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関連審決 審判1999-35064
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審判番号(事件番号) データベース 権利
平成14行ケ94審決取消請求事件 判例 商標
平成10行ケ18審決取消請求事件 判例 商標
平成19行ケ10391審決取消請求事件 判例 商標
平成21行ケ10297審決取消請求事件 判例 商標
平成14行ケ616商標登録取消決定取消請求事件 判例 商標
関連ワード 役務商標 /  先願主義 /  指定役務 /  公序良俗(4条1項7号) /  権利濫用(権利の濫用) /  称呼(称呼類似) /  観念(観念類似) /  信義則 /  無効審判 /  商号 /  同業者 / 
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事件 平成 14年 (行ケ) 403号 審決取消請求事件
原告 株式会社ハレックス
訴訟代理人弁理士 金平隆
被告A
裁判所 東京高等裁判所
判決言渡日 2003/03/20
権利種別 商標権
訴訟類型 行政訴訟
主文 原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
原告の求めた裁判
「特許庁が平成11年審判第35064号事件について平成14年6月26日にした審決を取り消す。」との判決。
事案の概要
1 特許庁における手続の経緯 被告が商標権者である本件登録第3370822号商標は,「はれっくす」の文字を横書きしてなり,平成5年2月22日に登録出願され,第42類「気象情報の提供」を指定役務として,平成10年11月27日に設定登録されたものである。
原告は,平成11年2月8日,本件商標は,商標法4条1項7号に基づく公序良俗を害する商標に当たることを理由として(付随的に同法3条1項柱書に該当することも挙げている。),その登録の無効審判請求をし,平成11年審判第35064号事件として審理されたが,平成14年6月26日,審判請求不成立の審決があり,その謄本は同年7月6日原告に送達された。
2 審決の理由の要点 (1) 請求人(原告)は,権利化してまもなく,商標権を譲りたいという意思表示を受けたことは,本件商標が,自己の業務に係る商品又は役務について使用しない商標であり,商標法3条1項柱書に違反して登録されたものである旨主張する。
しかしながら,平成3年に設立された有限会社アイ・ビー・シー(審判乙第3号証。以下「(有)IBC」)は,同4年7月には「ホストコンピューターにパソコンを利用したファクシミリ情報システムを開発,第1弾のサービスとして天気予報の無料提供を開始」していたことが認められ(審判甲第4号証),該サービス業務は本件商標の指定役務「気象情報の提供」に係る業務と符合するものである。しかも,平成11年3月には,現に本件商標を気象情報をファックスにより提供する役務について使用していたのであるから(審判乙第7号証及び同第8号証),(有)IBCは,自己の業務に係る役務について本件商標を使用する目的をもって登録出願をし,登録を経た後,使用を開始したものということができる。そうすると,本件商標の登録査定の時(平成10年9月11日)には,(有)IBCは,本件商標を自己の業務に係る役務に使用する意思を有していたといわざるを得ず,これに反する証拠はない。
当事者の主張によれば,(有)IBCは,請求人(原告)に対し本件商標について譲渡あるいはライセンス設定の打診を行った事実が認められるが,その事実は,本件商標の設定登録後に生じた後発的な事由であって,本件商標の登録査定の時の使用の意思の存否に影響を及ぼさないことは明らかである。
(2) 次に,本件商標の登録が商標法4条1項7号に違反してされたものであるか否かについて判断する。
請求人(原告)の提出に係る証拠によれば,以下の事実が認められる。
ア 平成4年4月に,財団法人日本気象協会及びNTTデータ通信株式会社が設立準備の幹事となり,気象情報を核とした情報を提供する新会社に対する出資を勧誘する文書が作成された(審判甲第7号証)。
イ 平成4年10月5日付け「内航海運新聞」に,上記情報サービス会社について報道がされ,「新会社名は『HALEX』(ハレックス)」が第1候補となっている。」と記載されていた(審判甲第9号証)。
ウ 平成5年1月28日付けで,同年2月12日に開催する新会社設立確認総会への出席を関係者に要請する文書が作成された(審判甲第8号証)。
エ 平成5年4月1日に新会社「株式会社ハレックス」が設立された(審判甲第3号証)。
上記事実を示す証拠のうち,「内航海運新聞」(審判甲第9号証)は,毎週定期的に発行される業界紙で,公開された刊行物といえる。
また,「ア」及び「ウ」の事実を示す書類は,関係者に提示されたものと推認することができるが,(有)IBCに提示されたことを示す証拠はない。
そして,前記(1)で認定したとおり,(有)IBCは,平成4年7月には,天気予報の提供サービスを開始しており,平成4年10月に行われた(財)日本気象協会担当者との料金改定交渉の際,新会社設立について説明を受けていた事実があることからすると(審判乙第1号証),(有)IBCは,新会社が設立されることに重大な関心を寄せていたであろうことは推認するに難くない。しかしながら,(有)IBCが知り得る状況となっていた新会社の名称は,候補に挙がっていた名称であり,確定した名称ではない。しかも,本件商標の登録出願以前に,新会社が使用する商標については,請求人(原告)の提出に係るいずれの証拠にも示されておらず,また,(有)IBCが新会社の設立時期を知得していたと認め得る証拠はない。
そうとすれば,(有)IBCは,新会社が使用する商標を知り得る状況にはなかったものというべきである。しかも,新会社の候補名より本件商標を採択し,該商標を権利化して売却することにより利益を得ようとしたものと仮定した場合,その登録出願は他人に先行して登録出願することが必要であるところ,本件商標の登録出願は,新会社の候補名が「内航海運新聞」に掲載された平成4年10月5日の約2月半後であったから,その登録出願の時期からすると,必ずしも他人に先行せんとして登録出願したものとは判断することができず,また,(有)IBCは新会社の設立時期を知得していなかったのであるから,本件商標の登録出願が新会社の設立時期に合わせてされたものともいうことができない。
してみれば,請求人(原告)の提出に係る証拠によっては,本件商標は,請求人(原告)の使用する商標が登録出願されていないことを奇貨とし,該商標を請求人(原告)の許可を得ることなく無断で登録出願したものは認められない。
したがって,本件商標は,公正な競業秩序を阻害するものではなく,また,社会の一般的道徳観念に反するものということもできないから,公の秩序又は善良の風俗を害するおそれがある商標とは判断することができない。
原告主張の審決取消事由
1 商標法3条1項柱書の該当性 本件商標登録は,商標法3条1項柱書に違反し無効である。被告が本件商標登録後ほどなく商標権の譲渡を申し出てきた事実からすると,自己の役務に使用するというよりも,先行して取得した登録商標「はれっくす」を譲渡する目的で出願したのではないかという疑問があるからである。
2 商標法4条1項7号の該当性 (1) 被告は,原告の商号と同一の本件商標を,原告の設立前に先回りして出願し登録を受けた。しかも本件商標の買取りを原告に求めた。このような事実は,本件商標登録が公正な競業秩序を阻害するものであり,商標法4条1項7号所定の公序良俗に反するものである。
原告の新会社設立の目論見と,会社の候補名が「ハレックス」であることは,平成4年10月5日付け「内航海運新聞」(甲第9号証)に掲載されて,公衆が知り得る状態となっていた。原告は多数の出資者により設立されたから,多数の株主へ送付した資料により株式会社ハレックスが設立されることは,多数の人が知り得る状態となっていた。甲第8号証は平成5年1月28日付けの新会社設立確認総会の案内で,株式会社ハレックスが設立されることが確定したことを示している。そこに「株式会社ハレックス(仮称)」とあるのは,設立登記前のためで,現実にも株式会社ハレックスとして設立登記があった。
被告は,原告の設立後の会社名を知りながら本件商標登録出願をしたものであり,原告が申請した(財)日本気象協会の担当者の証人尋問もしないでこれを認めなかった審決の認定は誤りである。
(2) ちなみに,甲第9号証の新聞で株式会社ハレックスが公知となった後も,被告以外に「ハレックス」について出願したものは皆無であった。同業者で新会社設立の事情を知っていた被告がした原告の設立1月余前の出願により,原告は気象情報の提供の分野で商号商標登録の機会を喪失する結果となり,営業にも支障を来し困惑している。
(3) 被告は審判において,原告の会社設立前に,商号に由来する「ハレックス」の標章について商標登録出願を行い,商標権を確保しておくべきであったし,先願主義のもとで原告の後願商標は保護されないのが当然だと論難する。しかし,原告は設立登記が平成5年4月1日で,営業開始が同年10月1日であったから,被告の商標登録出願日である平成5年2月22日以前には,原告が「ハレックス」につき商標登録出願を行うことは不可能であった。また会社設立直後に原告が出願しても,被告出願の後願となり,権利の確保はできなかったのである。
当裁判所の判断
1 商標法3条1項柱書の該当について 被告が代表取締役となっている(有)IBCは平成3年3月27日に成立し(乙第7号証(審判事件答弁書)中の審判乙第3号証),平成4年7月には「ホストコンピューターにパソコンを利用したファクシミリ情報システムを開発,第1弾のサービスとして天気予報の無料提供を開始」していたものであり(乙第7号証中の審判乙第4号証(平成4年7月14日付け日経産業新聞)),このサービス業務は本件商標の指定役務「気象情報の提供」に係る業務と符合する。しかも,(有)IBCは少なくとも平成11年3月時点において,本件商標を気象情報をファックスにより提供する役務について使用していたのであるから(乙第7号証中の審判乙第7号証及び第8号証),被告は,自己が代表取締役となっている会社の業務に係る役務について本件商標を使用する目的をもって登録出願をし,平成10年11月の登録後も使用していたものである。そうすると,本件商標の登録査定時である平成10年9月11日には,被告は,本件商標を自己の業務に係る役務に使用する意思を有していたというべきである。
以上の認定判断は,審決が商標法3条1項柱書該当の有無に関してしたのとほぼ同一であり,これを前提として,本件商標が商標法3条1項柱書に違反するものではないとした審決の判断に誤りはない。
2 商標法4条1項7号の該当に関する前提事実 (1) 次の事実は審決が認定するところであり,当裁判所もそこに示す証拠によりそのように認定するものである。
ア 平成4年4月に,財団法人日本気象協会及びNTTデータ通信株式会社が設立準備の幹事役となって,気象情報を核とした情報を提供する新会社(すなわち原告)への出資を勧誘する文書が作成された(甲第7号証)。
イ 平成4年10月5日付け「内航海運新聞」に,上記情報サービス会社についての報道があり,そこに「新会社名は『HALEX』(ハレックス)」が第1候補となっている。」と記載されていた(甲第9号証)。
ウ 平成5年1月28日付けで,同年2月12日開催予定の新会社設立確認総会への出席を関係者に要請する文書が作成された(甲第8号証)。
エ 平成5年4月1日に,新会社「株式会社ハレックス」(原告)が設立となった(甲第1号証)。
(2) 上記「内航海運新聞」は毎週定期的に発行される業界紙で,公開された刊行物と認められるので,(有)IBCを設立して気象情報の提供を手がけていた被告もこれを目にする機会があったものと推認できるところ,証人Bの証言によれば,(財)日本気象協会東京本部の担当者で原告の設立に関わっていた貴島敏は,設立予定の原告の社名が「ハレックス」となることを当然の前提として,平成4年7月にFAXによる気象情報サービスを開始していた被告と折衝し,その際,設立予定会社(原告)を「ハレックス」と称していたことを認めることができる。これに反する審決の認定は誤りである。
この認定事実によれば,被告は,設立予定会社名を聞いていたことが大きな縁由となって,それと同じ称呼に係る本件商標「はれっくす」の登録出願をしたものと推認することができる。
3 商標法4条1項7号の該当について (1) 商標登録出願が適正な商道徳に反して社会的妥当性を欠くために,出願に係る商標の登録が商標法の目的に反することになるときには,商標法4条1項7号に該当する場合もあり得る。しかし,商標法4条1項7号が「公の秩序又は善良の風俗を害するおそれがある商標」として,商標自体の性質に着眼していることの対比からすると,商標自体に公序良俗違反のない商標登録出願において同号に該当するのは,出願の経緯に著しく社会的妥当性を欠くものがあるときに限られるというべきである。
本件商標自体は公序良俗違反に当たるものではないところ,本件商標登録出願時(平成5年2月22日)は平成5年4月1日に原告が設立される前のことであって,原告の業務はいまだ開始していないのはもとよりどのように発展するか未確定であったのに対して,被告が代表取締役となっている(有)IBCは,原告が予定していた業務と重複する業務を既に開始しており,その後もFAXによる気象情報提供業務に携わってきている(乙第7号証中の審判乙第7,第8号証)。したがって,被告が譲渡目的をもって本件商標登録出願をしたものと断定することはできない。また,被告の本件商標登録出願前に,原告が「ハレックス」及びその関連の商標登録出願の準備をしていた事実も認められない(原告が「HALEX」(うち「A」は電波塔をかたどった文字),「HAPPY LIFE EXPERT」及び「ハレックス」の役務商標の登録出願をしたのは,設立から1年半も経過した平成6年11月に至ってである。甲第3〜第5号証)。これらの事実関係にかんがみると,本件商標が原告の商号を構成する「ハレックス」を平仮名化したものであることをもってしても,また,原告が予定していた商号を被告が知っていたとしても,本件商標の登録が,商標法において建前とする先願主義の例外とすべきまでの社会的妥当性を著しく欠くものとして,商標法4条1項7号に該当するものということはできない。さらに,登録後現在に至るまでの間に,本件商標が商標法4条1項7号に該当するものとなったことを裏付けるべき事実関係も認められない。
(2) もっとも,商標法4条1項7号該当の関係ではこのように判断するにしても,前記2で認定した事実関係に照らしてみれば,原告において,その登録出願に係る「HALEX」や「ハレックス」などの商標を使用しているとして,これが本件商標権侵害に当たるか否かの判断に際しては,権利濫用あるいは信義則違反などの法理の適用を視野に入れることは十分に考えられてよい。原告が本件無効審判請求で主張しているところは,このように権利行使が当事者間でどのように調整されるかの範疇に属する事柄であって,公的な秩序の維持を図る商標法4条1項7号に基づく本件商標の登録の可否に関わる問題ではないのである。
(3) ほかに,本件商標につき商標法4条1項7号該当を基礎づけるべき事実関係は認められず,本件商標をもって商標法4条1項7号に該当するものではないとした審決の判断は,結論において誤りがない。
4 手続の瑕疵の主張について 原告は,審判で(財)日本気象協会担当者を証人尋問しなかったことをもって審決の瑕疵に当たる旨主張するが,当裁判所において同協会担当者であるBを証人尋問したところであり,原告主張のこの点をもって審決の瑕疵とすることはできない。
結論
以上のとおり,原告主張の審決取消事由は理由がないので,原告の請求は棄却されるべきである。
裁判長裁判官 塩月秀平
裁判官 古城春実
裁判官 田中昌利