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関連審決 無効2001-35362
関連ワード 指定商品 /  普通名称(3条1項1号) /  記述的商標(3条1項3号) /  品質誤認(4条1項16号) /  観念(観念類似) /  無効審判 / 
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事件 平成 14年 (行ケ) 440号 審決取消請求事件
原告 有限会社猫じゃらし産業
訴訟代理人弁護士・弁理士 上村正二,石葉泰久,弁護士 石川秀樹,松村武
被告 常陸化工株式会社
訴訟代理人弁護士 松尾和子,弁理士 井滝裕敬,復代理人弁護士 高石秀樹
裁判所 東京高等裁判所
判決言渡日 2003/03/20
権利種別 商標権
訴訟類型 行政訴訟
主文 原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
原告の求めた裁判
「特許庁が無効2001-35362号事件について平成14年7月29日にした審決を取り消す。」との判決。
事案の概要
1 特許庁における手続の経緯 原告が商標権者である本件登録第3190581号商標は,平成5年6月11日に登録出願,「木の猫砂」の文字を横書きしてなり,第21類「愛玩動物用糞尿処理材」を指定商品として,平成8年8月30日に設定登録されたものである。
被告が,平成13年8月22日に本件商標登録の無効の審判を請求した結果(無効2001-35362号),平成14年7月29日に「登録第3190581号の登録を無効とする。」との審決があり,その謄本は同年8月8日原告に送達された。
本件無効審判請求の理由は,本件商標は第21類「愛玩動物用糞尿処理材」中の猫のトイレ砂(猫砂)の品質を示すにすぎないから,商標法3条1項3号に該当し,また,上記商品以外の商品に使用すれば商品の品質を誤認させるから,商標法4条1項16号に該当する,というにある。
2 審決の理由の要点 (1) 被告(請求人)の提出に係る「月刊ペットページ」(審判甲第6号証)の砂のうつわ(上)の「新素材の導入で猫砂市場の活性化」の項をみると,「猫砂が日本のペット市場に導入されたのは1969年より数年前のこと,輸入品だった。そして,1970年以前,土壌改良剤として利用され,吸収性,消臭効果の高いゼオライトを原材料とした国産品が登場した。これが日本における猫砂ビジネスのスタート点となる」等記載され,この記事中に,猫砂,猫砂製品,猫砂市場等の語が普通に使用されていることが認められる。また,「日本のペット用品市場」(審判甲第7号証)には,「犬・猫が室内で排泄する際に使うトイレ用シーツ(犬用)や猫砂…のニーズが高まってきている」あるいは「その後猫砂を使用する人が口コミで徐々に増えてきて,80年頃から急速に普及し始めた」等の記載がある。
(2) また,公開実用新案公報(平成1-87647)の明細書中に「…従来の猫砂」という語句及び特許公報(平成4-48407)の明細書中にも「従来,いわゆる猫砂と称されるペット用排泄処理材…」と記載され使用されていることが認められる(審判甲第41号証及び審判甲第42号証)。
(3) さらに,被告の提出に係る新聞,化学業界の専門紙,ペット関連用品の雑誌,ガイドブック(審判甲第6号証及び審判甲第10号証ないし審判甲第40号証),インターネットにおける「猫砂」の検索(審判甲第54号証)及び「日本獣医師会雑誌」,「資源と環境」(審判甲第55号証及び同第56号証)の研究発表や論文をみると,「猫砂」が商品化され市場で取引されるようになったのは1970年ころと推測され,その当時「猫砂」の原材料としては,吸収性及び消臭効果の高い「ゼオライト」が主であったが,その後,水に濡れると固まるという性質を持つ「ペントナイト」が使用されるようになった。これらの鉱石系物質を原材料とする「猫砂」は,尿を吸うと固まる特性を有し,におい成分を吸着して消臭作用も高いので,現在も広く出回っているが,使用後に燃えるゴミとして処分できない場合があり,可燃性の高い素材を利用した「猫の糞尿処理材」が存在することが認められる。
そして,鉱石系以外のものを原材料とする「猫の糞尿処理材」に紙製,モミガラ,木の粉,とうもろこしの芯,コーヒーの豆殻等が使用された商品が,本件商標の登録査定時において,既に,製造発売されている事実も認められる。
(4) そこで,本件商標をみると,本件商標は「木の猫砂」の文字からなるところ,前記した実情よりすれば,その構成中,「猫砂」の文字は,「猫が室内で排泄する際に使うトイレ用の砂」を認識,理解させるものである。また,「砂」は元来「細かい岩石の粒の集合」の意味を有する語であるとしても,前記したとおり「猫の糞尿処理材」に「木」が原材料として使用されている事実よりすれば,本件商標中の「木の」の文字部分は「砂」の代わりとして「木」を原材料とした「猫の糞尿処理材」を容易に認識,理解させるというのが相当である。
そうとすれば,本件商標は,本件商標の登録査定時においても,「愛玩動物用糞尿処理材」の指定商品中「木を使用した猫の糞尿処理材」に使用するときは,その原材料,品質を表示するにとどまり,自他商品の識別標識としての機能を果たし得なかったものといわざるを得ない。また,前記商品以外の商品に使用するときは商品の品質を誤認させるおそれがあるものである。
この点において,原告(被請求人)は,国語辞典,百科事典等に「猫砂」の語が掲載されていないこと,原告による商品アンケートの中で「猫砂」と呼称されていない事実,「砂」は「細かい岩石の粒の集合」の意味であること等を理由に,本件商標は「猫の糞尿処理材」の原材料,品質を表示するものではない旨主張しているが,「猫の糞尿処理材」を扱う業者間において,既に,前記のとおり,「猫が室内で排泄する際に使うトイレ用の砂」の代替品として「木」が使用されている実情よりすれば,上記のとおり判断するのが相当である。
したがって,本件商標は,商標法3条1項3号及び4条1項16号に違反して登録されたものであるから,商標法46条1項の規定によりその登録を無効とすべきである。
原告主張の審決取消事由
審決は誤った事実認定に基づくものであり,「猫砂」が普通に使用されていたとした評価も誤っているから,取り消されるべきである。
1 「猫砂」は,少なくとも本件登録査定時において普通に使用されていたものとはなっていなかった。
審決は,「月刊ペットページ」(審判甲第6号証)の「新素材の導入で猫砂市場の活性化」の項に猫砂,猫砂製品,猫砂市場等の語が普通に使用されていると認定している。この雑誌(乙第4号証)は1996年(平成8年)3月号のものであるが,この記載は意図的に「猫砂」なる用語を使用しているにすぎない。普通に使用されていたものとして認知されるためには,少なくとも,一般人がよく利用する辞典類に単語熟語若しくは略語として掲載されていることが必要である。昭和50年ころから平成14年までに発行されている国語辞典,百科事典,情報知識辞典には,「猫砂」なる用語は,略語あるいは普通名称として掲載されていない。
審決は,公開実用新案公報や特許公報の明細書中の記載も認定の基礎としているが,これは出願代理人の使用にすぎず,「猫砂」を普通に使用されていたものと認定する根拠とすることはできない。
原告は,平成11年12月9日付け朝日新聞地域版(甲第23号証)において,原告の商品記事掲載の際に原告商品についてアンケートを求めた。これに約1080通の応募があり,その結果は,ペットの糞尿処理材については「猫の砂」と呼称されることはあっても,「猫砂」とは呼称されていない実情となっている(甲第6号証)。
2 「木の猫砂」の「木」は製品の原材料,品質等を表すものではない。
審決は,「本件商標中の「木の」の文字部分は「砂」の代わりとして「木」を原材料とした「猫の糞尿処理材」を容易に認識,理解させる」と認定判断している。
しかし,広辞苑は,鉱物でないものを「砂」と称し認識することはないことを示している。材木を切ったときに生じるものを「おが屑」,「鋸屑」ということはあっても,「砂」とは表現しない。したがって,本件商標の「木の猫砂」からは何の観念を生じず,本件商標をもって単なる造語と認識するのが,一般の需要者である。
「木の猫砂」の「木」は製品の原材料,品質等を表すものとは断定することができない。
当裁判所の判断
1 審決は,「猫砂」の語が少なくとも本件商標の登録査定時において普通に使用されていたとの認定を前提として,その結論に至っている。
原告が「猫砂」の語をもって,普通に使用されていなかったものと主張する基調は,審決が認定した雑誌,公報その他の文献の記載そのものについて特に争わずに,個々の文献の記載は,記載者の認識だけに基づくものであるというのである。
しかしながら,審決が「猫砂」の語が普通に使用されていたと認定したのは個々の文献だけからではなく,審決が挙げた複数の文献の記載を総合してみた結果によるものである。この認定は,審決が挙げる審判甲号証(対応するものが本訴の乙号証として提出されている。)に照らして是認することができる。
2 原告は,平成11年12月9日付け朝日新聞地域版(甲第23号証)の記事掲載から得られた応募の記載にある「猫の砂」との呼称をもって,「猫砂」が普通に使用されていないことの根拠とするが,上記記事の表題は「猫じゃらしと猫の砂」というものであり,原告が「延長アダプター付き猫じゃらしと木の砂のセット」を45人にプレゼントするという記事内容となっている。甲第6号証の1〜289は,その応募葉書であって,そこにおける記載は,原告主張のように原告商品についてのアンケート結果ではない。原告(そして朝日新聞地域版の記事)が求めた応募要領に従って応募葉書に記載されるのは当然のことであるから,甲第6号証の1〜289の記載も,「猫砂」の語が普通名称となっていたとの審決の認定を左右するものではない。
なお,審決が挙げた証拠によって,「猫砂」の語が普通に使用されていることが認められる以上,広辞苑等の一般の国語辞典等に「猫砂」が略語あるいは普通名称として掲載されていることを認めるべき証拠はないことも,上記判断を動かすものではない。少なくとも猫に関心のある一般需要者にとって「猫砂」の語が普通に使用されていることは,審決の認定事実から十分に認めることができる。
3 審決が認定したように,可燃性の高い素材を利用した「猫の糞尿処理材」が存在する事実,鉱石系以外のものを原材料とする「猫の糞尿処理材」に紙,モミガラ,木の粉等が使用された商品が,本件商標の登録査定時において製造発売されている事実について,原告は争うものではない。そうだとすると,「本件商標は,本件商標の登録査定時においても,「愛玩動物用糞尿処理材」の指定商品中「木を使用した猫の糞尿処理材」に使用するときは,その原材料,品質を表示するにとどまり,自他商品の識別標識としての機能を果たし得なかったものといわざるを得ない。また,前記商品以外の商品に使用するときは商品の品質を誤認させるおそれがある」とした審決の判断に誤りがあるとすることはできない。原告は,鉱物でないものを「砂」と称し認識することはないと主張するが,審決の上記判断は「木の猫砂」との本件商標を一体としてみたものであって,「砂」の語だけに着眼する原告の主張は,上記判断を左右するものではない。
4 その他,原告が主張するところをもってしても,審決の認定判断に誤りがあるものということはできない。
結論
以上のとおり,原告主張の審決取消事由は理由がないので,原告の請求は棄却されるべきである。
裁判長裁判官 塚原朋一
裁判官 塩月秀平
裁判官 田中昌利