運営:アスタミューゼ株式会社
  • ポートフォリオ機能


追加

関連審決 審判1999-31464
関連ワード 包装 /  識別機能 /  指定商品 /  商標の同一性 /  不使用 /  通常使用権 /  称呼(称呼類似) /  観念(観念類似) /  国内 /  パリ条約 /  商号 / 
元本PDF 裁判所収録の全文PDFを見る pdf
元本PDF 裁判所収録の別紙1PDFを見る pdf
事件 平成 14年 (行ケ) 334号 審決取消請求事件
原告 株式会社タケ
訴訟代理人弁理士 瀬谷徹
同 斎藤栄一
被告 株式会社和漢生薬研究所
訴訟代理人弁理士 三瀬和徳
同 小原英一
裁判所 東京高等裁判所
判決言渡日 2003/02/19
権利種別 商標権
訴訟類型 行政訴訟
主文 原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
請求
特許庁が平成11年審判第31464号事件について平成14年5月22日にした審決を取り消す。
当事者間に争いのない事実
1 特許庁における手続の経緯 被告は,下記ア記載の登録商標(以下「本件商標」という。)の商標権者,原告は,本件商標の不使用による登録取消しの審判請求人であり,その経緯は下記イのとおりである。
ア 登録第3199087号商標 構 成 「和漢研」と「麗姿」の文字を上下2段に横書き(別添審決謄本写し末尾の「本件商標」欄参照) 指定商品 別表第3類「化粧品,石鹸類,香料類」 登録出願 平成5年9月24日 設定登録 平成8年9月30日 イ 平成11年10月19日 本件商標の指定商品の全部について不使用による登録取消しの審判請求(平成11年審判第31464号) 同 年12月22日 上記審判の予告登録 平成14年 5月22日 請求不成立審決 同 年 6月 3日 原告への審決謄本送達 3 審決の理由 審決は,別添審決謄本写し記載のとおり,本件商標の通常使用権者である有限会社ちえの輪において,平成9年4月ないし7月以降,石鹸,ローション,クリームのパッケージ(箱)及び容器(ビン)に本件商標と社会通念上同一と認められる商標を付して,これを販売したと認められるから,本件審判請求の登録前3年以内に,日本国内において,通常使用権者が,本件審判請求に係る指定商品に含まれる商品について,本件商標を使用したものであり,商標法50条の規定により本件商標の登録を取り消すことはできないとした。
原告主張の審決取消事由
1 審決は,有限会社ちえの輪がその販売する化粧品,石鹸等について使用した商標(以下「本件使用商標」という。)と本件商標とが社会通念上同一と認められるとの誤った判断をした(取消事由)結果,商標法50条所定の登録商標の使用の事実が認められるとの誤った結論に至ったものであるから,違法として取り消されるべきである。
2 取消事由(本件商標と本件使用商標との同一性の判断の誤り) (1) 審決は,「本件使用商標は,その構成中の『和漢研』『麗姿』が物理的に別々に使用されている点において,本件商標とは相違するとしても,この程度の変更使用は,商取引の実際においては通常行われているところであり,本件商標の識別性に影響を与えない程度の表示態様の変更とみるのが相当であるから,全体としてその使用形態は本件商標の同一性を逸脱しない範囲のものであり,社会通念上同一の商標が使用されているというべきである」(審決謄本14頁下から3番目の段落)と判断するが,誤りである。
(2) 本件商標は,「和漢研」と「麗姿」の語を2段に横書きしてなるものであり,その各部分を構成する文字の大きさ,字体,観念に照らして,「麗姿」の部分のみから出所識別標識としての称呼,観念を生ずるものではなく,「和漢研 麗姿」の全体のみから出所識別標識としての称呼,観念が生ずるものであり,したがって,本件商標はその全体をもって要部であると認めるべきである。
ところが,本件使用商標を見るに,化粧品等の容器及び包装箱の側面に,草書体で縦やや斜め書きに大きく「麗姿」と表示し,その文字を四角の枠で囲み,「和漢研」の部分は,容器包装用箱の側面の下及び上部の蓋の部分にほとんど見えない程度に小さく表示し,その文字を四角の枠で囲んでいる。その使用態様を見る限り,「麗姿」の部分のみに注意を惹かれるということができ,原告の周知のブランドである「麗姿」との関係で需要者に誤認混同を生じさせるものであるから,本件商標の使用があったとは到底いえない。
そもそも,商標権が独占排他的権利である以上,願書に記載した構成を有すると認められる商標のみについて商標権が認められるのであって,2段併記の登録商標の構成部分を分離し,しかもそれぞれ個別の態様で表示し使用することは,登録商標と社会通念上同一と認められる商標の使用ということはできない。
被告の反論
1 審決の認定判断は正当であり,原告主張の取消事由は理由がない。
2 取消事由(本件商標と本件使用商標との同一性の判断の誤り)について 商標の本質的機能が自他商品の識別標識であることから,登録商標と使用商標との同一性もこれを基準にして判断されるべきところ,本件使用商標における「和漢研」と「麗姿」の部分が別々に付されており,また,それらの文字に大小の差があるとしても,需要者は,「和漢研」と「麗姿」の文字部分によって,被告の商号の略称である「和漢研」の「麗姿」ブランドとして称呼,観念すると考えるのが自然であるから,本件商標と本件使用商標とは,自他商品の識別標識として社会通念上同一ということができる。
当裁判所の判断
1 取消事由(本件商標と本件使用商標との同一性の判断の誤り)について (1) 本件商標の構成 本件商標は,別添審決謄本写し末尾の「本件商標」欄記載のとおり,「和漢研」の角ゴシック体文字と,これよりやや大きめの「麗姿」の角ゴシック体文字を,上下2段に横書きしてなるものである。したがって,「和漢研」の文字部分と「麗姿」の文字部分とは,両者を一行に一連に記載したものほどの強い結合関係にあるものとはいえないが,全体として一つの出所識別標識として機能するものであることは明らかである。
(2) 本件使用商標の態様 ア 証拠(甲5-1〜26,乙2〜15)及び弁論の全趣旨によれば,平成9年4月ないし7月以降,被告が製造し,有限会社ちえの輪の販売した化粧品(ローション,クリーム,ファンデーション等),石鹸,シャンプーには,厚紙製の直方体形状の包装箱が用いられていたこと,この包装箱の一部は別紙(上段は乙2-C,下段は甲5-23)記載のとおりのものであり,縦横約33o四方,高さ約113oの直方体形状で,その全体を赤の地色として,正面上部に,ほぼ正方形の枠を白抜きして,更にその内側を黒く枠囲いした内側に,赤色で「麗姿」の手書き風の文字が,「麗」を高い位置に,「姿」を低い位置に配した横書きに顕著に大書され,その下枠の直下に,「LIQUID FOUNDATION」との商品種別を示す小振りの文字が白抜きで横書きされ,正面下部には,枠囲みの「和漢研」の文字と「(株)和漢生薬研究所」の文字が横一列に白抜きで小さく表示され,包装箱の蓋となる上面のほぼ中央に,枠囲みの「和漢研」の文字が白抜きで横書きされていること,包装箱の背面には,定価,成分,製造元等の表示があるが,側面及び底面には特段の表示はないこと,別紙記載の包装箱以外のものも,商品種別を示す文字部分,包装箱の大きさ及び形状(縦横高さの比),地色及び模様の有無等において相違はあるものの,おおむねこれに準ずる態様であることが認められる。
イ 上記認定の包装箱の表示を前提に,本件商標との対比で,一つの標章として認識し得る範囲を見るに,別紙記載の包装箱には,その正面上部に「麗姿」の文字が顕著に大書され,その表示位置,大きさ,白抜き等を用いた枠囲みによる強調からして,本件使用商標の構成中,これが最も目につきやすい構成部分であることは明らかであるから,これを中心として,他の表示部分が,これと一体となった一つの標章を構成するものと認められるかどうかという観点から検討する。
まず,包装箱の背面の定価,成分,製造元等の表示は,上記認定の包装箱の形状及び表示態様から見て,一つの標章として認識し得る構成部分といえないことは明らかである。次に,正面下部の「和漢研(株)和漢生薬研究所」の文字が横一列に表示されている部分は,上記「麗姿」の文字部分からかなり離れている上,文字の大きさ及び位置からしても,ほとんど注意を惹かない態様で表示されているといわざるを得ず,これが「麗姿」等の構成部分と一体となって一つの標章と認識されるような構成部分であると認めることはできない。他方,「LIQUID FOUNDATION」との文字部分は,それ自体として出所識別機能を果たすかどうかはともかくとして(この点については後述する。),「麗姿」の文字を囲む枠線の直下に表示されており,その位置及び表示態様から,「麗姿」の文字部分と一体を成す標章であると認められる。
次に,包装箱上面の「和漢研」の文字部分について見るに,当該「和漢研」の文字部分は,「麗姿」の文字部分とは同一平面上に表示されているものではないが,上記包装箱の大きさ及び形状並びに通常予想される店頭での展示態様に照らすと,取引者,需要者は,これを正面上方から見下ろすのが自然であると解されるところ,このような方向から当該包装箱を見下ろした場合,包装箱上面の「和漢研」の文字部分と,正面上部の「麗姿」の文字部分は,ごく自然に一体に視界に入る位置関係にあるということができ,全体として,一体の標章として認識されるものと認められる。
以上の認定判断によれば,別紙記載の包装箱に付された本件使用商標として一体の標章と見ることができる範囲は,枠囲みによる「麗姿」の文字部分及びその直下の「LIQUID FOUNDATION」の文字部分並びに包装箱上面の枠囲みの「和漢研」の文字部分と認めるのが相当であり,本件使用商標は,これらを構成部分とする一つの商標ということができる。
(3) 本件使用商標の社会通念上の同一性について 上記(1),(2)の認定に基づいて,本件商標と別紙記載の包装箱に付された本件使用商標が社会通念上同一と認められるかどうかを検討する。
まず,本件商標の上段の「和漢研」と包装箱の上面に表示された「和漢研」,本件商標の下段の「麗姿」と包装箱の正面上部に表示された「麗姿」とは,それぞれ同一の文字からなり,また,相対的に「麗姿」の文字部分が大きく表されている点においても両者は軌を一にするものである。他方,本件使用商標には,本件商標には存在しない「LIQUID FOUNDATION」との文字部分が付加されている点,本件使用商標における上記「麗姿」及び「和漢研」の文字は方形で囲まれている点で相違するほか,上記「麗姿」及び「和漢研」の文字の字体や両者の具体的な位置関係においても本件商標とは異なっているが,まず,「LIQUID FOUNDATION」の文字部分は,化粧品の種類である「リクイド(リキッド)ファンデーション」を示す一般名称の表示であることが明らかであるから,出所識別機能のない部分というべきであり,その付加が,社会通念上の商標の同一性を損なうものとはいえない。そして,本件使用商標中の「麗姿」及び「和漢研」の各文字を囲む方形の枠囲みも,それ自体出所識別機能を果たさないありふれた図形の付加にすぎず,商標の識別性に影響を与えない構成部分の変更にとどまるというべきであり,また,字体の相違等その他の相違部分も,商標の識別性に影響を与えない構成部分の変更にとどまるというべきであるから,本件商標と本件使用商標とは,社会通念上同一と認めるに妨げはないというべきである(以上につき,商標の識別性に影響を与えない範囲における登録商標の軽微な変更使用を許容するパリ条約5条C(2)項参照)。
なお,審決が,本件使用商標の構成中の「和漢研」と「麗姿」が「物理的に別々に使用されている」(審決謄本14頁下から第3段落)と説示する点は,本件使用商標の構成部分が同一平面上に表示されていないとの趣旨をいうものと解されるから,上記認定判断と同旨をいう審決の認定判断に誤りはない。
2 以上のとおり,原告主張の取消事由は理由がなく,他に審決を取り消すべき瑕疵は見当たらない。
よって,原告の請求は理由がないから棄却することとし,主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 篠原勝美
裁判官 長沢幸男
裁判官 宮坂昌利