(平成9年)ころ,イムズの注文に基づき,『G.PATRICK』のラベルを付したカジュアルシャツ102着をイムズ宛に荷送ないし貨物輸送した旨の審決の上記認定は,証拠の評価を誤り,事実を誤認したものである。 (3) 被告は,本件訴訟において乙2(荷送状)を新たに提出した上,甲7を含む一連の書類である乙2において,品物,スタイル,色,数量の各欄における記載が甲2と一致していることからも,甲2と,乙4〜8の関連性は明らかであると主張するが,ミラノ税関の印が押捺されているのは甲7の1の1枚だけであり,そもそも甲7と乙2が一体不可分のものであるかどうかは疑わしい。 また,被告は,本件訴訟において,乙7,9をも提出するが,いずれも証拠価値は低い。特に,乙7の1の1,乙7の2〜4は,イムズが作成したものであって,審判請求後いつでも作成することができたものであるし,乙9は,被告の社長と称する者の陳述書であるが,自己宣言によって商標法50条に規定する「使用」の事実の証明を認めるとすれば,同条による不使用取消し制度の実効性を失わせることになりかねず,不当である。 2 取消事由2(商標法50条の「使用」に該当するとした判断の誤り) (1) 仮に,審決の上記認定が誤りでないとしても,上記の被告とイムズとの取引は,イムズが商品を「輸入」したのであって,被告が「輸入」したものではないから,このような行為は,商標法50条に規定する商標の「使用」(同法2条3項)には該当しないというべきであり,これを肯定した審決は,同条の解釈を誤ったものである。 (2) 被告は,被告が商品に付した商標は,その商品が転々流通した後においても,それに手が加えられない限り,社会通念上は,被告による商標の使用であると解すべきであるとし,本件においては,被告が,「G.PATRICK」のラベルを付したカジュアルシャツ102着を,注文者である日本国内のイムズに荷送し,イムズが当該商品を輸入したものであるから,日本国内への当該輸入の時点以降,商標法上の「使用」の効果が発生した旨主張するが,荷送すなわち日本国内への輸入ではない。本件においては,我が国への通関手続がされたとの証拠は一切提出されていないことからすれば,飛行機に貨物を積み忘れたり,ストライキや天候のために飛行機が飛ばなかったり,何らかの理由により我が国での通関が認められず輸入できなかったりしたということも考えられる。 被告の上記主張は,我が国への輸入後に国内で転々流通することが前提となっているものと解されるところ,本件においては,上記のとおり,輸入の事実を認めるに足りる証拠はない上,国内での流通も存在しないのであるから,被告の上記主張を適用する前提を欠く。また,商標法50条は,「商標権者」等による使用を前提としているものであり,商標権者等の正当な権利者が輸入した場合には,その後の転々流通はすべて適法となるとしても,本件においては,当初の輸入者であるイムズは,商標権者等の正当な権利者ではないから,その後の転々流通も正当なものとはいえず,被告の上記主張は本件に当てはまらない。 (3) 仮に,本件商標について,不使用取消しを免れるための名目的な使用行為があったとしても,1回限りのものであって,我が国内での信用の蓄積はないに等しく,保護に値しない。そうした名目的,形式的な使用は,商標法50条に規定する「使用」に該当しないと解されるから,結局,本件においては,同条による商標の不使用取消しを免れることができないというべきである。 |
|
被告の反論
審決の認定判断は正当であり,原告主張の取消事由はいずれも理由がない。 1 取消事由1(使用の事実の認定の誤り)について 被告が,審判段階から提出した書証(甲1,2,4〜8,乙8)及び本件訴訟において提出した書証(乙2,3,7,9)によれば,被告が,1997年(平成9年)4月27日付けのファクシミリによって,イムズから,「G.PATRICK」のラベルを付したカジュアルシャツ102着の注文を受け,そのころ,当該注文に基づき同商品をイムズ宛に荷送ないし貨物輸送したとの事実を優に認定できるから,審決の認定に誤りはない。 なお,原告は,甲2(注文書)と,甲5〜6,甲7〜8とは関連性がないと主張するが,上記各書類は,いずれも被告とイムズとの間の同一の取引において作成されたものである。このことは,甲7を含む一連の書類である乙2において,品物,スタイル,色,数量の各欄における記載が甲2のそれと一致していることからも明らかである。 2 取消事由2(商標法50条の「使用」に該当するとした判断の誤り)について (1) 原告は,本件取引は,イムズが商品を輸入したものであって被告が輸入したのではないから,商標法50条に規定する「使用」に該当しない旨主張するが,誤りである。すなわち,同法上の標章の「使用」の定義を定める同法2条3項の規定は,商品に標章が表示される場合において,それが何人の使用と認められるものであるかは社会通念にゆだねるとともに,同法の目的との関係を考慮し,特に商品の識別標識として機能すると認められる事実についてのみ,これを「使用」であると定義することにより,同法上の「使用」としての法的効果を認めるべき使用の範囲を限定したものと解される。したがって,特定人Aが商品に付した商標は,その商品がB,C,D等に転々流通した後においても,それに手が加えられない限り,社会通念上は,Aによる商標の使用であると解するのが自然であるから,その商品がAの占有下にあると,B,C,D等の所有の下にあるとにかかわりなく,同法2条3項に該当する行為である限り,それはその商品がAの出所であることを示す,Aによる商標法上の「使用」行為であると解するのが当然である。そうだとすれば,国内においてX商標を登録している外国会社Aが,外国においてX商標を付した商品を転々流通させる場合においても,上記のように社会通念的に理解する限りは,転々流通する間の行為もAの使用行為であり,それが外国において行われる限り日本の商標法は適用されないものの,その商品が他人により日本に輸入され,国内において転々流通するときは,同法上の「使用」に該当する行為がある限り,それが日本に輸入される時点より,Aの出所を示す商標の「使用」としての同法上の効果が発生すると解すべきである。 これを本件に当てはめれば,被告が,「G.PATRICK」のラベルを付したカジュアルシャツ102着を,日本国内のイムズ宛に荷送し,イムズが当該商品を輸入したことは明らかであるから,イムズによって日本国内に輸入された時点より,被告の出所を示す商標の「使用」としての同法上の効果が発生したということができる。 (2) 原告は,イムズが本件シャツを我が国内に適法に輸入した事実や,その後の日本国内における転々流通の事実について立証がないと主張するが,イムズは,本件シャツを日本国内に適法に輸入し,日本国内において他に譲渡している。すなわち,イムズは,1997年(平成9年)4月17日付けのファクシミリで,「G.PATRICK」のラベルの付いたカジュアルシャツ102着を注文し(甲2,乙7の1の1),ユナイテッド航空貨物株式会社を介して上記シャツを輸入し,同年7月28日,ユナイテッド航空貨物株式会社から,通関料,輸入消費税,配達料,関税,航空運賃等に関する請求を受けた(乙7の1の2)。その後,イムズは,同年8月21日,大阪在のエヌ・ケー・クラシック有限会社(N.K.CLASSIC INC)に納品するとともに,同月20日付けで請求書を発行し,同年11月27日,同社から上記販売代金を受領した(乙7の2〜4)。 また,原告は,イムズは正当な権利者でない旨主張するが,被告は,イムズとの間で本件取引を行い,本件シャツを荷送したことによって,本件商標の使用権をイムズに付与したものと解されるから,イムズによる輸入行為は,本件商標の使用権者による使用である。 (3) 被告による本件商標の使用が,原告主張のように,一回限りの名目的,形式的なものでないことは,上記の経緯から明らかである。 |
|
当裁判所の判断
1 取消事由1(使用の事実の認定の誤り)について (1) 証拠(甲2,4,7,8,乙1〜3,7〜9)によれば,被告とイムズとの間の取引に関する経緯として,以下の事実を認めることができる。 ア イタリア法人の被告は,1997年(平成9年)4月17日ころ,当時,大阪市中央区本町橋8番9号プラネット本町橋901号に本店を有していたイムズから,ファクシミリによって,「G.PATRICK」のラベルを付したシャツ102着の注文(注文番号EM-043NK)を受けた(甲2,乙7の1の1,乙8)。当該注文の内訳は,MELIAの色番01のものが34着,同04のものが12着,CANDELAの色番01と同11のものが各16着,PASCALの色番03のものが12着,NOZARIの色番54のものが12着で,合計102着である(甲2,乙7の1の1)。 イ 被告は,同月18日ころ,ジ・エレ・エム・ステュディオS.R.Lから,本件注文に係る見積状をイムズに送付してもらいたい旨のファクシミリによる連絡を受けた(甲4)。 ウ 被告は,同年7月16日ころ,イムズに宛てて,梱包数17個,総重量282.8s,内容数量517個の貨物を発送した(甲7,乙2,9)。この貨物の中には,注文番号「00043」の品物102個が含まれており,その内訳は,シャツMELIAの色番01が34着,同04が12着,シャツCANDELAの色番01と同11とが各16着,シャツPASCALの色番03が12着,シャツNOZARIの色番54が12着である(甲7,乙2)。 エ 被告は,そのころ,イムズに対し,梱包数17個,総重量282.8s,内容数量517個,ラベル「G.PATRICK」の品物(この中には,上記ウと同一の内訳の品物102着が含まれている。)の代金として,総計2118万9650イタリアリラの請求書を送付した(甲8)。 オ イムズは,同年7月下旬ころ,ユナイテッド航空貨物株式会社の航空貨物により,梱包数17,重量282.8sの衣類を日本国内に輸入し,同月28日ころ,同社から通関料,配達料,関税,輸入消費税,航空運賃等の請求を受けた(乙7の1の1,7の1の2)。 カ 被告は,同年8月5日ころ,イムズから,2116万8650イタリアリラ(なお,この領収額に,日本における銀行手数料2万1000イタリアリラを加えると,2118万9650イタリアリラとなる。)を領収した(乙3)。 キ イムズは,同年8月21日ころ,エヌ・ケー・クラシック・インク(N.K.CLASSIC INC)に対し,CASSERAシャツ合計101着を納品し,同月20日付けでその代金55万3770円(消費税込み)を請求した(乙7の1の1,7の2,7の3)。なお,納品したシャツの内訳は,MELIAの色番01が33着,同04が12着,CANDELAの色番01と同11とが各16着,PASCALの色番03が12着,NOZARIの色番54が12着である(乙7の2)。 (2) 上記認定事実及び上記第2の1の争いのない事実によれば,本件商標の商標権者であるイタリア法人の被告は,平成9年4月17日ころ,イムズから,「G.PATRICK」のラベルを付したシャツ102着の注文を受け,同年7月16日ころ,これをイムズに宛てて発送し,イムズは,同月下旬ころ,これを日本国内に輸入したとの事実が認められるところ,甲9及び乙1に表れたシャツにおける「G.PATRICK」ラベルの標章(本件商標の構成文字の書体のみに変更を加えた同一の文字からなる標章であることが明らかである。)及びその使用態様を併せ考慮すれば,上記被告とイムズとの取引に係るシャツに付されたラベルによって,本件商標と社会通念上同一と認められる商標が,被告を出所として識別する標章として使用されていたとの事実を認めるに足りるというべきである。したがって,審決は,これと同旨の事実を認定したものとして,是認することができる。 (3) 原告は,この点について,甲2,4と甲7,8とは関連性がない,被告の提出に係る証拠は証拠価値(証拠力)が低いなどとして,審決の認定を論難しているが,上記(1)で認定したとおり,被告とイムズとの間の本件取引については,関係証拠に示された注文番号,品物の名称,色番号,個数,梱包数,重量,代金額などの要素がほぼ完全に一致しており,少なくとも上記(1)で摘示した各証拠については,同一の取引に関する証拠であることは明らかというべきである。また,被告側及びイムズ側からそれぞれ収集されたとみられる各証拠が,上記認定に係る一連の取引経緯と細部に至るまで矛盾なく符合していることに照らせば,被告の提出に係る証拠の証拠価値を疑う余地はない。原告は,被告側が作成した陳述書(乙9)によって,商標法50条に規定する「使用」の事実を認定することは制度の実効性を失わせるとも主張するが,もとより,上記(1)の認定は,乙9のみを根拠としたものではないから,原告の批判は当たらないのみならず,他の関係証拠と乙9の記載とが符合していることによって,証拠価値が総合的に高まることは当然である。その他,審決の認定を論難し,被告提出証拠の証拠価値を争う原告の主張は,いずれも単なる憶測の域を出ないものであるか,審決を正解しないまま独自の見解を主張するものにすぎず,採用の限りではない。 (4) 以上のとおり,原告の取消事由1の主張は理由がない。 2 取消事由2(商標法50条の「使用」に該当するとした判断の誤り)について (1) 原告は,被告とイムズとの取引は,イムズが商品を「輸入」したのであって,被告が「輸入」したものではないから,このような行為は,商標法50条に規定する商標の「使用」(同法2条3項)には該当しない旨主張する。 しかしながら,商標法2条3項が同法上の標章の「使用」の定義を規定した趣旨は,商品に標章が表示される場合において,それが何人の使用と認められるものであるかについては社会通念にゆだねるとともに,同法の目的との関係を考慮し,特に商品の識別標識として機能すると認められる事実についてのみ,これを「使用」であると定義することにより,同法上の「使用」としての法的効果を認めるべき行為の範囲を限定したものであると解される。そして,商標権者等が商品に付した商標は,その商品が転々流通した後においても,当該商標に手が加えられない限り,社会通念上は,当初,商品に商標を付した者による商標の使用であると解されるから,その商品が実際に何人によって所有,占有されているとを問わず,同法2条3項に該当する行為が行われる限り,その行為は,当初,商品に商標を付した者による商標の「使用」行為であるというべきである。これを本件のような我が国で商標登録を有する外国法人との関係についてみれば,商標権は,国ごとに出願及び登録を経て権利として認められるものであり,属地主義の原則に支配され,その効力は当該国の領域内においてのみ認められるところから,当該外国法人が商標を付した商品が我が国外において流通している限りは,我が国の商標法の効力は及ばない結果,我が国の商標法上の「使用」として認めることはできないものの,その商品がいったん日本に輸入された場合には,当該輸入行為をとらえ,当該外国法人による同法2条3項2号にいう「商品に標章を付したものを輸入する行為」に当たる「使用」行為として,同法上の「使用」としての法的効果を認めるのが相当である。 そうだとすれば,本件においては,上記1のとおり,本件商標の商標権者であるイタリア法人の被告が本件商標と社会通念上同一と認められる商標を付した商品について,本件審判請求の予告登録日前3年以内である平成9年7月下旬ころ,取引先のイムズがこれを輸入したとの事実を認定できるから,上記イムズの輸入行為をもって,商標法50条に規定する商標権者による本件商標の「使用」があったものと認めることができるというべきである。 (2) 原告は,上記第3の2(2)のとおり,イムズによる輸入行為の存在自体を争うとともに,本件においては前提となる国内での流通が存在しない,イムズは本件商標の正当な権利者ではない等と主張するが,イムズによる輸入行為が認定できることは,上記1で判示したとおりであるし,我が国内での流通の有無を問題とする点については,上記1(1)キのとおり,イムズから他者への「流通」の存在を認定できる上,上記(1)で説示したとおり,イムズの輸入行為をもって被告の「使用」と解することができるというべきであるから,その後の流通の有無を問題にする原告の主張は失当である。さらに,イムズの商標使用権を問題にする点については,別途,国内において本件商標の使用権者が存在するような事案において,その者との競争関係を論ずる場合であれば格別,そのような事情のない本件においては,上記(1)で説示したとおり,イムズの輸入行為をもって商標権者である被告自身の「使用」であると解すれば足りるから,やはり主張自体失当というほかはない。 (3) 原告は,さらに,仮に,本件商標について,不使用取消しを免れるための名目的な使用行為があったとしても,1回限りの名目的,形式的な使用にすぎないから,商標法50条に規定する「使用」に該当しない旨主張する。しかしながら,本件で提出された全証拠によっても,上記1において認定した被告とイムズとの取引が,不使用取消しを免れるための名目的,形式的な取引であることを推測させる事情は何ら認められないばかりか,乙9によれば,被告が,イムズとの上記取引のほかに,複数の日本在の企業との間で取引を行っていたとの事実さえうかがうことができるから,原告の上記主張は採用の限りではない。 (4) 以上によれば,原告の取消事由2の主張は理由がない。 3 以上のとおり,原告主張の取消事由はいずれも理由がなく,他に審決を取り消すべき瑕疵は見当たらない。 よって,原告の請求は理由がないから棄却することとし,主文のとおり判決する。 |
裁判長裁判官 | 篠原勝美 |
---|---|
裁判官 | 長沢幸男 |
裁判官 | 早田尚貴 |