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関連審決 審判1998-30446
この判例には、下記の判例・審決が関連していると思われます。
審判番号(事件番号) データベース 権利
平成18行ケ10375審決取消請求事件 判例 商標
平成12行ケ277審決取消請求事件 判例 商標
平成18ワ20985商標使用権抹消登録請求事件 平成19ワ27767請求事件 判例 商標
平成20行ケ10086審決取消請求事件 判例 商標
平成15ワ11200商標権侵害差止等請求事件 判例 商標
関連ワード 独占的使用 /  識別力 /  指定商品 /  3条2項 /  周知商標 /  周知性 /  混同を生ずるおそれ(混同を生じるおそれ) /  品質誤認(4条1項16号) /  権利濫用(権利の濫用) /  外観(外観類似) /  称呼(称呼類似) /  出所の混同 /  信義則 /  存続期間 /  更新登録 /  継続 / 
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事件 平成 14年 (行ケ) 497号 審決取消請求事件
原告 有限会社黒雲製作所
同訴訟代理人弁護士 市東譲吉
被告A
同訴訟代理人弁理士 牛木理一
裁判所 東京高等裁判所
判決言渡日 2003/03/03
権利種別 商標権
訴訟類型 行政訴訟
主文 1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
請求
特許庁が平成10年審判第30446号事件について平成11年9月8日にした審決を取り消す。
事案の概要
本件は,被告が,特許庁に対し,原告を被請求人として,原告が設定登録を受けていた商標について,商標法51条1項に基づき,商標登録取消しの審判を請求したところ,特許庁が,上記商標につき,商標の登録を取り消す旨の審決をしたことから,原告が,被告に対し,上記審決の取消しを求めた事案の差戻事件である。
1 争いのない事実等 (1) 原告の商標権設定登録 原告は,登録第1419427号に係る商標(昭和47年6月22日商標登録出願,同55年5月30日商標権設定登録,平成2年6月27日及び同12年2月29日存続期間更新登録,以下「本件登録商標」という)の商標権者であるが,本件登録商標は,別紙「本件登録商標」記載のとおり,左側に,外周上に多数の小さな突起がある黒塗りの円形内に白抜きで「M」の欧文字を表示した図形(以下「Mマーク」という)を配し,その右側に,「mosrite」の欧文字を横書きして成るものである。その指定商品は,商標法施行令(平成3年政令第299号による改正前のもの)1条別表第1第24類「楽器,その他本類に属する商品」である。
(2) 事実関係 ア セミー・モズレー(以下「モズレー」という)は,昭和27年,アメリカ合衆国カリフォルニア州べーカーズフィールドで独自のエレキギターの製作を開始するため,「Mosrite Inc.」(「mosrite of CALIFORNIA INC.」ともいう。以下「モズライト社」という)を創立した。
モズライト社製作のエレキギター(以下「モズライト・ギター」という)には,「Mマーク」の右側に「mosrite」の欧文字を横書きし,その下方に筆記体の「of California」の欧文字を付記するという別紙「原告の使用商標」(以下「本件使用商標」という)と同様の表示が付されていたが,筆記体の「of California」の部分は,モズレーの筆記によるものであり,かかる表示は,モズライト社創立以来のものである。
イ ところで,ザ・ベンチャーズは,昭和34年秋,アメリカ合衆国ワシントン州シアトルで結成されたエレキギターによるロックンロールの人気グループであるが,その一員であるノーキー・エドワーズが,同37年,モズライト・ギターを使い始め,また,ギタリスト(ベーシストを含む)3人全員が,同38年,モズライト・ギターを使い始めたことから,モズライト・ギターの人気モデルの1つとして,「モズライト・ベンチャーズモデル」が誕生した。そこで,モズライト社は,工場設備を拡張して,モズライト・ギターを大量生産するようになった(昭和38年200本,同39年800本,同40年1800本,同41年2100本)。
そして,ザ・ベンチャーズは,昭和40年の来日公演により,エレキギターの魅力を日本人に与え,また,彼らが手にしているモズライト・ギターへの憧れを強固なものにした。
ウ アメリカ合衆国カリフォルニア州ハリウッドのベンチャーズ-モスライト・インク(以下「ベンチャーズ-モスライト社」という)は,我が国において,昭和40年5月8日,商標「MOSRITE」及び同「VENTURES-MOSRITE」(以下2つの商標を併せて「ベンチャーズ-モスライト社商標」という)について,指定商品を商標法施行令(平成3年政令第299号による改正前のもの)1条別表第1第24類「楽器,演奏補助品,その他本類に属する商品」として,商標登録出願を行い,各商標は,同42年3月20日,登録第736316号及び同第736317号として設定登録されたが,同52年3月20日,期間満了により消滅し,同54年9月10日,その登録は抹消された。
エ 我が国では,飛鳥貿易株式会社が,昭和40年6月,モズライト・ギターの輸入を開始し,また,モズライト社から生産ライセンスを得たファーストマン楽器製造株式会社(以下「ファーストマン社」という)が,同43年5月,本件使用商標と同様の表示を付した(甲15)モズライト・ギターの製作販売を開始し,原告が,ファーストマン社の下請けをしていた。
オ しかしながら,ファーストマン社は,昭和44年7月,倒産した。
また,モズライト社も,昭和44年7月,倒産し,同45年には再建したものの,同48年,再度倒産した。なお,モズレーは,再びエレキギターの製作を企図し,平成4年4月,アメリカ合衆国アーカンソー州ブーンビルにおいて,ユニファイド・サウンド・アソシエーション・インコーポレーテッド(以下「ユニファイド社」という)を設立したが,モズレーは,同年8月7日死亡し,ユニファイド社も,同6年4月,倒産した。
カ ファーストマン社の倒産により大量の在庫を抱えることとなった原告が,本件使用商標と同様の表示を付したモズライト・ギターの在庫の販売を継続したところ,これが好評であり注文が相次いだので,引き続き,原告は,本件登録商標を付したエレキギターの製作販売を行うこととし,本件登録商標を付したエレキギターの製作販売を順調に伸ばしていた(甲33,弁論の全趣旨)。
キ 本件登録商標は,昭和47年6月22日,Aにより登録出願され,黒沢商事株式会社が,商標登録出願により生じた権利を譲り受けていたものであるが,原告が,同52年9月28日,上記権利を譲り受けたものであり,また,上記ウのとおり,ベンチャーズ-モスライト社商標が消滅し,その登録障碍事由が解消したことから,上記(1)のとおり,同55年5月30日,商標権設定登録されるに至ったものである。
ク 原告は,昭和63年ないし平成元年初めころから現在に至るまで,原告製作のエレキギターに,本件登録商標に「of California」を付記した本件使用商標を付し,また,原告の商品カタログには,「ジャパンモズライト(有)」という記載をしているが,原告が本件登録商標に「of California」の欧文字を付記したのは,多数の顧客から,モズライト社製のモズライト・ギターのものと同一の書体で付記してほしいとの要望を受けたことによるものである。
ケ ところで,モズライト社製のモズライト・ギターは,現在も,数千本程しか存在しないビンテージもののエレキギターとして,1本100万円前後又はそれ以上の高額で,我が国において取引されている。
(3) 手続の経緯 ア 特許庁における審判 被告は,特許庁に対し,平成10年5月7日,原告を被請求人として,商標法51条1項に基づき,本件登録商標の商標登録取消しの審判を請求したところ,特許庁は,同11年9月8日,要旨以下の理由で,本件登録商標の商標登録を取り消す旨の審決(以下「本件審決」という)を行い,同審決の謄本は,同年10月25日,原告に送達された。
(ア) モズレーは,昭和27年,アメリカ合衆国カリフォルニア州べーカーズフィールドにモズライト社を創立して,独自のエレキギターの製作を開始した。モズレーの製作したエレキギターには,本件使用商標と同様の表示が付されており,この表示は,遅くとも昭和40年までに,我が国において,エレキギターを取り扱う取引者,需要者に周知となった。そして,現在も,モズレーの製作したエレキギターは,我が国において高額で取引されている。
(イ) 原告は,昭和63年ないし平成元年初めころ,本件登録商標に類似する本件使用商標の使用を開始した。原告が本件登録商標に「of California」の欧文字を付記したのは,多数の顧客から,モズレーが製作したエレキギターのものと同一の書体で付記してほしいとの要望を受けたことによるものである。また,原告は,その商品カタログに,「ジャパンモズライト(有)」という,モズレー製作のエレキギターに関連する会社であるかのような記載をしている。エレキギターの取引者,需要者の中には,本件使用商標を付した原告製作のエレキギターについて,モズレー製作のエレキギターと同様の品質を有すると誤認する者がいる。
そうすると,原告がエレキギターに本件使用商標を付する行為は,原告製作のエレキギターが,モズレー製作のエレキギターと同様の品質であるかのように商品の品質について誤認を生じ,又はモズレー若しくは同人と何らかの関連のある者が製作したものではないかと商品の出所について混同を生ずるものということができる。また,原告は,モズレーの筆記に倣って「of California」の表示を行ったものであり,原告の製作するエレキギターにこの表示を付することにより商品の品質誤認又は出所混同が生ずるとの認識があったと認められる。
(ウ) 以上によれば,本件登録商標の商標権者である原告は,故意に,本件登録商標に類似する本件使用商標について,商品の品質の誤認又は他人の業務に係る商品と混同を生ずる使用をしたものというべきであるから,本件登録商標の商標登録は,商標法51条1項の規定により,取消しを免れない。
イ 当庁における審決取消訴訟第一審 本件審決を不服とした原告は,当庁に対し,平成11年11月18日,本件審決の取消訴訟を提起したところ,当庁は,同12年10月12日,要旨次のとおり判示して,本件審決を取り消す旨の判決(以下「本件第1次判決」という)をした。
(ア) 本件審決は,原告が本件使用商標をエレキギターに使用する行為につき,アメリカ合衆国カリフォルニア州所在のスガイ・ミュージカル・インストルメント・インコーポレーテッド(以下「スガイ社」という)が製作し,被告が独占的に輸入して我が国で販売するエレキギターとの間で品質誤認又は出所混同を生ずるという被告主張の審判請求の理由について審理することなく,被告が主張していないモズレーが製作したエレキギターとの間で品質誤認又は出所混同を生ずるという理由について審理したものである。したがって,本件審決には,審判の請求人である被告が申し立てた審判請求の理由以外の理由について審理した瑕疵がある。
(イ) 原告は,スガイ社が被告から依頼を受けてエレキギターの製作を始めた7,8年以上前から,本件使用商標をエレキギターに使用してきたのであるから,商標法51条1項所定の「他人」であるスガイ社及び被告(被告が審判で請求した「他人」)の業務に係る商品と出所の混同が生ずることにつき,原告に同項所定の「故意」があったと認めることはできない。
追加
本件第1次判決を不服とした被告は,最高裁判所に対し,平成12年10月24日,上告受理の申立てをしたところ,同裁判所は,同14年5月10日,上告審として受理する旨の決定をした上,同年9月17日,要旨次のとおり判示して,本件第1次判決を破棄し,当庁に差し戻す旨の判決をした。
(ア)商標法に基づく審判については,商標法56条において準用する特許法153条1項により,職権による審理の原則が採られているから,審判の請求人が申し立てなかった理由についての審理がされたとしても,そのことによって審決が直ちに違法になるものではなく,また,商標法56条において準用する特許法153条2項所定の手続を欠くという瑕疵がある場合であっても,当事者の申し立てない理由について審理することが当事者にとって不意打ちにならないと認められる事情があるときは,上記瑕疵は審決を取り消すべき違法には当たらないと解するのが相当である。
(イ)本件についてこれをみると,本件審決が被告による申立てのない理由について審理したものであるとしても,審判において当事者の申し立てない理由について審理すること自体は,何ら違法でないから,上記イ(ア)の原審の判断は,商標法56条において準用する特許法153条1項の規定に違反するといわざるを得ず,また,同(イ)の原審の判断も,本件の審判において商標法51条1項の規定にいう「他人」として審理の対象となるのはスガイ社及び被告のみであるという同(ア)の判断を前提とするものであるから,これを是認することはできない。
さらに,被告が申し立てた審判請求の理由と,本件審決が本件登録商標の商標登録を取り消すべきものと判断した理由とを比較すると,両者は,モズレー製作のエレキギターに付された表示が我が国の取引者,需要者の間に広く知られていたかどうかなど,本件登録商標の商標登録を取り消すべきか否かの判断の基礎となる事実関係が主要な部分において共通すると認められる。しかも,記録によれば,モズレー又は同人と関連のある者の製作したエレキギターとの間で誤認混同が生ずるという理由は,被告が審判において提出した弁駁書に記載されており,この点に関して原告が審判手続上立証活動をしていたことがうかがわれるのである。そうすると,本件においては,被告の申し立てない理由について審理した結果を原告に通知して意見申立ての機会を与える手続が執られていなかったとしても,原告にとって不意打ちにならないと認められる事情があったということができる。
(ウ)以上によれば,本件第1次判決には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反があるから,破棄を免れず,原告のその余の審決取消事由について更に審理させるため,当庁に差し戻すこととする。
2争点本件審決に関し,原告の主張する次の各取消事由の当否。
(1)「MマークmosriteofCalifornia」標章に関する事実誤認ア原告の主張本件使用商標のうち「Mマークmosrite」の部分と「ofCalifornia」の部分とは,書体が全く異なり,「Mマークmosrite」の下部に小さく筆記体で「ofCalifornia」と書かれているように,これらは,一体のものとして構成されてはおらず,しかも,「California」は,アメリカ合衆国の州名であり,このような極めてありふれた書体から成る州名の部分は,単なる地名であり,地名は識別力を欠くことが多いし,取引において必要な表示として何人もその使用を欲するので,特定のものによる独占的使用を認めることは公益上適当でないから,「ofCalifornia」の部分は,我が国の商標法上,商標たり得ないものである。それ故,モズレーの製作したエレキギターに付されていた本件使用商標と同様の表示の周知性を判断をするに当たっては,表示全体ではなく,そのうちの「Mマークmosrite」の部分(本件登録商標と同様の表示)のみを対象とすべきであった。
また,本件使用商標と同様の表示が付されていたエレキギターの製作をしたのは,昭和27年に設立されて同48年に倒産したモズライト社という法人であって,モズレー個人ではなかった。
したがって,本件審決は,モズライト社の製作したエレキギターには本件登録商標と同様の表示が付されていた旨認定すべきであったにもかかわらず,誤って,モズレーの製作したエレキギターには本件使用商標と同様の表示が付されていた旨認定したものというべきである。
イ被告の反論モズレーは,モズライト・ギターの出所を表示するために,本件使用商標と同様の表示を一体のものとして使用してきたものであるから,本件使用商標と同様の表示を一体のものと認めることはごく自然なことである。また,本件審決は,「ofCalifornia」の部分が識別力を発揮しているなどとは認定していない。
そして,モズライト社の代表者はモズレーであり,いわゆる個人会社であったために,モズライト社においては,モズレー個人のアイデアと技術でエレキギターが製作されていた。
したがって,モズレーの製作したエレキギターについて,本件使用商標と同様の表示が付されていた旨認定した本件審決に誤りはない。
(2)品質等の誤認に関する認定判断の誤りア原告の主張(ア)原告の本件使用商標の使用開始当時には,原告製作のエレキギターは,日本製のものとして周知であり,また,エレキギターの取引者,需要者の中には,本件使用商標を付した原告製作のエレキギターについて,モズレー製作のエレキギターと同様の品質を有すると誤認する者がいると認定するに足りる証拠は存在せず,かえって,上記のような誤認をする者は存在しないにもかかわらず,本件審決は,誤って,エレキギターの取引者,需要者の中には,本件使用商標を付した原告製作のエレキギターについて,モズレー製作のエレキギターと同様の品質を有すると誤認する者がいると認定した上で,原告がエレキギターに本件使用商標を付する行為は,原告製作のエレキギターが,モズレー製作のエレキギターと同様の品質であるかのように商品の品質について誤認を生じ,又はモズレー若しくは同人と何らかの関連のある者が製作したものではないかと商品の出所について混同を生ずると判断した。
(イ)モズライト社製のモズライト・ギターに付されていた本件使用商標と同様の表示が周知であることは,同表示が,ベンチャーズ-モスライト社商標の使用形態の1つであることに照らすと,ベンチャーズ-モスライト社商標が周知であることに帰着するところ,同商標の商標権は,昭和52年3月20日,期間満了により消滅し,同54年9月10日,その登録が抹消された。そして,上記商標権の消滅後1年以上経過したことにより,原告が出願登録により生じた権利を有していた本件登録商標が,商標法4条1項13号の制約を免れることとなり,同55年5月30日,商標権設定登録を受けたのである。そうであれば,商標法の解釈としては,本件登録商標の商標権設定登録以降は,原告の本件登録商標に係る商標権こそが尊重されるべきものとなり,そのために,原告が本件登録商標又はこれと類似の商標(本件使用商標を含む)を付したエレキギターと,原告以外の者がベンチャーズ-モスライト社商標又はこの使用形態の1つである本件使用商標と同様の表示を付したエレキギターとの間では,商品の出所を混同することはあり得ないものとなったというべきであり,また,原告以外の者がこのようなエレキギターを輸入したり,販売したりする行為は,原告の商標権侵害を構成するものとなったというべきである。このような解釈は,我が国の商標法,判例が,法的安定性を重視しているところ,本件審判請求が,本件登録商標の設定登録後,長期間の経過した後になされていることに照らしても,正当というべきである。
しかるに,本件審決は,誤って,上記のとおり,原告がエレキギターに本件使用商標を付する行為は,商品の出所について混同を生ずると判断した。
イ被告の反論原告の主張はいずれも否認する。
(3)原告の故意の認定の誤りア原告の主張(ア)本件審決は,上記(2)ア(ア)において指摘した誤った事実認定を前提にして,誤って,原告の商標法51条1項所定の「故意」を認定したものである。
(イ)原告が本件登録商標をエレキギターに使用するだけで,モズライト社製のモズライト・ギターとの出所の混同を生ずるのであり,原告が本件使用商標をエレキギターに使用することにより,モズライト社製のモズライト・ギターとの出所の混同を生ずるのではないから,原告は,本件使用商標をエレキギターに使用した結果,商品の品質の誤認又は他人の業務に係る商品との混同を生じさせることについての認識を欠いているというべきであるにもかかわらず,本件審決は,誤って,原告の商標法51条1項所定の「故意」を認定したものである。
イ被告の反論(ア)原告の主張(ア)について原告の主張は否認する。
(イ)原告の主張(イ)について原告は,本件登録商標に「ofCalifornia」の欧文字を付記したことについて,多数の顧客から,「モズライト・ベンチャーズモデル」といわれるモズライト・ギターに付記されているのと同一の書体で付記して欲しいとの要望を受けたことによるものであると認めているのであるから,原告には,商品の品質の誤認又は他人に業務に係る商品と混同を生じさせることについての認識があったというべきである。
(4)信義則権利濫用法理を適用しなかった誤りア原告の主張被告は,特許庁に対し,平成10年4月28日,本件使用商標と同様の表示について,指定商品を米国カリフォルニア州製のギターとして,商標登録出願しているところ,その障碍となる本件登録商標を排除するために,本件審判を請求している者であるが,被告及び被告が代表者である株式会社フィルモアは,平成8年から,モズライト社やモズレーと全く無関係に製作されたスガイ社製のエレキギターに,本件使用商標と同様の表示を付して,一般消費者に販売することにより,品質の誤認を生じさせている者なのであるから,被告が,原告に対し,本件のような審判を請求することは,信義則に反するもの,または,権利濫用にあたるもの,あるいは,正当な審判請求の利益を欠くものとして許されないというべきである。
したがって,本件審決は,本件審判請求について,却下又は棄却すべきであったにもかかわらず,誤って,これについて却下又は棄却しなかった。
イ被告の反論原告の主張は否認ないし争う。
第3争点に対する判断1争点(1)(「MマークmosriteofCalifornia」標章に関する事実誤認)について(1)確かに,本件使用商標については,「Mマークmosrite」の部分と「ofCalifornia」の部分との書体が全く異なるものであり,「Mマークmosrite」の下部に小さく筆記体で「ofCalifornia」と書かれているということができる。
しかしながら,上記争いのない事実(2)アのとおり,モズライト社製のモズライト・ギターには,本件使用商標と同様の表示が付されていたところ,同表示については,証拠(乙7から9)によれば,「Mマークmosrite」の部分と「ofCalifornia」の部分とが上下に近接して配置されているものと認められるのであり,その意味合いをも併せ考慮すれば,「ofCalifornia」の部分は,「Mマークmosrite」の部分と密接不可分のものというべきであるから,「Mマークmosrite」の部分と「ofCalifornia」の部分とは,一体のものとして構成されているというべきである。しかも,「ofCalifornia」の部分が,識別力を欠くものであり,我が国の商標法上,商標たり得るものでないとしても,そのことは,「Mマークmosrite」の部分と「ofCalifornia」の部分とが一体のものとして構成されているとの上記判断を左右するものではない。
(2)また,確かに,上記争いのない事実(2)アのとおり,本件使用商標と同様の表示が付されていたエレキギターの製作をしたのは,昭和27年に設立されて同48年に倒産したモズライト社という法人であって,モズレー個人ではなかったのであるから,上記エレキギターを製作したのがモズレーであるとした本件審決の認定は,正確性を欠くところがあるといわざるをえない。
しかしながら,上記争いのない事実(3)ア(ア)のとおり,本件審決のうち,モズレーの製作したエレキギターには本件使用商標と同様の表示が付されていたと認定した部分の直前には,モズレーが,昭和27年,アメリカ合衆国カリフォルニア州べーカーズフィールドにモズライト社を創立して,エレキギターの製作を開始した旨が認定されているのであるから,「モズレーの製作したエレキギター」という本件審決の文言が,「モズレーが創立したモズライト社の製作したエレキギター」を意味するものとして用いられていると善解することができるというべきである。
(3)以上によれば,原告の各主張は,いずれも採用することができず,また,モズレーの製作したエレキギターについて,本件使用商標と同様の表示が付されていた旨認定した本件審決には誤りはないというべきである。
2争点(2)(品質等の誤認に関する認定判断の誤り)について(1)原告の主張(ア)についてア原告は,原告の本件使用商標の使用開始当時には,原告製作のエレキギターは,日本製のものとして周知であり,また,エレキギターの取引者,需要者の中には,本件使用商標を付した原告製作のエレキギターについて,モズレー製作のエレキギターと同様の品質を有すると誤認する者がいると認定するに足りる証拠は存在せず,かえって,上記のような誤認をする者は存在しないと主張し,同主張に沿うモズライト・ギターの愛好家らの陳述書や意見書等(甲30,33,35から47)を提出する。
イ確かに,上記各陳述書や意見書等からは,これらの作成者においては,本件使用商標を付した原告製作のエレキギターについて,日本製のものとして周知であり,モズレー製作のエレキギターと同様の品質を有すると誤認することはないものと認める余地がないわけではない。
ウ(ア)しかしながら,上記争いのない事実等(2)アのとおり,モズライト社製のモズライト・ギターには,本件使用商標と同様の表示が付されていたものであるところ,上記争いのない事実等(2)アイエの各事実に,証拠(甲10,11,15,17から47,乙5から10,16から26,28から30,32,40から42)及び弁論の全趣旨によれば,我が国の人気ミュージシャンである加山雄三,寺内タケシ,スパイダースの井上堯之らも,昭和40年ころから,モズライト・ギターを演奏に使用していたものであり,また,モズライト・ギターの愛好家は,現在でも,我が国において多数存在しているものと認められることを併せ考慮すれば,モズライト社製のモズライト・ギターに付されていた本件使用商標と同様の表示については,モズライト社製のモズライト・ギターの表示として,昭和40年ころから現在に至るまで,我が国において,エレキギターの取引者,需要者の間で,広く認識されているということができる。
(イ)また,証拠(甲19,20,23,24,乙18,22,27,28,41,42)によれば,本件使用商標を付した原告製作のモズライト・ギターについて,モズライト社製のモズライト・ギターである,あるいは,同ギターと同様の品質であると考えて購入したところ,音質やアームの性能の違いなどから,初めて,購入したエレキギターが,モズライト社製のモズライト・ギターとは異なるものであること,あるいは,同ギターとは品質の異なるものであることを知ったエレキギターの取引者,需要者が存在していること,原告の商品カタログには,「ジャパン・モズライト(有)」又は「日本モズライト(有)」と記載されていることから,真実は,原告は,モズライト社の関連会社ではないにもかかわらず,そうであると誤認していたエレキギターの取引者,需要者が存在していることの各事実が認められる。
上記各事情によれば,エレキギターの取引者,需要者の中には,本件使用商標を付した原告製作のエレキギターについて,モズライト社製作のエレキギターと同様の品質を有すると誤認する者がいるというべきであり,かかる認定をするに足りる証拠が存在しないということはできない。
(ウ)上記(ア)(イ)の各事情に照らせば,原告製作のエレキギターに,本件使用商標を付したとすれば,エレキギターの取引者,需要者において,モズライト社が製作したエレキギターと同様の品質であるかのように商品の品質について誤認を生じ,又はモズライト社若しくは同社と何らかの関連のある者が製作したものではないかと商品の出所について混同を生ずるものというべきであり,上記各陳述書や意見書等の存在をもって,直ちに,一般論として,上記のような誤認をする者が存在しないなどと断ずることはできないというべきである。
エしたがって,エレキギターの取引者,需要者の中には,本件使用商標を付した原告製作のエレキギターについて,モズレー製作のエレキギターと同様の品質を有すると誤認する者がいると認定した上で,原告がエレキギターに本件使用商標を付する行為は,原告製作のエレキギターについて,モズレーが製作したエレキギターと同様の品質であるかのように商品の品質について誤認を生じ,又はモズレー若しくは同人と何らかの関連のある者が製作したものではないかと商品の出所について混同を生ずると判断した本件審決の認定判断には,上記1(2)において善解した点を考慮すると,誤りはないというべきである。
(2)原告の主張(イ)についてア確かに,モズライト社製のモズライト・ギターに付されていた本件使用商標と同様の表示と,ベンチャーズ-モスライト社商標とは,大文字か,小文字かという差異はあるものの,いずれも,「mosrite」というアルファベットの綴りを含んでいるものであるから,外観,称呼において,共通するところがあるというべきである。
イ(ア)しかしながら,上記争いのない事実等(2)クのとおり,原告は,昭和63年ないし平成元年初めころから現在まで,原告製作のエレキギターに,本件登録商標に「ofCalifornia」を付記した本件使用商標を付したものであるが,原告が本件登録商標に「ofCalifornia」の欧文字を付記したのは,多数の顧客から,モズライト社が製作したエレキギターのものと同一の書体で付記してほしいとの要望を受けたことによるものであることに照らすと,原告及びその多数の顧客においては,「ofCalifornia」の欧文字の付記の有無という点で,本件登録商標の付された原告製作のエレキギターと,本件使用商標と同様の表示の付されたモズライト社製のモズライト・ギターとの間の外観上の相違は看過し難いものであったところ,原告製作のエレキギターに付されていた本件登録商標に,「ofCalifornia」の欧文字が付記されることによって,原告製作のエレキギターが,本件使用商標と同様の表示の付されたモズライト社製のモズライト・ギターに,外観上一層酷似するようになるため,「ofCalifornia」の欧文字を付記することを重要視していたものということができる。したがって,原告及びその多数の顧客は,「ofCalifornia」の付記された本件使用商標やモズライト社製のモズライト・ギターに表示されていた本件使用商標と同様の表示と,「ofCalifornia」の付記されていない本件登録商標やベンチャーズ-モスライト社商標との間には,外観上看過し難い差異があるものと認識していたものというべきである。
そうであれば,モズライト社製のモズライト・ギターに表示されていた本件使用商標と同様の表示が周知であることと,ベンチャーズ-モスライト社商標が周知であることは,異なるものというべきであり,本件使用商標と同様の表示が周知であることは,ベンチャーズ-モスライト社商標が周知であることに帰着するなどということはできない。
(イ)しかも,商標法51条1項は,文言上,他人の商標が登録されている場合に限って,商標権者の登録商標に類似する商標の使用が,他人の業務に係る商品と混同を生ずるものとしているわけではないところ,商標の登録の有無と,商標の周知性の有無とが,必ずしも,関連するものでないことは明らかであるから,他人の商標が登録されていない場合であったとしても,それが周知である場合に,商標権者が,他人の非登録周知商標と類似し,かつ,自身の登録商標とも類似する商標を商品に使用したとすれば,その商品につき,他人の業務に係る商品と混同が生ずることは否定できないというべきである。また,周知商標に係る商標権が期間満了により消滅したとしても,それによって,直ちに,当該商標の周知性が失われるものでないことも明らかなところである。したがって,他人の商標が,商標権が期間満了により消滅したものであったとしても,それが周知である場合に,商標権者が,他人の商標と類似し,かつ,自身の登録商標とも類似する商標を商品に使用したとすれば,その商品につき,他人の業務に係る商品と混同が生ずるというべきである。
そうであれば,ベンチャーズ-モスライト社商標の商標権が期間満了により消滅したとしても,それによって,直ちに,ベンチャーズ-モスライト社商標の周知性が失われるということはできず,また,商標法の解釈として,本件登録商標の商標権設定登録以降は,原告の本件登録商標に係る商標権こそが尊重されるものとなり,原告が本件登録商標又はこれと類似の商標を付したエレキギターと,原告以外の者がベンチャーズ-モスライト社商標又はこの使用形態の1つである本件使用商標と同様の表示を付したエレキギターとの間では,商品の出所を混同することはあり得ないものとなったなどということはできない。そして,上記(1)ウ(イ)のとおり,モズライト社製のモズライト・ギターに付されていた本件使用商標と同様の表示については,モズライト社製のモズライト・ギターの表示として,昭和40年ころから現在に至るまでの長期間にわたって,我が国において,エレキギターの取引者,需要者の間で,広く認識されているということができることに照らすと,本件審判請求が,本件登録商標の設定登録後,長期間の経過した後になされているものであるとしても,そのことをもって,出所の混同が否定されることとなるわけでもない。
(3)以上によれば,原告の各主張は,いずれも採用することができず,また,原告がエレキギターに本件使用商標を付する行為は,原告製作のエレキギターが,モズレー製作のエレキギターと同様の品質であるかのように商品の品質について誤認を生じ,又はモズレー若しくは同人と何らかの関連のある者が製作したものではないかと商品の出所について混同を生ずるとした本件審決の判断には,上記1(2)において善解した点を勘案すると,誤りはないというべきである。
3争点(3)(原告の故意の認定の誤り)について(1)原告の主張(ア)について上記のとおり,原告が争点(2)ア(ア)において指摘したような事実認定の誤りは認められないから,本件審決が誤った事実認定を前提にして,誤って,原告の商標法51条1項所定の「故意」を認定したものということはできない。
(2)原告の主張(イ)についてア商標法51条1項所定の「故意」とは,商標権者が指定商品について登録商標に類似する商標を使用し又は指定商品に類似する商品について登録商標若しくはこれに類似する商標を使用するにあたり,その使用の結果,商品の品質の誤認又は他人の業務に係る商品と混同を生じさせることを認識していたことをもって足りると解される(最高裁判所昭和55年(行ツ)第139号同56年2月24日第三小法廷判決・判例時報996号68頁参照)。
イこれを本件についてみると,確かに,本件登録商標とモズライト社製のモズライト・ギターに表示された本件使用商標と同様の表示とは,「ofCalifornia」の欧文字の有無を除き,同様であるところ,上記2(1)ウ(ア)のとおり,モズライト社製のモズライト・ギターに付されていた本件使用商標と同様の表示については,モズライト社製のモズライト・ギターの表示として,現在でも,我が国において,エレキギターの取引者,需要者の間で,広く認識されているということができるから,原告が本件登録商標をエレキギターに使用するだけで,モズライト社製のモズライト・ギターとの間で,品質誤認や出所混同を生ずるものということができる。
ウしかしながら,上記2(2)イ(ア)のとおり,原告の多数の顧客においては,「ofCalifornia」の欧文字の付記の有無という点において,本件登録商標の付された原告製作のエレキギターと,本件使用商標と同様の表示の付されたモズライト社製のモズライト・ギターとの間の外観上の相違は看過し難いものであったところ,原告製作のエレキギターに付された本件登録商標に,「ofCalifornia」の欧文字が付記されることによって,原告製作のエレキギターが,本件使用商標と同様の表示の付されたモズライト社製のモズライト・ギターに,外観上一層酷似するようになるため,「ofCalifornia」の欧文字を付記することを重要視していたものであり,多数の顧客のかかる観点からの強い要望を受けて,原告が,原告製作のエレキギターに付されていた本件登録商標に,「ofCalifornia」を付記したというのであるから,原告がエレキギターに本件使用商標を付する行為は,原告製作のエレキギターが,モズライト社製のエレキギターと同様の品質であるかのように商品の品質について誤認を生ずるおそれ,また,モズライト社若しくは同社と何らかの関連のある者が製作したものではないかと商品の出所について混同を生ずるおそれを,それぞれ,より一層強くするものというべきであり,また,原告は,正に,そのことを意図していたものというべきである。
エしたがって,原告は,原告製作のエレキギターについて本件使用商標を使用するにあたり,その使用の結果,モズライト社製のモズライト・ギターとの間で品質誤認や出所混同の生ずることを認識していたというべきである。
(3)以上によれば,原告の各主張は,いずれも採用することができず,また,原告には,商品の品質の誤認又は他人の業務に係る商品と混同を生じさせることについての認識,すなわち,商標法51条1項所定の「故意」があったとした本件審決の判断には誤りはないというべきである。
4争点(4)(信義則権利濫用法理を適用しなかった誤り)について(1)確かに,被告は,特許庁に対し,平成10年4月28日,本件使用商標と同様の表示について,指定商品を米国カリフォルニア州製のギターとして,商標登録出願している者であるところ(甲9),上記表示が本件登録商標に類似することに照らすと,被告は,上記商標登録出願の障碍となる本件登録商標を排除するために,本件審判を請求している者と推認することができる。また,被告及び被告が代表者である株式会社フィルモアが,モズレーの伝統技術を承継しているか否かは別として,平成8年から,モズライト社やモズレーと全く無関係に製作されたスガイ社製のエレキギターに,本件使用商標と同様の表示を付して,一般消費者に販売していることは,被告自身自認するところである。
(2)しかしながら,本件審判請求が容認されたとしても,原告の本件登録商標に係る商標権が取り消されて消滅するに留まり,そのことによって,被告の上記商標登録出願が,当然に,拒絶査定を免れることとなるわけでもないのであるから,原告の不当な不利益のもとに,被告に不当な利益を与えるなどといった衡平の理念に反するような事情は生じないというべきである。
また,被告が自認する上記事実があるからといって,商標法51条1項所定の商標権者に該当する原告自身が,この事実をとらえて,権利の濫用に当たるなどと主張し,本件登録商標につき商標登録の取消しを免れることができる筋合いでもないというべきである。
(3)そうであれば,被告の本件審判請求について,信義則に反するもの,権利濫用にあたるもの,正当な審判請求の利益を欠くものなどということはできない。
(4)以上によれば,原告の各主張は,いずれも採用することができず,また,本件審判請求につき,信義則に反するもの,権利濫用にあたるもの,または,正当な審判請求の利益を欠くものとして,却下又は棄却しなかった本件審決の判断には誤りはないというべきである。
5結論以上によれば,原告主張に係る各取消事由はいずれも理由がなく,本件審決の判断は相当である。よって,原告の請求を棄却することとし,主文のとおり判決する。
東京高等裁判所第3民事部裁判長裁判官北山元章裁判官青柳馨裁判官絹川泰毅(別紙)本件登録商標、原告の使用商標