関連審決 | 無効2000-35354 |
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審判番号(事件番号) | データベース | 権利 |
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平成18行ケ10280審決取消請求事件 | 判例 | 商標 |
平成6行ケ77 | 判例 | 商標 |
平成19行ケ10061審決取消請求事件 | 判例 | 商標 |
平成7行ケ93 | 判例 | 商標 |
平成13行ケ518審決取消請求事件 | 判例 | 商標 |
関連ワード | 識別力 / 出所表示機能 / 識別機能 / 指定商品 / 普通名称(3条1項1号) / 周知商標 / 周知性 / 混同を生ずるおそれ(混同を生じるおそれ) / 類似性(類否判断) / 外観(外観類似) / 称呼(称呼類似) / 観念(観念類似) / 離隔的 / 取引の実情 / 出所の混同 / 類似範囲 / 無効審判 / 更新登録 / 継続 / 非類似 / |
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事件 |
平成
13年
(行ケ)
516号
審決取消請求事件
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原告 白新染織株式会社 訴訟代理人弁理士 吉井剛、吉井雅栄 被告 塩沢織物工業協同組合 訴訟代理人弁護士 山崎隆夫、弁理士 庄司建治 |
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裁判所 | 東京高等裁判所 |
判決言渡日 | 2002/09/26 |
権利種別 | 商標権 |
訴訟類型 | 行政訴訟 |
主文 |
原告の請求を棄却する。 訴訟費用は原告の負担とする。 |
事実及び理由 | |
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原告の求めた裁判
「特許庁が無効2000-35354号事件について平成13年10月10日にした審決を取り消す。」との判決。 |
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事案の概要
1 特許庁における手続の経緯 原告は、商標登録第4365148号商標(平成11年1月13日登録出願、第24類「絣織物」を指定商品として平成12年3月3日に設定登録。本件商標。その構成は次のとおり)の商標権者である。被告は、原告を被請求人として平成12年6月30日に本件商標登録について無効審判の請求をし、無効2000-35354号事件として審理されたところ、平成13年10月10日、本件商標登録の登録を無効とする旨の審決があり、その謄本は平成13年10月20日原告に送達された。 本件商標 2 審決の理由 別紙審決の理由のとおりであるが、その要旨は次のとおりである。 本件商標と下記引用商標は、称呼においては類似しないものではあるが、外観及び観念において類似するため、全体として出所について混同を生ずるおそれがあり、類似する商標である。そして、本件商標の指定商品「絣織物」と引用商標の指定商品「絹織物」とは同一又は類似する商品である。よって、本件商標は、商標法第4条第1項第11号の規定に違反して登録されたものであり、同法第46条第1項第1号の無効事由に該当するので、その登録を無効とすべきものである。 引用商標 商標登録第439173号に係る商標 商標の構成 上記のとおり 指定商品 第30類 絹織物 登録出願日 昭和28年4月16日 設定登録日 昭和29年1月30日 最新更新登録日 平成5年12月22日 |
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原告主張の審決取消事由
1 取消事由1(本件商標の認定の誤り及び引用商標との類否判断の誤り) (1) 審決の本件商標の認定の誤り 本件商標は、審決も認定するとおり、3つの図形部分からなる(別紙審決の理由276行)。 ところで、本件商標の要部はどこであろうか。審決は、左側の図形部分及び右側の図形部分はともに自他商品の識別機能がないか又は弱い部分であるとし(別紙審決の理由334〜335行、340〜341行)、また、中央の図形部分は、「塩沢絣」の文字部分は自他商品の識別機能がないか又は弱い部分であり(同345行)、よって、本件商標は、「雪国の風景」の図形部分及び「越後織物同人会」の文字部分において自他商品の識別機能を果たすものであり、取引の実情にかんがみると、本件商標は、自他商品の識別機能を有する中央の図形部分を真ん中にして、 製品の種類、産地表示及び品質の保証表示と認められる図形部分を左右に配置して構成されている商標とみるのが相当であると認定している(別紙審決の理由346〜350行)。 しかし、この審決の認定は次の点において誤りがある。 @ 左側の図形部分について 審決は、別紙審決の理由330〜335行において、左側の図形部分を特定している。審決は、本件商標の構成の特定の箇所(別紙審決の理由278〜279行)においては、「図案化した緑色の葉」を構成要素として認定しているにもかかわらず、別紙審決の理由330〜335行の部分においては、構成要素「図案化した緑色の葉」を看過している。 この「図案化した緑色の葉」の部分は、その構成自体を考慮すると、自他商品の識別機能がない又は弱いとする特段の理由は考えられず、よって、この「図案化した緑色の葉」の部分の存在を前提にすれば、左側の図形部分が自他商品の識別機能がないか又は弱いという認定はあり得なかったといわねばならない。 したがって、本件商標の左側の図形部分は、「図案化した緑色の葉」の部分を考慮すると、自他商品の識別機能を有することは明らかである。 A 右側の図形部分について 審決は、別紙審決の理由336〜341行において、右側の図形部分を特定している。審決は、本件商標の構成の特定の箇所(別紙審決の理由290〜294行)においては、「図案化した葉」(「緑色」という修飾が審決は欠落している点は既述のとおり。)を構成要素として認定しているにもかかわらず、別紙審決の理由336〜341行の部分においては、構成要素「図案化した(緑色の)葉」を看過している。 この「図案化した(緑色の)葉」の部分は、その構成自体を考慮すると、自他商品の識別機能がないか又は弱いとする特段の理由は考えられず、よって、この「図案化した(緑色の)葉」の部分の存在を前提にすれば、右側の図形部分が自他商品の識別機能がないか又は弱いという認定はあり得なかったといわねばならない。 さらに、この右側の図形部分は、「手」,「織」,「紬」,「証」の配置、「繭」状の輪郭など、ありふれていない構成も有しており、これらも合わせ考慮すれば、右側の図形部分は自他商品の識別機能がないか又は弱いとする理由はない。 したがって、本件商標の右側の図形部分は、「図案化した(緑色の)葉」, 「手」,「織」,「紬」,「証」の配置、「繭」状の輪郭などの特異性ある構成を考慮すると、自他商品の識別機能を有することは明らかである。 B 本件商標の全体について @、Aで主張したとおり、本件商標の左側の図形部分及び右側の図形部分には自他商品の識別機能があり、また、中央の図形部分に自他商品の識別機能があり、本件商標はこれらの左側の図形部分、右側の図形部分及び中央の図形部分が物理的にも一体とになった証紙の商標であって、この本件商標の物理的な構成からして、本件商標の3つの図形部分は一体に融合していることは明らかである。すなわち、これら3つの図形部分を分離する特段の事情はない。 してみると、本件商標の自他商品の識別機能を発揮する部分は3つあることになり、審決の「本件商標は、その構成中「雪国の風景」の図形部分及び「越後織物同人会」の文字部分において自他商品の識別機能を果たすというべきである。」(別紙審決の理由346〜347行)との認定は誤りである。 (2) 本件商標と引用商標との類否判断の誤り 上記のとおり、本件商標の自他商品の識別機能を有する部分は3つの図形部分である。一方、引用商標の自他商品の識別機能を有する部分は1つの図形部分である。 両者を対比するに、たとえ、本件商標の中央の図形部分である「雪国の図形部分」と引用商標の「図形部分」とが近似していたとしても(後記のとおり両図形部分は類似してはいないが)、引用商標には本件商標の左側の図形部分及び右側の図形部分に相当する部分がなく、この点を考慮すれば、本件商標と引用商標とは外観、概念において非類似の関係にある。 ところで、対比する両商標が類似するか否かは、商標の本質が自他商品識別機能(出所表示機能)にある以上、両商標を付した商品が市場において出所の混同を来たすか否かより決せられるべきである。したがって、両商標の類否は、構成の近似性以上に、その商標が付されている商品の市場での情況、すなわち具体的な取引の実情を考慮しなければならない。この観点に立ち、次の実情を考慮すれば、本件商標と引用商標が非類似であることは明らかである。 @ 現実に市場において、本件商標に近似する商標(証紙)が数年ではなく数十年もの長期間にわたって流通しており、これらの取引の実情にかんがみれば、織物の業界においては、証紙が有する識別力は他の業界ほど広くはなく、よって、本件商標と引用商標とが出所混同を起こすことはない。 A 織物は、宝石などと同様、素人がみても品質、価格は分かりにくく、販売店員等の専門化のアドバイスによって購入するものであり、需要者は証紙を見て、その証紙の印象が残るというようなことはない。逆にいうと、需要者はどの証紙を見ても同じように見えるということである。なお、専門家である取引者は、本件商標と引用商標との前記した相違点により両者を別異と区別し得る。したがって、前記のとおり、本件商標と近似する証紙が多数存在する。 販売店員が塩沢産のもの(引用商標を付した織物)と十日町産のもの(本件商標を付した織物)との違いを認識しており、その違いを説明し、需要者はその上で両者から選択するのであって、業界において両者に出所混同はない。 B 本件商標(証紙)を付した織物と引用商標(証紙)を付した織物とは前者はいわゆる安物、後者はいわゆる高級品として市場において明確に区別されている。 (3) 以上のとおり、審決には、本件商標の特定及び本件商標と引用商標との類否判断の双方において誤りがある。 2 取消事由2(本件商標の中央の図形部分と引用商標との類否判断の誤り) 本件商標の中央の図形部分と引用商標とには審決が認定するとおり、次のような相違点がある(別紙審決の理由369〜372行)。 ・家の中の糸巻きの存否 ・家の中の女性と思しきシルエットの有無 ・外輪郭部分の造形(植物の図形)の相違 これらの相違点があることを認めているにもかかわらず、審決は、「全体の構成がとても偶然の一致とは思えないほどに酷似しているため、前記した相違点は、全体の絵の構成においては瑣末な部分であり、ほとんど取引者、需要者の印象には残らないものとみるのが相当である。」と認定している(別紙審決の理由373〜375行)。 しかしながら、審決は前記@ないしBの実情を看過しているため、このような認定をしたといわねばならない。織物業界において、証紙が有する識別力は、前記実情(近似証紙が多数存在する事実など)にかんがみれば、極めて小さい。すなわち、類似範囲は極めて狭いのである。原告は、市場において本件商標と引用商標とが出所混同を生じていなかった点を、強く主張する。 したがって、審決は、織物業界の実情を看過若しくは誤ったため、本件商標の中央の図形部分と引用商標との類否判断を誤ったといわねばならない。 |
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審決取消事由に対する被告の反論
争う。審決の認定判断に原告主張の誤りはない。 |
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当裁判所の判断
1 審決は、本件商標は商標法第4条第1項第11号の規定に違反して登録されたとする被告主張の無効事由1に理由があるとしたものであるが、その前提として認定した本件商標の構成及び引用商標の構成(別紙審決の理由274〜310行)に誤りがあるとは認められない。原告の主張も、この審決の認定部分に誤りがあるとするものではない。 2 審決は、本件商標と引用商標とを比較する前提として、本件商標の自他商品識別機能を果たす部分が、中央の「雪国の風景」の図形部分及び「越後織物同人会」の文字部分にあると認定しているところ(別紙審決の理由346〜347行)、原告は、本件商標の左側図形部分の「図案化した緑色の葉」の部分、右側の図形部分の「図案化した葉」の部分、及び、右側の図形部分の、「手」,「織」,「紬」,「証」の配置、「繭」状の輪郭などの構成にかんがみれば、本件商標の右側図形部分及び左側図形部分も合わせて一体に自他商品識別機能を考えるべきであると主張する。 しかし、上記のとおり本件商標の自他商品識別機能を果たす部分を認定した前提となる判断過程である別紙審決の理由313〜345行の審決説示部分に誤りがあると認めることはできない(その前提とする上記説示部分の事実認定を覆すべき証拠もない。)のであり、原告の上記主張は理由がなく、取消事由1は理由がない。 3 取消事由2は、別紙審決の理由357行以下の「(4)本件商標と引用商標の比較」の判断部分に誤りがあるとするものであり、原告はその根拠として、本件商標と引用商標との間の構成の相違点が瑣末なものであるとした審決の認定は誤りであると主張する。しかし、その主張を裏付けるべき具体的な取引の実情を認めるべき証拠はない(原告は、市場において本件商標と引用商標とが出所混同を生じていなかったと主張するが、この事実を認めるべき証拠はない。)。 その他、審決の上記判断部分に誤りがあるとすべき事実関係は認められず、取消事由2も理由がない。 |
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結論
以上のとおり、原告主張の審決取消事由は理由がないので、原告の請求は棄却されるべきである。 (平成14年6月27日口頭弁論終結) |
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追加 | |
平成13年(行ケ)第516号無効2000-35354審決の理由第1本件商標本件登録第4365148号商標(以下、「本件商標」という。)は、後記商標目録(1)に表示するとおりの構成よりなり、平成11年1月13日登録出願、第24類「絣織物」を指定商品として平成12年3月3日に設定登録されたものである。 第2請求人の主張の要点1請求の趣旨結論同旨の審決2利害関係請求人と被請求人との間に、商標権侵害事件が発生し現在係争中である。したがって、請求人には本件無効審判を請求をする利害関係がある。 3請求の理由(1)無効事由の1(商標法第4条第1項第11号該当性)本件商標は、請求人の所有する下記の登録商標(以下、「引用商標」という。)と同一又は類似の商標であり、その指定商品も類似するから、商標第4条第1項第11号に該当する。 記商標登録第439173号に係る商標商標の構成後記商標目録(2)に表示するとおり指定商品第30類絹織物登録出願日昭和28年4月16日設定登録日昭和29年1月30日更新登録日昭和49年6月20日昭和59年1月27日平成5年12月22日本件商標と引用商標の類否について(ア)商標の類否について本件商標は、後記商標目録(1)に表示するとおりのものであり、3つの商標証紙中、要部をなしている中央に配置されている商標と引用商標とは外観上類似する商標である。 (a)文字の類似性本件商標の上段に横書きされている「塩沢絣」の文字は引用商標を構成する中央に縦書きされている「塩澤」の文字に類似し、本件商標の下段に横書の「越後織物同人会」の文字は、引用商標を構成する「越後織物工業協同組合」の位置と字数、 「会」と「合」とが類似している。 (b)3つの山の頂きの図柄の類似性引用商標の具体的構成である「山の頂きの図柄」は、日本百名山の中に選ばれ、 しかも塩沢地方の住民らが最も親しみを感じている「機織りの神様」が住んでいるとの伝説で著名な「巻機山」を表している。単なる山の頂きの図柄ではなく、塩沢紬(絣)産地(塩沢地方)を表示するのに相応しい図柄として位置付けられ、周知もしくは著名となっている。 本件商標にも、具体的構成として「3つの山の頂きの図柄」と類似している。 (c)4反の反物の図柄の類似性引用商標を構成する4反の図柄も、塩沢紬(絣)の産地(塩沢地方)を表示するに相応しい図柄である。 本件商標にも、具体的構成として「左上方から右下方に同じ状態で傾斜する4反の反物の絣模様を付した図柄」が画かれているが、引用商標の具体的構成である「4反の反物の図柄」と類似している。 (d)織り子、家屋、糸車、竹等の図柄の類似性引用商標を構成する家屋、織り子、糸車等の図柄は、「雪が屋根に降り積もっている家の中で、雪が深々と降っている冬の寒いときでも、織り子が一生懸命に、繭からその繊維を引き出すために糸車を使用して紡いでいる状況を想起するに相応しい図柄」であり、塩沢紬(絣)の産地(塩沢地方)を表すのに相応しいものである。 本件商標にも、具体的構成として「家族らしき図柄と、むしろ機の図柄と、糸を紡いでいる織り子の図柄と、糸車の図柄と、竹らしき図柄」が画かれているので、 引用商標の具体的構成である「家屋、織り子、糸車等の図柄」と類似している。 (e)左右両サイドで桑葉で周囲を囲った図柄の類似性引用商標の具体的構成として、左右両サイドに桑葉らしき連続させた図柄がある。本件商標にも、左右両サイドに桑葉らしき連続させた図柄が画かれているので、両者は類似している。 さらに、本件商標の左側には「塩沢」の文字を挿入してなり、いかにも「産地(塩沢地方)」を意味する文字を使用している。かかる文字は、引用商標の産地表示「塩澤」に類似するものである。 (イ)商品の類否について本件商標の指定商品は、引用商標の指定商品と販売並びに需要者が同一であり、 類似する商品である。 (2)無効事由の2(商標法第4条第1項第10号該当性)本件商標は、請求人の業務に係る商品を表示するものとして需要者の間に広く認識されている商標(審判甲第7号証の2ないし4)と類似する商標であり、その商品に使用するものである。さらに、審判甲第7号証の4の「塩沢」の文字自体も商品「織物」において周知商標である。 (ア)請求人の組織請求人協同組合は、昭和35年12月8日に設立され、組合員のために原糸及び資材の協同仕入・協同販売、製品の協同販売並びに斡旋その他組合員の事業に対する協同施設等を業とするものである。 (イ)請求人所有の登録商標請求人は、引用商標の外商標登録第1392047号(審判甲第3号証、同第4号証)、同第1434232号(審判甲第5号証、同第6号証)の3件の登録商標を使用している。 (ウ)塩沢地方の織物について塩沢地方の織物の歴史は古く、1200年前の奈良時代に塩沢地方で織られた「麻布」が、奈良正倉院に保存されている。 江戸時代の文人であった「鈴木牧之」の著書「北越雪譜」の中に「雪中に糸となし雪中に織り雪水に酒き雪上に晒す雪ありて縮ありされど越後縮は雪と人と気力相半ばして名産の名あり魚沼郡の雪は縮の親というべし」とうたわれている越後縮が今日の越後上布である。 越後上布は、地場産業を代表する織物のすぐれた製品の一つとして、その標章は、需要者に広く知られている。「越後上布」の技術をそのまま絹織物に生かした織物が、塩沢紬、本塩沢である。「塩沢紬」は、昭和50年2月19日に、「本塩沢」は、同51年12月15日に通商産業大臣より、伝産法に基づく伝統的工芸品の指定を受け、これを決起に上記商標が使用された。 (エ)請求人の使用する商標の周知性請求人は、「塩沢紬」については昭和51年4月1日より、「本塩沢」については同年12月20日より、登録商標証紙と共にそれぞれ伝産マークの伝統証紙を絹織物に、当組合の各組合員が自分の製品の絹織物に貼付し、現在も継続使用している。これにより上記商標は、周知性を有するに至った。 請求人が有する上記3件の登録商標と、伝産マークの伝統証紙を貼付した絹織物は、塩沢地方の産業の主力をなし、現在に至っている。地元塩沢町観光協会が昭和59年より現在まで地元県内及び県外(東京、大阪方面)に大量に頒布したパンフレット中には、請求人が各組合員にだけ販売してきた前記登録商標の商標証紙を貼付した絹織物及び越後上布、塩沢紬、本塩沢、夏塩沢の標章が付された絹織物が物産品の一つとして掲載されPRされている。 したがって、伝産マークの伝統証紙の貼付が可能となり、書籍等に掲載され全国的にPRされ、前記パンフレットを通じて請求人の各登録商標は、本件商標の出願前に、広く需要者間に認識されるに至った。 (オ)本件商標と請求人使用の商標との対比本件商標の3組の構成態様は、請求人の各組合員が本件商標の出願前から使用し、需要者の間に広く認識されていた審判甲第7号証の2、3、4の使用商標に類似し、出所の誤認混同を生ずるおそれがある商標である。 (3)むすび本件商標は、先登録された引用商標に類似し、かつ、指定商品も類似するので、 商標法第4条第1項第11号の規定に違反して登録されたものであり、請求人の業務に係る商品を表示するものとして需要者の間に広く認識されている商標に類似する商標であって、その商品について使用するので、同法第4条第1項第10号の規定に違反して登録されたものであるから、同法第46条第1項第1号に該当し、その登録を無効とすべきである。 なお、請求人は、商標法第4条第1項第15号及び第19号の主張を撤回した。 4証拠方法請求人は、証拠方法として審判甲第1号証ないし同第111号証を提出した。 第3被請求人の答弁の要点1答弁の趣旨「本件審判請求は成り立たない、審判費用は請求人の負担とする」との審決2答弁の理由(1)無効事由の1(商標法第4条第1項第11号該当性)について本件商標の要部は、中央に配した図形であるとの請求人の主張は根拠がない。 本件商標は3つの図形部分が一体に融合したもので、中央部分のみを要部として抽出し、引用商標と比較すること自体、本件商標の全体構成を看過した考えである。 したがって、本件商標が商標法第4条第11号に該当するか否かは、あくまで本件商標の全体構成と引用商標との対比により決定されるべきである。 この観点で以下に両者を対比する。 (ア)本件商標の構成(a)本件商標の基本的構成は、次のとおりである。 ・3つの図形部分からなり、中央の図形部分(B)は、両側の図形部分に比し、横に長い。 ・左側の図形部分(A)は、四角枠の中に「葉」を図案化したものが配され、さらに「特選」「塩沢」「亀甲絣」の文字が配されている。 ・中央の図形部分(B)は、「雪国の風景」及び「反物」を図案化したものが配され、さらに「塩沢絣」「越後織物同人会」の文字が配されている。 ・右側の図形部分(C)は、やや丸みをもった四角枠の中に「葉」を図案化したものが配され、さらにこの内側にして角部位置には「手織紬証」が一文字ずつ円輪郭内に配され、さらに内側に「繭」状の輪郭が描かれ、この輪郭の内側に「純絹保証」「検」の文字が配されている。 本件商標は、上記図形部分(A)(B)(C)がこの順序に横一列に配された構成である。 (b)本件商標の具体的構成は、次のとおりである。 左側の図形(A)について下地を黄色、「葉」を緑色、「塩沢」の文字を赤色に着色してある。 中央の図形(B)について・左下方隅に4本の反物が右下流れに描かれており、それぞれの反物には模様が描かれている。 ・右側には人らしき絵(一般人が見た場合、人には見えない絵)及び糸車が描かれている。 ・上側には山が描かれており、頂きと思われる突部は4つである。 ・山に大きい丸で描かれた雪が降っている様子が描かれている。 ・絵の周囲上部には帯状のものが描かれており、また、絵の左右並びに上部の両端部及び下部の両端部には葉のような図形が描かれている。 ・上記帯状のものには「塩沢絣」の文字が、また、下側に「塩沢織物同人会」の文字が枠で囲まれて配されている。 ・全体には格調ある色彩が施されている(版画の多色刷の趣がある)。 右側の図形部分(C)について下地を黄色、「葉」を緑色、「純絹保証」の文字を赤色に着色してある。以上、本件商標は前記基本的構成及び具体的構成からなる商標である。 (イ)引用商標の構成について(a)引用商標の基本的構成は、次のとおりである。 四角形の枠内に「雪国の風景」や「反物」を図案化したものが配され、さらに「塩澤」「塩沢織物工業協同組合」の文字が配されている。 (b)引用商標の具体的構成は、次のとおりである。 ・左下方隅に4本の反物が右下流れに描かれており、それぞれの反物には模様が描かれている。 ・右側には民家の一部が描かれ、この民家の中には女性、糸車が描かれている。 ・上側には山が描かれており、頂は3つである。 ・山には小さな点で描かれた雪が降っている様子が描かれている。 ・絵の周囲上部には帯状のものが描かれており、また、絵の左右(絵の左右の各上部近傍は除く)及び下部の両端部には葉のような図形が描かれている。 以上のとおり、引用商標は基本的構成に具体的構成を加えた商標である。 (ウ)本件商標と引用商標の対比考察について対比する両商標が類似するか否かは、商標の本質が自他商品識別機能(出所表示機能)にある以上、両商標を付した商品が市場において出所の混同を来すか否かにより決せられるべきである。したがって、両商標の類否は、構成の近似性以上に、 その商標が付されている商品の市場での情況、即ち具体的な取引の実情を考慮しなければならない。 この観点で考察すると、本件商標は引用商標と異なり、3つの図形部分からなるもので、基本的構成において著しく相違し、かつ具体的な構成においても次の大きな相違点があり、両者が出所の混同を来すことはあり得ない。 (a)基本的構成の相違本件商標は、3つの図形部分(A)(B)及び(C)からなるのに比し、引用商標はこのような構成ではなく、外観が相違し、明らかに非類似である。 (b)具体的構成の相違本件商標の中央部分(B)と引用商標とは、次の相違がある。 ・反物中に描かれている模様の相違・中央の図形部分(B)中の絵は、引用商標と異なり、民家や女性が描かれているか否かの特定ができない。 ・山の絵の相違・降雪の情況の相違・絵の周囲の葉の様な図形の相違・文字が相違する・色彩の有無(エ)以上から、本件商標と引用商標とは非類似であり、本件商標が商標法第4条第1項第11号に該当するとする請求人の主張は誤りである。 (2)無効事由の2(商標法第4条第1項第10号該当性)について(ア)請求人の主張及び口頭審理における請求人代理人の釈明によっても、未だ周知商標が特定しにくいが、請求人の使用態様は審判甲第7号証のとおりであると主張するので、この主張を前提に、以下場合を分けて反論する。 具体的には、請求人の使用態様の一つである審判甲第7号証の4の上段の証紙群を取り上げる。 当該証紙群は、左から順に、所謂「伝統証紙」、「『塩沢紬』の文字の入った証紙」(以下、「中央の証紙」という。)、「三つの図形部分からなる横長の証紙」(以下、「右端の証紙」という。)が並んだ構成であり、この証紙群中のどの商標が周知商標かを考察した場合、次の場合分けが可能である。 (a)「中央の証紙」及び「右端の証紙」中の「塩沢」という文字が周知商標の場合「塩沢」という文字が特定人の識別マークとして周知商標であることはあり得ない。けだし、「塩沢」とは単なる地方若しくは品質表示に過ぎないからである。その他にも引用商標の公報(審判甲第2号証)に「塩沢」の文字に権利不要求である旨の記載がある。したがって、この場合に、本件商標が商標法第4条第1号第10号に該当することはあり得ない。 (b)「中央の証紙」及び「右端の証紙」中の「塩沢紬」という文字が周知商標の場合本件商標には、「塩沢紬」の文字はないので、この場合にも、本件商標が商標法第4条第1項第10号に該当することはあり得ない。なお、「塩沢絣」は、単なる普通名称である。 (c)「右端の証紙」中の「本場塩沢」という文字が周知商標の場合本件商標には、「本場塩沢」の文字がないので、この場合にも、本件商標が商標法第4条第1項第10号に該当することはあり得ない。 (d)「右端の証紙」の三つの図形部分のうちの中央の図形部分が周知商標の場合被請求人の本件商標と引用商標が非類似の商標であるとの主張がそのまま当てはまり、この場合に、本件商標が商標法第4条第10号に該当することはあり得ない。 (e)「右端の証紙」そのものが周知商標の場合「右端の証紙」の三つの図形部分からなるという構成は特段変わったものではないこと、「右端の証紙」の中央の図形の両隣の図形と本件商標の同位置の図形とは全く別異であること、「右端の証紙」の中央の図形と本件商標の同位置の中央の図形とは種々の相違点があることを考慮すると、この場合にも、本件商標が商標法第4条第1項第10号に該当することはあり得ない。 (f)「中央の証紙」そのものが周知商標の場合本件商標にはこのような「中央の証紙」に相当する証紙はないので、この場合にも、本件商標が商標法第4条第1項第10号に該当することはあり得ない。 (g)「中央の証紙」と「右端の証紙」とを組み合わせたものが周知商標の場合上記(e)(f)の場合から明らかなように、この場合にも、本件商標が商標が商標法第4条第1項第10号に該当することはあり得ない。 (h)上記(d)(e)の場合・周知性について請求人提出の証拠をみても、「右端の証紙」そのもの又は「右端の証紙」の三つの図形部分のうち中央の図形部分が周知商標であるという証拠はない。請求人は「右端の証紙」をTVや新聞紙上等において広告等をした訳でもない。審判甲第21号証の観光パンフレットの頒布枚数は特段多くない。また、「塩沢紬」「本塩沢」のPRと「右端の証紙」のPRとは峻別されるべきであり、「塩沢紬」「本塩沢」のPRをする観光パンフレットの頒布により、直ちに「右端の証紙」が周知性を有することになるとするのは誤りである。織物業界における「塩沢紬」「本塩沢」の販売率は極めて高くはない。 したがって、「右端の証紙」の三つの図形部分のうち中央の図形部分及び「右端の証紙」そのものが周知性を備えているとはいえない。 そもそも、商標法第4条第1項第10号で保護されるべき商標とは、他の者に類似範囲内の商標の使用でもって全国展開を許した場合には、混乱が起きるという程度にまで「需要者の間に広く認識されている」商標のことである。狭小な地域でのみ周知に過ぎない商標にまで他人の商標の権利化を阻止し得る強力な保護を与えたのでは、我が商標法が基調とする登録主義に反するからである。 ・出所の混同について(類似)着物は、宝石等と同様、素人が見てもわからないものであって、必ず店員の指導・助言により購入するものである。したがって、店員から、これは「塩沢紬」、 これは「本塩沢」と言われて購入するものであり、証紙を見て購入するものではない。 そして、請求人に係る「中央の証紙」及び「右端の証紙」を付した織物「塩沢紬」及び「本塩沢」と、本件商標に係る証紙を付した織物とはかなりの価格差がある。 さらに、現実には近似する証紙が業界に多数存在する。 これらの点を考慮すると、両者に出所の混同はあり得ない。 (イ)以上から、本件商標は商標法第4条第1項第10号に該当しない。 (3)むすび以上のとおり、本件商標が商標法第4条第1項第11号及び第10号に該当するという請求人の主張は誤りである。 なお、被請求人は、請求人の商標法第4条第1項第15号及び第19号の主張の撤回に応じて、この点についての反論を撤回した。 3証拠方法被請求人は、証拠方法として審判乙第1号証及び同第50号証を提出した。 第4当審の判断1無効事由の1(商標法第4条第1項第11号該当性)について本件商標と引用商標の類否について検討する。 (1)本件商標本件商標の構成は、次のとおりである。 本件商標は、3つの図形部分からなり、中央の図形部分は、両側の図形部分に比し、横に長く配置されている。 (a)左側の図形部分は、下地が黄色で、上段に「特選」を横書きし、中段に図案化した緑色の「葉」を左右に配し、その中に「塩沢」の文字を赤字で縦書きし、下段に「亀甲絣」の文字を横書きし、縦長四角形で囲んでなるものである。 (b)中央の図形部分は、上部の帯状の枠内に「塩沢絣」の文字を横書きし、中央には「雪国の風景」が描かれているところ、その風景は、左上部に、雪が降り、雪山(手前に一山、遠くに二つの頂きを持つ雪山)を遠景にして、左上から右下に同じ状態で傾斜する4反の反物(それぞれ左から右に白色、薄茶色、黄色、茶色の地に絣模様の図柄が施されている。)を、雪上に晒している様を描き、右側には、軒下に竹らしきものが植えられ、雪が屋根に降り積もっている暗い家の中で、人と思しきシルエットが左横向きに座り、何か手作業をしており、その背後には糸車が置かれているという構成のものであり、下部には「越後織物同人会」の文字を横書きし、枠で囲んで配されている。そして、この絵の左右並びに上部の両端部及び下部の両端部には図案化された葉が施されている。 (c)右側の図形部分は、やや丸みをもった四角枠中の四隅に上から下に「手」「織」「紬」「証」の各文字を一文字ずつ円内に配し、黄色の下地に、図案化した「葉」の上に「繭」状の輪郭が描かれ、この輪郭内に「純絹」「検」「保証」の各漢字を3段に横書き(「純絹」「保証」の漢字は赤色で、「検」の文字は二重の円内に書されている。)し、「繭」の上部に「蚕蛾」と思われる虫が羽を広げて描かれているものである。 本件商標は、以上のとおりの構成よりなり、上記3つの図形部分が左から右に、 この順序に横一列に配されてなるものである。 (2)引用商標引用商標の構成は、次のとおりである。 引用商標は、上部に帯状の枠を配し、中央には「塩澤」の漢字を大きく縦書きし、背景に「雪国の風景」が描かれているいるところ、その風景は、左上部に、雪が降り、3つの雪山(左の山は他の2山比してやや低い。)を遠景にして、左上から右下に同じ状態で傾斜する4反の反物(反物には、それぞれ絣模様の図柄が施されている。)を、雪上に晒している様を描き、右側には、軒下に雪を被った木が描かれ、雪が屋根に降り積もっている家の中で、糸を掛け渡した糸巻きが2つ配置され、日本髪を結った女性と思しきシルエットが左横向きに座り、女性の背後に置かれた糸車から引かれた糸に何か手作業を行っているという構成のものであり、下部には「塩沢織物工業協同組合」の文字を横書きし、枠で囲んで配されている。そして、この絵の左右(絵の左右の各上部近傍は除く)及び下部の両端部には図案化された葉が施されている。 なお、引用商標中の「塩澤」の文字については、願書(審判甲第1号証)中に『標章中「塩澤」の文字自体に付いては権利を要求せず』の記載がある。 (3)本件商標の指定商品「絣織物」及び引用商標の指定商品「絹織物」における取引の実情について(ア)審判甲第7号証(本件商標の出願前より請求人が各組合員に販売してきた登録証紙及び伝産マークの伝統証紙)、審判甲第8号証ないし同第18号証(本件商標の出願前より請求人の各組合員が請求人が販売した証紙及び伝統証紙を絹織物に貼付してきた事実を証するもの)、審判甲第25号証(請求人が各組合員に発行している商標証紙一覧表)、審判甲第26号証の10(「日本の地場産業」)、審判甲第29号証の5(「伝統工芸品銘鑑」)、審判甲第30号証の4及び同第38号証の2(新潟県の伝統的工芸品)、審判甲第39号証の2(「越後の絹物語」)、 審判乙第3号証ないし同第6号証(織物に貼付された状態の証紙のコピー)、審判乙第7号証ないし同第11号証(証紙のコピー)、審判乙第12号証(織物に貼付された状態の証紙のコピー)、審判乙第32号証(反物コピー)、審判乙第34号証(反物コピー)、審判乙第38号証(反物コピー)、審判乙第41号証ないし同44号証(反物コピー)並びに請求人塩沢織物工業協同組合理事長中島清志の証言によれば、「絣織物」「絹織物」の反物に商標を表示する場合には、産地表示商標を真ん中にして、左右に、伝産マーク、製品の種類を表示した証紙、織元名等をセットにして貼付する方法が通常行われているものと認められる。 また、本件商標及び引用商標中の「塩沢」「塩澤」の文字は、審判甲第21号証(塩沢町観光協会発行の観光パンフレット)、同第42号証(「広辞苑」)によれば、新潟県塩沢地方であることを表示したものと認められる。 (イ)これを本件商標についてみると、本件商標は、3つの図形部分からなり、その構成中の左側の図形部分は、前記認定のとおり、上段に「特選」を、中段に「塩沢」の文字を、下段に「亀甲絣」の文字を書し、縦長四角形で囲んでなるものであるところ、各文字に照らして、商品が特選品であること、「塩沢」産の製品であること、反物が亀甲柄で、絣、即ち所々かすったように模様を織りだした織物であることを表示したものであり、自他商品の識別機能がないか又は弱いものと認められる。 また、本件商標の構成中の右側の図形部分は、前記認定のとおり、四角枠中の四隅に上から下に「手」「織」「紬」「証」の各文字を一文字ずつ円内に配し、 「繭」状の輪郭内に「純絹」「検」「保証」の各漢字を3段に横書きし、「繭」の上部に「蚕蛾」と思われる虫が羽を広げて描かれているものであるところ、各文字及び図形の内容に照らして、商品が手織の紬であること、純絹であることを検査・保証済みであることを表示したものであり、自他商品の識別機能がないか又は弱いものと認められる。 さらに、本件商標の構成中の中央の図形部分は、上部の帯状の枠内に「塩沢絣」の文字を横書きし、中央には「雪国の風景」が描かれ、下部には「越後織物同人会」の文字を横書きているところ、「塩沢絣」の文字部分は、「塩沢」産の絣であることを表示したものであり、自他商品の識別機能がないか又は弱いものと認められる。 そうすると、本件商標は、その構成中「雪国の風景」の図形部分及び「越後織物同人会」の文字部分において自他商品の識別機能を果たすものというべきである。 そして、上記取引の実情に鑑みると、本件商標は、自他商品の識別機能を有する中央の図形部分を真ん中にして、製品の種類、産地表示及び品質の保証表示と認められる図形部分を左右に配置して構成されている商標とみるのが相当である。 (ウ)被請求人は、本件商標は3つの図形部分が一体に融合したもので、中央部分のみを要部として抽出し、引用商標と比較すること自体、本件商標の全体構成を看過した考えである旨主張する。しかしながら、本件商標の認定については前示のとおりであり、本件商標に接する取引者、需要者は、その構成中自他商品の識別機能を有する部分に着目し、その部分の印象、記憶、連想をもって商標に接し、取引に資する場合も少ないものというべきであるから、被請求人の主張は採用することができない。 (4)本件商標と引用商標の比較(ア)本件商標は、前記(1)において認定したとおりの商標であり、引用商標は、前記(2)において認定したとおりであって、その構成中の「塩澤」の漢字を縦書きした部分は、商品の産地が新潟県塩沢地方であることを表示したものと認められ、かつ、前記(2)に記載したとおり権利を要求しない部分である。 (イ)そこで、本件商標と引用商標とについて比較検討する。 前記(3)で認定したとおりの自他商品の識別機能を有する本件商標の中央の図形部分と、引用商標の図形部分とは、いずれも「雪国の風景」を表したものであり、左上部に、雪が降り、雪山(3つの頂きの雪山)を遠景にして、左上から右下に同じ状態で傾斜する4反の反物(反物には、それぞれ絣模様の図柄が施されている。)を、雪上に晒している様を描き、右側には、軒下に植物が配置され、雪が屋根に降り積もっている家の中で、人と思しきシルエットが左横向きに座り、何か手作業をしており、その背後には糸車が置かれているという構成において両者は共通であり、後者においては、家の中に糸巻きが2つ配置され、女性と思しきシルエットであるのに対し、前者においては糸巻きはなく、シルエットが男性か女性か不明であること、その他、軒下の植物に前記(1)(2)において認定したとおりの相違が認められる。しかし、取引者、需要者が両商標を時と所を異にして離隔的に観察する場合には、全体の構成がとても偶然の一致とは思えない程に酷似しているため、前記した相違点は、全体の絵の構成においては瑣末な部分であり、ほとんど取引者、需要者の印象には残らないものとみるのが相当である。 また、本件商標の文字部分「越後織物同人会」と引用商標の文字部分「塩沢織物工業協同組合」とは、いずれも「雪国の風景」を表した図形の下にほとんど同じ様な輪郭内に横書きされており、しかも「越後塩沢の織物」の団体と「塩沢織物」の団体といずれも新潟県の塩沢の織物団体である点を併せ考慮すると、「雪国の風景」を表した図形が外観上類似することも相俟って、外観及び観念においてある程度近似した印象を与えることは否定できない。 そうすると、本件商標と引用商標とは、外観において類似するものであり、観念においても上記で説示した内容において類似するものである。 本件商標は、その構成中自他商品の識別機能を有すると認められる「越後織物同人会」の文字に相応して「エチゴオリモノドウジンカイ」「エチゴオリモノドウニンカイ」の称呼が生じ、他方、引用商標は、その構成中自他商品の識別機能を有すると認められる「塩沢織物工業協同組合」の文字に相応して「シオザワオリモノコウギョウキョウドウクミアイ」の称呼が生ずるものと認められ、両商標のその余の文字部分は、商品の産地、品質を表示したものであるから、自他商品識別標識としての称呼は生じないものである。両商標は、称呼においては音構成、音数、音質が相違し、類似しないものである。 (ウ)したがって、本件商標と引用商標は、称呼においては類似しないものではあるが、外観及び観念において類似するため、全体として出所について混同を生ずるおそれがあり、類似する商標である。 (エ)本件商標の指定商品「絣織物」と引用商標の指定商品「絹織物」とは同一又は類似する商品である。 2結語以上のとおり、本件商標は、商標法第4条第1項第11号の規定に違反して登録されたものであり、その余の無効事由について検討するまでもなく、同法第46条第1項第1号の無効事由に該当するので、その登録を無効とすべきものである。 商標目録(1)本件商標(色彩については原本を参照)(2)引用商標 |
裁判長裁判官 | 永井紀昭 |
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裁判官 | 塩月秀平 |
裁判官 | 田中昌利 |