関連審決 | 審判1999-35344 |
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関連ワード | 識別力 / 識別機能 / 指定商品 / 普通名称(3条1項1号) / 記述的商標(3条1項3号) / 普通に用いられる方法 / 3条2項 / 通常使用権 / 継続 / |
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事件 |
平成
14年
(行ケ)
279号
審決取消請求事件
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原告 何ミック有限会社 訴訟代理人弁理士 牛木護 同 清水栄松 同 外山邦昭 同 大岡啓造 被告 有限会社柚こしょう本舗 訴訟代理人弁理士 小谷悦司 同 川瀬幹夫 |
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裁判所 | 東京高等裁判所 |
判決言渡日 | 2002/12/26 |
権利種別 | 商標権 |
訴訟類型 | 行政訴訟 |
主文 |
1 原告の請求を棄却する。 2 訴訟費用は原告の負担とする。 |
事実及び理由 | |
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当事者の求めた裁判
1 原告 特許庁が平成11年審判第35344号事件について平成14年4月24日にした審決を取り消す。 訴訟費用は被告の負担とする。 2 被告 主文と同旨 |
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当事者間に争いのない事実
1 特許庁における手続の経緯 原告は,別紙審決書の写し末尾の別掲(1)に示すとおり,毛筆書体で縦書き二列に右側より「ゆず/七味」と記載された構成から成り,平成3年政令299号による改正前の商標法施行令1条関係別表第31類の「ゆず入りの七味唐辛子」を指定商品とする,登録第2689971号商標(平成元年12月12日登録出願,平成6年7月29日設定登録(弁論の全趣旨によれば,登録査定日は平成6年3月22日であることが認められる。)。以下「本件商標」という。出願したのは,素井興有限会社である。出願人の地位は,同社から原告へと譲渡され,登録時には原告が有していた(甲第37号証)。)の商標権者である。 被告は,本件商標の登録を無効とすることについて審判を請求した。 特許庁は,これを平成11年審判第35344号事件として審理し,その結果,平成14年4月24日に,「登録第2689971号の登録を無効とする。」との審決をし,同年5月8日にその謄本を原告に送達した。 2 審決の理由 別紙審決書の写しのとおりである。要するに,「ゆず七味」の文字より成る本件商標は,商品の品質,原材料を普通に用いられる方法の域を出ない程度の態様で表示するにすぎないものであるから,商標法3条1項3号に該当し,かつ,本件商標を付した商品である「ゆず入りの七味唐辛子」に接した取引者・需要者が,その商品と原告とを結び付けて認識するほど広く知られていたとは認め難いから,商標法3条2項を適用することはできないので,本件商標の登録を無効とする,というものである。 |
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原告主張の審決取消事由の要点
審決は,本件商標が使用により自他商品の識別力を取得するに至っているにもかかわらず,これを認めず,商標法3条2項の適用を否定したものであって,この誤りが結論に影響を及ぼすことは明らかであるから,違法として取り消されるべきである。 1 水工商事株式会社は,我が国で最初に,従来の「七味唐辛子」の成分のうち,陳皮(みかんの皮を干したもの)に代えて「柚子の果皮を乾燥した粉末」を添加した商品である「ゆず入りの七味唐辛子」を開発し,昭和59年に,本件商標を付して,同商品の販売を開始し,雑誌などでその宣伝広告をした。水工商事株式会社は,上記商品の販売,宣伝をする際,素井興(「すいこー」と読む。)の表示を用いていた。同社は,「ゆず入りの七味唐辛子」の販売が好調なことから,昭和62年に同社の香辛料の製造販売部門を分離独立した素井興有限会社を設立し,同社において,「ゆず入りの七味唐辛子」を,本件商標を使用して販売し,宣伝広告をして,現在に至っている(甲第5号証の1ないし5,第7ないし第23号証,第38ないし第100号証)。 素井興有限会社は,平成元年12月12日に本件商標について商標登録出願を行い,平成5年に,原告(水工商事株式会社及び素井興有限会社の有する知的財産権を管理することを目的として設立された有限会社である。)に対し,上記商標登録を受ける権利を譲渡し,平成6年7月29日に本件商標の設定登録がなされると同時に,原告から,本件商標の通常使用権の設定を受けた。 このように,本件商標は,水工商事株式会社及び同社から分離独立した素井興有限会社によって,既に17年間以上にわたって永く使用され,宣伝広告が行われてきた結果,登録査定時においては,既に,自他商品の識別力を取得するに至っていたものであるから,商標法3条2項の適用を受けて登録され得る商標である。 2 審決は,審判甲第5ないし第180号証(本訴甲第24ないし第35号証,乙第3ないし第166号証)や職権により取り調べた資料別添1ないし4(本訴甲第36号証)によれば,本件商標の登録査定前において,「ゆず七味」あるいは「柚子七味」の名称は,商品である「ゆずの入った七味唐辛子」を指称する語として,同業他社により少なからず使用されていることが認められるとして,これを根拠に,本件商標につき商標法3条2項の適用を否定した(審決書22頁11行〜23頁26行)。しかし,審決の上記判断は,誤りである。 (1) 本件商標は,その審査の過程において,「ゆず」の平仮名と「七味」の漢字とを右から縦書き2行に筆文字風に表示して成るその態様について,広く永年にわたり使用されてきたことが認められることにより,商標法3条2項が適用されて,商標登録されたものである。審決がその判断の根拠とした審判甲第5ないし第180号証(本訴甲第24ないし第35号証,乙第3ないし第166号証)は,本件商標とは全く態様の異なる,9種類もの態様の「ゆず七味」,「柚子七味」,「柚七味」について説明したものか(審判甲第5ないし第174号証。本訴甲第24ないし第33号証,乙第3ないし第162号証),商標の態様が全く示されていないもの(審判甲第175ないし第180号証。本訴甲第34,第35号証,乙第163ないし第166号証)にすぎないから,上記態様の本件商標への商標法3条2項の適用の可否の判断とは無関係の証拠である。 (2) 審決は,上記商標法3条2項該当性の判断の中で,「商標権者が商標法3条2項の適用を受ける目的で提出した,乙第5号証(判決注・本訴甲第5号証の1ないし5)の雑誌等における広告例は,「香味七味」と称する3タイプの七味を「七味唐辛子」「のり七味」「ゆず七味」と並べて宣伝,広告しているところ,「七味唐辛子」は明らかに商品の普通名称であるから,これに並ぶ「のり七味」「ゆず七味」もこれと同等の名称として使用されていたものと推察される。」(審決書23頁1行〜6行)と述べている。 審決の上記部分は,「ゆず七味」は普通名称として使用されている,と推察したものである。しかし,普通名称であるということは,商標法3条1項1号に該当するということであり,同号に該当する場合には,商標法3条2項の適用はないから,「ゆず七味」が普通名称であるとしながら,同項の適用があるというのは,誤りである。 (3) 上記審判甲第5ないし第177号証(本訴甲第24ないし第34号証。乙第3ないし第164号証)は,いずれも請求人(被告)と取引関係にある利害関係人が作成した私的な証明書であるから,信用性がない。 上記審判甲第5ないし174号証(本訴甲第24ないし第33号証,乙第3ないし第162号証)は,その大半が,食品衛生法11条の「表示の基準」の規定に合致せず,同12条の「虚偽の表示」に該当する違法なものであるから,信用性がない。 上記職権により取り調べられた資料(本訴甲第36号証)のうち,別添1のパンフレットは,印刷された日付がなく,その2枚目に添付されたパンフレットの印刷代金についての台帳と一致しているかどうかも判断できないものであるから,信用性がない。別添2ないし4は,いずれも,新聞社のホームページで「ゆず七味」を検索して打ち出された資料であり,新商品発売の宣伝文の一部が用いられたものであるものの,その使用態様は明らかでなく,いずれもその使用時期は,本件商標の使用が開始された昭和59年(審判乙第31号証。本訴甲第22号証)よりも後であるから,本件商標の商標法3条2項該当性の判断とは関係のない証拠である。 |
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被告の反論の骨子
「ゆず七味」,「柚子七味」,「柚七味」の名称は,本件出願の日である平成元年12月12日より前から現在に至るまで,継続して,日本全国において,原告以外の多数の販売業者により,ゆずを成分の一つとする七味唐辛子(ゆず入りの七味唐辛子)を示すものとして,用いられている(甲第24ないし第35号証,乙第3ないし第166号証,第168ないし第179号証)。このことに照らせば,本件商標は,登録査定時において自他商品の識別機能を果たし得るものであったとはいえないことが明らかである。本件商標は,登録査定時において自他商品の識別機能を取得するに至っておらず,商標法3条2項の適用を受けることができない商標である,とした審決の認定判断に誤りはない。 |
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当裁判所の判断
1 本件商標への商標法3条2項の適用について (1) 証拠(甲第5号証の1ないし5,第7ないし第14号証,第19,第20,第22,第23号証,第37ないし第55号証,第58,第59号証,第73ないし76号証,第88,第91号証)及び弁論の全趣旨によれば,本件商標に関し,次の事実が認められる。 水工商事株式会社は,昭和59年10月から,「ゆず入りの七味唐辛子」の販売を開始した。同社は,上記商品の容器に本件商標を印刷したラベルを貼付し,その商品の写真を掲載したパンフレットを作成,配布したり,同写真を用いた広告を雑誌に掲載したり,同商品を業界の展示会において展示したりするなどして,宣伝広告をした。このほか,本件商標が付された上記商品が,新聞記事で写真入りで紹介されたこともあった。水工商事株式会社は,上記商品の販売や宣伝広告の際,自己を示すものとして,「素井興」の表示を用いており,昭和62年には,同社の香辛料の製造販売部門を分離独立させて,素井興有限会社を設立した。同社は,その設立時から本件商標の登録査定日である平成6年3月22日までの間,上記と同様の方法で,本件商標を「素井興」とともに使用して,「ゆず入りの七味唐辛子」の販売及び宣伝広告をした。 素井興有限会社は,平成元年12月12日に本件商標の商標登録出願を行い,平成5年に,原告(水工商事株式会社及び素井興有限会社の所有する知的財産権を管理することを目的として設立された有限会社である。)に対し,上記商標登録を受ける権利を譲渡し,平成6年7月29日に原告を商標権者として本件商標の設定登録がなされると同時に,原告から,本件商標の通常使用権の設定を受けた。 (2) 他方,証拠(甲第24ないし第33号証,乙第3ないし78号証,第83ないし第109号証,第114,第115号証,第148ないし第159号証,第161ないし第166号証,第168ないし第179号証)によれば,本件商標の登録査定日である平成6年3月22日より遅くとも5年以上前から,登録査定日までの間,日本全国において,原告や素井興有限会社以外の業者が原告商品とは別の商品である「ゆずの入った七味とうがらし」を,「柚七味」,「ゆず七味」,「柚七味」の名称で販売していたこと,が認められる。 このように,本件商標と同一の名称といい得る「ゆず七味」,「柚子七味」,「柚七味」の語が,本件商標の登録査定時において,商標権者である原告及び使用権者である素井興有限会社とは別の業者によって「ゆずの入った七味唐辛子」の名称として,我が国で広く用いられていたことに照らすと,上記(1)で認定した事実から,本件商標の登録査定時に,本件商標が,これに接した取引者・需要者が原告又は素井興有限会社の業務に係る商品であることを認識する程度に,自他商品の識別力を取得するに至っていた,と認めることはできず,他に,これを認めるに足りる証拠はない。 本件商標につき商標法3条2項の適用がないとした審決の判断に誤りはない,というべきである。 2 原告の主張について (1) 原告は,本件商標は,「ゆず」の平仮名と「七味」の漢字とを右から縦書き2行に筆文字風に表示してなる態様に着目して,商標法3条2項の適用により商標登録されたものであるのに対し,審決がその判断の根拠とした審判甲第5ないし第180号証(本訴甲第24ないし第35号証,乙第3ないし第166号証)は,本件商標と態様を異にする商標を示すもの,又は全く態様を示していないものであるから,本件商標への商標法3条2項の適用の可否の判断とは無関係の証拠である,と主張する。 しかしながら,本件商標は,「ゆず七味」を普通に用いられる方法で表示したものといい得る範囲の態様のものであり(本件商標が,商品の品質,原材料を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標として,商標法3条1項3号に該当することは,当事者間に争いがない),これを,その態様自体によって格別強く注意を引くものと認めることはできない。そうだとすると,上記各証拠に示された各商標は,商品の品質,原材料を普通に用いられる方法といい得る範囲内で表示しているものである点において,本件商標と区別することはできず,その態様の差異は,ほとんど,問題とならないものであるということができる。上記各証拠は,本件商標の商標法3条2項の適用の可否の判断に当たって,当然に,比較・検討の対象とされるべきであることが明らかである。 上記各証拠が本件商標への商標法3条2項の適用の可否の判断とは無関係の証拠である,との原告の主張は,採用することができない。 当初,ほとんど,あるいは,それほど問題とならなかった商標の態様であっても,その後の使用の過程で,これが重視され,その態様そのものに着目した宣伝広告が大量になされるなどの事情により,当該態様そのものが識別力を取得するに至ることは,一般論としては,あり得る。しかし,本件商標につきそのような事情があったことは,本件全証拠によっても認めることができない。 (2) 原告は,審決が,商標法3条2項該当性の判断の中で,「ゆず七味」が普通名称であり,商標法3条1項1号に該当する旨説示しながら,商標法3条2項の適用を問題としているのは誤りである,と主張する。しかしながら,この点に関する審決の説示部分(審決書23頁1行〜6行)は,本件商標の出願過程で提出された意見書(甲第5号証の1)に添付された原告の商品の宣伝・広告中に示された「ゆず七味」は,普通名称であることが明らかな「七味唐辛子」と並べて宣伝・広告されていることから,商品の名称として用いられているにすぎず,自他商品の識別標識として用いられているのではない,との趣旨を述べているにすぎず,「ゆず七味」が普通名称である,とまで述べたものではないことは,その記載自体から明らかである。 (3) 原告は,審判甲第5ないし第177号証(本訴甲第24ないし第34号証。乙第3ないし第164号証)は,いずれも被告と取引関係にある利害関係人が作成した私的な証明書であるから信用性がない,と主張する。しかしながら,利害関係人により私的に作成された証拠であるからといって,常に,当該証拠の信用性を否定しなければならないことになるわけのものでないことは,当然である。 原告は,審判甲第5ないし第174号証(本訴甲第24ないし第33号証。乙第3ないし第162号証)は,食品衛生法11条,12条に規定する製造者の表示に関する基準に適合しない違法なものであるから信用性がない,と主張する。しかしながら,食品衛生法に定める製造者の表示に関する基準の違反の有無と,上記各証拠中に表示された商標の使用の有無との間に,直接の関係がないことは,明らかである。上記食品衛生法違反の主張は,上記各証拠の信用性を左右するに足りるものではないというべきである。 原告は,審決が職権で取り調べた資料(本訴甲第36号証)のうち,別添1のパンフレットは,その作成日付がなく,これに添付されたパンフレットの印刷代金を記載した台帳と一致しているかどうかも確認できないものであるから,信用性がない,と主張する。しかしながら,上記パンフレット及び台帳は,河田柚子園を製造者とする「柚子七味」の商標が「ゆず入りの七味唐辛子」に用いられていたことを示す甲第25号証,乙第19ないし第45号証と総合するならば,その印刷代金が記載された時期である平成5年において作成されたパンフレットであるものと認めることができる。上記証拠の信用性を疑わせるに足りる資料はない。 原告は,上記資料のうち,甲第36号証の別添2ないし4は,いずれも新聞社のホームページで「ゆず七味」を検索した結果,打ち出された資料であり,そこに記載された商標の使用態様が明らかでないこと,その使用時期は,本件商標の使用が開始された昭和59年よりも後であることから,本件商標の商標法3条2項該当性の判断とは関係のない証拠である,と主張する。 しかしながら,商標の使用態様の差異は,本件商標との比較・検討に当たってほとんど問題とならないことは,上記説示のとおりであるから,商標の使用態様が明らかでないことは,上記証拠を本件商標の商標法3条2項該当性の判断において用いることの妨げとならないというべきである。また,本件商標の商標法3条2項該当性の判断の基準時は登録査定時であるから,本件商標の使用開始時期よりも後に使用されたものであっても,登録査定時までに使用されたものである以上,商標法3条2項該当性の判断に用いることができることは明らかである(甲第36号証の別添2,3に掲げられた新聞記事のうち,1994年(平成6年)10月14日の新聞記事は,本件商標の登録査定時である平成6年3月22日より後の記事であるから,登録査定時の事実を認定する直接の証拠となるものではない。しかしながら,登録査定後の使用の事実であっても登録査定時に近接した時期におけるものは,登録査定時の使用の事実を認定する間接事実となるということができるから,審決がこの証拠を挙げたことを誤りとすることはできない。仮に,この証拠を挙げたことが誤りであるとしても,本件においては,その余の証拠によって審決と同一の結論に至ることができたというべきであるから,その誤りは審決の結論に影響を及ぼさない,というべきである。)。 (4) 上に述べたとおり,原告の上記主張はいずれも採用することができず,他に前記1の判断を覆すに足りる主張,立証はない。 |
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以上のとおりであるから,原告主張の取消事由は理由がなく,その他審決に
はこれを取り消すべき瑕疵は見当たらない。 よって,本訴請求を棄却することとし,訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法7条,民事訴訟法61条を適用して,主文のとおり判決する。 |
裁判長裁判官 | 山下和明 |
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裁判官 | 設樂隆一 |
裁判官 | 阿部正幸 |