関連審決 | 審判1997-20436 |
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審判番号(事件番号) | データベース | 権利 |
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平成14行ケ497審決取消請求事件 | 判例 | 商標 |
関連ワード | 指定商品 / 混同を生ずるおそれ(混同を生じるおそれ) / 品質誤認(4条1項16号) / ただ乗り(フリーライド) / 外観(外観類似) / 称呼(称呼類似) / 出所の混同 / 継続 / |
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事件 |
平成
14年
(行ケ)
168号
審決取消請求事件
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原告 株式会社スポーツザウルス 訴訟代理人弁護士 西尾孝幸,岡野由美,谷原誠,宮ア敦彦,岩島秀樹,渡邉智 宏,弁理士 有近紳志郎 被告 リックスロッズ LLC 訴訟代理人弁理士 稲葉良幸,弁護士 中村勝彦,吉野正己,山本麻記子,復代 理人弁理士 佐藤俊司 |
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裁判所 | 東京高等裁判所 |
判決言渡日 | 2003/06/19 |
権利種別 | 商標権 |
訴訟類型 | 行政訴訟 |
主文 |
原告の請求を棄却する。 訴訟費用は原告の負担とする。 |
事実及び理由 | |
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原告の求めた裁判
「特許庁が平成9年審判第20436号事件について平成14年3月5日にした審決を取り消す。」との判決。 |
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事案の概要
1 特許庁における手続の経緯 本件登録第4074134号商標は,次の構成よりなり,平成8年2月9日に登録出願,第28類「釣り具」を指定商品として,平成9年10月24日に設定登録された。被告は,平成9年12月1日,商標法51条による本件商標登録の取消しを求める審判を請求した(平成9年審判第20436号)。その審理の結果,平成14年3月5日,本件商標登録を取り消すとの審決があり,その謄本は同月15日原告に送達された。 本件商標 2 審決の理由の要点 (1) 商標権者(原告)が「完全復刻」として,1996年販売時の商品カタログに掲載した原告の自己の「フィリプソン」に関する使用標章は,下記使用標章の1のとおりであり,1998年1月の宣伝用パンフレットに掲載した原告の自己の「フィリプソン」に関する使用標章は,下記使用標章の2のとおりである。 また,アメリカにおける「フィリプソン」のロッドの真正品について使用していた標章は,下記フィリプソン社標章に示すとおりである。 フィリプソン社標章 (2) 「フィリプソン」グラスロッドの成立した経緯 「フィリプソン」グラスロッドを創った「ビル・フィリプソン」は,1904年スウェーデンで生まれ,1923年19才で米国に渡り,1926年にデンバーの高級バンブーフライロッドメーカー「グッドウィン・グレンジャー社」に入社,当社は,戦争により,1942年閉鎖,その後,「ビル・フィリプソン」は,1945年に仲間と「フィリプソン・ロッド&タックル社(以下,「フィリプソン社」という。)」を創設し,当初は,バンブーロッドを製造していたが,1950年にファイバーグラスロッドの製造を始めた。 そして,フィリプソン社は,1950年から1960年にかけて,ハーター,オービス,エイバークロンビー&フィンチ,L.L.ビーンなどのOEMロッドを生産することで,メジャーマーケットに参入した。その後,幾多の変遷があったが,「ビル・フィリプソン」は,社名を「フィリプソン・ロッド社」に変えて,エポキシグラスのスコッチブライ製(3M社)のロッドを製作,幾多の改革を経て,1971年,エポキサイト・シリーズ製品を完成させた。その後,「ビル・フィリプソン」は,1972年,健康上の理由から,事業を「3M社」に譲ったが,「3M社」は,2年でこの生産を中止した(審判甲第1号証,同第7号証,同第17号証)。 (3) 原告のロッド 原告は,本件商標の取得に前後して,「あの名作グラスロッド・フィリプソンの完全復刻版だ。」として,自己の商品カタログ「SAURUS」に掲載し,頒布し(審判甲第2号証及び同第3号証,同第17号証),日本製のグラスロッド(天竜製のPグラス樹脂製ロッド)を販売していたものであることについては,原告の否定するところでない。 (4) 本件商標と使用標章の類否 本件商標は,「Phillipson」のゴシック体欧文字よりなるのに対し,使用標章は,圧倒的顕著に表された筆記体「Phillipson」の欧文字との比較においても,本件商標と使用標章とは,外観において異なるところがあるとしても,両者共に「フィリプソン」の称呼を生ずるものであるところを共通にし,少なくとも称呼において相紛れるおそれのある類似するものというべきである。 (5) 使用標章の使用時期 使用標章は,請求人(被告)提出の審判甲号証及び被請求人(原告)の主張の趣旨に照らして,遅くとも,1996年(平成8年)以降,継続して使用されてきたものと認められ,これに反する事実はない。 (6) 故意 「あの名作グラスロッド・フィリプソンの完全復刻版だ。」として,自己の商品カタログ「SAURUS」に掲載し,頒布し(審判甲第2号証及び同第3号証,同第17号証),日本製のグラスロッド(天竜製のPグラス樹脂製ロッド)を販売していたものであることについては,原告の否定するところでないから,購入者に対し,「フィリプソン」と同等又はそれ以上の機能を有するとロッドであると誤認を生じさせる故意があったことは明らかである。 以上の事実を総合すれば,商標権者による本件商標の取得は,過去に名声を博していた「フィリプソン」のロッドのコピー商品を販売することを意図として取得されたものであり,商標権者は,かかる意図の下に本件商標に類似する商標の使用を本件指定商品中の「釣竿」について使用したものであると認められる。 原告は,「その商品が『本物』でなく『復刻』であると明記して販売しているのである。」と主張しているが,トップウォーターロッドの極致として名声を博した,フィリプソン社の名作グラスロッド「フィリプソン」は,エポキシグラスのスコッチブライ製(3M社)の独特な製法で作られたエポキサイトを使用した点に特徴のあるロッドであるのに対し,商標権者の使用に係るロッドは,日本製のグラスロッド(天竜製のPグラス樹脂製ロッド)であって,商標権者の「復刻」と称する係るロッドの製作に関し,格別,この天竜製のPグラス樹脂製ロッドを使用しなければならない必然性はみられないから,上記「フィリプソン」のグラスロッドの代用品として,安易に当該ロッドを採用したものであるというべきである。 そして,「復刻」とは,「原本そのままに再製すること。また,再製したもの。」(広辞苑 岩波書店発行)を意味し,使用に係る商品「釣竿」についていえば,「完全復刻」(審判甲第2号証及び同第3号証)という限りにおいては,その機能面においても,同等又はそれ以上の機能,品質を保持しているものでなければならないのに対し,上記のとおり,「フィリプソン」のグラスロッドの代用品として,日本製のグラスロッド(天竜製のPグラス樹脂製ロッド)を使用して製作し,商標権者が「完全復刻」と称して販売した「フィリプソン」のグラスロッドは,粗悪品であるということができないとしても,真正な「フィリプソン」のロッドと同等又はそれ以上の機能,品質を期待し得ないものであり,その購入者に対し「フィリプソン」のロッドの品質に誤認を生じる本件商標に類似する商標の使用であるというべきである。 けだし,「釣竿」の需要者がこれを購入する場合,単に置物等の装飾品として購入することは考え難く,バスフィッシングの愛好家として,実際に使用することを前提として購入するものであるから,「あの名作グラスロッド・フィリプソン」の機能を有する「釣竿」が得られるものと期待して購入するものであることは明らかである。 しかして,商標法51条は,商標権者が故意に指定商品についての登録商標に類似する商標の使用をして一般公衆を害したような場合についての制裁規定であるところ,「フィリプソン」の製造が既に中止され,商品の出所について混同を生ずるおそれがないとしても,原告が,真正な「フィリプソン」のロッドと異なる,日本製のグラスロッド(天竜製のPグラス樹脂製ロッド)を代用して製作し,「フィリプソン」のグラスロッドの「完全復刻」と称して販売した行為は,購入者に,あたかも,真正な「フィリプソン」のロッドであるかのように,商品の品質について誤認を生ずるものとした(実害を生ぜしめた)ことが明らかである。 してみれば,商標権者による本件商標に類似する使用標章の使用は,フィリプソン社標章に係る商品について,故意に,商品の品質について誤認を生ずるものとしたものというべきである。 したがって,本件商標の登録は,商標法51条1項の規定により,その登録を取り消すべきである。 |
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原告主張の審決取消事由
1 本件商標は,商標法51条による取消しの対象とはならない。 (1) 使用標章は本件商標と同一のものである。 本件商標はゴシック体によるものであるのに対し,使用標章は筆記体である。審決はこの関係を類似するものと判断しているが,このような書体のみの変更は,社会取引上同一とみなされ,同一性のある商標と解されている。 したがって,原告は,本件商標と同一性のある商標を指定商品に使用したにとどまり,本件につき商標法51条の適用はない。 (2) 使用標章は原告が有する別の登録商標の使用である。 原告は,登録第4310759号及び第4251174号の商標権を有する。使用標章の使用は,これらの登録商標自体の使用に当たるので,本件商標について商標法51条の適用はない。 2 品質の誤認はない。 (1) 商標法51条所定の「品質の誤認」とは,他人の商品の品質との差異を問題とするものではなく,一般的な商品間の差異を問題としているものである。商品の品質を劣悪にして需要者に商品の品質の誤認を生じさせた場合は,ここでいう「品質の誤認」に含まれない。ここでいう「商品の品質」とは,他人の商品の品質との差異を問題とするものではなく,一般的な商品間の差異を問題としているのである。 (2) 原告が製作・販売する釣竿のグラスロッドは、フィリプソン社製作のフィリプソンのロッドと同等又はそれ以上の機能、品質である。 購入者にとって、ロッドの機能、品質とは、使用感、耐久感及び外観であり、製法、構造、材料ではない。実際、異なった製法、構造、材料を用いても、同等以上の使用感、耐久性及び外観を出すことが可能である。その場合には、購入者にとって品質の誤認はない。 逆に、ほとんど同一の製法、構造、材料を用いても、異なる使用感、耐久性及び外観を出すことは可能であり、それは、米国フィリプソンのロッドに36種類の型番があることからも明らかである。 「製法、構造、材料が同一でない」ことは「ロッドの機能、品質が異なる」ことを意味するものではない。実際、日本フィリプソンのBC60Lは、米国フィリプソンのBC60Lの同等以上の機能、品質を有している。これは、日本フィリプソンのBC56ULと米国フィリプソンのバスティマーBC56ULの比較、日本フィリプソンのEC60Bと米国フィリプソンのEC60Bの比較でも,同様の結果となる。 (3) 原告が製作・販売する釣竿には,エポキシグラス製ロッドを使用しなければならない必然性がある。 Pグラス樹脂というのは、原告の調査の結果、エポキシグラス(グラスファイバーをエポキシ樹脂(接着剤)で張り合わせる)であることが判明したので、原告の主張においては、Pグラス樹脂をエポキシグラスと称することにする。 フィリプソン社のグラスロッド「フィリプソン」(米国フィリプソン)は、1974年以降生産されていない。原告がフィリプソン釣竿の製造を開始したのは、1996年であり、22年間のブランクがあった。確かに、熱烈な愛好者には「何から何まで同じでなければ気が済まない」という思いがある。原告は、その思いを十分理解しており「何から何まで同じフィリプソン」を作りたかったが、この22年間に材料は著しい進歩・変容を遂げており、当時のグラスファイバー及び樹脂を使う必要はなかった。米国フィリプソンでは、スコッチブライ製の独特な製法が用いられているというが、これは、縦繊維のグラスファイバーのみを束ねて巻き上げて強度を作る製法であり、原告でも、ストレートファイバーシャフトについてはこの製法を用いており、現在では特に珍しい製法ではない。この製法では、節がないため、強度を出そうとするととても重くなってしまうという欠点がある。重いロッドは、キャスティングロッドとしては不向きなので、日本フィリプソンでは、同じ強度を保ってキャスティングロッド向きの軽さを実現するため、横に繊維をクロスさせるという製法を採用した。米国フィリプソンには、ロッドの使用により、すぐ「へたり(ロッドが曲がる点がロッドの先側から手元側へ移動してきてしまうこと)」という耐久性に劣る欠点があった。何から何まで同じフィリプソンを,購入した者が単に鑑賞するだけではなく使用した場合,へたりがきた釣竿は,欠陥商品としてクレームがついたり,返品され,原告への信用低下を招くおそれもあった。 これらの理由により、原告は、構造上補強を加え、天竜製のエポキシグラス製ロッドを採用したのであり、決して、「必然性」なしに「安易に」採用したわけではない。 (4) 商品の品質について誤認を生ずるものとした(実害を生ぜしめた)ことはない。そもそも購入者は、自分が買った日本フィリプソンの型番に対応する米国フィリプソンの機能、品質などは知っていなかった。米国フィリプソンは26年以上も前に製造中止され購入してもアフターケアがなかった。それが、原告の手で日本フィリプソンを製造・販売したところ、原告代表者のカリスマ性から、非常に人気を博した。原告及び原告代表者の努力による日本フィリプソンの人気により、米国フィリプソンも有名になっていった。日本の釣り人が認識しているのは、原告が復刻した型番の日本フィリプソンの機能、品質だけであり、色々な型番の米国フィリプソンの機能、品質など知っている者はほぼ皆無である。したがって、誤認は生じない。 3 原告には故意がない。 原告には、購入者に対し、米国フィリプソンと同等又はそれ以上の機能を有するロッドであると誤認を生じさせる故意はなかった。 商標法51条にいう「故意」とは,「出所の混同」についてである。同条の規定上「品質の誤認」は他人の商品とは関係ないから,他人の商品の存在を商標権者が知っていることは,「故意」とは無関係である。 米国フィリプソンのグラスロッドではなく、その必要性から天竜製のエポキシグラス製ロッドを使用したのは、米国フィリプソンにできるだけ忠実に復刻し、より良い機能、品質を追求しようとした結果である。日本フィリプソンは、米国フィリプソンと同等又はそれ以上の機能を有するロッドなので、原告に誤認を生じさせる故意などない。 なお,他人の商品が過去に市場で流通していたが現在は流通していない場合は,他人の商品と商標権者の商品の競合が起こり得ないから,「出所の混同」が起こらないと商標権者が考えても不当ではない。本件では,商標権者の販売開始時点より12年も前に他人の商品の流通はなくなっていたから,「出所の混同」についても原告に故意はない。 |
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審決取消事由に対する被告の反論
1 「Phillipson Rod Company」と被告との関係 被告は,1974年に閉鎖された「Phillipson Rod Company(フィリプソン社)」が製造・所有していた未加工の釣竿及び部品の在庫を引き継いだ上で,フィリプソン社が創立された1946年から1974年までの30年弱フィリプソン社の中心的な技術者として働いていたポール・ハイタワーを技術顧問として迎え,さらに1961年から1972年までフィリプソン社でヘッドラッパーと呼ばれる釣竿の仕上げ担当者であったベティ・マラーラを技術者として雇い,「Phillipson」商標を付した釣竿を製造・販売している。したがって,被告は,フィリプソン社の釣竿製造業を実質的に引き継いでいるといえる。 2 フィリプソン社の歴史 フィリプソン社の前身であるフィリプソン・ロッド&タックル社は,ビル・フィリプソンによって1945年,米国コロラド州デンバーで設立された。当初は,竹の釣竿を製造していたが,1952年よりファイバーグラスのロッドの製造を始め,1962年に一度ジョンソン・リールズ・インクの傘下に入ったものの,1964年にはジョンソン・リールズ・インクからすべての会社の資産を買い戻すことに成功し,Phillipson Rod Co.(フィリプソン社)として再び会社を設立した。 1972年,創業者であるビル・フィリプソンは体調を崩したため,フィリプソン社を3M Corporation(ミネソタ・マイニング・アンド・マニュファクチャリング・カンパニー。3M社)へ売却し,ビル・フィリプソンは3M社の顧問となった。その後,3M社は,コロラド州デンバーからウィスコンシン州に釣竿製造工場を移し,1年間だけ従来どおりPhllipson商標を付けた釣竿の製造・販売を行った。 しかしながら,熟練した職人が上記売却時に多数辞めてしまったため,1974年に3M社はフィリプソン部門を閉鎖し,Phillipsonの商標権は失われることとなった。 3 フィリプソン社からフレッド・デベル,そしてボブ社へ フィリプソン社が3M社に売却された1972年,フィリプソン社の主要な顧客であったフレッド・デベルが,当時フィリプソン社の中心的な技術者として働いていたポール・ハイタワーや,重要な技術を有するヘッドラッパー(釣竿の仕上げ担当者)であったベティ・マラーラとともに,バンブーロッドの製造を始めた。フィリプソン社が3M社に吸収合併されたとき,フレッド・デベルと創業者ビル・フィリプソンの釣り仲間たちはフィリプソン社から,多数のフィリプソン社のファイバーグラスによる未加工の釣竿及び部品を取得しており,フィリプソン社の未加工の釣竿や部品の在庫のほとんどは,3M社のウィスコンシン州の釣竿製造工場へと引き継がれることはなく,デンバーのフィリプソン社の倉庫にストックされたままとなっていた。 フィリプソン社が買収された後の1973年から1975年にかけて,ベテイ・マラーラと夫のボブ・マラーラによるBob's Tackle(ボブ社)がフレッド・デベルから多くのフィリプソン社の未加工の釣竿(フィリプソン社が残したもののうち,約2分の1に該当)を取得した。ボブ社は,3M社から無償提供されたもの(フィリプソン社が残したもののうち,約4分の1に該当)のほか,フィリプソン社の従業員であったアサヘル・B・スチュアートからもフィリプソン社の未加工の釣竿を600ドルで購入した(フィリプソン社が残したもののうち,約4分の1に該当)。さらに,ボブ社は,1977年にはフレッド・デベルの釣り用具店,デベルタックルショップを買収し,その後,フィリプソン社の未加工の釣竿を使って釣竿を製造し,それを従来のPhillipson商標を付して,従来のものと同様の商品として市場に出していた。 4 ボブ社から被告へ 1995年にボブ・マラーラが死亡したため,1996年12月,ベティ・マラーラは,ボブ社が所有していたフィリプソン社のファイバーグラスによる未加工の釣竿の在庫品と釣竿の製造機械類をすべて被告へ売却した。これら被告が取得した未加工の釣竿については,1998年には,創業者ビル・フィリプソンの息子で,弁護士でもあるドン・フィリプソン,ポール・ハイタワー及びベティ・マラーラが,被告が所有している在庫品は,フィリプソン社の未加工の釣竿と部品であるということを証明している。 被告は,2001年には,残りのフィリプソン社のファイバーグラスによる未加工の釣竿と部品を,カナダのCarl O'Connorという個人より購入した。彼は,これらの未加工の釣竿と部品を,Rodon Companyという,3M社のためにフィリプソン社の未加工の釣竿と部品を処分していた会社から購入していた。これによって現存するほとんどのフィリプソン社のファイバーグラスによる未加工の釣竿と部品を被告は入手した。 被告は,ボブ社やCarl O'Connorから購入したフィリプソン社の未加工の釣竿と部品を,かつて1961年から1972年までフィリプソン社でヘッドラッパーと呼ばれる釣竿の仕上げ担当者であったベティ・マラーラを技術者として雇い,さらにかつてフィリプソン社の中心的な技術者として働いていたポール・ハイタワーの担当の下で,エポキサイト製の真正のフィリプソン社の部品をフィリプソン社における工程と同様に手作業で組み合わせるという作業によって,1本1本丹念にPhi11ipsonそのものとして製造している。 このような経緯が認められたために,米国において1997年から1998年にかけて被告が出願した「Phillipson」商標は,登録されたものである。 以上のとおり,現在,被告は,米国で製造された,知られるすべてのフィリプソン社の未加工の釣竿と部品の在庫品を所有しており,フィリプソン社の伝統的技術をすべて継承して釣竿を作り続けている。なお,被告は,1997年よりPhillipsonブランドの釣竿を製造,販売し続けている。 5 以上の小括 以上のように,1974年にフィリプソン社が閉鎖された後の残されたファイバーグラスの未加工の釣竿及び部品の在庫のほとんどは,フレッド・デベル(〜1977年),ボブ社(1977年〜1996年),被告(1997年〜現在)へと引き継がれており,いずれの時代においても,フィリプソン社で中心的な技術者として働いていたポール・ハイタワーとベティ・マラーラの技術に基づいて当該未加工の釣竿及び部品は精巧に加工され,Phillipsonブランドの釣竿として販売され続けていた。 つまり,1974年のフィリプソン社閉鎖後も,細々とではあったが,オリジナルのフィリプソン社製のファイバーグラスの未加工の釣竿から,当時の技術と製法に基づいてPhillipsonブランドの釣竿が途切れることなく製造され,売り続けられている。被告は,フィリプソン社より直接に商標権の譲渡や業務の承継を受けてはいないが,実質的にフィリプソン社の釣竿の製造を引き継いでいる。被告のPhillipsonブランドの釣竿は,Phillipsonという商標を有する釣竿に需要者が期待する,部品が米国で以前絶賛を浴びた時代のフィリプソン社のものと変わらないこと,部品の組立てから完成までもかつてのPhillipsonブランドの釣竿の方法・技術と変わらないものであること,という要素を満たしてきた。 6 「完全復刻」について 「完全復刻」と称する限りにおいては,需要者は真正のフィリプソンと同一の製法,構造,材料によって製造されたものと期待するのが通常である。特に「完全復刻」をうたった商品を購入するような需要者,特に愛好家は,たとえ耐久性等が現代の最先端の技術による商品より劣ることがあっても,例えば手入れが大変なところがある場合はそれをすべて含めた上で,同一の製法,構造,材料によって製造されたその古き時代の「完全復刻」の商品を欲するのであり,その範囲での機能を期待している。 原告は,耐久性に劣るという欠点を解消するため,天竜製のエポキシグラス製ロッドに材料を変えたと主張するが,需要者の期待した品質に応えていない。原告の販売する商品は,品質誤認が生じているといえる。にもかかわらず「完全復刻」との表示をするのは,かかる需要者の期待を裏切るものであり,原告がフィリプソン社の持つ信用・名声にフリーライドして商品を販売しようとしたものにほかならない。 |
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当裁判所の判断
1 @原告が使用した使用標章の1,2の態様,Aいわゆる「フィリプソン」銘柄で日本でも著名となっているアメリカのロッド真正品に使用されたフィリプソン社標章の態様は,審決の理由の要点(1)のとおりであり,B「フィリプソン」グラスロッドの成立経緯の事実,C原告が,いわゆる「フィリプソン」銘柄が愛好家の間で垂涎の的となっているのを前提にしつつ,「あの名作グラスロッド・フィリプソンの完全復刻版だ。」と宣伝して日本製のグラスロッドを販売していた事実も,審決の理由の要点(2),(3)で認定されたとおりであって,原告も,本訴においてこの事実関係を争っていない(そこにおける審判甲第1号証は本訴乙第3号証に,審判甲第2及び第3号証は本訴甲第4及び第5号証に,審判甲第7号証は本訴乙第4号証に,審判甲第17号証は本訴乙第9号証にそれぞれ対応)。 原告は,平成8年以降のこれらの販売において,使用標章の1,2をカタログや釣竿に付していたものである(甲第9号証)。 2 本件商標と使用標章(の1及び2)は,共に「フィリプソン」の称呼を生じるものとして類似する。 原告は,両者は同一のものであると主張するが,本件商標が「Phillipson」のアルファベットをゴシック体で表したものであるのに対し,使用標章は,「Phillipson」のアルファベットを全体を弓状の筆記体で表し,かつ,下線を施したものに,使用標章の1においては,飾り文字の「Bass Tamer」と,楕円の中に白抜きによる「完全復刻」の文字が付記されており,使用標章の2においては,上記下線と重ねて「WORLD'S FINEST」の文字をあしらった地球儀マークが付され,横には,狐のロゴを間にあしらった「Casting Fox フィリプソン・キャスティングフォックス」の文字が併記されている。これらのことからすると,使用標章(の1及び2)の使用が,本件商標と同一のものの使用態様にとどまると認めることはできない。 3 以上の事実関係を総合すれば,原告は,生産されていた当時はもとより現在においても名声を博している「フィリプソン」のロッドのコピー商品を販売することを意図して,故意に本件商標に類似する使用標章の1,2を本件指定商品中の「釣竿」について使用したものと認めるべきである。 4 原告は,使用標章は原告が有する別の登録商標の使用であると主張する。 なるほど甲第6,第7号証によれば,原告は,主張に係る登録第4310759号及び第4251174号の商標権を有していること,前者の商標は「Phillipson」のアルファベットを全体を弓状の筆記体で表し,かつ,下線を施した態様のものであり,後者の商標は前者の商標の下線と重ねて「WORLD'S FINEST」の文字をあしらった地球儀マークが付された態様のものである。しかしながら,上記2で説示したように,使用標章の1,2は,これら登録商標に加えて「Bass Tamer」や「完全復刻」の文字が付されていたり,「Casting Fox フィリプソン・キャスティングフォックス」の文字が併記されている。このような使用標章の1,2の使用態様にかんがみると,原告が上記態様の登録第4310759号及び第4251174号の商標権を有しているとしても,使用標章の1,2の使用につき商標法51条の適用を妨げる事情とすることはできない。 5 原告は,フィリプソン社のグラスロッド「フィリプソン」は1974年以降生産されていないとし,構造上必要な補強を加え,使用標章を付したロッドを生産し販売したものであると主張する。 しかしながら,乙第3〜第5号証によれば,フィリプソン社のグラスロッドである「フィリプソン」銘柄の釣竿はマニアの間で伝説的な存在となっていること,この釣竿はフィリプソン社及び3M社が生産を中止した後,現在においても,なおビンテージものとしてマニアの間で保存され,取引が継続されてきていることを認めることができる。このことからすると,原告が,真正な「フィリプソン」のロッドと異なる,日本製のグラスロッドを代用して生産し,「フィリプソン」のグラスロッドの「完全復刻」と称して販売した行為は,購入者に,あたかも,フィリプソン社ないし3M社が生産した真正な「フィリプソン」のロッドであるかのように,商品の品質について誤認を生じさせたことが明らかである。なお,商標法51条の規定上「品質の誤認」は他人の商品とは関係ない,との原告の主張は採用することができない。 6 以上説示したところによれば,本件商標の商標権者である原告によってされた,本件商標に類似の使用標章の使用は,フィリプソン社標章を付した商品との関係において,故意に,商品の品質につき誤認を生じさせたものであって,本件商標の登録は,商標法51条1項の規定により,その登録を取り消すべきものとした審決の判断に誤りはない。 |
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結論
以上のとおりであるから,原告の請求は棄却されるべきである。 |
裁判長裁判官 | 塚原朋一 |
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裁判官 | 塩月秀平 |
裁判官 | 田中昌利 |