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事件 平成 14年 (ワ) 17210号 損害賠償等請求事件
原告A
原告 株式会社日本家庭教師センター学院
被告 株式会社ティ・ティ・シー
同訴訟代理人弁護士 三好徹
同 吉田哲
同 根本雄一
同 渡辺昇一
同 藤川浩一
同 高久尚彦
同 岩本康一郎
同 岩田央子
同 西尾政行
同 宮下正臣
同 中山素子
同 井川真由美
裁判所 東京地方裁判所
判決言渡日 2003/06/27
権利種別 商標権
訴訟類型 民事訴訟
主文 1 原告らの請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告らの負担とする。
事実及び理由
請求の趣旨
〔原告特定非営利活動法人家庭教師派遣業自主規制委員会(以下「原告委員会」という。)〕 1 被告は,原告委員会に対し,金43万1000円及びこれに対する平成13年11月9日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2 被告は,「家庭教師優良業者全国ネットワーク」名称中の「優良業者」を削除し,同ネットワークを解散せよ。
被告は,上記名称の関連マーク等を削除し,使用してはならない。
3 原告委員会と被告との間において,被告は,同原告に対してAAA審査の審査料・認定料として支払った金2万円の返還請求権を有しないことを確認する。
〔原告株式会社日本家庭教師センター学院(以下「原告会社」という。)〕 4 被告は,原告会社に対し,金50万円及びこれに対する平成13年11月9日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
〔原告委員会及び原告会社〕 5 被告は,別紙標章目録記載の標章(以下「本件標章」という。)を使用してはならない。
被告は,本件標章の使用に関し,謝罪広告を掲載せよ。
事案の概要等
1 前提となる事実(証拠を示した事実以外は,当事者間に争いがない。) (1) 原告委員会は,平成5年,原告ら代表者Bが中心となって家庭教師派遣業者により設立された団体であり,平成12年12月28日,特定非営利活動法人となった(甲26,30,乙4,弁論の全趣旨)。
被告は,家庭教師派遣業を営む株式会社である(乙4)。なお,被告代表者Cは,家庭教師優良業者全国ネットワークに所属している(甲12の1)。
(2) 原告会社は,別紙商標権目録記載の商標権(以下「本件商標権」といい,その登録商標を「本件商標」という。)の商標権者である(甲2の1及び2)。
(3) 原告委員会は,平成11年10月ころ,家庭教師派遣業者のサービス評価をして格付けを行い,優良業者を「AAA」と認定する制度(以下「AAA認定制度」という。なお,本件において「AAA審査」とは,AAA認定制度における審査を意味する。)の運営の準備を始め,同原告に「AAA審査委員会」を設け,同原告副理事長のD(以下「D」という。)をAAA審査委員会の委員長とした(甲24,26,30,乙4,弁論の全趣旨)。
(4) 被告は,平成13年9月8日,原告委員会のAAA審査委員会から,第一次審査に合格した旨の通知書(以下「第一次審査合格通知書」という。甲4)の送付を受けた。同通知書には,@ 被告がAAA審査の第一次審査に合格したこと,A 第二次審査は,大学教授・弁護士・消費者コンサルタント等を審査員にまじえて厳正に実施すること,B 第二次審査に合格した業者を「優良業者AAA」と認定すること,C 「優良業者AAA」には,認証番号を付与した認定書を交付し,原告委員会のホームページに掲載すること,D 第二次審査を希望する場合には,審査料・認定料2万円を同月30日までに指定の口座に振込送金する必要があり,不合格の場合はその半額を返還すること,E 第二次審査の結果は,同年10月末に連絡すること,F ホームページ掲載時には,管理料として年間5000円が別途必要となることなどが記載されていた。
被告は,原告委員会に対し,上記AAA審査の審査料・認定料として2万円を支払った(甲4,乙4)。
(5) 原告委員会は,被告に対し,平成13年11月20日,同月30日までに「優良AAA家庭教師派遣業者」認定料・登録料・交付料15万円を指定の口座に振込送金する必要があることなどが記載された書面を送付した(乙3,4)。
(6) 被告は,原告委員会に対し,平成13年11月末日ころ,被告に関するAAA審査を中止し,審査料・認定料として支払った2万円と提出済みの審査資料を返還することを求めた(甲31,乙4,弁論の全趣旨)。
(7) 原告委員会は,被告に対し,平成13年12月20日付け「『サービス評価』審査結果通知状(C)」と題する書面(以下「審査結果通知状」という。)により,同月5日に開催された家庭教師派遣業者・個別指導教室「サービス評価」認定審査委員会・第三次認定審査会(最終審査会)の結果,被告が不合格となった旨を通知した(甲10)。
2 原告らの主張 (1) 請求の趣旨1項について ア(ア) 被告は,平成13年11月29日から平成14年1月24日までの間,家庭教師優良業者全国ネットワーク副会長のE,D及び同ネットワーク会員とともに,インターネット[www.aozora.com/kzi]上で,不特定多数を対象として,77回にわたり原告委員会を誹謗中傷した。
(イ) また,被告は,Eが原告委員会を誹謗中傷する目的で,第三次最終認定審査会審査委員らに対し,同原告の顧問でない者が顧問であるという,事実と異なる内容の文書を送付するために,住所,電話番号,ファックス番号等の情報を提供し,協力した。
イ(ア) 被告による上記各行為は,原告委員会の名誉を毀損し,営業を妨害し,信用を失墜させるものであり,同原告が上記各行為により被った精神的な苦痛に対する慰謝料としては23万1000円が相当である。
(イ) また,被告による上記各行為は,原告委員会の実施するAAA認定制度の信用性及び社会性を大きく傷つけるものであり,同原告が上記各行為により被った名誉の毀損による損害,支出を要した活動復活費用,企画料及び印刷費用並びに慰謝料としては20万円が相当である。
ウ 原告委員会は,被告に対し,以上の合計43万1000円及びこれに対する平成13年11月9日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の支払を求める。
(2) 請求の趣旨2項について ア 被告が所属する「家庭教師優良業者全国ネットワーク」の名称は,特定商取引に関する法律(以下「特定商取引法」という。)43条に違反し,47条に該当する疑いがあり,家庭教師派遣業自主規制規約に違反している。
イ 原告委員会は,被告に対し,上記名称中の「優良業者」部分の削除,同ネットワークの解散並びに関連マーク等の削除及び使用禁止を求める。
(3) 請求の趣旨3項について ア 被告は,第一次審査合格通知書の送付を受け,原告委員会に対し,AAA審査の二次審査の審査料・認定料として2万円を支払った。しかし,第一次審査合格通知書は,Dが原告委員会事務局長であるF(以下「F」という。)に指示して作成したものであって,同原告の理事会も理事長も承認していない文書であった。
イ 原告委員会は,平成13年11月8日の第4回理事会において,二次審査(最終審査)に必要な審査資料をDが提出し,被告ら既に第一次審査合格通知書により審査料・認定料2万円を支払っている業者については二次審査を行う旨決議した。しかし,Dは,審査資料を提出せず,被告は,同年12月5日行われた最終審査において,不合格となり,原告委員会は,被告に対し,不合格となった旨通知した。
ウ 被告は,原告委員会に対し,審査が不合格となる前に,二次審査の申請を辞退する旨申し入れたが,これは,被告が審査に不合格になることを恐れたためであり,申請の辞退を認める理由はない。
エ 被告が二次審査の申請を辞退したとしても,被告から支払を受けた2万円は審査料であり,入学試験で試験料を返還しないのと同じ性質のものであって,被告に返還すべきものではない。また,原告委員会は,平成13年12月20日の第3回臨時総会において,審査料・認定料として支払を受けた2万円は返還しない旨決議を行っている。
オ 原告委員会は,被告が同原告に対しAAA審査の審査料・認定料として支払った2万円の返還請求権が存在しないことの確認を求める。
(4) 請求の趣旨4項及び同5項について ア 原告会社は,本件商標権を有しているところ,被告は,本件商標と同一の本件標章を,「今の自主規制委員会を支えて下さるのは優良業者全国ネットワークの皆様方です」と題する書面(甲12の1)において使用している。
イ 被告の本件標章の使用は,本件商標権を侵害するものであり,原告会社は,被告の上記行為により50万円の損害を被った。
ウ 原告会社は,被告に対し,50万円及びこれに対する平成13年11月9日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の支払を求めるとともに,原告らは,被告に対し,本件標章の使用禁止,謝罪広告の掲載をそれぞれ求める。
3 被告の主張 (1) 請求の趣旨1項について 被告は,原告委員会が主張する行為を行ったことはない。
(2) 請求の趣旨2項について 「家庭教師優良業者全国ネットワーク」の名称中の「優良業者」部分が特定商取引法43条にいう「有利であると人を誤認させるような表示」に該当するとはいえない。また,被告は,家庭教師優良業者全国ネットワークの代表者でも主催者でもなく,被告が主体となって同名称を使用しているわけではないから,原告委員会が被告に対しこのような請求を行う理由はない。
(3) 請求の趣旨3項について ア 契約不成立 原告委員会は,第一次審査合格通知書は,同原告の理事会も理事長も全く承認していない書面であり,Dの依頼を受けてFが発送した旨主張する。
そうすると,第一次審査合格通知書は,原告委員会の有効な意思表示とはいえないにもかかわらず,被告は,その記載に基づき,同原告に対しAAA審査の審査料・認定料として2万円を支払ったものであるから,この支払をもってAAA審査に関する契約の申込みの意思表示と評価することができる。これに対し,原告委員会は,被告に対し,合計15万円で最終審査をする旨の書面を送付しているが,同書面は,被告の申込み内容と合致しておらず,その直後に,被告が審査の中止を求めたものであるから,同原告と被告との間でAAA審査に関する契約は成立しなかったこととなる。
よって,原告委員会は,被告に対し,被告から受領した2万円の返還義務を負う。
イ 錯誤又は詐欺 仮に,原告委員会と被告との間にAAA審査に関する契約(以下「本件契約」という。)が成立したとしても,以下のとおり,錯誤により無効であり,又は詐欺により取り消されたものであるから,同原告は,被告に対し,被告から受領したAAA審査の審査料・認定料2万円の返還義務を負う。
(ア) 原告委員会から被告に送付された第一次審査合格通知書には,「審査料・認定料」として2万円が必要であるとの記載はあるが,このほかに「認定料・登録料・交付料」として別途15万円が必要になるとの記載はない。
仮に,被告が上記2万円のほかに「認定料・登録料・交付料」として別途15万円の費用が必要となることを知っていたとすれば,被告が本件契約の申込みをすることはなかったはずであるから,被告のした本件契約の申込みの意思表示には要素の錯誤があり,無効である。
(イ) また,原告委員会が上記2万円のほかに「認定料・登録料・交付料」として別途15万円の費用が必要となることを秘匿し,被告に本件契約の申込みをさせたのであれば,被告のした本件契約の申込みの意思表示は,同原告の詐欺に基づくものである。被告は,平成14年10月29日の本件口頭弁論期日において,これを取り消す旨の意思表示をした。
債務不履行解除 仮に,本件契約が有効に成立しているとしても,原告委員会が平成13年11月20日に通知したAAA審査は,本件契約の前提である当初のAAA審査とは内容が大きく異なり,既に当初のAAA審査は存在しないこととなる。そうすると,本件契約に基づく原告委員会の債務は,この時点で履行不能となっている。
被告は,原告委員会に対し,平成14年10月29日の本件口頭弁論期日において,本件契約を解除する旨の意思表示をした。
したがって,原告委員会は,被告に対し,解除による原状回復義務として,被告から受領した審査料・認定料2万円の返還義務を負う。
(4) 請求の趣旨4項及び同5項について 被告は,本件標章を使用したことはない。
当裁判所の判断
1 請求の趣旨1項について (1) 原告委員会は,被告が,Eらとともに,インターネット[www.aozora.com/kzi]上で,77回にわたり同原告に対する誹謗中傷行為を行った旨主張するが,上記事実を認めるに足りる証拠はない。なお,ウエブページ(Http://www.aozora.com/kzi)の写し(甲14の1ないし3,14の4の1及び2,14の5ないし14)には,原告委員会に関する書込みがあることが認められるが,これらの書込みが被告によって行われたことを認めるに足りる証拠はない。
(2) また,原告委員会は,被告が同原告を誹謗中傷するために作成された文書の送付に協力した旨主張するが,上記事実を認めるに足りる証拠はない。
(3) したがって,原告委員会の上記請求は理由がない。
2 請求の趣旨2項について (1) 原告委員会は,「家庭教師優良業者全国ネットワーク」の名称が特定商取引法43条に違反し,47条に当たる旨主張する。
特定商取引法は,43条で役務提供業者等の誇大広告等を禁止する旨規定し,47条で主務大臣の業務停止権限等を規定しているが,役務提供業者等に同法43条に違反する行為があったとしても,私人が同法の規定に基づき当該役務提供業者等に対して業務の停止や違反行為の差止め等の措置を求める権利を有することを規定したものではない。
(2) また,原告委員会は,前記名称が家庭教師派遣業自主規制規約に違反する旨主張する。
しかしながら,家庭教師派遣業自主規制規約は,家庭教師派遣業者において,業務が適正に行われるようその行動準則を規定したものであって,私人が同規約の違反行為の差止め等の措置を求め得る法律上の根拠となるものではない。
(3) したがって,原告委員会の上記請求は理由がない。
3 請求の趣旨3項について (1) 前提となる事実(前記第2の1)に証拠(甲4,10,24,26,30,31,乙3,4)及び弁論の全趣旨を総合すれば,以下の事実が認められ,これを覆すに足りる証拠はない。
ア 原告委員会は,平成11年10月ころ,AAA認定制度の運営の準備を始め,平成12年1月以降,無作為に抽出した全国の家庭教師派遣業者に対し,「安心度AAA評価アンケート調査」と題する書面を送付した。
イ 被告は,平成12年1月ころ,原告委員会から前記「安心度AAA評価アンケート調査」と題する書面の送付を受け,アンケートの回答その他の書類を同原告に返送した。
ウ 原告委員会は,被告に対し,平成13年9月8日,第一次審査合格通知書を送付した。同通知書には,前記第2の1(4)の@ないしFのとおり,要するに,AAA審査の第二次審査の審査料・認定料として2万円を支払い,合格した業者を「優良業者AAA」と認定する旨記載されていた。
エ 被告は,AAA審査の第二次審査の審査料・認定料2万円を原告委員会の指定する口座に振込送金した。
オ 原告委員会は,平成13年10月末までに第二次審査を実施してその結果を被告に通知することをせず,同年11月20日,被告に対し,AAA審査を受けるためには,「優良AAA家庭教師派遣業者」審査料として9万円,「優良AAA家庭教師派遣業者」認定料・登録料・交付料として15万円が必要であり,既に審査料2万円を納入済みの者は,上記審査料9万円が減額されること,同月30日までに「優良AAA家庭教師派遣業者」認定料・登録料・交付料15万円を指定の口座に振込送金する必要があることなどが記載された書面を送付した。
カ 被告は,原告委員会に対し,平成13年11月末日ころ,被告に関するAAA審査を中止し,審査料・認定料として支払った2万円と提出済みの審査資料を返還するよう求めた。
キ 原告委員会は,被告に対し,審査結果通知状により,平成13年12月5日に開催された家庭教師派遣業者・個別指導教室「サービス評価」認定審査委員会・第三次認定審査会(最終審査会)の結果,被告が不合格となった旨を通知した。
(2) 以上の事実によれば,第一次審査合格通知書の体裁及び記載内容に照らし,通常人であれば,審査料・認定料として2万円を支払えば,第一次審査合格通知書に記載されたとおりの内容で,AAA審査の第二次審査を受けることができ,しかも,同審査は,「AAA」認定のための最終審査であると理解するものと解される。ところが,原告委員会は,第一次審査合格通知書に記載されているとおり同年10月末までに第二次審査を実施してその結果を被告に通知することをせずに,かえって,同年11月20日,被告に対し,上記2万円のほかにAAA審査の認定料・登録料・交付料として15万円の振込送金が必要である旨の通知をしたものである。
被告は,第二次審査を希望して審査料・認定料2万円を原告委員会の指定口座に振込送金したことにより,被告は,第一次審査合格通知書に記載された内容でAAA審査の第二次審査を受ける旨の意思表示をしたものということができる。
しかし,被告は,当時,上記2万円のほかに「認定料・登録料・交付料」として別途15万円の高額な費用が必要となることを知らなかったのであり,また,仮に知っていれば上記意思表示をすることはなかったのであるから(乙4),被告のした上記意思表示には要素の錯誤がある。したがって,被告の上記意思表示は無効というべきである。
そうすると,被告は,前記審査料・認定料2万円を,法律上の原因なく原告委員会の指定する口座に振込入金したことに帰するから,被告は,同原告に対し,不当利得として前記2万円の返還請求権を有する。
(3) したがって,原告委員会の上記請求は理由がない。
4 請求の趣旨4項及び同5項について (1) 証拠(甲2の1及び2)によれば,原告会社は,本件商標権を有することが認められる。
(2) 「今の自主規制委員会を支えて下さるのは優良業者全国ネットワークの皆様方です」と題する書面(甲12の1)には,「家庭教師派遣業自主規制委員会」と表示されているが,同書面と被告との関わりは全く不明であり,これにより被告が本件標章を使用しているとの事実を認めることはできない。
(3) 以上のとおり,被告が本件標章を商標として使用しているとの事実を認めるに足りる証拠はないから,商標権侵害を理由とする原告会社の50万円の損害賠償請求及び原告らの本件標章の使用禁止等の請求は,いずれも理由がない。
5 結論 以上のとおりであるから,原告らの請求はいずれも理由がない。よって,主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 高部眞規子
裁判官 上田洋幸
裁判官 浅香幹子