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関連審決 無効2001-35143
関連ワード 識別力 /  包装 /  指定商品 /  普通名称(3条1項1号) /  周知商標 /  周知性 /  混同を生ずるおそれ(混同を生じるおそれ) /  4条1項10号 /  4条1項15号 /  品質誤認(4条1項16号) /  ただ乗り(フリーライド) /  希釈化(ダイリュージョン) /  類似性(類否判断) /  外観(外観類似) /  称呼(称呼類似) /  観念(観念類似) /  離隔的 /  取引の実情 /  類似範囲 /  使用許諾 /  継続 /  非類似 /  同業者 / 
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事件 平成 14年 (行ケ) 265号 審決取消請求事件
原告 日本パワーファスニング株式会社
訴訟代理人弁理士 石井暁夫
同 東野正
同 西博幸
被告 株式会社ミヤガワ
訴訟代理人弁理士 角田嘉宏
同 高石郷
同 古川安航
同 西谷俊男
同 幅慶司
同 内山泉
裁判所 東京高等裁判所
判決言渡日 2002/12/24
権利種別 商標権
訴訟類型 行政訴訟
主文 1 特許庁が無効2001−35143号事件について平成14年4月15日にした審決を取り消す。
2 訴訟費用は被告の負担とする。
事実及び理由
当事者の求めた裁判
1 原告 主文と同旨 2 被告 原告の請求を棄却する。
訴訟費用は,原告の負担とする。
当事者間に争いのない事実
1 特許庁における手続の経緯 被告は,「マルテックス」の片仮名文字を横書きして成り,商標法施行令1条関係別表第6類の「リベット,くぎ,ねじくぎ,ドリルネジ,ボルト,ナット,くさび,その他の金属製金具,金属製締付け金具」を指定商品とする,登録第3269009商標(平成6年3月8日登録出願(以下「本件出願」という。),平成9年3月12日設定登録。以下「本件商標」という。)の商標権者である。
原告は,平成13年4月1日,本件商標の登録をすべての指定商品に関して無効とすることについて審判を請求した。
特許庁は,これを無効2001-35143号事件として審理し,その結果,平成14年4月15日に,「本件審判の請求は,成り立たない。」との審決をし,同月25日にその謄本を原告に送達した。
2 引用商標 原告が本件商標の登録を無効とする主張において根拠として引用する商標は,次の(1),(2)のとおりである(以下,(1),(2)の商標を合わせて「引用商標」ということがある。)。商標権者は,いずれも,米国法人であるイリノイ・トウール・ワークス・インコーポレーテッド(以下「ITW社」という。)である。
(1) 「TEKS」の欧文字を横書きして成り,平成3年政令299号による改正前の商標法施行令1条関係別表(以下「旧別表」という。)第13類の「自動穿孔ネジ切りネジ,その他本類に属する商品」を指定商品とする,登録第673458号商標(昭和39年1月14日登録出願,昭和40年4月14日設定登録。) (2) 「テクス」の片仮名文字を横書きして成り,旧別表第13類の「自動穿孔ネジ切りネジ,その他の金具,その他本類に属する商品(但し,手動利器を除く)」を指定商品とする,登録第1987736号商標(昭和59年11月29日登録出願,昭和62年9月21日設定登録。) 3 審決の理由 別紙審決書の写しのとおりである。要するに,@本件商標は,外観,称呼及び観念のいずれからみても引用商標と相紛れるおそれのない,これとは非類似の商標であるから,商標法4条1項10号,11号に該当しない,A本件商標と引用商標は,外観,称呼及び観念のいずれからみても十分に区別し得る商標であり,本件商標をその指定商品に使用しても,請求人若しくは請求人と何らかの関係のある者の業務に係る商品であるかのごとく,商品の出所について混同を生ずるおそれのないものであるから,商標法4条1項15号に該当しない,B本件商標は,その指定商品について使用された場合,商品の品質について誤認を生ずるおそれがあるということはできないから,商標法4条1項16号に該当しない,として,請求人(原告)主張の無効理由をすべて排斥するものである。
原告主張の審決取消事由の要点
審決の理由中,「第1 本件商標」,「第2 請求人の引用商標」,「第3 請求人の主張」,「第4 被請求人の主張」は認め,「第5 当審の判断」は争う。
審決は,本件商標と引用商標との類否判断を誤ることにより,商標法4条1項10号,11号該当性の判断を誤り(取消事由1),商標法4条1項15号該当性の判断を誤り(取消事由2),商標法4条1項16号該当性の判断を誤った(取消事由3)ものであって,これらの誤りがそれぞれすべての指定商品につき結論に影響を及ぼすことは明らかであるから,すべての指定商品につき違法として取り消されるべきである。
1 取消事由1(商標法4条1項10号,11号該当性の判断の誤り) (1) 審決は,@本件商標は,特別冗長なものでなく,一連に称呼し得るものであるから,その構成文字全体として「マルテックス」の称呼のみを生じるのに対し,引用商標は,「テクス」の称呼を生じ,両称呼は,構成音に明らかな差異があると認められ,十分に聴別できる,A本件商標と引用商標とは,外観において明らかに相違し,観念においては,両商標は,格別の観念の生じない造語であると認められるから,比較すべくもない,との理由により,本件商標は,外観,称呼及び観念のいずれよりしても引用商標と紛れるおそれのない,これとは非類似の商標である,と判断し,この判断を前提に本件商標の商標法4条1項10号,11号該当性を否定した(審決書20頁7行〜37行,21頁1行〜13行)。
(2) 商品に係る商標の類否は,商品の出所につき混同を生ずるおそれがあるか否かによって決すべきであり,その判断に当たっては,一般的にみた場合の外観,称呼及び観念の3要素の類否のみならず,その商品の取引の実情を明らかにし得る限り,その具体的な取引の実情に基づいて判断するのが相当である(最判昭和43年2月27日民集22巻2号399頁,最判平成4年9月22日裁判集民事165号407頁・判例時報1437号139頁,最判平成9年3月11日民集51巻3号1055頁参照。)。一般的にみれば外観,称呼及び観念のうちのいずれかにおいて相紛らわしいと判断される場合であっても,具体的な取引の実情を考慮すると類似とはいえない場合もあり,逆に,一般的には外観,称呼及び観念のいずれにおいても近似性はないと判断される場合であっても,具体的な取引の実情を考慮すると,類似するとされる場合もある。
(3) 原告は,本件商標につき,「マル」と「テックス」とが分離して称呼されると主張しているのではない。しかし,たとい「マルテックス」と一連に称呼されたとしても,@引用商標は,本件商標の出願前から現在に至るまで,原告又はITW社の商品であるドリルねじを表示するものとして業界で周知又は著名であり,需要者の意識の中に深く浸透していること,Aねじ業界において「テックス」は「TEKS」,「テクス」と実質的に同一の商標として認識されていること,B「テックス」と「TEKS」,「テクス」との上記実質的同一性のゆえに,本件商標の語頭における「マル」は,ドリルねじの素材としての「マルテンサイト系ステンレス」,又は「良くできました」という意味のマル,あるいは形状の一つとしての「丸い」を直感させるもので,形容詞的・誇称表示的な意味しか持たないこと,という取引の実情を考慮すると,需要者は本件商標から「TEKS」,「テクス」を連想してそのイメージを把握するから,本件商標は,引用商標に類似し,商標法4条1項10号(ITW社のライセンシー(使用を許諾された者)である原告を表示するものとして周知,著名な商標と類似)又は11号(ITW社の登録商標に類似)に該当すると主張しているのである。周知性が高くなればなるほど商標に対する需要者の認識力・注意力は高くなるため,一部変更されたり,他の文字が結合したりしても,ある程度の共通性があると,需要者は,共通した部分から周知商標を連想したり周知商標のイメージを敏感に看取したりして,共通の商品提供者が使用している商標としてとらえる傾向が高くなる。周知性が高くなるほど商標の類似範囲は広がるのである。
審決の判断は,本件商標が使用される商品であるドリルねじに関する上記取引の実情を何ら考慮することなく,商標の類否を判断した点において,誤っている。原告は,本件商標と引用商標との間に相違がないと主張しているのではなく,相違があることを認めた上で,相違は類否判断において実質的な意味がないと主張しているのである。審決は,原告の主張に対する判断を怠っている。
(4) 被告は,引用商標はドリルねじを指し示す普通名称である,と主張し,その主張の根拠として,我が国において,原告以外の会社が引用商標を使用していたことを挙げる。我が国において,原告以外の会社が引用商標を使用していたことは,事実である。しかしながら,この事実は,被告の上記主張の根拠となるものではない。
引用商標を使用する他社は,すべて,ITW社がドリルねじについて有する特許権,商標権について原告からサブライセンス(再使用許諾)を受けている(株式会社丸エム製作所,株式会社トープラ,東洋プラススクリューについての甲第18号証の1ないし3参照)。
「スーパーテクス」の表示を使用する日本金属ファスナー株式会社は,「スーパーテクス」の名称のドリルねじについて,原告が発売元,同社が製造元の関係にあり(甲第18号証の4),原告の承諾の下に上記名称のドリルねじを製造していたにすぎない。
株式会社丸エム製作所及び日東精工株式会社による引用商標の使用は,原告のサブライセンス(再使用許諾)に基づくものである。このことは,株式会社丸エム製作所のカタログ(甲第18号証の5)や日東精工株式会社のカタログ(甲第18号証の6)には,そこに表示された引用商標について,商標登録表示(Rの付記)がなされていることからも,明らかである。
このように,原告以外の者による引用商標の使用は,識別性を喪失・希釈しないように原告の適切な管理の下に行われていたものであるから,その使用をもって引用商標が普通名称化したことの根拠とすることはできないのである。
2 取消事由2(商標法4条1項15号該当性の判断の誤り) (1) 審決は,引用商標の周知性は認めつつも,引用商標と本件商標との非類似性を根拠に,本件商標の商標法4条1項15号該当性を否定した(審決書21頁1行〜13行)。
(2) しかしながら,商標法4条1項15号における出所混同は,商標同士は同一又は類似の関係にあるものの,商品・役務同士は同一でも類似でもないという関係にある場合だけに認められるというのではなく,商品・役務は同一又は類似であるものの,商標同士自体を比較すれば両者は非類似である,という場合にも認められ得るのである。すなわち,問題とされている商標を他者の商標と対比したとき,商標自体同士の比較としてみれば,外観,称呼,観念において類似せず,全体として非類似とされても,当該商標がその構成として周知,著名な他社の引用商標を連想させる要素を含んでいる場合は,出所混同を惹起する商標に該当するのである(最判平成13年7月6日判例タイムズ1071号148頁参照。)。
本件においては,ドリルねじについての「TEKS」,「テクス」の周知性・著名性,「TEKS」,「テクス」と「テックス」との実質的同一性のため,取引者・需要者は,本件商標から「テックス」を分離して認識するとともに,「TEKS」,「テクス」を連想して,これを使用した商品について,原告又はITWグループと何らかの関係があるように認識するのである。
審決は,本件商標の構成の実体を把握せず,本件商標と引用商標が類似することのない区別できる商標であるから出所混同は生じないとして,そのことだけを根拠に,商標法4条1項15号該当性を否定した。このような判断は,特許庁が同号該当性についての判断義務を放棄しているのではないかとの疑いさえも生じさせる,誤ったものというべきである。
(3) 商標法4条1項15号フリーライド防止やダイリュージョン防止という趣旨を含んでいて商標制度の中枢をなす規定であることにかんがみると,出願人の意図も,取引の実情の一要素として同号該当性の判断要素に入れて,斟酌することができるものというべきである。
ドリルねじの業界において,被告を除く各社は,すべて,引用商標とは全く相違する商標を採択しており,被告だけが,「TEKS」,「テクス」を連想させる商標である本件商標を採択している。ねじの業界において,「テックス」,「tex」は普通に採択される名称ではないから,わざわざ「テックス」を含む商標を採択した被告の行為は不自然である。このような業界の実情に照らすと,被告による本件商標の採択行為は,「TEKS」,「テクス」の名声にあやかりたい,との意図の下に,被告自身が,本件商標の使用によって原告及びIWTグループとの間に出所混同を生じ得るであろうことを認識,期待してしたものである,ということができる。
審決は,このような事情を考慮せず,単に,本件商標と引用商標とが類似しないとの理由のみで,本件商標の商標法4条1項15号該当性を否定したものであり,結論に影響を及ぼす事項を斟酌しなかった誤りがある。
3 取消事由3(商標法4条1項16号該当性の判断の誤り) ドリルねじについての引用商標の上記周知性・著名性を考慮すると,引用商標又はこれに類似する商標をドリルねじ以外のねじ類に使用すると,別種商品であるにもかかわらず,ドリルねじと誤認するおそれがある。本件商標は引用商標に類似するものであるから,本件商標をドリルねじ以外のねじ類に使用すると,これに接する取引者・需要者は,あたかもそのねじ類がドリルねじであるかのように誤認するに至る。
本件商標は,「マルテンサイト系ステンレス製のドリルねじ」との意味合いも備えているので,マルテンサイト系ステンレス製以外の素材,例えばオーステナイト系ステンレス製ドリルねじや鋼製ドリルねじに使用した場合にも,品質の誤認を生ずる。
以上のとおり,本件商標は商標法4条1項16号に該当する。これを否定した審決は誤りである。
被告の反論の要点
審決の認定判断は,いずれも正当であって,審決を取り消すべき理由はない。
1 取消事由1(商標法4条1項10号,11号該当性の判断の誤り)について (1) 本件商標は,被告が創作した造語商標であり,格別の観念を生ずるものではない。これから生じる「マルテックス」の称呼は,格別冗長なものとはいえず,一息で滑らかに発音し得るものであるから,本件商標からは,「マルテックス」の称呼のみが生じる。本件商標は,これらのことと外観とがあいまって,常に一連一体の商標であると把握されることになる。このように,本件商標から「テックス」が分離抽出されて把握されることがない以上,本件商標と「TEKS」又は「テクス」と比較することはできない。本件商標と引用商標とは類似しない。
(2) 本件出願当時,既に,引用商標を構成する「TEKS」,「テクス」の語は,業界において,「ドリルねじ」という種類の商品自体を指し示す語として使用される普通名称となり,いわば,「ドリルねじ」の代名詞となっていた。我が国の業界において何人(なにびと,なんびと)かの業務に係る商品を表示するものと広く認識されていた,ということはない。
原告の提出する証拠(甲第9号証の1ないし3,第10号証の1,2,4,9ないし11,13,第11号証の1ないし3)によれば,原告と競合する同業他社が各々の業務に係る商品を表示する語として引用商標を使用していること,不特定多数の事業者(ドリルねじのユーザーである屋根取付け等の施工業者及びドリルねじを取り付けるための電動ドライバーのメーカー)がドリルねじを指し示す語として引用商標を使用していることが認められる。原告は,引用商標の自他商品識別力を維持するための努力を怠り,引用商標が「ドリルねじ」を指し示す語として使用されている状態,「テクス止め」等の商品の用途を表示する語として使用されている状態,ドリルメーカーがその商品名に「テクスドライバー」を使用している状態を放置したといわざるを得ない。原告自身も,引用商標が「ドリルねじ」の代名詞であることを繰り返し主張している。
このように,商標権者の同業者を始めとする不特定多数の事業者等が,ある商標を特定の種類の商品を指し示す語として永年使用し,商標権者がその使用を放任した場合には,その商標は普通名称となる。引用商標は,「ドリルねじ」の代名詞として使用され続けた結果,自他商品識別標識としての機能を喪失して「ドリルねじ」を表示する普通名称となったものであり,引用商標に接する取引者・需要者等は,引用商標から「ドリルねじ」を想起,認識するにすぎない。
商品「ドリルねじ」又はこれと類似する商品を権利範囲に含む「○○○テックス」又は「○○○TEX」の構成から成る商標は多数登録されている。また,「テックス」を含む商標は,第三者によって,商品「ドリルねじ」又はこれと類似する商品について採択されている(乙第1号証)。「○○テックス」という名称の企業,団体等が我が国には多数存在する(乙第2号証)。引用商標が我が国で周知著名と認められているため,第三者は引用商標を想起させるような商標を採択していない,との原告の主張には根拠がない。
(3) 取引者・需要者が,「TEKS」及び「テクス」と,「テックス」とを同一視しているということはない。数件のカタログに「ドリルねじ」を指し示す語として「テックス」と表示しているのは,単なる誤りである。わずか数件のカタログに「テクス」と表示すべきところが誤って「テックス」と表示されているからといって,そのことから両者の表示が実質的に同一であると解することはできない。
商品「ドリルねじ」が取り扱われる業界において,「マル」がマルテンサイト系ステンレス」の略称として使用されることはなく,我が国で発行されている工業用語辞典のほか,一般のどのような国語辞典にも,「マル」が「マルテンサイト系ステンレス」を指し示す語であるとは記載されていない。
上記のとおり本件商標が一連一体の態様をなすものである以上,本件商標中の「マル」が品質や形状等を表示したものであると認識されることもあり得ない。
本件商標から「テックス」を分離抽出するための原告の主張は,商標の構成からの要部の抽出及び商標の類否に関する通常の判断基準を無視するものである。
(4) 被告商品の包装用箱に表示された本件商標の使用態様(「Marutex」,「マルテックス」,乙第3号証の写真1)と原告商品の包装用箱に表示された引用商標の使用態様(「テクス」,同号証の写真2)とを対比してみると,これらに接した取引者・需要者において両者を取り違えるおそれはないことが,明らかである。このような取引の実情を考慮するならば,取引者・需要者が被告商品と原告商品とを混同するおそれがないことは明らかである。
(5) このように,本件商標は,引用商標に類似しないことが明らかであるから,商標法4条1項10号,11号該当性を否定した審決の判断に誤りはない。
2 取消事由2(商標法4条1項15号該当性の判断の誤り)について (1) 引用商標は,我が国で周知・著名な商標ということはできず,引用商標を構成する語が商品「ドリルねじ」を指し示す普通名称であることは,1で述べたとおりである。本件商標の利用に係る商品が他人の業務に係る商品との間で誤認混同されるおそれはない。
(2) 原告は,被告による本件商標の採択・使用は,引用商標の名声にあやかろうとする意図の下になされたものである,と主張する。しかし,本件商標は直接的にも間接的にも引用商標を想起させるものではない。原告の主張は,失当である。
(3) 審決は,原告及び被告の主張及び証拠を参酌し,本件商標と引用商標との間に誤認混同を生じる事由を認めることはできないと判断しているのであり,実態に踏み入ることなく商標の類否のみに基づいて商標法4条1項15号該当性について判断したのではない。
3 取消事由3(商標法4条1項16号該当性の判断の誤り)について 本件商標は,上記のとおり,引用商標と非類似の商標であり,引用商標を直接的にも間接的にも想起させるものではないから,ドリルねじ以外の指定商品について使用しても,商品の品質について誤認を生じさせるおそれはないので,商標法4条1項16号に該当しない。本件商標の同号該当性を否定した審決の判断に誤りはない。
当裁判所の判断
1 引用商標の周知性等について 証拠(甲第3,第4号証,第5号証の1ないし17,第6号証の1ないし16,第7号証の1ないし3,第8号証の1ないし8,第9号証の1ないし3,第12号証の1,2)及び弁論の全趣旨によれば,引用商標について,次の事実が認められる。
(1) 引用商標の商標権者であるITW社は,昭和38年(1963年)に,ねじの軸の先端部を切削加工しドリル部として形成することにより,鋼板などの硬い材料からなるワーク(相手材)であっても,ワークに下穴を空けてからタップ(工作品に雌ねじを切る工具。ねじタップ)によって下穴に雌ねじを切るという手間をかけることなく,上記ドリル部で直接下穴を穿孔することによって直接にねじをねじ込むことができるドリルねじを開発し,我が国を始めとする世界各国で特許権を取得し,引用商標の一つである「TEKS」の商標(我が国では,昭和39年に出願し,昭和40年に設定登録を受けた。)を使用して世界で販売を開始した。
(2) 原告は,昭和39年(1964年)に,ITW社,日本発条株式会社及び新和工業株式会社の三社の出資に係る合弁会社として設立された,ねじ類を始めとする工業用ファスナーの製造,販売を主要事業とする,株式会社である。原告の名称は,設立当初は日本シェークプルーフ株式会社であり,昭和54年にニスコ株式会社に,平成4年10月に現在の日本パワーファスニング株式会社に,順次変更された。
原告は,昭和41年(1966年)に,ITW社から,同社の開発した上記ドリルねじ「TEKS」の製造技術を導入し,引用商標についても使用権の設定を受け,我が国において,「TEKS」の製造販売を開始した。
ドリルねじは,もともと我が国になかった製品であり,上記特許権の存在などにより,我が国においては,原告がほとんど独占的にドリルねじの製造・販売をする状態が昭和50年代半ばころまで,継続した。
ITW社は,昭和62年に,我が国において,引用商標の一つである「テクス」の商標(昭和59年出願)の設定登録を受けた。
(3) 原告は,本件商標の出願日である平成8年5月23日よりも前の,遅くとも昭和54年ころから,本件商標の登録査定日(登録日である平成9年10月17日より少し前の日)を経て,現在に至るまで,継続して,@引用商標(「TEKS」,「テクス」)を表示した原告製品であるドリルねじについてのカタログ類を,全国の支店・営業所・販売店を通じて,あるいは,建築金物展示会や工具類展示会などの各種の展示会において,取引者・需要者に配布し,A各種業界紙類や便覧等に引用商標を表示して,原告製品であるドリルねじの広告を行ってきている。
上に認定した事実によれば,引用商標は,本件商標の出願時においても,登録査定時においても,我が国において,ドリルねじについて特定の出所を表示するものとして取引者・需要者の間で広く知られていたということができる。
2 取消事由1(商標法4条1項10号,11号該当性の判断の誤り)について (1) 審決は,「本件商標は特定の観念を生じ得ない一連の造語であるというのが相当であるから,これより生ずる称呼は「マルテックス」のみであるというべきである。」(審決書20頁18行〜20行)との判断を前提に,本件商標と引用商標とは類似しないと判断した。
「テクス」の語と「テックス」の語とは,文字に着目するときは,3文字と4文字という短い語同士の関係にあることなどから,「ッ」の有無により相当に異なっているようにもみえる。しかし,音の面からみれば,両者は,促音の「ッ」の音において相違するのみで,全体の語感や語調が極めてよく似ており,実際に発音した場合にほとんど区別できないことも多いと考えられる(現に,証拠(甲第10号証の1ないし12)によれば,ドリルねじの取引者・需要者が作成したパンフレットには,そこに記載したドリルねじのことを「テクス」と表示したものもあれば,「テックス」と表示したものもあることが認められ,現実に,取引者・需要者において,ドリルネジにつき,「テクス」と「テックス」とが区別しないで用いられている例がみられる。)。このことを本件商標に即して言い換えれば,本件商標からは,「マルテックス」の称呼のみならず,「マルテクス」との称呼も生じるということになる。
このような「テクス」と「テックス」との実質的同一性を前提に,上記で認定したように,引用商標である「TEKS」,「テクス」が特定の出所の表示として周知性を有していることを考慮すると,本件商標の指定商品に含まれるドリルねじに使用された「マルテックス」の表示に接した取引者・需要者の中には,同表示に含まれる「テックス」の部分に注目し,これが引用商標と同一であるものとして把握する者も少なくないものというべきである。
審決は,本件商標を構成する各文字は,同じ書体,同じ大きさ,同じ間隔で全体としてまとまりよく構成されており,これにより生ずる「マルテックス」の称呼は格別冗長というべきものでなく,よどみなく一連に称呼し得るものであることを,本件商標が「マルテックス」の称呼のみを生ずると解すべき根拠として挙げる(審決書20頁7行〜10行)。
しかしながら,「マルテックス」の語は,造語であって,それ自体意味を有する言葉として定着しているものではなく,さらに,「マルテックス」という語自体に,視覚上,聴覚上,一体のものとしてしか把握され得ない,という性質を認めることができないことも明らかであるから,本件商標に接した者が,一体のものとして理解しそのように称呼することなく,途中で区切られたものとして理解しそのように称呼する,という可能性を否定することはできないはずである。このような可能性が現実のものとなるか否かは,接した者が既に有している条件によって決まることというべきである。格別なことがなければ,「マルテックス」程度の長さの言葉であれば一体のものとして把握し,「マルテックス」と称呼するであろう。
しかし,その者が,何らかの理由により,途中で区切って把握すべき条件を与えられている場合には,区切って把握し,把握したところに従って称呼することになるであろう。そして,引用商標「TEKS」,「テクス」が特定の出所として周知であることは前述のとおりであるから,「マルテックス」に接する者の中には,「TEKS」,「テクス」を既存の概念として,これを前提に接する者も少なくないはずである。また,本件商標中の「テックス」は,引用商標と実質的に同一である,あるいは極めて類似したものであるというべきものであることは,前述のとおりであるから,このような者にとって,「マルテックス」に接したとき,まず「テックス」に注意が向くことはごく自然なことであり,このような者が,「テックス」とその前の「マル」とを区切って把握することは,十分にあり得ることというべきである。このことは,本件商標中の「マル」が原告の主張するように「マルテンサイト系ステンレス」又は「良くできた」又は「丸い」という意味を持つものとして把握されるか否か,ということとは関係なくいえることである。
以上で述べたところによれば,本件商標と引用商標との間には,少なくとも称呼において類似しているとみるべき余地があるというべきである。
審決が,引用商標の周知性を十分考慮しないまま,本件商標と引用商標とが類似せず,本件商標は商標法4条1項10号,11号に該当しない,との判断に至ったものであることは,その説示自体で明らかである。考慮すべきことを考慮しないままに判断をした審決のこの誤りが,結論に影響を及ぼすことは明らかである。
(2) 被告は,引用商標は,単に「ドリルねじ」という商品を指し示す語として使用されており,業界において何人かの業務に係る商品を表示するものとして我が国で広く認識されているということのできない,自他識別力のない普通名称である,と主張する。
証拠(甲第9号証の1ないし3,第10号証の1ないし18,第11号証の1ないし3)によれば,業界関係の雑誌において,原告以外のドリルねじの製造業者である株式会社丸エム製作所,株式会社トープラがその製造するドリルねじを表示する語として「テクス」を用いていること,日本金属ファスナー株式会社,日東精工株式会社,株式会社丸十商店はその製造するドリルねじを表示する語として「スーパーテクス」又は「Super Teks」を用いていると記載されていること,ドリルねじのユーザーである不特定多数の事業者(屋根取付け等の施工業者やドリルねじを取り付けるための電動ドライバーのメーカー)が,パンフレットに,原告名を表示することなく,ドリルねじを指し示す語として「テクス」,「Teks」,「テックス」の語を使用していることが認められる。
しかしながら,株式会社丸エム製作所,株式会社トープラは,ITW社がドリルねじについて有する特許権,商標権などについて,実施権者である原告からサブライセンス(再実施許諾)を受けているものであること(甲第18号証の1,2)日本金属ファスナー株式会社は,株式会社ニフコ,日東精工株式会社及びITW社の3社の合弁会社であり,「スーパーテクス」の名称のドリルねじについて,原告が発売元,日本金属ファスナー株式会社が製造元の関係にあるものとして,これを製造していたものであること(甲第9号証の1,第18号証の4),株式会社丸エム製作所のカタログや日東精工株式会社のカタログ,株式会社丸十商店の広告においては,そこに表示された引用商標について,いずれも商標登録表示(Rの付記)がなされていること(甲第9号証の2,第18号証の5,6)からすれば,上記各会社による引用商標の使用は,いずれも,原告の許諾の下になされているものということができる。上記引用商標の使用の事実は,「TEKS」又は「テクス」が普通名称となっていることの根拠とはならないというべきである。
ドリルねじのユーザー(使用者)である施工業者や,ドリルねじを取り付けるための電動ドライバーのメーカー(製造業者)によるパンフレット中の「テクス」等の語の上記使用が,すべて,原告とは無関係に,ドリルねじを表す普通名詞として使用されているものであると認めるに足りる証拠はない。前記のとおり,我が国において,「テクス」ないし「TEKS」がドリルねじの分野で独占状態を続けた結果,ユーザーの中には,引用商標をドリルねじ自体を表す語であるととらえ,特定の出所と関係付けて認識しない者もいるであろうこと,上記パンフレットの記載中には,そのような意味のものとして「テクス」等の語を用いているものもあること,は容易に推認することができるものの,上記の程度の使用の事実があるのみでは,我が国において,引用商標がドリルねじを表す普通名称となったことを認めるに足りない,というべきである。
被告は,被告商品の包装箱に表示された本件商標の使用態様(「Marutex」,「マルテックス」),原告商品の包装箱に表示された引用商標の使用態様(「テクス」)とを比較するならば,これに接する取引者・需要者が両商標を取り違えるおそれはなく混同のおそれはないから,両商標には類似性がない,と主張する。しかしながら,本件商標及び引用商標の使用態様が,現実の商品に用いられている包装箱への表示態様のみに限定されるものではないことは明らかであるから,被告の主張はそれ自体失当である。また,現実の包装箱への表示態様を前提としても,両商標を並べて比較した場合には混同を生じなくとも,離隔的に観察した場合には,被告商品の包装箱に表示された商標に接した需要者が「tex」,「テックス」の部分に注目して,これを「テックス」又は「テクス」と称呼し,引用商標を連想してこれと混同することがあり得ることは,上記説示したところから明らかである。
被告の主張は,その他のものも含め,いずれも,採用することができないことが明らかである。
3 取消事由2(商標法4条1項15号該当性の判断の誤り)について 本件商標と引用商標との間に類似性が認められないとしても,その場合にも,前記のとおり引用商標がドリルねじについて特定の出所を表示するものとして周知であること,本件商標中の「テックス」と引用商標とは,実質的に同一であるか極めて類似していると認められること等を考慮すると,本件商標は,これに接した取引者・需要者に対し引用商標を連想させて,引用商標を使用してきた特定の者又はその者と組織的・経済的に何らかの関係がある者の業務に係る商品であるかのように,その出所について混同を生ずるおそれがあるというべきであるから,商標法4条1項15号に該当する。
本件商標と引用商標との間に誤認混同を生じる事由は認められないとして,本件商標の同号該当性を否定した審決の判断は誤りというべきである。
結論
そうすると,その余の原告主張について検討するまでもなく,原告の本訴請求は,理由があることが明らかであるので,これを認容することとし,訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法7条,民事訴訟法61条を適用して,主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 山下和明
裁判官 阿部正幸
裁判官 高瀬順久