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事件 平成 14年 (ワ) 15434号 損害賠償請求事件
原告 特定非営利活動法人家庭教師派遣業自主規制委員会
原告 株式会社日本家庭教師センター学院
被告 株式会社文理学院
同訴訟代理人弁護士 松岡宏
同 森本 耕太郎
裁判所 東京地方裁判所
判決言渡日 2003/07/11
権利種別 商標権
訴訟類型 民事訴訟
主文 1 原告らの請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告らの負担とする。
事実及び理由
請求の趣旨
〔原告特定非営利活動法人家庭教師派遣業自主規制委員会(以下「原告委員会」という。)〕 1 被告は,原告委員会に対し,金235万8511円及びこれに対する平成13年11月9日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2 被告は,「優良業者の証明!文理学院は,この度,特定非営利活動法人・内閣府認定:家庭教師派遣業自主規制委員会において,“優良AAA業者”に認定されました!!」と表示してはならない。
被告は,上記広告の掲載を自粛し,謝罪広告を掲載せよ。
3 被告は,「家庭教師優良業者全国ネットワーク」名称中の「優良業者」を削除し,同ネットワークを解散し,謝罪広告を掲載せよ。
4 被告は,「委任状」,「認定書」及び「推薦文のある印刷物」を展示又は使用してはならない。
被告は,上記各書面を提出し,原告委員会に対し,返還せよ。
〔原告株式会社日本家庭教師センター学院(以下「原告会社」という。)〕 5 被告は,原告会社に対し,金50万円及びこれに対する平成13年11月9日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
〔原告委員会及び原告会社〕 6 被告は,原告らに対し,金50万円及びこれに対する平成13年11月9日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
7 被告は,別紙標章目録記載の標章(以下「本件標章」という。)を使用してはならない。
被告は,本件標章を付した印刷物を提出し,謝罪広告を掲載せよ。
事案の概要等
1 前提となる事実(証拠を示した事実以外は,当事者間に争いがない。) (1) 原告委員会は,平成5年,原告ら代表者Aが中心となって家庭教師派遣業者により設立された団体であり,平成12年12月28日,特定非営利活動法人となった(甲5,弁論の全趣旨)。
被告は,「文理学院」という商号で家庭教師派遣業を営む株式会社であり,原告委員会の会員である。なお,被告代表者Bは,家庭教師優良業者全国ネットワークに所属している(甲4の1,28の2,乙3)。
(2) 原告会社は,別紙商標権目録記載の商標権(以下「本件商標権」といい,その登録商標を「本件商標」という。)の商標権者である(甲6の1ないし3)。
(3) 原告委員会は,平成11年10月ころ,家庭教師派遣業者のサービス評価をして格付けを行い,優良業者を「AAA」と認定する制度(以下「AAA認定制度」という。なお,本件において「AAA審査」とは,AAA認定制度における審査を意味する。)の運営の準備を始め,同原告に「AAA審査委員会」を設け,同原告副理事長のC(以下「C」という。)をAAA審査委員会の委員長とした(甲25,26,乙3,弁論の全趣旨)。
(4) 原告委員会は,被告に対し,平成13年12月20日付け「『サービス評価』審査結果通知状(C)」と題する書面により,同月5日に開催された家庭教師派遣業者・個別指導教室「サービス評価」認定審査委員会・第三次認定審査会(最終審査会)の結果,被告が不合格となった旨を通知した(甲2)。
2 原告らの主張 (1) 請求の趣旨1項について ア 名誉毀損料及び信用回復対策費用223万2686円 (ア) 被告は,AAA審査の最終審査会が開かれる前から,また,最終審査の結果,AAA審査に不合格となったにもかかわらず,インターネットのホームページ上に,「優良業者の証明!文理学院は,この度,特定非営利活動法人・内閣府認定:家庭教師派遣業自主規制委員会において,“優良AAA業者”に認定されました!!」との虚偽誇大広告を掲載した。
(イ) 被告による上記行為は,原告委員会のNPO活動を妨害し,同原告の信用を失墜させるものであり,同原告は50万円の損害を被った。
また,被告による上記行為は,原告委員会の信用を失墜させるものであり,同原告は,信用を回復するために,AAA評価認定審査案内書,サービス評価のための評価ガイドライン,サービス評価認定審査委員会規約,サービス評価アンケート調査票,サービス評価調査内容表,AAA評価認定証の各文書を作成し,173万2686円を支出し,同額の損害を被った。 イ 理事負担金12万5825円 原告委員会は,平成13年11月8日の第4回理事会及び同年12月20日の第3回臨時総会において,同原告の理事が12万5825円を負担すべき旨の決議を行った。同決議は被告が原告委員会の理事に在任中行われたものである。
ウ 原告委員会は,被告に対し,以上のア及びイの合計235万8511円及びこれに対する平成13年11月9日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の支払を求める。 (2) 請求の趣旨2項について ア 被告による前記(1)ア(ア)の虚偽誇大広告は,特定商取引に関する法律(以下「特定商取引法」という。)43条に違反し,47条に該当する疑いがある。
イ 原告委員会は,被告に対し,「優良業者の証明!文理学院は,この度,特定非営利活動法人・内閣府認定:家庭教師派遣業自主規制委員会において,“優良AAA業者”に認定されました!!」との表示の禁止を求めるとともに,広告掲載の自粛及び謝罪広告の掲載を求める。
(3) 請求の趣旨3項について ア 被告代表者が副会長を務める「家庭教師優良業者全国ネットワーク」の名称は,特定商取引法43条に違反し,47条に該当する疑いがあり,家庭教師派遣業自主規制規約に違反している。
イ 原告委員会は,被告に対し,上記名称中の「優良業者」部分の削除,同ネットワークの解散及び謝罪広告の掲載を求める。
(4) 請求の趣旨4項について 原告委員会は,被告に対し,被告に授与した有効期限が切れた「委任状」及び「認定書」並びに被告に対する同原告の「推薦文のある印刷物」について,展示及び使用の禁止,提出並びに同原告に対する返還を求める。
(5) 請求の趣旨5項及び同7項について ア 原告会社は,本件商標権を有しているところ,被告は,本件商標と同一の本件標章を,インターネットのホームページ(甲4の1ないし3),「今の自主規制委員会を支えて下さるのは優良業者全国ネットワークの皆様方です」と題する書面(甲28の2)及び被告代表者の名刺(乙4)において使用している。
イ 被告の本件標章の使用は,本件商標権を侵害するものであり,原告会社は,被告の上記行為により50万円の損害を被った。
ウ 原告会社は,被告に対し,50万円及びこれに対する平成13年11月9日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の支払を求めるとともに,原告らは,被告に対し,本件標章の使用禁止,同標章を付した印刷物の提出,謝罪広告の掲載をそれぞれ求める。
(6) 請求の趣旨6項について ア 被告は,平成13年11月29日から平成14年1月24日までの間,家庭教師優良業者全国ネットワーク副会長のD,C及び同ネットワーク会員とともに,インターネット[www.aozora.com/kzi]上で,不特定多数を対象として,77回にわたり原告委員会を誹謗中傷した。
イ また,被告は,Dが原告委員会を誹謗中傷する目的で,第三次最終認定審査会審査委員らに対し,同原告の顧問でない者が顧問であるという,事実と異なる内容の文書を送付するために,住所,電話番号,ファックス番号等の情報を提供し,協力した。
ウ 被告による上記各行為は,原告らの名誉を毀損し,営業を妨害し,信用を失墜させるものであり,原告らが上記各行為により被った精神的な苦痛に対する慰謝料としては50万円が相当である。
エ 原告らは,被告に対し,50万円及びこれに対する平成13年11月9日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の支払を求める。
3 被告の主張 (1) 請求の趣旨1項について ア 名誉毀損料及び信用回復対策費用について 被告は,原告委員会から,平成13年9月8日,第一次審査合格通知書の送付を受けた。同通知書には,被告が第一次審査に合格したこと,AAA審査の第二次審査の審査料・認定料として2万円の支払が必要であること,合格した業者を「優良業者AAA」と認定することが記載されていたため,被告は,第二次審査の審査料・認定料として2万円を支払った。被告は,第一次審査も第二次審査も,審査内容は同じであると知らされていたため,第二次審査も合格すると見込み,同年11月初めころ,インターネットのホームページ上において,原告委員会が主張する内容の掲載をしたが,上記掲載の点は,同月8日に開催された同原告の第4回理事会において協議された結果,被告がその場で掲載を中止するなどして決着している。したがって,被告の行為は,何ら違法なものではない。
イ 理事負担金について (ア) 平成13年11月8日の第4回理事会において,原告委員会が主張する決議はされていない。
(イ) また,被告は,平成13年12月20日の第3回臨時総会において,理事辞任届を提出した。
(2) 請求の趣旨2項について 被告の行為は,何ら違法なものではない。
(3) 請求の趣旨3項について ア 特定商取引法43条,47条は,業者と消費者との間の円滑な取引のための規制であるが,家庭教師優良業者全国ネットワークは何ら消費者と取引を行っていないので,同法の規制は受けない。
イ また,家庭教師優良業者全国ネットワークは,優良業者の集まりであり,虚偽・誇張の表示を行っていない。
(4) 請求の趣旨4項について 被告は,「委任状」,「認定書」及び「推薦文のある印刷物」を所持していない。
(5) 請求の趣旨5項及び同7項について ア 被告は,「家庭教師派遣業自主規制委員会」と記載したことはあるが,これは,実際に,被告代表者が原告委員会の副理事長であったときに,名刺の肩書にその旨表示したのであり,商標法上の使用には当たらない。
イ また,原告会社は,原告委員会に対し,本件商標の使用を許諾しており,同原告の会員であり,かつ,役員である被告が本件商標を使用することも許諾していた。
(6) 請求の趣旨6項について 被告は,原告らが主張する行為を行ったことはない。
当裁判所の判断
1 請求の趣旨1項について (1) 名誉毀損料及び信用回復対策費用について 原告委員会は,被告が,被告の営む文理学院のホームページ上に「優良業者の証明!文理学院はこの度,特定非営利活動法人・内閣府認定:家庭教師派遣業自主規制委員会において,”優良AAA業者”に認定されました!!」と掲載した行為により,同原告のNPO活動を妨害し,同原告の信用を失墜させるなどの損害を被らせた旨主張する。
しかしながら,被告の上記行為により,原告委員会のNPO活動が妨害され,同原告の信用が失墜したとの事実を認めるに足りる証拠はない。
したがって,原告委員会の上記請求は理由がない。
(2) 理事負担金について 原告委員会は,被告が同原告の理事であることを前提として,理事会及び臨時総会の決議に基づく理事負担金12万5825円の支払を求めている。
原告委員会作成の「ご入会案内」(甲5)における役員名簿には「副理事長B(大阪・文理学園代表)」と記載され,同原告の定款の附則2項には,同原告の設立当初の役員として,「理事 B」と記載されており(甲21の12),被告代表者個人の名前が理事とされていることが認められるものの,被告が同原告の理事であることを認めるに足りる証拠はない。
したがって,被告が原告委員会の理事であることを前提とする同原告の上記請求は,理由がない。
2 請求の趣旨2項及び同3項について (1) 原告委員会は,被告がインターネットのホームページ上に「優良業者の証明!文理学院は,この度,特定非営利活動法人・内閣府認定:家庭教師派遣業自主規制委員会において,“優良AAA業者”に認定されました!!」と掲載した行為及び「家庭教師優良業者全国ネットワーク」の名称が特定商取引法43条に違反し,47条に当たる旨主張する。
特定商取引法は,43条で役務提供業者等の誇大広告等を禁止する旨規定し,47条で主務大臣の業務停止権限等を規定しているが,役務提供業者等に同法43条に違反する行為があったとしても,私人が同法の規定に基づき当該役務提供業者等に対して業務の停止や違反行為の差止め等の措置を求める権利を有することを規定したものではない。
(2) また,原告委員会は,「家庭教師優良業者全国ネットワーク」の名称が家庭教師派遣業自主規制規約に違反する旨主張する。
しかしながら,家庭教師派遣業自主規制規約は,家庭教師派遣業者において,業務が適正に行われるようその行動準則を規定したものであって,私人が同規約の違反行為の差止め等の措置を求め得る法律上の根拠となるものではない。
(3) したがって,原告委員会の上記請求は理由がない。
3 請求の趣旨4項について 原告委員会は,被告に対し,「委任状」等について,展示及び使用の禁止等を求めているが,その請求を基礎づける原因事実を何ら主張しない。
したがって,原告委員会の上記請求は理由がない。
4 請求の趣旨5項及び同7項について (1) 証拠(甲6の1ないし3)によれば,原告会社は,本件商標権を有することが認められる。
(2) 被告の営む文理学園のインターネットのホームページ上には,「文理学院は,・・・家庭教師派遣業自主規制委員会において,“優良AAA業者”に認定されました」,「家庭教師派遣業自主規制委員会は,学習の機会を必要とする子ども・・・福祉の向上に寄与することを目的とする」,「家庭教師派遣業自主規制委員会とは,何?」などと記載されていることが認められる(甲4の1ないし3)。
しかしながら,これらの記載は,家庭教師派遣業自主規制委員会の業務内容及び被告が同委員会から「優良AAA業者」と認定されたことの意義等を説明的に記述したものであって,被告の商標として使用されたものでないことは明らかである。
また,「今の自主規制委員会を支えて下さるのは優良業者全国ネットワークの皆様方です」と題する書面(甲28の2)には,「家庭教師派遣業自主規制委員会」と表示されているが,同書面と被告との関わりは全く不明であり,これにより被告が本件標章を使用しているとの事実を認めることはできない。
被告代表者の名刺(乙4)には,「NPO法人・家庭教師派遣業自主規制委員会 副理事長」と記載されていることが認められる。しかしながら,上記記載は,同人の役職を示す記載であって,被告の商標として使用されたものでないことは明らかである。
(3) 以上のとおり,被告が本件標章を商標として使用しているとの事実を認めるに足りる証拠はないから,商標権侵害を理由とする原告会社の50万円の損害賠償請求及び原告らの本件標章の使用禁止等の請求は,理由がない。
5 請求の趣旨6項について (1) 被告が,Cらとともに,インターネット[www.aozora.com/kzi]上で,77回にわたり原告委員会に対する誹謗中傷行為を行ったとの事実を認めるに足りる証拠はない。なお,ウエブページ(HTTP.//www.aozora.com/kzi)の写し(甲11の1ないし3,11の4の1及び2,11の5ないし14)には,原告委員会に関する書込みがあることが認められるが,これらの書込みが被告によって行われたことを認めるに足りる証拠はない。
(2) また,被告が原告委員会を誹謗中傷するために作成された文書の送付に協力したとの事実を認めるに足りる証拠はない。なお,証拠(甲9)によれば,「家庭教師派遣業自主規制委員会・入会案内」と題する書面に「顧問」と表示されていたE弁護士が,原告委員会に対し,同人を顧問として表示することの削除を求めた書面を送付したことはうかがわれるものの,上記書面の送付に被告が協力したことを認めるに足りる証拠はない。
(3) したがって,原告らの上記請求は理由がない。
6 結論 以上のとおりであるから,原告らの請求はいずれも理由がない。よって,主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 高部眞規子
裁判官 上田洋幸
裁判官 浅香幹子