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事件 平成 14年 (ワ) 16723号 損害賠償等請求事件
原告 特定非営利活動法人家庭教師派遣業自主規制委員会 (以下「原告自主規制委員会」という。)
原告 株式会社日本家庭教師センター学院(以下「原告センター学院」という。)
被告 有限会社アイプレック
訴訟代理人弁護士 井川 真由美
裁判所 東京地方裁判所
判決言渡日 2003/03/28
権利種別 商標権
訴訟類型 民事訴訟
主文 1 被告は,原告自主規制委員会に対し,金4000円を支払え。
2 原告らのその余の請求をいずれも棄却する。
3 訴訟費用は,原告自主規制委員会に生じた費用の20分の1と被告に生じた費用の40分の1を被告の,その余の費用を原告らの,それぞれ負担とする。
事実及び理由
請求の趣旨
(原告自主規制委員会) 1 被告は,原告自主規制委員会に対し,金17万3000円及びこれに対する平成13年11月9日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2 被告は,原告自主規制委員会に対し,金50万円及びこれに対する平成13年11月9日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
3 被告は,原告自主規制委員会に対し,金12万5825円及びこれに対する平成13年11月9日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
4 原告自主規制委員会と被告との間において,被告は,同原告に対してAAA審査の審査料・認定料として支払った金2万円の返還請求権を有しないことを確認する。
5 被告は,原告自主規制委員会に対し,金2万4000円を支払え。
6 「原告自主規制委員会は,被告に対して『家庭教師優良業者ネットワーク』名称中の"優良業者"の削除又は解散,及び関連マーク等の削除,使用禁止を求める。」 7 「原告自主規制委員会は,被告に対して『愛知県家庭教師協会』名称中の"県"の削除,名称の変更又は解散を求める。」 (原告センター学院) 8 被告は,原告センター学院に対し,金50万円及びこれに対する平成13年11月9日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(原告自主規制委員会及び原告センター学院) 9 「原告自主規制委員会及び原告センター学院は,被告に対して『家庭教師派遣業自主規制委員会』(登録商標:No3366762)の表示禁止,別紙謝罪広告文記載どおりの謝罪広告の掲載を求める。」
当事者の主張
(原告自主規制委員会) 1 請求原因 (1) 請求の趣旨第1項に係る請求原因 別紙訴状記載の「紛争の要点(請求の原因)1」記載のとおり (2) 同第2項に係る請求原因 別紙訴状記載の「紛争の要点(請求の原因)7」記載のとおり 被告は,原告自主規制委員会が松山地方裁判所において訴外Aと争っている事件に関して,訴外Aを応援する立場を取っており,インターネット上に書き込まれた原告自主規制委員会及び同原告の理事長に対する誹謗中傷に対し,異を唱えることもなく,また,注意の書き込みをすることもなく同調している。これは,同原告に対する誹謗中傷行為である。
(3) 同第3項に係る請求原因 別紙訴状記載の「紛争の要点(請求の原因)8」記載のとおり NPO法人では,理事は法人ではなく,個人でしか認可されないため,登記上,理事が訴外Bの個人名になっていることは認める。しかし,原告自主規制委員会の会員としては法人会員であり,理事会においても同等に扱っている。したがって,訴外Bが代表取締役を務める被告に理事分担金の支払義務がある。
(4) 同第4項に係る請求原因 別紙訴状記載の「紛争の要点(請求の原因)3」記載のとおり 原告自主規制委員会が被告に対し,AAA審査の審査料・認定料2万円の返還義務を負うとの後記の被告の主張はすべて争う。
(5) 同第5項に係る請求原因 被告は,原告自主規制委員会の会員である。会員は原告自主規制委員会に対し,会費の納入義務を負っている(甲25の定款第8条)が,被告は平成14年度の年会費2万4000円を支払っていない。
(6) 同第6項に係る請求原因 別紙訴状記載の「紛争の要点(請求の原因)2・」記載のとおり (7) 同第7項に係る請求原因 別紙訴状記載の「紛争の要点(請求の原因)2・」記載のとおり (原告センター学院) (8) 同第8項に係る請求原因 別紙訴状記載の「紛争の要点(請求の原因)4」記載のとおり 「家庭教師優良業者全国ネットワーク」会員が使用している文書(甲16の1)には,「家庭教師派遣業自主規制委員会」の名称が使用されている。
(原告自主規制委員会及び原告センター学院) (9) 同第9項に係る請求原因 別紙訴状記載の「紛争の要点(請求の原因)2・」記載のとおり 2 被告の認否及び反論 (1) 認否 ア 商標権侵害等について 被告が「家庭教師派遣業自主規制委員会」に加入していることは認める。被告が印刷物などに「家庭教師派遣業自主規制委員会」の名称を使用していることは否認する。
被告が「家庭教師優良業者全国ネットワーク」及び「愛知県家庭教師協会」の会員であることは認める。
イ インターネット等による名誉毀損について 被告がインターネット上で原告自主規制委員会を誹謗中傷したこと,文書により名誉毀損行為をしたことは,いずれも否認する。
ウ AAA審査の審査料・認定料について 被告が原告自主規制委員会に対し,AAA審査の審査料・認定料として2万円を支払ったこと,審査前に審査を「キャンセル」するとの申入れをしたこと,原告自主規制委員会に対し,2万円の返還を求めていることは認める。
エ 理事負担金について 被告が原告自主規制委員会の理事であったことは否認する。同原告の理事となっているのは,被告の代表取締役である訴外Bである。
オ 年会費について 被告が原告自主規制委員会の会員であること,平成14年度の年会費を支払っていないことは認める。
(2) 主張 ア AAA審査の経緯(乙14) (ア) 原告自主規制委員会は,家庭教師のプロ化及び地位向上並びに家庭教師派遣業の自主規制の確立を目指す特定非営利活動法人であるが,家庭教師派遣業者についてサービス評価をして格付けを行い,優良業者を「AAA」と認定する制度(以下「AAA認定制度」という。なお,本件でいう「AAA審査」とは,AAA認定制度における審査を意味する。)を立ち上げようと考え,副理事長の訴外CをAAA審査委員長に任命し,審査制度の研究,調査,実施を同人に一任するとともに,無料の一次審査と有料の二次審査を実施することを決定した。
(イ) 一次審査は,無作為に抽出した全国の家庭教師派遣業者に対し,審査の案内と「サービス評価アンケート調査」(乙1)を送付し,返送されたアンケート及び審査に必要な書類一式をもとに当該業者が特定商取引に関する法律(以下「特定商取引法」という。)などの関係法令を遵守しているかどうかを検討し,遵守していると評価できる業者を「一次審査合格」とするという内容のものであった。
一次審査の案内書とアンケート用紙は,平成12年1月8日,全国206の業者に対して発送され,同年1月15日から平成13年5月28日までの間に合計23の業者から原告自主規制委員会に対し,アンケート用紙及び審査に必要な書類一式が返送された。被告も,平成12年3月3日,同アンケート用紙及び審査に必要な書類一式を原告自主規制委員会に返送した。
(ウ) 原告自主規制委員会は,平成13年9月8日,被告を含む23の業者に対し,一次審査の合格通知と二次審査の案内を送付した(乙2)。これによれば,二次審査は審査料・認定料として2万円がかかり,大学教授・弁護士などが審査員となり,当該業者の業務が特定商取引法等に適合しているかどうかを審査するとのことであり,審査結果は10月末に通知されるとのことであった。そして,審査に合格した場合には,「優良業者AAA」の認定証を交付するとともに原告自主規制委員会のホームページへ業者名の掲載を行い(ホームページ管理料年間5000円),不合格の場合には,審査料・認定料の半額の1万円が返金になるとのことであった。
これに基づき,被告は原告自主規制委員会に対し,同年9月18日,金2万円を支払った(乙3)。
(エ) ところが,同年10月末日を過ぎても原告自主規制委員会から審査結果の連絡はなく,同年11月20日,突如原告自主規制委員会から被告に対し,「経済産業省ガイドライン サービス評価審査システム 優良AAA業者認定登録証交付のご案内」と題する書面(乙4の1,2)が送付されてきた。これによれば,二次審査は原告自主規制委員会の理事会が一次審査の再審査という形で既に行ったとのこと,優良AAA業者としての認定を受けるためには,大学教授・弁護士などが審査員となる「最終審査」に合格することが必要であること,「最終審査」の審査料は無料であるが「認定料・登録料・交付料」として15万円を同年11月30日までに支払うことが必要であることが記載されていた。
被告は,原告自主規制委員会から,AAA認定を受けるためにこのような大金が必要であることを事前に知らされていなかったため,原告自主規制委員会に対し,「審査をキャンセル」すると告げ,既に支払い済みの審査料・認定料2万円の返還を求めた。そして,同年11月末日までに,ほぼすべての業者が,被告と同様,原告自主規制委員会に対し審査のキャンセルと返金を要求するという事態になった。
(オ) 「最終審査」は,平成13年12月5日,私学会館アルカディアにおいて開催された。「最終審査」の座長はD慶應義塾大学教授であったが,開始後5分経たないうちに,同教授より審査体制そのものに大きな問題があるとの指摘があった。その後は審査員間で審査のありかたそのものについての議論がなされ,当然のことながら個別の審査には至らず,合否は「保留」という扱いになった(乙5,6)。
(カ) 平成13年12月13日,訴外Cより被告その他の業者あてに通知が届き,これとともに一次審査時に提出した資料が返送された(乙7)。訴外Cからの通知によれば,同人は原告自主規制委員会に対し,審査料を返還するように話をしているようであったが,その後,同年12月25日になり,原告自主規制委員会から被告に対し,「審査結果通知状」と題する書面(甲13)が送付されてきた。同通知状には,被告の審査結果が「不合格」であること,審査料の返還はしないことが記載されていた。同様の書面は,被告を含むすべての業者に送付されており,結果は全員「不合格」とのことであった。
(キ) その後も被告は,原告自主規制委員会に対し「審査のキャンセル」と2万円の返金を求めたが,原告自主規制委員会から一切返金されず,現在に至っている。
イ 被告の返還請求権について 原告自主規制委員会が被告に対し,被告の支払った審査料・認定料2万円の返還義務を負う法的根拠は,以下のとおりである。
(ア) 契約不成立 原告自主規制委員会の主張によれば,「特定非営利活動法人家庭教師派遣業自主規制委員会AAA審査委員会」名義で被告に送付された平成13年9月8日付け書面(乙2)は,原告自主規制委員会の代表者も原告自主規制委員会の理事会も全く承認していない書面であり,訴外Cの依頼を受けて原告自主規制委員会の事務局長である訴外Eが発送したとのことである(原告ら第3準備書面,甲26,乙15)。
そうすると,被告の原告自主規制委員会に対するAAA審査の審査料・認定料2万円の振込みは,AAA審査に関する契約の申込みの意思表示と位置づけられる。これに対し,原告自主規制委員会は,被告に対し,合計15万円で最終審査をする旨の書面(乙4)を送付しているが,同書面の送付は,AAA審査に関する契約について新たな申込みの意思表示をしたものと評価できる(民法528条)。このような原告自主規制委員会からの新たな申込みに対し,被告は「審査をキャンセル」する旨連絡し,承諾の意思表示をしていない。したがって,原告自主規制委員会と被告との間でAAA審査に関する契約は成立しなかったこととなる。
よって,原告自主規制委員会は被告に対し,被告から受領した2万円の返還義務を負う。
(イ) 錯誤無効 a 仮に原告自主規制委員会と被告との間にAAA審査に関する契約が成立したとしても,以下に述べるとおり,同契約は,錯誤により無効である。
すなわち,前記ア(イ),(ウ)の経過から,原告自主規制委員会と被告との間に,平成13年9月18日,次のような内容のAAA審査に関する契約(以下「本件審査契約」という)が成立した(乙2)。
@ 被告は,原告自主規制委員会に対し,審査料・認定料として2万円を支払う。
A 原告自主規制委員会は,被告から提出された資料をもとに,被告の業務が特定商取引法などの関連法規や家庭教師派遣業自主規制規約に適合しているかどうか,厳正な審査を行う。
B 審査は,大学教授・弁護士・消費者コンサルタント等,第三者の専門家が行う。
C 審査結果が「合格」の場合,原告自主規制委員会は被告を「優良業者AAA」と認定し,認証番号を付与した認定証を交付する。また,被告が原告自主規制委員会に対し管理料として5000円を支払えば,原告自主規制委員会は自己のホームページに被告の名前を掲載し,被告のホームページへリンクを張る。
なお,認定期間は1年間であり,翌年以降の継続審査料とホームページ管理料は合計で1万円である。
D 審査結果が「不合格」の場合,原告自主規制委員会は被告に対し,1万円を返金する。
E 合否の結果は平成13年10月末日までに被告あてに通知する。
b ところで,原告自主規制委員会から被告に送付された一次審査合格通知兼二次審査案内の文書(乙2)には,「審査料・認定料」として2万円が必要であるとの記載はあるが,このほかに「認定料・登録料・交付料」として別途15万円が必要になるとの記載はない。
仮に被告が上記2万円のほかに「認定料・登録料・交付料」として別途15万円の費用が必要となることを知っていたとすれば,被告が本件審査契約の申込みをすることはなかったはずであるから,被告のした本件審査契約の申込みの意思表示は要素の錯誤があり,無効である。
よって,原告自主規制委員会は被告に対し,被告より受領したAAA審査の審査料・認定料2万円の返還義務を負う。
(ウ) 債務不履行解除 仮に本件審査契約が有効に成立しているとしても,前記ア(エ)の通知(乙4)に記載されたAAA審査は,本件審査契約の前提である当初のAAA審査とは内容を大きく異にするものであり,既に当初のAAA審査は存在しないこととなる。そうすると,本件審査契約に基づく原告自主規制委員会の債務は,この時点で履行不能となっている。その後,被告は原告自主規制委員会に対し,「審査をキャンセルする」との通知をしたが,これは,本件審査契約を解除する旨の意思表示を意味するものである(乙9,10)。
したがって,原告自主規制委員会は被告に対し,解除による原状回復義務として,被告から受領した審査料・認定料2万円の返還義務を負う。
(エ) 禁反言 原告自主規制委員会の主張によれば,前記ア(ウ)の通知(乙2)は,訴外Cが無断で発送したものであり,「理事会の決議がなく,理事長の未承認文書」とのことである。すなわち,原告自主規制委員会は,被告に対して「AAA審査の審査料・認定料は2万円である」という意思表示はしていないと主張している。このような原告自主規制委員会の主張を前提とすれば,そもそも原告自主規制委員会は被告から審査料・認定料として2万円を受領する権限を有しないということになる。一方で自己の意思表示の効力を否定しながら,他方で意思表示が有効であることを前提とした受領権限を主張することは,禁反言の原則に反し,許されることではない。
したがって,原告自主規制委員会は被告に対し,2万円の返還義務を負う。
ウ 年会費について (ア) 原告自主規制委員会は,理事長が理事に無断で定款を無視して総会の開催日を決定する(乙8)など,会を私物化しており,原告自主規制委員会は,会員に対して会の責務を果たしていないのであるから,その対価としての会費の支払いを停止する。また,会費の支払義務は存在しない。
(イ) 被告は,原告自主規制委員会に対し,前記審査料・認定料2万円の返還請求権を有する。
被告は,原告自主規制委員会に対し,平成15年2月19日の本件口頭弁論期日において,予備的に,上記返還請求権をもって同原告の本件年会費請求権とその対当額において相殺する旨の意思表示をした。
当裁判所の判断
原告らの主張は,必ずしも明らかでない。以下,訴状及び準備書面の記載から原告らの主張を善解した上で判断した。
(原告自主規制委員会の請求) 1 請求の趣旨第1項の請求について 原告自主規制委員会は,被告が,AAA審査の混乱を生じさせた訴外Cの審査方法を支持し,被告が所属する「家庭教師優良業者全国ネットワーク」会員に有利な審査を押し進めた結果,AAA審査の誤解を招き,これにより,同原告のNPO活動を妨害し,同原告に信用失墜など損害を被らせたが,被告の同行為が不法行為に当たると主張しているものと善解される。
しかし,本件全証拠を検討しても,被告が原告自主規制委員会のAAA審査に関与したことを窺わせる事情は一切認められない。したがって,その余の点につき判断するまでもなく,原告自主規制委員会の請求は理由がない。
2 同第2項の請求について 原告自主規制委員会は,被告が,訴外F,訴外C,訴外A及び「家庭教師優良業者全国ネットワーク」会員とともに,平成13年11月29日から平成14年1月24日までの間に,インターネット[www.aozora.com/kzi]上で77回にわたり原告自主規制委員会に対する誹謗中傷行為を行い,また,文書でも同原告の名誉毀損,信用失墜行為を行い,これにより,同原告に信用失墜などの損害を被らせたが,被告の同行為が不法行為に当たると主張しているものと善解される。
しかし,被告がインターネット[www.aozora.com/kzi]上で原告自主規制委員会を誹謗中傷しているとの事実及び文書で同原告の名誉毀損,信用失墜行為を行ったとの事実を認めるに足りる証拠はない。ウエブページ(http://www.aozora.com/kzi)の写し(甲14の1〜14,甲24)には,原告自主規制委員会に関する書き込みも認められるが,これらの書き込みが被告によって行われたことを認めるに足りる証拠はない。
したがって,その余の点につき判断するまでもなく,原告自主規制委員会の請求は理由がない。
3 同第3項の請求について 原告自主規制委員会は,理事会及び臨時総会において理事が12万5825円を負担するとの決議をしたことを根拠として,被告に対して理事負担金12万5825円の支払を求めている。しかし,同原告は,被告が同原告の理事でないことを自認しているのであるから,その請求に理由がないことは明らかである。
4 同第4項の請求について (1) 事実認定 証拠(甲7,13,乙1ないし3,4の1及び2,8,14)及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められ,これを覆すに足りる証拠はない。
ア 原告自主規制委員会(同原告が法人格を取得したのは平成12年12月28日であるが,法人格を取得する前から権利能力なき社団として存在していたものと認められるので,以下では,法人格取得の前後を問わず,原告自主規制委員会と表記する。)は,家庭教師派遣業が特定商取引法の規制対象とされたことを契機として,家庭教師派遣業者のサービス評価をして格付けを行い,優良業者を「AAA」と認定する制度(AAA認定制度)の運営を企図し,平成12年1月以降,無作為に抽出した全国の家庭教師派遣業者に対し,「安心度AAA評価アンケート調査」と題する書面(乙1)を送付した。同書面には,アンケート調査の趣旨等に関して,同アンケートは「法を順守し消費者保護と良質な役務の提供がなされているか」どうかを調査するものであり,原告自主規制委員会が返送されたアンケートの回答と契約書その他の書類を審査し,アンケート回答者のサービス評価(AAA審査)を行うことなどが説明されていたが,それらに要する費用等についての説明はなかった。
イ 被告は,平成12年1月,原告自主規制委員会から前記「安心度AAA評価アンケート調査」と題する書面の送付を受け,その趣旨に賛同して,同年3月3日,アンケートの回答(甲7)と契約書等の書類を同原告に返送した。
ウ 原告自主規制委員会は,被告に対し,平成13年9月8日,書面(以下「第一次審査合格通知書」という。)を送付した(乙2)。同書面には,被告がAAA審査の第一次審査に合格したこと,第二次審査は,大学教授・弁護士・消費者コンサルタント等を審査員に交えて厳正に実施すること,第二次審査に合格した業者を「優良業者AAA」と認定すること,「優良業者AAA」には,認証番号を付与した認定書を交付し,原告自主規制委員会のホームページに掲載すること,第二次審査を希望する場合には,審査料・認定料2万円を同年9月30日までに指定の口座に振込送金する必要があり,不合格の場合はその半額を返還すること,第二次審査の結果は,同年10月末に連絡すること,ホームページ掲載時には,管理料として年間5000円が別途必要となることなどが記載されていた。
エ 被告は,平成13年9月18日,AAA審査の第二次審査の審査料・認定料2万円を原告自主規制委員会の指定する口座に振込送金した(乙3)。
オ 原告自主規制委員会は,被告に対し,平成13年11月20日,「『AAA認定』登録のお知らせ(一般)」と題する書面(乙4の1)及び「AAA審査料振込依頼書(一般)」と題する書面(乙4の2)を送付した。上記「『AAA認定』登録のお知らせ(一般)」と題する書面には,第二次審査は,第一次審査の再審査という形で内部で既に終えており,その合格者を対象に,同年12月5日,学術経験者・テレビ解説者・新聞論説委員等による第三次審査(最終審査)を行うこと,第三次審査によって「AAA」の認定をすること,第三次審査のために「AAA」認定料・登録料・年会費の納付を要することなどが記載されていた。また,上記「AAA審査料振込依頼書(一般)」と題する書面には,平成13年11月30日までに「優良AAA家庭教師派遣業者」認定料・登録料・交付料15万円を原告自主規制委員会の指定する口座に振込送金すべきことが記載されていた。
カ その後,被告は,原告自主規制委員会に対し,被告に関するAAA審査を中止し,審査費用2万円と提出済みの審査資料を返還するよう求めた。
キ 原告自主規制委員会は,被告に対し,平成13年12月20日,同月5日に実施した第三次審査(最終審査)の結果が不合格であった旨の通知をした(甲13)。
(2) 判断 ア 上記認定した事実に基づいて判断する。
上記のとおり,原告自主規制委員会は,被告に対し,平成13年9月8日,第一次審査合格通知書により,同原告の実施するAAA審査の第二次審査の内容やこれに合格すれば「優良業者AAA」と認定することなどを説明するとともに,第二次審査を希望するのであれば,審査料・認定料2万円を同月30日までに振込送金するように通知している。同通知の体裁及び記載内容に照らすならば,通常人であれば,審査料・認定料として2万円を支払えば,第一次審査合格通知書に記載されたとおりの内容で,AAA審査の第二次審査を受けることができ,しかも,同審査は,「AAA」認定のための最終審査であると理解するものと考えられる。ところが,原告自主規制委員会は,第一次審査合格通知書に記載されているとおり平成13年10月末までに第二次審査を実施してその結果を被告に通知することをせずに,かえって,同年11月20日,被告に対し,AAA審査の第三次審査(最終審査)を同年12月5日に実施する予定であるが,その費用としては15万円の振込送金が必要である旨の通知をした。
被告は,第二次審査を希望して審査料・認定料2万円を同原告の指定口座に振込送金したのであるから,これにより,被告は,2万円の費用を支払って第一次審査合格通知書に記載された内容でAAA審査の第二次審査を受ける旨の申込みの意思表示をしたものと認められる。しかし,被告は上記2万円のほかに「認定料・登録料・交付料」として別途15万円の高額な費用が必要となることを知らなかったのであり,また,仮に知っていれば上記申込みをすることはなかったと解するのが合理的であるから,被告のした上記申込みの意思表示には要素の錯誤があるといえる。したがって,被告の同意思表示は無効というべきである。
原告自主規制委員会は,前記審査料・認定料2万円は第三次審査の試験料であり,審査辞退者に対する返還義務はないと主張し,同原告の代表者であるGの陳述書(甲26)には上記主張に沿う記載(8頁[20])があるが,以上に判示したところに照らし,採用できない。
イ そうすると,被告は,前記審査料・認定料2万円を,法律上の原因なく原告自主規制委員会の指定する口座に振込入金したことに帰するから,同原告は被告に対し,不当利得として前記2万円を返還する義務があるというべきである。
したがって,原告自主規制委員会の請求は理由がない。
5 同第5項の請求について (1) 被告が原告自主規制委員会の会員であること,被告が平成14年度の会費を支払っていないことは当事者間に争いがない。また,証拠(甲23,25,乙13)と弁論の全趣旨によれば,原告自主規制委員会の会員は,同原告に対し,会費を支払う義務を負うこと,平成14年度の年会費は2万4000円であること等の事実が認められる。
これらの事実によれば,被告は原告自主規制委員会に対し,年会費として2万4000円の支払義務があるものと認められる。
これに対し,被告は,原告自主規制委員会の理事長が会を私物化しており,会員に対して会の責務を果たしていないから,会費の支払義務はないなどと主張するが,上記の事情が同原告の被告に対する会費支払請求権を消滅させ,又はその行使を阻止する理由となる法律上の根拠が不明確である上,上記の事情の存在を認めるに足りる的確な証拠もないから,いずれにしても被告の上記主張は採用できない。
(2) そこで,相殺の抗弁について判断する。
前記4で認定判断したとおり,被告は,原告自主規制委員会に対し,審査料・認定料として支払った2万円の返還請求権を有する。また,被告が原告自主規制委員会に対し,平成15年2月19日の本件口頭弁論期日において,上記返還請求権をもって同原告の本件年会費請求権とその対当額において相殺する旨の意思表示をしたことは,当裁判所に顕著である。
以上によれば,原告自主規制委員会の被告に対する本件年会費請求権は,相殺により,2万円の限度で消滅したものと認められる。
よって,原告自主規制委員会の請求は,4000円の支払を求める限度で理由がある。
6 同第6項,7項の各請求について 原告自主規制委員会は,被告が特定商取引法43条に違反する行為を行い,同法47条に当たるとして,被告に対し,「家庭教師優良業者全国ネットワーク」との名称中の「優良業者」の文字の削除又は「家庭教師優良業者全国ネットワーク」の解散,その関連マークの削除及び使用差止,並びに「愛知県家庭教師協会」の名称について「県」の文字の削除若しくは名称の変更又は「愛知県家庭教師協会」の解散を求めているものと善解する余地がないではない。
しかし,このように解したとしても同原告の主張は理由がない。すなわち,特定商取引法は,43条で役務提供業者等の誇大広告等を禁止する旨規定し,47条で主務大臣の業務停止権限等を規定しているが,役務提供業者等に同法43条に違反する行為があったとしても,私人が同法の規定に基づき当該役務提供業者等に対して業務の停止や違反行為の差止等の措置を求める権利を有するものでないことは,同法の規定から明らかであるから,原告自主規制委員会の上記主張は,その主張自体において理由がない。その他,原告自主規制委員会が被告に対し,上記のような請求をなし得る法律上の根拠については何らの主張もない。
よって,原告自主規制委員会の各請求は,いずれも理由がない。
(原告センター学院の請求) 7 同第8項の請求について (1) 原告センター学院は,被告が,同原告の有する商標権(登録番号 第3366762号)の登録商標と同一の標章「家庭教師派遣業自主規制委員会」を無断で使用して上記商標権を侵害し,これにより同原告に損害を被らせたが,被告の同行為が不法行為に当たると主張しているものと善解される。
(2) 証拠(甲4の1,2)と弁論の全趣旨によれば,原告センター学院は,次の商標権(以下「本件商標権」という。)を有することが認められる。
登録番号 第3366762号 登録日 平成9年12月19日 指定役務 技芸・スポーツ又は知識の教授 登録商標 「家庭教師派遣業自主規制委員会」(標準文字) しかし,被告が,標章「家庭教師派遣業自主規制委員会」を使用しているとの事実を認めるに足りる証拠はない。
すなわち,甲16の1の書面には,「家庭教師派遣業自主規制委員会」と表示されている。しかし,同書面と被告との関わりは全く不明であり,これにより被告が標章「家庭教師派遣業自主規制委員会」を使用しているとの事実を認めることはできない。その他本件全証拠によるも,被告が標章「家庭教師派遣業自主規制委員会」を使用していることを窺わせる事情は認められない。
よって,その余の点につき判断するまでもなく,原告センター学院の請求は理由がない。
(原告自主規制委員会及び原告センター学院の各請求) 8 同第9項の請求について 原告らは,被告が標章「家庭教師派遣業自主規制委員会」を使用して原告センター学院の本件商標権を侵害したことを理由として,被告に対し,標章「家庭教師派遣業自主規制委員会」の使用差止と謝罪広告の掲載を求めているものと善解される。
しかし,前示のとおり,本件全証拠を検討しても,被告が標章「家庭教師派遣業自主規制委員会」を使用して本件商標権を侵害したとの事実を認めることはできない。
したがって,その余の点につき判断するまでもなく,原告らの請求は理由がない。
(結論) 9 以上のとおりであるから,原告らの請求はいずれも理由がない。よって,主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 飯村敏明
裁判官 榎戸道也
裁判官 大寄麻代
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