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関連審決 取消2000-31403
関連ワード 役務の提供 /  指定役務 /  不使用 /  取引の実情 /  国内 /  不使用取消審判 /  正当な理由 /  外国 / 
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事件 平成 14年 (行ケ) 50号 審決取消請求事件
原告 ザ・プルーデンシャル・アシュアランス・カンパニー・リミテッド
訴訟代理人弁護士 外立憲治
同 藪田広平
同 坂本正充
同 柳川鋭士
被告ザ プルデンシャルインシュアランスカンパニー オブ アメリカ
訴訟代理人弁護士 中野憲一
同 宮垣聡
同 城山康文
同 岩瀬吉和
同 弁理士 神林 恵美子
同復代理人弁護士 元榮 太一郎
裁判所 東京高等裁判所
判決言渡日 2002/09/20
権利種別 商標権
訴訟類型 行政訴訟
主文 原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
この判決に対する上告及び上告受理申立てのための付加期間を30日と定める。
事実及び理由
当事者の求めた裁判
1 原告 特許庁が取消2000-31403号事件について平成13年9月13日にした審決を取り消す。
訴訟費用は被告の負担とする。
2 被告 主文第1、2項と同旨
当事者間に争いのない事実
1 特許庁における手続の経緯 原告は、「プルー」の文字を横書きしてなり、指定役務を商標法施行令別表の区分による第36類「預金の受入れ(債券の発行により代える場合を含む。)及び定期積金の受入れ、資金の貸付け及び手形の割引、内国為替取引、債務の保証及び手形の引受け、有価証券の貸付け、金銭債権の取得及び譲渡、有価証券・貴金属その他の物品の保護預かり、両替、金融先物取引の受託、金銭・有価証券・金銭債権・動産・土地若しくはその定著物又は地上権若しくは土地の賃借権の信託の引受け、債券の募集の受託、外国為替取引、信用状に関する業務、有価証券の売買・有価証券指数等先物取引・有価証券オプション取引及び外国市場証券先物取引、有価証券の売買・有価証券指数等先物取引・有価証券オプション取引及び外国市場証券先物取引の媒介・取次ぎ又は代理、有価証券市場における有価証券の売買取引・有価証券指数等先物取引及び有価証券オプション取引の委託の媒介・取次ぎ又は代理、外国有価証券市場における有価証券の売買取引及び外国市場証券先物取引の委託の媒介・取次ぎ又は代理、有価証券の引受け、有価証券の売出し、有価証券の募集又は売出しの取扱い、株式市況に関する情報の提供、生命保険契約の締結の媒介、生命保険の引受け、損害保険契約の締結の代理、損害保険に係る損害の査定、
損害保険の引受け、保険料率の算出、建物の管理、建物の賃借の代理又は媒介、建物の貸与、建物の売買、建物の売買の代理又は媒介、建物又は土地の鑑定評価、土地の管理、土地の賃借の代理又は媒介、土地の貸与、土地の売買、土地の売買の代理又は媒介、建物又は土地の情報の提供、骨董品の評価、美術品の評価、宝玉の評価、当せん金付証票の発売、企業の信用に関する調査、慈善のための募金」とする登録第4084962号商標(平成5年11月9日登録出願、平成9年11月21日設定登録、以下「本件商標」という。)の商標権者である。
被告は、平成12年11月22日、本件商標につき不使用による登録取消しの審判の請求をし、その予告登録は、同年12月13日にされた。
特許庁は、同請求を取消2000-31403号事件として審理した上、平成13年9月13日に「登録第4084962号商標の商標登録は取り消す」との審決をし、その謄本は、同月26日、原告に送達された。
2 審決の理由 審決は、別添審決謄本写し記載のとおり、被請求人(原告)は、本件商標の使用の事実について具体的に答弁、立証をするところがなく、不使用についての正当な理由も明らかにしていないから、本件商標の登録は、商標法50条の規定により取り消すべきものとした。
原告主張の審決取消事由
審決は、予告登録日前3年以内における本件商標の使用の事実の立証がないとの誤った認定をする(取消事由1)とともに、商標法50条2項ただし書所定の正当理由を認めなかった誤りがある(取消事由2)から、違法として取り消されるべきである。
1 取消事由(本件商標の使用の事実の認定の誤り) 原告は、1848年に英国で設立され、プルーデンシャルグループとして世界中でサービスを提供している者であるが、2000年(平成12年)6月、日本において本件商標を用いて銀行業を開業することを計画し、その準備を進めるとともに、以下のとおり、本件商標の使用をするようになった。
すなわち、原告は、2000年(平成12年)8月31日付け貸室申込書(甲第13号証)を野村不動産株式会社に差し入れ、また、同月以降、原告が業務上使用する封筒、手紙用用紙、名刺等を発注し、その納品を受けた(甲第14〜17、20、21号証)ところ、これらには、「プルー」の標章が使用されている。
また、原告は、日本信販株式会社との間で、同年11月13日付け「カードシステムに関する機密保持契約書」(甲第22号証)を取り交わしたところ、この契約書中にも「プルー」又はこれと社会通念上同一の「プルーワン」の標章が使用されている。
なお、本件商標のように、指定役務の提供を開始する前に商標登録がされた場合に、当該役務に使う予定の商標を当該役務の準備段階における取引書類に商標を付して展示し、又は頒布する行為は、商標法2条3項7号に該当すると解すべきである。なぜなら、上記規定は経済取引の実情に従って解釈されるべきところ、業務準備段階で使用した当該商標が保護されないとすると、当該商標登録と不可分一体となって進められてきた業務の準備行為が無駄になり、準備を進めてきた企業には著しい経済的損失が生じ、経済取引の実情に反することになるからである。
2 取消事由2(商標法50条2項ただし書所定の正当理由の認定の誤り) 商標法は、将来使用する商標の登録を認めているのであるから、商標権者において商標を使用する意思を有している限り、その不使用の事実自体は責められるべきでない。したがって、企業の内部において使用の準備がされている場合には、
商標法50条2項ただし書所定の正当理由があるというべきである。
また、本件において、原告が予告登録日前3年以内に本件商標の使用ができなかったのは、被告の下記のとおりの信義に反する行為に起因し、原告の責めに帰することのできない事由に基づくものであるから、この点からも、上記正当理由が認められるべきである。すなわち、原告は、上記1のとおりの日本における開業準備を進めていたところ、原告と被告は、それ以前から世界各国における「Prudential」、「PRU」及びその派生商標の使用に係るルールにつき合意を得るべく包括的な交渉を行っており、このため、原告は、この交渉への影響を配慮し、
本件商標の使用を差し控えていた。ところが、被告による本件不使用取消審判の請求は、このような状況下で、本件商標の設定登録からちょうど3年目に行われたものであるから、上記の交渉を通じて本件商標を使用しにくい状況を作出した上で行われた審判請求というべきである。
被告の反論
審決の認定判断は正当であり、原告主張の取消事由は理由がない。
1 取消事由1(本件商標の使用の事実の認定の誤り)について 原告の主張立証自体、原告が開業準備を行っていたことをいうにとどまり、
本件商標の使用の事実は何ら示されていない。封筒、手紙用用紙、名刺を発注して納品を受けたとしても、本件商標の使用といえないことは明らかであるし、貸室申込書(甲第13号証)及び「カードシステムに関する機密保持契約書」(甲第22号証)に記載されている「プルー」は、当事者名の一部として表示されているものにすぎず、商標として使用されているものではない。
2 取消事由2(商標法50条2項ただし書所定の正当理由の認定の誤り)について 原告は、被告が本件商標を使用しにくい状況を作出したと主張するが、原告が本件商標を使用しなかったのは、日本国内において業務を開始していなかったからにすぎず、全くのいいがかりにすぎない。商標法50条2項ただし書所定の正当理由は、単なる自己の都合にとどまらない例外的な事由をいうのであって、原告の主張する事由がこれに該当しないことは明らかである。
当裁判所の判断
1 取消事由1(本件商標の使用の事実の認定の誤り)について (1) 原告は、本件商標の使用の事実を示すものとして、まず、貸室申込書(甲第13号証)の差入れ、封筒、手紙用用紙、名刺等の発注及び納品を受けた事実(甲第14〜17、20、21号証)を挙げる。
しかし、上記貸室申込書は、原告の日本駐在員事務所代表Aが2000年(平成12年)8月31日付けで野村不動産株式会社に対し貸室の賃借を申し込み、同会社が翌9月1日付けでこれを承諾し契約締結に向けて協議を開始する旨記載した書面にすぎず、本件商標の指定役務との関連が不明なものであって、「指定役務について」の本件商標の使用を示すものとはいえない。また、封筒、手紙用用紙、名刺等については、これらが原告の主張する指定役務提供の準備段階における取引書類として商標法2条3項7号所定の「取引書類」に当たり得るとしても、予告登録日前に、これらに本件商標を付して展示又は頒布したことを認めるに足りる証拠がないから、本件商標の使用を示すものとはいえない。なお、原告が、当時、
我が国で本件商標の指定役務に係る業務を開始しておらず、上記の諸点も、我が国における金融業の開業準備行為の一環として行われたものにすぎなかったことは、
原告自身の主張及び上記Aの宣誓供述書(甲第6号証)から明らかである。
(2) 次に、原告は、本件商標の使用の事実を示すものとして、平成12年11月13日付け「カードシステムに関する機密保持契約書」(甲第22号証)を挙げるが、この契約書の対象とするのは、その前文に「プルーワン『プルーデンシャルplc日本駐在員事務所』(以下「甲」という)と日本信販株式会社(以下「乙」という)は、甲・乙間で平成12年11月13日現在進行中のカード業務のアウトソーシングに関する交渉において、甲・乙間で開示するに当たり情報の機密保持に関し以下の通り契約を締結する」と記載されているとおり、カード業務のアウトソーシングの交渉における機密保持に関する取り決めを定めるものであって、カード業務そのものに関する取引書類とはいえないから、本件商標の指定役務に関する取引書類(商標法2条3項7号)であるとはいえない。しかも、上記契約書において、
「プルー」の文字は、「プルーワン『プルーデンシャルplc日本駐在員事務所』」ないし「プルー日本駐在員事務所」(末尾の記名押印欄)との表示の一部としてしか使用されていないところ、これらの表示は、その全体が契約当事者を示す不可分の表示と見られるものであって、本件商標と社会通念上同一の標章であるとはいえない。
(3) 以上のほか、原告の提出する秘密保持契約書(甲第23〜第30号証)は、いずれも予告登録日(平成12年12月13日)以後の作成に係るものであるから、予告登録日前3年以内の使用の事実を何ら基礎付けるものではなく、他に、
この使用の事実を認めるに足りる証拠はない。
したがって、原告の取消事由1の主張は理由がない。
2 取消事由2(商標法50条2項ただし書所定の正当理由の認定の誤り)について 原告は、まず、企業の内部において商標の使用の準備がされている場合には、商標法50条2項ただし書所定の正当理由がある旨主張するが、例えば、商標権者において商標の使用の準備を進めていたにもかかわらず、商標権者の責めに帰することのできない特別の事情により現実の使用に至らなかったなどの事実関係が、具体的に主張立証されるのであれば格別、単に商標の使用の準備が進められていたという事実のみから、上記正当理由を認めることはできない。
また、原告は、本件商標の不使用は、被告の信義に反する行為に起因するとも主張するが、その具体的な内容として主張するところは、世界各国における「Prudential」、「PRU」及びその派生商標の使用に係るルールをめぐって、原、
被告間で交渉が行われていたため、原告において、この交渉への影響を配慮して本件商標の使用を差し控えていたというものにすぎない。原告が本件商標の使用を差し控えていた理由が、原告の上記主張のとおりであるとしても、被告による本件商標の不使用取消審判の請求が信義に反する行為であるとか、原告の責めに帰することのできない事由に基づくものであるということは到底できず、また、そのような事実関係から、商標法50条2項ただし書所定の正当理由を認めることもできない。
したがって、原告主張の取消事由2の主張も理由がない。
3 以上のとおり、原告主張の審決取消事由は理由がなく、他に審決を取り消すべき瑕疵は見当たらない。
よって、原告の請求は理由がないから棄却することとし、訴訟費用の負担並びに上告及び上告受理申立てのための付加期間の指定につき行政事件訴訟法7条
民事訴訟法61条96条2項を適用して、主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 篠原勝美
裁判官 長沢幸男
裁判官 宮坂昌利