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関連審決 無効2000-35717
関連ワード 指定商品 /  周知性 /  混同を生ずるおそれ(混同を生じるおそれ) /  4条1項15号 /  著名商標 /  称呼(称呼類似) /  観念(観念類似) /  取引の実情 /  補正 /  更新登録 /  社団法人 /  継続的に使用 /  継続 /  多角経営 /  商号 / 
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事件 平成 13年 (行ケ) 556号 審決取消請求事件
原告 寳酒造株式会社
訴訟代理人弁理士 青山葆
同 樋口豊治
同 大西育子
同 西津千晶
被告 宝醤油株式会社
訴訟代理人弁護士 吉武賢次
同 宮嶋学
同 弁理士 小泉勝義
裁判所 東京高等裁判所
判決言渡日 2002/12/25
権利種別 商標権
訴訟類型 行政訴訟
主文 特許庁が無効2000−35717号事件について平成13年10月30日にした審決を取り消す。
訴訟費用は被告の負担とする。
事実及び理由
請求
主文と同旨
当事者間に争いのない事実
1 特許庁における手続の経緯 被告は,別添審決謄本写し別記(1)のとおりの構成からなり,昭和50年6月13日に登録出願した昭和50年商標登録願第73323号の分割出願として,昭和58年12月28日,指定商品を旧別表第31類「たれ,つゆ,つゆの素,だしの素,みりん風調味料,トマトペースト,トマトピューレ,オイスターソース」として登録出願し,その後,指定商品を旧別表第31類「焼き肉のたれ,焼き鳥のたれ,蒲焼きのたれ,しゃぶしゃぶのたれ,その他の調味用たれ,そばつゆ,うどんつゆ,だしつゆ,煮魚用つゆ,その他の調味用つゆ」と補正し,平成11年7月9日に設定登録された登録第4292695号商標(以下「本件商標」という。)の商標権者である。
原告は,平成12年12月29日,被告を被請求人として,本件商標の商標登録を無効にすることについて審判を請求した。
特許庁は,同請求を無効2000-35717号事件として審理した上,平成13年10月30日に「本件審判の請求は,成り立たない。」との審決をし,その謄本は,同年11月9日,原告に送達された。
2 審決の理由 審決は,「みりん」について著名な請求人(注,原告)に係る別添審決謄本写し別記(2)のとおりの構成からなり指定商品を旧商品類別第39類「味淋」とする商標登録第85292号商標(大正6年2月25日登録出願,同年4月27日設定登録,以下「引用A商標」という。),同じく別記(3)のとおりの構成からなり指定商品を旧別表第28類「酒類(薬用酒を除く)」とする商標登録第980690号商標(昭和38年9月4日登録出願,昭和47年9月18日設定登録,以下「引用B商標」という。)と同一の「タカラ」の文字を表してなる本件商標を,被請求人(注,被告)がその指定商品に使用すると請求人の業務に係る商品と混同を生ずるおそれがあるから,本件商標は,商標法4条1項15号に違反して登録されたものであるとの原告の主張に対し,被請求人の業務に係る商品は,需要者間に「宝」「寳」印の「醤油」として広く知られ,本件商標の指定商品には原材料の一つとして「醤油」が使用されていることは需要者間によく知られ,本件商標の「タカラ」の文字からは「貴重な品物,大切な財物,宝物,財宝」等を意味する「宝」が想起されるから,引用各商標が本件商標の登録出願時に,請求人の業務に係る商品「味醂」「焼酎」等「酒類」に使用される商標として取引者,需要者の間に広く認識されていたとしても,被請求人が本件商標を自己の業務に係る「醤油」を原材料に使用する指定商品に使用した場合,これに接する取引者,需要者は,当該商品が被請求人の業務に係る商品であると認識,理解し,その商品が請求人又は請求人と関係のある者の業務に係るものであるかのように,その商品の出所について混同を生ずるおそれはないとし,本件商標が商標法4条1項15号に違反して登録されたものということはできないとした。
原告主張の審決取消事由
1 審決は,本件商標をその指定商品に使用した場合の商品の出所混同のおそれについての判断を誤った(取消事由)ものであるから,違法として取り消されるべきである。
2 取消事由(商品の出所混同のおそれについての判断の誤り) (1) 引用各商標の周知・著名性 原告は,大正14年設立の酒造メーカーであり,原告が今日に至るまで使用している「寳」の文字を図案化してなりあるいはこれを要部としてなる商標(以下「原告寳商標」という。)は,「タカラ」の称呼及び観念を生ずる商標として,みりん,しょうちゅうについて,世人一般に知られ,著名化しており,このことは最高裁昭和41年2月22日第三小法廷判決・民集20巻2号234頁においても確認されている。このように著名な原告寳商標と引用各商標とは,称呼及び観念において同一であって,社会通念上同一と認められるものであり,取引者,需要者は,みりん,しょうちゅうについて使用される引用各商標に接すれば,著名商標である原告寳商標を容易に連想する。したがって,原告寳商標の著名性は,みりんについて使用されている引用各商標に継承されている。
引用各商標は,いずれも原告の代表的出所識別標識であり,遅くとも本件商標の登録出願(昭和50年6月13日)前の昭和44年から登録査定時(平成11年6月7日)に至るまで,みりんを始めとする原告の全商品について継続的に使用され,その間,引用各商標が原告寳商標から継承した著名性は,増大こそすれ,減じたということはない。
したがって,引用各商標は,いずれも本件商標の登録出願前から登録査定時に至るまで,みりんについて著名であったことは明らかである。
(2) 本件商標の周知性及び商品の出所混同のおそれ ア 審決は,「被請求人(注,被告)の業務に係る商品は,需要者間に『宝』『寳』印の『醤油』として広く知られてきた」(12頁第5の第1段落)と認定するが,誤りである。
被告に係る「宝」の文字を図案化してなる商標(指定商品を旧商品類別第41類「醤油」とする商標登録第120188号商標〔大正9年6月18日登録出願,同年9月13日設定登録〕,以下「被告宝商標」という。),同じく「寳」の文字を図案化してなる商標(指定商品を同第41類「醤油」とする商標登録第120189号商標〔大正9年6月18日登録出願,同年9月13日設定登録〕,以下「被告寳商標」という。)が安永元年(1772年)から現在に至るまで使用され,過去においてしょうゆについて需要者の間で広く知られるに至ったとしても,需要者は世代交代し,営業努力を怠ればその周知性は喪失されるから,同事実は,上記各商標が需要者の間でしょうゆについて広く知られていることを推認させるものではない。
イ 審決は,「商標権者が本件商標を自己の業務に係る『醤油』を原材料に使用する指定商品に使用した場合,これに接する取引者,需要者は,該商品が被請求人(注,被告)の業務に係る商品であると認識,理解し,その商品が請求人(注,原告)又は請求人と関係のある者の業務に係るものであるかのように,その商品の出所について混同を生ずるおそれはない」(12頁第5の第5段落)と判断するが,誤りである。
みりんも,本件商標の指定商品「焼き肉のたれ,焼き鳥のたれ,蒲焼きのたれ,しゃぶしゃぶのたれ,その他の調味用たれ,そばつゆ,うどんつゆ,だしつゆ,煮魚用つゆ,その他の調味用つゆ」も,専門の料理人や主婦等,料理を担当する者を主たる需要者とし,用途も共通である。また,主婦等の一般消費者は,みりんについて,調味料の一種であり,本件商標の指定商品の原材料の一つであると認識している。そして,本件商標の指定商品の製造者は,しょうゆメーカーに限られないから,本件商標は,これに接した取引者,需要者に,原告に係る著名な引用各商標を連想させ,商品の出所につき混同を生ずるおそれがある。
被告の反論
1 審決の認定,判断は正当であり,原告主張の取消事由は理由がない。
2 取消事由(商品の出所混同のおそれについての判断の誤り)について (1) 引用各商標の周知・著名性について 原告は,みりんについてだけではなく,清酒「松竹梅」,しょうちゅう「純」等で著名であるが,これらはすべて酒類であり,あくまでも酒造メーカーとして著名である。このような原告の酒類に特化した著名性からすれば,本件商標の指定商品の需要者は,原告が酒類以外のたれ,つゆ類を販売しているなどとは,通常,思いもよらないことである。
(2) 本件商標の周知性及び商品の出所混同のおそれについて ア 被告は,その前身である野田の高梨兵左衛門が,寛文元年(1661年)にしょうゆの醸造を始め,安永元年(1772年)から被告宝商標及び被告寳商標の使用を始め,明治に至って,我が国に商標登録制度ができるや,被告宝商標を登録第241号(更新により登録第120188号となる。)として,被告寳商標を登録第242号(更新により登録第120189号)として,それぞれ商標登録し,今日まで長年にわたって継続して使用してきた。また,被告は,上記各商標のほかに,「宝」「TAKARA」「タカラ」の文字からなりあるいはこれを要部としてなる登録商標(指定商品を旧商品類別第41類「ソース及酢ノ類」とする登録第384418号商標〔昭和23年1月16日登録出願,昭和25年5月26日設定登録〕,指定商品を旧別表第31類「しようゆ,食酢,ウースターソース,ケチヤップ,マヨネーズソース,ドレツシング,酢の素,ホワイトソース」とする登録第802099号商標〔昭和37年9月8日登録出願,昭和43年12月23日設定登録〕,指定商品を同第31類「しょうゆ」とする登録第2721367号商標〔昭和50年6月13日登録出願,平成9年5月16日設定登録〕,指定商品を同第31類「しようゆ,食酢,ウースターソース,ケチヤップ,マヨネーズソース,ドレツシング,酢の素,ホワイトソース」とする登録第2722885号商標〔昭和54年4月9日登録出願,平成9年8月29日設定登録〕,指定商品を同第31類「焼鳥のたれ」とする登録第2724213号商標〔昭和50年6月13日登録出願,平成10年11月13日設定登録〕,指定商品を同第31類「焼肉用のたれ」とする登録第2724216号商標〔昭和50年8月5日登録出願,平成10年11月20日設定登録〕)を有している。被告は,これらの登録商標をその指定商品について長年にわたって継続して使用し,宣伝,広告及び品質の向上に努め,事業範囲(取扱商品の範囲)も拡大し,売上げも順調に推移してきたことから,本件商標の登録出願時(昭和50年6月13日)及び登録査定時(平成11年6月7日)において,本件商標を含む,「宝」「寳」「TAKARA」「タカラ」の文字からなりあるいはこれを要部としてなる商標は,被告の業務に係る商品(しょうゆ,たれ,つゆ等の塩味調味料,うまみ調味料)を表示する商標として,本件商標の指定商品の取引者,需要者の間に広く知られるに至っている。
イ 本件商標の指定商品は,しょうゆをベースとした塩味調味料,うまみ調味料,甘味料であり,これらの商品はしょうゆメーカーないし食品メーカーにより製造され,一般の食料品店で販売される。これに対し,みりんは,しょうちゅう,米こうじ,もち米を原料として醸造した甘い酒で,日本料理の甘み付けに用いられる高級な甘味料であり,酒類であることから,酒税法により販売できる者が規制されている商品である。このように,本件商標の指定商品とみりんとは,商品が相違し,その製造者,販売場所も異なるから,本件商標をその指定商品に使用しても,これに接した取引者,需要者において,原告の業務に係る商品と混同を生ずるおそれはない。
加えて,「宝」「タカラ」の文字を使用した商標は多数存在しており,このことは世間一般にも広く認識されているところであって,当該商標の付された商品に接する需要者も注意して識別しているのが取引の実情であるから,この点からしても本件商標と引用各商標との間に誤認混同のおそれは生じない。
当裁判所の判断
1 取消事由(商品の出所混同のおそれについての判断の誤り)について (1) 引用各商標の周知・著名性について ア 原告がみりんを含む酒類のメーカーとして著名であることは被告も争わないところ,証拠(甲13〜24,枝番を省略。)によれば,次の事実が認められる。
原告は,大正14年設立の酒造メーカーであり,昭和44年版以降平成11年版までの原告製品カタログから明らかなとおり,引用各商標を,共に,遅くとも昭和44年から,みりんについて継続的に使用してきた。
原告は,その製造に係るみりんについて,平成9年4月1日から同月27日までの間,平成10年3月25日から同年4月21日までの間,北海道から九州に至る全国の放送局でテレビコマーシャルを放映し,平成9年4月22日から同月24日までの間,同年10月30日,同年11月3日,平成10年4月5日から同月11日までの間,同4月17日から同月22日までの間,朝日新聞,毎日新聞,読売新聞,日経新聞及び産経新聞の五大紙のほか,北海道新聞,中日新聞等の地方紙にも広告を掲載し,平成9年4月17日から平成10年9月1日までの間,繰返し,雑誌「ESSE」「オレンジページ」「きょうの料理」「dancyu」等に広告を掲載した。
原告の製造に係るみりんの販売高,販売金額は,第56期(昭和41年4月1日〜昭和42年3月31日)が9445キロリットル,24億7150万7000円,第65期(昭和50年4月1日〜昭和51年3月31日)が2万1694キロリットル,88億1282万4000円,第88期(平成10年4月1日〜平成11年3月31日)が3万9566キロリットル,168億0400万円であり,本みりん市場において,昭和41年度には67.9%,昭和44年度には64.9%,昭和47年度には57.2%,昭和50年度には61.5%,昭和53年度には60.0%,昭和56年度には58.9%,昭和59年度には59.4%,昭和62年度には59.4%,平成2年度には58.3%,平成5年度には54.6%,平成8年度には51.2%のシェアを有し,昭和40年度から平成10年度まで,30年以上にわたり一貫して,第1位の座を守り続けている。
原告の製造に係るみりん商品には,遅くとも昭和44年ころから平成11年に至るまで継続して,引用各商標が共に又は引用B商標が単独で付されていた。
また,みりんが,我が国において,家庭でも一般に使用されるなじみのある調味料であることは,当裁判所に顕著である。
イ 以上認定の事実によれば,引用各商標は,本件商標の登録出願時(昭和50年6月13日)及び登録査定時(平成11年6月7日)において,原告の商品みりんを表示するものとして,我が国の取引者,需要者の間に広く認識され著名であったことを優に認定することができるというべきである。
(2) 本件商標の周知性について ア 証拠(乙2〜5,枝番を省略)及び弁論の全趣旨によれば,次の事実が認められる。
被告の創業者である高梨兵左衛門は,江戸時代の寛文元年(1661年)に野田(現在の千葉県野田市)でしょうゆの製造を始め,安永元年(1772年)から,その製造に係るしょうゆに被告宝商標及び被告寳商標を使用するようになった。
高梨兵左衛門(代々襲名)は,明治時代,上記各商標につき,いずれも指定商品を旧商品類別第41類「醤油」とする商標登録出願をし,被告宝商標については商標登録第241号(大正9年9月13日,商標登録第120188号商標〔同年6月18日登録出願〕に更新登録)として,被告寳商標については同第242号(大正9年9月13日,商標登録第120189号商標に更新登録〔同年6月18日登録出願〕)として,設定登録がされた。
大正6年,高梨兵左衛門ほかのしょうゆ製造業者により,個人営業を株式会社組織に改めて野田醤油株式會社が設立されるとともに,上記被告各商標の商標権は同会社に移転され,昭和16年,被告が設立され,その後,上記各商標権も被告に移転された。
被告は,被告各商標のほかに,「宝」「TAKARA」「タカラ」の文字からなりあるいはこれを要部としてなる登録商標として,指定商品を旧商品類別第41類「ソース及酢ノ類」とする登録第384418号商標(昭和23年1月16日登録出願,昭和25年5月26日設定登録),指定商品を旧別表第31類「しようゆ,食酢,ウースターソース,ケチヤップ,マヨネーズソース,ドレツシング,酢の素,ホワイトソース」とする登録第802099号商標(昭和37年9月8日登録出願,昭和43年12月23日設定登録),指定商品を同第31類「しょうゆ」とする登録第2721367号商標(昭和50年6月13日登録出願,平成9年5月16日設定登録),指定商品を同第31類「しようゆ,食酢,ウースターソース,ケチヤップ,マヨネーズソース,ドレツシング,酢の素,ホワイトソース」とする登録第2722885号商標(昭和54年4月9日登録出願,平成9年8月29日設定登録),指定商品を同第31類「焼鳥のたれ」とする登録第2724213号商標(昭和50年6月13日登録出願,平成10年11月13日設定登録),指定商品を同第31類「焼肉用のたれ」とする登録第2724216号商標(昭和50年8月5日登録出願,平成10年11月20日設定登録)を有している。
被告は,昭和35年にすき焼き用たれ・つゆの発売を始め,昭和38年にうなぎ蒲焼きたれ,昭和43年に焼き鳥たれ,昭和58年に甘酢たれ等の発売を開始するなど,主たる業務に係る商品のしょうゆをベースにした塩味調味料,うまみ調味料等の調味料にも業務を進展させている。
上記のとおり,被告宝商標及び被告寳商標は,被告の前身である野田の高梨兵左衛門が,しょうゆについて安永元年(1772年)からの使用を始め,明治に至ってその商標登録をし,その後これらの商標権を被告において取得したほか,昭和25年から平成10年までの間に,「宝」「TAKARA」「タカラ」の文字からなりあるいはこれを要部としてなる商標についても,被告がその商標権を取得し,業務に係る商品をしょうゆから塩味調味料,うまみ調味料等にまで広げたことが認められるが,同事実のみによっては,被告主張の,本件商標の登録出願時(昭和50年6月13日)及び登録査定時(平成11年6月7日)において,本件商標を含む,「宝」「寳」「TAKARA」「タカラ」の文字からなりあるいはこれを要部としてなる商標が,被告の業務に係る商品(しょうゆ,たれ,つゆ等の塩味調味料,うまみ調味料)を表示する商標として,本件商標の指定商品の取引者,需要者の間に広く知られていたとの事実を推認するに足りない。
イ ところで,被告は,本件商標を含む上記各商標の上記周知性を立証する証拠として,乙6〜40を提出するので,以下検討する。
乙6-1〜85,乙21-1〜6,乙22-1,2,乙28-1〜6は,いずれも被告商品のラベルの印刷,納品についての証明書,乙8-1,2,乙25は,いずれも「?用丑の日」のポスターの印刷,納品についての証明書であり,これにより,被告が製造,販売したしょうゆ,たれ,つゆ,調味液等の商品,商品案内,ポスターに,「宝」「TAKARA」「タカラ」の文字を構成に含む商標を使用していたことが認められるが,上記ラベルに係る商品のほとんどは業務用調味料に関するものであり,ポスターはいずれも特に目立つものではなく,配付数,配布先も不明であって,その宣伝効果が大きいものとは認め難い。
乙7-1は,被告の商品案内の印刷,納品についての証明書,乙7-2〜4は,被告の会社案内ないし会社概要の印刷,納品についての証明書であるが,これらの配付時期及び配布先は不明であり,また,上記会社案内ないし会社概要は一般の需要者に配布するものとは認められない。
乙9-1〜3は,被告が「日刊食料新聞」に昭和49年以降,乙10-1〜3は,同じく「全国食鳥新聞」に昭和51年以降,乙11-1〜3は,同じく「日本養殖新聞」に昭和54年以降,いずれも継続的に広告を掲載したことの証明書であるが,上記各新聞の発行部数は明らかではなく,その内容自体から一般の需要者を対象としたものとは認められない。
乙12は,昭和55年6月1日柴田書店発行の「月刊専門料理」,乙13-1〜53は,昭和46年6月ないし昭和50年12月多田食味研究所発行の「月刊食味評論」であり,被告は,これらの雑誌に広告を掲載したことが認められるが,上記各雑誌の発行部数は明らかではなく,その内容自体からいずれも飲食業者,食品加工業者等を読者層とする業界紙であって,一般の需要者を対象としたものとは認められない。
乙14-1は,食糧業界新聞社発行の「全国味噌醤油名鑑(昭和三十四年版)」,乙14-2〜16は,同(乙14-10〜16は食品産業新聞社発行)「味噌醤油年鑑(昭和三十五年版)」「同(昭和三十七年版)」「同(昭和三十八年版)」「同(昭和40年度版)」「同(昭和41年度版)」「同(昭和44年度版)」「同(1970年度版)」「同(1971年度版)」「同(1972年度版)」「同(1975年度版)」「同(1976年度版)」「同(1977年度版)」であり,被告は,これらに広告を掲載し(乙14-1,2,5,6,8,10〜12),しょうゆ製造業者として紹介する記事又は名簿が掲載された(乙14-1〜16)ことが認められるが,上記名鑑,年鑑の発行部数は明らかではなく,その内容自体から一般の需要者を対象としたものとは認められない。
乙15-1〜3は,被告の昭和39年,昭和50年及び平成12年の各事業報告書,乙20-1〜6は,被告の昭和53年から昭和58年までの法人の事業概況説明書,乙26-1〜13は,同じく昭和38年から昭和50年までの法人の事業概況説明書,乙32-1〜5は,同じく平成7年から平成11年までの法人事業概況説明書であって,いずれも被告の売り上げ実績等を示すものにすぎず,乙16(被告が農林水産大臣賞を受賞した旨の記載のある「醤研Vol.24,No.5,1998」),乙17-1,2(被告が平成14年の全国醤油品評会で食糧庁長官賞を受賞したことに関する資料)及び乙18(昭和33年7月1日日本醸造公論社発行の「醸界風土記」)からも,被告主張の上記各商標の使用の事実は不明であり,その周知性を認定する的確な証拠ということはできない。
乙19-1は,昭和58年11月1日日刊経済通信社発行の「酒類食品産業の生産・販売シェア-需給の動向と価格変動-昭和58年度版」,乙19-2は,上記乙19-1に上記乙20-1〜6から被告が計算した昭和53年から昭和58年までの被告のシェア(5位ないし7位に相当)を書き入れたものであるが,乙19-1自体には被告のシェアが掲載されていない上,上記期間中,被告が,焼肉のたれ以外に,すき焼き用たれ・つゆ,うなぎ蒲焼きたれ,焼き鳥たれ等を発売していたことは上記認定のとおりであり,乙20-1〜6に記載された「タレ」「たれ」はこれらを含むものと推認されるから,被告の計算した販売額と乙19-1に記載された他社に係る販売額を単純に比較することには疑問の余地がある。また,乙20-1〜6によれば,被告の製品の販売先は,昭和53年は50%,昭和54年は30%,昭和55年は90%,昭和56年は70%,昭和57年は50%,昭和58年は50%が製造業者であることが認められるから,乙19-2記載の被告のシェアが,被告主張の上記各商標を使用した商品焼肉のたれに係るものとは直ちに認められず,その周知性を認定する的確な証拠ということもできない。
乙23-1〜32,33-1〜7,34-1〜22,乙35,38-1〜5は,いずれも「宝」「TAKARA」「タカラ」の文字を構成に含む商標を付した被告のしょうゆを購入ないし使用した事実の証明書であるが,上記の証明書を作成した者が上記商品を購入ないし使用した事実によっては,被告主張の上記各商標の周知性を認めるに足りない。
乙24-1〜3によれば,被告は,昭和25年ころ,「宝」「タカラしょうゆ」の文字を記載した看板を約1000枚作成して,特約店に無償で配布し,配付を受けた特約店のうちには,平成12年ころまで,これを掲示していたことが認められるが,同看板はありふれたものであり,特段の宣伝効果を発揮したものとは認め難い。
乙27は,昭和32年5月10日付けの「食糧業界新聞」であり,「宝」「タカラしょうゆ」の文字を記載した被告の広告が掲載されているが,上記新聞の発行部数は明らかではなく,その内容自体から一般の需要者を対象としたものとは認められない。
乙29-1,2は,いずれも社団法人日本食鳥協会会員名簿(昭和52年版,昭和54年版),同-3は被告が同協会の賛助会員であることの証明書であり,被告は,上記名簿に,「タカラの焼肉たれ」等の記載をした広告が掲載されているが,その発行部数は明らかではなく,その内容自体から一般の需要者を対象としたものとは認められない。
乙30-1,2によれば,平成8年4月7日,NHK衛星放送で放送された番組「日本の旧家 醤油醸造に生きる三百年〜千葉県・高梨家」で,被告の創業家である高梨家が,取り上げられたことが認められるが,同番組中に被告主張の上記各商標が放映されたとは認められない上,その内容も創業家である高梨家を紹介することに主題があり,被告の商品を紹介するものではなく,しかも1回放送されたにすぎないから,格別の宣伝効果を認めることはできない。
乙31-1,2によれば,平成8年10月25日,テレビ朝日の番組「ニュースステーション」で,「全国食鳥新聞」が取り上げられ,同新聞に掲載された被告の広告を撮影した画像が放送されたことが認められるが,同番組は,被告自体を取り上げたものではなく,しかも1回放送されたにすぎないから,格別の宣伝効果を認めることはできない。
乙37-1〜5は,昭和41年1月1日付け,昭和43年1月8日付け,昭和49年1月3日付け,平成7年1月1日付け及び昭和37年1月13日付け「醸造報知」であり,「宝」「タカラしょうゆ」の文字を記載した被告の広告が掲載されているが,上記新聞の発行部数は明らかではなく,その内容自体から一般の需要者を対象としたものとは認められない。
乙39-1〜3,40-1,2によれば,被告は,食品産業新聞社発行の「食品産業新聞」及びその前身の「食糧業界新聞」に昭和34年ころから,日本酒新聞社発行の「日本酒新聞」に昭和50年から,いずれも継続的に広告を掲載したことが認められるが,上記各新聞の発行部数は明らかではなく,その内容自体から一般の需要者を対象としたものとは認められない。
なお,乙36は,平成13年9月協同乳業発行の「メイトー宅配倶楽部」(宅配サービスの商品カタログ)であって,被告のしょうゆも掲載されているが,本件商標の登録査定時より後のものである。
ウ 以上によれば,本件商標の登録出願時(昭和50年6月13日)前の事実として,被告は,被告主張の上記各商標を使用したしょうゆ,たれについて,「日刊食料新聞」に昭和49年から,多田食味研究所発行の「月刊食味評論」に昭和46年6月から,食糧業界新聞社発行の「全国味噌醤油名鑑(昭和三十四年版)」,「味噌醤油年鑑(昭和三十五年版)」「同(昭和三十七年版)」「同(昭和三十八年版)」「同(昭和41年度版)」「同(昭和44年度版)」「同(1970年度版)」「同(1971年度版)」,昭和32年5月10日付け「食糧業界新聞」,昭和41年1月1日付け,昭和43年1月8日付け,昭和49年1月3日付け,平成7年1月1日付け及び昭和37年1月13日付け「醸造報知」,食品産業新聞社発行の「食品産業新聞」及びその前身の「食糧業界新聞」に昭和34年ころから,広告を掲載したことが認められるが,これらの発行部数は明らかではない上,その内容自体から特定の業界に属する限られた範囲の者を対象としたものであって,一般の需要者を対象としたものとは認めらない。また,昭和25年ころ,「宝」「タカラしょうゆ」の文字を記載した看板を作成して,特約店に無償で配布して,掲示させたり,「?用丑の日」のポスターを配布したことがあるものの,その宣伝効果が大きいものとは認め難いことは上記のとおりである。これらの事情に照らすと,本件商標を含む,「宝」「寳」「TAKARA」「タカラ」の文字からなりあるいはこれを要部としてなる商標は,本件商標の登録出願時において,しょうゆの製造,販売等を業とする特定の限られた範囲の取引者,需要者の間においてのみ,被告の業務に係る商品(しょうゆ,たれ,つゆ等の塩味調味料,うまみ調味料)を表示するものとして認識されていたものと認めるのが相当である。また,上記認定の本件商標の登録出願後の事実によっては,その登録査定時までの間に,被告主張の上記各商標の周知性の程度に格別の変更があったいうことはできない。そして,本件商標の指定商品には,家庭で消費される調味料も含まれるから,その需要者には,主婦等の一般の消費者が含まれるものというべきである。
そうすると,審決の「被請求人(注,被告)の業務に係る商品は,需要者間に『宝』『寳』印の『醤油』として広く知られてきた」(12頁第5の第1段落)との認定は誤りというほかない。
(3) 商品の出所混同のおそれについて ア 本件商標は,別添審決謄本写し別記(1)のとおり,デザイン化された太字体をもって「タカラ」の文字を書してなるものであり,「タカラ」の称呼及び「『貴重な品物,大切な財物,宝物,財宝』等を意味する『宝』」(審決12頁第5の第4段落)の観念を生ずるものと認められる。他方,原告に係る引用各商標は,本件商標の登録出願時(昭和50年6月13日)及び登録査定時(平成11年6月7日)において,原告のみりんを表示するものとして,我が国の需要者の間に広く認識され著名であったことは前示のとおりであり,上記構成から,本件商標と同一の「タカラ」の称呼及び「宝」の観念が生ずることは明らかである。
また,本件商標の指定商品の需要者には,主婦等の一般の消費者が含まれることは上記のとおりであり,みりんの需要者も主婦等の一般の消費者が含まれることは当裁判所に顕著であるから,本件商標の指定商品の需要者と原告に係る引用各商標の需要者も共通である。
そして,証拠(甲6〜9,乙1,19-1,2)によれば,本件商標の指定商品であるめんつゆ類及び焼肉のたれは,しょうゆ製造業者のほか,桃屋,にんべん,永坂更科,ミツカン,エバラなど,様々の食品メーカーが製造,販売していることが認められるところ,一般需要者の多くは,そのことについて一応の認識を有しているとともに,個々の商品の出所について正確な知識を基に十分な吟味をすることなく短時間のうちに購入商品を決定する場合もまれではないことは,当裁判所に顕著である。
そうすると,本件商標をみりんと需要者を共通にするその指定商品に使用した場合,上記の取引の実情に照らすと,取引者,需要者において,本件商標と称呼及び観念を同一にする周知・著名な原告に係る引用各商標を想起して,その商品が原告と同一の営業主体の業務に係る商品,又はその親子会社や系列会社等の緊密な営業上の関係若しくは同一の表示による商品化事業を営むグループに属する関係にある営業主の業務に係る商品であると誤信され,その出所について混同を生ずるおそれがあるというべきであり(最高裁平成12年7月11日第三小法廷判決・民集54巻6号1848頁参照),このことは,本件商標の登録出願時においても,登録査定時においても異なるところはない。
イ 被告は,原告の酒類に特化した著名性からすれば,本件商標の指定商品の需要者は,原告が酒類以外のたれ,つゆ類を販売しているなどとは,通常,思いもよらないことである旨主張する。しかし,原告の製造に係る商品として著名なみりんは,「蒸したと とを焼酎またはアルコールに混和して醸造し, をしぼりとった酒。甘味があり,主に調味用」(広辞苑第5版)とあるように,酒類の一種ではあるが,家庭において調味料として一般に使用されるものであることは前示のとおりであるところ,本件商標の指定商品であるめんつゆ類及び焼肉のたれは,しょうゆメーカーのほか様々の食品メーカーも製造,販売していることは上記のとおりであり,また,証拠(甲14-1〜28)によれば,原告も,昭和50年以降,かつおぶし,のり,つゆ等,酒類以外の食品を販売していることが認められる。そして,このように,今日においては,企業の多角経営化の進展により,食品等についても,多くの業者がその専門分野に限らず,これを製造,販売する例が少なからず見受けられるところであって,一般需要者の多くも,そのことを認識していることは当裁判所に顕著である。したがって,被告の上記主張はその前提を欠き,採用することができない。
被告は,また,「宝」「タカラ」の文字を使用した商標は多数存在しており,このことは世間一般にも広く認識されているところであって,当該商標の付された商品に接する需要者も注意して識別しているのが取引の実情であるとも主張し,「宝」「タカラ」「寳」の文字を含む商標や商号を食品工業の企業が多数存在することは,乙41(平成12年2月29日光琳発行の「2000食品工業総合名鑑」)からもうかがい知られるが,そのことから直ちに,当該商標の付された商品に接する需要者が注意して識別しているのが取引の実情であるとか,ひいて本件商標をその指定商品に使用した場合,これに接する取引者,需要者において引用各商標との間に誤認混同を生ずるおそれがないとまで推認することは困難である。
ウ 以上によれば,「商標権者が本件商標を自己の業務に係る『醤油』を原材料に使用する指定商品に使用した場合,これに接する取引者,需要者は,該商品が被請求人(注,被告)の業務に係る商品であると認識,理解し,その商品が請求人(注,原告)又は請求人と関係のある者の業務に係るものであるかのように,その商品の出所について混同を生ずるおそれはない」との審決の判断は誤りといわざるを得ない。
2 以上のとおり,原告主張の取消事由は理由があり,この誤りが審決の結論に影響を及ぼすことは明らかであるから,審決は取消しを免れない。
よって,原告の請求は理由があるから認容することとし,主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 篠原勝美
裁判官 岡本岳
裁判官 宮坂昌利