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審判番号(事件番号) データベース 権利
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事件 平成 13年 (ワ) 9153号 商標権侵害差止請求事件
原告 昭和貿易株式会社
訴訟代理人弁護士 川村和久
訴訟復代理人弁護士 内藤裕史
被告 福友産業株式会社
訴訟代理人弁護士 對崎俊一
裁判所 大阪地方裁判所
判決言渡日 2002/12/12
権利種別 商標権
訴訟類型 民事訴訟
主文 原告の請求をいずれも棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
請求
1 被告は、別紙標章目録1ないし3記載の標章を表示したぶどう出荷用包装資材を製造し、販売してはならない。
2 被告は、その所有するぶどう出荷用包装資材から前項記載の標章を抹消せよ。
事案の概要
1 本件は、後記の商標権を有する株式会社日本巨峰会から専用使用権の設定を受け、その登録を受けた原告が、被告による別紙標章目録1ないし3記載の標章を表示したぶどう出荷用包装資材の製造販売が専用使用権を侵害するとして、商標法36条1項、2項、37条6号又は7号に基づいて、これらの標章を表示したぶどう出荷用包装資材の製造販売の差止め、被告の所有するぶどう出荷用包装資材からのこれらの標章の抹消を求め、これに対し、被告が、登録商標の「巨峰」の語は、
ぶどうの一品種を表す普通名称であるなどと主張して争った事案である。
2 基礎となる事実 (1) 当事者 原告は、貿易業、内地商事、包装資材の販売等を業とする資本金1億円の株式会社であり、被告は、紙の加工、紙及び紙加工品の販売等を業とする資本金4000万円の株式会社である。(当事者間に争いがない。) (2) 商標権等 株式会社日本巨峰会は、次の商標権(以下「本件商標権」といい、その登録商標を「本件登録商標」という。)を有し、原告は、次の専用使用権(以下「本件専用使用権」という。)を有している。(当事者間に争いがない。内容の詳細につき甲第1号証) 商標権 登録番号 第472182号 出願年月日 昭和29年11月6日 出願番号 昭29-26924 出願公告年月日 昭和30年6月27日 出願公告番号 昭30-9387 登録年月日 昭和30年10月27日 商品の区分 旧商標法施行規則(大正10年農商務省令第36号)第15条に定める商品類別による第47類 指定商品 葡萄、その種子、乾葡萄 登録商標 別紙登録商標目録1記載のとおり 専用使用権 範囲 期間 商標権の存続期間満了まで(平成17年10月27日まで) 内容 全部 登録年月日 平成9年10月6日 (3) 被告標章の使用 被告は、別紙標章目録1ないし3記載の標章(以下、別紙標章目録1記載の標章を「被告標章1」、別紙標章目録2記載の標章を「被告標章2」、別紙標章目録3記載の標章を「被告標章3」といい、これらをまとめて「被告標章」という。)を表示したぶどう出荷用包装資材を製造販売している。(当事者間に争いがない。) (4) 事実経過 ア 開発経緯 民間のぶどう研究家であったAは、静岡に理農学研究所を設立し、独自の「栄養周期理論」に基づきぶどうの品種改良の研究を行っていたが、昭和17年、四倍体のぶどうの品種である石原早生とセンテニアルを交配し、果粒が大きく糖度が高い新品種(以下「本件品種」という。)を得た(当事者間に争いがない。)。しかし、当時は戦争中であり、ぶどうの栽培技術の開発は困難であった(甲第10、第11号証)。
Aの「栄養周期理論」の支持者は、昭和21年ごろから、本件品種の研究を開始し、その生理障害(花振い、単為結果、成熟不良、裂果、脱粒、ネムリ病、枝枯れ、凍霜害など)の改良に努力した。Aは、昭和27年3月、栄養価が高く、高品位、低コストな食品の生産などを目指す日本理農協会を設立したが、同年9月23日、死去した。(甲第10、第11号証) その後、Bは、昭和28年6月1日付けで、本件品種につき、「巨峰」の名称で農産種苗法に基づく種苗名称登録の出願をしたが、昭和32年3月6日付けで、農林省振興局長から、登録をしない旨の通知を受けた(当事者間に争いがない。)。同通知には、登録されなかった理由として、大粒種で果実の品質はよいが花振いのひどいことが多く、かつ、果粒の着色不揃、脱粒し易く輸送力や店持ちが悪い等の欠点があることが記載されていた(乙第9号証)。
イ 本件登録商標の登録等の経緯 本件登録商標は、昭和29年11月6日、出願人をB及びCとして商標登録出願され、昭和30年10月27日、商標登録された。昭和31年2月、日本理農協会の関係団体として、「栄養周期理論」に基づき本件品種の栽培の指導、普及などを行う日本巨峰会が設立された(日本巨峰会は、その後有限会社となった。)。B及びCは、昭和42年9月20日、本件商標権を有限会社日本巨峰会に譲渡し、昭和43年2月7日、有限会社日本巨峰会(昭和55年5月7日、株式会社日本巨峰会に組織変更した。以下、組織変更の前後を通じ、「日本巨峰会」という。)を商標権者とする登録がされた。日本巨峰会は、日本理農協会を事実上主宰していった。(甲第1号証、第10、第11号証、第47号証、第50号証の2、
弁論の全趣旨) 本件品種は、日本理農協会の会員などによって改良が重ねられ、その生理障害を防ぐ栽培技術も進歩し、昭和40年ごろから、高級ぶどうとして生産量が増え、いくつかの「巨峰」群品種(ピオーネ、オリンピア、紅富士、紅十和田など)も作られた。(甲第10、第11号証、弁論の全趣旨) 原告は、前記(2)のとおり、平成9年8月6日、日本巨峰会から本件専用使用権の設定を受け、同年10月6日、本件専用使用権の設定登録がされた。
連合商標の登録の経緯 日本巨峰会は、昭和50年10月17日、本件登録商標及び商標登録第782084号の連合商標として、商品の区分を、平成3年政令第299号による改正前の商標法施行令第1条別表に定める商品区分第32類とし、指定商品を、
「加工食料品その他本類に属する商品(但し葡萄、その種子、乾葡萄を除く)」として、「巨峰」の文字を横書きにした商標の登録を出願した。特許庁審査官は、昭和53年7月25日付けで、拒絶理由通知を行った。その理由は、「本願商標は葡萄の一品種名の『巨峰』の文字を書してなるため、これを指定商品中の果実、加工果実について使用するときは、恰かも該商品が巨峰葡萄もしくは巨峰葡萄の加工食料品であるかの如く、商品の品質について誤認を生ずるおそれのあるものと認める。したがって、この商標登録出願に係る商標は、商標法第4条第1項16号の規定に該当する。」というものであった。日本巨峰会は、指定商品を、「加工食料品、その他本類に属する商品(但し、果実、加工果実を除く)」と補正した。そうすることにより、昭和55年8月28日、商標登録第782084号の連合商標として、登録番号を第1431104号とする商標登録がされた。(乙第10号証の1ないし3、弁論の全趣旨) エ 日本巨峰会と被告の関係 (ア) 被告は、昭和38年11月14日設立され、設立当初から、本件品種のぶどうの出荷用の包装資材を製造し、これを日本理農協会の会員であるぶどうの生産者に販売していた。被告と日本巨峰会は、昭和42年10月ごろ、被告が、
本件登録商標の使用料を日本理農協会の会員から徴収する業務を受託する旨の契約を締結した。(被告設立の日付、契約時期は、弁論の全趣旨により認められ、その余の事実は、当事者間に争いがない。) (イ) 日本巨峰会は、昭和46年2月1日、株式会社服部紙店及び被告との間で、本件商標権の行使について、次のような約定の契約(以下「昭和46年契約」という。)を締結した(「甲」は、日本巨峰会を指し、「乙」は、株式会社服部紙店及び被告を指す。)。(甲第42号証) 「第1条 甲は甲が所有する登録商標第472182号(指定商品第32類、葡萄、その種子、乾葡萄)の使用を第三者に許諾した場合、商標法第37条第2号に基くところの巨峰容器の製造販売の権限については、乙のみに許諾する。
第2条 乙は甲が第三者に登録商標第472182号の使用を許諾した場合、甲の代理人として商標使用料を徴収し、昭和46年10月10日より同年12月30日までに甲へ納入する。
第3条 前条に基く商標権使用料は容器1kgにつき金3円とし乙が販売する巨峰容器の代金に加算して徴収するものとする。
(中略) 第7条 本契約に定めなき事項については巨峰の登録商標権の保全普及を通じ、本事業の発展を目的として甲、乙別途協議する。
第8条 本契約の有効期限は昭和46年12月30日までとする。」 (ウ) 日本巨峰会は、昭和52年6月24日、被告との間で、ぶどう果実に使用する本件登録商標の使用料金の収受業務などについて、それまでの契約内容を一部変更し、次のような約定の契約(以下「昭和52年基本契約」という。)を締結した(「甲」は、日本巨峰会を指し、「乙」は、被告を指す。)。(甲第43号証) 「第1条 甲は日本理農協会の会員で日本巨峰会の登録者(以下“会員”という)の生産するブドウ果実につき、品質の向上改善を計るため、乙が販売配布及び譲渡する容器につき、甲の所有する通常使用権を許諾した会員に限り、乙のみが販売することを認め、乙は甲のブドウ果実“巨峰”の登録商標権の保全、普及に協力しなければならない。
(中略) 第3条 乙は会員に販売配布及び譲渡する容器の容量1kgにつき、
商標の使用料金として金3円也を加算して徴集し、昭和52年12月30日までに甲に直接納付するものとする。
(中略) 第8条 本契約の有効期限は昭和53年3月31日とする。但し、乙が本契約に違反したときは甲は何時でも文書により通告して本契約を解除することができる。
(中略) 第10条 本契約書は甲乙いずれからも廃棄を申し出されない限りは継続するものとする。
第11条 甲は乙を日本巨峰会の指定業者とする。なお、別の業者を指定する場合は乙と協議の上決定する。
(後略)」 (エ) 日本巨峰会は、昭和52年6月24日、被告との間で、ぶどう果実の出荷容器の販売について、次のような約定の契約(以下「昭和52年付随契約」という。)を締結した(「甲」は、日本巨峰会を指し、「乙」は、被告を指し、
「ブドウ果実“巨峰”の出荷容器」をもって「巨峰箱」というとされている。)。
(甲第44号証) 「第1条 甲は甲の所有する商標登録(第472182号)の通常使用権を許諾した会員(以下会員という)に対し、乙のみが巨峰箱の販売をする事を認める。
第2条 甲は甲の会員に対し、乙の販売する巨峰箱の普及推進に努めるものとする。
第3条 乙は、甲の会員に販売した巨峰資材に対し、推進手数料として販売額の1%也を、昭和53年3月31日までに甲に直接支払うものとする。
第4条 本契約の有効期間は昭和53年3月31日までとする。
(後略)」 (オ) 昭和52年基本契約及び昭和52年付随契約は、約定の有効期間経過後も、継続しており、日本巨峰会と被告は、昭和60年、昭和52年基本契約の第3条所定の使用料金を1kgにつき3.5円とすることに口頭で合意した(甲第50号証の2)。
昭和52年基本契約及び昭和52年付随契約は、昭和62年12月25日、日本巨峰会からの解約によって終了した。日本巨峰会は、日本理農協会の会員向けのぶどうの包装資材の製造販売を被告以外の者(丸紅合樹製品と西武百貨店)に行わせるために、これらの契約を解約したものであった。その後、被告と日本巨峰会との関係は途絶していた。(当事者間に争いがない。) (カ) 日本巨峰会は、平成4年10月25日、被告との間で再び、被告が、日本巨峰会の会員にぶどうの包装資材を販売し、本件登録商標の使用料を同会員から徴収する業務を受託するという内容の契約(以下「平成4年契約」という。)を締結した(当事者間に争いがない。)。
(キ) 被告は、平成4年契約に基づき、日本巨峰会に対し、徴収した使用料について、平成9年1月まで、明細を報告し、これを支払った(甲第51号証の1ないし3、第52号証の1、2)。
(ク) 日本巨峰会は、平成9年11月4日、本件専用使用権を設定したとして、被告との平成4年契約を終了させた。その後、被告と日本巨峰会との関係は途絶している。(当事者間に争いがない。) オ 本件登録商標等をめぐる訴訟 (ア) 株式会社服部紙店は、「巨峰」、「KYOHO」の文字を含む標章を付した段ボール箱を製造販売していた飯塚段ボール株式会社を相手方として、福岡地方裁判所飯塚支部に、商標登録第714066号(商品の区分は平成3年政令第299号による改正前の商標法施行令第1条別表に定める商品区分第18類、指定商品包装用容器)、その連合商標である商標登録第775685号、同第775686号、同第775687号、同第775688号(これらの登録商標は、別紙登録商標目録2記載のとおりである。)の商標権に基づき、上記段ボール箱の製造販売等の差止めを求めて仮処分を申し立てた(同支部昭和44年(ヨ)第41号。
以下「飯塚支部事件」という。)。同支部は、昭和46年9月17日、上記段ボール箱に表示された「巨峰」、「KYOHO」の標章は、内容物たる巨峰ぶどうの表示であり、包装用容器たる段ボール箱についての標章の使用ではないという理由により、仮処分の申立てを却下する旨の判決を言い渡した。(甲第48号証) (イ) 日本巨峰会は、昭和44年12月、「巨峰」の文字を付してぶどうを出荷していた長野県経済連、中野市農業協同組合、塩田町農業協同組合を被告として、長野地方裁判所に、本件商標権に基づき、ぶどうの生産販売等に当たっての「巨峰」の文字の使用差止め、商標使用料相当損害金の支払を求めて訴訟を提起し(同裁判所昭和44年(ワ)第222号。以下「長野地裁事件」という。)、昭和51年3月31日、中野市農業協同組合、塩田町農業協同組合に対する訴えを取り下げ(中野市農業協同組合、塩田町農業協同組合は、訴え取下げに同意した。)、長野県経済連との間で裁判上の和解が成立した。その和解条項は、次のとおりであった(「原告」は、日本巨峰会を指し、「被告」は、長野県経済連を指す。)。(甲第12号証、乙第8号証) 「1 原告と被告は、長野県における『巨峰』(この場合はぶどうの品種の意味で用いる。以下同じ。)生産の現状にかんがみ、直接生産者の利益を考慮して、相互の立場を尊重しながら、協力して『巨峰』産業の発展を期する。
2 原告は、被告に対しては登録番号第472182号(連合商標登録番号第782084号)の商標権を主張せず、被告は原告に対して、右商標権の無効を主張しない。
3 被告は、長野県下の日本巨峰会会員が団体として活動すること、被告指導下の出荷機構によらないで独自に『巨峰』を出荷すること、長野県下の『巨峰』生産者が同会に加入することの自由をそれぞれ認める。ただし、被告の農業協同組合法による活動を妨げるものではない。
(後略)」 (ウ) 日本巨峰会は、昭和47年、「巨峰」の文字を含む標章を付した包装用資材を製造販売していた飯塚段ボール株式会社を被告として、東京地方裁判所に、本件商標権に基づき、「巨峰」の文字を含む標章の使用差止め等を求めて訴訟を提起し(同裁判所昭和47年(ワ)第1592号。以下「東京地裁昭和47年事件」という。)、昭和50年6月12日、裁判上の和解が成立した。その和解条項は、次のとおりであった(「原告」は、日本巨峰会を指す。)。(乙第7号証) 「1 被告飯塚段ボール株式会社(以下単に被告という)は原告の有する昭和30年10月27日登録第472182号の商標権が有効であることを認める。
2 原告は被告のぶどう用包装容器に関する既存の商業権益を尊重する。
3 被告は本和解成立後、『巨峰』の名称を表示したぶどう用包装容器を販売するに際しては、その購買者に対し、前1項記載の商標権の存在することを知らせ、且つ右購買者が将来日本巨峰会またはその加盟下部団体に加入するよう勧奨することに努める。
4 原告は被告に対する既存の右商標権侵害行為の責任を一切問わないとともに、第3項を条件として本和解成立後当分の間『巨峰』の名称を表示したぶどう用包装容器を被告が製造販売することに対してなんら異議を述べない。
5 被告はその製造するぶどう用包装容器に、いかなる形式態様を問わず『日本巨峰会』またはその加盟下部団体の名称を表示してはならない。
(後略)」 (エ) 被告は、昭和63年、日本巨峰会を被告として、東京地方裁判所に、ぶどうの包装資材の売掛代金の支払を求めて訴訟を提起し(同裁判所昭和63年(ワ)第5637号。以下「東京地裁昭和63年事件」という。)、平成元年12月4日、裁判上の和解が成立した。その和解条項は、次のとおりであった(「原告」は、本件の被告を指し、「被告」は、日本巨峰会を指す。)。(甲第49号証、第50号証の1ないし3、第50号証の4の1、2、第50号証の5の1ないし4、第50号証の6) 「1 被告は、原告に対し、資材販売代金1388万4289円の、
原告は、被告に対し、昭和62年度分の約定商標(『巨峰』商標登録第472182号)使用料及び昭和63年度分の和解金として合計金800万円の各債務を負担していることを認める。
2 原告及び被告は、本日合意のうえ、前項の両債務を対当額で相殺し、被告は、原告に対し、残額588万4289円を平成元年12月27日までに原告代理人弁護士D法律事務所に持参又は送金して支払う。
(後略)」 3 争点 (1) 被告標章は、本件登録商標に類似するか。
(2) 「巨峰」という語は、ぶどうの一品種である本件品種のぶどうを表す普通名称(商標法26条1項2号)に当たるか。
(3) 被告標章は、普通名称を「普通に用いられる方法」(商標法26条1項2号)で表示するものか。
争点に関する当事者の主張
1 争点(1)(被告標章と本件登録商標の類否)について (1) 原告の主張 本件登録商標は、漢字により縦書きに記載した「巨峰」の文字からなる。
被告標章1及び2は、漢字により横書きに記載した「巨峰」の文字からなり、本件登録商標とは、「キョホウ」という称呼及び「非常に高い峰又は山」という観念は同一であり、外観は類似する。
被告標章3は、アルファベットの大文字により横書きに記載した「KYOHO」の文字からなり、本件登録商標とは、「キョホウ」という称呼及び「非常に高い峰又は山」という観念は同一である。
したがって、被告標章は、いずれも、本件登録商標と類似する。
(2) 被告の主張 原告の主張は争う。
2 争点(2)(「巨峰」という語の普通名称化の有無)について (1) 被告の主張 ア(ア) 書籍、統計等の記載について 「巨峰」という語は、各種統計、新聞記事、様々な書籍において、ぶどうの一品種を表す名称として扱われている。青果卸売市場の取引業者が用いている売買仕切書にも、「巨峰」、「キョホウ」という語は、「品名」すなわち普通名称として使用されている。これらは、「巨峰」が取引業者間でも一般消費者間でも普通名称化していることを示している。
新聞記事によれば、系統農協(全国農業協同組合連合会、県経済連、
地区農業協同組合からなる。)の見解は、「巨峰」は、登録商標出願以前に広く知られた品種名であり、これを出荷容器に普通に表示することは商標権侵害を構成しないということである。
(イ) 本件登録商標の商標管理について 原告は、「巨峰」という語が品種名、普通名称として使用されたことに対して抗議を申し入れた旨主張する。しかし、原告の抗議に対する回答の内容は、本件商標権の存在を全く知らず、「巨峰」という語が品種名として普通名称であるという認識しかなかったことを説明するものであり、消費者の認識において、
「巨峰」という語が普通名称化している実態が示されている。また、回答の中には、刊行物の記載の訂正等、商標権の存在を前提とする処置を新たに行いたいとするものもあるが、これによって、既に普通名称化してしまっている事実を覆すことはできない。
(ウ) 生産者の認識について 本件品種のぶどうの生産者は29府県に及んでいるが、その中で、長野県の出荷量は圧倒的に多く、平成11年に2万3600トンであり、全国の出荷量の33.7パーセントを占めている。この長野県の生産者の大部分に本件品種のぶどうの出荷用包装容器を供給しているのは、原告のグループにも属せず被告でもない第三者のメーカーである。原告は、長野地裁事件の和解により、長野県経済連に対して本件商標権を主張しないという合意をしているため、原告は、このメーカーに対して本件商標権を行使せず、「巨峰」の表示を使用するに任せている。
本件品種のぶどうの1キログラム箱について、原告及び原告と契約関係にある業者のマーケットシェアは、全国で7.5パーセント程度であると推測される。
(エ) 品種登録との関係について 本件品種のぶどうは、保護されるとすれば、種苗法に基づく品種登録によって保護されるのが実態に即していたが、品質が安定していないなどの問題があったので、品種登録は実現せず、商標登録が利用された。種苗法に基づく育成者権であれば既に存続期間が満了しているにもかかわらず、原告が本件登録商標の専用使用権の設定を受けて権利行使に及ぶのは不当である。
(オ) 連合商標の登録の経緯について 日本巨峰会が前記第2、2(4)ウの補正を行ったのは、「巨峰」という語がぶどうの一品種を表す普通名称であることを認めたからである。
(カ) 日本巨峰会と被告の関係について 被告が本件登録商標について使用料を支払った事実は、過去に一度もない。被告は、容器等を本件品種のぶどうの生産者に販売しており、その販売業務に付随して、昭和46年契約及び昭和52年基本契約の約定に明記されているように、生産者が日本巨峰会へ支払う商標使用料の受領を代理し、代理受領した商標使用料を日本巨峰会へ渡しただけである。
被告は包装資材のメーカーであり、包装資材の販売の拡大に努めなければならないから、本件商標権を尊重する生産者には、本件商標権を尊重するように対応し、「巨峰」という語を普通名称として扱う生産者には、「巨峰」という語を普通名称として扱うように対応してきた。日本巨峰会との間で契約関係があったときは、契約に従って包装資材の販売の拡大に努めてきた。
(キ) 本件登録商標等をめぐる訴訟について 長野地裁事件及び東京地裁昭和47年事件の両訴訟において、「巨峰」という語は一品種名であるとの反論が提出された。日本巨峰会が、両訴訟の裁判上の和解において、具体的な対価なしに、相手方に本件商標権を主張しない旨の和解を余儀なくされたのは、日本巨峰会が、「巨峰」という語が普通名称であることを認めたものである。両訴訟の裁判上の和解において、本件商標権は、形式的な有効性が承認されたにすぎない。
東京地裁昭和63年事件の和解条項に記載された商標使用料とは、日本巨峰会の会員が支払う商標使用料を被告が日本巨峰会に代わって徴収したものである。このことは、昭和52年基本契約の約定の第3条に「乙は会員に販売配布及び譲渡する容器の容量1kgにつき、商標の使用料金として金3円也を加算して徴集し、昭和52年12月30日までに甲に直接納付するものとする。」と定められていることから明らかである。
イ このようなことからすると、「巨峰」は、ぶどうの一品種を表す普通名称である。
(2) 原告の主張 ア(ア) 書籍、統計等の記載について 各種統計等において、「巨峰」という語がぶどうの品種名として普通名称のように取り扱われている事実は、本件商標権の効力とは直接には関係しない。日本巨峰会と原告は、後記(イ)bのとおり、本件登録商標の普通名称的使用に対する警告などを行っている。農林水産省等国の機関の統計資料において「巨峰」という語を単なるぶどうの品種名であるかのように表示しているものについても、
原告は、既に是正を申し入れている。
(イ) 本件登録商標の商標管理について a 「巨峰」という語は、本件登録商標の商標登録出願時には普通名称ではなく、本件登録商標について無効審判請求がされた形跡はない。
商品又は役務の普通名称とは、一般に、取引界においてその商品又はサービスの一般的な名称であると認められている名称をいい、一定の名称が商標法上の普通名称であるか否かは、単に一般消費者がこれを普通名称として意識するおそれがあるというのみでは足りない。取引市場において、その名称が特定の商品の一般名称として世俗一般に普通に使用されている事実が認められる場合においてのみ、普通名称であるということができる。登録商標中には、一般消費者の認識からすれば普通名称化したと思われるものでも、取引者間において商標として使用され、権利者の商標管理も適正に行われているため、独占的排他権として有効に存在しているものも少なくなく、このような登録商標は、第三者が普通の態様で使用した場合にも、商標権の侵害を構成する。このような商標には、それが使用されていた商品及びその商品の製造業者又は販売業者の莫大な信用が化体されていることが多いから、普通名称化されたという事実の認定に当たっては、こうした莫大な個人の利益の喪失を犠牲にしてもそのような事実を認定しなければならないほど普通名称化の事実が明白不動のものであるかどうかについて、公平の原則にも照らし、できるだけ慎重に判断しなければならない。
原告は、本件専用使用権の設定登録後から、本件品種のぶどうの出荷用包装資材の製造販売について、全国各地の20社を超える包装資材製造販売業者との間で、本件登録商標の通常使用権許諾契約を締結しており、そのような業者の供給する包装用資材は、全国の農業協同組合等を通じて供給され、全国の生産農家で使用されている。原告は、本件登録商標を使用許諾することにより、経済的利益を上げている。
b 日本巨峰会及び原告は、@商標の適正使用(登録番号の表示やO記号の付記)、A「巨峰」という語が登録商標であることの不断の広報活動、B他人の商標出願に対する適切な異議申立て、C他の取引業者による本件登録商標の使用や、辞書、文献その他の書籍等における本件登録商標の普通名称的使用に対する警告など、本件登録商標の普通名称化を防ぐための商標管理を怠らなかった。
(ウ) 生産者の認識について 原告の包装資材の出荷ルートは、@日本巨峰会を通じて生産者に供給されるもの、A系統農協を通じて生産者に供給されるもの、B各地の資材販売業者から県経済連又は地区農業協同組合を通じて生産者に供給されるもの、C生産者に直接供給されるものがあるが、これらの取引過程に介在するすべての当事者が、
「巨峰」という語が商標登録されている事実を知っている。本件登録商標が普通名称であると判断を誤っているのはその一部にすぎない。
(エ) 品種登録との関係について 本件登録商標の指定商品は、「葡萄、その種子、乾葡萄」であり、種苗(植物体の全部又は一部で繁殖の用に供されるもの)や植物体そのものではなく、その収穫物である果実である。本件品種(品種名「石原センテ」)は、本来、
種苗法に基づく品種登録により保護されるべきであったが、品種登録が認められず、やむなく商標登録出願がされ、本件登録商標が登録された。本件登録商標が存在することから、商標権者である日本巨峰会及び専用使用権者である原告は、その使用につき独占することができ、他の取引業者は、本件品種の果実について、その品種名「石原センテ」を用いるか、他の商標名を用いて販売しなければならない。
(オ) 日本巨峰会と被告の関係について 被告は、日本巨峰会との契約(最後は平成4年契約)に基づき、平成8年度分まで日本巨峰会に商標使用料を支払ってぶどう出荷用の包装資材の製造販売を行ってきたから、「巨峰」という語が普通名称でないという認識を有したはずである。
(カ) 本件登録商標等をめぐる訴訟について 飯塚支部事件において、相手方は、「巨峰」はぶどうの品種名であると主張したのに対し、判決は、「『巨峰』は、元来大粒ぶどうの一品種の商品名で」ある旨認定した。また、同判決添付の図面第三の包装用資材には、「日本巨峰会」、「巨峰」、「商標登録第472182号」という表示がされている。
長野地裁事件及び東京地裁昭和47年事件の和解は、本件商標権の有効性が前提となっており、これらの和解は、「巨峰」ぶどうの生産を振興する上で訴訟の継続は好ましくないという訴訟外政策的な考慮からされたにすぎない。東京地裁昭和63年事件の和解において、被告は、日本巨峰会に対し、「約定商標(「巨峰」商標登録第472182号)使用料」の債務を負担していることを認めている。 イ このようなことからすると、「巨峰」という語は、ぶどうの一品種を表す普通名称とはなっていない。
「巨峰」ぶどうが全国的に浸透しているために、仮に、「巨峰」という語が一見して品種を表す普通名称であるかのように認識される状態があったとしても、出荷用包装資材の指定等を通じて本件商標権の現実の効力が及んでいることから、「巨峰」という語は、登録商標としての効力を保持しており、普通名称化していない。
3 争点3(「普通に用いられる方法」に当たるか)について (1) 原告の主張 被告標章1、2は、「巨峰」の文字が、被告標章3は、「KYOHO」の文字が、それぞれデザイン化され、大きく表示されるなどしており、「普通に用いられる方法」で表示されているとはいえない。
(2) 被告の主張 原告の主張は争う。
当裁判所の判断
1 争点1(標章の類似性)について 本件登録商標は、別紙登録商標目録1記載のとおりであり、漢字の「巨峰」の文字を縦書きにしてなるものである。そして、本件登録商標からは、「キョホウ」の称呼を生じ、かつ、「目だって大きく高いみね(峰)」との観念も生じるといえる(甲第29号証の2参照。なお、「巨峰」の標章から著名なぶどうの名称(品種名か商品名かは別として)を想起することも明らかであるが、この点は争点2に関係することでもあり、原告の主張しないところであるから、被告標章との類似性の判断に当たり考慮しないこととする。)。これに対し、被告標章1及び2は、それぞれ字体は異なる(被告標章1は筆太の毛筆体、同2はゴシック体)ものの、漢字の「巨峰」の文字を横書きしてなるものであり、「キョホウ」の称呼及び「目だって大きく高いみね」との観念を生じる。また、被告標章3は、ゴチック体のローマ字の「KYOHO」の文字を横書きしてなるものであり、「キョホウ」の称呼を生じる。そうすると、少なくとも、本件登録商標は、被告標章1及び2とは外観称呼及び観念において同一ないし類似であり、被告標章3とは称呼において一致することが明らかであるから、被告標章1ないし3は、いずれも本件登録商標と類似するものというべきである。
2 争点2(「巨峰」という語の普通名称化の有無)について 被告は、本件登録商標に係る「巨峰」の語が、ぶどう一品種を表す普通名称であると主張するので、以下検討する。
(1) 書籍等の記載 「巨峰」という語について、書籍等には、次のとおり記載されていることが認められる。
ア 書籍 (ア) 題名 まるごと楽しむブドウ百科(乙第1号証) 著者 玉村浩司 発行所 社団法人農山漁村文化協会 発行日 平成3年(1991年)6月30日第1刷発行 記載内容 「第1章 ブドウがもっと好きになる」、「1 目と鼻と舌で楽しむ」、「香りを楽しむ」の項の「十分に熟れていてこその香り」の項目には、
「巨峰は外観の見事な果房であるが、香りはあまり上品ではない。」(12頁)という記載がある。
同じ第1章の「3 日本のブドウの生い立ち」、「日本で生まれた混血優良樹」の項には、「ネオ・マスカット」と並んで「巨峰」(25頁)の項目が設けられ、「仕事と勉強で、長いことこうした品種の動きを見てきたが、巨峰ほど波乱万丈の歩みをしたのは少ないと思う。巨峰は在野の学者(理農学研究所の所長)A先生が、作った品種である。」(25頁)、「それに、先生は在野の、しかも異色の学者、そのため巨峰も色眼鏡で見られてつらい思いをされたようだ。巨峰は、果粒の大きいのが特徴である。」、「巨峰を作る場合は、それ相応に腕を磨いておかないと、物にはならない。」(26頁)という記載がある。「図12 巨峰ブドウの系統」(25頁)には、「石原早生」、「センテニアル」の交配により「巨峰」が作られた旨図示されている。
「新品種を作った人々」の項には、「果物店で、『ピオーネ』という品種をご覧になったことがあると思う。巨峰のような大きい果粒で、食味は巨峰に勝るというのが一般の評価だ。それもそのはず、母は巨峰で、父は温室ブドウのマスカット・オブ・アレキサンドリアの四倍体の枝変わり。品種名はカノンホール・マスカットという。成熟期は巨峰より少し遅い。しかも病害虫の被害は巨峰よりも多めというから、趣味や自家用対象の品種ではない。」(27頁)という記載がある。
「第2章 育ち方をさぐる」の「表4 ブドウの品種別着果率」(42頁)の「品種名」欄には、「キャンベル・アーリー」、「マスカット・ベーリーA」、「デラウェア」など並んで、「巨峰」が記載されており、その開花数、
着果数、着果率の数値が、他の品種と共に記載されている。
(イ) 題名 くだものの科学(乙第2号証) 著者 岩松清四郎 発行所 株式会社未來社 発行日 昭和61年(1986年)11月25日第1刷発行 記載内容 「ブドウ」の章の「いろいろなブドウ」の項には、「キャンベルアーリー」、「ネオ・マスカット」と並んで、「巨峰」(36頁)、「巨峰群品種」(37頁)が項目として掲げられ、それぞれの説明が記載されている。「巨峰」の項目には、「巨峰は、ヨーロッパ種のブドウの優秀さと、アメリカ種の丈夫さとを承け継いでいる。わが国で作出された巨大果粒のブドウである。」(36頁)、「巨峰はもっぱら生食であり、なかにはジャム、ワインとしての醸造も一部に見られている。」(37頁)という記載がある。「巨峰群品種」の項目には、
「巨峰をもとに作出されたブドウであり、多くの品種がある。巨峰群品種で少し生産が見られているのはピオーネである。巨峰にカンノンフォン・マスカットを交雑したブドウである。マスカット香があり、巨峰はラブラスカ香がある。その点、巨峰よりも品質も肉質もややよい。」、「巨峰より栽培がややむずかしいので、つくりによって品質のバラつきがあるが、上手につくられているものは巨峰よりもややまさる。このほか、紅色の巨峰ともいうべき品種がある、オリンピア、紅富士、紅十和田などがそれで、肉質、品質は巨峰にまさる。」(37頁)という記載がある。
「巨峰」の項には、特徴、栽培面積、開発の経緯、生産状況などが記載されており、「早生種の小粒で赤色のジベレリン処理した甘みの強い、糖度一八度の種なしデラウェア中生種で巨大粒の紫黒色で肉質のよい糖度一七度の巨峰などがある。」(47頁ないし48頁)、「巨峰は第三位で、現在四、七九八haある。ところで、この巨峰は誕生して今日の座を確保するまでには幾多の試練を経てきている。巨峰が終戦の昭和二〇年に初結実してから、・・・」、「このように生まれながらの花振るい、眠り病、凍害枯死の心配があったので、巨峰栽培の伸びは遅々として進まなかった。」(48頁)、「巨峰は昭和一七年、静岡県のA氏が、石原早生とセンテニアルの四倍体同士を交配してつくったものである。」(48頁ないし49頁)、「そこで、それ以上の巨大粒で肉質のよいブドウを、また露地で比較的に楽につくれるブドウをということで、巨峰が誕生した。」、「このころから『巨峰』の人気が漸次高まり、・・・」、「昭和四〇年代からの消費時代を迎えて、巨峰の品質の良さと果粒のデラックスさが消費者に受けて、人気はうなぎ登りとなって躍進期に入り、今日の安定期を迎えた。それと並行して巨峰群品種も生まれ、巨峰と巨峰群品種時代に入った感がある。」、「巨峰は山梨県の露地で八月中・下旬の成熟であるが・・・」(49頁)という記載がある。「果粒の大きさ」と題する表(48頁)には、「小粒・・・・デラウェア」、「大粒・・・・キャンベルアーリー」などと並んで、「巨大粒・・・・巨峰、巨峰群品種」と記載されている。
「巨峰の房づくり」の項には、良い房を栽培すための注意点等が記載され、「巨峰や巨峰群品種は今、ブドウでは大変な人気である。」、「巨峰・巨峰群品種の房づくりで、果粒は一五g内外で二三個つけば、一果房は三五〇gになる。巨峰の箱入りは、一キロ箱、二キロ箱などがある。」、「巨峰・巨峰群品種では、果皮が鮮やかな品種による紫黒色か紅色がよい。」(50頁)、「よくできた巨峰や巨峰群品種の果実は、着色成熟もよく、果肉もしまり、・・・」(52頁)という記載がある。
(ウ) 題名 果樹生産ハンドブック(甲第22号証の3) 編著者 小林章、苫名孝 発行所 株式会社養賢堂 発行日 昭和53年11月20日第3版発行 記載内容 「第5章 ブドウ」に、「(7)ナイアガラ」、「(8)その他の品種」などと並んで「(6)巨峰」(356頁)の項が設けられ、「A氏が1937年頃石原早生(キャンベルの枝変わりで4倍体)×センテニアル(4倍体)の交配から育成した4倍体である。」という記載に続き、栽培地、特徴、栽培の際の注意点等が記載されている。「第218図 巨峰」(357頁)には、樹木に結実した状態のぶどうの房の写真が掲載されている。
(エ) 題名 果樹園芸大事典(甲第22号証の4) 著作者 果樹園芸大事典編集委員会 発行所 株式会社養賢堂 発行日 昭和47年5月25日第1版発行 記載内容 「34.6品種」に、「Fヒロ・ハンブルグ(Hiro Humburg)」などと並んで「E巨峰(きょほう)」(857頁)の項が設けられ、「Aがセンチニアル(ロザキの巨大変異)に石原早生(大玉キャンベル)を交配して作出した品種で,各地に試作されている.」という記載に続き、特徴等が記載されている。
「34-9図 巨峰」(857頁)には、樹木に結実した状態のぶどうの房の写真が掲載されている。
(オ) 題名 簡明食辞林(甲第25号証の2) 監修者 小原哲二郎ほか1名 発行所 株式会社樹村房 発行日 平成6年5月2日第7刷発行 記載内容 「ぶどう」の項の「〔品種〕」に、「わが国のブドウは甲州ブドウを除いて,明治初年に導入され,現在はデラウェア,キャンベルアーリー,巨峰が最も多く,ネオマスカット,マスカットベリーA,甲州などがある。」(713頁)という記載がある。
(カ) 題名 集英社 国語辞典(甲第26号証の2) 編集委員 森岡健二ほか4名 発行者 若菜正 発行所 株式会社集英社 発行日 平成5年(1993年)10月10日第1版第5刷発行 記載内容 「きょほう」の項に、「【巨峰】ブドウの品種の一つ。巨大粒で甘みが強く、肉質がよい。」(432頁)と記載されている。
(キ) 題名 広辞苑(甲第28号証の2) 編者 新村出 発行所 株式会社岩波書店 発行日 平成3年(1991年)11月15日第4版第1刷発行 記載内容 「きょ-ほう」の項に、「【巨峰】ブドウの一品種。果実は大粒、熟すと黒紫色で甘味が強く美味。樹勢が強く耐病性もあり、広く栽培。一九三七年(昭和一二)頃、交配により作出。」(687頁)と記載されている。
(ク) 題名 旺文社 国語辞典〔第八版〕(甲第29号証の2) 編者 松村明ほか2名 発行所 株式会社旺文社 発行日 平成9年(1997年)重版発行 記載内容 「きょ-ほう」の項に、「【巨峰】@目だって大きく高いみね。
Aすぐれた人物。「学界の-」Bぶどうの品種の一つ。濃い紫の大粒の実で甘味が強い。」(328頁)と記載されている。
(ケ) 題名 材料料理大事典(甲第31号証の2) 編集人 荻田守 発行所 株式会社学習研究社 発行日 昭和62年(1987年)10月20日初版発行 記載内容 「ぶどう」の「種類・特徴」の項に、「デラウエア」、「キャンベル・アーリー」、「ピオーネ」と並んで、「巨峰」(306頁)の項目が設けられ、「日本で育成された品種。」という記載に続き、特徴などが記載されている。
(コ) 題名 国語大辞典 言泉(甲第32号証の2) 編集 尚学図書 発行所 株式会社小学館 発行日 昭和63年1月20日第1版第6刷発行 記載内容 「きょ-ほう」の項に、「【巨峰】ブドウの四倍性品種の一。樹勢強健で蔓がよくのびる。果房、果粒ともに大きく、濃紫色で甘く食味がよい。」(612頁)と記載されている。
(サ) 題名 大辞泉(甲第32号証の4) 監修 松村明 編集 小学館「大辞泉」編集部 発行所 株式会社小学館 発行日 平成7年(1995年)12月1日第1版第1刷発行 記載内容 「きょ-ほう」の項に、「【巨峰】ブドウの一品種。実は黒紫色で大粒。昭和一一年(一九三六)Aがアメリカ系とヨーロッパ系とを交雑して作出。」(708頁)と記載されている。
(シ) 題名 食材図典(甲第32号証の3) 発行所 小学館 発行日 平成7年(1995年)4月20日初版第4刷発行 記載内容 「ブドウ」の項に、「マスカット・ベイリーA」、「デラウェア」、「キャンベル・アーリー」と並んで、「巨峰」(260頁)の項目が設けられ、「大粒の代表品種。」という記載に続き、特徴、産地等が記載されている。
(ス) 題名 日本食品事典(甲第33号証の2) 監修 井上吉之 発行所 医歯薬出版株式会社 発行日 昭和53年1月10日第2版第3刷発行 記載内容 「ぶどう(葡萄)」の項の「生産と流通」、「〔種類〕」の項目中に、「国内のおもな品種は,デラウェアー,キャンベルスアーリー,マスカット,ベリーA,甲州ぶどう,アレキサンドリア,巨峰,ブラックインがある.」(340頁)という記載がある。
(セ) 題名 新編日本食品事典(甲第33号証の3) 著者代表 森雅央 発行所 医歯薬出版株式会社 発行日 昭和57年4月5日第1版第2刷発行 記載内容 「ぶどう(葡萄)」の項の「種類・分類」、「〔品種〕」の項目中に、「世界のぶどうの『種』は30種以上に及ぶが,経済品種の主なものは,露地用として,デラウェア,キャンベル・アーリー,甲州,マスカット,ベリーA,ネオマスカット,巨峰,ピオーネ,ナイヤガラ,ガラス室用としてグロー・コールマン,マスカット・オブ・アレキサンドリア・・・などが主なものである.」(456頁)という記載があり、「保存・加工」、「〔保存〕」の項目中に、「デラウェア,キャンベル・アーリーの貯蔵性は低く,マスカット・オブ・アレキサンドリア,巨峰などの貯蔵性は高い.」(457頁)という記載がある。
(ソ) 題名 大辞林(甲第35号証の2) 編者 松村明、三省堂編修所 発行所 株式会社三省堂 発行日 昭和63年(1988年)11月3日第1刷発行 記載内容 「きょほう」の項(650頁)に、「【巨峰】ブドウの品種の一。日本で育成されたアメリカブドウとヨーロッパブドウの交雑種で、紫黒色逆卵形の大粒の実を結ぶ大房の優良種。」と記載されている。
(タ) 題名 Illustrated Encyclopedia 大図典 VIEW(甲第36号証の2) 監修 梅棹忠夫ほか 発行所 株式会社講談社 発行日 昭和60年7月1日第2刷発行 記載内容 「くだもの」の「ブドウ」の項に、ぶどうの写真について、「おなじみのブドウ3品種 左から巨峰、デラウェア、ネオ・マスカット」(508頁)という説明が記載されている。
(チ) 題名 朝日園芸百科23 有用植物編-V(甲第30号証の2) 発行所 朝日新聞社 発行日 昭和61年2月20日発行 記載内容 「アメリカブドウとの交雑品種」の項に、「デラウェア」、「キャンベル・アーリー」、「ピオーネ」、「マスカット・ベーリーA」と並んで、
「巨峰」(226頁)の項目が設けられ、「静岡県で育成された、4倍体の大果の品種。」という記載に続き、特徴等が記載されている。
(ツ) 題名 紅茶 おいしさの「コツ」(甲第24号証の2) 著者 磯淵猛 発行所 株式会社柴田書店 発行日 平成5年(1993年)12月25日第5版発行 記載内容 「メロン、巨峰、マスカットなど、一見香りが強そうなフルーツですが、アイスティーの中にいれると弱くなってしまうものです。」(108頁)という記載があり、「フルーツの使い方とかくし味に使う洋酒類」と題する表(109頁)の「フルーツ」の欄に、「マスカット」等と並んで「巨峰」が記載されている。
(テ) 題名 日本料理の甘味・デザート(甲第24号証の3) 著者 遠藤十士夫、丸田明彦 発行所 株式会社柴田書店 発行日 平成8年(1996年)5月31日第5版発行 記載内容 141頁に記載された「晩鐘」と題する料理の副題に「(巨峰ワインゼリー 銀杏餅)」と記載され、その説明に「巨峰ブドウの皮をむき、種を取り除き、長方形の型に巨峰ブドウとワインゼリー液を流し、冷やし固める。」という記載があり、「使用材料」の欄に、「白ワイン」、「砂糖」などの他の材料と共に「巨峰ブドウ」と記載されている。
(ト) 題名 決定版 生物大図鑑 園芸植物U 双子葉植物離弁花類・裸子植物・シダ類など(甲第27号証の2) 編集人 桜井良三 発行所 株式会社世界文化社 発行日 昭和61年7月1日 記載内容 「ブドウ(葡萄)」の「(V)ヨーロッパブドウとアメリカブドウの雑種による品種」の項に、「デラウェア」、「キャンベル・アーリー」、「マスカット・ベーリーA」と並んで「巨峰」(72頁)の項目が設けられ、「昭和11年、Aが石原早生×センテニアルにより育成した4倍体。」という記載に続き、
特徴が記載されている。
イ 統計、新聞の市場欄等 (ア) 平成3年産 果樹生産出荷統計(乙第4号証) 編集 農林水産省経済局統計情報部 発行 財団法人農林統計協会 発行日 平成5年3月31日 記載内容 全国の結果樹面積の統計表(34頁)の「品目・品種」欄の「ぶどう」の項目に、「デラウェア」、「キャンベルアーリー」、「甲州」などと並んで、「巨峰」が記載されており、昭和57年産から平成3年産までの結果樹面積の欄に、各年産の結果樹面積が記載されている。
(イ) 第四十五回 日本統計年鑑(甲34号証の2) 編集 総務庁統計局 発行 日本統計協会、毎日新聞社 発行日 平成7年12月発行 記載内容 「6-20 施設園芸の収穫量(昭和55年〜平成5年)」の統計の「果樹」、「ぶどう」の欄には、「デラウェア」と「巨峰」の項目が設けられ、統計数値が記載されている。
(ウ) 平成7年東京都中央卸売市場青果物流通年報(果実編)(甲第37号証の2) 発行所 東京青果物情報センター 発行日 平成8年3月7日発行 記載内容 「利用者のために」の「7.果実・野菜の類別分類」の項には、
「年間および月別品目別取扱高順位表において『・・・類』とあるのは,下表のとおり品種の総称である。」と記載され、下表において、「ぶどう類」については、
「包含する品種」として、「デラウエア,キャンベルスアーリー,ネオマスカット,マスカットベリーA,巨峰,アレキサンドリア,グローコールマン,甲斐路,ピオーネ,その他のぶどう」が記載されている。
なお、平成10年東京都中央卸売市場青果物流通年報(果実編)の統計表には、「品目 巨峰」として、「 」の表示が付記されている(甲第37号証の3)。
(エ) 平成11年産 果樹生産出荷統計(乙第11号証) 編集 農林水産省大臣官房統計情報部 発行 財団法人農林統計協会 発行日 平成13年4月27日 記載内容 「(7)果樹の品種区分」(3頁)の「品目」欄の「ぶどう」については、「品種区分」欄に「デラウェア、キャンベルアーリー、ネオマスカット、マスカットベーリーA、甲州、巨峰、4)温室ぶどう、ピオーネ、その他」と記載されている。
「(7)ぶどう」の項目の「表8 平成11年産ぶどうの結果樹面積、収穫量及び出荷量」(14頁)の「品目・品種」欄には、「巨峰」を含む、
上記の「品種区分」欄に記載された種類が記載されている。
ぶどうの「ウ 収穫量及び出荷量」の項には、「キャンベルアーリー、甲州及び巨峰は、おおむね天候に恵まれたことにより10a当たり収量が上昇したことから・・・」(15頁)という記載があり、「図11 ぶどうの品種別結果樹面積割合」(15頁)には、上記の「品種区分」欄に記載された種類ごとの結果樹面積の割合を示す帯グラフが描かれ、「巨峰(32)」、「デラウェア(23)」、「キャンベルアーリー(8)」、「マスカットベーリーA(6)」などと記載されている。
「都道府県別の結果樹面積」の「カ 巨峰」(48頁)の表には、各都道府県ごとの結果樹面積、収穫量、出荷量及びそれらの対前年比が記載されている。
(オ) 平成12年産 園芸・工芸農作物・花き市町村別統計(福岡県)(乙第12号証) 編集者 九州農政局福岡統計情報事務所 発行者 福岡農林統計協会 発行日 平成13年11月 記載内容 ぶどうの果樹生産出荷統計(89頁以下)においては、「計」、
「巨峰」、「マスカットベリーA」に分けて、それぞれ栽培面積、結果樹面積、10a当たり収量、収穫量、出荷量が、全国、九州各県、福岡県内の各市町村ごとに記載されている。
(カ) 日本経済新聞 平成13年11月16日 卸売市場欄(乙第5号証) 記載内容 「果実」、「大阪」の項の品名を示す欄には、「ブドウ・ピオーネ」と並んで「ブドウ・巨峰」と記載されている。
(キ) 西日本新聞 市況欄(乙第13号証の1ないし6) 昭和40年8月3日、昭和50年8月1日、昭和60年8月1日、平成元年8月17日、平成5年8月1日及び平成10年8月3日 記載内容 いずれも、「果物」、「福岡」等の項の品名を示す欄に、「キャンベル」や「デラウエア」と並んで「巨峰」と記載されている。
ウ 取引書類 青果卸売市場の取引業者である徳山青果株式会社作成の売買仕切書(17-01、売立月日平成13年9月22日)の「品名」欄には、「キョホウ」と記載されており(乙第14号証)、同様に青果卸売市場の取引業者である北九州青果株式会社作成の売買仕切書(原票58163、売立平成13年9月6日)の「品名」欄には、「巨峰」と記載されている(乙第15号証)。
エ 新聞記事 昭和63年3月10日付けの日本農業新聞には、「『巨峰』の出荷箱、
メーカーが変わる、丸紅合樹製品と西武百貨店」という見出しの記事が掲載され、
その記事の中に、「ブドウ『巨峰』の出荷箱を今年から、丸紅合樹製品と西武百貨店の二社が・・・供給することになった。商標権を持つ日本巨峰会が丸紅と使用権契約を結んだもので、その結果、両者が販売する箱を使わない場合は、商標法違反となる。」と記載されていた。(甲第14号証) 昭和63年3月21日付けの日本農業新聞の「読者の相談室」には、
「『巨峰』は普通名称 系統農協の考え方」という記事が掲載されており、巨峰の商標権について、「問い」として、「三月十日付貴紙『巨峰の出荷箱、メーカーが変わる』の記事に『商標法違反』の言葉がありましたが、巨峰の商標権について教えて下さい。・・・」と記載されており、「答え」として、「商標権については複雑なものがありますが、まず『商標』は『商品の出所を示す指標』であって、物の普通の名称ではないことははっきりしています。その認識の上に立って、商標について考えるのですが、巨峰の商標権については、いろいろの解釈があります。ひとつには、登録商標出願時以前に普通の名称と考えられる『取引上広く知られていた品種名』であり、商標法第二十6条第1項第2号により、普通に用いられる方法
たとえば、出荷容器に品種名として普通に表示することは、登録商標権は及ばないはず-とする考え方があります。系統農協は、この考え方に立っています。・・・」と記載されている。(乙第6号証) (2) 日本巨峰会、原告による書籍の記載等の訂正の申入れ 日本巨峰会ないし原告は、書籍等において「巨峰」という語がぶどうの一品種を表す普通名称として用いられている場合に、次のとおり、「巨峰」が登録商標である旨記載を訂正するよう申し入れた。申入れの内容は、「日本巨峰会は、昭和32年の設立以来、商標『巨峰』について商標権を確立するなどしてきた。貴社の書籍等に日本巨峰会の登録商標があたかも一種のぶどうの普通名称であるかのように使用されているのを見て大変遺憾に思っている。『巨峰』の商標は、昭和29年11月6日に出願し、昭和30年10月27日に登録第472182号として登録されている。ぶどうの新品種『石原センテ』に商標『巨峰』の名称を付して生産を可能にするまでには多くの困難を経てきた。商標が商品の一般名称となってしまい、企業が大きな損失を受けた例は枚挙にいとまがない。そのような事態になりかかったのを、再び商標として確立するために関係者が多くの努力を払ったことは業界ではよく知られている。農産物の品質の低下を防ぐためにも、商標のもつ意味は重要になっている。貴社の書籍等の影響力は大きいものであり、『巨峰』のところに、登録商標である旨又はを付記するなど訂正することを求める。」(甲第22号証の1)といったものであった。
ア(ア)a 果樹生産ハンドブック(前出(1)ア(ウ)) b 果樹園芸大事典(前出(1)ア(エ)) (イ) 申入者 日本巨峰会 申入先 株式会社養賢堂 申入日付等 昭和60年9月18日付け申入書 (甲第22号証の1) イ(ア) テレビ番組「巨峰で村おこし(山梨県牧丘町)」(甲第23号証の1) 放送者 日本放送協会(NHK) 放送時期 平成9年 内容 「巨峰」という語を、品種を表す普通名称のように用いた。
(イ) 申入者 日本巨峰会 申入先 NHK視聴者コーナー 申入日付等 平成10年3月13日付け書面 (甲第23号証の1) ウ(ア) 簡明食辞林(前出(1)ア(オ)) (イ) 申入者 日本巨峰会、原告 申入先 株式会社樹村房 申入日付等 平成10年6月18日付け申入書 (甲第25号証の1) エ(ア) 集英社 国語辞典(前出(1)ア(カ)) (イ) 申入者 日本巨峰会、原告 申入先 株式会社集英社 申入日付等 平成10年6月18日付け申入書 (甲第26号証の1) オ(ア) 広辞苑(前出(1)ア(キ)) (イ) 申入者 日本巨峰会、原告 申入先 株式会社岩波書店 申入日付等 平成10年6月18日付け申入書 (甲第28号証の1) カ(ア) 旺文社 国語辞典〔第八版〕(前出(1)ア(ク)) (イ) 申入者 日本巨峰会、原告 申入先 株式会社旺文社 申入日付等 平成10年6月18日付け申入書 (甲第29号証の1) キ(ア) 材料料理大事典(前出(1)ア(ケ)) (イ) 申入者 日本巨峰会、原告 申入先 株式会社学習研究社 申入日付等 平成10年6月18日付け申入書 (甲第31号証の1) ク(ア)a 国語大辞典 言泉(前出(1)ア(コ)) b 大辞泉(同(サ)) c 食材図典(同(シ)) (イ) 申入者 日本巨峰会、原告 申入先 株式会社小学館 申入日付等 平成10年6月18日付け申入書 (甲第32号証の1) ケ(ア)a 日本食品事典(前出(1)ア(ス)) b 新編日本食品事典(同(セ)) (イ) 申入者 日本巨峰会、原告 申入先 医歯薬出版株式会社 申入日付等 平成10年6月18日付け申入書 (甲第33号証の1) コ(ア) 大辞林(前出(1)ア(ソ)) (イ) 申入者 日本巨峰会、原告 申入先 株式会社三省堂 申入日付等 平成10年6月18日付け申入書 (甲第35号証の1) サ(ア) 大図典VIEW(前出(1)ア(タ)) (イ) 申入者 日本巨峰会、原告 申入先 株式会社講談社 申入日付等 平成10年6月18日付け申入書 (甲第36号証の1) シ(ア) 朝日園芸百科23 有用植物編-V(前出(1)ア(チ)) (イ) 申入者 日本巨峰会、原告 申入先 株式会社朝日新聞社 申入日付等 平成10年6月18日付け申入書 (甲第30号証の1) ス(ア)a 紅茶 おいしさの「コツ」(前出(1)ア(ツ)) b 日本料理の甘味・デザート(同(テ)) (イ) 申入者 日本巨峰会、原告 申入先 株式会社柴田書店 申入日付等 平成10年6月18日付け申入書 (甲第24号証の1) セ(ア) 決定版 生物大図鑑 園芸植物U 双子葉植物離弁花類・裸子植物・シダ類など(前出(1)ア(ト)) (イ) 申入者 日本巨峰会、原告 申入先 株式会社世界文化社 申入日付等 平成10年6月18日付け申入書 (甲第27号証の1) ソ(ア) 第四十五回 日本統計年鑑(前出(1)イ(イ)) (イ) 申入者 日本巨峰会、原告 申入先 日本統計協会 申入日付等 平成10年6月18日付け申入書 (甲第34号証の1) タ(ア) 平成7年東京都中央卸売市場青果物流通年報(果実編)(前出(1)イ(ウ)) (イ) 申入者 日本巨峰会、原告 申入先 東京青果物情報センター 申入日付等 平成10年6月18日付け申入書 (甲第37号証の1) チ(ア) 農林水産省経済局統計情報部発行の統計 (イ) 申入者 日本巨峰会、原告 申入先 農林水産省経済局統計情報部管理課法令係 申入日付等 平成11年 申入内容 前記情報部発行の各種統計(例えば平成9年野菜・果樹品目別統計、平成10年産ぶどう等の収穫量及び出荷量)の登録商標である「巨峰」が、
「デラウェア」、「マスカット」、「キャンベル」等と同様にあたかもぶどうの一品種として記述されていることは、遺憾であり、品種名としての「巨峰」の表示を中止し、「巨峰」の表示に登録商標である旨又はを付記するか、「石原センテ」に変更するか、記載の訂正を行うよう求める旨の申入れをした。
(甲第38号証) これらの申入れに対し、多くの出版社は、改訂版等において「巨峰」が登録商標である旨を記載するようにするなどとの回答をしたが(ア、イ、ウ、エ、
オ、カ、キ、ク、ケ、コ、サ。甲第22、23号証の各2、第25、26、28、
29、31号証の各3、第32号証の5、第33号証の4、第35、36号証の各3)、申入れに対し回答のないところもあった(ス、セ、ソ、タ、チ)。また、回答の中には、シ(株式会社朝日新聞社発行「朝日園芸百科23 有用植物編-V」)の株式会社朝日新聞社のように、「各種事典等にもみられるとおり、『巨峰』はぶどうの品種名として広く用いられている。また、『巨峰』についての『朝日園芸百科』の記述は、ぶどうの品種の性質を紹介したもので、ぶどうの商品名について記述したものではない。したがって、『朝日園芸百科』に『巨峰』が商標登録されたものであることを付記するなどの訂正をする必要はないものと考える。」としたものもあった(甲第30号証の3)。さらに、サ(株式会社講談社発行「大図典VIEW」)の株式会社講談社の回答書には、「指摘を受け、当該『大図典VIEW』編纂部署はもとより、当部署より辞典局に申入れの趣旨を伝えた。なお、
当該部署担当者より農水省へ問い合わせたところ、『巨峰』については、ぶどうの一品種でもあるとの回答を得たとのことである。しかしながら今回の指摘と合わせ、慎重に検討し、重版・改訂版発行の折から直すべきは早急に直していきたいというのが当該編集部の意向である。」と記載されていた(甲第36号証の3)。
(3) 日本巨峰会による類似商標に対する登録異議申立て 日本巨峰会は、平成3年政令第299号による改正前の商標法施行令第1条別表に定める商品区分第32類の「果実」を指定商品とし、「筑後路巨峰」の文字を縦書きにした商標の商標登録出願(昭和48年商標登録願第94751号)に対し、本件登録商標を引用して登録異議の申立てを行った。特許庁審査官は、昭和55年4月22日付けで、出願に係る商標は、引用登録商標(本件登録商標)と称呼観念において類似の商標であり、その指定商品も同一若しくは類似するものであるから、出願に係る商標は商標法4条1項11号に該当するという理由で、登録異議申立ては理由あるものと決定した。(甲第13号証) (4) 日本巨峰会又は原告による警告等 ア 平成9年4月25日に開かれたJAみなみ筑後大牟田ぶどう部会の第20回通常総会において、部会員の一人が、同部会で「巨峰」と品種の異なるぶどうが「巨峰」として出荷されていることを問題とした。(甲第15号証) 平成10年4月24日ごろ、JAみなみ筑後大牟田ぶどう部会が巨峰と称して出荷する約180トン(年間)のうち約5トン(年間)が他品種のぶどうであることが判明し、本件商標権を有する日本巨峰会と本件専用使用権を有する原告が改善通知を出した。(甲第16号証) イ 日本巨峰会は、平成9年12月ごろ、山形、福島、茨城、栃木、群馬、
埼玉、千葉、山梨、長野、新潟、愛知、三重、島根、福岡、佐賀、長崎、熊本の各県経済連に対し、「巨峰出荷販売容器の商標権について」と題し、「○さて日本巨峰会本部はご承知の通り、ここ数年来財政が甚だ悪化し、その運営さえ困難な状況にあります。その原因は巨峰出荷資材会社福友産業と生産地の一部との結託により、商標権使用料が激減してきたところにあります。○そこで本会は今日意を決して、福友産業(株)を『巨峰』出荷販売容器に関する契約からはずし、昭和貿易株式会社に全面的切換えを断行しないわけにいかなくなりました。したがってこれ以外の業者による巨峰容器は商標法違反となります。○とくに昭和貿易株式会社との契約は今回専用使用権となり、外の『巨峰』容器使用は法的に厳しい処罰を科せられます。」、「巨峰商標に関しては使用者も違法となります。従来に増し日本巨峰会と共に技術面において、また出荷面において特別のご協力あるよう会員各位に説得のほど切望いたします。」などと記載した文書を送付した。(甲第17号証) ウ 原告の国内事業部巨峰資材特販チームは、原告が本件登録商標につき専用使用権の登録を受けたこと、登録商標を使用する権利のない者が登録商標又はこれと紛らわしい表示を付する行為が禁止されていること、本件登録商標を使用した原告の製品を採用するよう求めることなどを記載した書面を、次のとおり送付した。
(ア) 発送日 平成11年8月3日ごろ 送付先 福岡八女農業協同組合(福岡県) (甲第39号証) (イ) 発送日 平成11年8月4日ごろ 送付先 岩舟町農業協同組合(栃木県) (甲第40号証) (ウ) 発送日 平成11年8月5日ごろ 送付先 南波多農業協同組合(佐賀県) (甲第41号証) (5) 日本巨峰会及び原告による広告等 ア 原告は、平成10年5月30日付けの日本農業新聞に、原告の販売する包装資材や製函機の写真を掲載すると共に、「『巨峰』は商標です」、「登録商標第47類第472182号」と大きな文字で記載し、「登録商標『巨峰』に値する立派な葡萄を栽培し、そして登録商標『巨峰』を正しく活用して格差のある葡萄を市場に送り出しましょう。」、「包装の昭和貿易が『巨峰』印の葡萄を包装するための資材の取扱いを開始致しました。」などと記載した広告を掲載した。(甲第18号証) イ 日本巨峰会及び原告は、平成11年9月、本件品種のぶどうの房の写真を大きく掲載し、大きな文字で「いよいよ『巨峰』のシーズン到来!!」と記載し、それより小さな文字で「栄養週期栽培で作られたビタミンとミネラルが豊富な高品質のぶどう『巨峰』をお召し上がり下さい。」、「【商標『巨峰 』のついた本物の“おいしいぶどう”をご賞味下さい。】」と記載し、左下隅に更に小さな文字で「商標権者 株式会社日本巨峰会、専用使用権者 昭和貿易株式会社、※『巨峰』は日本巨峰会所有の登録商標第472182号です。」と記載した広告を、電車内のつり広告やスーパーマーケットに掲示した。(甲第19号証の1、
2) ウ 日本巨峰会及び原告は、平成11年ごろ、「大粒ぶどう『巨峰』は、一般呼称でなく【登録商標】です。」、「無断でブドウの出荷資材に『巨峰』という印刷した物を使用すれば違反になります。従って『巨峰』というブランドを使用されたい方は、専用使用権者である『昭和貿易株式会社』の許諾又は認許を受けたメーカーで生産された資材を使用される事になります。又、『栄養周期農法』で『品種名(石原センテ)商標巨峰』を栽培されたい方は、『株式会社日本巨峰会』の指導を受けて下さい。」などと記載したちらしを配布した。(甲第20号証) (6) 原告の商標使用契約 原告は、平成10年6月から平成14年5月までの間に、ぶどうの包装資材を製造ないし販売する各地の業者合計21社との間で、本件登録商標につき通常使用権を許諾する旨の契約を締結した(甲第21号証の1ないし20、第53号証)。
(7) 普通名称化の有無 前記の基礎となる事実(前記第2、2(1)ないし(4))と上記(1)ないし(6)の認定事実に基づき、「巨峰」という語が、ぶどうの一品種である本件品種のぶどうを表す普通名称(商標法26条1項2号)に当たるかについて検討する。
ア(ア) 前記(1)ア(ア)ないし(ト)、イ(ア)ないし(キ)のとおり、多くの書籍、統計、新聞の市場欄等において、「巨峰」という語が、ぶどうの一品種を表す名称として用いられている。これらの書籍類の中には、ぶどうや果樹、くだものに関する解説書、食品関係の書籍のほか、一般に広く使われている国語辞典、事典、
図鑑類等も多く含まれている。これに対し、「巨峰」が登録商標であることを記載した書籍等としては、日本巨峰会発行の「巨峰ブドウの開発,研究の歴史的事実」(甲第10号証。なお、同書の発行年月日は明らかでないが、同書10ないし12頁の「巨峰ブドウ(石原センテ)の歴史-年表」の欄の記載は昭和44年までの記述にとどまっている。)と日本巨峰会の代表者であるCの著作に係る「巨峰ブドウ栽培の新技術」(発行所・株式会社博友社、昭和48年1月25日第3刷発行。甲第11号証)の存在が認められ、前記(1)イ(ウ)の平成10年東京都中央卸売市場青果物流通年報(果実編)の統計表の「品目 巨峰」に「」の表示が付記されているのが認められるのみである。また、前記(1)ウのとおり、青果卸売市場の取引業者が用いる売買仕切書においても、「巨峰」、「キョホウ」の表示が、ぶどうの一品種を表す名称として用いられている。
これらの事実からすると、「巨峰」の語は、長年の間、ぶどうの一品種を表す名称として、一般消費者のほか、ぶどうの取引関係者も含む国民の間で広く認識され、使用されてきたものということができる。
(イ) 原告は、本件品種を表す普通名称は「石原センテ」である旨主張する(前記第3、2(2)ア(エ))。
本件品種が「石原早生」と「センテニアル」の交配により作出されたことは、前掲「巨峰ブドウの開発,研究の歴史的事実」(甲第10号証)及び「巨峰ブドウ栽培の新技術」(甲第11号証)のほか、「まるごと楽しむブドウ百科」(乙第1号証、前記(1)ア(ア))、「くだものの科学」(乙第2号証、前記(1)ア(イ))、「果樹生産ハンドブック」(甲第22号証の3、前記(1)ア(ウ))、「果樹園芸大事典」(甲第22号証の4、前記(1)ア(エ))、「決定版 生物大図鑑 園芸植物U 双子葉植物離弁花類・裸子植物・シダ類など」(甲第27号証の2、前記(1)ア(ト))といった書籍に記載されている。しかし、本件品種を表す語として「石原センテ」という名称が見られるのは、日本巨峰会の作成した「巨峰ブドウの開発,研究の歴史的事実」(甲第10号証)、日本巨峰会及び原告が平成11年ごろ作成したちらし(甲第20号証、前記(5)ウ)、日本巨峰会及び原告が出版社等に対して行った申入れ(前記(2))中の記載と、「新編日本食品事典」(甲第33号証の2)の「果実類」の執筆担当者が、日本巨峰会及び原告の申入れ(前記(2)ケ)を受け、「新編日本食品事典」の第2版に品種名として「石原センテ」と記載する旨述べている(甲第33号証の4)ところがあるだけである。日本巨峰会の代表者であるCの著作に係る「巨峰ブドウ栽培の新技術」(甲第11号証)においてさえ、
「巨峰ブドウの果実は、商標登録第472182号を受けている。」(30頁)という記載がある一方、「石原センテ」という名称は記載されておらず、本件品種を表すために「巨峰ブドウ」という名称を用いている。
以上の事実によれば、「石原センテ」という名称は、日本巨峰会又はその関係者によって使用されることがあるにすぎず、一般には知られておらず、本件品種を表す名称としては、一般には、「巨峰」という名称が専ら用いられてきたものと認められる。
(ウ) 前記(1)エの昭和63年3月21日付けの日本農業新聞に記載されているように、当時の系統農協は、「巨峰」という名称を普通に用いられる方法、例えば出荷容器に品種名として普通に表示することについては、本件商標権の効力は及ばないという考え方に立っていたものと解される。
イ(ア) 日本巨峰会、原告は、「巨峰」という語をぶどうの一品種を表す普通名称として用いている書籍等について、前記(2)アないしチのとおり訂正等を申し入れた。このうち、1件(アの株式会社養賢堂に対するもの)は昭和60年にされているが、他はいずれも平成10年、11年に行われている。これらの申入れは、
普通名称化を防ぐための行為であると認められ、これに対しては、前記(2)のとおり、訂正する旨の回答もあったが、回答がないものもあるし、訂正の意思のない旨の回答もあった。また、前記(1)ア(ア)、(イ)、イ(カ)、(キ)のように、未だ訂正等の申入れがされていない書籍、統計等も存在する。
(イ) 日本巨峰会は、前記(3)のとおり、本件登録商標の類似商標の商標登録出願に対して異議申立てを行った。これは、日本巨峰会が類似商標の登録を防ごうとしていたことをうかがわせるが、この異議申立てが、直ちに、普通名称化を防ぐ措置であったとは認められない。
(ウ) 日本巨峰会、原告は、平成9年以降、前記(4)アないしウのとおり警告等を行った。しかし、前記(4)アは、本件品種とは別の品種について「巨峰」という名称が使用されたことを問題としたものであり、「巨峰」という語が本件品種のぶどうを表す普通名称となるのを防止することと直接の関係があるとはいえない。
前記(4)イにより送付された文書について、その内容が、各県経済連の下部組織に周知されたことを認めるに足りる証拠はなく、また、前記(4)ウの警告等も、3農業協同組合に行われたにとどまる。
(エ) 日本巨峰会、原告は、前記(5)アないしウのとおり、広告等を行った。しかし、これらの広告はいずれも平成10年以降にされたものであるのみならず、前記(5)アの広告(甲第18号証)の掲載された新聞の発行部数や購読者の構成、前記(5)イ、ウの広告(甲第19号証の1、2、第20号証)の配布部数等は明らかではない。また、前記(5)イの広告(甲第19号証の1)は、その広告自体の態様及び実際の掲載状況(甲第19号証の2)に照らして、本件品種のぶどうの旬が到来したことを告げることに主眼があるものと認められ、これによって、「巨峰」が登録商標であることが見る者に強く印象付けられるとはいえない。
(オ) 原告は、前記(6)のとおり、平成10年以降、ぶどうの包装資材を製造ないし販売する21の業者との間で、本件登録商標につき通常使用権を許諾する旨の契約を締結した。これらの契約は、原告が本件登録商標の専用使用権を有すること、したがって、本件登録商標が有効に存在することを前提としているものといえる。しかし、弁論の趣旨(被告が、「本件品種のぶどうの1キログラム箱について、原告及び原告と契約関係にある業者のマーケットシェアは、全国で7.5パーセント程度であると推測される。」(前記第3、2(1)ア(ウ))と主張しているのに対し、原告が、積極的な反論をしていないことなど)によれば、原告及び原告と契約関係にある業者が供給している本件品種のぶどうの包装資材のマーケットシェアは、それ程大きくはないものと推認される。そのことからすると、原告が上記の通常使用権許諾契約を締結していたとしても、それによって、ぶどうの包装資材の製造業者又は販売業者の間で、本件登録商標が有効であること、ひいては、「巨峰」という語が商標であることが一般的な認識となっていたとは認められないし、ぶどう生産者の認識においても、同様と解される。
(カ) 本件登録商標は昭和30年10月27日に登録され、昭和40年ごろから、高級ぶどうとして本件品種の生産量が増え、いくつかの「巨峰」群品種も作られてきた(前記第2、2(4)イ)ことから、本件品種のぶどうは、昭和40年代から、一般消費者、ぶどう生産者、青果卸売業者など需要者の間で流通していたものと認められる。そして、前記ア(イ)のとおり、本件品種を表す名称としては「巨峰」という語しか知られていなかったことからすると、「巨峰」という語は、昭和40年代以降、長期間にわたって、本件品種のぶどうを表す名称として、需要者の間で広く使用されてきたものと認められる。
他方、日本巨峰会又は原告が「巨峰」という語が普通名称として使用されるのを防ぐために採った措置としては、昭和44年に長野地裁事件(前記第2、2(4)オ(イ))、昭和47年に東京地裁昭和47年事件(前記第2、2(4)オ(ウ))の訴えを提起したこと、前記(2)ア(イ)の申入れを昭和60年に、同イ(イ)の申入れを平成10年3月に、同ウないしタの各(イ)の申入れを平成10年6月に、
同チの申入れを平成11年に行ったこと、前記(4)イの文書送付を平成9年12月ごろ、同ウの文書送付を平成11年8月に行ったこと、前記(5)アの広告を平成10年5月、同イの広告を平成11年9月、同ウの広告を平成11年ごろ行ったこと、前記(6)の契約の締結を平成10年ないし平成14年に行ったことが認められる。しかるに、これらの措置には、前記(ア)、(ウ)、(エ)、(オ)のような問題がある上、このような普通名称化を防ぐための措置は、平成10年ごろからは比較的頻繁に採られるようになったが、昭和40年から平成10年ごろまでの約30年の間においては、ほとんど採られていなかったといわざるを得ない。
そうすると、平成10年ごろから普通名称化を防ぐための措置が頻繁に採られるようになり、前記(2)のとおり、日本巨峰会又は原告の申入れに応じて、
一部の書籍等について「巨峰」が商標である旨が記載されるに至ったとしても、それによって、約30年に及ぶ長期間にわたってぶどうの一品種を表す名称として広く用いられてきた「巨峰」という語について、現時点で、需要者に、商標としての認識をもたらすことができたとは認められない。
ウ(ア) 被告は、日本巨峰会と、昭和46年契約(前記第2、2(4)エ(イ))、昭和52年基本契約(前記第2、2(4)エ(ウ))、昭和52年付随契約(前記第2、2(4)エ(エ))、平成4年契約(前記第2、2(4)エ(カ))を締結し、前記第2、2(4)エ(キ)のように、徴収した使用料を日本巨峰会に支払っていた。このような契約関係は、本件登録商標が有効であり、その使用について使用料を支払うべきことを前提としているものといえる。しかし、昭和46年契約(前記第2、2(4)エ(イ))の第2条、昭和52年基本契約(前記第2、2(4)エ(ウ))の第3条に記載されているように、これらの契約は、被告が、日本巨峰会に代わって、包装資材の購買者であるぶどう生産者から本件登録商標の使用料を徴収し、それを日本巨峰会に支払うことを前提とするものであり、被告自身が日本巨峰会に使用料を支払うことを内容とするものではなかった。また、前記第2、2(4)エ(ク)のとおり、平成9年11月4日より後は、被告と日本巨峰会の間に契約関係はない。このようなことからすると、過去において、上記のような契約関係にあったとしても、その故に被告が商標法26条1項2号により本件登録商標の効力が及ばない旨主張することが信義則に反するとはいえない。
東京地裁昭和63年事件(前記第2、2(4)オ(エ))の和解条項一には、「使用料」と記載されているが、これは、昭和52年基本契約(前記第2、
2(4)エ(ウ))に基づいて被告が日本巨峰会に代わって包装資材の購買者であるぶどう生産者から徴収する本件登録商標の使用料を指すものであり(甲第50号証の2)、前記第2、2(4)エ(ク)のとおり、被告と日本巨峰会との間には、平成9年11月4日より後は契約関係がないから、同和解条項一に「使用料」という文言があるとしても、その故に被告が商標法26条1項2号により本件登録商標の効力が及ばない旨主張することが信義則に反するとはいえない。
(イ) 飯塚支部事件(第2、2(4)オ(ア))の判決には、「『巨峰』は、元来大粒ぶどうの一品種の商品名で、戦後日本で栽培されるようになり、おそくとも昭和三〇年代の後半頃にはその名称は一般に認識され、現在では全国的に生産販売されているものであることが認められる。」という判示部分が見られるが(甲第48号証)、この部分からは、同判決が、「巨峰」の名称をもって、ぶどうの一品種の名称と認定したのか、特定の業者の商品名と認定したのか必ずしも明らかではない。また、同判決は、第2、2(4)オ(ア)のとおり、段ボール箱に表示された「巨峰」、「KYOHO」の標章は、内容物たる巨峰ぶどうの表示であり、包装用容器たる段ボール箱についての標章の使用ではないというべきであるという理由により、仮処分の申立てを却下したものであり、「巨峰」の表示が普通名称であるかどうかについて判断したものではない。さらに、同判決添付の図面第三の包装資材には、「西日本巨峰会」、「巨峰」、「商標登録第472182号」という表示がされているが(甲第48号証)、飯塚支部事件で相手方とされた者(「飯塚段ボール株式会社」であるが、その後「福岡段ボール株式会社」となった。)の製造に係るぶどうの包装資材には、「西日本巨峰会」、「商標登録第472182号」などの表示のないものも存在することが認められるから(乙第19号証の1ないし3、弁論の全趣旨)、同判決添付の図面第三の包装資材の表示があるからといって、本件品種のぶどうの包装資材に「西日本巨峰会」、「商標登録第472182号」などの表示があるのが一般的であるとはいえない。
(ウ) 長野地裁事件(前記第2、2(4)オ(イ))、東京地裁昭和47年事件(前記第2、2(4)オ(ウ))の和解は、その条項からすると、各事件の被告(長野地裁事件では「長野県経済連」、東京地裁昭和47年事件では「飯塚段ボール株式会社」)が、各事件の原告である日本巨峰会に対し、本件商標権の無効を主張せず又はその有効であることを認め、他方、原告である日本巨峰会が、各事件の被告らに対して本件商標権侵害の責任を問わないこと等を内容としている。したがって、これらの和解をもって、各事件の被告が、「巨峰」の表示の使用により本件商標権侵害の責任を負うことを認めたということはできない。
エ 以上によれば、一般消費者、ぶどう生産者、青果卸売業者などの需要者において、「巨峰」という語は、特定の業者の商品にのみ用いられるべき商標であるとは認識されておらず、ぶどうの一品種である本件品種のぶどうを表す一般的な名称として認識されているものと認められる。したがって、「巨峰」という語は、
ぶどうの一品種である本件品種のぶどうを表す普通名称(商標法26条1項2号)に当たると認めるのが相当である。
3 争点3(「普通に用いられる方法」に当たるか)について 被告標章1は、漢字の「巨峰」の文字を毛筆体によって横書きに記載したもの、被告標章2は、漢字の「巨峰」の文字をゴシック体で横書きに記載したものであり、いずれも、その文字の形態や表記の態様に顕著な特徴があるとはいえず、本件品種のぶどうを表す「巨峰」という普通名称を、「普通に用いられる方法」で表示したものと認めるのが相当である。
被告標章3は、アルファベットの大文字で「KYOHO」という文字を横書きに記載したものであり、その文字の形態や表記の態様に顕著な特徴があるとはいえない。「KYOHO」という文字は、本件品種を表す「巨峰」という普通名称称呼である「キョホウ」を、ローマ字により表記したものである。したがって、被告標章3も、本件品種のぶどうを表す「巨峰」という普通名称を、「普通に用いられる方法」で表示したものと認めるのが相当である。
4 結論 以上によれば、被告標章は、本件登録商標の指定商品である「葡萄」に当たる本件品種のぶどうを表す普通名称を、普通に用いられる方法で表示したものと認められる。したがって、商標法26条1項2号により、本件商標権の効力は、被告標章に及ばず、本件専用使用権の効力も、被告標章に及ばないというべきである。
よって、原告の本訴請求は、いずれも理由がないから棄却する。
裁判長裁判官 小松一雄
裁判官 中平健
裁判官 田中秀幸