関連審決 | 審判1999-35679 |
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関連ワード | 識別力 / 指定商品 / 普通名称(3条1項1号) / 記述的商標(3条1項3号) / 3条2項 / 周知性 / 品質誤認(4条1項16号) / |
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事件 |
平成
13年
(行ケ)
574号
審決取消請求事件
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原告 森下仁丹株式会社 訴訟代理人弁理士 青山葆 同 樋口豊治 同 大西育子 同 西津千晶 被告 有限会社亜羅仁館 訴訟代理人弁護士 清水三郎 同 吉能平 同弁理士 水野善夫 |
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裁判所 | 東京高等裁判所 |
判決言渡日 | 2002/10/31 |
権利種別 | 商標権 |
訴訟類型 | 行政訴訟 |
主文 |
原告の請求を棄却する。 訴訟費用は原告の負担とする。 |
事実及び理由 | |
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当事者の求めた裁判
1 原告 (1) 特許庁が平成11年審判第35679号事件について平成13年11月12日にした審決を取り消す。 (2) 訴訟費用は被告の負担とする。 2 被告 主文同旨 |
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特許庁における手続の経緯及び審決の理由
以下は,当事者間に争いがなく,かつ,証拠(弁論の全趣旨を含む。)によって認定できる事実である。 1 特許庁における手続の経緯等 登録第4185783号の商標(以下「本件商標」という。)は,「サラシア」の片仮名文字を横書きして成るものであり,指定商品を第30類「茶」として,平成8年8月12日,登録出願され(以下「本件出願」という。),平成10年5月28日の査定(以下「本件査定」という。)を経て,同年9月11日に登録された(以下「本件登録」という。)。本件登録当時の商標権者は,ランカアーユルベーディックハーブ薬品株式会社(以下「原商標権者」という。)であった。本件登録に係る商標権は,その後,コマニー株式会社に譲渡され,さらに,その後,原告に譲渡され(いずれの譲渡についても,その登録は平成12年4月5日),今日に至っている。 被告は,平成11年11月19日,本件登録を無効にすることについて審判の請求をした。特許庁は,これを平成11年審判第35679号として審理し,その結果,平成13年11月12日,「登録第4185783号の登録を無効とする。」との審決をし,その謄本を,平成13年11月22日原告に送達した。 その間,一部放棄により本件登録が一部抹消され,その結果,平成12年10月11日,指定商品を,第30類「サラシアレティキュラータ,サラシアオブロンガ又はサラシアプリノイデスのエキスを主原料とする茶」とするとの登録がなされた。 (甲第1号証及び第2号証,第28号証の1ないし3,第29号証の1ないし3,弁論の全趣旨) 2 審決の理由 審決の理由は,別紙審決書の写しのとおりである。要するに,「サラシア」の語は造語ではなく,「スリランカの特定地域とインド南部に存在する藤の木のようなツル性植物でその根と茎が糖尿病の治療に効果を有するサラシアレティキュラータ」の略称であって,本件査定のころ,「健康食品,茶」等に関し,その商品の原材料として使用されるものであることが,取引者・需要者間に広く知られていたから,本件商標を,指定商品中「サラシアを原料とする茶」について用いるときは,単にその商品の品質,原材料を表示するものとなり,これ以外の「茶」に使用するときは,その商品の品質について誤認を生ずるおそれがあるものとなって,本件登録は,商標法3条1項3号及び4条1項16号に該当する,というものである。 |
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原告主張の審決取消事由の要点
審決は,本件査定時における,「サラシアレティキュラータ,サラシアオブロンガ,サラシアプリノイデス」という植物及びこれの略称としての「サラシア」の文字の周知性,本件商標の自他商品識別力の存否,についての事実を誤認し,そのため,本件商標の商標法3条1項3号,4条1項16号該当性についての判断を誤ったものである。 1 商標法3条1項3号該当性 (1) サラシアレティキュラータ,サラシアオブロンガ,サラシアプリノイデス(以下「本件植物」ということもある。)という植物の薬効(腸内での糖の分解とその吸収を阻止する作用)に着目し,これらを主材とする食品(茶等)を,平成10年3月に,日本で初めて製造,販売したのは,原告である(甲第3号証)。 (2) 日本においては,原告が,本件植物を紹介するまで,一部の学識者のみがそれを知っていたに過ぎず,一般需要者,取引者が,「サラシア」の文字に接する機会はなかった。 本件査定時において,「サラシア」の文字が,植物の普通名称又は原材料の表示として,日本の需要者の間で一般的に知られていた,ということはない。 (3) 平成10年2月20日発行「健康の王国」(健康の王国愛読者クラブ発行)(甲第4号証,審判甲第7号証)において,「サラシア」が,「サラシアレティキュラータ」という植物の名称の略称であるかのように使用されているのは,事実である。しかし,これは,当該記事の執筆者の理解不足によるものである。 このような誤りの他の例として,同じ上記「健康の王国」において,登録商標である「ギムネマ」が,「ギムネマ・シルベスタ」という植物の略称であるかのように使用されているものを挙げることができる(甲第4号証)。 「健康の王国」に上記のような誤った記事が掲載されたとはいえ,この記事の掲載後,本件査定時までには,わずか3か月と8日しかない。この間に,「サラシア」という文字が,「サラシアレティキュラータ」の略称として一般需要者の間に広まった,などということはない。 (4) 平成10年5月25日発行「産経新聞」(甲第8号証,審判甲第8号証)の広告は,原告自身が出したものであり,そこでも,「サラシア」という文字が,本件植物の略称であるかのように使用されている。しかし,原告は,その後,「サラシア」の文字の使用方法を是正した上,「サラシア」を普通名称であるかのように使わないように注意を呼び掛けるなどして,本件商標の自他商品識別力喪失を防止するための努力を続けている(甲第3号証,乙第15号証の2及び3)。 本件査定日は上記広告のわずか3日後である。その間に,この広告により,「サラシア」の文字が,「サラシアレティキュラータ」の略称として広く認識されるに至ったなどということはあり得ない。 (5) 甲第9号証ないし第13号証(審判甲第11号証,第12号証,第15号証,第17号証,第18号証)の新聞,雑誌記事は,いずれも,本件査定時より後のものである。 のみならず,これらは,いずれも,A(以下「A」という。)を情報の発信源とするものである。Aは,もと原告の取締役研究開発部長であり,その後,財団法人生産開発科学研究所に籍を置いた。本件植物の研究は,原告が同研究所に委託してさせたものである。 Aは,前記研究を,同人が独自にしたものであるかのように,雑誌・新聞に発表した上,それらにおいて,「サラシア」の語を,「サラシアレティキュラータ」の略称であるかのように誤用したものである。 上記各証拠がこのようなものである以上,これらを,「サラシア」が本件植物の略称として認識されていたと認定するための資料とすることはできない。 (6) 甲第16号証(審判甲第16号証)は,平成11年2月18日発行の新聞の記事であり,本件査定前に,本件植物を原材料とする茶が「サラシア茶」として呼称されていたことを証明するものではない。 (7) 本件査定当時,日本で刊行された辞典等で,「サラシア」という語を含むものは見当たらない(甲第17号証ないし第26号証)。 (8) 以上のような状況の下で,「サラシア」の語は,本件査定当時,一部の学識者の間において知られていたのを除き,植物の名称(略称を含む。)などとしては,一般に知られておらず,したがって,本件商標の当時の指定商品「茶」について自他識別力を有していた。 2 商標法4条1項16号該当性 上記のとおり,本件商標は,本件査定当時,指定商品「茶」について自他商品識別力を有していた。上記識別力は,その後も,原告の営業努力により拡大し続けている。したがって,本件商標を,粉末又は顆粒状の乾燥した本件植物を主原料とする茶以外の茶に使用しても,品質の誤認を生ずるおそれはない。 なお,平成12年10月11日,本件登録は一部抹消され,指定商品は,「サラシアレティキュラータ,サラシアオブロンガ又はサラシアプリノイデスのエキスを主原料とする茶」に減縮されている。 |
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被告の主張の要点
1 商標法3条1項3号該当性の主張に対して (1) 本件植物を原材料とする製品を,日本で初めて製造・販売したのは被告である。 (2) 特定の種類に属する植物を,その属名や独立性ある冠頭部分をもって略称することは,一般に行われていることである(乙第19号証)。 本件商標も,「サラシアレティキュラータ,サラシアオブロンガ,サラシアプリノイデス」の冠頭部分を流用し,あるいは省略したものにすぎない。 (3) 原告自身,本件植物を原材料として製品の製造・販売を開始したとする平成10年3月の時点で,「サラシア」を,本件植物の略称として使用していた(甲第8号証)。 原告は,本件植物についての「市場の先駆者」というのであるから,本件植物の名称,性状,市場での認知状況について詳細で正確な情報を得ており,また,いかなる名称で商品化するについても,十分な調査・準備をしていたはずである。 そのような原告が,「サラシア」を誤って普通名称として認識することはあり得ない。 (4) 甲第4号証(平成10年2月20日発行「健康の王国」の記事)の情報源は,原告の営業部である。一般に,企業が記者の取材を受け,それが記事となるときは,記事となる前に校訂をする機会があるものであるから,担当者が誤解して,それがそのまま記事となったというのは不自然である。上記記事の内容は,その当時における原告自身の認識・理解を示すものと認めるべきである。 その内容は,その後,平成10年5月25日に発行された産経新聞の記事とも類似している(甲第8号証)。原告は,平成11年6月に,マスコミに対し,「サラシア」の文字の使用について是正を申し入れたにもかかわらず,その1年後にも,「サラシア」が本件植物の略称であるかのように使用している(乙第15号証の2,3,5,第16号証ないし第18号証)。これらのことからも,本当のところは,原告自身も,「サラシア」が本件植物の略称であると理解していたものと推認することができる。 (5) 原告の主張によれば,Aは本件植物に関する専門的な知識を有している,原告の関係者である。そのような人物が「サラシア」を植物の名称と認識しているということは,そのような認識が一般的であったことを裏付けるものである。 (6) 甲第9号証ないし第13号証は,本件査定後のものであるとはいえ,いずれにおいても,「サラシア」が植物の名称として使用されている。これは,本件査定時においても,「サラシア」が植物の名称として知られていたことを裏付ける事実というべきである。 (7) 以上のとおりであるから,「サラシア」は,本件査定当時,需要者に,本件植物を示す名称ないし略称として知られていたものということができる。これが,「茶」について自他識別力を備えていたということはない。 2 商標法4条1項16号該当性の主張について 「サラシア」という文字は,本件査定時において,本件植物の略称として一般に使用され,かつ,これを原材料とする商品の品質・原材料を表示するものとして使用されてきた。原告自身,本件植物を材料としない商品に,本件商標を使用したことはない。 したがって,本件商標を,「サラシアレティキュラータ,サラシアオブロンガ又はサラシアプリノイデスのエキスを原材料とする茶」以外の茶に使用すれば,品質の誤認を生じることは明らかである。 |
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当裁判所の判断
1 本件植物の来歴等 (1) 本件植物は,インドやスリランカに自生するニシキギ科の植物で,5000年の歴史を持つインド古代伝承医学であるアーユルヴェーダ(サンスクリット語の,"Ayrus"「生命」と"Veda"「科学・知識」の合成語)において,ぜんそく,淋病,虫刺され,耳の疾患などに対する薬効を持つ生薬とされてきた。現在でも,インドやスリランカなどの生産地で薬として用いられているほか,後記のとおり,糖尿病にも有効であるとの研究がなされてきている。 (2) 下記のとおり,近時の研究で,本件植物の中に含まれる成分が,糖質の分解を抑制し,その吸収を阻害するなどの作用を持つと考えられるようになり,糖尿病の治療薬,ダイエット食品の原料として注目されている。 @ 米国特許第5691386号(平成9年11月25日登録)において,サラシア属("Salacia spp.")の植物(サラシアオブロンガ,サラシアレティキュラータ)から単離された,血糖低下作用のある組成物の精製物に関する特許が登録されている。 なお,この特許公報には,サラシアの血液浄化作用の研究結果が1954年に,糖尿病に対する薬理作用の研究結果が1969年に,それぞれ公刊されているとの記載がある。 A 原告に所属する研究グループ(一部の研究者は共通している。)は,次のような論文を順次発表している。 ア 平成10年5月19日に,「スリランカ有用植物サラシア・レティキュラータ(Salacia reticulata)水抽出物のラット及びヒトの食後過血糖に及ぼす作用」と題する論文が,日本栄養・食糧学会に提出され,同学会誌51巻5号279頁以下に掲載されている。この論文では,「サラシア」より抽出した水エキスの血糖抑制作用の作用特性,糖質の消化に関係する酵素に対する阻害作用等について述べられている。 イ 食品衛生学雑誌40巻3号別冊(平成11年6月号)に,「ニシキギ科植物サラシア幹抽出エキスの安全性」と題する論文(平成10年9月21日提出)が掲載されている。この論文では,サラシア幹抽出エキスについて,ラットを用いた実験に基づき,サラシアの急性毒性と変異原性に関する知見が述べられている。 ウ 日本栄養・食糧学会誌53巻4号(平成12年発行)に,「サラシア・レティキュラータ(Salacia reticulata)水抽出物のラットにおける高脂血症予防作用」と題する論文(平成11年12月9日提出,平成12年7月8日受理)が掲載されている。この論文では,サラシア幹抽出エキスについて,ラットを用いた実験に基づく,血中トリグリセリド(TG)降下作用等について述べられている。 (甲第4号証,第8号証,乙第1号証,第2号証,第3号証,第4号証,第5号証,第8号証,第14号証,第16号証,第17号証,第18号証) 2 「サラシア」の文字の使用態様 (1) 雑誌「健康の王国 ダイエット特集号」(平成10年2月20日発行)には,「「サラシア」はラテン名でサラシアレティキュラータ。スリランカの特定地域とインド南部に存在し,分布は非常に限定されています。」,「「サラシア」ってどのような植物なのですか。」など,「サラシア」を,本件植物の名称ないし略称のように使用した記載がある。「サラシア」の文字が,原告の商品に付された商標であるかのように使用された記載はない。 (2) 原告は,平成10年3月に,本件植物を原材料とした食品等を発売した。 ただし,本件査定時前に,「サラシア」の語をどのように用いて,商品の販売を展開したかについて,これを具体的に示す証拠はない。 (3) 平成10年5月25日発行の産経新聞には,「「サラシア」で健康ダイエット」との表題で,本件植物及びこれを使用した食品の紹介がなされ,その中には,「森下仁丹では・・・「サラシア」に注目した。サラシアは,スリランカやインド南部の高地のごく一部に生える藤の木のようなツル性の植物。インドでは,その葉を煎じたり,サラシアの幹で作ったカップに寝る前に水を入れ,・・・」など,「サラシア」を,普通名称のように使用した記載がある。 同記事の下欄には,原告の広告があり,その中には「「サラシア」とは耳慣れないことばですが,インドやスリランカなど限定された地域にだけ原生するつる科の植物で,・・・」との記載がある。 同記事の中には,「同社(判決注 原告を指す。)では・・・「サラシアダイエット茶」を開発した。」との部分があり,前記広告中には,「サラシアダイエット」との片仮名文字と「SALACIACARE」の欧文字等を組み合せたデザイン(図案)の表示がある。 (4) 平成10年5月18日発行及び同年11月24日発行の日経金融新聞は,それぞれ,原告に関するものとして,「ダイエット用食品「サラシア」」も発売」,「ダイエット用食品「サラシア」の販売を本格化」という,「サラシア」の文字を商標として用いたと読める記載がある。 (5) 原告は,平成11年6月に,「サラシア」の文字は,原商標権者と原告が登録商標として共同で管理していることを挙げて,これを使用するときは,登録商標であることを明記するように,マスコミなどに求めている。 しかし,その後にも,原告自身,「サラシア水抽出物を1錠に40mg含む錠剤」と,「サラシア」を,原告の製品ではなく原材料である本件植物を指すために用いたこともある。 (6) 本件査定後も,雑誌等では,「サラシア」は,本件植物を示す普通名称ないしその略称として用いられていることがある。 (甲第4号証,第8号証,第9号証,第11号証ないし第13号証,乙第1号証,第15号証の1ないし5) 3 判断 (1) 本件植物の名称「サラシアレティキュラータ,サラシアオブロンガ及びサラシアプリノイデス」は,共通の冠頭部分「サラシア」を有している。そうだとすると,本件植物が,サラシア属として分類され,その結果,学術上のみならず,一般社会においても,「サラシア」と呼称されるということは,このような場合に一般によくあることに照らして,いかにも生じやすいことということができる。現に前記認定のとおり,その多くは本件査定後の事実であるとはいえ(一部には,本件査定前のものもある。),本件植物は,しばしば「サラシア」として引用されている。 (2) 本件植物そのもの,「サラシアレティキュラータ,サラシアオブロンガ,サラシアプリノイデス」というその名称及びそれらが一定の薬効を持つことは,当該分野の学識者の間では,古くから知られており,その薬効に関する近代的な研究も,海外においてではあるものの,遅くとも,本件査定より約40年程度前からなされ,公表されていた。 日本においても,原告の研究グループが,平成10年5月19日に,本件植物の血糖抑制作用等に関する論文を学会誌に提出していることからすれば,原告は,これより相当前に,本件植物に注目し,その研究を進めてきていたことが,明らかである。 以上のとおり,本件植物が古くから知られ,海外において,その薬効に関する近代的な研究も積み重ねられ,日本においても,原告が,本件査定に先立ち本件植物の研究をし,論文を作成し公表するまでに至っていることからは,本件査定当時,この分野の学識者はもとより,原告を含めて,この種の健康食品の製造・販売にかかわる取引者の間においても,本件植物は,その名称とともに,知られていたと認めることができる。 (3) 上記状況の下では,本件査定当時,「サラシア」の語は,「茶」という商品との関係においては,原材料を示すという意味を有する語であったということができ,本件商標は,商標法3条1項3号に該当するものであったというべきである。 原告は,商標法3条1項3号に該当するためには,「サラシア」の語が「茶」の原材料を示すことが,学識者や取引者のみならず,一般需要者にも知られていることが必要であることを前提に,論を進めている。 しかしながら,少なくとも,本件植物との関係における「サラシア」のように,原材料が何であるかを一般需要者に示すための語として他のものを考えることが困難な語(あるいは,少なくとも,原材料が何であるかを示すのによく適しているといい得る語)については,査定当時,当該語がそのような意味を有するものとして一般需要者に既に知られるに至っていることは,商標法3条1項3号に該当するための要件とはならないというべきである。このような語は,まだ一般需要者に知られていないにせよ,それは,当該語が示す物を用いた商品自体が知られていないがゆえにほかならず,そのような商品が知られるに至れば,これの原材料を示すものとして用いられることにならざるを得ない。このような語に商標権という形で独占権を認めることになれば,当該語を用いた商標の独占の名の下に,当該語の示す物を原材料に用いた商品自体の独占を許すことにもなりかねず(商標法26条1項の存在は,これを防ぐに十分なものではない。),当該語が示す物を原材料とした商品が一般に知られるに至れば,一番需要者の間でも,これを用いた商標の自他識別力は失われ,商標としての当該語の使用は,混乱の原因となることがほとんど必定である。このような結果の発生を事前に防ぐことも,商標法3条1項3号の目的の一つであるというべきである。 (4) 仮に,原告の主張する上記前提が認められるとしても,本件査定の約3か月前に雑誌,3日前に新聞で,本件植物及びその薬効が紹介され,かつ,そこでは,「サラシア」の文字が,本件植物の普通名称ないし略称として用いられていることからは,「サラシア」は,本件査定当時,日本において,茶を含む食品の原材料である本件植物を指すものとして相当に知られるに至っていたものと認めることができる。 被告は,前記各雑誌,記事の公表から本件査定時までの期間は短く,需要者に広く知られるに至ることはない旨主張する。 しかし,前記のとおり,もともと,本件植物は,ダイエット食品の原材料として,本件査定の前から取引者の間で注目されていたと認められる上,近時,健康意識の高まりから,健康食品及びその素材は,日本において,多数の人から高い関心を寄せられていることからすれば,甲第4号証のような健康に関する雑誌で3か月以上前に紹介され,甲第8号証のような全国紙で3日前に紹介された「サラシア」が,本件査定時までに相当に広く認識されるに至ることは,不自然なことではない。 (5) 次に,念のために,商標法3条2項の該当性について検討する。 本件で,原告が提出する,本件商標の使用態様に関する証拠は,ほとんどが本件査定後のものである。 本件査定前の事情を証するものとして,甲第3号証及び第8号証(とりわけ原告の広告部分)がある。しかし,これらにより,原告が,平成10年3月に,本件植物を原材料とした健康食品の販売を開始したとの事実は認められるものの,これらによっても,原告が,「サラシア」の文字を商標として明確に用いたことは認められず,まして,それが自他商品識別力を備えていたと認めることはできない。 甲第14号証も本件査定前のものであり,これは,「サラシア」の文字が本件商標として使用されていると認識し得るものである。しかし,この日経金融新聞の発行部数,購読者層が明らかでない上,少なくとも,甲第4号証及び甲第8号証の記事の体裁と比較すると,読者への訴求力が明らかに劣るものであって,甲第14号証(及び,本件査定後のものではあるが,同種の第15号証)からでは,本件査定時において,本件商標が商標として認識され,自他商品の識別力を獲得していたと認めることはできない。 本件査定後,原告は,本件商標の自他商品識別力を確保するため,種々の努力を重ねている(甲第3号証,乙第15号証の2及び3)。しかし,他方,前記のとおり「サラシア」が普通名称ないし本件植物の略称として用いられている例も多々あり,結局,これらの事実を総合すると,本件商標が使用された結果,自他商品の識別力を獲得するに至っていた,と認めることはできないということになる。 (6) なお,本件商標の指定商品は,平成12年10月11日,「サラシアレティキュラータ,サラシアオブロンガ又はサラシアプリノイデスのエキスを主原料とする茶」と限定されているから,原材料について誤認混同を生ずることはなく,商標法4条1項16号には該当しない。 しかし,前記のとおり,同法3条1項3号に該当し,同条2項に該当しない以上,審決の結論は左右されない。 4 結論 以上のとおりであるから,原告の主張の取消事由には理由がなく,その他,審決には取消しの事由となるべき誤りは認められない。そこで,原告の本訴請求を棄却することとし,訴訟費用の負担について,行政事件訴訟法7条,民事訴訟法61条を適用して,主文のとおり判決する。 裁判長裁判官 山 下 和 明 裁判官 阿 部 正 幸 裁判官 高 瀬 順 久 |