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関連審決 審判1999-18717
関連ワード 識別力 /  指定商品 /  普通名称(3条1項1号) /  記述的商標(3条1項3号) /  3条2項 /  周知商標 /  品質誤認(4条1項16号) /  ただ乗り(フリーライド) /  観念(観念類似) /  国内 /  補正 /  手続の補正 /  パリ条約 /  外国 / 
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事件 平成 14年 (行ケ) 222号 審決取消請求事件
原告 モリンダ・インコーポレーテッド
訴訟代理人弁護士 小泉淑子
同 鳥海哲郎
同 菅尋史
同 鈴木学
同 弁理士 小林ゆか
被告 特許庁長官太田信一郎
指定代理人 宮川久成
同 伊藤三男
裁判所 東京高等裁判所
判決言渡日 2003/04/21
権利種別 商標権
訴訟類型 行政訴訟
主文 原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
この判決に対する上告及び上告受理申立てのための付加期間を30日と定める。
事実及び理由
請求
特許庁が平成11年審判第18717号事件について平成13年12月12日にした審決を取り消す。
当事者間に争いのない事実
1 特許庁における手続の経緯 原告は,「TAHITIAN NONI」の文字(標準文字による)を書してなり,1996年(平成8年)10月30日付けアメリカ合衆国を第1国出願とする商標登録出願を基礎としたパリ条約に基づく優先権を主張し,指定商品を第5類「栄養強化飲料,栄養強化食品,その他の補助栄養飲料又は食品,果汁,その他のダイエット用飲料又は食品」とする商標(以下「本願商標」という。)について,平成9年4月15日に商標登録出願(商願平9-106793号)をし,平成11年8月27日に拒絶査定がされたので,同年11月25日,これに対する不服の審判を請求するとともに,同日付け手続補正書により,指定商品を「タヒチ産の果物を原料として含む食餌療法用飲料,タヒチ産の果物を原料として含む食餌療法用食品」と減縮補正した。特許庁は,同請求を平成11年審判第18717号事件として審理した上,平成13年12月12日に「本件審判の請求は,成り立たない。」との審決をし,その謄本は,平成14年1月7日,原告に送達された。
2 審決の理由 審決は,別添審決謄本写し記載のとおり,本願商標は,「TAHITIAN NONI」の文字を横書きしてなるところ,これを指定商品「タヒチ産の果実を原料として含む果実飲料」に使用しても,これに接する取引者,需要者に,「タヒチ産の植物である『ノニ』の果実を原材料として含む果実飲料」の意味合いを理解,認識させるもので,自他商品の識別標識としての機能を果たすことはできず,これを上記商品以外の商品に使用するときは,商品の品質について誤認を生じさせるおそれがあるから,商標法3条1項3号及び同法4条1項16号に該当し,また,その指定商品について使用された結果,自他商品の識別力を獲得し,同法3条2項の適用により登録を受けることができる商標にも当たらないから,商標登録を受けることができないとした。
原告主張の審決取消事由
審決は,本願商標は,これに接する取引者,需要者に,「タヒチ産の植物である『ノニ』の果実を原材料として含む果実飲料」の意味合いを理解,認識させるものであると誤って認定した上,その指定商品「タヒチ産の果実を原料として含む果実飲料」に使用しても,自他商品の識別標識としての機能を果たすことができず,これを上記商品以外の商品に使用するときは,商品の品質について誤認を生じさせるおそれがあるとの誤った判断をし(取消事由1),また,指定商品について使用された結果,自他商品の識別力を獲得し,商標法3条2項の適用により登録を受けることができる商標には当たらないと誤って判断をした(取消事由2)ものであるから,違法として取り消されるべきである。
1 取消事由1(本願商標が原材料の表示及び品質の誤認表示であるとする認定判断の誤り) (1) 審決は,「本願商標は,『TAHITIAN NONI』の文字を横書きしてなるところ,指定商品との関係では,『タヒチなどのポリネシア諸国に育つハーブの一種で,カヴァと同様に鎮静作用のある成分が含まれており,ストレスや精神安定に効果がある植物のノニ(学名:モリンダ・シトリフォリア)』の意味合いを認識させる」(審決謄本3頁第2段落)と認定した上,「本願商標をその指定商品『タヒチ島産の果実を原料として含む果実飲料』に使用しても,これに接する取引者,需要者をして,『タヒチ産の植物である『ノニ』の果実を原材料として含む果実飲料』の意味合いを理解,認識させるもので,自他商品の識別標識としての機能を果たし得ない」(同頁最終段落)と判断するが,誤りである。
本願商標中「TAHITIAN」の語は,「タヒチ産の」という意味を表す英語であるが,タヒチにおいては,モリンダ・シトリフォリアは,「NONO(ノノ)」「MONA(モナ)」又は「MONII(モニイ)」と呼ばれ,「NONI(ノニ)」とは呼ばれていない。「タヒチ産のモリンダ・シトリフォリア」を表す語は,「TAHITIAN NONO」「TAHITIAN MONA」又は「TAHITIAN MONII」であって,「TAHITIAN NONI」ではない。
また,モリンダ・シトリフォリアは,自生する熱帯アジア,オーストラリア及び太平洋諸島の地域において,古くから果実が民間薬として使用されていたため,世界各地において約90もの呼び名がある。「NONI」の語は,ポリネシア,ハワイ及びプエルトリコという極めて限られた地域において,モリンダ・シトリフォリアの名称として使用されているにすぎず,しかも,ポリネシアでは「AWL TREE(オウル・トリー)」,ハワイでは「INDIAN MULBERRY(インディアン・マルベリー)」,プエルトリコでは「MORINDA(モリンダ)」という別称があり,「NONI(ノニ)」は確立した名称とはいえない。そして,我が国おいては,古来からの「ヤエヤマアオキ(八重山青木)」の呼び名が存在するから,「NONI(ノニ)」が,モリンダ・シトリフォリアの普通名称ということはできない。
このように,本願商標の「TAHITIAN NONI」は,「タヒチ産の」という意味を表す英語である「TAHITIAN」とモリンダ・シトリフォリアのハワイ,ポリネシア及びプエルトリコという極めて限られた地域(我が国やタヒチは含まれない。)での呼び名である「NONI」を組み合せて構成した造語であり,「NONI」も,我が国では原告が初めて使用した語であり,造語である。したがって,これに接する指定商品の取引者,需要者に,「タヒチなどのポリネシア諸国に育つハーブの一種で,カヴァと同様に鎮静作用のある成分が含まれており,ストレスや精神安定に効果がある植物のノニ(学名:モリンダ・シトリフォリア)』の意味合いを認識させ」(審決謄本3頁第2段落),あるいは「本願商標をその指定商品『タヒチ島産の果実を原料として含む果実飲料』に使用しても,これに接する取引者,需要者をして,『タヒチ産の植物である『ノニ』の果実を原材料として含む果実飲料』の意味合いを理解,認識させるもので,自他商品の識別標識としての機能を果たし得ない」(同頁最終段落)ものではない。
また,審決は,「NONI」「ノニ」がモリンダ・シトリフォリアを表す普通名称であることは,「インターネットのホームページにおいて,例えば,1.HTTP//www.net-way.co.jp/category/category04/noni.html(注,乙1-2)に 『『ノニ』とは,学名モリンダシトリフォリアという植物で,南太平洋の島々で『奇跡のフルーツ』『驚異の果実』として2000年前より健康維持のために珍重されてきました。』の掲載があること。
2.HTTP//www.imj.ne.jp/green/sizen.html (注,乙1-3)に『大自然がくれた 驚異のパワーを実感! タヒチの奇跡のフルーツ『ノニ』』の掲載があること。
3.HTTP//www.kenko.com/product/seibun/sei_785002.html(注,乙1-4) に『天国に一番近い島タヒチから届いた『奇跡のフルーツ』ノニが,現代人の栄養バランスと健康維持をサポートします。』の掲載があること。
4.HTTP//user.parknet.co.jp/miyataya/noni/noni.html(注,乙1-5)に『『ノニ』はアカネ科の植物で,南太平洋の島々で『奇跡のフルーツ』と呼ばれ2000年前より健康維持のために珍重されてきました。』の掲載があること。
5.HTTP//www.curio-city.com/noni/6598/18765.html(注,乙1-6) に『ノニは,ポリネシア地方に自生するフルーツハーブの一種で,2000年以上も諸島の人々に利用されてきました。』の掲載があること。
6.HTTP//www.syatyu.com/shop/131/top.html (注,乙1-7)に『ノニは,ポリネシア地方に自生するフルーツハーブの一種で,2000年以上も諸島の人々に薬として利用されてきました。』の掲載があることからも十分に裏付けられる」(審決謄本3頁第4段落)とした。被告は,プリントアウトした上記ホームページ(乙1-2〜7)右下の年月日及び時刻は,情報をコンピュータから出力した時期を示すものであり,審決前にこれらの情報がインターネットのホームページに掲載されていたことは明らかであると主張する。しかし,上記年月日及び時刻は,出力側コンピュータに登録されている日時を任意に変更することにより容易に改変できるものであり,全く当てにならない情報である。また,「特許・実用新案審査基準」(甲258)及び「意匠審査基準」(甲259)においては,インターネット等に載せられた情報は,改変が容易であることから,引用しようとする電子的技術(意匠)情報が,表示されている掲載日時にその内容のとおりに掲載されていたかどうかが常に問われることとなり,審査官は,表示されている掲載日時にその内容どおりに掲載されていたことの疑義が極めて低いと考えられるホームページ等の引用は可能であるが,それ以外の改変の疑義が生ずるホームページ等においては,問い合わせ先等として表示されている連絡先に,改変されているか否か照会して,当該疑義について検討し,検討の結果,疑義が解消したものに関しては引用できるが,疑義が解消しないものに関しては引用しないという指針が示されている。商標登録出願の審査においても上記と異なる取扱いをする特別な理由は全くない。
(2) 本願商標,「NONI」又は「ノニ」を指定商品について初めて使用したのは原告である。原告は,タヒチ産のモリンダ・シトリフォリアを原料として含む果実飲料「TAHITIAN NONI」(以下「原告商品」という。)を製造,販売するために1996年(平成8年)に設立された米国の会社であり,売上げは,1年目が6億2800万米ドル,2年目が64億1200万米ドル,3年目が125億7900万米ドルに達している。このように,原告は,原告商品の高い品質が消費者の潜在的需要を掘り起こした結果,年々急成長を遂げている企業である。また,このような米国における成功の下で,世界中において原告商品のマーケットの拠点が設置されており,日本マーケットにおける拠点である原告の日本支社も平成11年に設立された。
原告は,原告商品を主力商品とし,その販売促進に全力を傾けており,この原告商品の独自性及び有用性を一般消費者に理解,浸透させるため,原告及び原告の日本支社は,本願商標,「NONI」又は「ノニ」の商標を付して,原告商品の大々的な宣伝広告活動を行い,その費用は,平成11年は約2億3400万円,平成12年は約2億3000万円,平成13年は約3億3800万円に上る。このような宣伝広告活動に加え,原告商品が従来市場に存在しなかった斬新なものであり,潜在的需要を掘り起こすに足りる非常に高い品質を持っていたことなどから,本願商標,「NONI」又は「ノニ」の商標を付した原告商品は,市場において高い評価が与えられ,その結果,原告及び原告の日本支社の日本における売上げは,平成11年度は約88億円,平成12年度は約156億円,平成13年度は約164億円と急激に増加した。このように,本願商標,「NONI」又は「ノニ」の商標が,原告商品を示す周知商標となった結果,「NONI」「ノニ」という語により取引者,需要者が想起する観念は,モリンダ・シトリフォリアという植物ではなく,正に原告商品そのものとなっているのであり,取引者,需要者にとっての「NONI」「ノニ」という語とモリンダ・シトリフォリアという植物との結び付きは,原告商品がモリンダ・シトリフォリアを原料として含む果実飲料等のほぼ唯一の商品であるという事実に起因する間接的なものにすぎない。
なお,原告は,原告商品に関する説明的な語句を伴って本願商標,「NONI」又は「ノニ」を使用する場合には,原告商品の原料がモリンダ・シトリフォリアという果物であることを説明し,「TM」又は「」の表示を「NONI」又は「ノニ」の文字に併記し,これが普通名称ではなく,原告の登録商標であることを明示し,原告商品の製造販売の主体として原告の名称を明記しているため,本願商標が,原告の業務に係る商品を表示するものであることは,一般の需要者が容易に理解することができるものである。したがって,本願商標,「NONI」又は「ノニ」が,一般需要者によって,原告商品の原材料の普通名称であると認識される可能性及び他の多くの業者が提供する同種商品を表示するものであると認識される可能性は,全く存在しない。商標法3条1項3号が一定の表示を登録阻却事由とした公益的な理由は,同業他者が使用を欲するものを独占させないところにあるが,「NONI」の語は,原告及び原告の日本支社による多大な宣伝広告活動及び販売活動によって一般消費者に認知されたものであり,たとえ現時点において使用する者がいたとしても,これは原告が築き上げた商品イメージにただ乗りしようとするものにすぎず,このような者の使用を公益上の理由によって保護することは,営業努力により商標に化体した信用を保護するという商標法の目的(1条)に反する。
2 取消事由2(商標法3条2項該当性の判断の誤り) 原告が,本願商標,「NONI」又は「ノニ」の商標を付して,原告商品の大々的な宣伝広告活動を行い,平成13年度で約164億円の売上高を計上したことは,上記1の(2)のとおりである。また,モリンダ・シトリフォリアを原料として含む果実飲料の世界におけるマーケットにおいて,原告商品は95%以上のシェアを有し,圧倒的に業界1位の実績を常に誇っている。この結果,本願商標は,その指定商品を示す原告の商標として,その需要者,取引者に広く知られることとなった。したがって,遅くとも審決時(平成13年12月12日)においては,上記のとおり原告商品に使用された結果,その指定商品である「タヒチ産の果物を原料として含む食餌療法用飲料,タヒチ産の果物を原料として含む食餌療法用食品」につき,取引者,需要者に,本願商標は,原告の業務に係る商品であると認識することができるものに至っていたことは明らかであるから,商標法3条2項該当性を否定した審決の判断は誤りである。
被告の反論
審決の認定判断は正当であり,原告主張の取消事由は理由がない。
1 取消事由1(本願商標が原材料の表示及び品質の誤認表示であるとする認定判断の誤り)について (1) 平成13年7月16日株式会社コスモトゥーワン発行の久郷晴彦監修「神様からのフルーツ 驚異の体験集(第3刷)」(甲125),同年6月27日同社発行の同人著「奇跡の鎮痛即効フルーツ(第13刷)」(甲126)及びHTTP//www.chabasirakousan.com/のホームページ(乙11)には,モリンダ・シトリフォリアは,タヒチやハワイにおいて「ノニ」と呼ばれていることが記載されている。したがって,モリンダ・シトリフォリアがタヒチでは「NONI(ノニ)」と呼ばれていないとの原告の主張は誤りであり,これを前提とする,本願商標の「TAHITIAN NONI」は,「TAHITIAN」と「NONI」を組み合せて構成した造語であり,「NONI」も造語であるとの原告の主張は失当といわざるを得ない。
「TAHITIAN NONI」の語が,「TAHITIAN」という形容詞と「NONI」という植物の普通名称を組み合わせたものであり,それが造語(「新たにことばを創ること。また,その造ったことば。ほとんどの場合,既成の語を組み合わせる」広辞苑第5版)であるとしても,そのことを理由に「TAHITIAN NONI」の語が自他商品識別標識としての機能があるとすることはできない。本願商標は,「タヒチ産の」を意味する「TAHITIAN」の語と学名をモリンダ・シトリフォリアとする植物の名称である「NONI」の語を結合してなるのであるから,これに接する取引者,需要者は,「タヒチ産の植物である『NONI(ノニ)』の果実」であると認識,理解し,商品の品質,原材料を想起するから,本願商標を,指定商品中「タヒチ産のノニを原料として含む食餌療法用飲料,タヒチ産のノニを原料として含む食餌療法用食品」に使用するときは,商品の原材料を表示するにすぎず,また,上記商品以外の商品に使用するときは,商品の品質について誤認を生じさせるおそれがある。
プリントアウトしたホームページ(乙1-2〜7)右下の年月日及び時刻は,情報をコンピュータから出力した時期を示すものである。仮に,審決記載の内容のインターネット情報が,審決以前には掲載されていなかったとすると,審決がインターネット情報として引用した記載は,後日掲載のインターネット情報と偶然に一致したと解釈するほかないが,そのようなことはあり得ず,出力した被告あるいは掲載者側による改変の疑義は生じようがない。原告の引用する審査基準は,特許及び意匠の新規性に関するものであり,特許法29条1項3号及び意匠法3条2項の「電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった」との規定を前提とするものであるが,商標にはそのような規定はない。普通名称や商標がインターネット上に表示されるのは,出版社や学術機関,官公庁などのホームページが主ではなく,多くは一般の取引者,需要者のホームページ上であり,そこにおいては,自己の商品,役務の宣伝や商標の使用の一手段として利用されるのであるから,掲載者が,虚偽の内容を記載するとか,改変したものを表示するとか,存在しない内容を表示するようなことは,掲載目的に反し,あり得ないと見るのが相当である。
(2) 商標法において,ある語が商品の普通名称であるか否かをいう場合,その語が,取引者,需要者によって特定の商品を指す一般的名称として認識され使用されていれば,その語が商品の普通名称と認めて差し支えないというべきであり,商品の売上高や販売量の多寡,比較により,その語の自他商品の識別標識としての機能の有無が左右されるものではない。
2 取消事由2(商標法3条2項該当性の判断の誤り)について 本願商標は,「TAHITIAN NONI」の標準文字により構成されているところ,特許庁長官は,特許庁公報7071号(乙15)記載のとおり,標準文字を指定した。そして,出願された商標が,商標法3条2項の要件を備えたものとして登録が認められるのは,出願商標と使用された商標が同一のものに限られることから,使用に係る商標は,上記指定された標準文字の態様によりなるものに限られる。しかし,原告の広告宣伝における「TAHITIAN NONI」の文字中,本願商標の標準文字と同一と認め得る範囲の商標が使用されているものは,一部にとどまる。しかも,これらにおける「TAHITIAN NONI」の文字は,記述的に表示されており,これが商標であると理解されるような構成とはいえない。また,原告の広告宣伝に接する取引者,需要者は,「タヒチ産のノニ(NONI)の果実飲料の広告宣伝がされている」という程度の認識をするにとどまり,「TAHITIAN NONI」が原告の取り扱う商品に使用する商標との意味合いで表示してあると理解する者は極めて少数というべきである。
以上のように,原告が本願商標を使用したと認められるものは,ごくわずかにすぎず,本願商標が,使用された結果,取引者,需要者が何人かの業務に係る商品であることを認識することができる状態に至っていたとすることはできない。加えて,本願商標の指定商品には,「タヒチ産のノニを原料として含む食餌療法用飲料,タヒチ産のノニを原料として含む食餌療法用食品」以外の商品も含まれており,商標法3条2項により商標登録を受けることができるのは,商標の使用により識別性を獲得し得る「タヒチ産のノニを原料として含む」特定の商品に限られるというべきであるから,この点からも,本願商標が,商標法3条2項の要件を満たしているということはできない。
当裁判所の判断
1 取消事由1(本願商標が原材料の表示及び品質の誤認表示であるとする認定判断の誤り)について (1) 本願商標は,「TAHITIAN NONI」の文字を横書きしてなるものであるところ,前半の「TAHITIAN」の文字と後半の「NONI」の文字との間には,1字分の空白があり,また,「TAHITIAN」は,「タヒチ産の」という意味を表す英語であることは当事者間に争いがなく,これが比較的平易な語であることは当裁判所に顕著であるから,「TAHITIAN」と「NONI」の2語を結合してなるものと理解されるというべきである。
そこで,「NONI」の語について検討するに,平成13年7月16日コスモトゥーワン発行の久郷晴彦監修「神様からのフルーツ 驚異の体験集(第3刷)」(甲125),同年6月27日同社発行の同人著「奇跡の鎮痛即効フルーツ(第13刷)」(甲126),主婦の友社発行の「健康」2001年(平成13年)7月号(乙2),わかさ出版発行の「わかさ」2001年10月号(乙3),小学館発行の「女性セブン」平成13年10月18日号(乙4),平成14年1月1日自由国民社発行の「現代用語の基礎知識2002」(乙6)及びウッドランド発行のリタ・エルキンス著「ポリネシア産ノニ 南太平洋の希少な薬用植物」(乙8)によれば,「NONI(ノニ)」の語は,モリンダ・シトリフォリアという植物の名称の一つであり,同植物は,植物分類でアカネ科のモリンダ属に属し,タヒチ,ハワイなどのポリネシアに生育していること,同植物の名称として,「NONI(ノニ)」という語は,マルケサス諸島やハワイで使用される,よく知られている名称であること,その果実には,血圧降下作用,抗がん作用等があり,また更年期障害にも効果があるといわれており,ポリネシアでは,「魔法のフルーツ」「奇跡のフルーツ」などと呼ばれ,古来から,その果実,樹皮,根等が自然薬として利用されていること,モリンダ・シトリフォリアは,上記の地域のほかにも,オーストラリア,マレーシア,インド,中国,沖縄などに生育しており,各地でそれぞれの名称で呼ばれ,日本では「ヤエヤマアオキ」と呼ばれていることが認められる。原告は,「NONI」の語は,我が国では原告が初めて使用した語であり,造語であると主張するが,モリンダ・シトリフォリアは,タヒチ,ハワイなどポリネシアに生育する植物であり,マルケサス諸島やハワイにおいて,「NONI」の名称でよく知られていることは,上記のとおりであるから,これを原告の造語ということはできない。
(2) ところで,本願商標の指定商品は,上記のとおり第5類「タヒチ産の果物を原料として含む食餌療法用飲料,タヒチ産の果物を原料として含む食餌療法用食品」であるところ,これら商品の取引者,需要者は,医師,薬剤師等の医療専門家に限られず,患者あるいは健康な者であっても,自らの意思と支出においてこれらの商品を購入することがあると考えられるから,本願商標の指定商品の需要者には,医師,薬剤師等の医療専門家のみならず,患者及び健康維持等のためこれらの商品を購入する一般人の消費者をも含むものと認めるのが相当である。
そこで,「NONI」の語が一般にどのように用いられているかについて検討するに,まず,書籍及び雑誌について見ると,上記「神様からのフルーツ 驚異の体験集(第3刷)」(甲125)には,「モリンダ・シトリフォリアってなに?」との小見出しの下に,「モリンダ・シトリフォリアとは,タヒチやハワイなどのポリネシアに群生するフルーツです。これまで日本人には,まったくなじみがありませんでしたが,現地では『魔法のフルーツ』『奇跡のフルーツ』などと呼ばれ,2千年以上も前から『自然薬』として珍重されているフルーツなのです。モリンダ・シトリフォリアは学術名で,現地では『ノニ』と呼ばれています。モリンダ・シトリフォリアは,タヒチ島をはじめとするポリネシアの島だけでなく,広く中国,インド,ハワイ,オーストラリアなどに群生しています」(13頁)との記載が,上記「奇跡の鎮痛即効フルーツ(第13刷)」(甲126)には,「タヒチ島は,フレンチ・ポリネシア最大の島ですが,今,この島は驚異的な治療効果で学会からも注目される奇跡の自然薬『モリンダ・シトリフォリア(Morinda Citrifolia)』の生育地として脚光を浴びはじめています。モリンダ・シトリフォリアというのは植物学上の名前ですが,現地では昔から『ノニ』(ポリネシア語)と呼ばれて親しまれてきました。・・・モリンダ・シトリフォリアという植物はアカネ科に分類されますが,タヒチ島をはじめとするポリネシアの島々だけでなく,広く中国やインド,ハワイや沖縄にいたる地域にも自生していて,その果実や樹皮や根は,二千年以上も前から現地の人々に自然薬として使用されてきたと言われています」(10頁,11頁)との記載が,上記「健康」平成13年7月号(乙2)には,「『ノニ』で血糖値が下がった!不眠症が治った!」と題し,「ノニフルーツが治りにくい病気にも速攻効果」,「活性酸素を除去して,免疫力を高め糖尿病,高血圧,ガン予防など万病に効果を発揮するノニフルーツのパワー」,「万病に効く南国の不思議な果実ノニ」との見出しの下,「みなさんは『ノニ』という名前の果物をご存じでしょうか。ノニは・・・万病に効果があると,現在各方面で最も注目されている果物です。・・・日本では最近になってノニを利用したジュースなどの製品が普通に手に入るようになりました。そして,その高い効果がいまたいへんな注目を集めているのです」(184頁)との記載が,上記「わかさ」平成13年10月号(乙3)には,「脂肪減らしの強力な酵素の働きで月に10キロ15キロやせる人が続出する」「南国の果実[ノニ]ジュース」と題し,「『ノニ』は,インドネシアをはじめとする東南アジアや,グアム島,タヒチなどの太平洋に広がる熱帯の島々に自生する植物です。この植物の果実はこれらの島々では『神様の贈り物』と呼ばれ,大昔からケガ,やけど,赤痢,カゼ,痛み,発熱,便秘などあらゆる病気の治療に用いられてきたといいます。近年,ノニについての研究が盛んに進められた結果,ノニにはガンや高血圧,糖尿病などに対する治療効果もあることが認められてきました。そうした治療効果とともに最近注目されているのが,すばらしいダイエット効果なのです。果物には多くの酵素が含まれていることが知られていますが,ノニには格段に豊富に含まれています」(111頁〜114頁)との記載が,上記「女性セブン」平成13年10月18日号(乙4)には,「話題のミラクルフルーツ『NONI』の実力」と題し,「南国ポリネシアで,2000年も前から伝統医療薬として使われてきた『NONI(ノニ)』。青汁も真っ青のまずさだが,『そんなに体にいいなら我慢する』と大ブーム。このミラクル果実,とにかくすごい!・・・万病に効くほか,美肌やダイエットにも効果抜群といわれる南国産のフルーツ『ノニ』。5年ほど前から米国で大ブームになり,日本でもいま脚光を浴びている。・・・ノニは,学名『モリンダシトリフォリア』というアカネ科の熱帯性植物」との記載があり,平成11年11月8日クロスロード発行(同年4月20日初版第1刷発行)の医学博士スティーブン・M・ホール著「ノニ あなたの体をめぐる旅(初版第2刷)」(乙16),同年7月27日神保出版会発行の「ノニの奇跡 MORINNDA」(乙17),マキノ出版発行の「壮快」平成13年6月号(乙18)及び湯浅真弥発行の「Naotta!」平成13年7月号(乙19)にも,「NONI」又は「ノニ」は,ポリネシアに生育する植物で,学術名ないし正式名をモリンダ・シトリフォリアといい,その果実は古来から自然薬として利用され,ジュースとして飲用すると健康に良いなどと紹介する記載がある。
また,インターネットのホームページの情報について見ると,平成13年6月12日のHTTP://kbic.ardour.co.jp/~g-mimaki/noni.html(乙5-2)には,医学・生理学博士ニール・ソロモンの記事として,「101の医療的用途をもつトロピカルフルーツ タヒチアンノニジュース」と題し,「ノニ(モリンダ・シトリフォリア)は,北アメリカ大陸の人々の間ではまだほとんど知られていない,非常に優れた治癒力を持つ果実である。ノニはポリネシア,中国,インド,その他の地域で2000年以上にわたって用いられ,その効果を発揮してきた。・・・合衆国では,ノニフルーツは栄養補助食品としてジュースの形で提供されている。ノニの実はたいへん苦く癖のある臭いがするが,栄養補助食品としてのジュースには天然のグレープジュース及びブルーベリージュースが加えられているため,その味や香りはともにたいへん心地のよいものとなっている」との記載がある。
これらの書籍の記載,雑誌記事及びインターネットのホームページの情報は,「NONI」又は「ノニ」が,ポリネシアなどに生育するモリンダ・シトリフォリアという植物の名称であるとした上,その果実は古来から自然薬として利用され,ジュースとして飲用すると健康によいなど,様々な効能を有する自然薬ないし健康食品として紹介するものである。このうち上記の各書籍の発行部数は明らかではないが,各雑誌の中には,多くの発行部数を有する一般的なものも含まれていることは当裁判所に顕著である。そして,上記書籍及び雑誌の発行日等は,平成11年4月から平成13年10月まで長期間に及んでいる。
加えて,証拠(乙1-1〜7,乙5-1,2)は,平成12年11月10日から平成13年11月29日までの間にコンピュータから出力したインターネットのホームページ情報であるが,これらによれば,審決時(平成13年12月12日)以前から,我が国において,複数の企業が,健康に良い効果があるとして,モリンダ・シトリフォリアの果実のジュースを製造,販売し,これに「ハワイアンアイランドノニジュース」「HAWAIIAN ISLAND NONI」「ミラクル・ノニ」「TahitiNoni」「ノニジュース」「NONI」「Noni」「スーパープレミアムノニジュース」「バリノニジュース」「タヒチアンノニジュース」など,「NONI」「Noni」又は「ノニ」を含む名称を商品名として使用していることが認められる。
以上の事実によれば,審決当時,我が国において,本願商標の指定商品の取引者,需要者は,「NONI」を,果実が古来から自然薬として利用され,ジュースとして飲用すると健康に良い,ポリネシアなどに生育する上記植物をいうものと認識し,少なくとも認識する可能性があるところ,「TAHITIAN」は,「タヒチ産の」という意味を表す比較的平易な英語であることは上記のとおりである。そうすると,本願商標「TAHITIAN NONI」に接した指定商品の取引者,需要者は,これを「タヒチ産のノニ」と認識,理解し,本願商標の指定商品である「タヒチ産の果物を原料として含む食餌療法用飲料,タヒチ産の果物を原料として含む食餌療法用食品」の原材料と認識し,少なくとも,これら商品の原材料として認識する可能性があるものと認めることができる。また,そうである以上,本願商標の指定商品は「タヒチ産の果物を原料として含む食餌療法用飲料,タヒチ産の果物を原料として含む食餌療法用食品」であり,「タヒチ産の果物」は「タヒチ産のノニ」以外の果物を含むから,本願商標を「タヒチ産のノニ」を原材料としない指定商品に使用するときは,その取引者,需要者に,異なる原材料を使用するものとして,商品の品質の誤認を生ずるおそれがあると認めることができる。
原告は,上記認定のインターネットのホームページ情報に関し,コンピュータから出力した時期を示すものであるとされるインターネットのホームページ右下の年月日及び時刻は,出力側コンピュータに登録されている日時を任意に変更することにより容易に改変できるものであり,全く当てにならない情報であると主張する。しかし,被告提出に係るインターネットのホームページをプリントアウトした書証(上記乙1-2〜7,乙5-1,2)は,特許庁においてインターネットに接続して出力したものであると認められるところ,そのコンピュータの日時を変更するなどして上記年月日及び時刻を改変したことをうかがわせる証拠は全くない。
加えて,審決は,インターネットのホームページの記載内容を具体的に引用している(審決謄本3頁第4段落)ところ,これをプリントアウトした乙1-2〜7の内容は,審決の引用と正確に一致しているのであるから,審決の引用するインターネットのホームページは,その引用する内容のとおり,審決時(平成13年12月12日)より前に掲載されていたことが明らかである。
また,原告は,「特許・実用新案審査基準」(甲258)及び「意匠審査基準」(甲259)においては,インターネット等に載せられた情報は,改変が容易であることから,引用しようとする電子的技術(意匠)情報が,表示されている掲載日時にその内容のとおりに掲載されていたかどうかが常に問われることとなり,審査官は,表示されている掲載日時にその内容どおりに掲載されていたことの疑義の有無について検討すべき旨の指針が示されているところ,商標登録出願の審査においても上記と異なる取扱いをする特別な理由は全くないと主張する。しかしながら,平成11年法律第41号(平成12年1月1日施行)により,インターネットに掲載された電子的技術情報及び電子的意匠情報が新規性阻却事由として扱うこととされ,特許法29条1項は,特許を受けることができない発明として,同項3号に「特許出願前に日本国内又は外国において・・・電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明」を規定し,意匠法3条1項は,意匠登録を受けることができない意匠として,同項2号に「意匠登録出願前に日本国内又は外国において・・・電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった意匠」を規定しているが,商標法には同様の規定はない上,審決及び本判決が引用する上記インターネットのホームページ(乙1-2〜7,乙5-1,2)は,いずれも商品の宣伝広告であって,掲載者がその内容を改変しなければならない理由はなく,また,改変されたことをうかがわせる証拠も全くない。
以上によれば,インターネットのホームページ情報に関する原告の上記主張は,いずれも理由がない。
(3) 原告は,本願商標,「NONI」又は「ノニ」を指定商品について初めて使用したのは原告であり,原告商品の大々的な宣伝広告活動を行い,その際,本願商標,「NONI」又は「ノニ」を使用する場合には,原告商品の原料がモリンダ・シトリフォリアという果物であることを説明し,「TM」又は「」の表示を「NONI」又は「ノニ」の文字に併記し,これが普通名称ではなく,原告の登録商標であることを明示するなど意を用い,その結果,本願商標,「NONI」又は「ノニ」の商標が,原告商品を示す周知商標となったから,「NONI」「ノニ」という語により取引者,需要者が想起する観念は,モリンダ・シトリフォリアという植物ではなく,正に原告商品そのものとなり,本願商標,「NONI」又は「ノニ」が,一般需要者によって,原告商品の原材料の普通名称であると認識される可能性及び他の多くの業者が提供する同種商品を表示するものであると認識される可能性は,全く存在しないと主張する。
しかしながら,本願商標,「NONI」又は「ノニ」の商標が,原告商品を示す周知商標となったとの事実を認めるに足りる的確な証拠はない上,原告商品に関する広告は,日本国内において,平成11年10月18日より前に行われたものは本件全証拠によるも見当たらないところ,同年4月20日初版第1刷クロスロード発行の医学博士スティーブン・M・ホール著「ノニ あなたの体をめぐる旅(初版第2刷)」(乙16)に,「NONI」又は「ノニ」は,ポリネシアに生育する植物で,学術名ないし正式名をモリンダ・シトリフォリアといい,その果実は古来から自然薬として利用され,ジュースとして飲用すると健康に良いなどと紹介する記載があることは上記のとおりである。そうすると,原告が原告商品の宣伝広告において,原告商品の原料がモリンダ・シトリフォリアという果実であることを説明していても,我が国では,「NONI」又は「ノニ」が,ポリネシアに生育するモリンダ・シトリフォリアという植物の名称であるとした上,その果実は古来から自然薬として利用され,ジュースとして飲用すると健康によいなど,様々な効能を有する自然薬ないし健康食品として紹介されていたことは上記のとおりであり,本願商標に接する原告商品の取引者,需要者は,本願商標「TAHITIAN NONI」から,これを「タヒチ産のノニ」と認識,理解し,原告商品の原材料を表すものであると認識することが多いものと容易に推認することができる。また,原告の宣伝広告中の本願商標,「NONI」又は「ノニ」の文字に併記された「TM」又は「」の表示は,原告がその主張するように自己の登録商標であることを明示する趣旨で付したものであるとしても,それ自体,根拠を欠くものであり,審決時(平成13年12月12日)以前から,原告以外の者に係る書籍,雑誌記事及びインターネットのホームページの情報等に,「NONI」又は「ノニ」に関する記載がされ,複数の企業が,モリンダ・シトリフォリアの果実のジュースを製造,販売し,これに「NONI」「Noni」又は「ノニ」を含む名称を商品名として使用していたことに照らすと,本願商標,「NONI」又は「ノニ」の商標が,原告商品を示す周知商標となったとはいえないとの上記認定を左右するものではない。したがって,原告の上記主張も採用することができない。
原告は,「NONI」の語は,原告及び原告の日本支社による多大な宣伝広告活動及び販売活動によって一般消費者に認知されたものであり,たとえ現時点において使用する者がいたとしても,これは原告が築き上げた商品イメージにただ乗りしようとするものにすぎず,このような者の使用を公益上の理由によって保護することは,営業努力により商標に化体した信用を保護するという商標法の目的(1条)に反するとも主張する。しかしながら,日本国内において,原告の広告が行われる前から,書籍及び雑誌等により,「NONI」又は「ノニ」は,ポリネシアに生育する植物で,学術名ないし正式名をモリンダ・シトリフォリアといい,その果実は古来から自然薬として利用され,ジュースとして飲用すると健康に良いなどと紹介されていたこと,本願商標,「NONI」又は「ノニ」の商標が,原告商品を示す周知商標となったとはいえないことは上記のとおりであるから,原告以外の者が,「NONI」の語を使用しても,これを原告が築き上げた商品イメージにただ乗りしようとするものということはできない。したがって,原告の上記主張も採用することができない。
(4) 以上検討したところによれば,本願商標は,商標法3条1項3号にいう原材料の表示に当たると解するのが相当であり,本願商標をその指定商品に使用しても,単に商品の原材料を表示するにすぎず,また,これを当該原材料としない商品に使用するときは,異なる原材料を使用するものとして,商品の品質について誤認を生じさせるおそれがあるというべきであるから,本願商標は商標法3条1項3号及び同法4条1項16号に該当するとした審決の認定判断に誤りはない。
2 取消事由2(商標法3条2項該当性の判断の誤り)について 原告は,本願商標が,原告商品に使用された結果,遅くとも審決時(平成13年12月12日)においては,その指定商品である「タヒチ産の果物を原料として含む食餌療法用飲料,タヒチ産の果物を原料として含む食餌療法用食品」につき,取引者,需要者に,原告の業務に係る商品であると認識することができるものに至っていたとして,商標法3条2項の適用を主張する。
商標登録出願された商標が,同規定の定める要件を備えたものとして登録が認められるのは,出願商標と使用された商標が同一のものに限られるというべきところ,本願商標は,「TAHITIAN NONI」の標準文字により構成されており,特許庁長官は,平成9年2月24日,商標法5条3項に規定する標準文字を特許庁公報7071号(乙15)記載のとおり指定したから,本願商標に係る商標登録出願において,使用に係る商標として主張し得るのは,上記特許庁公報7071号に示された文字の態様によるものと同一のものに限られるといわなければならない。
そこで,検討するに,甲29〜52(枝番を含む。以下同様。)は,原告が,平成11年10月から平成14年1月までの間に,宣伝広告として,JR,私鉄,新幹線及び地下鉄の車内,主要な駅の構内の広告掲示板及び電飾看板並びにバスの車体に原告商品のポスターを掲示した状況の写真,甲53〜57,60〜79,81〜99は,平成11年5月から平成14年7月までの間に,雑誌,新聞及びパンフレットに掲載した宣伝(ただし,甲99の刊行時は不詳),甲243〜256は,平成11年から平成14年までの間に,原告がディストリビューターに頒布したカタログ,パンフレット類(ただし,甲250の頒布時は不詳)であるが,これらのうち,本願商標と同一と認め得る範囲の商標が使用されていると認められるものは,甲34〜44,50,53,54,56,57,66,67,70〜72,96,97,243〜251にとどまり,他に同一商標の使用の事実を認めるに足りる証拠はない。
また,商標法3条2項により商標登録を受けることができるのは,商標が特定の商品につき同法所定の要件を充足するに至った場合に,その特定の商品を指定商品とするときに限られるから,出願商標の指定商品中の一部に登録を受けることのできないものがあるときは,出願の分割ないし手続の補正により登録を受けることのできない指定商品が削除されない限り,その出願は指定商品全部にわたり登録を受けることができないものというべきである。本件において,本願商標と同一と認め得る範囲の商標が使用されていると認められる上記甲号各証に係る原告商品は,いずれも果実飲料である「TAHITIAN NONI Juice」であるから,本願商標の指定商品である「タヒチ産の果物を原料として含む食餌療法用飲料,タヒチ産の果物を原料として含む食餌療法用食品」中に使用に係る商品以外のものが含まれていることは明らかであり,そうである以上,本願商標が指定商品全部にわたり登録を受けることができないことは,上記のとおりである。
以上によれば,本願商標が,原告商品に使用された結果,審決時(平成13年12月12日)において,その指定商品である「タヒチ産の果物を原料として含む食餌療法用飲料,タヒチ産の果物を原料として含む食餌療法用食品」につき,取引者,需要者に,原告の業務に係る商品であると認識することができるものに至っていたということはできず,他にこれを認めるに足りる証拠はない。
したがって,本願商標は,その指定商品について使用された結果,自他商品の識別力を獲得し,商標法3条2項の適用を受けることができる商標には当たらないとした審決の判断に誤りはない。
3 以上のとおり,原告主張の取消事由は理由がなく,他に審決を取り消すべき瑕疵は見当たらない。
よって,原告の請求は理由がないからこれを棄却することとし,主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 篠原勝美
裁判官 岡本岳
裁判官 長沢幸男