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関連審決 審判1998-35465 審判1977-10189
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審判番号(事件番号) データベース 権利
平成14行ケ405審決取消請求事件 判例 商標
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平成14行ケ402審決取消請求事件 判例 商標
関連ワード 識別力 /  出所表示機能 /  識別機能 /  指定商品 /  指定役務 /  ありふれた氏 /  周知性 /  混同を生ずるおそれ(混同を生じるおそれ) /  広義の混同 /  4条1項15号 /  ただ乗り(フリーライド) /  希釈化(ダイリュージョン) /  類似性(類否判断) /  不使用 /  外観(外観類似) /  称呼(称呼類似) /  観念(観念類似) /  取引の実情 /  出所の混同 /  国内 /  無効審判 /  パリ条約 /  外国 /  継続 /  有名ブランド / 
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事件 平成 14年 (行ケ) 421号 審決取消請求事件
原告 ペレッテリアバレンチノ オルランディ
訴訟代理人弁理士 加藤朝道
同 三宅俊男
同 青木充
被告 バレンチノグローブ ベスローテン フェンノ ートシャップ
訴訟代理人弁護士 服部成太
同 稲益 みつこ
訴訟代理人弁理士 杉村興作
同 末野徳郎
同 廣田米男
裁判所 東京高等裁判所
判決言渡日 2003/06/19
権利種別 商標権
訴訟類型 行政訴訟
主文 原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
この判決に対する上告及び上告受理の申立てのための付加期間を30日と定める。
事実及び理由
当事者の求めた裁判
1 原告 (1) 特許庁が平成10年審判第35465号事件について平成14年4月9日にした審決を取り消す。
(2) 訴訟費用は被告の負担とする。
2 被告 主文と同旨
特許庁における手続の経緯等及び審決の理由
以下は,当事者間に争いがなく,かつ,証拠(弁論の全趣旨を含む。)によって認定できる事実である。
1 特許庁における手続の経緯等 原告は,登録第2582891号の商標(「valentino orlandi」の欧文字を2段に横書きして成り,第22類「はき物,かさ,つえ,これらの部品および附属品」を指定商品として,平成元年9月12日に登録出願され,平成5年2月23日の登録査定を経て,平成5年9月30日に登録された。以下,「本件商標」といい,その出願を「本件出願」,その査定を「本件査定」,その登録を「本件登録」という。)の商標権者である。
2 被告は,平成10年9月30日,本件登録を無効にすることについて審判を請求した。特許庁は,これを平成10年審判35465号事件として審理し,その結果,平成14年4月9日,「登録第2582891号の登録を無効とする。」との審決をし,その謄本を,同年4月19日,原告に送達した。
(甲第1号証,弁論の全趣旨) 3 被告が保有する商標 被告は,以下のとおり,6件の登録商標を保有している。
(1) 審決書15頁(2)に示すとおりの構成から成り,昭和49年10月1日に登録出願され,第22類「はき物(運動用特殊ぐつを除く),かさ,つえ,これらの部品および附属品」を指定商品として,昭和60年6月25日に設定登録された登録第1786820号の商標(以下「引用商標A」という。) (2) 審決書15頁(3)に示すとおりの構成から成り,昭和43年6月5日に登録出願され,第17類「被服(運動用特殊被服を除く),布製身回品(他の類に属するものを除く),寝具類(寝台を除く)」を指定商品として,昭和45年4月8日に設定登録された登録第852071号の商標(以下「引用商標B」という。) (3) 審決書15頁(2)に示すとおりの構成から成り,昭和49年10月1日に登録出願され,第17類「被服(運動用特殊被服を除く),布製身回品(他の類に属するものを除く),寝具類(寝台を除く)」を指定商品として,昭和55年4月30日に設定登録された登録第1415314号の商標(以下「引用商標C」という。) (4) 審決書15頁(4)に示すとおりの構成から成り,昭和44年10月16日オランダ国においてした商標登録出願に基づくパリ条約4条による優先権を主張して,昭和45年4月16日に登録出願され,第21類「宝玉,その他本類に属する商品」を指定商品として,昭和47年7月20日に設定登録された登録第972813号の商標(以下「引用商標D」という。) なお,当該指定商品中の「かばん類,袋物」については,商標登録の一部放棄を原因とする一部抹消登録が平成2年6月25日になされている。
(5) 審決書15頁(2)に示すとおりの構成から成り,昭和49年10月1日に登録出願され,第21類「装身具,ボタン類,かばん類,袋物,宝玉及びその模造品,造花,化粧用具」を指定商品として,昭和60年7月29日に設定登録された登録第1793465号の商標(以下「引用商標E」という。) (6) 審決書15頁(2)に示すとおりの構成から成り,昭和49年10月1日に登録出願され,第27類「たばこ,喫煙用具,マッチ」を指定商品として,昭和54年12月27日に設定登録された登録第1402916号の商標(以下「引用商標F」という。) 4 審決の理由 審決の理由は,別紙審決書の写しのとおりである。要するに,「VALENTINO GARAVANI」,「valentino garavani」,「ヴァレンティノ ガラヴァーニ」の文字又はこれを「VALENTINO」,「valentino」,「ヴァレンティノ」ないし「ヴァレンティーノ」と略記して成る標章は,引用商標AないしFと併せて(以下,これらをすべてまとめて「被告商標」という。),イタリアの服飾デザイナーであるヴァレンティノ・ガラヴァーニ氏(以下「ヴァレンティノ・ガラヴァーニ氏」という。他の服飾デザイナーについても同様に表現することがある。)がデザインした婦人服,アクセサリー,バッグ,靴等のファッション関連商品におけるデザイナーブランドとして,本件出願前から日本の取引者・需要者間で広く認識されていること,本件商標は,「valentino」と「orlandi」が結合して成るものと容易に認識・把握されるものであることから,本件商標をその指定商品に使用すると,取引者・需要者は,被告商標を連想・想起し,ヴァレンティノ・ガラヴァーニ氏又は被告に係る一連のデザイナーブランド又はその関連ブランドと誤認し,あるいは,本件商標の付された商品をこれらの者と何らかの事業上の関係を有する者の業務に係る商品であると誤認し,商品の出所の混同を生じるおそれがある,として,本件登録は,商標法4条1項15号に該当する,とするものである。
原告主張の審決取消事由の要点
1 被告が使用する商標ないし標章の周知著名性についての判断の誤り (1) 審決は,ヴァレンティノ・ガラヴァーニ氏がデザインした婦人服,アクセサリー,バッグ,靴等のファッション関連商品が,デザイナーブランドとして,被告商標とともに,本件出願時である平成元年9月12日以前に,日本の取引者・需要者の間に広く知られており,その状態は,本件査定時である平成5年2月23日を経て,現在まで継続している,と判断している。
しかし,被告商標,とりわけ,「VALENTINO」,「valentino」,「ヴァレンティノ」が,デザイナーブランドを指すものとして,本件出願時及び本件査定時に周知著名であったという事実はない。
(2) 審決が採用する被告商標の周知著名性に関する書証は,本件出願日より後のものが半数以上を占め,しかも,その大半が広告の類にすぎない。
(3) 雑誌等の記事や見出しの中に,ヴァレンティノ・ガラヴァーニ氏のブランドないし作品群を示すものとして,「VALENTINO」,「valentino」,「ヴァレンティノ」の表示が使われていたとしても,これは,簡潔な文章にするために,「VALENTINO GARAVANI」,「valentino garavani」,「ヴァレンティノ・ガラヴァーニ」が簡略化されたためにすぎない。
「VALENTINO GARAVANI」,「valentino garavani」,「ヴァレンティノ・ガラヴァーニ」が,「VALENTINO」,「valentino」,「ヴァレンティノ」と略されて表示される状況が継続していたことはない。
(4) 引用商標Bは,被告以外の者が出願したものであり,何らの異議申立てもなく登録されている。審決のいうとおり,ヴァレンティノ・ガラヴァーニ氏の名が,1967年(昭和42年)のファッションオスカー受賞以来広く知られていたのであれば,引用商標Bが登録されるはずはない。引用商標Bの登録査定時をとってみても,「VALENTINO GARAVANI」の表示が有名であったとはいえないのである。
(5) 「VALENTINO」を含む商標は,本件商標と指定商品を同じくするものに限ってみても,「MARIO VALENTINO」,「Valentino Rudy」等,20以上ある(甲第10号証の1ないし19)。人名と看取される商標で,「VALENTINO/valentino」を含むものは,それそれ複数の指定商品にわたって共存している(甲第10号証の1ないし19)。また,「MARIO VALENTINO」,「SANVALENTINO」及び「Valentino Rudy」等,広告がなされているものもある(甲第11号証ないし第16号証)。
審決は,「VALENTINO」を含む多数の既登録商標の存在について,被告商標との関係で混同を惹起させるか否かの判断は,個別・具体的に決せられるものであって,本件事案とは直接関連がない,とする。
しかし,「VALENTINO」を含む登録商標は多数有り,その中には,被告が異議申立てを行ったものも少なからず存在している。それにも関わらずそれらが登録されたことは,各商標の査定時に,被告商標の周知著名性が否定されたことを意味するものである。
(6) 「WORLD BRAND GUIDE」(平成13年12月脱稿・鈴木良昭著・甲第3号証の1)には,「いま,日本でヴァレンティノというと,三つのブランドが混沌と入り混じって間違った理解のされかたをしているようである。ここでお話しするヴァレンティノとは,イタリアのオートクチュールデザイナー,ヴァレンティノ・ガラヴァーニのことである。おそらく大多数の人たちはマリオ・ヴァレンティノの方をヴァレンティノだと思っているらしい。」との記載がある。
「田中千代服飾事典」(昭和56年4月新増補版発行・甲第9号証の1)では,「ヴァレンティノ」単独の見出しがあったが,その全面改訂版(平成3年10月発行・甲第9号証の2)では,それが廃止され,「ヴァレンティノ・ガラヴァーニ」と「マリオ・ヴァレンティーノ」の語が追加されている。
「英和商品名辞典」(平成2年発行・甲第9号証の3)には,もともと「マリオバレンチノ」の語が採録されている。「ファッション辞典」(平成11年発行・甲第9号証の4)には,「ガラヴァーニ,ヴァレンティノ」の見出しがある。
結局,「VALENTINO」,「valentino」,「ヴァレンティノ」のみから成る標章は,「ヴァレンティノ・ガラヴァーニ」氏を指呼するものとしては,前置きがないと説明ができない程度しか知られていない,ということなのである。
(7) このような状況の下で,本件出願時(平成元年9月12日)及び本件査定時(平成5年2月23日)において,「VALENTINO GARAVANI」,「valentino garavani」,「ヴァレンティノ・ガラヴァーニ」の略称としての「VALENTINO」,「valentino」,「ヴァレンティノ」が,高度の周知著名性を有するものであったと認めることは,許されないことというべきである。
(8) 本件出願日における引用商標Bの商標権者は,プレイロード株式会社(以下「プレイロード」という。)である。その後,引用商標Bは,帝人商事株式会社に譲渡され,さらに,平成8年5月8日,被告に譲渡された。その間,引用商標Bと,同A,C,E,Fは,商標権者を異にしながら,互いに抵触することなく併存していたことになる。
被告は,引用商標Bとの抵触を回避するため,意図的に,ブランド名として「ヴァレンティノ・ガラバーニ」を用い,直営店の店名も「ヴァレンティノ・ガラバーニ・ブティック」としている(甲第6号証,乙第1号証,第2号証)。
このような状況の下では,「VALENTINO GARAVANI」,「valentino garavani」,「ヴァレンティノ・ガラヴァーニ」はともかく,「VALENTINO」,「valentino」,「ヴァレンティノ」が,ヴァレンティノ・ガラヴァーニ氏のデザイナーブランド名として周知著名であったとすることはできない。
後に,被告が「VALENTINO」,「valentino」,「ヴァレンティノ」単独での使用を開始したとしても,それは,他人の商標(引用商標B)を侵害する行為であり,到底正当化されるものではない。
(9) 引用商標Dは,昭和63年から平成12年までの間,計3回にわたり,マリオ・ヴァレンティノ氏ないしその関連する法人により,不使用による登録取消しの審判の請求を受け,平成2年6月25日には,指定商品のうち「かばん類,袋物」について,一部放棄がなされている。
引用商標Dは,使用の事実それ自体が疑われるものである。
2 混同を生じるおそれについての認定・判断の誤り (1) 商標法4条1項15号における「混同を生ずるおそれ」とは,当該商標と他人の商標との類似性の程度,他人の商標の周知著名性,独創性の程度,当該商標の指定商品等と他人の業務に係る商品等との間の関連性の程度,取引者及び需要者の共通性,その他取引の実情などに照らし,指定商品等の取引者及び需要者において普通に払われる注意力を基準として,総合的に判断されるべきである(最判平成12年7月11日判決・「レールデュタン」事件)。
(2) 被告商標が周知著名であったとはいえない点については,前記のとおりである。
(3) 本件商標と被告商標との類似性の不存在 ア 本件商標は,「valentino orlandi」の欧文字を,上下2段に横書きした構成から成っている。構成各文字は,同じ大きさ,同じ字体であり,全体としてまとまりよく一体的に表されている。これを,殊更,構成中の「valentino」の文字部分のみを分離・独立して称呼観念しなければならないものとする,特段の事由も認められない。
したがって,本件商標は「ヴァレンティノ・オルランディ」と呼称され,イタリアの特定人の氏名を表しているとの観念を生じさせるものである。
イ 被告商標のうち,引用商標B,同Dからは,「ヴァレンティノ」の称呼を生じ,引用商標A,同C,同E,同Fからは,「ヴァレンティノ・ガラヴァーニ」の称呼を生じる。
「VALENTINO」は,有名な映画俳優であるルドルフ・バレンチノないしイタリア系のごくありふれた男性名を想起させる(甲第4号証の13,第17号証の1ないし4,第18号証の1ないし3,第20号証,第21号証)。
ウ 「ヴァレンティノオルランディ」の称呼と,「ヴァレンティノ」,「ヴァレンティノガラヴァーニ」の称呼とは,その構成配列音を著しく異にするものであるから,称呼上十分に区別して聴取し得る。
想起される観念においても,本件商標は,ヴァレンティノ・オルランディというイタリアの特定人を表すものと観念される。これに対し,「VALENTINO」からは,前記映画俳優ないしありふれたイタリア系男性名が観念され,「VALENTINO GARAVANI」からは,ヴァレンティノ・ガラヴァーニという特定人が観念される。
エ 以上のとおり,本件商標と被告商標とは,称呼,観念,外観のいずれをとっても,類似しない。
(4) 取引者・需要者における識別 「VALENTINO/valentino」(ヴァレンティノ)という共通部分が存在するとはいえ,この共通部分は,名又は氏姓であると認識されるものである。このような場合,取引者・需要者は,両者の非共通部分に着目し,これらを区別するものであることは,経験則上明らかである。現に,被告商品を含む服飾商品を取り扱う販売代行業者は,扱う商品に応じて,被告商標とともに,「MARIO VALENTINO」の商標も併用している。これは,非共通部分によって識別ができるからである(甲第5号証,第12号証の19)。
前述のとおり,「VALENTINO」を含む商標は,本件商標と指定商品を同じくするものに限ってみても,多数存在する。「MARIO VALENTINO」等,広告がなされているものもある。
これらの事実から,取引者・需要者が,「VALENTINO」,「valentino」,「ヴァレンティノ」以外の部分で商標の識別をしていることは明らかである,ということができる。
「VALENTINO」以外のこのような例として,「PIERRE CARDIN」と「PIERRE BALMAIN」,「シマダジュンコ」と「コシノジュンコ」がある。「PIERRE」と略称することが仮にあるとしても,それ以外の相違部分を必ず確認することは,取引者・需要者の常識である。
取引者・需要者の普通の注意力という観点からも,本件商標と被告商標とが類似するとすることはできない。
(5) 独創性の不存在 ア 被告商標のうち,「VALENTINO」,「valentino」の部分は,イタリアのごくありふれた男性名ないし氏姓を表すものにすぎない。「VALENTINO GARAVANI」も,名-姓の順の,諸外国の通例にしたがって記された特定人の氏名そのものである。独創性は全くない。
そもそも,「Valentino」という男性名ないし氏姓は,ラテン語の「Valens;強い,強力な,健康な」に由来し,英語圏においては,「Valentine」;略称「Val」,ドイツ国,フランス国等においては,「Valentin」と表記される世界的にもありふれた名である。また,「Valentino」は,聖ヴァレンティーノ(英語では聖ヴァレンタイン)という3世紀のローマのキリスト教殉教者の著名な名前である(甲第17号証,第18号証)。
被告商標の独創性ないし識別力は,「VALENTINO」によってではなく,「GARAVANI」という氏姓や,「オーバルV」と称する図形との組合せにより,生じている。
イ 名を同じくし,氏姓を異にするデザイナーは多数存在する。例えば,「クリスチャン・オジャール」,「クリスチャン・ディオール」,「クリスチャン・バイイ」及び「クリスチャン・ラクロワ」,「ジョルジョ・アルマーニ」及び「ジョルジョ・デイ・サンタンジェロ」,「ピエール・カルダン」及び「ピエール・バルマン」等である(甲第9号証の2)。
ファッション関連分野において,自己の氏名は,デザイナーとしての個性を端的かつ明瞭に表示する,数少ない手段である。独創性を欠く被告商標が周知著名であるとして,他の商標に安易に商標法4条1項15号を適用してこれを無効とすると,「Valentino」の名又は氏姓を持つ者は,自己の氏名をブランド名として用いて,これに信用を化体させることが,未来永劫にわたってできなくなる。これは,ファッション業界の健全な競争秩序をゆがめることになり,はなはだ不都合である。
例えば,デザイナーの「ハナエ・モリ」という表示に関し,他の者がこれと同じ商標を登録することを商標法4条1項15号に基づき禁止するとしても,「モリ」という氏姓,あるいは「ハナエ」という名そのものは,独創性を欠いているから,「森某」ないし「某ハナエ」を構成要素とする商標は,これらを登録する余地を認めるべきである。
(6) その他取引の実情 ア 本件商標は,もともと,ヴァレンティノ・オルランディ氏個人が保有していたものを,氏の経営する会社に譲渡したものである(甲第4号証の9の1)。
本件商標は,「ヴァレンティノ・オルランディ」という特定人の氏名に基づく。
イ 本件商標は,イタリア本国を始め各国で登録されている(甲第4号証の10)。
ウ 日本では,住金物産株式会社が,代理店となって,本件商標をブランド名とする商品の販促資料を作成し,ホームページの開設もしている。
その結果,「valentino orlandi」のブランドは,新聞記事及び広告として掲載され,売上高も,全体で年間3億円弱に上っている(甲第19号証の1ないし9)。
「valentino orlandi」のブランドは,日本のファッション業界において広く知られたものとなっている。
エ 被告商標は,それ特有のブランドコンセプト,販売経路等を有し,これらによっても他のブランドとの差別化を図っている。
原告商品は,被告商品のいわゆる模倣品ではない。本件商標を商標として使用する商品は,被告商品と明らかに異なるから,取引者・需要者が,それらの出所を混同することはあり得ない。
(7) 広義の混同のおそれの不存在 ア 審決は,取引者・需要者が,本件商標が付された商品を,ヴァレンティノ・ガラヴァーニ氏又は被告に係る一連のデザイナーブランド又はその兄弟ブランドないしファミリーブランドであるかのように誤認し,あるいは,これらの者と事業上何らかの関係を有する者の業務に係る商品であるかのように,商品の出所について混同を生じるおそれがある,とする。
イ 本件商標をその指定商品に用いた場合,取引者・需要者は,これをアーティストたるデザイナーの感性・作風を表示するデザイナーブランドと認識するのが一般である。
被告商標が,特定のデザイナー「ヴァレンティノ・ガラヴァーニ」氏の氏名を表すものとして著名であったと仮定すると,取引者・需要者は,「VALENTINO」の標章が,このデザイナーの氏名の略称であることも,十分に理解していることになるはずである。そうすると,本件商標に接した取引者・需要者は,「GARAVANI」とは異なる「orlandi」部分に着目し,それが氏姓であると認識することになることは当然である。すなわち,本件商標の付された商品に接した取引者・需要者は,付された商標の意味する氏姓が「VALENTINO GARAVANI」とは異なることから,異なるデザイナーによって創作され,異なる創作性,ブランドコンセプトを有する商品と認識することになる。したがって,いわゆる広義の混同が生じることはない。
ウ 審決は,共通部分「VALENTINO」(「valentino」)があることのみをもって,広義の混同が生じるおそれがあるとしているに等しい。しかし,そのような混同が生じることがないのは,例えば「マイケル・ジャクソン」と「マイケル・ジョーダン」との間に広義の混同が生じることはないのと,同様である。
被告の主張の要点
1 被告商標の周知著名性について (1) 原告は,本件出願時も本件査定時のいずれの時点をとってみても,「VALENTINO」,「valentino」,「ヴァレンティノ」が,それのみでは,「VALENTINO GARAVANI」,「valentino garavani」,「ヴァレンティノ・ガラヴァーニ」を示すものとして周知著名であった,とすることはできない,と主張する。
原告の引用する甲第3号証(平成13年12月脱稿・「世界ブランド物語」)には,「・・・そのほかにも,サン・ヴァレンティノというブランドもあるが,いずれにしても,ガラヴァーニには遠く及ばないグレードの商品である。このヴァレンティノが一躍有名になったのは,・・・」として,ヴァレンティノ・ガラヴァーニ氏が有名になった経緯について,「ヴァレンティノ」の語をもって言及している。
甲第3号証の1からも,本件出願日(平成元年9月12日)及び本件査定日(平成5年2月23日)のいずれの時点においても,ヴァレンティノ・ガラヴァーニ氏が,「ヴァレンティノ」の略称をもって知られていたことが認められる。
(2) 被告は,審判手続において,本件出願日前の新聞記事,雑誌及び辞典等の証拠を提出している。
(3) 原告は,引用商標Bが,プレイロード株式会社の出願に係る商標であって,これが被告に譲渡されたのは平成8年9月9日であることから,引用商標Bとその他の被告商標は抵触することなく併存していた,と主張する。
本件で問題となっているのは,本件出願時及び本件査定時における,出所混同のおそれの有無である。
ヴァレンティノ・ガラヴァーニ氏は,1967年に,ファッションオスカー賞を受賞し,ライフ誌,ニューヨークタイムズ誌等においても,同氏及び同氏の作品に関する事項が掲載された。それ以来,同氏は,イタリア・ファッションの第一人者となり,サンローラン等と並んで世界三大デザイナーと呼ばれるようになった。
外国,とりわけイタリア,フランス等のヨーロッパ,アメリカにおけるファッション関連商品分野では,「VALENTINO」,「Valentino」といえば,周知著名なヴァレンティノ・ガラヴァーニ氏の略称ないし同氏のデザインに係る商品に使用されるブランドの略称として知られている。
日本では,三井物産株式会社が,イタリアのVALENTINO社との間に独占輸入契約を締結し,昭和45年から,ヴァレンティノ・ガラヴァーニ氏のデザインに係る商品に「VALENTINO」の標章を付して,輸入している。
三井物産株式会社は,昭和49年から,上記商品の国内販売のために,他2社と共同出資して,株式会社ヴァレンティノ・ブティック・ジャパンを設立し,その直営店を東京に開設した。株式会社ヴァレンティノ・ブティック・ジャパンは,その後,大阪,神戸,福岡,名古屋,京都等の百貨店に,直営のブティックを出店している。これらの直営店では,ヴァレンティノ・ガラヴァーニ氏のデザインに係る商品を,「VALENTINO」,「Valentino」,「ヴァレンティノ」等の標章を用いて販売してきた。この状況は,現在に至るまで続いている(乙第3号証ないし第5号証)。
上記状況の下では,遅くとも,昭和52年以降現在に至るまで,日本における服飾等のファッション関連商品分野の取引者・需要者の間において,「VALENTINO」,「Valentino」,「ヴァレンティノ」は,周知著名なデザイナーであるヴァレンティノ・ガラヴァーニ氏の略称又は同氏のデザインに係る商品(婦人・紳士物の衣料品,毛皮,革製バック,革小物,ベルト,ネクタイ,靴,ライター,傘,ハンカチ等のファッション関連商品)に使用されるブランドの略称として知られていた,ということができる。
「VALENTINO」が,プレイロード株式会社の商品のブランドとして知られていた,という事実はない。プレイロード株式会社が,引用商標Bを有していたことは,本件において商標法4条1項15号の適用を妨げる事由になり得ない。
(4) 原告は,マリオ・ヴァレンティノ氏ないしその関連法人が,引用商標Dの不使用取消しの審判を請求し,その結果,原告は,指定商品中「かばん類,袋物」について一部放棄をしたとして,引用商標Dの使用の事実自体に疑問がある,とする。
マリオ・ヴァレンティノ氏は,1960年代後半において,皮革製品,特に靴類の製造に関して,被告の下請業者であった。その後,マリオ・ヴァレンティノ氏は,引用商標Dにつき無効審判(昭和52年審判第10189号)を請求した。その審決の結論は不成立であった。
被告は,マリオ・ヴァレンティノ氏ないしその関連法人との間に,昭和54年5月11日,和解契約を締結した。これにより,マリオ・ヴァレンティノ氏ないしその関連法人は,主として靴類(履き物)及び皮革製のかばん類について「VALENTINO」の商標を保有し,被告は,それ以外の商品について,「VALENTINO」の商標を保有することになったのである。
マリオ・ヴァレンティノ氏ないしその関係者は,引用商標Dについて,商標法50条1項に基づく,不使用取消し(全部取消し)の審判と,「かばん類,袋物」についての一部取消しの審判とを請求した。これに対し,被告が,引用商標Dに関し,指定商品中「かばん類,袋物」の一部放棄をしたのは,上記和解契約にしたがったものである。その結果,一部取消しの審判請求は取り下げで終わった。全部取消しの審判請求は,不成立の結論で終わっている(乙第10号証)。
被告は,引用商標Dを,現に,アクセサリー類その他婦人服等の衣料に使用している(乙第11号証ないし第14号証)。
2 出所混同を生ずるおそれについて (1) 商標法4条1項15号の「他人の業務に係る商品又は役務と混同を生ずるおそれがある商標」とは,「当該商標をその指定商品又は指定役務に使用したときに,当該商品又は役務が他人の業務に係る商品又は役務であると誤信されるおそれがある商標のみならず,当該商品又は役務が上記他人との間にいわゆる親子会社や系列会社等の緊密な営業上の関係又は同一の表示による商品化事業を営むグループに属する関係にある営業主の業務に係る商品又は役務であると誤信されるおそれがある商標」(最判平成12年7月11日判決・「レールデュタン事件」),すなわち,広義の混同を生ずるおそれがある商標も含む。
同号の規定は,「周知表示又は著名表示へのただ乗り(いわゆるフリーライド)及び当該表示の希釈化(いわゆるダイリューション)を防止し,商標の自他識別機能を保護することによって,商標を使用する者の業務上の信用の維持を図り,需要者の利益を保護することを目的とするものであるところ,その趣旨からすれば,企業経営の多角化,同一の表示による商品化事業を通して結束する企業グループの形成,有名ブランドの成立等,企業や市場の変化に応じて,周知又は著名な商品等の表示を使用する者の正当な利益を保護するためには,広義の混同を生ずるおそれがある商標をも商標登録を受けることができないものとすべきであるからである。そして,「混同を生ずるおそれ」の有無は,当該商標と他人の表示との類似性の程度,他人の表示の周知著名性及び独創性の程度や,当該商標の指定商品等と他人の業務に係る商品等との間の性質,用途又は目的における関連性の程度並びに商品等の取引者及び需要者の共通性その他取引の実情などに照らし,当該商標の指定商品等の取引者及び需要者において普通に払われる注意力を基準として総合的に判断されるべきである。」(「レールデュタン」事件)ものとされている。
(2) 本件商標は,「valentino」と「orlandi」の欧文字を上下二段に横書きして成るものであり,比較的長いものである。通常,デザイナーブランド,とりわけ外国人のデザイナーにあっては,そのデザイナーの氏名の略称により,そのデザイナーのデザインに係る商品を指すことがよくみられる。例えば,「ココ・シャネル」を「シャネル(CHANEL)」,「ジョルジオ・アルマーニ」を「アルマーニ(ARMANI)」等が,それである。本件商標についても,その一部だけをもって,表記ないし称呼されることがあり得る。
前記のとおり,「VALENTINO」,「valentino」,「ヴァレンティノ」は,ヴァレンティノ・ガラヴァーニ氏のデザインに係る商品を示す標章として周知著名である。
(3) 「VALENTINO」,「valentino」,「ヴァレンティノ」が,イタリア人の名や氏姓を連想させるもので,それ自体としては独創性ないし造語性が高くないとしても,本件商標の指定商品は,被告商標が使用されている商品と同一であるか又はこれとの関連性が極めて強いかであり,取引者・需要者も共通する。これらの商品は,日常的に消費される性質のものであり,その需要者は,特別な専門的知識経験を有しない一般の人であって,購入に際して払われる注意力はさほど高いものではない。
被告商標の周知著名性の度合いの高さ,本件商標と被告商標との間の指定商品及び取引者・需要者における共通性に照らせば,本件商標をその指定商品に使用すると,取引者・需要者が,本件商標中の「valentino」の文字部分に着目し,ヴァレンティノ・ガラヴァーニ氏若しくはその経営する会社又はこれらと緊密な関係にある営業主の業務に係る商品であると連想すること,すなわち広義の混同を生じる。
(4) 原告は,「VALENTINO」は,有名な映画俳優であるルドルフ・ヴァレンティノないしイタリア系のごくありふれた男性名または氏姓を観念させると主張する。
ルドルフ・ヴァレンティノは,今から80年近く前に亡くなっており,一部の無声映画の愛好家の間で知られていることはおくとしても,服飾等のファッション関連商品分野の取引者・需要者間で広く認識されている,ということはない。
「VALENTINO」が,イタリア系のありふれた男性名ないし氏姓であるとしても,そのことと,日本のファッション関連の商品分野の取引者・需要者の間における,被告商標の周知著名性との間には,何の関係もない。
(5) 原告は,商品の表示に創業者等の特定人の名称を用いて出所表示機能を営ませる場合,名だけを用いるのは特異である,と主張する。
デザイナーブランドにおいて,デザイナーの氏名の略称により,そのデザイナーのデザインに係る商品を指すことは,日本のファッション業界においてもよくある。原告が例として挙げる「アルマーニ」,「シャネル」等が,それ自体ブランド名として有名であることは,原告主張のとおりである。もっとも,取引者・需要者が,それらを,デザイナーの「姓」であって名でない,と正確に認識しているとは限らない。
重要なのは,「VALENTINO」,「valentino」,「ヴァレンティノ」が,ヴァレンティノ・ガラヴァーニ氏ないしそのデザイナーブランドとして広く知られているか否かであり,これが肯定されることについては,前記のとおりである。
(6) 原告は,出所混同のおそれを認定した審決を,「VALENTINO」を含む商標が多数存在すること,その中で,例えば「MARIO VALENTINO」の商標は著名であることをもって,論難する。
これらの商標が付された商品が,被告の商品と明確に区別され,取り引きされている,という証拠はない。むしろ,被告のブランドないしその兄弟ブランドと誤解されている可能性も十分にある。
仮に,「VALENTINO」,「valentino」,「ヴァレンティノ」を含む商標で,被告のブランドと区別されて認識されるものがあったとしても,それは,本件商標と被告商標をそれぞれ付された商品の間で,出所の混同を生じるおそれがあることを,何ら否定するものではない。すなわち,そのような商標が存在するとすれば,それは,当該商標が,「VALENTINO」,「valentino」,「ヴァレンティノ」と,他の特定の文字が結合したものとしてよく知られ,かつ,ヴァレンティノ・ガラヴァーニ氏とは無関係のものとしてよく知られるに至っているという,特段の事情があるからである。本件商標について,本件出願時及び本件査定時に,そのような特段の事情があったとすることはできない。
これらの商標は,被告商標が日本国内で広く知られるようになった昭和52年ころから,出願されるようになっている。このことは,むしろ,これらの商標の登録出願をした者の,被告商標の著名性にフリーライドする意図の存在をうかがわせるものである。
(7) 原告が,本件商標の周知著名性の証拠として提出するものは,その作成日付が不明であるか,平成9年以降のものであるかであって,本件出願時ないし本件査定時における本件商標の周知著名性を証明するものではない(甲第19号証の1ないし6)。
当裁判所の判断
1 ヴァレンティノ・ガラヴァーニ氏及びそのデザイナーブランドの周知性について (1) ヴァレンティノ・ガラヴァーニ氏(1932年生まれ)は,17歳のときにデザイナーの修業を始め,1959年ころ,独立していわゆるファッションハウスを開設した。独立後間もなく,そのコレクション(作品群ないしその発表)は,業界の注目を受けるようになった。
ヴァレンティノ・ガラヴァーニ氏が,世界的に有名になったのは,1967年(昭和42年),フィレンツェにおいて,白一色のコレクションを発表したときからである。このコレクションの成功は,「ライフ」や「ニューズウィーク」等の雑誌で広く世界に報道された。これにより,同氏は,同年のニーマンマーカス・オスカー賞を獲得した。
この成功により,ヴァレンティノ・ガラヴァーニ氏は,「イタリア・オートクチュールをリードする鬼才」などと呼ばれ,世界的に著名なデザイナーとなった。そして,ジャクリーヌ・オナシス,エリザベス・テーラー等,いわゆる世界のトップレディを顧客に持ち,同氏のデザインする衣服等は,極めてグレード(品等)の高い,高級感あふれる優れたものとして認知されるようになった。同氏の氏名は,ファッション関連の辞典等にも掲載されている。
同氏のデザイナーブランド商品を専門に扱うブティックは,世界各国に存在する。そのブランド商品(婦人服,紳士服,ネクタイ,手袋,ストッキング,靴,バッグ,ベルト,傘,ライター,アクセサリー(イヤリング,ネックレス等)など)は,昭和47年ころから,三井物産株式会社を通じて日本でも販売されるようになり,ファッション関連の雑誌,新聞等で紹介されている。
三井物産株式会社は,他社と共同出資して,昭和49年に株式会社ヴァレンティノ・ブティック・ジャパンを設立した。同社は,「ヴァレンティノ・ガラヴァーニ・ブティック」の店名の直営店を開き,ヴァレンティノ・ガラヴァーニ氏のデザイナーブランド商品の販売を開始した。
本件出願時及び本件査定時において,ヴァレンティノ・ガラヴァーニ氏のデザイナーブランド商品を扱う直営店は,全国の有名百貨店等に,多数存在する。
(甲第5号証,第9号証の1ないし4,第11号証ないし第16号証,乙第1号証ないし第5号証,第9号証ないし第16号証の1ないし9)。
(2) 株式会社ヴァレンティノ・ブティック・ジャパンは,昭和59年以降,年間で最低でも6600万円程度の広告宣伝費,販売促進費及び展示会費を費やし,その額は,平成元年から平成4年の間は,年間2億円から3億2000万円余りの間を推移した。純売上高も,昭和63年から平成6年までの間,年間30億円程度から55億円程度であった。現在でも,16億円程度である。
(乙第6号証ないし第8号証)。
(3) 以上のとおり,デザイナーとしてのヴァレンティノ・ガラヴァーニ氏は,遅くとも昭和42年以降,世界的に有名であり,同氏のデザインに係る商品も,グレード(品等)の極めて高いものとして,世界的に著名であり,その商品は,昭和47年ころからは,日本においても広告・販売され,本件出願時及び本件査定時のいずれにおいても,その売上高は相当に高いものであった。これらのことから,デザイナーとしてのヴァレンティノ・ガラヴァーニ氏は,上記各時点において,日本のファッション関連商品の取引者・需要者の間に広く知られていた,と優に認めることができる。
(4) 甲第3号証の1の記載からは,「マリオ・ヴァレンティノ」のブランド商品の方が,被告商品より,流通量が多いとの理由から,より周知度が高いと認める余地もある。
上記甲第3号証の1の記載は平成13年12月に脱稿されたものであり,同証に記載されている状況が本件出願時あるいは本件査定時に既に生じていたことをこれによって認めることはできない。この点をおいても,ファッション関連商品の中でも,高級ブランド商品とされている商品の周知度は,その性格上,売上高だけでなく,高級感等のブランドイメージにも大きく左右されると認められる。そして,ヴァレンティノ・ガラヴァーニ氏ないしそのデザイナーブランドが,抜きんでた高級感を有しているものと認められることは,前記のとおりである。いずれにせよ,「マリオ・ヴァレンティノ」のブランドが周知であることは,上記各時点において,ヴァレンティノ・ガラヴァーニ氏ないしそのデザイナーブランドが,一定程度の高い周知性を持っていたことを否定するものではない。
2 「VALENTINO」,「valentino」,「ヴァレンティノ」の周知性 (1) ヴァレンティノ・ガラヴァーニ氏のデザイナーブランドは,「VALENTINO GARAVANI」,「valentino garavani」の標章や,オーバルVと呼ばれる図形をもって表されることがあり,このことは,日本においても同様である。日本においては,「ヴァレンティノ・ガラヴァーニ」で表されることもある。
他方,昭和51年以降,現在に至るまで,ヴァレンティノ・ガラヴァーニ氏ないしそのデザイナーブランドを「VALENTINO」,「valentino」,「ヴァレンティノ」,「ヴァレンティノ・コレクション」等として,しばしば新聞・雑誌等が紹介している。商品の中にも,単に「valentino」の標章だけを用いているものも存在する。世界的にも,「VALENTINO」,「valentino」の標章は,新聞・雑誌等で用いられている。
同氏ないし同氏が関係する企業は,その直営店の店名を「BOUTIQUES VALENTINO」としており,もともと,「VALENTINO」だけをブランド名として用いることも選択していると認められる。もっとも,日本における直営店の店名は,「ヴァレンティノ・ガラバーニ・ブティック」とされている。しかし,それらを経営する法人の名称は「株式会社ヴァレンティノ・ブティック・ジャパン」である。
現在でも,百貨店等で,被告のブランド商品を扱う売場は,単に「ヴァレンティノ」として表示されている。なお,同じデザイナーブランドであっても,「ピエール・カルダン」,「ダ・トラサルディ」等,省略されていないものもある。
(甲第5号証,第11号証,第12号証の15,第14号証,乙第1号証ないし第5号証,第11号証ないし第16号証の1ないし9) 以上からは,「VALENTINO」,「valentino」,「ヴァレンティノ」は,著名なデザイナーであるヴァレンティノ・ガラヴァーニ氏ないしそのデザイナブランドを指すものとして,本件出願時及び本件査定時,周知であったと認めることができる。
(2) 原告は,@新聞等の表記は,単に文章を簡潔にするための略記にすぎない,A被告商品の出所表示は,「VALENTINO GARAVANI」,「valentino garavani」,「ヴァレンティノ・ガラヴァーニ」の語や,オーバルVと呼ばれる図形,ないしその組み合わせによりなされている,Bデザイナーブランドを示すものとして,デザイナーの氏姓が用いられる例は多くあるが,名の方が用いられることは異例である,C「VALENTINO」,「valentino」,「ヴァレンティノ」からは,ありふれたイタリア人の氏姓ないし名か,あるいは著名な映画俳優ルドルフ・ヴァレンティノが想起される,として,「VALENTINO」,「valentino」,「ヴァレンティノ」自体が周知となり,識別力を備えているということはできない,と主張する。
しかし,「VALENTINO」,「valentino」,「ヴァレンティノ」の語が,それぞれ単独で用いられている場合も多くあることは,前記認定のとおりである。ヴァレンティノ・ガラヴァーニ氏自身ないし被告等その関係者は,同氏のデザインに係るブランド名として,「VALENTINO」,「valentino」,「ヴァレンティノ」だけを用いることも意図的に選択していると認められ,これを,簡略に表現するためだけに用いられたものと認めることはできない。また,仮にそうであったとしても,略記が頻繁に用いられている以上,その結果,それ自体が特定の個人ないしそのデザイナーブランドを示すものとして周知となり,識別力を獲得するに至ると認めることに,何ら支障はない。
デザイナーが,氏姓ではなく名をブランド名とすることが異例であったとしても,そのことは,名が識別力を獲得し得ないことに結び付くわけではない。
「VALENTINO」,「valentino」,「ヴァレンティノ」が,イタリア系のありふれた氏姓ないし名であるとしても(甲第17号証の1ないし4及び第18号証の1ないし3),これらの語が識別力を獲得することが,それによって不可能となるわけではない。まして,日本においては,「VALENTINO」,「valentino」,「ヴァレンティノ」は,ありふれた氏姓ないし名であるとは認められないから,これらが,使用等一定の事実の蓄積に伴い,周知となり,識別力を獲得したと考えることは,何ら不自然でなはい。
ルドルフ・ヴァレンティノは,本件出願時ないし本件査定時において,没後70年近く経っている。その名を冠した映画賞が現在でも設けられているにせよ(甲第4号証の13,第20号証,第21号証),日本のファッション関連商品の取引者・需要者が,「VALENTINO」,「valentino」,「ヴァレンティノ」の標章に接したとき,前記認定のとおり相当程度周知な被告商標を差し置いて,映画俳優であるルドルフ・ヴァレンティノが真っ先に想起されるとは認められない。
(3) 本件出願時においても本件査定時においても,引用商標Bはプレイロード株式会社の登録商標であったため,被告は,同社と協議するなどして,特に,被服類等について「VALENTINO GARAVANI」の標章を付していた。しかし,広告用のカタログ,パンフレット類は,もともとイタリアで作成されたもの,すなわち「VALETINO」の標章があるものをそのまま使用していたと認められるから,上記事実によって,「VALENTINO」,「valentino」,「ヴァレンティノ」の周知性を肯定する前記認定が左右されるものではない。
(乙第17号証及び第18号証) 3 出所の誤認混同のおそれについて (1) 本件商標は,「valentino orlandi」の欧文字を2段に横書きして成り,第22類「はき物,かさ,つえ,これらの部品および附属品」を指定商品とするものである。本件商標は,その構成上,明らかに,「valentino」と「orlandi」とに2分されている。取引者・需要者が,本件商標のうち,「valentino」の部分を可分な部分として認識することは,何よりもその構成自体から容易である。
(2) 2で認定したとおり,「VALENTINO」,「valentino」,「ヴァレンティノ」は,婦人服,紳士服,バック,傘,靴等のファッション関連商品に関して,取引者・需要者間に広く知られたブランド名である。このことに照らすと,上記構成の本件商標をその指定商品に用いるときは,取引者・需要者が「valentino」の部分に着目する,ということは,十分にあり得ると認めることができる。
本件商標の指定商品は,被告が被告商標を付して販売している商品と同一種類,あるいは,これと強い関連性を有する種類の商品であるということができる。実際の原告商品も,婦人服,紳士服,バッグ,ベルト,財布,寝具,傘等である。
(3) 上記状況の下では,取引者・需要者が,同じ「valentino」の文字を有する標章を付された原告商品と被告商品に接するとき,これらを,同じ業者の製造に係る製品,あるいは,資本上ないし経営上など何らかの協業関係にある業者の製造に係る製品であると認識して,広義の混同を生ずる可能性がある,という以外にない。
(4) 原告は,「valentino」は,イタリア人の氏姓ないし名としてごくありふれたものであり,商標権により独占的に使用させることは不当である,と主張する。
そもそも,「VALENTINO」,「valentino」,「ヴァレンティノ」が,日本において,ありふれた氏姓ないし名であるということができないことは,前述のとおりである。イタリアにおいてありふれた氏姓ないし名であるからといって,そのことが,日本において,商標として識別力を獲得することの妨げになることはない。また,そのことが,周知である当該氏姓ないし名を特定の商品の分野で独占的に使用することを認める妨げになる,と解すべき理由はない,というべきである。
「VALENTINO」,「valentino」,「ヴァレンティノ」が,ヴァレンティノ・ガラヴァーニ氏ないしそのデザイナーブランドを示すものとして周知であることなどを根拠に,それらの語を含む他の商標を,商標法4条1項15号の適用により無効とすることは,原告の主張するとおり,同じ「valentino」の氏姓を持つデザイナーが,それを含む商標を日本で登録することができなくなる,という結果をもたらす。これは事実である。しかし,既に先行者(被告)が,「valentino」を標章として使用して周知性を獲得し,一定の高いブランドイメージをこれに化体させているという状態が継続している以上,一方で,被告が被告商標について保持している業務上の信用・評価を保護する必要があり,他方で取引者・需要者間の誤認混同のおそれを除去する必要もある。このような必要に対処するために設けられた規定の一つが商標法4条1項15号の規定である。同条項の要件が満たされる限り,これを適用し得ることは,いうまでもないことというべきである。
本件に関して,商標法4条1項15号を適用するのは,被告が「VALENTINO」,「valentino」,「ヴァレンティノ」の語を,特定のデザイナーブランドを示すものとして用いていることに加え,一定程度以上の周知性や,上記三つの語に高いブランドイメージが化体されている等の事実関係の存在を前提にしてのことである。前提とされている事実関係が消失すれば,被告以外の者が,「valentino」の語を含む商標の登録を,上記法条の適用により拒絶されることがなくなることは,当然である。被告以外の者が未来永劫登録できなくなるなどということはない。上記事実関係が継続している限り,同じ「VALENTINO」の氏姓を持つデザイナーは,それを含む商標を日本で登録することができない,という不都合は,商標制度自体に内在するものとして甘受する以外にない,というべきである。
(5) 原告は,「VALENTINO」,「valentino」等の語を含む商標が多数存在することなどを挙げて,本件商標と被告商標とは別のものとして認識されており,したがって,両者の間で,出所の混同を生じるおそれはない,との主張をする。しかし,この主張は採用することができない。
まず,商標法4条1項15号の適用の上で問題となるのは,正確には,本件商標と被告商標とを商標自体として比較した場合に,取引者・需要者により別のものとして認識されるか否かではない。問題となるのは,商標同士の関係の強さであり,その関係の強さを示す一つの場合として,別のものとして認識されない場合を挙げ得るものの,別のものとして認識されるか否かは,それ以上の意味を持ち得ないのである。商標自体として比較した場合に別のものとして認識されるか否か自体が問題になるのは,同項10号ないし11号の適用の上でのことである。本件商標の指定商品が被告商標の使用される商品と同一又は類似であることを前提にすると,上記両商標が商標自体としては,別のものと認識されないことになれば,むしろ,15号の適用はあり得ないことになる(同号括弧書き)。したがって,このような場合に15号を適用するということは,正確には,本件商標と被告商標とは,商標自体として比較する限り,別のものとして認識されることを前提としていることを意味するのである(この前提が認められない場合には,10号ないし11号が適用されることになる。) 次に,「VALENTINO」,「valentino」,「ヴァレンティノ」が,ヴァレンティノ・ガラヴァーニ氏ないしそのデザイナーブランドを示すものとして周知であるとの上記認定事実の下では,たとい,本件商標が,商標自体としては被告商標と別のものとして認識されるとしても,これに接する取引者・需要者の中に,これがヴァレンティノ・ガラヴァーニ氏自身のブランドの一つ,あるいは,同氏と何らかの形で関係を有する者のブランドであると考える者が商標法上無視し得ない程度出現するであろうということができる。
この点について,原告は,デザイナーブランドの特殊性を強調し,デザイナーブランドは,特定のデザイナーの氏姓ないし名に由来するのが一般であり,取引者・需要者もそのことを知っているから,本件商標「valentino orlandi」に接した取引者・需要者も,ヴァレンティノ・ガラヴァーニ氏とは異なるデザイナーのブランドと認識するので,出所の誤認混同のおそれはない,と主張する。しかし,大半の取引者・需要者が,ファッション関連商品のブランド名がデザイナーの氏名に基づくのが一般的であると知っているとは認められない(そもそも,そのような事実の存在自体疑問がある。)。これを知っている取引者・需要者であっても,既に知られているものと同じではないものの,これと共通するところのあるブランド名を付せられたファッション関連商品に接したとき,大半が,派生ないし関連ブランドではなく,異なるデザイナーブランドであると認識する,とも認められない。そうすると,「valentino」を共通に含む本件商標に接したとき,ヴァレンティノ・ガラヴァーニ氏と何らかの形で関係を有する者のブランドであると考える者が,商標法上無視し得ない程度に出現するといい得る。
このような事態の発生を防ぐことこそが,正しく15号の目的とするところなのである。そして,このことは,本件商標を含む,被告商標の商標以外の商標で「VALENTINO」,「valentino」,「ヴァレンティノ」を含む商標がそれ自体の周知性を獲得しているか否かにかかわりなく,いい得るところである。したがって,仮に,本件商標を含め,「VALENTINO」,「valentino」,「ヴァレンティノ」を含む商標で被告商標以外のものの中に,商標自体として相当程度以上に高い周知性を獲得しているものがあったとしても,そのことは,それらにつき商標法4条1項15号を適用することの妨げに,何らなるところはないのである。
(6) 以上のとおりであるから,本件商標と被告商標との間で,出所の混同を生ずるおそれがあるとした審決の判断に,誤りがあるとは認められない。
4 結論 以上によれば,原告主張の審決取消事由はいずれも理由がなく,その他,審決には,これを取り消すべき誤りは見当たらない。そこで,原告の請求を棄却することとし,訴訟費用の負担,上告及び上告受理の申立てのための付加期間について行政事件訴訟法7条,民事訴訟法61条,96条2項を適用して,主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 山下和明
裁判官 設樂隆一
裁判官 高瀬順久