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関連審決 異議1998-92002
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審判番号(事件番号) データベース 権利
平成16行ケ335商標登録取消決定取消請求事件 判例 商標
平成14行ケ405審決取消請求事件 判例 商標
平成19行ケ10383商標登録取消決定取消請求事件 判例 商標
平成14行ケ370審決取消請求事件 判例 商標
平成16行ケ33審決取消請求事件 判例 商標
関連ワード 識別力 /  指定商品 /  指定役務 /  ありふれた氏 /  著名な略称 /  混同を生ずるおそれ(混同を生じるおそれ) /  広義の混同 /  4条1項15号 /  著名商標 /  顧客吸引力(グッドウィル) /  希釈化(ダイリュージョン) /  類似性(類否判断) /  外観(外観類似) /  称呼(称呼類似) /  取引の実情 /  出所の混同 /  継続 / 
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事件 平成 17年 (行ケ) 10270号 商標登録取消決定取消請求事件
原告 フローレンス ファッションズ (ジャージー) リミテッド
同訴訟代理人弁理士 鈴江武彦
同 石川義雄
同 小出俊實
同 松見厚子
同 幡 茂良
同 橋本良樹
被告 特許庁長官 中嶋 誠
同指定代理人 佐藤正雄
同 宮下正之
裁判所 知的財産高等裁判所
判決言渡日 2005/09/28
権利種別 商標権
訴訟類型 行政訴訟
主文 1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
3 この判決に対する上告及び上告受理申立てのための付加期間を30日と定める。
事実及び理由
請求
特許庁が平成10年異議第92002号事件について平成16年10月27日にした決定を取り消す。
当事者間に争いのない事実
1 特許庁における手続の経緯 原告は,別紙決定書写しの別掲(1)のとおり,上段にアルファベット文字の「G」と「V」を組み合わせたモノグラムを配し,下段に「GIOVANNI VALENTINO」と横書きした構成からなり,商標法施行令(平成13年政令第265号による改正前のもの)1条別表の第25類「被服,ガーター,靴下止め,ズボンつり,バンド,ベルト,履物,運動用特殊衣服,運動用特殊靴」を指定商品とする登録第4161151号商標(平成8年10月9日登録出願,平成10年6月26日設定登録,以下「本件商標」という。)の商標権者である。
本件商標につき,平成10年10月26日,商標登録異議の申立てがされた(平成10年異議第92002号事件)ところ,特許庁は,平成16年10月27日,「登録第4161151号商標の商標登録を取り消す。」との決定(以下「本件決定」という。)をし,その謄本は同年11月15日に原告に送達された。
2 本件決定の理由 別紙決定書写しのとおりである。要するに,本件商標をその指定商品に使用した場合,取引者,需要者をして,その商品があたかもデザイナーである「VALENTINO GARAVANI」あるいは同人と何らかの関係にある者の業務に係る商品であるかのごとく,商品の出所について混同を生じさせるおそれがあるから,本件商標は,商標法4条1項15号に違反して登録されたものである,というものである。
原告主張に係る本件決定の取消事由
本件決定は,本件商標が,他人の業務に係る商品と混同を生ずるおそれがある商標(商標法4条1項15号)に該当すると誤って判断したものであるから,取り消されるべきである。
1 「VALENTINO GARAVANI」の略称としての「VALENTINO」表示の周知著名性に係る認定の誤り 本件決定は,「『バレンチノ』の語は,…『VALENTINO GARAVANI』…の略称として,新聞,雑誌の見出しに,また,辞典類にそれ自体単独で用いられている事実に鑑みれば,ただ単に簡略に表現することだけでなく,それ自体特定のデザイナーブランドを示すものとして周知,著名性を獲得するに至った結果によるものとみるのが相当である。」(決定書7頁)と認定するが,誤りである。
(1) すなわち,新聞,雑誌の見出しに略称が用いられているからといって,その略称が周知著名であるということには必ずしも結び付かない。見出しは簡潔である方が好ましく,また,読者の興味を惹くためにあえて曖昧な表現を見出しに用いることもあり,このように,見出しのみではその意味内容が正確には把握できない場合には,記事中で事実を正確に記述することにより,正確性を担保することが一般に行われているからである。したがって,新聞,雑誌の見出しに,「VALENTINO GARAVANI」の略称として「VALENTINO」「Valentino」「ヴァレンティーノ」「ヴァレンティノ」「バレンチノ」の表示(以下,これらをまとめて単に「『VALENTINO』表示」ということがある。)が用いられていたとしても,それは当該略称が周知著名であることの結果であるとはいい切れない。
(2) また,人物名としての周知著名性と商標としての周知著名性とは,直接には関係するものではなく,「VALENTINO」表示が,新聞,雑誌の見出しや辞典類に用いられていたとしても,これらは,業として商品を生産,譲渡等する者により,自他商品を識別するための標識として用いられたものではないから,「VALENTINO」表示の商標としての周知著名性を示すものとはいえない。
(3) さらに,特許庁においても,「VALENTINO」表示がA氏の著名な略称ないし本件異議申立人(B。以下「申立人」という。)の著名な商標ということはできないとの判断がされている(甲2)。これらの判断は,平成10年前後にされたものであり,平成8年に出願された本件商標についても妥当するものである。
2 商品の出所の混同のおそれに係る認定の誤り 本件決定は,「本件商標に接する取引者,需要者は,本件商標構成中の『VALENTINO』の文字部分に強い注意力が注がれ,『VALENTINO GARAVANI』を想起,連想するとともに,申立人に係る一連のデザイナーブランド,兄弟ブランドであるかの如く誤認し,或いは,申立人と資本上,経営上等何らかの関係にある商品であるかの如く商品の出所について混同(広義の混同)を生ずるおそれがあるものと言わなければならない。」(決定書8頁)と認定するが,誤りである。
(1) すなわち,ヴァレンティノファミリーの歴史からすれば,原告の代表者であるC氏が本件商標を使用することは,A氏が築いた信用にあやかろうとするものではなく,正当なものである。ヴァレンティノファミリーの歴史は,C氏の祖父であるD氏が1908年にナポリでファッションストアを開いたことから始まり,1950年代に入り,その息子であるE氏がビジネスを拡大し,高い評価を得た。我が国の新聞においても,E氏についての紹介(甲4)や同人の商品の広告(甲1の3)が掲載されている。E氏の息子であるC氏は,父の下でデザインを学び,父の死後である1991年に,「GIOVANNI VALENTINO」ブランドを立ち上げた。C氏が我が国でブランド展開を開始することについて,業界新聞は大きく紹介している(甲6,7)。このように,C氏は,ヴァレンティノファミリーの正当な後継者として,「VALENTINO」の名を含んだ本件商標を採択,使用しているものである。
(2) また,ファッション関係のデザイナーが自己の名前をそのブランドとして使用しようとすることは,当然のことである上,「VALENTINO」は,A氏が創作した造語ではなく,カトリックの聖人の名前に由来するもので,イタリアでは,人名として採用されることが多い,ありふれた氏又は名である(甲10)から,申立人が独占すべきものではなく,「VALENTINO」表示を商標に用いる場合には,他人の商標と区別するため,氏又は名を併記すべきである。したがって,本件商標に「VALENTINO」の部分が含まれるからといって,商品の出所の混同を生じることはないというべきである。イタリアにおける判決(甲11)や韓国における異議決定(甲13)においても,そのような判断がされているし,ヴァレンティノファミリーとA氏側との契約書(甲12)においても,同様の認識が示されている。
(3) 我が国においても,「VALENTINO」の文字を含むデザイナーの氏名からなる商標は,本件商標登録以前から多数登録されており(甲14,48〜68),このような商標を付した商品も,我が国の市場に多数流通している(甲9)。したがって,我が国においては,「VALENTINO」の文字を含んだ商標について,「VALENTINO」の部分に氏又は名を結合させて氏名商標とすることにより互いに区別するという取引秩序が既に形成されている。
(4) 原告は,我が国において,「GIOVANNI VALENTINO」を含む商標について,平成2年に登録出願を開始して以来,現在に至るまで30件以上の商標登録を取得し(甲15),平成3年から,その使用を開始した。「GIOVANNI VALENTINO」ブランドの日本市場への参入は,当初から注目を集め,各紙において報じられた(甲33〜36)。実際に,「GIOVANNI VALENTINO」ブランドの多くの商品が我が国において流通し(甲9),相当な販売実績を残している(甲16〜28,37〜43,46,47)。なお,「VALENTINO GARAVANI」ブランドの商品は非常に高額であり,その需要者層は一部の高額所得者層に限られ,また,その商品は試着の上で購入されるものであるが,他方,「GIOVANNI VALENTINO」ブランドの商品は,その価格も高価なものでなく,その需要者層は一般の主婦や社会人であり,また,主にカタログ販売で需要者に提供されるものである。このように,両者の需要者層は明らかに異なるから,「GIOVANNI VALENTINO」ブランドの販売実績は,「VALENTINO GARAVANI」ブランドの信用にあやかったものではない。
本件決定は,本件商標の我が国での使用の開始から13年,商標登録から6年という長い年月の経過後にされたものであり,この間,上記のように,本件商標には独自の市場価値と顧客吸引力が生じているのであるから,あえて本件商標の商標登録を取り消すためには,市場が現に混乱しているなどの格別の事情が示されるべきであるのに,申立人からは誤認混同の事実を示す客観的な証拠は何ら提出されていない。
(5) これらの事情によれば,本件商標を指定商品に使用しても,商品の出所の混同を生じることはないというべきである。
被告の反論
本件商標が商標法4条1項15号に該当するとの本件決定の判断に誤りはなく,原告の主張する本件決定の取消事由には理由がない。
1 「VALENTINO GARAVANI」の略称としての「VALENTINO」表示の周知著名性について 「VALENTINO」表示は,ファッション関連商品におけるデザイナーであるA氏を示す略称として,また,同氏のデザイナーブランドである「VALENTINO GARAVANI」を示す表示として,昭和51年以来新聞,雑誌や書籍に繰り返し掲載され,また,商標「VALENTINO GARAVANI」の使用者自身も「VALENTINO」表示を使用していることから,「VALENTINO」表示は,遅くとも本件商標の登録出願時以前に,「VALENTINO GARAVANI」を示すものとして,優に,我が国の取引者,需要者間に広く認識され周知著名なものとなっていたものといわざるをえない。したがって,これと同旨の本件決定の認定に誤りはない。
なお,A氏について記載する新聞や雑誌の記事の大多数が「VALENTINO」の略称を見出し又は記事中に使用し,これが繰り返し掲載されている事実からすると,これに接する取引者,需要者をして,「VALENTINO」表示は,A氏を指すものと想起,連想するようになることは,むしろ自然といえる。
2 商品の出所の混同のおそれについて (1) 「VALENTINO」表示は,我が国において,ありふれた氏とはいえない上,前述のとおり,遅くとも本件商標の登録出願時以前に,A氏,又は,デザイナーブランドである「VALENTINO GARAVANI」を認識させる識別力の高いものとなっている。そして,本件商標は,図形部分とは分離した構成となっている文字部分についてみると,「GIOVANNI」と「VALENTINO」の文字を間隔を開けた構成であることから,外観上,後半部の「VALENTINO」の文字部分が分離した構成であるとみられるものであり,「GIOVANNI VALENTINO」の文字全体として特定の人名や語義を有するものとして世上一般に知られているともいえない上,その一連の称呼である「ジョバンニヴァレンティノ」も比較的冗長に亘るものであることを考慮すると,本件商標の構成中の「VALENTINO」の文字に着目され,「ヴィレンティノ」と称呼され得るものである。また,本件商標の指定商品にはファッション関連商品を含んでいることから,その商品を共通にし,また,密接な関係のある商品といえるものであり,かつ,その取引者,需要者も共通にするものであることからすると,本件商標に接する取引者,需要者は,「VALENTINO GARAVANI」に係る周知著名な「VALENTINO」ブランドないしはその兄弟ブランドであるなどと誤信し,当該商品が申立人又はその親子会社や系列会社等の緊密な営業上の関係又は同一の表示による商品化事業を営むグループに属する関係にある営業主の業務に係る商品であると誤信するおそれがあるといえる。
なお,「VALENTINO」の語を含む商標が,「VALENTINO GARAVANI」又は「VALENTINO」ブランドと区別され,出所の混同がないものとして理解されることがあり得るとするならば,それは,当該「VALENTINO」の語を含む商標が,「VALENTINO」とそれ以外の他の特定の文字とが結合したものとしてよく知られ,かつ,A氏とは,関係のないものとしてよく知られるに至っている等の特段の事情がある場合のみであるところ,本件商標にあっては,上記のような特段の事情を見出すことができない。
(2) 原告は,長期間にわたり本件商標の使用を継続し,その商品は相当な販売実績を残しており,また,その需要者層は,「VALENTINO GARAVANI」ブランドの需要者層と明らかに異なるから,本件商標には独自の市場価値と顧客吸引力が生じており,あえて本件商標の商標登録を取り消すべきではない旨主張する。
しかしながら,「VALENTINO」ブランドと「GIOVANNI VALENTINO」ブランドとの品質,嗜好,価格等によって需要者が異なる場合があるにしても,共に婦人服,紳士服等のファッション関連商品であることからすると,相互のブランドに関心を寄せる需要者が多いとみるのが自然であるから,両ブランドの需要者は,完全に二極化されたものとまでは断定し得ず,むしろ,需要者を共通にするものである。
また,「GIOVANNI VALENTINO」商標の商品に関する売上表(甲16〜28,37〜43)は,いずれも,既に,A氏のデザインに係る商品が「VALENTINO」ブランドとして周知著名性を獲得した後である本件商標の出願日後の売上に係るものであり,また,そこに示された売上を裏付ける資料の提出もないから,この売上表をもってしては,直ちに商品の出所の混同を生じるおそれなく取引がされていたものとはいい得ない。
そればかりか,原告の本件商標の使用に関して,2003年発行の商品カタログ(甲44)をみると,キャッチフレーズに「バレンチノの可能性。」「上質なフォーマルならここまで変われる。」と記載している事実が見受けられることから,「VALENTINO」ブランドと誤認し,「VALENTINO」ブランドに係る商品とその出所について混同を生じさせるおそれは大きいものといえる。
仮に,商品の出所の混同が生じるおそれなく取引されたとしても,本件商標の並存によって,周知著名な「VALENTINO」ブランドが具有している顧客吸引力希釈化されることは,優に想定し得るものである。
このように,「VALENTINO」ブランドが,A氏のデザインに係る商品として本件商標出願前から周知著名性を獲得した取引業界における実情の下では,本件商標に接する需要者の中に,これがA氏のデザインに係る商品,「VALENTINO GARAVANI」ブランドと関係のある商品,あるいは,申立人と何らかの関係を有する者の業務に係る商品であると誤信する者が商標法上無視できない程度に出現するであろうし,また,周知著名商標である「VALENTINO」ブランドの希釈化を防止する観点からしても,むしろ,本件商標の登録を取り消すことが,商標法の目的に照らして妥当といえる。
(3) 原告は,「VALENTINO」の文字を含んだ構成からなる商標登録の並存例の存在を指摘するが,本件商標が出所の混同を生じさせるおそれがあるかどうかは,個別・具体的に判断されるものであって,上記並存例の存在は,本件商標についての判断を左右するものではない。
当裁判所の判断
1 「VALENTINO GARAVANI」の略称としての「VALENTINO」表示の周知著名性について 原告は,「VALENTINO」表示がそれ自体「VALENTINO GARAVANI」という特定のデザイナーブランドを示すものとして周知著名性を獲得した旨の本件決定の認定(決定書7頁)は誤りである旨主張するので,検討する。
(1) 後掲各証拠及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。
ア A氏は,1932年(昭和7年)にイタリアで生まれたファッションデザイナーである。17歳のときにパリでデザイナーとしての修業を始め,1959年(昭和34年),ローマに自分のスタジオを開設し,1962年(昭和37年),フィレンツェにおける最初のコレクションで成功を収め,1967年(昭和42年)には,フィレンツェで「白一色のコレクション」を発表し,ライフ誌,ニューヨークタイムズ紙,ニューズウィーク誌などの新聞,雑誌に取り上げられるとともに,世界のファッション界におけるオスカー賞に相当し,ファッション界で最高の賞といわれる「ニーマン・マーカス賞」を受賞した。これ以来,同人の国際的な名声が確立され,その作品は,グレース公妃,オードリー・ヘプバーン,ジャクリーヌ・ケネディなどの著名女性にも愛用された。(甲31の7〔2〜3枚目〕,乙32,乙36〜39) イ 我が国では,昭和49年(1974年)7月,A氏のデザインによる紳士・婦人服,雑貨の輸入・販売を目的とする「株式会社ヴァレンティノ・ブティック・ジャパン」が設立され,各地の百貨店に出店するなど全国的に事業展開を行ってきている。同社の広告宣伝費,販売促進費及び展示会費の合計額は,昭和59年(1984年)7月期以降,平成4年(1992年)7月期まで,年間8500万円から3億円余にのぼり,その後も,平成5年(1993年)7月期に1億3500万円,平成6年(1994年)7月期に2億0400万円,平成7年(1995年)7月期に7000万円,平成8年(1996年)7月期に9500万円となっており,また,商品の売上高も,昭和59年(1984年)7月期以降,順調に増加し,平成5年(1993年)7月期に55億6000万円,平成6年(1994年)7月期に49億2000万円,平成7年(1995年)7月期に39億6900万円,平成8年(1996年)7月期に41億3100万円にのぼっている。
(乙1の1・8,40ないし42) ウ 辞典類においては,田中千代著「服飾辞典」(同文書院1981年発行,乙36)に,「ヴァレンティノ」の項目が設けられ,A氏に関する説明がされているほか,デイヴィッド・クリスタル編集「岩波=ケンブリッジ世界人名辞典」(株式会社岩波書店1997年発行,乙38)には,「ヴァレンティノ」の項が設けられて,A氏についての項を参照すべきことが記載されており,さらに,「ガラヴァーニ,ヴァレンティノ」の項には,「通称ヴァレンティノ」と記載されている。
エ 新聞においては(乙1の1〜22・24,乙34,本件商標の登録出願前である昭和51年9月29日から平成3年7月29日までの間に発行された各種新聞),A氏やその作品,作品展に関する記事が繰り返し掲載されており,その記事や見出し中には,A氏や同氏のデザイナーブランドである「VALENTINO GARAVANI」の略称として,「VALENTINO」表示が繰り返し用いられている。特に,平成3年7月29日発行の報知新聞(乙1の24)及び昭和57年11月20日発行の朝日新聞(乙34)では,A氏のフルネームは記載されておらず,「バレンチノ」の略称のみが使用されている。
オ 各種ファッション関連雑誌等においては,「世界の一流品大図鑑」1981年版,1985年版(乙2,4),「男の一流品大図鑑」1985年版(乙5),「ヴァンサンカン(25Ans)」1987年10月号,1994年4月号(乙10,12),「ミス家庭画報」1990年5月号,同7月号,1994年6月号(乙17,18,20),「ヴァンテーヌ」1994年12月号(乙23),「エル・ジャポン」1997年8月号(乙30),「ドンナ ジャポーネ」1998年4月号(乙31),「世界の一流品大図鑑」(昭和51年6月5日発行,乙32),「EUROPE一流ブランドの本」(昭和52年12月1日発行,乙33),「nonno」1989年12月号(乙35)では,A氏やそのデザイナーブランドである「VALENTINO GARAVANI」の略称として,「VALENTINO」表示が繰り返し掲載されている。
カ 我が国における「ヴァレンティノ」ブランドの使用者自身,「株式会社ヴァレンティノ・ブティック・ジャパン」という名称であって,「ヴァレンティノ・ガラバーニ」ではなく,「ヴァレンティノ」の名称を使用している(乙1の1・8)。なお,A氏の本国であるイタリアにおいても,ファッションの発信地でもあるRoma,Firenze,Milano等にある店の名称は,「Valentino(Vは小文字で書くこともある)」と称している(乙37)。
(2) 上記(1)の認定事実を総合すれば,A氏は,遅くとも,本件商標の登録出願日(平成8年10月9日)までには,世界的に著名なファッションデザイナーとして,我が国のファッション関連商品の取引者,需要者の間に広く知られるようになり(この点については,原告も積極的には争っていない。),それと共に,「VALENTINO」表示は,同人又は同人のデザインに係る商品のブランドを表すものとして,我が国の婦人服,紳士服等のファッション関連分野において,取引者,需要者に周知となっていたものであって,この状態は本件商標の登録査定時である平成10年6月ころを経て現在に至るまで継続しているものと認められる。したがって,これと同旨の本件決定の認定に誤りはない。
(3) これに対し,原告は,新聞,雑誌の見出しのみではその意味内容が正確には把握できない場合には,記事中で事実を正確に記述することにより,正確性を担保することが一般に行われているから,見出しに略称が用いられているからといって,その略称が周知著名であるということには必ずしも結び付かない旨主張する。
しかしながら,A氏ないし同氏のデザインに係る商品のブランドにつき,現に,その略称として「VALENTINO」表示が頻繁に用いられている以上,それと併せて,A氏の氏名を省略せずに表記する例が多くあったとしても,上記略称がそれ自体として,A氏ないし同氏のデザインに係る商品のブランドを示すものとして周知となることは当然にあり得ることというべきである。現に,前記(1)エのとおり,A氏や同氏のデザイナーブランドである「VALENTINO GARAVANI」の略称として,「VALENTINO」表示が単独で用いられている例もある。したがって,原告の上記主張は理由がない。
(4) また,原告は,「VALENTINO」表示が,新聞,雑誌の見出しや辞典類に用いられていたとしても,これらは,業として商品を生産,譲渡等する者により,自他商品を識別するための標識として用いられたものではないから,「VALENTINO」表示の商標としての周知著名性を示すものとはいえない旨主張する。
しかしながら,前記認定のとおり,新聞,雑誌の記事や見出し中において,A氏や同氏のデザイナーブランドである「VALENTINO GARAVANI」の略称として「VALENTINO」表示が頻繁に用いられていたり,辞典類において,「ヴァレンティノ」がA氏の通称,略称であることが記載されたりしている以上,我が国のファッション関連商品の取引者,需要者がそれらの表示に接した場合,A氏又はそのデザインに係る商品のブランドを表すものとして認識することは明らかである。上記新聞,雑誌,辞典類の記載が,商品の生産者,譲渡者自身により自他商品識別標識として用いられたものでないことは,前記認定を左右するものではない。したがって,原告の上記主張も理由がない。
(5) さらに,原告は,特許庁においても,「VALENTINO」表示がA氏の著名な略称ないし申立人の著名な商標ということはできないとの判断がされていると指摘する。
確かに,証拠(甲2の1・2・5・7〜11)によれば,特許庁において原告が指摘するような内容の「登録異議の決定」がされた例があることが認められるが,そのような「登録異議の決定」例が存在するからといって,客観的証拠に基づく「VALENTINO」表示の周知著名性に関する前記認定が左右されるわけではない。したがって,原告の上記主張も理由がない。
(6) 以上のとおり,「VALENTINO GARAVANI」の略称としての「VALENTINO」表示の周知著名性についての原告の主張はいずれも理由がない。
2 商品の出所の混同のおそれについて 原告は,本件商標が商品の出所について混同を生ずるおそれがあるものである旨の本件決定の認定(決定書8頁)は誤りであると主張するので,検討する。
(1) 商標法4条1項15号にいう「他人の業務に係る商品又は役務と混同を生ずるおそれがある商標」には,当該商標をその指定商品又は指定役務に使用したときに,当該商品又は役務が他人の業務に係る商品又は役務であると誤信されるおそれがある商標のみならず,当該商品等が上記他人との間にいわゆる親子会社や系列会社等の緊密な営業上の関係又は同一の表示による商品化事業を営むグループに属する関係にある営業主の業務に係る商品又は役務であると誤信されるおそれ(以下「広義の混同のおそれ」という。)がある商標が含まれると解するのが相当であるところ,「混同を生ずるおそれ」の有無は,当該商標と他人の表示との類似性の程度,他人の表示の周知著名性及び独創性の程度や,当該商標の指定商品等と他人の業務に係る商品等との性質,用途又は目的における関連性の程度並びに商品等の取引者及び需要者の共通性その他取引の実情などに照らし,当該商標の指定商品等の取引者及び需要者において普通に払われる注意力を基準として総合的に判断されるべきである(最高裁平成12年7月11日第三小法廷判決・民集54巻6号1848頁)。
(2) これを本件についてみると,本件商標は,上段にアルファベット文字の「G」と「V」を組み合わせたモノグラムを配し,下段に「GIOVANNI VALENTINO」と欧文字を横書きした構成からなり,両者は分離した構成となっている。そして,上記文字部分は,「GIOVANNI」の部分と「VALENTINO」の部分が分離して記載されているから,その外観及び称呼のいずれの点においても,「GIOVANNI」ないし「ジョバンニ」と「VALENTINO」ないし「ヴァレンティノ」と二分して認識され得るものであり,上記後半部分は,「VALENTINO」表示と同一の構成である。
また,「VALENTINO」表示は,前記認定のとおり,本件商標の登録出願日及び登録査定当時,著名なファッションデザイナーであるA氏ないし同氏のデザインに係る商品に付されるブランドの表示として,我が国の婦人服,紳士服等のファッション関連分野の取引者,需要者にとって周知であり,かつ,少なくとも我が国においては一定程度の独創性を備えたものであると認めることができる。
そして,本件商標の指定商品は,商標法施行令(平成13年政令第265号による改正前のもの)1条別表の第25類「被服,ガーター,靴下止め,ズボンつり,バンド,ベルト,履物,運動用特殊衣服,運動用特殊靴」であるのに対し,「VALENTINO」表示は,婦人服,紳士服等のファッション関連商品に使用されてきたものと認められるから,本件商標及び「VALENTINO」表示が使用される商品は極めて密接な関連性を有しており,両商品の取引者,需要者の相当部分が共通している。
以上の事情に照らせば,本件商標をその指定商品に使用するときは,その取引者,需要者において,その商品がA氏ないし同氏と緊密な関係にある営業主の業務に係る商品であるとの混同を生ずるおそれがあるというべきである。これと同旨の本件決定の認定に誤りはない。
(3) これに対し,原告は,原告の代表者であるC氏は,ヴァレンティノファミリーの正当な後継者として,「VALENTINO」の名を含んだ本件商標を採択,使用しているものであり,ヴァレンティノファミリーの歴史からすれば,C氏が本件商標を使用することは,A氏が築いた信用にあやかろうとするものではなく,正当なものである旨主張する。
しかしながら,前記のとおり,混同のおそれが認められるかどうかは,専ら指定商品に係る取引者,需要者において普通に払われる注意力を基準として決せられるものであり,当該商標の使用者がその商標を採択した経緯や意図がその判断に直接影響することはないというべきである。したがって,原告の代表者であるC氏が,ヴァレンティノファミリーの正当な後継者として本件商標を使用しており,A氏が築いた信用にあやかろうとする意図を有していないとしても,そのような事情は,混同のおそれについての前記認定を左右するものとはいえず,原告の上記主張は理由がない。
(4) また,原告は,ファッション関係のデザイナーが自己の名前をそのブランドとして使用しようとすることは当然のことである上,「VALENTINO」はイタリアではありふれた氏又は名であるから,申立人が独占すべきものではなく,「VALENTINO」表示を商標に用いる場合には,他人の商標と区別するため,氏又は名を併記すべきであり,したがって,本件商標に「VALENTINO」の部分が含まれるからといって,商品の出所の混同を生じることはないというべきである旨主張する。
しかしながら,ファッション関係のデザイナーが自己の名前をそのブランドとして使用したいとの意図を有したとしても,その場合,他人の業務に係る商品又は役務と混同のおそれを生じないようにすべきであるとの制約を受けることは,商標法上当然のことである。また,「VALENTINO」がイタリアではありふれた氏又は名であるとしても,少なくとも我が国においては,「VALENTINO」はありふれた氏又は名ではなく,一定程度の独創性を備えたものであるということができる。なお,混同を生ずるおそれがあるかどうかは,専ら我が国における指定商品に係る取引者,需要者の認識によって決せられるものであるから,原告が主張するような,イタリアにおける判決や韓国における異議決定の判断,また,ヴァレンティノファミリーとA氏側との契約書に示された認識によって,直接左右されるものではない。したがって,原告の上記主張も理由がない。
(5) さらに,原告は,我が国においては,「VALENTINO」を含むデザイナーの氏名からなる商標は,本件商標登録以前から多数登録されており,このような商標を付した商品も,我が国の市場に多数流通しているから,「VALENTINO」の文字を含んだ商標については,「VALENTINO」に加えて氏又は名を結合させて氏名商標とすることにより互いに区別するという取引秩序が既に形成されている旨主張する。
確かに,証拠(甲14,48〜68)によれば,「VALENTINO」を含む商標が本件商標登録以前から登録されている例が相当数あることが認められ,また,証拠(甲9の1〜19)によれば,ファッション関連商品等について,本件商標以外にも「VALENTINO」を含む複数の商標が付された商品が商品カタログに掲載されていることが認められる。
しかしながら,「VALENTINO」を含む商標が本件商標登録以前から相当数登録されていても,それが実際にどの程度使用されていたかは全く明らかではないし,また,上記商品カタログに掲載された商品が実際にどの程度流通しているかどうかも明らかではないのであって,上記事実をもって直ちに原告主張のような取引秩序が形成されていると認めることはできない。
なお,上記商品カタログ(甲9の1〜19)はいずれも平成8年以降に発行されたものと認められるから,ほぼ本件商標登録出願後のものであり,既に「VALENTINO」表示がAないし同氏のデザインに係る商品に付されるブランドの表示として周知となった後のものであるから,むしろ上記商品カタログに掲載された商品は,A氏ないし同氏と緊密な関係にある営業主の業務に係る商品であるとの混同を生じているものとも考えられる。
したがって,原告の上記主張も理由がない。
(6) また,原告は,本件商標の我が国での使用の開始から13年,商標登録から6年という長い年月の経過後に本件決定がされたものであり,この間,相当な販売実績を上げるなどしたことにより,本件商標には独自の市場価値と顧客吸引力が生じているとし,申立人からは誤認混同の事実を示す客観的な証拠は何ら提出されていない旨主張する。
ア 後掲各証拠及び弁論の全趣旨によれば,次の事実が認められる。
原告は,イタリアのデザイナーであるC氏がデザインしたファッション関連商品等についての事業を展開している。原告は,平成2年12月から,「GIOVANNI VALENTINO」との表記が含まれる商標についての登録出願を始め,少なくとも25件について商標登録を受けている(甲15)。原告ないしC氏は,平成3年から,我が国における事業を開始し,そのことは,同年5月17日付け日経産業新聞(甲33),同日付け日本繊維新聞(甲34),同月21日付け日本繊維新聞(甲35),同日付け繊研新聞(甲36)で取り上げられた。その後,原告ないしC氏の事業は,平成4年3月11日付け日本繊維新聞(甲6),平成9年2月20日付け繊研新聞(甲7)で取り上げられた。我が国における「GIOVANNI VALENTINO」ブランドの商品の売上を,本件商標に係る指定商品についてみると,紳士靴については,平成9年が2億7079万円,平成10年が2億4610万円,平成11年が1億5184万円,平成12年が4801万円,平成13年が2370万円(甲17)であり,ベルト・革製品については,平成9年が3億2635万円,平成10年が3億4244万円,平成11年が2億9156万円,平成12年が2億2242万円,平成13年が1億4565万円,平成14年が1億0212万円,平成15年が7799万円,平成16年が4847万円(甲19,39)であり,婦人用フォーマルスーツについては,平成11年が1億8905万円,平成12年が1億8849万円,平成13年が2億2945万円,平成14年が3億0955万円,平成15年が2億8436万円,平成16年が3億5331万円(甲28,43)である。なお,「GIOVANNI VALENTINO」ブランドの商品が掲載された商品カタログには,「バレンチノの可能性。上質なフォーマルならここまで変われる。」,「バレンチノの魅力を心ゆくまでどうぞ。」,「シルエットの美しさ,巧みなカッティングそしてマテリアルへのこだわりがバレンチノ・フォーマルの本質。」等の記載がある(甲44,45)。
イ 上記認定事実を前提に検討すると,まず,商標の取引者,需要者の間における顧客吸引力はその商標が実際にどの程度使用されているかに大きく依存するものであるから,原告が「GIOVANNI VALENTINO」との表示が含まれる商標について商標登録を受けている点は,それ自体としては当該商標の顧客吸引力とは無関係であるといわざるを得ない。また,「GIOVANNI VALENTINO」ブランドの事業についての新聞報道は,極めて少数かつ非継続的であり,しかも,一般消費者が購読することが考えにくい繊維業界の業界紙等のみにおいてされたものにすぎない。さらに,「GIOVANNI VALENTINO」ブランドの商品のうち本件商標の指定商品に係るものの売上については,いずれも本件商標登録出願(平成8年10月9日)後のものであり,既に「VALENTINO」表示がA氏ないし同氏のデザインに係る商品に付されるブランドの表示として周知となった後のものであるから,むしろ上記売上は,A氏ないし同氏と緊密な関係にある営業主の業務に係る商品であるとの混同を生じさせた結果によるものと考えられる(「GIOVANNI VALENTINO」ブランドの商品が掲載された商品カタログに,「バレンチノ」のみの表示が使用されていることも,このことを裏付けるものといえる。なお,原告が主張するように,両商品の間で需要者層が明らかに異なるとまでいうことはできない。)。
これらの事情によれば,「VALENTINO」表示との混同を生じさせないような独自の信用,顧客吸引力が本件商標に生じているとは到底いうことができず,原告の上記主張も理由がない。
(7) 以上のとおり,商品の出所の混同のおそれについての原告の主張はいずれも理由がない。
3 以上のとおり,原告主張の取消事由は理由がなく,他に本件決定を取り消すべき瑕疵は見当たらない。
よって,原告の本件請求は理由がないから,これを棄却することとし,主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 佐藤久夫
裁判官 若林辰繁
裁判官 沖中康人