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関連審決 取消2000-30284
関連ワード 指定商品 /  不使用 /  通常使用権 /  称呼(称呼類似) /  観念(観念類似) /  国内 /  並行輸入 /  使用許諾 /  存続期間 /  更新登録 / 
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事件 平成 14年 (行ケ) 174号 審決取消請求事件
原告 株式会社エィヴィック
訴訟代理人弁理士 藤沢則昭
同 藤沢正則
被告 エーアンド エフ トレードマーク インコ ーポレーテッド
訴訟代理人弁護士 松浦康治
同 斎藤三義
裁判所 東京高等裁判所
判決言渡日 2002/10/29
権利種別 商標権
訴訟類型 行政訴訟
主文 原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
当事者の求めた裁判
1 原告 特許庁が取消2000-30284号事件について平成14年3月5日になした審決を取り消す。
訴訟費用は被告の負担とする。
2 被告 主文と同旨
当事者間に争いのない事実
1 特許庁における手続の経緯 被告は,商品区分第17類「被服(運動用特殊被服を除く)布製身回品(他の類に属するものを除く)寝具類(寝台を除く)」を指定商品とする,「アバークロンビーアンドフイッチ」の片仮名文字を横書きして成る登録第2107509号商標(昭和56年11月14日商標登録出願,平成元年1月23日商標登録,平成10年9月8日存続期間更新登録。以下「本件商標」という。)の商標権者である。
原告は,平成12年3月10日,被告を被請求人として,商標法50条の規定に基づき,本件商標の登録中,その指定商品中「被服(運動用特殊被服を除く)」に関する部分を取り消すことについて審判を請求し,この請求は,平成12年4月19日に登録された。特許庁は,同請求を取消2000-30284号事件として審理し,その結果,平成14年3月5日,「本件審判の請求は,成り立たない。審判費用は請求人の負担とする。」との審決をし,その謄本は同年3月15日に原告に送達された。
2 審決の理由 審決は,別紙審決書写しのとおり,被告は,訴外アバークロンビー アンド フィッチ インク(以下「フィッチ社」という。)に対し,「ABERCROMBIE & FITCH」標章の全世界における使用権を付与したと認められるから,フィッチ社は本件商標の使用権者であるということができ,そのフィッチ社が,日本の消費者に対し,商品カタログによる通信販売により,「Abercrombie & Fitch」標章を付した被服等を販売し,本件審判の請求の登録前3年以内に,日本国内において,本件商標と社会通念上同一と認められる「Abercrombie & Fitch」標章を,本件商標の指定商品に含まれる「被服(運動用特殊被服を除く)」について使用していたものと認められ,したがって,本件商標の登録中,その指定商品中「被服(運動用特殊被服を除く)」に関する部分を商標法50条の規定に従って取り消すことはできない,と認定した。
原告主張の審決取消事由の要点
審決は,フィッチ社が本件商標の使用権者である,と誤って認定し(取消事由1),フィッチ社の商品カタログによる被服等の販売行為が,日本における本件商標の使用に当たる,と誤って認定し(取消事由2),さらに,フィッチ社が使用している「Abercrombie & Fitch」標章は,本件商標と社会通念上同一の商標である,と誤って認定し(取消事由3),その結果,誤った結論に至ったものであるから,取り消されるべきである。
1 取消事由1(本件商標についての使用許諾契約の不存在) 審決は,被告は,「1995年(平成7年)4月1日にフィッチ社との間で商標保護契約を締結し,同社に対し「ABERCROMBIE & FITCH」標章の全世界における使用権を付与したことが認められる。したがって,フィッチ社は,被請求人から本件商標の使用を許諾された使用権者であって,本件商標に関する通常使用権者ということができる。」と認定した(審決書10頁)。しかし,フィッチ社は,上記商標保護契約(以下「本件契約」という。)によっても,本件商標については,被告から使用許諾を受けていないのであり,審決の認定は,誤りである。
本件商標は,本件契約により許諾の対象とされた商標には含まれていない。
すなわち,本件契約の契約書においては,許諾の対象となるすべての商標がその契約書の添付書Aのリストに登録番号又は出願番号とともに記載されるものとされているにもかかわらず,本件商標は,その添付書Aのリストには記載されていないのである。しかも,本件契約においては,添付書Aのリストを変更する場合には,被告及びフィッチ社の授権された役員により署名され,日付けが記入された修正添付書Aを作成しなければならない,と定められているにもかかわらず,本件契約においては,本件商標を含む修正添付書Aは作成されていない。したがって,本件商標は,被告からフィッチ社に対し使用許諾されていないのである。
2 取消事由2(本件商標の不使用) 審決は,「日本における消費者二人(A氏,B氏)は,…「Abercrombie & Fitch」…ブランドに関する商品カタログを入手し,これにより「Abercrombie & Fitch」の標章が付された商品「被服」を,1998年8月10日及び1999年12月5日に,フィッチ社に対しファックスにより注文し,これを受けてフィッチ社は,注文確認書を発し,次いで商品を納品し,通信販売の取引がなされたことを認めることができる。また,購入者リスト…に記載された約6000件の購入についても,同リストには氏名,住所,アカウントナンバー,最終購入日,購入回数,最終購入金額,クレジットカード使用の有無等を記載している事項からして,前記二人の消費者と同様に通信販売の商品取引がなされたことが推認できる。」(審決書11頁)と認定した。しかし,この認定は誤りである。
(1) 被告ないしフィッチ社の商品カタログは,我が国において販売されておらず,直接,米国法人である被告に注文し,これを有償(年間4回発行で76ドル)で購入しないと入手できないものである。このように,我が国において販売されていない商品カタログにより,商品を海外から個人輸入したとしても,この商取引は,商標権者の意思に基づくものではなく,また,我が国の商品流通経路に乗るものではないので,我が国における商標の使用とは認められない。
また,被告ないしフィッチ社の商品カタログは,米国に注文する以外には入手することができないものであるから,同カタログを有償で頒布する行為は,商標法上の取引書類の頒布行為には当たらない。
(2) 日本における消費者二人(以下「A」及び「B」という。)が,「Abercrombie & Fitch」標章を付した商品を輸入した,と認めるに十分な証拠はない。
3 取消事由3(本件商標との同一性) 審決は,「同カタログの使用標章「Abercrombie & Fitch」と本件商標は社会通念上同一のものと認められる。」(審決書11頁)と認定判断した。
しかし,フィッチ社が使用している「Abercrombie & Fitch」標章と,本件商標の「アバークロンビーアンドフィッチ」標章は,社会通念上同一の商標ではない。すなわち,「Abercrombie & Fitch」標章を付した商品は,我が国において,一般に販売されたり,広告されたりしていないため,同標章から,本件商標と同一の称呼が生じるとは限らない。また,両商標からは,同一の観念も生じない。英語表記の標章と片仮名表記の標章とが,社会通念上同一であると判断されるためには,英語標章の称呼及び観念が一般消費者に認識されている必要があるというべきである。
被告の反論の骨子
審決の認定・判断は,正当であり,審決に原告主張のような違法はない。
1 取消事由1(本件商標についての使用許諾契約の不存在)について 本件商標は,本件契約の添付書Aに記載されている「ABERCROMBIE & FITCH」商標と同一である。したがって,被告が,本件契約により,フィッチ社に対し,日本における本件商標の使用を許諾していることは,明らかである。
2 取消事由2(本件商標の不使用)について フィッチ社は,日本の消費者に対し,商品カタログを頒布し,通信販売により,本件商標と社会通念上同一の商標である「Abercrombie & Fitch」標章を付した被服等を販売し,日本において本件商標を使用している。
3 取消事由3(本件商標との同一性)について 「Abercrombie & Fitch」標章は,これを発音どおりに表記すれば,「アバークロンビー アンド フィッチ」となる。したがって,上記標章は,本件商標と称呼が同一であり,社会通念上同一の商標である。
当裁判所の判断
1 証拠及び弁論の全趣旨によれば,次の事実が認められる。
(1) 被告は,被服製品を製造販売し,ニューヨーク証券取引所に上場しているフィッチ社の商標管理を目的とする会社である。フィッチ社は,被告の資本の全額を出資しており,被告は,フィッチ社の子会社である。被告は,1995年(平成7年)4月1日,フィッチ社との間で本件契約を締結し,被告が,フィッチ社に対し,被服等について,店舗及びカタログによる小売業に関連して,本件契約で定めた商標(以下「契約商標」という。)の全世界における非排他的使用を許諾すること,契約商標には,「ABERCROMBIE & FITCH」商標が含まれること,被告は,フィッチ社の要求により,契約商標を米国と米国以外の地域においても登録し,維持すべきこと等を合意した。
(甲1号証) (2) 「Abercrombie & Fitch」は,もともと1892年創業のアウトドア用品及びスポーツ用品の老舗であった。その事業は,その後,衰退したものの,現在では,フィッチ社が,「Abercrombie & Fitch」標章を付した被服等の商品を,店舗での販売及び商品カタログによる通信販売により販売をすることにより,同標章の付された商品は,米国において若者を中心に人気のある商品となり,日本でも1997年ころから若者を中心に人気が出てきている。
(乙4号証,乙5号証の1・2,乙6及び7号証) フィッチ社は,日本において店舗を有していないものの,日本の消費者に対し,1999会計年度(1999年2月ないし2000年1月)には,17万5606冊の商品カタログを頒布し,これにより「Abercrombie & Fitch」標章を付した被服等の商品を,78万6350米ドル相当分,通信販売の方法により販売し,また,2000会計年度(2000年2月ないし2001年1月)には,9万2487冊の商品カタログを頒布し,「Abercrombie & Fitch」標章を付した被服等の商品を,34万5329米ドル相当分,通信販売の方法により販売した。また,フィッチ社は,インターネット・サイト(www.abercrombie.com)において,電子商取引を運営し,1999年7月ないし2000年3月にかけて,日本の消費者に対し,「Abercrombie & Fitch」標章を付した被服等の商品を,9万8158米ドル相当分,販売した。
(乙3号証) 通信販売用の商品カタログにより,フィッチ社から「Abercrombie & Fitch」標章を付した被服等の商品を購入した日本の消費者は,1997年から2000年にかけて,審決で認定されているA及びBの2名も含め約5500名以上になる(A及びB両名が,フィッチ社から,通信販売の方法により,「Abercrombie & Fitch」標章を付した商品を購入したとの事実は,下記証拠から優に認められる。)。
(甲2ないし4号証,甲5号証の1・2,甲6号証,甲7号証の1・2,乙8号証,乙9号証の1ないし6) (3) 「Abercrombie & Fitch」標章及び「ABERCROMBIE & FITCH」商標と本件商標は,大文字か小文字,あるいはアルファベットの書体の差異があるだけであるから,いずれも社会通念上同一の商標と認められる。
2 取消事由1(本件商標についての使用許諾契約の不存在)について 被告とフィッチ社は,上記1認定のとおり,本件契約において,被告がフィッチ社に対し,契約商標について,全世界における非排他的使用許諾をすることを合意し,また,契約商標には,「ABERCROMBIE & FITCH」商標が含まれること,及び,被告は,フィッチ社の要求により,契約商標を米国と米国以外の地域においても登録し,維持すべき義務を負うことを合意したものである。
被告は,平成元年1月23日には,日本において本件商標を設定登録し,これを有していたのであるから,平成7年においてフィッチ社に対し「ABERCROMBIE & FITCH」商標の全世界における使用許諾を認めている本件契約においては,これと社会通念上同一の商標であると認められる本件商標が,その使用許諾の対象に含まれていたものであると解すべきことは当然である(本件商標を本件契約の契約商標から除外すべき理由は,全く見受けられない。)。ただし,本件契約の契約書の添付書Aには,「ABERCROMBIE & FITCH」商標のものに,「A & F」商標及び「A & F CO & Design」商標のものを加えた3種類の商標と,それぞれの商標を特定するための登録番号が記載されており,「ABERCROMBIE & FITCH」商標については,商標登録番号951410,1178609及び商標出願番号74/725849が記載されているものの,本件商標の登録番号の記載はない(甲1号証)。しかし,同添付書Aの商標登録番号には,登録国の記載が一切ないこと,及び,被告は,フィッチ社の要求により,契約商標を米国と米国以外の地域においても登録し,維持すべき義務を負うことを合意していることからすれば,そこに記載された商標登録番号は,契約商標を特定するために,便宜上,米国における商標登録番号等を中心として記載したものであるにすぎないものと推認するのが相当であり,被告が米国以外の各国において有していた契約商標の登録番号のすべてを網羅して記載したものとまで認めることはできない。したがって,本件契約の契約書の添付書Aは,その登録商標を標章により明示した点に主たる意味があるのであり,契約書の対象となる商標及び指定商品等を特定するために,米国を中心とした商標登録番号,出願番号を便宜上記載しただけであり,被告が本件契約締結時に有していた世界各国の登録商標又は出願中の商標は,添付書Aに記載された標章と社会通念上同一と認められ,その指定商品を共通にするものである限り,その登録番号等の記載がなくとも,当然に,本件契約による許諾の対象となる契約商標に含まれていたものと解すべきである。なお,本件契約においては,その添付書Aの変更のためには,別途,書面による契約の締結が必要であるとの厳格な手続が定められているけれども,本件契約がこのような厳格な手続を要求している添付書Aの変更とは,上記3種類の標章から成る商標と異なる商標若しくは指定商品が全く異なる商標を,本件契約の許諾の対象に含める場合に必要な手続である,と解すべきである。
3 取消事由2(本件商標の不使用)について フィッチ社がその商品カタログを日本の消費者に頒布し,日本の消費者が通信販売により商品の申し込みをし,フィッチ社が日本の消費者に対し,「Abercrombie & Fitch」標章を付した被服等の商品を販売したことは,前記1認定のとおりである。
原告は,我が国において販売されていない商品カタログにより,商品を海外から個人輸入したとしても,この商取引は,我が国の商品流通経路にのるものではないので,商標権者の意思に基づくものではなく,また,我が国における商標の使用とは認められない,と主張する。
しかし,フィッチ社は,日本の消費者に商品カタログを頒布し,日本の消費者から商品の注文を受け,「Abercrombie & Fitch」標章を付した被服等の商品を日本に居住する一般の消費者に販売したものであるから,日本において商標法2条3項2号に該当する行為,すなわち,「商品…に標章を付したものを譲渡」するとの商標の使用をなしているものであることは明らかである。したがって,原告の主張は,理由がない。
原告は,被告ないしフィッチ社の商品カタログは,米国に注文する以外には入手することができないものであるから,同カタログを有償で頒布する行為は,商標法上の取引書類の頒布行為には当たらない,と主張する。
しかし,審決は,フィッチ社による商品カタログの頒布行為を商標の使用と認めたわけではなく,商品カタログによる商品の通信販売行為を商標の使用と認定したものである。したがって,原告の上記主張は,審決が認定していない行為を非難するものであり,主張自体失当である(なお,フィッチ社が「Abercrombie & Fitch」標章が付された通信販売用の商品カタログを日本の消費者に対し頒布している行為は,商標法2条3項7号の,「商品…に関する広告,定価表又は取引書類に標章を付して…頒布する行為」に当たるものということができるので,審決がこの点を認定しているかどうかにかかわらず,原告の上記主張は,いずれにしても理由がない。)。
4 取消事由3(本件商標との同一性)について 「Abercrombie & Fitch」標章については,平成11年11月27日付け読売新聞において,1892年創業の老舗のブランドとして,若者の間に人気がある商標であり,カタログ販売により売上げを伸ばしていることなどが紹介されたり(乙7号証),雑誌「太陽」(2000年12月号)において,ヘミングウェイが足繁く通った店として紹介されたり(乙6号証),英和商品名辞典(1991年(第2刷)・株式会社研究者発行)にスポーツ・男性用品のブランドとして掲載されたり(乙4号証),インターネットのウエブサイトのホームページで並行輸入品として購入することができる旨宣伝されたり(乙5号証の1・2)しており,我が国においても,ある程度,取引者及び需要者に知られている商標であると認められる。このことと,我が国の英語の普及度からすれば,「Abercrombie & Fitch」標章は,その取引者及び需要者を基準とすれば,その構成文字に相応して,「アバークロンビー アンド フィッチ」と一般に読まれるものであると認められ,本件商標と称呼が同一であるから,両者は,社会通念上同一の商標である,と認められる。したがって,これと同旨の審決の判断に誤りはない。
5 以上のとおりであるから,被告から本件商標の使用許諾を受けているフィッチ社が,本件商標と社会通念上同一と認められる「Abercrombie & Fitch」標章を,その指定商品に含まれる被服に使用している,と認定した審決は,その結論において相当であり,原告主張の審決取消事由はいずれも理由がなく,その他,審決には,これを取り消すべき瑕疵は見当たらない。よって,原告の本訴請求を棄却することとし,訴訟費用の負担について,行政事件訴訟法7条,民事訴訟法61条を適用して,主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 山下和明
裁判官 設樂隆一
裁判官 阿部正幸