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関連ワード 指定商品 /  周知商標 /  周知性 /  4条1項19号 /  不正目的(不正の目的) /  顧客吸引力(グッドウィル) /  ただ乗り(フリーライド) /  権利濫用(権利の濫用) /  専用使用権 /  専用権 /  差止 /  外国 /  継続 /  非類似 / 
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事件 平成 14年 (ワ) 6884号 商標権侵害差止等請求事件
原告 ダイワ企業株式会社
訴訟代理人弁護士 飯塚孝
同 荒木理江
補佐人弁理士 若林擴
被告 トータス株式会社
訴訟代理人弁護士 鈴木修
同 木村 耕太郎
補佐人弁理士 中田和博
同 土生真之
裁判所 東京地方裁判所
判決言渡日 2003/06/30
権利種別 商標権
訴訟類型 民事訴訟
主文 1 原告の請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
請求
1 被告は,別紙標章目録記載の標章を付した別紙物件目録記載の履物を販売してはならない。
2 被告は,別紙標章目録記載の標章を付した別紙物件目録記載の履物を廃棄せよ。
事案の概要
本件は,原告が,別紙標章目録記載の標章(以下「被告標章」という。)を付した履物を輸入販売している被告に対し,被告の上記行為は原告の有する商標権を侵害するとして,同行為の差止め等を求めている事案である。
1 争いのない事実等 (1) 原告は,以下の商標権(以下「本件商標権」といい,その登録商標を「本件商標」という。)を有する(甲1,6)。
登録番号 2256236号 出願年月日 昭和62年12月28日 登録年月日 平成2年8月30日 商品の区分 旧第22類 指定商品 はき物(運動用特殊ぐつを除く),かさ,つえ,これらの部品及び附属品 登録商標 別紙本件商標目録記載のとおり なお,原告は,本件商標権の他にも,本件商標と類似の商標について複数の商標権を有する。
(2) アバディン,エッセ.エル(以下「アバディン社」という。)はスペインの法人であり,スポーツ衣料品等の製造,販売を業としている。アバディン社は,スペインを初めとして世界各国で,「KELME」からなる文字商標,又は「KELME」の文字及び動物の足跡の図形からなる商標(以下「KELME商標」と総称することがある。)を付した商品(以下「KELME商品」と総称することがある。)を販売している。アバディン社は,日本において,KELME商標について,複数の商標権を有する。
(3) 原告は,以前,アバディン社グループのフルーク・エッセ・エル(以下「フルーク社」という。)及びケレメ・エクスポルタシオン・エッセ・エル(以下「ケレメ・エクスポルタシオン社」という。)から,KELME商品を輸入し,販売していた(甲22,乙9)。
(4) 本件商標は昭和62年に株式会社タイセイ(以下「タイセイ」という。)によって出願され,平成2年に登録された。原告は,ケレメ・エクスポルタシオン社から輸入したKELME商品を販売するのに利用するため,平成5年2月25日にタイセイから本件商標権について専用使用権の設定を受けた。その後,原告は,平成8年5月8日にはタイセイから本件商標権を譲り受け,同年10月21日,その登録をした(甲1,6)。
(5) 被告は,アバディン社の正規輸入代理店であり,別紙物件目録記載の各商品(いずれもシューズである。以下「被告商品」と総称する。)を,アバディン社から輸入し,販売しているが,被告商品には,本件商標と同一ないし類似した被告標章が付されている(乙7,8,10)。
2 争点 (1) 本件商標権の指定商品と被告商品との類否 (2) 原告の本訴請求は権利濫用として許されないか。
(3) 被告標章の使用は,商標権に基づく使用として許されるか。
3 争点に対する当事者の主張 (1) 本件商標権の指定商品と被告商品との類否(争点(1))について (原告の主張) ア 履物と運動用特殊靴との区別について 特許庁商標課による商品区分解説によれば,「履物」とは,「主として日常歩行の際に使用される履物が含まれ,専らスポーツをする際に限って使用される運動用特殊靴は属しない」とされている。
また,東京高等裁判所は,「スケートボード用靴で通常の運動靴と変わりのない商品は,『履物(運動用特殊靴を除く)』中の『運動靴』に該当する」と判示している。
そうすると,「履物」とは,専らスポーツをする際に限って使用されるものは除外されるが,通常の運動靴として市中で使用するものは含まれるというべきである。
イ 被告商品は,サッカー用靴とは異なり,底にスパイクが打たれていないこと,サッカー靴用専門店ばかりでなく,一般のスポーツ用品店及び婦人靴を扱う履物店においても販売されていること,フットサルシューズはタウンシューズとして爆発的な人気があることから,被告商品は通常の運動靴として市中で使用できる履物に当たると解すべきである。
したがって,被告商品は「運動用特殊靴」ではなく,本件商標権の指定商品の一つである「履物」に当たる。
(被告の主張) 被告商品は,運動用特殊靴に該当するのみならず,本件商標の指定商品の「履物(運動用特殊ぐつを除く)」と類似する商品ではない。理由は以下のとおりである。
ア 被告商品は,フットサル用シューズであり,以下のとおり,通常の運動靴とは異なる特徴を備えている。
(ア) ボールを蹴っても足が痛くならないようにつま先からアッパー部にかけて別の布地を上から貼り付けて補強している。
(イ) 上記の補強部は,ボールを保持しやすいように摩擦係数の大きい合成起毛生地(マイクロスウェード)が使用されている。
(ウ) ボールを蹴りやすいように,靴紐部の並びが外側に向かって湾曲している。
(エ) ストップ,ダッシュ,ターンの連続の激しい動きをしても足がぶれず,かつ靴の耐久性を高めるために,靴底の側面上部にステッチが施されている。
(オ) 室内の競技場の床に対して高いグリップ性を発揮するために,比較的軟質のゴム製の素材を使用し,かつ波形のカットをいれることにより特に前後方向のぶれを防いでいる。
原告は,被告商品にはスパイクがないから運動用特殊靴ではない旨主張する。しかし,フットサルは基本的には室内競技であるから,スパイクがないのは当然であり,原告の上記主張は理由がない。
イ 原告は,「履物」とは,専らスポーツをする際に限って使用されるものは除外されるが,通常の運動靴として市中で使用するものを含まれると主張する。
しかし,原告がその主張の根拠とする上記東京高裁判決は,スケートボード用靴には,競技用の特殊なもののほか,単にスケートボードのような機敏な動きにも適することをアピールするために「スケートボード用靴」と称され,通常の運動靴として市中で使用してよいものの2種類があると認定した上で,後者については「はき物(運動用特殊靴を除く)」中の「運動靴」に該当すると認定したのであって,「通常の運動靴として市中で使用してもよいかにより判断すべきである」と判示したのではない。したがって,原告のこの点の主張は理由がない。
ウ 特許庁の審査基準においては,「靴類」と「運動用特殊靴」とは互いに非類似とされており,かつ,「運動用特殊靴」には「サッカー靴」が含まれるとされているから,特許庁は,「靴類」と「サッカー靴」とを互いに非類似のものとして扱っている。そして,実際の登録例を見ると,「サッカー靴」は,「屋内サッカー靴」と「屋外サッカー靴」とに分類され,いずれも「運動用特殊靴」の一種として登録されている。
被告商品は,屋内サッカー靴に該当する。被告商品は,サッカー用品専門店,又はサッカー専門コーナーを有するスポーツ用品店等でしか販売されていない。被告商品のうちの「サルサ インドア」は,プロが使用するモデルである。このような点に鑑みると,被告商品は,本件商標権の指定商品の「履物」と非類似である。
(2) 原告の本訴請求は権利濫用として許されないか(争点(2))について (被告の主張) ア アバディン社と原告とのKELME商品に関する取引について 原告は,平成6年3月から平成7年11月にかけて,アバディン社グループのフルーク社及びケレメ・エクスポルタシオン社から,KELME商品を輸入し,販売していた(なお,フルーク社はアバディン社グループの製造部門を会社組織としたものであり,ケレメ・エクスポルタシオン社はアバディン社グループの輸出担当部門を会社組織としたものである。)。
平成7年,アバディン社は,中国においてKELME商品の偽造品が製造されているのを発見し,これを調査したところ,原告が製造させていることが判明したので,同年末ころ,アバディン社のグループ企業の従業員であったA氏が大阪において,原告の経営陣らと直接に会って抗議し,中国での偽造品の製造を中止するよう申し入れた。原告がこれを受け入れないので,アバディン社は原告との取引を中止した。なお,A氏と原告との上記会談の際,原告は,アバディン社に対し,本件商標権をタイセイから譲り受けることの許可を求めたが,アバディン社は,この申し出を拒絶した。
イ アバディン社のKELME商標の周知著名性 アバディン社は,高級スポーツ衣料品等の生産,販売を業としているが,スペイン及びロシアに生産施設を有し,フランス,ドイツ,イタリア,ブラジル,米国等に支社を有し,世界中に1万店を超える販売店を有している。
また,アバディン社は,1970年代から,KELME商標について,サッカー(フットサルを含む。),自転車,テニスを初めとする多くのプロスポーツ選手やプロスポーツチームのスポンサーをしている。例えば,アバディン社は,1974年には,700人の子供によって構成されるサッカーチーム「ケレメ・シー・エフ」を設立し,1987年には,100人以上の選手によるプロの体操チームを設立し,1988年には,テニス選手のコンチータ・マルチネスや,サッカー選手のスビサレタのスポンサーをし,1989年には,116人の子供と30人の大人によって構成されるテニスチーム「ケレメ・テニス・クラブ」を設立し,1990年には,陸上選手のサイド・アウィータのスポンサーやスペインのサッカーチームのレアル・オビエド・シー・エフのスポンサーをし(3シーズン),1993年には,マヨルカ・シー・エフチームのスポンサーをし(5シーズン),1996年には,イタリアのサッカーチームのスポンサーをし,バスケットボールチーム「ホベントゥ・デ・バダロナ」と4年間の技術援助契約を締結した。1992年のバルセロナオリンピックにおいて,アバディン社は,スペインの参加するすべての競技において,スペイン代表チームの公式スポンサーとなり,競技用を含む被服8万5000点,履物8000点,アクセサリー8000点を提供した。また,アバディン社は,1994/95年シーズンから1997/98年シーズンにかけての5年間,レアル・マドリードの公式テクニカル・サプライヤーとして,KELME商標を付したユニフォームやシューズ等を同チームに提供するとともに,同期間,「レアル・マドリード」をモデルとしてKELME商標を付したユニフォームやシューズ等を,世界各国で大量に販売した。また,アバディン社は,1979年にサイクリングチーム「コスタ・ブランカ」を設立し,KELME商標を付したユニフォームやシューズ等を同チームに提供しているが,同チームは現在に至るまで,世界3大大会に継続的に出場し,何回も優勝している。
このように,KELME商標は,アバディン社の出所を表示する商標として,少なくともスペインを始めとする諸外国で周知著名となっている。
ウ アバディン社によるKELME商標の商標登録 KELME商標のうちの一つ(登録第368695号)は,1960年(昭和35年)7月26日に出願され,1961年(昭和36年)12月18日に登録されたが,その後,平成5年10月29日,アバディン社へ譲渡された。
なお,アバディン社は,KELME商標のうちのいくつかを,B氏,C氏,キナ・エルチェ社から譲り受けているが,B氏及びC氏は,アバディン社の創立者であり(C氏はアバディン社の代表者である。),キナ・エルチェ社は,アバディン社のグループ企業のうちの1社であった(約20年前に解散した。)。
権利濫用 上記の各事実からすれば,タイセイの本件商標出願は,アバディン社に帰属する著名なKELME商標の顧客誘引力にただ乗りし,又はアバディン社の日本における事業活動を妨害しようとする「不正の目的」によるものであることは明らかであるから,本件商標は商標法4条1項19号所定の無効理由を有する。
また,仮に,本件商標が商標法4条1項19号の要件を充たさないとしても,上記の事実からすれば,アバディン社の正規輸入代理店である被告のKELME商標の使用に対して,原告が本件商標権に基づき権利行使をすることは,権利の濫用となり許されないというべきである。
(原告の反論) ア 原告が本件商標権を取得するに至った経緯 (ア) 原告は,平成5年2月から,アバディン社グループのフルーク社及びケレメ・エクスポルタシオン社や,アバディン社の正規輸入代理店である韓国の学山トレーディング社から,KELME商品を輸入し,販売していた(なお,原告は,当時は,スペインにおけるKELME商標の商標権者はKELME社であると認識していた。)。
原告がKELME商品の輸入販売を開始するに当たりKELME商標についての登録状況を調べたところ,本件商標がタイセイによって登録されていることが分かったため,タイセイから本件商標権について専用使用権の設定を受けた。
(イ) その後,原告は,コスト等の問題から,KELME商品の輸入を止めた。
なお,平成7年,原告はA氏と大阪で会談し,A氏から中国での偽造品の製造を中止するよう要請されたが,原告は,本件商標権の専用使用権に基づく正当な権利行使として,中国においてKELME商品の製造を発注していたことから,A氏の上記要請を拒絶した。原告がアバディン社に対して,タイセイから本件商標権を譲り受けることの許可を求めたことはない。
(ウ) その後,タイセイは資金難に陥り,本件商標権を譲渡して資金調達を図ろうとし,原告は,タイセイに協力することとし,平成8年に,タイセイから本件商標権を譲り受けた。
(エ) 原告が不正の目的をもって本件商標権を譲り受けたということはない。
イ アバディン社のKELME商標の周知著名性等 (ア) アバディン社がバルセロナオリンピックにおけるスペインチーム,レアル・マドリード,サイクリングチームのスポンサーとなったのは,タイセイが本件商標登録出願をした昭和62年以降のことである。
タイセイが本件商標を出願した昭和62年当時,KELME商標が周知著名であったということはできない。
(イ) スペインの商標検索システムであるKISSコンピュータサーチデータの調査結果によれば,アバディン社がKELME商標の商標権者として登場するのは平成3年以降である。これに対して,上記のように,タイセイが本件商標権を取得したのは平成2年である。
権利濫用について 以上の事実に照らすならば,原告が被告に対して本件商標権に基づく権利行使をすることは権利の濫用とはならない。
(3) 被告の被告標章の使用は,商標権に基づく使用として許されるか(争点(3))について (被告の主張) アバディン社は,第25類「運動特殊衣服,運動用特殊靴,被服」について,「KELME」と「ケレメ」とを上下2段に書してなる登録商標(登録第4382132号)を有しているから,アバディン社は,商標の専用権の効力として,他人の登録商標のいかんにかかわらず運動用特殊靴にKELME商標を付して使用する権利を有している。
そして,被告は,アバディン社から,KELME商品を購入しているのであるから,原告は,被告の被告標章の使用に対して本件商標権に基づく権利行使を行うことはできない。
(原告の認否) 争う。
当裁判所の判断
1 原告の本訴請求は権利濫用として許されないか(争点(2))について (1) 事実認定 前記争いのない事実等,証拠(甲1,6,14,15,17,22,乙1,2,4,7ないし30,32ないし42)及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。
ア アバディン社のKELME商標の周知性等 アバディン社はスペインの法人であり,スポーツ衣料品等の製造,販売を業としているが,アバディン社の前身であるアバディン,エッセ.アー(以下,同社も「アバディン社」という。)は,1960年代から,そのグループ企業や,関係のある個人の名義で,「KELME」の文字や「KELME」の文字と動物の足跡の図形から構成される商標を,「履物一般及びその附属品」等を指定商品として多数出願(スペイン出願及び国際商標出願)し,それらの登録を受けてきた。また,アバディン社は,平成3年1月16日,日本において,「KELME」の文字及び動物の足跡の図形から構成される商標を,指定商品を旧第17類「被服(運動用特殊被服を除く),布製身回品(他の類に属するものを除く),寝具類(寝台を除く)」及び旧第24類「おもちゃ,人形,娯楽用具,運動具,釣り具,楽器,演奏補助品,蓄音機(電気蓄音機を除く),レコード,これらの部品及び附属品」として,それぞれ登録出願し,それぞれ,平成6年5月31日及び平成11年9月17日に登録を受け,平成7年7月24日には,「KELME」の文字と「ケレメ」の文字を上下2段とした商標を,指定商品を第25類「運動用特殊衣服,運動用特殊靴,被服」として登録出願し,平成12年5月12日,その登録を受けた。
アバディン社グループは,1977年(昭和52年)に,スペインにおいて,KELME商品の製造,販売を開始し,現在は,ベネルクス三国,ブラジル,フランス,ドイツ,イタリア,パナマ,ロシア及び米国などの国々に支社を有し,オーストラリア,チリ,デンマーク,フィンランド,ギリシャ,ハンガリー,日本,ヨルダン,マルタ,ポーランド,ポルトガル,スロヴェニア及びスウェーデンに代理店を置き,世界中で1万店を超える販売店を有している。アバディン社グループは,KELME商品の販売開始以降,KELME商標を周知させ,その顧客吸引力を高めるために,各種のスポンサー契約を締結したり,広告をしたりするなどの努力をしてきた。例えば,アバディン社グループは,昭和62年には,サッカー選手のミチェル及びバスケットボール選手のヴィジャカンパと広告及びイメージ契約を締結し,昭和63年には,テニス選手のコンチータ・マルチネスのスポンサーをし,平成2年には,陸上選手のサイド・アウィータのスポンサーをし,平成4年には,バルセロナオリンピックにおけるスペインチームのスポンサーをした。また,アバディン社グループは,平成6年には,スペインのサッカーチームであるレアル・マドリードと5年間,5シーズンの技術援助契約を締結し,レアル・マドリードに所属する多数の選手にKELME商品を着用させた写真を多数登載したカタログを作成,頒布した。また,アバディン社グループは,サッカーチーム,自転車チーム,テニスチームを設立している。
イ 原告とアバディン社間のKELME商品に関する取引の経緯 原告は,靴の製造,販売を業とする株式会社であり,昭和58年に設立された。原告は,平成6年3月から平成7年11月まで,アバディン社グループの製造部門を会社組織としたフルーク社及びアバディン社グループの輸出担当部門を会社組織としたケレメ・エクスポルタシオン社から,KELME商品を合計14万ドル以上輸入し,これを日本で販売していた。原告は,KELME商品を輸入,販売するに際し,KELME商標の登録状況について調査したところ,本件商標が既に登録されていることが分かったため,平成5年2月25日,本件商標の商標権者であるタイセイから,本件商標についての専用使用権の設定を受けた。
アバディン社は,平成7年,原告が,中国のアモイの工場に,アバディン社の許諾なく,KELME商品の製造を発注していたことを発見したため,原告に対し,この件について抗議をし,中国におけるKELME商品の製造を中止するよう要請したが,原告は,本件商標の専用使用権を有すると反論し,これを拒絶した。そこで,アバディン社は,原告へのKELME商品の供給を止めることとし,平成7年12月以降,アバディン社グループと原告との間の取引はなくなった。
ウ 原告のKELME商標に係る商標権の取得の経緯 原告は,平成8年5月8日,タイセイから本件商標権を譲り受け,同年10月21日,その登録を受けた。また,原告は,平成6年8月11日,日本において,「KELME」の文字のみから構成される商標及び「KELME」の文字及び動物の足跡の図形から構成される商標を,いずれも指定商品を旧第18類「かばん類,袋物」として登録出願し,それぞれ,平成9年1月31日に登録を受けた。
また,原告は,平成3年10月30日,「KELME」の文字を上段,「ケルム」の文字を下段とした商標について,指定商品を「おもちゃ,人形,娯楽用具,運動具,釣り具,楽器,演奏補助品,蓄音機(電気蓄音機を除く。)レコード,これらの部品及び附属品」として登録出願したが,平成11年11月19日,拒絶査定を受けた。
なお,原告は,インターネット上にホームページを開設しており,同ホームページ上には,KELME商標について,「スペインのブランド。サッカーのユニフォームでも有名。」と記載されている。
エ 被告によるKELME商品の輸入,販売 被告は,KELME商品についての日本におけるアバディン社グループの唯一の正規販売代理店であるが,平成8年5月から,アバディン社のグループ企業であるインドゥストリアス・デル・カルサード・イ・プレンダス・デポルティーヴァス・エッセ・アーから,被告商品を含むKELME商品を輸入している。
(2) 権利濫用の有無についての判断 上記認定した事実に基づき,権利濫用の有無について判断する。
アバディン社グループは,1960年代にKELME商標の出願をし,1977年(昭和52年)から,KELME商品を製造,販売しており,その後,平成4年にはバルセロナオリンピックにおいてスペインチームのスポンサーをしたり,平成6年にはスペインのサッカーチームであるレアル・マドリードと技術援助契約を締結するなど,KELME商標のブランド価値を高めるための様々な宣伝広告活動をしていること等の事実に照らすならば,KELME商標は,遅くとも,平成8年までには,少なくともスペインにおいて周知商標となっていたものと推認できる。
そして,上記の事実,及び@原告は,平成6年3月以降,スペインのアバディン社グループからKELME商品を輸入し,これを日本において販売していたが,アバディン社グループから平成7年12月以降の取引を拒絶されたため,以後アバディン社グループからKELME商品の輸入ができなくなったこと,A原告は,KELME商品を輸入するに当たり,タイセイから,同社が既に取得した本件商標権についての専用使用権の設定を受け,その後,平成8年5月8日に,タイセイから本件商標権を譲り受けて,同年10月21日,その登録をしたこと,B原告は,自らが開設したホームページ上で,KELME商標について,「スペインのブランド。サッカーのユニフォームでも有名。」と記載し,あたかも,原告の扱っている商品がアバディン社グループのKELME商品と関連があるかのような説明をしていること,C原告は,KELME商品の輸入,販売をしていた平成6年8月11日,「KELME」の文字及び動物の足跡の図形から構成される商標についても登録出願をし,平成9年1月31日にその登録を受けたこと等の事実を総合すれば,原告は,自らも平成6年から7年にかけて輸入・販売し,また,世界各国に輸出・販売されている,スペインの周知商標(KELME商標)の付されたKELME商品について,わが国への輸入を阻止し,KELME商標に類似した商標を付した商品を独占的に販売するという不当な目的のために,既にタイセイにより設定登録されていた本件商標権を同社から譲り受けたものと認めるのが相当である。他方,被告は,アバディン社グループの日本における正規販売代理店であり,被告商品は,被告がアバディン社グループから輸入したKELME商品である。
以上に判示したところを総合考慮すれば,原告が本件商標権に基づき,被告に対し,被告商品の販売の差止め及び被告商品の廃棄を求めることは,正当な権利の行使とはいえず,公正な競業秩序を乱すものとして,権利の濫用に当たるというべきである。
2 したがって,その余の点について判断するまでもなく,原告の本訴請求は理由がないから,主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 飯村敏明
裁判官 榎戸道也
裁判官 佐野信