運営:アスタミューゼ株式会社
  • ポートフォリオ機能


追加

関連審決 審判1999-20949
この判例には、下記の判例・審決が関連していると思われます。
審判番号(事件番号) データベース 権利
平成13行ケ49審決取消請求事件 判例 商標
平成17行ケ10673審決取消請求事件 判例 商標
平成13行ケ446審決取消請求事件 判例 商標
平成13行ケ50審決取消請求事件 判例 商標
平成12行ケ474審決取消請求事件 判例 商標
関連ワード 商標性 /  識別力 /  包装 /  役務の提供 /  出所表示機能 /  識別機能 /  指定商品 /  指定役務 /  普通名称(3条1項1号) /  記述的商標(3条1項3号) /  普通に用いられる方法 /  3条1項5号 /  3条2項 /  商標の同一性 /  公序良俗(4条1項7号) /  顧客吸引力(グッドウィル) /  立体商標 /  平面商標 /  立体的形状 /  中用件(33条) /  外観(外観類似) /  全体観察 /  取引の実情 /  国内 /  補正 /  存続期間 /  マドリッド /  パリ条約 /  国際登録 /  類似商標 /  外国 /  同業者 / 
元本PDF 裁判所収録の全文PDFを見る pdf
元本PDF 裁判所収録の別紙1PDFを見る pdf
事件 平成 13年 (行ケ) 418号 審決取消請求事件
原告 ゴールドケン ジヤージー リミテツド
訴訟代理人弁理士 木村三朗
同 佐々木 宗治
同 小林久夫
同 大村昇
被告 特許庁長官及川耕三
指定代理人 久保田 正文
同 涌井幸一
同 大橋良三
裁判所 東京高等裁判所
判決言渡日 2002/07/18
権利種別 商標権
訴訟類型 行政訴訟
主文 原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
この判決に対する上告及び上告受理の申立てのための付加期間を30日と定める。
事実及び理由
当事者の求めた裁判
1 原告 (1) 特許庁が平成11年審判第20949号事件につき平成13年5月2日にした審決を取り消す。
(2) 訴訟費用は被告の負担とする。
2 被告 主文と同旨
当事者間に争いのない事実
1 特許庁における手続の経緯 原告は,平成9年10月27日,別紙のとおりの構成より成る商標(以下「本願商標」という。)を,第30類に属する商品(チョコレート,その他の菓子及びパン,コーヒー及びココア,茶,調味料,穀物の加工品,サンドイッチ,ハンバーガー,ピザ,べんとう,ホットドック,ミートパイ,ラビオリ,即席菓子のもと,アイスクリームのもと,シャーベットのもと)を指定商品として,立体商標として登録出願(平成9年商標登録第170665号)した(以下「本願商標」という。)。
本願商標について,平成10年6月5日付けで,商標法3条1項3号に該当するとの拒絶理由が通知された。原告は,指定商品について,平成10年10月19日付けの手続補正書で,「チョコレート」と補正した。特許庁は,平成11年9月14日付けで,「本願商標は,その指定商品との関係よりすれば,その商品の形状(収納容器)の一形態であることを容易に認識させる立体的形状普通に用いられる方法の範疇をもって表示してなるものであるから,これをその指定商品について使用しても,単に商品の包装(収納容器)の形状を表示するにすぎないものと認める。したがって,本願商標は,商標法第3条第1項第3号に該当する。なお,出願人が提出した甲第1号証ないし同第6号証によっては,本願商標が出願人の取扱いに係る商品として周知されるに至っているものということができない。」と認定して,本願を拒絶する査定をした。
原告は,平成11年12月24日,この拒絶査定に対する不服の審判を請求した。
特許庁は,これを平成11年審判第20949号として審理し,その結果,平成13年5月2日,「本件審判の請求は,成り立たない。」との審決をし,同月21日,その謄本を原告に送達した。
2 審決の理由 審決は,別紙審決書写し記載のとおり,本願商標は,金塊(インゴット)を模した六面体よりなる包装容器の立体的形状を表したものとみるべきであって,これをその指定商品である「チョコレート」について使用しても,需要者は,単に商品の包装形状の一形態を表示したものと認識するにすぎず,自他商品の識別力を有するような特異な形状でもないから,商標法3条1項3号に該当し,その使用により,自他商品の識別力を有する至ったとも認められないから,商標法3条2項の登録要件を満たしているとすることもできない,とした。
原告主張の審決取消事由の要点
審決の理由のうち,「1 本願商標」及び「2 原査定の理由」は認める。
「3 当審の判断」は争う。
1 取消事由1(立体商標制度の理解の誤り) (1) 立体商標の保護につき,日本商標法が採っている前提 日本の商標法は,その規定から,立体商標の保護につき,以下のような前提を取っていると解される。
ア 商品の形状又は商品の包装の形状は,文字,図形,記号等と同じように,本来的に商標たり得る(商標法2条)。
イ しかし,商品の形状又は商品の包装の形状は,それが普通に用いられる方法で表示するものとして使用される場合は,自他商品を識別する商標としての識別性を欠き,商標の登録を受けることはできない(同条1項3号)。
ウ 商品の形状又は商品の包装の形状は,その商品又は商品の包装の機能を確保するための不可欠な立体的形状である場合は,登録することができない(同4条1項18号)。
(2) 審決の,立体商標商標性の理解の誤り 審決は,「立体商標は,商品若しくは商品の包装又は役務の提供の用に供する物(以下「商品等」という。)の形状も含むものであるが,商品等の形状は,本来それ自体の持つ機能を効果的に発揮させたり,あるいはその商品等の形状の持つ美感を追求する等の目的で選択されるものであり,本来的(第一義的)には,商品・役務の出所を表示し,自他商品・役務を識別する標識として採択されるものではない。」(審決書2頁11行〜16行)としている。
しかし,これは,日本商標法が定めている立体商標商標性に関する解釈を誤るものである。
商品の形状には,その機能から,本来有すべき形状であるものもあり,自他商品の識別のために構成される形状もあり,商品の価値を高めるための効果を付加するために採用される形状もある。一概に,審決がいうようにいえるものではない。
(3) 審決の,識別性の判断基準の理解の誤り1(機能的形状と意匠的形状の区別) 審決は,「商品等の形状に特徴的な変更,装飾等が施されていても,それは,前示したように,商品等の機能,又は美感をより発揮させるために施されたものであって,本来的には,自他商品を識別するための標識として採択されるのではなく,全体としてみた場合,商品等の機能,美感を発揮させるために必要な形状を有している場合には,これに接する需要者は当該商品等の形状を表示したものであると認識するにとどまり,このような商品の機能又は美感に関わる形状は,多少特異なものであっても,未だ,商品等の形状を普通に用いられる方法で表示するものの域を出ないと解するのが相当である。
また,商品等の形状は,同種の商品等にあっては,その機能を果たすためには原則的に同様の形状にならざるを得ないものであるから,取引上何人もこれを使用する必要があり,かつ,何人もその使用を欲するものであって,一私人に独占を認めるのは妥当でないというべきである。
そうとすれば,商品等の機能又は美感とは関係のない特異な形状である場合はともかくとして,商品等の形状と認識されるものからなる立体的形状をもって構成される商標については,使用をされた結果,当該形状に係る商標が単に出所を表示するのみならず,需要者間において当該形状をもって同種の商品等と明らかに識別されていると認識することができるに至っている場合を除き,商品等の形状を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標として商標法第3条第1項第3号に該当し,商標登録を受けることができないものと解すべきである。」(審決書2頁17行〜末行),とする。
しかし,審決がいう「商品等の形状を普通に用いられる方法で表示する」の意味が,商品等の形状に特徴的な変更が加えられていても,それが機能,美感を発揮させるためのものである限り,商品等の普通の形状の範囲にとどまるとの趣旨であれば,立体商標保護の趣旨を著しく逸脱するものである。
商標法3条1項3号の「普通に用いられる方法で表示する」は,商品又は商品の包装の形状のうち,機能に由来する形状についてのみの定めであり,美感に係る意匠的形状には適用されないと解すべきである。審決は,商品等の形状について,機能に由来する形状と,美感に係る形状とを区別していない点において,既に誤っている。意匠的形状は,極めてありふれたものであって,何人の商品であるかを識別することができない形状であるときは,商標法3条1項5号により商標権を否定されるものの,その場合を除き,本来的に商標性を備えているというべきである。美感に係る意匠に由来する形状の場合は,まず,商標法3条1項3号ではなく,5号に該当するか否かを判断し,ついで,3条2項該当性を判断すべきである。
審決は,商品等の機能又は美感とは関係のない特異な形状に限っては,商標法3条1項3号の適用を受ける,という。しかし,そのような形状は,その形状が商品等のものである限り,現実には存在しない架空のものでしかあり得ない。また,上記審決書の記載からは,審決は,商品等の形状が機能に基づくものであっても,商標法3条2項の適用が受けられると考えているかのように読める。しかし,機能に基づく形状は,同法4条1項18号によって,およそ登録を受けることができないのである。
(4) 審決の,識別性の判断基準の理解の誤り2(商品の形状と包装の形状の区別) 審決は,商品の形状の場合と,商品の容器又は包装の形状の場合とを区別せずに論じている。
商品の容器又は包装については,商品の機能を発揮させ,美感を追求する目的に加え,自他商品の識別のための要素が付加されることもあるのである。
(5) 商品の形状,包装の形状に対して商標法により保護を与えるか否かの判断基準 商品の形状,包装の形状に対して商標法により保護を与えるか否かは,次のように判断されるべきである。
ア 当該形状が,商品又は商品の包装の機能に由来している場合,その商品又は包装の形状の機能を発揮させることを合理的に解釈すれば,通常はその形状にならざるを得ないような形状は,識別性を有しないものとして,登録を受けることはできない。
イ 商品の形状,商品の包装の形状が機能に由来している場合,永年の使用により識別性を取得しても,商標法4条1項18号により,登録を受けることはできない。
ウ 商品の形状又は商品の包装の形状が,美感に訴える意匠的形状である場合には,その形状が,その商品又はその商品の包装として普通に用いられるような形状でなければ,登録が認められる。
エ 商品の形状又は商品の包装の形状が美感に訴える意匠的形状である場合には,自他商品識別の標識としての機能に本来的には欠ける場合であっても,使用の結果,識別性を取得している場合には登録が認められる。
2 取消事由2(商標法3条1項3号該当性の判断の誤り) 審決は,「本願商標は,別掲のとおり,金塊(インゴット)を模した六面体よりなる包装容器の立体的形状を表したものとみるべきであって,これを本願指定商品「チョコレート」について使用しても,需要者は,単に包装容器の形状の一形態を表示したものと認識するにすぎないと判断するのが相当である。」(審決書3頁1行〜5行),「本願指定商品を含む菓子を取り扱う業界においては,包装容器の形状に特徴をもたせ,かつ,これに,種々の色彩を施したものを採択し,販売していることが一般に行われているところであって,請求人の主張する形状等の特徴は,包装容器の美感(見た目の美しさ)等を効果的に際立たせるための範囲のものというべきであり,本願商標が殊更特異な形状であるとはいえないものである。
してみれば,本願商標は,前記認定のとおり,商品の包装容器の形状の一形態を普通に用いられる方法の範疇で表示する標章のみからなる商標というべきであって,本願商標は,その形状及び色彩に特徴をもたせたことをもって,自他商品の識別標識としての機能を有するものとは認められない。」(審決書3頁9行〜18行),とする。
しかし,本願商標は,スイス銀行の金塊(インゴット)の形状を模し,特異な梯型をしたもので,さらに金色に着色しており,原告の知る限り,他に例を見ない。チョコレートの形状は通常板状であり,その他ボール状,ボトル状の形状もあるものの,いずれにせよ,その包装は,商品をそのまま包装紙で巻いたりホイルで覆ったりしたものを,四角形の紙箱等の包装容器に収納している。これに対し,本願商標は,需要者の美感に訴える意匠的形状であり,また,特異な形状でもある。
被告が摘示する例のものは,日本銀行内での売店で,職員,来訪者向けに販売されるなど,ごく限られた範囲で流通しているにすぎず,しかも,原告の採用した形状を模したものである。また,そもそも,商標としての商品の包装の形状は,新規であることを要しない。
本願商標と同一の商標は,チョコレートを指定商品して,スイス,アメリカ国で登録され,また,マドリッド協定に基づく国際登録が,アルジェリア,ドイツ,アルメニア等40カ国を指定国としてなされていることからも,本願商標が本来的に識別性を有することは,明らかである。
(甲第3号証ないし甲第6号証) したがって,本願商標が,「商品の包装容器の形状の一形態を普通に用いられる方法の範疇で表示する標章のみからなる商標」であるとした審決の認定(審決書3頁15行〜16行)は誤りである。
3 取消事由3(商標法3条2項該当性の判断の誤り) (1) 出願に係る立体商標と使用に係る立体商標との同一性 審決は,「商品等の形状に係る立体商標が,商標法3条2項に該当するものとして認められるのは,原則として使用に係る商標が出願に係る商標と同一の場合であって,かつ,使用に係る商品と出願に係る指定商品も同一のものに限られると解される」(審決書3頁26行〜29行)としている。
しかし,この審査基準は,商標法により保護される商標が平面商標に限られていた時代に,平面商標が使用による識別性を獲得したか否かの判断のための基準として用いられたものであって,立体商標,とりわけ商品の容器,包装の形状より成る商標に適用されるべきものではない。
商品の包装容器には,通常,ラベル等が貼付されたり,デザインが施されていたりしているから,これらを含めた全体を,商品の包装容器の形状とみなすべきであるとすると,デザイン等を除いた形状は,商標として登録を受けることができなくなる。
実際上,包装の形状自体特異であり,自他商品を識別する標識として機能している場合であっても,別途,商品表示,デザイン等が表示されていることがある。
したがって,立体商標に関して商標法3条2項を適用する場合,使用に係る商標(容器,包装の形状)から,ラベル,デザイン等を除いた形状自体が,出願に係る商標と同一性を有しているか否かを判断すべきである。
また,被告は,「需要者が,何人かの業務に係る商品等であることを認識することができるに至っていることを証明する客観的な証拠(例えば,同業組合又は同業者等,第三者機関による証明)の提出があったときは,使用に係る商標の立体的形状のみが独立して,自他商品又は役務を識別するための出所表示として機能を有するに至っていると認められるか否か判断する」として,証明の方法に厳しい制限を付すべきことを主張する。
しかし,これは,機能的形状には当てはまっても意匠的形状には当てはまらない議論である。特に,原告のような外国に住所を有する企業が,同業組合等の第三者機関の証明を取り付けることはほとんど不可能であり,被告主張のような証明を要求することは,本願商標のような商標の登録を不可能とするものである。
(2) 本願商標と原告の使用に係る商標との同一性 原告商品(チョコレート)の包装容器の表面には,山を描いた図形及び「GOLDKENN」の文字,その他種々の文字が付されている(検甲第1号証)。しかし,これらはチョコレート自体を表示する文字であり,デザインであり,ラベル的表示である。これらの文字等を除けば,原告商品の形状は,本願商標と同一性を有する。
また,「GOLDKENN」の文字等は,金色の包装上に刻印されているだけであって,際立ったものではなく,一見したときに看者の注意を引くものではない。需要者にとっては,金のインゴットの形状が強く印象として残存し,金のインゴットの形状のチョコレートとして記憶され,識別の標識として認識されるものである。現に,原告は,本願商標を自他商品の識別標識としての目的でも採用している。
(3) 原告による本願商標の使用 原告は,本願商標を付した商品を,昭和60年以降日本に輸出し,近畿日本ツーリスト,東急観光等の旅行会社,空港の専門店,朝日エアポートサービス等の土産物店,佐渡金山等の観光名所の土産物店で販売している。
また,一般消費者向けとして,大丸,三越等の有名デパートにおける売場,直営店,通信販売等での販売をしている。
(甲第9号証,第27号証) 原告は,旅行者の発行するパンフレットに本願商標を掲載するなどの形で宣伝広告を行っている。その費用は,平成7年に4208万8000円,平成8年に4059万1000円,平成9年に4302万4000円,平成10年に5815万3000円,平成11年に5555万5000円,平成12年に4962万3000円である。
(甲第9号証ないし第24号証)。
以上のとおり,本願商標は,原告の使用等により,識別性を獲得している。
(4) 諸外国での登録 本願商標と同一の商標は,チョコレートを指定商品として,スイス,アメリカ国で登録され,また,マドリッド協定に基づく国際登録が,アルジェリア,ドイツ,アルメニア等40カ国を指定国として登録されている。このことからも,本願商標が,原告商品について,本来的に識別性を有することは明らかである。
(甲第3号証ないし甲第6号証) 審決は,「出願に係る商標が登録要件等を具備しているか否かについては,当該出願に係る国の法令及びその国の商品取引の実情等に照らして判断がなされるべきものであるところ,諸外国の登録制度とわが国のそれとが同一のものと解釈しなければならない事情が存するものとは認められない」(審決書4頁末行〜5頁4行)とするが,この判断はパリ条約6条の5A(1)の解釈を誤るものである。
すなわち,パリ条約6条の5A(1)は,「本国において正規に登録された商標は,この条で特に規定する場合を除くほか,他の同盟国においても,そのままその登録を認められかつ保護される。…」と定めている。そして,「この条で特に規定する場合」として,同条Bにおいて,「1.第三者の既得権を害する場合,2.識別性を有しない場合,3.公序良俗に反する場合」を定めている。「この識別性を有しない場合」とは,「当該商標が商品の普通名称や商品の産地,品質等を示す語,記号又は図形で構成されている標章であって,使用により識別性を取得することができない標章のみからなる場合」と解されている。
(甲第7号証) 原告は,スイス国において現実に営業をしており,スイス国は原告の本国となる。本願商標は,このように原告の本国となるスイス国において登録されている。また,前記のとおり,40を越える国で登録されている。
したがって,仮に,本願商標が,日本の法律によれば識別性に欠けるとしても,使用により識別性を獲得し得るものであり,バリ条約6条の5A(1)により,登録され保護される資格がある。
(5) 原告は,本願商標の,自他商品の識別機能を維持するため,類似商品における類似商標の使用を排除する努力をしている。
(甲第8号証)
被告の反論の要点
審決の認定・判断は正当であり,審決に原告主張の誤りはない。
1 取消事由1(立体商標制度の理解の誤り)について (1) 立体商標保護を求める声が現実にあること,不正競争防止法においても,商品の形状について保護を認めている裁判例が多くあること,国際的にも立体的な商標を保護する趨勢にあることから,我が国においても立体的商標が商標制度により保護されることとなり,平成8年法律第68号により,立体的形状若しくは立体的形状と文字,図形,記号等の結合又はこれらと色彩との結合された標章であって,商品又は役務について使用するものを登録する立体商標制度が導入された(乙第9号証) この立体商標制度においては,平成7年12月13日工業所有権審議会答申(乙第10号証)を受けて,@商標法により保護すべき立体商標を,商品若しくは商品の包装又は役務の提供の用に供する物の形状も含む立体的形状とし(商標法2条),A立体商標の登録要件について,需要者が指定商品若しくはその容器又は指定役務の提供の用に供する物の形状そのものの範囲を出ないと認識する形状のみからなる立体商標は登録対象としないことにし(同法3条1項3号),B立体商標の不登録の理由として,機能的・不可避的な立体的形状からなる商標については,使用による識別力を生ずるに至った場合においても,登録しないこととし(同法4条1項18号),C意匠権との抵触関係については,従来どおりとし,特許権,実用新案権との抵触関係についての調整規定を設けることとする(特許法72条,実用新案法17条,商標法29条,33条の2及び3),とされた。
この立体商標制度は,指定商品若しくはその容器又は指定役務の提供の用に供する物の形状(すなわち,「商品等の形状」)も含む立体的形状であって,商品又は役務について使用するものを登録する制度であり,平面商標と同様,自他商品・役務の識別機能を通して獲得される,商標を使用する者の業務上の信用を保護するためのものである。したがって,立体商標が保護されるためには,自他商品の識別標識としての機能を有していることが必要である。
(2) このように,立体商標については,全体観察した場合に,需要者によって,商品の形状,商品の包装の形状又は役務の提供の用に供する物の形状そのものの範囲を出ないと認識されるにすぎない商標は,登録できないものである。また,ありふれた形状の場合も同様である。ただし,これらの商標であっても,使用の結果識別力が生ずるに至ったものは,商標法3条2項により登録されることになる(乙第1号証)。
具体的には,立体商標の形状が,同種の商品等が採用し得る立体的形状に特徴的な変更,装飾等が施されたものであっても,需要者がその商品又は役務の取引業界において採用し得る範囲での変更,装飾等と認識するにとどまる場合においては,その立体商標の全体を観察しても指定商品の形状の範囲を出ないものと判断されるので,原則として識別力を有しない。また,同種の商品等について,上記「採用し得る範囲での変更,装飾等」に当たるか否かは,同種の商品等について同一の変更,装飾等が施された商品等が実際に存在していなくても,また,相対的にみれば,外観上はそれぞれ特徴的な形状からなるものと認められるとしても,その商品又は役務の取引業界においては,その種の変更,装飾等が採用され得るものと認められれば足りるとの観点から,すなわち,その商品等の取引の実情,需要者層等を総合的に勘案して,判断されるものである。
このような解釈がされるのは,商品等の形状が,本来それ自体の持つ機能を効果的に発揮させたり,その商品等の持つ美感を高めたりする目的で選択されるものであって,本来的(第一義的)には,商品・役務の出所を表示し,自他商品等を識別する標識として採択されるものではない,と一般的に認識されるためである。
以上に述べたところから,結局のところ,商品等の形状は,商品等の機能又は美感とは関係のない特異な形状である場合か,そのような特異な形状でないものについては,使用により二次的に自他商品等の識別力を有するに至った場合に,初めて登録要件を満たすことになる,というべきである。
(3) 原告は,商品等の機能的形状と意匠的形状を区別し,後者については基本的に商標として登録されるべきである,と主張する。しかし,機能的形状,意匠的形状のいずれであっても,需要者が指定商品等の形状を表したものと認識するにとどまるものは,商品等の形状を普通に用いられる方法で表示する標章のみから成る商標となる。この点において両者に相違はないのである。
(4) 原告は,商品の形状と商品の容器・包装の形状とを区別すべきであるともいう。しかし,商品の形状であれ,商品の包装であれ,結局のところ,その指定商品の需要者にどのように認識されるかが問題となるのであって,審決が一般論として両者を区別して論じなかったとしても,これを誤りとすることはできない。
2 取消事由2(商標法3条1項3号該当性の判断の誤り)について チョコレートを含む菓子は,商品としての形状及び色彩が多種,多様であり,これらを幅広い年齢層の需要者が日常目にしている。チョコレートの形状,チョコレート菓子の形状やこれらの包装の形状には,原告が指摘するもののほか,ブロック型,メガネ型,チューブ型,コイン状,絵馬や招き猫などの器物を模した形状などがあって,多種多様であり,用いられる色彩も多種多様である。
日本でも,日本銀行のシンボルマークが付された,金塊を模した包装容器のチョコレート菓子が,金塊チョコレートとして販売されており(検乙第1号証,乙第3号証の1及び2),また,金色のインゴットの形状に包装された羊羹,金のインゴットに似せた形状の洋菓子も存在する(乙第4号証の1ないし3)。
このような状況の下では,本願商標に係る形状や装飾等が施された商品と同一のものが市場に実際に存在しなくても,金色のインゴットの形状を,商品の包装の美感とは関係のない特異な形状とすることはできないから,本願出願は,商品の包装等の形状として採用しうる範囲の変更,装飾等であって,需要者により,商品の包装の形状そのものの範囲を出ないと認識されるにすぎないものである。
商標権が,存続期間の更新により,半永久的に保護される権利であることをも考慮すると,他者が容易に着想し,採択,使用し得ると考えられる商品の包装等の形状については,その形状自体に,自他商品の識別力がない限り,商標登録を認めることは適切ではないというべきである。
3 取消事由3(商標法3条2項該当性の判断の誤り)について (1) 商標法3条2項の適用基準 原告は,使用に係る商標と出願に係る商標との同一性について,平面商標についての同一性判断基準を,立体商標にそのまま適用すべきではない,また,ラベル,デザイン等を取り除いた形状自体が同一性を有しているか否かが,正当な判断基準であると主張する。
しかし,審決も被告も,平面商標における基準を,そのまま,立体商標に適用すべきである,といっているわけではない。
また,出願に係る商標と使用に係る商標の立体的形状部分のみの同一性も,特許庁の採用する重要な判断基準になっている。すなわち,そこでは, ア 商標法3条2項の適用を主張する際,使用により識別力を有するに至った商標として認められるのは,原則として,出願に係る商標と同一の商標及びその商標を使用していた商品等と同一の商標に限られる。したがって,出願に係る商標が立体的形状のみからなる場合,使用に係る商標に,立体的形状に加え文字,図形等の平面商標が付されている場合は,両商標の全体的構成は同一ではないから,商標法3条2項の適用はない。
イ ただし,使用に係る商標の形状の全体を観察した場合,@)その立体的形状部分と出願に係る商標が同一であり,A)その立体的形状の識別標識としての機能において,そこに付された平面商標が不可欠であるとする理由が認められず,むしろ,平面的商標より立体的形状に施された変更,装飾等をもって需要者に強い印象,記憶を与えるものと認められ,B)かつ,需要者が,何人かの業務に係る商品等であることを認識することができるに至っていることを証明する客観的な証拠(例えば,同業組合又は同業者等,第三者機関による証明)の提出があったときは,使用に係る商標の立体的形状のみが独立して,自他商品又は役務を識別するための出所表示として機能を有するに至っていると認められるか否か判断する。
とされている。審決も,この判断基準に従っている。
(2) 本願商標と,原告商品の包装の形状としての立体商標の同一性 本願商標と,原告商品の包装立体的形状との間に同一性があるとしても,商標法3条2項には該当しない。すなわち,本件では,立体的形状に付された平面的商標がなくても,立体的形状自体が識別標識として機能していること,立体的形状自体に施された変更,装飾等をもって需要者に強い印象,記憶を与えていること,需要者が立体的形状自体が何人かの業務にかかる商品等であることを認識することができるに至っていることの客観的な証拠がない。
原告が提出している証拠(甲第9号証,甲第10号証ないし第24号証)により,原告主張のような事実が証明されたとしても,例えば,原告商品の売上高は,国内大手の製菓会社のある1種の商品の12分の1,あるいは国内全体のチョコレート国内消費額の1万分の1にすぎない。また,甲第9号証の作成者は原告の日本における国内販売店の従業員が作成したものであり,客観性を欠く。
原告製品には,金塊(インゴット)を模した六面体より成る包装容器の上面に,「Old Switzerland」の文字と山を描いた図形,「GOLDKENN」の文字が記載されており,この「GOLDKENN」の文字等が,出所表示として,看者の注意を引いている。本願商標を用いた包装の形状が,遠くから見た場合,需要者の注意を引き,同種製品と識別されたとしても,需要者が自他商品を識別するのは,本願商標の包装の形状のみであるということはできない。
以上のとおりであるから,原告商品の包装立体的形状自体が,需要者に強い印象,記憶を与えているとは認められない。
(3) 他国での登録について パリ条約では,第6条の1で「商標の登録出願及び登録の条件は,各同盟国において国内法令で定める。」とされており,また,標章の国際登録に関するマドリッド協定の,1989年6月27日にマドリッドで採択された議定書第5条(1)でも「…締約国の官庁は,関係法令が認める場合には,当該締約国においては当該標章に対する保護を与えることができない旨を拒絶の通報において宣言する権利を有する…」とされている。出願に係る商標が自他商品の識別力を有するかどうかの判断は,各締約国の判断に委ねられている。
日本において出願された商標は,日本の商標法及び商品の取引実情に照らして登録されるか否かが判断されるものである。日本で出願された立体商標と同一又は酷似した商標が,既に他国において登録されているからといって,日本においても識別性を有しているとはいえない。
パリ条約6条の5A(1)は,「本国において正規に登録された商標は,この条で特に規定する場合を除くほか,…そのままその登録を認められかつ保護される…」と規定しているが,同条Bは,「この条に規定する商標は,次の場合を除くほか,その登録を拒絶され又は無効とされることはない。…」,さらに,同条2において,「当該商標が,識別性を有しないものである場合…」とされている。本願商標は,識別性を有していないと認定判断されたものであるから,審決に,パリ条約6条の5A(1)の解釈を誤ったところはない。
(4) 識別性維持のための原告の努力について 原告は,本願商標と類似の商標の使用を排除する努力を重ねていると主張する。しかし,原告提出の証拠は,本願商標が需要者の間で広く認識されているとの原告の見解を通知したものにすぎない。
当裁判所の判断
1 取消事由1(立体商標制度の解釈の誤り)について (1) 立体商標制度は,商品若しくは商品の包装,役務の提供の用に供する物の立体的形状であって,自己の業務に係る商品又は役務について使用をするものを商標として登録して保護しようとするものであり,商標の持つ自他商品・役務の識別機能を通して,業務上の信用の保護を図るためのものである(商標法2条,3条)。
商品等の立体的形状は,本来,その機能を効果的に発揮させる,あるいは優れた美感を看者に与えるとの目的で選択されるものであって,商品の出所を表示し,自他商品を識別する標識として選択されるものではなく,これに接する需要者も,そのように理解し,商品の出所を表示するために選択されたものであるとは理解しないのが一般であるということができるから,商品等の機能又は美感とは関係のない特異な形状である場合を除き,基本的に自他商品の識別標識とはならないと解すべきである。
このことを前提にすると,商標法3条1項3号の商品等の形状を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標とは,それに接した需要者が指定商品等の形状そのものの範囲を出ないと認識する商標をいうものと解すべきことになる。なぜなら,前記のとおり,商品等の立体的形状は,第一に商品の機能・美感のために採用されるものであり,これに接する需要者もそのように理解するものであるから,その商品の機能・美感と関係のない特異な形状であるとはいえない形状であって,需要者が指定商品の形状そのものの範囲を出ないと認識するものは,需要者によって,商品の出所を表示するために選択されたものであると理解されないことが一般であるからである。
(2) 原告は,立体的形状における機能的形態と,意匠的形態とを区別し,後者においては原則として商標登録を認めていくべきである,と主張する。
しかし,機能的形態であっても,当該商品等の機能を確保するために不可欠なものを別にすれば(商標法4条1項18号参照),商品等のどの機能を重視するか,機能をどの程度高めるかで,種々の形態が考えられ,原則的に同一の形態になるということはできない。したがって,一私人による独占の禁止を排除するという理由で,一般的に,機能的形態の登録を意匠的形態より制限すべきであるとすることはできないというべきである。機能的形態は,その実現すべき機能の種類,程度から,意匠的な形態より選択できる幅がより狭いということがあるとしても,それは結局機能的な形態はその機能を離れて特異な形態が取りづらいということに帰着するから,結局,この特異性に着目すれば足りるものである。
そもそも,立体商標を含め商標を保護する根拠は,それが有する自他商品の識別標識としての機能にある。機能的形態はこの機能を獲得しにくく,意匠的形態は獲得しやすい,という関係があるとは,認めることができない。
現行の商標法も,立体商標の登録要件について,商品等の機能を確保するために不可欠のものを除き(商標法4条1項18号),機能的形態か意匠的形態かで区別していない。
(3) 原告は,商品そのものの形状と商品の包装の形状とを区別し,商品の容器又は包装については,商品の機能を発揮させ,美感を高める目的のほか,自他商品の識別のための要素が付加されることもあるから,商標登録の可否について別途の扱いをすべきである,と主張する。
しかし,形状そのものに着目する限り,結局,前述のとおり,当該形状に自他商品の識別標識の機能を果たし得るような特異性があるか否かが問題となるのであって,一般的に,商品そのものの形状と包装の形状との間にこの点で差異があるか否かを問題としても,実益のあることではないというべきである。
2 取消事由2(商標法3条1項3号の該当性判断の誤り)について 本願商標は,金塊(インゴット)を模した黄金色の六面体より成るものであって,それ自体は極めて簡単な形状,色彩である。
菓子業界では,一般に,その美感等により需要者に強い印象・記憶を与えて,顧客吸引力を発揮させるため,多種多様な形状・色彩が採られていることは,当裁判所に顕著である。現に商品化されているチョコレートの中にも,金色の包装を施したものもあり,上面が下面より小さい六面体(すなわち,本願商標と同種の六面体)をしたチョコレート菓子も存在する。この両者を組み合わせて,本願商標と同形状,色彩とすることは,この業界に携わる者であれば,極めて容易に思いつくものであると認められ,現に,このような包装の形状を採ったチョコレート菓子も流通している(乙第2号証ないし第4号証) したがって,本願商標は,機能又は美感に関係のない特異な形状とはいえず,この種商品の包装等の形状として採用しうる範囲の変更,装飾等であって,需要者が,商品の包装の形状そのものの範囲を出ないと認識する形状ということができる。
本願商標が,商標法3条1項3号に該当するとした審決の認定判断に誤りはない。
3 取消事由3(商標法3条2項の該当性判断の誤り)について (1) 商標法3条2項の適用基準 原告は,使用に係る商標と出願に係る商標との同一性について,平面商標についての同一性判断基準を,立体商標にそのまま適用すべきではない,また,ラベル,デザイン等を取り除いた形状自体が同一性を有しているか否かが,正当な判断基準であると主張する。
しかし,商標法3条2項該当性の判断において,原則として,登録請求をされた商標そのものが,使用されているか否かを検討すべきことはいうまでもない。需要者が,形状のみならず,そこに付された文字等も見て,自他商品の識別を行うときは,これらが合わせて使用されたとみるべきであるから,使用に係る商標のうち立体的形状のみを比較すべきであるとする原告の主張には理由がない。
(2) 本願商標の使用について 原告は,本願商標は使用により識別力を獲得したと主張する。この点,原告が,本願商標と同一ないし酷似する形状・色彩を採った商品を,日本国内で販売し,また宣伝していることは確かである。したがって,原告の商品が,日本国内においても,一定程度の知名度を有していることはうかがうことができる。
(甲第9号証しないし第24号証) しかし,前記のとおり,本願商標自体は極めて簡単なものであり,それ自体特異性があるとはいえない。また,原告商品には,「GOLDKENN」の文字等が,相当大きく表示されており,商品を手に取った需要者が,これに着目することは容易であると認められるから,本願商標の形状のみが,自他商品の識別標識としての機能を発揮しているともいえない。
原告の使用に係る形状,色彩の包装が,遠目からも注意を引くということもあることは認められるが,これは,商品(の包装)自体が注意を引くことを意味するにとどまり,同包装の意匠としての価値(これが顧客吸引力の一要素であることはいうまでもないところである。)を根拠づけることにはなり得ても,直ちに,それが自他商品の識別標識としての機能(出所表示機能)を有することに結び付くものではない。
(甲第9号証,第24号証) 本願商標が,使用により自他商品の識別機能を獲得したとは認められない。
(3) 原告は,本願商標が40カ国余りで登録されていると主張する。しかし,日本国内では,使用による識別力を獲得しているとは認められないことは,前記のとおりである。
(4) 原告は,審決には,パリ条約6条のA(1)に反していると主張するが,同条約によっても,日本の商標法により,商標登録の可否を決定する権限が留保されていることは明らかであるから,この点についての原告の主張も理由がない(乙第7号証ないし8号証)。
(5) 以上のとおりであり,本願商標が,商標法3条2項の要件を満たしているとは認められない。
4 結論 以上検討したところによれば,原告主張の取消事由はいずれも理由がなく,その他,審決にはこれを取り消すべき瑕疵は見当たらない。そこで,原告の請求を棄却することとし,訴訟費用の負担,上告及び上告受理の申立てのための付加期間について行政事件訴訟法7条,民事訴訟法61条,96条2項を適用して,主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 山下和明
裁判官 阿部正幸
裁判官 高瀬順久