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関連審決 不服2000-933
関連ワード 識別力 /  出所表示機能 /  品質保証機能 /  質保証機能 /  識別機能 /  指定商品 /  記述的商標(3条1項3号) /  3条2項 /  観念(観念類似) /  補正 / 
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事件 平成 14年 (行ケ) 337号 審決取消請求事件
原告 株式会社ハナマサ
訴訟代理人弁理士 柏原健次
被告 特許庁長官太田信一郎
指定代理人 井出英一郎,林栄二,宮川久成
裁判所 東京高等裁判所
判決言渡日 2003/04/22
権利種別 商標権
訴訟類型 行政訴訟
主文 原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
原告の求めた裁判
「特許庁が不服2000-933号事件について平成14年6月4日にした審決を取り消す。」との判決。
事案の概要
本件は,後記本願商標の出願人である原告が,拒絶の査定を受けたことを不服として,審判請求をしたところ,特許庁が本件審判の請求は成り立たないとの審決をしたため,同審決の取消しを求めた事案である。
1 前提となる事実等 (1) 特許庁における手続の経緯 (1-1) 本願商標 出願人 株式会社ハナマサ(原告) 商標 「プロ仕様」の文字を標準文字で書してなるもの。
出願日 平成10年11月24日(商願平10-100478号) 指定商品 第31類「あわ,きび,ごま,麦芽,ホップ,食用魚介類(生きているものに限る。),海藻類,飼料,果実,野菜」 (1-2) 本件手続 拒絶査定日 平成11年12月14日(発送) 審判請求日 平成12年1月24日(不服2000-933号) 審決日 平成14年6月4日 審決の結論 「本件審判の請求は,成り立たない。」 審決謄本送達日 平成14年6月26日(原告に対し) (2) 審決の理由の要旨 審決の理由は,別紙の審決書の写しに記載のとおりである。要するに,(@)本願商標をその指定商品に使用した場合,これに接する取引者,需要者は,その商品が「業務用の商品,プロ(専門家)用,プロ(専門家)と同じ方法で作った商品」等であると認識し,商品の品質,用途を表示したものと理解するにとどまるものであるから,本願商標は,結局,商品の品質,用途を表示したものであって,自他商品の識別標識としての機能を果たし得ないものと判断するのが相当であり,独占適応性に欠けるものといわざるを得ず,(A)また,本願商標それ自体が使用による識別性を有するに至っているものと認定することはできないので,(B)本願商標が商標法3条1項3号に該当するとした査定は妥当である,というものである。
2 原告の主張(審決取消事由)の骨子(ここでは,審決取消事由の骨子のみを記載し,後記「第3 当裁判所の判断」において,原告の主張内容を具体的に記載した上で,検討を加えることとする。) (1) 取消事由1(商標法3条1項3号に該当するとの認定判断の誤り) 審決が前記1(2)の審決の理由の要旨(@),(B)で示した判断は,誤っている。
(1-1) 審決は,原告以外の宣伝,広告文においても「プロ仕様」の語が使用されていることを理由として,本願商標について自他商品の識別標識としての機能を有しないと判断しているが,誤りである。
(1-2) 「プロ仕様」の文字と観念を同一とする商標「PRO SPEC」が原告の登録商標として登録されていることからすれば,本願商標「プロ仕様」も自他商品の識別標識としての機能を有するとともに,独占適応性を有するものであるから,これを否定した審決の判断は,誤っている。
(2) 取消事由2(商標法3条2項に該当しないとした認定判断の誤り) 審決は,前記1(2)の審決の理由の要旨(A)のとおり,本願商標それ自体が使用による識別性を有するに至っているものと認定することはできないとしたが,誤りである。
3 被告の主張の要点 (1) 取消事由1(商標法3条1項3号に該当するとの認定判断の誤り)に対して (1-1) 審決の判断に誤りはない。
審決は,宣伝,広告文に「プロ仕様」の語が使用されていることのみをもって,直ちに本願商標を自他商品の識別機能を有しないものと判断したのではない。審決は,「取引者,需要者は,その商品が『業務用の商品,プロ(専門家)用,プロ(専門家)と同じ方法で作った商品』等であると認識し,商品の品質,用途を表示したものと理解するにとどまるものである」ことを理由としているのである。
「プロ仕様」の語は,一般に「専門家用に設計された商品,専門家のために作られた商品」という程の意味合いを有するものとして多種多様な商品に使用されているものである。審決で引用した新聞記事及びインターネットのホームページに掲載された情報の写しに徴すれば,本願商標の指定商品を取り扱う業界である食品業界においても,「プロ仕様」の語は,宣伝,広告の文言として普通に使用され,「業務用の商品,プロ(専門家)用,プロ(専門家)と同じ方法で作った商品」のような意味合いで認識されていることが明らかである。したがって,本願商標をその指定商品に使用した場合,取引者,需要者は,商標を通じて,その商品を上記と同様の意味合いのものとして認識するのであって,本願商標を商品の品質,用途を表示したものと理解するにとどまるといえるのである。なお,原告の店舗及びインターネット上の広告には,「プロの為の店」又は「業務用中心のスーパーです。」の文字が大きく表示されている。つまり,原告自身が「業務用の商品,プロ(専門家)用の商品」等の意味合いに沿った商品・事業展開をしているといえるのであり,取引者,需要者も,本願商標とともに上記表示に接することになるから,容易に,「業務用の商品,プロ(専門家)用,プロ(専門家)と同じ方法で作った商品」の意味合いを認識し,本願商標を商品の品質,用途を表示したものと理解するといえる。
仮に,宣伝,広告の記述文の一部に文字を記載するのと自他商品の識別標識として商標を構成する文字を表示するのとでは,その表示方法が異なるとしても,本願商標については,「商標として用いられた際に識別標識としての機能を有しないものとはいい得ない」ということはできない。
審決の引用する新聞記事等において,「プロ仕様」が名詞の修飾語として使用されているといっても,「プロ仕様」の部分については,名詞の部分が表す食品(商品)の品質又は用途を表示するための修飾語として理解できるものである。「業務用」の語の補足,言い換えに使用されているということは,むしろ,「プロ仕様」が「業務用」と同様若しくはそれに極めて近い意味を有するものとして認識,理解されていることを表しているとみるべきである。
(1-2) 「PRO SPEC」の文字よりなる登録商標と本願商標は,その構成文字が異なり,事案を異にするものである。また,審決において示された判断と登録査定の前提となる審査官の判断とを同列に置いて論ずることはできないというべきである。
(2) 取消事由2(商標法3条2項に該当しないとした認定判断の誤り)に対して 本件証拠は,指定商品について使用する商標の構成及び態様を明らかにするところがなく,出願商標と使用に係る商標が同一であるということはできないのであるから,原告の主張は,失当である。
商標法3条2項により商標登録を受けることができるのは,商標が特定の商品につき同項所定の要件を充足するに至った場合,その特定の商品を指定商品とするときに限られるのであり,出願商標の指定商品中の一部に登録を受けることのできないものがあれば,手続補正等により登録を受けることのできない指定商品が削除されない限り,その出願は全体として登録を受けることができない。本願商標においては,指定商品のすべてについて実際の使用商標の構成及び態様が明らかとなっているとはいえない。 なお,原告は,2002年(平成14年)の1年間の総店舗数,総来客数や総売上商品数などを主張するが,そもそも,ほとんどが審決後によるものであり,かつ,それらの数字の裏付けも一切なされていない。しかも,これらは,原告の全店舗の総来客数や総売上げであって,本願商標を使用した指定商品の購入者や売上商品数を表すものではない。
証拠とされた新聞,雑誌等の記事についても,商標「プロ仕様」を読者に印象づけるような記事とはいえないものであり(しかも,審決後に発行された記事をも含む。),証拠力が乏しい。そして,「中小飲食業の方々に食材を供給する食品スーパー」(甲8-2。甲8-1,6なども同旨)などの記載によれば,むしろ,前記被告の主張を裏付けるものであり,原告の主張は失当である。
当裁判所の判断
1 取消事由1(商標法3条1項3号に該当するとの認定判断の誤り)について (1) 原告の主張 審決は,原告以外の宣伝,広告文においても「プロ仕様」の語が使用されていることを理由として,本願商標について自他商品の識別標識としての機能を有しないと判断している。
@ しかしながら,商標は,出所表示機能,品質保証機能,宣伝広告機能を有するものであり,単純化され印象的に表現された標識であるところから,ある種のシンボルとなり,商標を通じ,商品それ自体の優秀性や商標権者の信用が深く刻印されていくものであって,新聞記事や商品広告において,文の一部に「プロ仕様」の文字が用いられていることとは,明白に異なる用いられ方である。そのため,新聞や宣伝広告文の一部に「プロ仕様」の文字が使用されているからといって,「プロ仕様」が商標として用いられた際に,直ちに識別標識としての機能を有しないものとはいい得ない。
A 審決において,本願商標が宣伝,広告の文言として普通に使用しているとして列挙されているものを検討しても,「プロ仕様の食品」など,「プロ仕様の○○」といった名詞の修飾語として使用されているにすぎないものか,「業務用」の語を補足するため,あるいは言い換えであるものである。これらは,「プロ仕様」の文字だけでは,「業務用」の意味合いが伝わらないと考えられたために,このような表現が採られたものと考えられる。そのため,例示された食品業界における業務用の商品にあっては,単に「業務用」と表示されるだけであって,「プロ仕様」と指称されてはいない。よって,宣伝,広告文に「プロ仕様」の語が使用されていることを理由として,本願商標について自他商品の識別機能を有しないとした判断は,誤りである。
(2) 原告の主張に対する検討 (2-1) 審決は,本願商標である「プロ仕様」について,一般的に理解されるその言葉の意味合いとして,「専門家用に設計された商品,専門家のために作られた商品」という認定をした上,これに加えて,食品分野における「プロ仕様」という言葉の使用のされ方について,審決掲記の新聞やインターネットのホームページにおける使用例(乙1-1〜11)を参照し,本願商標を指定商品について使用した場合には,これに接する取引者,需要者は,当該商品が「業務用の商品,プロ(専門家)用,プロ(専門家)と同じ方法で作った商品」等であると認識し,商品の品質,用途を表示したものと理解するものと認定したものである。審決は,その上で,本願商標は,商品の品質,用途を表示したものであって,自他商品の識別標識としての機能を果たし得ないもので,独占適応性に欠けるものと判断したものである。
(2-2) 審決の上記「本願商標を指定商品について使用した場合には,これに接する取引者,需要者は,当該商品が『業務用の商品,プロ(専門家)用,プロ(専門家)と同じ方法で作った商品』等であると認識し,商品の品質,用途を表示したものと理解する」との認定は,「プロ仕様」という言葉自体のもつ一般的意味及び審決に掲記の証拠からうかがえる社会生活上で使われた場合の意味合いやニュアンスに照らせば,是認し得るものである。そして,その認定に立ってなした上記「本願商標は,商品の品質,用途を表示したものであって,自他商品の識別標識としての機能を果たし得ないもので,独占適応性に欠ける」との判断も相当として是認し得るものである。
(2-3) 上記(2-1)によれば,審決は,新聞や宣伝広告文の一部に「プロ仕様」の文字が使用されているからという理由で,直ちに,本願商標「プロ仕様」が自他商品の識別標識としての機能を有しないものと判断したわけではないことが明らかである。よって,原告の上記主張@が誤りであるばかりでなく,上記原告の主張全体が前提を欠くものであるというべきである。念のため,上記Aの点をみても,審決は,上記のとおり,「プロ仕様」という言葉の一般的に理解されるその意味合いに加えて,食品分野における「プロ仕様」という言葉の使用のされ方を認定する資料として,乙1-1〜11の記載を参照したものであり,これらが商品に付された標章である必要はないし,必ずしも原告の主張するように意味合いが十分伝わらないものとも認められないのであって,原告の主張は,採用の限りではない(なお,業務用の商品にあっては,「プロ仕様」と指称されてはいないとの点も,これを裏付けるに足りるだけの証拠はない。)。
(3) 原告の主張 原告が販売する商品に付した商標「プロ仕様」の「プロ」の語は,「専門家,職業的,職業としてそれを行う人」の意味だけでなく,一般需要者である家庭の主婦まで含まれるものであり,単に「業務用の商品,プロ(専門家)用,プロの料理人が作ったものと同じ味の商品」のように狭い意味でなく,家庭の主婦をも含む広い意味を有するものであり,本願商標「プロ仕様」について「取引者,需要者は,容易に業務用の商品,プロ(専門家)用,プロの料理人が作ったものと同じ味の商品」というような意味合いを認識するものでなく,本願商標は,商品の品質,用途を表示するものでもない。
「プロ仕様」の語からどのような意味合いが生ずるかについては,新聞記事等における実際の使用態様から判断されるべきものである。乙1-1〜11の記載からは,「プロ仕様」の語のみから「業務用の商品,プロ(専門家)用,プロの料理人が作ったものと同じ味の商品」であるとの意味合いは到底生じ得ない。他方,甲8-4によれば,一般需要者は,本願商標をその指定商品に使用した場合,「プロ仕様」の語は,ブランド(商標)と認識し,かつ「プロ仕様」ブランド(商標)を他のブランド(商標)と区別して「プロ仕様」ブランド商品を買っている実情にある。一般需要者は,「プロの為」とか「業務用中心」とかの意識をすることなく,また「業務用の商品,プロ(専門家)用,プロの料理人が作ったものと同じ味の商品」とかの意味合いを認識することなく,いいかえれば,「品質」や「用途」を認識することなく「プロ仕様」商品を購入している。このように,一般需要者は,本願商標を自他商品の識別標識として認識しているものであり,審決の認定は誤りである。
(4) 原告の主張に対する検討 (4-1) 証拠中に原告代表者のインタビュー記事として,次のような記載がある。
・ 原告の店舗では個人客の利用も相当数あるとの記事に続き,原告代表者は「あくまでも中小飲食業の方々のための店」であると強調し,客数で四割に当たる個人客に合わせて品揃えを変えることは「絶対にしない」と述べ,これが基本的な考えとしてあり,「一般消費者の中にもハナマサの商品や品揃えに価値を認める人がいて,その人々には飲食業者と一緒に買い物をしてもらえばいいというスタンスだ。」と記載されている(甲8-1)。
・ 原告代表者は,「私どもは中小飲食業の方々に食材を供給する食品スーパーを展開中ですが,中小飲食業というのは千代田区,中央区,港区に最も集中しています。……うちの商品の約九割は『プロ仕様』というプライベートブランドで,…メーカーが商品を卸す問屋さんには,一般消費者向けと業務用の二種類があります。一般消費者向けの商品をわれわれが安く売ると,メーカーは一般消費者向けの卸問屋さんから,うちにも安く卸せ,と言われてしまう。流通ルートが崩れてしまうので,メーカーさんのほうから,ハナマサのPBにしてほしい,と言ってきたという事情があります。……私どもが東京に集中して出すということと,顧客を業務用に絞ってPBを中心に商品政策を考えるという方針は,…業務用のお客様に集中し,店舗展開も首都圏に集中し,…徹底して業務用スーパーとして,地域を集中し,…」と説明している(甲8-2)。
・ 原告代表者は,「私たちのお客さまは,レストランや食堂などを経営する中小の外食産業の皆さまです。…」と述べている(甲8-5)。
・ 原告代表者は,「ハナマサは一般消費者じゃなく,中小飲食企業の方々にターゲットを絞って,プロ仕様のスーパーをめざしてきました。……中小飲食企業の方々に食材を供給するスーパーにしてみようというのがハナマサなんですよ。ふつうのスーパーじゃ面白くない。プロ仕様のスーパーにしようと。…ハナマサが業務用スーパーを出したわけですよ。…プロ仕様の業務用商品であるという個性が一般消費者を引き付けることにもなっている。そういう業務用商品をそのまま一般に売ることに対して,メーカーサイドからハナマサの独自商品,プライベートブランドとして販売してほしいという提案からできた商品もあります。」と述べている(甲8-7)。
上記のほか,原告の店舗の入り口付近には,「プロの為の店」と表記された人目を引く黄色い看板が掲げられていること(乙2-2,3,甲8-1,5),原告のチラシにも「プロの為の店」と表示されていること(乙2-1),原告のインターネットのホームページでは,「業務中心のスーパーです。」との記載があること(乙2-4,5)が認められる。
(4-2) 以上によれば,「レストランや食堂などを経営する中小飲食業者」と「一般消費者,個人客」とを区別した上で,前者にターゲットを絞ったものであること,後者の客に合わせて品揃えを変えることは絶対にないこと,原告の販売店は「中小飲食企業の方々に食材を供給するスーパー」,「プロ仕様のスーパー」,「業務用スーパー」であること,顧客を業務用に絞って「プロ仕様の業務用商品」を提供するものであり,「プロ仕様」というPB(プライベートブランド)を中心に考えるという方針であること,流通ルートが崩れてしまうので,メーカーの方からハナマサのPBにして欲しいと言ってきたことが認められる。そして,このような原告の営業に関する基本的な考えは,上記の看板,チラシの「プロの為の店」との表示,インターネットのホームページの「業務中心のスーパーです。」との記載,さらには,「プロ仕様」という本願商標にも反映されていることが容易に推認される。
以上のような原告側の事情をも斟酌すれば,前記(2-2)に判示したように審決の認定判断が相当であることが,より一層裏付けられるものである。すなわち,原告側でも上記のような事情にあるのであるから,「本願商標を指定商品について使用した場合には,これに接する取引者,需要者は,当該商品が『業務用の商品,プロ(専門家)用,プロ(専門家)と同じ方法で作った商品』等であると認識し,商品の品質,用途を表示したものと理解するにとどまる」ことは,より一層明らかであり,「本願商標は,商品の品質,用途を表示したものであって,自他商品の識別標識としての機能を果たし得ないものと判断するのが相当であり,独占適応性に欠ける」との審決の判断が相当であることは明らかである。
(4-3) 原告は,「『プロ仕様』の『プロ』には,一般需要者である家庭の主婦まで含まれる」と主張するが,上記認定と相容れないものであり,到底採用することができない。なお,雑誌の記事等において,「プロ仕様」が原告独自のプライベートブランドとの記載がみられるが,上記認定の事情に照らせば,原告は,「プロ仕様」を,「中小飲食業者にターゲットを絞った」「業務用スーパー」として販売する「業務用の商品」あるいは「プロ(専門家)の使用する商品」であることを表すものとして使用していることが明らかである。
また,原告は,甲8-4を援用して主張する。甲8-4は,女性消費者の話という形をとった雑誌の記事であり,「ハナマサって,業務用スーパーだから一般の人には関係ないと思っていたんです。…店内の商品には“プロ仕様”と書かれたものがたくさんあるんですが,これはすべてハナマサのプライベートブランド。さすが,“プロの為の店”と銘打っているだけあり,…とにかく量が半端じゃないんです…しかも,値段がかなり安い…主人とふたり暮らしなので,プロ仕様ブランドは買えないと思っていたんですけど,近所のお友達と分ければいいやって思いついたんです…」(甲8-4)との内容が記載されている。確かに,「プライベートブランド」,「プロ仕様ブランド」との言葉が使われてはいるが,記事の実質をみると,当該女性は,ハナマサが業務用スーパーで“プロの為の店”であると認識しており,商品内容も「量が半端じゃない」,「値段がかなり安い」と認識し,「さすが,“プロの為の店”と銘打っているだけあり」と理解しているものであって,上記認定と符合こそすれ,何ら上記認定と矛盾するものではない。
結局,上記原告の主張は,いずれも採用の限りではない。
(5) 原告の主張 「プロ仕様」の文字と観念を同一とする商標「PRO SPEC」は,PROが専門家の意味であり,SPECが「仕様」と訳されるのであって,商品の取引者,需要者においては,プロの仕様書又はプロ仕様と直感するものであるところ,原告の登録商標として登録されている。そして,該登録商標「PRO SPEC」が公告された時点(1998年7月2日)においては,登録商標「PRO SPEC」と観念を同一とする「プロ仕様」が宣伝,広告の文言として普通に使用されている。そうすると,商標「プロ仕様」は,登録商標「PRO SPEC」と同様に,自他商品の識別標識としての機能を有するとともに,独占適応性を有するものである。よって,本願商標が自他商品の識別標識としての機能を果たし得ず,独占適応性に欠けるものとした審決の判断は,誤っている。
(6) 原告の主張に対する検討 検討するに,原告の主張は,本願商標と観念を同一とする商標「PRO SPEC」が既に自他商品の識別標識としての機能を有するものとして登録査定を受けているから,本願商標も同様に登録査定を受けるべきであるというものである。
当然のことながら,原告のこの主張は,後者の商標が自他商品の識別標識機能を有していることを前提とするものであるところ,原告は,後者の商標が単に登録査定を受けたというのみで,自他商品の識別標識機能を有していることについては,具体的に何ら主張立証をしないで(したがって,当裁判所はこの点について何ら心証を形成していない。),単に登録査定を受けたことを根拠としているにすぎない。しかしながら,特許庁の担当審査官が当該商標につき自他商品の識別標識としての機能を有すると認定判断したとしても,裁判所の判断を拘束するわけではなく,単に裁判所が判断するについて参考となるにすぎない。
そうすると,原告の主張は,「PRO SPEC」が登録査定を受けたことのみを根拠に,これと観念を同一とする「プロ仕様」も登録査定を受けるべきであるという主張に帰し,商標「PRO SPEC」が自他商品の識別標識としての機能を有することについて,上記のとおり必要な立証がない以上,採用することはできない。
2 取消事由2(商標法3条2項に該当しないとした認定判断の誤り)について (1) 原告の主張 原告が昭和62年6月から平成14年10月初旬までに商標「プロ仕様」を使用した商品は,10品目になる(甲9,甲10-1〜10)。これらに記載された商標「プロ仕様」の文字は標準文字にて記載されている。
なお,平成14年1月から12月における総販売店舗39店舗の来客者(需要者)数は,1251万5077名,購入された商品数は,8097万7418点で,そのうち80%の6478万1934点以上は商標「プロ仕様」商品である。
本願商標「プロ仕様」は,昭和62年以来,現在に至るまで,約15年間以上にわたって,原告が使用していること,また,商品のオリジナリティー,商品の品質の向上,一般消費者が納得する価格を求めて努力を怠らず追求し,さらに商品数を増やす努力をすることによって(現在では「プロ仕様」商品は約2500品種),現在では,各種雑誌,新聞に記事として取り上げられるようになり,商標「プロ仕様」は,一般需要者,取引者をして著名な商標として顕在化している。
(2) 原告の主張に対する検討 (2-1) 証拠及び弁論の全趣旨によれば,原告は,「プロ仕様」という本願商標を,指定商品である第31類「あわ,きび,ごま,麦芽,ホップ,食用魚介類(生きているものに限る。),海藻類,飼料,果実,野菜」のうち,「海藻類,果実」などについては,本訴口頭弁論終結時において使用していることを認めることができるが(甲9.10-1〜10),指定商品中の「麦芽,ホップ,食用魚介類(生きているものに限る。),飼料」について使用されていること示す証拠はない。
(2-2) 原告は,本願商標の使用開始時期は,昭和62年と主張するが,上記指定商品に属する具体的な商品のそれぞれについての使用開始時期については,主張がなく,証拠上も認めるに足りるだけのものはない。したがって,それぞれの商品についての本願商標の使用期間を個別に認定することはできない。
(2-3) 本願商標の使用された地域をうかがわせる店舗の所在地及び店舗展開の経緯については,店舗総数が39店舗であること以外に原告の具体的な主張がない。
そこで,証拠を精査すると,「私どもは中小飲食業の方々に食材を供給する食品スーパーを展開中ですが,中小飲食業というのは千代田区,中央区,港区に最も集中しています。…私どもが東京に集中して出すということと,顧客を業務用に絞ってPBを中心に商品政策を考えるという方針は,…業務用のお客様に集中し,店舗展開も首都圏に集中し,…徹底して業務用スーパーとして,地域を集中し,…」と原告代表者がインタビューで答えていること(甲8-2),東京都港区,中央区,千代田区と東京の中でも飲食店が集中する地域に出店していること(甲8-5),これまで地盤の東京都江戸川区などを中心に店舗展開していたが,平成11年ころから一気に都心へ出店攻勢をかけ,銀座,麹町,南麻布など平成12年だけでも9店を出店,平成13年途中までに店舗数が35を数えるまでに成長したこと(甲8-6),出店したのは,都内で特に飲食店が多い千代田区と中央区と港区であること,平成12年から皇居の周りに10店舗出店し,平成13年になってからも年度途中までに7店舗出店したこと(甲8-7),平成14年6月20日時点で都内を中心に39店展開していること,今後,関東の一都六県を対象に年間最大20店のフランチャイズチェーンを展開する予定であること(甲8-8),平成14年時点で都内及び千葉県,神奈川県,茨城県などの首都圏に39店舗を運営していること,都心だけでなく,住宅地(葛飾区)や郊外(千葉県成田店,茨城県筑波店)にも出店していること,平成13年には一挙に15店舗を新規出店したこと(甲8-9)が認められる。
以上によれば,原告の店舗数の急増は,平成11,12年ころからである上,増加後も上記のとおり,東京23区内で千代田区,中央区,港区を中心に約30店舗があるほか,その近県に点在する程度であること,あえて,首都圏に集中し,かつ,中小飲食業者の業務用に絞って(一般消費者,個人客を除外するものではないが),店舗展開をしてきたことが認められる。
(2-4) 本願商標の付された商品の売上高などについては,上記のとおり,平成14年1月から12月における総販売店舗(39店舗)の来客者(需要者)数は1251万5077名,購入された商品数は8097万7418点で,そのうち80%の6478万1934点以上は商標「プロ仕様」商品であり,「プロ仕様」商品は約2500品種にのぼっているとの主張があるが,これらは,他の指定商品に属するものも含んでおり,本件指定商品第31類に属する商品のそれぞれについて,どの程度の期間にわたって,どの程度の量の売り上げがあったかについて,個別具体的な主張立証があるわけではない。
(2-5) 本願商標及びその指定商品について,テレビ及び新聞などのマスメディアを利用した宣伝広告がされたことについては主張立証がなく,わずかに,雑誌,新聞などにおける取材,インタビュー記事が数点証拠とされているのみである。
(2-6) 以上の諸事情に照らせば,本件全証拠によっても,本訴口頭弁論終結時においてすら,本願商標「プロ仕様」が使用された結果,取引者,需要者が原告の業務に係る商品であると認識することができるものとなったこと(指定商品に属する個々の商品ごとに検討されるべきである。)を認めるに足りないというほかない。
したがって,本件審決時において,「本願商標それ自体が使用による識別性を有するに至っているものと認定することはできず」とした審決の認定判断は相当であって,誤りはない。
原告の上記主張は,採用することができない。
(2-7) さらにいえば,原告の上述の立証命題は,原告が,いかに,長期間で,多数の地域・店舗において,多品目かつ大量にわたって,多数の人に対し,本願商標を使用した商品を販売してきたかを立証しようとするものである。しかし,その立証が仮に原告の意図するとおり大略成功したとしても,使用されたのは,長方形の赤色地に対しクリーム色又は白抜きの文字で個別の商品名が書かれ,その上に黒色文字で「プロ仕様」と書かれ,これらの表示が上下に赤色線で挟まれているというレイアウトにほぼ統一された表示であることを認め得るものの,「プロ仕様」という語に接する取引者,需要者は,当該商品が「業務用の商品,プロ用の商品」等であると認識し,商品の品質,用途を表示したものと理解するにとどまることなどの前認定の事情に照らせば,上記のようにほぼ統一されたレイアウトによる表示とは別に,「プロ仕様」という文字のみからなる本願商標が自他商品識別力を獲得しているものと認めることはできない。
よって,原告の主張は,この見地からも,採用することができない。
3 結論 以上のとおり,原告主張の審決取消事由は理由がないので,原告の請求は棄却されるべきである。
裁判長裁判官 塚原朋一
裁判官 塩月秀平
裁判官 田中昌利