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事件 平成 12年 (ワ) 5120号 商標権侵害差止請求事件
原告 株式会社アザレインターナショナル
訴訟代理人弁護士 楠眞佐雄
同 本郷誠
同 田中正和
同 野邊寛太郎
同 野邊一郎
同 村岡みち代
同 三谷和歌子
原告補助参加人 X
原告補助参加人 Y
原告補助参加人ら訴訟代理人弁護士 川島清嘉
同 川島志保
同 関本和臣
同 中田祐児
同 島尾大次
被告 株式会社アザレ福島本舗
被告 株式会社アザレナチュラルコーポレーション
被告 株式会社アザレ茨城本舗
被告 株式会社アザレ化粧品千葉本舗
被告 株式会社アザレ群馬本舗
被告 株式会社クールインアザレ
被告 有限会社アザレ和歌山本舗
被告 有限会社アザレ佐賀本舗
被告 アザレ化粧品函館本舗ことZ
被告 株式会社アザレ化粧品大阪本舗
被告ら訴訟代理人弁護士 濱崎憲史
同 濱崎千恵子
裁判所 大阪地方裁判所
判決言渡日 2003/05/01
権利種別 商標権
訴訟類型 民事訴訟
主文 1 原告の請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用のうち、補助参加によって生じた部分は原告補助参加人らの負担とし、その余は原告の負担とする。
事実及び理由
当事者の求めた裁判
1 請求の趣旨 (1) 被告らは、アザレプロダクツ株式会社の製造に係る別紙標章目録1ないし14記載の標章を付した化粧品を購入し、譲渡し、引き渡し、譲渡若しくは引渡しのために展示してはならない。
(2) 訴訟費用は被告らの負担とする。
2 請求の趣旨に対する答弁 (1) 原告の請求を棄却する。
(2) 訴訟費用は原告の負担とする。
当事者の主張
1 請求原因 (1)(契約に基づく請求) ア 原告は、昭和57年3月27日、被告株式会社クールインアザレと、同年5月1日、被告株式会社アザレ茨城本舗及び被告株式会社アザレ化粧品大阪本舗と、昭和58年10月18日、被告株式会社アザレ群馬本舗及び被告アザレ化粧品函館本舗ことZと、昭和59年3月5日、被告有限会社アザレ和歌山本舗と、同年7月1日、被告有限会社アザレ佐賀本舗と、平成7年7月3日、被告株式会社アザレナチュラルコーポレーションと、平成9年4月12日、被告株式会社アザレ化粧品千葉本舗と、同年9月24日、被告株式会社アザレ福島本舗と、いずれも、原告が、各被告らを販売指定店とし、原告の化粧品(いわゆる「アザレ化粧品」)を各被告らに販売し、各被告らがその化粧品を買い受けて更に販売するという、化粧品の販売指定店契約(以下、原告と各被告らの間の販売指定店契約をまとめて「本件販売指定店契約」という。)を締結した。
本件販売指定店契約には、各被告らは、原告が供給する化粧品以外の化粧品を購入し販売してはならないという約定(以下「競業避止条項」という。)が含まれていた。
イ 被告らは、原告が供給する化粧品以外の、アザレプロダクツ株式会社(以下「アザレプロダクツ」という。)の製造した化粧品を購入し販売している。
これは、本件販売指定店契約の競業避止条項に違反する。
(2)(不正競争防止法に基づく請求) ア(本件各標章の表示する商品主体が原告であること) (ア)(標章の表示に伴う原告名の表示) @ 原告は、アザレ化粧品という名称で化粧品を販売しているところ、
それらの化粧品には、別紙標章目録1ないし14記載の標章(以下、これらを一括して「本件各標章」と、個別では目録の番号順に「本件標章1」などという。)とともに、発売元として原告の名が記載されている。製造元としてアザレプロダクツの名称も記載されていたが、それは、薬事法に基づく表示にすぎず、本件各標章の表示主体を記載したものではない。
A 原告のパンフレット、新聞広告、雑誌広告において本件各標章とともに記載されているのは、原告の名称のみである。
B 女性雑誌「VERY」の平成12年7月号の記事には、原告のアザレ化粧品の化粧水「ブランツ」が、愛用化粧水ランキング第4位と紹介されているが、そこにおいて、「ブランツ」は、原告の製品として記載されている。
(イ)(原告による標章の管理) 原告は、本件各標章を付した化粧品の外装を作成し、本件各標章を付した広告による宣伝を行うなど、本件各標章を管理していた。
(ウ)(標章の使用の経緯) 原告代表者は、Aと共に、昭和52年10月からいわゆるアザレ化粧品の販売を開始し、昭和53年3月に有限会社アザレインターナショナルを設立し、昭和57年1月20日に原告を設立して、化粧品の販売を行ってきた。原告代表者は、昭和52年10月に化粧品の販売を開始したときから、本件各標章を化粧品の販売に使用し、有限会社アザレインターナショナル及び原告は、各設立時から、本件各標章を化粧品の販売に使用している。
(エ)(独占的通常使用権に基づく標章の使用) @ 本件各標章については、それぞれ別紙商標目録1ないし14記載の商標登録(以下、各商標権を一括して「本件各商標権」と、個別では目録の番号順に「本件商標権1」などという。)がされている。
Aは、本件商標権5については昭和57年7月12日に、本件商標権2については昭和58年11月28日にそれぞれ取得し、その余の本件各商標権についても、別紙商標目録の各登録日にそれぞれ取得した(以上の取得日は、別紙「Aの本件商標権取得年月日」記載のとおり。)。Aは、平成9年11月4日、死亡し、Aの妻であるBと子である原告補助参加人両名は、本件各商標権を、Aから共同相続によって取得した。
本件商標権13、14は、Aの生前に商標登録出願され、同人の死後、同人名義で商標登録されたものであるが、Bと原告補助参加人両名は、商標登録出願により生じた権利を共同相続によって取得し、これらの商標権をその持分に応じて取得した。
A Aは、別紙「Aの本件商標権取得年月日」記載のころ、原告との間で、Aが原告に対して本件各標章(別紙標章目録記載の各標章と別紙商標目録記載の各登録商標は、別紙標章目録1記載の標章と別紙商標目録1記載の登録商標が同一であるように、番号ごとに対応している。)につき独占的通常使用権を設定し、
原告がA又は同人の指定する者に対して商標使用料を支払う旨の独占的通常使用権設定契約を締結した(Aは、本件標章13、14については、生前、商標登録された時に独占的通常使用権を設定する旨の契約を締結した。)。Bと原告補助参加人両名は、相続により、これらの各独占的通常使用権設定契約上の地位も承継した。
B したがって、原告は、本件各標章を、前記各独占的通常使用権設定契約に基づいて使用している。
(オ) このような、本件各標章の表示に伴う原告名の表示、原告による本件各標章の管理、本件各標章の使用の経緯、独占的通常使用権に基づく本件各標章の使用の事実によれば、本件各標章の表示主体は原告であるといえる。
(カ) 被告らは、本件各標章の表示主体は、原告、アザレプロダクツ、原告と販売指定店契約を締結した全国各地の本舗からなるアザレグループであると主張する。しかし、アザレプロダクツは、原告の専属的下請として化粧品の製造を行っていたにすぎず、各本舗は、原告との間の販売指定店契約に基づいて販売の一端に携わっていたものにすぎないから、いずれも本件各標章の表示主体ではないし、
アザレグループなるものは存在しない。原告は、研究所を有し、製品の内容を決定し、PL相談室を設け、本舗からの問い合わせ等に対応し、販売指定店契約に違反した本舗との契約を解除し、薬事法に違反して原告の化粧品を廉売していた者を告発し訪問販売制度の維持に努力するなど、本件各標章を付した化粧品の管理を行ってきたものであり、その役割は、販売に限られるものではなかった。
イ(周知性、著名性) (ア) 本件各標章を付した化粧品は、各都道府県ごとに合計55店あった本 舗を通じて、その傘下の販売店や販売員によって販売されていた。
本件各標章を付した化粧品は、20年以上にわたり販売されている。
本件各標章を付した化粧品は、1品目当たり数万個の販売数量があり、16品目については、1品目当たり数十万個の販売数量があった。
原告の平成11年度の総売上高は約63億円であり、同年度の申告所得は約9億6200万円で、化粧品・洗剤卸の中で全国15位であった。
(イ) 原告は、本件各標章を付した化粧品について、朝日新聞、毎日新聞、読売新聞、産経新聞に年間120回、半二段(縦約7cm×横約19cm)の広告を掲載し、月刊誌「健康ファミリー」に平成4年から広告を掲載し、平成8年からは毎月広告を掲載し、女性雑誌「VERY」、「JJ」、「CLASSY」、
「MiL」にも広告を掲載していた。
原告の宣伝広告費は、平成7年度には約11億8800万円、平成8年度には約12億6400万円、平成9年度には約13億8100万円、平成10年度には約8億6200万円、平成11年度には約7億9400万円であった。
(ウ) したがって、本件各標章は、需要者に著名であり又は周知である。
ウ(同一標章の使用) 被告らは、別紙被告製品目録記載の化粧品(以下、一括して「被告製品」という。)を販売しているが、被告製品及びその包装には、本件標章4、6及び7と同一の標章が付されている。
エ(混同) 被告らが被告製品を販売することにより、原告の販売する商品と混同を生じている。
オ(営業上の利益の侵害) 被告らが、原告の著名又は周知の標章と同一の標章を付した被告製品を販売し、原告の販売する商品との混同を生じたことにより、原告の営業上の利益が侵害された。
(3) よって、原告は、被告らに対し、本件販売指定店契約又は不正競争防止法3条1項2条1項1号若しくは2号に基づき、アザレプロダクツの製造に係る本件各標章を付した化粧品の購入、譲渡、引渡し、譲渡若しくは引渡しのための展示の差止めを求める。
2 請求原因に対する認否 (1)ア 請求原因(1)アの事実は認める。
イ 請求原因(1)イの事実のうち、被告らが、アザレプロダクツの製造した化粧品を購入し販売していることは認め、それが本件販売指定店契約の競業避止条項に違反するという主張は争う。
(2)ア(ア)@ 請求原因(2)ア(ア)@の事実のうち、原告が、アザレ化粧品という名称 で化粧品を販売しており、それらの化粧品に、本件各標章とともに発売元として原告の名称が記載され、製造元としてアザレプロダクツの名称が記載されていたこと、アザレプロダクツの名称の記載が薬事法に基づく表示であることは認め、その余の主張は争う。
A 請求原因(2)ア(ア)Aの事実は認める。
B 請求原因(2)ア(ア)Bの事実は認める。
(イ) 請求原因(2)ア(イ)の事実のうち、原告が本件各標章を付した化粧品の外装を作成したことは認め、その余の事実は否認する。本件各標章を付した化粧品の宣伝は、多くの場合、各地の本舗が行っていた。
(ウ) 請求原因(2)ア(ウ)の事実は認める。ただし、本件各標章は、アザレプロダクツ、原告、被告ら全国の本舗からなるアザレグループを表示主体として使用されてきたものである。
(エ)@ 請求原因(2)ア(エ)@の事実のうち、本件各標章についてそれぞれ原告 主張の商標登録がされていること、Aが、原告主張のとおり本件各商標権(本件商標権13、14については商標登録出願により生じた権利)を取得したこと、Aが平成9年11月4日死亡したことは認め、その余は否認する。Bは、Aから遺産全部の遺贈を受け、遺留分権利者である原告補助参加人らに対して価額弁償を行い、同人らに対する返還義務を免れ、本件各商標権を単独で取得した。
A 請求原因(2)ア(エ)Aの事実のうち、Aと原告との間で、原告主張のころ、本件各標章について契約が締結されたことは認めるが、同契約は、独占的通常使用権を設定するものではなく、独占的でない単なる通常使用権を設定するものであった。Bは、Aから遺産全部の遺贈を受け、遺留分権利者である原告補助参加人らに対して価額弁償を行い、同人らに対する返還義務を免れ、前記通常使用権設定契約上の地位を取得した。ただし、平成11年12月、本件各商標権の管理をしていた有限会社ワンダフル(以下「ワンダフル」という。)が、原告に対し、通常使用権設定契約を解除する旨の意思表示を行い、原告の通常使用権は消滅した。仮にワンダフルによる解除の意思表示の効力が何らかの理由により発生しないとしても、Bは、原告に対し、平成12年7月18日到達の内容証明郵便をもって、前記通常使用権設定契約を解除する旨の意思表示を行ったから、これにより、原告の通常使用権は消滅した。
B 請求原因(2)ア(エ)Bの主張は争う。
(オ) 請求原因(2)ア(オ)の主張は争う。本件各標章の表示主体は、化粧品の製造を担当するアザレプロダクツ、アザレプロダクツの製造した化粧品を全国の本舗へ取り次ぎ販売する原告、原告と販売指定店契約を締結して原告から購入した化粧品を販売する被告らを含む全国の本舗からなるアザレグループであった。しかし、アザレプロダクツと原告は製造委託取引契約を合意解除し、全国の本舗もアザレプロダクツ側と原告側に分かれ、アザレグループは分裂した。このような状況の下では、本件各標章は、原告のみの商品表示であったということはできず、被告ら本舗の商品表示でもあったから、本件各標章は、被告らとの関係では、「他人の商品等表示」(不正競争防止法2条1項1号)又は「他人の著名な商品等表示」(同項2号)に当たるとはいえない。
(カ) アザレプロダクツは、本件各標章を付した化粧品を製造するための専用の工場を有し、実際に化粧品を製造販売しており、原告との間の製造委託取引契約においても、化粧品の中味の原材料や加工についてはアザレプロダクツが費用を負担し、処方や成分についてはアザレプロダクツと原告が協議の上決定するとされていたことから、アザレプロダクツは原告の単なる下請にとどまるものではない。また、実際に消費者に対する販売活動を行ったのは全国の本舗であり、原告は、販売主体でもなかった。原告がその研究所と称する施設は、ワンダフル名義の不動産で、Aがアイデアを試すための施設にすぎず、原告がPL相談室と称するものは、アザレプロダクツに問い合わせ内容を連絡して回答を求める単なる連絡役にすぎなかった。
イ(ア) 請求原因(2)イ(ア)の事実のうち、本件各標章を付した化粧品が、各都道府県ごとに合計55店あった本舗を通じて、その傘下の販売店や販売員によって販売されていたこと、本件各標章を付した化粧品は、20年以上にわたり販売されていること、原告の平成11年度の総売上高は約63億円であり、同年度の申告所得は約9億6200万円で、化粧品・洗剤卸の中で全国15位であったことは認め、その余は否認する。
(イ) 請求原因(2)イ(イ)の事実は認める。ただし、原告が朝日新聞、毎日新聞、読売新聞、産経新聞に広告を掲載したのは、本件各標章を付した化粧品が既に周知となっていた平成8年以降であり、その広告の内容は、新規顧客を開拓するためのものではなく、安売り業者への警告として、訪問販売やサロンでの販売だけを行っていることを記載したものである。月刊誌「健康ファミリー」は、知名度の低い雑誌である。原告の宣伝広告費が高額であるのは、原告代表者が、自らが代表取締役を務める有限会社コスモ(以下「コスモ」という。)と自己取引を行い、利益をコスモに得させようとしたためである。したがって、請求原因(2)イ(イ)の事実のうち、各新聞及び月刊誌「健康ファミリー」に広告を掲載したこと及び原告が宣伝広告費を支出したことは、本件各標章を付した化粧品の周知性を高めたとはいえない。
(ウ) 請求原因(2)イ(ウ)の事実のうち、本件各標章が周知であることは認めるが、その余は否認する。本件各標章は周知であるが、本件各標章の表示主体は原告ではないし、原告の宣伝広告活動のために周知となったわけではない。
ウ 請求原因(2)ウの事実のうち、被告らが被告製品を販売しており、被告製品及びその包装に本件標章4、6及び7と同一の標章が付されていることは認める。
エ 請求原因(2)エの事実は否認する。
オ 請求原因(2)オの事実は否認する。
3 抗弁 (1)(本件販売指定店契約の解除。請求原因(1)に対して) ア(商品供給債務の不履行) (ア) 原告は、アザレプロダクツとの間で、平成元年12月18日、原告が化粧品の外装用資材を自己資金で作ってアザレプロダクツに預け、アザレプロダクツが中味の製造に必要な原料を仕入れ、化粧品を加工完成して、原告の指示に基づいて全国の本舗に送付し、納品することなどを内容とする委託製造取引契約を締結した。アザレプロダクツは、平成11年11月4日、原告に対して同契約の解除を申し入れ、原告もこれに同意し、同契約は、平成12年2月6日、合意解除された。その後、原告は、日本コルマー株式会社(以下「日本コルマー」という。)との間で、化粧品の製造を委託する委託製造取引契約を締結した。
(イ) 原告は、本件販売指定店契約に基づき、被告らに対し、アザレプロダクツが製造した化粧品を供給する債務を負っていた。しかし、原告とアザレプロダクツの間の委託製造取引契約が合意解除されたことにより、原告は、アザレプロダクツが製造した化粧品を被告らに供給することができなくなり、前記債務を履行することが不能となった。
(ウ) 日本コルマーの製造した化粧品は、アザレプロダクツが有するノウハウによって作られていないこと、成分の一部が変更されていること、経年テストを行っていないことから、アザレプロダクツの製造した化粧品とは別の化粧品である。
イ(説明義務の不履行) 原告は、本件販売指定店契約に基づき、アザレプロダクツ以外の者が製造した化粧品を被告らに販売するに当たっては、その化粧品がアザレプロダクツの製品と同一品質かそれより優れているということを、客観的資料に基づいて説明する債務を負っていた。しかし、原告は、そのような説明をせず、前記債務を履行せずに、日本コルマーが製造した化粧品を被告らに販売した。
ウ(化粧品の販売代理店契約における解除権) 通常、化粧品の販売代理店契約においては、代理店側は、商品供給者側に債務不履行の事実がなくても自由に契約を解除する権利を有する。
エ(解除の意思表示) そこで、被告らは、原告に対し、本件販売指定店契約を解除する旨の意思表示を行い、被告株式会社アザレ福島本舗、被告株式会社アザレナチュラルコーポレーション、被告株式会社アザレ茨城本舗、被告株式会社アザレ化粧品千葉本舗及び被告株式会社アザレ群馬本舗の意思表示は、平成12年4月10日に、被告株式会社クールインアザレ、被告有限会社アザレ和歌山本舗及び被告有限会社アザレ佐賀本舗の意思表示は、同月12日に、被告アザレ化粧品函館本舗ことZの意思表示は、同月21日に、被告株式会社アザレ化粧品大阪本舗の意思表示は、同年5月8日に、いずれも原告に到達した。
これらの解除の意思表示は、前記ア又はイの債務不履行に基づくものとして効力を生ずるものであり、また、前記ア又はイの債務不履行がなかったとしても、前記ウの解除権に基づき、効力を生ずるものである。
(2)(本件販売指定店契約の自動解約。請求原因(1)に対して) 本件販売指定店契約には、各被告らが本件販売指定店契約締結後1年を経過して、1か月の売上げが所定数に満たない月がある場合、又はそのような月が2か月以上続いた場合、本件販売指定店契約は、原告から各被告らへの通告なしに自動的に解約される旨の条項が含まれていた。この条項により、被告らが原告に対して本件販売指定店契約解除の意思表示を行った月の翌月又は翌々月が経過した時点で、本件販売指定店契約は自動的に解約された。
(3)(権利の濫用。請求原因(1)に対して) 本件各標章は、いずれも商標登録されているが、その表示主体は、アザレプロダクツ、原告、被告らを含む全国の本舗からなるアザレグループであり、本件販売指定店契約も、アザレグループの存在を前提とするものであった。平成12年2月6日、アザレプロダクツと原告の間の委託製造取引契約が合意解除され、その後、全国の本舗がアザレプロダクツ側と原告側に分かれ、アザレグループは分裂した。被告らは、本件商標権4、6及び7を有するBから許諾を受けて、これらの登録商標と同一の本件標章4、6及び7を付したアザレプロダクツの製造に係る化粧品を販売している。このような事情の下において、原告が、被告らに対し、本件販売指定店契約に基づいて本件各標章の使用差止めを求めることは、権利の濫用に当たる。
(4)(商標権者からの使用許諾。請求原因(2)に対して) 被告らは、本件商標権4、6及び7を有するBから許諾を受けて、これらの登録商標と同一の本件標章4、6及び7を使用している。
4 抗弁に対する認否 (1)ア(ア) 抗弁(1)ア(ア)の事実は認める。
(イ) 抗弁(1)ア(イ)のうち、原告とアザレプロダクツの間の委託製造取引契約が解除されたことにより、原告が、被告らに対し、アザレプロダクツが製造した化粧品を供給することができなくなったことは認め、その余の事実は否認し、主張は争う。
原告が、本件販売指定店契約に基づき、被告らに対し、アザレプロダクツが製造した化粧品を供給する債務を負っていたことはない。したがって、原告に債務不履行はなく、被告らの解除は効力を生じない。
(ウ) 抗弁(1)ア(ウ)の事実は否認し、主張は争う。原告が、本件販売指定店契約に基づいて被告らに供給する債務を負っていたのは、化粧品に含有される表示指定成分及び石油系成分を必要最小限度に抑えた化粧品であり、日本コルマーの製造した化粧品は、そのような化粧品に該当する。アザレプロダクツには優れたノウハウはなく、化粧品に含有される表示指定成分及び石油系成分を必要最小限度に抑えることができなかったので、原告は、日本コルマーの製造した化粧品にリニューアルしたものである。
イ 抗弁(1)イのうち、原告が、日本コルマーが製造した化粧品を被告らに販売したことは認め、その余の事実は否認し、主張は争う。原告が、本件販売指定店契約に基づき、アザレプロダクツ以外の者が製造した化粧品を被告らに販売するに当たって、その化粧品がアザレプロダクツの製品と同一品質かそれより優れているということを、客観的資料に基づいて説明する債務を負っていたことはない。したがって、原告に債務不履行はなく、被告らの解除は効力を生じない。
仮に、原告が、本件販売指定店契約に基づき、アザレプロダクツ以外の者が製造した化粧品を被告らに販売するに当たって、被告らに対して説明義務を負っていたとしても、その説明の内容は、製造元及び使用感の変更に限られるところ、原告は、それらについて説明義務を尽くしている。また、そのような説明義務が認められたとしても、それは、本件販売指定店契約に基づく付随的な義務にすぎず、付随的な義務違反を理由に契約を解除することはできない。
ウ 抗弁(1)ウの主張は争う。
エ 抗弁(1)エのうち、被告ら主張のとおり、各被告の本件販売指定店契約を解除する旨の意思表示が原告に到達したことは認め、その余の主張は争う。
(2) 抗弁(2)のうち、本件販売指定店契約に、原告主張のような自動解約条項が含まれていることは認め、その余の主張は争う。被告らが、本件販売指定店契約の競業避止条項への違反を免れるために、最低購入数量不達成という債務不履行による自動解約を主張するのは不合理である。自動解約の条項は、専ら原告の利益のために設けられたものであるから、原告が本件販売指定店契約を解約する意思を有していない場合には、自動解約条項による解約の効力を生じない。
(3) 抗弁(3)のうち、本件各標章がいずれも商標登録されていること、平成12年2月6日、アザレプロダクツと原告の間の委託製造取引契約が合意解除され、
その後、全国の本舗がアザレプロダクツ側と原告側に分かれたこと、被告らが本件標章4、6及び7を付したアザレプロダクツの製造に係る化粧品を販売していることは認め、本件各標章の表示主体が、アザレプロダクツ、原告、被告らを含む全国の本舗からなるアザレグループであること、本件販売指定店契約がアザレグループの存在を前提とするものであることは否認し、その余の事実は不知であり、主張は争う。
Bは、遺留分減殺請求権行使に対する価額弁償として供託した供託金を取り戻したから、本件各商標権は、B(持分4分の3)と原告補助参加人ら(持分各8分の1)の共有に属し、Bは、単独で被告らに対して本件各標章の使用を許諾することができない。したがって、本件標章4、6及び7についてBから使用を許諾されているという被告らの主張は権利の濫用であり、失当である。Bによる商標の自己使用の主張も権利の濫用であり、失当である。
(4) 抗弁(4)のうち、被告らが本件標章4、6及び7を使用していることは認め、その余の事実は否認する。
前記(3)のとおり、Bは、単独で被告らに対して商標の使用を許諾することができないから、本件標章4、6及び7についてBから使用を許諾されているという被告らの主張は権利の濫用であり、失当である。
理 由
当事者間に争いのない事実
請求原因のうち、次の事実は、当事者間に争いがない。
1(1) 請求原因(1)アの事実 (2) 請求原因(1)イの事実のうち、被告らが、アザレプロダクツの製造した化粧品を購入し販売していること 2(1)ア(ア) 請求原因(2)ア(ア)@の事実のうち、原告が、アザレ化粧品という名称で化粧品を販売しており、それらの化粧品には、本件各標章とともに発売元として原告の名が記載され、製造元としてアザレプロダクツの名が記載されていたこと、アザレプロダクツの名の記載が薬事法に基づく表示であること (イ) 請求原因(2)ア(ア)Aの事実 (ウ) 請求原因(2)ア(ア)Bの事実 イ 請求原因(2)ア(イ)の事実のうち、原告が本件各標章を付した化粧品の外装を作成したこと ウ 請求原因(2)ア(ウ)の事実 エ(ア) 請求原因(2)ア(エ)@の事実のうち、本件各標章について別紙商標目録1ないし14記載の商標登録がされていること、Aが、原告主張のとおり本件各商標権(本件商標権13、14については商標登録出願により生じた権利)を取得したこと、Aが平成9年11月4日死亡したこと (イ) 請求原因(2)ア(エ)Aの事実のうち、Aと原告との間で、原告主張 のころ、本件各標章について通常使用権設定契約が締結されたこと(ただし、独占的な通常使用権までを設定するものであったか、独占的でない単なる通常使用権を設定するものであったかについては争いがある。) (2)ア 請求原因(2)イ(ア)の事実のうち、本件各標章を付した化粧品が、各都道府県ごとに合計55店あった本舗を通じて、その傘下の販売店や販売員によって販売されていたこと、本件各標章を付した化粧品は、20年以上にわたり販売されていること、原告の平成11年度の総売上高は約63億円であり、同年度の申告所得は約9億6200万円で、化粧品・洗剤卸の中で全国15位であったこと イ 請求原因(2)イ(イ)の事実 ウ 請求原因(2)イ(ウ)の事実のうち、本件各標章が周知であること (3) 請求原因(2)ウの事実のうち、被告らが被告製品を販売しており、被告製品及びその包装に本件標章4、6及び7と同一の標章が付されていること
事実の経過
(以下、書証の枝番のすべてを含む場合は、枝番の記載を省略する。) 上記第1の当事者間に争いのない事実に、甲第42号証、第68号証、第158号証、第170号証、第171号証、乙第11号証及び後掲各書証並びに弁論の全趣旨を総合すると、次の事実が認められる。
1 アザレ化粧品の販売に至る経緯 (1) Aは、昭和40年ころ、東京都葛飾区に所在したヴァロー化粧品という化粧品会社に専務取締役として勤務しており、原告代表者も夫と共に同社に勤務していたが、そのころ、Aとヴァロー化粧品代表者の間に意見の食い違いがあったことから、Aは、福岡に事務所を新設してヴァロー化粧品を販売することとし、そのころ夫を亡くした原告代表者もこれに従って福岡に移り、Aの事業に従事した。
(2) ところが、「ヴァロー」という商標は、フランスの化粧品会社が既に商標を有しており、日本ではCなる人物がその商標権を有していたことから、Aは、昭和45年ころ、新たに有限会社ジュポンファーイースト(以下「ジュポン社」という。)を設立し、「ルールジュポン」という商標の商標権を取得して、化粧品の製造販売を行うようになった。この会社の代表者はAであったが、原告代表者も常務取締役として、その事業に従事していた。
この時代に販売されていた化粧品に「エレガンスカラー」という水性ファンデーションがあり(写真が甲第48号証)、当時は化粧品の副作用が社会問題となっていたことから、「公害性のない化粧品」、「肌に負担をかけない」、「植物性」、「スキンケアとメイクが同時にできるワンタッチカラー」という売り文句で販売された。Aは、同商品の製造については、永田美研工業に中身の製造を、他の業者に化粧瓶や外箱の製造を委託し、ジュポン社において製品として完成させた上で、各地の業者に販売していた。
(3) ところが、中身の製造を行っていた永田美研工業が、ジュポン社とは無関係に同様の化粧品を製品化して販売するという事態が生じたため、昭和48年ころ、ジュポン社は永田美研工業との契約を解除し、化粧瓶の製造を担当していたD美術の紹介で、後にアザレプロダクツ代表者となるEが代表取締役を務める共和化粧品工業株式会社(以下「共和化粧品」という。)と新たに「製造請負契約」を締結した。
上記契約には、次のような条項が置かれていた(甲第61号証は上記契約に係る契約書の草稿である。)。
@ ジュポン社は、共和化粧品にジュポンエレガンススペシャル等の製造を請け負わせるものとして、それに必要な資材の容器、化粧箱、段ボール箱はジュポン社が支給し、内容製造原料は共和化粧品が負担する。
A 共和化粧品がジュポン社から供給を受けた材料は、すべてジュポン社の所有であり、共和化粧品はこれを処分したり担保に供したりしてはならない。
B 共和化粧品は、ジュポン社の取引先等より問い合わせや注文があった場合は、直ちにジュポン社に連絡して、ジュポン社の指示に従いジュポン社及びジュポン社の取引先の営業権を擁護し、ジュポン商標や他のブランドの製品を理由の如何を問わずまた直接、間接にても取引することは決してできないこととする。
C 共和化粧品は、ジュポン社が製造を委託したジュポンエレガンススペシャル等の3種類の製品と同一様式の水溶性ファンデーションの製造は、ジュポン社以外の業者から請け負えないこととする。
D ジュポン社は、共和化粧品以外の業者に対しては、ジュポンエレガンススペシャル等と同一様式製品の製造を委託できないこととする。
(4) しかし、昭和50年ころ、「ルールジュポン」の商標について、アメリカの化学メーカーであるデュポン社の名称と類似するのではないかが問題となり紛争が生じたこと、「ルールジュポン」商標には手違いで化粧品が指定商品とされていなかったことから、Aは、ジュポン化粧品の事業を総代理店のFに譲渡し、Aと原告代表者は福岡に戻った。
2 アザレ化粧品の創業 (1) しかし、化粧品業から身を引いたAに対しては、再び化粧品業界に戻るよう次のような要請がなされた。
ア 一つは、ジュポン化粧品の元販売先からであった。従前のジュポン化粧品の事業は総代理店のFが引き継ぎ、静岡に工場を新設して製造を開始したが、トラブルが続いたため、元販売先(特に徳島のG、山口のH)から化粧品製造の再開を要請された。
イ 他はEからであり、同人は、化粧品事業に対するAの卓抜した見識と才能を評価していたことから、化粧品事業の再開を要請した(乙第11号証)。
(2) そこで、Aは、化粧品公害が当時の社会問題となっていたことから、ジュポン社の時代に引き続き、植物を始めとする天然原料を使用した「自然派化粧品」の理念の下に、新たに化粧品事業を興すこととしたが、そのために、本件各標章につき商標登録出願をし(ただし、これらの商標の登録出願はAの当時の妻であったI名義で出願したものもある。)、別紙「Aの本件商標権取得年月日」記載のとおり、本件各商標権を取得した。なお、本件商標権13、14は、Aの生前に商標登録出願され、同人の死後、同人名義で商標登録されたものであるが、商標登録出願により生じた権利が同人の相続人にその持分に応じて承継され、相続人は、これらの商標権をその持分に応じて取得したものと認められる。
(3) アザレ化粧品の販売は昭和52年10月から開始されたが、当初は、「アザレインターナショナル」の商号の、後に原告代表者となるJを代表者とする個人企業として行われた。その後、昭和53年3月に有限会社アザレインターナショナルに法人化され、同社もいったん解散した上で、昭和57年1月に原告が設立されて(甲第1号証、第72号証)、販売を行うようになった。
原告の設立の際の発起人の中には、J(全2万株中1万株)、A(2800株)、E(2000株)が名を連ねており、その役員にもJ(代表取締役)、A(取締役)、E(取締役)が就任した(甲第1号証)。
Jは、昭和52年10月に化粧品の販売を開始したときから、本件各標章を化粧品の販売に使用し、有限会社アザレインターナショナル及び原告も、各設立時から、本件各標章を化粧品の販売に使用している。
(4) 他方、「アザレ化粧品」の製造は、ジュポン時代に引き続いて共和化粧品が行い、「アザレインターナショナル」と共和化粧品の間で製品取引契約が締結され、原告が設立された後の昭和57年1月、改めて、原告と共和化粧品との間で同内容の「製品取引契約書」(甲第70号証)が締結された。そこには、次の条項が置かれていた。
@ 原告は製品を完成するのに必要な外装用資材を共和化粧品に供給し、
共和化粧品は製品中身の製造に必要な原料を仕入れ、加工完成して原告の販売機構である各県の販売指定店に原告の指示に基づいて送付し、納品することとする。
A 原告は共和化粧品に対して原告の営業活動により設置する販売店全部の住所氏名を共和化粧品に通知し、共和化粧品はこの名簿により出荷するものとする。共和化粧品は、これにより原告の販売経路や販売方法等の詳細を知る立場を利用して、原告の経営を阻害する行為を行ってはならない。
B 原告が共和化粧品に支払うべき製品の代価は、共和化粧品の見積書を原告が承認して決定するものとする。
C 共和化粧品は原告の主たる商品であるメイクアップ料を水溶液中に保留した通称水彩カラーと称するアザレグレイスカラーと同一様式の製品を原告以外の第三者より受注してはならないこととする。
D 原告は、アザレの商標を使用する製品のすべてを共和化粧品以外の第三者に発注してはならないこととする。
E 共和化粧品は、原告の販売機構内の販売指定店等から原告の商品と異なる種類の製品でも受注してはならないこととする。
F 製品の内容処方や成分については共和化粧品が決定して製造し、原告は共和化粧品の製品内容に準じてこれを販売することとする。
G 原告の考案による容器デザインや広告文案等については原告の創作権を認めて、他の品種や原告以外の業者の製品に使用してはならないこととする。
このように、アザレ化粧品の製造については、化粧瓶や外箱は原告が供給し、共和化粧品は中身の製造を行った上で製品を完成させ、全国の販売店に出荷するという体制が採られていた。この体制は、後にアザレプロダクツが設立された後も引き続いて採られるが、平成9年から11年において原告が支払ったアザレ化粧品の製造原価のうち、アザレプロダクツに支払われた分は、35ないし38%である(甲第63号証)。
(5) アザレ化粧品の販売は、全国に「本舗」と呼ばれる販売指定店を設け(甲第11号証)、「アザレ札幌本舗」等の名称を使用して、本舗の販売員が顧客先を訪問して化粧品の使用方法等を指導するという訪問販売方式によって販売している。これらの本舗の開拓は、AがJとEを同行して行った。
例えば、カタログ(甲第18号証)には、アザレ化粧品の販売方法について次の記載がある。
「アザレ製品は、個性的な商品構成ですから、必ず使用上の注意事項に基づいてご使用頂くように、アザレ専門の教育を受けて試験に合格し、身分証明書を交付された当社正規のアドバイザーが、消費者を訪問して直接対面し、個々の肌質に合わせて使用する製品を選んだり、使用方法を細かく指導したり、さらに再訪問して使用結果を検討して使用方法を再指導するなどのアフターサービスを行い、製品の安定性の保持や効能効果について細かいアドバイスを行っております。このように製品内容に合致した訪問・直接対面販売制度でのみ販売していますので、通信販売や薬局、化粧品店、自然食品店その他の店舗による販売は一切しておりません。」 「アザレ製品は、必ず身分証明書を持った正規のアザレアドバイザーからお求め下さい。」 本舗の販売店契約は、すべて原告との販売指定店契約としてなされ(甲第2号証)、これらの契約書の具体的な作成者についてみれば、昭和53年ころのものには原告及び各本舗の記名(署名)押印のほか、A及び共和化粧品が立会人として記名(署名)押印しており、昭和57年から平成2年ころまでのものには、共和化粧品又はアザレプロダクツが立会人として記名押印している(甲第2号証)。本舗は、全国の都道府県ごとに、最終的には55店置かれた。
3 原告と被告らの間の販売指定店契約 原告と被告らとの間で締結された販売指定店契約というのも、いずれも、原告が、各被告らを販売指定店とし、原告の化粧品(いわゆる「アザレ化粧品」)を各被告らに販売し、各被告らは、前記のような販売方法を遵守した上で、これを顧客に販売するというものであった。 本件販売指定店契約に設けられた、各被告らが、原告の供給する化粧品以外の化粧品を購入し販売してはならないという競業避止条項も、前記契約の趣旨に沿うものであった。
4 アザレプロダクツの設立 (1) アザレプロダクツは、昭和60年7月に設立された(甲第4号証)。その発起人には、共和化粧品の代表取締役でもあったE(全100株中54株)のほか、同人の親類と思われる同じE姓の者3人(計38株)、原告代表者(2株)、
A(2株)がなり、Eが代表取締役となり、原告代表者も取締役に就任した。
(2) それまで共和化粧品は、アザレ化粧品以外の化粧品も取り扱っていたが、
アザレプロダクツは、アザレ化粧品以外の製造を行わないものとして設立された。 共和化粧品とは別にアザレプロダクツが設立されるに至ったのは、Aが、ジュポン社の時代に製造者によって直接製品を製造販売されたことがあったことから、そのようなことが生じないように、専門の製造会社を設立させておくという意図の下に、Eに要請したことによるものであった。
このような事実からすれば、アザレプロダクツは、従前の共和化粧品のアザレ化粧品製造部門を分社化したものみられる。
アザレ化粧品の化粧瓶や外箱は、前記2(4)の共和化粧品のときと同様に、
原告がアザレプロダクツに提供することとされていたが、原告がそれらの製造を発注していた取引先は、アザレ化粧品専門の企業ではなく、企業名にも「アザレ」の名は付されていなかった。
(3) アザレプロダクツの設立後、平成元年に原告とアザレプロダクツとの契約が改定された(甲第5号証)。その契約書では、名称を「委託製造取引契約書」とし、次の定めが置かれていた。
@ 原告は製品を完成するのに必要な外装用資材を自己資金で作り、アザレプロダクツに預けてアザレプロダクツは製品中身の製造に必要な原料を仕入れ、
加工完成して原告の販売機構である各県の販売指定店に原告の指示に基づいて送付し、納品することとする。
A 原告はアザレプロダクツに対して原告の営業活動により設置する販売店全部の住所氏名をアザレプロダクツに通知し、アザレプロダクツはこの名簿により出荷するものとする。アザレプロダクツは、これにより原告の販売経路や販売方法等の詳細を知る立場を利用して、原告が開発した取引先と直接談合したり、アザレプロダクツが別に経営する共和化粧品と原告の得意先と取引したりして信頼に背き、原告の経営を阻害する行為を行ってはならない。
B 原告がアザレプロダクツに支払うべき製品の代価は、アザレプロダクツの見積書を原告が承認して決定するものとする。
C アザレプロダクツは、アザレの商標を使用する製品を原告の指示する所以外に、如何なる理由でも出荷してはならないこととする。
D 原告は、アザレの商標を使用する化粧品の製造をアザレプロダクツ以外の下請業者に発注してはならないこととする。但し、医薬品及び医薬部外品は除外することとする。
E アザレプロダクツは、原告の販売機構内の販売指定店等から原告の商品と異なる種類の製品でも受注してはならないこととする。
F 製品の内容処方や成分については原告とアザレプロダクツが協議の上決定して製造することとして原告の承諾なく変更してはならないこととする。
G 原告の考案による容器デザインや広告文案等については原告の創作権を認めて、他の品種や原告以外の業者の製品に使用してはならないこととする。
(4) アザレプロダクツの財務状況 平成10年5月期決算におけるアザレプロダクツの決算報告書(甲第44号証)中の貸借対照表によれば、アザレプロダクツが保有する固定資産額は約590万円であり、その全額は保険積立金である。また、損益計算書によると、売上高は約13億9189万円であるが、売上原価のうちの総仕入高もこれと同額で、仕入割戻高が約1億0925万円あり、その分だけ売上利益が計上されている。他方、販管費内訳では、人件費に約5400万円程度が計上されているが、その大部分はEの役員報酬である(甲第158号証)。
なお、共和化粧品は、昭和54年に大阪府八尾市に工場を新設し、さらに昭和60年には、アザレ化粧品専用の工場を建設し、また平成元年には同工場を拡張して、アザレ化粧品の製造に当たっていた(乙第11号証)。これらの工場は共和化粧品の所有であり、アザレプロダクツは、アザレ化粧品を製造するための工場を共和化粧品から借用して使用し、アザレ化粧品の製造作業も共和化粧品の従業員が行っている。
5 アザレ化粧品の売上実績と宣伝広告等 (1) 原告の設立以降の売上の推移は、別紙「売上高・営業利益・商標使用料比較一覧表」の売上高欄記載のとおりであり、平成10年度では67億円超となっている。原告の平成11年度の売上高は約63億円であり、同年度の申告所得は約9億6200万円で、化粧品・洗剤卸の中で全国15位であった(甲第46号証)。
(2) アザレ化粧品には、本件各標章が付され、そのパッケージには、「発売元」として原告が記載され、薬事法に基づき、「製造元」としてアザレプロダクツが記載されていた(甲第165号証)。
(3) アザレ化粧品用のパンフレットやチラシ(甲第18号証、第36号証。平成9年ころ以降のものと思われる。)は、いずれも原告が作成したものであり、原告の名前のみが記載されているものもあれば、「全国アザレグループ」と記載されているものもある。もっとも、これらの中には「社外秘」と記された専ら指導員向けと推認されるものも存在する。
(4) アザレ化粧品の広告は、朝日新聞、毎日新聞、読売新聞、産経新聞に年間120回、半二段(縦約7cm×横約19cm)の大きさで掲載され、その文面には、いずれも原告のみが記載されていた(甲第38号証、第59号証)。ただし、
この広告内容は、「アザレ化粧品から訪問・直接対面販売のお知らせ」と題されており、商品の種類や効用を宣伝するものではなく、前記2(5)に引用したカタログと同様の記載が掲載されているものである。
雑誌広告については、平成4年9月以降(平成8年からは毎月)、「健康ファミリー」という月刊誌に、原告の名前で掲載され、女性雑誌「VERY」、
「JJ」、「CLASSY」、「MiL」にも広告が掲載された。
これらの新聞及び雑誌広告のための支出額は、平成8年度で約3089万円、平成9年度で5532万円、平成10年度で約7648万円である(甲第40号証)。
(5) 各種ファッション雑誌での化粧品の記事には、他の化粧品と並んでアザレ化粧品が取り上げられることもあったが、そこでは、概ねアザレ化粧品は、植物性の自然派化粧品として紹介されており、出所が表示されるときには、原告が記載されていた(甲第32号証、第73号証)。
(6) 原告は、「アザレ化粧品どんたく隊」として、平成8年以降、博多どんたく祭りに出演している(甲第57号証)。
(7) 原告は、昭和56年以降、「全国販売店コンクール」等を開催して、販売店の意欲を高める努力をしている(数々の表彰状の原稿として甲第53号証)。
また、原告は、毎月「アザレリポート」を販売店向けに発行して、各種の連絡や指導を行っていた(甲第54号証)。
さらに原告は、各本舗用に、多数の販売促進品を製造、配布した(甲第60号証)。これらの商品は、ほとんどコスモから仕入れていた。
(8) 原告の決算書によると、原告の宣伝広告費は、別紙「売上高・広告宣伝費・販売促進費比較一覧表」記載のとおりである(甲第13号証、第68号証)。
(9) このような原告の販売、宣伝広告により、本件各標章は、需要者の間で周知となった。
6 アザレ化粧品の製品開発 (1) 化粧瓶及び外箱について 前記4(2)のとおり、アザレ化粧品の化粧瓶及び外箱については原告がアザレプロダクツに供給することとされており、また、各種化粧瓶の意匠については、
Aを創作者として意匠登録出願がされ、原告が意匠権を取得している(甲第69号証)。
(2) 内容処方及び成分等について ア 前記2(4)の原告と共和化粧品の契約書、前記4(3)の原告とアザレプロダクツの契約書では、共和化粧品時代は共和化粧品が処方を決めるとされていたが(前記2(4)F)、アザレプロダクツ時代は両者が協議するとされていた(前記4(3)F)。
イ 原告の前身である有限会社アザレインターナショナルは、昭和54年12月、財団法人日本食品分析センターに、アサレグレイスカラー3の皮膚一次刺激性試験を依頼した(甲第47号証)。
ウ 原告は、福岡県糟屋郡新宮町に研究所を有しており、少なくとも平成4年以降は、社団法人福岡県製薬工業協会の正会員であり(甲第51号証)、平成10年には化粧品製造業許可を、平成12年には医薬部外品製造業許可をいずれも福岡県知事から受けている(甲第50号証)。
原告の研究所には、化粧品の製造設備が設けられ、アザレ化粧品の成分や効能に関する質問が本舗から寄せられた時に、その質問に答えたり、クレーム品について例えば微生物検査をするなどしてその原因を究明するなどの仕事を行ったり、クリームや化粧水についての新しい処方を考え、サンプルを作るなどしていた(甲第72号証、第86号証)。
また、原告では、平成8年ころからPL法相談室を設け、全国の消費者からの苦情や相談に応じる体制を採っていた(甲第83号証)。
エ アザレ化粧品は、その発祥の経緯に鑑みれば、Aの思想とアイディアに基づいており、Aがいなければ誕生しなかった化粧品であると認められるが、他方、化粧品を製造するためには、成分の具体的な処方が必要であり、また成分処方が同一であっても具体的な製造方法によって製品の品質に差異が生じ得るものであるとも認められるから、Aが考え方を示せば、直ちに具体的な製品化ができるというものでもなかったと考えられる。このことと前記アないしウの事実を総合すれば、アザレ化粧品の基本的な使用成分やコンセプトはAが考え、平成4年ころからは原告の研究所においてサンプルを作成するなどもしていたが、化粧品製造技術をもってAのアイデアを現実に量産できる化粧品として具体化していったのは、アザレプロダクツであったと推認される。
(3) アザレ化粧品の種類 原告とアザレプロダクツとが前記4(3)の委託製造取引契約を維持していた最終時点でのアザレ化粧品の商品は、約38種類であり、これらのうち2種類の商品は医薬部外品であるがアザレプロダクツにおいて製造し、他方、口紅及び石けんについては、アザレプロダクツに製造設備がなかったため、平成元年以降、株式会社日本色材工業研究所が製造を担当していた。
7 本件各商標権 (1) 本件各商標権(本件商標権13、14については、商標登録出願により生じた権利)は、前記2(2)のとおり、A個人が保有していた。
(2) Aは、別紙「Aの本件商標権取得年月日」記載の日ころに、原告との間で、Aが原告に対して、本件各商標権に係る登録商標につき独占的通常使用権を設定し、原告がA又は同人の指定する者に対して商標使用料を支払う旨の独占的通常使用権設定契約を締結し(Aは、本件標章13、14については、生前、商標登録された時に独占的通常使用権を設定する旨の契約を締結した。)、原告からA(昭和57年3月以後はAが設立したワンダフル)に対して、別紙「売上高・営業利益・商標使用料比較一覧表」記載のとおり商標使用料が支払われていた(甲第13号証、第15号証、第16号証)。
8 紛争の経緯 (1) Aは、平成9年11月4日に死亡し、妻であるBと、子である原告補助参加人らが相続した。Aの死後、アザレプロダクツ、東京本舗(アザレコーポレーション)のK、佐賀本舗のL、Bは、原告代表者がコスモに対して不正に利益を横流ししている、原告はAが使用しないようにしていた薬事法表示指定成分を含む新処方をアザレプロダクツに指示してきた等と主張して、原告と対立するようになった。
これらの事情から、アザレプロダクツは、平成11年11月4日付けの催告書を原告に送付し、原告の姿勢にはAによるアザレ化粧品の理念に反するとの疑問を抱かざるを得ないとして、新商品の開発及び販売のルールを確認することなどを要求し、納得できる説明がなければ3か月の経過により前記4(3)の委託製造取引契約を解約する旨を申し入れ(甲第6号証)、さらに、平成12年2月2日付けの通知書を送付して、同月5日の経過で同契約を解約することを申し入れたが(第8号証)、原告も同月2日付けの内容証明郵便で解約に同意して(甲第9号証)、両者の契約は同月5日限りで合意解除された。
(2) 上記解除後の平成12年4月ころから、原告は、日本コルマー株式会社を新たな製造元として、アザレ化粧品の製造販売を開始した(甲第34号証、第35号証)。
他方、アザレプロダクツも、独自に「アザレ化粧品」の製造販売を開始した(甲第26号証)。被告らは、アザレプロダクツの製造した化粧品である被告製品を販売しており、被告製品及びその包装には、本件標章4、6及び7と同一の標章が付されている。
(3) 原告及びアザレプロダクツは、それぞれの立場から全国の本舗に対して説明会を開催し、経過説明をした。そのため、平成12年4月から5月ころには、約18の本舗が原告との間の販売指定店契約を解除し(甲第3号証)、アザレプロダクツの化粧品を取り扱うようになった。それらの本舗が原告との間の販売指定店契約を解除した理由は、Aの化粧品理念を最もよく理解しているのはアザレプロダクツであり、アザレプロダクツが製造する製品であるからアザレ化粧品の品質に何ら疑念も持つことなく安心して取引をしてきたが、原告がアザレプロダクツ製造の製品を供給できなくなった以上、契約は履行不能になったという点にあった。
他方、原告は、各本舗に対し、アザレプロダクツらはアザレ化粧品を支配しようと目論んでいたこと、アザレプロダクツ製造のままでは2001年(平成13年)4月に予定されている化粧品の全成分表示に対応できないおそれもあったこと、日本コルマーは業界でトップクラスの生産技術と生産能力を擁していること等を説明した。
(4) 女性雑誌「VERY」の平成12年7月号の記事には、原告のアザレ化粧品の化粧水「ブランツ」が、愛用化粧水ランキング第4位と紹介されているが、そこにおいて、「ブランツ」は、原告の製品として記載されていた(甲第41号証)。
(5) Aは、死亡に際して全財産を妻であるBに相続させる旨の遺言を残していたため、本件各商標権は、いったんは相続によりBに承継されたものとされ、Bは平成10年11月に本件各商標権の移転登録も了したが(甲第14号証)、同人は、アザレプロダクツの製造する化粧品こそがAの考えていたアザレ化粧品であるとの立場から、原告に対して本件各商標権の通常使用権設定契約を解除する旨の通知をし(もっとも、原告はこの解除の効力を争っている。)、他方、アザレプロダクツに対して本件各商標権に係る商標を使用して化粧品を製造販売することを許諾した。
他方、Aには先妻であるIとの間の子である原告補助参加人両名がいたが、原告補助参加人らは、Bに対する本件各商標権の遺贈を対象として、遺留分減殺請求権を行使して、共有持分移転登録請求権を被保全権利とする処分禁止の仮処分を福岡地方裁判所に申し立て(同裁判所平成11年(ヨ)第928号)、平成11年12月10日に申立て認容の決定を受け(甲第22号証)、更に保全異議手続でも同仮処分決定が認可された(甲第23号証)。また、原告補助参加人らは、ワンダフルに対しても、原告以外の者にアザレ商標を使用させることの差止めを求める仮処分を申し立て(福岡地方裁判所平成12年(ヨ)第117号)、平成12年3月31日に認容決定を得た(甲第24号証)。
もっとも、平成12年9月5日に言い渡された原告補助参加人らとBの間の本案訴訟の第一審判決(福岡地方裁判所平成11年(ワ)第3714号)では、Bから主張された遺留分減殺請求権行使に対する価額弁償の抗弁が認められ、Bが原告補助参加人らに一人当たり約2億6000万円を支払うことによって、本件各商標権等を完全に保有できることとされ(甲第74号証)、Bはその金額をいったん供託したが(乙第1、第2号証、第45号証)、平成13年7月9日、原告補助参加人Xに対する供託金を取り戻し、同月13日、原告補助参加人Yに対する供託金を取り戻した(甲第160号証)。この判決に対しては控訴がされ、現在控訴審が係属中である。
本件各標章の表示主体について
1 前記第2の認定事実からすると、従前のアザレ化粧品の製造販売体制は、@製造面では、中身の製造は原告とアザレプロダクツとの間で委託製造取引契約が締結され、化粧瓶及び外箱については原告が他社から調達してアザレプロダクツに供給しており、A販売面では、原告が全国の本舗と販売指定店契約を締結して、種々のパンフレットを作成したり、本舗への指導・連絡を行うなどし、併せて宣伝広告を行っており、B商標使用の面では、原告がAと商標の独占的通常使用権設定契約を締結し、多額の使用料を支払ってきたものであって、これらの法的関係からすれば、原告は、アザレ化粧品の製造販売体制における中心的存在であったものというべきである。
アザレプロダクツは、原告はアザレプロダクツが製造した化粧品の単なる取次であったと主張するが、この主張に理由がないことは明らかである。
2 しかし他方、アザレプロダクツを単なる中身の下請製造業者又はOEM製造メーカーにすぎなかったとみることもできない。
(1) まず、需要者たる消費者からすれば、昭和60年にアザレプロダクツが設立されて以降は、化粧品のパッケージには製造元としてアザレの名を冠したアザレプロダクツの名称が、販売元として同じくアザレの名を冠した原告の名称が記載されており、しかも前記第2、2(5)認定のような販売方法からすると、消費者はアザレの名の付された本舗の販売員による訪問販売を受けていたのであるから、消費者としては、商品名と同じ「アザレ」の名の付されたこれらの企業が一つのグループを形成し、そのアザレグループをもってアザレ化粧品の出所であると認識していたものと考えられ、特に原告とアザレプロダクツを区別していなかったと推認するのが合理的である。
前記第2、5(3)、(4)認定のように、各種の広告やカタログには、原告の名称が記載されたものも存在するが、原告、アザレプロダクツ、本舗のいずれにも「アザレ」の名が冠されている以上、広告やカタログに原告の記載があるからといって、上記認定は左右されない。
(2) 前記第2の認定事実によれば、アザレ化粧品はいわゆる自然派化粧品として世に広く認められており、その製品理念と現実の製品の使用感の良さが需要者に受け入れられ、全国的販売組織の整備と相まって、売上げを飛躍的に増大させていったものというべきであるから、アザレ化粧品が周知性を獲得し、消費者からの信頼を受けるに当たっては、販売組織の整備及び指導や宣伝広告と並んで、製品内容も大きな比重を占めているというべきである。
そして、アザレ化粧品を開発するに当たっては、Aが基本的な使用成分やコンセプトを考え、平成4年ころからは原告の研究所においてサンプルを作成するなどもしていたが、化粧品製造技術をもってAのアイデアを現実に量産できる化粧品として具体化していったのは、アザレプロダクツであったと推認されることは前記第2、6(2)エのとおりである。そして、化粧品の製造においては、成分内容や処方が同一であっても、製造方法によって品質に差が生じると考えられるから、共和化粧品とそこから実質的に分社化されたアザレプロダクツが、アザレ化粧品の創始以来、一貫してその製造を行ってきたことも、アザレ化粧品の周知性獲得に当たって無視できない寄与をしてきたものというべきである。
また、前記第2、2(5)認定のようなアザレ化粧品の販売方法からすると、
その販売網(本舗)の整備も、アザレ化粧品の周知性・著名性獲得に当たって重要な要素を占めていたといえるが、前記第2、2(5)のとおり、アザレ化粧品の創始から平成2年ころまでの販売指定店契約書には共和化粧品又はアザレプロダクツが立会人として記名押印しているのであって、販売網の整備に当たっても、共和化粧品又はアザレプロダクツが、相応の寄与をしてきたことが推認される。
(3) これらの点からすれば、従前のアザレグループ内において、アザレプロダクツは、原告には劣るものの、創業以来の製造担当者(及びその実質的承継人)として、消費者の観点からしても、グループ内部の観点からしても、重要な地位を占めていたものというべきである。そして、このような事情があったからこそ、製造側ではアザレプロダクツのみに「アザレ」の名を冠した商号の使用が許され、少なくない本舗が原告との永年の契約を解除して、新たにアザレプロダクツの製品を取り扱うようになり、本件各商標権を承継した(紛争中ではあるが)Bも、原告に本件各商標権の通常使用権設定契約を解除する通知をして、逆にアザレプロダクツに使用許諾をするに至ったものと考えられる。
(4) 前記第2、4(4)のとおり、アザレプロダクツは独自の生産設備や従業員を有していないと考えられる(アザレプロダクツの決算書類からも裏付けられる。)。しかし、アザレプロダクツは、アザレ化粧品の商品パッケージに製造元として記載されているのであり、化粧品の製造業を行うについては、薬事法上、製造承認が必要である上、前記第2、5(1)に認定した売上に相当する量のアザレ化粧品の製造をアザレプロダクツは一手に行っていたのであるから、アザレプロダクツに何らの製造設備や従業員の手当てもなかったとは考え難いところである。アザレ化粧品の生産設備はアザレプロダクツではなく共和化粧品が有しており、実際のアザレ化粧品の製造も共和化粧品が行っていたものであるとしても、前記第2、4(2)のとおり、アザレプロダクツは共和化粧品からアザレ化粧品の製造部門を分社化したものであるにすぎず、原告も従来はアザレプロダクツをアザレ化粧品の製造元として承認していた以上、アザレプロダクツを単なるトンネル会社にすぎないとして、
従前のアザレグループ内での地位を過小評価することはできない。
3 このように、本件各標章が出所を表示する主体は、従前は原告、アザレプロダクツ及び全国の本舗を包括したアザレグループとして需要者の間に認識されていたと考えられる。本件では、それらのうち、原告とアザレプロダクツが分裂し、更に全国の本舗も原告側とアザレプロダクツ側に分裂して、互いに別個の化粧品を製造販売するに至ったものである。
ところで、同一の商品表示を使用していた複数の事業者からなるグループが分裂した場合において、その中の特定の者が当該商品表示の独占的な表示主体であるといえるためには、需要者に対する関係(対外的関係)及びグループ内部における関係(対内的関係)において、商品表示の周知性・著名性の獲得がほとんどその特定の者の行為に基づいており、その商品表示に対する信用がその特定の者に集中して帰属しており、グループ内の他の者は、その特定の者からの使用許諾を得て初めて当該商品表示を使用できるという関係にあることを要すると解される。そして、対外的及び対内的関係において、当該商品表示の周知性・著名性の獲得が、グループ内の複数の者の行為に基づいており、その商品表示に対する信用が、グループ内の特定の者に集中して帰属しているとはいえず、グループ内の複数の者に共に帰属しているような場合には、グループ内の特定の者だけが当該商品表示の表示主体であるとはいえず、グループ内の複数の者がいずれも表示主体であると解される。
しかるところ、本件各標章をめぐっては、前記2で述べたように、消費者(需要者)の観点からしても、グループ内部の観点からしても、アザレプロダクツはアザレグループ内で重要な地位を占めており、本件各標章の周知性・著名性の獲得に当たって相応の貢献をしたと認められ、本件各標章に対する信用は、原告のみならず、アザレ化粧品の製造を行っていたアザレプロダクツにも帰属していると認められるから、原告がアザレグループ内で中心的な地位にあったことを考慮しても、原告のみが本件各標章の独占的な表示主体であったと認めることはできず、同時にアザレプロダクツも本件各標章の表示主体でもあったというべきである。そして、全国の本舗も、分裂前はもとより、分裂後においても、原告又はアザレプロダクツのいずれかの傘下にあって、原告又はアザレプロダクツの供給する化粧品を販売していることから、本件各標章の商品表示の表示主体というべきである。
本訴請求に対する判断
1 前記第2の認定事実及び前記第3の本件各標章の表示主体に関する認定を基に、請求原因について検討する。
(1) 請求原因(1)(契約に基づく請求)イについて 本件販売指定店契約上の競業避止条項は、原告、アザレプロダクツ、被告らを含む本舗によってアザレグループが形成され、アザレプロダクツが製造した化粧品が、原告を通じて本舗に流通するという体制が採られていることを前提として、各本舗がアザレグループを出所とする化粧品のみを販売することとするために、アザレグループ以外の者が製造した化粧品を購入し販売してはならないとする趣旨のものであり、それ以上に、アザレグループの中でも更に限定された特定の者が製造した化粧品のみを購入し販売するように拘束する趣旨のものではないと認めるのが相当である。
本件においては、原告とアザレプロダクツが分裂し、全国の本舗も原告側とアザレプロダクツ側に分裂したものであるが、アザレグループが分裂に至ったとしても、それにより、競業避止条項が、同グループの一員であったアザレプロダクツの製造した化粧品の購入と販売を禁止し、アザレプロタクツとともに同グループの他の一員にすぎなかった原告の販売する化粧品のみのの購入と販売を各本舗に当然に義務付けるに至るとする根拠はない。アザレプロダクツも、原告と同様に、元々アザレグループを構成していた者であるから、被告ら本舗が、アザレプロダクツが製造した化粧品を購入し販売することは、前記競業避止条項の趣旨に反することはなく、同条項違反はないものというべきである。
したがって、原告の契約に基づく請求は、理由がない。
(2) 請求原因(2)(不正競争防止法に基づく請求)ア(本件各標章の表示する商品主体が原告であること)について検討する。
前記第3、3のとおり、アザレプロダクツは、本件各標章の商品表示の表示主体であり、被告ら本舗は、分裂後、アザレプロダクツの傘下にあって、アザレプロダクツの供給する化粧品を販売しているから、本件各標章の商品表示の表示主体というべきである。
したがって、本件各標章は、被告らとの関係においては、「他人の商品等表示」(不正競争防止法2条1項1号)又は「他人の著名な商品等表示」(同項2号)に当たるとはいえず、不正競争防止法に基づく請求は理由がない。
2 以上によれば、その余の点について判断するまでもなく、原告の請求はいずれも理由がないから棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法61条
66条を適用して、主文のとおり判決する。
追加
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裁判長裁判官 小松一雄
裁判官 中平健
裁判官 田中秀幸